(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、ドライバの運転操作に基づき該ドライバの覚醒度合いを推定し、推定した覚醒度合いに応じて前記初期制動のタイミングを制御する請求項1に記載の車両用制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る車両用制御装置の実施形態を説明する。
【0014】
図1は実施形態の車両用制御装置を備えた車両の構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用制御装置100は、車両1(以下において、自車と呼ぶ場合がある)に搭載され、車両1の減速制御が含まれる走行制御を行う。車両用制御装置100には、ステレオカメラ200、ブレーキコントロールユニット300、エンジンコントロールユニット400及びメータコントロールユニット700が通信(例えばCAN(Car Area Network))によって接続されている。
【0015】
車両用制御装置100は、内部にCPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータ(以下、マイコンと略する)として構成されており、制御部101、演算部102、及び記憶部103を備える。制御部101は、ブレーキ等を制御することにより衝突被害の回避又は軽減を実現するものであり、車両1に対して初期制動と本制動とを順に行う。演算部102は、車両1の制御に関連する各演算を行う。記憶部103は、不揮発性メモリからなり、ドライバのブレーキ操作情報が含まれる各情報を記憶する。
【0016】
車両用制御装置100は、車両1のイグニッション電圧が低下した場合に、マイコンの動作を停止させて、再度車両1のイグニッション電圧が起動電圧閾値以上となった場合にマイコンを起動させ、各制御処理を行う。このため、イグニッション電圧が低下する状態、すなわちエンジン停止状態では、制御処理が動作しないようにされている。
【0017】
ステレオカメラ200は、例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右一対のカメラにより構成されている。ステレオカメラ200は、車室の天井付近に取り付けられており、車両前方の道路及び障害物の様子等を撮像し、撮像したステレオ画像データをCANを介して車両用制御装置100に送信する。
【0018】
例えば、ステレオカメラ200で撮像した障害物のステレオ画像データが車両用制御装置100に送信された場合、演算部102は、ステレオ画像から視差情報を取得し、取得した視差情報を基に自車と車両前方の障害物との距離を計算し、更に計算した距離を経過時間に応じて微分することで相対速度を算出する。また、この演算部102は、撮像された障害物の自車に対する横位置を計算し、更に横位置を経過時間に応じて微分することにより横速度を算出する。車両用制御装置100は、ステレオカメラ200で撮像した障害物の画像データに対してパターンマッチングを行い、歩行者、自転車、車両、その他停止障害物等に分類する。
【0019】
ブレーキコントロールユニット300は、それに接続されるブレーキ600、ブレーキペダル610、ディスクブレーキ、ドラムブレーキに対する圧力を発生させることにより、ホイールとの摩擦を発生させて車両1の減速を行う。また、このブレーキコントロールユニット300は、車輪速センサ620、前後Gセンサ630、ヨーレートセンサ640、操舵角センサ650にそれぞれ接続されており、自車速度等の計測を行う。
【0020】
エンジンコントロールユニット400は、エンジン500、アクセルペダル510にそれぞれ接続されており、エンジン500の出力を制御する。制御された出力は、トランスミッションやプロペラシャフト等を通じて車両1のホイールへ動力を伝達し、これによって車両1の加速が行われる。また、エンジンコントロールユニット400は、車両1の加速だけではなく、エンジンブレーキを発生させることにより車両1の減速も行う。
【0021】
メータコントロールユニット700は、表示装置710、ブザー720にそれぞれ接続され、ドライバの視覚や聴覚を通じて通知、警告等を行う。
【0022】
次に、
図2に基づいて車両用制御装置100の制御処理を説明する。
図2のフローチャートに記載の制御処理は、所定の周期(例えば10ms周期)で繰り返し実行される。
【0023】
まず、ステップS101では、車両用制御装置100は、ステレオカメラ200、ブレーキコントロールユニット300及びエンジンコントロールユニット400から各データを取得し、以降の処理で使用できるように変換を行う。
【0024】
次に、ステップS102では、車両用制御装置100は、ドライバのブレーキ操作タイミングの取得を行う。ステップS102で行われる制御処理は、具体的には
図3のフローチャートに示す内容である。
【0025】
図3に示すように、最初のステップS102aでは、車両用制御装置100は、ブレーキコントロールユニット300から送信された情報に基づいて、ブレーキペダル610が踏み始めであるか否か、すなわちブレーキペダル610を踏んでいない状態から踏んだ状態になるかを判断する。踏み始めと判断された場合、制御処理はS102bに進む。一方、踏み始めでないと判断された場合、制御処理はステップS102eに進む。
【0026】
なお、このステップS102aでは、一度踏み始めと判断されてから10秒間の間に再度踏み直しがあった場合、踏み始めとは判断されないように設定されている。このようにすれば、例えばポンピングブレーキのような運転操作や、一時的にブレーキングを緩めるような運転操作に起因した踏み始めの誤判断を防止することができる。
【0027】
ステップS102bでは、車両用制御装置100は、自車の進行路上に障害物の有無を判断する。具体的には、車両用制御装置100は、ヨーレートセンサ640で検出したヨーレート、操舵角センサ650で検出した操舵角、車輪速センサ620で検出した自車速度を取得する。次に、車両用制御装置100は、ステレオカメラ200により撮像された車道外側線の形状を用いて
図4に示すような自車を俯瞰した2次元平面を作成し、該2次元平面における自車の走行予定領域20を推定する。そして、演算部102は、ステレオカメラ200により撮像された先行車両30、歩行者40等の障害物のデータに基づいて、各障害物に対する距離、横位置を算出する。車両用制御装置100は、演算部102で算出した情報に基づき、対象とする障害物が走行予定領域20内に存在するかを判断する。
【0028】
図4に示す走行シーンでは、歩行者40は走行予定領域20内に存在しないが、先行車両30が走行予定領域20内に存在するため、車両用制御装置100は自車進行路上の障害物があると判断する。一方、例えば先行車両30も走行予定領域20内に存在しない場合、車両用制御装置100は自車進行路上の障害物がないと判断する。そして、自車進行路上に障害物があると判断された場合、制御処理はステップS102cに進み、自車進行路上に障害物がないと判断された場合、制御処理はステップS102eに進む。
【0029】
ステップS102cでは、車両用制御装置100は、ドライバのブレーキ操作情報を記憶するか否かを判断する。ここで、下記5つの条件を全て満たした場合のみ、ブレーキ操作情報を記憶すると判断される。
【0030】
条件の1つ目は、自車進行路上の障害物のうち、自車と最も近い障害物との距離が10m以上離れることである。従って、例えば自車の近くに障害物が割り込んで、その割り込みに対するブレーキ操作の情報を記憶しない。すなわち、安定してブレーキをかける時のみを記憶対象とする。
【0031】
条件の2つ目は、自車と最も近い障害物との間にステレオカメラ200で停止線が撮像されていないことである。これは、停止線に対するブレーキングとの区別を図るためである。
【0032】
条件の3つ目は、自車が20km/h以上の速度で走行することである。従って、低速時の特性はなくても問題にならないので記憶しない。
【0033】
条件の4つ目は、ドライバがアクセルペダル510を踏んでいないことである。これは、アクセルペダル510及びブレーキペダル601の同時踏みのような操作を記憶すると、後述するブレーキ操作タイミングを正しく推定できなくなるので、そのような操作を除外するためである。
【0034】
条件の5つ目は、前後Gセンサ630で検出した値と自車速度の時間微分値から得た自車加速度とに基づいて路面勾配を推定し、推定した上り勾配又は下り勾配がそれぞれ5deg以上になっていないことである。これは、勾配路ではブレーキの操作タイミングを変えられるので、正しいブレーキ操作タイミングを推定できなくなるのを防ぐためである。
【0035】
そして、ステップS102cでブレーキ操作情報を記憶すると判断された場合、制御処理はステップS102dに進む。一方、記憶しないと判断された場合、制御処理はステップS102eに進む。
【0036】
ステップS102dでは、車両用制御装置100は、記憶部103に対し、以下のブレーキ操作情報を記憶するように制御信号を送信する。記憶部103に記憶される情報としては、自車進行路上の障害物のうち最も近い障害物との距離、最も近い障害物との相対速度、最も近い障害物の種別(例えば歩行者、車両、自転車、任意立体物等)、自車速度、路面の勾配、路面の曲率、自車両の推定重量、ステレオカメラで検出した照度(例えば夜、昼)、ステレオカメラで検出した天気(例えば雨天、雪、晴れ)等である。ここで、天気が晴れの場合、走行路が乾燥路であることを意味する。
【0037】
記憶部103は、ドライバのブレーキ操作タイミングを推定するのに十分な回数の記憶領域、例えば250回分のデータを記憶する領域を有し、FIFO(先入れ先出し)の方式で記憶を行う。記憶部103は、上述したように不揮発性メモリからなり、車両1の製造時に全て記憶情報無しとして初期化されており、製造後に記憶されたブレーキ操作情報を車両1のイグニッションをオフにした場合も保持し続け、エンジン始動直後で記憶されたブレーキ情報を準備できる。また、この記憶部103は、車両1の動力が停止した後も記憶されたブレーキ操作情報を保持して、車両1の動力が停止している際にはブレーキ操作情報を記憶しないことが好適である。
【0038】
ステップS102eでは、車両用制御装置100は、記憶部103に記憶されたドライバのブレーキ操作情報の数が十分な回数以上か否かを判断する。ここでの十分な回数は、ドライバのブレーキ操作タイミングを推定するのに足りる回数、例えば50回以上のことである。十分な回数以上と判断された場合、制御処理はステップS102fに進む。一方、十分な回数以上でないと判断された場合、制御処理はステップS102gに進む。
【0039】
ステップS102fでは、制御部101は、記憶部103に記憶されたブレーキ操作情報に基づき、ドライバのブレーキ操作タイミングを推定する。ドライバのブレーキ操作タイミングは、相対速度に応じたテーブル値として推定される。テーブル値の推定は
図5のフローチャートに従って行われる。具体的には、相対速度10km/h毎にブレーキ操作タイミング推定用情報を分類して、各相対速度域でのブレーキ操作を行った時の距離の平均を取り、ドライバのブレーキ操作タイミングの推定が行われる。そして、制御部101は、推定したブレーキ操作タイミングよりも遅いタイミングを初期制動のタイミングとする。なお、
図5において、ドライバのブレーキ操作タイミングを「BrkDist」で示す。
【0040】
一方、ステップS102gでは、制御部101は、ドライバのブレーキ操作タイミングを標準値に設定する。標準値は、特許請求の範囲に記載の「所定のブレーキ操作タイミング」に相当しており、例えば自車と障害物との相対速度×5秒である。
【0041】
次に、
図2に示すフローチャートのステップS103では、車両用制御装置100はドライバの覚醒度合いの取得を行う。ドライバの覚醒度合いは、ドライバが運転にどれだけ集中することができているか、または居眠り運転等になっていないかを判断する指標として推定を行うためのパラメータとなる。ドライバの覚醒度合いは、ドライバの以下の運転操作を検出することで制御部101により推定される。
【0042】
すなわち、ステレオカメラ200で検出した白線に対して、自車の向きが左右に周期的に傾いていること、アクセルペダルの踏みこみ量の変化が少ないこと、シフトチェンジをしていない時間が一定時間を経過すること、操舵角の振動が検出されること、ステアトルクが弱いこと、急ブレーキの頻度が高いことなどである。
【0043】
また、ドライバの覚醒度合いは、上記のドライバの運転操作が検出された数に応じて低くなるパラメータにする。変化量や時間の閾値は車両に応じて設定され、それぞれの条件に対して重みを設定して覚醒度合いに反映する。例えば、ステアトルクが低い場合の条件は、重み3にして、ステアトルクが低かった場合に覚醒度合いを−3とする。シフトチェンジをしていない時間が一定時間経過の条件は、重み1にして、シフトチェンジをしていない時間が一定時間経過した場合は覚醒度合いを−1とする。このように条件に応じて重みづけをすることにより、よりドライバの覚醒度合いに近いパラメータとして判断することができる。
【0044】
次に、ステップS104では、車両用制御装置100は、初期制動最大減速度の取得を行う。ステップS104で行われる制御処理は、例えば
図6のフローチャートに示す内容である。
【0045】
図6に示すように、最初のステップS104aでは、車両用制御装置100は初期化判断を行う。初期化判断は、以下のいずれかの条件を満たすか否かで行われる。すなわち、シートベルトの解除検出後2秒以内に自車速度が0となっていないこと、リアゲート等を含めたドアスイッチオープンの検出後2秒以内に自車速度が0となっていないこと、先行車両及び信号機が不検出で且つブレーキペダルを踏んでいない状況で停車時間が一定以上経過すること、積載対象の重量が5秒間で10kg以上増えることである。上述の先行車両及び信号機が不検出で且つブレーキペダルを踏んでいない状況での停車は、例えばニュートラルレンジ且つパーキングブレーキでの停車等が挙げられる。
【0046】
初期化判断が成立した場合、制御処理はステップS104bに進む。ステップS104bでは、制御部101は初期制動最大減速度を0.2Gとする。
【0047】
一方、初期化判断が成立していない場合、制御処理はステップS104cに進む。ステップS104cでは、演算部102は、現在の自車の加速度絶対値を算出する。ステップS104cに次ぐステップS104dでは、車両用制御装置100は、現在の自車の加速度絶対値と、前周期の初期制動最大減速度とを比較する。そして、前周期の初期制動最大減速度が現在の自車の加速度絶対値がより小さいときに、制御部101は、現在の自車の加速度絶対値を今回の周期の初期制動最大減速度とする(ステップS104e)。
【0048】
このとき、ドライバが運転操作で0.2G以上の加速を行っている場合は、積載対象に対しても0.2G以上の衝撃を与えても問題ないと判断でき、減速で発生した加速度のみで判断するより最大減速度を早く大きくすることができ、安全性が高くなる。また、条件に使用する積載対象の重量は、自車のブレーキ力、またはパワーユニットの出力から推定した加速度に対して、自車の車輪速微分で検出した加速度がずれている場合、その比率を出すことで推定が可能である。なお、ここでは、積載対象の重量を検出するためのセンサを別途設けてもよい。
【0049】
なお、初期制動最大減速度の取得として、上述した内容のほか、例えば積載対象の重量の変化に着目し、該積載対象の重量の変化が所定の範囲内の場合に、制御部101はドライバ運転時に発生した加減速度絶対値の最大値を初期制動最大減速度としてもよい。
【0050】
次に、
図2に示すフローチャートのステップS105では、演算部102は、自車の推定重量を計算する。自車の推定重量は、車両の重量と積載対象の重量との合計値である。積載対象は、荷物又は乗客などを指す。なお、自車の推定重量は、エンジントルク、トランスミッションの減速比、走行抵抗の推定値、タイヤ動半径、自車の加速度に基づいて求められる。例えば、自車の推定重量は式(1)で求められる。
自車推定重量=エンジントルク×減速比÷加速度÷タイヤ動半径・・・(1)
【0051】
走行抵抗の推定値は、自車速度と車両形状(空気抵抗特性)、及びタイヤの幅から求められる空気転がり抵抗、路面勾配から求められる勾配抵抗、横加速度の発生により求められるコーナリング抵抗の総和によって算出することができる。
【0052】
次に、ステップS106では、演算部102は、制御作動距離の基本値を計算する。制御作動距離の基本値の計算は、相対速度からあらかじめ準備したテーブル値に基づいて行われる。テーブル値は、相対速度×TTC(Time To Collision)を基本の値として、相対速度が大きい場合は距離を長くするような補正を行って設定される。制御作動距離の基本値は、初期制動作動距離の基本値と本制動作動距離の基本値とを含むため、初期制動作動距離の基本値と本制動作動距離の基本値とがそれぞれ算出される。
【0053】
次に、ステップS107では、演算部102は、本制動減速量を計算する。本制動減速量は、ステップS105で算出した自車の推定重量から式(2)に基づいて計算される。
車両加速度[m/ss]=ブレーキ力[N]÷自車の推定重量[kg]
本制動減速量[m/s]=車両加速度[m/ss]×時間[s]・・・(2)
【0054】
式(2)のブレーキ力は車両1のブレーキ性能で決まるため、搭載車両の制御パラメータとして定数を設定する。また、時間は衝突回避までの時間を閾値として設定し、搭載車両の制御パラメータとして設定される。
【0055】
次に、ステップS108では、車両用制御装置100は初期制動減速度を決定する。車両用制御装置100は、ステップS104で求められた初期制動最大減速度と、初期制動減速度下限値とを比較し、減速がより強く発生する方を選択し、初期制動減速度として決定する。
【0056】
ここでの初期制動減速度下限値は、ドライバが減速の発生を知覚することができるほど強い減速でありつつ、積載対象に影響を与える(例えば貨物に損傷を与えたり、乗客の転倒を起こしたりする)ような心配のない減速度として定数、例えば0.2Gとして設定される。
【0057】
次に、ステップS109では、車両用制御装置100は、初期制動開始車間距離を決定する。ステップS109で行われる制御処理は、例えば
図7のフローチャートに示す内容である。
【0058】
図7に示すように、最初のステップS109aでは、演算部102は、ステップS102で算出した相対速度に応じたテーブル値の情報であるブレーキ操作タイミングの情報に対して、現在の相対速度を与えてドライバのブレーキ操作タイミングに当たるドライバブレーキ開始距離を算出する。続いて、演算部102は、相対速度から本制動減速量を減算することで初期制動減速量を算出する。
【0059】
ステップS109bでは、演算部102は、初期制動減速量を初期制動減速度で除算することで初期制動作動時間を算出する。
【0060】
ステップS109cでは、演算部102は、相対速度の2倍から初期制動減速量を減算したものに、初期制動作動時間を乗算して2で割ることで、初期制動走行距離を算出する。
【0061】
ステップS109dでは、演算部102は、初期制動走行距離と本制動作動距離を足し合わせることで、ブレーキをかけた場合衝突回避が可能な距離として、初期制動作動安全距離を算出する。
【0062】
ステップS109eでは、車両用制御装置100は、初期制動作動安全距離とドライバブレーキ開始距離とを比較する。初期制動作動安全距離がドライバブレーキ開始距離より小さいと判断された場合、制御処理はステップS109fに進み、初期制動作動基本距離と初期制動作動安全距離との比較が行われる。そして、初期制動作動基本距離が初期制動作動安全距離より小さい場合、制御部101は、初期制動作動距離を初期制動作動基本距離とする(ステップS109g)。一方、初期制動作動基本距離が初期制動作動安全距離以上の場合、制御部101は、初期制動作動距離を初期制動作動安全距離とする(ステップS109h)。
【0063】
また、上述のステップS109eで初期制動作動安全距離がドライバブレーキ開始距離以上であると判断された場合、制御処理はステップS109iに進み、初期制動作動基本距離とドライバブレーキ開始距離との比較が行われる。そして、初期制動作動基本距離がドライバブレーキ開始距離より小さい場合、制御部101は、初期制動作動距離をドライバブレーキ開始距離とする(ステップS109j)。一方、初期制動作動基本距離がドライバブレーキ開始距離以上の場合、制御部101は、初期制動作動距離を初期制動作動基本距離とする(ステップS109k)。
【0064】
上述のステップS109eで初期制動作動安全距離とドライバブレーキ開始距離との比較を行うことで、ドライバの普段のブレーキ操作より早く初期制動が行われるので、初期制動の開始がドライバに対して違和感の少ないタイミングとすることができる。加えて、ステップS109e又はステップS109iで更に初期制動作動距離基本値との比較を行うことで一般的なドライバよりあまりにもブレーキタイミングが遅いようなドライバの場合でも、最低限の警告や被害軽減のブレーキ作動を行うことができるようになる。
【0065】
そして、車両用制御装置100は、
図7のフローチャートで求められた初期制動作動距離を初期制動開始車間距離(すなわち、初期制動作動タイミング)として決定する。
【0066】
次に、
図2に示すフローチャートのステップS110では、車両用制御装置100は制御減速度の決定を行う。このステップS110で行われる制御処理は、例えば
図8のフローチャートに示す内容である。
【0067】
図8に示すように、最初のステップS110aでは、車両用制御装置100は、現在の車間距離と本制動作動距離との比較を行う。現在の車間距離が本制動作動距離より小さい場合、車両用制御装置100は、本制動を作動させるべきと判断して、ブレーキ力を自車の推定重量で除算することにより制御減速度を求め、車両として発生させられる最大減速度での制御を行う(ステップS110b)。
【0068】
一方、ステップS110aで現在の車間距離が本制動作動距離以上の場合、制御処理はステップS110cに進み、現在の車間距離と初期制動開始車間距離との比較を行う。現在の車間距離が初期制動開始車間距離より小さい場合、車両用制御装置100は、制御減速度を初期制動減速度とすることで、積載対象に被害を与えないような減速量でのブレーキ制御を行う(ステップS110d)。
【0069】
そして、現在の車間距離が初期制動開始車間距離以上の場合、車両用制御装置100は、減速制御を不要として、制御減速度をゼロにすることで、制御を行わないようにする(ステップS110e)。
【0070】
次に、
図2に示すフローチャートのステップS111では、車両用制御装置100はドライバ通知の決定を行う。ステップS111で行われる制御処理は、例えば
図9のフローチャートに示す内容である。
【0071】
図9に示すように、最初のステップS111aでは、演算部102は、覚醒度合いに応じた距離補正値の計算を行う。ステップS111bでは、車両用制御装置100は、現在の車間距離と、本制動作動距離及び距離補正値の和との比較を行う。現在の車間距離が本制動作動距離及び距離補正値の和より小さい場合、車両用制御装置100は、大きな警報音や強い点滅等でドライバに強い警告度合いを示す(ステップS111c)。そして、ドライバは、表示装置710及びブザー720を介して警告等を把握できる。
【0072】
一方、ステップS111bで現在の車間距離が本制動作動距離及び距離補正値の和以上の場合、制御処理はステップS111dに進み、現在の車間距離と、初期制動開始車間距離及び距離補正値の和との比較を行う。現在の車間距離が初期制動開始車間距離及び距離補正値の和より小さい場合、車両用制御装置100は、ステップS111cよりも弱い警報音や弱い点滅でドライバに弱い警告度合いを示す(ステップS111e)。このように警告度合いの強弱を使い分けることで、ドライバに危険の度合いをより明確に伝えることができる。
【0073】
そして、現在の車間距離が初期制動開始車間距離及び距離補正値の和以上の場合、車両用制御装置100は、ドライバへの警告を行わない(ステップS111f)。
【0074】
この処理を行うことで、覚醒度合いが低い状況下、つまり、ドライバが居眠り運転をしているような状況下やよそ見運転を行っている状況では、通常時より早めの警報を行うことでドライバの回避行動を促進させることができる。ただし、この際に減速制御は行わないようにすることで、制御開始の早期化により、積載対象に被害を与える問題、または交通流を乱して衝突事故を誘発させる問題を抑止し、事故につながるリスクを減らすことができる。
【0075】
次に、
図2に示すフローチャートのステップS112では、車両用制御装置100は、ステップS111で処理した結果を基づきデータの出力を行う。また、車両用制御装置100は、ブレーキコントロールユニット300、メータコントロールユニット700へ制御信号を送信し、ブレーキによる減速及びドライバへの警告等を実行する。
【0076】
本実施形態の車両用制御装置100によれば、制御部101は、本制動のタイミングを変えずに、車両の推定重量(積載対象の重量を含む)に基づいて初期制動のタイミングを制御するので、ドライバへの違和感及び積載対象への影響を低減するとともに、衝突被害を抑止することができる。しかも、このように本制動のタイミングを変えないことによって、例えば本制動を早めにすることに起因した誤作動を防止でき、誤作動による積載対象への被害を抑制することができる。なお、本実施形態では、車両の推定重量(積載対象の重量を含む)は演算部102により算出される例を挙げて説明したが、演算部102を有さない場合、車両の推定重量は制御部101によって算出されてもよい。
【0077】
なお、本実施形態の車両用制御装置100については、様々な変形例が考えられる。
【0078】
<変形例1>
例えば、ブレーキ操作タイミング等は、ドライバによって異なる。1台の車両を多人数で共用することを想定した場合、上述のステップS102において、記憶部103にドライバ毎にブレーキ操作情報を記憶する領域を設け、各ドライバの特性に合ったブレーキ操作タイミングを記憶できるようにすることが好ましい。この場合、ドライバの識別方法として、例えばドライバ毎に車両の鍵を分けるようにして、車両用制御装置100は、鍵でドライバを識別してドライバの変更を把握する。すなわち、この場合、車両用制御装置100は、ドライバを識別するドライバ識別部として機能する。また、鍵のほかにICカードや指紋認証等のようにドライバ個人を特定できる情報を事前に登録して、車両用制御装置100は、ICカードや指紋認証でドライバを識別し、各ドライバのブレーキ操作タイミング情報等を記憶部103から取得する。
【0079】
また、多人数で1台の車両を共用する場合、記憶部103の容量が膨大になる問題が考えられる。この場合、例えば携帯電話を含む携帯端末、或いは通信を介して事前にセンターサーバに登録したドライバの情報を読み出すことで、多人数のブレーキ操作タイミング情報を記憶又は取得することができる。更に、このように携帯端末やセンターサーバを用いて各ドライバのブレーキ操作タイミング情報を記憶又は読み出す場合、複数台の車両で情報を共有することができる利点もある。
【0080】
<変形例2>
また、本発明を適用する車両が小型又は中型のバスであって積載対象が不特定の乗客であることが想定される。この場合、積載対象が美術品や精密機器等の場合と比べて破損のおそれがないので、ステップS104を以下に記載の内容に置き換えることが可能である。
【0081】
すなわち、車内監視カメラを設け、該車内監視カメラで車内に乗客が存在しないことを検出した場合は、初期制動最大減速度を許容される最大の減速度、例えば0.4Gとする。一方、乗客が存在し且つ立ち乗りの乗客を検出した場合、初期制動最大減速度を乗客が転倒したりしないような減速度、例えば0.15Gとする。また、乗客が存在し且つ立ち乗りの乗客が存在しない場合、初期制動最大減速度をシートベルトがなくても座席に座った乗客が転倒したりしないような減速度、例えば0.3Gとする。
【0082】
このようにすれば、急制動の発生により乗客が転倒する等、怪我をしてしまうことを防止した上で、衝突事故の被害を軽減することができる。ここで、車内監視カメラの代わりに感圧センサやレーダー等を用いて車内のどの位置に乗客が存在するかを判断する方法や、ドライバが車内の状況を監視して状況を通知するインターフェースを設けて判断する方法への置き換えも可能である。
【0083】
更に、高速バスのように、乗客が座席に座ってシートベルトをする場合は転倒によってけがをするおそれが少ないので、初期制動最大減速度を許容される最大の減速度、例えば0.4Gの固定としてもよい。
【0084】
<変形例3>
また、積載対象が配達業のようにバーコード等で管理される荷物(輸送物ともいう)の場合、上述のステップS104を以下の内容に変更することができる。
【0085】
車両用制御装置100は、配送システムのセンターとの通信で、自車に載せる荷物の情報を取得する。そして、荷物の内容が精密機器や美術品のように、加速度の発生に対して破損の可能性が高い物であるのを把握した場合、初期制動最大減速度を破損の発生しないような減速度、例えば0.2Gに設定する。一方、衣類等のような衝撃に強い輸送物であるのを把握した場合、初期制動最大減速度を許容される最大の減速度、例えば0.4Gに設定する。この場合、車両用制御装置100は荷物の内容に応じて初期制動最大減速度を切り替える。
【0086】
また、荷物の内容の把握は配送システムのセンターで行い、車両用制御装置100はその結果を通信で取得する方式もある。更に、荷物の内容の把握は配送システムのセンターではなく、ドライバが荷物の種別を直接選択し、スイッチ等による入力操作や荷物のバーコードを直接参照して判断する方式もある。
【0087】
<変形例4>
また、ステップS104の初期化判断条件は、以下の条件のいずれかへと置き換えすることができる。例えば、停車中に荷台の感圧センサで検出した値が変化した場合、或いは停車中に荷台を監視するカメラまたはレーダー等のセンサで移動体を検知した場合等が挙げられる。このようにすることで、カメラ等のセンサを追加するコストが生じるが、荷物の積み下ろしを確実に確認することができる。
【0088】
例えば、感圧センサやカメラ等を用いて荷物の積み下ろしを確認した場合、積載対象の有無或いは変化を容易に判断できる。この場合、
図6に記載のステップS104の処理を
図10に記載のフローチャートに変更することができる。具体的には、
図6及び
図10を比較して分かるように、初期化判断(ステップS104a)の前に空積であるか否かを判断する処理(ステップS104f)を加える。
【0089】
そして、ステップS104fで空積であると判断された場合、初期化判断を行わず、車両用制御装置100は初期制動最大減速度を許容される最大の減速度、例えば0.4Gと設定する(ステップS104g)。このようにすれば、積載対象破損の危険性がないことを即座に判断でき、衝突被害の軽減量を最大とすることができる。一方、空積でないと判断された場合、制御処理はステップS104aに進み、上述の初期化判断を行えばよい。
【0090】
<変形例5>
また、上述のステップS103におけるドライバの覚醒度合いを更新した場合、車両用制御装置100は、記憶部103に更新したデータを記憶させ、エンジン停止後もドライバの覚醒度合いの情報を保持し、次回エンジンをオンした場合に記憶された覚醒度合いの値を引き継ぐことができる。
【0091】
このようにすることで、短時間の間にエンジンをオフし、ドライバが回復して覚醒状態に戻る可能性の低いような場合でも覚醒度合いを正しく判断し、適切な警告を行うことができる。
【0092】
また、ドライバの覚醒度合いを記憶する際、日時を同時に記憶し、エンジンをオンした際に現在の日時が記憶した際の日時よりドライバが回復に必要な時間(例えば3時間以上経過する場合)、または、変形例1に記載のような方法で現在のドライバが誰であるかを識別し、ドライバの変更が検出された場合は覚醒度合いをリセットして、過剰な警告を行わないようにすることができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。