(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム顔料を使用した水性インク組成物は、アルミニウム顔料から発生するガスの影響により経時安定性が損なわれることが知られている。
【0003】
その対策として、特定の化合物を配合することが行われてきていた。例えば、天然又は半合成多糖類、金属キレート剤、水溶性有機溶剤及び水を含む水性ビヒクル中にアルミニウム粉顔料が分散されてなる水性インキであって、インキ組成中0.1乃至15質量%のアルミニウム粉顔料及び0.1乃至5質量%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩からなる群より選ばれる金属キレート剤が含まれることを特徴とするボールペン用水性金属光沢色インキ(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、ガスの発生は、幾つかの要因が 関与しているため、他のインク成分の影響等により効果が減ぜられる、持続性がなくなる、温度耐性が弱くなるなどの現象がしばしば発生するなどの課題がある。また、上記特許文献1に記載されたEDTAなどのキレート剤を用いると筆記具の金属部材、例えば、ボールペンのボールを腐食させる場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、アルミニウム顔料と、チオサリチル酸0.1〜3質量%を含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いることができるアルミニウム顔料は、一般にアルミニウムをボールミルやアトライターミル中で粉砕媒液の存在下、粉砕助剤を用いて粉砕、摩砕して製造され、水性インク用の顔料等として用いられているものであれば、その製造法、性状(粉状、ペースト状等)、粒子の大きさ(平均粒子径、厚み)などは、特に限定されるものではなく、例えば、水性インク用として市販されているものを使用することができる。
【0012】
用いることができるアルミニウム顔料としては、市販品では、例えば、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW−120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
これらのアルミニウム顔料の含有量は、筆記具用水性インク組成物全量(以下、単に「インク組成物全量」という)に対して、好ましくは、0.1〜20質量%(以下、単に「質量%」を「%」という。)、更に好ましくは、2〜10%が望ましい。
このアルミニウム顔料の含有量が0.1%未満であると、光輝感が得られず、一方、20%を越えると、筆記感が低下し、また、インクの安定性が損なわれる場合がある。
【0014】
本発明に用いるチオサリチル酸は、別名2−メルカプト安息香酸といい、分子式はC
7H
6O
2Sである。このチオサリチル酸の製造は、既知であり、例えば、アントラニル酸をジアゾ化し、ポリ硫化ナトリウムを作用させジチオサリチル酸とし、これを亜鉛末と酢酸で還元して得られる。また、このチオサリチル酸は、そのままでも十分溶解性に優れるが、ナトリウム塩等の塩として使用してもよいものである。
用いるチオサリチル酸は、筆記具の構成部材となるボールなどの金属部材の腐食を生じさせることなく、経時安定性の劣化促進の原因となるアルミニウム顔料からのガスの発生を抑止する成分となるものである。
【0015】
このチオサリチル酸の含有量は、インク組成物全量に対して、0.1〜3%、好ましくは、0.3〜1%が望ましい。
このチオサリチル酸の含有量が0.1%未満であると、本発明の効果を発揮することができず、一方、3%を越えると、インクの安定性が損なわれる場合があり、好ましくない。
【0016】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、上記アルミニウム顔料と、チオサリチル酸を含有するものであり、これらの各成分の他、例えば、他の顔料や染料などの色材、水溶性有機溶剤、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、更に、必要に応じて、筆記具水性インク組成物に通常用いられる各成分、例えば、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、pH調整剤などを本発明の効果を損なわない範囲で、適宜含有することができる。
【0017】
本発明において、上記アルミニウム顔料の他、他の顔料や染料等の色材(着色剤)を補色成分として併用できる。
用いることができる色材としては、水に溶解もしくは分散する染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜量使用することができる。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットB00B等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0018】
有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等の有機顔料が挙げられる。
これらの色材は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を混合して使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、筆記具用水性インク組成物の用途毎に適宜調整され、インク組成物全量に対して、1%〜30%の範囲である。
【0020】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0021】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0022】
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンゾイソチアゾリン、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物、アンモニア等が挙げられる。
【0023】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、上記アルミニウム顔料と、チオサリチル酸0.1〜3質量%を含有し、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって筆記具用水性インク組成物を調製することができる。
【0024】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップなどのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等の筆記具に搭載される。特に、本発明の筆記具用水性インク組成物は、金属部材と接するボールペンなどの筆記具に好適となる。
ボールペンとしては、例えば、上記組成の筆記具用水性インク組成物をボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、該インク収容体内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等の少なくとも1種がインク追従体として収容されるものが挙げられる。なお、ボールペン、マーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に上記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいものである。
【0025】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物が、何故、アルミニウム顔料からのガスの発生もなく、経時安定性及びその持続性に優れ、ボールペン等に使用した場合であってもボール等の金属部材を腐食させることもない筆記具用水性インク組成物となるのは、以下のように推測される。
本発明の筆記具用水性インク組成物では、少なくとも、アルミニウム顔料と、チオサリチル酸0.1〜3質量%を含有することにより、推測ではあるが、アルミニウム顔料の表面に単分子膜(SAM膜)を形成することで、アルミニウム顔料からのガスの発生もなく、経時安定性及びその持続性に優れ、ボールペンに使用した場合であってもボールなどの金属部材を腐食させることもない筆記具用水性インク組成物、この筆記具用水性インク組成物を搭載した筆記具が得られることとなる。
【実施例】
【0026】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1〜5及び比較例1〜2:筆記具用水性インク組成物の調製〕
下記表1に示す配合組成(全量100質量%)により常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。
得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記評価方法により、経時安定性及びその持続性、金属腐食について評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0028】
<経時安定性及びその持続性の評価方法>
ポリプロピレン製インク収容管(内径4mm、長さ113mm)、ステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.38mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに実施例1〜5及び比較例1〜2の筆記具用水性インク組成物を充填した。次いで、インク後端に鉱油、ポリブテン、オレフィン系エラストマーからなるインク追従体を装填した。このリフィールを、ボールペン(UM−151、三菱鉛筆社)の軸に装填して、各水性ボールペンを作成した。
この各水性ボールペンをペン先下側にして50℃、65%RHの環境下で3ヶ月まで保管して、インクとインク追従体の界面に発生する気泡の有無を1ヶ月及び3ヶ月の時点で視認により官能評価した。
【0029】
<金属腐食の評価方法>
上記各ボールペンの3ヶ月保管後のボール表面の腐食の有無を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡により評価した。
【0030】
【表1】
【0031】
上記表1を考察すると、本発明範囲となる実施例1〜5は、本発明の範囲外となる比較例1〜2に較べ、経時安定性、その持続性、耐金属腐食性に優れていることが判った。
具体的に見ると、実施例1〜5のアルミニウム顔料と共に、チオサリチル酸(0.1〜3質量%の範囲で変動)を少なくとも含有した筆記具用水性インク組成物は、比較例1の基準組成(コントロール)、比較例2の従来におけるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)のアミン塩含有したものに較べ、経時安定性、その持続性(3ヶ月後もガスの発生無し)に優れると共に、金属腐食もないことが確認された。