特許第6979919号(P6979919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979919
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】ヒト正常細胞賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20211202BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   A61K8/37
   A61K31/22
   A61P43/00 105
   A61Q19/00
   A61Q19/08
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-69597(P2018-69597)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178122(P2019-178122A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓
(72)【発明者】
【氏名】盤若 明日香
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−200883(JP,A)
【文献】 特表2016−512207(JP,A)
【文献】 特開2013−213003(JP,A)
【文献】 特開昭63−112998(JP,A)
【文献】 特開平10−259119(JP,A)
【文献】 特開2011−241390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61P 17/00−17/18
A61P 43/00
A61K 31/00−31/327
A61K 47/00−47/69
C12P 1/00−41/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1に示す3ヒドロキシ酪酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも一種以上を含有してなるヒト正常細胞賦活剤。
【化1】
但し、Rは直鎖または分岐鎖のC8〜C22のアルキル基から選ばれるいずれか一種である。
【請求項2】
水系基材に化1に示す前記3ヒドロキシ酪酸アルキルエステルを1μg/mL以上含有する組成物である請求項1に記載のヒト正常細胞賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト正常細胞賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシ酪酸(3HB)を含むヒドロキシアルカン酸やその塩は生体親和性が高く、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは単なるエネルギー源という役割だけでなく、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることがわかってきた。3HBは、例えば、遺伝子発現調節作用によって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによって認知機能や、長期持続記憶を改善することが知られ、アルツハイマーの予防に有効性が確認されている。例えば、ココナツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸の摂取および体内での代謝により生成される3HBが、脳や体内において糖質をうまく利用できないアルツハイマー病、糖尿病の患者の症状を改善させる効果を持つことが知られている。また、3HBは体内において糖質よりも速やかにエネルギーに変換されること、細胞への脂肪や糖の吸収を抑制する効果を有することから、アスリート向けのエネルギー物質、ダイエット・健康食品分野への応用が期待できる。更には、これらヒドロキシアルカン酸は、嫌気的条件でも容易に生分解を受ける数少ないポリマーの原料としても期待されている(非特許文献1参照)。
【0003】
3HBの製造方法として、各種微生物にポリ3−ヒドロキシ酪酸(以下PHBと称する場合がある)を生産させたのち、得られたPHBを酵素等により分解する方法が知られている(特許文献1)。また、このような微生物としてハロモナス菌が、好気条件でPHBを蓄積し、微好気条件に移行することでPHBを分解して生成した3HBを培地中に分泌産生することが見出されている(特許文献2)。
【0004】
一方、従来より、皮膚の老化に伴う変化(しわ、くすみ、きめの消失、弾力性の低下等)の原因として、コラーゲンやエラスチン等の真皮マトリックスの線維減少や変性等が知られている。この変化を誘導する因子として、コラゲナーゼMMP1(マトリックスメタロプロテアーゼ)は、皮膚の真皮マトリックスの主な構成成分であるコラーゲンを分解する酵素として知られているが、その発現は紫外線の照射により大きく増加し、コラーゲンの減少変性の原因となり、皮膚のシワの形成等の大きな要因の一つになると考えられている。コラゲナーゼMMP1の活性を阻害すると、コラーゲンを保護して真皮マトリックスを保護し、皮膚の老化を防ぐことにつながる。従来、コラゲナーゼMMP1の活性阻害物質として、アセンヤク、柿、ワレモコウ、ペパーミント等の植物抽出物が有効であることが報告されている(特許文献3参照)。また、近年3HBが細胞賦活効果を発揮しうる物質として検討されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−168595号公報
【特許文献2】特開2013−081403号公報
【特許文献3】特開2000−159631号公報
【特許文献4】特開2017−200883号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Yagi et al.,Polymer Degradation and Stability,110,p.278(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、3HBの細胞賦活効果は、ヒト老化細胞に対して発揮されることが知られているものの、ヒト正常細胞に対しては十分な効果を発揮するとは言い難く、ヒト正常細胞に対して有効に作用するヒト正常細胞賦活剤が求められている。
【0008】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、ヒト正常細胞賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のヒト正常細胞賦活剤の特徴構成は、
化1に示す3ヒドロキシ酪酸アルキルエステル(3HBアルキルエステル)から選ばれる少なくとも一種以上を含有してなる点にある。
【化1】
但し、Rは直鎖または分岐鎖のC8〜C22のアルキル基から選ばれるいずれか一種である。
【0010】
また、水系基材に化1に示す3HBアルキルエステルを0.01%以上含有する組成物としてもよい。
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、化1の3HBアルキルエステルは、3HBがヒト正常細胞に対しては細胞賦活効果が十分とは言えないのに対し、ヒト老化細胞よりも、むしろ、ヒト正常細胞に対して細胞賦活効果を発揮することを新たに見出した。その結果、化1の3HBアルキルエステルをヒト正常細胞賦活剤として用いることができるようになった。
【0012】
また、3HBアルキルエステルを1ppm以上という極めて低濃度の領域においてもコラーゲン産生促進効果が認められるため、1μg/mL以上とすることが好ましい。また、濃度上限については、細胞毒性が生じない範囲で適宜設定することができる。尚、さらに好ましくは、0.01〜10%である。
【発明の効果】
【0013】
したがって、ヒト正常細胞賦活剤を提供することができた。このようなヒト正常細胞賦活剤は、たとえば、化粧料組成物等に添加された細胞賦活化粧料等の形態で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】3HBナトリウムを用いたコラーゲン産生試験結果(測定値)
図2】3HBナトリウムを用いたコラーゲン産生試験結果(相対値)
図3】3HBエチルエステルを用いたコラーゲン産生試験結果(測定値)
図4】3HBエチルエステルを用いたコラーゲン産生試験結果(相対値)
図5】3HBセチルエステルを用いたコラーゲン産生試験結果(測定値)
図6】3HBセチルエステルを用いたコラーゲン産生試験結果(相対値)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明のヒト正常細胞賦活剤を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0016】
〔ヒト正常細胞賦活剤〕
本発明の実施例にかかるヒト正常細胞賦活剤は、化1に示す3ヒドロキシ酪酸アルキルエステル(3HBアルキルエステル)を含有してなる組成物である。
【0017】
具体的には、たとえば、化1におけるRは直鎖または分岐鎖のC8〜C22のアルキル基から選ばれるいずれか一種である3HBアルキルエステルとして、3HBセチルエステル(化1におけるRがC16=セチル)を精製水に1〜15μg/mL分散させた分散液状の化粧料組成物として用いることができる。
【0018】
〔3HBアルキルエステルの合成例〕
(3HB)
3HBは、3HB生産性のハロモナス菌を添加した発酵プロセスを行い、得られた発酵液からハロモナス菌を分離除去し、精製することにより得られる。発酵プロセスは、果汁等の糖質栄養源を含有する原料液に、3HB生産性のハロモナス菌をそのまま添加し、好気発酵、微好気発酵を順に行うプロセス(特開2013−081403号公報等参照)として実施することができる。これにより、糖質が3HBに変換され、発酵液中に生産されることになる。生産された3HBは、常法にて、膜分離、分離精製を経たのち、純粋な3HBとして用いられる。
【0019】
(3HBセチルエステル)
(p−トルエンスルホン酸セチルエステルの合成)
フラスコにセチルアルコール57.7gを仕込んで窒素置換した後、ジクロロメタン500mLおよびピリジン38.5mLを添加して撹拌溶解させる。次いでp−トルエンスホニルクロライド68.1gを10分間かけて添加し、24.5時間室温にて撹拌反応させた。反応液に2N塩酸250mLを添加し、30分間撹拌反応させた。水層をジクロロメタン100mLで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた反応液をエバポレータにて濃縮すると、半透明の粘稠液体110gが得られた。
これをテトラヒドロフラン500mLに溶解分散し、水酸化ナトリウム14.3gを添加して19時間撹拌分散させた。エバポレータでテトラヒドロフランを留去した後、ジエチルエーテル750mLを添加し、30分間撹拌した。次いで、不溶部分をろ別し、エバポレータにて濃縮乾固すると、p−トルエンスルホン酸セチルエステルが得られた(淡褐色固体収量78.3g;収率83.1%)。
【0020】
(3HBセチルエステルの合成)
フラスコにp−トルエンスルホン酸セチルエステル1.98gおよび3−ヒドロキシ酪酸1.43g(純度99%、光学純度R体99%ee以上)を仕込んで窒素置換した後、ジメチルホルムアミド17mLを添加して撹拌溶解した。次いで、炭酸カリウム2.07gを添加し、17時間室温にて撹拌反応させた。さらに、45℃にて4時間撹拌反応させた後、反応液を室温に戻し、精製水40mLおよび酢酸エチル40mLを添加して30分撹拌した後、分液した。水層を酢酸エチル10mLにて4回抽出し、有機層を精製水20mLで5回洗浄し、全有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた液体をエバポレータにより濃縮すると、ワックス状固体1.58gが得られた。
生成物をヘキサン/酢酸エチルを移動相とするカラムクロマトグラフィーにより精製し、ワックス状固体を得た(1.43g;収率87.2%)。NMR分析(下記)により、得られたワックス状固体は、化1の(C16)で示される構造の3HBセチルエステル(化2)であること、および有意な不純物を含有していないことが確認された。
【0021】
NMR分析
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):
δ=
0.88 (t, 3H,C−CH−),
1.25 (d, 3H,C−CH(OH)−CH−),
1.22−1.36 (br,26H,−C−C−),
1.59−1.68 (m, 2H,−COO−CH−C−),
2.37−2.53 (dd, 2H,−CH(OH)−C−),
3.0 (d, 1H,−CH(O)−),
4.1 (t, 2H,−COO−C−),
4.2 (m, 1H,CH3−C(OH)−)
【0022】
【化2】
【0023】
また、このようにして得られた3ヒドロキシ酪酸アルキルエステルを含有してなるヒト正常細胞賦活剤には、他に、pH調整剤、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール類や、NMF成分である乳酸塩、尿素やヒアルロン酸ナトリウム、等を併せて含有していてもよい。ただし、3HBアルキルエステルを主成分として含有していることが好ましい。また、レシチン等の保湿成分や、酸化チタン、タルク、カオリン等の無機粒子を含油してもよく、水性基材にエタノール等のアルコール類や、植物油成分等の油性基材や、界面活性剤を混合して含んでいてもよい。このようなヒト正常細胞賦活剤を用い、さらに具体的には、たとえば下記処方にて、ヒト正常細胞賦活剤としての化粧料組成物を構成することができる。
【0024】
(処方) (%)
(1)3HBセチルエステル 15.0
(2)防腐剤 0.1
(3)重炭酸ナトリウム 1
(4)香料 適量
(5)界面活性剤 2.0
(6)植物油 0.1
【0025】
ヒト正常細胞賦活剤としてのヒト正常細胞賦活化粧料は、上記化粧料組成物を主成分として含有し、通常の化粧料に含まれる任意の付加成分を含有してもよい。たとえば、パラフィン、パラフィン、セタノール、シクロデキストリン、ステアリン酸、コポリマー等の安定化剤、カオリンやタルク、カーボンブラック、カルミン等の顔料、脂肪酸石鹸等の起泡剤、炭酸マグネシウム、多孔質粒子等の吸着材、アラントイン、グリチルリチン酸2カリウム、カミツレエキス、アロエエキス、シャクヤクエキス等の抗炎剤、ビタミンC、プラセンタエキス等の細胞賦活剤、パラベン(パラオキシ安息香酸メチル)、ローズマリーエキス、フェノキシエタノール等の殺菌、抗菌成分、柿渋、みょうばん等の脱臭成分、トコフェロール等の酸化防止剤ローズマリーエキス、カミツレエキス、セージエキス、ユーカリエキス等の保存料等の成分は、種々公知の成分を任意の処方で含有することができる。
【0026】
具体的には下記処方にて、ヒト正常細胞賦活化粧料を構成することができる。
【0027】
(処方) (%)
(1)上記化粧料組成物 1.0
(2)エチルアルコール 15.0
(3)防腐剤 0.1
(4)ヒアルロン酸 0.01
(5)香料 適量
(6)クエン酸 0.1
(7)クエン酸ナトリウム 0.3
(8)1,3−ブチレングリコール4.0
(9)精製水 残量
pH 6.0
【0028】
〔3HBアルキルエステルのヒト細胞賦活効果の検証〕
3HBアルキルエステルのヒト細胞賦活効果の検証のため、ヒト線維芽細胞の培養液に対して3HBナトリウム、3HBエチルエステル、3HBセチルエステルをそれぞれ所定濃度で添加した場合のコラーゲン産生量を比較した。ヒト線維芽細胞としては、ヒト正常線維芽細胞(正常細胞)と、ヒト老化線維芽細胞(老化細胞)とを用い効果を比較した。比較試験の方法について以下順に説明する。
【0029】
(老化細胞の作成)
ヒト正常線維芽細胞に過酸化水素により老化を誘導し、老化細胞(Senescence fibroblast)を作成した。
【0030】
(コラーゲン産生試験)
細胞を、培養液として0.5%FBS含有DMEMを用いて、2.0×104cells/wellの細胞密度で96穴プレートに播種した。翌日培養液を所定濃度のサンプルを含む0.5%FBS含有DMEMに交換し、24時間処理した。
【0031】
サンプルとしては、3HBナトリウム、3HBエチルエステル、3HBセチルエステルを所定濃度に調整したものを用いた。
【0032】
(コラーゲン産生量の測定)
培地を回収し、ELISAにてTypeIコラーゲン含有量を測定した。また、細胞を0.5%TritonX−100溶液にて溶解し、BCA法により総タンパク量を測定した。これらの基づき、細胞による単位タンパク量あたりのコラーゲン量(測定値)を求めた。また、コラーゲン産生量を添加量0の場合のコラーゲン生産量を100とした相対値(相対値)として求めた。これらを比較したところ、図1〜6のようになった。
【0033】
(結果)
図5,6より、3HBセチルエステルは、正常細胞に対するコラーゲン産生促進効果を有することが明らかになった。また、少量でこのような効果が発揮されていることも分かる。これは、3HBや3HBナトリウムは水溶性が高いため、細胞内に浸透しにくく、本来3HBが有すると考えられる賦活効果を効率よく発現することが困難であったと考えられるのに対し、3HBセチルエステルは、3HBのエステル化により極性が低下し、細胞内への浸透が容易になったことに起因するものと考えられる。また、3HBと3HBナトリウムとは、酸とその塩の関係にあり、細胞に作用する際には、水溶液中のアニオンとして作用するものと考えられるため、3HBのコラーゲン産生促進効果と、3HBナトリウムによるコラーゲン産生促進効果とは、同等と考えられる。また、この効果は、3HBナトリウム、3HBエチルエステルが正常細胞に対するコラーゲン産生促進効果を有さず、老化細胞のみに産生促進効果を発揮する(図1〜4)のに対し特異なものとなっていることが分かった。さらに、3HBセチルエステル(C16)の他、3HBステアロイルエステル(C18)、3HBミリスチルエステル(C14)についても3HBセチルエステルと同様の傾向がみられることが定性的に確認されており、これらの3HBアルキルエステルは、3HBナトリウムに比べて正常細胞に対するコラーゲン産生促進効果がきわめて高いと考えられる。
【0034】
また、3HBセチルエステルによるコラーゲン産生促進効果は、3HBエチルエステルとの対比にて、アルキル基の長さの違いとして発現しているものと考えられ、さらに、C8〜C22程度の3HBアルキルエステルであっても同様の効果が期待できることが明らかであり、コラーゲン産生促進効果を改善するうえで有効である。また、特に、上記合成例にて製造される3HBセチルエステル(C16)に類似する3ヒドロキシ酪酸ステアロイルエステル(C18)、3ヒドロキシ酪酸ミリスチルエステル(C14)は、下記合成例にて製造することができ、コラーゲン産生促進効果を改善するうえできわめて有効であると考えられる。
【0035】
以下に、3ヒドロキシ酪酸ミリスチルエステル(C14)、および、3ヒドロキシ酪酸ステアロイルエステル(C18)の合成例について記載する。
【0036】
(3HBミリスチルエステル)
(p−トルエンスルホン酸ミリスチルエステルの合成)
フラスコにミリスチルアルコール20.4gを仕込んで窒素置換した後、ジクロロメタン200mLおよびピリジン15.4mLを添加して撹拌溶解させる。次いでp−トルエンスホニルクロライド27.2gを10分間かけて添加し、24.5時間室温にて撹拌反応させた。反応液に2N塩酸100mLを添加し、30分間撹拌反応させた。水層をジクロロメタン100mLで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた反応液をエバポレータにて濃縮すると、半透明の粘稠液体が得られた。
これをテトラヒドロフラン200mLに溶解分散し、水酸化ナトリウム6.2gを添加して19時間撹拌分散させた。エバポレータでテトラヒドロフランを留去した後、ジエチルエーテル300mLを添加し、30分間撹拌した。次いで、不溶部分をろ別し、エバポレータにて濃縮乾固すると、p−トルエンスルホン酸ミリスチルエステルが得られた(淡褐色固体収量22.8g;収率65.2%)。
【0037】
(3HBミリスチルエステルの合成)
フラスコにp−トルエンスルホン酸ミリスチルエステル20.8gおよび3−ヒドロキシ酪酸6.22g(純度99%、光学純度R体99%ee以上)を仕込んで窒素置換した後、ジメチルホルムアミド193mLを添加して撹拌溶解した。次いで、炭酸カリウム23.45gを添加し、17時間室温にて撹拌反応させた。さらに、45℃にて4時間撹拌反応させた後、反応液を室温に戻し、精製水500mLおよび酢酸エチル120mLを添加して30分撹拌した後、分液した。水層を酢酸エチル150mLにて3回抽出し、有機層を精製水200mLで5回洗浄し、全有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた液体をエバポレータにより濃縮すると、ワックス状固体が得られた。
生成物をヘキサン/酢酸エチルを移動相とするカラムクロマトグラフィーにより精製し、ワックス状固体を得た(7.3g;収率41.7%)。NMR分析により、得られたワックス状固体は、化1(C14)で示される構造の3HBミリスチルエステル(化3)であること、および有意な不純物を含有していないことが確認された。
【0038】
NMR分析
NMR分析
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):
δ=
0.88 (t, 3H,C−CH−),
1.25 (d, 3H,C−CH(OH)−CH−),
1.22−1.40 (br,22H,−C−C−),
1.59−1.65 (m, 2H,−COO−CH−C−),
2.37−2.54 (dd, 2H,−CH(OH)−C−),
3.0 (d, 1H,−CH(O)−),
4.11 (t, 2H,−COO−C−),
4.20 (m, 1H,CH3−C(OH)−)
【0039】
【化3】
【0040】
(3HBステアロイルエステル)
(p−トルエンスルホン酸ステアロイルエステルの合成)
フラスコにステアロイルアルコール3.56gを仕込んで窒素置換した後、ジクロロメタン200mLおよびピリジン2.12mLを添加して撹拌溶解させる。次いでp−トルエンスホニルクロライド3.75gを6分間かけて添加し、24.5時間室温にて撹拌反応させた。反応液に2N塩酸200mLを添加し、30分間撹拌反応させた。水層をジクロロメタン70mLで3回抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた反応液をエバポレータにて濃縮すると、半透明の粘稠液体が得られた。
これをテトラヒドロフラン100mLに溶解分散し、水酸化ナトリウム875mgを添加して19時間撹拌分散させた。エバポレータでテトラヒドロフランを留去した後、ジエチルエーテル100mLを添加し、30分間撹拌した。次いで、不溶部分をろ別し、エバポレータにて濃縮乾固すると、p−トルエンスルホン酸ステアロイルエステルが得られた(淡褐色固体収量4.37g;収率72%)。
【0041】
(3HBステアロイルエステルの合成)
フラスコにp−トルエンスルホン酸ステアロイルエステル4.06gおよび3−ヒドロキシ酪酸2.74gを仕込んで窒素置換した後、ジメチルホルムアミド100mLを添加して撹拌溶解した。次いで、炭酸カリウム3.96gを添加し、17時間室温にて撹拌反応させた。さらに、45℃にて4時間撹拌反応させた後、反応液を室温に戻し、精製水250mLおよび酢酸エチル100mLを添加して30分撹拌した後、分液した。水層を酢酸エチル100mLにて3回抽出し、有機層を精製水100mLで3回洗浄し、全有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、得られた液体をエバポレータにより濃縮すると、ワックス状固体が得られた。
生成物をヘキサン/酢酸エチルを移動相とするカラムクロマトグラフィーにより精製し、ワックス状固体を得た(2.1g;収率62%)。NMR分析により、得られたワックス状固体は、化4(C18)で示される構造の3HBステアロイルエステル(化4)であること、および有意な不純物を含有していないことが確認された。
【0042】
NMR分析
NMR分析
H−NMR(300MHz、CDCl、ppm):
δ=
0.88 (t, 3H,C−CH−),
1.25 (d, 3H,C−CH(OH)−CH−),
1.22−1.40 (br,30H,−C−C−),
1.60−1.66 (m, 2H,−COO−CH−C−),
2.37−2.54 (dd, 2H,−CH(OH)−C−),
3.0 (d, 1H,−CH(O)−),
4.1 (t, 2H,−COO−C−),
4.2 (m, 1H,CH3−C(OH)−)
【0043】
【化4】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の新規ヒドロキシ酪酸エステルは、ヒト正常細胞に対するコラーゲン産生促進効果を発揮し、皮膚の老化抑制のために用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6