【実施例】
【0030】
実施例1
(1)ヒトiPS細胞の準備と培養(工程(a)中の工程(a’))
ヒトiPS細胞(JCRB1363細胞、以下iPS細胞)はJCRB細胞バンクから入手した。iPS細胞は成長因子低減マトリゲル(マトリゲルGFR、コーニング社)でコートされた60mmディッシュ(コーニング社)に、細胞凍結保存管1本分の細胞(約1×10
4cells/cm
2)を播種した。
マトリゲルGFRのコートは、マトリゲルGFR原液をDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で50倍希釈し、一面を覆う程度ディッシュに注ぎ、室温で3時間静置し、使用までは4℃で保存することにより行った。
培養は、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、10ng/mL basic fibroblast growth factor(bFGF、リプロセル社)を含むPeproFF2培地(リプロセル社)で、5%CO
2、37℃の条件で行った。培地は2、3日毎に交換し、iPSコロニーが成長したら継代を行った。
【0031】
(2)神経前駆細胞への分化(工程(a))
iPS細胞コロニーの密度が培養器に対して50%前後に達した後、iPS細胞はディッシュから剥離を行わずに、DMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で細胞を洗浄後、以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO
2、37℃の条件で10日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%knockout
TM serum replacement(KSR、ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、0.3μM SU5402(Sigma−Aldrich社)、1.0μM RO4929097(Cellagen Technology社)、5μM CHIR99021(BioVision社)、1μM A83−01(Cellagen Technology社)、0.2μM LDN−193189(Axon Medichem社)、0.1μM retinoic acid(Sigma−Aldrich社)。
【0032】
(3)末梢神経細胞への分化(工程(b))
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞を、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用してディッシュから剥がした。回収したiPS由来細胞は遠心分離(1000rpm、5分)で培地と分離し、分化因子などを含まないDMEM/F12培地に懸濁し、再び遠心分離機(1000 rpm、5分)を行い、iPS由来細胞を洗浄した。
沈殿として得たiPS由来細胞を、マトリゲルGFRコート済み6wellプレート(1wellの直径35mm)(イワキ社)の2wellに播種し(面積としては60mm ディッシュの2/3倍相当。細胞播種密度:4×10
5cells/cm
2)、以下の成分を含むDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で、5%CO
2、37℃の条件で21日間培養した(コンフルエントな状態での培養)。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%KSR(ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、x1 N2サプリメント(ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL neurotrophin−3(NT−3、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL brain−derived neurotrophic factor(BDNF、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL nerve growth factor(NGF、ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL glial cell line−derived growth factor(GDNF、和光純薬社)、200μM ascorbic acid(Sigma−Aldrich社)、0.5mM dibutyryl cAMP(Enzo Life Science International社)。
【0033】
(4)末梢神経細胞の単離
培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄後、Acutaseを加え、室温で5〜15分放置した。培養器をゆっくり傾け、細胞が剥がれたのを確認後、末梢神経細胞をピペットで回収した。
【0034】
実施例2
実施例1(3)における培養時間を42日間とし、実施例1と同様にして、末梢神経細胞を製造した。
【0035】
比較例1
実施例1(3)において、神経前駆細胞へ分化誘導したiPS由来細胞の培養容器への播種を、マトリゲルGFRコート済み60mmディッシュ2枚に播種(面積としては60mmディッシュの2倍。細胞播種密度:1×10
5cells/cm
2)することとした他は実施例1と同様にして末梢神経細胞を製造した(非コンフルエントな状態での培養)。
【0036】
比較例2
実施例1(3)を以下の方法に変更して行った。
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞をディッシュから剥がす剥離処理を行うことなく、以下の成分を含むDMEM/F12培地(1%L−グルタミン含有、和光純薬社)で、5%CO
2、37℃の条件で14日間培養した(神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞をディッシュから剥がさずに末梢神経細胞への分化誘導を行った)。培地は2、3日毎に交換した。
培地添加剤;10%KSR(ライフテクノロジーズ社)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン(和光純薬社)、x1 N2サプリメント(ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL neurotrophin−3(NT−3、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL brain−derived neurotrophic factor(BDNF、Miltenyi Biotec社)、10ng/mL nerve growth factor(NGF、ライフテクノロジーズ社)、10ng/mL glial cell line−derived growth factor(GDNF、和光純薬社)、200μM ascorbic acid(Sigma−Aldrich社)、0.5mM dibutyryl cAMP(Enzo Life Science International社)。
次いで、Accutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用して末梢神経細胞をディッシュから剥がした。回収した末梢神経細胞は遠心分離(1000rpm、5分)で培地と分離し、分化因子などを含まないDMEM/F12培地に懸濁し、再び遠心分離機(1000 rpm、5分)を行い、末梢神経細胞を洗浄した。
沈殿として得た末梢神経細胞を、マトリゲルGFRコート済み6wellプレート(1wellの直径35mm)(イワキ社)の2wellに播種し(面積としては60mm ディッシュの2/3倍相当。細胞播種密度:6×10
5cells/cm
2)、5%CO
2、37℃の条件で7日間追加培養した(コンフルエントな状態での培養)。
【0037】
試験例
(1)Brn3a、Peripherinの発現量の測定
実施例1及び比較例1で単離された末梢神経細胞について、末梢神経細胞に特異的に発現すると考えられているBrn3a及びPeripherinのmRNA量を、以下に示すように、リアルタイムRT−PCR法を用いて測定した。測定する細胞からNucleoSPin RNA II(MACHEREY−NAGEL社)RNA抽出キットを用いて全RNAを抽出した。全RNAを鋳型にReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡社)を用いてcDNAを合成した。そして、合成したcDNAを鋳型としKAPA SYBR FAST qPCRキット(Kapa Biosystems社)とリアルタイムPCRシステム StepOnePlus(ライフテクノロジーズ社)を使用して測定を行った。内在性コントロール遺伝子としてGAPDHを用い、ΔΔct法によりターゲット遺伝子発現の定量を行った。また、比較例2で単離された末梢神経細胞についても、Brn3aのmRNA量を同様に測定した。
【0038】
(2)培養物中における末梢神経細胞の割合
実施例1及び比較例1〜2の工程(c)で得られた培養終了後の培養物について、以下に示すように、FACSにより、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3aを指標として、末梢神経分化マーカーを発現している細胞の割合を測定した。測定する細胞はAcutaseを用いて剥離し、遠心分離を用いて剥離液の除去と細胞の洗浄を行った。細胞沈殿はPBSに懸濁してセルストレーナー(FALCON社)を通してシングルセルにした。FIX & PERM Cell Fixation & Cell Permeabilization Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて細胞の固定と細胞膜透過処理を行った。その後、5%FBS、5%goat血清、0.1%NaN
3を含むPBSでブロッキングを行った。βIII−tubulinはAlexa Fluor647 Mouse anti-β-Tubulin、ClassIII抗体(BD社)を用いて蛍光ラベルした。PeripherinとBrn3aはZenon Rabbit igG Labeling Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を結合したAnti−peripherin抗体(ミリポア社)、Anti−BRN3A抗体(アブカム社)をそれぞれ用いて蛍光ラベルした。固定と透過処理のみを行い蛍光ラベルしていない細胞をコントロールとした。測定はFACSVerseフローサイトメーター(DB社)で行い、データ解析はFLOWJOソフトウェア(FLOWJO社)を用いて行った。
【0039】
(3)形態観察
実施例1の工程(c)で得られた培養終了後の培養物について、細胞固定を行わずに、培養状態のまま、顕微鏡にて撮影を行った。顕微鏡は、カールツァイス社PrimoVertカメラ一体型顕微鏡(位相差モード)を使用した。
【0040】
(4)結果
1)実施例1および比較例1のBrn3a、Peripherinの発現量
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1のBrn3a及びPeripherin量を1.00とした際の比較例1の量を相対値で示した。
**:p<0.01で有意(n=3)、***:p<0.001で有意(n=3)
【0043】
2)実施例1および比較例2のBrn3aの発現量
【0044】
【表2】
【0045】
表2中の(1)、(2)は次の条件である。
(1)実施例1のBrn3a及びPeripherin量を1.00とした際の比較例2の量を相対値で示した。
(2)分化前のiPS細胞におけるBrn3a量を1.00とした際の実施例1及び比較例2の量を相対値で示した。
***:p<0.001で有意(n=3)
【0046】
実施例1で作成した末梢神経細胞は、比較例1と比較してBrn3aの発現量は15倍以上も多かった。また、Peripherinの発現量は、比較例1と比較して4倍以上も多かった。以上から、神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞から末梢神経細胞に分化させる際に播種密度を上げてコンフルエントな状態で培養を行うことにより純度の高い末梢神経細胞を製造できることが示された。
また、比較例2で作成した末梢神経細胞は、実施例1と比較してBrn3aの発現量は1/4程度と少なかった。また、比較例2のBrn3aの発現量は、分化前の未分化細胞の30倍未満であったが、実施例1の発現量は、30倍以上であった。
以上から、神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞から末梢神経細胞に分化させる前に、一度ディッシュから剥がした上で培養(分化誘導)することにより、結果的に純度の低下を避け、高い純度の末梢神経細胞を製造できることが示された。
【0047】
3)培養物中における末梢神経細胞の割合
【0048】
【表3】
【0049】
表3ならびに
図1及び
図2に示すように、βIII−tubulin、Peripherin、Brn3aのすべてにおいて、実施例1及び2の数値は、比較例1に比べて大きく、85%以上を示した。したがって、末梢神経細胞に分化させる際に播種密度を上げてコンフルエントな状態で培養を行うことにより、効率よく末梢神経細胞を製造できることがさらに示された。
また、工程(c)において培養時間を21日とした場合(実施例1)と42日とした場合(実施例2)では、いずれも85%以上を示し効率よく末梢神経細胞が作成されていることが示されているが、21日の方がより数値が高く、好ましいことが示された。
【0050】
3)形態観察
図3より、本発明の方法より誘導された末梢神経細胞は、末梢神経細胞及び軸索が密に存在し、末梢神経細胞の純度が高いと云える。
【0051】
比較試験例
前記非特許文献1に記載の方法に準じ、以下に示す方法でiPS細胞から末梢神経細胞を誘導し、得られた末梢神経細胞の形態を評価した。
(1)ヒトiPS細胞
実施例1で使用したヒトiPS細胞(iPS細胞)を使用した。
マトリゲルコートしたディッシュに、iPS細胞を播種し、ペニシリンストレプトマイシン、及び10ng/mL bFGFを含むReproFF2(リプロセル社)で、5%CO
2、37℃の条件で培養した。培地は2日毎に交換し、iPSコロニーが成長したら継代を行った。
【0052】
(2)神経前駆細胞への分化
iPS細胞コロニーの密度が50−70%に達したiPS細胞をAccutase(イノベーティブセルテクノロジーズ社)を使用してディッシュから剥がした。回収したiPS細胞は遠心分離機(1000rpm、5分)で培地と分離した。分離して得たiPS細胞を2×10
4cells/wellの細胞密度で、マトリゲル(コーニング社)でコートされた12wellプレートに播種し、以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO
2、37℃の条件で10日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
<培地添加剤>
10% KSR、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、1%L−グルタミン、0.3μM SU5402(Tocris社)、1.0μM RO4929097(Cellagen Technology社)、5μM CHIR99021(BioVision社)、1μM A83−01(Cellagen Technology社)、0.2μM LDN−193189(Cellagen Technology社)、0.1μM retinoic acid(Sigma−Aldrich社)。
【0053】
(3)末梢神経細胞への分化
神経前駆細胞に分化させたiPS由来細胞を以下の成分を含むDMEM/F12培地で、5%CO
2、37℃の条件で14日間培養した。培地は2、3日毎に交換した。
<培地添加剤>
10% KSR、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、1%L−グルタミン、x1 N2サプリメント、10ng/mL NT−3、10ng/mL BDNF、10ng/mL NGF、10ng/mL GDNF、200μM ascorbic acid、0.5 mM dibutyryl cAMP。
【0054】
(4)末梢神経細胞の形態
上記の方法により誘導された、末梢神経細胞の培養物について、前記試験例(3)と同様にして、顕微鏡観察を行った。ただし、顕微鏡は、カールツァイス社Axiovert100顕微鏡(位相差モード)に浜松フォトニクス社GRCA-R2カメラユニットを接続したものを使用した。結果を
図4に示す。
図4より、上記の方法により誘導された末梢神経細胞は、実施例1の方法により作成された末梢神経細胞に比べ、末梢神経細胞及び軸索の密度が低く、末梢神経細胞の純度が低いことが判明した。
【0055】
(5)文献値との比較
非特許文献1では、得られた末梢神経細胞中に発現するBrn3a量は、分化前のiPS細胞におけるBrn3a量を1とした際に約15倍であった。また、FACSにより、培養物中のβIII−tubulin、Peripherin、Brn3aを指標とした末梢神経細胞の割合は、βIII−Tubulin:79.2%、Peripherin:約78%、Brn3a:約15%とされていることから、本発明の方法は、非特許文献1に記載の方法に比べ末梢神経細胞への分化誘導効率が大幅に高いことが分かる。