(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
《車両用ドア開閉装置の概略》
図1(a)は、本発明の一実施の形態による車両用ドア開閉装置を適用した車両において、後方から見た概略構成例を示す正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)の側面図である。
図1(a)および
図1(b)には、所謂ハッチバックタイプの車両10が示される。当該車両10の後方部には、ドアの一例であるテールゲート(バックドア)11が設けられる。
図1(b)には、テールゲート11を開くことによって、荷物等を車室内に出し入れ可能な開口部15が形成された状態が示される。テールゲート11は、車両10の天井部に設けられたヒンジ(図示せず)を中心に回動し、その回転角に応じて開口部15の大きさが変化する。
【0017】
車両10は、テールゲート11の回転(テールゲート11の開閉)を制御するためのドア開閉装置(パワーテールゲート装置)を備える。ドア開閉装置は、伸縮構造を備えるアクチュエータ12と、アクチュエータ12を制御するコントローラ(ECU:Electronic Control Unit)13とを含む。アクチュエータ12は、車両10の左右両側に2個設けられ、一端が車両本体に、他端がテールゲート11にそれぞれ固定される。テールゲート11の開閉状態は、アクチュエータ12の伸縮に応じて制御される。コントローラ(ECU)13は、ユーザの操作に応じてケーブル14を介してアクチュエータ12を制御することで、テールゲート11の開閉状態を制御する。
【0018】
図2は、
図1(a)および
図1(b)におけるアクチュエータの構造例を示す斜視図であり、
図3は、
図2のアクチュエータの長手方向の構造例を示す断面図である。
図2に示すアクチュエータ12は、モータを用いた送りネジ方式によって伸縮運動を行う。
図2に示されるように、アクチュエータ12は、略棒状の形状を備える。アクチュエータ12は、略円筒状のハウジング[1]20、ハウジング[2]40およびハウジング[3]45と、固定部51,52と、コネクタ部53とを備える。ハウジング[2]40は、ハウジング[1]20に嵌合され、ハウジング[3]45は、ハウジング[2]40に対して伸縮自在に装着される。
【0019】
固定部51,52は、アクチュエータ12の長手方向の両端にそれぞれ設けられる。固定部51および固定部52は、それぞれ、車両本体およびテールゲート11に設けられる固定ピン(図示せず)を挿入するための開口部を有する。これにより、アクチュエータ12は、
図1(a)および
図1(b)に示したように、それぞれ、固定ピンを中心に回動自在となるように、車両本体およびテールゲート11に連結される。コネクタ部53は、固定部51の近辺に設けられ、
図1(a)および
図1(b)に示したように、コントローラ(ECU)13に対するケーブル14の挿入口となる。
【0020】
図3に示されるように、ハウジング[1]20には、モータMTが収納される。この例では、モータMTとして、ブラシ付きDCモータが用いられる。モータMTは、略円筒状のヨーク21と、ヨーク21の内周面に固定されるマグネット(図示せず)と、モータシャフト(モータ軸)30と、ヨーク12の内側でモータシャフト30と共に回転するアーマチュア(回転子)22と、アーマチュア22に給電を行うブラシホルダユニット23とを備える。アーマチュア22は、コイル29と、コイル29の端部に接続される整流子25とを備える。
【0021】
モータシャフト30は、長手方向に延伸し、一端はブラシホルダユニット23に挿入され、他端は後述する減速機構部33に連結する。ブラシホルダユニット23は、整流子25に摺接するブラシ24を備える。ブラシ24には、コネクタ部53を介してコントローラ(ECU)13からの駆動電流が供給される。当該駆動電流は、ブラシ24および整流子25を介してアーマチュア22のコイル29に印加される。その結果、アーマチュア22に電磁力が発生し、アーマチュア22は、モータシャフト30と共に所定の回転方向および回転数で回転する。
【0022】
また、ブラシホルダユニット23は、モータシャフト30の一端に取り付けられたセンサマグネット26と、センサマグネット26と対向するように設置されたセンサ基板27とを備える。センサマグネット26およびセンサ基板27は、モータMTの回転角度を検出するモータ軸センサ28として機能する。センサ基板27は、モータシャフト30(ひいてはセンサマグネット26)が回転した際の磁気変化を検出する磁気検出素子を搭載し、その検出結果に基づいて所定の検出信号(例えば、ABZ信号やUVW信号)を出力する。当該検出信号は、コネクタ部53からコントローラ(ECU)13へ送信される。
【0023】
減速機構部33は、例えば、遊星歯車減速機等で構成される2段構成の減速機構31,32を備える。減速機構31,32は、モータシャフト30の回転を所定の減速比で減速させて出力シャフト(出力軸)35へ伝達する。出力シャフト35は、長手方向に延伸し、その一端は、減速機構部33に隣接して設置された軸受ホルダ34によって回転自在に支持される。出力シャフト35は、いわゆる台形ネジであり、外周面にネジ溝が形成される。そして、このような出力シャフト35の周囲を覆うように、ハウジング[2]40が設けられる。
【0024】
ハウジング[2]40には、その内周面に沿うように螺旋状に延伸するコイルスプリング42が設けられる。コイルスプリング42の一端は、ハウジング[2]40のフランジ41に当接される。また、ハウジング[2]40には、略円筒状のガイドチューブ36が収納される。ガイドチューブ36は、後述するインナーチューブ47の移動をガイドする。また、ガイドチューブ36の一端は、フランジを介して軸受ホルダ34に当接される。
【0025】
ハウジング[3]45は、ハウジング[2]40に対して伸縮自在に装着される。ハウジング[3]45内には、コイルスプリング42が延伸している。ハウジング[3]45の一端には、フランジ46が形成される。フランジ46の一方の面には、コイルスプリング42の他端が当接され、他方の面には固定部52が当接される。固定部52は、ネジ構造によってインナーチューブ47に螺合され、インナーチューブ47と一体的に固定される。
【0026】
インナーチューブ47は、ガイドチューブ36に対して、長手方向にスライド可能に挿入される。インナーチューブ47の一端には、ナット部材48が設けられる。ナット部材48は、インナーチューブ47と一体的に固定される。また、インナーチューブ47は、固定部52およびハウジング[3]45と一体的に固定される。このため、ナット部材48は、固定部52がテールゲート11に連結された状態では、モータMTの回転軸を中心とする回転運動を行えない。これにより、ナット部材48は、出力シャフト35の回転に応じて、出力シャフト35とのネジ結合を介して長手方向(回転軸方向)に沿って移動する。これに伴い、ナット部材48に対して直接的または間接的に固定されるインナーチューブ47、固定部52およびハウジング[3]45も移動する。
【0027】
このような構造により、例えば、モータMTを正方向に回転させると、所定の減速比で出力シャフト35が回転し、これに応じて、ハウジング[3]45はハウジング[2]40から出る方向へ移動する。その結果、アクチュエータ12は伸びる方向に制御され、テールゲート11は開く方向に制御される。一方、モータMTを逆方向に回転させると、ハウジング[3]45はハウジング[2]40へ入る方向へ移動する。その結果、アクチュエータ12は縮む方向に制御され、テールゲート11は閉じる方向に制御される。
【0028】
また、コイルスプリング42は、常に、ハウジング[3]45をハウジング[2]40から出す方向に付勢している。すなわち、予め、このような付勢力となるようにコイルスプリング42の長さが調整される。したがって、例えば、アクチュエータ12を伸ばした状態でモータMTの動作を停止させても、コイルスプリング42の付勢力によって、この伸ばした状態が維持される。
【0029】
《コントローラ(ECU)周りの概略》
図4は、
図1(a)および
図1(b)におけるコントローラ(ECU)周りの主要部の構成例を示す概略図である。
図4に示すコントローラ(ECU)13は、モータ制御部60と、ドライバ部80とを備える。ドライバ部80は、Hブリッジ回路を構成するスイッチング素子SW1〜SW4を備える。Hブリッジ回路の2個の出力端子は、
図1のケーブル14および
図2のコネクタ部53を介してモータMT(その中の各ブラシ24(
図3参照))にそれぞれ接続される。
【0030】
モータ制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含むマイクロコントローラ等によって構成される。モータ制御部60は、PWM(Pulse Width Modulation)信号生成部61と、出力デューティ算出部62と、デューティ徐々上げ制御部63と、PI(比例・積分)補償器64とを備える。更に、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65と、記憶部MEMと、位置・速度検出部68と、電流検出部69と、目標速度算出部70とを備える。記憶部MEMは、例えば、不揮発性メモリ等によって構成される。PWM信号生成部61や位置・速度検出部68は、主に、カウンタ等によって構成される。電流検出部69は、主に、アナログ・ディジタルコンバータ等によって構成される。これらを除く部分は、主に、CPUによるプログラム処理によって構成される。
【0031】
モータMTは、
図2および
図3で述べたようなアクチュエータ12に組み込まれることで、テールゲート11を開閉させる駆動力を出力する。モータ制御部60は、例えば運転席周りのスイッチやリモコンスイッチであるオートオープンスイッチ81に応じてテールゲート11のオートオープン制御を行う。当該オートオープン制御の際に、モータ制御部60は、概略的には、速度シーケンス制御部65および目標速度算出部70によってモータMTの目標速度を設定し、当該設定された目標速度となる設定目標速度ω
*tによってモータMTの回転状態、ひいてはテールゲート11の開閉状態を制御する。
【0032】
アクチュエータ12内のモータ軸センサ28は、
図3で述べたように、モータシャフト(モータ軸)30の回転角度を検出し、モータシャフト30が所定角だけ回転する毎にパルス信号を出力する。位置・速度検出部68は、当該パルス信号をカウントすることで、テールゲート11の位置を表すパルスカウント値71を出力する。すなわち、パルス信号のカウント値によってモータシャフト30の回転角度が検出され、所定の減速比に基づいて出力シャフト35の回転角度が検出され、その結果、テールゲート11の位置が検出される。また、位置・速度検出部68は、モータシャフト30の回転角度の変化率に基づいてモータMTの実速度ωを検出する。電流検出部69は、ドライバ部80に流れる電流を電流センサ82を介して検出することで、モータMTの駆動電流を検出する。
【0033】
詳細は後述するが、目標速度算出部70は、マップ速度ω
*mを算出するマップ速度算出部75と、徐々上げ目標速度ω
*uを算出する徐々上げ速度算出部76と、徐々下げ目標速度ω
*dを算出する徐々下げ速度算出部77とを有する。目標速度算出部70は、速度シーケンス制御部65からの指示に応じて、マップ速度ω
*m、徐々上げ目標速度ω
*uおよび徐々下げ目標速度ω
*dのいずれか一つを選択し、それを設定目標速度ω
*tとして出力する。
【0034】
PI補償器64は、目標速度算出部70からの設定目標速度ω
*tと、位置・速度検出部68からの実速度ωとの誤差をゼロに近づけるための操作量(例えば、電流指令値(トルク指令値))をPI制御を用いて算出する。さらに、PI補償器64は、当該電流指令値と、電流検出部69からの駆動電流値との誤差をゼロに近づけるための操作量(例えば、電圧指令値)をPI制御を用いて算出する。この電圧指令値は、PWM信号のデューティを表す。
【0035】
デューティ徐々上げ制御部63は、予め定めた初期デューティ[%]から予め定めたレート[%/ms]で徐々に拡大していくデューティを生成する。速度シーケンス制御部65は、デューティ徐々上げ制御部63からのデューティかPI補償器64からのデューティのいずれか一つを選択し、それを基本デューティとして出力する。出力デューティ算出部62は、当該基本デューティに対して各種デューティ補正を行ったり、または、電流検出部69からの駆動電流値等に基づく各種保護を行うことで、最終的な出力デューティを定める。
【0036】
PWM信号生成部61は、出力デューティ算出部62からの出力デューティを備えるPWM信号を生成し、当該PWM信号でドライバ部80内の各スイッチング素子SW1〜SW4をスイッチング制御する。具体的には、PWM信号生成部61は、モータMTを正方向に回転させる際(ひいては、アクチュエータ12を伸ばす際)には、スイッチング素子SW2,SW3をオフに固定し、スイッチング素子SW1,SW4をPWM信号で制御する。一方、PWM信号生成部61は、例えば、モータMTを逆方向に回転させる際(ひいては、アクチュエータ12を縮める際)には、スイッチング素子SW1,SW4をオフに固定し、スイッチング素子SW2,SW3をPWM信号で制御する。
【0037】
図5は、
図4のモータ制御部において、全開位置が初期の全開位置である場合のオートオープン制御時の概略的な動作例を示す図である。
図5には、
図4に示したパルスカウント値71(すなわち、テールゲート11の位置)と設定目標速度ω
*tとの関係が示される。全閉位置から初期の全開位置までのオートオープン制御は、初期設定区間T0、デューティ徐々上げ区間T1、目標速度徐々上げ区間T2、速度マップ区間T3および目標速度徐々下げ区間T4を順に介して行われる。
【0038】
初期設定区間T0において、モータ制御部60は、オートオープンスイッチ81に応じて、デューティ徐々上げ制御部63、速度シーケンス制御部65および目標速度算出部70に、予め定めた開始速度ω
*stおよび初期デューティ[%]を適宜設定する。デューティ徐々上げ区間T1において、デューティ徐々上げ制御部63は、所定の制御周期(例えば、5ms等)毎に、初期デューティ[%]から予め定めたレート[%/ms]で徐々に拡大していくデューティを生成する。モータMTは、当該デューティの拡大に伴い徐々に加速していく。
【0039】
速度シーケンス制御部65は、設定された開始速度ω
*stと、位置・速度検出部68からの実速度ωとを比較し、実速度ωが開始速度ω
*stに達するまでは、デューティ徐々上げ制御部63からのデューティを基本デューティとして選択する。一方、速度シーケンス制御部65は、実速度ωが開始速度ω
*stに到達した際には、PI補償器64からのデューティを基本デューティとして選択し、かつ、目標速度算出部70からの設定目標速度ω
*tを、徐々上げ速度算出部76からの徐々上げ目標速度ω
*uに設定する。これにより目標速度徐々上げ区間T2では、徐々上げ速度算出部76からの徐々上げ目標速度ω
*uを設定目標速度ω
*tとして、モータMTの制御が行われる。
【0040】
徐々上げ速度算出部76は、開始速度ω
*stを起点に、テールゲート11の位置が全開位置に近づくにつれて(全閉位置から離れるにつれて)予め定めた加速レートで加速する徐々上げ目標速度ω
*uを算出する。テールゲート11の位置は、パルスカウント値71と等価である。徐々上げ目標速度ω
*uは、具体的には、デューティ徐々上げ区間T1から目標速度徐々上げ区間T2への移行が生じた時点のパルスカウント値71を基準に、そこからの変位量の増加に応じて開始速度ω
*stから加速レートΔωuで加速していく速度となる。加速レートΔωuは、例えば、パルスカウント値の“+1”の増加に対する目標速度の上昇分によって定められる。
【0041】
ここで、
図4のモータ制御部60において、記憶部MEMは、予め作成される目標速度マップ66を保持する。目標速度マップ66は、テールゲート11の全開位置が初期の全開位置である場合を前提として、テールゲート11の位置(すなわち、パルスカウント値71)とモータMTの目標速度との関係を規定したものである。マップ速度算出部75は、パルスカウント値71に基づきテールゲート11の現在位置を認識し、目標速度マップ66に基づき、現在位置に対応するモータMTの目標速度であるマップ速度ω
*mを算出する。
図5には、このようにして算出されたマップ速度ω
*mが示される。
【0042】
目標速度徐々上げ区間T2において、徐々上げ速度算出部76での加速レートΔωuは、この例では、マップ速度ω
*mに基づく加速レートと同等の値に設定される。また、目標速度徐々上げ区間T2において、速度シーケンス制御部65は、マップ速度ω
*mと徐々上げ目標速度ω
*uとを比較する。そして、速度シーケンス制御部65は、マップ速度ω
*mよりも徐々上げ目標速度ω
*uが速くなるテールゲート11の位置(パルスカウント値71)で、設定目標速度ω
*tを徐々上げ目標速度ω
*uからマップ速度ω
*mに切り替える。これにより、速度マップ区間T3では、マップ速度算出部75からのマップ速度ω
*mを設定目標速度ω
*tとして、モータMTの制御が行われる。
【0043】
なお、モータMTの速度は、原則的には、マップ速度ω
*mに基づいて制御されればよい。ただし、この例では、モータMTの起動時の制御を安定化するため、“ω≧ω
*st”を終了条件とするデューティ徐々上げ区間T1が設けられる。この場合、当該終了条件が生じるテールゲート11の位置(パルスカウント値71)を特定することは困難となる。特に、
図1(a)および
図1(b)に示した車両10が傾斜地等に停車している場合、当該テールゲート11の位置は、傾斜の程度等に応じて変動し得る。このような状況で、仮に、当該終了条件が生じた時点でデューティ徐々上げ区間T1から速度マップ区間T3へ移行すると、移行時点で設定目標速度ω
*tの急激な変化が生じ、制御の不安定化を招く恐れがある。そこで、ここでは、目標速度徐々上げ区間T2が設けられる。
【0044】
また、
図4のモータ制御部60において、徐々下げ速度算出部77は、全開位置(ここでは初期の全開位置)で予め定めた終端速度ω
*edとなるように、テールゲート11の位置が全開位置に近づくにつれて予め定めた減速レートΔωdで減速する徐々下げ目標速度ω
*dを算出する。前述したように、テールゲート11の位置は、パルスカウント値71と等価である。徐々下げ目標速度ω
*dは、具体的には、全開位置のパルスカウント値71を基準に、そこに向けた変位量の減少に応じて減速レートΔωdで終端速度ω
*edまで減速していく速度となる。減速レートΔωdは、例えば、パルスカウント値の“+1”の増加に対する目標速度の減少分によって定められる。
【0045】
速度マップ区間T3において、速度シーケンス制御部65は、マップ速度ω
*mと徐々下げ目標速度ω
*dとを比較する。そして、速度シーケンス制御部65は、マップ速度ω
*mよりも徐々下げ目標速度ω
*dが遅くなるテールゲート11の位置(パルスカウント値71)で、設定目標速度ω
*tをマップ速度ω
*mから徐々下げ目標速度ω
*dに切り替える。これにより、目標速度徐々下げ区間T4では、徐々下げ速度算出部77からの徐々下げ目標速度ω
*dを設定目標速度ω
*tとして、モータMTの制御が行われる。なお、徐々下げ速度算出部77での減速レートΔωdは、この例では、マップ速度ω
*mに基づく減速レートと同等の値に設定される。この場合、目標速度徐々下げ区間T4において、徐々下げ目標速度ω
*dは、マップ速度ω
*mと同等になる。
【0046】
以上、
図5のようなオートオープン制御を用いることで、テールゲート11の開放速度を、全閉位置から全開位置まで所望の速度で安定的に制御することができ、特に、全開位置において終端速度ω
*edとなるように徐々に低下させることができる。その結果、オートオープン制御に伴うテールゲート11の振動を抑制することが可能になる。また、これに伴い、ユーザのフィーリングを向上させることが可能になる。
【0047】
図6および
図7のそれぞれは、
図4のモータ制御部において、全開位置が任意の全開位置である場合のオートオープン制御時の概略的な動作例を示す図である。例えば、
図1(b)および
図1(b)の車両10において、ユーザは、テールゲート11の後方に障害物が存在する場合等で、オートオープン制御時の全開位置を任意に定めたい場合がある。
【0048】
そこで、
図4のモータ制御部60において、記憶部MEMは、ユーザによって設定されるテールゲート11の任意の全開位置を表す情報(全開位置(任意)情報67)を保持する。また、徐々下げ速度算出部77は、
図5の場合と同様に、全開位置(ただし、ここでは任意の全開位置)で予め定めた終端速度ω
*edとなるように、テールゲート11の位置が全開位置に近づくにつれて予め定めた減速レートΔωdで減速する徐々下げ目標速度ω
*dを算出する。
【0049】
図6では、任意の全開位置が設定される結果、
図5の場合と比較して、パルスカウント値と徐々下げ目標速度ω
*dとの関係を表す直線が、初期の全開位置と任意の全開位置との差分量だけ全閉位置側にシフトしている。これに伴い、速度マップ区間T3において、速度シーケンス制御部65は、
図5の場合と比較して、パルスカウント値が小さい段階でマップ速度ω
*mよりも徐々下げ目標速度ω
*dが遅くなったこと検出する。その結果、
図5の場合よりも全閉位置に近い段階で、速度マップ区間T3から目標速度徐々下げ区間T4への移行が行われる。
【0050】
図7では、
図6の場合よりも更に全閉位置に近い位置に任意の全開位置が設定される結果、
図6の場合と比較して、パルスカウント値と徐々下げ目標速度ω
*dとの関係を表す直線が、全閉位置側にシフトしている。これに伴い、
図7では、
図6の場合と異なり、速度シーケンス制御部65は、目標速度徐々上げ区間T2において、
図5で述べた徐々上げ目標速度ω
*uとマップ速度ω
*mとの比較に加えて、徐々上げ目標速度ω
*uと徐々下げ目標速度ω
*dとの比較を行う。そして、速度シーケンス制御部65は、徐々上げ目標速度ω
*uよりも徐々下げ目標速度ω
*dが遅くなるテールゲート11の位置で、設定目標速度ω
*tを徐々上げ目標速度ω
*uから徐々下げ目標速度ω
*dに切り替える。その結果、目標速度徐々上げ区間T2から目標速度徐々下げ区間T4への移行が行われる。
【0051】
図6および
図7のようなオートオープン制御を用いることで、任意の全開位置が設定された場合であっても、テールゲート11の開放速度を、全開位置において終端速度ω
*edとなるように徐々に低下させることができる。その結果、オートオープン制御に伴うテールゲート11の振動を抑制することが可能になる。また、これに伴い、ユーザのフィーリングを向上させることが可能になる。なお、比較例として、例えば
図6において、任意の全開位置が設定された場合でもマップ速度ω
*mに基づき制御を行うと、任意の全開位置に対応する速いマップ速度ω
*mで任意の全開位置に到達することになる。その結果、テールゲート11の振動が生じ得る。
図6および
図7のような方式を用いると、このような振動を抑制できる。
【0052】
ここで、具体的な制御方法に関し、例えば、
図6から分かるように、任意の全開位置が定められると、そこを基準に、パルスカウント値と徐々下げ目標速度ω
*dとの関係を逆算することができる。そこで、既存の目標速度マップに、この逆算した関係を反映させることで新たな目標速度マップを作成し、記憶部MEMに保持しておく方式が考えられる。この場合、
図6の目標速度徐々下げ区間T4は不要となり、全開位置まで速度マップ区間T3を延長することができる。
【0053】
ただし、ユーザは、任意の全開位置を頻繁に変更したい場合がある。また、例えば、モータ制御部は、車両10の傾斜等の環境に応じて、減速レート(Δωd)(加速レート(Δωu)も同様)を変更する制御を行いたい場合がある。このような場合、前述したような新たな目標速度マップを作成する方式では、その都度、目標速度マップを作成し直す必要がある。このため、モータ制御部の処理負荷の増大等が生じ得る。さらに、
図7のように、速度マップ区間T3を経ずに、目標速度徐々上げ区間T2から目標速度徐々下げ区間T4へ移行するような場合には、当該方式を適用すること自体が困難となり得る。
【0054】
そこで、
図4のモータ制御部60において、マップ速度算出部75は、所定の制御周期(例えば、5ms等)毎に、検出されたテールゲート11の現在位置(すなわち、パルスカウント値71の現在値)に対応するマップ速度ω
*mを算出する。同様に、徐々上げ速度算出部76および徐々下げ速度算出部77は、それぞれ、所定の制御周期毎に、パルスカウント値71の現在値に対応する徐々上げ目標速度ω
*uおよび徐々下げ目標速度ω
*dを算出する。さらに、速度シーケンス制御部65は、所定の制御周期毎に、
図5および
図6に示したようなマップ速度ω
*mと徐々下げ目標速度ω
*dとの比較と、
図5および
図7に示したような徐々上げ目標速度ω
*uと、マップ速度ω
*mおよび徐々下げ目標速度ω
*dのそれぞれとの比較を行う。
【0055】
図8は、
図4の徐々下げ速度算出部における徐々下げ目標速度の算出方法の一例を示す図である。
図8において、パルスカウント幅“Wp”は、初期または任意の全開位置と現在位置との差分量である。全開位置は、パルスカウント値として予め固定的に定められ、現在位置は、現在の制御周期で位置・速度検出部68から取得したパルスカウント値によって定められる。“ω
*ed”は予め定めた終端速度であり、“Δωd”は予め定めた減速レート(ここでは、パルスカウント値の“+1”の増加に対する目標速度の減少分)である。これにより、現在位置における徐々下げ目標速度ω
*dは、式(1)で算出することができる。
ω
*d=ω
*ed+|Δωd|×Wp (1)
【0056】
なお、徐々上げ目標速度ω
*uの算出方法に関しても同様である。この場合、
図5を例として、パルスカウント幅“Wp”として、デューティ徐々上げ区間T1から目標速度徐々上げ区間T2へ移行する制御周期でのパルスカウント値と、現在位置でのパルスカウント値との差分を用いればよい。また、終端速度ω
*edの代わりに開始速度ω
*stを用い、減速レートΔωdの代わりに加速レートΔωuを用いればよい。
【0057】
このように、所定の制御周期毎に現在位置に対応する各目標速度(ω
*m,ω
*u,ω
*d)を算出し、所定の制御周期毎に各目標速度の大小比較を行う方式を用いることで、前述した新たな目標速度マップを作成する方式と異なり、モータ制御部60の処理負荷の増大を防止することが可能になる。さらに、
図7のような場合にも対応できる。処理負荷に関し、例えば、任意の全開位置を変更した場合には、単に、式(1)のパルスカウント幅“Wp”の値が変わるだけで、モータ制御部60の処理内容自体は変わらない。同様に、減速レートΔωdを変えた場合も、単に、式(1)の“Δωd”が変わるだけで、モータ制御部60の処理内容自体は変わらない。
【0058】
《モータ制御部の詳細動作》
図9、
図10および
図11は、
図4のモータ制御部の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。当該フローは、例えば、所定の制御周期毎に実行される。
図9において、モータ制御部60は、初期設定区間T0か否かを判定する(ステップS001)。なお、モータ制御部60は、オートオープンスイッチ81に応じて初期設定区間T0へ移行する。初期設定区間T0でない場合、ステップS101の処理が行われる。
【0059】
一方、初期設定区間T0である場合、モータ制御部60は、
図5で述べたように、予め定めた開始速度ω
*stの各部への設定(ステップS002)と、基本デューティを予め定めた初期デューティに設定する処理(ステップS003)とを行う。次いで、モータ制御部60は、デューティ徐々上げ区間T1へ移行したのち(ステップS004)、出力デューティ算出部62を用いてステップS003で定めた初期デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(ステップS500)。
【0060】
ステップS101において、モータ制御部60は、デューティ徐々上げ区間T1か否かを判定する。デューティ徐々上げ区間T1でない場合、
図10のステップS201の処理が行われる。デューティ徐々上げ区間T1である場合、モータ制御部60は、
図5で述べたように、デューティ徐々上げ制御部63を用いて基本デューティの算出処理を行う(ステップS102)。次いで、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65を用いて、モータMTの実速度ωが開始速度ω
*stに達したか否かを判定する(ステップS103)。
【0061】
ステップS103において、開始速度ω
*stに達した場合、モータ制御部60は、目標速度徐々上げ区間T2へ移行したのち(ステップS104)、出力デューティ算出部62を用いてステップS102で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(ステップS500)。一方、開始速度ω
*stに未達の場合、モータ制御部60は、出力デューティ算出部62を用いてステップS102で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(ステップS500)。この場合、次の制御周期で、再びステップS102の処理(すなわちデューティを1段階拡大する処理)等が行われることになる。
【0062】
図10のステップS201において、モータ制御部60は、目標速度徐々上げ区間T2か否かを判定する。目標速度徐々上げ区間T2でない場合、
図11のステップS301の処理が行われる。目標速度徐々上げ区間T2である場合、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65を用いて、設定目標速度ω
*tを徐々上げ目標速度ω
*uに設定する(ステップS202)。次いで、モータ制御部60は、徐々上げ速度算出部76、マップ速度算出部75および徐々下げ速度算出部77を用いて、それぞれ、徐々上げ目標速度ω
*u、マップ速度ω
*mおよび徐々下げ目標速度ω
*dの算出を行う(ステップS203〜S205)。
【0063】
続いて、モータ制御部60は、PI補償器64に設定目標速度ω
*t(すなわち徐々上げ目標速度ω
*u)を入力することで、基本デューティの算出処理を行う(ステップS206)。次いで、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65を用いて、徐々上げ目標速度ω
*uがマップ速度ω
*mに達したか否かを判定する(ステップS207)。マップ速度ω
*mに達した場合、モータ制御部60は、速度マップ区間T3へ移行したのち(ステップS208)、出力デューティ算出部62を用いてステップS206で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。
【0064】
一方、ステップS207において、徐々上げ目標速度ω
*uがマップ速度ω
*mに未達の場合、モータ制御部60は、
図7に示したように、速度シーケンス制御部65を用いて、徐々下げ目標速度ω
*dが徐々上げ目標速度ω
*uよりも遅いか否かを判定する(ステップS209)。徐々上げ目標速度ω
*uよりも遅い場合、モータ制御部60は、目標速度徐々下げ区間T4へ移行したのち(ステップS210)、出力デューティ算出部62を用いてステップS206で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。
【0065】
一方、ステップS209において、徐々下げ目標速度ω
*dが徐々上げ目標速度ω
*uよりも速い場合、モータ制御部60は、出力デューティ算出部62を用いてステップS206で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。この場合、次の制御周期で、再びステップS206の処理(すなわち設定目標速度ω
*tをパルスカウント値の増分に応じて加速させる処理)等が行われることになる。
【0066】
図11のステップS301において、モータ制御部60は、速度マップ区間T3か否かを判定する。速度マップ区間T3でない場合、ステップS401の処理が行われる。速度マップ区間T3である場合、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65を用いて、設定目標速度ω
*tをマップ速度ω
*mに設定する(ステップS302)。次いで、モータ制御部60は、マップ速度算出部75および徐々下げ速度算出部77を用いて、それぞれ、マップ速度ω
*mおよび徐々下げ目標速度ω
*dの算出を行う(ステップS303,S304)。
【0067】
続いて、モータ制御部60は、PI補償器64に設定目標速度ω
*t(すなわちマップ速度ω
*m)を入力することで、基本デューティの算出処理を行う(ステップS305)。次いで、モータ制御部60は、
図5および
図6に示したように、速度シーケンス制御部65を用いて、徐々下げ目標速度ω
*dがマップ速度ω
*mよりも遅いか否かを判定する(ステップS306)。
【0068】
ステップS306において、徐々下げ目標速度ω
*dがマップ速度ω
*mよりも遅い場合、モータ制御部60は、目標速度徐々下げ区間T4へ移行したのち(ステップS307)、出力デューティ算出部62を用いてステップS305で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。一方、徐々下げ目標速度ω
*dがマップ速度ω
*mよりも速い場合、モータ制御部60は、出力デューティ算出部62を用いてステップS305で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。この場合、次の制御周期で、再びステップS305の処理(すなわち設定目標速度ω
*tを目標速度マップ66に基づき定める処理)等が行われることになる。
【0069】
ステップS401において、モータ制御部60は、目標速度徐々下げ区間T4か否かを判定する。目標速度徐々下げ区間T4でない場合、モータ制御部60は、処理を終了する。当該ステップS401における目標速度徐々下げ区間T4でない場合とは、全開位置に達した場合に該当する。一方、目標速度徐々下げ区間T4である場合、モータ制御部60は、速度シーケンス制御部65を用いて、設定目標速度ω
*tを徐々下げ目標速度ω
*dに設定する(ステップS402)。次いで、モータ制御部60は、徐々下げ速度算出部77を用いて徐々下げ目標速度ω
*dの算出を行う(ステップS403)。
【0070】
続いて、モータ制御部60は、PI補償器64に設定目標速度ω
*t(すなわち徐々下げ目標速度ω
*d)を入力することで、基本デューティの算出処理を行う(ステップS404)。次いで、モータ制御部60は、出力デューティ算出部62を用いてステップS404で定めた基本デューティを対象とする出力デューティの算出処理を行う(
図9のステップS500)。その後は、全開位置に達するまで、次の制御周期で、再びステップS404の処理(すなわち設定目標速度ω
*tをパルスカウント値の増分に応じて減速させる処理)等が行われることになる。
【0071】
《実施の形態の主要な効果》
以上、実施の形態の車両用ドア開閉装置を用いることで、代表的には、オートオープン制御の際のドアの振動を抑制することが可能になる。その結果、ユーザのフィーリングを向上させることが可能になる。
【0072】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、モータMTとしてブラシ付きDCモータを用いたが、特にこれに限定されず、ブラシレスDCモータ等様々なモータを用いることが可能である。また、上記実施の形態では、ドアの一例であるテールゲート(バックドア)11への適用例を示したが、例えば、スライドドア等の各種ドアに対して同様に適用することも可能である。
【0073】
さらに、ここでは、モータ軸センサ28の検出結果に基づいて、テールゲート11の位置を検出したが、
図3の出力シャフト(出力軸)35に対しても同様に出力軸センサを設け、その検出結果に基づいてテールゲート11の位置を検出してもよい。また、
図3の例では、モータ軸センサ28として、磁気式のロータリーエンコーダを用いたが、レゾルバを用いたり、場合によって、モータMTの誘起電圧を検出することでモータの位置情報や速度情報を得るセンサレス方式を用いることも可能である。
【0074】
その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記各実施の形態に限定されない。