【実施例】
【0209】
以下の実施例は、例示的目的に限って提供され、本発明の範囲を決して制限しないことが意図される。実際に、本明細書に示され、および記載される実施形態に加えて本発明の様々な修飾は、以下の説明から当業者には明らかであり、それらは添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0210】
(実施例1)
部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導抗体の調製
A.システインを介したコンジュゲーション
システイン残基を通しての部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導体を調製する方法は、一般的にPCT出願国際公開第2013/093809号(全体が本明細書に組み込まれている)に記載されるように実施した。軽鎖(Kabat番号付けスキームを使用して183位)または重鎖(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用して290、334、392、および/または443位)のいずれかの1つまたは複数の残基を、部位指定変異誘発によってシステイン(C)残基に変更した。
【0211】
B.トランスグルタミナーゼを介したコンジュゲーション
グルタミン残基を通しての部位特異的コンジュゲーションのためのトラスツズマブ誘導体を調製する方法は、一般的にPCT出願国際公開第2012/059882号全体が本明細書に組み込まれている)に記載されるように実施した。トラスツズマブを、3つの異なる方法で、コンジュゲーションのために使用されるグルタミン残基を発現するように操作した。
【0212】
第一の方法に関して、グルタミン残基を含む8アミノ酸残基のタグ(LCQ05)を軽鎖(即ち、配列番号81)のC末端に結合させた。
【0213】
第二の方法に関して、重鎖上の残基(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用して297位)を、部位指定変異誘発によって、アスパラギン(N)からグルタミン(Q)残基に変更した。
【0214】
第三の方法に関して、重鎖上の残基(Kabat番号付けシステムのEUインデックスを使用して297位)を、アスパラギン(N)からアラニン(A)残基に変更した。これによって、297位での脱グリコシル化が起こり、295位でアクセス可能な/反応性の内因性グルタミンが得られる。
【0215】
加えて、トラスツズマブ誘導体のいくつかは、コンジュゲーションのために使用されない変更を有する。重鎖の222位(Kabat番号付けスキームのEUインデックスを使用する)での残基をリジン(K)からアルギニン(R)残基に変更した。K222R置換によって、より均質な抗体およびペイロードコンジュゲート、抗体とペイロードとの間のより良好な分子間架橋、および/または抗体軽鎖のC末端でのグルタミンタグとの鎖間架橋の有意な減少が得られることが見出された。
【0216】
(実施例2)
トラスツズマブ誘導抗体を発現する安定にトランスフェクトされた細胞の産生
A.システイン変異体
一重および二重システイン操作トラスツズマブ誘導抗体バリアントが、細胞において安定に発現され、大規模に産生され得ることを決定するために、CHO細胞に、9個のトラスツズマブ誘導抗体バリアント(T(kK183C)、T(K290C)、T(K334C)、T(K392C)、T(kK183C+K290C)、T(kK183C+K392C)、T(K290C+K334C)、T(K334C+K392C)およびT(K290C+K392C))をコードするDNAをトランスフェクトして、安定な高い産生プールを、当技術分野で周知の標準的な手順を使用して単離した。コンジュゲーション試験のためにT(kK183C+K334C)を産生するために、HEK−293細胞(ATCC受託番号CRL−1573)に、標準的な方法を使用してこの二重システイン操作抗体バリアントをコードする重鎖および軽鎖DNAを一過性に同時トランスフェクトした。2カラムプロセス、即ち、プロテインA親和性による捕捉の後にTMAEカラム、または3カラムプロセス、即ちプロテインA親和性による捕捉の後にTMAEカラム、次いでCHA−TIカラムを使用して、濃縮CHOプール出発材料からこれらのトラスツズマブバリアントを単離した。これらの精製プロセスを使用すると、全てのシステイン操作トラスツズマブ誘導抗体バリアント調製物は、分析的サイズ排除クロマトグラフィーによって決定した場合に>97%の目的のピーク(POI)を含んだ(表5)。表5に示すこれらの結果は、10個全てのトラスツズマブ誘導システインバリアントに関して、プロテインA樹脂からの溶出後に許容可能なレベルの高分子量(HMW)凝集種が検出されたこと、およびこの望ましくないHMW種を、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して除去することができることを証明する。加えて、データは、ヒトIgG1定常領域におけるプロテインA結合部位が、システイン操作残基の存在によって変更されないことを証明した。
【0217】
【表5】
【0218】
(実施例3)
トラスツズマブ誘導抗体の完全性
トラスツズマブ野生型抗体と比較して重要な生物物理的特性を評価するため、およびバリアントが標準的な抗体製造プラットフォームプロセスに従うことを確実にするために、システイン操作およびトランスグルタミナーゼバリアントの分子評価を実施した。
【0219】
A.システイン変異体
安定なCHO発現を介して産生された精製システイン操作抗体バリアント調製物の完全性を決定するために、非還元キャピラリーゲル電気泳動(Caliper LabChip GXII:Perkin Elmer Waltham,MA)を使用してピークのパーセント純度を計算した。結果から、システイン操作抗体バリアントT(kK183C+K290C)およびT(K290C+K334C)が、トラスツズマブ野生型抗体と類似のように、断片および高分子量種(HMMS)の両方を低レベルで含むことが示される。これに対し、T(K334C+K392C)は、評価した他の二重操作システインバリアントと比較して高レベルの断片化抗体ピークを含んだ(表6)。これらの結果は、操作されるシステインの特定の組合せが、部位特異的コンジュゲーションに関して意図される抗体の完全性に影響を及ぼし得ることを示唆している。
【0220】
【表6】
【0221】
(実施例4)
ペイロード薬物化合物の生成
オーリスタチン薬物化合物0101、0131、8261、6121、8254および6780を、PCT出願国際公開第2013/072813号(全体が本明細書に組み込まれている)に記載の方法に従って作製した。公開された出願において、オーリスタチン化合物は、表7に示される番号付けシステムによって示される。
【0222】
【表7】
【0223】
PCT出願国際公開第2013/072813号に従って、薬物化合物0101を以下の手順に従って作製した。
【0224】
【化1】
【0225】
ステップ1.N−[(9H−フルオレン−9−イルメトキシ)カルボニル]−2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(#53)の合成。一般手順Dに従って、ジクロロメタン(20mL、0.1M)およびN,N−ジメチルホルムアミド(3mL)中の#32(2.05g、2.83mmol、1当量)、アミン#19(2.5g、3.4mmol、1.2当量)、HATU(1.29g、3.38mmol、1.2当量)、ならびにトリエチルアミン(1.57mL、11.3mmol、4当量)から、粗製の所望の材料を合成し、これをシリカゲルクロマトグラフィー(勾配:ヘプタン中の0%〜55%アセトン)によって精製し、#53(2.42g、74%)を固体として得た。LC−MS:m/z965.7[M+H
+]、987.6[M+Na
+]、保持時間=1.04分;HPLC(プロトコールA):m/z965.4[M+H
+]、保持時間=11.344分(純度>97%);
1H NMR(400MHz、DMSO−d
6)、回転異性体の混合物と思われる、特徴的シグナル:δ 7.86-7.91 (m, 2H), [7.77 (d, J=3.3 Hz)および7.79 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.67-7.74 (m, 2H),
[7.63 (d, J=3.2 Hz)および7.65 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.38-7.44 (m, 2H), 7.30-7.36 (m, 2H), 7.11-7.30 (m, 5H), [5.39
(ddd, J=11.4, 8.4, 4.1 Hz)および5.52 (ddd, J=11.7, 8.8,
4.2 Hz), 計1H], [4.49 (dd, J=8.6, 7.6 Hz)および4.59 (dd, J=8.6, 6.8 Hz), 計1H], 3.13, 3.17,
3.18および3.24 (4 s, 計6H), 2.90および3.00 (2 br s, 計3H), 1.31および1.36 (2 br s, 計6H), [1.05 (d, J=6.7 Hz)および1.09 (d, J=6.7 Hz), 計3H].
【0226】
ステップ2.2−メチルアラニル−N−[(3R,4S,5S)−3−メトキシ−1−{(2S)−2−[(1R,2R)−1−メトキシ−2−メチル−3−オキソ−3−{[(1S)−2−フェニル−1−(1,3−チアゾール−2−イル)エチル]アミノ}プロピル]ピロリジン−1−イル}−5−メチル−1−オキソヘプタン−4−イル]−N−メチル−L−バリンアミド(#54または0101)の合成。一般手順Aに従って、ジクロロメタン(10mL、0.07M)中の#53(701mg、0.726mmol)から、粗製の所望の材料を合成し、これをシリカゲルクロマトグラフィー(勾配:ジクロロメタン中の0%〜10%メタノール)によって精製した。残基をジエチルエーテルおよびヘプタンで希釈し、減圧下で濃縮して#54(または0101)(406mg、75%)を白色固体として得た。LC−MS:m/z743.6[M+H
+]、保持時間=0.70分;HPLC(プロトコールA):m/z743.4[M+H
+]、保持時間=6.903分(純度>97%);
1H NMR(400MHz、DMSO−d
6)、回転異性体の混合物と思われる、特徴的シグナル:δ [8.64 (br d, J=8.5 Hz)および8.86 (br d, J=8.7 Hz), 計1H], [8.04 (br d,
J=9.3 Hz)および8.08 (br d, J=9.3 Hz), 計1H], [7.77 (d, J=3.3 Hz)および7.80 (d, J=3.2
Hz), 計1H], [7.63 (d, J=3.3 Hz)および7.66 (d, J=3.2 Hz), 計1H], 7.13-7.31 (m, 5H),
[5.39 (ddd, J=11, 8.5, 4 Hz)および5.53 (ddd, J=12, 9, 4
Hz), 計1H], [4.49 (dd, J=9, 8 Hz)および4.60 (dd, J=9, 7 Hz), 計1H], 3.16, 3.20, 3.21および3.25 (4 s, 計6H), 2.93および3.02 (2 br s, 計3H), 1.21 (s, 3H), 1.13および1.13 (2 s, 計3H), [1.05 (d, J=6.7 Hz)および1.10 (d, J=6.7 Hz), 計3H], 0.73-0.80 (m, 3H).
【0227】
薬物化合物MMAD、MMAE、およびMMAFは、PCT公開国際公開第2013/072813号に開示の方法に従って、組織内で作製した。
【0228】
薬物化合物DM1は、米国特許第5,208,020号に概要される手順を介して、購入したメイタンシノールから組織内で作製した。
【0229】
(実施例5)
トラスツズマブ誘導抗体のバイオコンジュゲーション
本発明のトラスツズマブ誘導抗体を、リンカーを介してペイロードにコンジュゲートし、ADCを生成した。使用したコンジュゲーション法は、部位特異的(即ち、特定のシステイン残基または特定のグルタミン残基を介して)であるか、または従来のコンジュゲーションのいずれかであった。
【0230】
A.システイン部位特異的
表8のADCを、以下に記載のシステイン部位特異的方法を介してコンジュゲートした。
【0231】
【表8】
【0232】
500mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)溶液(50〜100モル当量)を、20mM EDTAを含むPBS中で最終抗体濃度が5〜15mg/mLとなるように、抗体(5mg)に添加した。反応を37℃で2.5時間静置した後、抗体を、ゲル濾過カラム(PD−10脱塩カラム、GE Healthcare)を使用して5mM EDTAを含むPBSに緩衝液交換した。5mM EDTAを含むPBS中の得られた抗体(5〜10mg/mL)を、1:1 PBS/EtOH(DHAの最終濃度=1mM〜4mM)中で新たに調製した50mM DHA溶液によって処置し、4℃で一晩静置した。
【0233】
抗体/DHA混合物を、5mM EDTAを含むPBS(平衡緩衝液のpHを、リン酸を使用して約7.0に調節した)に緩衝液交換し、分子量50kDカットオフの遠心濃縮装置を使用して濃縮した。5mM EDTAを含むPBS(抗体濃度約5〜10mg/mL)中の得られた抗体を、DMA中の10mMマレイミドペイロードの5〜7モル当量によって処置した。1.5〜2.5時間静置した後、材料を緩衝液交換した(PD−10)。SECによる精製を実施して(必要に応じて)、いかなる凝集材料および残っている遊離のペイロードを除去した。
【0234】
B.トランスグルタミナーゼ部位特異的
表9のADCを、以下に記載のトランスグルタミナーゼ部位特異的方法を介してコンジュゲートした。
【0235】
【表9】
【0236】
トランスアミド化反応において、抗体上のグルタミンはアシルドナーとして作用し、アミン含有化合物はアシルアクセプター(アミンドナー)として作用した。濃度33μMの精製HER2抗体を、特記しない限り、0.31mM還元グルタチオンと共に150mM塩化ナトリウムおよびpH範囲7.5〜8のTris HCl緩衝液中で2重量体積%ストレプトベルチシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)トランスグルタミナーゼ(ACTIVA(商標)、味の素、日本)の存在下、10〜25M過剰量のアシルアクセプター、33〜83.3μMの範囲のAcLysvc−0101と共にインキュベートした。反応条件を個々のアシルドナーに関して調整し、T(LCQ05+K222R)は、還元グルタチオンを含まない10M過剰量のアシルアクセプターpH8.0を使用し、T(N297Q+K222R)およびT(N297Q)は、20M過剰量のアシルアクセプターpH7.5を使用し、ならびにT(N297A+K222R+LCQ05)は、25M過剰量のアシルアクセプターpH7.5を使用した。37℃で16〜20時間インキュベートした後、抗体を、市販のアフィニティクロマトグラフィーおよびGE Healthcare社製疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの、当業者に公知の標準的なクロマトグラフィー方法を使用して、MabSelect SuReO樹脂または高性能ブチルセファロース(GE Healthcare、Piscataway、NJ)において精製した。
【0237】
C.従来のコンジュゲーション
表10および11のADCを、以下に記載の従来のコンジュゲーション方法を介してコンジュゲートした。
【0238】
【表10】
【0239】
【表11】
【0240】
抗体をダルベッコリン酸緩衝溶液(DPBS、Lonza)中で透析した。透析した抗体を5mM 2,2’,2’’,2’’’−(エタン−1,2−ジイルジニトリロ)四酢酸(EDTA)、pH7を含むPBSによって15mg/mLに希釈した。得られた抗体を、2〜3当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、蒸留水中で5mM)によって処置し、37℃で1〜2時間静置した。室温に冷却後、ジメチルアセトアミド(DMA)を添加して10体積%の総有機相を得た。混合物を、DMA中の10mM保存溶液として8〜10当量の適切なリンカーペイロードによって処置した。反応を室温で1〜2時間静置した後、GE Healthcare社製Sephadex G−25緩衝液交換カラムを使用して製造元の指示に従って、DPBS(pH7.4)に緩衝液交換した。
【0241】
閉環状態で残すべき材料(表10のADC)を、GE Superdex200カラムを備えるGE AKTA Explorerシステムおよび溶出液としてのPBS(pH7.4)を使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。最終試料を約5mg/mLタンパク質となるように濃縮し、濾過滅菌して、以下に概要する質量分析条件を使用して担持をチェックした。
【0242】
スクシンイミド環加水分解のために使用した材料(表11のADC)を、限外濾過装置(50kD分子量カットオフ)を使用して50mMホウ酸緩衝液(pH9.2)に直ちに緩衝液交換した。得られた溶液を45℃に48時間加熱した。得られた溶液を冷却し、PBSに緩衝液交換し、いかなる凝集材料も除去するためにSEC(以下に記載)によって精製した。最終試料を約5mg/mLタンパク質となるように濃縮し、濾過滅菌して、以下に概要される質量分析条件を使用して担持をチェックした。
【0243】
D.T−DM1コンジュゲーション
トラスツズマブ−メイタンシノイドコンジュゲート(T−DM1)は、トラスツズマブ−エムタンシン(Kadcyla(登録商標))と構造的に類似である。T−DM1は、二機能性リンカーであるスルホスクシンイミジル 4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を通してDM1メンタンシノイドに共有結合したトラスツズマブ抗体で構成される。スルホ−SMCCを最初に、50mMリン酸カリウム、2mM EDTA、pH6.8中、10:1の反応化学量論で抗体上の遊離のアミンに25℃で1時間コンジュゲートし、次に非結合リンカーをコンジュゲート抗体から脱塩する。次に、この抗体−MCC中間体を、50mMリン酸カリウム、50mMNaCl、2mM EDTA、pH6.8中、10:1の反応化学量論でMCCリンカー抗体上の遊離のマレイミド末端でDM1スルフィドに25℃で一晩コンジュゲートする。次に、残っている未反応のマレイミドを、L−システインでキャッピングし、Superdex200カラムを通してADCを分画し、非モノマー種を除去する(Chariら、1992,Cancer Res 52:127〜31)。
【0244】
(実施例6)
ADCの精製
ADCを以下に記載のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して一般的に精製および特徴付けした。意図されるコンジュゲーションの部位への薬物の担持を、以下により詳しく記載するように、質量分析(MS)、逆相HPLC、および疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を含む多様な方法を使用して決定した。これら3つの分析方法の組合せは、抗体上のペイロードの担持を確認および定量する多様な方法を提供し、それによってそれぞれのコンジュゲートに関してDARの正確な決定を提供する。
【0245】
A.分取用SEC
タンパク質凝集体を除去するため、および反応混合物に残っている微量のペイロード−リンカーを除去するために、Akta Explorer FPLCシステムにおいてWaters Superdex200 10/300GLカラムを使用するSECクロマトグラフィーを使用して、ADCを一般的に精製した。場合により、ADCは、SEC精製前に凝集体および低分子を含まず、したがって分取用SECに供しなかった。使用した溶出液は、流速1mL/分のPBSであった。これらの条件下で、凝集材料(室温で約10分で溶出)は、非凝集材料(室温で約15分で溶出)から容易に分離された。疎水性ペイロード−リンカーの組合せによりしばしば、SECピークの「右シフト」が起こった。いかなる特定の理論にも拘束されたくはないが、このSECピークシフトは、リンカー−ペイロードと静止相との疎水性相互作用によるものであり得る。いくつかの例において、この右シフトにより、コンジュゲートタンパク質を非コンジュゲートタンパク質から部分的に分離することができた。
【0246】
B.分析的SEC
分析的SECを、溶出液としてPBSを使用して、Agilent 1100 HPLCで実施し、ADCの純度およびモノマー状態を評価した。溶出液を、220および280nmでモニターした。カラムがTSKGel G3000SWカラム(7.8×300mm、カタログ番号R874803P)である場合、使用した移動相は、流速0.9mL/分のPBSで30分間であった。カラムがBiosepSEC3000カラム(7.8×300mm)である場合、使用した移動相は、流速1.0mL/分のPBSで25分間であった。
【0247】
(実施例7)
ADCの特徴付け
A.質量分析(MS)
試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL ADC)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合することによって、LCMS分析のための試料を調製した。混合物を室温で5分間静置した後、試料を、Agilent Poroshell300SB−C8(2.1×75mm)カラムを備えたAgilent 110 HPLCシステムに注入した。システムの温度を60℃に設定した。20%〜45%アセトニトリル水溶液(0.1%ギ酸修飾剤を含む)の5分間の勾配を利用した。溶出液を、UV(220nm)およびWaters Micromass ZQ質量分析計(ESIイオン化、コーン電圧:20V、イオン源温度:120℃;脱溶媒和温度:350℃)によってモニターした。多重荷電種を含む粗製スペクトルを、MassLynx4.1ソフトウェアパッケージ内のMaxEnt1を製造元の指示に従って使用して逆畳み込みした。
【0248】
B.抗体あたりの担持のMS定量
ADCを作製するための抗体へのペイロードの総担持を、薬物抗体比またはDARと呼ぶ。作製したADCのそれぞれに関して、DARを計算した(表12)。
【0249】
完全な溶出ウィンドウ(通常、5分)のスペクトルを、単一の合計スペクトル(即ち、試料全体のMSを表す質量スペクトル)にまとめた。ADC試料のMS結果を、同一の非担持対照抗体の対応するMSと直接比較した。これによって、担持/非担持重鎖(HC)ピークおよび担持/非担持軽鎖(LC)ピークが同定された。様々なピークの比率を使用して、以下の等式(等式1)に基づいて担持を確立することができる。計算は、一般的に有効な仮定であると決定されている、担持および非担持鎖が等しくイオン化するという仮定に基づいている。
【0250】
DARを確立するために以下の計算を実施した:
等式1:
担持=2
*[LC1/(LC1+LC0)]+2
*[HC1/(HC0+HC1+HC2)]+4
*[HC2/(HC0+HC1+HC2)]
式中、表記の変数は以下の相対量である:LC0=非担持軽鎖、LC1=一重担持軽鎖、HC0=非担持重鎖、HC1=一重担持重鎖、およびHC2=二重担持重鎖。当業者は、本発明が、LC2、LC3、HC3、HC4、HC5などのより高担持種を包含するためにこの計算の拡大を包含することを認識するであろう。
【0251】
以下の等式2を使用して、非操作システイン残基への担持量を推定する。操作されたFc変異体に関して、軽鎖(LC)への担持は、定義により非特異的担持であると考えられた。その上、LCのみの担持は、HC−LCジスルフィド架橋の意図されない還元の結果である(即ち、抗体は「過剰還元」された)と仮定した。大過剰量のマレイミド求電子剤をコンジュゲーション反応に使用したことを考慮して(一般的に、一重変異体に関しておよそ5当量および二重変異体に関して10当量)、軽鎖へのいかなる非特異的担持も、重鎖(即ち、切断されたHC−LCジスルフィドの他の「半分」)への対応する量の非特異的担持を伴うと仮定した。これらの仮定を考慮に入れて、以下の等式(等式2)を使用してタンパク質への非特異的担持量を推定した。
等式2
非特異的担持=4
*[LC1/(LC1+LC0)]
式中、表記の変数は以下の相対量である:LC0=非担持軽鎖、LC1=単一担持軽鎖。
【0252】
【表12-1】
【0253】
【表12-2】
【0254】
C.担持部位を確立するためのFabRICATOR(登録商標)によるタンパク質分解
システイン変異体ADCに関して、抗体への求電子ペイロードのいかなる非特異的担持も、「内部」システイン残基(即ち、典型的に、HC−HCまたはHC−LCジスルフィド架橋の一部である残基)とも呼ばれる「鎖間」で起こると想定される。Fcドメインにおける操作されたシステインへの求電子剤の担持と、内部システイン残基への担持(そうでなければ典型的にHC−HCまたはHC−LC間でS−S結合を形成する)とを区別するために、コンジュゲートを、抗体のFabドメインとFcドメインの間を切断することが知られているプロテアーゼによって処置した。そのような1つのプロテアーゼは、システインプロテアーゼIdeSであり、Genovis社によって「FabRICATOR(登録商標)」として販売され、von Pawel−Rammingenら、2002,EMBO J.21:1607に記載されている。
【0255】
簡単に説明すると、製造元が提案する条件に従って、ADCをFabRICATOR(登録商標)プロテアーゼによって処置し、試料を37℃で30分間インキュベートした。試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合して、混合物を室温で5分間静置することによって、試料をLCMS分析のために調製した。ヒトIgG1のこの処置によって、全て約23〜26kDの範囲のサイズである3つの抗体断片、即ち典型的にLC−HC鎖間ジスルフィド結合を形成する内部システインを含むLC断片、3つの内部システイン(このうち1つは典型的にLC−HCジスルフィド結合を形成し、他の2つのシステインは抗体のヒンジ領域に見出され、典型的に抗体の2つの重鎖の間にHC−HCジスルフィド結合を形成する)を含むN末端HC断片、および本明細書に開示の構築物において変異によって導入されているもの以外の反応性システインを含まないC末端HC断片、が得られた。試料を上記のようにMSによって分析した。LC、N末端HC、およびC末端HCの担持を定量するために、既に記載した(上記の)方法と同じ様式で担持の計算を実施した。C末端HCの担持は、「特異的」担持であると考えられるが、LCおよびN末端HCへの担持は、「非特異的」担持であると考えられる。
【0256】
担持の計算を交差チェックするために、ADCのサブセットを、以下の節により詳しく説明する代替方法(逆相高速液体クロマトグラフィー[rpHPLC]に基づくおよび疎水性相互作用クロマトグラフィー[HIC]に基づく方法)を使用して担持に関しても評価した。
【0257】
D.逆相HPLC分析
試料およそ20μl(PBS中でおよそ1mg/mL)を20mMジチオスレイトール(DTT)20μlと混合することによって、試料を逆相HPLC分析のために調製した。混合物を室温で5分間静置した後、試料を、Agilent Poroshell300SB−C8(2.1×75mm)カラムを備えたAgilent 1100 HPLCシステムに注入した。システムの温度を60℃に設定して、溶出液をUV(220nmおよび280nm)によってモニターした。20%〜45%のアセトニトリル水溶液(0.1%TFA修飾剤を含む)による20分間の勾配を利用した:T=0分、25%アセトニトリル;T=2分、25%アセトニトリル;T=19分、45%アセトニトリル;およびT=20分、25%アセトニトリル。これらの条件を使用して、抗体のHCおよびLCをベースラインで分離した。この分析の結果は、LCがほとんど修飾されないままであるが(T(kK183C)およびT(LCQ05)含有抗体を除く)、HCは修飾される(データは示していない)ことを示している。
【0258】
E.疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
試料をPBSでおよそ1mg/mLに希釈することによって、化合物をHIC分析のために調製した。試料を、TSK−GELブチルNPRカラム(4.6×3.5mm、孔径2.5μm;Tosoh Biosciences、部品番号14947)を備えたAgilent 1200 HPLCへの15μlの自動注入により分析した。システムは、サーモスタットを備えた自動サンプラー、カラムヒーター、およびUV検出器を含む。
【0259】
以下のような勾配方法を使用した:
移動相A:1.5M硫酸アンモニウム、50mMリン酸水素二カリウム(pH7);移動相B:20%イソプロピルアルコール、50mMリン酸水素二カリウム(pH7);T=0分、100%A;T=12分、0%A。
【0260】
保持時間を表13に示す。選択したスペクトルを
図2A〜2Eに示す。部位特異的コンジュゲーションを使用したADC(T(kK183C+K290C)−vc0101、T(K334C+K392C)−vc0101、およびT(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101)(
図1A〜1C)は、主に1つのピークを示したが、従来のコンジュゲーションを使用したADC(T−vc0101およびT−DM1)(
図2D〜2E)は、異なる形で担持されたコンジュゲートの混合物を示した。
【0261】
【表13】
【0262】
F.熱安定性
示差走査熱量測定(DCS)を使用して、操作されたシステインおよびトランスグルタミナーゼ抗体バリアント、ならびに対応するAur−06380101部位特異的コンジュゲートの熱安定性を決定した。この分析に関して、PBS−CMF pH7.2中で調合した試料を、オートサンプラーを備えたMicroCal VP−Capillary DSC(GE Healthcare Bio−Sciences,Piscataway,NJ)の試料トレイに分配し、10℃で5分間平衡にした後、100℃/時間の速度で110℃まで走査した。16秒間のフィルタリング期間を選択した。生データをベースラインで補正して、タンパク質濃度を標準化した。Originソフトウェア7.0(OriginLab Corporation,Northampton,MA)を使用して適切な転移回数でデータをMN2−Stateモデルに適合させた。
【0263】
全ての一重システインおよび二重システイン操作抗体バリアントならびに操作されたLCQ05アシルドナーグルタミン含有タグ抗体は、第一の融解転移(Tm1)が65℃より高いことによって決定すると、優れた熱安定性を示した(表14)。
【0264】
部位特異的コンジュゲーション方法を使用して0101にコンジュゲートしたトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体も評価して、優れた熱安定性を同様に有することが示された(表15)。しかし、T(K392C+L443C)−vc0101 ADCのTm1は、非コンジュゲート抗体と比較して−4.35℃であったことから、ペイロードのコンジュゲーションによって最も影響を受けた。
【0265】
まとめると、これらの結果は、操作されたシステインおよびアシルドナーグルタミンを含むタグ抗体バリアントがいずれも熱安定であること、およびvcリンカーを介しての0101の部位特異的コンジュゲーションが、優れた熱安定性を有するコンジュゲートを生成することを証明した。さらに、非コンジュゲート抗体と比較してT(K392C+L443C)−vc0101に関して観察されたより低い熱安定性は、vcリンカーを介しての操作されたシステイン残基の特定の組合せへの0101のコンジュゲーションがADCの安定性に影響を及ぼし得ることを示した。
【0266】
【表14】
【0267】
【表15】
【0268】
(実施例8)
HER2に対するADCの結合
A.直接結合
BT474細胞(HTB−20)をトリプシン処理して、遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に、細胞を、出発濃度1μg/mLのADCまたは非コンジュゲートトラスツズマブのいずれかの連続希釈液と共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を氷冷PBSによって2回洗浄し、抗ヒトAlexafluor 488二次抗体(カタログ番号A−11013、Life technologies)と共に30分間インキュベートした。次に、細胞を2回洗浄した後、PBSに再懸濁した。平均蛍光強度を、Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose、CA)を使用して読み取った。
【0269】
【表16】
【0270】
図3Aおよび表16に示すように、ADC T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101、T(kK183C+K290C)−vc0101、T(kK183C+K392C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101は、直接結合によってT−DM1およびトラスツズマブと類似の結合親和性を有した。このことは、本発明のADCにおける抗体への修飾およびリンカー−ペイロードの付加が結合に有意な影響を及ぼさなかったことを示している。
【0271】
B.FACSによる競合的結合
BT474細胞をトリプシン処理して、遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に、細胞を、1μg/mLトラスツズマブ−PE(eBiosciences (San Diego, CA)によりカスタム合成された1:1 PE標識トラスツズマブ)と混合した、ADCまたは非コンジュゲートトラスツズマブのいずれかの連続希釈液と共に4℃で1時間インキュベートした。次に、細胞を2回洗浄した後、PBSに再懸濁した。平均蛍光強度を、Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose、CA)を使用して読み取った。
【0272】
図3Bに示すように、ADC T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101、T(kK183C+K290C)−vc0101、T(kK183C+K392C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101は、PE標識トラスツズマブに対する競合結合によって、T−DM1およびトラスツズマブと類似の結合親和性を有した。このことは、本発明のADCにおける抗体への修飾およびリンカー−ペイロードの付加が結合に有意な影響を及ぼさなかったことを示している。
【0273】
(実施例9)
ヒトFcRnに対するADCの結合
当技術分野において、FcRnはサブタイプによらず、IgGとpH依存的に相互作用し、それが分解されるリソソーム区画に入るのを防止することによって抗体を分解から保護すると考えられている。したがって、反応性システインを野生型IgG1−Fc領域に導入する位置の選択に関して検討したのは、操作されたシステインを含む抗体のFcRn結合特性および半減期が変化するのを回避することであった。
【0274】
BiAcore(登録商標)分析を行って、ヒトFcRnに対する結合に関してトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体およびそのそれぞれのADCの定常状態親和性(KD)を決定した。BiAcore(登録商標)技術は、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCが、層の上に固定されたヒトFcRnタンパク質に結合する際のセンサーの表面層での屈折指数の変化を利用する。結合を、表面から屈折するレーザー光の表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出した。ヒトFcRnを、BirA試薬(カタログ番号:BIRA500,Avidity,LLC,Aurora,Colorado)を使用して、操作されたAvi−タグを通して特異的にビオチン化し、センサー上でのFcRnタンパク質の均一な方向が可能となるように、ストレプトアビジン(SA)センサーチップ上に固定した。次に、150mM NaCl、3mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.5%SurfactantP20を含む20mM MES(2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸pH6.0(MES−SP)中の様々な濃度のトラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCをチップ表面に注入した。注入サイクルの間に、HBS−EP+0.05%SurfactantP20(GE Healthcare,Piscataway,NJ)pH7.4を使用して、表面を再生した。定常状態結合親和性を、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCに関して決定し、これらを野生型トラスツズマブ抗体(IgG1 Fc領域にシステイン変異を含まず、TGアーゼ操作タグまたはペイロードの部位特異的コンジュゲーションを含まない)と比較した。
【0275】
これらのデータは、本発明の表記の位置での操作されたシステイン残基のIgG1−Fc領域への取り込みがFcRnに対する親和性を変更しないことを証明した(表17)。
【0276】
【表17-1】
【0277】
【表17-2】
【0278】
(実施例10)
Fcγ受容体に対するADCの結合
ヒトFcγ受容体に対する部位特異的コンジュゲーションを使用したADCの結合を、ペイロードに対するコンジュゲーションが抗体依存性細胞傷害(ADCC)などの抗体関連機能性特性に影響を及ぼし得る結合を変更するか否かを理解するために評価した。FcγIIIa(CD16)はNK細胞およびマクロファージ上で発現し、抗体結合を介してのこの受容体と標的発現細胞との同時会合がADCCを惹起する。BIAcore(登録商標)分析を使用して、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体およびそのそれぞれのADCの、Fcγ受容体IIa(CD32a)、IIb(CD32b)、IIIa(CD16)、およびFcγRI(CD64)に対する結合を調べた。
【0279】
この表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイに関して、組換え型ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2/neu)細胞外ドメインタンパク質(Sino Biological Inc.,Beijing,P.R.China)をCM5チップ(GE Healthcare,Piscataway,NJ)上に固定し、トラスツズマブ誘導モノクローナル抗体またはそのそれぞれのADCのいずれかの約300〜400応答ユニット(RU)を捕捉した。T−DM1は、非コンジュゲートトラスツズマブ抗体と同等のFcγ受容体に対する結合特性をコンジュゲーション後も保持することが示されていることから、陽性対照としてこの評価に含めた。次に、様々な濃度のFcγ受容体、FcγIIa(CD32a)、FcγIIb(CD32b)、FcγIIIa(CD16a)およびFcγRI(CD64)を表面上に注入して、結合を決定した。
【0280】
FcγR IIa、IIb、およびIIIaは、急速なon/offレートを示し、したがってセンソグラムを定常状態モデルに適合させてKd値を得た。FcγRIは、より遅いon/offレートを示し、このためデータをカイネティックモデルに適合させてKd値を得た。
【0281】
操作されたシステイン位置290および334位でのペイロードのコンジュゲーションにより、その非コンジュゲート相対物の抗体およびT−DM1と比較して、特にCD16a、CD32a、およびCD64に対するFcγR親和性の中等度の喪失が示された(表18)。しかし、部位290、334、および392位での同時コンジュゲーションによって、T(K290C+K334C)−vc0101およびT(K334C+K392C)−vc0101に関して観察されたように、CD16a、CD32a、およびCD32bに対する親和性は実質的に失われたが、CD64に対する親和性は失われなかった(表18)。興味深いことに、T(kK183C+K290C)−vc0101は、K290C位で薬物ペイロードを有するにもかかわらず、この試験において評価した全てのFcγRに対して同等の結合を示した(表18)。予想されたように、トランスグルタミナーゼ媒介コンジュゲートT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、アシルドナーグルタミン含有タグの位置がN−結合グリコシル化を除去することから、評価したFcγ受容体のいずれにも結合しなかった。逆に、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101は、グルタミン含有タグがヒトκ軽鎖定常領域内で操作されていることから、Fcγ受容体に対する完全な結合を保持した。
【0282】
まとめると、これらの結果は、コンジュゲートされたペイロードの位置が、FcγRに対するADCの結合に影響を及ぼし得ること、およびコンジュゲートの抗体機能性に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0283】
【表18】
【0284】
(実施例11)
ADCC活性
ADCCアッセイにおいて、Her2発現細胞株BT474およびSKBR3を標的細胞として使用し、NK−92細胞(Conkwest社によって50歳の白人男性の末梢血単核球細胞から誘導されたインターロイキン−2依存的ナチュラルキラー細胞株)または健康なドナー(#179)から新たに採取した血液から単離したヒト末梢血単核球(PBMC)を、エフェクター細胞として使用した。
【0285】
標的細胞(BT474またはSKBR3)1×10
4個/100μl/ウェルを96ウェルプレートに入れて、RPMI1640培地中、37℃/5%CO
2で一晩培養した。翌日、培地を除去して、アッセイ緩衝液(10mM HEPESを含むRPMI1640培地)60μlに交換し、1μg/ml抗体またはADC 20μlを添加し、その後1×10
5個(SKBR3に関して)または5×10
5個(BT474に関して)のPBMC浮遊液20μl、または両方の細胞株に関して2.5×10
5個のNK92細胞を各ウェルに添加して、PBMCの場合はBT474に関してエフェクター対標的比50:1もしくはSKBR3に関して25:1、またはNK92の場合は10:1を得た。試料は全て3回の反復実験で行った。
【0286】
アッセイプレートを37℃/5%CO
2で6時間インキュベートした後、室温で平衡にした。細胞溶解によるLDH放出を、CytoTox−One(商標)試薬を使用して、励起波長560nmおよび放射波長590nmで測定した。陽性対照として、Triton 8μLを添加して、対照ウェルにおいて最大のLDH放出を生成した。
図4に示す特異的細胞傷害性は、以下の式を使用して計算した。
【0287】
【数1】
「実験」は、上記の条件の1つで測定したシグナルに対応する。
「エフェクター自然放出」は、PBMC単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
「標的自然放出」は、標的細胞単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
「標的最大」は、洗浄剤溶解標的細胞単独の存在下で測定したシグナルに対応する。
【0288】
図4は、トラスツズマブ、T−DM1、およびvc0101 ADCコンジュゲートに関して試験したADCC活性を示す。データは、トラスツズマブおよびT−DM1に関して報告されたADCC活性と一致する。N297Qの変異はグリコシル化部位に存在することから、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、ADCC活性を有しないと予想され、これもまたアッセイにおいて確認された。一重変異体(K183C、K290C、K334C、LCQ05を含むK392C)ADCに関しては、ADCC活性が維持された。意外にも、二重変異体(K183C+K290C、K183C+K392C、K183C+K334C、K290C+K392C、K290C+K334C、K334C+K392C)ADCに関して、ADCC活性は、K334C部位に関連する2つの二重変異体ADC(K290C+K334CおよびK334C+K392C)を除き、全て維持された。
【0289】
(実施例12)
In vitro細胞傷害アッセイ
抗体−薬物コンジュゲートを実施例3に記載のように調製した。細胞を96ウェルプレートに低密度で播種し、翌日にADCおよび非コンジュゲートペイロードを10濃度の連続3倍希釈液によって2回の反復実験で処置した。細胞を湿潤37℃/5%CO
2インキュベータ内で4日間インキュベートした。プレートをCellTiter(登録商標)96 AQuecus One MTS溶液(Promega,Madison,WI)と共に1.5時間インキュベートすることによって採取し、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC
50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算し、
図5にnMペイロード濃度で、および
図6にng/mL抗体濃度で報告した。IC
50値は、括弧内に独立した測定回数と共に±標準偏差で示す。
【0290】
vc−0101またはAcLysv−0101リンカーペイロードを含むADCは、基準ADCであるT−DM1(Kadcyla)と比較して、Her2陽性細胞モデルに対して非常に強力であり、Her2陰性細胞に対して選択的であった。
【0291】
トラスツズマブに対する部位特異的コンジュゲーションによって合成したADCは、Her2細胞モデルに対して高レベルの効力および選択性を示した。特に、いくつかのトラスツズマブ−vc0101 ADCは、中等度または低いHer2発現細胞モデルにおいてT−DM1より強力である。例えば、MDA−MB−175−VII細胞(1+のHer2発現を有する)におけるT(kK183C+K290C)−vc0101のin vitro細胞傷害のIC
50は、351ng/mlであり、これに対しT−DM1では3626ng/ml(約10倍低い)である。MDA−MB−361−DYT2およびMDA−MB−453細胞などの2++レベルのHer2発現を有する細胞に関して、T(kK183C+K290C)−vc0101のIC
50は12〜20ng/mlであり、これに対しT−DM1では38〜40ng/mlである。
【0292】
(実施例13)
異種移植片モデル
本発明のトラスツズマブ誘導ADCを、N87胃がん異種移植片モデル、37622肺がん異種移植片モデル、および多数の乳がん異種移植片モデル(即ち、HCC 1954、JIMT−1、MDA−MB−361(DYT2)、および144580(PDX)モデル)で試験した。以下に記載のそれぞれのモデルに関して、最初の用量を1日目に与えた。腫瘍を少なくとも週に1回測定し、その体積を式:腫瘍体積(mm
3)=0.5×(腫瘍の幅
2)(腫瘍の長さ)によって計算した。最大で8〜10匹、最少で6〜8匹の動物を含む各処置群の平均腫瘍体積(±S.E.M)を計算した。
【0293】
A.N87胃がん異種移植片
トラスツズマブ誘導ADCの効果を、免疫欠損マウスにおいて、高レベルのHER2発現を有するN87細胞株(ATCC CRL−5822)から確立したヒト腫瘍異種移植片のin vivo成長に関して調べた。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu,Charles River Lab,Wilmington,MA)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で7.5×10
6個のN87細胞を皮下移植した。腫瘍の体積が250〜450mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。N87胃がんモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブADC(0.3、1、および3mg/kg)またはT−DM1(1、3、および10mg/kg)を4日間離して4回(Q4d×4)静脈内投与した(
図7)。
【0294】
データは、トラスツズマブ誘導ADCがN87胃がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明する(
図7A〜7H)。
【0295】
図7Iに示すように、T−DM1は、1および3mg/kgで腫瘍成長を遅らせ、10mg/kgでは腫瘍の完全な縮小を示した。しかし、T(kK183C+K290C)−vc0101は、1および3mg/kgで完全な縮小をもたらし、0.3mg/kgで部分的縮小をもたらした(
図7A)。データは、T(kK183C+K290C)−vc0101が、このモデルにおいてT−DM1より有意に強力(約10倍)であることを示している。
【0296】
DAR4を有するADC(
図6E、6F、および6G)について、183+290(
図7A)と比較して類似のin vivo有効性が得られた。加えて、DAR2 ADCである一重変異体を評価した(
図7B、7C、および7D)。一般的に、これらのADCは、DAR4 ADCと比較してあまり有効ではないが、T−DM1よりは有効である。DAR2 ADCにおいて、LCQ05は、in vivo有効性データに基づくと最も強力なADCであるように思われる。
【0297】
B.HCC1954乳がん異種移植片
HCC1954(ATCC# CRL−2338)は、高HER2発現乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性SHOマウス(Charles River,Wilmington,MA)に、50%Matrigel(BD Biosciences)中で5×10
6個のHCC1954細胞を皮下移植した。腫瘍の体積が200〜250mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。HCC1954乳がんモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブ誘導ADC、および陰性対照ADCをQ4d×4で静脈内投与した(
図8A〜8E)。
【0298】
データは、トラスツズマブADCがHCC1954乳がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明している。1mg/kg用量の比較では、vc0101コンジュゲートは、T−DM1より有効であった。0.3mg/kg用量の比較では、DAR4担持ADC(
図8B、8C、および8D)は、DAR2担持ADCより有効である(
図8A)。さらに、陰性対照ADCの1mg/kgは、ビヒクル対照と比較して腫瘍成長に対する影響は非常にわずかであった(
図8D)。しかし、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101は、腫瘍を完全に縮小させ、標的特異性を示している。
【0299】
C.JIMT−1乳がん異種移植片
JIMT−1は、中等度/低いHer2を発現し、トラスツズマブに対して本質的に抵抗性である乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で5×10
6個のJIMT−1細胞(DSMZ#ACC−589)を皮下移植した。腫瘍の体積が200〜250mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。JIMT−1乳がんモデルに、PBSビヒクル、T−DM1(
図9G)、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC(
図9A〜9E)、従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC(
図9F)、および陰性対照huNeg−8.8ADCをQ4d×4で静脈内投与した。
【0300】
データは、試験した全てのvc0101コンジュゲートが腫瘍の縮小を用量依存的に引き起こすことを証明している。これらのADCは、1mg/kgで腫瘍の縮小を引き起こすことができる。しかし、T−DM1はこの中等度/低いHer2発現モデルでは6mg/kgでも不活性である。
【0301】
D.MDA−MB−361(DYT2)乳がん異種移植片
MDA−MB−361(DYT2)は、中等度/低Her2発現乳がん細胞株である。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに100cGy/分を4分間照射し、3日後に50%Matrigel(BD Biosciences)中で1.0×10
7個のMDA−MB−361(DYT2)細胞(ATCC# HTB−27)を皮下移植した。腫瘍の体積が300〜400mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍量の均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。DYT2乳がんモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションおよび従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、T−DM1、および陰性対照ADCをQ4d×4で静脈内投与した(
図10A〜10D)。
【0302】
データは、トラスツズマブADCがDYT2乳がん異種移植片の成長を用量依存的に阻害したことを証明している。DYT2は中等度/低Her2発現細胞株であるが、他のHer2低/中等度発現細胞株より微小管阻害剤に対して感受性である。
【0303】
E.144580患者由来乳がん異種移植片
トラスツズマブ誘導ADCの効果を、免疫欠損マウスにおいて、適切な同意手順に従って得た新たに切除した144580乳房腫瘍の断片から確立したヒト腫瘍異種移植片のin vivo成長に関して調べた。新しい生検を採取した際の144580の腫瘍特徴付けは、トリプルネガティブ(ER−、PR−、およびHER2−)乳がん腫瘍であった、144580乳がん患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。144580乳がんモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブADC、および従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、および陰性対照ADCを4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(
図11A〜11E)。
【0304】
このHER2−(臨床での定義により)PDXモデルにおいて、T−DM1は、調べた全ての用量(1.5、3、および6mg)で無効であった(
図10E)。DAR4 vc0101 ADC(
図11A、11C、および11D)に関して、3mg/kgは、腫瘍の縮小を引き起こすことができる(
図11Cにおいて1mg/kgであっても)。DAR2 vc0101 ADC(
図11B)は、3mg/kgでDAR4 ADCより無効である。しかし、DAR2 vc0101 ADCはT−DM1とは異なり、6mg/kgで有効である。
【0305】
F.37622患者由来非小細胞肺がん異種移植片
適切な同意手順に従って得た37622の患者由来非小細胞肺がん異種移植片モデルにおいていくつかのADCを試験した。37622患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。37622PDXモデルに、PBSビヒクル、部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADC、T−DM1、および陰性対照ADCを、4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(
図12A〜12D)。
【0306】
Her2の発現を、修飾したHercept試験によってプロファイリングしたところ、細胞株において認められるより多くの不均質性を有する2+であると分類された。リンカーペイロードとしてvc0101をコンジュゲートしたADC(
図12A〜12C)は、1および3mg/kgで腫瘍の縮小を引き起こし、有効であった。しかし、T−DM1は、10mg/kgでいくらかの治療利益を提供したに過ぎなかった(
図12D)。T−DM1の10mg/kgでの結果をvc0101 ADCの1mg/kgと比較すると、vc0101 ADCは、T−DM1より10倍強力であるように思われる。バイスタンダー効果は、不均質な腫瘍における有効性にとって重要である可能性がある。
【0307】
G.GA0044患者由来胃がん異種移植片
トラスツズマブおよび抗HER2 ADCを、適切な同意手順に従って得た患者由来胃がん異種移植片モデル(GA0044)において試験した。GA0044患者由来異種移植片を、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスにおいて動物から動物への断片としてin vivoで皮下に継代した。腫瘍の体積が150〜300mm
3に達すると、様々な処置群における腫瘍サイズの均一性を確保するために、腫瘍を病期分類した。GA0044PDXモデルに、PBSビヒクル、トラスツズマブ、T−DM1、またはvc0101に対する部位特異的コンジュゲーションを使用したトラスツズマブ誘導ADCを、4日毎に4回(Q4d×4)静脈内投与した(
図30)。
【0308】
GA0044におけるHER2の発現を、変更したHercept試験によってプロファイリングしたところ、不均質な分布を有する2+であると分類された。ペイロードとしてvc0101をコンジュゲートしたADC(即ち、T(kK183C+K290C)−vc0101)は、有効であり、1および3mg/kg用量で腫瘍の完全な縮小が起こった。トラスツズマブおよびT−DM1は、ビヒクル処置腫瘍と比較して腫瘍成長に認識可能な差を示さなかった。バイスタンダー効果は、不均質な標的(即ち、HER2)発現を有するこの腫瘍における有効性にとって重要である可能性がある。
【0309】
H.N87胃がん異種移植片におけるT−vc0101 ADCのバイスタンダー効果の証明
T−DM1 ADCの放出された代謝物は、膜不透過性化合物であるリジンキャップmcc−DM1リンカーペイロード(即ち、Lys−mcc−DM1)であることが示されている(Kovtunら、2006,Cancer Res 66:3214〜21;Xieら、2004,J Pharmacol Exp Ther 310:844)。しかし、T−vc0101 ADCから放出された代謝物は、オーリスタチン0101であり、Lys−mcc−DM1より膜透過性が高い化合物である。放出されたADCペイロードが隣接する細胞を死滅させる能力は、バイスタンダー効果として知られている。膜透過性のペイロードの放出により、T−vc0101は、強いバイスタンダー効果を惹起することができるが、T−DM1は惹起することができない。
図13は、T−DM1の6mg/kg(
図13A)またはT−vc0101の3mg/kg(
図13B)のいずれかを1回投与した後、採取し、後に96時間のホルマリン固定で処理したN87細胞株異種移植片腫瘍の免疫組織化学を示す。腫瘍の切片を、両方のADCのペイロードについて提唱される作用機序の読み出しとして、腫瘍細胞に結合したADCを検出するためにヒトIgGに関して染色し、分裂細胞を検出するためにホスホ−ヒストンH3(pHH3)に関して染色した。
【0310】
ADCは、いずれの場合も腫瘍の辺縁部で検出される。T−DM1処置腫瘍(
図13A)において、pHH3陽性腫瘍細胞の大部分は、ADCの近くに存在する。しかし、T−vc0101処置腫瘍(
図13B)では、pHH3陽性腫瘍細胞の大部分は、ADCの位置を超えて広がっており(黒色の矢印はいくつかの例を強調する)、腫瘍の内部に存在する。これらのデータは、切断可能リンカーおよび膜透過性のペイロードを有するADCが、in vivoで強いバイスタンダー効果を惹起できることを示唆している。
【0311】
(実施例14)
In vitroT−DM1抵抗性モデル
A.in vitroでのT−DM1抵抗性細胞の生成
N87細胞を2つの個別のフラスコに継代し、生物学的複製実験を可能にするために、それぞれのフラスコを抵抗性生成プロトコールに関して同一に処置した。細胞を、T−DM1コンジュゲートのおよそIC
80濃度(10nMペイロード濃度)に3日間曝露した後、およそ4〜11日間処置を行わずに回復させることを5サイクル行った。T−DM1コンジュゲートの10nMで5サイクル後、細胞を、100nM T−DM1のさらに6回サイクルに同様に曝露した。手順は、診療所で細胞傷害性治療薬に関して典型的に使用される、最大忍容量の後に回復期間を設ける長期的なマルチサイクル(on/off)投与を模倣することを意図した。N87から誘導した親細胞をN87と呼び、T−DM1に長期的に曝露した細胞をN87−TMと呼ぶ。中等度から高レベルの薬物抵抗性が、N87−TM細胞に関して4カ月以内に発生した。抵抗性レベルが持続的な薬物曝露後にもはや増加しなくなるサイクル処置の3〜4カ月後に、薬物の選択圧を除去した。応答および表現型は、その後およそ3〜6カ月間、培養細胞株において安定なままであった。その後、細胞傷害アッセイによって測定した抵抗性表現型の大きさの低減が時に観察され、この場合には、継代初期に凍結保存したT−DM1抵抗性細胞を追加の試験のために融解した。細胞の安定化を確実にするために、T−DM1選択圧の除去後少なくとも2〜8週間の間に、報告された全ての特徴付けを実施した。結果の一貫性を確実に得るためにモデルの作製後およそ1〜2年の間に、1回の選択に由来する融解した様々な凍結保存集団からデータを収集した。胃がん細胞株N87を、それぞれの細胞株に関しておよそIC
80(約10nMペイロード濃度)である用量での処置サイクルによって、トラスツズマブ−メイタンシノイド抗体−薬物コンジュゲート(T−DM1)に対する抵抗性に関して選択した。親N87細胞は、コンジュゲートに対して本質的に感受性であった(IC
50=1.7nMペイロード濃度、62ng/mL抗体濃度)(
図14)。親N87細胞の2つの集団を処置サイクルに曝露して、100nM T−DM1でのおよそ4カ月間の曝露サイクル後、これらの2つの集団(以降、N87−TM−1およびN87−TM−2と呼ぶ)はそれぞれ、親細胞と比較してADCに対して114倍および146倍の不応性となった(
図14および
図15A)。興味深いことに、対応する非コンジュゲートメイタンシノイド遊離薬に対して最小の交差抵抗性(約2.2〜2.5倍)が観察された(
図14)。
【0312】
B.細胞傷害性試験
ADCを実施例3に記載のように調製した。非コンジュゲートメイタンシンアナログ(DM1)およびオーリスタチンアナログは、Pfizer Worldwide Medicinal Chemistry(Groton,CT)が調製した。他の標準治療化学療法剤は、Sigma(St.Louis,MO)から購入した。細胞を96ウェルプレートに低密度で播種した後、翌日、ADCおよび非コンジュゲートペイロードの10濃度の3倍連続希釈液によって2回の反復実験で処置した。細胞を湿潤37℃/5%CO
2インキュベータ内で4日間インキュベートした。CellTiter(登録商標)96AQueous One MTS溶液(Promegam Madison,WI)と共に1.5時間インキュベートすることによってプレートを採取し、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC
50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算した。
【0313】
他のトラスツズマブ誘導ADCに対する交差抵抗性プロファイルを決定した。切断不能リンカーおよび送達ペイロードで構成される多くのトラスツズマブ誘導ADCに対して、抗チューブリン作用機序により有意な交差抵抗性が観察された(
図14)。例えば、N87−TMをN87親細胞と比較すると、切断不能マレイミドカプロイルまたはMal−PEGリンカーを介してそれぞれトラスツズマブに連結されたオーリスタチンベースのペイロードを表すT−mc8261(
図14および
図15B)およびT−MalPeg8261(
図14)に対して、>330および>272倍の効力の低減が観察された。N87−TM細胞において、モノメチルドラスタチン(MMAD)を送達する異なる切断不能リンカーを有する別のトラスツズマブADCであるT−mcMalPegMMADに対して、235倍を超える抵抗性が観察された(
図14)。
【0314】
注目すべきことに、これらの薬物は類似の標的を機能的に阻害する(即ち、微小管の脱重合化)が、N87−TM細胞株は切断可能リンカーを介して送達されるペイロードに対しては感受性を保持することが観察された。抵抗性を克服するADCの例には、限定されないが、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101(
図14および
図15C)、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101(
図14および
図15D)、T(K290C+K334C)−vc0101(
図10および
図11E)、T(K334C+K392C)−vc0101(
図14および
図15F)ならびにT(kK183C+K290C)−vc0101(
図14および
図15G)が挙げられる。これらは、オーリスタチンアナログ0101を送達するがvcリンカーのタンパク質分解切断によってペイロードが細胞内に放出される、トラスツズマブベースのADCを表す。
【0315】
これらのADC抵抗性がん細胞が他の治療に対して広く抵抗性であるか否かを決定するために、N87−TM細胞モデルを、様々な作用機序を有する標準治療化学療法剤のパネルによって処置した。一般的に、微小管およびDNA機能の低分子阻害剤は、N87−TM抵抗性細胞株に対して有効なままであった(
図14)。これらの細胞は、微小管脱重合剤であるメイタンシンのアナログを送達するADCに対して抵抗性となったが、いくつかのチューブリン脱重合化または重合化剤に対しては交差抵抗性が最小であるかまたは交差抵抗性が認められなかった。同様に、両方の細胞株は、トポイソメラーゼ阻害剤、抗代謝剤、およびアルキル化剤/架橋剤を含む、DNA機能を妨害する薬剤に対する感受性を保持した。一般的に、N87−TM細胞は、広範囲の細胞障害剤に対して不応性ではないことから、薬物抵抗性を模倣する一般的な成長または細胞周期の欠損は除外される。
【0316】
両方のN87−TM集団は、対応する非コンジュゲート薬(即ち、DM1および0101;
図14)に対しても感受性を保持した。したがって、トラスツズマブ−メイタンシノイドコンジュゲートに対して不応性となったN87−TM細胞は、切断不能リンカーを介して送達した場合に、他の微小管ベースのADCに対して交差抵抗性を示したが、非コンジュゲート微小管阻害剤および他の化学療法剤に対しては感受性のままであった。
【0317】
N87−TM細胞におけるT−DM1に対する抵抗性の分子メカニズムを決定するために、MDR1およびMRP1薬物排出ポンプのタンパク質発現レベルを決定した。これは。低分子チューブリン阻害剤がMDR1およびMRP1薬物排出ポンプの公知の基質であるためであった(Thomas and Coley,2003,Cancer Control 10(2):159〜165)。親N87およびN87−TM抵抗性細胞の総細胞溶解物から、これらの2つのタンパク質のタンパク質発現レベルを決定した(
図16)。イムノブロット分析から、N87−TM抵抗性細胞がMRP1(
図16A)またはMDR1(
図16B)タンパク質を有意に過剰発現しないことが示された。まとめると、これらのデータを、N87−TM細胞において薬物排出ポンプの公知の基質(例えば、パクリタキセル、ドキソルビシン)に対する交差抵抗性がないことと組み合わせると、薬物排出ポンプの過剰発現は、N87−TM細胞におけるT−DM1抵抗性の分子メカニズムではないことを示唆している。
【0318】
ADCの作用機序が、特異的抗原に対する結合を必要としていることから、抗原の枯渇または抗体結合の低減は、N87−TM細胞におけるT−DM1抵抗性を説明し得る。T−DM1に関する抗原がN87−TM細胞において有意に枯渇されているか否かを決定するために、親N87およびN87−TM抵抗性細胞の総細胞溶解物からのHER2発現レベルを比較した(
図17A)。イムノブロット分析から、N87−TM1細胞が、親N87細胞と比較して顕著に低減された量のHER2タンパク質発現を有しないことが示された。
【0319】
N87−TM細胞の細胞表面HER2抗原に対する抗体結合量を決定した。蛍光活性化細胞ソーティングを使用する細胞表面結合試験において、N87−TM細胞は、細胞表面抗原に対するトラスツズマブ結合が約50%減少した(
図17B)。N87細胞は、がん細胞株の中でもHER2タンパク質の高い発現体であることから(Fujimoto−Ouchiら、2007,Cancer Chemother Pharmacol 59(6):795〜805)、これらの細胞におけるHER2抗体結合の約50%低減はおそらく、N87−TM細胞におけるT−DM1に対する抵抗性の促進メカニズムを表すものではない。この解釈を支持する証拠は、N87−TM抵抗性細胞が、異なるリンカーおよびペイロードを有する他のHER2結合トラスツズマブ誘導ADCに対して感受性のままであることである(
図14)。
【0320】
偏りのないアプローチでT−DM1抵抗性の潜在的メカニズムを決定するために、親N87およびN87−TM抵抗性細胞モデルを、T−DM1抵抗性の原因であり得る膜タンパク質発現レベルの変化を全体的に同定するために、プロテオミックアプローチを介してプロファイルを調べた。両方の細胞株モデルの間で523個のタンパク質の有意な発現レベルの変化が観察された(
図18A)。これらの予想されるタンパク質変化の選択をバリデートするために、N87およびN87−TM全細胞溶解物のイムノブロットを、N87細胞と比較してN87−TM細胞において過小発現すると予想されるタンパク質(IGF2R、LAMP1、CTSB)(
図18B)および過剰発現すると予想されるタンパク質(CAV1)(
図18C)に関して実施した。In vivoで観察されたタンパク質の変化がin vivoで認められる変化を模倣するか否かを評価するために、N87およびN87−TM−2細胞をNSGマウスに皮下移植することによって、in vivo腫瘍を生成した。N87−TM−2腫瘍は、N87腫瘍と比較してCAV1タンパク質の過剰発現を保持した(
図18D)。両方のモデルにおいてマウス間質でのCAV染色が予想されるが、上皮CAV1染色はN87−TM−2モデルのみに認められた。
【0321】
C.In vivo有効性試験
細胞培養において観察された抵抗性がin vivoで再現されるか否かを決定するために、親N87細胞およびN87−TM−2細胞を拡大増殖させて、The Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から得た雌性NOD scidガンマ(NSG)免疫欠損マウス(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)の脇腹に注射した。
マウスにN87またはN87−TM細胞(7.5×10
6個/注射、50%Matrigel中)のいずれかの浮遊液を右脇腹に皮下注射した。腫瘍が約0.3g(約250mm
3)に達すると、マウスを試験群に無作為化した。T−DM1コンジュゲートまたはビヒクルを0日目に食塩水中で静脈内投与し、全体で4用量を4日間離して繰り返した(Q4D×4)。腫瘍を毎週測定して、量を体積=(幅×幅×長さ)/2として計算した。time to event分析(腫瘍の倍加)を実施して、ログランク(Mantel−Cox)検定によって有意性を評価した。これらの試験の全ての処置群のマウスにおいて、体重減少は観察されなかった。
【0322】
マウスを以下の薬剤で処置した:(1)ビヒクル対照PBS、(2)トラスツズマブ抗体の13mg/kgの後に4.5mg/kg;(3)T−DM1の6mg/kg;(4)T−DM1の10mg/kg;(5)T−DM1の10mg/kg、次いでT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の3mg/kg;(6)T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の3mg/kg。腫瘍サイズをモニターして、結果を
図20に示す。N87(
図19および
図20A)およびN87−TM−2(
図19および
図20B)腫瘍は、in vitro細胞傷害アッセイで認められたプロファイルと類似のADC有効性プロファイルを示し(
図19および20B)、N87−TM薬物抵抗性細胞は、T−DM1に対して不応性であったが、なおも切断可能リンカーを有するトラスツズマブ誘導ADCには応答した。実際に、T−DM1に対して不応性であり、約1gまで成長した腫瘍を、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101による処置に切り替えると、腫瘍は有効に縮小した(
図20B)。この試験のtime−to−event分析において、T−DM1の6および10mg/kgは、N87モデルにおけるマウスの>50%において少なくとも60日間腫瘍の倍加を防止したが、N87−TM−2モデルでは、T−DM1は防止することができなかった(
図20Cおよび20D)。T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101を3mg/kgで投与すると、試験期間の間(約80日)、マウスにおけるN87およびN87−TM腫瘍の両方のいかなる腫瘍倍加も防止した(
図20Cおよび20D)。
【0323】
別の試験において、in vitroでT−DM1抵抗性を克服した切断可能に連結されたADCは全て、T−DM1に対して非応答性であったこのN87−TM2腫瘍モデルにおいて有効なままであった(
図19および
図20E)。
【0324】
次に、T(kK183+K290C)−vc0101 ADCがTDM1に対して不応性である腫瘍成長を阻害できるか否かを評価した。ビヒクルまたはT−DM1のいずれかによって処置したN87−TM腫瘍は、これらの処置下で成長したが、14日目にT(kK183C+K290C)−vc0101治療に切り替えた腫瘍は直ちに縮小した(
図20F)。
【0325】
(実施例15)
In vivoT−DM1抵抗性モデル
A.In vivoでのT−DM1抵抗性細胞の生成
全ての動物試験は、確立されたガイドラインに従って、Pfizer Pearl River Institutional Animal Care and Use Committeeによって承認された。異種移植片を生成するために、雌性ヌード(Nu/Nu)マウスに、50%Matrigel(BD Biosciences)中で7.5×10
6個のN87細胞を皮下移植した。平均腫瘍体積が約300mm
3に達すると、動物を2つの群に無作為化した:1)ビヒクル対照(n=10)および2)T−DM1処置(n=20)。T−DM1 ADC(6.5mg/kg)またはビヒクル(PBS)を食塩水中で0日目に静脈内投与した後、動物に6.5mg/kgを30週まで毎週投与した。腫瘍を週に2回または週に1回測定して、量を体積=(幅×幅×長さ)/2として計算した。これらの試験において全ての処置群のマウスにおいて、体重減少は観察されなかった。
【0326】
個々の腫瘍体積が約600mm
3に達すると(無作為化時の腫瘍の当初のサイズの倍加)、動物はT−DM1処置に不応性であるかまたは処置下で再発したと考えられた。
図21Aに示すように、対照群と比較して、ほとんどの腫瘍は当初T−DM1処置に応答した。より具体的には、マウス20匹中17匹が初回T−DM1処置に応答したが、有意な数の腫瘍(20例中13例)が、T−DM1処置下で再発した。時間と共に、移植したN87細胞はT−DM1に対して抵抗性となった(
図21B)。T−DM1処置に当初反応しなかった3例の腫瘍を、IHCによるHer2発現決定のために採取したところ、HER2発現の変化がないことが示された。残りの10例の再発腫瘍を以下に説明する。
【0327】
T−DM1処置に当初反応し、その後再発した4例の腫瘍を、77日目(マウス1および16)、91日目(マウス19)、140日目(マウス6)にT−vc0101の2.6mg/kgの毎週処置に切り替えた。
図19Cに示すように、in vivoで生成したT−DM1抵抗性腫瘍はT−vc0101に応答し、T−DM1抵抗性を獲得した腫瘍がvc0101ADC処置に対して感受性であることを示した。
【0328】
当初T−DM1処置に応答した後、再発した別の3例の腫瘍を、110日目(マウス4、13、および18)にT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101の2.6mg/kgの毎週処置に切り替えた。
図21Dに示すように、in vivoで生成したT−DM1抵抗性細胞もまた、T(N297Q+K222R)−AcLysvc0101に応答した。T(kK183C+K290C)−vc0101を評価するために追加の実験を行ったところ、類似の結果が得られ、in vivoで生成したT−DM1抵抗性腫瘍が、
図21Eに示すように、T(kK183C+K290C)−vc0101処置に対して感受性であることが示された。
【0329】
要約すると、追加の処置を行った全てのT−DM1不応性腫瘍は、vc0101 ADC処置に対して感受性(7例中7例)であり、in vivo抵抗性T−DM1腫瘍を、切断可能なvc0101コンジュゲートによって処置することができることが示された。
【0330】
当初T−DM1に応答したがその後再発したさらに3例の腫瘍(
図21Bに示すマウス7、17、および2)を、in vitro特徴付けのために切除した。切除した腫瘍をin vitroで2〜5カ月間培養後、これらの細胞をT−DM1に対する抵抗性に関して評価し、in vitroで特徴付けした(本実施例において以下の節BおよびCを参照されたい)。
【0331】
B.細胞傷害性試験
T−DM1処置から再発し、in vitroで培養した(本実施例の節Aに記載のように)細胞を96ウェルプレートに播種して、翌日にADCまたは非コンジュゲートペイロードの4倍連続希釈液を投与した。細胞を湿潤37℃/5%CO
2インキュベータ内で96時間インキュベートした。CellTiter Glo溶液(Promega,Madison,WI)をプレートに添加して、Victorプレートリーダー(Perkin−Elmer,Waltham,MA)において波長490nmで吸光度を測定した。IC
50値を、XLfit(IDBS,Bridgewater,NJ)による4パラメータロジスティックモデルを使用して計算した。
【0332】
細胞傷害性スクリーニングの結果を、表19および20に要約する。細胞は、親細胞と比較してT−DM1(
図22A)に対して抵抗性であったが、切断可能なvc0101コンジュゲートT−vc0101(データは示していない)、T(kK183C+K290C)−vc0101(
図22B)、T(LCQ05+K222R)−AcLysvc0101(
図22C)、およびT(N297Q+K222R)−AcLysvc0101(
図22D)に対して感受性であった(表19)。T−DM1抵抗性細胞は、意外にも親ペイロードDM1ならびに0101ペイロードに対して感受性であった(表20)。
【0333】
【表19】
【0334】
【表20】
【0335】
C.FACSおよびウェスタンブロットによるHer2発現
T−DM1処置から再発し、in vitroで培養した(本実施例の節Aに記載のように)細胞において、Her2発現を特徴付けした。FACS分析に関して、細胞をトリプシン処理して遠心沈降させ、新しい培地に再懸濁した。次に細胞を、5μg/mLトラスツズマブ−PE(eBiosciences (San Diego, CA)によりカスタム合成された1:1PE標識トラスツズマブ)と共に4℃で1時間インキュベートした。Accuriフローサイトメーター(BD Biosciences San Jose,CA)を使用して平均蛍光強度を読み取った。
【0336】
ウェスタンブロット分析に関して、細胞をRIPA溶解緩衝液(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含む)を使用して氷中で15分間溶解した後、ボルテックスミキサーで攪拌し、微量遠心分離機の最高速度で、4℃で遠心沈降させた。上清を採取して、4×試料緩衝液および還元剤を試料に添加し、各試料中の総タンパク質に関して標準化した。試料を4〜12%ビストリスゲル上で分離して、ニトロセルロースメンブレンに転写した。メンブレンを1時間ブロックし、HER2抗体(Cell Signalling,1:1000)と共に4℃で一晩インキュベートした。次に、メンブレンを1×TBSTで3回洗浄し、抗マウスHRP抗体(Cell Signalling,1:5000)と共に1時間インキュベートし、3回洗浄後プロービングした。
【0337】
T−DM1再発腫瘍のHER2発現レベルは、FACS(
図23A)およびウェスタンブロット(
図23B)によって評価すると、対照腫瘍(T−DM1処置を行わない)と類似であった。
【0338】
D.T−DM1抵抗性は薬物排出ポンプの発現によるものではない
細胞株は、ウェスタンブロットによりMDR1を発現せず(
図24A)、細胞は、MDR−1基質である遊離の薬物0101に対して抵抗性ではない(
図24B)。ドキソルビシンに対する抵抗性は観察されず(
図24C)、抵抗性機構がMRP1を通して起こるのではないことが示された。しかし、細胞はなおも遊離のDM1に対して抵抗性である(
図24D)。
【0339】
(実施例16)
薬物動態(PK)
従来のまたは部位特異的vc0101抗体薬物コンジュゲートに対する曝露を、5または6mg/kgのいずれかの用量をカニクイザルにIVボーラス投与後に決定した。総抗体(総Ab;コンジュゲートmAbおよび非コンジュゲートmAbの両方の測定)およびADC(少なくとも1つの薬物分子にコンジュゲートされたmAb)濃度を、リガンド結合アッセイ(LBA)を使用して測定した。ADCは、AcLysvc0101を使用したT(LCQ05)を除き、全ての例においてvc0101を使用して作製した。従来のコンジュゲーション(部位特異的コンジュゲーションではない)を使用してトラスツズマブからADCを作製した。
【0340】
カニクイザルに用量を投与後の総AbおよびトラスツズマブADC(T−vc0101)(5mg/kg)またはT(kK183C+K290C)部位特異的ADC(6mg/kg)の濃度対時間プロファイルおよび薬物動態/毒性動態(
図25Aおよび表21)。T(kK183C+K290C)部位特異的ADCの曝露は、従来のコンジュゲートと比較して曝露および安定性の両方を増加させた。
【0341】
カニクイザルに用量を投与後のトラスツズマブ(T−vc0101)(5mg/kg)またはT(kK183C+K290C)、T(LCQ05)、T(K334C+K392C)、T(K290C+K334C)、T(K290C+K392C)、およびT(kK183C+K392C)部位特異的ADC(6mg/kg)の濃度対時間プロファイルおよび薬物動態/毒性動態(
図25Bおよび表21)。いくつかの部位特異的ADC(T(LCQ05)、T(kK183C+K290C)、T(K290C+K392C)、およびT(kK183C+K392C)の曝露は、従来のコンジュゲーションを使用したトラスツズマブADCと比較して高い。しかし、他の2つの部位特異的ADC(T(K290C+K334C)およびT(K334C+K392C))の曝露は、トラスツズマブADCより高い曝露を有さず、必ずしも全ての部位特異的ADCが、従来のコンジュゲーションを使用して作製したトラスツズマブADCより良好な薬物動態特性を有するわけではないことを示している。
【0342】
【表21】
【0343】
(実施例17)
疎水性相互作用クロマトグラフィーによる相対的保持の値とラットにおける曝露(AUC)との比較
疎水性は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって評価することができるタンパク質の物理特性であり、タンパク質試料の保持時間は、その相対的疎水性に基づいて異なる。ADCのHIC保持時間をそれぞれの抗体のHIC保持時間によって除算した比率である相対的保持時間(RRT)を計算することによって、ADCをそのそれぞれの抗体と比較することができる。非常に疎水性が高いADCは、より高いRRTを有し、これらのADCはまた、より多くの薬物動態不安定性、特に小さい曲線下面積(AUC、または曝露)を有する可能性がある。様々な部位変異を有するADCのHIC値を、ラットにおける測定されたAUCと比較すると、
図26の分布が観察された。
【0344】
RRT≧1.9のADCは、より低いAUC値を示したが、より低いRRTを有するADCは、より高いAUCを有する傾向があり、関係は直接的ではなかった。ADC T(kK183C+K290C)−vc0101は、比較的高いRRT(平均値1.77)を有することが観察され、したがって比較的低いAUCを有すると予想された。意外にも、観察されたAUCは比較的高く、したがって、疎水性データからこのADCの曝露を予測することは明白ではなかった。
【0345】
(実施例18)
毒性試験
2つの独立した探索的毒性試験において、全体で10匹の雄性および雌性カニクイザルを5つの用量群(1/性別/用量)に分類し、3週間毎に1回(試験日1、22、および43日)IV投与した。試験46日目(3回の用量投与後3日目)に、動物を安楽死させ、プロトコールに明記された血液および組織試料を採取した。臨床所見、臨床病理学、肉眼的および顕微鏡病理評価を、生存時および剖検後に実施した。解剖学的病理評価に関して、組織病理学所見の重症度を主観的、相対的、試験特異的に基づいて記録した。
【0346】
カニクイザルにおける3および5mg/kgでの探索的毒性試験において、T−vc0101は、初回投与後11日目に一過性の、しかし顕著(390個/μl)から重度の(40個/μlから検出不能まで)好中球減少症を引き起こした。これに対し、9mg/kgでは、T(kK183C+K290C)−vc0101を投与した全てのカニクイザルが、試験したいずれの時点においても500個/μlを十分に超える好中球数を有し、好中球減少症は認められないかまたは最小であった(
図27)。実際に、T(kK183C+K290C)−vc0101を投与した動物は、ビヒクル対照と比較して11および14日目で平均的な好中球数(>1000個/μL)を示した。
【0347】
3および5mg/kgでの骨髄において顕微鏡で調べると、T−vc0101を投与したカニクイザルは、化合物に関連するM/E比の増加を有した。骨髄/赤芽球(M/E)比の増加は、主に成熟顆粒球の増加と組み合わせた赤芽球前駆体の減少からなった。これに対し、6および9mg/kgでは、T(kK183C+K290C)−vc0101の6mg/kg/用量を投与した雄性動物のみが、最小から軽度の成熟顆粒球の細胞性の増加を有した(データは示していない)。
【0348】
したがって、血液学および顕微鏡データは、部位特異的変異技術に基づくADCコンジュゲート、T(kK183C+K290C)−vc010がT−vc010によって惹起される骨髄毒性および好中球減少症を明らかに改善することを明白に示した。
【0349】
(実施例19)
ADC結晶構造
結晶構造を、T(K290C+K334C)−vc0101、T(K290C+K392C)−vc0101、およびT(K334C+K392C)−vc0101に関して得た。これらの特定のADCは、K290C+K334CおよびK334C+K392C二重システインバリアントとのコンジュゲーションがADCC活性を消失させるが、K290C+K392Cとのコンジュゲーションは活性を消失させなかったことから、結晶学のために選択した。
【0350】
コンジュゲートしたFc領域を、ADCのパパイン切断を使用して結晶学のために調製した。同じ条件を使用して3つのコンジュゲートIgG1−Fc領域に関して、同じ形態の結晶を得た:100mMクエン酸ナトリウムpH 5.0+100mM MgCl
2+15% PEG 4K。
【0351】
PDBに寄託された野生型ヒトIgG1−Fc構造は、比較的類似であり、CH2−CH2ドメインがAsn297結合グリカン(炭水化物またはグリカンアンテナ)を通して互いに接すること、およびCH3−CH3ドメインが、構造間で比較的一定である安定な界面を形成することを示している。Fc構造は、「閉構造」または「開構造」コンフォメーションのいずれかで存在し、脱グリコシル化Fc構造は「開構造」コンフォメーションをとり、このように、グリカンアンテナがCH2領域を共に保持することを証明している。さらに、非コンジュゲートPhe241Ala−IgG1 Fc変異体に関して公表された構造(Yuら、「Engineering Hydrophobic Protein−Carbohydrate interactions to fine−tune monoclonal antibodies」、JACS 2013)は、芳香族Phe残基が炭水化物を安定化することができないために、この変異によってCH2グリカン界面およびCH2−CH2界面の不安定化が起こることから、1つの部分的に乱れたCH2ドメインを示す。
【0352】
ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとも呼ばれる)は通常、約231位のアミノ酸から約340位のアミノ酸まで達している。CH2ドメインは、それが別のドメインと厳密に対を形成しないという点において独自である。むしろ、2つのN−結合分岐炭水化物鎖が、インタクトのネイティブIgG分子の2つのCH2ドメインの間に存在する。炭水化物は、ドメイン−ドメイン対形成の代替を提供して、CH2ドメインを安定化するために役立ち得ると推測されている(Burtonら、1985,Molec.Immunol.22:161〜206)。
【0353】
「CH3ドメイン」は、Fc領域におけるCH2ドメインに対してC末端の一連の残基を含む(即ち、IgGの約341位のアミノ酸残基から約447位のアミノ酸残基まで)。
【0354】
T(K290C+K334C)−vc0101およびT(K290C+K392C)−vc0101 Fc領域の両方の構造の解析により、それらが類似であり、Fc二量体が、1つのCH2と、高度に秩序化されている両方のCH3を含むことを示した(野生型Fcのように)。しかし、それらはまた、グリカンが結合した乱れたCH2も含む(
図28Aおよび
図28B)。1つのCH2ドメインのより高度の不安定化は、グリカンアンテナに対してコンジュゲーション部位が非常に近位であることが原因であった。0101ペイロードの幾何学を考慮すると、K290、K334、K392部位のいずれかでのコンジュゲーションはCH2表面から離れたグリカンの全体的な軌道を乱し、グリカンおよびCH2構造そのもの、および結果としてCH2−CH2界面を不安定化し得る(
図28C)。WT−Fc、Phe241Ala−Fc、または脱グリコシル化Fcと比較して、これらの0101部位特異的にコンジュゲートした二重システイン−Fcバリアントでは、より高度の不均質性が利用可能である。操作されたシステインバリアント位置を、FcγRタイプIIbと複合体を形成したWT−Fcの構造にマップすると、C334でのコンジュゲーションが、FcγRIIbに対する結合を直接妨害し得ることが示された(
図28C)。変異またはコンジュゲーションによって引き起こされたCH2位置のこの不均質性によって、FcRIIb結合の有意な減少が起こり得る。したがって、これらの結果は、IgG1−Fc内でのコンフォメーション不均質性、または操作されたシステインの特定の組合せに対する0101のコンジュゲーションのいずれか、おそらくは両方が、K334C部位を含む二重システインバリアントのADCC活性に影響を及ぼし得ることを示唆した。
【0355】
(実施例20)
異なるコンジュゲーション部位により異なるADC特性が起こる
A.システイン変異体ADCの合成のための一般的手順
1つまたは複数の操作されたシステイン残基(表22に示す)を組み入れるトラスツズマブ溶液を、50mMリン酸緩衝液、pH7.4中で調製した。PBS、EDTA(0.5M保存溶液)、およびTCEP(0.5M保存溶液)を、タンパク質の最終濃度が10mg/mL、EDTAの最終濃度が20mM、およびTCEPの最終濃度がおよそ6.6mM(100モル当量)となるように添加した。反応を室温で48時間静置した後、GE PD−10 Sephadex G25カラムを使用して、製造元の指示に従ってPBSに緩衝液交換した。得られた溶液をおよそ50当量のデヒドロアスコルビン酸塩(1:1EtOH/水中の50mM保存溶液)によって処置した。抗体を4℃で一晩静置した後、GE PD−10 Sephadex G25カラムを使用して、製造元の指示に従ってPBSに緩衝液交換した。いくつかの変異体について、上記の手順をわずかに変更したものを使用した。
【0356】
このように調製した抗体を、10体積%DMAを含むPBS中で約2.5mg/mLに希釈し、DMA中の10mM保存溶液としてvc0101(10モル当量)によって処置した。室温で2時間後、混合物をPBS(上記の通り)に緩衝液交換して、Superdex200カラムによるサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。モノマー分画を濃縮して、濾過滅菌し、最終ADCを得た。産物の特徴に関しては以下の表22を参照されたい。
【0357】
【表22】
【0358】
B.コンジュゲーション実施例の一般的分析方法
LCMS:カラム=Waters BEH300−C4、2.1×100mm(P/N=186004496);機器=SQD2質量分析検出器を備えたAcquity UPLC;流速=0.7mL/分;温度=80℃;緩衝液A=水+0.1%ギ酸;緩衝液B=アセトニトリル+0.1%ギ酸。勾配は、3%Bから95%Bを2分間、95%Bで0.75分間保持した後、3%Bで再度平衡にした。試料を注入直前にTCEPまたはDTTによって還元した。溶出液をLCMS(400〜2000ダルトン)によってモニターし、タンパク質ピークを、MaxEnt1を使用して逆畳み込みした。DARを重量平均担持として報告した。
【0359】
SEC:カラム:Superdex200(5/150 GL);移動相:2%アセトニトリルを含むリン酸緩衝溶液、pH7.4;流速=0.25mL/分;温度=周囲温度;機器:Agilent 1100 HPLC。
【0360】
HIC:カラム:TSKGelブチルNPR、4.6mm×3.5cm(P/N=S0557−835);緩衝液A=10mMリン酸塩を含む1.5M硫酸アンモニウム、pH 7;緩衝液B=10mMリン酸塩、pH 7+20%イソプロピルアルコール;流速=0.8mL/分;温度=周囲温度;勾配=0%Bから100%Bを12分間、100%Bで2分間保持した後、100%Aで再度平衡にする;機器:Agilent 1100 HPLC。
【0361】
C.部位特異的vc0101コンジュゲートの疎水性の決定
表22のADCを、様々なコンジュゲートの相対的疎水性を決定するために、疎水性相互作用クロマトグラフィー(上記の方法)によって評価した。ADCの疎水性は、総抗体曝露と相関することが報告されている。
【0362】
部位334、375、および392に対するコンジュゲートは、変更されていない抗体と比較して保持時間の最小のシフトを示したが、部位421、443、および347位に対するコンジュゲートは、保持時間の最大のシフトを示した。それぞれのADCの相対的疎水性を、ADCの保持時間を変更されていない抗体の保持時間で除算することによって計算し、このようにして「相対的保持時間」または「RRT」を得た。約1のRRTは、ADCが変更されていない抗体とほぼ同じ疎水性を有することを示している。それぞれのADCのRRTを表22に示す。
【0363】
D.部位特異的vc0101コンジュゲートのADC血漿安定性
ADC試料(約1.5mg/mL)を、マウス、ラット、またはヒト血漿で希釈して、血漿中で50μg/mL ADCの最終溶液を得た。試料を37℃、5%CO
2下でインキュベートし、アリコートを3回の時点(0、24時間、および72時間)で採取した。血漿のインキュベーション(25μL)からのそれぞれの時点のADC試料を、IgG0によって37℃で1時間脱グリコシル化した。脱グリコシル化後、捕捉抗体(マウスおよびラット血漿に対して特異的な1mg/mLのビオチン化ヤギ抗ヒトIgG1 Fcγ断片、またはヒト血漿に関して1mg/mLのビオチン化抗トラスツズマブ抗体)を添加して、混合物を37℃で1時間加熱した後、室温でさらに1時間軽く振とうさせた。Dynabead MyOne Streptavidin T1磁性ビーズを試料に添加して、室温で軽く振とうさせながら1時間インキュベートした。次に、試料プレートをPBS 200μL+0.05%Tween−20、PBS 200μL、およびHPLC等級の水で洗浄した。結合したADCを、2体積%ギ酸(FA)55μLによって溶出した。各試料の50μLアリコートを、新しいプレートに移した後、200mM TCEPをさらに5μL添加した。
【0364】
インタクトタンパク質の分析を、BEH300 C4、1.7μm、0.3×100mm iKeyカラムを使用して、nanoAcquity UPLC(Waters)に結合させたXevo G2 Q−TOF質量分析計によって実施した。移動相A(MPA)は、0.1体積%FAの水溶液からなり、移動相B(MPB)は、0.1体積%FAのアセトニトリル溶液からなった。クロマトグラフィーによる分離を、MPBの5%〜90%で7分間の直線勾配を使用して0.3μL/分の流速で行った。LCカラム温度を85℃に設定した。データ獲得は、MassLynxソフトウェアバージョン4.1によって実施した。質量獲得範囲は、700Daから2400Daであった。逆畳み込みを含むデータ分析を、Biopharmalynxバージョン1.33を使用して実施した。
【0365】
担持およびスクシンイミド開環(+18ダルトンのピーク)を経時的にモニターした。担持データを、0時間のDARと比較した%DAR喪失として報告する。開環データを、72時間で存在する全分子種と比較した開環種の%として報告する。いくつかの部位変異体によって、非常に安定なADC(334C、421C、および443C)が得られ、いくつかの部位は、リンカー−ペイロードの有意な量を失った(380Cおよび114C)。開環の速度は、部位によってかなり変動した。392C、183C、および334Cなどのいくつかの部位では、非常にわずかな開環が起こったが、421C、388C、および347Cなどの他の部位では、迅速で自然発生の開環が起こった。
【0366】
迅速で自然発生の開環が起こる部位は、疎水性が低減した、および/またはPK曝露が増加したコンジュゲートを生成するために有用であり得る。この知見は、環の安定性が血漿での安定性と相関するという一般的な理解とは反対である。したがって、一部の態様において、部位421C、388C、および347Cの1つまたは複数でのコンジュゲーションは、高い疎水性を有するリンカー−ペイロードを使用する場合、特に有利であり得る。一部の態様において、高い疎水性は、相対的保持時間(RRT)の値(HICによって測定)が1.5またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.7またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.8またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が1.9またはそれ超である。一部の態様において、高い疎水性はRRT値が2.0またはそれ超である。
【0367】
【表23】
【0368】
E.部位特異的vc0101コンジュゲートのグルタチオン安定性
ADC試料を、グルタチオン水溶液で希釈して、リン酸緩衝液、pH7.4中で最終GSH濃度0.5mMおよび最終タンパク質濃度約0.1mg/mLを得た。次に、試料を37℃でインキュベートし、DAR(T−0、T−3日、T−6日)を決定するために、アリコートを3つの時点で除去した。それぞれの時点のアリコートをTCEPで処理し、実施例20Aに記載の方法に従ってLC−MSによって分析した。
【0369】
担持およびスクシンイミド開環(+18ダルトンのピーク)を経時的にモニターした。担持データを、0時間のDARと比較した%DAR喪失として報告する(表24)。開環データを、72時間で存在する全分子種と比較した開環種の%として報告する。いくつかの部位変異体によって、非常に安定なADC(334C、421C、および443C)が得られたが、いくつかの部位は、リンカー−ペイロードの有意な量を失った(380Cおよび114C)。開環速度は、部位によってかなり変動した。392C、183C、および334Cなどのいくつかの部位では、非常にわずかな開環が起こったが、421C、388C、および347Cなどの他の部位ではかなりの開環が起こった。このアッセイの結果は、血漿での安定性結果と非常に良好に相関し(実施例20.D)、チオールによって媒介される脱コンジュゲーションが血漿中でのペイロード喪失の主要な経路であることを示唆している。まとめると、これらの結果は、チオールによって媒介される脱コンジュゲーションを通して容易に失われる、334、443、290、および392などの特定の部位が、ペイロード−リンカーのコンジュゲーションにとって特に有用であり得ることを示唆している。そのようなペイロード−リンカーは、共通のmcおよびvc連結を利用するリンカーを含む(例えば、vc−101、vc−MMAE、mc−MMAFなど)。
【0370】
【表24】
【0371】
F.マウスにおける選択した部位特異的vc0101コンジュゲートの薬物動態評価
非担癌無胸腺雌性nu/nu(ヌード)マウス(6〜8週齢)を、Charles River Laboratoriesから得た。マウスを使用する手順は全て、確立されたガイドラインに従って施設内動物飼育使用委員会の承認を受けた。マウス(n=3または4)に、抗体構成要素に基づいてADCの3mg/kg用量を1回静脈内投与した。血液試料を各マウスの尾静脈を介して、投与後0.083、6、24、48、96、168、および336時間に採取した。ヒツジ抗ヒトIgG抗体を捕捉のために使用し、ヤギ抗ヒトIgG抗体をT
abの検出のために使用し、または抗ペイロード抗体をADCの検出のために使用するLBAによって、総抗体(T
ab)およびADC濃度を決定した。各動物の血漿中濃度データを、Watson LIMSバージョン7.4(Thermo)を使用して分析した。曝露は部位に基づいて変化した。290Cおよび443C変異体から作製したADCは、最低の曝露を示したが、183Cおよび392C部位から作製したADCは、最高の曝露を示した。多くの応用に関して、治療剤の持続の増加に至ることから、高い曝露を有する部位が好ましい場合があり得る。しかし、ある特定の応用に関して、より低い曝露を有するコンジュゲート(290Cおよび443Cなど)を使用することが好ましい場合があり得る。特に、より低い曝露(即ち、より低いPK)の応用は、限定されないが脳、CNS、および眼での使用を含み得る。適応は、がん、特に脳、CNS、および/または眼のがんを含む。
【0372】
【表25】
【0373】
G.部位特異的vc0101コンジュゲートのカテプシン切断
カテプシンBを、150mM酢酸ナトリウム、pH5.2中で6mMジチオスレイトール(DTT)を使用して37℃で15分間活性化した。次に活性化カテプシンB 50ngを1mg/mL ADC 20μLと、2mM DTTの最終濃度、50mM酢酸ナトリウム、pH5.2で混合した。反応を、250mMホウ酸緩衝液、pH8.5中での10μM E−64システインプロテアーゼ阻害剤を使用して37℃で20分間、1時間、2時間、および4時間インキュベートすることによってクエンチした。アッセイ後、TCEPを使用して試料を還元し、実施例21Aに記載の条件を使用してLC/MSによって分析した。データは、リンカー切断速度がコンジュゲーションの部位に大きく依存することを示した。443C、388C、および290Cなどの特定の部位は非常に速やかに切断されるが、334C、375C、および392Cなどの他の部位は、非常にゆっくりと切断される。一部の態様において、遅い切断を受ける部位にコンジュゲートすることが有利であり得る。他の態様において、急速な切断が好ましい。例えば、エンドソームで費やされる時間を低減させるためにペイロードを急速に放出することが好ましくなり得る。さらなる態様において、急速なペイロード切断によって、特定の固形腫瘍などのように、コンジュゲートした分子が侵入することができない場所で、ペイロードが有利に侵入することが可能となる。さらなる態様において、急速な切断によって、ペイロードを抗体の抗原を発現しない隣接する細胞に送達することができ、このように例えば不均質な腫瘍の処置を可能にする。
【0374】
【表26】
【0375】
H.部位特異的vc0101コンジュゲートの熱安定性
ADCを、10mM EDTAを含むPBS(pH7.4)中で0.2mg/mLに希釈した。ADCを密封バイアルに入れて、45℃に加熱した。経時的に形成される高分子量種(HMWS)および低分子量種(LMWS)のレベルをサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって評価するために、アリコート(10μL)を1週間毎に除去した。SEC条件を実施例21Aに概要する。これらの条件下で、モノマーは、およそ3.6分で溶出した。モノマーピークの左に溶出するいかなるタンパク質材料もHMWSとして計数され、モノマーピークの右に溶出するいかなるタンパク質材料もLMWSとして計数された。結果を以下の表27に示す。183C、375C、および334Cなどの選択されたADCは、優れた熱安定性を示したが、443Cおよび392C+443Cなどの他のADCは、有意な分解を示した。
【0376】
【表27】
【0377】
I.様々なvc0101部位変異体の有効性
抗体−薬物コンジュゲートのin vivo有効性試験を、N87細胞株を使用する標的発現異種移植片モデルにおいて実施した。50%matrigel中でおよそ7.5百万個の腫瘍細胞を6〜8週齢のヌードマウスの皮下に移植し、腫瘍サイズを250〜350mm
3に達成させる。薬物を、尾静脈注射によりボーラス投与した。動物に10、3、または1mg/kg抗体薬物コンジュゲートを、4日毎に1回、全体で4回(1、5、9および13日目)注射した。全ての実験動物を体重変化に関して毎週モニターする。腫瘍の体積をキャリパー装置によって最初の50日間、週に2回測定し、その後は週に1回測定し、以下の式:腫瘍体積=(長さ×幅
2)/2によって計算する。腫瘍体積が2500mm
3に達すると、動物を人道的に屠殺した。腫瘍サイズは、一般的に処置の最初の1週間後に減少することが観察される。処置の中止後(処置後100日まで)、腫瘍の再成長に関して動物を継続的にモニターした。3mpk投与群からのデータを
図29に示す。388Cおよび347C変異体から生成したADCは、334C、183C、392C、および443C変異体からのADCよりわずかに低い効力を示した。