特許第6979950号(P6979950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6979950部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979950
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20211202BHJP
   C07K 16/32 20060101ALI20211202BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20211202BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20211202BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20211202BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20211202BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20211202BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20211202BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   C12N15/13ZNA
   C07K16/32
   A61K47/68
   A61K39/395 L
   A61K39/395 T
   A61P35/00
   A61P15/00
   A61P11/00
   A61P1/04
   A61P1/00
   A61P1/18
   A61P13/02
   A61P25/00
   !C12N15/63 Z
   !C12N1/15
   !C12N1/19
   !C12N1/21
   !C12N5/10
【請求項の数】9
【全頁数】135
(21)【出願番号】特願2018-527739(P2018-527739)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公表番号】特表2018-537975(P2018-537975A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】IB2016057017
(87)【国際公開番号】WO2017093844
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】62/260,854
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/289,744
(32)【優先日】2016年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/289,727
(32)【優先日】2016年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/409,105
(32)【優先日】2016年10月17日
(33)【優先権主張国】US
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-122673
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-122672
(73)【特許権者】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100137040
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【弁理士】
【氏名又は名称】龍田 美幸
(72)【発明者】
【氏名】ダングシェ マ
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロガンゾ ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】キンバリー アン マルケット
(72)【発明者】
【氏名】エドムンド イドリス グラシアーニ
(72)【発明者】
【氏名】プヤ サプラ
(72)【発明者】
【氏名】パーヴェル ストロップ
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/124316(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:Ab−(L−D)の抗体薬物コンジュゲートであって、 (a)Abが、HER2に結合し、配列番号18のアミノ酸配列を含む重鎖と配列番号42のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む抗体であり; (b)L−Dがリンカー−薬物部分であり、Lがマレイミドカプロイル−バリン−シトルリン−p−アミノベンジルオキシカルボニル(vc)のリンカーであり、Dが、2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミドまたはその薬学的に許容できる塩もしくは溶媒和物である、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項2】
請求項に記載の抗体薬物コンジュゲートと薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物。
【請求項3】
請求項に記載の複数の抗体薬物コンジュゲートと、任意選択により薬学的担体とを含む組成物であって、4のDARを有する組成物。
【請求項4】
HER2発現がんを処置するための、請求項2に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記がんが固形腫瘍である、請求項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記固形腫瘍が、乳がん、卵巣がん、肺がん、胃がん、食道がん、結腸直腸がん、尿路上皮がん、膵がん、唾液腺がんおよび脳腫瘍からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
式:Ab−(L−D)の抗体薬物コンジュゲートであって、 (a)Abが、HER2に結合し、ATCC受託番号PTA−122673で寄託された微生物株により産生される重鎖ポリペプチドとATCC受託番号PTA−122672で寄託された微生物株により産生される軽鎖ポリペプチドとを含む抗体であり; (b)L−Dがリンカー−薬物部分であり、Lがマレイミドカプロイル−バリン−シトルリン−p−アミノベンジルオキシカルボニル(vc)であり、Dが、2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミドまたはその薬学的に許容できる塩もしくは溶媒和物である、抗体薬物コンジュゲート。
【請求項8】
請求項に記載の抗体薬物コンジュゲートと薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項に記載の複数の抗体薬物コンジュゲートと、任意選択により薬学的担体とを含む組成物であって、4のDARを有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲートに関する。本発明はさらに、がんの処置のためにかかる抗体薬物コンジュゲートを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ErbBファミリーの膜貫通受容体チロシンキナーゼのメンバーは、細胞成長、細胞分化、細胞遊走およびアポトーシスの重要なメディエーターである。この受容体ファミリーは、上皮増殖因子受容体(EGFRまたはErbB1)、HER2(ErbB2またはp185)、HER3(ErbB3)およびHER4(ErbB4またはtyro2)を含む、4つの別個のメンバーを含む。
【0003】
HER2は、化学的に処理されたラットの神経芽細胞腫由来のトランスフォーミング遺伝子の産物として元々同定された。HER2の過剰発現は、in vitro(Di Fioreら、1987、Science 237(4811):178〜82;Hudziakら、1987、PNAS 84(20):7159〜63;Chazinら、1992、Oncogene 7(9):1859〜66)および動物モデル(Guyら、1992、PNAS 89(22):10578〜82)の両方において、腫瘍原性として立証されている。HER2をコードする遺伝子の増幅と、引き続く受容体の過剰発現とは、乳がんおよび卵巣がんにおいて生じ、予後不良と相関する(Slamonら、1987、Science 235(4785):177〜82;Slamonら、1989、Science 244:707〜12;Anbazhaganら、1991、Annals Oncology 2(1):47〜53;Andrulisら、1998、J Clinical Oncology 16(4):1340〜9)。HER2の過剰発現(遺伝子増幅に起因する頻度が高いが、必ずしも遺伝子増幅に起因しない)は、胃、子宮内膜、非小細胞肺がん、結腸、膵、膀胱、腎臓、前立腺および子宮頚部を含む他の腫瘍型においても観察されてきた(Schollら、2001、Annals Oncology 12(Suppl.1):S81〜7;Menardら、2001、Ann Oncol 12(Suppl 1):S15〜9;Martinら、2014、Future Oncology 10:1469〜86)。
【0004】
Herceptin(登録商標)(トラスツズマブ)は、HER2の細胞外ドメインに結合するヒト化モノクローナル抗体である(Carterら 1992、PNAS 89:4285〜9および米国特許第5,821,337号)。Herceptin(登録商標)は、その腫瘍がHER2タンパク質を過剰発現する転移性乳がんを有する患者の処置のために、1998年9月25日に食品医薬品局(the Food and Drug Administration)から販売承認を受けた。Herceptin(登録商標)は、広範な以前の抗がん治療を受けた、HER2過剰発現乳がんを有する患者を処置することにおけるブレークスルーであるが、この集団中の患者の一部は、Herceptin(登録商標)処置に応答できない、かかる処置に対して不良に応答するにすぎない、またはかかる処置に対して抵抗性になる。
【0005】
Kadcyla(登録商標)(トラスツズマブ−DM1またはT−DM1)は、安定なチオエーテルリンカーMCC(4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート)を介してマイタンシノイド剤DM1にコンジュゲートされたトラスツズマブからなる抗体薬物コンジュゲートである(Lewisら、2008、Cancer Res.68:9280〜90;Kropら、2010、J Clin Oncol.28:2698〜2704;米国特許第8,337,856号)。Kadcyla(登録商標)は、Herceptin(登録商標)およびタキサン薬物によって以前に処置されており、Herceptin(登録商標)不応性になった患者におけるHER2陽性転移性乳がんの処置のために、2013年2月22日に食品医薬品局から販売承認を受けた。Herceptin(登録商標)で見られたのと同様に、HER2過剰発現乳がん集団中の患者の一部は、Kadcyla(登録商標)による首尾よい長期治療を経験していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、Herceptin(登録商標)および/またはKadcyla(登録商標)処置に応答しない、かかる処置に対して不良に応答する、またはかかる処置に対して抵抗性になる、HER2過剰発現腫瘍またはHER2過剰発現と関連する他の疾患を有する患者のためのさらなるHER2指向性のがん治療を開発する、重大な臨床的必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲート(ADC)、およびHER2発現がんの処置におけるそれらの使用を提供する。ADCは、がん細胞への治療薬の標的化送達を可能にし、既知のオフターゲット毒性を低減させながらより選択的な治療の可能性を提供する。
【0008】
本発明の部位特異的HER2 ADCは一般に、式:Ab−(L−D)のものであり、Abは、HER2に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり;L−Dはリンカー−薬物部分であり、Lはリンカーであり、Dは薬物である。
【0009】
本発明のADCの抗体(Ab)は、任意のHER2結合性抗体であり得る。本発明の一部の態様では、Abは、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))と同じ、HER2上のエピトープに結合する。本発明の他の態様では、Abは、トラスツズマブと同じ重鎖および軽鎖CDRを有する。本発明の具体的な態様では、Abは、トラスツズマブと同じ重鎖可変領域(V)および同じ軽鎖可変領域(V)を有する。
【0010】
本発明のHER2 ADCは、部位特異的様式で薬物にコンジュゲートされる。この型のコンジュゲーションを提供するために、抗体は、1つもしくは複数の特異的部位において操作された反応性システイン残基、またはアシルドナーグルタミン残基(1つもしくは複数の特異的部位において操作された、または結合したペプチドタグ中のいずれか)のいずれかを提供するために誘導体化しなければならない。かかる改変は、抗体の抗原結合能を破壊しない部位においてであるべきである。好ましい実施形態では、1つまたは複数の改変が、抗体の重鎖および/または軽鎖の定常領域においてなされる。
【0011】
本発明の一部の実施形態では、部位特異的HER2 ADCは、トラスツズマブの重鎖可変領域CDRおよび軽鎖可変領域CDR(配列番号2〜4のV CDRおよび配列番号8〜10のV CDR)、ならびに表1に開示される重鎖および軽鎖定常領域の任意の組み合わせを含む抗体を使用でき、ただし、重鎖定常領域が配列番号5である場合、軽鎖定常領域は配列番号11ではないことを条件とする。かかる実施形態では、重鎖定常領域は、配列番号17、5、13、21、23、25、27、29、31、33、35、37または39のいずれかから選択され得、一方で軽鎖定常領域は、配列番号41、11または43のいずれかから選択され得、ただし、この組み合わせは、配列番号5および配列番号11ではない。
【0012】
具体的な実施形態では、部位特異的HER2 ADCを作製するために使用される抗体は、配列番号17の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域に結合した、配列番号2〜4のCDRを有するVドメインおよび配列番号8〜10のCDRを有するVドメインを含む。別の具体的な実施形態では、部位特異的HER2 ADCを作製するために使用される抗体は、配列番号13の重鎖定常領域および配列番号43の軽鎖定常領域に結合した、配列番号2〜4のCDRを有するVドメインおよび配列番号8〜10のCDRを有するVドメインを含む。
【0013】
他の実施形態では、本発明のADCは、表1に開示された重鎖および軽鎖の任意の組み合わせを含む抗体を使用でき、ただし、重鎖が配列番号6である場合、軽鎖は配列番号12ではないことを条件とする。かかる実施形態では、重鎖は、配列番号18、6、14、22、24、26、28、30、32、34、36、38または40のいずれかから選択され得、一方で軽鎖は、配列番号42、12または44のいずれかから選択され得、ただし、この組み合わせは、配列番号6および配列番号12ではない。
【0014】
具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号18の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体を使用できる。別の具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号14の重鎖と配列番号44の軽鎖とを含む抗体を使用できる。
【0015】
本明細書に開示される部位特異的HER2 ADCのいずれかは、がんを処置するのに有用な治療剤である薬物(D)を用いて調製され得る。具体的な実施形態では、治療剤は抗有糸分裂剤である。別の具体的な実施形態では、本発明のADC中の抗有糸分裂剤の薬物構成要素は、オーリスタチン(例えば、0101、8261、6121、8254、6780および0131)である。より具体的な実施形態では、本発明のADC中のオーリスタチン薬物構成要素は、2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(0101としても公知)である。好ましくは、本発明のADCの薬物構成要素は、膜透過性である。
【0016】
本明細書に開示される部位特異的HER2 ADCのいずれかは、切断可能または切断不能であるリンカー(L)を用いて調製され得る。好ましくは、リンカーは切断可能である。切断可能リンカーには、vc、AcLysvcおよびm(H20)c−vcが含まれるがこれらに限定されない。より好ましくは、リンカーは、vcまたはAcLysvcである。
【0017】
本発明の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号18の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0018】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号14の重鎖と配列番号44の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはAcLysvcであり、薬物は0101である。
【0019】
本発明の別の態様は、本明細書に開示される抗体薬物コンジュゲート、ならびに本明細書に開示される抗体薬物コンジュゲートの調製、合成およびコンジュゲーションのための中間体を作製する方法、それらを調製する方法、それらの合成の方法、それらのコンジュゲーションの方法ならびにそれらの精製の方法を含む。
【0020】
本明細書に開示される部位特異的HER2 ADCと薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物がさらに提供される。
【0021】
部位特異的HER2 ADCの抗体部分をコードする核酸が、本発明によって企図される。この核酸を含むさらなるベクターおよび宿主細胞もまた、本発明によって企図される。
【0022】
本発明は、HER2発現がんの処置における部位特異的HER2 ADCの使用の方法もまた提供する。本発明の部位特異的HER2 ADCで処置されるHER2発現がんは、高い、中程度のまたは低いレベルでHER2を発現し得る。一部の実施形態では、処置されるがんは、単独またはタキサンと組み合わせた、トラスツズマブおよび/またはトラスツズマブエムタンシン(T−DM1)のいずれかによる処置に対して抵抗性である、かかる処置に対して不応性であるおよび/またはかかる処置から再発したものである。処置されるがんには、乳がん、卵巣がん、肺がん、胃がん、食道がん、結腸直腸がん、尿路上皮がん、膵がん、唾液腺がんおよび脳腫瘍、または上述のがんの転移が含まれるがこれらに限定されない。より具体的な実施形態では、乳がんは、エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陰性乳がんまたは三重陰性乳がん(TNBC)である。別の実施形態では、肺がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0023】
本発明のこれらおよび他の態様は、本出願を全体として検討することによって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(A)T(kK183C+K290C)−vc0101 ADCおよび(B)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101 ADCを描写する図である。それぞれの黒丸は、モノクローナル抗体にコンジュゲートされたリンカー/ペイロードを表す。1つのそのようなリンカー/ペイロードの構造をそれぞれのADCに関して示す。下線部は、それを通してコンジュゲーションが起こる抗体上のアミノ酸残基によってもたらされる。
図2-1】、
図2-2】、
図2-3】異なるリンカーペイロードに対するトラスツズマブ誘導抗体のコンジュゲーション時の保持時間の変化を示す、選択されたADCの疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)のスペクトルを示す図である。
図3】HER2に対するADC結合のグラフを示す図である。(A)HER2陽性BT474細胞に対する直接結合、および(B)BT474細胞に対するPE標識トラスツズマブとの競合的結合。これらの結果は、これらのADCにおける抗体の結合特性がコンジュゲーションプロセスによって変化しなかったことを示している。
図4】トラスツズマブ誘導ADCのADCC活性を示す図である。
図5-1】、
図5-2】異なるレベルのHER2発現を有する多数の細胞株に対する、多数のトラスツズマブ誘導ADCのnMペイロード濃度で報告するin vitro細胞傷害性データ(IC50)を示す図である。
図6-1】、
図6-2】異なるレベルのHER2発現を有する多数の細胞株に対する、多数のトラスツズマブ誘導ADCのng/mL抗体濃度で報告するin vitro細胞傷害性データ(IC50)を示す図である。
図7-1】〜
図7-5】腫瘍体積を経時的にプロットした、N87異種移植片に対する9個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図7-1】(A)T(kK183C+K290C)−vc0101;(B)T(kK183C)−vc0101;
図7-2】(C)T(K290C)−vc0101;(D)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;
図7-3】(E)T(K290C+K334C)−vc0101;(F)T(K334C+K392C)−vc0101;
図7-4】(G)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;(H)T−vc0101;
図7-5】(I)T−DM1。N87胃がん細胞は、高レベルのHER2を発現する。
図8-1】〜
図8-3】腫瘍体積を経時的にプロットした、HCC1954異種移植片に対する6個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図8-1】(A)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;(B)T(K290C+K334C)−vc0101;
図8-2】(C)T(K334C+K392C)−vc0101;(D)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;
図8-3】(E)T−DM1。HCC1954乳がん細胞は、高レベルのHER2を発現する。
図9-1】〜
図9-4】腫瘍体積を経時的にプロットした、JIMT−1異種移植片に対する7個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図9-1】(A)T(kK183C+K290C)−vc0101;(B)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;
図9-2】(C)T(K290C+K334C)−vc0101;(D)T(K334C+K392C)−vc0101;
図9-3】(E)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;(F)T−vc0101;
図9-4】(G)T−DM1。JIMT−1乳がん細胞は、中等度/低レベルのHER2を発現する。
図10-1】、
図10-2】腫瘍体積を経時的にプロットした、MDA−MB−361(DYT2)異種移植片に対する5個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図10-1】(A)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;(B)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;
図10-2】(C)T−vc0101;(D)T−DM1。MDA−MB−361(DYT2)乳がん細胞は、中等度/低レベルのHER2を発現する。
図11-1】〜
図11-3】腫瘍体積を経時的にプロットした、PDX−144580患者由来異種移植片に対する5個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図11-1】(A)T(kK183C+K290C)−vc0101;(B)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;
図11-2】(C)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;(D)T−vc0101;
図11-3】(E)T−DM1。PDX−144580患者由来細胞はTNBC PDXモデルである。
図12-1】、
図12-2】腫瘍体積を経時的にプロットした、PDX−37622患者由来異種移植片に対する4個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図12-1】(A)T(kK183C+K290C)−vc0101;(B)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101;
図12-2】(C)T(K297C+K334C)−vc0101;(D)T−DM1。PDX−37622患者由来細胞は、中等度のレベルのHER2を発現するNSCLCPDXモデルである。
図13】(A)T−DM1または(B)T−vc0101のいずれかによって処置し、ホスホヒストンH3およびIgG抗体に関して染色したN87腫瘍異種移植片の免疫組織化学を示す図である。T−vc0101に関してバイスタンダー効果が観察される。
図14-1】〜
図14-3】In vitroでT−DM1に対して抵抗性にした細胞(N87−TM1およびN87−TM2)またはT−DM1に対して感受性の親細胞(N87細胞)に対する、多数のトラスツズマブ誘導ADCおよび遊離のペイロードをnMペイロード濃度およびng/mL抗体濃度で報告するin vitro細胞傷害性データ(IC50)を示す図である。N87胃がん細胞は、高レベルのHER2を発現する。
図15-1】、
図15-2】T−DM1感受性(N87細胞)および抵抗性(N87−TM1およびN87−TM2)胃がん細胞に対する7個のトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。
図15-1】(A)T−DM1;(B)T−mc8261;(C)T(297Q+K222R)−AcLysvc0101;(D)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;
図15-2】(E)T(K290C+K334C)−vc0101;(F)T(K334C+K392C)−vc0101;(G)T(kK183C+K290C)−vc0101。
図16】T−DM1感受性(N87細胞)および抵抗性(N87−TM1およびN87−TM2)胃がん細胞に対する(A)MRP1薬物排出ポンプおよび(B)MDR1薬物排出ポンプのタンパク質発現を示すウェスタンブロットを示す図である。
図17】T−DM1感受性(N87細胞)および抵抗性(N87−TM1およびN87−TM2)胃がん細胞のHER2発現およびトラスツズマブに対する結合を示す図である。(A)HER2タンパク質発現を示すウェスタンブロットおよび(B)細胞表面HER2に対するトラスツズマブの結合。
図18-1】、
図18-2】T−DM1感受性(N87細胞)および抵抗性(N87−TM1およびN87−TM2)胃がん細胞におけるタンパク質発現レベルの特徴を示す図である。
図18-1】(A)523個のタンパク質におけるタンパク質発現レベルの変化;(B)IGF2R、LAMP1、およびCTSBのタンパク質発現を示すウェスタンブロット;
図18-2】(C)CAV1のタンパク質発現を示すウェスタンブロット;(D)N87細胞(左のパネル)およびN87−TM2細胞(右のパネル)の移植によりin vivoで生成された腫瘍におけるCAV1タンパク質発現のIHC。
図19-1】(A)T−DM1感受性N87親細胞;
図19-2】(B)T−DM1抵抗性N87−TM1細胞;
図19-3】、
図19-4】(C)T−DM1抵抗性N87−TM2細胞の移植後in vivoで生成された腫瘍のトラスツズマブおよび様々なトラスツズマブ誘導ADCに対する感受性を示す図である。
図20-1】〜
図20-3】T−DM1感受性N87親細胞およびT−DM1抵抗性N87−TM2またはN87−TM1細胞の移植によりin vivoで生成された腫瘍のトラスツズマブおよび様々なトラスツズマブ誘導ADCに対する感受性を示す図である。
図20-1】(A)N87腫瘍サイズを、トラスツズマブまたは2つのトラスツズマブ誘導ADCの存在下で経時的にプロットした;(B)N87−TM2腫瘍サイズを、トラスツズマブまたは2つのトラスツズマブ誘導ADCの存在下で経時的にプロットした;
図20-2】(C)トラスツズマブまたは2つのトラスツズマブ誘導ADCの存在下でのN87細胞の腫瘍サイズ倍加時間;(D)トラスツズマブまたは2つのトラスツズマブ誘導ADCの存在下でのN87−TM2細胞の腫瘍サイズ倍加時間;
図20-3】(E)N87−TM2腫瘍サイズを、7個の異なるトラスツズマブ誘導ADCの存在下で経時的にプロットした;(F)トラスツズマブ誘導ADCを14日目に添加して、N87−TM1腫瘍サイズを経時的にプロットした。
図21-1】〜
図21-3】in vivo生成T−DM1抵抗性細胞の生成および特徴付けを示す図である。
図21-1】(A)N87胃がん細胞は、in vivoで移植した当初はT−DM1に対して感受性であった。(B)時間と共に、移植したN87細胞は、T−DM1に対して抵抗性となったが、
図21-2】(C)T−vc0101、(D)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101、および
図21-3】(E)T(kK183+K290C)−vc0101に対しては感受性のままであった。
図22-1】、
図22-2】腫瘍体積を経時的にプロットした、T−DM1感受性親N87細胞と比較したin vivo生成T−DM1抵抗性細胞(N87−TDM)に対する4個のトラスツズマブ誘導ADCのin vitro細胞傷害性を示す図である。
図22-1】(A)T−DM1;(B)T(kK183+K290C)−vc0101;
図22-2】(C)T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101;(D)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101。
図23】T−DM1感受性親N87細胞と比較したin vivo生成T−DM1抵抗性細胞(マウス2、17、および18からのN87−TDM1)のHER2タンパク質発現レベルを示す図である。(A)FACS分析および(B)ウェスタンブロット分析。HER2タンパク質発現の有意差は観察されなかった。
図24-1】、
図24-2】N87−TDM1におけるT−DM1抵抗性(マウス2、7および17)が薬物排出ポンプによるものではないことを示す図である。
図24-1】(A)MDR1タンパク質発現を示すウェスタンブロット。遊離の薬物(B)0101、
図24-2】(C)ドキソルビシン、(D)T−DM1の存在下でのT−DM1抵抗性細胞(N87−TDM1)およびT−DM1感受性N87親細胞のin vitro細胞傷害性。
図25】(A)カニクイザルに用量を投与後の総AbおよびトラスツズマブADC(T−vc0101)またはT(kK183C+K290C)部位特異的ADCの、ならびに(B)カニクイザルに用量を投与後のトラスツズマブのADC検体(T−vc0101)または様々な部位特異的ADCの、濃度対時間プロファイルおよび薬物動態/毒性動態を示す図である。
図26】疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)による相対的保持の値とラットにおける曝露(AUC)との比較を示す図である。X軸は、HICによる相対的保持時間を表し、Y軸は、ラットにおける薬物動態の用量標準化曝露(0〜336時間までの抗体の「曲線下面積」、AUCを10mg/kgの薬物用量で除算したもの)を表す。記号はおおよその薬物担持(DAR)を指し:菱形=DAR2;丸=DAR4である。矢印は、T(kK183C+K290C)−vc0101を示す。
図27】T−vc0101の従来のコンジュゲートADCおよびT(kK183C+K290C)−vc0101部位特異的ADCを使用した毒性試験を示す図である。T−vc0101は、5mg/kgで重度の好中球減少症を惹起したが、T(kK183C+K290C)−vc0101は、9mg/kgで好中球数の軽微な減少を引き起こした。
図28-1】(A)T(K290C+K334C)−vc0101;
図28-2】(B)T(K290C+K392C)−vc0101;および
図28-3】(C)T(K334C+K392C)−vc0101の結晶構造を示す図である。
図29】N87細胞株を使用した異種移植片モデルにおけるin vivo有効性を示す図である。試験した全てのADCが3mpkで有効性を示した。
図30】腫瘍体積を経時的にプロットした、PDX−GA0044患者由来異種移植片に対するトラスツズマブおよび2つのトラスツズマブ誘導ADCの抗腫瘍活性を示す図である。動物をビヒクル(中抜きの菱形)、トラスツズマブ(中抜きの三角)、T−DM1(中抜きの丸)、またはT(kK183C+K290C)−vc0101(黒丸および黒四角)によって処置した。PDX−GA0044患者由来細胞は、中等度のレベルのHER2を発現する胃PDXモデルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲート(ADC)、HER2抗体、リンカーおよび薬物ペイロードを使用してコンジュゲートを調製するためのプロセス、ならびにADCを作製する際に使用される抗体をコードする核酸を提供する。本発明のADCは、HER2発現がんの処置において使用され得る医薬などの組成物の調製および製造に有用である。
【0026】
ADCは、リンカーの使用を介して薬物ペイロードにコンジュゲートされた抗体構成要素からなる。ADCのための従来のコンジュゲーション戦略は、抗体の重鎖および/または軽鎖上に内因性に存在するリジンまたはシステインを介して、薬物ペイロードを抗体にランダムにコンジュゲートすることに依存する。従って、かかるADCは、異なる薬物:抗体比(DAR)を示す分子種の不均質な混合物である。対照的に、本明細書に開示されるADCは、抗体の重鎖および/または軽鎖上の特定の操作された残基において薬物ペイロードを抗体にコンジュゲートする部位特異的ADCである。このように、部位特異的ADCは、規定された薬物:抗体比(DAR)を有する分子種から構成されるADCの均一な集団である。従って、部位特異的ADCは、コンジュゲートの改善された薬物動態、体内分布および安全性プロファイルを生じる、一様な化学量論を示す。本発明のADCは、1つまたは複数のリンカー/ペイロード部分にコンジュゲートされた本発明の抗体を含む。
【0027】
本発明は、式Ab−(L−D)の抗体薬物コンジュゲートを提供し、(a)Abは、HER2に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり、(b)L−Dはリンカー−薬物部分であり、Lはリンカーであり、Dは薬物である。
【0028】
式Ab−(L−D)の抗体薬物コンジュゲートもまた本発明によって包含され、(a)Abは、HER2に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり、(b)L−Dはリンカー−薬物部分であり、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、(c)pは、抗体に結合されるリンカー/薬物部分の数である。部位特異的ADCについて、pは、ADCの均一な性質に起因する整数である。一部の実施形態では、pは4である。他の実施形態では、pは3である。他の実施形態では、pは2である。他の実施形態では、pは1である。他の実施形態では、pは4よりも大きい。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「HER2」とは、EGFRファミリーに属する膜貫通チロシンキナーゼ受容体を指す。HER2は、ErbB2、p185およびCD340としても公知である。このファミリーの受容体は、PI3K−AKT−mTOR経路などの増殖因子シグナル伝達経路を刺激することによって機能する4つのメンバー(EGFR/HER1、HER2、HER3およびHER4)を含む。HER2の増幅および/または過剰発現は、複数のヒト悪性腫瘍と関連する。野生型ヒトHER2タンパク質は、例えば、Sembaら、1985、PNAS 82:6497〜6501およびYamamotoら、1986、Nature 319:230〜4およびGenbankアクセッション番号X03363に記載されている。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「抗体(Ab)」とは、免疫グロブリン分子の可変領域中に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、ポリペプチドなどの特異的標的または抗原を認識しそれに結合することが可能な免疫グロブリン分子を指す。この用語は、モノクローナル抗体、所与の抗原に特異的に結合する能力を保持するインタクトな抗体の抗原結合性断片(即ち、Fab、Fab’、F(ab’)、Fd、Fv、Fcなど)およびそれらの変異体が含まれるがこれらに限定されない、任意の型の抗体を包含し得る。
【0031】
ネイティブのまたは天然に存在する抗体、およびネイティブの免疫グロブリンは、典型的には、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有結合的ジスルフィド結合によって重鎖に連結されるが、ジスルフィド連結の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変動する。各重鎖および軽鎖は、一定の間隔をあけた鎖内ジスルフィド架橋もまた有する。各重鎖は、一方の末端に可変ドメイン(V)を有し、その後にいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一方の末端に可変ドメイン(V)を有し、その他方の末端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインとアラインされ、軽鎖可変ドメインは、重鎖の可変ドメインとアラインされる。用語「可変」とは、可変ドメインのある特定の部分が、抗体間で配列が広範に異なるという事実を指す。
【0032】
本発明で使用される抗体は、HER2に特異的に結合する。具体的な実施形態では、HER2抗体は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))と同じ、HER2上のエピトープに結合する。より具体的な実施形態では、HER2抗体は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))と同じ可変領域CDRを有する。さらにより具体的な実施形態では、HER2抗体は、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標))と同じ可変領域(即ち、VおよびV)を有する。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「リンカー(L)」は、薬物ペイロードへの抗体の直接的または間接的な連結を記述する。抗体へのリンカーの結合は、表面リジン、酸化型炭水化物への還元的カップリング、鎖間ジスルフィド連結を還元することによって遊離したシステイン残基、特異的部位において操作された反応性システイン残基、ならびにトランスグルタミナーゼおよびアミンの存在下でのポリペプチド操作によって反応性にされたアシルドナーグルタミン含有タグまたは内因性グルタミンを介するものなどの、種々の方法で達成され得る。本発明は、抗体を薬物ペイロードに連結するために、部位特異的方法を使用する。一実施形態では、コンジュゲーションは、抗体定常領域中に操作されたシステイン残基を介して生じる。別の実施形態では、コンジュゲーションは、a)ペプチドタグを介して抗体定常領域に付加された、b)抗体定常領域中に操作された、またはc)周囲の残基を操作することによってアクセス可能/反応性にされた、アシルドナーグルタミン残基を介して生じる。リンカーは、切断可能(即ち、細胞内条件下での切断に対して感受性)または切断不能であり得る。一部の実施形態では、リンカーは、切断可能リンカーである。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「薬物(D)」とは、がんを処置する際に有用な任意の治療剤を指す。薬物は、細胞傷害剤、化学療法剤、細胞分裂停止剤および免疫調節剤など、生物学的または検出可能な活性を有する。好ましい実施形態では、治療剤は、腫瘍細胞の枯渇、排除および/または死滅を含む、腫瘍に対する細胞傷害効果を有する。用語、薬物、ペイロードおよび薬物ペイロードは、相互交換可能に使用される。具体的な実施形態では、薬物は抗有糸分裂剤である。より具体的な実施形態では、薬物はオーリスタチンである。さらにより具体的な実施形態では、薬物は、2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(0101としても公知)である。一部の実施形態では、薬物は、好ましくは膜透過性である。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「L−D」とは、リンカー(L)に連結された薬物(D)から生じるリンカー−薬物部分を指す。
【0036】
本発明と併せて使用されるさらなる科学技術用語は、本明細書で特記しない限り、当業者が一般に理解する意味を有するものとする。さらに、文脈が他を要求しない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションと併せて使用される命名法、ならびにそれらの技術は、当該分野で周知であり、一般に使用される。
【0037】
I.HER2抗体
本発明の部位特異的HER2 ADCの調製のために、抗体は、HER2の細胞外ドメインに特異的に結合する任意の抗体であり得る。一実施形態では、ADCを作製するために使用される抗体は、トラスツズマブと同じ、HER2のエピトープに結合し、および/またはHER2結合についてトラスツズマブと競合する。別の実施形態では、ADCを作製するために使用される抗体は、トラスツズマブと同じ重鎖可変領域CDRおよび軽鎖可変領域CDRを有する。さらに別の実施形態では、ADCを作製するために使用される抗体は、トラスツズマブと同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する。
【0038】
用語「競合する」とは、抗体に関して本明細書で使用する場合、第1の抗体のその同族エピトープとの結合の結果が、第2の抗体の非存在下での第1の抗体の結合と比較して、第2の抗体の存在下で検出可能に減少するように、第1の抗体またはその抗原結合性断片が、第2の抗体またはその抗原結合性断片の結合と十分に類似した様式でエピトープに結合することを意味する。第2の抗体のそのエピトープへの結合もまた第1の抗体の存在下で検出可能に減少する代替的な状況があり得るが、必ずしもそうである必要はない。即ち、第1の抗体は、第1の抗体のそのそれぞれのエピトープへの結合を第2の抗体が阻害することなしに、第2の抗体のそのエピトープへの結合を阻害できる。しかし、同じ程度までであれ、より高い程度までであれ、より低い程度までであれ、各抗体が他方の抗体のその同族エピトープまたはリガンドとの結合を検出可能に阻害する場合、それらの抗体は、そのそれぞれのエピトープ(複数可)の結合について互いと「交差競合する」と言われる。競合性および交差競合性の抗体は共に、本発明によって包含される。かかる競合または交差競合が生じる機構(例えば、立体障害、コンフォメーション変化、または共通エピトープもしくはそれらの部分への結合)に関わらず、当業者は、かかる競合性および/または交差競合性の抗体が包含され、本明細書に開示される方法に有用であり得ることを、本明細書に提供される教示に基づいて理解する。
【0039】
トラスツズマブ(商品名Herceptin(登録商標))は、HER2の細胞外ドメインに結合するヒト化モノクローナル抗体である。その可変ドメインのアミノ酸配列は、米国特許第5,821,337号(Vは、米国特許第5,821,337号の配列番号42であり、Vは配列番号41である)ならびに以下の表1(それぞれ、配列番号1および7)に開示されている。重鎖可変領域CDRのアミノ酸配列は、配列番号2〜4であり、一方で軽鎖CDRのアミノ酸配列は、配列番号6〜10である(以下の表1)。完全重鎖および軽鎖のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号6および12である(以下の表1)。
【0040】
T−DM1(商品名Kadcyla(登録商標))は、安定なチオエーテルリンカーMCC(4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート)を介してマイタンシノイド剤DM1にコンジュゲートされたトラスツズマブからなる抗体薬物コンジュゲートである(米国特許第8,337,856号)。このADCの抗体構成要素は、トラスツズマブと同一である。ADCが、各自にコンジュゲートされた異なる量のDM1を有する分子種の不均質な集団であるように、トラスツズマブへのペイロードコンジュゲーションは、従来のコンジュゲーション(部位特異的ではなく)技術を使用して達成される。DM1ペイロードは、チューブリン重合の阻害を介して有糸分裂の間に微小管の形成を阻害することによって、細胞増殖を阻害する(Remillardら、1975、Science 189:1002〜5)。Kadcyla(登録商標)は、Herceptin(登録商標)およびタキサン薬物で以前に処置されており、Herceptin(登録商標)不応性になった患者におけるHER2陽性転移性乳がんの処置のために承認されている。実施例のセクションに記載される実験において使用されるT−DM1は、公に入手可能な情報を使用して内部で作製した。
【0041】
本発明のADCは、部位特異的様式でペイロードにコンジュゲートされる。この型のコンジュゲーションを提供するために、抗体は、1つまたは複数の特異的部位において操作された反応性システイン残基、トランスグルタミナーゼおよびアミンの存在下でのポリペプチド操作によって反応性にされたアシルドナーグルタミン含有タグまたは内因性グルタミンのいずれかを提供するために誘導体化しなければならない。アミノ酸改変は、当該分野で公知の任意の方法によってなされ得、多くのかかる方法は、当業者に周知であり、慣用的である。例えば、限定するものではないが、アミノ酸の置換、欠失および挿入は、任意の周知のPCRベースの技術を使用して達成され得る。アミノ酸置換は、部位指定変異誘発によってなされ得る(例えば、ZollerおよびSmith、1982、Nucl.Acids Res.10:6487〜6500;ならびにKunkel、1985、PNAS 82:488を参照のこと)。
【0042】
抗原結合の保持が必要とされる適用では、かかる改変は、抗体の抗原結合能を破壊しない部位においてであるべきである。好ましい実施形態では、1つまたは複数の改変が、重鎖および/または軽鎖の定常領域においてなされる。
【0043】
本明細書で使用する場合、抗体の用語「定常領域」とは、単独または組み合わせてのいずれかの、抗体軽鎖の定常領域または抗体重鎖の定常領域を指す。本発明のADCを作製するために使用される抗体の定常領域は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、またはそれらの任意のアイソタイプのいずれか1つの定常領域、ならびにそれらのサブクラスおよび変異バージョンに由来し得る。
【0044】
定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、種々のエフェクター機能、例えば、Fc受容体(FcR)結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、オプソニン化、補体依存性細胞傷害の開始および肥満細胞脱顆粒における抗体の関与を示す。当該分野で公知のように、用語「Fc領域」は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。「Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域またはバリアントFc領域であり得る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226位のアミノ酸残基からまたはPro230から、そのカルボキシル末端まで及ぶと規定される。Fc領域中の残基の番号付けは、KabatのEUインデックスのものである(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1991)。免疫グロブリンのFc領域は一般に、2つの定常領域CH2およびCH3を有する。
【0045】
抗体における使用のための2つの異なる軽鎖定常領域、CLκおよびCLλが存在する。CLκは、公知の多型遺伝子座CLκ−V/A45およびCLκ−L/V83(Kabatら(1991、NIH Publication 91〜3242、National Technical Information Service、Springfield、VA)に示されるKabat番号付けシステムを使用し、従って、全てのカッパおよびラムダ位置は、Kabatシステムに従って番号付けされる)を有し、従って、多型Km(1):CLκ−V45/L83;Km(1,2):CLκ−A45/L83;およびKm(3):CLκ−A45/V83を可能にする。本発明のポリペプチド、抗体およびADCは、これらの軽鎖定常領域のいずれかを有する抗体構成要素を有し得る。
【0046】
明確さのために、特記しない限り、抗体のヒトIgG重鎖定常ドメイン中のアミノ酸残基は、「KabatのEUインデックス」と本明細書で呼ばれる、Kabatら、1991に記載されるように、Edelmanら、1969、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 63(1):78〜85のEUインデックスに従って番号付けされる。典型的には、Fcドメインは、ヒトIgG1定常ドメインの約アミノ酸残基236から約447までを含む。C番号付け間の対応は、例えば、IGMTデータベースにおいて見出すことができる。軽鎖定常ドメインのアミノ酸残基は、Kabatら、1991に従って番号付けされる。抗体定常ドメインアミノ酸残基の番号付けは、国際特許出願公開番号WO2013/093809にも示される。IgG重鎖定常ドメインにおけるKabatのEUインデックスの使用に対する唯一の例外は、実施例に記載される残基A114である。A114とは、Kabat番号付けを指し、対応するEUインデックス番号は118である。これは、この部位における部位特異的コンジュゲーションの初期の刊行物が、Kabat番号付けを使用し、この部位をA114Cと呼び、それ以降当該分野で「114」部位として広く使用されてきたからである。Junutulaら、Nature Biotechnology 26、925〜932(2008)を参照のこと。当該分野におけるこの部位の一般的な用法と一致するように、「A114」、「A114C」、「C114」または「114C」が、実施例において使用される。
【0047】
本発明のADCを作製するために使用される抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸は、発現または伝播のためにベクター中にクローニングされ得る。目的の抗体をコードする配列は、宿主細胞においてベクター中に維持され得、次いで、宿主細胞は拡大増殖され得、将来の使用のために凍結され得る。
【0048】
本明細書で使用する場合、用語「ベクター」とは、目的の1つまたは複数の遺伝子(複数可)または配列(複数可)を送達すること、好ましくは、宿主細胞においてそれを発現させることが可能な構築物を指す。ベクターの例には、ウイルスベクター、ネイキッドDNAもしくはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドもしくはファージベクター、カチオン性縮合剤と関連したDNAもしくはRNA発現ベクター、リポソーム中に封入されたDNAもしくはRNA発現ベクター、およびある特定の真核生物細胞、例えば、産生細胞が含まれるがこれらに限定されない。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「宿主細胞」は、ポリヌクレオチド挿入物の取り込みのためのベクター(複数可)のレシピエントであり得る、またはかかるレシピエントであった個々の細胞または細胞培養物を含む。宿主細胞は、個々の宿主細胞の子孫を含み、この子孫は、天然の、偶発的なまたは計画的な変異に起因して、元の親細胞と必ずしも(形態学的に、またはゲノムDNA相補体で)完全に同一でなくてもよい。宿主細胞には、本発明の核酸またはベクターをin vivoでトランスフェクトされた細胞が含まれる。
【0050】
表1は、本発明の部位特異的ADCを構築する際に使用されるヒト化HER2抗体のアミノ酸(タンパク質)配列および関連する核酸(DNA)配列を提供する。示されるCDRは、Kabat番号付けスキームによって規定される。
【0051】
表1に示される抗体の重鎖および軽鎖は、トラスツズマブの重鎖可変領域(V)および軽鎖可変領域(V)を有する。重鎖定常領域および軽鎖定常領域は、トラスツズマブから誘導体化され、本発明のADCを作製する場合の部位特異的コンジュゲーションを可能にするための1つまたは複数の改変を含む。
【0052】
部位特異的コンジュゲーションを可能にするための抗体定常領域中のアミノ酸配列に対する改変は、下線かつ太字である。トラスツズマブから誘導体化された抗体についての命名法は、T(トラスツズマブの代わり)、ならびに次いで、括弧中に、野生型残基の一文字アミノ酸コードが隣接する改変のアミノ酸の位置、および誘導体化された抗体中のその位置に今ある残基の一文字アミノ酸コードである。この命名法に対する2つの例外は、軽(カッパ)鎖上の183位がリジンからシステインに改変されたことを示す「kK183C」と、8つのアミノ酸グルタミン含有タグが軽鎖定常領域のC末端に結合されていることを示す「LCQ05」である。
【0053】
表1に示される改変の1つは、コンジュゲーションには使用されない。重鎖上の222位の残基(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用する)は、より均質な抗体およびペイロードコンジュゲート、抗体とペイロードとの間のより良好な分子間架橋、および/または鎖間架橋における顕著な減少を生じるように変更され得る。
【0054】
【表1-1】
【0055】
【表1-2】
【0056】
【表1-3】
【0057】
【表1-4】
【0058】
【表1-5】
【0059】
【表1-6】
【0060】
【表1-7】
【0061】
【表1-8】
【0062】
【表1-9】
【0063】
【表1-10】
【0064】
【表1-11】
【0065】
【表1-12】
【0066】
【表1-13】
【0067】
【表1-14】
【0068】
【表1-15】
【0069】
【表1-16】
【0070】
【表1-17】
【0071】
【表1-18】
【0072】
【表1-19】
【0073】
【表1-20】
【0074】
【表1-21】
【0075】
【表1-22】
【0076】
【表1-23】
【0077】
【表1-24】
【0078】
【表1-25】
【0079】
【表1-26】
【0080】
【表1-27】
【0081】
【表1-28】
【0082】
【表1-29】
【0083】
【表1-30】
【0084】
【表1-31】
【0085】
【表1-32】
【0086】
【表1-33】
【0087】
【表1-34】
【0088】
【表1-35】
【0089】
【表1-36】
【0090】
【表1-37】
【0091】
一部の実施形態では、本発明のADCは、トラスツズマブの重鎖可変領域CDRおよび軽鎖可変領域CDR(配列番号2〜4のV CDRおよび配列番号8〜10のV CDR)、ならびに表1に開示される重鎖および軽鎖定常領域の任意の組み合わせを含む抗体を使用でき、ただし、重鎖定常領域が配列番号5である場合、軽鎖定常領域は配列番号11ではない(この組み合わせが、野生型トラスツズマブを再創出し、従って、部位特異的コンジュゲーションを可能にしないという事実に起因する)ことを条件とする。かかる実施形態では、重鎖定常領域は、配列番号17、5、13、21、23、25、27、29、31、33、35、37または39のいずれかから選択され得、一方で軽鎖定常領域は、配列番号41、11または43のいずれかから選択され得、ただし、この組み合わせは、上で議論したように、配列番号5および配列番号11ではない。
【0092】
より具体的な実施形態では、本発明のADCは、トラスツズマブの重鎖可変領域CDRおよび軽鎖可変領域CDR(配列番号2〜4のV CDRおよび配列番号8〜10のV CDR)、ならびに以下から選択される重鎖および軽鎖定常領域の組み合わせを含む抗体を使用できる:
(a)配列番号17の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域;
(b)配列番号5の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域;
(c)配列番号17の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(d)配列番号21の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(e)配列番号23の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(f)配列番号25の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(g)配列番号27の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(h)配列番号23の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域;
(i)配列番号25の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域;
(j)配列番号27の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域;
(k)配列番号29の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(l)配列番号31の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(m)配列番号33の重鎖定常領域および配列番号43の軽鎖定常領域;
(n)配列番号35の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(o)配列番号37の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;
(p)配列番号39の重鎖定常領域および配列番号11の軽鎖定常領域;または
(q)配列番号13の重鎖定常領域および配列番号43の軽鎖定常領域。
【0093】
さらにより具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号2〜4のV CDRおよび配列番号8〜10のV CDRならびに配列番号17の重鎖定常領域および配列番号41の軽鎖定常領域を有する抗体を含む。
【0094】
別のより具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号2〜4のV CDRおよび配列番号8〜10のV CDRならびに配列番号13の重鎖定常領域および配列番号43の軽鎖定常領域を有する抗体を含む。
【0095】
他の実施形態では、本発明のADCは、表1に開示される重鎖および軽鎖の任意の組み合わせを含む抗体を使用でき、ただし、重鎖が配列番号6である場合、軽鎖は配列番号12ではない(この組み合わせが、野生型トラスツズマブを再創出し、従って、部位特異的コンジュゲーションを可能にしないという事実に起因する)ことを条件とする。かかる実施形態では、重鎖は、配列番号18、6、14、22、24、26、28、30、32、34、36、38または40のいずれかから選択され得、一方で軽鎖は、配列番号42、12または44のいずれかから選択され得、ただし、この組み合わせは、上で議論したように、配列番号6および配列番号12ではない。
【0096】
より具体的な実施形態では、本発明のADCは、以下から選択される重鎖および軽鎖の組み合わせを含む抗体を使用できる:
(a)配列番号18の重鎖および配列番号42の軽鎖;
(b)配列番号6の重鎖および配列番号42の軽鎖;
(c)配列番号18の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(d)配列番号22の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(e)配列番号24の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(f)配列番号26の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(g)配列番号28の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(h)配列番号24の重鎖および配列番号42の軽鎖;
(i)配列番号26の重鎖および配列番号42の軽鎖;
(j)配列番号28の重鎖および配列番号42の軽鎖;
(k)配列番号30の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(l)配列番号32の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(m)配列番号34の重鎖および配列番号44の軽鎖;
(n)配列番号36の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(o)配列番号38の重鎖および配列番号12の軽鎖;
(p)配列番号40の重鎖および配列番号12の軽鎖;または
(q)配列番号14の重鎖および配列番号44の軽鎖。
【0097】
さらにより具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号18の重鎖と配列番号42の軽鎖とを有する抗体を含む。配列番号18の重鎖および配列番号42の軽鎖をコードする核酸を含むプラスミドは、2015年11月17日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)、10801 University Blvd.、Manassas、VA 20110−2209に寄託されており、それぞれ、受託番号PTA−122672およびPTA−122673を与えられている。寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約およびその規則(ブダペスト条約)の規定の下でなされた。これは、寄託の日から30年間にわたる寄託物の生存可能な培養物の維持を保証する。寄託物は、ブダペスト条約の条項の下でATCCによって入手可能にされ、Pfizer Inc.とATCCとの間での同意の制約下にあり、この同意は、関連する米国特許の発行の際または任意の米国もしくは外国特許出願が公衆の閲覧に付された際のいずれか早い方の、公衆に対する、寄託物の培養物の子孫の恒久的かつ無制限の入手可能性を保証し、米国特許法第122条およびそれに準ずる長官規則(886 OG 638への特定の言及を伴う米国特許法施行規則第1.14条を含む)に従って権利付与されると米国特許商標庁長官によって決定された者への子孫の入手可能性を保証する。
【0098】
本出願の譲受人は、万一、寄託にかかる材料の培養物が適切な条件下でカルチベートした場合に死んだまたは失われたまたは破壊された場合、それらの材料が、通知により、別の同一物で遅滞なく置き換えられることに同意している。寄託された材料の入手可能性は、その特許法に従って任意の政府の権限の下で付与された権利に違反して発明を実施するための許可と解釈すべきではない。
【0099】
別のより具体的な実施形態では、本発明のADCは、配列番号14の重鎖と配列番号44の軽鎖とを有する抗体を含む。
【0100】
本発明の一部の態様では、本発明のADCは、上に開示された重鎖または軽鎖のいずれかに対して少なくとも90%、95%、98%または99%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖および/または軽鎖を有する抗体を含む。変更された残基は、抗体の可変領域中または定常領域中にあり得る。一部の実施形態では、上に開示された重鎖または軽鎖のいずれかと比較して、1、2、3、4または5以下の残基が変更されている。他の実施形態では、可変領域CDRのいずれにも、変更された残基は存在しない。
【0101】
用語「パーセント同一」(または「%同一」)とは、アミノ酸配列に関して、最大限の対応のためにアラインされた場合に同じである、2つの配列中の残基の数を意味する。アミノ酸パーセント同一性を測定するために使用され得る当該分野で公知のいくつかの異なるアルゴリズムが存在する(即ち、Basic Local Alignment ToolまたはBLAST(登録商標))。特記しない限り、特定のプログラムまたはアルゴリズムのためのデフォルトパラメーターが使用される。
【0102】
ADCの調製における使用のために、本明細書に記載されるHER2抗体は、実質的に純粋、即ち、少なくとも50%純粋(即ち、混入物を含まない)、より好ましくは、少なくとも90%純粋、より好ましくは、少なくとも95%純粋、なおより好ましくは、少なくとも98%純粋、最も好ましくは、少なくとも99%純粋であり得る。
【0103】
II.薬物
本発明の部位特異的HER2 ADCの調製において有用な薬物には、細胞傷害剤、細胞分裂停止剤、免疫調節性剤および化学療法剤が含まれるがこれらに限定されない、がんの処置において有用な任意の治療剤が含まれる。細胞傷害効果とは、標的細胞(即ち、腫瘍細胞)の枯渇、排除および/または死滅を指す。細胞傷害剤とは、細胞に対して細胞傷害効果を有する薬剤を指す。細胞分裂停止効果とは、細胞増殖の阻害を指す。細胞分裂停止剤とは、細胞に対して細胞分裂停止効果を有し、それによって、細胞(即ち、腫瘍細胞)の特定のサブセットの成長および/または拡大増殖を阻害する薬剤を指す。免疫調節性剤とは、サイトカインおよび/もしくは抗体の産生ならびに/またはT細胞機能をモジュレートすることを介して免疫応答を刺激し、それによって、直接的、または別の薬剤をより効果的にすることによって間接的のいずれかで、細胞(即ち、腫瘍細胞)のサブセットの成長を阻害するまたは低減させる薬剤を指す。化学療法剤とは、がんの処置において有用な化学化合物である薬剤を指す。薬物は、薬物誘導体であってもよく、薬物は、本発明の抗体とのコンジュゲーションを可能にするために官能化されている。
【0104】
一部の実施形態では、薬物は膜透過性薬物である。かかる実施形態では、ペイロード(即ち、薬物)は、バイスタンダー効果を惹起し得、最初にADCを内在化した細胞の周囲の細胞は、ペイロードによって死滅される。これは、ペイロードが(即ち、切断可能リンカーの切断によって)抗体から放出され、細胞膜を横切り、拡散の際に、周囲の細胞の死滅を誘導する場合に生じる。
【0105】
開示された方法によれば、薬物は、式Ab−(L−D)の抗体薬物コンジュゲートを調製するために使用され、(a)Abは、HER2に結合する抗体であり;(b)L−Dはリンカー−薬物部分であり、Lはリンカーであり、Dは薬物である。
【0106】
薬物対抗体比(DAR)または薬物担持量は、抗体1つ当たりのコンジュゲートされている薬物(D)分子の数を示す。本発明の抗体薬物コンジュゲートは、ADCの組成物中に、1のDARを有するADCの均一な集団が本質的に存在するように、部位特異的コンジュゲーションを使用する。一部の実施形態では、DARは1である。一部の実施形態では、DARは2である。他の実施形態では、DARは3である。他の実施形態では、DARは4である。他の実施形態では、DARは4よりも大きい。
【0107】
従来のコンジュゲーション(部位特異的コンジュゲーションではなく)を使用することは、その各々が異なる個々のDARを有する、異なる分子種のADCの不均質な集団を生じる。この方法で調製されるADCの組成物は、複数の抗体を含み、各抗体は、特定の数の薬物分子にコンジュゲートされる。このように、組成物は平均DARを有する。T−DM1(Kadcyla(登録商標))は、リジン残基上での従来のコンジュゲーションを使用し、0、1、2、3、4、5、6、7または8個の薬物分子が担持されたADCを含む広い分布を伴って、およそ4の平均DARを有する(Kimら、2014、Bioconj Chem 25(7):1223〜32)。
【0108】
複数のADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、平均DARによって特徴付けられ得る。DARおよび平均DARは、種々の従来の手段、例えば、UV分光法、質量分析、ELISAアッセイ、放射測定法、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電気泳動およびHPLCによって決定され得る。
【0109】
本発明の態様では、HER2 ADCは、1のDAR、2のDAR、3のDAR、4のDAR、5のDAR、6のDAR、7のDAR、8のDAR、9のDAR、10のDAR、11のDAR、12のDAR、または12よりも大きいDARを有し得る。本発明の態様では、HER2 ADCは、1個の薬物分子、または2個の薬物分子、または3個の薬物分子、または4個の薬物分子、または5個の薬物分子、または6個の薬物分子、または7個の薬物分子、または8個の薬物分子、または9個の薬物分子、または10個の薬物分子、または11個の薬物分子、または12個の薬物分子、または12個よりも多い分子を有し得る。
【0110】
本発明の態様では、HER2 ADCは、約2〜約4の範囲の平均DAR、または約3〜約5の範囲の平均DAR、または約4〜約6の範囲の平均DAR、または約5〜約7の範囲の平均DAR、または約6〜約8の範囲の平均DAR、または約7〜約9の範囲の平均DAR、または約8〜約10の範囲の平均DAR、または約9〜約11の範囲の平均DAR、または約10〜約12の範囲の平均DARなどを有し得る。一部の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、約1の平均DAR、または約2の平均DAR、約3の平均DAR、または約4の平均DAR、または約5の平均DAR、または約6の平均DAR、または約7の平均DAR、または約8の平均DAR、または約9の平均DAR、または約10の平均DAR、または約11の平均DAR、または約12の平均DAR、または12よりも大きい平均DARを有し得る。平均DARの上述の範囲において使用する場合、用語「約」は、+/−0.5%を意味する。
【0111】
HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、好ましい範囲の平均DAR、例えば、約3〜約5の範囲の平均DAR、約3〜約4の範囲の平均DAR、または約4〜約5の範囲の平均DARによって特徴付けられ得る。さらに、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、好ましい範囲の平均DAR、例えば、3〜5の範囲の平均DAR、3〜4の範囲の平均DAR、または4〜5の範囲の平均DARによって特徴付けられ得る。
【0112】
本発明の一部の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、約1.0の平均DAR、または1.0の平均DAR、または1.1の平均DAR、または1.2の平均DAR、または1.3の平均DAR、または1.4の平均DAR、または1.5の平均DAR、または1.6の平均DAR、または1.7の平均DAR、または1.8の平均DAR、または1.9の平均DARによって特徴付けられ得る。別の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、約2.0の平均DAR、または2.0の平均DAR、または2.1の平均DAR、または2.2の平均DAR、または2.3の平均DAR、または2.4の平均DAR、または2.5の平均DAR、または2.6の平均DAR、または2.7の平均DAR、または2.8の平均DAR、または2.9の平均DARによって特徴付けられ得る。別の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、約3.0の平均DAR、または3.0の平均DAR、または3.1の平均DAR、または3.2の平均DAR、または3.3の平均DAR、または3.4の平均DAR、または3.5の平均DAR、または3.6の平均DAR、または3.7の平均DAR、または3.8の平均DAR、または3.9の平均DARによって特徴付けられ得る。別の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、約4.0の平均DAR、または4.0の平均DAR、または4.1の平均DAR、または4.2の平均DAR、または4.3の平均DAR、または4.4の平均DAR、または4.5の平均DAR、または4.6の平均DAR、または4.7の平均DAR、または4.8の平均DAR、または4.9の平均DAR、または5.0の平均DARによって特徴付けられ得る。
【0113】
別の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、12以下の平均DAR、11以下の平均DAR、10以下の平均DAR、9以下の平均DAR、8以下の平均DAR、7以下の平均DAR、6以下の平均DAR、5以下の平均DAR、4以下の平均DAR、3以下の平均DAR、2以下の平均DAR、または1以下の平均DARによって特徴付けられ得る。
【0114】
他の態様では、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤は、11.5以下の平均DAR、10.5以下の平均DAR、9.5以下の平均DAR、8.5以下の平均DAR、7.5以下の平均DAR、6.5以下の平均DAR、5.5以下の平均DAR、4.5以下の平均DAR、3.5以下の平均DAR、2.5以下の平均DAR、1.5以下の平均DARによって特徴付けられ得る。
【0115】
本発明の一部の態様では、システイン残基を介した従来のコンジュゲーションのための方法および本明細書に開示される精製条件は、約3〜5の範囲の、好ましくは約4の最適化された平均DARを有する、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤を提供する。
【0116】
本発明の一部の態様では、操作されたシステイン残基を介した部位特異的コンジュゲーションのための方法および本明細書に開示される精製条件は、約3〜5の範囲の、好ましくは約4の最適化された平均DARを有する、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤を提供する。
【0117】
本発明の一部の態様では、トランスグルタミナーゼベースのコンジュゲーションを介した部位特異的コンジュゲーションのための方法および本明細書に開示される精製条件は、約1〜3の範囲の、好ましくは約2の最適化された平均DARを有する、HER2 ADCの組成物、バッチおよび/または製剤を提供する。
【0118】
式Ab−(L−D)pの抗体薬物コンジュゲートもまた本発明によって包含され、(a)Abは、HER2に結合する抗体またはその抗原結合性断片であり、(b)L−Dはリンカー−薬物部分であり、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、(c)pは、抗体に結合されるリンカー/薬物部分の数である。部位特異的ADCについて、pは、ADCの均一な性質に起因する整数である。一部の実施形態では、pは4である。他の実施形態では、pは3である。他の実施形態では、pは2である。他の実施形態では、pは1である。他の実施形態では、pは4よりも大きい。
【0119】
一実施形態では、本発明のADCの薬物構成要素は、抗有糸分裂薬物である。具体的な実施形態では、抗有糸分裂薬物は、オーリスタチン(例えば、0101、8261、6121、8254、6780および0131;以下の表2を参照のこと)である。より具体的な実施形態では、オーリスタチン薬物は、2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(0101としても公知)である。
【0120】
オーリスタチンは、チューブリン重合の阻害を介して有糸分裂の間に微小管の形成を阻害することによって、細胞増殖を阻害する。その全体が参照によって組み込まれるPCT国際公開番号WO2013/072813は、本発明のADCの製造において有用なオーリスタチンを開示しており、それらのオーリスタチンを産生する方法を提供している。
【0121】
【表2-1】
【0122】
【表2-2】
【0123】
本発明の一部の態様では、細胞傷害剤は、リポソームまたは生体適合性ポリマーを使用して作製され得る。本明細書に記載されるHER2抗体は、血清半減期および生物活性を増加させるため、ならびに/またはin vivo半減期を延長させるために、生体適合性ポリマーにコンジュゲートされ得る。生体適合性ポリマーの例には、水溶性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはその誘導体、および双性イオン含有生体適合性ポリマー(例えば、ホスホリルコリン含有ポリマー)が含まれる。
【0124】
III.リンカー
本発明の部位特異的HER2 ADCは、薬物をHER2抗体に連結またはコンジュゲートするためのリンカーを使用して調製される。リンカーは、薬物と抗体とを連結して抗体薬物コンジュゲート(ADC)を形成するために使用され得る二官能性化合物である。かかるコンジュゲートは、薬物の腫瘍細胞への選択的送達を可能にする。適切なリンカーには、例えば、切断可能および切断不能リンカーが含まれる。切断可能リンカーは、典型的には、細胞内条件下での切断に対して感受性である。コンジュゲートされた薬物が抗体から切断される主要な機構には、リソソームの酸性pH中での加水分解(ヒドラゾン、アセタールおよびcis−アコニテート様アミド)、リソソーム酵素(カテプシンおよび他のリソソーム酵素)によるペプチド切断、およびジスルフィドの還元が含まれる。切断のためのこれらの機構が様々であることの結果として、薬物を抗体に連結する機構もまた非常に様々であり、任意の適切なリンカーが使用され得る。
【0125】
適切な切断可能リンカーには、細胞内プロテアーゼ、例えば、リソソームプロテアーゼまたはエンドソームプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカー、例えば、マレイミドカプロイル−バリン−シトルリン−p−アミノベンジルオキシカルボニル(vc)、N〜2〜−アセチル−L−リジル−L−バリル−L−シトルリン−p−アミノベンジルオキシカルボニル−N,N’−ジメチルアミノエチル−CO−(AcLysvc)およびm(H20)c−vc(以下の表3)が含まれるがこれらに限定されない。具体的な実施形態では、リンカーが切断されたときにペイロードがバイスタンダー効果を誘導できるように、リンカーは切断可能リンカーである。バイスタンダー効果は、膜透過性薬物が(即ち、切断可能リンカーの切断によって)抗体から放出され、細胞膜を横切り、拡散の際に、最初にADCを内在化した細胞の周囲の細胞の死滅を誘導する場合に生ずる。
【0126】
適切な切断不能リンカーには、マレイミドカプロイル(mc)、マレイミド−(ポリエチレングリコール)(MalPeg6)、Mal−PEG2C2、Mal−PEG3C2およびm(H20)c(以下の表3)が含まれるがこれらに限定されない。
【0127】
他の適切なリンカーには、特定のpHまたはpH範囲で加水分解可能なリンカー、例えば、ヒドラゾンリンカーが含まれる。さらなる適切な切断可能リンカーには、ジスルフィドリンカーが含まれる。リンカーは、例えば、mcリンカーなど、薬物が放出されるために抗体が細胞内で分解されるような程度まで、抗体に共有結合され得る。
【0128】
本発明の特定の態様では、本発明の部位特異的HER2 ADC中のリンカーは、切断可能であり、vcまたはAcLysvcであり得る。
【0129】
抗体にコンジュゲートされる治療剤(薬物)の多くは、水中での可溶性が、あったとしてもほとんどなく、コンジュゲートの凝集に起因して、コンジュゲート上の薬物担持量を制限し得る。これを克服するための1つのアプローチは、リンカーに可溶化基を付加することである。抗体に結合したPEG二酸(di-acid)、チオール酸(thiol-acid)またはマレイミド酸(maleimide-acid)、ジペプチドスペーサー、およびアントラサイクリンまたはデュオカルマイシンアナログのアミンへのアミド結合を有するものを含む、PEGおよびジペプチドからなるリンカーを用いて作製されたコンジュゲートが使用され得る。別の例は、細胞傷害剤に結合したPEG含有リンカージスルフィドおよび抗体に結合したアミドを用いて調製されたコンジュゲートである。PEG基を取り込むアプローチは、凝集、および薬物担持量における制限を克服するのに有益であり得る。
【0130】
【表3】
【0131】
リンカーは、表3に示されるように、分子の左側を介してモノクローナル抗体に結合され、分子の右側を介して薬物に結合される。
【0132】
IV.部位特異的HER2 ADCを調製する方法
本発明の抗体薬物コンジュゲートを調製するための方法もまた提供される。例えば、本明細書に開示される部位特異的HER2 ADCを産生するためのプロセスは、(a)リンカーを薬物に連結するステップ;(b)リンカー−薬物部分を抗体にコンジュゲートするステップ;および(c)抗体薬物コンジュゲートを精製するステップを含み得る。
【0133】
本発明のHER2 ADCは、HER2抗体を薬物ペイロードにコンジュゲートするために、部位特異的方法を使用する。
【0134】
一実施形態では、部位特異的コンジュゲーションは、抗体定常領域中に操作された1つまたは複数のシステイン残基を介して生じる。システイン残基を介した部位特異的コンジュゲーションのためにHER2抗体を調製する方法は、その全体が参照によって組み込まれるPCT公開番号WO2013/093809に記載されるように実施され得る。以下の位置のうち1つまたは複数(IgG1定常領域についてはKabat番号付けのEUインデックスを使用し、カッパ鎖定常領域についてはKabat番号付けを使用する)が、システインに変更され得、従って、コンジュゲーションのための部位として機能し得る:a)重鎖定常領域上の、残基114、246、249、265、267、270、276、278、283、290、292、293、294、300、302、303、314、315、318、320、327、332、333、334、336、345、347、354、355、358、360、362、370、373、375、376、378、380、382、386、388、390、392、393、401、404、411、413、414、416、418、419、421、428、431、432、437、438、439、443および444であり、ならびに/またはb)カッパ鎖定常領域上の、残基111、149、183、188、207および210。
【0135】
具体的な実施形態では、システインに変更され得る1つまたは複数の位置(Kabat番号付けのEUインデックスを使用する)は、a)重鎖定常領域上では290、334、392および/もしくは443、ならびに/またはb)軽鎖定常領域上では183(Kabat番号付け)である。
【0136】
より具体的な実施形態では、重鎖定常領域上の290位および軽鎖定常領域上の183位が、コンジュゲーションのためにシステインに変更される。
【0137】
別の実施形態では、部位特異的コンジュゲーションは、抗体定常領域中に操作された1つまたは複数のアシルドナーグルタミン残基を介して生じる。グルタミン残基を介した部位特異的コンジュゲーションのためにHER2抗体を調製する方法は、その全体が参照によって組み込まれるPCT公開番号WO2012/059882に記載されるように実施され得る。抗体は、3つの異なる方法で、部位特異的コンジュゲーションに使用されるグルタミン残基を発現するように操作され得る。
【0138】
グルタミン残基を含む短いペプチドタグは、軽鎖および/または重鎖のいくつかの異なる位置中に(即ち、N末端で、C末端で、内部で)取り込まれ得る。第1の実施形態では、グルタミン残基を含む短いペプチドタグは、重鎖および/または軽鎖のC末端に結合され得る。以下のグルタミン含有タグのうち1つまたは複数が、薬物コンジュゲーションのためのアシルドナーとして機能するために結合され得る:GGLLQGPP(配列番号81)、GGLLQGG(配列番号82)、LLQGA(配列番号83)、GGLLQGA(配列番号84)、LLQG(配列番号85)、LLQGPG(配列番号86)、LLQGPA(配列番号87)、LLQGP(配列番号88)、LLQP(配列番号89)、LLQPGK(配列番号90)、LLQGAPGK(配列番号91)、LLQGAPG(配列番号92)、LLQGAP(配列番号93)、LLQX、式中、Xは、GもしくはPであり、Xは、A、G、Pであるもしくは存在しない、Xは、A、G、K、Pであるもしくは存在しない、Xは、G、Kであるもしくは存在しない、Xは、Kであるもしくは存在しない(配列番号94)、またはLLQX、式中、Xは、任意の天然に存在するアミノ酸であり、X、X、XおよびXは、任意の天然に存在するアミノ酸であるもしくは存在しない(配列番号95)。
【0139】
具体的な実施形態では、GGLLQGPP(配列番号81)は、軽鎖のC末端に結合される。
【0140】
第2の実施形態では、重鎖および/または軽鎖上の残基は、部位指定変異誘発によってグルタミン残基に変更され得る。具体的な実施形態では、重鎖上の297位の残基(Kabat番号付けのEUインデックスを使用する)は、グルタミン(Q)になるように変更され得、従って、コンジュゲーションのための部位として機能し得る。
【0141】
第3の実施形態では、重鎖または軽鎖上の残基が変更されて、1つまたは複数の内因性グルタミンが、コンジュゲーションのためにアクセス可能/反応性になるような位置で、脱グリコシル化(aglycosylation)を生じ得る。具体的な実施形態では、重鎖上の297位の残基(Kabat番号付けのEUインデックスを使用する)は、アラニン(A)に変更される。かかる場合、重鎖上の295位のグルタミン(Q)は、コンジュゲーションにおける使用が可能になる。
【0142】
コンジュゲートの形成のための最適な反応条件は、温度、pH、リンカー−ペイロード部分のインプット、および添加剤濃度などの反応変数の変動によって経験的に決定され得る。他の薬物のコンジュゲーションに適切な条件は、過度の実験なしに当業者によって決定され得る。操作されたシステイン残基を介した部位特異的コンジュゲーションは、以下の実施例5Aに例示される。グルタミン残基を介した部位特異的コンジュゲーションは、以下の実施例5Bに例示される。
【0143】
抗体薬物コンジュゲート1つ当たりの薬物分子の数をさらに増加させるために、薬物は、直鎖または分岐鎖ポリエチレングリコールポリマーおよびモノマーを含むポリエチレングリコール(PEG)にコンジュゲートされ得る。PEGモノマーは、式:−(CHCHO)−のものである。薬物および/またはペプチドアナログは、直接的に、または間接的に、即ち、糖などの適切なスペーサー基を介して、PEGに結合され得る。PEG−抗体薬物組成物は、薬物安定性および標的部位へのin vivo送達を促進するために、さらなる親油性および/または親水性部分もまた含み得る。PEG含有組成物を調製するための代表的な方法は、例えば、米国特許第6,461,603号;同第6,309,633号;および同第5,648,095号に見出すことができる。
【0144】
コンジュゲーション後、コンジュゲートは、従来の方法によって、コンジュゲートされていない反応物および/または凝集形態のコンジュゲートから分離および精製され得る。これは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、限外濾過/ダイアフィルトレーション、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、等電点電気泳動(CF)、HPLC、FPLC、またはSephacryl S−200クロマトグラフィーなどのプロセスを含み得る。分離は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によっても達成され得る。適切なHIC媒体には、Phenyl Sepharose 6 Fast Flowクロマトグラフィー媒体、Butyl Sepharose 4 Fast Flowクロマトグラフィー媒体、Octyl Sepharose 4 Fast Flowクロマトグラフィー媒体、Toyopearl Ether−650Mクロマトグラフィー媒体、Macro−Prep methyl HIC媒体またはMacro−Prep t−Butyl HIC媒体が含まれる。
【0145】
以下の表4は、本明細書に示される実施例のセクションにおいてデータを生成するために使用したHER2 ADCを示す。表4に示される部位特異的HER2 ADC(列1〜17中)は、本発明の部位特異的ADCの例である。
【0146】
本発明の部位特異的HER2 ADCを作製するために、上のセクションIに開示される任意のHER2抗体は、上のセクションIIIに開示される任意のリンカーを介して、上のセクションIIに開示される任意の薬物に、部位特異的技術を使用してコンジュゲートされ得る。好ましい実施形態では、リンカーは、切断可能(例えば、vcまたはAcLysvc)である。他の好ましい実施形態では、薬物は、オーリスタチン(例えば、0101)である。
【0147】
本発明の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号18の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。かかるADCの模式図は、図1Aに示される。
【0148】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号14の重鎖と配列番号44の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはAcLysvcであり、薬物は0101である。かかるADCの模式図は、図1Bに示される。
【0149】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号24の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0150】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号26の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0151】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号28の重鎖と配列番号42の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0152】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号30の重鎖と配列番号12の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0153】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号32の重鎖と配列番号12の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0154】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号34の重鎖と配列番号44の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはAcLysvcであり、薬物は0101である。
【0155】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号36の重鎖と配列番号12の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはAcLysvcであり、薬物は0101である。
【0156】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号38の重鎖と配列番号12の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0157】
本発明の別の特定の態様では、式Ab−(L−D)の部位特異的HER2 ADCは、(a)配列番号40の重鎖と配列番号12の軽鎖とを含む抗体Ab;および(b)リンカー−薬物部分L−Dを含み、Lはリンカーであり、Dは薬物であり、リンカーはvcであり、薬物は0101である。
【0158】
【表4-1】
【0159】
【表4-2】
【0160】
V.部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲートの使用
本発明の抗体薬物コンジュゲートは、HER2発現がんを処置するための治療方法において有用である。本発明の一部の態様では、HER2発現腫瘍を有する対象において腫瘍の成長または進行を阻害する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の、本明細書に記載される1つまたは複数のADCを有する組成物(即ち、医薬組成物)を投与するステップを含む方法が提供される。本発明の他の態様では、対象においてHER2発現がん細胞の転移を阻害する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の、本明細書に記載される1つまたは複数のADCを有する組成物(即ち、医薬組成物)を投与するステップを含む方法が提供される。本発明の他の態様では、対象においてHER2発現腫瘍の退縮を誘導する方法であって、それを必要とする対象に、有効量の、本明細書に記載される1つまたは複数のADCを有する組成物(即ち、医薬組成物)を投与するステップを含む方法が提供される。他の態様では、本発明は、上記方法における使用のための、本明細書に記載される1つまたは複数のADCを含む医薬組成物を提供する。他の態様では、本発明は、上記方法における使用のための医薬の製造における、本明細書に記載される1つもしくは複数のADCまたは本明細書に記載されるADCを含む医薬組成物の使用を提供する。
【0161】
開示された治療方法の所望の転帰は、一般に、対照またはベースライン測定値と比較して定量化可能な尺度である。本明細書で使用する場合、相対的な用語、例えば、「改善する」、「増加する」または「低減させる」は、対照と比較した値、例えば、本明細書に記載される処置の開始前の同じ個体における測定値、または本明細書に記載される処置の非存在下での対照個体(または複数の対照個体)における測定値を示す。代表的な対照個体は、処置されている個体とほぼ同じ年齢の、処置されている対象と同じ形態のがんに罹患した個体である(処置される個体および対照個体において障害の段階が比較できることを確実にするため)。
【0162】
治療に対する応答における変化または改善は一般に、統計的に有意である。本明細書で使用する場合、用語「有意性」または「有意」は、2つ以上の実体間の非ランダムな関連が存在する確率の統計的分析に関する。関係性が「有意」であるまたは「有意性」を有するかどうかを決定するために、データの統計的操作は、「p値」であり得る。ユーザーが定義したカットオフポイントの下に入るp値は、有意とみなされる。0.1以下、0.05未満、0.01未満、0.005未満、または0.001未満のp値は、有意とみなされ得る。
【0163】
V.A.がん
本発明のADCは、HER2発現がんを処置する際に有用である。一実施形態では、HER2発現がんは、固形腫瘍である。より具体的な実施形態では、HER2発現固形腫瘍には、乳がん(例えば、エストロゲンおよびプロゲステロン受容体陰性乳がん、三重陰性乳がん)、卵巣がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん(腺癌、扁平上皮癌および大細胞癌を含む)および小細胞肺がん)、胃がん、食道がん、結腸直腸がん、尿路上皮がん(例えば、微小乳頭型尿路上皮がん(micropapillary urothelial cancer)および定型尿路上皮がん)、膵がん、唾液腺がん(例えば、粘表皮癌、腺様嚢胞癌および終末導管腺癌(terminal duct adenocarcinoma))および脳腫瘍、または上述のがんの転移(即ち、HER2+乳がんからの肺転移)が含まれるがこれらに限定されない(Martinら、2014、Future Oncol.10(8):1469〜86)。
【0164】
さらにより具体的な実施形態では、HER2発現固形腫瘍には、乳がん、卵巣がん、肺がんおよび胃がんが含まれるがこれらに限定されない。
【0165】
別の実施形態では、乳がんは、エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体陰性である。より具体的な実施形態では、乳がんは、三重陰性乳がん(TNBC)である。
【0166】
別の実施形態では、肺がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)である。
【0167】
本発明の一態様では、本明細書に開示されるADCは、治療剤で以前に処置されていないHER2発現がんを処置するために使用され得る(即ち、第1選択処置として)。
【0168】
本発明の別の態様では、本明細書に開示されるADCは、別の治療剤による処置に対して抵抗性である、かかる処置に対して不応性であるおよび/またはかかる処置から再発したものであるHER2発現がんを処置するために使用され得る(即ち、第2選択処置として)。一実施形態では、以前の処置は、単独またはさらなる治療剤(即ち、タキサン、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルなど)と組み合わせてのいずれかのトラスツズマブ(トラスツズマブまたはHerceptin(登録商標))であった。別の実施形態では、以前の処置は、単独またはさらなる治療剤(即ち、タキサン、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルなど)と組み合わせてのいずれかのトラスツズマブエムタンシン(T−DM1またはKadcyla(登録商標))であった。
【0169】
本発明の別の態様では、本明細書に開示されるADCは、1つよりも多い他の治療剤による処置に対して抵抗性である、かかる処置に対して不応性であるおよび/またはかかる処置から再発したものであるHER2発現がんを処置するために使用され得る(即ち、第3選択処置または第4選択処置などとして)。
【0170】
本発明のADCは、高いレベルのHER2(即ち、IHC 3+)、中程度のレベルのHER2(即ち、2+のIHCまたは2+/3+のIHC)または低いレベルのHER2(即ち、IHC 1+、IHC 2+またはIHC 1+/2+)(HER2検出の方法についてのセクションIVBを参照のこと)を発現するがんを処置するために使用され得る。これは、低いまたは中程度のHER2発現がんでは効果的でないトラスツズマブおよびT−DM1とは対照的である(Burrisら、2011、J Clinical Oncology 29(4):398〜405)。
【0171】
本発明のADCは、腫瘍細胞の大部分が類似の量のHER2を発現する、性質が均一ながんを処置するために使用され得る。代替的に、本発明のADCは、異なるレベルのHER2を発現する異なる腫瘍細胞集団が存在する、性質が不均質ながんを処置するために使用され得る。
【0172】
V.B.HER2検出法
腫瘍上のHER2発現レベルを評価するための最良の方法に関する態様は議論されており、臨床的意義は概説されている(Sauterら、2009、J Clin Oncol.27:1323〜33;Wolffら、2007、J Clinical Oncology 25:118〜45;Wolffら、2013、J Clinical Oncology 31:3997〜4014)。現在、HER2状態は、免疫組織化学(IHC)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)および発色性in situハイブリダイゼーション(CISH)によって評価され得る。
【0173】
IHCは、細胞膜上のHER2タンパク質発現を同定する。結果は通常、0+(発現なし)から3+(高い発現)までの範囲の半定量的スコアリングシステムを使用して表現される。なし(0+)または低いレベル(1+)の発現を示す腫瘍は、HER2陰性とみなされる;逆もまた同様であり、高いレベル(3+)の発現を示す腫瘍は、HER2陽性とみなすべきである。この方法は、経済的に有利であり、容易に利用可能であるが、低い感度および高い観察者間変動に悩まされている(Gancbergら、2002、Breast Cancer Res Treat.74:113〜20)。
【0174】
IHCを使用したHER2検出のための4つのFDA承認された市販のキットが入手可能である:HercepTest(商標)(Dako Denmark A/Sによる);Pathway(Ventana Medical Systems,Inc.による);Insite HER2/NEUキット(Biogenex Laboratories,Inc.による)およびBond Oracle HER2 IHC System(Leica Biosystemsによる)。これらは、HER2発現レベルを以下へと層別化する、高度に標準化された半定量的アッセイである;0(細胞1つ当たり<20,000の受容体、視認できる発現なし)、1+(細胞1つ当たり約100,000の受容体、部分的な膜染色、HER−2を過剰発現する細胞<10%)、2+(細胞1つ当たり約500,000の受容体、薄い〜中程度の完全な膜染色、HER−2を過剰発現する細胞>10%)、および3+(細胞1つ当たり約2,000,000の受容体、強い完全な膜染色、HER−2を過剰発現する細胞>10%)。細胞質発現の存在は無視される。
【0175】
FISHは、DNAプローブを用いてHER2遺伝子増幅を検出し、IHCよりも特異的かつ高感度である(Owensら、2004、Clin Breast Cancer.5:63〜69;Pressら、2005、Clin Cancer Res.11:6598〜6607;Vogelら、2002、J Clinical Oncology 20(3):719〜726)。FISHは、第17染色体セントロメア1つ当たりのHER2遺伝子コピーの数についての定量的結果を提供する。結果は、HER2シグナル対第17染色体セントロメアシグナルの数の比として報告される。1.8未満の比は、正常範囲内とみなされる。1.8〜2.0の比は曖昧であり、さらなる試験を必要とする。2.0よりも大きい比は、HER2遺伝子配列の増幅と一致する。
【0176】
FISHを使用したHER2検出のための4つのFDA承認された市販のキットが入手可能である:HER2 FISH Pharm Dx(商標)キット(Dako Denmark A/Sによる);Pathvysion HER2 DNA Probe Kit(Abbott Molecular Inc.による);Inform HER2/NEUおよびInform HER2 Dual ISH DNA Probe Cocktail(共にVentana Medical Systems,Inc.による)。
【0177】
HER2遺伝子増幅を評価するための別の方法は、CISHである。CISHは、標準的な明視野顕微鏡下で可視化される従来のペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ反応を利用すること以外、FISHと非常に類似している。CISHを使用したHER2検出のための2つのFDA承認された市販のキットが入手可能である:HER2 CISH PharmDx Kit(Dako Denmark A/Sによる)およびSpot−Light HER2 CISH Kit(Life Technologies,Inc.による)。
【0178】
FISHまたはCISHによって検出される遺伝子増幅およびIHCによるタンパク質発現は共に、HER2状態を評価するための最初の試験として一般に使用されている。これら2つの方法間には良好な相関が存在する(Jacobsら、1999、J Clinical Oncology 17(7):1974〜82)。しかし、腫瘍が曖昧としてスコアされる場合(即ち、IHC 2+、または1.8〜2.2のFISH/CISH比、または核1つ当たり4〜6シグナルの平均HER2遺伝子コピー数)、共通のアプローチは、代替的な方法を用いて腫瘍を試験することである(Wolffら、2007、J Clinical Oncology 25:118〜45)。
【0179】
従って、HER2発現は、免疫組織化学(IHC)によって決定される3+のレベルおよび/または≧2.0の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)増幅比で、腫瘍において高いとみなされる。HER2発現は、免疫組織化学(IHC)によって決定される2+のレベルおよび/または<2.0の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)増幅比で、腫瘍において中程度とみなされる。HER2発現は、免疫組織化学(IHC)によって決定される1+のレベルおよび/または<2.0の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)増幅比で、腫瘍において低いとみなされる。
【0180】
一実施形態では、HER2レベルは、IHCによって決定される。より具体的な実施形態では、IHCは、Dako Hercptest(商標)アッセイを使用して実施される。
【0181】
別の実施形態では、HER2レベルは、FISHによって決定される。より具体的な実施形態では、FISHは、Dako HER2 FISH Pharm Dx(商標)アッセイを使用して実施される。
【0182】
代表的な腫瘍サンプルには、腫瘍細胞を含む任意の生物学的または臨床的サンプル、例えば、組織サンプル、生検、血液サンプル、血漿サンプル、唾液サンプル、尿サンプルなどが含まれる。
【0183】
VI.製剤
本発明は、本明細書に開示される部位特異的HER2抗体薬物コンジュゲートのいずれかと薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物を提供する。さらに、組成物は、本明細書に開示される部位特異的HER2 ADCのうち1つよりも多くを含み得る。
【0184】
本発明において使用される組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、薬学的に許容できる担体、賦形剤または安定剤(Remington:The Science and practice of Pharmacy 第21版、2005、Lippincott Williams and Wilkins、K.E.Hoover編)をさらに含み得る。許容できる担体、賦形剤または安定剤は、投薬量および濃度でレシピエントにとって非毒性であり、それには、バッファー、例えば、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリジン;グルコース、マンノースもしくはデキストランを含む、単糖、二糖および他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)が含まれ得る。「薬学的に許容できる塩」とは、本明細書で使用する場合、分子または高分子の薬学的に許容できる有機または無機塩を指す。薬学的に許容できる賦形剤は、本明細書にさらに記載される。
【0185】
1つまたは複数の薬学的に許容できる賦形剤を含む製剤が含まれるがこれらに限定されない、1つまたは複数の部位特異的HER2 ADCの種々の製剤が、投与のために使用され得る。薬学的に許容できる賦形剤は、当該分野で公知であり、薬理学的に有効な物質の投与を促進する比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形態もしくは堅牢性を与え得、または希釈剤として作用し得る。適切な賦形剤には、安定化剤、湿潤および乳化剤、モル浸透圧濃度を変動させるための塩、カプセル化剤、バッファーおよび皮膚浸透増強剤が含まれるがこれらに限定されない。非経口および経口(nonparenteral)薬物送達のための賦形剤ならびに製剤は、Remington、The Science and Practice of Pharmacy 第20版 Mack Publishing、2000に示されている。
【0186】
本発明の一部の態様では、これらの薬剤は、注射(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内など)による投与のために製剤化される。従って、これらの薬剤は、薬学的に許容できるビヒクル、例えば、生理食塩水、リンゲル溶液、デキストロース溶液などと組み合わされ得る。特定の投薬レジメン、即ち、用量、タイミングおよび反復は、特定の個体およびその個体の病歴に依存する。
【0187】
本発明に従って使用される部位特異的HER2 ADCの治療的製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、所望の程度の純度を有するADCを、任意選択による薬学的に許容できる担体、賦形剤または安定剤(Remington、The Science and Practice of Pharmacy 第21版 Mack Publishing、2005)と混合することによって、貯蔵のために調製される。許容できる担体、賦形剤または安定剤は、使用される投薬量および濃度でレシピエントにとって非毒性であり、それには、バッファー、例えば、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸;塩、例えば、塩化ナトリウム;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチンもしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンもしくはリジン;グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む、単糖、二糖および他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)が含まれ得る。
【0188】
部位特異的HER2 ADCを含むリポソームは、例えば、Eppsteinら、1985、PNAS 82:3688〜92;Hwangら、1908、PNAS 77:4030〜4;ならびに米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号に記載される、当該分野で公知の方法によって調製され得る。増強された循環時間を有するリポソームは、米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって生成され得る。リポソームは、所望の直径を有するリポソームを得るために、規定された孔サイズのフィルターを介して押し出される。
【0189】
活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術もしくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースもしくはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)中、またはマクロエマルジョン中に捕捉され得る。かかる技術は、Remington、The Science and Practice of Pharmacy 第21版 Mack Publishing、2005に開示されている。
【0190】
徐放性調製物が調製され得る。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれ、これらのマトリックスは、成形物品、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸および7エチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸リュープロリドから構成される注射可能なミクロスフェア)、イソ酪酸酢酸スクロース、ならびにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0191】
in vivo投与に使用される製剤は、無菌でなければならない。これは、例えば、無菌濾過メンブレンを介した濾過によって容易に達成される。治療的な部位特異的HER2 ADC組成物は一般に、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアル中に配置される。
【0192】
適切な表面活性剤には、特に、非イオン性薬剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、TWEEN(商標)20、40、60、80または85)および他のソルビタン(例えば、Span(商標)20、40、60、80または85)が含まれる。表面活性剤を含む組成物は、0.05%と5%との間の表面活性剤を簡便には含み、0.1%と2.5%との間であり得る。必要に応じて、他の成分、例えば、マンニトールまたは他の薬学的に許容できるビヒクルが添加され得ることが理解される。
【0193】
適切なエマルジョンは、市販の脂肪エマルジョン、例えば、INTRALIPID(商標)、LIPOSYN(商標)、INFONUTROL(商標)、LIPOFUNDIN(商標)およびLIPIPHYSAN(商標)を使用して調製され得る。活性成分は、予め混合されたエマルジョン組成物中に溶解され得る、または代替的に、油(例えば、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油またはアーモンド油)、ならびにリン脂質(例えば、卵リン脂質、ダイズリン脂質またはダイズレシチン)および水との混合の際に形成されるエマルジョン中に溶解され得る。エマルジョンの浸透圧を調整するために、他の成分、例えば、グリセロールまたはグルコースが添加され得ることが理解される。適切なエマルジョンは、典型的には、最大で20%の油、例えば、5%と20%との間の油を含む。脂肪エマルジョンは、0.1μmと1.0μmとの間、特に、0.1μmと0.5μmとの間の脂肪滴を含み得、5.5〜8.0の範囲のpHを有し得る。エマルジョン組成物は、部位特異的HER2 ADCをINTRALIPID(商標)またはその構成要素(ダイズ油、卵リン脂質、グリセロールおよび水)と混合することによって調製されたものであり得る。
【0194】
本発明は、本方法における使用のためのキットもまた提供する。本発明のキットは、本明細書に記載される1つまたは複数の部位特異的HER2 ADCを含む1つまたは複数の容器と、本明細書に記載される本発明の方法のいずれかに従う使用についての指示とを含む。一般に、これらの指示は、上記治療的処置のための部位特異的HER2 ADCの投与の説明を含む。
【0195】
本明細書に記載される部位特異的HER2 ADCの使用に関する指示は、一般に、意図した処置のための投薬量、投薬スケジュールおよび投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、多用量パッケージ)またはサブ単位用量であり得る。本発明のキット中に提供される指示は、典型的には、ラベルまたは添付文書(例えば、キット中に含まれる紙シート)上の書面による指示であるが、機械可読指示(例えば、磁気または光学記憶ディスク上に保持される指示)もまた許容できる。
【0196】
本発明のキットは、適切な包装中にある。適切な包装には、バイアル、ビン、ジャー、可撓性包装(例えば、密封Mylarまたはプラスチックバッグ)などが含まれるがこれらに限定されない。特定のデバイス、例えば、ミニポンプなどの注入デバイスと組み合わせた使用のためのパッケージもまた企図される。キットは、無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る)。容器もまた、無菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1種の活性薬剤は、部位特異的HER2 ADCである。容器は、第2の薬学的に活性な薬剤をさらに含み得る。
【0197】
キットは、さらなる構成要素、例えば、バッファーおよび説明情報を、任意選択により提供し得る。通常、キットは、容器、および容器上のまたは容器と関連するラベルまたは添付文書(複数可)を含む。
【0198】
VII.用量および投与
in vivo適用のために、部位特異的HER2 ADCは、有効投薬量で提供または投与される。語句「有効投薬量」または「有効量」とは、本明細書で使用する場合、直接的または間接的のいずれかで任意の1つまたは複数の有益なまたは所望の治療結果を達成するために必要な薬物、化合物または医薬組成物の量を指す。例えば、がん保有対象に投与する場合、有効投薬量は、がん細胞細胞溶解、がん細胞増殖の阻害、がん細胞アポトーシスの誘導、がん細胞抗原の低減、遅延された腫瘍成長および/または転移の阻害を含む抗がん活性を惹起するのに十分な量を含む。腫瘍の縮小は、有効性についての臨床的な代用マーカーとして十分に受容されている。有効性についての別の十分に受容されたマーカーは、無増悪生存期間である。
【0199】
有効投薬量は、1回または複数の投与で投与され得る。薬物、化合物または医薬組成物の有効投薬量は、別の薬物、化合物または医薬組成物と併せて達成されてもされなくてもよい。従って、有効投薬量は、1つまたは複数の治療剤を投与するという観点から検討され得、単一の薬剤は、1つまたは複数の他の薬剤と組み合わせて所望の結果が達成され得るまたは達成される場合、有効量で与えられているとみなされ得る。
【0200】
部位特異的HER2 ADCは、任意の適切な経路を介して個体に投与され得る。本明細書に記載される例は、利用可能な技術の限定ではなく例示であることを意図することが、当業者に理解されるはずである。従って、本発明の一部の態様では、部位特異的HER2 ADCは、例えば、静脈内投与、例えば、ボーラスとして、または一定期間にわたる継続注入によって、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、頭蓋内、経皮、皮下、関節内、舌下、滑液包内(intrasynovial)、送気(insufflation)を介して、くも膜下腔内、経口、吸入もしくは外用経路によって、公知の方法に従って個体に投与される。投与は、全身性、例えば、静脈内投与、または限局性であり得る。ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含む、液体製剤のための市販のネブライザーが、投与に有用である。液体製剤は、直接噴霧され得、凍結乾燥粉末は、復元後に噴霧され得る。代替的に、部位特異的HER2 ADCは、フルオロカーボン製剤および定量噴霧式吸入器を使用してエアロゾル化され得、または凍結乾燥および製粉された粉末として吸入され得る。
【0201】
本発明の一部の態様では、部位特異的HER2 ADCは、部位特異的または標的化局所送達技術を介して投与される。部位特異的または標的化局所送達技術の例には、部位特異的HER2 ADCの種々の移植可能なデポー供給源、または局所送達カテーテル、例えば、注入カテーテル、留置カテーテルもしくはニードルカテーテル、合成グラフト、外膜ラップ(adventitial wrap)、シャントおよびステントもしくは他の移植可能なデバイス、部位特異的担体、直接注射、または直接適用が含まれる。例えば、PCT国際公開番号WO2000/53211および米国特許第5,981,568号を参照のこと。
【0202】
本発明の目的のために、部位特異的HER2 ADCの適切な投薬量は、使用される特定のADC(またはその組成物)、処置される症状の型および重症度、治療目的で薬剤が投与されるかどうか、以前の治療、患者の臨床歴および薬剤に対する応答、投与された薬剤に対する患者のクリアランス速度、ならびに担当医の裁量に依存する。臨床医は、所望の結果を達成する投薬量に達するまでおよびそれを超えて、部位特異的HER2 ADCを投与してもよい。用量および/または頻度は、処置の過程にわたって変動し得るが、一定であってもよい。経験的考慮事項、例えば半減期は、一般に、投薬量の決定に寄与する。例えば、ヒト免疫系と適合性の抗体、例えば、ヒト化抗体または完全ヒト抗体は、抗体の半減期を延長させるため、および抗体が宿主の免疫系によって攻撃されるのを防止するために使用され得る。投与の頻度は、治療の過程にわたって決定および調整され得、症状の処置および/または抑制および/または改善、例えば、腫瘍成長の阻害または遅延などに一般に基づくが、必ず基づくわけではない。代替的に、部位特異的HER2 ADCの継続徐放製剤が適切であり得る。徐放を達成するための種々の製剤およびデバイスが当該分野で公知である。
【0203】
一般に、部位特異的HER2 ADCの投与のために、初回候補投薬量は、約2mg/kgであり得る。本発明の目的のために、典型的な一日投薬量は、約3μg/kgから30μg/kgから300μg/kgから3mg/kgまで、30mg/kgまで、100mg/kgまでまたはそれよりも多くまでのいずれかの範囲であり得る。例えば、約1mg/kg、約2.5mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kgおよび約25mg/kgの投薬量が使用され得る。数日間またはより長きにわたる反復投与のために、障害に依存して、処置は、症状の所望の抑制が生じるまで、または十分な治療的レベルに達するまで、例えば、腫瘍成長/進行またはがん細胞の転移を阻害または遅延させるまで、持続される。例示的な投薬レジメンは、約2mg/kgの初回用量と、その後の約1mg/kgの部位特異的HER2 ADCの1週間に1回の維持用量、またはその後の2週間に1回の約1mg/kgの維持用量とを投与することを含む。他の例示的な投薬レジメンは、漸増用量(例えば、1mg/kgの初回用量、および1週間またはより長い期間に1回の1つまたは複数のより高い用量までの漸進的増加)を投与することを含む。他の投薬量レジメンもまた、実施者が達成したいと望む薬物動態学的減衰のパターンに依存して、有用であり得る。例えば、本発明の一部の態様では、1週間に1回〜4回の投薬が企図される。他の態様では、1カ月に1回または2カ月に1回、または3カ月に1回の投薬、ならびに1週間に1回、2週間に1回および3週間に1回の投薬が企図される。この治療の進展は、従来の技術およびアッセイによって容易にモニターされ得る。投薬レジメン(使用される特定の部位特異的HER2 ADCを含む)は、経時的に変動し得る。
【0204】
VIII.併用療法
本発明の一部の態様では、本明細書に記載される方法は、さらなる形態の治療で対象を処置するステップをさらに含む。一部の態様では、さらなる形態の治療は、化学療法、放射線照射、手術、ホルモン治療、および/またはさらなる免疫療法が含まれるがこれらに限定されないさらなる抗がん治療である。
【0205】
開示された部位特異的HER2 ADCは、初回処置として、または従来の治療に対して応答性でないがんの処置のために、投与され得る。さらに、部位特異的HER2 ADCは、それによって付加的もしくは強化された治療効果を惹起するため、および/または一部の抗がん剤の細胞傷害性を低減させるために、他の治療(例えば、外科的切除、放射線照射、さらなる抗がん薬物など)と組み合わせて使用され得る。本発明の部位特異的HER2 ADCは、さらなる薬剤と共投与もしくは共製剤化され得る、または任意の順序でのさらなる薬剤との連続投与のために製剤化され得る。
【0206】
本発明の部位特異的HER2 ADCは、治療的抗体、ADC、免疫調節性剤、細胞傷害剤および細胞分裂停止剤が含まれるがこれらに限定されない他の治療剤と組み合わせて使用され得る。細胞傷害効果とは、標的細胞(即ち、腫瘍細胞)の枯渇、排除および/または死滅を指す。細胞傷害剤とは、細胞に対して細胞傷害および/または細胞分裂停止効果を有する薬剤を指す。細胞分裂停止効果とは、細胞増殖の阻害を指す。細胞分裂停止剤とは、細胞に対して細胞分裂停止効果を有し、それによって、細胞(即ち、腫瘍細胞)の特定のサブセットの成長および/または拡大増殖を阻害する薬剤を指す。免疫調節性剤とは、サイトカインおよび/もしくは抗体の産生ならびに/またはT細胞機能をモジュレートすることを介して免疫応答を刺激し、それによって、直接的、または別の薬剤をより効果的にすることによって間接的のいずれかで、細胞(即ち、腫瘍細胞)のサブセットの成長を阻害するまたは低減させる薬剤を指す。
【0207】
併用療法のために、部位特異的HER2 ADCおよび/または1つもしくは複数のさらなる治療剤は、意図した治療の実施に適切な任意の時間枠内で投与される。従って、単一の薬剤は、実質的に同時に(即ち、単一の製剤として、または数分もしくは数時間以内)、または任意の順序で連続的に投与され得る。例えば、単一薬剤処置は、互いに約1年以内、例えば、約10、8、6、4もしくは2カ月以内、または4、3、2もしくは1週間(複数可)以内、または約5、4、3、2もしくは1日(複数可)以内に投与され得る。
【0208】
開示された併用療法は、相乗的治療効果、即ち、それらの個々の効果もしくは治療転帰の合計よりも大きい効果を惹起し得る。例えば、相乗的治療効果は、単一の薬剤によって惹起される治療効果、または所与の組み合わせの単一の薬剤によって惹起される治療効果の合計よりも、少なくとも約2倍大きい、または少なくとも約5倍大きい、もしくは少なくとも約10倍大きい、もしくは少なくとも約20倍大きい、もしくは少なくとも約50倍大きい、もしくは少なくとも約100倍大きい効果であり得る。相乗的治療効果は、単一の薬剤によって惹起される治療効果、または所与の組み合わせの単一の薬剤によって惹起される治療効果の合計と比較して、少なくとも10%、または少なくとも20%、もしくは少なくとも30%、もしくは少なくとも40%、もしくは少なくとも50%、もしくは少なくとも60%、もしくは少なくとも70%、もしくは少なくとも80%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも100%もしくはそれより大きい、治療効果における増加としても観察され得る。相乗効果はまた、組み合わせて使用される場合のそれらの治療剤の低減された投薬を可能にする効果である。
【実施例】
【0209】
以下の実施例は、例示的目的に限って提供され、本発明の範囲を決して制限しないことが意図される。実際に、本明細書に示され、および記載される実施形態に加えて本発明の様々な修飾は、以下の説明から当業者には明らかであり、それらは添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0210】
(実施例1)
部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導抗体の調製
A.システインを介したコンジュゲーション
システイン残基を通しての部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導体を調製する方法は、一般的にPCT出願国際公開第2013/093809号(全体が本明細書に組み込まれている)に記載されるように実施した。軽鎖(Kabat番号付けスキームを使用して183位)または重鎖(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用して290、334、392、および/または443位)のいずれかの1つまたは複数の残基を、部位指定変異誘発によってシステイン(C)残基に変更した。
【0211】
B.トランスグルタミナーゼを介したコンジュゲーション
グルタミン残基を通しての部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導体を調製する方法は、一般的にPCT出願国際公開第2012/059882号全体が本明細書に組み込まれている)に記載されるように実施した。トラスツズマブを、3つの異なる方法で、コンジュゲーションのために使用されるグルタミン残基を発現するように操作した。
【0212】
第一の方法に関して、グルタミン残基を含む8アミノ酸残基のタグ(LCQ05)を軽鎖(即ち、配列番号81)のC末端に結合させた。
【0213】
第二の方法に関して、重鎖上の残基(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用して297位)を、部位指定変異誘発によって、アスパラギン(N)からグルタミン(Q)残基に変更した。
【0214】
第三の方法に関して、重鎖上の残基(Kabat番号付けシステムのEUインデックスを使用して297位)を、アスパラギン(N)からアラニン(A)残基に変更した。これによって、297位での脱グリコシル化が起こり、295位でアクセス可能な/反応性の内因性グルタミンが得られる。
【0215】
加えて、トラスツズマブ誘導体のいくつかは、コンジュゲーションのために使用されない変更を有する。重鎖の222位(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用する)での残基をリジン(K)からアルギニン(R)残基に変更した。K222R置換によって、より均質な抗体およびペイロードコンジュゲート、抗体とペイロードとの間のより良好な分子間架橋、および/または抗体軽鎖のC末端でのグルタミンタグとの鎖間架橋の有意な減少が得られることが見出された。
【0216】
(実施例2)
トラスツズマブ誘導抗体を発現する安定にトランスフェクトされた細胞の産生
A.システイン変異体
一重および二重システイン操作トラスツズマブ誘導抗体バリアントが、細胞において安定に発現され、大規模に産生され得ることを決定するために、CHO細胞に、9個のトラスツズマブ誘導抗体バリアント(T(kK183C)、T(K290C)、T(K334C)、T(K392C)、T(kK183C+K290C)、T(kK183C+K392C)、T(K290C+K334C)、T(K334C+K392C)およびT(K290C+K392C))をコードするDNAをトランスフェクトして、安定な高い産生プールを、当技術分野で周知の標準的な手順を使用して単離した。コンジュゲーション試験のためにT(kK183C+K334C)を産生するために、HEK−293細胞(ATCC受託番号CRL−1573)に、標準的な方法を使用してこの二重システイン操作抗体バリアントをコードする重鎖および軽鎖DNAを一過性に同時トランスフェクトした。2カラムプロセス、即ち、プロテインA親和性による捕捉の後にTMAEカラム、または3カラムプロセス、即ちプロテインA親和性による捕捉の後にTMAEカラム、次いでCHA−TIカラムを使用して、濃縮CHOプール出発材料からこれらのトラスツズマブバリアントを単離した。これらの精製プロセスを使用すると、全てのシステイン操作トラスツズマブ誘導抗体バリアント調製物は、分析的サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合に>97%の目的のピーク(POI)を含んだ(表5)。表5に示すこれらの結果は、10個全てのトラスツズマブ誘導システインバリアントに関して、プロテインA樹脂からの溶出後に許容可能なレベルの高分子量(HMW)凝集種が検出されたこと、およびこの望ましくないHMW種を、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して除去することができることを証明する。加えて、データは、ヒトIgG1定常領域におけるプロテインA結合部位が、システイン操作残基の存在によって変更されないことを証明した。
【0217】
【表5】
【0218】
(実施例3)
トラスツズマブ誘導抗体の完全性
トラスツズマブ野生型抗体と比較して重要な生物物理的特性を評価するため、およびバリアントが標準的な抗体製造プラットフォームプロセスに従うことを確実にするために、システイン操作およびトランスグルタミナーゼバリアントの分子評価を実施した。
【0219】
A.システイン変異体
安定なCHO発現を介して産生された精製システイン操作抗体バリアント調製物の完全性を決定するために、非還元キャピラリーゲル電気泳動(Caliper LabChip GXII:Perkin Elmer Waltham,MA)を使用してピークのパーセント純度を計算した。結果から、システイン操作抗体バリアントT(kK183C+K290C)およびT(K290C+K334C)が、トラスツズマブ野生型抗体と類似のように、断片および高分子量種(HMMS)の両方を低レベルで含むことが示される。これに対し、T(K334C+K392C)は、評価した他の二重操作システインバリアントと比較して高レベルの断片化抗体ピークを含んだ(表6)。これらの結果は、操作されるシステインの特定の組合せが、部位特異的コンジュゲーションに関して意図される抗体の完全性に影響を及ぼし得ることを示唆している。
【0220】
【表6】
【0221】
(実施例4)
ペイロード薬物化合物の生成
オーリスタチン薬物化合物0101、0131、8261、6121、8254および6780を、PCT出願国際公開第2013/072813号(全体が本明細書に組み込まれている)に記載の方法に従って作製した。公開された出願において、オーリスタチン化合物は、表7に示される番号付けシステムによって示される。
【0222】
【表7】
【0223】
PCT出願国際公開第2013/072813号に従って、薬物化合物0101を以下の手順に従って作製した。
【0224】
【化1】
【0225】
ステップ1.N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]−2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(#53)の合成。一般手順Dに従って、ジクロロメタン(20mL、0.1M)およびN,N−ジメチルホルムアミド(3mL)中の#32(2.05g、2.83mmol、1当量)、アミン#19(2.5g、3.4mmol、1.2当量)、HATU(1.29g、3.38mmol、1.2当量)、ならびにトリエチルアミン(1.57mL、11.3mmol、4当量)から、粗製の所望の材料を合成し、これをシリカゲルクロマトグラフィー(勾配:ヘプタン中の0%〜55%アセトン)によって精製し、#53(2.42g、74%)を固体として得た。LC−MS:m/z965.7[M+H]、987.6[M+Na]、保持時間=1.04分;HPLC(プロトコールA):m/z965.4[M+H]、保持時間=11.344分(純度>97%);H NMR(400MHz、DMSO−d)、回転異性体の混合物と思われる、特徴的シグナル:δ 7.86-7.91 (m, 2H), [7.77 (d, J=3.3 Hz)および7.79 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.67-7.74 (m, 2H),
[7.63 (d, J=3.2 Hz)および7.65 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.38-7.44 (m, 2H), 7.30-7.36 (m, 2H), 7.11-7.30 (m, 5H), [5.39
(ddd, J=11.4, 8.4, 4.1 Hz)および5.52 (ddd, J=11.7, 8.8,
4.2 Hz), 計1H], [4.49 (dd, J=8.6, 7.6 Hz)および4.59 (dd, J=8.6, 6.8 Hz), 計1H], 3.13, 3.17,
3.18および3.24 (4 s, 計6H), 2.90および3.00 (2 br s, 計3H), 1.31および1.36 (2 br s, 計6H), [1.05 (d, J=6.7 Hz)および1.09 (d, J=6.7 Hz), 計3H].
【0226】
ステップ2.2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(#54または0101)の合成。一般手順Aに従って、ジクロロメタン(10mL、0.07M)中の#53(701mg、0.726mmol)から、粗製の所望の材料を合成し、これをシリカゲルクロマトグラフィー(勾配:ジクロロメタン中の0%〜10%メタノール)によって精製した。残基をジエチルエーテルおよびヘプタンで希釈し、減圧下で濃縮して#54(または0101)(406mg、75%)を白色固体として得た。LC−MS:m/z743.6[M+H]、保持時間=0.70分;HPLC(プロトコールA):m/z743.4[M+H]、保持時間=6.903分(純度>97%);H NMR(400MHz、DMSO−d)、回転異性体の混合物と思われる、特徴的シグナル:δ [8.64 (br d, J=8.5 Hz)および8.86 (br d, J=8.7 Hz), 計1H], [8.04 (br d,
J=9.3 Hz)および8.08 (br d, J=9.3 Hz), 計1H], [7.77 (d, J=3.3 Hz)および7.80 (d, J=3.2
Hz), 計1H], [7.63 (d, J=3.3 Hz)および7.66 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.13-7.31 (m, 5H),
[5.39 (ddd, J=11, 8.5, 4 Hz)および5.53 (ddd, J=12, 9, 4
Hz), 計1H], [4.49 (dd, J=9, 8 Hz)および4.60 (dd, J=9, 7 Hz), 計1H], 3.16, 3.20, 3.21および3.25 (4 s, 計6H), 2.93および3.02 (2 br s, 計3H), 1.21 (s, 3H), 1.13および1.13 (2 s, 計3H), [1.05 (d, J=6.7 Hz)および1.10 (d, J=6.7 Hz), 計3H], 0.73-0.80 (m, 3H).
【0227】
薬物化合物MMAD、MMAE、およびMMAFは、PCT公開国際公開第2013/072813号に開示の方法に従って、組織内で作製した。
【0228】
薬物化合物DM1は、米国特許第5,208,020号に概要される手順を介して、購入したメイタンシノールから組織内で作製した。
【0229】
(実施例5)
トラスツズマブ誘導抗体のバイオコンジュゲーション
本発明のトラスツズマブ誘導抗体を、リンカーを介してペイロードにコンジュゲートし、ADCを生成した。使用したコンジュゲーション法は、部位特異的(即ち、特定のシステイン残基または特定のグルタミン残基を介して)であるか、または従来のコンジュゲーションのいずれかであった。
【0230】
A.システイン部位特異的
表8のADCを、以下に記載のシステイン部位特異的方法を介してコンジュゲートした。
【0231】
【表8】
【0232】
500mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)溶液(50〜100モル当量)を、20mM EDTAを含むPBS中で最終抗体濃度が5〜15mg/mLとなるように、抗体(5mg)に添加した。反応を37℃で2.5時間静置した後、抗体を、ゲル濾過カラム(PD−10脱塩カラム、GE Healthcare)を使用して5mM EDTAを含むPBSに緩衝液交換した。5mM EDTAを含むPBS中の得られた抗体(5〜10mg/mL)を、1:1 PBS/EtOH(DHAの最終濃度=1mM〜4mM)中で新たに調製した50mM DHA溶液によって処置し、4℃で一晩静置した。
【0233】
抗体/DHA混合物を、5mM EDTAを含むPBS(平衡緩衝液のpHを、リン酸を使用して約7.0に調節した)に緩衝液交換し、分子量50kDカットオフの遠心濃縮装置を使用して濃縮した。5mM EDTAを含むPBS(抗体濃度約5〜10mg/mL)中の得られた抗体を、DMA中の10mMマレイミドペイロードの5〜7モル当量によって処置した。1.5〜2.5時間静置した後、材料を緩衝液交換した(PD−10)。SECによる精製を実施して(必要に応じて)、いかなる凝集材料および残っている遊離のペイロードを除去した。
【0234】
B.トランスグルタミナーゼ部位特異的
表9のADCを、以下に記載のトランスグルタミナーゼ部位特異的方法を介してコンジュゲートした。
【0235】
【表9】
【0236】
トランスアミド化反応において、抗体上のグルタミンはアシルドナーとして作用し、アミン含有化合物はアシルアクセプター(アミンドナー)として作用した。濃度33μMの精製HER2抗体を、特記しない限り、0.31mM還元グルタチオンと共に150mM塩化ナトリウムおよびpH範囲7.5〜8のTris HCl緩衝液中で2重量体積%ストレプトベルチシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)トランスグルタミナーゼ(ACTIVA(商標)、味の素、日本)の存在下、10〜25M過剰量のアシルアクセプター、33〜83.3μMの範囲のAcLysvc−0101と共にインキュベートした。反応条件を個々のアシルドナーに関して調整し、T(LCQ05+K222R)は、還元グルタチオンを含まない10M過剰量のアシルアクセプターpH8.0を使用し、T(N297Q+K222R)およびT(N297Q)は、20M過剰量のアシルアクセプターpH7.5を使用し、ならびにT(N297A+K222R+LCQ05)は、25M過剰量のアシルアクセプターpH7.5を使用した。37℃で16〜20時間インキュベートした後、抗体を、市販のアフィニティクロマトグラフィーおよびGE Healthcare社製疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの、当業者に公知の標準的なクロマトグラフィー方法を使用して、MabSelect SuReO樹脂または高性能ブチルセファロース(GE Healthcare、Piscataway、NJ)において精製した。
【0237】
C.従来のコンジュゲーション
表10および11のADCを、以下に記載の従来のコンジュゲーション方法を介してコンジュゲートした。
【0238】
【表10】
【0239】
【表11】
【0240】
抗体をダルベッコリン酸緩衝溶液(DPBS、Lonza)中で透析した。透析した抗体を5mM 2,2’,2’’,2’’’−(エタン−1,2−ジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、pH7を含むPBSによって15mg/mLに希釈した。得られた抗体を、2〜3当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、蒸留水中で5mM)によって処置し、37℃で1〜2時間静置した。室温に冷却後、ジメチルアセトアミド(DMA)を添加して10体積%の総有機相を得た。混合物を、DMA中の10mM保存溶液として8〜10当量の適切なリンカーペイロードによって処置した。反応を室温で1〜2時間静置した後、GE Healthcare社製Sephadex G−25緩衝液交換カラムを使用して製造元の指示に従って、DPBS(pH7.4)に緩衝液交換した。
【0241】
閉環状態で残すべき材料(表10のADC)を、GE Superdex200カラムを備えるGE AKTA Explorerシステムおよび溶出液としてのPBS(pH7.4)を使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。最終試料を約5mg/mLタンパク質となるように濃縮し、濾過滅菌して、以下に概要する質量分析条件を使用して担持をチェックした。
【0242】
スクシンイミド環加水分解のために使用した材料(表11のADC)を、限外濾過装置(50kD分子量カットオフ)を使用して50mMホウ酸緩衝液(pH9.2)に直ちに緩衝液交換した。得られた溶液を45℃に48時間加熱した。得られた溶液を冷却し、PBSに緩衝液交換し、いかなる凝集材料も除去するためにSEC(以下に記載)によって精製した。最終試料を約5mg/mLタンパク質となるように濃縮し、濾過滅菌して、以下に概要される質量分析条件を使用して担持をチェックした。
【0243】
D.T−DM1コンジュゲーション
トラスツズマブ−メイタンシノイドコンジュゲート(T−DM1)は、トラスツズマブ−エムタンシン(Kadcyla(登録商標))と構造的に類似である。T−DM1は、二機能性リンカーであるスルホスクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を通してDM1メンタンシノイドに共有結合したトラスツズマブ抗体で構成される。スルホ−SMCCを最初に、50mMリン酸カリウム、2mM EDTA、pH6.8中、10:1の反応化学量論で抗体上の遊離のアミンに25℃で1時間コンジュゲートし、次に非結合リンカーをコンジュゲート抗体から脱塩する。次に、この抗体−MCC中間体を、50mMリン酸カリウム、50mMNaCl、2mM EDTA、pH6.8中、10:1の反応化学量論でMCCリンカー抗体上の遊離のマレイミド末端でDM1スルフィドに25℃で一晩コンジュゲートする。次に、残っている未反応のマレイミドを、L−システインでキャッピングし、Superdex200カラムを通してADCを分画し、非モノマー種を除去する(Chariら、1992,Cancer Res 52:127〜31)。
【0244】
(実施例6)
ADCの精製
ADCを以下に記載のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して一般的に精製および特徴付けした。意図されるコンジュゲーションの部位への薬物の担持を、以下により詳しく記載するように、質量分析(MS)、逆相HPLC、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を含む多様な方法を使用して決定した。これら3つの分析方法の組合せは、抗体上のペイロードの担持を確認および定量する多様な方法を提供し、それによってそれぞれのコンジュゲートに関してDARの正確な決定を提供する。
【0245】
A.分取用SEC
タンパク質凝集体を除去するため、および反応混合物に残っている微量のペイロード−リンカーを除去するために、Akta Explorer FPLCシステムにおいてWaters Superdex200 10/300GLカラムを使用するSECクロマトグラフィーを使用して、ADCを一般的に精製した。場合により、ADCは、SEC精製前に凝集体および低分子を含まず、したがって分取用SECに供しなかった。使用した溶出液は、流速1mL/分のPBSであった。これらの条件下で、凝集材料(室温で約10分で溶出)は、非凝集材料(室温で約15分で溶出)から容易に分離された。疎水性ペイロード−リンカーの組合せによりしばしば、SECピークの「右シフト」が起こった。いかなる特定の理論にも拘束されたくはないが、このSECピークシフトは、リンカー−ペイロードと静止相との疎水性相互作用によるものであり得る。いくつかの例において、この右シフトにより、コンジュゲートタンパク質を非コンジュゲートタンパク質から部分的に分離することができた。
【0246】
B.分析的SEC
分析的SECを、溶出液としてPBSを使用して、Agilent 1100 HPLCで実施し、ADCの純度およびモノマー状態を評価した。溶出液を、220および280nmでモニターした。カラムがTSKGel G3000SWカラム(7.8×300mm、カタログ番号R874803P)である場合、使用した移動相は、流速0.9mL/分のPBSで30分間であった。カラムがBiosepSEC3000カラム(7.8×300mm)である場合、使用した移動相は、流速1.0mL/分のPBSで25分間であった。
【0247】
(実施例7)
ADCの特徴付け
A.質量分析(MS)
試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL ADC)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合することによって、LCMS分析のための試料を調製した。混合物を室温で5分間静置した後、試料を、Agilent Poroshell300SB−C8(2.1×75mm)カラムを備えたAgilent 110 HPLCシステムに注入した。システムの温度を60℃に設定した。20%〜45%アセトニトリル水溶液(0.1%ギ酸修飾剤を含む)の5分間の勾配を利用した。溶出液を、UV(220nm)およびWaters Micromass ZQ質量分析計(ESIイオン化、コーン電圧:20V、イオン源温度:120℃;脱溶媒和温度:350℃)によってモニターした。多重荷電種を含む粗製スペクトルを、MassLynx4.1ソフトウェアパッケージ内のMaxEnt1を製造元の指示に従って使用して逆畳み込みした。
【0248】
B.抗体あたりの担持のMS定量
ADCを作製するための抗体へのペイロードの総担持を、薬物抗体比またはDARと呼ぶ。作製したADCのそれぞれに関して、DARを計算した(表12)。
【0249】
完全な溶出ウィンドウ(通常、5分)のスペクトルを、単一の合計スペクトル(即ち、試料全体のMSを表す質量スペクトル)にまとめた。ADC試料のMS結果を、同一の非担持対照抗体の対応するMSと直接比較した。これによって、担持/非担持重鎖(HC)ピークおよび担持/非担持軽鎖(LC)ピークが同定された。様々なピークの比率を使用して、以下の等式(等式1)に基づいて担持を確立することができる。計算は、一般的に有効な仮定であると決定されている、担持および非担持鎖が等しくイオン化するという仮定に基づいている。
【0250】
DARを確立するために以下の計算を実施した:
等式1:
担持=2[LC1/(LC1+LC0)]+2[HC1/(HC0+HC1+HC2)]+4[HC2/(HC0+HC1+HC2)]
式中、表記の変数は以下の相対量である:LC0=非担持軽鎖、LC1=一重担持軽鎖、HC0=非担持重鎖、HC1=一重担持重鎖、およびHC2=二重担持重鎖。当業者は、本発明が、LC2、LC3、HC3、HC4、HC5などのより高担持種を包含するためにこの計算の拡大を包含することを認識するであろう。
【0251】
以下の等式2を使用して、非操作システイン残基への担持量を推定する。操作されたFc変異体に関して、軽鎖(LC)への担持は、定義により非特異的担持であると考えられた。その上、LCのみの担持は、HC−LCジスルフィド架橋の意図されない還元の結果である(即ち、抗体は「過剰還元」された)と仮定した。大過剰量のマレイミド求電子剤をコンジュゲーション反応に使用したことを考慮して(一般的に、一重変異体に関しておよそ5当量および二重変異体に関して10当量)、軽鎖へのいかなる非特異的担持も、重鎖(即ち、切断されたHC−LCジスルフィドの他の「半分」)への対応する量の非特異的担持を伴うと仮定した。これらの仮定を考慮に入れて、以下の等式(等式2)を使用してタンパク質への非特異的担持量を推定した。
等式2
非特異的担持=4[LC1/(LC1+LC0)]
式中、表記の変数は以下の相対量である:LC0=非担持軽鎖、LC1=単一担持軽鎖。
【0252】
【表12-1】
【0253】
【表12-2】
【0254】
C.担持部位を確立するためのFabRICATOR(登録商標)によるタンパク質分解
システイン変異体ADCに関して、抗体への求電子ペイロードのいかなる非特異的担持も、「内部」システイン残基(即ち、典型的に、HC−HCまたはHC−LCジスルフィド架橋の一部である残基)とも呼ばれる「鎖間」で起こると想定される。Fcドメインにおける操作されたシステインへの求電子剤の担持と、内部システイン残基への担持(そうでなければ典型的にHC−HCまたはHC−LC間でS−S結合を形成する)とを区別するために、コンジュゲートを、抗体のFabドメインとFcドメインの間を切断することが知られているプロテアーゼによって処置した。そのような1つのプロテアーゼは、システインプロテアーゼIdeSであり、Genovis社によって「FabRICATOR(登録商標)」として販売され、von Pawel−Rammingenら、2002,EMBO J.21:1607に記載されている。
【0255】
簡単に説明すると、製造元が提案する条件に従って、ADCをFabRICATOR(登録商標)プロテアーゼによって処置し、試料を37℃で30分間インキュベートした。試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合して、混合物を室温で5分間静置することによって、試料をLCMS分析のために調製した。ヒトIgG1のこの処置によって、全て約23〜26kDの範囲のサイズである3つの抗体断片、即ち典型的にLC−HC鎖間ジスルフィド結合を形成する内部システインを含むLC断片、3つの内部システイン(このうち1つは典型的にLC−HCジスルフィド結合を形成し、他の2つのシステインは抗体のヒンジ領域に見出され、典型的に抗体の2つの重鎖の間にHC−HCジスルフィド結合を形成する)を含むN末端HC断片、および本明細書に開示の構築物において変異によって導入されているもの以外の反応性システインを含まないC末端HC断片、が得られた。試料を上記のようにMSによって分析した。LC、N末端HC、およびC末端HCの担持を定量するために、既に記載した(上記の)方法と同じ様式で担持の計算を実施した。C末端HCの担持は、「特異的」担持であると考えられるが、LCおよびN末端HCへの担持は、「非特異的」担持であると考えられる。
【0256】
担持の計算を交差チェックするために、ADCのサブセットを、以下の節により詳しく説明する代替方法(逆相高速液体クロマトグラフィー[rpHPLC]に基づくおよび疎水性相互作用クロマトグラフィー[HIC]に基づく方法)を使用して担持に関しても評価した。
【0257】
D.逆相HPLC分析
試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合することによって、試料を逆相HPLC分析のために調製した。混合物を室温で5分間静置した後、試料を、Agilent Poroshell300SB−C8(2.1×75mm)カラムを備えたAgilent 1100 HPLCシステムに注入した。システムの温度を60℃に設定して、溶出液をUV(220nmおよび280nm)によってモニターした。20%〜45%のアセトニトリル水溶液(0.1%TFA修飾剤を含む)による20分間の勾配を利用した:T=0分、25%アセトニトリル;T=2分、25%アセトニトリル;T=19分、45%アセトニトリル;およびT=20分、25%アセトニトリル。これらの条件を使用して、抗体のHCおよびLCをベースラインで分離した。この分析の結果は、LCがほとんど修飾されないままであるが(T(kK183C)およびT(LCQ05)含有抗体を除く)、HCは修飾される(データは示していない)ことを示している。
【0258】
E.疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
試料をPBSでおよそ1mg/mLに希釈することによって、化合物をHIC分析のために調製した。試料を、TSK−GELブチルNPRカラム(4.6×3.5mm、孔径2.5μm;Tosoh Biosciences、部品番号14947)を備えたAgilent 1200 HPLCへの15μlの自動注入により分析した。システムは、サーモスタットを備えた自動サンプラー、カラムヒーター、およびUV検出器を含む。
【0259】
以下のような勾配方法を使用した:
移動相A:1.5M硫酸アンモニウム、50mMリン酸水素二カリウム(pH7);移動相B:20%イソプロピルアルコール、50mMリン酸水素二カリウム(pH7);T=0分、100%A;T=12分、0%A。
【0260】
保持時間を表13に示す。選択したスペクトルを図2A〜2Eに示す。部位特異的コンジュゲーションを使用したADC(T(kK183C+K290C)−vc0101、T(K334C+K392C)−vc0101、およびT(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101)(図1A〜1C)は、主に1つのピークを示したが、従来のコンジュゲーションを使用したADC(T−vc0101およびT−DM1)(図2D〜2E)は、異なる形で担持されたコンジュゲートの混合物を示した。
【0261】
【表13】
【0262】
F.熱安定性
示差走査熱量測定(DCS)を使用して、操作されたシステインおよびトランスグルタミナーゼ抗体バリアント、ならびに対応するAur−06380101部位特異的コンジュゲートの熱安定性を決定した。この分析に関して、PBS−CMF pH7.2中で調合した試料を、オートサンプラーを備えたMicroCal VP−Capillary DSC(GE Healthcare Bio−Sciences,Piscataway,NJ)の試料トレイに分配し、10℃で5分間平衡にした後、100℃/時間の速度で110℃まで走査した。16秒間のフィルタリング期間を選択した。生データをベースラインで補正して、タンパク質濃度を標準化した。Originソフトウェア7.0(OriginLab Corporation,Northampton,MA)を使用して適切な転移回数でデータをMN2−Stateモデルに適合させた。
【0263】
全ての一重システインおよび二重システイン操作抗体バリアントならびに操作されたLCQ05アシルドナーグルタミン含有タグ抗体は、第一の融解転移(Tm1)が65℃より高いことによって決定すると、優れた熱安定性を示した(表14)。
【0264】
部位特異的コンジュゲーション方法を使用して0101にコンジュゲートしたトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体も評価して、優れた熱安定性を同様に有することが示された(表15)。しかし、T(K392C+L443C)−vc0101 ADCのTm1は、非コンジュゲート抗体と比較して−4.35℃であったことから、ペイロードのコンジュゲーションによって最も影響を受けた。
【0265】
まとめると、これらの結果は、操作されたシステインおよびアシルドナーグルタミンを含むタグ抗体バリアントがいずれも熱安定であること、およびvcリンカーを介しての0101の部位特異的コンジュゲーションが、優れた熱安定性を有するコンジュゲートを生成することを証明した。さらに、非コンジュゲート抗体と比較してT(K392C+L443C)−vc0101に関して観察されたより低い熱安定性は、vcリンカーを介しての操作されたシステイン残基の特定の組合せへの0101のコンジュゲーションがADCの安定性に影響を及ぼし得ることを示した。
【0266】
【表14】
【0267】
【表15】
【0268】
(実施例8)
HER2に対するADCの結合
A.直接結合
BT474細胞(HTB−20)をトリプシン処理して、遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に、細胞を、出発濃度1μg/mLのADCまたは非コンジュゲートトラスツズマブのいずれかの連続希釈液と共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を氷冷PBSによって2回洗浄し、抗ヒトAlexafluor 488二次抗体(カタログ番号A−11013、Life technologies)と共に30分間インキュベートした。次に、細胞を2回洗浄した後、PBSに再懸濁した。平均蛍光強度を、Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose、CA)を使用して読み取った。
【0269】
【表16】
【0270】
図3Aおよび表16に示すように、ADC T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101、T(kK183C+K290C)−vc0101、T(kK183C+K392C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101は、直接結合によってT−DM1およびトラスツズマブと類似の結合親和性を有した。このことは、本発明のADCにおける抗体への修飾およびリンカー−ペイロードの付加が結合に有意な影響を及ぼさなかったことを示している。
【0271】
B.FACSによる競合的結合
BT474細胞をトリプシン処理して、遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に、細胞を、1μg/mLトラスツズマブ−PE(eBiosciences (San Diego, CA)によりカスタム合成された1:1 PE標識トラスツズマブ)と混合した、ADCまたは非コンジュゲートトラスツズマブのいずれかの連続希釈液と共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を2回洗浄した後、PBSに再懸濁した。平均蛍光強度を、Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose、CA)を使用して読み取った。
【0272】
図3Bに示すように、ADC T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101、T(kK183C+K290C)−vc0101、T(kK183C+K392C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101は、PE標識トラスツズマブに対する競合結合によって、T−DM1およびトラスツズマブと類似の結合親和性を有した。このことは、本発明のADCにおける抗体への修飾およびリンカー−ペイロードの付加が結合に有意な影響を及ぼさなかったことを示している。
【0273】
(実施例9)
ヒトFcRnに対するADCの結合
当技術分野において、FcRnはサブタイプによらず、IgGとpH依存的に相互作用し、それが分解されるリソソーム区画に入るのを防止することによって抗体を分解から保護すると考えられている。したがって、反応性システインを野生型IgG1−Fc領域に導入する位置の選択に関して検討したのは、操作されたシステインを含む抗体のFcRn結合特性および半減期が変化するのを回避することであった。
【0274】
BiAcore(登録商標)分析を行って、ヒトFcRnに対する結合に関してトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体およびそのそれぞれのADCの定常状態親和性(KD)を決定した。BiAcore(登録商標)技術は、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCが、層の上に固定されたヒトFcRnタンパク質に結合する際のセンサーの表面層での屈折指数の変化を利用する。結合を、表面から屈折するレーザー光の表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出した。ヒトFcRnを、BirA試薬(カタログ番号:BIRA500,Avidity,LLC,Aurora,Colorado)を使用して、操作されたAvi−タグを通して特異的にビオチン化し、センサー上でのFcRnタンパク質の均一な方向が可能となるように、ストレプトアビジン(SA)センサーチップ上に固定した。次に、150mM NaCl、3mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.5%SurfactantP20を含む20mM MES(2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸pH6.0(MES−SP)中の様々な濃度のトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCをチップ表面に注入した。注入サイクルの間に、HBS−EP+0.05%SurfactantP20(GE Healthcare,Piscataway,NJ)pH7.4を使用して、表面を再生した。定常状態結合親和性を、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCに関して決定し、これらを野生型トラスツズマブ抗体(IgG1 Fc領域にシステイン変異を含まず、TGアーゼ操作タグまたはペイロードの部位特異的コンジュゲーションを含まない)と比較した。
【0275】
これらのデータは、本発明の表記の位置での操作されたシステイン残基のIgG1−Fc領域への取り込みがFcRnに対する親和性を変更しないことを証明した(表17)。
【0276】
【表17-1】
【0277】
【表17-2】
【0278】
(実施例10)
Fcγ受容体に対するADCの結合
ヒトFcγ受容体に対する部位特異的コンジュゲーションを使用したADCの結合を、ペイロードに対するコンジュゲーションが抗体依存性細胞傷害(ADCC)などの抗体関連機能性特性に影響を及ぼし得る結合を変更するか否かを理解するために評価した。FcγIIIa(CD16)はNK細胞およびマクロファージ上で発現し、抗体結合を介してのこの受容体と標的発現細胞との同時会合がADCCを惹起する。BIAcore(登録商標)分析を使用して、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体およびそのそれぞれのADCの、Fcγ受容体IIa(CD32a)、IIb(CD32b)、IIIa(CD16)、およびFcγRI(CD64)に対する結合を調べた。
【0279】
この表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイに関して、組換え型ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2/neu)細胞外ドメインタンパク質(Sino Biological Inc.,Beijing,P.R.China)をCM5チップ(GE Healthcare,Piscataway,NJ)上に固定し、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCのいずれかの約300〜400応答ユニット(RU)を捕捉した。T−DM1は、非コンジュゲートトラスツズマブ抗体と同等のFcγ受容体に対する結合特性をコンジュゲーション後も保持することが示されていることから、陽性対照としてこの評価に含めた。次に、様々な濃度のFcγ受容体、FcγIIa(CD32a)、FcγIIb(CD32b)、FcγIIIa(CD16a)およびFcγRI(CD64)を表面上に注入して、結合を決定した。
【0280】
FcγR IIa、IIb、およびIIIaは、急速なon/offレートを示し、したがってセンソグラムを定常状態モデルに適合させてKd値を得た。FcγRIは、より遅いon/offレートを示し、このためデータをカイネティックモデルに適合させてKd値を得た。
【0281】
操作されたシステイン位置290および334位でのペイロードのコンジュゲーションにより、その非コンジュゲート相対物の抗体およびT−DM1と比較して、特にCD16a、CD32a、およびCD64に対するFcγR親和性の中等度の喪失が示された(表18)。しかし、部位290、334、および392位での同時コンジュゲーションによって、T(K290C+K334C)−vc0101およびT(K334C+K392C)−vc0101に関して観察されたように、CD16a、CD32a、およびCD32bに対する親和性は実質的に失われたが、CD64に対する親和性は失われなかった(表18)。興味深いことに、T(kK183C+K290C)−vc0101は、K290C位で薬物ペイロードを有するにもかかわらず、この試験において評価した全てのFcγRに対して同等の結合を示した(表18)。予想されたように、トランスグルタミナーゼ媒介コンジュゲートT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、アシルドナーグルタミン含有タグの位置がN−結合グリコシル化を除去することから、評価したFcγ受容体のいずれにも結合しなかった。逆に、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101は、グルタミン含有タグがヒトκ軽鎖定常領域内で操作されていることから、Fcγ受容体に対する完全な結合を保持した。
【0282】
まとめると、これらの結果は、コンジュゲートされたペイロードの位置が、FcγRに対するADCの結合に影響を及ぼし得ること、およびコンジュゲートの抗体機能性に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0283】
【表18】
【0284】
(実施例11)
ADCC活性
ADCCアッセイにおいて、Her2発現細胞株BT474およびSKBR3を標的細胞として使用し、NK−92細胞(Conkwest社によって50歳の白人男性の末梢血単核球細胞から誘導されたインターロイキン−2依存的ナチュラルキラー細胞株)または健康なドナー(#179)から新たに採取した血液から単離したヒト末梢血単核球(PBMC)を、エフェクター細胞として使用した。
【0285】
標的細胞(BT474またはSKBR3)1×10個/100μl/ウェルを96ウェルプレートに入れて、RPMI1640培地中、37℃/5%COで一晩培養した。翌日、培地を除去して、アッセイ緩衝液(10mM HEPESを含むRPMI1640培地)60μlに交換し、1μg/ml抗体またはADC 20μlを添加し、その後1×10個(SKBR3に関して)または5×10個(BT474に関して)のPBMC浮遊液20μl、または両方の細胞株に関して2.5×10個のNK92細胞を各ウェルに添加して、PBMCの場合はBT474に関してエフェクター対標的比50:1もしくはSKBR3に関して25:1、またはNK92の場合は10:1を得た。試料は全て3回の反復実験で行った。
【0286】
アッセイプレートを37℃/5%COで6時間インキュベートした後、室温で平衡にした。細胞溶解によるLDH放出を、CytoTox−One(商標)試薬を使用して、励起波長560nmおよび放射波長590nmで測定した。陽性対照として、Triton 8μLを添加して、対照ウェルにおいて最大のLDH放出を生成した。図4に示す特異的細胞傷害性は、以下の式を使用して計算した。
【0287】
【数1】
「実験」は、上記の条件の1つで測定したシグナルに対応する。
「エフェクター自然放出」は、PBMC単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
「標的自然放出」は、標的細胞単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
「標的最大」は、洗浄剤溶解標的細胞単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
【0288】
図4は、トラスツズマブ、T−DM1、およびvc0101 ADCコンジュゲートに関して試験したADCC活性を示す。データは、トラスツズマブおよびT−DM1に関して報告されたADCC活性と一致する。N297Qの変異はグリコシル化部位に存在することから、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、ADCC活性を有しないと予想され、これもまたアッセイにおいて確認された。一重変異体(K183C、K290C、K334C、LCQ05を含むK392C)ADCに関しては、ADCC活性が維持された。意外にも、二重変異体(K183C+K290C、K183C+K392C、K183C+K334C、K290C+K392C、K290C+K334C、K334C+K392C)ADCに関して、ADCC活性は、K334C部位に関連する2つの二重変異体ADC(K290C+K334CおよびK334C+K392C)を除き、全て維持された。
【0289】
(実施例12)
In vitro細胞傷害アッセイ
抗体−薬物コンジュゲートを実施例3に記載のように調製した。細胞を96ウェルプレートに低密度で播種し、翌日にADCおよび非コンジュゲートペイロードを10濃度の連続3倍希釈液によって2回の反復実験で処置した。細胞を湿潤37℃/5%COインキュベータ内で4日間インキュベートした。プレートをCellTiter(登録商標)96 AQuecus One MTS溶液(Promega,Madison,WI)と共に1.5時間インキュベートすることによって採取し、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算し、図5にnMペイロード濃度で、および図6にng/mL抗体濃度で報告した。IC50値は、括弧内に独立した測定回数と共に±標準偏差で示す。
【0290】
vc−0101またはAcLysv−0101リンカーペイロードを含むADCは、基準ADCであるT−DM1(Kadcyla)と比較して、Her2陽性細胞モデルに対して非常に強力であり、Her2陰性細胞に対して選択的であった。
【0291】
トラスツズマブに対する部位特異的コンジュゲーションによって合成したADCは、Her2細胞モデルに対して高レベルの効力および選択性を示した。特に、いくつかのトラスツズマブ−vc0101 ADCは、中等度または低いHer2発現細胞モデルにおいてT−DM1より強力である。例えば、MDA−MB−175−VII細胞(1+のHer2発現を有する)におけるT(kK183C+K290C)−vc0101のin vitro細胞傷害のIC50は、351ng/mlであり、これに対しT−DM1では3626ng/ml(約10倍低い)である。MDA−MB−361−DYT2およびMDA−MB−453細胞などの2++レベルのHer2発現を有する細胞に関して、T(kK183C+K290C)−vc0101のIC50は12〜20ng/mlであり、これに対しT−DM1では38〜40ng/mlである。
【0292】
(実施例13)
異種移植片モデル
本発明のトラスツズマブ誘導ADCを、N87胃がん異種移植片モデル、37622肺がん異種移植片モデル、および多数の乳がん異種移植片モデル(即ち、HCC 1954、JIMT−1、MDA−MB−361(DYT2)、および144580(PDX)モデル)で試験した。以下に記載のそれぞれのモデルに関して、最初の用量を1日目に与えた。腫瘍を少なくとも週に1回測定し、その体積を式:腫瘍体積(mm)=0.5×(腫瘍の幅)(腫瘍の長さ)によって計算した。最大で8〜10匹、最少で6〜8匹の動物を含む各処置群の平均腫瘍体積(±S.E.M)を計算した。
【0293】
A.N87胃がん異種移植片
トラスツズマブ誘導ADCの効果を、免疫欠損マウスにおいて、高レベルのHER2発現を有するN87細胞株(ATCC CRL−5822)から確立したヒト腫瘍異種移植片のin vivo成長に関して調べた。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu,Charles River Lab,Wilmington,MA)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で7.5×10個のN87細胞を皮下移植した。腫瘍の体積が250〜450mmに達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。N87胃がんモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブADC(0.3、1、および3mg/kg)またはT−DM1(1、3、および10mg/kg)を4日間離して4回(Q4d×4)静脈内投与した(図7)。
【0294】
データは、トラスツズマブ誘導ADCがN87胃がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明する(図7A〜7H)。
【0295】
図7Iに示すように、T−DM1は、1および3mg/kgで腫瘍成長を遅らせ、10mg/kgでは腫瘍の完全な縮小を示した。しかし、T(kK183C+K290C)−vc0101は、1および3mg/kgで完全な縮小をもたらし、0.3mg/kgで部分的縮小をもたらした(図7A)。データは、T(kK183C+K290C)−vc0101が、このモデルにおいてT−DM1より有意に強力(約10倍)であることを示している。
【0296】
DAR4を有するADC(図6E、6F、および6G)について、183+290(図7A)と比較して類似のin vivo有効性が得られた。加えて、DAR2 ADCである一重変異体を評価した(図7B、7C、および7D)。一般的に、これらのADCは、DAR4 ADCと比較してあまり有効ではないが、T−DM1よりは有効である。DAR2 ADCにおいて、LCQ05は、in vivo有効性データに基づくと最も強力なADCであるように思われる。
【0297】
B.HCC1954乳がん異種移植片
HCC1954(ATCC# CRL−2338)は、高HER2発現乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性SHOマウス(Charles River,Wilmington,MA)に、50%Matrigel(BD Biosciences)中で5×10個のHCC1954細胞を皮下移植した。腫瘍の体積が200〜250mmに達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。HCC1954乳がんモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブ誘導ADC、および陰性対照ADCをQ4d×4で静脈内投与した(図8A〜8E)。
【0298】
データは、トラスツズマブADCがHCC1954乳がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明している。1mg/kg用量の比較では、vc0101コンジュゲートは、T−DM1より有効であった。0.3mg/kg用量の比較では、DAR4担持ADC(図8B、8C、および8D)は、DAR2担持ADCより有効である(図8A)。さらに、陰性対照ADCの1mg/kgは、ビヒクル対照と比較して腫瘍成長に対する影響は非常にわずかであった(図8D)。しかし、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、腫瘍を完全に縮小させ、標的特異性を示している。
【0299】
C.JIMT−1乳がん異種移植片
JIMT−1は、中等度/低いHer2を発現し、トラスツズマブに対して本質的に抵抗性である乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で5×10個のJIMT−1細胞(DSMZ#ACC−589)を皮下移植した。腫瘍の体積が200〜250mmに達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。JIMT−1乳がんモデルに、PBSビヒクル、T−DM1(図9G)、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC(図9A〜9E)、従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC(図9F)、および陰性対照huNeg−8.8ADCをQ4d×4で静脈内投与した。
【0300】
データは、試験した全てのvc0101コンジュゲートが腫瘍の縮小を用量依存的に引き起こすことを証明している。これらのADCは、1mg/kgで腫瘍の縮小を引き起こすことができる。しかし、T−DM1はこの中等度/低いHer2発現モデルでは6mg/kgでも不活性である。
【0301】
D.MDA−MB−361(DYT2)乳がん異種移植片
MDA−MB−361(DYT2)は、中等度/低Her2発現乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに100cGy/分を4分間照射し、3日後に50%Matrigel(BD Biosciences)中で1.0×10個のMDA−MB−361(DYT2)細胞(ATCC# HTB−27)を皮下移植した。腫瘍の体積が300〜400mmに達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。DYT2乳がんモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションおよび従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、T−DM1、および陰性対照ADCをQ4d×4で静脈内投与した(図10A〜10D)。
【0302】
データは、トラスツズマブADCがDYT2乳がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明している。DYT2は中等度/低Her2発現細胞株であるが、他のHer2低/中等度発現細胞株より微小管阻害剤に対して感受性である。
【0303】
E.144580患者由来乳がん異種移植片
トラスツズマブ誘導ADCの効果を、免疫欠損マウスにおいて、適切な同意手順に従って得た新たに切除した144580乳房腫瘍の断片から確立したヒト腫瘍異種移植片のin vivo成長に関して調べた。新しい生検を採取した際の144580の腫瘍特徴付けは、トリプルネガティブ(ER−、PR−、およびHER2−)乳がん腫瘍であった、144580乳がん患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mmに達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。144580乳がんモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブADC、および従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、および陰性対照ADCを4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(図11A〜11E)。
【0304】
このHER2−(臨床での定義により)PDXモデルにおいて、T−DM1は、調べた全ての用量(1.5、3、および6mg)で無効であった(図10E)。DAR4 vc0101 ADC(図11A、11C、および11D)に関して、3mg/kgは、腫瘍の縮小を引き起こすことができる(図11Cにおいて1mg/kgであっても)。DAR2 vc0101 ADC(図11B)は、3mg/kgでDAR4 ADCより無効である。しかし、DAR2 vc0101 ADCはT−DM1とは異なり、6mg/kgで有効である。
【0305】
F.37622患者由来非小細胞肺がん異種移植片
適切な同意手順に従って得た37622の患者由来非小細胞肺がん異種移植片モデルにおいていくつかのADCを試験した。37622患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mmに達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。37622PDXモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、T−DM1、および陰性対照ADCを、4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(図12A〜12D)。
【0306】
Her2の発現を、修飾したHercept試験によってプロファイリングしたところ、細胞株において認められるより多くの不均質性を有する2+であると分類された。リンカーペイロードとしてvc0101をコンジュゲートしたADC(図12A〜12C)は、1および3mg/kgで腫瘍の縮小を引き起こし、有効であった。しかし、T−DM1は、10mg/kgでいくらかの治療利益を提供したに過ぎなかった(図12D)。T−DM1の10mg/kgでの結果をvc0101 ADCの1mg/kgと比較すると、vc0101 ADCは、T−DM1より10倍強力であるように思われる。バイスタンダー効果は、不均質な腫瘍における有効性にとって重要である可能性がある。
【0307】
G.GA0044患者由来胃がん異種移植片
トラスツズマブおよび抗HER2 ADCを、適切な同意手順に従って得た患者由来胃がん異種移植片モデル(GA0044)において試験した。GA0044患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mmに達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。GA0044PDXモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブ、T−DM1、またはvc0101に対する部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADCを、4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(図30)。
【0308】
GA0044におけるHER2の発現を、変更したHercept試験によってプロファイリングしたところ、不均質な分布を有する2+であると分類された。ペイロードとしてvc0101をコンジュゲートしたADC(即ち、T(kK183C+K290C)−vc0101)は、有効であり、1および3mg/kg用量で腫瘍の完全な縮小が起こった。トラスツズマブおよびT−DM1は、ビヒクル処置腫瘍と比較して腫瘍成長に認識可能な差を示さなかった。バイスタンダー効果は、不均質な標的(即ち、HER2)発現を有するこの腫瘍における有効性にとって重要である可能性がある。
【0309】
H.N87胃がん異種移植片におけるT−vc0101 ADCのバイスタンダー効果の証明
T−DM1 ADCの放出された代謝物は、膜不透過性化合物であるリジンキャップmcc−DM1リンカーペイロード(即ち、Lys−mcc−DM1)であることが示されている(Kovtunら、2006,Cancer Res 66:3214〜21;Xieら、2004,J Pharmacol Exp Ther 310:844)。しかし、T−vc0101 ADCから放出された代謝物は、オーリスタチン0101であり、Lys−mcc−DM1より膜透過性が高い化合物である。放出されたADCペイロードが隣接する細胞を死滅させる能力は、バイスタンダー効果として知られている。膜透過性のペイロードの放出により、T−vc0101は、強いバイスタンダー効果を惹起することができるが、T−DM1は惹起することができない。図13は、T−DM1の6mg/kg(図13A)またはT−vc0101の3mg/kg(図13B)のいずれかを1回投与した後、採取し、後に96時間のホルマリン固定で処理したN87細胞株異種移植片腫瘍の免疫組織化学を示す。腫瘍の切片を、両方のADCのペイロードについて提唱される作用機序の読み出しとして、腫瘍細胞に結合したADCを検出するためにヒトIgGに関して染色し、分裂細胞を検出するためにホスホ−ヒストンH3(pHH3)に関して染色した。
【0310】
ADCは、いずれの場合も腫瘍の辺縁部で検出される。T−DM1処置腫瘍(図13A)において、pHH3陽性腫瘍細胞の大部分は、ADCの近くに存在する。しかし、T−vc0101処置腫瘍(図13B)では、pHH3陽性腫瘍細胞の大部分は、ADCの位置を超えて広がっており(黒色の矢印はいくつかの例を強調する)、腫瘍の内部に存在する。これらのデータは、切断可能リンカーおよび膜透過性のペイロードを有するADCが、in vivoで強いバイスタンダー効果を惹起できることを示唆している。
【0311】
(実施例14)
In vitroT−DM1抵抗性モデル
A.in vitroでのT−DM1抵抗性細胞の生成
N87細胞を2つの個別のフラスコに継代し、生物学的複製実験を可能にするために、それぞれのフラスコを抵抗性生成プロトコールに関して同一に処置した。細胞を、T−DM1コンジュゲートのおよそIC80濃度(10nMペイロード濃度)に3日間曝露した後、およそ4〜11日間処置を行わずに回復させることを5サイクル行った。T−DM1コンジュゲートの10nMで5サイクル後、細胞を、100nM T−DM1のさらに6回サイクルに同様に曝露した。手順は、診療所で細胞傷害性治療薬に関して典型的に使用される、最大忍容量の後に回復期間を設ける長期的なマルチサイクル(on/off)投与を模倣することを意図した。N87から誘導した親細胞をN87と呼び、T−DM1に長期的に曝露した細胞をN87−TMと呼ぶ。中等度から高レベルの薬物抵抗性が、N87−TM細胞に関して4カ月以内に発生した。抵抗性レベルが持続的な薬物曝露後にもはや増加しなくなるサイクル処置の3〜4カ月後に、薬物の選択圧を除去した。応答および表現型は、その後およそ3〜6カ月間、培養細胞株において安定なままであった。その後、細胞傷害アッセイによって測定した抵抗性表現型の大きさの低減が時に観察され、この場合には、継代初期に凍結保存したT−DM1抵抗性細胞を追加の試験のために融解した。細胞の安定化を確実にするために、T−DM1選択圧の除去後少なくとも2〜8週間の間に、報告された全ての特徴付けを実施した。結果の一貫性を確実に得るためにモデルの作製後およそ1〜2年の間に、1回の選択に由来する融解した様々な凍結保存集団からデータを収集した。胃がん細胞株N87を、それぞれの細胞株に関しておよそIC80(約10nMペイロード濃度)である用量での処置サイクルによって、トラスツズマブ−メイタンシノイド抗体−薬物コンジュゲート(T−DM1)に対する抵抗性に関して選択した。親N87細胞は、コンジュゲートに対して本質的に感受性であった(IC50=1.7nMペイロード濃度、62ng/mL抗体濃度)(図14)。親N87細胞の2つの集団を処置サイクルに曝露して、100nM T−DM1でのおよそ4カ月間の曝露サイクル後、これらの2つの集団(以降、N87−TM−1およびN87−TM−2と呼ぶ)はそれぞれ、親細胞と比較してADCに対して114倍および146倍の不応性となった(図14および図15A)。興味深いことに、対応する非コンジュゲートメイタンシノイド遊離薬に対して最小の交差抵抗性(約2.2〜2.5倍)が観察された(図14)。
【0312】
B.細胞傷害性試験
ADCを実施例3に記載のように調製した。非コンジュゲートメイタンシンアナログ(DM1)およびオーリスタチンアナログは、Pfizer Worldwide Medicinal Chemistry(Groton,CT)が調製した。他の標準治療化学療法剤は、Sigma(St.Louis,MO)から購入した。細胞を96ウェルプレートに低密度で播種した後、翌日、ADCおよび非コンジュゲートペイロードの10濃度の3倍連続希釈液によって2回の反復実験で処置した。細胞を湿潤37℃/5%COインキュベータ内で4日間インキュベートした。CellTiter(登録商標)96AQueous One MTS溶液(Promegam Madison,WI)と共に1.5時間インキュベートすることによってプレートを採取し、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算した。
【0313】
他のトラスツズマブ誘導ADCに対する交差抵抗性プロファイルを決定した。切断不能リンカーおよび送達ペイロードで構成される多くのトラスツズマブ誘導ADCに対して、抗チューブリン作用機序により有意な交差抵抗性が観察された(図14)。例えば、N87−TMをN87親細胞と比較すると、切断不能マレイミドカプロイルまたはMal−PEGリンカーを介してそれぞれトラスツズマブに連結されたオーリスタチンベースのペイロードを表すT−mc8261(図14および図15B)およびT−MalPeg8261(図14)に対して、>330および>272倍の効力の低減が観察された。N87−TM細胞において、モノメチルドラスタチン(MMAD)を送達する異なる切断不能リンカーを有する別のトラスツズマブADCであるT−mcMalPegMMADに対して、235倍を超える抵抗性が観察された(図14)。
【0314】
注目すべきことに、これらの薬物は類似の標的を機能的に阻害する(即ち、微小管の脱重合化)が、N87−TM細胞株は切断可能リンカーを介して送達されるペイロードに対しては感受性を保持することが観察された。抵抗性を克服するADCの例には、限定されないが、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101(図14および図15C)、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101(図14および図15D)、T(K290C+K334C)−vc0101(図10および図11E)、T(K334C+K392C)−vc0101(図14および図15F)ならびにT(kK183C+K290C)−vc0101(図14および図15G)が挙げられる。これらは、オーリスタチンアナログ0101を送達するがvcリンカーのタンパク質分解切断によってペイロードが細胞内に放出される、トラスツズマブベースのADCを表す。
【0315】
これらのADC抵抗性がん細胞が他の治療に対して広く抵抗性であるか否かを決定するために、N87−TM細胞モデルを、様々な作用機序を有する標準治療化学療法剤のパネルによって処置した。一般的に、微小管およびDNA機能の低分子阻害剤は、N87−TM抵抗性細胞株に対して有効なままであった(図14)。これらの細胞は、微小管脱重合剤であるメイタンシンのアナログを送達するADCに対して抵抗性となったが、いくつかのチューブリン脱重合化または重合化剤に対しては交差抵抗性が最小であるかまたは交差抵抗性が認められなかった。同様に、両方の細胞株は、トポイソメラーゼ阻害剤、抗代謝剤、およびアルキル化剤/架橋剤を含む、DNA機能を妨害する薬剤に対する感受性を保持した。一般的に、N87−TM細胞は、広範囲の細胞障害剤に対して不応性ではないことから、薬物抵抗性を模倣する一般的な成長または細胞周期の欠損は除外される。
【0316】
両方のN87−TM集団は、対応する非コンジュゲート薬(即ち、DM1および0101;図14)に対しても感受性を保持した。したがって、トラスツズマブ−メイタンシノイドコンジュゲートに対して不応性となったN87−TM細胞は、切断不能リンカーを介して送達した場合に、他の微小管ベースのADCに対して交差抵抗性を示したが、非コンジュゲート微小管阻害剤および他の化学療法剤に対しては感受性のままであった。
【0317】
N87−TM細胞におけるT−DM1に対する抵抗性の分子メカニズムを決定するために、MDR1およびMRP1薬物排出ポンプのタンパク質発現レベルを決定した。これは。低分子チューブリン阻害剤がMDR1およびMRP1薬物排出ポンプの公知の基質であるためであった(Thomas and Coley,2003,Cancer Control 10(2):159〜165)。親N87およびN87−TM抵抗性細胞の総細胞溶解物から、これらの2つのタンパク質のタンパク質発現レベルを決定した(図16)。イムノブロット分析から、N87−TM抵抗性細胞がMRP1(図16A)またはMDR1(図16B)タンパク質を有意に過剰発現しないことが示された。まとめると、これらのデータを、N87−TM細胞において薬物排出ポンプの公知の基質(例えば、パクリタキセル、ドキソルビシン)に対する交差抵抗性がないことと組み合わせると、薬物排出ポンプの過剰発現は、N87−TM細胞におけるT−DM1抵抗性の分子メカニズムではないことを示唆している。
【0318】
ADCの作用機序が、特異的抗原に対する結合を必要としていることから、抗原の枯渇または抗体結合の低減は、N87−TM細胞におけるT−DM1抵抗性を説明し得る。T−DM1に関する抗原がN87−TM細胞において有意に枯渇されているか否かを決定するために、親N87およびN87−TM抵抗性細胞の総細胞溶解物からのHER2発現レベルを比較した(図17A)。イムノブロット分析から、N87−TM1細胞が、親N87細胞と比較して顕著に低減された量のHER2タンパク質発現を有しないことが示された。
【0319】
N87−TM細胞の細胞表面HER2抗原に対する抗体結合量を決定した。蛍光活性化細胞ソーティングを使用する細胞表面結合試験において、N87−TM細胞は、細胞表面抗原に対するトラスツズマブ結合が約50%減少した(図17B)。N87細胞は、がん細胞株の中でもHER2タンパク質の高い発現体であることから(Fujimoto−Ouchiら、2007,Cancer Chemother Pharmacol 59(6):795〜805)、これらの細胞におけるHER2抗体結合の約50%低減はおそらく、N87−TM細胞におけるT−DM1に対する抵抗性の促進メカニズムを表すものではない。この解釈を支持する証拠は、N87−TM抵抗性細胞が、異なるリンカーおよびペイロードを有する他のHER2結合トラスツズマブ誘導ADCに対して感受性のままであることである(図14)。
【0320】
偏りのないアプローチでT−DM1抵抗性の潜在的メカニズムを決定するために、親N87およびN87−TM抵抗性細胞モデルを、T−DM1抵抗性の原因であり得る膜タンパク質発現レベルの変化を全体的に同定するために、プロテオミックアプローチを介してプロファイルを調べた。両方の細胞株モデルの間で523個のタンパク質の有意な発現レベルの変化が観察された(図18A)。これらの予想されるタンパク質変化の選択をバリデートするために、N87およびN87−TM全細胞溶解物のイムノブロットを、N87細胞と比較してN87−TM細胞において過小発現すると予想されるタンパク質(IGF2R、LAMP1、CTSB)(図18B)および過剰発現すると予想されるタンパク質(CAV1)(図18C)に関して実施した。In vivoで観察されたタンパク質の変化がin vivoで認められる変化を模倣するか否かを評価するために、N87およびN87−TM−2細胞をNSGマウスに皮下移植することによって、in vivo腫瘍を生成した。N87−TM−2腫瘍は、N87腫瘍と比較してCAV1タンパク質の過剰発現を保持した(図18D)。両方のモデルにおいてマウス間質でのCAV染色が予想されるが、上皮CAV1染色はN87−TM−2モデルのみに認められた。
【0321】
C.In vivo有効性試験
細胞培養において観察された抵抗性がin vivoで再現されるか否かを決定するために、親N87細胞およびN87−TM−2細胞を拡大増殖させて、The Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から得た雌性NOD scidガンマ(NSG)免疫欠損マウス(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)の脇腹に注射した。
マウスにN87またはN87−TM細胞(7.5×10個/注射、50%Matrigel中)のいずれかの浮遊液を右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約0.3g(約250mm)に達すると、マウスを試験群に無作為化した。T−DM1コンジュゲートまたはビヒクルを0日目に食塩水中で静脈内投与し、全体で4用量を4日間離して繰り返した(Q4D×4)。腫瘍を毎週測定して、量を体積=(幅×幅×長さ)/2として計算した。time to event分析(腫瘍の倍加)を実施して、ログランク(Mantel−Cox)検定によって有意性を評価した。これらの試験の全ての処置群のマウスにおいて、体重減少は観察されなかった。
【0322】
マウスを以下の薬剤で処置した:(1)ビヒクル対照PBS、(2)トラスツズマブ抗体の13mg/kgの後に4.5mg/kg;(3)T−DM1の6mg/kg;(4)T−DM1の10mg/kg;(5)T−DM1の10mg/kg、次いでT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の3mg/kg;(6)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の3mg/kg。腫瘍サイズをモニターして、結果を図20に示す。N87(図19および図20A)およびN87−TM−2(図19および図20B)腫瘍は、in vitro細胞傷害アッセイで認められたプロファイルと類似のADC有効性プロファイルを示し(図19および20B)、N87−TM薬物抵抗性細胞は、T−DM1に対して不応性であったが、なおも切断可能リンカーを有するトラスツズマブ誘導ADCには応答した。実際に、T−DM1に対して不応性であり、約1gまで成長した腫瘍を、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101による処置に切り替えると、腫瘍は有効に縮小した(図20B)。この試験のtime−to−event分析において、T−DM1の6および10mg/kgは、N87モデルにおけるマウスの>50%において少なくとも60日間腫瘍の倍加を防止したが、N87−TM−2モデルでは、T−DM1は防止することができなかった(図20Cおよび20D)。T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101を3mg/kgで投与すると、試験期間の間(約80日)、マウスにおけるN87およびN87−TM腫瘍の両方のいかなる腫瘍倍加も防止した(図20Cおよび20D)。
【0323】
別の試験において、in vitroでT−DM1抵抗性を克服した切断可能に連結されたADCは全て、T−DM1に対して非応答性であったこのN87−TM2腫瘍モデルにおいて有効なままであった(図19および図20E)。
【0324】
次に、T(kK183+K290C)−vc0101 ADCがTDM1に対して不応性である腫瘍成長を阻害できるか否かを評価した。ビヒクルまたはT−DM1のいずれかによって処置したN87−TM腫瘍は、これらの処置下で成長したが、14日目にT(kK183C+K290C)−vc0101治療に切り替えた腫瘍は直ちに縮小した(図20F)。
【0325】
(実施例15)
In vivoT−DM1抵抗性モデル
A.In vivoでのT−DM1抵抗性細胞の生成
全ての動物試験は、確立されたガイドラインに従って、Pfizer Pearl River Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認された。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で7.5×10個のN87細胞を皮下移植した。平均腫瘍体積が約300mmに達すると、動物を2つの群に無作為化した:1)ビヒクル対照(n=10)および2)T−DM1処置(n=20)。T−DM1 ADC(6.5mg/kg)またはビヒクル(PBS)を食塩水中で0日目に静脈内投与した後、動物に6.5mg/kgを30週まで毎週投与した。腫瘍を週に2回または週に1回測定して、量を体積=(幅×幅×長さ)/2として計算した。これらの試験において全ての処置群のマウスにおいて、体重減少は観察されなかった。
【0326】
個々の腫瘍体積が約600mmに達すると(無作為化時の腫瘍の当初のサイズの倍加)、動物はT−DM1処置に不応性であるかまたは処置下で再発したと考えられた。図21Aに示すように、対照群と比較して、ほとんどの腫瘍は当初T−DM1処置に応答した。より具体的には、マウス20匹中17匹が初回T−DM1処置に応答したが、有意な数の腫瘍(20例中13例)が、T−DM1処置下で再発した。時間と共に、移植したN87細胞はT−DM1に対して抵抗性となった(図21B)。T−DM1処置に当初反応しなかった3例の腫瘍を、IHCによるHer2発現決定のために採取したところ、HER2発現の変化がないことが示された。残りの10例の再発腫瘍を以下に説明する。
【0327】
T−DM1処置に当初反応し、その後再発した4例の腫瘍を、77日目(マウス1および16)、91日目(マウス19)、140日目(マウス6)にT−vc0101の2.6mg/kgの毎週処置に切り替えた。図19Cに示すように、in vivoで生成したT−DM1抵抗性腫瘍はT−vc0101に応答し、T−DM1抵抗性を獲得した腫瘍がvc0101ADC処置に対して感受性であることを示した。
【0328】
当初T−DM1処置に応答した後、再発した別の3例の腫瘍を、110日目(マウス4、13、および18)にT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の2.6mg/kgの毎週処置に切り替えた。図21Dに示すように、in vivoで生成したT−DM1抵抗性細胞もまた、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101に応答した。T(kK183C+K290C)−vc0101を評価するために追加の実験を行ったところ、類似の結果が得られ、in vivoで生成したT−DM1抵抗性腫瘍が、図21Eに示すように、T(kK183C+K290C)−vc0101処置に対して感受性であることが示された。
【0329】
要約すると、追加の処置を行った全てのT−DM1不応性腫瘍は、vc0101 ADC処置に対して感受性(7例中7例)であり、in vivo抵抗性T−DM1腫瘍を、切断可能なvc0101コンジュゲートによって処置することができることが示された。
【0330】
当初T−DM1に応答したがその後再発したさらに3例の腫瘍(図21Bに示すマウス7、17、および2)を、in vitro特徴付けのために切除した。切除した腫瘍をin vitroで2〜5カ月間培養後、これらの細胞をT−DM1に対する抵抗性に関して評価し、in vitroで特徴付けした(本実施例において以下の節BおよびCを参照されたい)。
【0331】
B.細胞傷害性試験
T−DM1処置から再発し、in vitroで培養した(本実施例の節Aに記載のように)細胞を96ウェルプレートに播種して、翌日にADCまたは非コンジュゲートペイロードの4倍連続希釈液を投与した。細胞を湿潤37℃/5%COインキュベータ内で96時間インキュベートした。CellTiter Glo溶液(Promega,Madison,WI)をプレートに添加して、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算した。
【0332】
細胞傷害性スクリーニングの結果を、表19および20に要約する。細胞は、親細胞と比較してT−DM1(図22A)に対して抵抗性であったが、切断可能なvc0101コンジュゲートT−vc0101(データは示していない)、T(kK183C+K290C)−vc0101(図22B)、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101(図22C)、およびT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101(図22D)に対して感受性であった(表19)。T−DM1抵抗性細胞は、意外にも親ペイロードDM1ならびに0101ペイロードに対して感受性であった(表20)。
【0333】
【表19】
【0334】
【表20】
【0335】
C.FACSおよびウェスタンブロットによるHer2発現
T−DM1処置から再発し、in vitroで培養した(本実施例の節Aに記載のように)細胞において、Her2発現を特徴付けした。FACS分析に関して、細胞をトリプシン処理して遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に細胞を、5μg/mLトラスツズマブ−PE(eBiosciences (San Diego, CA)によりカスタム合成された1:1PE標識トラスツズマブ)と共に4℃で1時間インキュベートした。Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose,CA)を使用して平均蛍光強度を読み取った。
【0336】
ウェスタンブロット分析に関して、細胞をRIPA溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含む)を使用して氷中で15分間溶解した後、ボルテックスミキサーで攪拌し、微量遠心分離機の最高速度で、4℃で遠心沈降させた。上清を採取して、4×試料緩衝液および還元剤を試料に添加し、各試料中の総タンパク質に関して標準化した。試料を4〜12%ビストリスゲル上で分離して、ニトロセルロースメンブレンに転写した。メンブレンを1時間ブロックし、HER2抗体(Cell Signalling,1:1000)と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、メンブレンを1×TBSTで3回洗浄し、抗マウスHRP抗体(Cell Signalling,1:5000)と共に1時間インキュベートし、3回洗浄後プロービングした。
【0337】
T−DM1再発腫瘍のHER2発現レベルは、FACS(図23A)およびウェスタンブロット(図23B)によって評価すると、対照腫瘍(T−DM1処置を行わない)と類似であった。
【0338】
D.T−DM1抵抗性は薬物排出ポンプの発現によるものではない
細胞株は、ウェスタンブロットによりMDR1を発現せず(図24A)、細胞は、MDR−1基質である遊離の薬物0101に対して抵抗性ではない(図24B)。ドキソルビシンに対する抵抗性は観察されず(図24C)、抵抗性機構がMRP1を通して起こるのではないことが示された。しかし、細胞はなおも遊離のDM1に対して抵抗性である(図24D)。
【0339】
(実施例16)
薬物動態(PK)
従来のまたは部位特異的vc0101抗体薬物コンジュゲートに対する曝露を、5または6mg/kgのいずれかの用量をカニクイザルにIVボーラス投与後に決定した。総抗体(総Ab;コンジュゲートmAbおよび非コンジュゲートmAbの両方の測定)およびADC(少なくとも1つの薬物分子にコンジュゲートされたmAb)濃度を、リガンド結合アッセイ(LBA)を使用して測定した。ADCは、AcLysvc0101を使用したT(LCQ05)を除き、全ての例においてvc0101を使用して作製した。従来のコンジュゲーション(部位特異的コンジュゲーションではない)を使用してトラスツズマブからADCを作製した。
【0340】
カニクイザルに用量を投与後の総AbおよびトラスツズマブADC(T−vc0101)(5mg/kg)またはT(kK183C+K290C)部位特異的ADC(6mg/kg)の濃度対時間プロファイルおよび薬物動態/毒性動態(図25Aおよび表21)。T(kK183C+K290C)部位特異的ADCの曝露は、従来のコンジュゲートと比較して曝露および安定性の両方を増加させた。
【0341】
カニクイザルに用量を投与後のトラスツズマブ(T−vc0101)(5mg/kg)またはT(kK183C+K290C)、T(LCQ05)、T(K334C+K392C)、T(K290C+K334C)、T(K290C+K392C)、およびT(kK183C+K392C)部位特異的ADC(6mg/kg)の濃度対時間プロファイルおよび薬物動態/毒性動態(図25Bおよび表21)。いくつかの部位特異的ADC(T(LCQ05)、T(kK183C+K290C)、T(K290C+K392C)、およびT(kK183C+K392C)の曝露は、従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブADCと比較して高い。しかし、他の2つの部位特異的ADC(T(K290C+K334C)およびT(K334C+K392C))の曝露は、トラスツズマブADCより高い曝露を有さず、必ずしも全ての部位特異的ADCが、従来のコンジュゲーションを使用して作製したトラスツズマブADCより良好な薬物動態特性を有するわけではないことを示している。
【0342】
【表21】
【0343】
(実施例17)
疎水性相互作用クロマトグラフィーによる相対的保持の値とラットにおける曝露(AUC)との比較
疎水性は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって評価することができるタンパク質の物理特性であり、タンパク質試料の保持時間は、その相対的疎水性に基づいて異なる。ADCのHIC保持時間をそれぞれの抗体のHIC保持時間によって除算した比率である相対的保持時間(RRT)を計算することによって、ADCをそのそれぞれの抗体と比較することができる。非常に疎水性が高いADCは、より高いRRTを有し、これらのADCはまた、より多くの薬物動態不安定性、特に小さい曲線下面積(AUC、または曝露)を有する可能性がある。様々な部位変異を有するADCのHIC値を、ラットにおける測定されたAUCと比較すると、図26の分布が観察された。
【0344】
RRT≧1.9のADCは、より低いAUC値を示したが、より低いRRTを有するADCは、より高いAUCを有する傾向があり、関係は直接的ではなかった。ADC T(kK183C+K290C)−vc0101は、比較的高いRRT(平均値1.77)を有することが観察され、したがって比較的低いAUCを有すると予想された。意外にも、観察されたAUCは比較的高く、したがって、疎水性データからこのADCの曝露を予測することは明白ではなかった。
【0345】
(実施例18)
毒性試験
2つの独立した探索的毒性試験において、全体で10匹の雄性および雌性カニクイザルを5つの用量群(1/性別/用量)に分類し、3週間毎に1回(試験日1、22、および43日)IV投与した。試験46日目(3回の用量投与後3日目)に、動物を安楽死させ、プロトコールに明記された血液および組織試料を採取した。臨床所見、臨床病理学、肉眼的および顕微鏡病理評価を、生存時および剖検後に実施した。解剖学的病理評価に関して、組織病理学所見の重症度を主観的、相対的、試験特異的に基づいて記録した。
【0346】
カニクイザルにおける3および5mg/kgでの探索的毒性試験において、T−vc0101は、初回投与後11日目に一過性の、しかし顕著(390個/μl)から重度の(40個/μlから検出不能まで)好中球減少症を引き起こした。これに対し、9mg/kgでは、T(kK183C+K290C)−vc0101を投与した全てのカニクイザルが、試験したいずれの時点においても500個/μlを十分に超える好中球数を有し、好中球減少症は認められないかまたは最小であった(図27)。実際に、T(kK183C+K290C)−vc0101を投与した動物は、ビヒクル対照と比較して11および14日目で平均的な好中球数(>1000個/μL)を示した。
【0347】
3および5mg/kgでの骨髄において顕微鏡で調べると、T−vc0101を投与したカニクイザルは、化合物に関連するM/E比の増加を有した。骨髄/赤芽球(M/E)比の増加は、主に成熟顆粒球の増加と組み合わせた赤芽球前駆体の減少からなった。これに対し、6および9mg/kgでは、T(kK183C+K290C)−vc0101の6mg/kg/用量を投与した雄性動物のみが、最小から軽度の成熟顆粒球の細胞性の増加を有した(データは示していない)。
【0348】
したがって、血液学および顕微鏡データは、部位特異的変異技術に基づくADCコンジュゲート、T(kK183C+K290C)−vc010がT−vc010によって惹起される骨髄毒性および好中球減少症を明らかに改善することを明白に示した。
【0349】
(実施例19)
ADC結晶構造
結晶構造を、T(K290C+K334C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101、およびT(K334C+K392C)−vc0101に関して得た。これらの特定のADCは、K290C+K334CおよびK334C+K392C二重システインバリアントとのコンジュゲーションがADCC活性を消失させるが、K290C+K392Cとのコンジュゲーションは活性を消失させなかったことから、結晶学のために選択した。
【0350】
コンジュゲートしたFc領域を、ADCのパパイン切断を使用して結晶学のために調製した。同じ条件を使用して3つのコンジュゲートIgG1−Fc領域に関して、同じ形態の結晶を得た:100mMクエン酸ナトリウムpH 5.0+100mM MgCl+15% PEG 4K。
【0351】
PDBに寄託された野生型ヒトIgG1−Fc構造は、比較的類似であり、CH2−CH2ドメインがAsn297結合グリカン(炭水化物またはグリカンアンテナ)を通して互いに接すること、およびCH3−CH3ドメインが、構造間で比較的一定である安定な界面を形成することを示している。Fc構造は、「閉構造」または「開構造」コンフォメーションのいずれかで存在し、脱グリコシル化Fc構造は「開構造」コンフォメーションをとり、このように、グリカンアンテナがCH2領域を共に保持することを証明している。さらに、非コンジュゲートPhe241Ala−IgG1 Fc変異体に関して公表された構造(Yuら、「Engineering Hydrophobic Protein−Carbohydrate interactions to fine−tune monoclonal antibodies」、JACS 2013)は、芳香族Phe残基が炭水化物を安定化することができないために、この変異によってCH2グリカン界面およびCH2−CH2界面の不安定化が起こることから、1つの部分的に乱れたCH2ドメインを示す。
【0352】
ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとも呼ばれる)は通常、約231位のアミノ酸から約340位のアミノ酸まで達している。CH2ドメインは、それが別のドメインと厳密に対を形成しないという点において独自である。むしろ、2つのN−結合分岐炭水化物鎖が、インタクトのネイティブIgG分子の2つのCH2ドメインの間に存在する。炭水化物は、ドメイン−ドメイン対形成の代替を提供して、CH2ドメインを安定化するために役立ち得ると推測されている(Burtonら、1985,Molec.Immunol.22:161〜206)。
【0353】
「CH3ドメイン」は、Fc領域におけるCH2ドメインに対してC末端の一連の残基を含む(即ち、IgGの約341位のアミノ酸残基から約447位のアミノ酸残基まで)。
【0354】
T(K290C+K334C)−vc0101およびT(K290C+K392C)−vc0101 Fc領域の両方の構造の解析により、それらが類似であり、Fc二量体が、1つのCH2と、高度に秩序化されている両方のCH3を含むことを示した(野生型Fcのように)。しかし、それらはまた、グリカンが結合した乱れたCH2も含む(図28Aおよび図28B)。1つのCH2ドメインのより高度の不安定化は、グリカンアンテナに対してコンジュゲーション部位が非常に近位であることが原因であった。0101ペイロードの幾何学を考慮すると、K290、K334、K392部位のいずれかでのコンジュゲーションはCH2表面から離れたグリカンの全体的な軌道を乱し、グリカンおよびCH2構造そのもの、および結果としてCH2−CH2界面を不安定化し得る(図28C)。WT−Fc、Phe241Ala−Fc、または脱グリコシル化Fcと比較して、これらの0101部位特異的にコンジュゲートした二重システイン−Fcバリアントでは、より高度の不均質性が利用可能である。操作されたシステインバリアント位置を、FcγRタイプIIbと複合体を形成したWT−Fcの構造にマップすると、C334でのコンジュゲーションが、FcγRIIbに対する結合を直接妨害し得ることが示された(図28C)。変異またはコンジュゲーションによって引き起こされたCH2位置のこの不均質性によって、FcRIIb結合の有意な減少が起こり得る。したがって、これらの結果は、IgG1−Fc内でのコンフォメーション不均質性、または操作されたシステインの特定の組合せに対する0101のコンジュゲーションのいずれか、おそらくは両方が、K334C部位を含む二重システインバリアントのADCC活性に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0355】
(実施例20)
異なるコンジュゲーション部位により異なるADC特性が起こる
A.システイン変異体ADCの合成のための一般的手順
1つまたは複数の操作されたシステイン残基(表22に示す)を組み入れるトラスツズマブ溶液を、50mMリン酸緩衝液、pH7.4中で調製した。PBS、EDTA(0.5M保存溶液)、およびTCEP(0.5M保存溶液)を、タンパク質の最終濃度が10mg/mL、EDTAの最終濃度が20mM、およびTCEPの最終濃度がおよそ6.6mM(100モル当量)となるように添加した。反応を室温で48時間静置した後、GE PD−10 Sephadex G25カラムを使用して、製造元の指示に従ってPBSに緩衝液交換した。得られた溶液をおよそ50当量のデヒドロアスコルビン酸塩(1:1EtOH/水中の50mM保存溶液)によって処置した。抗体を4℃で一晩静置した後、GE PD−10 Sephadex G25カラムを使用して、製造元の指示に従ってPBSに緩衝液交換した。いくつかの変異体について、上記の手順をわずかに変更したものを使用した。
【0356】
このように調製した抗体を、10体積%DMAを含むPBS中で約2.5mg/mLに希釈し、DMA中の10mM保存溶液としてvc0101(10モル当量)によって処置した。室温で2時間後、混合物をPBS(上記の通り)に緩衝液交換して、Superdex200カラムによるサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。モノマー分画を濃縮して、濾過滅菌し、最終ADCを得た。産物の特徴に関しては以下の表22を参照されたい。
【0357】
【表22】
【0358】
B.コンジュゲーション実施例の一般的分析方法
LCMS:カラム=Waters BEH300−C4、2.1×100mm(P/N=186004496);機器=SQD2質量分析検出器を備えたAcquity UPLC;流速=0.7mL/分;温度=80℃;緩衝液A=水+0.1%ギ酸;緩衝液B=アセトニトリル+0.1%ギ酸。勾配は、3%Bから95%Bを2分間、95%Bで0.75分間保持した後、3%Bで再度平衡にした。試料を注入直前にTCEPまたはDTTによって還元した。溶出液をLCMS(400〜2000ダルトン)によってモニターし、タンパク質ピークを、MaxEnt1を使用して逆畳み込みした。DARを重量平均担持として報告した。
【0359】
SEC:カラム:Superdex200(5/150 GL);移動相:2%アセトニトリルを含むリン酸緩衝溶液、pH7.4;流速=0.25mL/分;温度=周囲温度;機器:Agilent 1100 HPLC。
【0360】
HIC:カラム:TSKGelブチルNPR、4.6mm×3.5cm(P/N=S0557−835);緩衝液A=10mMリン酸塩を含む1.5M硫酸アンモニウム、pH 7;緩衝液B=10mMリン酸塩、pH 7+20%イソプロピルアルコール;流速=0.8mL/分;温度=周囲温度;勾配=0%Bから100%Bを12分間、100%Bで2分間保持した後、100%Aで再度平衡にする;機器:Agilent 1100 HPLC。
【0361】
C.部位特異的vc0101コンジュゲートの疎水性の決定
表22のADCを、様々なコンジュゲートの相対的疎水性を決定するために、疎水性相互作用クロマトグラフィー(上記の方法)によって評価した。ADCの疎水性は、総抗体曝露と相関することが報告されている。
【0362】
部位334、375、および392に対するコンジュゲートは、変更されていない抗体と比較して保持時間の最小のシフトを示したが、部位421、443、および347位に対するコンジュゲートは、保持時間の最大のシフトを示した。それぞれのADCの相対的疎水性を、ADCの保持時間を変更されていない抗体の保持時間で除算することによって計算し、このようにして「相対的保持時間」または「RRT」を得た。約1のRRTは、ADCが変更されていない抗体とほぼ同じ疎水性を有することを示している。それぞれのADCのRRTを表22に示す。
【0363】
D.部位特異的vc0101コンジュゲートのADC血漿安定性
ADC試料(約1.5mg/mL)を、マウス、ラット、またはヒト血漿で希釈して、血漿中で50μg/mL ADCの最終溶液を得た。試料を37℃、5%CO下でインキュベートし、アリコートを3回の時点(0、24時間、および72時間)で採取した。血漿のインキュベーション(25μL)からのそれぞれの時点のADC試料を、IgG0によって37℃で1時間脱グリコシル化した。脱グリコシル化後、捕捉抗体(マウスおよびラット血漿に対して特異的な1mg/mLのビオチン化ヤギ抗ヒトIgG1 Fcγ断片、またはヒト血漿に関して1mg/mLのビオチン化抗トラスツズマブ抗体)を添加して、混合物を37℃で1時間加熱した後、室温でさらに1時間軽く振とうさせた。Dynabead MyOne Streptavidin T1磁性ビーズを試料に添加して、室温で軽く振とうさせながら1時間インキュベートした。次に、試料プレートをPBS 200μL+0.05%Tween−20、PBS 200μL、およびHPLC等級の水で洗浄した。結合したADCを、2体積%ギ酸(FA)55μLによって溶出した。各試料の50μLアリコートを、新しいプレートに移した後、200mM TCEPをさらに5μL添加した。
【0364】
インタクトタンパク質の分析を、BEH300 C4、1.7μm、0.3×100mm iKeyカラムを使用して、nanoAcquity UPLC(Waters)に結合させたXevo G2 Q−TOF質量分析計によって実施した。移動相A(MPA)は、0.1体積%FAの水溶液からなり、移動相B(MPB)は、0.1体積%FAのアセトニトリル溶液からなった。クロマトグラフィーによる分離を、MPBの5%〜90%で7分間の直線勾配を使用して0.3μL/分の流速で行った。LCカラム温度を85℃に設定した。データ獲得は、MassLynxソフトウェアバージョン4.1によって実施した。質量獲得範囲は、700Daから2400Daであった。逆畳み込みを含むデータ分析を、Biopharmalynxバージョン1.33を使用して実施した。
【0365】
担持およびスクシンイミド開環(+18ダルトンのピーク)を経時的にモニターした。担持データを、0時間のDARと比較した%DAR喪失として報告する。開環データを、72時間で存在する全分子種と比較した開環種の%として報告する。いくつかの部位変異体によって、非常に安定なADC(334C、421C、および443C)が得られ、いくつかの部位は、リンカー−ペイロードの有意な量を失った(380Cおよび114C)。開環の速度は、部位によってかなり変動した。392C、183C、および334Cなどのいくつかの部位では、非常にわずかな開環が起こったが、421C、388C、および347Cなどの他の部位では、迅速で自然発生の開環が起こった。
【0366】
迅速で自然発生の開環が起こる部位は、疎水性が低減した、および/またはPK曝露が増加したコンジュゲートを生成するために有用であり得る。この知見は、環の安定性が血漿での安定性と相関するという一般的な理解とは反対である。したがって、一部の態様において、部位421C、388C、および347Cの1つまたは複数でのコンジュゲーションは、高い疎水性を有するリンカー−ペイロードを使用する場合、特に有利であり得る。一部の態様において、高い疎水性は、相対的保持時間(RRT)の値(HICによって測定)が1.5またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.7またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.8またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.9またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が2.0またはそれ超である。
【0367】
【表23】
【0368】
E.部位特異的vc0101コンジュゲートのグルタチオン安定性
ADC試料を、グルタチオン水溶液で希釈して、リン酸緩衝液、pH7.4中で最終GSH濃度0.5mMおよび最終タンパク質濃度約0.1mg/mLを得た。次に、試料を37℃でインキュベートし、DAR(T−0、T−3日、T−6日)を決定するために、アリコートを3つの時点で除去した。それぞれの時点のアリコートをTCEPで処理し、実施例20Aに記載の方法に従ってLC−MSによって分析した。
【0369】
担持およびスクシンイミド開環(+18ダルトンのピーク)を経時的にモニターした。担持データを、0時間のDARと比較した%DAR喪失として報告する(表24)。開環データを、72時間で存在する全分子種と比較した開環種の%として報告する。いくつかの部位変異体によって、非常に安定なADC(334C、421C、および443C)が得られたが、いくつかの部位は、リンカー−ペイロードの有意な量を失った(380Cおよび114C)。開環速度は、部位によってかなり変動した。392C、183C、および334Cなどのいくつかの部位では、非常にわずかな開環が起こったが、421C、388C、および347Cなどの他の部位ではかなりの開環が起こった。このアッセイの結果は、血漿での安定性結果と非常に良好に相関し(実施例20.D)、チオールによって媒介される脱コンジュゲーションが血漿中でのペイロード喪失の主要な経路であることを示唆している。まとめると、これらの結果は、チオールによって媒介される脱コンジュゲーションを通して容易に失われる、334、443、290、および392などの特定の部位が、ペイロード−リンカーのコンジュゲーションにとって特に有用であり得ることを示唆している。そのようなペイロード−リンカーは、共通のmcおよびvc連結を利用するリンカーを含む(例えば、vc−101、vc−MMAE、mc−MMAFなど)。
【0370】
【表24】
【0371】
F.マウスにおける選択した部位特異的vc0101コンジュゲートの薬物動態評価
非担癌無胸腺雌性nu/nu(ヌード)マウス(6〜8週齢)を、Charles River Laboratoriesから得た。マウスを使用する手順は全て、確立されたガイドラインに従って施設内動物飼育使用委員会の承認を受けた。マウス(n=3または4)に、抗体構成要素に基づいてADCの3mg/kg用量を1回静脈内投与した。血液試料を各マウスの尾静脈を介して、投与後0.083、6、24、48、96、168、および336時間に採取した。ヒツジ抗ヒトIgG抗体を捕捉のために使用し、ヤギ抗ヒトIgG抗体をTabの検出のために使用し、または抗ペイロード抗体をADCの検出のために使用するLBAによって、総抗体(Tab)およびADC濃度を決定した。各動物の血漿中濃度データを、Watson LIMSバージョン7.4(Thermo)を使用して分析した。曝露は部位に基づいて変化した。290Cおよび443C変異体から作製したADCは、最低の曝露を示したが、183Cおよび392C部位から作製したADCは、最高の曝露を示した。多くの応用に関して、治療剤の持続の増加に至ることから、高い曝露を有する部位が好ましい場合があり得る。しかし、ある特定の応用に関して、より低い曝露を有するコンジュゲート(290Cおよび443Cなど)を使用することが好ましい場合があり得る。特に、より低い曝露(即ち、より低いPK)の応用は、限定されないが脳、CNS、および眼での使用を含み得る。適応は、がん、特に脳、CNS、および/または眼のがんを含む。
【0372】
【表25】
【0373】
G.部位特異的vc0101コンジュゲートのカテプシン切断
カテプシンBを、150mM酢酸ナトリウム、pH5.2中で6mMジチオスレイトール(DTT)を使用して37℃で15分間活性化した。次に活性化カテプシンB 50ngを1mg/mL ADC 20μLと、2mM DTTの最終濃度、50mM酢酸ナトリウム、pH5.2で混合した。反応を、250mMホウ酸緩衝液、pH8.5中での10μM E−64システインプロテアーゼ阻害剤を使用して37℃で20分間、1時間、2時間、および4時間インキュベートすることによってクエンチした。アッセイ後、TCEPを使用して試料を還元し、実施例21Aに記載の条件を使用してLC/MSによって分析した。データは、リンカー切断速度がコンジュゲーションの部位に大きく依存することを示した。443C、388C、および290Cなどの特定の部位は非常に速やかに切断されるが、334C、375C、および392Cなどの他の部位は、非常にゆっくりと切断される。一部の態様において、遅い切断を受ける部位にコンジュゲートすることが有利であり得る。他の態様において、急速な切断が好ましい。例えば、エンドソームで費やされる時間を低減させるためにペイロードを急速に放出することが好ましくなり得る。さらなる態様において、急速なペイロード切断によって、特定の固形腫瘍などのように、コンジュゲートした分子が侵入することができない場所で、ペイロードが有利に侵入することが可能となる。さらなる態様において、急速な切断によって、ペイロードを抗体の抗原を発現しない隣接する細胞に送達することができ、このように例えば不均質な腫瘍の処置を可能にする。
【0374】
【表26】
【0375】
H.部位特異的vc0101コンジュゲートの熱安定性
ADCを、10mM EDTAを含むPBS(pH7.4)中で0.2mg/mLに希釈した。ADCを密封バイアルに入れて、45℃に加熱した。経時的に形成される高分子量種(HMWS)および低分子量種(LMWS)のレベルをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって評価するために、アリコート(10μL)を1週間毎に除去した。SEC条件を実施例21Aに概要する。これらの条件下で、モノマーは、およそ3.6分で溶出した。モノマーピークの左に溶出するいかなるタンパク質材料もHMWSとして計数され、モノマーピークの右に溶出するいかなるタンパク質材料もLMWSとして計数された。結果を以下の表27に示す。183C、375C、および334Cなどの選択されたADCは、優れた熱安定性を示したが、443Cおよび392C+443Cなどの他のADCは、有意な分解を示した。
【0376】
【表27】
【0377】
I.様々なvc0101部位変異体の有効性
抗体−薬物コンジュゲートのin vivo有効性試験を、N87細胞株を使用する標的発現異種移植片モデルにおいて実施した。50%matrigel中でおよそ7.5百万個の腫瘍細胞を6〜8週齢のヌードマウスの皮下に移植し、腫瘍サイズを250〜350mmに達成させる。薬物を、尾静脈注射によりボーラス投与した。動物に10、3、または1mg/kg抗体薬物コンジュゲートを、4日毎に1回、全体で4回(1、5、9および13日目)注射した。全ての実験動物を体重変化に関して毎週モニターする。腫瘍の体積をキャリパー装置によって最初の50日間、週に2回測定し、その後は週に1回測定し、以下の式:腫瘍体積=(長さ×幅)/2によって計算する。腫瘍体積が2500mmに達すると、動物を人道的に屠殺した。腫瘍サイズは、一般的に処置の最初の1週間後に減少することが観察される。処置の中止後(処置後100日まで)、腫瘍の再成長に関して動物を継続的にモニターした。3mpk投与群からのデータを図29に示す。388Cおよび347C変異体から生成したADCは、334C、183C、392C、および443C変異体からのADCよりわずかに低い効力を示した。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図7-5】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12-1】
図12-2】
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15-1】
図15-2】
図16
図17
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
図19-3】
図19-4】
図20-1】
図20-2】
図20-3】
図21-1】
図21-2】
図21-3】
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図22-2】
図23
図24-1】
図24-2】
図25
図26
図27
図28-1】
図28-2】
図28-3】
図29
図30
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]