特許第6980211号(P6980211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980211
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】末梢神経細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20211202BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20211202BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   C12N5/0793
   C12N5/0735
   C12N5/10
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-545754(P2018-545754)
(86)(22)【出願日】2017年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2017037922
(87)【国際公開番号】WO2018074567
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2020年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-207211(P2016-207211)
(32)【優先日】2016年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 正彦
(72)【発明者】
【氏名】六代 範
(72)【発明者】
【氏名】吉山 伸司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛行
【審査官】 山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−532961(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/087917(WO,A1)
【文献】 Oz Pomp et al.,Generation of Peripheral Sensory and Sympathetic Neurons and Neural Crest Cells from Human Embryonic Stem Cells,Stem Cells,2005年,Vol.23,pp.923-930
【文献】 Mai Nakamura et al.,Differentiation patterns of mouse embryonic stem cells and induced pluripotent stem cells into neurons,Cytotechnology,2016年05月,Vol.68, No.3,pp.409-417
【文献】 Katherine S. Lee et al.,Human Sensory Neurons Derived from Induced Pluripotent Stem Cells Support Varicella-Zoster Virus Infection,PLOS ONE,2012年,Vol.7, Issue 12, Article number e53010,pp.1-10
【文献】 Fuxin Shi et al.,BMP4 induction of sensory neurons from human embryonic stem cells and reinnervation of sensory epithelium,European Journal of Neuroscience,2007年,Vol.26,pp.3016-3023
【文献】 Katharina Gunther et al.,Rapid Monolayer Neural Induction of induced Pluripotent Stem Cells Yields Stably Proliferating Neural Stem Cells,Journal of Stem Cell Research & Therapy,2016年06月20日,Vol.6, Issue 6, Article number 1000341,pp.1-6
【文献】 Michael P. Schwartz et al.,Human pluripotent stem cell-derived neural constructs for predicting neural toxicity,PNAS,2015年,Vol.112, No.40,pp.12516-12521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ES細胞又はiPS細胞から末梢神経細胞を作成する方法であって、以下の工程(a)〜(b)を含む、末梢神経細胞の作成方法。
(a)ES細胞又はiPS細胞を培養し、成長したコロニーを培養器から剥離することなく神経前駆細胞へ分化誘導する工程。
(b)工程(a)で作成した神経前駆細胞を培養器から剥離した後に、培養器に対して2×105〜6×105cells/cm2の播種密度で細胞を播種し、14〜42日間培養する工程。
【請求項2】
工程(a)において、さらに以下の工程(a’)を含む、請求項1に記載の方法。
(a’)ES細胞又はiPS細胞を、フィーダーセルを使用せずに、接着培養する工程。
【請求項3】
工程(a)又は(a’)において培養する細胞がiPS細胞である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)における培養の培養期間が21〜28日間である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)における培養時の培地がNGFを含むものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、培養後の培養物中における、βIII−Tubulin、peripherinおよびBrn3aのいずれか1以上の発現が陽性である細胞が85%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は末梢神経細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経は、中枢神経(脳と脊髄)以外のすべての神経であり、運動神経や感覚神経を含み、外部からの中枢神経への情報入力、筋肉など効果器官への中枢からの出力を担っている。末梢神経障害は、糖尿病やアルコールの過剰摂取、ビタミンBの欠乏、抗がん剤等の薬剤による副作用等の原因により引き起こされ、筋肉の萎縮、しびれや痛みの発生、立ちくらみ、下痢、便秘等の様々な症状が現れ、場合によっては不可逆的に症状が治らない場合も存在する。
【0003】
近年、未分化な細胞(幹細胞)を分化誘導することで、損傷して障害を受けた神経、組織、器官等の補填を図る再生医療の研究が進められている。幹細胞である胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)より神経細胞が得られれば、再生医療はもとより、神経障害に関するin vitroやin vivoでの様々な研究に利用できる可能性があり、現在、幹細胞を神経細胞に分化誘導する技術が注目を集めている。
【0004】
従来、iPS細胞を分化誘導して末梢神経細胞を作成する技術としては、iPS細胞を、マウス胎児線維芽細胞(MEFs細胞)をフィーダーセルとして用いてコロニーを成長させた後iPS細胞を剥離し、接着培養して神経前駆細胞へ分化誘導し、次いで14日間培養して末梢神経細胞へ分化させる方法が報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、この方法により作成された末梢神経細胞は、神経障害に関するin vitroやin vivoの研究、ひいては再生医療に利用できるほど高純度ではなく、また分化誘導率も良いとは云えず、より高純度な末梢神経細胞を効率的に作成する技術が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PLOS ONE December 2012 Vol. 7, issue 12, e53010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、未分化細胞から高純度の末梢神経細胞を効率よく製造する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞から末梢神経細胞を分化誘導する条件を検討したところ、当該未分化細胞を培養してコロニーのまま神経前駆細胞へ分化誘導し、さらに末梢神経細胞への分化誘導を、細胞の播種密度を高めてコンフルエントな状態で行うことにより、高純度の末梢神経細胞を効率よく製造できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)〜9)に係るものである。
1)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞から末梢神経細胞を作成する方法であって、以下の工程(a)〜(b)を含む、末梢神経細胞の作成方法。
(a)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞を培養し、成長したコロニーを培養器から剥離することなく神経前駆細胞へ分化誘導する工程。
(b)工程(a)で作成した神経前駆細胞を培養器から剥離した後に、培養器に対して2×10〜6×10cells/cmの播種密度で細胞を播種し、14〜42日間培養する工程。
2)工程(a)において、さらに以下の工程(a’)を含む、1)に記載の方法。
(a’)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞を、フィーダーセルを使用せずに、接着培養する工程。
3)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞が、iPS細胞である1)又は2)に記載の方法。
4)工程(b)における培養の培養期間が21〜28日間である、1)〜3)のいずれかに記載の方法。
5)工程(b)における培養時の培地がNGFを含むものである1)〜4)のいずれかに記載の方法。
6)工程(b)において、培養後の培養物中における、βIII−Tubulin、peripherinおよびBrn3aのいずれか1以上の発現が陽性である細胞が85%以上である、1)〜4)のいずれかに記載の方法。
7)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞から分化誘導された末梢神経細胞であって、当該末梢神経細胞の培養物中において、βIII−Tubulin、peripherinおよびBrn3aのいずれか1以上の発現が陽性である細胞が85%以上である、末梢神経細胞。
8)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞から分化誘導された末梢神経細胞であって、当該末梢神経細胞中で発現しているBrn3aのmRNA量が、未分化細胞に対して30倍以上である、末梢神経細胞。
9)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞がiPS細胞である、7)又は8)に記載の末梢神経細胞。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞から、生体中の末梢神経細胞と同等の形態と性質を有する高純度の末梢神経細胞を効率よく製造することができる。本発明の末梢神経細胞は、患者自身の体細胞より作製した人工多能性幹細胞等より作成できることから、末梢神経障害に対する再生医療分野におけるドナー不足の問題と拒絶反応の問題を同時に解決し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】末梢神経細胞を含む培養物のFACS(fluorescence activated cell sorting)データ(実施例1)。上段:βIII−tubulin、中段:Peripherin、下段:Brn3a
図2】末梢神経細胞を含む培養物のFACSデータ(比較例1)。上段:βIII−tubulin、中段:Peripherin、下段:Brn3a
図3】末梢神経細胞の培養物の顕微鏡写真(実施例1)。
図4】末梢神経細胞の培養物の顕微鏡写真(比較試験例)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の末梢神経細胞の作成方法は、以下の工程(a)〜(b)を含むものである。
(a)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞を培養し、成長したコロニーを培養器から剥離することなく神経前駆細胞へ分化誘導する工程。
(b)工程(a)で作成した神経前駆細胞を培養器から剥離した後に、培養器に対して2×10〜6×10cells/cmの播種密度で細胞を播種し、14〜42日間培養する工程。
【0012】
本発明において用いられる「末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞」(以下、単に「未分化細胞」とも称する)としては、末梢神経細胞への分化能を有する未分化の細胞であれば何れであってもよく、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)等を挙げることができるが、細胞の供給量の点で、ES細胞及びiPS細胞であるのが好ましく、iPS細胞であるのがより好ましい。
【0013】
ここで、iPS細胞とは、哺乳動物体細胞または未分化幹細胞に、特定の因子を導入することにより、ES細胞と同様の分化多能性を有するように再プログラミング(初期化)された細胞をいう(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell、国際公開第2007/069666号))。
本発明で用いられるiPS細胞は、上記の機能を有する限り、公知の人工多能性幹細胞及びこれと等価な人工多能性幹細胞のすべてを含み、細胞源、導入因子、導入方法等は特に限定されない。
【0014】
工程(a);
本工程は、末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞を培養し、成長(成熟)した未分化細胞のコロニーを培養器から剥離することなく神経前駆細胞へ分化誘導する工程である。
特に、工程(a’)末梢神経細胞への分化能を有する未分化細胞を、フィーダーセルを使用せずに、接着培養する工程を含むことが好ましい。
ここで、フィーダーセルとは、細胞を培養する際に、目的とする細胞の増殖や分化に必要な環境を整えるために補助的に用いられる細胞をいう。従来、ES細胞やiPS細胞の培養は、培地と添加物だけでは補えない栄養素(細胞間接着因子も含む)の補完を目的に、マウス胎児線維芽細胞等のフィーダーセルと共培養して行われるが、本工程における細胞培養は、フィーダーセルを用いることなく行われることが好ましい。本工程は、細胞付着性を有する素材(足場材)を用いてコーティングした培養器で接着培養することが好ましい。
【0015】
足場材としては、フィブロネクチン(FN)、ビトロネクチン(VN)、ラミニン等の細胞接着因子があり、特にラミニンを含む細胞接着因子の混合物である基底膜マトリックス(コーニング社製の成長因子低減マトリゲル(マトリゲルGFR))を用いるのが好ましい。
【0016】
本工程の培養に使用される培地としては、未分化細胞の培養に適するものであれば特に限定されないが、例えば、ReproFF2培地、DMEM/F12培地等の動物細胞、特に未分化細胞のフィーダーセルフリー培養に適する培地を基本培地とし、これに適宜添加剤を加えることにより調製した培地を用いることができる。
ここで、添加剤としては、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGF)、血清代替物、例えば、KnockOutTM Serum Replacement等が挙げられる。
【0017】
培養開始時の細胞の播種密度は、特に限定されないが、例えば、培養器に対して1×10〜5×10cells/cm、好ましくは5×10〜2×10cells/cmである。
培養条件は、特に限定されるものではないが、培養温度は、例えば30〜40℃、好ましくは36℃〜38℃であり、また、CO濃度は、例えば1〜10%、好ましくは4〜6%である。培養は、未分化細胞のコロニーの密度が培養器に対して50%前後に達するまで行うことが好ましい。
【0018】
培養器としては、細胞を培養可能なものであれば特に限定されないが、例えば、ディッシュ(コーニング社製の60mm 組織培養ディッシュ)が挙げられる。
【0019】
ES細胞やiPS細胞を誘導する際には、フィーダーセルを除去する理由より、細胞を培養後、培養器から細胞を剥離した上で誘導を行うことが多いが、本工程では、未分化細胞のコロニーの密度が50%前後に達したら、培養器から未分化細胞を剥離することなく、コロニーのまま神経前駆細胞へ分化誘導することができる。
ここで剥離とは、細胞剥離液等を使用して培養器に接着している細胞を培養器から剥がすことをいう。
【0020】
神経前駆細胞へ分化誘導するための培地は、DMEM/F12培地などの動物細胞用の培地を基本培地とし、これに細胞の維持増殖に必要な各種栄養源や分化誘導に必要な各成分を適宜添加することにより調製することができる。
添加剤としては、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、KSR(KnockoutTM Serum Replacement)等の血清代替物、FGFR阻害剤(例えば、SU5402)、γ−セクレターゼ阻害剤(例えば、RO4929097)、GSK3阻害剤(例えば、CHIR99021)、TGFβファミリー阻害剤(例えば、A83−01)、ALK阻害剤(例えば、LDN−193189)、PMA(Purmorphamine)、レチノイン酸等を挙げることができる。
【0021】
培養条件は、特に限定されるものではないが、培養温度は、例えば30〜40℃、好ましくは36℃〜38℃であり、また、CO濃度は、例えば1〜10%、好ましくは4〜6%である。培養期間は、好ましくは、6〜14日間、より好ましくは8〜12日である。
【0022】
工程(b);
本工程は、工程(a)で作成された神経前駆細胞を培養器から剥離した後に、培養器に対して2×10〜6×10cells/cmの播種密度で細胞を播種し、14〜42日間培養する工程である。
すなわち、工程(a)で作成された神経前駆細胞は、末梢神経細胞へ分化誘導する前に、培養器から剥離され、細胞の播種密度を高めてコンフルエントな状態(培養器の底面及び側面一杯に細胞が接着した状態)で誘導される。これにより、分化誘導効率を高め、また分化マーカーを高度に発現する末梢神経細胞の製造が可能となる。
【0023】
神経前駆細胞の剥離は、公知の細胞剥離液(例えば、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)、ディスパーゼ(合同酒精社)等)を用いることにより行うことができる。
剥離回収された神経前駆細胞は、適宜洗浄操作を行った後に、工程(a)で用いたものと同様の足場材でコーティング処理された培養器に播種されるが、この場合の播種密度は、培養器に対して2×10〜6×10cells/cmである。斯かる播種密度とすることにより、90〜100%コンフルエントな状態での培養が可能となる。
具体的には、例えば、培養器を、培養面積が1/2〜1倍、好ましくは2/3倍程度のものに変更して(例えば、直径60mmの培養皿から得た細胞を、6wellプレート(直径35mm)の2wellに播種する)、播種することにより行うことができる。
【0024】
培養に用いられる培地は、NGF(nerve growth factor)を添加した培地が好ましい。基本培地としては工程(a)で用いたのと同様のDMEM/F12培地などの動物細胞用の培地が挙げられ、これに適宜分化誘導に必要な成分を添加することにより調製することができる。
NGF以外の添加剤としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質、KSR(KnockoutTM Serum Replacement)等の血清代替物、N2−サプリメント、B27−サプリメント、インスリン、ニューロトロフィン−3(neurotrophin-3;NT−3)、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(glial cell line-derived growth factor;GDNF)、ビタミン類(アスコルビン酸他)、ジブチリルcAMP、BMP−4(bone morphogenetic protein-4)アミノ酸等を挙げることができる。
【0025】
培養条件は、例えば、好ましくは30〜40℃、より好ましくは36〜38℃で、CO濃度は、例えば1〜10%、好ましくは4〜6%である。
【0026】
培養期間は、14〜42日間であるが、分化マーカーの発現率を上昇させる点から、より好ましくは14〜35日間、さらに好ましくは14〜28日間であり、特に21日間とすることが好ましい。
【0027】
斯くして分化誘導された末梢神経細胞は、培養液中より公知の細胞剥離液(例えば、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)、ディスパーゼ(合同酒精社)等)を用いることにより単離することが出来る。
【0028】
本発明の方法により製造された末梢神経細胞は、末梢神経細胞の分化マーカーとして知られている、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3aを発現し、in vivoにおける末梢神経細胞と同等の形態と性質を有する。加えて、本発明の方法により、従来の方法と比べ高純度な末梢神経細胞を製造することができる。ここで、末梢神経細胞の純度は、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3a等の発現量で評価することができ、高純度とは、例えば、Brn3aの発現量が、分化前の未分化細胞の30倍以上、具体的には30〜300倍であることが挙げられる。
また、本発明の方法では、工程(b)の培養終了後の培養物中におけるβIII−tubulin、Peripherin及びBrn3aのいずれか1以上の発現が陽性である細胞が85%以上、特にβIII−tubulin、Peripherin及びBrn3aのすべての発現が陽性である細胞が85%以上である末梢神経細胞を得ることができる。すなわち本発明の方法により得られる培養物中の末梢神経細胞の割合は85%以上であり、本発明の方法は、末梢神経細胞への分化誘導効率が極めて優れている。
【0029】
斯くして、本発明の方法によって製造された末梢神経細胞は、再生医療のための細胞製剤として使用でき、また本発明の方法によって、未分化細胞から分化誘導された末梢神経細胞を含む培養物は、研究、再生医療、或いは細胞製剤の原料として使用できる。
本発明の方法によって製造された末梢神経細胞を用いた細胞製剤としては、例えば、末梢神経細胞がネットワーク化して調製される細胞シート、細胞線維等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
実施例1
(1)ヒトiPS細胞の準備と培養(工程(a)中の工程(a’))
ヒトiPS細胞(JCRB1363細胞、以下iPS細胞)はJCRB細胞バンクから入手した。iPS細胞は成長因子低減マトリゲル(マトリゲルGFR、コーニング社)でコートされた60mmディッシュ(コーニング社)に、細胞凍結保存管1本分の細胞(約1×10cells/cm)を播種した。
マトリゲルGFRのコートは、マトリゲルGFR原液をDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で50倍希釈し、一面を覆う程度ディッシュに注ぎ、室温で3時間静置し、使用までは4℃で保存することにより行った。
培養は、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、10ng/mL basic fibroblast growth factor(bFGF、リプロセル社)を含むPeproFF2培地(リプロセル社)で、5%CO、37℃の条件で行った。培地は2、3日毎に交換し、iPSコロニーが成長したら継代を行った。
【0031】
(2)神経前駆細胞への分化(工程(a))
iPS細胞コロニーの密度が培養器に対して50%前後に達した後、iPS細胞はディッシュから剥離を行わずに、DMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で細胞を洗浄後、以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO、37℃の条件で10日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%knockoutTM serum replacement(KSR、ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、0.3μM SU5402(Sigma−Aldrich社)、1.0μM RO4929097(Cellagen Technology社)、5μM CHIR99021(BioVision社)、1μM A83−01(Cellagen Technology社)、0.2μM LDN−193189(Axon Medichem社)、0.1μM retinoic acid(Sigma−Aldrich社)。
【0032】
(3)末梢神経細胞への分化(工程(b))
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞を、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用してディッシュから剥がした。回収したiPS由来細胞は遠心分離(1000rpm、5分)で培地と分離し、分化因子などを含まないDMEM/F12培地に懸濁し、再び遠心分離機(1000 rpm、5分)を行い、iPS由来細胞を洗浄した。
沈殿として得たiPS由来細胞を、マトリゲルGFRコート済み6wellプレート(1wellの直径35mm)(イワキ社)の2wellに播種し(面積としては60mm ディッシュの2/3倍相当。細胞播種密度:4×10cells/cm)、以下の成分を含むDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で、5%CO、37℃の条件で21日間培養した(コンフルエントな状態での培養)。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%KSR(ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、x1 N2サプリメント(ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL neurotrophin−3(NT−3、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL brain−derived neurotrophic factor(BDNF、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL nerve growth factor(NGF、ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL glial cell line−derived growth factor(GDNF、和光純薬社)、200μM ascorbic acid(Sigma−Aldrich社)、0.5mM dibutyryl cAMP(Enzo Life Science International社)。
【0033】
(4)末梢神経細胞の単離
培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄後、Acutaseを加え、室温で5〜15分放置した。培養器をゆっくり傾け、細胞が剥がれたのを確認後、末梢神経細胞をピペットで回収した。
【0034】
実施例2
実施例1(3)における培養時間を42日間とし、実施例1と同様にして、末梢神経細胞を製造した。
【0035】
比較例1
実施例1(3)において、神経前駆細胞へ分化誘導したiPS由来細胞の培養容器への播種を、マトリゲルGFRコート済み60mmディッシュ2枚に播種(面積としては60mmディッシュの2倍。細胞播種密度:1×10cells/cm)することとした他は実施例1と同様にして末梢神経細胞を製造した(非コンフルエントな状態での培養)。
【0036】
比較例2
実施例1(3)を以下の方法に変更して行った。
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞をディッシュから剥がす剥離処理を行うことなく、以下の成分を含むDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で、5%CO、37℃の条件で14日間培養した(神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞をディッシュから剥がさずに末梢神経細胞への分化誘導を行った)。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%KSR(ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、x1 N2サプリメント(ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL neurotrophin−3(NT−3、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL brain−derived neurotrophic factor(BDNF、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL nerve growth factor(NGF、ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL glial cell line−derived growth factor(GDNF、和光純薬社)、200μM ascorbic acid(Sigma−Aldrich社)、0.5mM dibutyryl cAMP(Enzo Life Science International社)。
次いで、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用して末梢神経細胞をディッシュから剥がした。回収した末梢神経細胞は遠心分離(1000rpm、5分)で培地と分離し、分化因子などを含まないDMEM/F12培地に懸濁し、再び遠心分離機(1000 rpm、5分)を行い、末梢神経細胞を洗浄した。
沈殿として得た末梢神経細胞を、マトリゲルGFRコート済み6wellプレート(1wellの直径35mm)(イワキ社)の2wellに播種し(面積としては60mm ディッシュの2/3倍相当。細胞播種密度:6×10cells/cm)、5%CO、37℃の条件で7日間追加培養した(コンフルエントな状態での培養)。
【0037】
試験例
(1)Brn3a、Peripherinの発現量の測定
実施例1及び比較例1で単離された末梢神経細胞について、末梢神経細胞に特異的に発現すると考えられているBrn3a及びPeripherinのmRNA量を、以下に示すように、リアルタイムRT−PCR法を用いて測定した。測定する細胞からNucleoSPin RNA II(MACHEREY−NAGEL社)RNA抽出キットを用いて全RNAを抽出した。全RNAを鋳型にReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡社)を用いてcDNAを合成した。そして、合成したcDNAを鋳型としKAPA SYBR FAST qPCRキット(Kapa Biosystems社)とリアルタイムPCRシステム StepOnePlus(ライフテクノロジーズ社)を使用して測定を行った。内在性コントロール遺伝子としてGAPDHを用い、ΔΔct法によりターゲット遺伝子発現の定量を行った。また、比較例2で単離された末梢神経細胞についても、Brn3aのmRNA量を同様に測定した。
【0038】
(2)培養物中における末梢神経細胞の割合
実施例1及び比較例1〜2の工程(c)で得られた培養終了後の培養物について、以下に示すように、FACSにより、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3aを指標として、末梢神経分化マーカーを発現している細胞の割合を測定した。測定する細胞はAcutaseを用いて剥離し、遠心分離を用いて剥離液の除去と細胞の洗浄を行った。細胞沈殿はPBSに懸濁してセルストレーナー(FALCON社)を通してシングルセルにした。FIX & PERM Cell Fixation & Cell Permeabilization Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて細胞の固定と細胞膜透過処理を行った。その後、5%FBS、5%goat血清、0.1%NaNを含むPBSでブロッキングを行った。βIII−tubulinはAlexa Fluor647 Mouse anti-β-Tubulin、ClassIII抗体(BD社)を用いて蛍光ラベルした。PeripherinとBrn3aはZenon Rabbit igG Labeling Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を結合したAnti−peripherin抗体(ミリポア社)、Anti−BRN3A抗体(アブカム社)をそれぞれ用いて蛍光ラベルした。固定と透過処理のみを行い蛍光ラベルしていない細胞をコントロールとした。測定はFACSVerseフローサイトメーター(DB社)で行い、データ解析はFLOWJOソフトウェア(FLOWJO社)を用いて行った。
【0039】
(3)形態観察
実施例1の工程(c)で得られた培養終了後の培養物について、細胞固定を行わずに、培養状態のまま、顕微鏡にて撮影を行った。顕微鏡は、カールツァイス社PrimoVertカメラ一体型顕微鏡(位相差モード)を使用した。
【0040】
(4)結果
1)実施例1および比較例1のBrn3a、Peripherinの発現量
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1のBrn3a及びPeripherin量を1.00とした際の比較例1の量を相対値で示した。
**:p<0.01で有意(n=3)、***:p<0.001で有意(n=3)
【0043】
2)実施例1および比較例2のBrn3aの発現量
【0044】
【表2】
【0045】
表2中の(1)、(2)は次の条件である。
(1)実施例1のBrn3a及びPeripherin量を1.00とした際の比較例2の量を相対値で示した。
(2)分化前のiPS細胞におけるBrn3a量を1.00とした際の実施例1及び比較例2の量を相対値で示した。
***:p<0.001で有意(n=3)
【0046】
実施例1で作成した末梢神経細胞は、比較例1と比較してBrn3aの発現量は15倍以上も多かった。また、Peripherinの発現量は、比較例1と比較して4倍以上も多かった。以上から、神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞から末梢神経細胞に分化させる際に播種密度を上げてコンフルエントな状態で培養を行うことにより純度の高い末梢神経細胞を製造できることが示された。
また、比較例2で作成した末梢神経細胞は、実施例1と比較してBrn3aの発現量は1/4程度と少なかった。また、比較例2のBrn3aの発現量は、分化前の未分化細胞の30倍未満であったが、実施例1の発現量は、30倍以上であった。
以上から、神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞から末梢神経細胞に分化させる前に、一度ディッシュから剥がした上で培養(分化誘導)することにより、結果的に純度の低下を避け、高い純度の末梢神経細胞を製造できることが示された。
【0047】
3)培養物中における末梢神経細胞の割合
【0048】
【表3】
【0049】
表3ならびに図1及び図2に示すように、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3aのすべてにおいて、実施例1及び2の数値は、比較例1に比べて大きく、85%以上を示した。したがって、末梢神経細胞に分化させる際に播種密度を上げてコンフルエントな状態で培養を行うことにより、効率よく末梢神経細胞を製造できることがさらに示された。
また、工程(c)において培養時間を21日とした場合(実施例1)と42日とした場合(実施例2)では、いずれも85%以上を示し効率よく末梢神経細胞が作成されていることが示されているが、21日の方がより数値が高く、好ましいことが示された。
【0050】
3)形態観察
図3より、本発明の方法より誘導された末梢神経細胞は、末梢神経細胞及び軸索が密に存在し、末梢神経細胞の純度が高いと云える。
【0051】
比較試験例
前記非特許文献1に記載の方法に準じ、以下に示す方法でiPS細胞から末梢神経細胞を誘導し、得られた末梢神経細胞の形態を評価した。
(1)ヒトiPS細胞
実施例1で使用したヒトiPS細胞(iPS細胞)を使用した。
マトリゲルコートしたディッシュに、iPS細胞を播種し、ペニシリンストレプトマイシン、及び10ng/mL bFGFを含むReproFF2(リプロセル社)で、5%CO、37℃の条件で培養した。培地は2日毎に交換し、iPSコロニーが成長したら継代を行った。
【0052】
(2)神経前駆細胞への分化
iPS細胞コロニーの密度が50−70%に達したiPS細胞をAccutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用してディッシュから剥がした。回収したiPS細胞は遠心分離機(1000rpm、5分)で培地と分離した。分離して得たiPS細胞を2×10cells/wellの細胞密度で、マトリゲル(コーニング社)でコートされた12wellプレートに播種し、以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO、37℃の条件で10日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
<培地添加剤>
10% KSR、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、1%L−グルタミン、0.3μM SU5402(Tocris社)、1.0μM RO4929097(Cellagen Technology社)、5μM CHIR99021(BioVision社)、1μM A83−01(Cellagen Technology社)、0.2μM LDN−193189(Cellagen Technology社)、0.1μM retinoic acid(Sigma−Aldrich社)。
【0053】
(3)末梢神経細胞への分化
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞を以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO、37℃の条件で14日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
<培地添加剤>
10% KSR、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、1%L−グルタミン、x1 N2サプリメント、10ng/mL NT−3、10ng/mL BDNF、10ng/mL NGF、10ng/mL GDNF、200μM ascorbic acid、0.5 mM dibutyryl cAMP。
【0054】
(4)末梢神経細胞の形態
上記の方法により誘導された、末梢神経細胞の培養物について、前記試験例(3)と同様にして、顕微鏡観察を行った。ただし、顕微鏡は、カールツァイス社Axiovert100顕微鏡(位相差モード)に浜松フォトニクス社GRCA-R2カメラユニットを接続したものを使用した。結果を図4に示す。
図4より、上記の方法により誘導された末梢神経細胞は、実施例1の方法により作成された末梢神経細胞に比べ、末梢神経細胞及び軸索の密度が低く、末梢神経細胞の純度が低いことが判明した。
【0055】
(5)文献値との比較
非特許文献1では、得られた末梢神経細胞中に発現するBrn3a量は、分化前のiPS細胞におけるBrn3a量を1とした際に約15倍であった。また、FACSにより、培養物中のβIII−tubulin、Peripherin、Brn3aを指標とした末梢神経細胞の割合は、βIII−Tubulin:79.2%、Peripherin:約78%、Brn3a:約15%とされていることから、本発明の方法は、非特許文献1に記載の方法に比べ末梢神経細胞への分化誘導効率が大幅に高いことが分かる。
図1
図2
図3
図4