特許第6979991号(P6979991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6979991耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6979991
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20211202BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20211202BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20211202BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   C22C21/10
   C22F1/053
   B23K31/00 B
   B23K31/00 C
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 624
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-186120(P2019-186120)
(22)【出願日】2019年10月9日
(65)【公開番号】特開2021-59773(P2021-59773A)
(43)【公開日】2021年4月15日
【審査請求日】2020年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】赤土 周平
(72)【発明者】
【氏名】熱田 賢
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−119904(JP,A)
【文献】 特開平07−180010(JP,A)
【文献】 特開2018−090839(JP,A)
【文献】 特開平11−302763(JP,A)
【文献】 特開平09−287046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/10
C22F 1/053
B23K 31/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:6.6mass%〜8.5mass%、Mg:1.0mass%〜2.1mass%、Zr:0.10mass%〜0.20mass%、Ti:0.001mass%〜0.05mass%、Cu:0.02〜0.50mass%、Mn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、繊維状組織である金属組織を備える7000系アルミニウム合金材と、
前記7000系アルミニウム合金材と溶接された他のアルミニウム合金材と、を備え、
前記7000系アルミニウム合金材において、
溶接熱影響部を除く母材部の導電率と前記溶接熱影響部の導電率との差が1.2〜5%IACSであり、
前記母材部の耐力が350MPa以上である、
ことを特徴とする、耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材。
【請求項2】
前記7000系アルミニウム合金材がMn:0.16〜0.40mass%を含有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材。
【請求項3】
前記7000系アルミニウム合金材がCr:0.16〜0.20mass%を含有する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材。
【請求項4】
前記7000系アルミニウム合金材がZn:6.6mass%〜7.6mass%、Mg:1.0mass%〜1.6mass%、を含有する、
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材。
【請求項5】
Zn:6.6mass%〜8.5mass%、Mg:1.0mass%〜2.1mass%、Zr:0.10mass%〜0.20mass%、Ti:0.001mass%〜0.05mass%、Cu:0.02〜0.50mass%、Mn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、繊維状組織である金属組織を備える7000系アルミニウム合金材に対し、90〜110℃の温度で1〜5時間保持する第1人工時効処理工程と、
前記第1人工時効処理工程の後の前記7000系アルミニウム合金材に対し、145〜160℃の温度で4〜12時間保持する第2人工時効処理工程と、
前記第2人工時効処理工程の後の前記7000系アルミニウム合金材と他のアルミニウム合金材とを溶接して溶接構造体を形成する溶接工程と、
前記溶接構造体に対して165〜195℃の温度で10〜60分の時間の加熱処理をする加熱処理工程と、を備える、
ことを特徴とする、耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材の製造方法。
【請求項6】
前記7000系アルミニウム合金材がMn:0.16〜0.40mass%を含有する、
ことを特徴とする、請求項5に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材の製造方法。
【請求項7】
前記7000系アルミニウム合金材がCr:0.16〜0.20mass%を含有する、
ことを特徴とする、請求項5又は6に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材の製造方法。
【請求項8】
前記7000系アルミニウム合金材がZn:6.6mass%〜7.6mass%、Mg:1.0mass%〜1.6mass%、を含有する、
ことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか1項に記載の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機器等、軽量化が求められる部材の材料として、高強度かつ軽量な7000系アルミニウム合金材が採用されることが増えてきている。
【0003】
7000系アルミニウム合金材は、高い機械的特性を有する一方で、応力腐食割れの発生が懸念される。また、7000系アルミニウム合金材をアーク溶接等により接合した場合、溶接部近傍はその熱影響により強度が低下するとともに、耐食性、耐応力腐食割れ性が低下する。
【0004】
7000系アルミニウム合金材の応力腐食割れ性の改善方法として、特許文献1には、最高強度を得るよう時効処理した後、塗装焼き付け工程で再度加熱処理することで過時効状態とする手法が示されている。
【0005】
また、特許文献2では、2段の人工時効処理を行うことを特徴とする、7000系アルミニウム合金押出材の製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3では、溶接材を溶体化処理した後、人工時効することで耐応力腐食割れ性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−233336号公報
【特許文献2】特開2010−275611号公報
【特許文献3】特開2000−317676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、時効処理条件を「117〜123℃×18〜24hrや127〜133℃×11〜14hr」とし、最高強度とした後に過時効処理を行っている。しかしながら、上記条件は長い処理時間を必要とする。また、母材の時効が進みすぎていると、溶接した際に十分な機械的特性が得られない恐れがある。また、処理温度が145℃未満の低温であると、粒界にη’相(MgZn)が連続して析出するが、これは耐応力腐食割れ性を低下させる一因となる。
【0009】
特許文献2では、2段時効の条件として、「1段目の熱処理温度が70〜100℃の範囲で、2段目の熱処理温度が140〜170℃の範囲であること」としており、「製造条件における2段時効処理時の2段目の熱処理温度は140℃以上、170℃以下とし、20時間以内とした」としている。しかしながら、2段目の熱処理温度の保持時間が不明確である。例えば、2段目の熱処理条件が140℃〜170℃の温度であっても保持時間が短い場合には、亜時効となるため十分な耐応力腐食割れ性が得られず、保持時間が長い場合には十分な強度は得られない。
【0010】
特許文献3では、溶接後の溶接材に対して、溶体化処理、焼入れを行っている。この熱処理方法は、コストが嵩むという問題点がある。
【0011】
本発明は、かかる背景を鑑みてなされたものであり、7000系アルミニウム合金材の母材部及び溶接部近傍の耐食性、耐応力腐食割れ性を改善させるとともに、溶接部の強度を向上させた耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材は、
Zn:6.6mass%〜8.5mass%、Mg:1.0mass%〜2.1mass%、Zr:0.10mass%〜0.20mass%、Ti:0.001mass%〜0.05mass%、Cu:0.02〜0.50mass%、Mn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、繊維状組織である金属組織を備える7000系アルミニウム合金材と、
前記7000系アルミニウム合金材と溶接された他のアルミニウム合金材と、を備え、
前記7000系アルミニウム合金材において、
溶接熱影響部を除く母材部の導電率と前記溶接熱影響部の導電率との差が1.2〜5%IACSであり、
前記母材部の耐力が350MPa以上である、
ことを特徴とする。
【0013】
前記7000系アルミニウム合金材がMn:0.16〜0.40mass%を含有する、
こととしてもよい。
【0014】
前記7000系アルミニウム合金材がCr:0.16〜0.20mass%を含有する、
こととしてもよい。
【0015】
前記7000系アルミニウム合金材がZn:6.6mass%〜7.6mass%、Mg:1.0mass%〜1.6mass%、を含有する、
こととしてもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材の製造方法は、
Zn:6.6mass%〜8.5mass%、Mg:1.0mass%〜2.1mass%、Zr:0.10mass%〜0.20mass%、Ti:0.001mass%〜0.05mass%、Cu:0.02〜0.50mass%、Mn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、繊維状組織である金属組織を備える7000系アルミニウム合金材に対し、90〜110℃の温度で1〜5時間保持する第1人工時効処理工程と、
前記第1人工時効処理工程の後の前記7000系アルミニウム合金材に対し、145〜160℃の温度で4〜12時間保持する第2人工時効処理工程と、
前記第2人工時効処理工程の後の前記7000系アルミニウム合金材と他のアルミニウム合金材とを溶接して溶接構造体を形成する溶接工程と、
前記溶接構造体に対して165〜195℃の温度で10〜60分の時間の加熱処理をする加熱処理工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【0017】
前記7000系アルミニウム合金材がMn:0.16〜0.40mass%を含有する、
こととしてもよい。
【0018】
前記7000系アルミニウム合金材がCr:0.16〜0.20mass%を含有する、
こととしてもよい。
【0019】
前記7000系アルミニウム合金材がZn:6.6mass%〜7.6mass%、Mg:1.0mass%〜1.6mass%、を含有する、
こととしてもよい
【発明の効果】
【0020】
本発明の耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材は、7000系アルミニウム合金材に2段の人工時効を施すことで耐応力腐食割れ性を向上させ、このアルミニウム合金材を溶接した溶接構造体に対し、165〜195℃の加熱処理を施して製造される。これにより、7000系アルミニウム合金材の母材部と溶接熱影響部との導電率の差が5%IACS以内となり、強度の向上及び耐食性、耐応力腐食割れ性の向上を容易に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例における、肉盛溶接の形態及び導電率測定位置を示す図である。
図2】実施例における、金属組織観察方法を示す図である。
図3】実施例における、SCC試験での応力負荷の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態で使用される7000系アルミニウム合金材は、Zn:6.6mass%〜8.5mass%、Mg:1.0mass%〜2.1mass%、Zr:0.10mass%〜0.20mass%、Ti:0.001mass%〜0.05mass%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成であることが望ましい。
【0023】
まず、上記7000系アルミニウム合金材について、指定した化学成分値の範囲について説明する。
【0024】
7000系アルミニウム合金は析出強化型合金である。7000系アルミニウム合金材では、アルミニウム中にZn及びMgが共存することでη’相が析出し、機械的特性の向上に寄与する。上記7000系アルミニウム合金材は6.6mass%以上8.5mass%以下のZn及び1.0mass%以上2.1mass%以下のMgを含有している。
【0025】
Zn:6.6mass%以上8.5mass%以下:
Zn含有量が6.6mass%未満の場合には、Mgと共に析出するη’相の析出量が減少し、十分な機械的特性を得ることができない。逆にZn含有量が8.5mass%を超えると、耐応力腐食割れ性が低下する。よって、Zn含有量は6.6mass%以上8.5mass%以下とする。さらに好ましい範囲は、6.6mass%以上7.6mass%以下である。
【0026】
Mg:1.0mass%以上2.1mass%以下:
Mg含有量が1.0mass%未満の場合には、Znと共に析出するη’相の析出量が減少し、十分な機械的特性を得ることができない。逆にMg含有量が2.1mass%を超えると、熱間加工性が悪くなり、生産性が低下する。よって、Mg含有量は1.0mass%以上2.1mass%以下とする。さらに好ましい範囲は、1.0mass%以上1.6mass%以下である。
【0027】
また、上記アルミニウム合金材は、上記元素以外に0.10mass%以上0.20mass%以下のZr、0.001mass%以上0.05mass%以下のTiを微量添加元素として含有している。
【0028】
Zr:0.10mass%以上0.20mass%以下:
Zrを含有すると、耐応力腐食割れ性が向上する。また、AlZr系金属間化合物が形成することで再結晶組織の生成が抑制され、断面が繊維状組織となり耐応力腐食割れ性は向上する。Zr含有量が0.10mass%未満の場合には、繊維状組織が得られない。一方で、0.20mass%を超えて含有すると、粗大なAlZr系金属間化合物が形成し、成形性が低くなる。より好ましい範囲は、0.10mass%以上0.15mass%以下である。
【0029】
Ti:0.001mass%以上0.05mass%以下:
Tiは鋳塊に含有することで鋳塊組織を微細化する効果がある。鋳塊組織を微細化することで、鋳塊割れを防ぐとともに、最終的な組織も微細となり、耐応力腐食割れ性には有利に働く。Ti含有量が0.001mass%未満だと微細化の効果が十分に得られない。また、0.05mass%を超えて含有すると、AlTi系金属間化合物の粗大化などが原因となり、点状欠陥が発生しやすくなる。なお、TiはBと共にTiB系化合物等として鋳塊に含有することで、Ti単独と同様に鋳塊組織を微細化する。TiB化合物として含有する場合、Bは0.003mass%未満含有される。
【0030】
また、上記成分に加えて、さらにCu:0.50mass%以下を含有することとしてもよい。
【0031】
Cu:0.50mass%以下:
Cuを含有することで、結晶粒界と結晶粒内との電位差が緩和され、結晶粒界での犠牲的溶解が抑えられることで、耐応力腐食割れ性が向上する。一方で、Cu含有量が0.50mass%を超えて含有すると一般耐食性の低下が懸念される。
【0032】
また、上記成分に加えて、さらにMn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下の1種又は2種を含有することとしてもよい。
【0033】
Mn:0.40mass%以下、Cr:0.20mass%以下:
Cr、MnはZrと同様、含有により再結晶組織の生成が抑制され、断面が繊維状組織となり耐応力腐食割れ性を改善する。一方で、添加量が規定量を超えて多くなると熱間加工性が低下し、特にCrの場合は焼入れ感受性が強くなる。
【0034】
上記アルミニウム合金材は、繊維状組織である金属組織を備える。繊維状組織とは、特定の一方向へのアスペクト比が大きい結晶粒により構成される金属組織であり、例えば加工方向(例えば、押出材であれば押出方向)に平行かつ材料の幅方向に垂直な面からの断面観察において、厚さ方向の結晶粒径に対し、加工方向の結晶粒径のアスペクト比が5以上であれば、繊維状組織であるとみなすことができる。金属組織を繊維状とすることで、強度の向上効果が得られるとともに、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。金属組織は、例えば、アルミニウム合金材の断面を偏光顕微鏡で観察することにより確認できる。
【0035】
上記アルミニウム合金材において、繊維状組織は、アルミニウム合金材の加工方向に平行かつ材料の幅方向に垂直な断面における繊維状組織が占める面積の割合が70%以上であることが好ましい。
【0036】
上記アルミニウム合金材は、JIS Z2241(ISO6892−1)に規定される耐力が350MPa以上であることが好ましく、380MPa以上であることがより好ましい。これにより、部材の薄肉軽量化を達成するために必要な強度特性を得ることができる。
【0037】
次に、溶接構造部材の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の溶接構造部材は、7000系アルミニウム合金材と、当該7000系アルミニウム合金材と溶接される他のアルミニウム合金材(以下、溶接部材とも言う)と、に分けられる。7000系アルミニウム合金材には、例えば熱間圧延材や熱間押出材を用いることができる。また、溶接部材はアルミニウム合金材であれば特に限定はされない。本実施形態では、特に7000系アルミニウム合金材を押出形材とした場合について説明する。
【0039】
7000系アルミニウム合金押出材は、本発明の成分の溶湯を鋳塊とし、均質化処理、熱間押出、溶体化処理、人工時効処理により製造される。7000系アルミニウム合金押出材は、溶接部材と溶接により接合される。溶接された7000系アルミニウム合金押出材と溶接部材とを溶接構造体とし、この溶接構造体を熱処理することで本発明に係る溶接構造部材となる。
【0040】
均質化処理工程:
先ず、上記化学成分値を有する鋳塊に対し、450〜500℃の温度で5〜12時間保持する均質化処理を行う。
【0041】
450℃未満の温度では、十分に均質化されず、500℃を超える温度になるとAlZr系金属間化合物の結晶構造が変化するとともに粗大化し、これにより繊維状の金属組織が得られず耐応力腐食割れ性の改善効果が低くなる。また、上記均質化処理の保持時間が5時間未満では均質化が不十分となる。一方、保持時間が12時間を超えると均質化が十分なされた状態となるため、それ以上の効果を見込めない。よって、均質化処理は450〜500℃の温度で5〜12時間保持することが望ましい。
【0042】
熱間押出及び溶体化処理工程:
上記均質化処理を行った鋳塊から、熱間押出により押出形材を製造する。熱間押出前の温度は450〜500℃とする。この温度が450℃未満だと変形抵抗が高くなる。また、500℃を超えると均質化処理時に形成したAlZr系金属間化合物の結晶構造が変化するとともに粗大化し、これにより繊維状の金属組織が得られず耐応力腐食割れ性の改善効果が低くなる。
【0043】
熱間押出後、押出形材を150℃以下の温度まで冷却する。上記の熱間押出において、押出後の押出形材の温度は溶体化温度に達しており、冷却の際の平均冷却速度を25℃/分以上1000℃/秒以下に制御することで、溶体化処理と同様の効果が得られる。冷却速度が25℃/分未満であると、溶質元素の固溶量が少なくなり、十分な機械的特性が得られない。冷却速度が1000℃/秒を超えると、設備が過大になる上、それに見合った効果を得ることができない。
また、一旦150℃以下に冷却した押出形材を溶体化処理温度まで再加熱し、上記冷却速度で冷却しても良い。
【0044】
続いて、上記の冷却を行った後、さらに室温まで冷却する。これは、上記の冷却によって室温に到達しても良いし、別の方法で冷却しても良い。
【0045】
人工時効処理工程:
次に、上記押出形材に対し、人工時効処理を行う。人工時効処理を行うことで、強化相であるη’相が析出し、押出形材の機械的特性が向上する。人工時効は、90〜110℃の温度で1〜5時間保持する第1人工時効処理を行い(第1人工時効処理工程)、その後、上記第1人工時効処理と連続して145〜160℃の温度で4〜12時間保持する第2人工時効処理によって行う(第2人工時効処理工程)。ここで、第1人工時効処理ではη’相に遷移するGP(II)が形成され、第2人工時効処理ではGP(II)がη’相に遷移する。
【0046】
第1人工時効処理について、第1人工時効温度が90℃未満、又は時効時間が1時間未満であると、GP(II)が密に形成されず、第2人工時効においてη’相の形成が不十分となり、析出強化の効果が十分に得られない。第1人工時効温度が110℃を超えると、GP(II)が十分に形成されないままη’相の形成が始まり、この場合もη’相の析出が不十分となる可能性がある。また、第1人工時効時間が5時間以上であると、第1人工時効による効果は飽和する。
【0047】
第2人工時効処理について、第2人工時効温度が145℃未満、又は時効時間が4時間未満であると、亜時効となり、この場合、母材の耐応力腐食割れ性は低くなる。また、時効温度が145℃未満であると、η’相が均一に析出する一方で、粒界ではη’相が連続した状態となる。145℃以上で人工時効処理することで粒界のη’相が凝集、粗大化し、粒界上に直径0.02μm以上のη’相が点在した状態となり耐応力腐食割れ性は向上する。第2人工時効温度が160℃を超える、又は時効時間が12時間を超えると、時効処理が過剰となるため十分な機械的特性が得られず、さらに、後述する溶接後の追加熱処理において、溶接部強度の向上効果が十分に得られない。
【0048】
上記人工時効処理が適切に完了したことを図る目安として、前述の人工時効処理の前後での押出形材の導電率の変化率を規定する。即ち、人工時効処理の前の導電率をX、人工時効処理の後の導電率をYとしたときに、0.120≦(Y/X−1)≦0.250の式を満たす場合において、本発明は達成される。(Y/X−1)<0.120の場合、押出形時は亜時効であるため耐応力腐食割れ性は低くなる。0.250<(Y/X−1)の場合、押出形材の強度が低くなり、また溶接後の追加熱処理による溶接部強度の向上効果が十分に得られない。
【0049】
ここで、第1人工時効処理と第2人工時効処理を連続して行うとは、第1人工時効処理の後、処理温度を維持したまま第2人工時効処理を行うことである。すなわち、第1人工時効処理の後、炉を開かずに第2人工時効処理に移行することができ、熱処理全体の時間を省略できる。
【0050】
また、第1人工時効処理と第2人工時効処理は、連続して行うことは必ずしも重要ではなく、第1人工時効処理終了後、所望温度以下、例えば常温に一旦冷却後、第2人工時効処理をしてもよい。人工時効処理は、第1人工時効処理と第2人工時効処理の間のみならず、各々の人工時効処理の間において、一旦所望温度以下にしても適宜所望温度にて処理することで、本発明を成し得る。
【0051】
このようにして得た押出形材は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接やMIG(Metal Inert Gas)溶接等の方法で他のアルミニウム合金材、つまり溶接部材と溶接することで、溶接構造体とすることができる(溶接工程)。
【0052】
上記溶接後の溶接構造体に対し、加熱処理工程として、165〜195℃の温度で10〜60分の加熱処理をする。この加熱処理工程により、本発明の溶接構造部材が製造される。この工程は、例えば塗装焼き付け工程等を利用することもできる。
【0053】
7000系アルミニウム合金材のような熱処理型アルミニウム合金材を溶接した場合、溶接部の近傍では溶接時の熱影響により、析出η’相が母材に溶入した固溶域が生じる。固溶域では強度、耐食性、耐応力腐食割れ性が低下するが、上記の加熱処理を行うことでη’相が再析出し、上記の特性を改善することができる。
【0054】
ここで、強度、耐食性、耐応力腐食割れ性が改善したことを判断する目安として、母材の原質部と固溶域との導電率差が有る。上記固溶域では、原質部に対して5%IACS以上導電率が低くなる。溶接後の溶接構造体に対して165〜195℃の温度で10〜60分の加熱処理を行うことで、原質部と固溶域との導電率差が5mass%以内となる。この加熱処理温度が165℃未満、又は、加熱処理時間が10分未満であると、上記導電率差が5%IACS以内とならず、上記の特性は十分に改善されない場合が有る。また、加熱処理温度が195℃を超える、若しくは加熱処理時間が60分を超えると、軟化が進み機械的特性が低下する。なお、以下の説明では溶接時の熱影響による固溶域を「溶接熱影響部」とも記載し、実施例では母材の原質部の導電率と固溶域の導電率とを比較する。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しながら説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
上記溶接構造部材に係る実施例について、表1〜3を用いて説明する。
【0057】
本例では、上記の合金組成範囲内で化学成分を変化させた7000系アルミニウム合金材について、押出形材として同一条件で作製し、人工時効処理の前後の導電率の測定、母材強度の測定を行った。更に、上記母材試料表面に溶接を施した後、同一条件で加熱処理を行った試料に対し、溶接熱影響部の導電率測定、強度測定、SCC(Stress Corrosion Cracking:応力腐食割れ)試験を行った。
【0058】
以下に、各試料の製造条件、強度測定方法、導電率測定方法、SCC試験方法を説明する。
【0059】
<試料の製造条件>
押出形材の製造方法:
表1に記載の成分にて、半連続鋳造により直径6インチ(152.4mm)のビレットを鋳造した。表1において、「残部」は不可避的不純物を含む。また、各試料No.においてMn、Crが0.01mass%未満であるものは、当該元素を不可避的不純物に含むものとする。その後、該ビレットを470℃の温度にて6時間保持する均質化処理を行った後、480℃に再加熱したビレットを熱間押出し、肉厚3mmの押出形材とした。熱間押出後、押出形材は空冷でプレス焼入れした。この押出形材に対し、100℃で3時間保持する第1人工時効処理をし、そのまま炉から試料を取り出すことなく150℃まで昇温し、8時間保持する第2人工時効処理を行った。
【0060】
【表1】
【0061】
溶接方法:
図1に示す押出形材10の表面に対し、表2に示す条件にて肉盛溶接を行い、溶接ビード20を形成した。切断した押出形材10のL方向(押出形材の押出方向)の中央部において、LT方向(押出形材の押出方向と直角な方向)に沿って溶接ビード20を形成した。なお、SCC試験片11については後述するが、肉盛溶接時には押出形材10から未作製であるため、位置のみを破線として示す。
【0062】
【表2】
【0063】
加熱処理方法:
肉盛溶接後の押出形材に対し、170℃×20分の加熱処理を施した。
【0064】
<強度の測定方法>
母材強度:
人工時効処理及び加熱処理を施した押出形材試料から、JIS Z2241(ISO6892−1)に準拠した方法により試験片を採取し、JIS13B号形状に成形した後、母材の耐力YS(MPa)の測定を行った。測定の結果、耐力YSが350MPa以上のものを合格とした。
【0065】
溶接後強度:
肉盛溶接、加熱処理後の押出形材試料から、JIS Z3121(ISO4136)に記載の方法を参考に試験片を採取し、JIS1A号形状に成形した後、母材の耐力YS(MPa)の測定を行った。測定の結果、耐力YSが285MPa以上のものを合格とした。
【0066】
<金属組織観察方法>
試料について、図2の加工方向(ここでは押出方向)であるL方向に平行かつ厚さtの方向に平行な断面であり、かつ幅方向であるLT方向の中央付近部分の組織観察を行う。図2に示すように、試料である押出材を切り出して、機械研磨及び電解研磨した後、倍率25倍の偏光顕微鏡により、各断面の顕微鏡像(例えば図2下段に示す写真)を取得する。そして、取得した顕微鏡像から金属組織が加工方向に伸びた繊維状組織であるかを確認する。観察の結果、繊維状組織が70%以上のものは、金属組織が繊維状組織であることとした。
【0067】
<導電率測定方法>
日本フェルスター株式会社製の渦流導電率測定装置「シグマテスト」を用い、人工時効処理の前後の押出形材、肉盛溶接及び加熱処理後の押出形材10の原質部及び熱影響部の導電率を測定した。肉盛り溶接及び加熱処理後の押出形材については、図1に示すように、溶接ビード20の溶接線から60mmの位置である位置A(母材原質部)、5mmの位置である位置B(溶接により生じた固溶域)の2か所を測定した。導電率の測定は室温において、周波数60kHzの条件にて行った。
【0068】
<SCC試験方法>
LT方向に溶接を施した押出形材10より、溶接ビード20と母材表面との境界部が最大応力付加位置となる様に、JIS H8711記載の3点曲げ試料となるSCC試験片11を作製した。平板であるSCC試験片11を図3に示すSCC試験治具30に組み込んだ。
【0069】
SCC試験治具30は、枠体31と、押圧部32と、絶縁体33a〜33cと、を備える。枠体31は、図示の方向から見て略C字形をなしており、2箇所に絶縁体33b、33cが取り付けられている。押圧部32は、枠体31にねじ込まれており図示の上下方向に移動可能である。押圧部32の上端部には絶縁体33aが取り付けられている。
【0070】
図3は、SCC試験片11がSCC試験治具30に組み込まれた後、押圧部32を図示上方に移動させた状態を示す。これにより、SCC試験片11と絶縁体33a〜33cとが接触する3点でSCC試験片11が曲げられている。
【0071】
SCC試験片11に対し、図3に示す3点曲げにより、L方向に溶接材耐力の70%の応力を付加し、室温25±3℃、湿度40〜75%に保持した室内において、3.5mass%NaCl水溶液への10分間の浸漬と、室内での50分間の乾燥とを繰り返す交互浸漬試験を672時間行った。このとき、672時間試験して割れが発生しなかったものを合格とした。また、割れが発生しなかった場合でも、最大腐食深さが400μm以上であったものは、耐食性の観点から不合格とした。
【0072】
各試験の評価結果を表3に示す。表3のSCC試験結果において、「○」は合格であり、「×」は不合格である。
【0073】
【表3】
【0074】
No.1〜No.14の試料は全ての項目において合格となり、優れた特性を示した。
【0075】
No.15はZn含有量が少なすぎるため、溶接材の耐力YSが285MPa未満となり、不合格と判定した。
【0076】
No.16はZn含有量が多すぎるため、SCC試験において割れが発生し、不合格と判定した。
【0077】
No.17はMg含有量が少なすぎるため、母材の耐力YSが350MPa未満、かつ溶接材の耐力YSが285MPa未満となり、不合格と判定した。
【0078】
No.18はMg含有量が多すぎるため、実質的な設備では熱間押出が不可能であった。
【0079】
No.19はCu含有量が多すぎるため、SCC試験において深さ400μm以上の腐食が発生し、不合格と判定した。
【0080】
No.20はZr含有量が少なすぎるため、金属組織は再結晶組織となり、SCC試験において割れが発生し、不合格と判定した。
【0081】
No.21はZr含有量が多すぎるため、金属組織内に粗大な化合物が見られ、不合格と判定した。
【0082】
No.22はMn含有量が多すぎるため、実質的な設備では熱間押出が不可能であった。
【0083】
No.23はCr含有量が多すぎるため、実質的な設備では熱間押出が不可能であった。
【0084】
(実施例2)
上記溶接構造部材の製造方法に係る実施例について、表4〜表6を用いて説明する。
【0085】
本例では、上記の合金組成範囲内の7000系アルミニウム合金材について、同一の条件にて製造した押出形材に対し、異なる条件で人工時効処理を施した試料を作製し、母材強度を測定した。更に、上記母材試料表面に溶接を施した後、異なる条件で加熱処理を行った試料に対し、溶接熱影響部の導電率測定、SCC試験を行った。以下に、各試料の製造条件、強度測定方法、導電率測定方法、SCC試験方法を説明する。
【0086】
<試料の製造条件>
押出形材の製造方法:
表4に記載の成分にて、半連続鋳造により直径6インチ(152.4mm)のビレットを鋳造した。表4において、「残部」は不可避的不純物を含む。また、各試料No.においてMn、Crは0.01mass%未満であるため、不可避的不純物に含むものとする。その後、該ビレットを470℃の温度にて6時間保持する均質化処理を行った後、480℃に再加熱したビレットを熱間押出し、肉厚3mmの押出形材とした。熱間押出後、押出形材は空冷でプレス焼入れした。この押出形材に対し、表5に記載の条件にて人工時効処理したNo.a〜No.iを作製した。
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
溶接方法:
実施例1と同様に、図1に示す押出形材10の表面に対し、表2に示す条件にて肉盛溶接を行った。
【0090】
加熱処理方法:
肉盛溶接後のNo.a〜No.iに対し、表5に記載の条件にて加熱処理を施した。
【0091】
<強度の測定方法>
母材強度:
人工時効処理及び加熱処理を施した押出形材試料から、JIS Z2241(ISO6892−1)に準拠した方法により試験片を採取し、JIS13B号形状に成形した後、母材耐力YS(MPa)の測定を行った。測定の結果、耐力YSが350MPa以上のものを合格とした。
【0092】
溶接後強度:
肉盛溶接、加熱処理後の押出形材試料から、JIS Z3121(ISO4136)に記載の方法を参考に試験片を採取し、JIS1A号形状に成形した後、母材の耐力YS(MPa)の測定を行った。測定の結果、耐力YSが285MPa以上のものを合格とした。
【0093】
<導電率測定方法>
日本フェルスター株式会社製の渦流導電率測定装置「シグマテスト」を用い、人工時効処理の前後の押出形材、肉盛溶接及び加熱処理後の押出形材10の原質部及び熱影響部の導電率を測定した。肉盛り溶接及び加熱処理後の押出形材については、図1に示す溶接ビード20の溶接線から60mmの位置である位置A(母材原質部)、5mmの位置である位置B(溶接により生じた固溶域)の2か所を測定した。導電率の測定は室温において、周波数60kHzの条件にて行った。
【0094】
<SCC試験方法>
LT方向に溶接を施した押出形材10より、溶接時に生じた固溶域が中央位置となる様に、JIS H8711記載の3点曲げ試料となるSCC試験片11を作製した。SCC試験片11に対し、実施例1と同様の図3に示す3点曲げにより、L方向に溶接材耐力の70%の応力を付加し、室温25±3℃、湿度40〜75%に保持した室内において、3.5mass%NaCl水溶液への10分間の浸漬と、室内での50分間の乾燥とを繰り返す交互浸漬試験を672時間行った。このとき、672時間試験して割れが発生しなかったもの、また、最大腐食深さが400μm以下であったものを合格とした。
【0095】
各試験の評価結果を表6に示す。表6のSCC試験において、「○」は合格であり、「×」は不合格である。
【0096】
【表6】
【0097】
No.a〜No.eの試料は、全ての項目において合格となり、優れた特性を示した。
【0098】
No.fの試料は、第2人工時効温度が低いため、SCC試験において割れが発生し、不合格と判定された。
【0099】
No.gの試料は、第2人工時効温度が高いため、十分な機械的特性が得られず、不合格と判定された。
【0100】
No.hの試料は、溶接まま(溶接したままの状態)のため、SCC試験において深さ400μm以上の腐食が発生し、不合格と判定された。
【0101】
No.iの試料は、溶接後の熱処理の温度が高いため、十分な機械的特性が得られず、不合格と判定された。
【符号の説明】
【0102】
10 押出形材
11 SCC試験片
20 溶接ビード
30 SCC試験治具
31 枠体
32 押圧部
33a、33b、33c 絶縁体
A、B 位置
図1
図2
図3