(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の片側抵抗溶接方法では、溶接対象に通電する際の電流値を調整して溶接を行うが、一定量の電流を通電しても良好な溶接ができない場合がある。発明者らが鋭意検討した結果、一定量の電流を通電しても溶接部における電流密度が一定にならない結果、良好な溶接ができない場合があることを見いだした。そして更なる検討の結果、後述するように、加圧・通電に伴い電極が溶接対象に食い込んでいき、食い込み量に応じて溶接部における導通経路の大きさが異なる結果、溶接部における電流密度が不足して良好な溶接ができない場合があるとの知見に至った。
【0006】
そこで本発明は、電極の食い込み量にかかわらず良好な溶接ができる片側抵抗溶接方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来の片側抵抗溶接方法では、溶接は、溶接部における電流密度に左右され、電流密度は電極が溶接対象に食い込む食い込み量に依存する。そのため、電極の食い込み量が過多となった場合、適切な溶接を行うことができない場合がある。以下、従来の片側抵抗溶接方法に用いる電極について説明した上で、電極の食い込み量と溶接部の面積との関係について説明し、溶接部の面積が溶接に対して与える影響について説明する。
【0008】
従来の片側抵抗溶接方法において用いられる電極は、電極の先端部分が曲面であったり(
図3(a)参照)、電極の先端領域の周面が傾斜(
図3(b)参照)し、いずれも電極の先端領域において、先端部分に近づく程幅が狭くなる形状である。
【0009】
まず、このような形状の電極を用いて加圧・通電を行った場合の食い込み量について説明する。上述のように、溶接の際に、加圧・通電に伴って、電極が電極の先端部分から溶接対象に食い込んでいく。従来の片側抵抗溶接方法において用いられる電極は先端部分に近づく程幅が狭くなる形状であるため、電極の食い込み量が多くなる程、電極が溶接対象に食い込んだ部分の溶接対象の表面における断面(以下、食い込み面と称す。
図6の食い込み面21参照)は広くなる。
【0010】
一方、溶接部は、通電時に電流が導通する導通経路における被溶接材間の接触面の近傍が相当する。通電の際、食い込み面から食い込んで溶接対象と接触している部分の電極から溶接対象に電流が流れ、この部分の電極から溶接対象内部を通り、アースに至って導通経路が形成される。そのため、溶接部は、被溶接材間の接触面を挟んだ領域の、食い込み面の直下領域近傍に形成されることになる。
【0011】
以上のことから、溶接部の被溶接材間の接触面における面(以下、溶接部の断面とも称す)の面積(以下、単に溶接部の面積とも称す)は、電極が溶接対象に食い込む食い込み量及び食い込み面の面積に比例して大きくなることが分かる。上述のように加圧・通電が進捗するに従って電極は溶接対象に食い込んでいくため、加圧・通電が進捗するに従って溶接部の面積は拡大していくことになる。
【0012】
次に、溶接部の面積と溶接品質との関係について説明する。溶接は、溶接部を電流が流れることにより生じる抵抗発熱により、溶接部を溶融させて行われる。抵抗発熱は、電流値が高い程大きくなり、溶接部は一定の面積を有するため、溶接部における電流密度が大きい程大きくなることになる。電流値が一定である場合、電流密度は溶接部の面積が小さい程大きくなる。そのため、同じ電流値の電流が通電される場合、溶接部の面積が大きい程電流密度が小さくなり、抵抗発熱が小さくなる。抵抗発熱が過小となった場合、溶接強度が不足して溶接不良が発生する。逆に、同じ電流値の電流が通電される場合、溶接部の面積が小さい程電流密度が大きくなり、抵抗発熱が大きくなる。適切な範囲の抵抗発熱が生じると、溶接強度が十分に確保され、良好な溶接品質が確保される。一方、電流密度が大きくなりすぎると、チリが発生したり、溶接部の表面が荒れたりし、溶接品質が悪化する。
【0013】
以上説明したように、従来の片側抵抗溶接方法では、加圧・通電が進捗するに従って電極の食い込み量が増加し、溶接部の面積が大きくなる。溶接部の面積が大きくなると、溶接部における電流密度が小さくなる。電流密度が不足すると溶接部の抵抗発熱が不足し、溶接部が十分に溶融されず、溶接強度が不足して溶接品質が低下するという問題が生じる。
【0014】
このような問題が生じる可能性があるため、従来の片側抵抗溶接方法では、溶接対象に導通させる電流についてその電流値を十分に高め、溶接強度が不足することを回避している。しかしながら、十分な電流値の電流を通電させることには限界があると共に電源の供給に係る装置の規模も大きくなる。そのため、本通電において、溶接対象に導通させる電流についてその電流値を抑制しながら、良好な溶接を安定して行う抵抗溶接方法が求められている。
【0015】
このような要求に応じて提供される本発明の抵抗溶接方法は、電極で複数の被溶接材を加圧しながら前記電極から前記被溶接材に通電することにより溶接部で前記被溶接材の溶接を行う抵抗溶接方法であって、前記電極は、前記電極が前記被溶接材を加圧する加圧方向に対して前記電極の中心側に傾斜するショルダー部と前記ショルダー部から連続して前記加圧方向に突出する突出部とを備え、前記突出部の突出面の前記加圧方向に対する傾斜角は前記ショルダー部の傾斜角より小さく、前記電極と前記被溶接材との接触面をなじませる初期通電の際には前記突出部を前記被溶接材に接触させ、本通電の前に行われるプレ本通電の際には前記突出部までを前記被溶接材に食い込ませ、前記本通電の際には前記プレ本通電の電流値より高い電流値の電流を前記被溶接材に通電し、前記ショルダー部の少なくとも一部までを前記被溶接材に食い込ませることを特徴とするものである。
【0016】
このように、本発明の抵抗溶接方法は、電極の先端部分に突出部が設けられ、初期通電及びプレ本通電中には突出部までを被溶接材に食い込ませる。突出部までを被溶接材に食い込ませることにより、ショルダー部が被溶接材に食い込まないため、初期通電及びプレ本通電中に電極が食い込むことにより形成される溶接部の面積は突出部の断面積と略同一となり、それ以上増加しない。そのため、ショルダー部が食い込み始める段階での溶接部の面積が従来の片側抵抗溶接方法における本溶接開始時の溶接部の面積より小さいため、本溶接中の溶接部の面積は、従来の片側抵抗溶接方法で形成される溶接部の面積より小さくなる。その結果、従来の片側抵抗溶接方法に比べて、溶接部に導通される電流において、電流値を低くしても、電流密度を十分に確保することが可能となり、十分な溶接強度を確保し、良好な溶接を行うことが可能となる。
【0017】
また、被溶接材間に隙間がある場合、初期通電及びプレ本通電中は、加圧・通電により隙間をつめる作用が生じる。隙間がある状態では、電極が受ける被溶接材からの反力が小さいため、隙間がない状態に比べて電極が被溶接材に食い込む食い込み量が小さくなる。そのため、従来の片側抵抗溶接方法では、隙間の有無・程度によって、初期通電及びプレ本通電中に電極が被溶接材に食い込む食い込み量が異なり、溶接部の面積も異なることになる。これに対して本発明の抵抗溶接方法では、プレ本溶接終了時までに形成される溶接部の面積は、電極の突出部の断面積と同程度となり、隙間の有無・程度に依存しない。その結果本発明の抵抗溶接方法では、隙間の有無にかかわらず溶接部の面積が一定となり、安定的に良好な溶接を行うことが可能となる。
【0018】
また、溶接の強度は、溶接部が溶融・凝固することにより形成されるナゲットに依存する。特に、ナゲットが被溶接材間の境界を越えて形成されるプレス方向における深さが十分に深くなることにより、被溶接材間の接合は強固となる。そのため、抵抗溶接方法において、ナゲットを十分な深さにまで形成することが重要である。ナゲットの深さに対して、電極の食い込み量は大きな影響を与える。本発明の抵抗溶接方法では電極に突出部を設けるため、従来の片側抵抗溶接方法と比べて、溶接部の面積が同じであっても、電極の先端部分は深い位置に形成されることになる(
図8参照)。その結果本発明の抵抗溶接方法では、溶接部の面積が同程度であっても、従来の片側抵抗溶接方法に比べてナゲットをより深い位置まで形成することができ、より強固溶接が可能となり、良好な溶接を行うことができる。
【0019】
本発明の抵抗溶接方法は、前記初期通電では第1の電流値の電流を通電し、前記プレ本通電では第1の電流値より高い第2の電流値の電流を通電し、前記プレ本通電では第2の電流値より高い第3の電流値の電流を通電することが好適である。
【0020】
このように工程に応じて通電時の電流値を高めていくことにより、初期通電においては被溶接材と電極との接触面をなじませるのに適した電流値で通電することができ、プレ本通電においては電極を適切に食い込ませるのに適した電流値で通電することができ、本通電においては被溶接材間を溶融接合するのに適した電流値で通電することができる。
【0021】
本発明の抵抗溶接装置は、電極で複数の被溶接材を加圧しながら前記電極から前記被溶接材に通電することにより溶接部で前記被溶接材の溶接を行う抵抗溶接装置であって、前記電極を移動させるさせる駆動装置と、前記電極から電流を通電させる電源供給装置と、前記駆動装置及び前記電源供給装置の動作を制御する制御装置とを有し、前記電極は、前記電極が前記被溶接材を加圧する加圧方向に対して前記電極の中心側に傾斜するショルダー部と前記ショルダー部から連続して前記加圧方向に突出する突出部とを備え、前記突出部の突出面の前記加圧方向に対する傾斜角は前記ショルダー部の傾斜角より小さく、電気制御装置は、前記電極と前記被溶接材との接触面をなじませる初期通電の際には前記突出部を前記被溶接材に接触させ、本通電の前に行われるプレ本通電の際には前記突出部までを前記被溶接材に食い込ませ、前記本通電の際には前記プレ本通電の電流値より高い電流値の電流を前記被溶接材に通電し、前記ショルダー部の少なくとも一部までを前記被溶接材に食い込ませるように制御することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の抵抗溶接装置においても、本発明の抵抗溶接方法と同様に、電極の食い込み量にかかわらず、溶接部が必要以上に大きくなることを抑制することにより、溶接部に導通時の電流値を抑制しながら、溶接部における電流密度を十分に確保することが可能となり、十分な溶接強度を確保し、良好な溶接を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、電極の食い込み量にかかわらず良好な溶接を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の抵抗溶接方法の一実施形態に係る片側抵抗溶接方法を例に、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、片側抵抗溶接方法の説明に先立って、まず、本発明に係る片側抵抗溶接方法において溶接が行われる溶接対象2の構成例を説明し、本発明に係る片側抵抗溶接方法を実施する際に用いられる溶接装置10の構成例を説明した上で、本発明の一実施形態に係る片側抵抗溶接方法(ワンサイドスポット溶接方法)について説明する。
【0026】
まず、溶接対象2の構成例について説明する。
【0027】
図1に例示するように、溶接対象2は、被溶接材4と被溶接材6とから構成され、被溶接材4と被溶接材6とが、溶接部8にて溶接されて接合される。例えば、被溶接材4は平板である。被溶接材6は、立体的に形成され、同じく立体的に形成された被溶接材12の一面が解放された空間内部に接合されている。そして、溶接部8において、被溶接材6の被溶接材4と接する面に対する裏面は、被溶接材12と被溶接材6とで形成される空間内に閉じられている。溶接は2つの電極で溶接対象2を挟持して行うこともあるが(ダイレクト溶接)、被溶接材12と被溶接材6とで形成される空間内に電極を設けることができないため、被溶接材4と被溶接材6とはワンサイドスポット溶接により接合される。ワンサイドスポット溶接では、溶接部8において、被溶接材4の被溶接材6と接する面に対する裏面側に電極1が配置され、被溶接材6と電気的に導通するようにアース14が配置される。そして、電極1から被溶接材4、被溶接材6を介してアース14に至る導通経路16に所定の電流が導通される。導通経路16を導通する電流により、溶接部8において被溶接材4と被溶接材6とが溶融し、接合される。
【0028】
次に、本発明に係る片側抵抗溶接方法を実施する際に用いられる溶接装置10の構成例について説明する。
【0029】
図2に例示するように、本発明の溶接装置10は、電極1と、電極1と対をなすアース14と、電極1を保持して稼働自在なロボットアーム20を備えるロボット18と、電極1とアース14との間に電流を導通させるトランス22と、トランス22に供給する電流を制御するタイマー24と、タイマー24及びロボット18の動作を制御する制御装置26とを備える。
【0030】
溶接装置10において、電極1は、溶接対象2を加圧すると共に溶接対象2に所定の電流を導通させることで、電極1から溶接対象2を通ってアース14に至る導通経路16に電流を導通させる。溶接対象2において、重なり合う被溶接材4,6間が溶接により接合される。電極1は、溶接対象2を加圧すると共に、溶接対象2に所定の電流を導通させることにより、導通経路16上の溶接対象2を加熱・溶融させて溶接対象2を溶接する。電極1から導通される電流は、溶接対象2の厚さや、被溶接材4,6それぞれの厚さ、必要な溶接強度等に応じてその電流値定めることができ、トランス22によって調整される。
【0031】
トランス22は、タイマー24を介して供給された電流を、所定の電流値に変換した上、変換された電流を電極1から溶接対象2に導通させる。例えば、タイマー24を介して供給された400Vで数Aの電流を、3〜5Vで15000Aの電流に変換して電極1から導通させる。さらに、タイマー24は、トランス22を介して電極1から電流を導通させるタイミングを制御する。トランス22は、制御装置26により制御され、制御装置26はタイマー24を介してトランス22を制御することもできる。そのため、制御装置26は、電極1から溶接対象2に導通させる電流の、入力タイミング及び電流値、通電時間(サイクル)等を制御する。
【0032】
ロボット18は、電極1及びロボットアーム20を含んで構成され、電極1を駆動する駆動装置である。ロボット18はロボットアーム20により、電極1を所定の範囲内で任意の位置に移動させることが可能な構成であり、電極1を所定の溶接位置に移動させ、電極1に溶接対象2を加圧させる。また、ロボット18は、制御装置26にその動作が制御される。
【0033】
このように、制御装置26は、電極1が接続されるロボット18の動作を制御すると同時に、電極1から導通される電流を制御する。そのため、制御装置26は、溶接工程における、加圧と通電とを制御することになる。
【0034】
次に、溶接装置10における電極1の構成について、従来の片側抵抗溶接方法で用いる電極と比較しながら説明する。
図3(a)に示す従来の電極28は、周面が加圧方向と平行な電極本体30と、加圧方向に突出する曲面状の先端面32とから構成される。また、
図3(b)に示す従来の電極34は、周面が加圧方向と平行な電極本体36と、先端部38とから構成される。先端部38は、ショルダー部40と先端面42とから構成される。先端面42は、加圧方向と交差する方向の平面である。ショルダー部40は、電極本体36の周面の下端から先端面42にわたって形成される外周面44を有し、外周面44は電極本体36の周面から電極34の内側に向かう方向に傾斜する。このような電極28及び電極34において、初期通電から本通電においては、それぞれ先端面32及び先端部38が溶接対象2に食い込む。また、先端面32は曲面であり、先端部38のショルダー部40は内向きに傾斜するため、食い込み量が多くなるほど食い込み面(
図6参照)の面積が大きくなる。
【0035】
これに対して、
図3(c)に示す本発明に係る片側抵抗溶接方法で用いる電極1は、周面が加圧方向と平行な電極本体3と、先端部5とから構成される。先端部5は、ショルダー部7と突出部9とから構成される。ショルダー部7は、電極本体3に連続して加圧方向側に形成され、電極本体3から離れる程ショルダー部7の周面11が電極1の内側に近づくように傾斜している。突出部9はショルダー部7の加圧方向の先端から突出量Hで突出するように形成され、加圧方向と平行な突出面13と先端面15とを備える。先端面15は突出部9の加圧方向の先端に形成され、先端面15は加圧方向に突出する曲面また平面である。本実施形態では先端面15が曲面として図示し、説明している。
【0036】
次に、本発明に係る片側抵抗溶接方法について説明する。
【0037】
まず、初期通電を行う。初期通電においては、
図4(a)に示すように、電極1によって溶接対象2を所定の加圧力で加圧させながら、電極1からI1の電流値の電流を溶接対象2に導通させる(
図5のステップ1)。初期通電では、まず、電極1の突出部9の先端面15が溶接対象2の表面17に接する。その後、溶接対象2を電流が導通することにより、溶接対象2が溶融しない範囲で加熱されて、電極1の突出部9が表面17から溶接対象2に食い込み始める(
図4(b))。このような加圧・通電によって、初期通電では、溶接対象2の被溶接材4と電極1の接触面をなじませる。初期通電における加圧力及び電流値は、例えば、加圧力は30kgf〜100kgf程度であり、I1は2kA〜3kA程度である。
【0038】
次に、プレ本通電を行う。プレ本通電においては、
図4(a)に示すように、電極1によって溶接対象2を初期通電と同じ所定の加圧力で加圧させながら、I1の電流値より高いI2の電流値の電流を電極1から溶接対象2に導通させる(
図5のステップ2)。プレ本通電では、初期通電より高いI2の電流値の電流を導通させるため、溶接対象2が初期通電時より高い温度に加熱され、電極1が溶接対象2に食い込むことが促進される。なお、I2は4kA〜6kA程度で、溶接対象2が溶融しない程度の電流値であり、被溶接材4,6間の溶融接合は行われない。また、プレ本通電においては、電極1のショルダー部7が食い込まない範囲に突出部9の加圧方向における突出量H及び加圧・通電における加圧力と電流値が調整されており、突出部9のみが溶接対象2に食い込む。電極1が溶接対象2に食い込んだ部分の溶接対象2の表面17における断面である食い込み面21は、表面17と平行な面における突出部9の断面と略一致する。また、初期通電及びプレ本通電において突出部9のみが溶接対象2に食い込むため、食い込み面21は、初期通電からプレ本通電において略一定となる(
図4(c))。
【0039】
最後に、本通電を行う。本通電においては、
図4(a)に示すように、電極1によって溶接対象2を初期通電及びプレ本通電と同じ所定の加圧力で加圧させながら、I2の電流値より高いI3の電流値の電流を電極1から溶接対象2に導通させる(
図5のステップ3)。本通電では、プレ本通電より高いI3の電流値の電流を導通させるため、溶接対象2がプレ本通電時よりさらに高い温度に加熱され、電極1が溶接対象2に食い込むことが促進され、ショルダー部7が溶接対象2に食い込む。そのため、食い込み面21は、食い込んだショルダー部7の断面と一致し、プレ本通電における食い込み面21よりも大きくなる。なお、I3は6kA〜10kA程度で、溶接対象2は十分に溶融が可能であり、被溶接材4,6間の溶融接合が行わる。
【0040】
以下、本発明に係る片側抵抗溶接方法における効果について、従来の片側抵抗溶接方法と比較しながら説明する。また、効果については、溶接部23が拡大しすぎないことによる効果、被溶接材4,6間の隙間の有無による溶接強度の変化が少ないことによる効果、ナゲット25の深さを確保できることによる効果のそれぞれについて説明する。
【0041】
まず、本発明に係る片側抵抗溶接方法によると、本通電の際に溶接部23が必要以上に拡大せず、通電の際の電流値を抑制しながら溶接部23における電流密度を十分に確保して良好な溶接を行うことが可能となる。
図6を参照して詳細に説明する。
図6においては、各通電工程において、電極1、34が溶接対象2に食い込む様子と、それぞれの通電工程での溶接部23の断面を示している。
【0042】
ここで、上述したように、抵抗溶接における溶接強度等の溶接品質は、電流の導通経路16における溶接部23の面積と、導通する電流値とで決定される溶接部23における電流密度により影響される。また、溶接部23の面積は、電極(1,28,34)が溶接対象2に食い込んだ際の食い込み面の面積と略一致する。
【0043】
従来の電極34を用いた片側抵抗溶接方法では、初期通電の際に電極34が溶接対象2と接し、加圧・通電に伴って電極34が溶接対象2に食い込み始める。電極34が溶接対象2に接した状態での食い込み面21は先端面42と一致し、溶接部23の導通経路16における断面s1の面積も先端面42の面積と一致する。その後、初期通電からプレ本通電にわたって電極34が溶接対象2に食い込んでいく。電極34が溶接対象2に食い込んでいくことにより、電極34のショルダー部40が溶接対象2に食い込み、食い込み面21及び溶接部23の断面s2は食い込み量に応じて広がっていく(
図6(a),(b))。同様に、本通電でも、加圧・通電にともなって食い込み面21及び溶接部23の断面s3がさらに広がる。本通電では溶接を行うため、広がった溶接部23において適切な電流密度が確保できる大きさの電流が導通される(
図6(c))。
【0044】
本発明に係る電極1を用いた片側抵抗溶接方法では、初期通電の際に電極1の突出部9が溶接対象2と接し、加圧・通電に伴って電極1の突出部9が溶接対象2に食い込み始める。電極1の突出部9が溶接対象2に食い込んでいく状態での食い込み面21は被溶接材4の表面17に食い込んだ突出部9の断面と一致し、溶接部23の導通経路16における断面S1の面積も突出部9の断面の面積と一致する(
図6(d))。その後、初期通電からプレ本通電にわたって電極1が溶接対象2に食い込んでいく。
図4を参照して説明したように、初期通電及びプレ本通電においては、電極1の突出部9のみが溶接対象2に食い込む。そのため、初期通電及びプレ本通電においては、食い込み面21及び溶接部23の断面S2は食い込み量にかかわらず、略一定となる(
図6(e))。本通電の際には、加圧・通電にともなって、電極1のショルダー部7が溶接対象2に食い込みはじめ、それに伴って食い込み面21及び溶接部23の断面S3が広がっていき、十分な広さの溶接部23となる。本通電では溶接を行うため、広がった溶接部23において適切な電流密度が確保できる大きさの電流が導通される(
図6(f))。
【0045】
図6(a),(b)に示すように、従来の片側抵抗溶接方法では、初期通電及びプレ本通電において、溶接部23の断面s1,s2が加圧・通電に伴って広がるのに対し、本発明に係る片側抵抗溶接方法では、
図6(d),(e)に示すように、溶接部23の断面S1,S2は突出部9の断面以上には広がらない。そのため、
図6(b)のs2と
図6(e)のS2とを比較すると分かるように、初期通電及びプレ本通電において、本発明に係る片側抵抗溶接方法における溶接部23の断面S2は、従来の片側抵抗溶接方法における溶接部23の断面s2に比べて狭くなる。本通電においては溶接部23の断面s3,S3は徐々に広くなるが、本発明では、本通電の開始時における溶接部23の断面S2が従来の断面s2に比べて狭いため、本通電における溶接部23の断面S3は従来の断面s3に比べて狭くなる。その結果、本発明に係る片側抵抗溶接方法では、従来の片側抵抗溶接方法に比べて、溶接部23に導通される電流値を低くしても、溶接部23における電流密度を十分に確保することが可能となり、十分な溶接強度を確保し、良好な溶接を行うことが可能となる。
【0046】
次に、被溶接材4,6間の隙間tの有無による溶接強度の変化が少なくなる効果について
図6,
図7を参照して説明する。
図7においても、各通電工程において、電極1、34が溶接対象2に食い込む様子と、それぞれの通電工程での溶接部23の断面を示している。
【0047】
被溶接材4,6間に隙間tが有る場合、初期通電においては被溶接材4,6間の隙間tをつめる必要があるため、電極34の食い込み量は隙間が無い場合に比べて小さくなる。そのため、従来の片側抵抗溶接方法では、初期通電及びプレ本通電における溶接部23の断面s4,s5は隙間が無い場合の断面s1,s2に比べて小さくなる(
図7(a),(b))。これに伴い、本通電における溶接部23の断面s6も隙間が無い場合の断面s3に比べて小さくなる(
図7(c))。このように、従来の片側抵抗溶接方法では、被溶接材4,6間の隙間tの有無により、本通電における溶接部23の断面s3と断面s6における断面積が異なり、同一の電流値の電流が導通された場合に電流密度が異なり、溶接品質が異なることとなる。例えば、隙間tの有無に関係なく、隙間tが無い場合に最適となる電流値の電流を本通電において導通させた場合、隙間tが有る場合には溶接部23の断面s6が断面s3より小さいため、電流密度が過剰となり、チリや表面の荒れが発生する場合がある。逆に、隙間tの有無に関係なく、隙間tが有る場合に最適となる電流値の電流を本通電において導通させた場合、隙間tが無い場合には溶接部23の断面s3が断面s6より大きいため、電流密度が不足し、溶接強度が不足する場合がある。
【0048】
これに対して本発明に係る片側抵抗溶接方法では、被溶接材4,6間の隙間tをつめる必要があるものの、初期通電及びプレ本通電では電極1の突出部9のみが溶接対象2に食い込むため、溶接部23の断面S4,S5は突出部9の断面と略一致し、隙間tの有無に関わらず、溶接部23の断面S4,S5は断面S1,S2と一致する(
図7(d),(e))。本通電の際には、既に被溶接材4,6間の隙間tはつめられているため、本通電における電極1の食い込み量は初期通電時の隙間tの有無と関係しないため、本通電における溶接部23の断面S6は断面S3と一致する(
図7(f))。この結果、本発明に係る片側抵抗溶接方法では、被溶接材4,6間の隙間tの有無に関係なく、本通電の際の溶接部23の断面S3,S6は同程度となり、同一の電流値の電流が導通されても電流密度が同程度となり、溶接強度等の溶接品質が一定となり、安定的に良好な溶接を行うことが可能となる。
【0049】
さらに、本発明に係る片側抵抗溶接方法によると、溶接部23の断面を大きくすること無くナゲット25の深さを確保し、良好な溶接を行うことができる。このような効果について、ナゲット25の深さと溶接強度との関係を説明した上で、詳細に説明する。
【0050】
ナゲット25は、溶接部23において被溶接材4,6が溶融し、凝固した部分である。また、ナゲット25は、電極1から導通経路16にそって成長していく。被溶接材4,6間を良好に溶接するためには、被溶接材4から被溶接材6の十分深い領域までナゲット25を成長させる必要がある。
【0051】
ナゲット25を十分な深さまで成長させるためには、従来の片側抵抗溶接方法では、電極34を溶接対象2に対して深くまで食い込ませる必要があるが、食い込み量を多くすると溶接部23の断面が大きくなってしまい、良好なナゲット25を形成するためには、導通させる電流値を高くする必要がある。また、ナゲット25を深くまで形成させた場合、ナゲット25の幅が必要以上に大きくなる場合があり、ナゲット25の幅が電極34による加圧力が及ぶ範囲を超えた場合、溶融した溶接対象2の材料が周囲に飛び散り、チリが発生する。
【0052】
これに対して、本発明に係る片側抵抗溶接方法では、初期通電及びプレ本通電においては電極1の突出部9のみが溶接対象2に食い込む。
図8に示すように、溶接部23の断面積が同程度なるように電極34,1を食い込ませた場合、従来の片側抵抗溶接方法では、電極34の深さがd1相当するのに対し、本発明に係る片側抵抗溶接方法では、電極1の深さはd2となり、突出部9の突出量Hの分だけ深くなる。溶接部23の断面を小さくしてナゲット25の幅が過剰に広がることを抑制しながら、電極1の深さ(d2)を深くすることができるため、ナゲット25を押し込んで十分に深い領域に形成することができる。そのため、ナゲット25は、被溶接材6の十分に深い領域に及んで形成され、チリの発生を抑制しながら、良好な溶接を行うことができる。特に、ナゲット25を深い位置まで形成することができるため、板厚の厚い被溶接材4,6を溶接する際や、3枚以上の被溶接材を溶接する際に好適である。
【0053】
なお、突出部9の突出面13は加圧方向と平行であっても良いが、ショルダー部7の周面11の加圧方向に対する傾斜角よりも小さい角度で傾斜し、突出部9の断面が加圧方向に向かう程小さくなる形状であっても良い。この場合でも、初期通電及びプレ本通電における溶接部23の断面は、突出部9の基端側断面よりも小さくなり、初期通電及びプレ本通電における溶接部23の断面を小さくして、本通電の際の溶接部23の断面が大きくなることを抑制できる。その結果、通電される電流値を抑制しても、良好な溶接を行うことができる。
【0054】
また、上記説明は、インダイレクト溶接方法(ワンサイドスポット溶接方法)を例に説明したが、シリーズ溶接方法やダイレクト溶接方法でも、同様に適用することができる。また、被溶接材は2枚に限らず、3枚以上の被溶接材を溶接することもできる。
【0055】
また、上記説明では、加圧・通電が3段通電である場合を例に説明したが、初期通電、プレ本通電、または本通電の少なくとも1つについて、さらに加圧・通電を段階的に行う多段通電とすることもできる。さらに、導通させる電流値を段階的に上げることに制限されず、工程中の電流値を低減させることもできる。また、初期通電、プレ本通電、及び本通電の少なくともいずれかにおける加圧力を異ならせることもできる。これらにより、電極1の食い込み量や溶接部23の断面、溶接の際の電流値をさらに詳細に調整することができ、より良好な溶接を行うことが可能となる。