特許第6979781号(P6979781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979781
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】船舶の船体構造及び防振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 43/00 20060101AFI20211202BHJP
   B63B 3/14 20060101ALI20211202BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20211202BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   B63B43/00 A
   B63B3/14
   F16F15/02 C
   F16F15/023 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-79127(P2017-79127)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-176985(P2018-176985A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】西野 宏
(72)【発明者】
【氏名】丸田 浩
【審査官】 田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−256593(JP,A)
【文献】 特開平09−119477(JP,A)
【文献】 特開平05−026294(JP,A)
【文献】 特開平10−159894(JP,A)
【文献】 特開2003−205895(JP,A)
【文献】 特開2012−218567(JP,A)
【文献】 特開2003−205894(JP,A)
【文献】 特開2002−266940(JP,A)
【文献】 特開平09−150786(JP,A)
【文献】 特開平08−230768(JP,A)
【文献】 特開平06−257638(JP,A)
【文献】 特開昭62−194049(JP,A)
【文献】 実開平02−082691(JP,U)
【文献】 実開昭60−188244(JP,U)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0021055(KR,A)
【文献】 特開2015−120448(JP,A)
【文献】 特開2010−132112(JP,A)
【文献】 特開昭61−122092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 43/00
B63B 3/14
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の構成要素の液体に浸かる部分に設けられる防振器を備える船舶の船体構造であって、
前記防振器は、前記構成要素のパネル振動モードに応じた振動の腹の位置に固定して設けられる支柱と、
板面が前記支柱の延在方向と交差するように、且つ、前記構成要素と間隔をあけて前記支柱に一体に設けられ、前記板面である一面から他面に貫通し、前記液体が通過する複数の孔を有するダンパ板とからなる、船舶の船体構造。
【請求項2】
前記ダンパ板は、端部側の板厚が中央部の板厚よりも大きい請求項1に記載の船舶の船体構造。
【請求項3】
船体の構成要素の液体に浸かる部分に設けられる防振器であって、前記構成要素のパネル振動モードに応じた振動の腹の位置に固定して設けられる支柱と、
板面が前記支柱の延在方向と交差するように、且つ、前記構成要素と間隔をあけて前記支柱に一体に設けられるダンパ板とからなり、前記ダンパ板は、板面である一面から他面に貫通し、液体が通過する複数の孔を有する防振器を製造する方法であって、
前記構成要素のパネル振動モードにおける腹の位置を特定する工程と、
前記構成要素の固有振動数を特定する工程と、
前記防振器の剛性を決定する工程と、
前記防振器の許容最大サイズに基づいて前記ダンパ板の大きさを決定する工程と、
前記腹の位置に前記支柱を配置する工程と、を有する防振器の製造方法。
【請求項4】
記固有振動数と前記ダンパ板の大きさとに基づいて前記孔の大きさ及び数を決定する工程を有する請求項3に記載の防振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船体構造及び防振器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋研究船などの船舶は、一般に、その船体構造が単殻構造とされている。この船舶はの外板は、船底に配置されたタンクを介した船外への音響透過エネルギーが大きく、また、例えば数kHz〜数百kHzのソナー周波数域での音響放射効率が大きい。
【0003】
また、例えば、特許文献1、特許文献2のように、船体の外板から放射される水中放射雑音を低減するための各種手段が提案、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−231887号公報
【特許文献2】特開平07−76294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、船底には燃料タンク、清水タンクが配置されていることなどから、外板の制振処理が十分に行えない、あるいは不可能な場合がある。
【0006】
例えば、海洋研究船などにおいては、主機関によって発生した振動エネルギーが船体構造へと伝搬し、さらに音響エネルギーとして水中に放射される。水中へ放射された音響エネルギーは、船体各部に配置された観測用音響機器(ソナー)位置まで伝搬し、ソナーの信号、雑音比(S/N)の低下要因となる。
【0007】
ここで、振動する板から放射される音響強度Wは、板の振動速度V、音響放射効率σの積に比例する(W∝σ(V))。
【0008】
また、放射効率σと周波数fの関係は、コインシデンス周波数fで放射効率σが最大となり、f>fでσ=1となる。コインシデンス周波数fは、板の曲げ剛性B、面密度m’、板厚h、音響放射の対象となる媒質の音速cとしたとき、f=c/(2πh)・√(m’/B)で表される。
【0009】
そして、水中の音速をc=1500m/sとし、船体外板の板厚をh=10〜20mmとすると、コインシデンス周波数はf=23〜11.5kHzとなり、ソナー周波数とほぼ一致する。
【0010】
これにより、従来、ソナー周波数域の音響放射強度が増大し、主機関の防振材、外板制振処理などによる水中放射雑音低減効果、言い換えればS/N改善効果が十分に得られないケースがある。
【0011】
また、船底に設けられた燃料タンクや清水タンクの内部に制振処理を施そうとした場合に従来手法では制約が多く、十分な水中放射雑音低減効果を得ることが難しい。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、音響放射雑音を低減させ、高性能のソナー探査を実現することができる船舶の船体構造及び防振器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る船舶の船体構造は、船体の構成要素の液体に浸かる部分に設けられる防振器を備える船舶の船体構造であって、前記防振器は、前記構成要素のパネル振動モードに応じた振動の腹の位置に固定して設けられる支柱と、板面が前記支柱の延在方向と交差するように、且つ、前記構成要素と間隔をあけて前記支柱に一体に設けられ、前記板面である一面から他面に貫通し、前記液体が通過する複数の孔を有するダンパ板とからなる。
【0014】
船体構造の構成要素である外板などの水や油などの液体に浸かる部分に支柱及びダンパ板からなる防振器を取り付けることによって、液体中の防振器で音響エネルギーなどの振動エネルギーを減衰させることができる。これにより、液体中に配設した防振器で音響エネルギーなどの水中への透過損失を増大させることができる。
【0015】
上記船舶の船体構造においては、前記ダンパ板が板面である一面から他面に貫通する複数の孔を備えていてもよい。
【0016】
上記船舶の船体構造においては、前記ダンパ板は、端部側の板厚が中央部の板厚よりも大きく形成されていてもよい。
【0017】
本発明の防振器の製造方法は、船体の構成要素の液体に浸かる部分に設けられる防振器であって、前記構成要素のパネル振動モードに応じた振動の腹の位置に固定して設けられる支柱と、板面が前記支柱の延在方向と交差するように、且つ、前記構成要素と間隔をあけて前記支柱に一体に設けられるダンパ板とからなり、前記ダンパ板は、板面である一面から他面に貫通し、液体が通過する複数の孔を有する防振器を製造する方法であって、前記構成要素のパネル振動モードにおける腹の位置を特定する工程と、前記構成要素の固有振動数を特定する工程と、前記防振器の剛性を決定する工程と、前記防振器の許容最大サイズに基づいて前記ダンパ板の大きさを決定する工程と前記腹の位置に前記支柱を配置する工程と、を有する。
【0018】
また、本発明の防振器の製造方法においては、記固有振動数と前記ダンパ板の大きさとに基づいて前記孔の大きさ及び数を決定する工程を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、音響放射雑音を低減させ、高性能のソナー探査を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の船体構造を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る防振器を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る防振器を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る防振器の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る船舶の船体構造及び防振器の製造方法について説明する。なお、本実施形態は、海洋研究船などの水中放射雑音の低減が求められる船舶の船体構造に関するものである。
【0022】
本実施形態の船舶の船体構造Aは、図1及び図2に示すように、船体1の構成要素のうち、水や油などの液体に浸かる部分(例えば、燃料タンクの内壁面)に一端を固定して設置される支柱3と、板面が支柱3の延在方向と交差するように、且つ船体1の構成要素と所定の間隔をあけて支柱に一体に設けられるダンパ板4とからなる防振器Bを備えて構成されている。
【0023】
本実施形態では、船体1の液体に浸かる構成要素が船体1の外板などであり、複数の防振器Bが分散配置して取り付けられている。例えば、図1に示すように、船底に主機関6を支持する支持板などが設けられ、この支持板や外板に複数の防振器Bが分散配置して取り付けられている。そして、これら複数の防振器Bは船舶の航行時に燃料タンクに貯留した燃料油等の液体に浸漬した状態になる。
【0024】
また、本実施形態のダンパ板4は、図2に示すように、一方の板面から他方の板面に貫通する複数の貫通孔5を備えて形成されている。なお、ダンパ板は円形の貫通孔5に限らず、切り込み(スリット:貫通孔)を備えて形成されていてもよい。
【0025】
さらに、本実施形態のダンパ板4は、支柱3に固着される中央部よりも端部側の板厚を大にして形成されている。
【0026】
このような防振器Bの規格を設定する(防振器Bを製造する)際には、まず、防振器Bを設置する振動物の固有振動数(低減しようとする音響の周波数)を特定する。そして、特定した固有振動数に基づいて防振器Bの剛性(バネ定数)を決定する。さらに、防振器Bの許容最大サイズに基づいてダンパ板4の大きさを決定する。また、振動物の音響の大きさに基づいてバネ先端の重量、貫通孔5の大きさ、位置、及び数を決定する。
【0027】
そして、上記構成からなる本実施形態の防振器Bを設けた船舶の船体構造Aにおいては、船体構造Aの外板に防振器Bを分散して取り付けるとともに、この防振器Bを液体中に配設することによって、燃料タンク内などの音響エネルギー(振動エネルギー)の水中への透過損失を増大させることが可能になる。
【0028】
また、ダンパ板4に貫通孔5が設けられていることにより、液体がこの貫通孔5を通過することによって振動の抵抗が増加し、音響エネルギーを効果的に減衰させることができる。
【0029】
さらに、図3に示すように、ダンパ板4の端部側が中央部よりも厚肉で形成されていることにより、振動エネルギーが伝搬するとともに端部側を共振(振幅)させ、音響エネルギーをより効果的に減衰させることが可能になる。
【0030】
なお、図4に示すように、船体1の構成要素のパネル振動モード(振動周波数、及び、振動の“腹”の位置)を特定し、このパネル振動モードに応じた振動の“腹”の位置のそれぞれに防振器Bを配置することで、さらに効果的且つ効率的に音響エネルギーの減衰効果を得ることができる。なお、防振器Bの配置数(X個×Y個)により、防振器Bの許容最大サイズが定められる。
【0031】
また、追設の外板は強度部材としての外板に追設した音響反射面であるため、比強度の小さな制振鋼板を利用することができ、放射面の振動速度を低減させることができるとともに、ソナーのS/Nを向上させることが可能になる。
【0032】
よって、本実施形態の船舶の船体構造A及び防振器Bの製造方法によれば、音響放射雑音を大幅に低減させ、高性能のソナー探査を実現することが可能になる。
【0033】
以上、本発明に係る船舶の船体構造及び防振器の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 船体
3 支柱
4 ダンパ板
5 貫通孔
6 主機関
A 船舶の船体構造
B 防振器
図1
図2
図3
図4