特許第6980163号(P6980163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980163信号処理装置、信号処理方法及びライダ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6980163
(24)【登録日】2021年11月18日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法及びライダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/58 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
   G01S17/58
【請求項の数】8
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2021-538192(P2021-538192)
(86)(22)【出願日】2021年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2021007241
【審査請求日】2021年6月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】特許業務法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野邑 寿仁亜
(72)【発明者】
【氏名】今城 勝治
(72)【発明者】
【氏名】亀山 俊平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優佑
【審査官】 安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2020/209279(WO,A1)
【文献】 特表2011−519424(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/092705(WO,A1)
【文献】 国際公開第2020/025984(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0018115(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0238742(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48− 7/51,
G01S 17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出する信号処理装置であって、
光源から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光が生成されて、それぞれのパルス光が空間に放射され、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光が散乱光として受信されて、それぞれの散乱光と前記レーザ光との合波光が検波されており、
それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出部と、
前記ドップラー周波数算出部により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する速度算出部と、を備え、
前記ドップラー周波数算出部は、
生成された複数のパルス光の中の、1つのパルス光が有している光周波数と残りのパルス光が有している光周波数との周波数差に基づいて、それぞれの合波光が有している光周波数を補正する光周波数補正部と、
前記光周波数補正部による補正後のそれぞれの合波光が有している光周波数と、生成されたそれぞれのパルス光が有している光周波数とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれているドップラー周波数を算出する周波数算出処理部と、を含む、
信号処理装置。
【請求項2】
前記ドップラー周波数算出部は、
前記光周波数補正部による光周波数補正後の複数の合波光の周波数スペクトルを積算するスペクトル積算部を備えており、
前記周波数算出処理部は、
前記スペクトル積算部による積算後の周波数スペクトルから、それぞれの合波光が有している光周波数を特定し、それぞれの合波光が有している光周波数と、生成されたそれぞれのパルス光が有している光周波数とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれているドップラー周波数を算出することを特徴とする請求項記載の信号処理装置。
【請求項3】
空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出する信号処理方法であって、
光源から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光が生成されて、それぞれのパルス光が空間に放射され、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光が散乱光として受信されて、それぞれの散乱光と前記レーザ光との合波光が検波されており、
ドップラー周波数算出部の光周波数補正部が、生成された複数のパルス光の中の、1つのパルス光が有している光周波数と残りのパルス光が有している光周波数との周波数差に基づいて、それぞれの合波光が有している光周波数を補正し、
ドップラー周波数算出部の周波数算出処理部が、前記光周波数補正部による補正後のそれぞれの合波光が有している光周波数と、生成されたそれぞれのパルス光が有している光周波数とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれているドップラー周波数を算出し、
速度算出部が、前記ドップラー周波数算出部により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する
信号処理方法。
【請求項4】
空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出するライダ装置であって、
レーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光を生成するパルス変調部と、
前記パルス変調部により生成されたそれぞれのパルス光を空間に放射し、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光を散乱光として受信する送受信部と、
前記送受信部により受信されたそれぞれの散乱光と前記光源から出力されたレーザ光との合波光を検波し、それぞれの合波光の検波信号を出力する光検波部と、
それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出部と、
前記ドップラー周波数算出部により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する速度算出部と、を備え、
前記ドップラー周波数算出部は、
生成された複数のパルス光の中の、1つのパルス光が有している光周波数と残りのパルス光が有している光周波数との周波数差に基づいて、それぞれの合波光が有している光周波数を補正する光周波数補正部と、
前記光周波数補正部による補正後のそれぞれの合波光が有している光周波数と、生成されたそれぞれのパルス光が有している光周波数とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれているドップラー周波数を算出する周波数算出処理部と、を含む、
ライダ装置。
【請求項5】
前記送受信部から放射されるパルス光の放射方向を切り替えるスキャナと、
前記スキャナによる放射方向の切替速度を制御する切替速度制御部と
を備えたことを特徴とする請求項記載のライダ装置。
【請求項6】
前記切替速度制御部は、
前記送受信部から放射されるパルス光がアイセーフ条件を満足するように、前記送受信部から放射されるパルス光の繰り返し周波数に応じて前記切替速度を制御することを特徴とする請求項記載のライダ装置。
【請求項7】
前記観測対象が気体であり、
前記光源は、
前記気体の吸収波長帯に含まれる波長を有する第1のレーザ光と、前記第1のレーザ光よりも前記気体による吸収率が低い第2のレーザ光とを順番に前記パルス変調部に出力することを特徴とする請求項記載のライダ装置。
【請求項8】
前記光源から第1のレーザ光が出力されたときに、前記光検波部から出力されたそれぞれの検波信号の周波数を解析し、前記光源から第2のレーザ光が出力されたときに、前記光検波部から出力されたそれぞれの検波信号の周波数を解析し、それぞれの周波数の解析結果から、前記気体の密度を算出する密度算出部を備えたことを特徴とする請求項記載のライダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法及びライダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ライダ装置の中には、複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度を算出するライダ装置(以下「従来のライダ装置」という)がある。
従来のライダ装置は、レーザ光を出力する光源と、当該レーザ光からパルス光を生成するパルス光生成部と、当該パルス光を空間に繰り返し放射し、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光を散乱光として受信する送受信部と、それぞれの散乱光と当該レーザ光との合波光を検波する光合波部とを備えている。また、従来のライダ装置は、光合波部により検波されたそれぞれの合波光の光周波数から、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出し、それぞれのドップラー周波数からそれぞれの観測対象の移動速度を算出する信号処理部を備えている。信号処理部により算出される移動速度は、レーザ光の放射方向の移動速度である。
【0003】
ところで、パルス光を放射してから、観測対象によって散乱された後のパルス光である散乱光を受信するまでの時間に基づいて、測距装置から観測対象までの距離を算出する測距装置が特許文献1に開示されている。
当該測距装置は、複数のパルス光を生成する生成部と、生成部により生成されたそれぞれのパルス光を空間に放射する送信部と、観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光を散乱光として受信する受信部とを備えている。また、当該測距装置は、送信部からパルス光が放射されてから、受信部により散乱光が受信されるまでの時間に基づいて、観測対象までの距離を算出する距離算出部を備えている。観測対象までの距離が長い場合、又は、パルス光の放射周期が短い場合、送信部が、放射順がN(Nは、1以上の整数)番目のパルス光を放射してから、受信部が、N番目のパルス光に対応する散乱光を受信する前に、送信部が、放射順が(N+1)番目のパルス光を放射してしまうことがある。このような場合でも、受信部により受信された散乱光が、何番目のパルス光に対応する散乱光であるのかが分かるようにするために、生成部が、光周波数が互いに異なる複数のパルス光を生成し、それぞれのパルス光を送信部に出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020−079776号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ライダ装置の遠方に存在している観測対象(以下「遠方の観測対象」という)の移動速度と、当該ライダ装置の近傍に存在している観測対象(以下「近傍の観測対象」という)の移動速度とが同じ速度であることがある。遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度と同じ速度であるときに、遠方の観測対象からの散乱光(以下「遠方散乱光」という)と、近傍の観測対象からの散乱光(以下「近傍散乱光」という)とが、互いに重なり合った状態で、当該ライダ装置に到達することがある。
従来のライダ装置では、送受信部が、互いに重なり合っている、遠方散乱光及び近傍散乱光のそれぞれを受信したとき、遠方散乱光が有している光周波数と近傍散乱光が有している光周波数とが同じ周波数であるため、信号処理部が、遠方散乱光と近傍散乱光とを識別することができない。したがって、当該信号処理部は、近傍の観測対象及び遠方の観測対象のうちのいずれか一方の観測対象の存在を検出して、当該観測対象の移動速度を算出できても、他方の観測対象の存在を検出できないという課題があった。
特許文献1に開示されている測距装置は、光周波数が互いに異なる複数のパルス光を生成する生成部を備えている。しかし、当該測距装置の距離算出部は、遠方散乱光と近傍散乱光とが互いに重なり合っているときに、遠方散乱光と近傍散乱光とを識別するものではない。したがって、仮に当該測距装置を従来のライダ装置に適用したとしても、上記課題を解決することができない。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる信号処理装置及び信号処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る信号処理装置は、空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出するものである。
光源から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光が生成されて、それぞれのパルス光が空間に放射され、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光が散乱光として受信されて、それぞれの散乱光とレーザ光との合波光が検波されている。当該信号処理装置は、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出部と、ドップラー周波数算出部により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する速度算出部とを備える。当該ドップラー周波数算出部は、生成された複数のパルス光の中の、1つのパルス光が有している光周波数と残りのパルス光が有している光周波数との周波数差に基づいて、それぞれの合波光が有している光周波数を補正する光周波数補正部と、光周波数補正部による補正後のそれぞれの合波光が有している光周波数と、生成されたそれぞれのパルス光が有している光周波数とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれているドップラー周波数を算出する周波数算出処理部と、を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る信号処理装置15を含むライダ装置を示す構成図である。
図2】トリガ生成部4の内部を示す構成図である。
図3】実施の形態1に係る信号処理装置15を示す構成図である。
図4】実施の形態1に係る信号処理装置15のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図5】信号処理装置15が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
図6図1に示すライダ装置の処理手順を示すフローチャートである。
図7】信号処理装置15の処理手順である信号処理方法を示すフローチャートである。
図8】ライダ装置から放射されたパルス光Pと、第1の観測対象からの散乱光Rと、第2の観測対象からの散乱光Rとを示す説明図である。
図9】ライダ装置から放射されたパルス光P,Pの放射時刻T,Tと、第1の観測対象からの散乱光R,Rの受信時刻T’,T’と、第2の観測対象からの散乱光R,Rの受信時刻T’,T’とを示す説明図である。
図10図10Aは、レンジビン信号(7)が有しているピークスペクトルを示す説明図、図10Bは、パルス光Pが有している光周波数とパルス光Pが有している光周波数とが同一周波数である場合の、レンジビン信号(7)が有しているピークスペクトルを示す説明図である。
図11】合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンと、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビンと、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンとを示す説明図である。
図12】レンジビン(n)の距離とSNRとの対応関係を示す距離特性(a−scope)の説明図である。
図13】実施の形態2に係るライダ装置のパルス変調器5を示す構成図である。
図14】実施の形態3に係るライダ装置を示す構成図である。
図15】実施の形態4に係る信号処理装置15を含むライダ装置を示す構成図である。
図16】実施の形態4に係る信号処理装置15を示す構成図である。
図17】実施の形態4に係る信号処理装置15のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図18】気体の吸収波長帯、光源71から出力された第1のレーザ光が有する波長及び光源71から出力された第2のレーザ光が有する波長を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る信号処理装置15を含むライダ装置を示す構成図である。
図1に示すライダ装置は、光源1、パルス変調部2、送受信部6、光検波部11及び信号処理装置15を備えている。
ライダ装置は、空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出する。観測対象は、固体、液体、又は、気体である。
図1に示すライダ装置では、説明の簡単化のため、観測対象の数が2つであるものとして、一方の観測対象が第1の観測対象、他方の観測対象が第2の観測対象であるとする。ただし、これは一例に過ぎず、観測対象の数が3つ以上であってもよい。
【0012】
光源1は、例えば、単一周波数のレーザ光を発光するレーザであって、発光スペクトルの線幅が数MHz以下の、半導体レーザ、ファイバレーザ、又は、固体レーザによって実現される。あるいは、光源1は、半導体レーザ、ファイバレーザ及び固体レーザのうち、1つ以上のレーザの組み合わせによって実現される。
光源1は、連続光であるレーザ光をパルス変調部2に出力する。光源1から出力されるレーザ光が有している光周波数は、fである。
【0013】
パルス変調部2は、光分割部3、トリガ生成部4及びパルス変調器5を備えている。
パルス変調部2は、光源1から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光を生成する。
パルス変調部2により生成される複数のパルス光が、例えば、2つのパルス光P,Pであれば、パルス光Pが有している光周波数は、f+fIF1であり、パルス光Pが有している光周波数は、f+fIF2である。例えば、fIF2>fIF1である。fIF2とfIF1との周波数差Δf(=fIF2−fIF1)は、第1の観測対象及び第2の観測対象のそれぞれが、想定される最高速度で移動した場合に生じるドップラー周波数の絶対値の2倍よりも大きい。周波数差Δfが、ドップラー周波数の絶対値の2倍よりも大きければ、第1の観測対象及び第2の観測対象のそれぞれの移動速度が、想定の範囲内の速度である限り、後述する複数の散乱光が有する光周波数は、互いに異なる周波数となる。
パルス変調部2により生成される複数のパルス光が、M(Mは、3つ以上の整数)個のパルス光P,P,・・・,Pであれば、パルス光P(m=1,2,・・・,M)が有している光周波数は、f+fIFmである。例えば、fIFM>fIF(M−1)>・・・>fIF1である。
図1に示すライダ装置では、説明の簡単化のため、パルス変調部2が、2つのパルス光P,Pを生成するものとする。
【0014】
光分割部3は、例えば、ビームスプリッタ、ファイバ型カプラ、又は、ハーフミラーによって実現される。
光分割部3は、光源1から出力されたレーザ光を所定の比率で2分配する。所定の比率としては、例えば、パルス変調器5側が2、後述する光合波部12が1の比率である。
光分割部3は、分配後の一方のレーザ光をパルス変調器5に出力し、分配後の他方のレーザ光を参照光として光合波部12に出力する。
【0015】
トリガ生成部4は、例えば、パルスジェネレータ、ファンクションジェネレータ、又は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)によって実現される。
トリガ生成部4は、図2に示すように、パルス信号生成部4a、基準信号生成部4b、第1のシフト信号生成部4c、第2のシフト信号生成部4d及びスイッチ4eを備えている。
トリガ生成部4は、パルス信号をパルス変調器5、後述するアナログデジタル変換器(以下「A/D変換部」という)14及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
また、トリガ生成部4は、変調周波数fIF1を示す第1の周波数シフト信号と、変調周波数fIF2を示す第2の周波数シフト信号とをパルス変調器5及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
【0016】
図2は、トリガ生成部4の内部を示す構成図である。
パルス信号生成部4aは、パルス幅ΔTのパルス信号を生成する。
パルス信号生成部4aは、パルス幅ΔTのパルス信号をパルス変調器5、A/D変換部14及び信号処理装置15のそれぞれに、周期Trepで繰り返し出力する。
基準信号生成部4bは、周波数fの電気信号である基準信号を生成する。
基準信号生成部4bは、基準信号を第1のシフト信号生成部4c及び第2のシフト信号生成部4dのそれぞれに出力する。
【0017】
第1のシフト信号生成部4cは、基準信号生成部4bから出力された基準信号を取得し、基準信号から、変調周波数fIF1を示す第1の周波数シフト信号を生成する。
第1のシフト信号生成部4cは、第1の周波数シフト信号をスイッチ4eに出力する。
第2のシフト信号生成部4dは、基準信号生成部4bから出力された基準信号を取得し、基準信号から、変調周波数fIF2を示す第2の周波数シフト信号を生成する。
第2のシフト信号生成部4dは、第2の周波数シフト信号をスイッチ4eに出力する。
スイッチ4eは、第1のシフト信号生成部4cから出力された第1の周波数シフト信号と、第2のシフト信号生成部4dから出力された第2の周波数シフト信号とを順番にパルス変調器5及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
【0018】
パルス変調器5は、例えば、音響光学素子を用いている変調素子又はニオブ酸リチウム結晶を用いている変調素子と、半導体光アンプ等の光増幅器とによって実現される。
パルス変調器5は、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分割部3から出力されたレーザ光をパルス変調する。即ち、パルス変調器5は、連続光であるレーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光に変換する。
また、パルス変調器5は、スイッチ4eから第1の周波数シフト信号が出力されれば、パルス幅ΔTを有するパルス光の光周波数fを光周波数f+fIF1にシフトすることによって、光周波数f+fIF1を有するパルス光Pを生成する。
パルス変調器5は、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
パルス変調器5は、スイッチ4eから第2の周波数シフト信号が出力されれば、パルス幅ΔTを有するパルス光の光周波数fを光周波数f+fIF2にシフトすることによって、光周波数f+fIF2を有するパルス光Pを生成する。
パルス変調器5は、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
【0019】
送受信部6は、送信側光学系7、送受分離部8、テレスコープ9及び受信側光学系10を備えている。
送受信部6は、パルス変調部2により生成されたそれぞれのパルス光P,Pを空間に放射する。
送受信部6は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして受信し、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして受信する。
送受信部6は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして受信し、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして受信する。
第1の観測対象がパルス光P,Pの放射方向に移動していれば、散乱光R,Rが有している光周波数は、第1の観測対象の移動に伴うドップラー周波数fdp1を含んでいる。したがって、散乱光Rが有している光周波数は、f+fIF1+fdp1になり、散乱光Rが有している光周波数は、f+fIF2+fdp1になる。
第2の観測対象がパルス光P,Pの放射方向に移動していれば、散乱光R,Rが有している光周波数は、第2の観測対象の移動に伴うドップラー周波数fdp2を含んでいる。したがって、散乱光Rが有している光周波数は、f+fIF1+fdp2になり、散乱光Rが有している光周波数は、f+fIF2+fdp2になる。
【0020】
送信側光学系7は、パルス変調器5から出力されたそれぞれのパルス光P,Pを整形し、整形後のそれぞれのパルス光P,Pを送受分離部8に出力する。パルス光の整形としては、パルス光におけるビーム径の整形のほか、パルス光における広がり角の整形が該当する。
送受分離部8は、例えば、偏光ビームスプリッタと波長板とによって実現される。
送受分離部8は、送信側光学系7から出力された整形後のそれぞれのパルス光P,Pの光軸上に設置されている。
送受分離部8は、送信側光学系7から出力された整形後のそれぞれのパルス光P,Pをテレスコープ9に出力し、テレスコープ9によって集光されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rを受信側光学系10に出力する。
【0021】
テレスコープ9は、例えば、複数の屈折レンズ、又は、複数のミラーによって実現される。
テレスコープ9は、送受分離部8から出力された整形後のそれぞれのパルス光P,Pを空間に放射する。
テレスコープ9は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光する。
テレスコープ9は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光する。
テレスコープ9は、それぞれの散乱光R,R,R,Rを送受分離部8に出力する。
受信側光学系10は、送受分離部8から出力されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rの光軸と、光合波部12の光軸とが一致するように設置されている。
受信側光学系10は、送受分離部8から出力されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rを整形し、整形後のそれぞれの散乱光R,R,R,Rを光合波部12に出力する。散乱光の整形としては、散乱光におけるビーム径の整形のほか、散乱光における広がり角の整形が該当する。
【0022】
光検波部11は、光合波部12、受光部13及びA/D変換部14を備えている。
光検波部11は、送受信部6により受信されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rと光源1から出力されたレーザ光である参照光との合波光C,C,C,Cを検波する。
光検波部11は、それぞれの合波光C,C,C,Cの検波信号D,D,D,Dを信号処理装置15に出力する。
【0023】
光合波部12は、例えば、ビームスプリッタ、又は、ファイバ型カプラによって実現される。
光合波部12は、受信側光学系10から出力された整形後のそれぞれの散乱光R,R,R,Rと光分割部3から出力された参照光との合波光C,C,C,Cを検波する。
即ち、光合波部12は、それぞれの散乱光R,R,R,Rと光源1から出力された参照光とを混合することによって、合波光C,C,C,Cをヘテロダイン検波する。合波光Cが有している光周波数は、fIF1+fdp1であり、合波光Cが有している光周波数は、fIF1+fdp2である。合波光Cが有している光周波数は、fIF2+fdp1であり、合波光Cが有している光周波数は、fIF2+fdp2である。
光合波部12は、それぞれの合波光C,C,C,Cを受光部13に出力する。
【0024】
受光部13は、例えば、フォトダイオードによって実現される。
受光部13は、光合波部12から出力されたそれぞれの合波光C,C,C,Cを電気信号に変換する。
受光部13は、それぞれの電気信号をA/D変換部14に出力する。
受光部13は、受信側光学系10から、散乱光R,R,R,Rのいずれも出力されていない期間中は、電圧がほぼ0の電気信号をA/D変換部14に出力する。
【0025】
A/D変換部14は、トリガ生成部4のパルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号が出力されている期間中、受光部13から出力された電気信号を、アナログ信号からデジタル信号Dig(t)に変換する処理を行う。tは、サンプリング時刻を示す変数である。
A/D変換部14は、デジタル信号Dig(t)を信号処理装置15に出力する。受信側光学系10から散乱光Rが出力されている期間中、デジタル信号Dig(t)は、合波光Cの検波信号Dを示し、受信側光学系10から散乱光Rが出力されている期間中、デジタル信号Dig(t)は、合波光Cの検波信号Dを示している。受信側光学系10から散乱光Rが出力されている期間中、デジタル信号Dig(t)は、合波光Cの検波信号Dを示し、受信側光学系10から散乱光Rが出力されている期間中、デジタル信号Dig(t)は、合波光Cの検波信号Dを示している。
散乱光R,R,R,Rのいずれも出力されていない期間中、デジタル信号Dig(t)は、ほぼ0の値を示している。
【0026】
図3は、実施の形態1に係る信号処理装置15を示す構成図である。
信号処理装置15は、ドップラー周波数算出部16、速度算出部17、SNR(Signal to Noise Ratio)算出部30及び距離特性算出部31を備えている。
信号処理装置15は、A/D変換部14から出力されたデジタル信号Dig(t)に基づいて、第1の観測対象及び第2の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対する第1の観測対象の相対速度Vと、ライダ装置に対する第2の観測対象の相対速度Vとを算出する。
図4は、実施の形態1に係る信号処理装置15のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
【0027】
ドップラー周波数算出部16は、例えば、図4に示すドップラー周波数算出回路41によって実現される。
ドップラー周波数算出部16は、光周波数補正部21及び周波数算出処理部28を備えている。
ドップラー周波数算出部16は、パルス変調部2により生成されたそれぞれのパルス光P,Pが有している光周波数f+fIF1,f+fIF2と、光検波部11から出力されたそれぞれの合波光C,C,C,Cの検波信号D,D,D,Dとを取得する。
ドップラー周波数算出部16は、それぞれのパルス光P,Pが有している光周波数f+fIF1,f+fIF2と、それぞれの検波信号D,D,D,Dとから、それぞれの散乱光R,R,R,Rが有している光周波数に含まれている、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出する。
即ち、ドップラー周波数算出部16は、複数のパルス光P,Pの中の、1つのパルス光Pが有している光周波数f+fIF1と残りのパルス光Pが有している光周波数との周波数差f+fIF2との周波数差Δf(=fIF2−fIF1)を算出する。
ドップラー周波数算出部16は、周波数差Δfと、デジタル信号Dig(t)に含まれているそれぞれの検波信号D,Dとから、第1の観測対象の相対速度Vに対応するドップラー周波数fdp1として、それぞれの散乱光R,Rが有している光周波数に含まれているドップラー周波数fdp1を算出する。
ドップラー周波数算出部16は、周波数差Δfと、デジタル信号Dig(t)に含まれているそれぞれの検波信号D,Dとから、第2の観測対象の相対速度Vに対応するドップラー周波数fdp2として、それぞれの散乱光R,Rが有している光周波数に含まれているドップラー周波数fdp2を算出する。
ドップラー周波数算出部16は、ドップラー周波数fdp1とドップラー周波数fdp2とを周波数算出処理部28に出力する。
【0028】
光周波数補正部21は、レンジビン分割部22、周波数解析部23、レンジ補正部24、周波数補正処理部25、スペクトル積算部26及びピーク周波数検出部27を備えている。
光周波数補正部21は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号及び第2の周波数シフト信号のそれぞれを取得する。
光周波数補正部21は、第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2から、第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1を減算することによって、周波数差Δfを算出する。
光周波数補正部21は、A/D変換部14から、それぞれの検波信号D,D,D,Dを含んでいるデジタル信号Dig(t)を取得する。
光周波数補正部21は、周波数差Δfに基づいて、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1を補正する。
光周波数補正部21は、周波数差Δfに基づいて、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2を補正する。
【0029】
レンジビン分割部22は、A/D変換部14から出力されたデジタル信号Dig(t)を時間方向に分割する。デジタル信号Dig(t)における時間方向の分割幅Δtは、レンジビン幅Rbwに対応している。したがって、サンプリング時刻t=1に係る分割後のデジタル信号Dig(1)は、レンジビン(1)に対応し、サンプリング時刻t=2に係る分割後のデジタル信号Dig(2)は、レンジビン(2)に対応する。また、サンプリング時刻t=3に係る分割後のデジタル信号Dig(3)は、レンジビン(3)に対応する。
レンジビン分割部22は、分割後のそれぞれのデジタル信号Dig(t)をレンジビン信号(n)として周波数解析部23に出力する。nは、レンジビンを示す変数であり、n=1,2,3,・・・である。
【0030】
周波数解析部23は、レンジビン分割部22から出力されたそれぞれのレンジビン信号(n)に対するFFT(Fast Fourier Transform)処理を実施することで、それぞれのレンジビン信号(n)の周波数スペクトルFS(n)を算出する。
周波数解析部23は、それぞれの周波数スペクトルFS(n)をレンジ補正部24に出力する。
【0031】
レンジ補正部24は、周波数解析部23から、それぞれの周波数スペクトルFS(n)を取得する。
レンジ補正部24は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
レンジ補正部24は、周波数スペクトルFS(n)から、ピークスペクトルSp1、ピークスペクトルSp2、ピークスペクトルSp3及びピークスペクトルSp4のそれぞれを検出する。
また、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1に対応するピーク周波数fp1を検出し、ピークスペクトルSp2に対応するピーク周波数fp2を検出する。
レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3に対応するピーク周波数fp3を検出し、ピークスペクトルSp4に対応するピーク周波数fp4を検出する。
【0032】
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp1と第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf1−1|と、ピーク周波数fp1と第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf1−2|とを算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf1−1|が差分の絶対値|Δf1−2|以下であれば、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf1−1|が差分の絶対値|Δf1−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp2と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf2−1|と、ピーク周波数fp2と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf2−2|とを算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf2−1|が差分の絶対値|Δf2−2|以下であれば、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf2−1|が差分の絶対値|Δf2−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
【0033】
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp3と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf3−1|と、ピーク周波数fp3と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf3−2|とを算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf3−1|が差分の絶対値|Δf3−2|以下であれば、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf3−1|が差分の絶対値|Δf3−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp4と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf4−1|と、ピーク周波数fp4と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf4−2|とを算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf4−1|が差分の絶対値|Δf4−2|以下であれば、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf4−1|が差分の絶対値|Δf4−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
【0034】
ここでは、説明の便宜上、ピークスペクトルSp1を有する合波光及びピークスペクトルSp2を有する合波光のそれぞれが、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであるものとする。
また、ピークスペクトルSp3を有する合波光及びピークスペクトルSp4を有する合波光のそれぞれが、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであるものとする。
この場合、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1のレンジビンが、ピークスペクトルSp2のレンジビン以下であれば、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1のレンジビンが、ピークスペクトルSp2のレンジビンよりも大きければ、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
また、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3のレンジビンが、ピークスペクトルSp4のレンジビン以下であれば、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3のレンジビンが、ピークスペクトルSp4のレンジビンよりも大きければ、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
ここでは、説明の便宜上、ピークスペクトルSp1を有する合波光が合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が合波光Cであるとする。また、ピークスペクトルSp3を有する合波光が合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が合波光Cであるとする。
【0035】
レンジ補正部24は、合波光C,Cがパルス光Pに対応する合波光であり、合波光C,Cがパルス光Pに対応する合波光であると判定すると、後述する図11に示すように、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(7)と、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(13)とを補正する。
即ち、レンジ補正部24は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(7)から周期Trep(=6)を減算することによって、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(7)をレンジビン(1)に補正する。
また、レンジ補正部24は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(13)から周期Trep(=6)を減算することによって、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(13)をレンジビン(7)に補正する。
図11の例では、パルス光Pの放射時刻Tとパルス光Pの放射時刻Tとの時刻差がレンジビン(6)に相当しており、周期Trepが6である。このため、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビンであるn’は、1(=7−6)となり、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビンであるn’は、7(=13−6)となる。
レンジ補正部24は、複数の周波数スペクトルFS(1)〜FS(N)のうち、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビン(n)についての周波数スペクトルFS(n)を周波数補正処理部25に出力する。
また、レンジ補正部24は、複数の周波数スペクトルFS(1)〜FS(N)のうち、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在している補正後のレンジビン(n’)についての周波数スペクトルFS(n’)を周波数補正処理部25に出力する。
レンジ補正部24は、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1(=fp1)と、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2(=fp2)と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1(=fp3)と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2(=fp4)とを周波数補正処理部25に出力する。
レンジ補正部24は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンと、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンとを距離特性算出部31に出力する。
【0036】
周波数補正処理部25は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
周波数補正処理部25は、第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1と第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2との周波数差Δf(=fIF2−fIF1)を算出する。
周波数補正処理部25は、レンジ補正部24から、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビン(n)についての周波数スペクトルFS(n)と、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在している補正後のレンジビン(n’)についての周波数スペクトルFS(n’)とを取得する。
周波数補正処理部25は、レンジ補正部24から、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1と、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1と、レンジビン補正後の合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2とを取得する。
周波数補正処理部25は、レンジビン補正後の合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1から周波数差Δfを減算することによって、合波光Cが有している光周波数を補正する。合波光Cが有している補正後の光周波数は、fIF1+fdp1であり、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1と同じ周波数である。
周波数補正処理部25は、レンジビン補正後の合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2から周波数差Δfを減算することによって、合波光Cが有している光周波数を補正する。合波光Cが有している補正後の光周波数は、fIF1+fdp2であり、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2と同じ周波数である。
図3に示す信号処理装置15では、周波数補正処理部25が、レンジビン補正後の合波光C,Cが有している光周波数を、レンジビンを補正していない合波光C,Cが有している光周波数と揃えるように補正している。しかし、これは一例に過ぎず、レンジビンを補正していない合波光C,Cが有している光周波数を、レンジビン補正後の合波光C,Cが有している光周波数と揃えるように補正してもよい。
【0037】
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)についての周波数スペクトルFS(n=1)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)についての周波数スペクトルFS(n=7)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビン(n’=1)についての周波数スペクトルFS(n’=1)の光周波数を、合波光Cが有している補正後の光周波数fIF1+fdp1に変更する。
周波数補正処理部25は、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビン(n’=7)についての周波数スペクトルFS(n’=7)の光周波数を、合波光Cが有している補正後の光周波数fIF1+fdp2に変更する。
周波数補正処理部25は、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)をスペクトル積算部26に出力する。
【0038】
スペクトル積算部26は、周波数補正処理部25から、周波数スペクトルFS(n=1)と、周波数スペクトルFS(n=7)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)とを取得する。
スペクトル積算部26は、周波数スペクトルFS(n=1)と、周波数スペクトルFS(n=7)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)とを積算する。スペクトル積算部26によって積算されることによって、光周波数fIF1+fdp1に対応する周波数スペクトルのスペクトル強度と、光周波数fIF1+fdp2に対応する周波数スペクトルのスペクトル強度とが大きくなる。
スペクトル積算部26は、積算後の周波数スペクトルΣHFSをピーク周波数検出部27に出力する。
【0039】
ピーク周波数検出部27は、スペクトル積算部26から、積算後の周波数スペクトルΣHFSを取得する。
ピーク周波数検出部27は、積算後の周波数スペクトルΣHFSに含まれている複数のスペクトル強度の中で、閾値以上のスペクトル強度FSmax1,FSmax2を特定する。第1の観測対象と第2の観測対象とが空間に存在しているので、2つのスペクトル強度FSmax1,FSmax2が特定される。閾値は、ピーク周波数検出部27の内部メモリに格納されていてもよいし、図1に示すライダ装置の外部から与えられるものであってもよい。
ピーク周波数検出部27は、それぞれのスペクトル強度FSmax1,FSmax2に対応するピーク周波数fpeak1,fpeak2を周波数算出処理部28に出力し、積算後の周波数スペクトルΣHFSをSNR算出部30に出力する。
【0040】
周波数算出処理部28は、ピーク周波数検出部27から、それぞれのピーク周波数fpeak1,fpeak2を取得する。
周波数算出処理部28は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
周波数算出処理部28は、ピーク周波数fpeak1から第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1を減算することによって、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1に含まれているドップラー周波数fdp1を算出する。
周波数算出処理部28は、ピーク周波数fpeak2から第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2を減算することによって、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2に含まれているドップラー周波数fdp2を算出する。
周波数算出処理部28は、それぞれのドップラー周波数fdp1,fdp2を速度算出処理部29に出力する。
【0041】
速度算出部17は、例えば、図4に示す速度算出回路42によって実現される。
速度算出部17は、速度算出処理部29を備えている。
速度算出処理部29は、周波数算出処理部28から、それぞれのドップラー周波数fdp1,fdp2を取得する。
速度算出処理部29は、ドップラー周波数fdp1から、第1の観測対象の相対速度Vを算出する。
速度算出処理部29は、ドップラー周波数fdp2から、第2の観測対象の相対速度Vを算出する。
【0042】
SNR算出部30は、例えば、図4に示すSNR算出回路43によって実現される。
SNR算出部30は、ピーク周波数検出部27から、積算後の周波数スペクトルΣHFSを取得する。
SNR算出部30は、積算後の周波数スペクトルΣHFSを逆FFT処理することによって、それぞれのレンジビン(n)の信号を算出する。
SNR算出部30は、それぞれのレンジビン(n)の信号を帯域外雑音で除算することで、それぞれのレンジビン(n)のSNRを算出する。
SNR算出部30は、それぞれのレンジビン(n)のSNRを距離特性算出部31に出力する。
【0043】
距離特性算出部31は、例えば、図4に示す距離特性算出回路44によって実現される。
距離特性算出部31は、レンジ補正部24から、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)と、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)とを取得する。
距離特性算出部31は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)と、A/D変換部14のA/D変換レートRateと、レンジビン幅Rbwとから、ライダ装置から第1の観測対象までの距離Lを算出する。
距離特性算出部31は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)と、A/D変換部14のA/D変換レートRateと、レンジビン幅Rbwとから、ライダ装置から第2の観測対象までの距離Lを算出する。
距離特性算出部31は、レンジビン(n)の距離とSNR算出部30により算出されたSNRとの対応関係を示す距離特性(a−scope)を例えば図示せぬ表示装置に表示させる。
【0044】
図1では、信号処理装置15の構成要素であるドップラー周波数算出部16、速度算出部17、SNR算出部30及び距離特性算出部31のそれぞれが、図4に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、信号処理装置15が、ドップラー周波数算出回路41、速度算出回路42、SNR算出回路43及び距離特性算出回路44によって実現されるものを想定している。
ドップラー周波数算出回路41、速度算出回路42、SNR算出回路43及び距離特性算出回路44のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0045】
信号処理装置15の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、信号処理装置15が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして、コンピュータのメモリに格納される。コンピュータは、プログラムを実行するハードウェアを意味し、例えば、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)が該当する。
【0046】
図5は、信号処理装置15が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
信号処理装置15が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、ドップラー周波数算出部16、速度算出部17、SNR算出部30及び距離特性算出部31におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムがメモリ51に格納される。そして、コンピュータのプロセッサ52がメモリ51に格納されているプログラムを実行する。
【0047】
また、図4では、信号処理装置15の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図5では、信号処理装置15がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、信号処理装置15における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0048】
次に、図1に示すライダ装置の動作について説明する。
図6は、図1に示すライダ装置の処理手順を示すフローチャートである。
図7は、信号処理装置15の処理手順である信号処理方法を示すフローチャートである。
光源1は、光周波数fの連続光であるレーザ光をパルス変調部2の光分割部3に出力する(図6のステップST1)。
光分割部3は、光源1からレーザ光を受けると、レーザ光を2分配する(図6のステップST2)。
光分割部3は、分配後の一方のレーザ光をパルス変調器5に出力し、分配後の他方のレーザ光を参照光として光合波部12に出力する。
【0049】
トリガ生成部4のパルス信号生成部4aは、パルス幅ΔTのパルス信号を生成する。
パルス信号生成部4aは、パルス信号をパルス変調器5、A/D変換部14及び信号処理装置15のそれぞれに、周期Trepで繰り返し出力する。
トリガ生成部4の基準信号生成部4bは、周波数fの電気信号である基準信号を生成する。
基準信号生成部4bは、基準信号を第1のシフト信号生成部4cに出力する。
【0050】
第1のシフト信号生成部4cは、基準信号生成部4bから基準信号を受けると、基準信号から、変調周波数fIF1を示す第1の周波数シフト信号を生成する(図6のステップST3)。
第1のシフト信号生成部4cは、第1の周波数シフト信号をスイッチ4eに出力する。
スイッチ4eは、第1のシフト信号生成部4cから第1の周波数シフト信号を受けると、第1の周波数シフト信号をパルス変調器5及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
【0051】
パルス変調器5は、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分割部3から出力されたレーザ光をパルス変調する。
即ち、パルス変調器5は、光分割部3から出力されたレーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光Pに変換する。
パルス変調器5は、スイッチ4eから第1の周波数シフト信号が出力されると、パルス光Pの光周波数fを光周波数f+fIF1にシフトすることによって、光周波数f+fIF1を有するパルス光Pを生成する。
パルス変調器5は、パルス光Pを送信側光学系7に出力する(図6のステップST4)。
【0052】
送信側光学系7は、パルス変調器5からパルス光Pを受けると、パルス光Pを整形し、整形後のパルス光Pを送受分離部8に出力する。
送受分離部8は、送信側光学系7から整形後のパルス光Pを受けると、整形後のパルス光Pをテレスコープ9に出力する。
テレスコープ9は、送受分離部8から出力された整形後のパルス光Pを空間に放射する(図6のステップST5)。
第1の観測対象と第2の観測対象とがパルス光Pの照射領域内の空間に存在していれば、図8に示すように、パルス光Pが第1の観測対象及び第2の観測対象のそれぞれによって散乱される。
図8は、ライダ装置から放射されたパルス光Pと、第1の観測対象からの散乱光Rと、第2の観測対象からの散乱光Rとを示す説明図である。
図8の例では、ライダ装置から第1の観測対象までの距離Lが、ライダ装置から第2の観測対象までの距離Lよりも短い。このため、第1の観測対象からの散乱光Rは、第2の観測対象からの散乱光Rよりも早くライダ装置に戻ってくる。
図9は、ライダ装置から放射されたパルス光P,Pの放射時刻T,Tと、第1の観測対象からの散乱光R,Rの受信時刻T’,T’と、第2の観測対象からの散乱光R,Rの受信時刻T’,T’とを示す説明図である。
図9において、横軸は時間を示し、縦軸は光強度を示している。
【0053】
テレスコープ9は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、散乱光Rを送受分離部8に出力する(図6のステップST6)。
図9の例では、ライダ装置から第1の観測対象までの距離Lが近いため、テレスコープ9からパルス光Pが放射される前に、第1の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されている。一方、ライダ装置から第2の観測対象までの距離Lが遠いため、テレスコープ9からパルス光Pが放射された後に、第2の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されている。
図9の例では、テレスコープ9からパルス光Pが放射された後に、第2の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されている。しかし、これは一例に過ぎず、テレスコープ9からパルス光Pが放射される前に、第2の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されているものであってもよい。
また、図9の例では、テレスコープ9からパルス光Pが放射される前に、第1の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されている。しかし、これは一例に過ぎず、テレスコープ9からパルス光Pが放射された後に、第1の観測対象からの散乱光Rがテレスコープ9によって集光されているものであってもよい。
【0054】
送受分離部8は、テレスコープ9から第1の観測対象からの散乱光Rを受けると、散乱光Rを受信側光学系10に出力する。
受信側光学系10は、送受分離部8から散乱光Rを受けると、散乱光Rを整形し、整形後の散乱光Rを光合波部12に出力する。
【0055】
光合波部12は、受信側光学系10から整形後の散乱光Rを受けると、整形後の散乱光Rと光源1から出力された参照光とを混合することによって、合波光Cをヘテロダイン検波する(図6のステップST7)。合波光Cが有している光周波数は、fIF1+fdp1である。
光合波部12は、合波光Cを受光部13に出力する。
【0056】
受光部13は、光合波部12から合波光Cを受けると、合波光Cを電気信号に変換し、電気信号をA/D変換部14に出力する。
A/D変換部14は、トリガ生成部4のパルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号が出力されている期間中、受光部13から出力された電気信号を、アナログ信号からデジタル信号Dig(t)に変換する処理を行う。
A/D変換部14は、合波光Cの検波信号Dを含むデジタル信号Dig(t)を信号処理装置15のレンジビン分割部22に出力する。
【0057】
トリガ生成部4のパルス信号生成部4aは、パルス信号を出力してから、周期Trepの時間が経過すると、パルス信号をパルス変調器5、A/D変換部14及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
基準信号生成部4bは、基準信号を第1のシフト信号生成部4cに出力してから、周期Trepの時間が経過すると、基準信号を第2のシフト信号生成部4dに出力する。
第2のシフト信号生成部4dは、基準信号生成部4bから基準信号を受けると、基準信号から、変調周波数fIF2を示す第2の周波数シフト信号を生成する(図6のステップST8)。
第2のシフト信号生成部4dは、第2の周波数シフト信号をスイッチ4eに出力する。
図1に示すライダ装置では、fIF2>fIF1であり、変調周波数fIF2と変調周波数fIF1との周波数差Δf(=fIF2−fIF1)は、第1の観測対象及び第2の観測対象のそれぞれが、想定される最高速度で移動した場合に生じるドップラー周波数の絶対値の2倍よりも大きい。周波数差Δfが、ドップラー周波数の絶対値の2倍よりも大きければ、第1の観測対象及び第2の観測対象のそれぞれの移動速度が、想定の範囲内の速度である限り、それぞれの散乱光R,R,R,Rの光周波数が、互いに異なる周波数になる。
スイッチ4eは、第2のシフト信号生成部4dから第2の周波数シフト信号を受けると、第2の周波数シフト信号をパルス変調器5及び信号処理装置15のそれぞれに出力する。
【0058】
パルス変調器5は、スイッチ4eから第2の周波数シフト信号が出力されると、パルス光Pの光周波数fを光周波数f+fIF2にシフトすることによって、光周波数f+fIF2を有するパルス光Pを生成する。
パルス変調器5は、パルス光Pを送信側光学系7に出力する(図6のステップST9)。
【0059】
送信側光学系7は、パルス変調器5からパルス光Pを受けると、パルス光Pを整形し、整形後のパルス光Pを送受分離部8に出力する。
送受分離部8は、送信側光学系7から整形後のパルス光Pを受けると、整形後のパルス光Pをテレスコープ9に出力する。
テレスコープ9は、送受分離部8から出力された整形後のパルス光Pを空間に放射する(図6のステップST10)。
【0060】
テレスコープ9は、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、散乱光Rを送受分離部8に出力する(図6のステップST11)。
また、テレスコープ9は、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、散乱光Rを送受分離部8に出力する(図6のステップST11)。
図9の例では、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pである散乱光Rと、第1の観測対象によって散乱された後のパルス光Pである散乱光Rとが同時にテレスコープ9によって集光されている。
ここでの同時は、散乱光Rの一部と散乱光Rの一部とが互いに重なり合っていればよく、散乱光Rの受信時刻と散乱光Rの受信時刻とが厳密に同じ時刻であるものに限るものではない。したがって、ここでの同時には、散乱光Rの受信時刻と散乱光Rの受信時刻とが多少ずれているものも含まれる。
【0061】
送受分離部8は、テレスコープ9から、第2の観測対象からの散乱光Rと第1の観測対象からの散乱光Rとが互いに重なり合っている散乱光R2,3を受けると、散乱光R2,3を受信側光学系10に出力する。
受信側光学系10は、送受分離部8から散乱光R2,3を受けると、散乱光R2,3を整形し、整形後の散乱光R2,3を光合波部12に出力する。
【0062】
光合波部12は、受信側光学系10から整形後の散乱光R2,3を受けると、整形後の散乱光R2,3と光源1から出力された参照光とを混合することによって、合波光C2,3をヘテロダイン検波する(図6のステップST12)。合波光C2,3が有している光周波数は、fIF1+fdp2,fIF2+fdp1である。
光合波部12は、合波光C2,3を受光部13に出力する。
【0063】
受光部13は、光合波部12から合波光C2,3を受けると、合波光C2,3を電気信号に変換し、電気信号をA/D変換部14に出力する。
A/D変換部14は、トリガ生成部4のパルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号が出力されている期間中、受光部13から出力された電気信号を、アナログ信号からデジタル信号Dig(t)に変換する処理を行う。
A/D変換部14は、合波光C2,3の検波信号D2,3を含むデジタル信号Dig(t)を信号処理装置15のレンジビン分割部22に出力する。
【0064】
その後、テレスコープ9は、第2の観測対象によって散乱された後のパルス光Pを散乱光Rとして集光し、散乱光Rを送受分離部8に出力する(図6のステップST13)。
送受分離部8は、テレスコープ9から、第2の観測対象からの散乱光Rを受けると、散乱光Rを受信側光学系10に出力する。
受信側光学系10は、送受分離部8から散乱光Rを受けると、散乱光Rを整形し、整形後の散乱光Rを光合波部12に出力する。
【0065】
光合波部12は、受信側光学系10から整形後の散乱光Rを受けると、整形後の散乱光Rと光源1から出力された参照光とを混合することによって、合波光Cをヘテロダイン検波する(図6のステップST14)。合波光Cが有している光周波数は、fIF2+fdp2である。
光合波部12は、合波光Cを受光部13に出力する。
【0066】
受光部13は、光合波部12から合波光Cを受けると、合波光Cを電気信号に変換し、電気信号をA/D変換部14に出力する。
A/D変換部14は、トリガ生成部4のパルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号が出力されている期間中、受光部13から出力された電気信号を、アナログ信号からデジタル信号Dig(t)に変換する処理を行う。
A/D変換部14は、合波光Cの検波信号Dを含むデジタル信号Dig(t)を信号処理装置15のレンジビン分割部22に出力する。
【0067】
レンジビン分割部22は、A/D変換部14からデジタル信号Dig(t)を受けると、デジタル信号Dig(t)を時間方向に分割する(図7のステップST21)。
デジタル信号Dig(t)における時間方向の分割幅Δtは、レンジビン幅Rbwに対応している。
テレスコープ9が、図11に示すように、レンジビン(0)に相当するサンプリング時刻t=0のときにパルス光Pを放射し、レンジビン(6)に相当するサンプリング時刻t=6のときにパルス光Pを放射した場合を想定する。
そして、ライダ装置から第1の観測対象までの距離Lが、レンジビン(1)の距離に対応し、ライダ装置から第2の観測対象までの距離Lが、レンジビン(7)の距離に対応しているものとする。
この場合、分割後のデジタル信号Dig(1)は、合波光Cの検波信号Dを含んでおり、分割後のデジタル信号Dig(7)は、合波光C2,3の検波信号D2,3を含んでおり、分割後のデジタル信号Dig(13)は、合波光Cの検波信号Dを含んでいる。
レンジビン分割部22は、分割後のそれぞれのデジタル信号Dig(t)をレンジビン信号(n)として周波数解析部23に出力する。
【0068】
周波数解析部23は、レンジビン分割部22から出力されたそれぞれのレンジビン信号(n)に対するFFT処理を実施することで、それぞれのレンジビン信号(n)の周波数スペクトルFS(n)を算出する(図7のステップST22)。
周波数解析部23は、それぞれの周波数スペクトルFS(n)をレンジ補正部24に出力する。
レンジビン信号(7)は、合波光C2,3の検波信号D2,3を含んでいる。合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1とが異なるため、レンジビン信号(7)は、図10Aに示すように、2つのピークスペクトルを有している。
レンジビン信号(1)は、合波光Cの検波信号Dを含んでいる。このため、レンジビン信号(1)は、1つのピークスペクトルを有している。
レンジビン信号(13)は、合波光Cの検波信号Dを含んでいる。このため、レンジビン信号(13)は、1つのピークスペクトルを有している。
レンジビン信号(1),(7),(13)以外のレンジビン信号(n)は、ピークスペクトルを有しておらず、当該レンジビン信号(n)が有している周波数スペクトルは、ほぼ0である。
図10Aは、レンジビン信号(7)が有しているピークスペクトルを示す説明図である。
図10Bは、パルス光Pが有している光周波数とパルス光Pが有している光周波数とが同一周波数である場合の、レンジビン信号(7)が有しているピークスペクトルを示す説明図である。図10Bの場合、合波光Cと合波光Cとを識別することができない。
図10A及び図10Bにおいて、横軸は時間を示し、縦軸はスペクトル強度を示している。
【0069】
レンジ補正部24は、周波数解析部23から、それぞれの周波数スペクトルFS(n)を取得する。
レンジ補正部24は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
レンジ補正部24は、それぞれの周波数スペクトルFS(n)から、複数のピークスペクトルを検出する。
即ち、レンジ補正部24は、周波数スペクトルFS(1)から、ピークスペクトルSp1を検出する。
レンジ補正部24は、周波数スペクトルFS(7)から、ピークスペクトルSp2と、ピークスペクトルSp3とを検出する。
また、レンジ補正部24は、周波数スペクトルFS(13)から、ピークスペクトルSp4を検出する。
また、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1に対応するピーク周波数fp1を検出し、ピークスペクトルSp2に対応するピーク周波数fp2を検出する。
レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3に対応するピーク周波数fp3を検出し、ピークスペクトルSp4に対応するピーク周波数fp4を検出する。
【0070】
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp1と第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf1−1|を算出し、ピーク周波数fp1と第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf1−2|を算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf1−1|が差分の絶対値|Δf1−2|以下であれば、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf1−1|が差分の絶対値|Δf1−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp2と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf2−1|を算出し、ピーク周波数fp2と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf2−2|を算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf2−1|が差分の絶対値|Δf2−2|以下であれば、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf2−1|が差分の絶対値|Δf2−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
【0071】
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp3と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf3−1|を算出し、ピーク周波数fp3と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf3−2|を算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf3−1|が差分の絶対値|Δf3−2|以下であれば、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf3−1|が差分の絶対値|Δf3−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピーク周波数fp4と変調周波数fIF1との差分の絶対値|Δf4−1|を算出し、ピーク周波数fp4と変調周波数fIF2との差分の絶対値|Δf4−2|を算出する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf4−1|が差分の絶対値|Δf4−2|以下であれば、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、差分の絶対値|Δf4−1|が差分の絶対値|Δf4−2|よりも大きければ、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
【0072】
ここでは、説明の便宜上、ピークスペクトルSp1を有する合波光及びピークスペクトルSp2を有する合波光のそれぞれが、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであるものとする。
また、ピークスペクトルSp3を有する合波光及びピークスペクトルSp4を有する合波光のそれぞれが、パルス光Pに対応する合波光C、又は、パルス光Pに対応する合波光Cであるものとする。
この場合、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1のレンジビンが、ピークスペクトルSp2のレンジビン以下であれば、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp1のレンジビンが、ピークスペクトルSp2のレンジビンよりも大きければ、ピークスペクトルSp1を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
【0073】
また、レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3のレンジビンが、ピークスペクトルSp4のレンジビン以下であれば、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
レンジ補正部24は、ピークスペクトルSp3のレンジビンが、ピークスペクトルSp4のレンジビンよりも大きければ、ピークスペクトルSp3を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が、パルス光Pに対応する合波光Cであると判定する。
ここでは、説明の便宜上、ピークスペクトルSp1を有する合波光が合波光Cであり、ピークスペクトルSp2を有する合波光が合波光Cであるとする。また、ピークスペクトルSp3を有する合波光が合波光Cであり、ピークスペクトルSp4を有する合波光が合波光Cであるとする。
【0074】
レンジ補正部24は、合波光C,Cがパルス光Pに対応する合波光であり、合波光C,Cがパルス光Pに対応する合波光であると判定すると、図11に示すように、合波光Cが存在しているレンジビン(7)と、合波光Cが存在しているレンジビン(13)とを補正する。
即ち、レンジ補正部24は、合波光Cが存在しているレンジビン(7)から周期Trep(=6)を減算することによって、合波光Cが存在しているレンジビン(7)をレンジビン(1)に補正する(図7のステップST23)。
また、レンジ補正部24は、合波光Cが存在しているレンジビン(13)から周期Trep(=6)を減算することによって、合波光Cが存在しているレンジビン(13)をレンジビン(7)に補正する(図7のステップST23)。
【0075】
図11は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンと、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビンと、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンとを示す説明図である。
図11において、横軸は時間を示し、縦軸は光強度を示している。図11では、レンジビンを「レンジ」のように簡略している。
図11の例では、散乱光Rが存在しているレンジビンがレンジビン(1)、散乱光R,Rが存在しているレンジビンがレンジビン(7)、散乱光Rが存在しているレンジビンがレンジビン(13)である。
パルス光Pの放射時刻Tとパルス光Pの放射時刻Tとの時刻差がレンジビン(6)に相当しており、周期Trepが6である。このため、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビンであるn’は、1(=7−6)となり、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビンであるn’は、7(=13−6)となる。
レンジ補正部24は、複数の周波数スペクトルFS(1)〜FS(N)のうち、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビン(n)についての周波数スペクトルFS(n)を周波数補正処理部25に出力する。
また、レンジ補正部24は、複数の周波数スペクトルFS(1)〜FS(N)のうち、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在している補正後のレンジビン(n’)についての周波数スペクトルFS(n’)を周波数補正処理部25に出力する。
レンジ補正部24は、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1(=fp1)と、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2(=fp2)と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1(=fp3)と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2(=fp4)とを周波数補正処理部25に出力する。
レンジ補正部24は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンと、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビンとを距離特性算出部31に出力する。
【0076】
周波数補正処理部25は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
周波数補正処理部25は、第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1と第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2との周波数差Δf(=fIF2−fIF1)を算出する。
周波数補正処理部25は、レンジ補正部24から、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在しているレンジビン(n)についての周波数スペクトルFS(n)と、合波光C,Cに係る散乱光R,Rが存在している補正後のレンジビン(n’)についての周波数スペクトルFS(n’)とを取得する。
周波数補正処理部25は、レンジ補正部24から、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1と、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1と、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2とを取得する。
【0077】
周波数補正処理部25は、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp1から周波数差Δfを減算することによって、合波光Cが有している光周波数を補正する(図7のステップST24)。合波光Cが有している補正後の光周波数は、fIF1+fdp1であり、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1と同じ周波数である。
周波数補正処理部25は、合波光Cが有している光周波数fIF2+fdp2から周波数差Δfを減算することによって、合波光Cが有している光周波数を補正する(図7のステップST24)。合波光Cが有している補正後の光周波数は、fIF1+fdp2であり、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2と同じ周波数である。
【0078】
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)についての周波数スペクトルFS(n=1)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)についての周波数スペクトルFS(n=7)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビン(n’=1)についての周波数スペクトルFS(n’=1)の光周波数を、合波光Cが有している補正後の光周波数fIF1+fdp1に変更する。
周波数補正処理部25は、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)をスペクトル積算部26に出力する。
周波数補正処理部25は、合波光Cに係る散乱光Rが存在している補正後のレンジビン(n’=7)についての周波数スペクトルFS(n’=7)の光周波数を、合波光Cが有している補正後の光周波数fIF1+fdp2に変更する。
周波数補正処理部25は、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)をスペクトル積算部26に出力する。
【0079】
スペクトル積算部26は、周波数補正処理部25から、周波数スペクトルFS(n=1)と、周波数スペクトルFS(n=7)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)とを取得する。
スペクトル積算部26は、周波数スペクトルFS(n=1)と、周波数スペクトルFS(n=7)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=1)と、光周波数変更後の周波数スペクトルFS(n’=7)とを積算する(図7のステップST25)。スペクトル積算部26によって積算されることによって、光周波数fIF1+fdp1に対応する周波数スペクトルのスペクトル強度と、光周波数fIF1+fdp2に対応する周波数スペクトルのスペクトル強度とが大きくなる。
スペクトル積算部26は、積算後の周波数スペクトルΣHFSをピーク周波数検出部27に出力する。
【0080】
ピーク周波数検出部27は、スペクトル積算部26から、積算後の周波数スペクトルΣHFSを取得する。
ピーク周波数検出部27は、積算後の周波数スペクトルΣHFSに含まれている複数のスペクトル強度の中で、閾値以上のスペクトル強度FSmax1,FSmax2を特定する。第1の観測対象と第2の観測対象とが空間に存在しているので、2つのスペクトル強度FSmax1,FSmax2が特定される。
ピーク周波数検出部27は、スペクトル強度FSmax1に対応するピーク周波数fpeak1と、スペクトル強度FSmax2に対応するピーク周波数fpeak2とを周波数算出処理部28に出力する(図7のステップST26)。
ピーク周波数fpeak1は、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1及び光周波数補正後の合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp1のそれぞれに対応している。
ピーク周波数fpeak2は、合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2及び光周波数補正後の合波光Cが有している光周波数fIF1+fdp2のそれぞれに対応している。
また、ピーク周波数検出部27は、積算後の周波数スペクトルΣHFSをSNR算出部30に出力する。
【0081】
周波数算出処理部28は、ピーク周波数検出部27から、それぞれのピーク周波数fpeak1,fpeak2を取得する。
周波数算出処理部28は、トリガ生成部4から、第1の周波数シフト信号と第2の周波数シフト信号とを取得する。
周波数算出処理部28は、ピーク周波数fpeak1から第1の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF1を減算することによって、合波光C及び光周波数補正後の合波光Cのそれぞれが有している光周波数fIF1+fdp1に含まれているドップラー周波数fdp1を算出する(図7のステップST27)。
周波数算出処理部28は、ピーク周波数fpeak2から第2の周波数シフト信号が示す変調周波数fIF2を減算することによって、合波光C及び光周波数補正後の合波光Cのそれぞれが有している光周波数fIF1+fdp2に含まれているドップラー周波数fdp2を算出する(図7のステップST27)。
周波数算出処理部28は、それぞれのドップラー周波数fdp1,fdp2を速度算出処理部29に出力する。
【0082】
速度算出処理部29は、周波数算出処理部28から、それぞれのドップラー周波数fdp1,fdp2を取得する。
速度算出処理部29は、以下の式(1)に示すように、ドップラー周波数fdp1から、第1の観測対象の相対速度Vを算出する(図7のステップST28)。
=λ×fdp1/2 (1)
式(1)において、λは、それぞれのパルス光P,Pの波長である。
【0083】
速度算出処理部29は、以下の式(2)に示すように、ドップラー周波数fdp2から、第2の観測対象の相対速度Vを算出する(図7のステップST28)。
=λ×fdp2/2 (2)
速度算出処理部29は、第1の観測対象の相対速度V及び第2の観測対象の相対速度Vのそれぞれを例えば図示せぬ表示装置に表示させる。
【0084】
SNR算出部30は、ピーク周波数検出部27から、積算後の周波数スペクトルΣHFSを取得する。
SNR算出部30は、積算後の周波数スペクトルΣHFSを逆FFT処理することによって、それぞれのレンジビン(n)の信号を算出する。
SNR算出部30は、それぞれのレンジビン(n)の信号を帯域外雑音で除算することで、それぞれのレンジビン(n)のSNRを算出する。
SNR算出部30は、それぞれのレンジビン(n)のSNRを距離特性算出部31に出力する。
【0085】
距離特性算出部31は、レンジ補正部24から、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)と、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)とを取得する。
距離特性算出部31は、以下の式(3)に示すように、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=1)と、A/D変換部14のA/D変換レートRateと、レンジビン幅Rbwとから、ライダ装置から第1の観測対象までの距離Lを算出する。
=c×Rate×n/2
=c×Rate×1/2(3)
式(3)において、cは、光速である。
【0086】
距離特性算出部31は、以下の式(4)に示すように、合波光Cに係る散乱光Rが存在しているレンジビン(n=7)と、A/D変換部14のA/D変換レートRateと、レンジビン幅Rbwとから、ライダ装置から第2の観測対象までの距離Lを算出する。
=c×Rate×n/2
=c×Rate×7/2(4)
距離特性算出部31は、図12に示すように、レンジビン(n)の距離とSNR算出部30により算出されたSNRとの対応関係を示す距離特性(a−scope)を例えば図示せぬ表示装置に表示させる。
図12は、レンジビン(n)の距離とSNRとの対応関係を示す距離特性(a−scope)の説明図である。
図12において、横軸はレンジビン(n)の距離[m]を示し、縦軸はSNR[dB]を示している。
【0087】
以上の実施の形態1では、信号処理装置15が、空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出するように構成した。光源1から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光が生成されて、それぞれのパルス光が空間に放射され、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光が散乱光として受信されて、それぞれの散乱光とレーザ光との合波光が検波されている。信号処理装置15は、生成された複数のパルス光が有している光周波数と、それぞれの合波光の検波信号とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれている、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出部16と、ドップラー周波数算出部16により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する速度算出部17とを備えている。したがって、信号処理装置15は、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる。
【0088】
図1に示すライダ装置は、光を扱う複数の構成要素を備えており、それぞれの構成要素は、他の構成要素と光ファイバによって接続されている。そして、それぞれの構成要素が、他の構成要素と光ファイバを介して光を送受信している。しかし、これは一例に過ぎず、それぞれの構成要素が、他の構成要素と空間伝搬によって光を送受信するようにしてもよい。複数の構成要素は、光源1、光分割部3、パルス変調器5、送信側光学系7、送受分離部8、テレスコープ9、受信側光学系10、光合波部12及び受光部13である。
【0089】
図3に示す信号処理装置15では、ドップラー周波数算出部16が、光周波数補正部21及び周波数算出処理部28を備えている。また、光周波数補正部21は、それぞれの検波信号D,D,D,DのSNRを高めるために、レンジビン分割部22、周波数解析部23、レンジ補正部24、周波数補正処理部25及びスペクトル積算部26を備えている。
しかし、それぞれの検波信号D,DのSNRを高めなくても、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数V,Vを算出することが可能であれば、光周波数補正部21が、レンジビン分割部22、周波数解析部23、レンジ補正部24、周波数補正処理部25及びスペクトル積算部26を備えていなくてもよい。
光周波数補正部21が、レンジビン分割部22、周波数解析部23、レンジ補正部24、周波数補正処理部25及びスペクトル積算部26を備えていない場合、ピーク周波数検出部27は、それぞれの検波信号D,DをFFT処理して、それぞれの検波信号D,Dの周波数スペクトルを求める。そして、ピーク周波数検出部27は、それぞれの周波数スペクトルに含まれている複数のスペクトル強度の中で、閾値以上のスペクトル強度FSmax1,FSmax2を特定する。ピーク周波数検出部27は、スペクトル強度FSmax1に対応するピーク周波数fpeak1と、スペクトル強度FSmax2に対応するピーク周波数fpeak2とを周波数算出処理部28に出力する。
【0090】
実施の形態2.
実施の形態2では、パルス変調器5が、光分岐部5a、第1の変調部5b、第2の変調部5c及び光合波部5dを備えているライダ装置について説明する。
【0091】
実施の形態2に係るライダ装置の構成は、実施の形態1に係るライダ装置の構成と同様であり、実施の形態2に係るライダ装置を示す構成図は、図1である。
図13は、実施の形態2に係るライダ装置のパルス変調器5を示す構成図である。
図13に示すパルス変調器5は、光分岐部5a、第1の変調部5b、第2の変調部5c及び光合波部5dを備えている。
光分岐部5aは、カプラー、又は、光スイッチ等によって実現される。
光分岐部5aは、光分割部3から出力されたレーザ光を2分岐し、2分岐後の一方のレーザ光を第1の変調部5bに出力し、2分岐後の他方のレーザ光を第2の変調部5cに出力する。
図13に示す光分岐部5aは、光分割部3から出力されたレーザ光を2分岐している。しかし、これは一例に過ぎず、光分岐部5aは、光分割部3から出力されたレーザ光の出力先を、第1の変調部5b又は第2の変調部5cに、交互に切り替えるスイッチであってもよい。
【0092】
第1の変調部5bは、例えば、音響光学素子を用いている変調素子又はニオブ酸リチウム結晶を用いている変調素子と、半導体光アンプ等の光増幅器とによって実現される。
第1の変調部5bは、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分岐部5aから出力されたレーザ光をパルス変調することで、当該レーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光に変換する。
また、第1の変調部5bは、トリガ生成部4のスイッチ4eから出力された第1の周波数シフト信号に従って、当該パルス光の光周波数fを光周波数f+fIF1にシフトすることによって、光周波数f+fIF1を有しているパルス光Pを生成する。
第1の変調部5bは、パルス光Pを光合波部5dに出力する。
【0093】
第2の変調部5cは、例えば、音響光学素子を用いている変調素子又はニオブ酸リチウム結晶を用いている変調素子と、半導体光アンプ等の光増幅器とによって実現される。
第2の変調部5cは、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分岐部5aから出力されたレーザ光をパルス変調することで、当該レーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光に変換する。
また、第2の変調部5cは、トリガ生成部4のスイッチ4eから出力された第2の周波数シフト信号に従って、当該パルス光の光周波数fを光周波数f+fIF2にシフトすることによって、光周波数f+fIF2を有しているパルス光Pを生成する。
第2の変調部5cは、パルス光Pを光合波部5dに出力する。
【0094】
光合波部5dは、第1の変調部5bからパルス光Pを受けると、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
光合波部5dは、第2の変調部5cからパルス光Pを受けると、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
【0095】
次に、実施の形態2に係るライダ装置の動作について説明する。パルス変調器5以外は、図1に示すライダ装置と同様であるため、ここでは、主にパルス変調器5の動作について説明する。
光分岐部5aは、光分割部3から、連続光であるレーザ光を受けると、レーザ光を2分岐する。
光分岐部5aは、2分岐後の一方のレーザ光を第1の変調部5bに出力し、2分岐後の他方のレーザ光を第2の変調部5cに出力する。
【0096】
第1の変調部5bは、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分岐部5aから出力されたレーザ光をパルス変調することで、当該レーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光に変換する。
第1の変調部5bは、トリガ生成部4のスイッチ4eから第1の周波数シフト信号を受けると、第1の周波数シフト信号に従って、当該パルス光の光周波数fを光周波数f+fIF1にシフトすることによって、光周波数f+fIF1を有しているパルス光Pを生成する。
第1の変調部5bは、パルス光Pを光合波部5dに出力する。
【0097】
第2の変調部5cは、パルス信号生成部4aからパルス幅ΔTのパルス信号を受ける毎に、当該パルス信号に従って、光分岐部5aから出力されたレーザ光をパルス変調することで、当該レーザ光を、パルス幅ΔTを有するパルス光に変換する。
トリガ生成部4のスイッチ4eは、第1の周波数シフト信号を第1の変調部5bに出力してから、周期Trepの時間が経過すると、第2の周波数シフト信号を第2の変調部5cに出力する。
第2の変調部5cは、トリガ生成部4のスイッチ4eから第2の周波数シフト信号を受けると、第2の周波数シフト信号に従って、当該パルス光の光周波数fを光周波数f+fIF2にシフトすることによって、光周波数f+fIF2を有しているパルス光Pを生成する。
第2の変調部5cは、パルス光Pを光合波部5dに出力する。
【0098】
光合波部5dは、第1の変調部5bからパルス光Pを受けると、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
光合波部5dは、第1の変調部5bからパルス光Pを受けたのち、周期Trepの時間が経過することで、第2の変調部5cからパルス光Pを受けると、パルス光Pを送信側光学系7に出力する。
【0099】
パルス変調器5が、光分岐部5a、第1の変調部5b、第2の変調部5c及び光合波部5dを備えているライダ装置は、図1に示すライダ装置と同様に、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる。
【0100】
実施の形態3.
実施の形態3では、スキャナ61及び切替速度制御部62を備えるライダ装置について説明する。
【0101】
図14は、実施の形態3に係るライダ装置を示す構成図である。図14において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
スキャナ61は、送受信部6のテレスコープ9から放射されるそれぞれのパルス光P,Pの放射方向を切り替えるものである。
即ち、スキャナ61は、テレスコープ9から放射されるそれぞれのパルス光P,Pの光軸を時間的に掃引することで、それぞれのパルス光P,Pの走査範囲をスキャンするものである。
切替速度制御部62は、スキャナ61による放射方向の切替速度を制御する。
即ち、切替速度制御部62は、送受信部6により放射されるそれぞれのパルス光P,Pがアイセーフ条件を満足するように、パルス光Pとパルス光Pとの繰り返し周波数に応じて切替速度を制御する。
【0102】
次に、図14に示すライダ装置の動作について説明する。スキャナ61及び切替速度制御部62以外は、図1に示すライダ装置と同様であるため、ここでは、スキャナ61及び切替速度制御部62の動作についてのみ説明する。
図14に示すライダ装置が、アイセーフ条件を満足するように、それぞれのパルス光P,Pを放射する場合、それぞれのパルス光P,Pのパワーと、それぞれのパルス光P,Pにおける走査範囲のスキャン速度とが制限される。
したがって、図14に示すライダ装置から放射されるレーザ光の周期Trepを短くすれば、それぞれのパルス光P,Pにおける走査範囲のスキャン速度Vscanを速めることが可能である。一方、図14に示すライダ装置から放射されるレーザ光の周期Trepを長くすれば、それぞれのパルス光P,Pにおける走査範囲のスキャン速度Vscanを遅くする必要がある。
【0103】
ライダ装置が、アイセーフ条件を満足しているか否かを判定する指標として、パルスレーザの被ばく放出限界AELが用いられることがある(例えば非特許文献1を参照)。
[非特許文献1]
“レーザ安全ガイドブック”、光産業技術振興協会編、2006年、新技術コミュニケーションズ出版
【0104】
図14に示すライダ装置から放射されるそれぞれのパルス光P,Pの波長は、例えば、1.5μm帯である。
波長が1.5μm帯のパルスレーザの場合、単一パルスに対する露光量は、8×10−3[J]である。
放出持続時間が3秒以下である、波長が1.5μm帯のパルスレーザが、出射するパルスレーザを走査する場合、Φが1[mm]の円形開口絞りを横切る時間によって、時間基準Tが定義される。
時間基準Tは、以下の式(5)のように表される。
【0105】
【0106】
時間基準Tに含まれるパルスレーザのパルス総数Totalは、Total=frep×Tによって表される。frep=1/Trepである。
また、1パルス当りのエネルギーEpulse=Power×Trepは、以下の式(6)に示すように、パルス総数Totalに依存する補正係数Kが乗算された単一パルスに対する被ばく放出限界AELsを超えてはならない。補正係数Kは既値である。
Epulse < AELs×K (6)
したがって、図14に示すライダ装置から放射されるそれぞれのパルス光P,Pがアイセーフ条件を満足するには、繰り返し周波数frepとスキャン速度Vscanとが、以下の関係式(7)を満足している必要がある。
【0107】
【0108】
切替速度制御部62は、繰り返し周波数frepを示す周波数情報を取得し、周波数情報が示す繰り返し周波数frepと補正係数Kとを関係式(7)に代入することによって、アイセーフ条件を満足するスキャン速度Vscanを算出する。
切替速度制御部62は、スキャン速度Vscanを実現するためのスキャナ駆動信号を生成し、スキャナ駆動信号をスキャナ61に出力する。
図14に示すライダ装置から放射されるパルス光の繰り返し周波数frepが下げられれば、切替速度制御部62は、スキャン速度Vscanを速めるためのスキャナ駆動信号を生成する。
図14に示すライダ装置から放射されるパルス光の繰り返し周波数frepが上げられれば、切替速度制御部62は、スキャン速度Vscanを遅くするためのスキャナ駆動信号を生成する。
【0109】
スキャナ61のスキャン速度Vscanは、切替速度制御部62から出力されたスキャナ駆動信号によって制御される。
スキャナ61は、送受信部6のテレスコープ9から放射されるそれぞれのパルス光P,Pの放射方向をスキャン速度Vscanで切り替える。
【0110】
以上の実施の形態3では、送受信部6から放射されるパルス光の放射方向を切り替えるスキャナ61と、送受信部6から放射されるパルス光がアイセーフ条件を満足するように、パルス光の繰り返し周波数に応じて、スキャナ61による放射方向の切替速度を制御する切替速度制御部62とを備えるように、図14に示すライダ装置を構成した。したがって、図14に示すライダ装置は、図1に示すライダ装置と同様に、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる。また、図14に示すライダ装置は、パルス光がアイセーフ条件を満足する状態で、パルス光の放射方向を切り替えることができる。
【0111】
実施の形態4.
実施の形態4では、観測対象が気体であり、気体の吸収波長帯に含まれる波長を有する第1のレーザ光と、第1のレーザ光よりも気体による吸収率が低い第2のレーザ光とを順番に出力する光源71を備えるライダ装置について説明する。
【0112】
実施の形態4では、ライダ装置を設置している気中内に観測対象の気体であるガス(以下「観測対象ガス」という)が存在しているものものとする。ただし、これは一例に過ぎず、ライダ装置を設置している気中内に観測対象ガスがなく、窓等を介して別空間に観測対象ガスが存在しているものであってもよい。
観測対象ガスとしては、例えば、大気中の構成分子が該当する。大気中の構成分子は、窒素、酸素、二酸化炭素、又は、水蒸気である。大気中の構成分子には、窒素酸化物(NOx)のような大気汚染物質も含まれる。ライダ装置において、気体の吸収波長帯は既値である。観測対象ガスは、散乱体を含んでいる。散乱体としては、雲、煙、塵、エアロゾル、又は、雨滴等が該当する。
実施の形態4に係る信号処理装置15は、光源71が第1のレーザ光を出力したときの検波信号の周波数と、光源71が第2のレーザ光を出力したときの検波信号の周波数とから、気体の密度を算出する密度算出部72を備えている。
【0113】
図15は、実施の形態4に係る信号処理装置15を含むライダ装置を示す構成図である。図15において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
図16は、実施の形態4に係る信号処理装置15を示す構成図である。図17は、実施の形態4に係る信号処理装置15のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図16及び図17において、図3及び図4と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。
光源71は、例えば、単一周波数のレーザ光を発光するレーザであって、発光スペクトルの線幅が数MHz以下の、半導体レーザ、ファイバレーザ、又は、固体レーザによって実現される。あるいは、光源71は、半導体レーザ、ファイバレーザ及び固体レーザのうち、1つ以上のレーザの組み合わせによって実現される。
光源71は、気体の吸収波長帯に含まれる波長を有する第1のレーザ光と、第1のレーザ光よりも気体による吸収率が低い第2のレーザ光とをパルス変調部2の光分割部3に順番に出力する。
【0114】
密度算出部72は、例えば、図17に示す密度算出回路81によって実現される。
密度算出部72は、光源71から第1のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号D〜Dの周波数を解析し、光源71から第2のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号D〜Dの周波数を解析する。
密度算出部72は、それぞれの周波数の解析結果から、気体の密度denを算出する。
【0115】
図16では、信号処理装置15の構成要素であるドップラー周波数算出部16、速度算出部17、SNR算出部30、距離特性算出部31及び密度算出部72のそれぞれが、図17に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、信号処理装置15が、ドップラー周波数算出回路41、速度算出回路42、SNR算出回路43、距離特性算出回路44及び密度算出回路81によって実現されるものを想定している。
ドップラー周波数算出回路41、速度算出回路42、SNR算出回路43、距離特性算出回路44及び密度算出回路81のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0116】
信号処理装置15の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、信号処理装置15が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
信号処理装置15が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、ドップラー周波数算出部16、速度算出部17、SNR算出部30、距離特性算出部31及び密度算出部72におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムが図5に示すメモリ51に格納される。そして、図5に示すプロセッサ52がメモリ51に格納されているプログラムを実行する。
【0117】
また、図17では、信号処理装置15の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、図5では、信号処理装置15がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、信号処理装置15における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0118】
図15に示すライダ装置の動作について説明する。光源71及び密度算出部72以外は、図1に示すライダ装置と同様であるため、ここでは、主に、光源71及び密度算出部72の動作について説明する。
まず、光源71は、気体の吸収波長帯に含まれる波長を有する第1のレーザ光をパルス変調部2の光分割部3に出力する。光源71から出力される第1のレーザ光が有する光周波数は、f0Aである。
光検波部11は、光源71から第1のレーザ光が出力されているとき、実施の形態1と同様に、送受信部6により受信されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rと光源1から出力されたレーザ光である参照光との合波光を検波する。
ここでは、説明の便宜上、光検波部11により検波されるそれぞれの合波光を、C1A,C2A,C3A,C4Aのように表記する。
光検波部11は、それぞれの合波光C1A,C2A,C3A,C4Aの検波信号D1A,D2A,D3A,D4Aを信号処理装置15に出力する。
【0119】
レンジビン分割部22、周波数解析部23、レンジ補正部24、周波数補正処理部25及びスペクトル積算部26のそれぞれは、実施の形態1と同様に動作する。
スペクトル積算部26は、積算後の周波数スペクトルを密度算出部72に出力する。
ここでは、説明の便宜上、スペクトル積算部26から出力される積算後の周波数スペクトルをΣHFSのように表記する。
【0120】
次に、光源71は、第1のレーザ光よりも気体による吸収率が低い第2のレーザ光をパルス変調部2の光分割部3に出力する。光源71から出力される第2のレーザ光が有する光周波数は、f0Bである。
図18は、気体の吸収波長帯、光源71から出力された第1のレーザ光が有する波長及び光源71から出力された第2のレーザ光が有する波長を示す説明図である。
図18において、横軸は波長であり、縦軸は気体に対するレーザ光の透過率である。
破線は、光源71から出力された第1のレーザ光を示しており、一点鎖線は、光源71から出力された第2のレーザ光を示している。実線は、気体の吸収波長帯を示している。第1の波長は、気体の吸収波長帯に含まれており、第2の波長は、気体の吸収波長帯に含まれていない。気体による第2の波長の透過率が、気体による第1の波長の透過率よりも大きい。即ち、気体による第2の波長の吸収率が、気体による第1の波長の吸収率よりも小さい。
【0121】
光検波部11は、光源71から第2のレーザ光が出力されているとき、実施の形態1と同様に、送受信部6により受信されたそれぞれの散乱光R,R,R,Rと光源1から出力されたレーザ光である参照光との合波光を検波する。
ここでは、説明の便宜上、光検波部11により検波されるそれぞれの合波光を、C1B,C2B,C3B,C4Bのように表記する。
光検波部11は、それぞれの合波光C1B,C2B,C3B,C4Bの検波信号D1B,D2B,D3B,D4Bを信号処理装置15に出力する。
【0122】
密度算出部72は、光源71から第1のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号D1A〜D4Aの周波数を解析し、光源71から第2のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号D〜Dの周波数を解析する。
密度算出部72は、それぞれの周波数の解析結果から、気体の密度denを算出する。
以下、密度算出部72による密度denの算出処理を具体的に説明する。
【0123】
密度算出部72は、光周波数補正部21から、光源71から第1のレーザ光が出力されたときの、それぞれのスペクトル強度FSmax1,FSmax2を取得する。ここでは、説明の便宜上、密度算出部72により取得されるそれぞれのスペクトル強度を、FSmax1A(n1A),FSmax2A(n2A)のように表記する。n1Aは、スペクトル強度FSmax1Aのレンジビンを示し、n2Aは、スペクトル強度FSmax2Aのレンジビンを示している。
また、密度算出部72は、光周波数補正部21から、光源71から第2のレーザ光が出力されたときの、スペクトル強度FSmax1,FSmax2を取得する。ここでは、説明の便宜上、密度算出部72により取得されるそれぞれのスペクトル強度を、FSmax1B(n1B),FSmax2B(n2B)のように表記する。n1Bは、スペクトル強度FSmax1Bのレンジビンを示し、n2Bは、スペクトル強度FSmax2Bのレンジビンを示している。
【0124】
図16に示す信号処理装置15では、密度算出部72が、光周波数補正部21からスペクトル強度FSmax1A(n1A),FSmax2A(n2A),FSmax1B(n1B),FSmax2B(n2B)を取得している。しかし、これは一例に過ぎず、密度算出部72が、光周波数補正部21と同様の光周波数補正部を備えていれば、当該光周波数補正部からスペクトル強度FSmax1A(n1A),FSmax2A(n2A),FSmax1B(n1B),FSmax2B(n2B)を取得するようにしてもよい。
【0125】
密度算出部72は、スペクトル強度FSmax1A(n1A),FSmax2A(n2A),FSmax1B(n1B),FSmax2B(n2B)を以下の式(8)に代入することによって、気体の密度denを算出する。
【0126】
式(8)において、kONは、第1のレーザ光が有している波長の吸収係数であり、既値の係数である。kOFFは、第2のレーザ光が有している波長の吸収係数であり、既値の係数である。lnは、底がeの対数関数を示す数学記号である。
【0127】
以上の実施の形態4では、観測対象が気体であり、光源71が、気体の吸収波長帯に含まれる波長を有する第1のレーザ光と、第1のレーザ光よりも気体による吸収率が低い第2のレーザ光とを順番に出力する。光源71から第1のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号の周波数を解析し、光源71から第2のレーザ光が出力されたときに、光検波部11から出力されたそれぞれの検波信号の周波数を解析し、それぞれの周波数の解析結果から、気体の密度を算出する密度算出部72を備えるように、図15に示すライダ装置を構成した。したがって、図15に示すライダ装置は、図1に示すライダ装置と同様に、遠方散乱光と近傍散乱光とが、互いに重なり合った状態であっても、遠方の観測対象の移動速度と近傍の観測対象の移動速度とが同じ速度であるか否かにかかわらず、それぞれの観測対象の移動速度を算出することができる。また、図15に示すライダ装置は、観測対象である気体の密度を算出することができる。
【0128】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法及びライダ装置に適している。
【符号の説明】
【0130】
1 光源、2 パルス変調部、3 光分割部、4 トリガ生成部、4a パルス信号生成部、4b 基準信号生成部、4c 第1のシフト信号生成部、4d 第2のシフト信号生成部、4e スイッチ、5 パルス変調器、5a 光分岐部、5b 第1の変調部、5c 第2の変調部、5d 光合波部、6 送受信部、7 送信側光学系、8 送受分離部、9 テレスコープ、10 受信側光学系、11 光検波部、12 光合波部、13 受光部、14 A/D変換部、15 信号処理装置、16 ドップラー周波数算出部、17 速度算出部、21 光周波数補正部、22 レンジビン分割部、23 周波数解析部、24 レンジ補正部、25 周波数補正処理部、26 スペクトル積算部、27 ピーク周波数検出部、28 周波数算出処理部、29 速度算出処理部、30 SNR算出部、31 距離特性算出部、41 ドップラー周波数算出回路、42 速度算出回路、43 SNR算出回路、44 距離特性算出回路、51 メモリ、52 プロセッサ、61 スキャナ、62 切替速度制御部、71 光源、72 密度算出部、81 密度算出回路。
【要約】
信号処理装置(15)が、空間に存在している複数の観測対象におけるそれぞれの移動速度として、ライダ装置に対するそれぞれの観測対象の相対速度を算出するように構成した。光源(1)から出力されたレーザ光から、光周波数が互いに異なる複数のパルス光が生成されて、それぞれのパルス光が空間に放射され、それぞれの観測対象によって散乱された後のそれぞれのパルス光が散乱光として受信されて、それぞれの散乱光とレーザ光との合波光が検波されている。信号処理装置(15)は、生成された複数のパルス光が有している光周波数と、それぞれの合波光の検波信号とから、それぞれの散乱光が有している光周波数に含まれている、それぞれの観測対象の移動に伴うドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出部(16)と、ドップラー周波数算出部(16)により算出されたそれぞれのドップラー周波数から、それぞれの観測対象の相対速度を算出する速度算出部(17)とを備えている。
図1
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