特許第6980134号(P6980134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980134電力変換装置、電力変換制御装置、及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6980134
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換制御装置、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20211202BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20211202BHJP
【FI】
   H02M7/12 A
   H02M7/48 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-564773(P2020-564773)
(86)(22)【出願日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】JP2020020172
【審査請求日】2020年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 賢太朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅史
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2019/12725(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/046909(WO,A1)
【文献】 特開2010−259280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源側から供給される電力を直流電力に変換するコンバータと、
前記コンバータの出力側に設けられているインバータと、
前記コンバータの出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、前記直流区間の制御目標電圧に対する目標量と前記帰還量との制御偏差を算出し、
前記制御偏差の絶対値が所定の大きさに満たない範囲についての前記制御偏差に対する線形変換と、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさを超える範囲についての前記制御偏差に対する非線形変換とが含まれた、前記制御偏差に対する非線形演算処理を行い、
前記非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、前記操作量を用いて前記コンバータを制御する制御部と、
を備える電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記制御偏差に対する前記非線形演算処理によって、前記制御偏差の絶対値を所定の下限値に制限して、前記制御偏差の絶対値の大きさによって前記下限値に制限された前記制御偏差の下限制限付き絶対値と前記制御偏差との積を、前記非線形演算処理の結果にする、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記制御偏差に対する前記非線形演算処理として、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさに満たない範囲について前記制御偏差に対する線形変換によって第1結果を生成して、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさを超える範囲について前記制御偏差に対する非線形変換によって第2結果を生成して、前記第1結果と前記第2結果とを組み合わせて前記非線形演算処理の結果にする、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記制御偏差に対する前記非線形演算処理として、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさに満たない範囲について前記制御偏差の1次近似に基づいた第1結果を生成して、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさを超える範囲について前記制御偏差に対する高次関数に基づいた第2結果を生成して、前記第1結果と前記第2結果とを組み合わせて前記非線形演算処理の結果にする、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
電源側から供給される電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータの出力側に設けられているインバータと、を備える電力変換装置の電力変換制御装置であって、
前記コンバータの出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、前記直流区間の制御目標電圧に対する目標量と前記帰還量との制御偏差を算出し、
前記制御偏差の絶対値が所定の大きさに満たない範囲についての前記制御偏差に対する線形変換と、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさを超える範囲についての前記制御偏差に対する非線形変換とが含まれた、前記制御偏差に対する非線形演算処理を行い、
前記非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、前記操作量を用いて前記コンバータを制御する制御部、
を備える電力変換制御装置。
【請求項7】
電源側から供給される電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータの出力側に設けられているインバータと、を備える電力変換装置の制御方法であって、
前記コンバータの出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、前記直流区間の制御目標電圧に対する目標量と前記帰還量との制御偏差を算出し、
前記制御偏差の絶対値が所定の大きさに満たない範囲についての前記制御偏差に対する線形変換と、前記制御偏差の絶対値が所定の大きさを超える範囲についての前記制御偏差に対する非線形変換とが含まれた、前記制御偏差に対する非線形演算処理を行い、
前記非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、前記操作量を用いて前記コンバータを制御するステップ、
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、電力変換制御装置、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、その主回路にコンバータとインバータとを備えるものがある。このような電力変換装置は、コンバータとインバータとの間に設けられた直流区間を介して中継される電力を変換する。この直流区間の電圧は、コンバータを制御することによって調整される。電力変換装置の運転中に、インバータの負荷が比較的大きく変動すると、これに影響されてこの直流区間の電圧が比較的大きく変動する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−9602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インバータの負荷の変動に起因して生じるコンバータの出力側の直流電圧変動を軽減させる電力変換装置、電力変換制御装置、及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電力変換装置は、コンバータと、インバータと、制御部とを備える。前記コンバータは、電源側から供給される電力を直流電力に変換する。前記インバータは、前記コンバータの出力側に設けられている。前記制御部は、前記コンバータの出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、前記直流区間の制御目標電圧に対する目標量と前記帰還量との制御偏差を算出し、前記制御偏差に対する非線形演算処理を行い、前記非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、前記操作量を用いて前記コンバータを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の電力変換装置の構成図。
図2】第1の実施形態の電圧制御の解析結果を説明するための図。
図3】第1の実施形態の電圧制御の解析結果を説明するための図。
図4】第1の実施形態の電圧制御の解析結果を説明するための図。
図5】第2の実施形態の電力変換装置の構成図。
図6】第2の実施形態の非線形演算処理を説明するための図。
図7】第2の実施形態の非線形演算処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電力変換装置、電力変換制御装置、及び制御方法を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「直交する」とは、略直交する場合を含む。なお、「大きさが等しい」場合には、略等しい場合も含む。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の電力変換装置1の構成図である。
電力変換装置1は、例えば、負荷2(図中の記載はLOAD)に電力を供給する主回路3と、電圧センサ9Vと、電流センサ9iと、制御部10とを備える。主回路3の入力側には、電源5から3相交流電力が共有される。
【0009】
例えば、主回路3は、コンバータ6(図中の記載はCNV)と、コンデンサ7と、インバータ8(図中の記載はINV)と、を備える。
【0010】
コンバータ6は、電源5側から供給される電力を直流電力に変換する。コンバータ6の出力側には直流区間が設けられている。コンバータ6の出力には、直流区間を介して平滑用のコンデンサ7と、インバータ8の入力とがそれぞれ並列に接続されている。コンデンサ7は、コンバータ6とインバータ8とは独立に設けられていてもよく、コンバータ6又はインバータ8の一部であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。インバータ8は、直流区間を介してコンバータ6から電力の供給を受ける。上記のように主回路3とは、直流区間を介して供給される電力を変換する。電圧センサ9Vは、直流区間の電圧を検出する。電流センサ9iは、コンバータ6の入力に流れる電流を検出する。
【0011】
例えば、コンバータ6は、リアクトル6Lと、IGBT6Sと、を含む。リアクトル6Lは、3相交流の各相に対応付けて設けられている。リアクトル6Lの一端は、コンバータ6の入力端子に接続され、コンバータ6の入力端子(不図示)を介して電源5に接続される。リアクトル6Lの他端は、IGBT6Sの制御端子に接続される。
【0012】
IGBT6Sは、1以上の半導体スイッチを含み、制御端子に供給される制御信号によって半導体スイッチをオン/オフさせることにより、リアクトル6Lを介して供給される交流電力を直流電力に変換する。
【0013】
制御部10は、非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、操作量を用いて前記コンバータ6を制御する。例えば、制御部10は、電圧センサ9Vによって検出された直流区間の電圧(直流電圧)を帰還量に用いて、前記直流区間の制御目標電圧に対する目標量V*と前記帰還量VDC_Fとの制御偏差を算出し、前記制御偏差に対する非線形演算処理を行う。
【0014】
制御部10のより具体的な構成例について説明する。
制御部10は、例えば、電流検出ユニット11(図中の記載はIDET)と、減算器12と、非線形演算ユニット13と、電圧制御部14(図中の記載はAVR)と、電流制御部15(図中の記載はACR)と、PWM制御部16(図中の記載はPWM)とを備える。
【0015】
電流検出ユニット11は、電流センサ9iによって検出されたコンバータ6の入力電流の検出値と、基準位相θとに基づいて、電流検出値ID_detとIQ_detとを算出する。例えば、電流検出ユニット11は、基準位相θを基準の位相に用いて前記コンバータ6の入力側の3相交流の2相以上の各相の電流の検出値に基づいて、UVW相の静止座標系からD軸とQ軸とを含む回転座標系に変換して、電流検出値ID_detとIQ_detとを算出する。基準位相θは、コンバータ6に供給される交流の位相に同期する位相信号であり、例えば、図示されない位相検出器によって交流の位相に基づいて生成される。
【0016】
減算器12は、例えば上位装置から指定される直流区間の制御目標電圧に関する目標量V*から、電圧センサ9Vによって検出された直流区間の電圧(直流電圧)から帰還量VDC_Fを減算して、目標量V*と帰還量VDC_Fとの制御偏差ΔV0を得る。
【0017】
非線形演算ユニット13は、目標量V*と帰還量VDC_Fとに関する制御偏差ΔV0を入力変数にして、所定の規則に従ってその制御偏差ΔV0に対する非線形演算と、倍率kの線形演算とを行って、制御偏差kΔV1を算出する。
【0018】
例えば、非線形演算ユニット13は、演算ユニット13a、13b、及び13cを備える。
演算ユニット13a(図中の記載はABS)は、制御偏差ΔV0の絶対値を算出する。演算ユニット13bは、乗算器であり、制御偏差ΔV0と、制御偏差ΔV0の絶対値(|ΔV0|)とを入力変数にして、制御偏差ΔV0と、制御偏差ΔV0の絶対値(|ΔV0|)とを乗じて、制御偏差ΔV1を算出する。演算ユニット13cは、制御偏差ΔV1に、値が予め定められた係数kを乗じて、制御偏差kΔV1を算出する。上記の演算処理を、次の式(1)と式(2)に整理する。
【0019】
ΔV1=ΔV0×|ΔV0| ・・・(1)
kΔV1=k×ΔV1 ・・・(2)
【0020】
電圧制御部14は、非線形演算ユニット13によって算出された制御偏差kΔV1が0になるような値の電流基準IQ_Rを算出する。これは、制御偏差ΔV1を0にするような値の電流基準IQ_Rを得るのに相当する。電流基準IQ_Rは、有効電流の大きさを規定する制御目標値になる。比例要素(P)と、積分要素(I)と、微分要素(D)とは、互いに並列に接続されているとよい。例えば、電圧制御部14は、比例要素(P)と、積分要素(I)と、微分要素(D)とを含むPID演算処理によって電流基準IQ_Rを算出する。電圧制御部14において、比例要素(P)と、積分要素(I)と、微分要素(D)との各要素の入力に、制御偏差ΔV1が共通して供給される。
【0021】
なお、電圧制御部14による演算処理は、PID演算処理に制限されない。電圧制御部14による演算処理は、PID演算処理に代えて、比例要素(P)と、積分要素(I)と、微分要素(D)との中の少なくとも1つ以上の演算要素を含む演算処理であってもよい。
【0022】
電流制御部15は、図示されない電流基準ID_Rと、電圧制御部14によって算出された電流基準IQ_Rと、電流検出ユニット11によって算出された電流検出値ID_detとIQ_detと、基準位相θとに基づいて、交流の各相に対応する電圧基準EU_R、EV_R、EW_Rをそれぞれ算出する。なお、電流基準ID_Rは、無効電流の大きさを規定する制御目標値であり、例えば予め定められた定数であってよい。
【0023】
例えば、電流制御部15は、D軸成分について、電流基準ID_Rと、電流検出値ID_detとの偏差が0になるように、電圧基準VD_Rを算出する。電流制御部15は、Q軸成分について、電流基準IQ_Rと、電流検出値ID_detとの偏差が0になるように、電圧基準VD_Rを算出する。電流制御部15は、D軸成分の電圧基準VD_Rと、Q軸成分の電圧基準VD_Rとに基づいて、基準位相θを用いて、D軸とQ軸とを含む回転座標系から、UVW相の各軸を含む静止座標系に変換する。
【0024】
PWM制御部16は、電流制御部15によって算出された電圧基準EU_R、EV_R、EW_Rに基づいて、図示されないキャリア信号を用いて、交流の各相に流す電流を制御するためのゲートパルス(GATE)を生成する。PWM制御部16は、各相のゲートパルス(GATE)を、コンバータ6のIGBT6Sの制御端子に供給して、IGBT6Sをオン/オフすることによって交流の各相の電流を調整する。
【0025】
上記のように構成された電力変換装置1の制御部10は、下記のように主回路3を制御してもよい。
【0026】
例えば、制御部10は、コンバータ6の出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量VDC_Fに用いて、直流区間の制御目標電圧に対する目標量V*と帰還量VDC_Fとの制御偏差ΔV0を算出し、制御偏差ΔV0に対する非線形演算処理を行う。制御部10は、非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、操作量を用いて前記コンバータ6を制御する。制御部10は、制御偏差ΔV0に対する非線形演算処理によって、制御偏差の絶対値(|ΔV0|)と制御偏差ΔV0との積を得て、非線形演算処理の結果にするとよい。
【0027】
図2から図4を参照して、第1の実施形態の電圧制御の解析結果について説明する。図2から図4は、第1の実施形態の電圧制御の解析結果を説明するための図である。
【0028】
図2中の(a)に示すグラフは、負荷電流(アンペア)の変化を示す。図2中の(b)に示すグラフは、直流区間の電圧(ボルト。直流電圧という。)の変化を示す。図2中の(c)に示すグラフは、コンバータ6の交流側に流れる有効電流の推定値(アンペア)の変化を示す。
【0029】
本実施例の電圧制御部14は、例えば、非線形演算ユニット13の演算結果の制御偏差kΔV1に対して、比例要素(P)と、積分要素(I)とを含むPI演算処理によって電流基準IQ_Rを算出するうように構成されている。
【0030】
これに対して、比較例の電力変換装置は、本実施例の電力変換装置1に対して上記の非線形演算ユニット13を備えない。比較例の電力変換装置の電圧制御部は、本実施例の電圧制御部14と同様にPI演算処理によって電流基準IQ_Rを算出する。
【0031】
図2から図4に示す異なる条件に基づいた解析において、解析処理の初期状態を互いに共通にしている。例えば、図2中の(b)に示されるように直流電圧が680ボルト程度に充電され、図2中の(a)に示されるように負荷2に流れる負荷電流が0アンペアの状態にある。このとき、負荷2が無負荷状態にあるため、図2中の(c)に示されるように有効電流の値はおおむね0アンペアである。
【0032】
図2から図4に示す解析の状態の違いは、初期状態の下で生じる負荷2の変動による変動量が互いに異なることである。図2図3図4の順に、負荷2の変動量が多くなる。図3図4に示す各グラフに示す初期状態も、図2に示す場合と同じである。
【0033】
例えば、図2に示すように、最も変動量が少ない場合には、負荷2に流れる負荷電流が0から10アンペアにステップ状に変動する。例えば、この変動が時刻0.4秒に生じると、この変動に応じて、図2中の(b)に示されるように直流電圧が680ボルト程度から667ボルト程度まで急に減少し、図2中の(c)に示されるように有効電流が0アンペアから定常値の20アンペアになるまで、定常値に漸近するように増加する。上記の場合、直流電圧の初期状態の電圧に対する変動率は、ボトム値のときで2%程度である。
【0034】
図2に示す各グラフの場合、図2中の(b)に示す直流電圧の変動も、図2中の(c)に示す有効電流の変動も、状態遷移の過程で偏差が生じてはいるものの、変動の傾向は類似している。
【0035】
これに対して、図3に示すように、次に変動量が多い場合には、負荷2に流れる負荷電流が0から50アンペアにステップ状に変化する。この図3に示す場合の負荷電流の変化の大きさは、図2に示した場合の5倍になる。この変動が上記と同様に、時刻0.4秒に生じた場合について説明する。この変動が発生した後に、この変動に応じて、図3中の(b)に示されるように、実施例の場合の直流電圧が680ボルト程度から650ボルト程度まで急に減少する。実施例の場合の直流電圧の初期状態の電圧に対する変動率は、4.4%程度である。これに対し、比較例の場合の直流電圧が630ボルトを下回る値まで急に減少する。比較例の場合の直流電圧の初期状態の電圧に対する変動率は、7.4%を超える。比較例の場合に、直流電圧の変動率が5%以内に回復するまでの時間は、0.1秒程度掛かる。
【0036】
また、図3中の(c)に示されるように有効電流の定常値が0アンペアから100アンペア程度まで変化する。有効電流が定常値まで遷移する過程で、比較例の場合には、定常値に漸近するように有効電流が変動する傾向がみられるが、本実施例の場合には、負荷2の変動に応じて、ピーク値で120アンペア程度まで一時的に上昇する。一時的なピーク値が検出された後の有効電流は、比較例の有効電流の値に類似した値で変動する。
【0037】
これに対して、図4に示すように、最も変動量が多い場合は、負荷2に流れる負荷電流が0から100アンペアにステップ状に変化する。この図4に示す場合の負荷電流の変化の大きさは、図2に示した場合の10倍になる。この変動が上記と同様に、時刻0.4秒に生じた場合について説明する。この変動が発生した後に、この変動に応じて、図4中の(b)に示されるように、実施例の場合の直流電圧が680ボルト程度から630ボルト程度まで急に減少する。上記の場合の直流電圧の初期状態の電圧に対する変動率は、7.4%程度である。これに対し、比較例の場合の直流電圧が590ボルトを下回る値まで急に減少する。上記の場合の直流電圧の初期状態の電圧に対する変動率は、13.2%を超える。比較例の場合に、直流電圧の変動率が5%以内に回復するまでの時間は、0.13秒程度掛かるが、実施例の場合には、直流電圧の変動率が5%以内に回復するまでの時間は、0.015秒程度しか掛からない。
【0038】
また、図4中の(c)に示されるように有効電流の定常値が0アンペアから200アンペア程度まで変化する。有効電流が定常値まで遷移する過程で、比較例の場合には、定常値に漸近するように有効電流が変動する傾向がみられるが、本実施例の場合には、負荷2の変動に応じて、ピーク値で300アンペア程度まで一時的に上昇する。一時的なピーク値が検出された後の有効電流は、比較例に類似した値で変化する。
【0039】
上記の実施形態によれば、電力変換装置1は、コンバータ6の出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量VDC_Fに用いて、直流区間の制御目標電圧に対する目標量V*と帰還量VDC_Fとの制御偏差を算出し、制御偏差に対する非線形演算処理を行う。電力変換装置1は、非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、操作量を用いて前記コンバータ6を制御する。これにより、電力変換装置1の運転中にインバータ8の負荷2が急に変動しても、コンバータ6の出力側の直流区間の直流電圧が比較例のように大きく変動することなく、また比較的短時間で収束するように制御することが可能になる。
【0040】
例えば、電力変換装置1は、コンバータ出力の直流電圧VDC_Fをフィードバックして指令値V*との差と、その差の絶対値とを乗算することで、上記の非線形演算処理の結果を得る。
【0041】
例えば、電力変換装置1は、上記の非線形演算処理の結果をPI制御の入力値にする。この場合、電力変換装置1は、PI制御によって、上記の非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、その操作量を用いて前記コンバータ6を制御する。
【0042】
電力変換装置1の電圧制御部14の入力値は、指令値V*と直流電圧VDC_Fの値が乖離するほど大きくなる。これに伴い、電力変換装置1は、あたかもPIゲインが高くなったように、振舞うことになる。これにより、電力変換装置1の応答が早くなって、直流電圧の変動を抑制することができる。
【0043】
電力変換装置1は、非線形演算処理を用いて制御偏差ΔV1を積算する。この積算にあたり、制御偏差ΔV1が定常的に過大な値になることのを防止するように、制御偏差ΔV1に乗じる係数kの値を決定するとよい。
【0044】
(第1の実施形態の変形例)
上記の実施形態を、次のような構成に適用してもよい。
コンバータ1台に対してインバータが多数接続されている場合がある。このような構成の場合、インバータの負荷がそれぞれ独立していると、その負荷の変動の影響を軽減させるようにコンバートを制御することが容易ではないことがある。
【0045】
比較例の制御手法として、負荷の変動の影響を抑制するためにインバータの出力を帰還して、コンバータの制御にその帰還量を利用する制御手法が知られている。このような制御手法はパワー補償と呼ばれることがある。この制御手法を、上記の構成に適用しても、負荷の変動に伴う直流電圧の急激な変化を抑制することは困難であった。
【0046】
これに対して、実施形態の制御手法であれば、直流電圧の急激な変動を抑制することが可能になる。
【0047】
(第2の実施形態)
図5から図7を参照して、第2の実施形態について説明する。
図5は、第2の実施形態の電力変換装置1Aの構成図である。電力変換装置1Aは、電力変換装置1の制御部10に代えて、制御部10Aを備える。制御部10Aは、制御部10の非線形演算ユニット13に代えて、非線形演算ユニット13Aを備える。非線形演算ユニット13Aは、非線形演算ユニット13に対して、演算ユニット13dをさらに備える。
【0048】
演算ユニット13dは、予め定められた所定の値の下限値LLが設定されたリミッタである。演算ユニット13dは、演算ユニット13aによって算出された制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|に対して、その出力値が下限値LL未満にならないように制限する。演算ユニット13dは、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が下限値LL以上の場合には、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|をそのまま出力する。演算ユニット13dは、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が下限値LL未満の場合には、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|に代えて、下限値LLの値を出力する。演算ユニット13dから出力される値を、CV(|ΔV0|)で示す。演算ユニット13bは、制御偏差ΔV0と、CV(|ΔV0|)とを入力変数にして、制御偏差ΔV0とCV(|ΔV0|)とを乗じて、制御偏差ΔV2を算出する。演算ユニット13cは、制御偏差ΔV2に、値が予め定められた係数kを乗じて、制御偏差kΔV2を算出する。上記の演算処理を、次の式(3)から式(5)に整理する。
【0049】
CV(|ΔV0|)=|ΔV0|、(LL≦|ΔV0|の場合)、又は、
LL、(LL>|ΔV0|の場合) ・・・(3)
ΔV2=CV(|ΔV0|)×ΔV0 ・・・(4)
kΔV2=k×ΔV2 ・・・(5)
【0050】
図6図7は、第2の実施形態の非線形演算処理を説明するための図である。
図6に、CV(|ΔV0|)の下限値LLの値が互いに異なる3つのケースを示す。グラフLL1は、下限値LLの値が1である。グラフLL2は、下限値LLの値が0から1までの間の代表的な値の一例である。グラフLL3は、下限値LLの値が1を超える代表的な値の一例である。
【0051】
図7に、図6に示した3つのケースに対応する制御偏差ΔV2をそれぞれ示す。グラフG1は、グラフLL1に対応する下限値LLの値が1の場合の特性を示す。グラフG2は、グラフLL2に対応する下限値LLの値がの値が0から1までの場合の特性を示す。グラフG3は、グラフLL3に対応する下限値LLの値がの値が1を超える場合の特性を示す。
【0052】
図示を省略するが、図7に示す制御偏差ΔV2に対して、係数kを乗じることにより、図7に示すグラフが示す制御偏差ΔV2の特性を、振幅方向に伸長又は圧縮することができる。下限値LLと係数kの値を独立に設定することで、図7に示したグラフの線形性が保たれる。
【0053】
本実施形態によれば、制御部10Aは、制御偏差ΔV0に対する非線形演算処理によって、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|を所定の下限値LLに制限して、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|の大きさによって下限値LLに制限されたCV(|ΔV0|)(制御偏差の下限制限付き絶対値)と制御偏差ΔV0との積を、非線形演算処理の結果にする。
【0054】
制御部10Aは、制御偏差ΔV0に対する非線形演算処理として、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が所定の大きさの下限値LLに満たない範囲(例えば、図6のグラフの範囲Z2)について制御偏差ΔV0に対する線形変換によって第1結果を生成する。制御部10Aは、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が下限値LLを超える範囲(例えば、図6のグラフの範囲Z3aとZ3b)について制御偏差に対する非線形変換によって第2結果を生成して、第1結果と第2結果とを組み合わせて非線形演算処理の結果にする。
【0055】
上記とは異なる観点で制御部10Aについて説明する。図7に示すように、制御部10Aは、制御偏差ΔV0に対する非線形演算処理として、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が下限値LLに満たない範囲Z2について制御偏差ΔV0の1次近似に基づいた制御偏差ΔV2(第1結果)を生成する。
【0056】
制御部10Aは、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|が下限値LLを超える範囲について制御偏差ΔV0に対する高次関数に基づいた制御偏差ΔV2(第2結果)を生成して、第1結果と第2結果とを組み合わせて非線形演算の結果にする。
【0057】
制御部10Aは、制御偏差ΔV0の絶対値|ΔV0|を下限値LLまでに制限する演算を先に実施した後に、その演算結果に制御偏差ΔV0を乗算して制御偏差ΔV2を得る。これによって、下限値LLを挟んで演算式が互いに異なるものになるが、下限値LLを挟んで、制御偏差ΔV2の値の連続性が確保されている。制御部10Aは、帰還制御のループ内に非連続制御を含むが、上記のように下限値LLを挟んで連続性が確保されていることで、帰還制御のループゲインの急峻な変化が発生しないように構成することができる。
【0058】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、電力変換装置1は、コンバータ6と、インバータ8と、制御部10とを備える。コンバータ6は、電源5側から供給される電力を直流電力に変換する。インバータ8は、コンバータ6の出力側に設けられている。制御部10は、コンバータ6の出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、直流区間の制御目標電圧に対する目標量と帰還量との制御偏差を算出し、制御偏差に対する非線形演算処理を実行する。制御部10は、非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、操作量を用いて前記コンバータ6を制御する。これによって、インバータ8の負荷の変動に起因して生じるコンバータ6の出力側の直流電圧変動を軽減させることができる。
【0059】
上記の電力変換装置1は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 電力変換装置、2 負荷、3 主回路、5 電源、6 コンバータ、8 インバータ、9V 電圧センサ、9i 電流センサ、10 制御部。
【要約】
電力変換装置(1)は、コンバータ(6)と、インバータ(8)と、制御部(10)とを備える。コンバータ(6)は、電源(5)側から供給される電力を直流電力に変換する。インバータ(8)は、コンバータ(6)の出力側に設けられている。制御部(10)は、コンバータ(6)の出力側に設けられている直流区間の直流電圧を帰還量に用いて、直流区間の制御目標電圧に対する目標量と前記帰還量との制御偏差を算出し、制御偏差に対する非線形演算処理を行い、非線形演算処理の結果に基づいた操作量を算出して、操作量を用いてコンバータ(6)を制御する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7