(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第二の工程を、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、プラネタリーミキサー、及びライカイ機から選ばれるいずれかで実施する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
樹脂組成物100体積%に対して、直径1μm以上のセルロース凝集体の体積比率が0.1〜50体積%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0019】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂と、セルロースとを含む樹脂組成物の製造方法である。本製造方法は、第一の工程、第二の工程及び第三の工程を含む。以下、順に説明する。
【0020】
≪第一の工程≫
本製造方法においては、セルロースを、水を主成分とする分散媒中に分散させた混合物を調製する第一の工程が必要である。ここで、使用するセルロースは、いずれのものでも構わないが、樹脂組成物中に適度な粒子径で分散させるためには、微細なセルロースを用いることが望ましい。より具体的には、セルロースが、セルロースファイバー、セルロースウィスカー又はこれらの混合物であることがより好ましい。
【0021】
本開示で、セルロースの「長さ」(L)及び「径」(D)は、例えばセルロースウィスカーにおいては長径及び短径に、またセルロースファイバーにおいては繊維長及び繊維径に、それぞれ相当する。セルロースウィスカー及びセルロースファイバーとしては、それぞれ、セルロース単体での径がナノメートルサイズ(すなわち1μm未満)であるものが、第二の工程においてセルロース凝集体を効果的に形成させる観点からより好ましい。本発明で好適に使用可能なセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々は、その径が500nm以下のものである。好ましいセルロースの径の上限は、450nmであり、より好ましくは400nmであり、さらにより好ましくは350nmであり、最も好ましくは300nmである。
【0022】
特に好ましい態様において、セルロースウィスカーの径は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、更に好ましくは400nm以下、更により好ましくは350nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。
【0023】
また、特に好ましい態様において、セルロースファイバーの径は、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは5nm以上であり、更により好ましくは10nm以上であり、特に好ましくは15nm以上であり、最も好ましくは20nm以上であり、好ましくは450nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下であり、更により好ましくは300nm以下であり、最も好ましくは250nm以下である。
【0024】
樹脂組成物からなる成形体の摺動性を効果的に向上させるためには、セルロースの径を上述の範囲内にすることが望ましい。
【0025】
本発明におけるセルロースウィスカーとは、パルプ等を原料とし、これを裁断後、塩酸や硫酸といった酸中でセルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースを指す。
【0026】
また、セルロースファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊したセルロース、及び、粉砕等の強力な機械的解繊ではなくTEMPO酸化法や有機溶剤中でのセルロースファイバー水酸基の化変性により解繊されたセルロースファイバーを包含する。
【0027】
セルロースウィスカーの好ましい長さ/径比率(L/D比)は30未満である。セルロースウィスカーのL/D上限は、好ましくは25であり、より好ましくは20であり、より好ましくは15であり、更により好ましくは10であり、最も好ましくは5である。下限は特に限定されないが、1を超えていればよい。樹脂組成物に適度な流動性を付与するためには、セルロースウィスカーのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。
【0028】
セルロースファイバーのL/D下限は、好ましくは30であり、より好ましくは50であり、より好ましくは80であり、更により好ましくは100であり、特に好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、樹脂組成物の溶融粘度を高くし過ぎない観点から好ましくは1000以下である。
【0029】
本開示で、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)及び径(D)、並びに比(L/D)を算出することで確認が可能である。本開示のセルロースの長さ及び径とは、計100本のセルロースの数平均値である。セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出して、本開示の、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比とする。また、本開示において、セルロースウィスカーとセルロースファイバーとを、比(L/D)が30未満のものをセルロースウィスカー、30以上のものをセルロースファイバーと分類することで互いに区別することもできる。
【0030】
又は、組成物中のセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、固体である組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0031】
又は、組成物中のセルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を調製し、セルロース濃度が0.1〜0.5質量%となるように純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだL/Dが30以上のセルロースファイバー100本以上と、L/Dが30未満のセルロースウィスカー100本以上の、合計200本以上での測定を行う。
【0032】
本発明で好適に使用可能なセルロースウィスカーは、結晶化度が55%以上のセルロースウィスカーである。結晶化度がこの範囲にあると、セルロースウィスカー自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高まるため、樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高くなる傾向にある。
【0033】
セルロースウィスカーの結晶化度は、好ましくは60%以上であり、より好ましい結晶化度の下限は65%であり、更により好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースウィスカーの結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。
【0034】
また、セルロースファイバーは、結晶化度が55%以上のセルロースファイバーが好適に使用可能である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロースファイバー自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高まるため、樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高くなる傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、更により好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースファイバーの結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0035】
セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの結晶化度は、これらセルロースの製造時の非晶部分の除去度合に左右されるが、非晶部分の除去度合が高くなるような製造条件においてはリグニン等の不純物の除去度合も高くなる。リグニン等の不純物の残存量が多いと、樹脂組成物の加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点から、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0036】
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]−[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%)=h1/h0×100
【0037】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、I型及びII型のセルロースは汎用されている一方、III型及びIV型のセルロースは実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本発明で用いるセルロースとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースを樹脂に分散させることによって線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂コンポジットが得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースがより好ましい。
【0038】
セルロースウィスカーの重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは120以上であり、より好ましくは130以上であり、より好ましくは140以上であり、より好ましくは150以上、好ましくは300以下、より好ましくは280以下、より好ましくは270以下、より好ましくは260以下、より好ましくは250以下である。また、セルロースファイバーの重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは420以上であり、より好ましくは430以上、より好ましくは440以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは2500以下、より好ましく2300以下、より好ましくは2200以下、より好ましくは2100以下、より好ましくは2000以下である。押出成形における加工性と、成形体の機械的特性発現の観点から、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0039】
セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0040】
セルロースの重合度(すなわち平均重合度)を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、後記の押出工程等、機械的せん断を与える工程において、セルロース成分が機械処理を受けやすくなり、セルロース成分が微細化されやすくなる。
【0041】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα−セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液には、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0042】
第二の工程におけるセルロース凝集体の形成のしやすさの観点から、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。それぞれに適した重合度を有するセルロースを用いることにより、適度な粒子径分布を有する凝集体を形成しやすくなるものと考えられる。
【0043】
第一の工程において用いる分散媒は、水を主成分とする分散媒である。ここでいう、水を主成分とするとは、分散媒中に占める水の割合が50質量%以上である状態である。水以外の分散媒としては、例えば、水と相溶の有機溶剤、水と非相溶の有機溶剤、界面活性剤等が例示可能である。
【0044】
水と相溶の有機溶剤は、水とあらゆる組成範囲混和する有機溶剤だけではなく、ある特定の組成範囲で混和する有機溶剤も包含する。具体例を挙げると、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルスルフォオキシド、酢酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
また、水に非相溶な有機溶剤とは、水に対する溶解度が1質量%以下で、ほとんど溶解しない有機溶剤を指す。具体例を挙げると、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等が挙げられるがが、これらに限定されるものではない。
【0046】
更に、界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0047】
陰イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0048】
非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0049】
両性イオン系界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0050】
陽イオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0051】
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ−O−アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いることができる。
【0052】
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
【0053】
特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
【0054】
水を主成分とする分散媒と、該分散媒中に分散させたセルロースとを含む混合物は、種々の方法で得ることが可能である。具体例を挙げると、原料となるパルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊する方法、原料となるパルプ等を裁断し、塩酸や硫酸といった酸中で、セルロースの非晶部分を溶解したのち、中和する方法、原料パルプ等を粉砕、100℃以上の熱水等で処理し、脱水して得られたパルプを撹拌機で攪拌し、有機溶剤等の雰囲気下、ビーズミル等で解繊修飾した後、溶剤を水置換する方法等が挙げられる。
【0055】
また、上述のように調製された混合物を、せん断条件下で乾燥処理し、粉末状セルロースとして取得した後、所望のセルロース濃度となるようブレンドし、分散媒とともに高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといったせん断を与える装置条件下でせん断を与え、再分散させる方法も好適に使用可能である。
【0056】
第一の工程で得られる混合物の好ましいセルロース比率は、混合物を100質量%としたとき、1〜30質量%である。より好ましい量は、用いるセルロースの種類及びその比率によって異なる。
【0057】
具体的には、セルロース種がセルロースファイバー単独の場合、下限量は、より好ましくは1.5質量%であり、更に好ましくは2.0質量%であり、更により好ましくは2.5質量%であり、最も好ましくは3.0質量%である。また、添加効率を考えればセルロース比率は高い方が好ましいが、取扱い性の面から、上限量は、より好ましくは25質量%であり、更に好ましくは23質量%であり、更により好ましくは20質量%であり、最も好ましくは18質量%である。
【0058】
またセルロース種がセルロースウィスカー単独の場合、下限量は、より好ましくは4質量%であり、更に好ましくは6質量%であり、更により好ましくは8質量%であり、最も好ましくは10質量%である。また、上限値は、より好ましくは29質量%であり、更に好ましくは28質量%であり、更により好ましくは27質量%であり、最も好ましくは25質量%である。
【0059】
なお、セルロース種がセルロースファイバーとセルロースウィスカーの混合物の場合、好ましい量比は、上述の間をとる。具体的には、下限量は、より好ましくは1.5質量%であり、更に好ましくは2.0質量%であり、更により好ましくは2.5質量%であり、最も好ましくは3.0質量%であり、上限量は、より好ましくは29質量%であり、更に好ましくは28質量%であり、更により好ましくは27質量%であり、最も好ましくは25質量%である。
【0060】
上述の下限量以上とすることにより、高濃度のセルロースを含有する樹脂組成物を得やすくなり、上限量以下とすることで、ポンプでの混合物の移送がしやすくなるという利点を発現しやすくなる。
【0061】
≪第二の工程≫
本製造方法においては、第一の工程に引き続いて実施される、第一の工程で調製した混合物を加熱しながら撹拌し、分散媒を除去しセルロース凝集体を得る第二の工程が必要である。
【0062】
本工程は、本発明の製造方法で得られる組成物の摺動性の発現に極めて重要な工程である。特に、本工程では、第一の工程で調製した混合物を加熱しながら撹拌し、得られるセルロース凝集体中に含まれる分散媒の量を、セルロース凝集体を100質量%としたとき、0.1〜10質量%の範囲内にコントロールする必要がある。
【0063】
分散媒量の下限は、好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは0.8質量%であり、さらにより好ましくは1質量%、最も好ましくは1.5質量%である。また分散媒量の上限は、好ましくは8質量%であり、さらに好ましくは6質量%、さらにより好ましくは5質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは3質量%である。
【0064】
分散媒量を上述の範囲内にコントロールすることによって、本発明の製造方法から得られる成形体のこすれ時の摩擦音を軽減することが可能となる。
【0065】
摩擦音低減効果の発現要因は定かではないが、適度の分散媒が含有された状態にあるセルロース凝集体の方が、分散媒の含有量がより少ないセルロース凝集体に比して、セルロース間の強固な凝集を抑制しやすく、巨大なセルロース粒子の形成を抑制できるため粒子径を均一化しやすくなり、また、分散媒がより多く残留しているセルロース凝集体に比して、溶融樹脂との溶融時の蒸発潜熱による除熱が抑制され、溶融樹脂との混練時間が長くなるため、平均粒子径をコントロールしやすくなるためではないかと考えられる。
【0066】
本発明の第二の工程におけるセルロース凝集体中に含まれる分散媒の量は、気化法により求めることが可能である。具体的には、100℃以上に加熱したセルロース凝集体から発生する分散媒の量を測定することで確認が可能である。より具体的には、100℃以上に加熱した乾燥機でセルロース凝集体を乾燥させたときの乾燥前後の重量変化から、分散媒の量を求めることが可能である。より正確性を保つためには、100℃以上に設定した真空乾燥機にて減圧状態で、5時間以上乾燥させたときの乾燥前後の重量変化より算出することが望ましい。この時の上限温度は、150℃とするのがよい。
【0067】
本発明における第二の工程で使用する加工機は、加温しながら撹拌が可能なものであれば特に問題なく使用可能であるが、例として、単軸又は二軸等の押出機、ニーダー、プラネタリーミキサー、及びライカイ機等が挙げられる。
【0068】
この中でも特に、二軸押出機、プラネタリーミキサー、及びライカイ機が好ましく使用可能であり、プラネタリーミキサー及びライカイ機が特に好ましく使用可能である。
【0069】
本発明における第二の工程では、加熱することが重要であるが、具体的な加熱温度は、減圧度により異なる、具体的には30℃以上、150℃未満が好ましい。下限温度は、好ましくは30℃であり、さらに好ましくは40℃であり、最も好ましくは50℃である。また上限温度は、より好ましくは130℃であり、さらにより好ましくは120℃であり、特に好ましくは110℃、最も好ましくは100℃である。上述の温度範囲とすることにより、セルロース凝集体中の分散媒量を所望の範囲にコントロールしやすくなる。
【0070】
また、加熱時に減圧環境とすることもプロセスとして有用である。減圧環境とすることにより、より低温での加熱が可能となりプロセスウィンドウが大きくなるという利点を得ることができる。
【0071】
本発明における第二の工程では、撹拌することも必要である。この撹拌条件は温度条件とともに、セルロース凝集体の平均粒径や粒径均一性に影響を与えうる。具体的な撹拌量は、加工機の種類によるが、10〜1000rpmの範囲内であることが好ましい。下限回転数は、より好ましくは20rpmであり、さらにより好ましくは30rpm、最も好ましくは40rpmである。また上限回転数は、より好ましくは800rpmであり、さらにより好ましくは600rpm、特に好ましくは500rpm、最も好ましくは400pmである。セルロース凝集体の平均粒径や粒径均一性をコントロールし、摺動性の高い成形体を得るためには上述の範囲内とすることが望ましい。
【0072】
本発明において、第二の工程で得られるセルロース凝集体の平均粒子径が0.1〜100μmであることが望ましい。第二の工程でセルロースと分散媒とを含む混合物を加熱しながら撹拌することで、上述の平均粒子径にコントロールすることが望ましい。上述の範囲内とすることで成形体のこすれによる音の発生を抑制することが可能となる。平均粒子径の下限は、より好ましくは0.2μmであり、さらに好ましくは0.5μm、さらにより好ましくは0.8μm、最も好ましくは1μmである。また、平均粒子径の上限は、より好ましくは80μmであり、さらに好ましくは70μmであり、更により好ましくは60μm、最も好ましくは50μmである。
【0073】
ここでいう、セルロース凝集体の平均粒子径とは、第二の工程で得られたセルロース凝集体を、レーザ回折式粒子径分布測定装置(例えばSALD−2300:島津製作所製等)にて、分散媒として水を用い測定した値である。具体的には、数平均粒子径分布の中心値をもって表す。
【0074】
≪第三の工程≫
本発明においては、第二の工程に引き続き、第二の工程で得られたセルロース凝集体と熱可塑性樹脂とを混練する第三の工程を設ける必要がある。好ましい態様においては、第三の工程の少なくとも一部を大気圧未満の減圧状態で実施する。
【0075】
(熱可塑性樹脂)
本発明において使用される熱可塑性樹脂としては、100℃〜350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100〜250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂が挙げられる。
【0076】
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
【0077】
ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
【0078】
本発明で好適に使用可能な熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい樹脂であり、特に、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0080】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)やアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるエチレンなどα−オレフィンの共重合体等が挙げられる。
【0081】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を下回らないことが望ましい。
【0082】
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。この際の酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等のポリカルボン酸から、適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0083】
酸変性されたポリプロピレンの、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定したときの好ましいメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から好ましい上限は500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に酸変性されたポリプロピレンが存在しやすくなるという利点を享受できる。
【0084】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂の例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等のジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C、及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
【0085】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましく、ポリアミド6及びポリアミド6,6は特に好ましい。
【0086】
本発明における熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETと称することもある)、ポリブチレンサクシネート(脂肪族多価カルボン酸と脂肪族ポリオールとからなるポリエステル樹脂(以下、単位PBSと称することもある)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、単にPBSAと称することもある)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(以下、単にPBATと称することもある)、ポリヒドロキシアルカン酸(3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂。以下、単にPHAと称することもある)、ポリ乳酸(以下、単にPLAと称することもある)、ポリブチレンテレフタレート(以下、単にPBTと称することもある)、ポリエチレンナフタレート(以下、単にPENと称することもある)、ポリアリレート(以下、単にPARと称することもある)、ポリカーボネート(以下、単にPCと称することもある)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0087】
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、PENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、PBTが挙げられる。
【0088】
本発明における熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)量としては0.01〜4モル%の範囲内がより好ましい。コモノマー成分量の好ましい下限量は、0.05モル%であり、より好ましくは0.1モル%であり、さらにより好ましくは0.2モル%である。また好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、さらにより好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
【0089】
押出加工や成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点から、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
【0090】
本発明において用いる熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂100質量%中、ペレット形状にある熱可塑性樹脂の比率(ペレット比率)が50質量%超であることが望ましい。ペレット比率の下限は、より好ましくは70質量%、更により好ましくは80質量%、特に好ましくは、90質量%、最も好ましくは100質量%(すなわち実質的にすべてがペレット形状である事)である。押出機内でセルロース凝集体との摩擦によりセルロース凝集体を破砕し、分散させるためには、上述の範囲内にペレット比率を高めることが望ましい。
本発明の第三の工程で好ましく使用可能な加工設備は、押出機、ニーダー等が挙げられるが、その中でも押出機が好ましく、特に二軸押出機がセルロースの分散性を制御する上で好ましい。
【0091】
また、押出機としてはシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dが、40以上のものがより好ましい。特に好ましくは50以上である。また、混練する際のスクリュー回転数は、100〜800rpmの範囲が望ましい。より好ましくは150〜600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。
【0092】
本発明の製法で得られる樹脂組成物は、樹脂組成物中にセルロース凝集体を適度に含有することが好ましい。この適度な含有が成形体のこすれ時の音の発生を抑制するのに効果的である。樹脂組成物100体積%中に存在するセルロース凝集体の量は、好ましくは0.1〜50体積%である。下限量は、より好ましくは0.5体積%であり、さらに好ましくは0.8体積%であり、更により好ましくは1体積%であり、最も好ましくは1.2体積%である。また上限量は、より好ましくは15体積%であり、更に好ましくは10体積%、更により好ましくは5体積%、更により好ましくは4体積%、特に好ましくは3.5体積%、最も好ましくは3体積%である。
【0093】
本発明における樹脂組成物中のセルロース凝集体の量は、例えば樹脂組成物からなる成形体の一部を任意に切り出し、その中央部を、高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX:リガク社製等)を用いて、CT測定を実施し、得られたデータを二値化したのち、組成物中に物体として検出された体積を、全体体積で除して、異物体積%として算出することで確認可能である。この際、検出対象の凝集体の大きさは、例えば1μm以上とする。
【0094】
また、本発明では、上記した成分のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分を添加しても構わない。これら付加的成分の添加量は、樹脂組成物合計量を100質量部としたとき15質量部を超えない範囲であることが望ましい。
【0095】
付加的成分の例としては、追加の熱可塑性樹脂、無機フィラー(タルク、カオリン、ゾノトライト、ワラストナイト、チタン酸カリウム、ガラス繊維など)、無機フィラーと樹脂との親和性を高める為の公知のシランカップリング剤、難燃剤(ハロゲン化された樹脂、シリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、有機燐酸エステル化合物、ポリ燐酸アンモニウム、赤燐など)、滴下防止効果を示すフッ素系ポリマー、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、着色用カーボンブラック等の着色剤、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0096】
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂中にセルロースを高度に分散させることが可能となるため、得られる樹脂組成物の伸張粘度を向上させ、溶融状態で延伸がかかる材料等に使用可能である。具体的には、大型のシート成形、ブロー成形、真空成形及びインフレーション成形等で成形される、種々の大型部品用途に好適に使用可能である。もちろん、通常の射出成型品においても、セルロースの高い分散性によって安定した物性が得られるため、信頼性が要求される自動車外装材、シャーシ等の構造部材、内装部材、ギア等の駆動部材等に好適に使用可能である。
【実施例】
【0097】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0098】
[原料及び評価方法]
以下に、使用した原料及び評価方法について説明する。
【0099】
≪熱可塑性樹脂≫
ポリアミド
ポリアミド6(以下、単にPAと称す。)
宇部興産株式会社より入手可能な「UBEナイロン 1013B」
【0100】
≪評価方法≫
<セルロースの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
【0101】
<セルロース成分の結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
【0102】
<セルロースのL/D>
セルロースを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものの粒子像を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。粒子像の長径(L)及び短径(D)を計測し、更にこれらの値から比(L/D)を求め、100個〜150個の粒子の平均値として算出した。
【0103】
<セルロースの平均径>
セルロースを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM−03−R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均径とした。
【0104】
<セルロース凝集体中の分散媒含有率>
120℃に設定した真空乾燥機にてセルロース凝集体を5時間乾燥し、その乾燥前後の重量変化より、分散媒含有率を算出した。
【0105】
<セルロース凝集体の粒子径>
第二の工程で得られたセルロース凝集体を、水中にセルロース濃度が0.5質量%以下となるよう希釈し、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD−2300:島津製作所製)を用い、屈折率1.20で測定した。
【0106】
<樹脂組成物(成形体として)中のセルロース凝集体含有率>
樹脂組成物ペレットを、ISOの多目的試験片の形状に射出成形した後、該成形片の中央部を、高分解能3DX線顕微鏡(nano3DX:リガク社製)を用いて、X線管電圧40kV、管電流30mA条件、成形片中央部の600立方μmを対象に、CT測定を実施した。投影数は1000枚とし、露光時間は1枚当たり24秒とした。得られたデータはOtsu法にて二値化し、組成物中に物体として検出された体積を、全体体積で除して、成形体中のセルロース凝集体含有率として算出した。この場合、仮にセルロースを10体積%配合して、その半分が1μm以上の凝集体として組成物内に存在していた場合、5体積%がセルロース凝集体含有率となる。
【0107】
<ボールオンディスク摩擦係数>
ISOの多目的試験片の形状に射出成形した成形片のつかみ部分をディスク部として用いて、対SUSのボールオンディスク摩擦係数摺動性を評価した。具体的方法としては、ボールオンディスク型往復動摩擦摩耗試験機(AFT−15MS型、東洋精密(株)製)を用いて、23℃、湿度50%の環境下で、荷重9.8N、線速度30mm/sec、往復距離20mmで、往復回数5000回摺動試験を実施した。この時の初期の10回目摺動から100回目摺動までの初期の動摩擦係数と、4500回目摺動から5000回目摺動までの後期の動摩擦係数を求めた。ボール材としては、先端が直径5mmのSUS球を用いた。
【0108】
<成形体のこすれ音>
ボールオンディスク摩擦試験時に生じるこすれ音の発生状況を以下の評価基準で評価した。
++:最後(5000回摺動)まで、こすれ音がほぼしない
+ :初期(概ね100回摺動未満程度)は、こすれ音はするが、後にしなくなる。
− :常にこすれ音がして、摩耗が見られる。
−−:常にこすれ音がし、摩耗が激しく、摩耗粉が大量に発生
【0109】
≪押出機の構成≫
シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)のシリンダー1を水冷、シリンダー2を80℃、シリンダー3を150℃、シリンダー4〜ダイスを250℃に設定した。
【0110】
スクリュー構成としては、シリンダー1〜3を搬送スクリューのみで構成される搬送ゾーンとし、シリンダー4に上流側より2個の時計回りニーディングディスク(送りタイプニーディングディスク:以下、単にRKDと呼ぶことがある。)、2個のニュートラルニーディングディスク(無搬送タイプニーディングディスク:以下、単にNKDと呼ぶことがある。)を順に配した。シリンダー5は搬送ゾーンとし、シリンダー6に1個のRKD及び引き続いての2個のNKDを配し、シリンダー7及び8は搬送ゾーンとし、シリンダー9に2個のNKDを配した。続くシリンダー10は搬送ゾーンとし、シリンダー11に2個のNKD、引き続いての1個の反時計回りスクリューを配し、シリンダー12及び13は搬送ゾーンとした。なお、シリンダー12にはシリンダー上部にベントポートを設置し減圧吸引できるようにし、真空吸引を実施した。
【0111】
[実施例1]
≪工程1≫セルロースファイバー含有混合物の調製
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾し、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに1.5時間叩解を実施し、セルロースファイバーを得た。得られたセルロースファイバーの特性を上述の方法で評価した。結果を下記に示す。
L/D=300
平均繊維径=90nm
結晶化度=80%
重合度=600
得られたセルロースファイバー分散液を遠心濾過して、固形分(セルロース)率が5重量%の混合物を得た。
【0112】
≪工程2≫セルロース含有混合物を加熱しながら撹拌し、分散媒を除去しセルロース凝集体を得る工程
工程1のセルロース含有混合物を、密閉式プラネタリーミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT」、撹拌羽根はフック型)中、70rpmで80分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、−0.1MPaの減圧条件で、60℃の温浴をセットし、307rpmで5時間、減圧乾燥処理を行い、セルロース凝集体を得た。この時のセルロース凝集体の含有水分量とセルロース凝集体の粒子径を上述の方法に従い、測定した。
【0113】
≪工程3≫セルロース凝集体と熱可塑性樹脂とを混練する工程
PAと、セルロース凝集体を表1記載の割合となるよう混合し、溶融混練しストランド状に押出し、水冷・切断しペレットとして得た。
【0114】
[実施例2]
工程1を以下の通り変更した以外は、すべて実施例1と同様に実施した。
≪工程1≫セルロースウィスカー含有混合物の調製
市販DPパルプ(平均重合度1600)を裁断し、10%塩酸水溶液中で、105℃で30分間加水分解した。得られた酸不溶解残さを濾過、洗浄、pH調整し、固形分濃度14重量%、pH6.5のセルロースウィスカー含有混合物を調製した。得られたセルロースウィスカーの特性を上述の方法で評価した。結果を下記に示す。
L/D=1.6
平均径=200nm
結晶化度=78%
重合度=200
【0115】
[実施例3]
工程1を以下の通り変更した以外は、すべて実施例1と同様に実施した。
≪工程1≫セルロース含有混合物の調製
実施例1の工程1で得られたセルロースファイバー含有混合物と、実施例2の工程1で得られたセルロースウィスカー含有混合物とを、混合物中のセルロースファイバーとセルロースウィスカーの比率が2:8となるよう攪拌機で混合して、セルロースファイバーとセルロースウィスカーとを含有するセルロース含有混合物を調製した。
【0116】
[実施例4]
工程1を以下の通り変更した以外は、すべて実施例1と同様に実施した。
≪工程1≫セルロースウィスカー界面活性剤含有混合物の調製
実施例2の工程1で得られたセルロースウィスカー含有混合物中のセルロースウィスカー100質量部に対し、水以外の分散媒として界面活性剤として、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル(青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW−20)を、25質量部添加し、撹拌して、セルロースウィスカー界面活性剤含有混合物を調製した。セルロースウィスカーの特性は実施例2と同じである。
【0117】
[実施例5]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理の乾燥時間を3時間にした以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0118】
[実施例6]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理の温度条件を75℃とした以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0119】
[実施例7]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理でのプラネタリーミキサーの回転数を170rpmとした以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0120】
[実施例8]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理でのプラネタリーミキサーの回転数を70rpmとした以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0121】
[比較例1]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理の時間を1時間に変更した以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0122】
[比較例2]
工程2における条件の内、減圧乾燥処理の温度条件を95℃とした以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0123】
[比較例3]
工程2で得られたセルロース凝集体を、23℃、湿度70%RH環境下に、96時間保管した以外は、すべて実施例3と同様に実施した。
【0124】
【表1】
【0125】
第二の工程で、撹拌・乾燥条件を種々選択し、セルロース凝集体の分散媒含有率を最適化したことにより、成形体中で最適な径のセルロース凝集体となっている実施例1〜8は、優れた摺動特性を示していることが判る。それに対し、撹拌・乾燥条件が不適で、分散媒含有率が適正な値とならなかった比較例は、結果的に成形体中でのセルロースの分散粒子径や、凝集体含有率が不適となり、摺動性が大きく劣る結果となっている。