【文献】
M.Osmar et al.,"Toroidal Plasma Lens Antenna",IEEE ANTENNAS AND WIRELESS PROPAGATION LETTERS,2017年,Vol.16,pp.1155-1158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るアンテナ装置1を含む通信装置を示す構成図である。
図1において、通信装置は、通信信号を送信、又は、通信信号を受信するアンテナ装置1を備えている。
【0011】
図2は、実施の形態1に係るアンテナ装置1を示す構成図である。
アンテナ装置1は、
図2に示すように、x軸、y軸及びz軸が示す座標系に配置されている。
図2において、地板11は、入射電波を反射させる導電性の板である。
地板11は、x−y平面に配置されている。
地板11が有する2つの面11a,11bのうち、面11aは、入射電波が当たる側の面である。
図2に示すアンテナ装置1では、x−y平面における地板11の形状が円である。しかし、これは一例に過ぎず、x−y平面における地板11の形状が、例えば、矩形であってもよいし、楕円形であってもよい。
【0012】
アンテナ支持部材12は、アンテナ13を支持する部材であり、地板11に取り付けられている。
アンテナ支持部材12は、アンテナ13を支持する支持面12aと、地板11に対する取り付け部12bとを備えている。
地板11が有する2つの面11a,11bのうち、入射電波が当たる面11aの側に支持面12aが配置されるように、取り付け部12bの一端が、地板11に取り付けられている。
図2に示すアンテナ装置1では、アンテナ支持部材12の取り付け部12bが地板11に取り付けられている。しかし、これは一例に過ぎず、取り付け部12bが地板11以外の図示せぬ部材に取り付けられていてもよい。
アンテナ13は、アンテナ支持部材12の支持面12aに配置されており、電波を送受信する複数のアンテナセル13aを有している。
複数のアンテナセル13aは、入射電波を受信するほかに、電波を放射する機能を有している。アンテナセル13aから放射される電波は、RCSを打消すための電波ではなく、通信信号を送信するための電波である。
図2に示すアンテナ装置1では、アンテナセル13aが、電波を放射する機能を有している。しかし、これは一例に過ぎず、アンテナセル13aが、電波を放射する機能を有していなくてもよい。
【0013】
誘電率可変部14は、誘電体を内蔵している誘電体層14aと、誘電体を内蔵している誘電体層14bとを備えている。
誘電率可変部14は、y−z平面において、地板11とアンテナ13との間に配置されており、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される。
誘電体層14aは、例えば、ガラス管によって実現され、ガラス管は、例えば、粉末状の誘電体を内蔵している。
誘電体層14bは、例えば、ガラス管によって実現され、ガラス管は、例えば、粉末状の誘電体を内蔵している。
誘電体入出口14cは、ゴムチューブ等が取り付けられる。誘電体層14aは、誘電体入出口14cに取り付けられたゴムチューブ等を介して、ポンプ23aと接続されている。
誘電体入出口14dは、ゴムチューブ等が取り付けられる。誘電体層14bは、誘電体入出口14dに取り付けられたゴムチューブ等を介して、ポンプ23bと接続されている。
図2に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部14が、誘電体層14aと誘電体層14bとを備える二層構造である。しかし、これは一例に過ぎず、誘電率可変部14が、誘電体層14aのみを備える一層構造であってもよいし、誘電率可変部14が、3つ以上の誘電体層を備える三層以上の構造であってもよい。
【0014】
図2に示すアンテナ装置1では、x−y平面における誘電率可変部14の形状が、リング状の形状である。
誘電率可変部14におけるリングの中心部分は、アンテナ13によって、入射電波が遮られているため、入射電波が当たらない。
図2に示すアンテナ装置1では、アンテナ13によって、入射電波が遮られない位置にのみ誘電率可変部14を配置するために、x−y平面における誘電率可変部14の形状が、リング状の形状になっている。
しかし、これは一例に過ぎず、x−y平面における誘電率可変部14の形状が、x−y平面における地板11の形状と同じ形状であってもよい。
【0015】
方向探知装置21は、例えば、プロセッサ及びメモリのそれぞれを有するコンピュータによって実現される。
方向探知装置21は、入射電波の到来方向を探知し、探知した到来方向を演算装置22に出力する。
演算装置22は、例えば、プロセッサ及びメモリのそれぞれを有するコンピュータによって実現される。
演算装置22は、方向探知装置21から出力された入射電波の到来方向に基づいて、誘電率可変部14と地板11とを含む多層面での入射電波の反射係数を算出する。
演算装置22は、算出した入射電波の反射係数を調整装置23に出力する。
【0016】
調整装置23は、ポンプ23a及びポンプ23bを備えている。
調整装置23は、演算装置22により算出された反射係数に基づいて、誘電率可変部14の誘電率を調整する。
具体的には、調整装置23は、演算装置22により算出された反射係数を実現することが可能な、誘電体層14aの誘電率ε
a及び誘電体層14bの誘電率ε
bをそれぞれ算出する。
調整装置23は、誘電体層14aの誘電率が、算出した誘電率ε
aとなるように、ポンプ23aを制御して、誘電体層14aに内蔵されている誘電体の密度を調整する。
調整装置23は、誘電体層14bの誘電率が、算出した誘電率ε
bとなるように、ポンプ23bを制御して、誘電体層14bに内蔵されている誘電体の密度を調整する。
調整装置23の内部メモリには、誘電体層14aの誘電率ε
aと誘電体層14aに内蔵されている誘電体の密度との関係、及び、誘電体層14bの誘電率ε
bと誘電体層14bに内蔵されている誘電体の密度との関係が格納されている。誘電体層14aの誘電率ε
aと誘電体層14aに内蔵されている誘電体の密度との関係、及び、誘電体層14bの誘電率ε
bと誘電体層14bに内蔵されている誘電体の密度との関係は、アンテナ装置1の外部から与えられるものであってもよい。
【0017】
ポンプ23aは、ゴムチューブ等を介して、誘電体入出口14cと接続されている。
ポンプ23aは、調整装置23から出力された制御信号に従って、図示せぬ容器に格納されている粉末状の誘電体を誘電体層14aに掃出、又は、誘電体層14aから粉末状の誘電体の吸込を行う。
ポンプ23bは、ゴムチューブ等を介して、誘電体入出口14dと接続されている。
ポンプ23bは、調整装置23から出力された制御信号に従って、図示せぬ容器に格納されている粉末状の誘電体を誘電体層14bに掃出、又は、誘電体層14bから粉末状の誘電体の吸込を行う。
【0018】
次に、
図2に示すアンテナ装置1の動作について説明する。
電波の散乱現象を評価する指標の1つであるレーダ断面積σは、以下の式(1)によって表される。
式(1)において、E
iは、散乱体に対する入射界、E
sは、入射界E
iによって散乱体に電流が励振されたとき、当該電流によって放射される散乱界である。アンテナ装置1は、散乱体である。Rは、入射電波の図示せぬ放射元とアンテナ装置1との間の距離である。
【0019】
図3は、入射電波の到来方向等を示す説明図である。
図3において、x軸、y軸及びz軸が示す座標系は、
図2に示す座標系と同じである。
図2に示す誘電率可変部14は、x−y平面に配置されているため、誘電率可変部14の法線方向nハットは、
図3に示すように、z軸と平行な方向である。明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字nの上に“^”の記号を付することができないため、「nハット」のように表記している。
誘電率可変部14に対する入射電波の到来方向は、z軸とのなす角が+θの方向であり、誘電率可変部14による反射電波の反射方向は、z軸とのなす角が−θの方向である。
到来方向と反射方向とを含む面である平行面と、x軸とのなす角がφであるため、入射電波の到来方向は、θとφとによって決まる。
e
i||ハットは、入射電波における到来方向の平行成分の単位ベクトル、e
i⊥ハットは、入射電波における到来方向の垂直成分の単位ベクトル、e
r||ハットは、誘電率可変部14による反射電波の反射方向の平行成分の単位ベクトルである。
【0020】
まず、方向探知装置21は、入射電波の到来方向として、θ及びφを探知する。入射電波の到来方向を探知する処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
方向探知装置21は、探知した到来方向θ,φを演算装置22に出力する。
演算装置22は、方向探知装置21から到来方向θ,φを受けると、到来方向θ,φに基づいて、誘電率可変部14と地板11とを含む多層面での入射電波の反射係数R
||,R
⊥を算出する。
以下、演算装置22による反射係数R
||,R
⊥の算出処理を具体的に説明する。
【0021】
まず、演算装置22は、入射電波の到来方向θ,φに基づいて、アンテナ13の複素散乱界E
1Sを算出する。アンテナ13の複素散乱界E
1Sは、アンテナ13による反射電波によって生じる。
演算装置22の内部メモリに、到来方向θ,φに対応する複素散乱界E
1Sが記録されていれば、演算装置22が、内部メモリから、到来方向θ,φに対応する複素散乱界E
1Sの読み出しを行う。
演算装置22は、電磁界シミュレーション等を実施することで、到来方向θ,φに対応する複素散乱界E
1Sを計算するようにしてもよい。
【0022】
アンテナ装置1の全体の複素散乱界E
Sは、以下の式(2)に示すように、アンテナ13の複素散乱界E
1Sと、誘電率可変部14の複素散乱界E
2Sとによって表される。誘電率可変部14の複素散乱界E
2Sは、誘電率可変部14による反射電波によって生じる。
アンテナ装置1の全体の複素散乱界E
Sが零になれば、アンテナ装置1からの不要な反射波の放射をなくすことができる。
アンテナ装置1の全体の複素散乱界E
Sを零にするには、誘電率可変部14の複素散乱界E
2Sの振幅を、アンテナ13の複素散乱界E
1Sの振幅と同じ振幅とし、複素散乱界E
2Sの位相を、複素散乱界E
1Sの位相と逆位相とすればよい。
【0023】
図3に示す反射方向に図示せぬ観測点が存在しており、観測点が存在している方向がsハット、アンテナ装置1から観測点までの距離がrであるとすると、複素散乱界E
2Sは、以下の式(3)のように算出される。
式(3)〜(5)において、jは、虚数単位、ωは、角周波数、μは、真空の透磁率、εは、真空の誘電率、ηは、真空のインピーダンス、kは、波数である。
A
e及びA
mにおけるそれぞれの積分範囲は、誘電率可変部14において、入射電波を反射させる面の範囲である。
【0024】
誘電率可変部14における入射電波の反射面が、入射電波の波長よりも大きく、かつ、滑らかな形状であれば、式(4)におけるI
eは、以下の式(6)のように表され、式(5)におけるM
eは、以下の式(7)のように表される。
式(6)及び式(7)において、E
2||iは、入射界E
iのうち、
図3に示す平行面の方向成分である。
図3に示す平行面の方向成分は、e
i||ハットが示す方向の成分である。
E
2⊥iは、入射界E
iのうち、
図3に示す平行面及び法線方向nハットのそれぞれに垂直となる面の方向成分である。それぞれに垂直となる面の方向成分は、e
i⊥ハットが示す方向の成分である。
反射係数R
||は、誘電率可変部14と地板11とを含む多層面におけるe
i||ハットが示す方向の反射係数、反射係数R
⊥は、誘電率可変部14と地板11とを含む多層面におけるe
i⊥ハットが示す方向の反射係数である。
【0025】
演算装置22は、式(6)及び式(7)に記載の反射係数R
||,R
⊥を調整しながら、式(3)に示す複素散乱界E
2Sを繰り返し算出し、全体の複素散乱界E
Sが零になる複素散乱界E
2Sが得られる反射係数R
||,R
⊥を探索する。
演算装置22は、探索した反射係数R
||,R
⊥を調整装置23に出力する。
【0026】
調整装置23は、演算装置22から出力された反射係数R
||,R
⊥を取得する。
調整装置23は、取得した反射係数R
||,R
⊥を実現する誘電率可変部14の誘電率εとして、誘電体層14aの誘電率ε
aと、誘電体層14bの誘電率ε
bとを算出する。
誘電率可変部14は、誘電体層14aと誘電体層14bとを備える二層構造であるため、誘電率可変部14と地板11とを含む多層面は、誘電体層14aと、誘電体層14bと、地板11との多層媒質とみなすことができる。多層媒質におけるそれぞれの層の反射係数と誘電率との関係は、例えば、以下の非特許文献1に開示されている。
したがって、反射係数R
||,R
⊥を実現する誘電体層14aの誘電率ε
aと、反射係数R
||,R
⊥を実現する誘電体層14bの誘電率ε
bとを算出する処理自体は、公知の技術であるため、詳細な説明を省略する。
[非特許文献1]細矢良雄. “電波伝搬ハンドブック.” リアライズ理工センター, 東京 (1999): 65.
【0027】
調整装置23は、誘電体層14aの誘電率が、算出した誘電率ε
aとなるように、ポンプ23aを制御して、誘電体層14aに内蔵されている誘電体の密度を調整する。
具体的には、調整装置23は、例えば、内部メモリから、算出した誘電率ε
aに対応している誘電体の密度を取得する。
調整装置23は、誘電体層14aに内蔵されている誘電体の密度が、取得した誘電体の密度になるように、ポンプ23aを制御する。
調整装置23は、誘電体層14bの誘電率が、算出した誘電率ε
bとなるように、ポンプ23bを制御して、誘電体層14bに内蔵されている誘電体の密度を調整する。
具体的には、調整装置23は、例えば、内部メモリから、算出した誘電率ε
bに対応している誘電体の密度を取得する。
調整装置23は、誘電体層14bに内蔵されている誘電体の密度が、取得した誘電体の密度になるように、ポンプ23bを制御する。
【0028】
以上の実施の形態1では、地板11とアンテナ13との間に配置されており、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される誘電率可変部14を備えるようにアンテナ装置1を構成した。したがって、アンテナ装置1は、RCSを打消すための電波を放射することなく、RCSを低減することができる。
【0029】
図2に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部14が、地板11とアンテナ13との間に配置されている。したがって、
図2に示すアンテナ装置1では、
図4に示すように、アンテナ13から放射される電波の指向方向における電力が半値以上である領域(以下、「電力半値幅領域」と称する)に、誘電率可変部14が重なることはない。
図4は、
図2に示すアンテナ装置1のアンテナ13から放射される電波の電力半値幅領域と、誘電率可変部14との位置関係を示す側面図である。
ここでは、アンテナ13は、電波を放射する機能を有するものとしている。
【0030】
誘電率可変部14が、地板11とアンテナ13との間ではなく、アンテナ13よりも入射電波の放射元側に配置されている場合、
図5A及び
図5Bに示すように、誘電率可変部14の一部が、電力半値幅領域と重なることがある。誘電率可変部14の一部が、電力半値幅領域と重なる場合、アンテナ13から放射される電波の一部が、誘電率可変部14に遮られるため、
図2に示すアンテナ装置1よりも電波の放射性能が劣化する。
図5Aは、アンテナ13から放射される電波の電力半値幅領域と、誘電率可変部14との位置関係を示す側面図である。
図5Bは、アンテナ13から放射される電波の電力半値幅領域と、誘電率可変部14との位置関係を示す上面図である。
図5Bが示す誘電率可変部14は、+z方向から見ている。
【0031】
アンテナ13よりも入射電波の放射元側に誘電率可変部14を配置しても、電波の放射性能の劣化を防ぐ必要がある場合、
図6A及び
図6Bに示すように、誘電率可変部14が電力半値幅領域と重ならない領域に配置されている必要がある。
図6Aは、アンテナ13から放射される電波の電力半値幅領域と、誘電率可変部14との位置関係を示す側面図である。
図6Bは、アンテナ13から放射される電波の電力半値幅領域と、誘電率可変部14との位置関係を示す上面図である。
図6Bが示す誘電率可変部14は、+z方向から見ている。
誘電率可変部14が電力半値幅領域と重ならない領域に配置されているアンテナ装置1では、アンテナ13から放射される電波の一部が、誘電率可変部14に遮られないため、
図2に示すアンテナ装置1と同等の電波放射性能が得られる。
【0032】
実施の形態2.
図2に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部14が、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される誘電体を内蔵している。
実施の形態2では、誘電率可変部30が、放電管30a,30bを備えているアンテナ装置1について説明する。
【0033】
図7は、実施の形態2に係るアンテナ装置1を示す構成図である。
図7において、
図2と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図8は、実施の形態2に係るアンテナ装置1が備える誘電率可変部30の要部を示す拡大図である。誘電率可変部30の要部は、
図7において、破線で囲まれている部分である。
図1に示す通信装置は、
図7に示すアンテナ装置1を備えている。
誘電率可変部30は、複数の放電管30a、複数の放電管30b、電極30c及び電極30dを備えている。
誘電率可変部30は、y−z平面において、地板11とアンテナ13との間に配置されており、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される。
放電管30aは、x−y平面において、y軸と平行な方向に配置されており、内部にガスが充填されている。
放電管30bは、x−y平面において、x軸と平行な方向に配置されており、内部にガスが充填されている。
放電管30aの内部及び放電管30bの内部のそれぞれに充填されているガスとしては、電離性のガスが用いられる。具体的には、アルゴン、キセノン、又は、アルゴンとキセノンとの混合ガス等が用いられる。
【0034】
放電管30aは、調整装置31によって、電極30c,30dに電流が与えられると、内部に充填されているガスが電離されて、ガスがプラズマの状態に変えられる。
放電管30bは、調整装置31によって、電極30c,30dに電流が与えられると、内部に充填されているガスが電離されて、ガスがプラズマの状態に変えられる。
放電管30a,30bの素材としては、例えば、ガラスが用いられる。放電管30a,30bは、ガスを封じることができれば、ガラス以外の素材を用いてもよいが、低誘電正接な素材であれば、さらによい。
電極30c及び電極30dの組は、1つの放電管30a毎に設けられ、また、1つの放電管30b毎に設けられていている。あるいは、全ての放電管30a及び全ての放電管30bに共通な電極として、電極30c及び電極30dの組が一組設けられている。
【0035】
調整装置31は、演算装置22により算出された反射係数に基づいて、誘電率可変部30の誘電率を調整する。
具体的には、調整装置31は、演算装置22により算出された反射係数に基づいて、放電管30a,30bの内部のプラズマの誘電率をそれぞれ算出する。
調整装置31は、それぞれ算出したプラズマの誘電率が得られるように、電極30c,30dに与える電流を調整する。
【0036】
次に、
図7に示すアンテナ装置1の動作について説明する。
放電管30aに充填されているガスは、電離されると、プラズマの状態に変わる。プラズマの電気的な性質を表すパラメータとして、プラズマ周波数ω
pと、衝突周波数v
mとがある。プラズマ周波数ω
p及び衝突周波数v
mについては、以下の非特許文献2,3に開示されている。
[非特許文献2]
R. J. Vidmar、“On the use of Atmospheric Pressure Plasmas as Electromagnetic Reflections and Absorbers、” IEEE Trans. Plasma Sci.、Vol. 18、No. 4、1990
[非特許文献3]
Francis F. Chen著、内田岱二郎訳『プラズマ物理入門』、丸善、1977年
【0037】
プラズマ周波数ω
pは、電極30c,30dに電流を与えることで生じた電子の密度n
eによって決定される。
衝突周波数v
mは、自由電子が他の粒子と衝突することで消滅する1秒当たりの平均回数であり、衝突周波数v
mは、ガスの種類と、ガスの密度とによって決まる。自由電子の運動は、電極30c,30dに対する印加電圧によって決定される。
【0038】
プラズマ周波数ω
pは、以下の式(8)によって表され、衝突周波数v
mは、以下の式(9)によって表される。
式(8)において、m
eは、電子質量、eは、電荷、n
eは、電子の密度、ε
0は、真空の誘電率である。
式(9)において、n
nは、粒子密度、vは、粒子速度、σは、粒子が弾性衝突するとした場合の等価断面積である。σvの上の“−”の記号は、時間的な平均値を表している。
衝突周波数v
mは、ガスの粒子の大きさを大きく、又は、密度を高くすることで、高くなる。
【0039】
プラズマの誘電率ε
rは、以下の式(10)に示すように、プラズマ周波数ω
p及び衝突周波数v
mによって決定される。
したがって、プラズマの誘電率ε
rは、ガスの種類、ガスの密度、又は、電極30c,30dに与える電流のいずれかを変えることで、調整することが可能である。
【0040】
演算装置22は、方向探知装置21から到来方向θ,φを受けると、実施の形態1と同様に、到来方向θ,φに基づいて、誘電率可変部30と地板11とを含む多層面での入射電波の反射係数R
||,R
⊥を算出する。
演算装置22は、算出した反射係数R
||,R
⊥を調整装置31に出力する。
【0041】
調整装置31は、演算装置22から反射係数R
||,R
⊥を受けると、反射係数R
||,R
⊥を実現する誘電率可変部30の誘電率εとして、放電管30aに充填されているプラズマの誘電率ε
raと、放電管30bに充填されているプラズマの誘電率ε
rbとを算出する。
反射係数R
||,R
⊥を実現するプラズマの誘電率ε
raと、反射係数R
||,R
⊥を実現するプラズマの誘電率ε
rbとを算出する処理自体は、公知の技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0042】
調整装置31は、放電管30aに充填されているプラズマの誘電率ε
raが、式(10)の左辺における誘電率ε
rであるとして、プラズマの誘電率がε
raになる電子の密度n
eを算出する。
また、調整装置31は、放電管30bに充填されているプラズマの誘電率ε
rbが、式(10)の左辺における誘電率ε
rであるとして、プラズマの誘電率がε
rbになる電子の密度n
eを算出する。
ここでは、放電管30aに充填されているガスの種類と、放電管30bに充填されているガスの種類とが同じであり、放電管30aに充填されているプラズマの密度と、放電管30bに充填されているプラズマの密度とが同じであるとする。ガスの種類とプラズマの密度とが同じであれば、プラズマの誘電率がε
raになる電子の密度n
eと、プラズマの誘電率がε
rbになる電子の密度n
eとは、同じであるとする。
【0043】
調整装置31の内部メモリには、電子の密度n
eと電極30c,30dに与える電流との関係が格納されている。電子の密度n
eと電極30c,30dに与える電流との関係は、アンテナ装置1の外部から与えられるものであってもよい。
調整装置31は、電子の密度n
eを実現する電流の値として、内部メモリから、電子の密度n
eに対応する電流の値を取得する。
調整装置31は、電極30c,30dに与える電流の値が、取得した電流の値になるように制御することで、誘電率可変部30の誘電率εを調整する。
【0044】
図7に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部30が、
図9Aに示すように、2段構造の放電管として、放電管30aと放電管30bとを備えている。
2段構造の放電管と地板11との組は、
図9Bに示すように、3つのガラス部分と、2つのプラズマと、1つの地板11とを備える多層媒質に近似することができる。
図9Aは、2段構造の放電管を示す説明図であり、
図9Bは、近似された多層媒質を示す説明図である。
例えば、3つのガラス部分の誘電率ε
rが、ガラスの誘電率に相当する4.0であるとする。プラズマの厚さが5mm、ガラス部分の厚さが2mmであるとする。ただし、放電管30aと放電管30bとが向かい合っている部分のガラス部分の厚さは4mmである。
入射電波の周波数が10GHz、入射電波の到来方向が法線方向nハットであるとして、プラズマ周波数ω
p及び衝突周波数v
mのそれぞれを、5〜30GHzの範囲で、5GHz刻みに変化させることで、反射係数R
||,R
⊥の振幅と位相とを調べる。
【0045】
図10Aは、反射係数の振幅のシミュレーション結果を示す説明図であり、
図10Bは、反射係数の位相のシミュレーション結果を示す説明図である。
図10A及び
図10Bの横軸は、プラズマ周波数ω
pであり、
図10A及び
図10Bの縦軸は、衝突周波数v
mである。
図9Bの例では、入射電波が多層媒質に直交するように入射されているため、反射係数R
||と反射係数R
⊥とは同じ値になる。
図10Aに示す反射係数の振幅のシミュレーション結果は、反射係数の振幅を−10〜0dB程度の範囲で調整可能であることを示している。
図10Bに示す反射係数の位相のシミュレーション結果は、反射係数の位相を−180〜180度の範囲で調整可能であることを示している。
したがって、アンテナ13の複素散乱界E
1Sの振幅が、誘電率可変部30の複素散乱界E
2Sの振幅に対して、−10〜0dB程度の範囲であれば、アンテナ13の複素散乱界E
1Sの位相が、どのような位相であっても、アンテナ装置1の全体の複素散乱界E
Sを零にできることが分かる。
【0046】
以上の実施の形態2では、誘電率可変部30が、電極30c,30dに電流が与えられると、充填されているガスが電離させて、ガスをプラズマの状態に変えられる放電管30a,30bを備えており、調整装置31が、電極30c,30dに与える電流を調整することで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整するように、
図7に示すアンテナ装置1を構成した。したがって、
図7に示すアンテナ装置1は、
図2に示すアンテナ装置1と同様に、RCSを打消すための電波を放射することなく、RCSを低減することができる。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態3では、調整装置40が、放電管30a,30bに充填されているガスの種類を変更することで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整するアンテナ装置1について説明する。
【0048】
図11は、実施の形態3に係るアンテナ装置1を示す構成図である。
図11において、
図2及び
図7と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図1に示す通信装置は、
図11に示すアンテナ装置1を備えている。
誘電率可変部30は、複数の放電管30a、複数の放電管30b及び電極30c,30dを備えている。
放電管30a及び放電管30bのそれぞれは、ゴムチューブ等を介して、調整装置40のポンプ40aと接続されている。
図11では、放電管30a及び放電管30bのそれぞれとポンプ40aとを接続するゴムチューブ等の記載を省略している。
【0049】
調整装置40は、ポンプ40aを備えている。
ポンプ40aは、ゴムチューブ等を介して、N(Nは、2以上の整数)個のガス貯蔵器41−1〜41−Nと接続されている。
ポンプ40aは、ゴムチューブ等を介して、放電管30a及び放電管30bのそれぞれと接続されている。
調整装置40の内部メモリには、演算装置22により算出された反射係数R
||,R
⊥とガスの種類との関係が格納されている。反射係数R
||,R
⊥とガスの種類との関係は、アンテナ装置1の外部から与えられるものであってもよい。
【0050】
調整装置40は、ポンプ40aを用いて、放電管30a及び放電管30bのそれぞれに充填されているガスを吸引する。調整装置40は、ガス貯蔵器41−1〜41−Nのうち、吸引したガスと同じ種類のガスを貯蔵しているガス貯蔵器に対して、ポンプ40aを用いて、吸引したガスを排出する。
調整装置40は、N種類のガスの中から、演算装置22により算出された反射係数R
||,R
⊥と対応しているガスを選択する。調整装置40は、ガス貯蔵器41−1〜41−Nのうち、選択したガスを貯蔵しているガス貯蔵器41−nから、ポンプ40aを用いて、選択したガスを吸引する。調整装置40は、ポンプ40aを用いて、吸引したガスを放電管30a及び放電管30bのそれぞれに充填する。
【0051】
ガス貯蔵器41−1〜41−Nは、互いに種類が異なるガスを貯蔵している。
ガス貯蔵器41−1〜41−Nは、ゴムチューブ等を介して、調整装置40のポンプ40aと接続されている。
【0052】
次に、
図11に示すアンテナ装置1の動作について説明する。
調整装置40は、演算装置22から反射係数R
||,R
⊥を受けると、内部メモリを参照して、N種類のガスの中から、反射係数R
||,R
⊥と対応しているガスを選択する。
調整装置40は、放電管30a及び放電管30bのそれぞれに充填されているガスの種類が、選択したガスの種類と異なっていれば、ポンプ40aを用いて、放電管30a及び放電管30bのそれぞれに充填されているガスを吸引する。
調整装置40は、ガス貯蔵器41−1〜41−Nのうち、吸引したガスと同じ種類のガスを貯蔵しているガス貯蔵器に対して、ポンプ40aを用いて、吸引したガスを排出する。
【0053】
次に、調整装置40は、ガス貯蔵器41−1〜41−Nのうち、選択したガスを貯蔵しているガス貯蔵器41−nから、ポンプ40aを用いて、選択したガスを吸引する。
調整装置40は、ポンプ40aを用いて、吸引したガスを放電管30a及び放電管30bのそれぞれに充填する。
衝突周波数v
mは、ガスの種類によって変化するため、調整装置40が、ガスの種類を変えることで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整することができる。
したがって、
図11に示すアンテナ装置1でも、
図2に示すアンテナ装置1と同様に、RCSを打消すための電波を放射することなく、RCSを低減することができる。
【0054】
図11に示すアンテナ装置1では、調整装置40が、ガスの種類を変えることで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整している。しかし、これは一例に過ぎず、調整装置40が、放電管30a,30bに充填されているガスの密度を変えることで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整するようにしてもよい。
衝突周波数v
mは、ガスの密度によって変化するため、調整装置40が、ガスの密度を変えることで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整することができる。
なお、放電管30a,30bに充填されているガスの密度は、調整装置40が、ポンプ40aを用いて、放電管30a,30bに充填されているガスを吸引することで、調整することができる。
また、調整装置40が、ガス貯蔵器41−1〜41−Nのうち、放電管30a,30bに充填されているガスと同じ種類のガスを貯蔵しているガス貯蔵器から、ポンプ40aを用いて、ガスを吸引する。そして、調整装置40が、ポンプ40aを用いて、吸引したガスを放電管30a,30bに充填することで、ガスの密度を調整することができる。
【0055】
図11に示すアンテナ装置1でも、調整装置40が、
図7に示す調整装置31と同様に、電極30c,30dに与える電流を調整することで、プラズマの誘電率ε
ra,ε
rbを調整するようにしてもよい。
【0056】
実施の形態4.
実施の形態4では、誘電率可変部50が、複数の誘電率可変セル50aを備えているアンテナ装置1について説明する。
【0057】
図12は、実施の形態4に係るアンテナ装置1を示す斜視図である。
図12において、
図2、
図7及び
図11と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図1に示す通信装置は、
図12に示すアンテナ装置1を備えている。
図12では、図面の簡単化のために、アンテナ13の形状が円柱形になっている。アンテナ13は、
図2に示すように、複数のアンテナセル13aを備え、複数のアンテナセル13aがアンテナ支持部材12の支持面12aに配置されている構造である。したがって、アンテナ13の実際の形状は、円柱形ではない。
【0058】
誘電率可変部50は、複数の誘電率可変セル50aを備えている。
誘電率可変セル50aは、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される。
誘電率可変セル50aは、
図2に示す誘電率可変部14と同様に、誘電体層14a,14bを備えていてもよいし、
図7及び
図11に示す誘電率可変部30と同様に、放電管30a,30bを備えていてもよい。
【0059】
遮蔽領域算出装置61は、例えば、プロセッサ及びメモリのそれぞれを有するコンピュータによって実現される。
遮蔽領域算出装置61の内部メモリは、アンテナ13の形状を示す形状データと、アンテナ13と誘電率可変部50との位置関係を示す位置データとを格納している。形状データ及び位置データは、アンテナ装置1の外部から与えられるものであってもよい。
遮蔽領域算出装置61は、方向探知装置21から入射電波の到来方向を取得する。
遮蔽領域算出装置61は、形状データと、位置データと、入射電波の到来方向とに基づいて、誘電率可変部50の中で、入射電波がアンテナ13によって遮蔽されて、入射電波が当たらない領域である遮蔽領域を算出する。
遮蔽領域算出装置61は、算出した遮蔽領域を示すデータを演算装置62に出力する。
【0060】
演算装置62は、例えば、プロセッサ及びメモリのそれぞれを有するコンピュータによって実現される。
演算装置62は、複数の誘電率可変セル50aの中から、遮蔽領域算出装置61により算出された遮蔽領域以外の領域に配置されている1つ以上の誘電率可変セル50aを選択する。
演算装置62は、入射電波の到来方向に基づいて、選択した誘電率可変セル50aと地板11とを含む多層面での入射電波の反射係数R
||,R
⊥を算出する。
演算装置62は、算出した入射電波の反射係数R
||,R
⊥を調整装置63に出力する。
調整装置63は、誘電率可変セル50aの構成が
図2に示す誘電率可変部14の構成と同様であれば、
図2に示す調整装置23と同様に、演算装置62により算出された反射係数R
||,R
⊥に基づいて、選択した誘電率可変セル50aの誘電率を調整する。
調整装置63は、誘電率可変セル50aの構成が、
図7又は
図11に示す誘電率可変部30の構成と同様であれば、
図7に示す調整装置31、又は、
図11に示す調整装置40と同様に、演算装置62により算出された反射係数R
||,R
⊥に基づいて、選択した誘電率可変セル50aの誘電率を調整する。
【0061】
次に、
図12に示すアンテナ装置1の動作について説明する。
遮蔽領域算出装置61は、内部メモリから、アンテナ13の形状を示す形状データと、アンテナ13と誘電率可変部50との位置関係を示す位置データとを取得する。
遮蔽領域算出装置61は、方向探知装置21から入射電波の到来方向を取得する。
遮蔽領域算出装置61は、形状データと、位置データと、入射電波の到来方向とに基づいて、誘電率可変部50の中で、入射電波がアンテナ13によって遮蔽されて、入射電波が当たらない領域である遮蔽領域を算出する。
遮蔽領域算出装置61は、算出した遮蔽領域を示すデータを演算装置62に出力する。
入射電波が当たらない遮蔽領域を算出する処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0062】
演算装置62は、遮蔽領域算出装置61から遮蔽領域を示すデータを受けると、複数の誘電率可変セル50aの中から、遮蔽領域以外の領域に配置されているG(Gは、1以上の整数)個の誘電率可変セル50aを選択する。
G個の誘電率可変セル50aの複素散乱界E
2Sは、以下の式(11)のように表される。
式(11)において、E
2iSは、i番目の誘電率可変セル50aの複素散乱界、太字のkは、到来方向の波数ベクトルである。明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字を太文字で表記することができないため、「太字のk」のように表記している。
太字のr
iは、i番目の誘電率可変セル50aの中心における空間上の位置ベクトルである。
アンテナ装置1の全体の複素散乱界E
Sを零にするには、複素散乱界E
2Sの振幅を、アンテナ13の複素散乱界E
1Sの振幅と同じ振幅とし、複素散乱界E
2Sの位相を、複素散乱界E
1Sの位相と逆位相とすればよい。
【0063】
演算装置62は、式(6)及び式(7)に記載の反射係数R
||,R
⊥を調整しながら、式(11)に示す複素散乱界E
2Sを繰り返し算出し、全体の複素散乱界E
Sが零になる複素散乱界E
2Sが得られる反射係数R
||,R
⊥を探索する。
演算装置62は、探索した反射係数R
||,R
⊥を調整装置63に出力する。
【0064】
調整装置63は、演算装置62から出力された反射係数R
||,R
⊥を取得する。
調整装置63は、誘電率可変セル50aの構成が
図2に示す誘電率可変部14の構成と同様であれば、
図2に示す調整装置23と同様に、取得した反射係数R
||,R
⊥に基づいて、選択したG個の誘電率可変セル50aの誘電率を調整する。
調整装置63は、誘電率可変セル50aの構成が
図7又は
図11に示す誘電率可変部30の構成と同様であれば、
図7に示す調整装置31、又は、
図11に示す調整装置40と同様に、取得した反射係数R
||,R
⊥に基づいて、選択したG個の誘電率可変セル50aの誘電率を調整する。
【0065】
以上の実施の形態4では、誘電率可変部50が、入射電波の到来方向に応じて誘電率が可変される複数の誘電率可変セル50aを備えており、入射電波の到来方向に基づいて、誘電率可変部50の中で、入射電波がアンテナ13によって遮蔽されて、入射電波が当たらない領域を算出する遮蔽領域算出装置61を備えている。そして、演算装置62が、複数の誘電率可変セル50aの中から、遮蔽領域算出装置61により算出された領域以外の領域に配置されている1つ以上の誘電率可変セル50aを選択し、入射電波の到来方向に基づいて、選択した誘電率可変セル50aと地板11とを含む多層面での入射電波の反射係数を算出する。そして、調整装置63が、演算装置62により算出された反射係数に基づいて、選択した誘電率可変セル50aの誘電率を調整するように、
図12に示すアンテナ装置1を構成した。したがって、
図12に示すアンテナ装置1は、
図2に示すアンテナ装置1と同様に、RCSを打消すための電波を放射することなく、RCSを低減することができる。また、
図12に示すアンテナ装置1は、入射電波が当たらない遮蔽領域が存在する場合、
図2に示すアンテナ装置1よりも、RCSの低減効果を高めることができる。
【0066】
実施の形態5.
実施の形態5では、入射電波の反射を抑える損失性部材71,72を備えるアンテナ装置1について説明する。
図13は、実施の形態5に係るアンテナ装置1の要部を示す構成図である。
図13において、
図2と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図13に示すアンテナ装置1では、記載を省略しているが、
図2に示すアンテナ装置1と同様に、方向探知装置21、演算装置22及び調整装置23を備えている。
図13に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部14が、一層構造である。しかし、これは一例に過ぎず、誘電率可変部14が、二層以上の構造であってもよい。
図13に示すアンテナ装置1では、誘電率可変部14が、例えば、誘電体層14aを有している。しかし、これは一例に過ぎず、
図7及び
図11に示すように、放電管30a,30bを備える誘電率可変部30であってもよい。また、
図12に示すように、誘電率可変セル50aを備える誘電率可変部50であってもよい。
【0067】
損失性部材71,72は、入射電波の反射を抑えることが可能な高誘電正接の部材であり、例えば、炭素を含むセラミックによって実現される。
損失性部材71は、誘電率可変部14が有する2つの面のうち、入射電波が当たる反射面の側に配置されている。
損失性部材72は、誘電率可変部14と地板11との間に配置されている。
図13に示すアンテナ装置1では、損失性部材71及び損失性部材72の双方を備えている。しかし、これは一例に過ぎず、損失性部材71又は損失性部材72のいずれか一方のみを備えるアンテナ装置1であってもよい。
【0068】
実施の形態1〜4のアンテナ装置1では、誘電率可変部14、誘電率可変部30又は誘電率可変部50を備えているため、RCSを打消すための電波を放射することなく、RCSを低減することができる。しかし、放電管30a,30bを備える誘電率可変部30における入射電波の反射面が大きい場合、プラズマの層厚を厚くする方策、又は、プラズマ周波数ω
pを高くする方策等を施す必要がある。
図13に示すアンテナ装置1では、入射電波の反射を抑える損失性部材71,72を備えているため、誘電率可変部30における入射電波の反射面が大きい場合でも、プラズマ周波数ω
pを高くする方策等を施すことなく、RCSを低減することができる。
【0069】
実施の形態1〜5のアンテナ装置1では、調整装置23、調整装置31、調整装置40又は調整装置63(以下、「調整装置23等」と称する)が、誘電率可変部14の誘電率、誘電率可変部30の誘電率、又は、誘電率可変部50の誘電率(以下、「誘電率可変部14等の誘電率」と称する)を調整している。
調整装置23等は、誘電率可変部14等の誘電率をリアルタイムに調整してもよいが、事前に設定された時間間隔毎に、調整装置23等が、誘電率可変部14等の誘電率を調整するようにしてもよい。
また、調整装置23等は、アンテナ13の指向方向が切り替えられる毎に、誘電率可変部14等の誘電率を調整するようにしてもよい。
【0070】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。