(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータの直流側に生じる直流電圧を取得する第1の電圧センサと、前記コンバータの動作状態を制御する制御部と、を備えた少なくとも一つの電力変換装置及び、交流電源に接続される一次巻線と、それぞれが前記電力変換装置のそれぞれと1対1で接続される少なくとも1つの二次巻線と、第2の電圧センサが接続される三次巻線とを備えた変圧器、を備える電力変換システムであって、
前記制御部は、
前記第2の電圧センサの取得値から基準位相を演算する位相演算部と、
直流電圧指令値と、前記第1の電圧センサによって取得された前記直流電圧との偏差に基づいて、有効電流指令値を演算する有効電流指令値演算部と、
前記変圧器の結合インダクタンスと前記変圧器の受電電圧とによって決定される第1の係数を比例係数とし、前記比例係数を用いて前記有効電流指令値の二乗に比例した第1の無効電流指令値を演算する第1の無効電流指令値演算部と、
前記基準位相と、前記有効電流指令値と、前記第1の無効電流指令値とに基づいて、交流電圧指令値を演算する電圧指令値演算部と、
を備えたことを特徴とする電力変換システム。
前記第2の無効電流指令演算部は、力率角指令値と前記有効電流指令値とに基づいて、前記第2の無効電流指令値を演算することを特徴とする請求項3に記載の電力変換システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る電力変換システムについて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換システム50を含む電気車駆動システム100の構成図である。
図1において、電気車駆動システム100は、き電システム110と、図示しない電気車の推進制御に供される推進制御装置60と、を含む。き電システム110は、交流電源を構成する。き電システム110は、交流電力を発生する電源設備106と、交流電力を推進制御装置60に供給するための電力線108と、を含む。
【0014】
推進制御装置60は、電力変換システム50と、負荷120とを含む。電力変換システム50は、き電システム110から受電した交流電力を直流電力へ変換して、負荷120へ供給する。電力変換システム50は、変圧器1と、電力変換装置10とを含む。変圧器1は、受電電圧を降圧して電力変換装置10へ供給する。
【0015】
電力変換装置10は、コンバータ2aと、コンデンサ2bと、制御部3とを備える。コンバータ2aは、交流電力と直流電力とを相互に変換するパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)コンバータである。コンバータ2aは、変圧器1を介してき電システム110から供給される交流電力を直流電力に変換して負荷120へ供給する。コンデンサ2bは、コンバータ2aの出力を平滑する平滑コンデンサである。
【0016】
コンバータ2aから見て、変圧器1の側を「交流側」と呼び、負荷120の側を「直流側」と呼ぶ。制御部3は、コンバータ2aをPWM制御するためのPWM信号を生成する。制御部3は、PWM信号によって、コンバータ2aの動作状態を制御する。具体的に、制御部3は、コンバータ2aの直流側の電圧を制御する。また、制御部3は、コンバータ2aの交流側に流出入する電流を制御する。以下、コンバータ2aの直流側の電圧を「コンバータ2aの直流電圧」、もしくは単に「直流電圧」と呼ぶ。また、コンバータ2aの交流側に流出入する電流を「コンバータ2aの交流電流」、もしくは単に「交流電流」と呼ぶ。また、コンバータ2aの交流側の電圧を「コンバータ2aの交流電圧」、もしくは単に「交流電圧」と呼ぶ。なお、PWM信号の生成手法については、多くの公知文献が存在しており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0017】
負荷120は、インバータ120aと、モータ120bとを備える。インバータ120aは、コンバータ2aから出力される直流電力を交流電力に変換する。モータ120bは、インバータ120aが変換した交流電力によって駆動される。モータ120bは、図示しない電気車に推進力を付与する。なお、1台のインバータ120aによって駆動されるモータ120bの個数は、複数であってもよい。
【0018】
また、
図1では、1台の電力変換装置10に接続される1台のインバータ120aを示しているが、1台の電力変換装置10が複数台のインバータ120aへ電力を供給する構成であってもよい。さらに、複数台の電力変換装置10が1台のインバータ120aへ電力を供給する構成であってもよい。なお、電力変換装置10が複数台の場合については、後述する。
【0019】
図2は、電力変換システム50の要部の構成例を示す模式図である。
図2には、
図1に示した変圧器1と、電力変換装置10とに加え、電流センサ4と、第1の電圧センサである電圧センサ5と、第2の電圧センサである電圧センサ6とが示されている。
【0020】
変圧器1は、
図2に示されるように、一次巻線1a、二次巻線1b、及び三次巻線1cを有する。一次巻線1aは、電力線108へと接続され、二次巻線1bは、コンバータ2aへと接続され、三次巻線1cは、電圧センサ6へと接続されている。なお、簡単のため、
図2では、電力変換装置10及び二次巻線1bの数は1として示しているが、電力変換装置10及び二次巻線1bの数は2以上でもよい。但し、電力変換装置10と二次巻線1bとは1対1の接続関係にあるものとする。
【0021】
電流センサ4は、コンバータ2aの交流電流isの電流値を取得する。電圧センサ5は、コンバータ2aの直流電圧Edの電圧値を取得する。電圧センサ6は、三次巻線1cに誘起される電圧v^sの電圧値を取得する。電流センサ4及び電圧センサ5,6の各取得値は、制御部3に入力される。ここで、「v^s」という表記中の「v^」は、「v」の上部にハット記号「^」が配置された文字の代替表記である。本明細書では、イメージで挿入する場合を除き、当該代替表記を使用する。なお、電圧センサ6の取得値は、変圧器1における二次巻線1bと三次巻線1cの巻数比を用いて二次電圧の相当値に換算されているものとする。ここで言う二次電圧は、二次巻線1bに誘起される電圧である。巻数比は、電圧比でもある。以下、「v^s」を「センサ取得電圧」と呼ぶ。
【0022】
次に、コンバータ2aの動作原理について、
図3及び
図4の図面を参照して説明する。
図3は、
図1及び
図2に示されるコンバータの動作原理の説明に供する第1のベクトル図である。
図4は、
図1及び
図2に示されるコンバータの動作原理の説明に供する第2のベクトル図である。なお、コンバータ2aの交流側から直流側へ正の電力が伝送される状態を「力行」と定義し、直流側から交流側へ正の電力が伝送される状態を「回生」と定義する。これらの定義に伴い、電流センサ4が取得するコンバータ2aの交流電流isは、コンバータ2aへ流入する向きを正とする。
【0023】
図3には、コンバータ2aが力率1で電力を消費しているときの、定常状態における電圧ベクトルと電流ベクトルとの関係が示されている。
図3において、「is」はコンバータ2aの交流電流、「xl」は変圧器1の漏れリアクタンス、「vc」はコンバータ2aの交流電圧である。また、「vs」は変圧器1が電力線108から受電する受電電圧を変圧器1における一次巻線1aと二次巻線1bの巻数比を用いて二次電圧の相当値に換算した値である。「vs」を「二次換算電源電圧」と呼ぶ。
【0024】
なお、変圧器1において、実際には、漏れリアクタンスxlに加え、抵抗成分が存在する。抵抗成分と漏れリアクタンスxlとを合わせたものは、「漏れインピーダンス」と呼ばれる。漏れインピーダンスにおいて、抵抗成分はリアクタンス成分と比して十分に小さい。このため、以降の説明では、簡単化のため、抵抗成分は無視する。
【0025】
力率1の力行及び定常状態では、
図3に示されるように、交流電流isと、二次換算電源電圧vsとは、同位相の関係となっている。変圧器1の漏れリアクタンスxlによる電圧降下は、「jxlis」と表すことができる。「j」は虚数単位であり、電圧降下jxlisは、交流電流is及び二次換算電源電圧vsよりも90度進んだ位相となる。ここで、二次換算電源電圧vsとコンバータ2aの交流電圧vcとの電圧差が漏れリアクタンスxlに印加されて交流電流isが生じるので、コンバータ2aの交流電圧vcと漏れリアクタンスxlにおける電圧降下jxlisをベクトル的に加算したものが、二次換算電源電圧vsと等しくなる。即ち、二次換算電源電圧vsと、交流電圧vcと、電圧降下jxlisとの間には、vs=vc+jxlisの関係がある。
【0026】
また、
図4には、コンバータ2aが力率1で電力を回生しているときの、定常状態における電圧ベクトルと電流ベクトルとの関係が示されている。
図4において、交流電流isと二次換算電源電圧vsとは、逆位相の関係となっている。ここで、変圧器1の漏れリアクタンスxlによる電圧降下jxlisは、交流電流isに対しては90度進んだ位相であるが、二次換算電源電圧vsに対しては90度遅れた位相である。vs=vc+jxlisの関係は
図3のベクトル図と同様に成り立っており、交流電圧vcと漏れリアクタンスによる電圧降下jxlisとをベクトル的に加算したものが、二次換算電源電圧vsと等しくなっている。
【0027】
即ち、
図3及び
図4のベクトル図は、交流電圧vcの振幅及び位相のうちの何れか一つ、もしくは両方を調整することで、交流電流isを任意の振幅及び位相に制御できることを示している。
【0028】
次に、
図1及び
図2に示される制御部3の基本的な構成及び動作について、
図5及び
図6の図面を参照して説明する。
図5は、
図1及び
図2に示される制御部3の基本構成例を示すブロック図である。
図6は、
図5に示される制御部が動作するときの電流指令値に関するベクトル図である。
【0029】
図5に示される制御部3は、位相演算部30と、電流指令値演算部32と、電圧指令値演算部34と、スイッチング指令生成部36とを備える。以下、各部の動作について説明する。
【0030】
位相演算部30は、センサ取得電圧v^sに基づいて電圧位相θを生成する。電圧位相θは、後述する瞬時電流指令値is*を生成する際の基準位相となる。以下、この電圧位相を「基準位相」と呼ぶ。基準位相θは、電圧指令値演算部34に入力される。なお、位相演算部30の構成については、公知である種々の方式が提案されており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0031】
電流指令値演算部32は、直流電圧指令値Ed*と、電圧センサ5から取得した直流電圧Edと、力率角指令値φとに基づき、有効電流指令値Ipと、無効電流指令値Iqとを演算する構成部である。具体的に、電流指令値演算部32は、
図5に示されるように、減算器321と、電圧制御部322と、正接値演算部336と、乗算器323とを備える。直流電圧指令値Ed*は、直流電圧Edを所望の値に制御するための指令値である。
【0032】
減算器321は、直流電圧指令値Ed*と、直流電圧Edとの偏差である直流電圧偏差を演算する。電圧制御部322は、減算器321の出力に基づいて有効電流指令値Ipを演算する。有効電流指令値Ipは、電圧指令値演算部34及び乗算器323に入力される。減算器321及び電圧制御部322は、有効電流指令値演算部を構成する。
【0033】
また、正接値演算部336は、力率角指令値φの正接値すなわちタンジェントを演算する。乗算器323は、有効電流指令値Ipと、正接値演算部336の出力とを乗算する。乗算器323の出力は、無効電流指令値Iqとして電圧指令値演算部34に入力される。正接値演算部336及び乗算器323は、無効電流指令値演算部を構成する。
【0034】
なお、電圧制御部322には、比例積分(Proportional Integral:PI)補償器が用いられることが多い。また、力率角指令値φが与えられたとき、所望の力率を達成する有効電流指令値Ipと無効電流指令値Iqとの関係は次式となる。
【0036】
従って、
図5の電流指令値演算部32では、有効電流指令値Ipに力率角指令値φの正接値であるtanφを乗じたものを、無効電流指令値Iqとしている。
図5の場合、力率角指令値φが正のときは、無効電流指令値Iqも正となり、Iqは進み無効電流を表す。力率角指令値φが負のときは、無効電流指令値Iqも負となり、Iqは遅れ無効電流を表す。このようにして無効電流指令値Iqを決定すると、交流電力の力率が所望の値に追従するように、後述する瞬時電流指令値is*が演算される。一方で、無効電力量を所望の値に追従させたい場合には、力率角指令値φを用いずに、別の手段によって直接無効電流指令値Iqを演算することも可能である。
【0037】
次に、電圧指令値演算部34について説明する。電圧指令値演算部34は、有効電流指令値Ipと、無効電流指令値Iqと、基準位相θに基づき、瞬時電流指令値is*を演算する構成部である。また、電圧指令値演算部34は、瞬時電流指令値is*と、電流センサ4から取得した交流電流isとに基づき、コンバータ2aが交流側に出力すべき電圧の指令値である交流電圧指令値vc*を演算する構成部である。具体的に、電圧指令値演算部34は、
図5に示されるように、正弦値演算部341と、余弦値演算部342と、乗算器343,344と、加算器345と、減算器346と、電流制御部347とを備える。
【0038】
正弦値演算部341は基準位相θの正弦値を演算し、余弦値演算部342は基準位相θの余弦値を演算する。乗算器343は、電流指令値演算部32の出力である有効電流指令値Ipと、正弦値演算部341の出力である基準位相θの正弦値とを乗算する。乗算器344は、電流指令値演算部32の出力である無効電流指令値Iqと、余弦値演算部342の出力である基準位相θの余弦値とを乗算する。加算器345は、乗算器343の出力であるIpsinθと、乗算器344の出力であるIqcosθとを加算する。加算器345の出力は、瞬時電流指令値is*である。瞬時電流指令値is*は、コンバータ2aの交流側に流すべき電流の指令値である。
【0039】
ここで、有効電流指令値Ip及び無効電流指令値Iqは共に直流量であるのに対し、瞬時電流指令値is*は交流量である。また、
図5の構成では、有効電流指令値Ipと基準位相θの正弦値であるsinθとの積をセンサ取得電圧v^sと同位相の交流量とし、無効電流指令値Iqと基準位相θの余弦値であるcosθとの積をセンサ取得電圧v^sに対して90度の位相差をもった交流量としている。即ち、
図5の構成では、基準位相θは、センサ取得電圧v^sの正弦値を基準としている。従って、センサ取得電圧v^sと瞬時電流指令値is*とは、
図6のベクトル図に示す関係となる。
【0040】
瞬時電流指令値is*は、減算器346に入力される。減算器346は、瞬時電流指令値is*と交流電流isとの偏差を演算する。交流電流isは、電流センサ4によって取得された、コンバータ2aの交流電流である。電流制御部347は、瞬時電流指令値is*と交流電流isとの偏差を増幅し、増幅した信号を交流電圧指令値vc*としてスイッチング指令生成部36に出力する。なお、電流制御部347には、比例(Proportional:P)補償器、又はPI補償器が用いられることが多い。
【0041】
スイッチング指令生成部36は、交流電圧指令値vc*に基づいてスイッチング指令sw*を生成する。スイッチング指令sw*は、コンバータ2aをPWM制御するためのPWM信号である。なお、スイッチング指令sw*の生成手法は公知の手法に拠るものとし、ここでの詳細な説明は省略する。
【0042】
なお、
図5に示される電圧指令値演算部34は、
図7に示される電圧指令値演算部35のように置き替えられる場合もある。
図7は、
図1及び
図2に示される制御部3の
図5とは異なる基本構成例を示すブロック図である。なお、
図7では、
図5と同一又は同等の構成部には、同一の符号を付して示している。
【0043】
図5の構成では、電流指令値が交流量に変換されるのに対し、
図7の構成では、実電流が直流量に変換されるという差異がある。具体的に、電圧指令値演算部35は、
図7に示されるように、回転座標変換部351と、減算器352,353と、電流制御部354,355と、静止座標変換部356とを備える。なお、
図7に示される電圧指令値演算部35は、
図5に示される電圧指令値演算部34と同様に、有効電流指令値Ipと、無効電流指令値Iqと、基準位相θと、電流センサ4から取得した交流電流isとに基づいて、コンバータ2aが交流側に出力すべき電圧である交流電圧指令値vc*を演算する構成である。
【0044】
回転座標変換部351は、基準位相θを用いて、交流電流isを回転座標上の値に変換して、センサ取得電圧v^sと同相成分である実有効電流Ip'と、センサ取得電圧v^sに対して90度の位相差をもつ成分である実無効電流Iq'とを演算する。
【0045】
減算器352は、電流指令値演算部32の出力である有効電流指令値Ipと、回転座標変換部351の出力である実有効電流Ip'との偏差を演算する。また、減算器353は、電流指令値演算部32の出力である無効電流指令値Iqと、回転座標変換部351の出力である実無効電流Iq'との偏差を演算する。
【0046】
電流制御部354は、有効電流指令値Ipと実有効電流Ip'との偏差を増幅し、増幅した信号をp軸電圧指令値vp*として静止座標変換部356に出力する。また、電流制御部355は、無効電流指令値Iqと実無効電流Iq'との偏差を増幅し、増幅した信号をq軸電圧指令値vq*として静止座標変換部356に出力する。
【0047】
静止座標変換部356は、基準位相θを用いて、p軸電圧指令値vp*及びq軸電圧指令値vq*を静止座標上の値に変換し、その変換値を交流電圧指令値vc*としてスイッチング指令生成部36に出力する。
【0048】
なお、交流電力が単相の場合、電圧及び電流の瞬時空間ベクトルが定義できないので、回転座標と静止座標との間の相互変換のためには、追加の演算処理が必要となる。具体的に、交流電流isを回転座標変換するときは、予め交流電流isの90度進相成分であるjisを演算しておき、交流電流isとjisとに対して回転座標変換を行う。ここでの変換行列をCとおくと、変換行列Cは次式で表される。
【0050】
なお、基準位相θの定義の仕方によって、上記(2)式は、異なる変換行列になる点に注意が必要である。
【0051】
また、上記(2)式の変換行列Cを用いると、上述した実有効電流Ip'及び実無効電流Iq'は、次式で表される。
【0053】
また、交流電圧指令値vc*は、上記(2)式の変換行列Cを用いて、次式で表される。
【0055】
次に、変圧器1による制御への影響について、
図8から
図10の図面を参照して説明する。
図8は、
図1及び
図2に示される変圧器を理想変圧器と結合インダクタンスとを用いて表した等価回路を示す図である。
図9は、
図5又は
図7の制御部において生じ得る瞬時電流指令値is*と二次換算電源電圧vsとの間の位相差の説明に供するベクトル図である。
図10は、
図9に示される位相差が生じるときのセンサ取得電圧v^s、二次換算電源電圧vs及び交流電流isの時間波形を示す図である。
【0056】
図8では、変圧器1を、理想変圧器70と、結合インダクタンス74とで表している。結合インダクタンス74は、変圧器1の、高圧巻線と低圧巻線との間の漏れインダクタンス、及び低圧巻線同士の磁気結合を表している。漏れインダクタンスは、漏れリアクタンスとも称される。
【0057】
図8において、「v1」は一次電圧、「v2」は二次電圧、「v3」は三次電圧、「i1」は一次電流、「i2」は二次電流、「i3」は三次電流を表している。即ち、一次電圧v1は一次巻線に印加される電圧、一次電流i1は一次巻線に流れる電流である。また、二次電圧v2は二次巻線に誘起される電圧、二次電流i2は二次巻線に流れる電流であり、三次電圧v3は三次巻線に誘起される電圧、三次電流i3は三次巻線に流れる電流である。なお、説明の便宜上、一次巻線を「高圧巻線」と称し、二次巻線と三次巻線とをまとめて「低圧巻線」と称する場合がある。また、「n2」は一次巻線に対する二次巻線の巻数比、「n3」は一次巻線に対する三次巻線の巻数比を表している。なお、図示のように一次巻線の巻数を「1」で表せば、巻数比n2及び巻数比n3は、0以上1未満の実数値である。
【0058】
ここで、
図8の等価回路においては、次式及び次々式の回路方程式が成立する。
【0060】
上記(6)式における右辺の係数行列を「リアクタンス行列」と呼ぶ。リアクタンス行列は、結合インダクタンス74をインピーダンスで表現したパラメタである。リアクタンス行列の対角項は、低圧巻線の自己インダクタンスに由来する項であり、非対角項は、低圧巻線同士の相互インダクタンスに由来する項である。また、リアクタンス行列は、対称行列である。上記(6)式の第2行を展開すると、次式が得られる。
【0062】
上記(7)式によれば、三次電圧v3は低圧巻線の電流によって変化することが分かる。
【0063】
また、上記(7)式を変形すると次式が得られる。
【0065】
ここで、
図2の構成において、三次巻線1cの負荷は、電圧センサ6のみであり、電圧センサ6に流れる電流は小さいので、三次電流i3=0とする。なお、電気車の場合、三次巻線1cに補助電源装置などの別の負荷が接続される場合もあるが、二次巻線のコンバータに比べると電力容量が小さいことが殆どである。このため、三次電流i3を無視して、三次電流i3=0とすることは、無理のない妥当な仮定である。
【0066】
また、上記(8)式の左辺は、一次電圧v1を二次換算した値であり、この値を上記で定義した二次換算電源電圧vsとする。更に、右辺第1項は、電圧センサ6の取得値を二次換算した値であり、センサ取得電圧v^sに等しい。そして、変圧器1の二次電流i2はコンバータ2aの交流電流isに等しく、交流電流isは瞬時電流指令値is*に制御されるので、i2=is*とおく。更に、右辺第2項の比例係数をxm=(n2/n3)x32とすると、次式が得られる。
【0068】
制御目標が力率1で、無効電流指令値Iqがゼロであると仮定すると、上記(9)式の関係は、
図9のベクトル図で表せる。
図9において、瞬時電流指令値is*は、センサ取得電圧v^sと同位相となっている。また、センサ取得電圧v^sと二次換算電源電圧vsとの間には、相差角δが存在する。従って、瞬時電流指令値is*と二次換算電源電圧vsとの間にも相差角δに相当する位相差が生じる。
【0069】
このとき、センサ取得電圧v^s、二次換算電源電圧vs及び交流電流isの時間波形は、
図10のようになる。
図10では、センサ取得電圧v^s及び交流電流isを実線で示し、二次換算電源電圧vsを破線で示している。
図10に示されるように、センサ取得電圧v^sと二次換算電源電圧vsとの間には、相差角δに相当する位相差が生じている。また、交流電流isは、瞬時電流指令値is*に追従するよう制御される結果、センサ取得電圧v^sと同位相となっている。従って、二次換算電源電圧vsと交流電流isとの間にも、相差角δに相当する位相差が生じている。このことは、制御目標が力率1であっても、変圧器1の一次側でみた力率は1となっていないことを意味している。
【0070】
前述の通り、
図5又は
図7に示される基本構成では、センサ取得電圧v^sが二次換算電源電圧vsと異なる位相となり得る。その結果、変圧器1の一次側でみた交流電力の力率又は無効電力量が、制御部3で指示した通りにならないという課題が生じ得る。そこで、以下では、瞬時電流指令値is*を補正することで本課題を解決する実施の形態1の制御手法について説明する。
【0071】
図11は、実施の形態1における制御手法の説明に供する第1のベクトル図である。まず、
図11に示されるように、センサ取得電圧v^sと同位相の軸をp軸、p軸に対して90度進んだ位相にある軸をq軸と定義する。次に、瞬時電流指令値is*が二次換算電源電圧vsと同位相にあると仮定し、当該瞬時電流指令値is*を、p軸成分ipとq軸成分iq1'とに分解する。ここで、p軸成分ipの振幅は、
図5又は
図7に示される制御部3の構成において、電流指令値演算部32から出力される有効電流指令値Ipに相当する。また、q軸成分iq1'の振幅については、新たに第1の無効電流指令補正値Iq1'と定義する。
図11のベクトル図を幾何的に解くと、有効電流指令値Ipと第1の無効電流指令補正値Iq1'との関係は次式で表される。
【0073】
ここで、k=xm/|vs|とおくと、上記(10)式は次式で表される。
【0075】
このとき、センサ取得電圧v^s、二次換算電源電圧vs及び交流電流isの時間波形は
図12のようになる。
図12は、実施の形態1における制御手法を用いたときのセンサ取得電圧v^s、二次換算電源電圧vs及び交流電流isの時間波形を示す図である。
【0076】
図12によれば、センサ取得電圧v^sと二次換算電源電圧vsとの間には、相差角δに相当する位相差が生じている。しかしながら、
図11に示されるように、瞬時電流指令値is*が二次換算電源電圧vsと同位相であるため、
図12においては、交流電流isは二次換算電源電圧vsと同位相に制御されている。
図10の波形と比較すると、二次換算電源電圧vsと交流電流isとの間にあった位相差が解消されている。従って、変圧器1の一次側で見た力率は1となっていることを意味している。
【0077】
図13は、実施の形態1における制御手法の説明に供する第2のベクトル図である。
図13は、力率1の回生運転である場合について、
図11と同様のベクトル図を描いたものである。力率1の回生運転の場合、瞬時電流指令値is*が二次換算電源電圧vsと逆位相になり、第1の無効電流指令補正値Iq1'が有効電流指令値Ipに対して90度の遅れ位相となる。一方、有効電流指令値Ipと第1の無効電流指令補正値Iq1'との関係は、
図11の場合と同じであり、上記(11)式の関係を満足する。
【0078】
なお、上記(11)式を満足するIq1'の符号は、k>0のときIpの符号によらず正である。言い換えると、xm>0のときは、力行又は回生によらず、第1の無効電流指令補正値Iq1'の値は正である。逆に、xm<0のときは、力行又は回生によらず、第1の無効電流指令補正値Iq1'の値は負である。
【0079】
ところで、(11)式は平方根の計算や除算を含むため、演算負荷が軽いとは言えない。そこで、(11)式の簡単化を試みる。ベース容量をSb、ベース電圧を|vs|、ベースインピーダンスをZb、単位法で表したxm及びIpを、それぞれ%x、%iとおくと、Ip=(Sb/|vs|)×%i、xm=Zb×%x=(|vs|
2/Sb)×%xの関係が成り立つ。これらの関係を、上記(11)式の分母に代入すると、次式が得られる。
【0081】
上記(6)式の右辺において、リアクタンス行列の対角項は、ベース容量に対して数%〜数十%である。更に、リアクタンス行列の非対角項は、対角項よりさらに小さいのが一般的である。従って、上記(12)式においては、(%x)
2≪1とみなせるので、Iq1'≒kIp
2と近似することができる。よって、次式の通り、近似後の第1の無効電流指令補正値Iq1'を、新たに第1の無効電流指令値Iq1と定義する。
【0083】
以上より、電圧指令値演算部34は、第1の無効電流指令値Iq1に基づき交流電圧指令値vc*を演算すればよいこととなる。これにより、極めて単純な演算で、変圧器1の一次側でみた交流電力の力率を1に制御するという目的が達成される。この機能を達成する電流指令値演算部の構成は、例えば
図14のようになる。
図14は、実施の形態1における電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。なお、
図14において、
図5又は
図7と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
【0084】
図14に示される電流指令値演算部32Aは、
図5又は
図7に示される電流指令値演算部32において、正接値演算部336及び乗算器323に代えて、第1の無効電流指令値演算部324を備える。
図14において、減算器321及び電圧制御部322は、有効電流指令値演算部320を構成する。第1の無効電流指令値演算部324には、有効電流指令値演算部320によって演算される有効電流指令値Ipと、第1の係数である係数kとが入力される。ここで、係数kは、前述の通り、k=xm/|vs|で表される。また、比例係数xmは、変圧器1の結合インダクタンス74に由来する係数である。そして、二次換算電源電圧|vs|は、変圧器1の受電電圧によって決まる値である。従って、係数kは、変圧器1の結合インダクタンス74と、変圧器1の受電電圧とによって定めることができる。
【0085】
第1の無効電流指令値演算部324は、係数kを比例係数とし、有効電流指令値Ipの二乗に比例する第1の無効電流指令値Iq1を演算する。電流指令値演算部32Aによって演算された有効電流指令値Ip及び第1の無効電流指令値Iq1は、
図5又は
図7に示される電圧指令値演算部34又は35に入力される。以後、有効電流指令値Ip及び第1の無効電流指令値Iq1に基づいて交流電圧指令値vc*が演算され、また、交流電圧指令値vc*に基づいてスイッチング指令sw*が生成され、コンバータ2aの動作状態が制御される。
【0086】
以上説明したように、実施の形態1によれば、制御部に具備される電流指令値演算部は、変圧器の結合インダクタンスと変圧器の受電電圧とによって決定される係数kを比例係数として、有効電流指令値の二乗に比例した第1の無効電流指令値を演算し、有効電流指令値と共に電圧指令値演算部に出力する。そして、電圧指令値演算部は、第2の電圧センサの取得値から演算された基準位相と、有効電流指令値と、第1の無効電流指令値とに基づいて交流電圧指令値を演算する。これにより、変圧器の三次巻線に第2の電圧センサを設置して架線電圧を取得する場合においても、変圧器の一次側における力率を指令値どおりに制御することができる。
【0087】
次に、実施の形態1の制御部3における演算機能を実現するためのハードウェア構成について、
図15及び
図16の図面を参照して説明する。
図15は、実施の形態1の制御部における演算機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図16は、実施の形態1の制御部における演算機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図である。
【0088】
実施の形態1の制御部3における演算機能の一部又は全部をソフトウェアで実現する場合には、
図15に示されるように、演算を行うプロセッサ300、プロセッサ300によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ302、及び信号の入出力を行うインタフェース304を含む構成とすることができる。
【0089】
プロセッサ300は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、メモリ302には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)を例示することができる。
【0090】
メモリ302には、制御部3における演算機能の全部又は一部を実行するプログラムが格納されている。プロセッサ300は、インタフェース304を介して必要な情報を授受し、メモリ302に格納されたプログラムをプロセッサ300が実行することにより、コンバータ2aに対するPWM制御を行うことができる。
【0091】
また、
図15に示すプロセッサ300及びメモリ302は、
図16のように処理回路303に置き換えてもよい。処理回路303は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0092】
以上、実施の形態1の制御部3における演算機能を実現するためのハードウェア構成について説明した。ここで、上述したプロセッサ300及びメモリ302、又は処理回路303の演算能力に余裕がある場合、
図14に示される電流指令値演算部32Aの構成を、
図17のように変更してもよい。
図17は、実施の形態1における電流指令値演算部の
図14とは異なる構成例を示すブロック図である。なお、
図17において、
図14と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
【0093】
図17に示される電流指令値演算部32Bは、
図14の構成において、第1の補正演算部325を更に備える。第1の補正演算部325には、有効電流指令値演算部320によって演算される有効電流指令値Ipと、係数kと、第1の無効電流指令値演算部324によって演算される第1の無効電流指令値Iq1とが入力される。
【0094】
ここで、上記(11)式は、新たに定義した上記(13)式で表される第1の無効電流指令値Iq1を用いると、次式のように表することができる。
【0096】
図17における第1の補正演算部325は、上記(14)式に示される演算を実行する演算部である。具体的に、第1の補正演算部325は、第1の無効電流指令値演算部324から出力される第1の無効電流指令値Iq1と、比例係数である係数kとに基づいて、第1の無効電流指令値Iq1の補正値である第1の無効電流指令補正値Iq1'を演算する。そして、電流指令値演算部32Bは、第1の無効電流指令補正値Iq1'を第1の無効電流指令値として電圧指令値演算部34に出力する。
【0097】
電流指令値演算部32Bによって演算された有効電流指令値Ip及び第1の無効電流指令補正値Iq1'は、
図5又は
図7に示される電圧指令値演算部34又は35に入力される。以後、有効電流指令値Ip及び第1の無効電流指令補正値Iq1'に基づいて交流電圧指令値vc*が演算され、また、交流電圧指令値vc*に基づいてスイッチング指令sw*が生成され、コンバータ2aの動作状態が制御される。
【0098】
電流指令値演算部32Bによれば、電流指令値演算部32Aを用いた場合に比して、力率を指令値通りに制御する際の精度をより高めることができる。
【0099】
実施の形態2.
実施の形態1では、制御目標が力率1であるときに、電流指令値演算部が出力すべき無効電流の大きさを明らかにした。一方、軽負荷時のコンバータの動作を安定化する目的の場合、又は交流電源と協調し電源電圧を安定化する目的などの場合、力率を1以外の値に制御したり、無効電力をあえて発生させたりするケースがある。そういった場合にも、力率又は無効電力量を制御部で意図したとおりに制御するために、電流指令値演算部がどのように無効電流を演算すればよいかについて説明する。
【0100】
図18は、実施の形態2における制御手法の説明に供する第1のベクトル図である。まず、
図18に示されるように、センサ取得電圧v^sと同位相の軸をp軸、p軸に対して90度進んだ位相にある軸をq軸と定義する。次に、瞬時電流指令値is*が二次換算電源電圧vsに対して力率角指令値φだけ進んだ位相にあると仮定し、当該瞬時電流指令値is*をp軸成分ipとq軸成分iq3とに分解する。p軸成分ipの振幅は、制御部3の有効電流指令値Ipに相当する。また、q軸成分iq3の振幅をIq3とおく。また、二次換算電源電圧vsとセンサ取得電圧v^sとのなす角度である相差角をδとする。このとき、q軸成分iq3の振幅は、次式で表される。
【0102】
なお、上記(15)式では、実施の形態1と同様に、k=xm/|vs|とおいている。また、実施の形態1では、上記(11)式から(13)式を導出する際に、単位法で表した「xm」を「%x」と定義し、(%x)
2≪1の近似を用いた。この近似は、δ≒0と近似するのと本質的に同じ意味をもつ。従って、瞬時電流指令値is*と有効電流指令値Ipとの関係は、次式で表される。
【0104】
そして、上記(15)式に上記(16)式を代入すると、次式が得られる。
【0106】
ここで、所望の無効電流を第2の無効電流指令値Iq2と定義する。また、交流電流isは瞬時電流指令値is*と一致するように制御される。このため、瞬時電流指令値is*のうち、二次換算電源電圧vsと直交する成分が、第2の無効電流指令値Iq2と一致すればよいことになる。
【0107】
また、瞬時電流指令値is*のうち、二次換算電源電圧vsと同相の成分は実際の有効電流の大きさに相当するが、δ≒0と近似するとき、当該同相成分は、有効電流指令値Ipと等しいとみなせる。このとき、tanφ=Iq2/Ip、1/cos
2φ=1+(Iq2/Ip)
2とおける。従って、上記(17)式は、次式のように変形できる。
【0109】
上記(18)式の右辺第2項は、実施の形態1で説明した第1の無効電流指令値Iq1に等しい。更に、上記(18)式の右辺第3項を第2の無効電流指令補正値Iq2'と定義すると、上記(18)式は、次式で表すことができる。
【0111】
従って、上記(19)式で演算される無効電流指令値Iq3に基づき、電圧指令演算部が交流電圧指令を演算すれば、相差角δが存在する条件下であっても、所望の無効電流を達成することができる。この機能を達成する電流指令値演算部の構成は、例えば
図19のようになる。
図19は、実施の形態2における電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。なお、
図19において、
図14と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
【0112】
図19に示される電流指令値演算部32Cは、
図14の構成において、第2の無効電流指令値演算部326と、第2の補正演算部327とを更に備える。
図19において、第2の無効電流指令値演算部326は、軽負荷時のコンバータの動作を安定化し、或いは交流電源と協調し電源電圧を安定化するといった目的で第2の無効電流指令値Iq2を演算する。第2の補正演算部327は、第2の無効電流指令値Iq2と、比例係数である係数kとに基づいて、第2の無効電流指令値Iq2の二乗に比例する第2の無効電流指令補正値Iq2’を演算する。そして、第2の無効電流指令値Iq2と、第2の無効電流指令補正値Iq2’とは加算器328で加算される。更に加算器329で第1の無効電流指令値Iq1と加算され、加算後の出力が無効電流指令値Iq3として電圧指令値演算部34に出力される。
【0113】
なお、
図19では、第2の無効電流指令値Iq2と、第2の無効電流指令補正値Iq2’との加算値を、更に加算器329で第1の無効電流指令値Iq1と加算して電圧指令値演算部34に出力している。この構成に代え、それぞれの出力を個別に電圧指令値演算部34に出力してもよい。この場合、第2の無効電流指令値Iq2と、第2の無効電流指令補正値Iq2’との加算値と、第1の無効電流指令値Iq1とが電圧指令値演算部34の内部で加算されて無効電流指令値となることは言うまでもない。
【0114】
図20は、実施の形態2における電流指令値演算部の
図19とは異なる構成例を示すブロック図である。
図20において、
図17と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
図20に示される電流指令値演算部32Dは、実施の形態1と同様に、制御部3の演算能力に余裕がある場合の構成例である。
図20の構成は、上記(19)式における第1の無効電流指令値Iq1の代わりに、上記(14)式で示される第1の無効電流指令補正値Iq1'を用いる構成である。
図20の構成とすることにより、無効電流を所望の値に制御する際の精度をより高めることができる。
【0115】
なお、力率、有効電流及び無効電流の3変数の自由度は2であり、何れかの2変数を決めると、残りの1変数は自動的に決まる。有効電流は、直流電圧を一定に制御するための操作量であるから、残りの自由度は、無効電流か力率かの何れか一方である。従って、第2の無効電流指令値演算部が、図示しない力率又は力率角の指令値と、有効電流指令値Ipとに基づいて、第2の無効電流指令値Iq2を演算する構成であってもよい。
【0116】
以上説明したように、実施の形態2によれば、制御部に具備される電流指令値演算部は、第2の無効電流指令値を演算すると共に、前述した係数kを比例係数として、第2の無効電流指令値の二乗に比例した第2の無効電流指令補正値を演算する。また、電流指令値演算部は、実施の形態1で説明した第1の無効電流指令値と共に、第2の無効電流指令値と、第2の無効電流指令補正値とを電圧指令値演算部に出力する。そして、電圧指令値演算部は、第2の電圧センサの取得値から演算された基準位相と、有効電流指令値と、第1の無効電流指令値と、第2の無効電流指令値と、第2の無効電流指令補正値とに基づいて交流電圧指令値を演算する。これにより、実施の形態1の効果を具備すると共に、相差角が存在する条件下であっても、所望の無効電流を達成することができ、また、力率又は無効電力量を制御部で意図したとおりに制御することができる。
【0117】
実施の形態3.
実施の形態3では、電力変換装置の個数が複数台の場合について説明する。なお、前述したように、電力変換装置と変圧器の二次巻線とは1対1の接続関係にあるので、例えば電力変換装置の個数が2台の場合には、変圧器の二次巻線も2つ備えられている。
【0118】
図21は、実施の形態3における電力変換システムの要部の構成例を示すブロック図である。
図21では、電力変換装置の個数が複数台の一例として、2台の電力変換装置10a,10bが、開閉器12を介して変圧器1Aの二次巻線1bに接続される構成が示されている。なお、開閉器12の役割については後述する。
【0119】
電気車では、
図1に示されるように、コンバータ2aの直流側には、インバータ120aを含む負荷120が接続されている。インバータ120aは、電気車に駆動力を付与するためにモータ120bを駆動する。そして、電気車全体として必要な駆動力を複数のインバータ120aで分担するとき、或いはインバータ120aの一台あたりの電力容量が大きいときなどには、
図21のように複数台の電力変換装置10a,10bが変圧器1Aの二次巻線1bに接続される構成となる。機器の電力容量が同一であれば同じ装置が流用できるので、多くの場合、各電力変換装置の定格電力は等しい。また、
図21のように複数台の電力変換装置10a,10bに対して、1つの変圧器1Aを経由して電力を供給する構成とすると、電力変換装置と変圧器とを1対1で搭載するよりも、変圧器全体のボリュームを小さくすることができる。
【0120】
図22は、
図21に示される変圧器を理想変圧器と結合インダクタンスとを用いて表した等価回路を示す図である。
図22では、
図21に示される変圧器1Aを、理想変圧器72と、結合インダクタンス76とで表している。
【0121】
図22において、「v1」は一次電圧、「v2a」は1群二次電圧、「v2b」は2群二次電圧、「v3」は三次電圧、「i1」は一次電流、「i2a」は1群二次電流、「i2b」は2群二次電流、「i3」は三次電流を表している。なお、その他の記号の意味は、
図8のものと同じである。
【0122】
ここで、
図22の等価回路においては、次式及び次々式の回路方程式が成立する。
【0124】
図8の等価回路による回路方程式と比較すると、二次巻線の数が増えている分、リアクタンス行列の次数は1増えて3となっている。上記(21)式の第3行を展開すると、次式が得られる。
【0126】
前述の通り、
図5又は
図7に示される基本構成では、基準位相θを基準として有効電流及び無効電流がそれぞれ制御される。ところが、上記(22)式の右辺第2項に示される通り、電圧センサ6が取得する三次電圧v3は、一次電圧v1に対して異なる位相となり得る。その結果、変圧器1Aの一次側でみた交流電力の力率又は無効電力量が、制御部3で指示した通りにならないという課題が生じ得る。そこで、以下では、瞬時電流指令値is*を補正することで本課題を解決する実施の形態3の手法について説明する。
【0127】
まず、上記(22)式を、次式のように変形する。
【0129】
ここで、
図21の構成において、三次巻線1cの負荷は電圧センサ6のみであるから、三次電流i3=0とする。なお、電気車の場合、三次巻線1cに補助電源装置などの別の負荷が接続される場合もあるが、二次巻線のコンバータに比べると電力容量が小さいことが殆どである。このため、三次電流i3を無視して、三次電流i3=0とすることは、無理のない妥当な仮定である。
【0130】
また、上記(23)式の左辺は、一次電圧v1を二次換算した値であり、二次換算電源電圧vsに等しい。更に、右辺第1項は、電圧センサ6の取得値を二次換算した値であり、センサ取得電圧v^sに等しい。そして、前述の通り各コンバータは同じ定格電力であることが一般的であるため、変圧器1Aにおける1群二次電流i2aと2群二次電流i2bとは等しいと仮定する。また、変圧器1Aの各二次電流は、各コンバータの交流電流isに等しく、交流電流isは瞬時電流指令値is*に制御されるので、i2a=i2b=is*とおく。更に、右辺第2項の比例係数をxm’=(n2/n3)(x3a+x3b)とすると、次式が得られる。
【0132】
上記(24)式と、上記(9)式とを比較すると、上記(24)式は右辺第2項の比例係数が「xm」から「xm’」に変わっただけである。従って、k=xm’/|vs|とおくと、電流指令値演算部が出力すべき無効電流指令値Iqは、下記の何れかとなる。
【0134】
次に、
図21に示される開閉器12の役割について説明する。
図21に示されように構成された電気車の電力変換システムは、特定の条件下では、開閉器12を開放して、1つ以上の電力変換装置10を停止する場合がある。ここで、特定の条件とは、例えば電力変換装置の動作に不具合が生じたときが挙げられる。また、電力効率の点で有利となるので、必要とされる推進力が小さいときに、小数の電力変換装置だけを動作させる場合もある。
【0135】
例として、
図21及び
図22の構成において、第2群の電力変換装置10bが停止し、開閉器12によって切り離された場合を考える。このとき、i2b=0であるから、上記(23)式は、次式で表される。
【0137】
また、実施の形態1のときと同様に、i3=0,i2a=is*,xm”=(n2/n3)x3a、k”=xm”/|vs|とおく。このとき、電流指令値演算部が出力すべき無効電流指令値Iqは、下記の何れかとなる。
【0139】
上記(28)式、及び(29)式は、上記(13)式、及び(14)式と比較して、係数kがk”に変化しただけである。即ち、電力変換装置の稼動又は停止の状態が変化したとき、電流指令値演算部は、実施の形態1と同様に(13)式、又は(14)式に従って無効電流を演算し、係数kだけを変更すればよいことが分かる。
【0140】
一例として、リアクタンス行列が上記(21)式のように定義されるとき、第1群の電力変換装置10a、及び第2群の電力変換装置10bの稼動又は停止の状態に応じた係数kは、次表のように表すことができる。
【0142】
また、上記のような機能を達成する電流指令値演算部の構成は、例えば
図23のようになる。
図23は、実施の形態3における電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。なお、
図23において、
図14と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
【0143】
図23に示される電流指令値演算部32Eは、
図14の構成において、係数演算部330を更に備える。また、係数演算部330は、第1定数選択器3301と、除算器3302とを備える。
【0144】
図23において、第1定数選択器3301には電力変換装置の稼動状態情報が入力される。そして、第1定数選択器3301では、電力変換装置の稼動状態に応じて、予め保持しておいたリストの中から、第1定数xmが選択される。そして、除算器3302では、第1定数xmが二次換算電源電圧vsの振幅の定格値で除算される。除算器3302の出力は、係数kとして第1の無効電流指令値演算部324に出力される。除算器3302を省略する代わりに、第1定数xmを予め二次換算電源電圧vsの振幅の定格値で除算したものを、リストに保持する構成としてもよい。以後の動作は、前述したとおりである。
【0145】
なお、係数演算部330は、第1の無効電流指令値演算部324の構成要素であってもよい。また、係数演算部330は、図示しない上位の制御系に含まれる構成でもよく、電力変換装置の稼動状態に応じて決定された係数kが、電流指令値演算部へと入力される構成としてもよい。
【0146】
また、上記では、電力変換装置の稼動又は停止の状態に応じて、第1の無効電流指令値演算部324で用いる係数kを切り替える手法を、実施の形態1に適用した例で説明したが、同様の手法が実施の形態2にも適用できることは言うまでもない。
【0147】
以上説明したように、実施の形態3によれば、制御部は、複数の電力変換装置の稼動又は停止の状態に応じて第1の係数を変更する。これにより、第2の電圧センサが取得する三次電圧が一次電圧に対して異なる位相となった場合でも、変圧器の一次側でみた交流電力の力率又は無効電力量を制御部で指示した通りに制御することができる。
【0148】
実施の形態4.
実施の形態1から3の電流指令値演算部において、係数kはリアクタンス行列の非対角項と、二次換算電源電圧vsの振幅とに基づいて決定していた。これらの要素のうち、リアクタンス行列の非対角項に由来する部分については、電力変換装置の稼動状態に応じて可変とするのが望ましいことは、実施の形態3で説明した。一方、二次換算電源電圧vsの振幅についても、負荷の状態又は時刻によって変動することが考えられる。
図11、
図13及び
図18のベクトル図において、リアクタンスxmにおける電圧降下は、二次換算電源電圧vsと、センサ取得電圧v^sに比べて小さい。このため、センサ取得電圧v^sの振幅を、二次換算電源電圧vsの振幅として扱って差し支えない。従って、センサ取得電圧v^sの振幅を演算し、その値に応じて電流指令値演算部で用いる係数kを調整することで、より正確に、変圧器1Aの一次側でみた力率を制御部3で指示したとおりに制御することができる。
【0149】
上記のような機能を達成する電流指令値演算部の構成は、例えば
図24のようになる。
図24は、実施の形態4における電流指令値演算部の構成例を示すブロック図である。なお、
図24において、
図23と同一又は同等の構成部には、同一の符号及び記号で示している。
【0150】
図24に示される電流指令値演算部32Fは、
図23の構成において、係数演算部330A内に振幅演算部3303を更に備える。振幅演算部3303は、センサ取得電圧v^sの振幅を演算する。交流信号から振幅を演算する手法については、公知の手法を用いるものとし、ここでの説明は省略する。そして、第1定数xmを、振幅演算部3303の出力で除したものを係数kとし、第1の無効電流指令値演算部324に出力する。即ち、実施の形態4では、振幅演算部3303の出力に逆比例するように係数kの値が変更されることになる。
【0151】
なお、
図23と同様に、係数演算部330Aは、第1の無効電流指令値演算部324の構成要素であってもよいし、図示しない上位の制御系に含まれるものであってもよい。また、上記では、センサ取得電圧v^sの振幅に応じて電流指令値演算部で用いる係数kの値を変更する手法を、実施の形態3に適用した例で説明したが、同様の手法が実施の形態1及び実施の形態2にも適用できることは言うまでもない。
【0152】
以上説明したように、実施の形態4によれば、第1の電圧センサの出力の振幅に比例する信号を演算し、その演算出力に逆比例するように第1の係数の値を変更する。これにより、実施の形態3の効果を具備すると共に、二次換算電源電圧の振幅が負荷の状態又は時刻によって変動する場合であっても、より正確に、変圧器の一次側でみた力率を制御部で指示したとおりに制御することができる。
【0153】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。