(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1から
図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る免震構造物について説明する。
【0024】
本実施形態の免震構造物は、剛強なコアを複数の免震層を有する複層免震建物の内部に貫通させ、相互を制震装置で連結した複層連結免震構造とし、従来の免震構造では不可能な超長周期化による加速度低減を実現しながらクリアランスやコア下部に設置した連結制震が単なる複層免震では不可能な制震効果を発揮して変位制御を両立するように構成されている。
【0025】
具体的に、本実施形態の免震構造物Aは、免震建物であり、
図1に示すように、建物中央にコアウォールを備えてなる平面視方形状で最下層から最上層まで上下方向に連続的に延設された剛強なコア部(建物中央部)1と、コア部1に隣接し、コア部1を囲繞するように配設されて建物周囲を形成する建物主要部(建物周囲部)2とを備えている。なお、
図1では、コア部1が中央コアとしているが、偏心コアや両端コアを備えた構造物であっても勿論構わない。
【0026】
コア部1と建物主要部2はそれぞれ下部に基礎免震層3を備えており、この基礎免震層3には任意の免震支承(免震装置)と減衰装置が設けられている。例えば、免震支承としては積層ゴム、すべり支承、リニアスライダーのいずれか、もしくは複数を併用し、減衰装置としてはオイルダンパー、鉛ダンパー(積層ゴムに内包するLRBを含む)、鋼材ダンパー、摩擦ダンパーのいずれか、もしくは複数を併用できる。
【0027】
さらに、本実施形態の免震構造物Aは所定の階層に中間免震層4を備えており、中間免震層4よりも上層はコア部1と建物主要部2が一体形成され、中間免震層4から下層は建物主要部2がコア部1との間に所定の空間を設け、それぞれ独立して立設するように形成されている。中間免震層4には基礎免震層3と同様に任意の免震支承(免震装置)が設けられ、この免震支承によって中間免震層4を境に上層の建物主要部2が支持されている。
【0028】
また、中間免震層4よりも下層のそれぞれ独立して立設された建物主要部2とコア部1は、制振装置(連結ダンパー、減衰要素)5を介して連結されている。なお、制振装置5としてバネ要素と減衰要素を適用してもよく、この場合には、コア部1と建物主要部2(コア部1と建物主要部2の相互)をTMDの錘要素のように機能させることも可能になる。
【0029】
そして、本実施形態の免震構造物Aにおいては、基礎免震層3と中間免震層4を有する複層免震構造としたことで、固有周期の超長周期化を実現することができる。
【0030】
また、剛強なコア部1を建物全層にわたって貫通させ、構造的、機能的な心棒とし、さらに中間免震層4よりも下層の建物主要部2(基壇架構)とコア部1を接続した連結制震構造としたことによって、応答制御を効率的に行うことが可能になる。
【0031】
さらに、コア部1を免震層3で支持することで、地震時に免震層3に設置した減衰装置を積極的に変形させてエネルギー吸収を効率化することが可能になる。なお、中間免震層4の位置は用途の境界等の建築計画的な観点から自由に決定できる。
【0032】
また、上記のように構成することによって、本実施形態の免震構造物Aにおいては、加速度−変位の関係における従来のコア付き免震、複層免震の対象領域以外の領域の免震性能を担うことが可能になる。
【0033】
ここで、本実施形態の免震構造物Aの効果を検証するために、本実施形態の免震構造物Aの振動モデルを用いて時刻歴応答解析による検討(シミュレーション)を行った。また、比較のため、複層免震構造と、コアを有する中間層免震モデルについても応答解析を実施した。
【0034】
まず、解析モデルを次のように設定した。
図2(a)は、建物内に2層の免震層を持つ複層免震モデルであり、
図2(b)は、コアを有する中間層免震構造を模擬したモデルである。
図2(c)は、本実施形態の免震構造物Aであり、コアを有する複層免震モデルである。
【0035】
また、建物主要部は30質点のせん断モデルであり、コア部は30質点の曲げせん断モデルである。建物主要部は、免震層以外はS造を想定した線形特性を用いている。コア部はRC造を想定した曲げとせん断の線形特性を用いている。
【0036】
各々のモデルは、基礎免震層、中間免震層を有し、
図2(b)、
図2(c)のモデルは、中間免震層より上層の建物主要部とコア部を剛梁で剛結している。また、
図2(c)の本実施形態の免震構造物Aのモデルにおいては、中間免震層より下層の建物主要部とコア部をダンパーで連結している。
【0037】
表1は、上記の解析で使用した各振動モデルの諸元を示している。
この表1に示す通り、
図2(b)のコア付き免震の免震層は、複層免震の基礎免震層剛性と減衰を建物主要部とコア部の質量比に応じて分配した。
図2(c)のコア付き複層免震の連結ダンパーは、基礎免震層の上の1〜4層に1.0E+07kN/(m/s)ずつ設置した。また、コア付き複層免震のダンパー総量は、連結ダンパーも含めて複層免震のダンパー総量と同量である。
【0039】
そして、表1に示した通り、まず、免震ありの固有周期を3つのモデルで比較すると、コア付き免震モデルは5.05秒と、一般的な免震建物の固有周期と同等であるが、複層免震およびコア付き複層免震は、それぞれ7.14秒、6.08秒と、一般的な免震建物よりも長く、複層免震によって超長周期化が実現できることが確認された。
【0040】
次に、時刻歴応答解析には、EL CENTRO、告示KOBE、OS2を入力地震動として用いた。
EL CENTROは、1秒以下の周期帯の加速度応答が大きく、告示KOBEは1秒以下から長周期領域にかけてフラットな速度応答スペクトルをもつのが特徴である。OS2は、5〜8秒という長周期領域で大きな速度応答スペクトルを示すのが特徴である。
【0041】
図3にEL CENTROを入力地震動としたときの時刻歴応答解析結果の建物主要部とコア部の加速度、変位、層間変形角の最大値分布を示す。
なお、告示KOBE、OS2を入力地震動とした場合もほぼ同様の傾向を示している。
【0042】
まず、加速度応答について評価すると、コア付き免震は、建物主要部の中間免震層より上層、及びコア部は一般的な免震構造と同等の加速度低減効果が得られているが、下層部分は耐震であることから応答加速度を低減できない。
【0043】
複層免震とコア付き複層免震の建物主要部は、複層免震による超長周期化により、全層にわたって大きな加速度低減効果が得られている。
【0044】
ただし、複層免震は中間免震層直下と建物頂部の加速度が増幅する傾向にあり、EL CENTRO(と告示KOBE)入力の場合に100Galを超える層があるが、コア付き複層免震は、連結制振とコアの効果により中間免震層直下と建物頂部の加速度増幅を抑制でき、全層でおおよそ100Gal以下を実現できる。
【0045】
次に、応答変位を評価すると、コア付き複層免震の基礎および中間の免震層変位は、複層免震の各免震層変位よりも小さく抑えられ、最も応答変位の大きいOS2においては、複層免震に対して頂部の最大変位を30%以上低減することが確認された。複層免震モデルとコア付き複層免震モデルのダンパー総量は同じであることから、コア付き複層免震の方がダンパーの制震効果を効率的に発揮させ、加速度低減と変位制御の両立に寄与していることが確認された。
【0046】
図4に、コア付き免震とコア付き複層免震の各解析ケースにおける建物主要部とコア部の棟間の変位の最大値分布を示す。どのケースにおいても、コア付き複層免震の方が棟間変位を小さく抑えられている。その変位は130mm〜350mmであることから、連結ダンパーのストロークとしては400mm程度を確保すればよく、既存の免震用のダンパーで対応可能である。
【0047】
以上より、本実施形態の免震構造物Aにおいては、複層免震化による大幅な加速度応答の低減と、連結制震による免震層の変位制御を両立できる効果的な構造を実現できることが実証された。
【0048】
したがって、本実施形態の免震構造物Aにおいては、複層免震化によって超長周期化を実現でき、従来の免震構造物と比較して応答加速度を半減することができる。また、剛強なコア部1による上部架構の高剛性化によって頂部加速度の増大(むちふり応答)を抑制することが可能になる。さらに、中間免震層4よりも下層のコア部1と建物主要部2を減衰装置で連結した連結制震によって、単純な複層免震を超える加速度低減効果と変位抑制効果の両立を実現することが可能になる。
【0049】
また、本実施形態の免震構造物Aにおいては、コア下部のダンパーが高層階の地震エネルギーを吸収し、構造物全体の変位を効率的に低減することができる。複層免震化により、免震層の変形が分散されるため、従来の免震構造物に比べて免震層の最大応答変位を低減することが可能になる。免震層変位を抑制できるため、耐震余裕度が向上し、最大級の設計用地震動に対応することが可能になる。
【0050】
さらに、本実施形態の免震構造物Aにおいては、ダンパーの設置箇所が基礎免震層3、中間免震層4、連結部(連結ダンパー部)、コア下部の4か所で計画でき、任意の制震装置、台数を組み合わせることが可能である。このため、制震システムとしての選択肢が多く、要求性能に応じたチューニングが可能になる。すなわち、加速度低減重視、変位制御重視、両者のバランス等、設計者が適宜選択、判断することが可能になる。
【0051】
また、ダンパーの設置可能な場所が多く、これに伴い、従来の免震構造や複層免震構造に比べて構造物全体の減衰性能を大幅に向上できる。
【0052】
さらに、本実施形態の免震構造物Aにおいては、複層免震化により建物主要部2の居室に作用する地震力が低減され、水平力の大部分をコア部1が負担する構造を実現できる。このため、柱、梁のスリム化やロングスパン化による建築計画の自由度向上が可能になる。
【0053】
また、複層免震でありながらコア部1は高さ方向に建物を貫いているため、エレベーターや設備等の縦シャフトが免震層に分断されない計画が可能になる。さらに、高層階でコア部1が居室がある建物主要部2と一体になっているため、連結制震によって基準階のレンタブル比が低下しない計画が可能になる。
【0054】
また、各免震層の剛性バランスを調整し変形を制御することで、建物外周に必要な免震クリアランスを一般免震に対して半減させ、敷地の有効活用も可能になる。
【0055】
また、本実施形態の免震構造物Aにおいては、想定を上回る地震動が入力され、免震層の変位が増大した場合でも、建物を貫くコア部1が芯棒として機能することで上部構造物と基壇構造物が相互に脱落しない。これにより、信頼性が高く安全な複層免震構造を実現できる。
【0056】
よって、本実施形態の免震構造物Aによれば、より高性能な免震性能を備え、より大きな地震動に対応することが可能になる。
【0057】
また、本実施形態の免震構造物Aによれば、
図5に示すように、従来のコア付き免震(
図2(b)参照)、従来の複層免震(
図2(a)参照)と異なる変位−加速度領域の免震性能を付与することが可能になる。
【0058】
以上、本発明に係る免震構造物の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0059】
例えば、本実施形態と同様、所定の階層に中間免震層4を備え、中間免震層4よりも上層はコア部1と建物主要部2を一体形成し、中間免震層4から下層の建物主要部2とコア部1の間に所定の空間を設けた場合に、必ずしも本実施形態のように中間免震層4よりも下層の建物主要部2とコア部1を制振装置(連結ダンパー、減衰要素)5で連結しなくてもよい。この場合には、例えば、中間免震層4に任意の免震支承(免震装置)とともに制震装置5を中間免震層4に設けることにより(ダンパーを中間免震層4に集中配置することにより)、本実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0060】
次に、
図6から
図10を参照し、本発明の第2実施形態に係る免震構造物について説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同様の構成に対して同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0061】
本実施形態の免震構造物Bは、免震建物であり、
図6(a)に示すように、それぞれ自立したコア部(建物中央部、一方の免震構造体)1と、コア部1に隣接し、コア部1を囲繞するように配設された建物主要部(他方の免震構造体)2を備えている。なお、コア部1が中央コアとしているが、偏心コアや両端コアを備えた構造物であっても勿論構わない。
【0062】
また、建物主要部2は下部に基礎免震層3を備えており、この基礎免震層3には任意の免震支承(免震装置)と減衰装置が設けられている。第1実施形態と同様、例えば、免震支承としては積層ゴム、すべり支承、リニアスライダーのいずれか、もしくは複数を併用し、減衰装置としてはオイルダンパー、鉛ダンパー(積層ゴムに内包するLRBを含む)、鋼材ダンパー、摩擦ダンパーのいずれか、もしくは複数を併用する。
【0063】
さらに、コア部1と独立して立設された建物主要部2には、所定の階層に中間免震層4が設けられている。この中間免震層4には基礎免震層3と同様に任意の免震支承(免震装置)が設けられ、免震支承によって中間免震層4を境に上層の建物主要部が支持されている。
【0064】
さらに、中間免震層4よりも上層で、それぞれ独立して立設された建物主要部2とコア部1が制振装置(連結ダンパー、減衰要素)5を介して連結されている。なお、制振装置5としてバネ要素と減衰要素を適用してもよく、この場合には、コア部1と建物主要部2(コア部1と建物主要部2の相互)をTMDの錘要素のように機能させることも可能になる。
【0065】
なお、本実施形態の免震構造物Bにおいては、
図6(b)に示すように、中間免震層4よりも下層のコア部1と建物主要部2を一体形成し、コア部1と建物主要部2の下部に基礎免震層3を設けるようにしてもよい。
【0066】
上記のように構成した本実施形態の免震構造物Bにおいては、通常の免震建物と比較し、建物主要部2の免震層の応答加速度の増加を抑えながら応答変位を低減させることが可能になる。
【0067】
すなわち、本実施形態の免震構造物Bにおいては、建物の基礎部と中間部に免震層を設けて複層免震構造とし、さらに異なる振動特性を持つ建物主要部2とコア部1を連結する連結制震構造を備えるようにしたことで、コア部1と建物主要部2の両者の地震時応答を効果的に低減させることが可能になる。
【0068】
なお、
図6(a)のようにコア部1を耐震構造とする場合、建物主要部2は建物の基礎部と中間部に免震層を設け、コア部1と建物主要部2を任意の高さ位置でダンパーにより連結すればよい。
【0069】
一方、
図6(b)のようにコア部1を基礎免震構造とする場合、建物主要部2はコア部1の基壇架構上の中間免震層4に支持された免震構造とし、コア部1と建物主要部2をダンパー5で連結する。このとき、ダンパー5の高さ方向の連結位置は、中間免震層4より上層の任意の位置とする。
【0070】
また、加速度応答を効果的に低減させるため、中間免震層4は建物の中層から低層に設けることが望ましい。
【0071】
ここで、本実施形態の免震構造物Aの効果を検証するために、
図7に示す本実施形態の免震構造物Bの振動モデルを用いて時刻歴応答解析による検討(シミュレーション)を行った。
【0072】
まず、解析モデルを次のように設定した。
図7に示すように、建物主要部2は30質点のせん断モデルであり、コア部1は30質点の曲げせん断モデルである。建物主要部2は最下層と7層目に免震層を持つ複層免震であり免震層以外はS造を想定した線形特性を備えるものとした。
【0073】
コア部1は基礎固定の耐震構造であり、各層はRC造を想定した曲げとせん断の線形特性を備えるものとした。
【0074】
表2に、解析に使用した振動モデルの諸元を示す。
連結ダンパー5を中間免震層4の直上層に設置した。また、連結ダンパー5を中間免震層4の直上層及び20階に設置した。連結用のダンパー5は、1台あたり1000kN/(m/s)の減衰係数の線形オイルダンパーとした。
【0076】
時刻歴応答解析には、1秒以下から長周期領域にかけて略フラットな速度応答スペクトルをもつ入力地震動を使用した。
【0077】
図8に、免震層直上層に連結ダンパー5を設置した場合の最大応答値分布を示す。
図中、「連結なし」は建物主要部2とコア部1を連結するダンパー5がないケース、「OD連結(10台)」は10台のオイルダンパー5で連結したケース、「OD連結(20台)」は20台のオイルダンパー5で連結したケースである。
【0078】
まず「連結なし」の場合、建物主要部2の加速度は複層免震の効果により最大応答加速度が100Gal以下に低減しており、従来の免震構造を超える加速度低減効果が確認された。基礎、中間部の免震層の最大変位は各々30〜40cm程度であり、従来の免震構造とさほど変わらない大きさであった。
【0079】
さらに、「OD連結(10台)」、「OD連結(20台)」のように建物主要部2とコア部1をダンパー5で連結すると、加速度応答をほとんど上昇させず、基礎及び中間部の免震層変位が大幅に低減することが確認された。これは、免震層の余裕度が大幅に向上したことを意味する。また、コア部1についてもダンパー5で連結することで各応答値が低減されている。
【0080】
図9に、免震層直上層及び20階に連結ダンパー5を設置した場合の最大応答値分布を示す。
図中、「連結なし」は建物主要部2とコア部1を連結するダンパー5がないケース、「OD連結(10台+10台)」は中間免震層直上で10台、20階で10台の計20台のオイルダンパー5によって連結したケースである。
【0081】
図8と同様に、連結ダンパー5の設置により加速度をほとんど上昇させずに基礎及び中間部の免震層変位を抑制できることが確認され、コア部1の応答低減効果も確認された。建物頂部の地表に対する相対変位は、建物主要部2、コア部1ともに半減しており、高い変形抑制効果が確認された。また、「OD連結(10台+10台)」は、
図8に示す「OD連結(20台)」のケースとほぼ同等の応答低減効果となった。
【0082】
これにより、連結ダンパー5の高さ方向の設置位置は任意に設定でき、ダンパー量が同量であれば、設置位置に関わらず同等の応答低減効果が得られ、建築計画に合わせてダンパー5を任意に配置できることが確認された。
【0083】
図10に、
図8、
図9の解析ケースにおける建物主要部2とコア部1の棟間の変位の最大値分布を示す。
図10(a)の中間免震層直上の棟間変位が約40cm、
図10(b)の中間免震層より上の変位も約40cmであった。これにより、ダンパー5のストロークは40cm程度であり、既存の免震用のダンパーで十分に対応できることが確認された。
【0084】
以上より、本実施形態の免震構造物は、複層免震化による大幅な加速度応答の低減と、連結制震による免震層の変位制御を両立できることが実証された。
【0085】
したがって、本実施形態の免震構造物Bにおいては、複層免震化によって超長周期化を実現でき、従来の免震構造物と比較して応答加速度を半減することができる。また、コア部1との連結制震により高層部の応答制御が可能であり、建物主要部2の剛性が小さい場合でもむち振り応答を低減できる。
【0086】
また、複層免震化により、免震層の変形が分散されるため、従来の免震に比べて免震層の最大応答変位を低減することが可能になる。さらに、連結制震により、応答加速度を抑制したまま免震層の変形を大幅に低減できる。
【0087】
また、ダンパー5の設置箇所が基礎免震層3、中間免震層4、連結部の3か所で計画でき、任意の制震装置を組み合わせることが可能であるため、制震システムとしての選択肢が多い。
【0088】
ダンパー5の設置可能場所が多く、従来の免震構造や複層免震構造に比べて構造物全体の減衰性能を大幅に向上できる。
【0089】
さらに、建物主要部2は複層免震化により地震力が低減され、水平力は連結制震を介してコア部1に負担させることができる。このため、柱、梁のスリム化やロングスパン化による建築計画の自由度向上が可能になる。
【0090】
また、複層免震でありながらコア部1は高さ方向に建物を貫いているため、エレベーターや設備等の縦シャフトが免震層に分断されない計画が可能になる。
【0091】
連結制震により免震層変位を制御し、免震クリアランスを小さく抑える計画も可能になる。
【0092】
想定を上回る地震動が入力され、免震層の変位が増大した場合でも、建物を貫くコア部1がストッパー機能を果たし、上部構造物が脱落しない機構となっているため、信頼性が高く安全な複層免震構造を実現できる。
【0093】
よって、本実施形態の免震構造物Bによれば、より高性能な免震性能を備え、より大きな地震動に対応することが可能になる。
【0094】
以上、本発明に係る免震構造物の第2実施形態について説明したが、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0095】
次に、
図1、
図11から
図25を参照し、本発明の第3実施形態に係る免震構造物について説明する。なお、本実施形態では、第1、第2実施形態と同様の構成に対して同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0096】
はじめに、本実施形態では、i)免震層変位を従来の免震構造と同等に抑えつつ、従来の免震構造では達成できなかった大幅な加速度低減を実現できるようにし、且つ、ii)複数の免震層を有する複層免震構造と同等の加速度低減効果を持ちながら、従来の複層免震では達成できなかった大幅な免震層の変位抑制を実現できるようにするための各免震層剛性や設置する減衰量など、最適な免震諸元の適用範囲について説明を行う。
【0097】
具体的に、本実施形態では、
図1(a)、
図1(b)に示した免震構造物A(第1実施形態と同様の免震構造物A)を一例として説明を行う。なお、
図1では、コア部1が中央コアとしているが、偏心コアや両端コアを備えた構造物であっても勿論構わない。
【0098】
そして、
図1に示した免震構造物Aに対して、下記の1)〜5)の事項を実現できる免震諸元の適用範囲を設定する手法を以下に説明する。
【0099】
(1) 基礎免震と中間層免震を有する複層免震構造とし、固有周期の超長周期化を実現する。
(2) 剛強なコアウォールを建物全層にわたって貫通させ、構造的・機能的な心棒としている(一般的な複層免震ではコアウォールは中間免震層で分断されている)。
(3) 基壇架構とコアウォールを接続した連結制震構造とし、応答制御を効率的に行う。
(4) コアウォール下も免震層で支持し、これを積極的に変形させてエネルギー吸収を効率化する。
(5) 中間層免震の位置は、用途の境界等の建築計画的な観点から決定できる。
【0100】
ここで、
図1の振動モデルは
図11のように表すことができる。
M
Aが中間免震層4よりも上方の上部構造物の質量、M
Bが下部構造物の質量であり、k
1、k
2はそれぞれ基礎免震層3と中間層免震層4の免震層剛性、k
3はコアウォール下の免震層剛性である。免震層3の剛性に比して一般部の層剛性は桁違いに大きいので、上部・下部とも層剛性を∞の剛体とする(但し、建物剛性を含めた多質点系の検討についても後述する)。また、c
1、c
3はそれぞれ基礎免震層3とコア下部支承部分に設置する減衰である。c
2は中間層免震層4のみではなく、コアウォールと下部構造物を連結する連結制震の減衰も含んでいる。
図11中の固有ベクトル{r
1,r
2}は、最大値を1として基準化した質点Aと質点Bの固有ベクトルである。
【0101】
これらに関して、応答低減効果が見込める適用範囲を以下に示す。
【0102】
そして、本実施形態では、免震層3に設置する諸元の適用範囲を下記の式(5)〜式(8)のように設定する。
【0103】
そして、本実施形態では、の複層連結の免震構造物Aに対し、免震層3、4に設置する支承とダンパーの諸元(k
1、k
2、k
3とc
1、c
2、c
3の諸元)の適用範囲、すなわち、応答低減効果が見込める適用範囲を下記の式(5)、式(6)、式(7)、式(8)のように設定する。ここで、各諸元の単位は質量M(t)、剛性k(k
N/m)、減衰c(kN/cm/s)である。
【0108】
次に、最適範囲を導出するために、まず非減衰振動時における固有値問題(式(9))より、式(10)、式(11)を導出する。
【0112】
そして、式(10)、式(11)、α、βを用いて、式(12)、式(13)を導き出す。
【0115】
次に、式(12)、式(13)から式(14)を求め、さらに、αを用いると、式(14)は式(15)となる。
【0118】
ここで、
図12に本実施形態の免震構造物Aの1次の振動モード例を示す。
図12(b)は上下の免震層3、4の変位を揃えた場合の振動モードであり、
図12(c)は下部の免震層3の剛性を比較的柔らかくすることで、下部の免震層3の変位を大きくした場合の振動モードである。
【0119】
事前の解析から、本実施形態の免震構造物Aはコア部1の下にも免震層3を設けているため、免震層3の剛性を比較的柔らかくして減衰を付加し、下層部でエネルギーを吸収させることにより、中間免震層4より下方の下部構造の加速度応答値を増加させることなく建物応答の低減効果を高めることが可能である。
【0120】
この事前解析結果より、γの上限値は理想的には2.5〜3.0以下とすることが望ましいが、免震装置(例えば積層ゴム)のばらつきを考慮し、1.0<γ<4.0と適用範囲を設定した。
【0121】
なお、実設計では、1)建物の1次固有周期を決定し、2)建築計画において上層部と下層部の質量比(μ)が決定される。つまり、ω
1とμが既知となることが多い。
【0122】
ここで、
図13、
図14は、式(14)に既知であるμを代入し、事前解析より設定したγの上下限の範囲内でαとβの関係を求めた結果を示している。
図13はμ=1.0、
図14はμ=0.5の場合を示している。なお、μには制約を設定していない。
【0123】
図13で示した範囲内が応答低減効果を見込められる適用範囲であり、求めるk
1、k
2、k
3の剛性比である。
【0124】
次に、c
1〜c
3の粘性減衰量に関する適用範囲を示す。
c
1、c
2の上限値は剛性比例型の減衰として全体の2次の固有周期に対して過減衰にならないように100%未満とする。また、c
1の下限値は事前解析結果より1次の固有周期に対して5%以上とした。c
2は事前解析では減衰量0の場合でも本実施形態の免震構造物Aの応答低減効果は確認されたため、0以上とした。
【0125】
これをまとめると、式(16)で表され、この式(16)から式(17)が求まる。ここで、
k1h
2は2次の減衰定数である。
【0128】
同様に、式(18)から式(19)が求まる。ここで、
k2h
2は2次の減衰定数である。
【0131】
c
3については、必ず減衰を付加するという条件であり、式(20)となる。
【0133】
なお、上記の範囲は粘性減衰の適用範囲であり、摩擦ダンパーやLRBなどの履歴系ダンパーに関しては範囲無く付加可能である。
【0134】
次に、上記の諸元の範囲における応答低減効果を確認した結果について説明する。
【0135】
<応答倍率曲線>
はじめに、
図15(a)は従来の免震構造物、
図15(b)は従来の単純な複層免震構造物、
図15(c)は本発明に係る免震構造物の概略的な架構図を示す。
【0136】
このうち従来の複層免震構造物と本発明に係る免震構造物について、以下に示す(1)〜(3)の比較条件のもと、質点Aと質点Bのそれぞれの変位の応答倍率曲線、及び加速度の応答倍率曲線について比較を行った(
図16〜
図18)。
【0137】
表3に設定した解析モデルの諸元を示す。
このとき、複層免震(1)〜(3)の諸元はρ(=T
A/T
B)=1.0となるように剛性kを決定し、減衰cは剛性比例で付与した。
【0139】
一方、本発明に係る免震構造物の例(1)〜(3)は固有ベクトル比γが1.0<γ<4.0を満足する剛性比αで剛性kを与え、減衰cも適用範囲を満足させた上で減衰係数の総和が複層免震のそれと等しくなるようにして、c
3の減衰を設定した。
【0140】
比較条件(1):周期(T)=7秒 質量比(μ)=1.0
比較条件(2):周期(T)=7秒 質量比(μ)=0.5
比較条件(3):周期(T)=6秒 質量比(μ)=1.0
【0141】
図16〜
図18から、どの比較条件においても本発明の免震構造物の例の方が質点Aの応答変位と応答加速度を大幅に低減できており、さらに質点Bの変位と加速度のピーク値を低減できていることが分かる。つまり、本発明の免震構造物によれば、
図15(b)に示した従来の複層免震構造よりも、上層部、下層部ともに変位と加速度の両方を低減できる。
【0142】
<地震応答解析>
次に、
図12に示した2質点系モデルに対し、前述の比較条件(1)について時刻歴応答解析を行った結果を示す。
【0143】
入力地震動はLv2に基準化した観測波(エルセントロNS、タフトEW、八戸EW)の3波、告示波(神戸NS位相、関東EW位相、ランダム位相)の3波、及び南海トラフの地震動(OS1)とした(
図20(f)参照)。これらの擬似速度応答スペクトル(h=5%)を
図19に示す。
【0144】
そして、
図20(a)〜
図20(e)に示す解析結果の通り、質点Aの応答加速度は、従来の複層免震構造の例(1)と比べ、本発明の例(1)の方がいずれの地震動においても同等かそれ以下となっている。質点Bの応答加速度についても同様に低減している。
【0145】
質点Aの層間変形については、本発明の例(1)の低減効果が顕著に表れており、従来の複層免震の例(1)に対しておおよそ半減している。質点Bの層間変形はほぼ同等である。従って、時刻歴応答解析においても、本発明の例(1)の有効性が確認できる。
【0146】
次に、等価せん断型の多質点系解析モデルについて検討した結果について説明する。
ここでは、
図21(a)に示した従来の免震構造物、
図21(b)に示した従来の複層免震構造物、及び
図21(c)に示した本発明の免震構造物の3ケースについて、それぞれモデル化を行い時刻歴応答解析した結果を比較した。
なお、入力地震動は前述と同様、エルセントロNS、タフトEW、告示神戸NS、告示ランダム、南海トラフの地震動(OS1)の5波とした(
図20(f)参照)。
【0147】
ここで、従来の免震構造物の復元力は鉛プラグ入り積層ゴムまたは鋼材系ダンパーと天然ゴム系積層ゴムを併用したバイリニア型の復元力特性とし、免震層歪200%時に1次周期が5秒となるようにした。従来の複層免震構造物、本発明の免震構造物の復元力は天然ゴム系積層ゴムのみとし、実固有値解析で1次周期が約7.5秒となるように設定した。
【0148】
さらに、複層免震層はγが2.0となるように免震層の剛性を決めた。
また、構造減衰として免震層を除く各層に剛性比例で2%の減衰を付与し、加えて、従来の免震構造物では等価線形化して得られる履歴減衰を含めた1次の減衰定数がおよそ12%となるように、従来の複層免震構造物では1次の減衰定数がおよそ12%となるように剛性比例で免震層の減衰係数を与えた。一方、本発明の免震構造物では免震層の減衰を、適用範囲を満足させた上で複層免震と付与する減衰係数の総和が等しくなるようにして与えた。なお、いずれも、粘性減衰はリリーフ速度0.32m/sとするバイリニア型とし、リリーフ後の減衰係数はその0.0678倍とした。
【0149】
このときの解析諸元と複素固有値解析で求めた固有周期および減衰定数を表4に示す。
【0151】
また、本発明のシステムについての適用範囲を確認するため、2質点系に集約した諸元(表5)についての設計パラメータμ、及びα、β、γを
図22に示す。γは1.75であり、1.0<γ<4.0を満足する。
【0153】
図23から図
25に、従来の免震構造物と、従来の複層免震構造物と、本発明の免震構造物の応答加速度、層間変形角及び免震層変形を比較した結果を示す。
【0154】
いずれも従来免震に対して本発明の免震構造物は大きく応答低減しており、2質点系で解析した結果と傾向は概ね一致する。さらに、従来の複層免震構造物に対しても応答加速度は同程度でありながら免震層変形が大きく低減できている。したがって、本発明の免震構造物の優位性が実証され、且つ適用範囲で設定した各設計パラメータが多質点系においても適用可能であることが実証された。
【0155】
以上の結果から、本実施形態の免震構造物Aにおいては、本実施形態で示した各諸元(減衰量や剛性比)の適用範囲内で設計することにより、以下の効果を得ることが可能になる。
【0156】
一般免震を凌駕した加速度低減効果が実現でき、現在設計で用いられている地震動に対し全層に渡り100cm/s
2以下の応答加速度となる。それにより、大地震時においてもエレベーターが停止しないなどの利点がある。
【0157】
より詳細に、複層免震化による超長周期化により、通常の免震に対して応答加速度を半減することができる。また、剛強なコアによる上部架構の高剛性化により頂部加速度(むちふり応答)を低減することができる。コア部1との連結制震及び各免震層3、4の理想的な剛性比の設定により、従来の単純な複層免震構造物では応答加速度が増加する中間免震層直下の応答加速度も抑制可能になる。さらに、理想的な減衰配分により、高次が過減衰となって応答加速度が増加するのを抑制することが可能になる。
【0158】
また、一般免震を凌駕した免震層変位の低減効果が実現でき、現在設計で用いられている地震動に対し約7割程度の変形に抑えることが可能である。
【0159】
すなわち、コア下部のダンパーが高層階の地震エネルギーを吸収し、建物全体の変位を効率的に低減することができる。また、複層免震化により、免震層の変形が分散されるため、従来の免震に比べて免震層の最大応答変位が低減可能である。さらに、免震層変位を抑制でき、耐震余裕度を向上させることができる。
【0160】
以上、本発明に係る免震構造物の第3実施形態について説明したが、本発明は上記の第3実施形態に限定されるものではなく、第1、第2実施形態を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。