(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記セルロース系伝導性高分子のバインダーのテンプレートは、前記セルロース系化合物にアクリル系化合物を混合した混合テンプレートであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
前記他の種類の化合物は、水溶液の状態で水素イオン指数(pH)が2〜6の範囲である高分子化合物またはポリスチレンスルホン酸(polystyrenesulfonic acid;PSSA)であり、
バインダー水分散液に含まれている全体伝導性高分子バインダーの固形分含有量が1〜10%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
前記他の種類の化合物は、ポリアクリル酸(PAA)及びポリスチレンスルホン酸(polystyrenesulfonic acid;PSSA)のうちの少なくとも一つを含むものであり、
前記セルロース系化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子と他の種類の化合物をテンプレートとして合成された伝導性高分子との混合割合は、一つの成分が重量比で5%以上であることを特徴とする、請求項8に記載のリチウムイオン電池。
前記活物質組成物が電極層の緻密度及び伝導度の増進のためのカーボンナノチューブをさらに含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
前記活物質組成物におけるカーボンナノチューブは、伝導性高分子バインダーの固形分100重量部に対して5〜300重量部であることを特徴とする、請求項10に記載のリチウムイオン電池。
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのうちのいずれか一つまたは2つ以上の組み合わせであり、
前記カーボンナノチューブの長さは、5〜100ミクロンであることを特徴とする、請求項10または11に記載のリチウムイオン電池。
前記負極活物質の前記シリコン成分がシリコンまたはシリコン系酸化物成分であり、前記シリコン成分を有効成分として含む負極活物質の場合、前記負極活物質の含有量が前記負極活物質組成物の全体固形分の重量に対して10〜85重量%であるか、或いは、
前記負極活物質が、前記シリコンまたは前記シリコン系酸化物成分に前記黒鉛が含まれている負極活物質である場合、前記負極活物質の含有量が前記負極活物質組成物の全体固形分の重量に対して40〜98重量%であることを特徴とする、請求項13に記載のリチウムイオン電池。
前記黒鉛と混合される前記シリコンまたは前記シリコン系酸化物成分の含有量は全体の前記負極活物質の1〜90重量%であることを特徴とする、請求項14に記載のリチウムイオン電池。
前記負極活物質組成物を含む負電極活物質スラリー組成物の含有量は、前記負電極活物質スラリーの全体固形分含有量の5〜60重量%であり、前記負電極の厚さは、2〜50ミクロンであることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
負電極活物質スラリーの粘度調整用に増粘剤をさらに添加し、前記負電極活物質スラリー粘度調整用増粘剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースを含むセルロース系増粘剤、または
重量平均分子量1,000,000g/mole以上のアクリル系高分子化合物であることを特徴とする、請求項13〜17のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
前記セルロース系伝導性高分子のバインダーのテンプレートは、前記セルロース系化合物にアクリル系化合物を混合した混合テンプレートであることを特徴とする、請求項20に記載のリチウムイオン電池の活物質組成物用バインダー。
前記バインダーは、ポリアクリル酸(PAA)及びポリスチレンスルホン酸(polystyrenesulfonic acid;PSSA)のうちの少なくとも一つを含むものであり、
前記他の種類の化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子の混合割合は、一つの成分が重量比で5%以上であることを特徴とする、請求項20または21に記載のリチウムイオン電池の活物質組成物用バインダー。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の内容を具体的に説明する。
【0048】
本発明の技術的特徴は、リチウムイオン電池の活物質組成物がセルロース系化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子、又は水溶液の状態で水素イオン指数(pH)が2〜6の範囲である高分子化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子を含むようにすることである。
【0049】
まず、本発明の技術的特徴として、リチウムイオン電池の活物質組成物がセルロース系化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子について説明する。
【0050】
従来の伝導性高分子バインダーは、伝導性高分子バインダーが水溶液の状態であまり高いpHを持つか、或いは従来使用していたバインダー物質ではなく、全く新しい物質を使用するため、これらの新しいバインダーと従来の活物質との適合性の不足などの問題点により実際の適用が制約されている。ところが、本発明のセルロース系化合物は、従来のリチウムイオン電池のバインダー物質として多く使われているものなので、これを伝導性高分子化して使用すると、従来使用する活物質との適合性が非常に良いため、適用への困難性がない。
【0051】
本発明の伝導性高分子は、アニリン、ピロール、チオフェンまたは3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの伝導性高分子合成用モノマー、またはこれから変性された変性伝導性高分子用モノマーから合成された伝導性高分子であって、伝導性高分子内に高分子ドーパント兼テンプレートとしてセルロース系化合物を用いて合成した伝導性高分子である。この伝導性高分子の表面抵抗が10
8オーム/面積以下であることが好ましい。合成された伝導性高分子の表面抵抗は低いほど良いが、表面抵抗が10
8オーム/面積超過である場合には、電気伝導度があまり低いため、大きな効果が得られないおそれがあって不利である。
【0052】
前述したテンプレートとして使用可能なセルロース系化合物は、分子の−OR基の−R成分の一部が異なる化合物を、代表的にはヒドロキシ基またはアルキル(またはアルキレン)カルボキシル(またはカルボキシレート)基などを結合させて水に溶けるようにしたセルロース系化合物であればいずれも使用可能である。ここで、アルキレンは、その長さが炭素数1〜4であるものを使用することが好ましい。炭素数が4超過である場合には、アルキル基の長さがあまり長いため、水に溶ける特性を阻害するおそれがあってむしろ不利である。
【0053】
以下、本発明の内容を活物質組成物の伝導性高分子として最も好ましいPEDOT:CMCを中心に説明する。しかし、本発明で好ましいセルロース系化合物をテンプレートとして用いてPEDOTを合成し、これをリチウムイオン電池に活用するためのものなので、本発明の範囲が後述のPEDOT:CMCに限定されるものではなく、他の種類の伝導性高分子合成用モノマーを用いて合成した伝導性高分子、または他の種類のセルロース系化合物で合成した伝導性高分子も同様の効果を持つことは自明である。また、前述したように、本発明は、新しいバインダーを合成し、このバインダーをリチウムイオン電池の活物質と混合することができるように活用するためのものである。したがって、本発明の説明は、充放電サイクル特性が悪いことが知られているシリコン酸化物(SiOx)と黒鉛とを混合した混合活物質を使用する場合について記述しようとする。しかし、本発明の技術は、他の種類の活物質、すなわち黒鉛、シリコン金属粒子、SiOx、リチウムを含む合金状態の負極活物質であれ、これらを含むか或いはこれらと複合化された(例えば、シリコンが内部空間に形成されたカーボンナノチューブ)負電極用活物質であれ、粒子状、ワイヤー状、フレーク状などの形状を有する活物質であれ、いずれも適用できることは自明である。また、正電極用活物質と混合されるバインダーとして用いて正極活物質スラリーを作って正極に使用することができるのはもちろんである。
【0054】
本発明で使用するバインダー物質の一例として、PEDOT:CMCを中心に説明する。本発明のPEDOT:CMCの合成過程は、次のとおりである。以下、本明細書で特別の表示がない場合には、%は重量%を意味する。本発明のPEDOT:CMCの化学式は、下記式1のとおりである。
【0056】
式中、n及びmは1以上の自然数である。
【0057】
まず、テンプレートとしてのCMCを、固形分が0.5〜5重量%となるように水に入れて溶解させる。この時、よく溶けない場合、超音波処理または強酸の添加を行うと、水によく溶ける。その後、伝導性高分子合成用モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate:APS)、硫酸第二鉄などの酸化剤などを入れて混合した後、一定の温度で攪拌しながらPEDOT:CMCを合成し、その後、未反応の不純物及びイオン性不純物を除去するために、透析バッグ及びイオン交換樹脂で処理して紺青色の伝導性高分子、すなわちPEDOT:CMCを得る。
【0058】
超純水に溶けているCMCの固形分が0.5重量%未満である場合には、CMCの含有量があまり低いため、合成された伝導性高分子が合成反応の際に沈殿するか或いは伝導度があまり低くなって不利であり、超純水に溶けているCMCの固形分が5重量%超過である場合には、CMCを溶かした溶液の粘度があまり高いため、後工程を進行することが難しくてむしろ不利である。
【0059】
セルロース系テンプレート化合物、伝導性高分子モノマー及び酸化剤のモル比は、基本的には1:1:1のモル比で合成すればよい。しかし、各成分のモル比を調整して様々な特性の伝導性高分子バインダーを合成することができる。この時、合成溶液内に存在する各成分の比率は、テンプレート化合物の濃度を1モルにしたとき、モノマーであるEDOTの含有量が0.5〜5.0のモル比となるようにする。EDOTの含有量が0.5モル未満である場合には、合成された伝導性高分子の電気伝導度が低くて不利であり、EDOTの含有量が5モル超過である場合には、モノマーがあまり多くて高分子の合成が円滑に行われないか、或いはあまり多い未反応のモノマーが残り、洗浄作業が複雑になってむしろ不利である。また、酸化剤の比率は、モノマーの含有量1モルに対して0.8〜3のモル比が適当である。酸化剤を3モル超過で使用する場合には、合成されたPEDOT:CMCの電気伝導度が低くなって不利であり、酸化剤を0.8モル未満で使用する場合にも、電気伝導度が低くなって不利である。最も好ましくは、0.8〜2のモル比が適当である。
【0060】
本発明のテンプレートであるCMCは、セルロース化合物が水に溶けるようにするために、メチレン(または一般的にメチルと呼ぶこともある)カルボン酸、またはこれらの塩化合物で改質したセルロース系化合物であって、セルロース化合物の繰り返し単位内にある−OR基の−R成分が他の化合物で置換された程度、すなわち置換度が少なくとも0.5以上であることが好ましい。ここで、置換度0.5とは、2つの繰り返し単位あたり1つの−Rがカルボキシ基で置換されたことを意味する。一般的に、置換度が高いほどPEDOT:CMCの製造に望ましいが、置換度が0.5未満である場合には、水によく溶けないだけでなく、これをテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子であるPEDOT:CMCの電気伝導度も低くて不利である。一方、置換度の上限はあえて限定する必要がないが、これは、置換度が高いほど伝導性高分子がよく合成され、合成されたPEDOT:CMCの電気伝導度も高いため、本発明の目的に合致するからである。
【0061】
本発明のセルロース系化合物は、重量平均分子量が50,000〜4,000,000g/moleの化合物を使用することが有利である。重量平均分子量が50,000g/mole未満と低い場合には、合成されたPEDOT:CMCが粒子となって沈澱する現象が発生して不利であり、重量平均分子量が4,000,000g/mole超過である場合には、CMC自体を水に溶かし難くてむしろ不利である。CMCとEDOTは、EDOT1モルに対してCMCを0.2〜5モル比の範囲で使用すればよい。この時、CMCの含有量がEDOTに対して0.2モル比未満である場合には、合成されたPEDOT:CMCが粒子状に沈殿して活物質用バインダーとして使用することができないため不利であり、CMCの含有量がEDOTに対して5モル比超過である場合には、合成されたPEDOT:CMC中の伝導性高分子パートの含有量があまり低いため、電気伝導度があまりにも低くなってむしろ不利である。好ましくは、1.0〜2.0モル比の範囲とすることが有利である。
【0062】
本発明のPEDOT:CMC合成後の洗浄過程は、一般的な有機物合成後の洗浄過程に従って行えばよい。一般的には、合成反応後、透析バッグ及びイオン交換樹脂を用いて未反応の残留物及びイオン性不純物を除去して、純粋なPEDOT:CMCを得ることができる。このような洗浄作業は、有機物合成後に施行する一般的な洗浄作業と類似するので、詳細な洗浄方法は、当業者であれば試行錯誤を経て知り得ることが可能な事項であるため、洗浄方法を特に限定する必要はない。
【0063】
本発明のPEDOT:CMC合成時の合成及び洗浄後の固形分含有量を調整するためには、上述したモノマー、酸化剤、CMCなどの各成分の比率を固形分含有量に合わせて調整して合成すればよい。
【0064】
本発明のPEDOT:CMCは、それ自体が伝導性を呈する共役系伝導性高分子(conjugated conducting polymer)であり、これは、市販のPEDOT系(すなわち、PEDOT:PSS)と従来の電池のバインダーとして用いるCMCとの単純な混合物ではないのは自明である。上述した方法によって製造されたPEDOT:CMCは、基本テンプレートとしてCMCを使用し、酸化剤の作用で正(+)の状態になったPEDOT部分が水に溶けている状態で負(−)の状態を持つCMC分子に電気的に結合された複合体形態の化合物である。したがって、これは、PEDOTとCMC分子が単に混合されたものではないのは当業者であれば十分に分かることができる自明な事実である。
【0065】
本発明のセルロース系化合物をテンプレートとして用いる場合、セルロース系化合物とスルホン化されたポリスチレン高分子やアクリル系高分子などの他の種類の高分子とを重量比で(95:5)〜(5:95)の割合で混合して作った混合テンプレートを用いて伝導性高分子を合成してもよい。
【0066】
前記重量比の上限値と下限値を超える場合、実際に混合テンプレートと呼ぶことができない程度にいずれか一つの成分が主なものであるため、混合テンプレートというよりは、いずれか一つの化合物の特性をあまり強く示すので、上記割合の範囲で混合して混合テンプレートとして用いることが有利である。
【0067】
本発明のPEDOT:CMCを用いて活物質スラリーを製造する方法は、従来のバインダーを用いて活物質スラリーを製造する方法と類似する。すなわち、本発明のPEDOT:CMC、活物質、カーボンナノチューブ及び伝導性付与剤などを所望の割合で均一に混合して製造すればよい。
【0068】
この時、使用するPEDOT:CMCバインダー溶液中に含まれているバインダー成分であるPEDOT:CMCの含有量(固形分)は、0.5〜10重量%の範囲が適当である。固形分の含有量が0.5重量%未満である場合には、溶液があまりにも薄いため、活物質を混合しても全体組成物の粘度があまり低くて、活物質電極層の形成が難しいか或いは塗膜の厚さがあまりにも低くなるなどの問題点により不利であり、固形分があまり高い場合には、スラリーの製造時に粘度があまり高いためスラリーの製造が難しくなり、水を再び添加しなければならないという問題が発生してむしろ不利である。
【0069】
リチウムイオン電池の製造の際に活物質層の電気伝導性をさらに良くし、活物質からなる電極層自体の緻密度を高め、繰り返し膨張/収縮にも電気伝導経路を維持することができるようにカーボンナノチューブを一緒に使用することが有利である。本発明に使用可能なカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブのいずれも使用可能であるが、これらのいずれか1種または2種以上の組み合わせを使用することができる。
【0070】
カーボンナノチューブの含有量は、伝導性高分子バインダーの固形分重量100重量部に対して5〜300重量部を使用すればよい。カーボンナノチューブの含有量が5重量部未満である場合には、含有量があまり小さいためカーボンナノチューブを混合した効果がなくて不利であり、300重量部超過である場合には、カーボンナノチューブの含有量があまり高いため、粘度が急増して取り扱いが難しいか或いは充放電サイクル特性の向上効果が比例的に増加しないので、多量のカーボンナノチューブを使用する必要がない。
【0071】
また、5〜100ミクロンの長さを有するカーボンナノチューブを使用することが有利である。これは、カーボンナノチューブの長さがある程度になってこそ電極層材料の組織が緻密性を持つようにして効果的であるからである。カーボンナノチューブの長さが5ミクロン未満である場合には、長さがあまり短いため、電極層材料の緻密度の増加が微々たるものであって不利であり、カーボンナノチューブの長さが100ミクロン超過である場合には、活物質との混合時に分散がうまく行われないため、むしろ不利である。
【0072】
本発明の伝導性高分子バインダーは、自体的に電気伝導度を持ってはいるが、それ自体的に使用されるよりは、他の従来のリチウムイオン電池と同様に伝導性カーボンブラックと混合して使用することができる。
【0073】
また、活物質からなる電極層の電気伝導度をさらに増加させるために、伝導性カーボンブラックに加えて、伝導性を有するカーボンナノ材料、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのナノカーボン材料を一緒に混合して使用してもよい。特にカーボンナノチューブの場合、アスペクト比(aspect ratio)が非常に大きいので、これをカーボンブラックと一緒に、または単独で伝導性高分子バインダーと混合して同一の効果を得ることができる。また、本発明者らの実験結果、カーボンナノチューブを使用すると、活物質と極板との接着力を向上させることが確認された。
【0074】
本発明は、セルロース系高分子をテンプレートにして伝導性高分子を合成し、これをリチウムイオン電池の活物質組成物の製造時にバインダー材料として使用することに関するものである。したがって、活物質の種類、すなわち、黒鉛またはシリコン成分からなる負電極用活物質(例えば、酸化シリコン:SiOxまたはリチウム−シリコンを含む合金物質)またはこれらの成分が一つ以上混合されている混合活物質(例えば、黒鉛/酸化シリコンの混合活物質)、またはこれらの成分と他の成分とが複合されている複合活物質(例えば、シリコン粒子が内部空間に位置するように作ったカーボンナノチューブ)などの種類に関係なく、全種類の活物質に適用可能である。負極活物質の中でも、黒鉛の場合には、黒鉛自体が電気伝導性物質であるため、別の伝導性カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの伝導性物質をさらに添加しなくても構わないが、伝導性カーボンブラックを別に添加して使用することもできる。
【0075】
本発明のPEDOT:CMCを用いて負極活物質スラリー組成物を作るとき、活物質とバインダーとの重量比は、理論容量の高い活物質を単独で使用する場合と、これらと黒鉛とが混合された形態の混合活物質を使用する場合に互いに異なるようにすることができる。
【0076】
各成分の重量を基準に理論容量の大きい活物質(例えば、シリコン系活物質)と黒鉛とが混合された負極活物質を使用する場合には、混合活物質は40〜98重量%、残部は本発明のPEDOT:CMCバインダーとカーボンナノチューブからなるようにして、活物質スラリーを製造して使用すればよい。混合活物質の含有量が40重量%未満であれば、所望の容量を得るために負極活物質スラリーの厚さが厚くなければならないが、このような場合、製造工程上、ウェットコーティングの厚さがあまりにも厚くて不利であり、混合活物質の含有量が98重量%超過であれば、相対的にバインダーとカーボンナノチューブの含有量が低くなって極板との接着力の低下または電極層自体の緻密度の低下などによりむしろ不利である。電極層と極板との接着力および電極層の緻密度などを考慮すると、混合された活物質の固形分重量が50〜95重量%であることが好ましい。
【0077】
シリコン系活物質のように理論容量が大きい活物質を黒鉛と混合した混合活物質を使用する場合、黒鉛とシリコン系活物質の混合を、100重量%を基準に黒鉛に混合される黒鉛の重量に対してシリコン系活物質の含有量を1〜90重量%にして行うことができる。黒鉛に混合されるシリコン系活物質の含有量が1重量%未満である場合には、シリコン系活物質の混合効果が微々たるものであり、90%超過である場合には、あまり多くの量のシリコン系活物質が含まれ、これは結局、シリコン系単独活物質とほぼ類似して混合活物質としての意味が少ない。
【0078】
しかし、シリコン系活物質、すなわち、シリコン金属粒子、SiOxまたはリチウム合金状態の負電極用活物質を単独で、または他のシリコン系活物質と混合して使用する場合には、(黒鉛を含まず)所望の容量に応じて活物質の含有量を10〜85重量%に調整して使用すればよい。いくら理論容量の高い活物質であっても、活物質の含有量が10重量%未満と低い場合には、バインダーとカーボンナノチューブがあまり多くて所望の容量の電池を製造することが難しくて不利であり、85重量%超過である場合には、所望の容量を得るために極板に形成される塗膜の厚さが非常に薄くなり、製造工程上、むしろ不利である。
【0079】
この時、本発明のPEDOT:CMCとカーボンナノチューブなどは、ほとんど水などの溶媒に分散されており、スラリーの製造時に各成分の固形分を基準に計算して添加すればよい。
【0080】
前記成分をすべて混合して十分に攪拌したスラリーの固形分は、添加した各成分の固形分によって左右されるが、スラリーは、電極層を形成するための分散液であるため、電極層の形成が円滑な固形分の含有量を適切に選択して使用すればよい。好ましくは、スラリーの全体固形分含有量は5〜60%程度となるようにするのが有利である。スラリー内の固形分含有量が5%未満であれば、粘度があまりにも低くなり、所望の電極層の厚さが厚くなければならない場合に溶液の厚さ(ウェット厚さ:wet thickness)が厚くなければならないなどの製膜工程が難しくなって不利であり、固形分含有量が60%超過であれば、スラリーがあまり濃くて薄い厚さの電極層の形成が難しくなるなどの問題点が発生して、むしろ不利である。
【0081】
前記負電極活物質組成物の含有量が低ければ、場合によってはスラリーの粘度があまりにも低くて電極層の形成が難しくなることもある。この時、必要に応じて、増粘剤をさらに添加して、電極の形成に必要なスラリーの粘度を調整して使用することができる。この時、使用する増粘剤は、主にセルロース系増粘剤であって、官能基の種類に関係なく、セルロース系増粘剤であればいずれも使用することができる。特にセルロースの一部は、黒鉛活物質用バインダー物質として使用されるので、電池の性能上、特に大きい悪影響を及ぼさない。これに属する代表的なセルロース系増粘剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどである。これらのセルロース系増粘剤の含有量は、当業者であれば、試行錯誤を経て把握することができることは自明であって、本発明では、特に増粘剤の含有量を限定しないことにする。また、分子量の高いアクリル系高分子化合物が増粘剤として使用可能であるが、ここで、高分子量とは、重量平均分子量が少なくとも1,000,000g/mole以上を意味する。重量平均分子量1,000,000g/mole未満の高分子は、水に溶解させる場合に粘度が大きくないため使用し難くて不利である。この時、水に溶けた状態で粘度が高いほど混合するアクリル系高分子の含有量を下げればよいので、分子量の上限値をあえて限定する必要はない。
【0082】
本発明の活物質組成物を用いてリチウムイオン電池を製造する場合、負電極層の塗膜厚さは2〜50ミクロンであることが適当である。ここで、電極層の厚さは、圧延工程を経た後の電極層の最終厚さである。理論容量が高い負電極活物質の場合は、あえて電極層が厚くなければならない必要がないため薄くてもよいので、あえて電極層の厚さを厚くする必要がない。負電極層の厚さが2ミクロン未満であれば、いくら理論容量が大きい活物質であっても薄い塗膜を形成することが難しくて不利であり、負電極層の厚さが50ミクロン超過であれば、負電極層の容量が高くなるにつれて正電極層の厚さがついてこないため、必要以上に厚い必要がない。特にシリコン系活物質を中心にした場合には、シリコン系活物質負電極層の容量が十分に高いため、40ミクロンの厚さであれば十分である。好ましくは、負電極層の厚さは5〜50ミクロン程度の厚さであって、目的に応じて多様に負電極層を形成する。例えば、シリコン系活物質単独でまたはシリコン系活物質を中心として負極活物質を作る場合には、25ミクロン程度の厚さにすることが、全体リチウムイオン電池の厚さや容量を考慮するときによい。シリコン系活物質に黒鉛をさらに加えて作る場合には、同じ厚さで容量を上昇させるために上限の厚さ(50ミクロン)まで作ることができるが、本発明に基づいて負極層の厚さを減らすことを考慮すると、黒鉛混合活物質の場合にも40ミクロン程度の厚さにすることも良い。本発明に基づいてシリコン系活物質の含有量を高めて厚さを薄くすることが良いが、塗膜形成の利便性や安定性を考慮し、理論容量を考慮するとき、シリコン系単独または混合活物質の両方とも、5ミクロン超過とするのがよい。前記成分をすべて混合して十分に攪拌した活物質スラリーの固形分は、添加した各成分の固形分によって左右されるが、スラリーは、電極層を形成するための分散液であるため、電極層の形成が円滑な固形分の含有量を適切に選択して使用すればよい。また、活物質スラリーを極板にコーティングして電極層を形成するにあたり、乾燥および圧延後の電極層の適正厚さは、所望の容量と製造工程上の便利さなどを考慮して、試行錯誤を経て見つけ出せばよいというのは、当業者であればいくらでも成し遂げることができる課題である。したがって、本発明では、特別な固形分の含有量や電極層の厚さを限定する必要がないのは自明である。
【0083】
前記負電極活物質組成物の含有量が低ければ、場合によってはスラリーの粘度があまり低くて電極層の形成が難しくなることもある。この時、必要に応じて増粘剤をさらに添加して、電極の形成に必要なスラリーの粘度を調整して使用することができる。この時、使用する増粘剤は、主にアクリル系またはセルロース系増粘剤を使用することができる。増粘剤の分子量または含有量は、当業者であれば、試行錯誤を経て十分に把握することができることは自明であって、本発明では特に増粘剤の含有量を限定しないことにする。
【0084】
本発明の組成物を用いた活物質スラリーの製造時に、必要に応じてカーボネート類の添加剤をさらに添加して使用することができる。リチウムイオン電池用電解質は、リチウム化合物をカーボネート類の溶媒に溶解させて使用するが、この時、溶媒は、いずれか一つのみを使用するのではなく、さまざまな種類のカーボネート類溶液を混合して使用する。よって、本発明の活物質組成物にも同様の方法を使用してもよい。例えば、リチウム化合物としてLiPF
6を使用する場合、カーボネート類溶媒としては、炭酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン、炭酸ビニレン、炭酸エチルメチル、炭酸フルオロエチルなどの様々なカーボネート類溶媒を混合して使用することができる。
【0085】
本発明で合成したPEDOT:CMCを他の種類の伝導性高分子と混合して作った混合伝導性高分子バインダーを混合伝導性高分子バインダーとして使用すると、より良い結果を得ることができる。例えば、スルホン化されたポリスチレンをテンプレートとして用いて合成した伝導性高分子であるPEDOT:PSS、またはアクリル系高分子をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子であるPEDOT:PAAを、本発明のセルロース系化合物をテンプレートとして用いて合成した伝導性高分子バインダーであるPEDOT:CMCと混合して使用すると、1種類のバインダーを使用するときに現れる足りない特性を互いに補完することができて有利である。
【0086】
この時、混合伝導性高分子バインダーを使用する場合、PEDOT:CMCと混合される相手伝導性高分子バインダーの混合割合は、重量比で(95:5)〜(5:95)の比率を使用すればよい。前記上限値及び下限値から外れる場合、いずれかの特性があまり強く現れて混合伝導性高分子バインダーとしての役割を果たさないので、むしろ不利である。3つ以上の伝導性高分子バインダーを混合する場合には、混合されるそれぞれの伝導性高分子バインダーは重量比で5%以上が含まれることが好ましい。
【0087】
また、本発明のPEDOT:CMC(またはセルロース系化合物をテンプレートとして用いて合成したPEDOT:Cellulose)は、リチウムコバルトオキサイド(Lithium Cobalt−oxide:LCO)、ニッケル−コバルト−マンガン(Nickel−Cobalt−Manganese:NCM)、またはニッケル−コバルト−アルミニウム(Nickel−Cobalt−Aluminium:NCA)などのその他の様々な正極活物質のバインダーとして使用することができることは自明である。また、本発明のバインダー物質は、負極または正極活物質の形状、すなわち粒子またはナノワイヤーまたはピラミッド形状などの特別な形状の活物質に限定されるものではなく、全種類の形状を有する活物質に適用可能である。また、本発明のPEDOT:CMCをバインダーとして使用するとき、正極活物質スラリーの製造時に使用する複数の成分の重量比は、従来の含量比をそのまま使用してもよい。つまり、負極活物質の成分比を正極活物質に適用して正極活物質スラリーを製造することができる。
【0088】
本発明のPEDOT:CMCバインダーと負極活物質及びカーボンナノチューブまたはカーボンブラックを混合して分散させる方法は、従来の分散法、すなわち惑星型自転空転型遠心ミキサー(Planetary centrifugal mixer:C−mixer)、高圧ホモジナイザー(high pressure homogenizer)、アトリッションミキサー、超音波分散法、サンドボールミル(sand ball mill)、低速撹拌機および高速攪拌機のうちのいずれか単独でまたは二つ以上の方法を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
次に、リチウムイオン電池の活物質組成物が水溶液の状態で水素イオン指数(pH)が2〜6の範囲の化合物をテンプレートとして用いて合成される伝導性高分子バインダーについて説明する。
【0090】
伝導性を有する物質をバインダーとして用いる場合、混合して使用する活物質に伝導性物質の伝導性が維持されるという利点があるが、従来の伝導性高分子バインダーであるPEDOT:PSSAでテンプレートとして用いられるPSSAがスルホン酸(sulfonic acid)であって水素イオン指数1.0〜1.5程度の強酸の特性を示すだけでなく、SO
3−イオンにリチウムが結合して移動性を低下させることになり、電池の寿命及び容量に不利に作用した。
【0091】
伝導性高分子自体をバインダー物質として活用するための技術、例えば、代表的な伝導性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(polyethylenedioxythiophene:PEDOT)を使用する技術において、この共役型伝導性高分子(conjugated conducting polymers)は伝導性を与える伝導性高分子であり、例えば、PEDOT部分は伝導性を与える部分であり、PEDOT部分と電気的に結合されている、いわゆるテンプレート化合物はこの伝導性高分子を水などの溶媒に溶解させる役割を果たすものである。この時、テンプレート化合物としてどれを使用するかによって、水溶液状態での挙動が非常に異なる。例えば、代表的なテンプレートであるポリスチレンスルホン酸(polystyrenesulfonic acid:PSSA)は、水に溶けた状態で酸性が非常に強い化合物であって、このようなテンプレートで合成された伝導性高分子を電池活物質用バインダーとして用いる場合、水溶液(または水分散)の状態で酸性があまり強いため(水分散状態で水素イオン指数が2.0未満)極板を腐食させるか、或いは初期充放電の際に正極層から負極層へ移動するリチウムイオンと反応してPEDOT:PSS−Li化合物を作って充放電過程で使用するリチウムイオンが消費されるので、いわゆるクーロン効率が低くなるという問題点がある。
【0092】
したがって、本発明は、強酸性のポリスチレンスルホン酸(Polystyrenesulfonic acid:PSSA)の化合物ではなく、より酸度が低い弱酸の化合物、すなわち適切な酸度の化合物をテンプレートとして用いて伝導性高分子を合成し、これをリチウムイオン電池のバインダー物質として活用する。ポリスチレンスルホン酸(Polystyrenesulfonic acid:PSSA)をテンプレートとして用いて、代表的な伝導性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を合成した伝導性高分子(以下、PEDOT:PSSAと呼ぶ)は、テンプレートとして用いられたPSSA成分中のPEDOTとのドーピングの際に電気的結合に参加しないスルホン酸成分が水に会えば強い酸性を帯びて腐食性が強く、特にPSSAのSO
3アニオン成分が電解質を介して移動するリチウムイオンと結合してリチウムイオン電池の主要成分がリチウムイオンを消耗させる可能性が非常に高いといえる。したがって、強酸性を帯びる化合物をテンプレートとして用いる場合には、活物質を腐食させて性能を低下させるか、或いはリチウムイオンを消耗させてサイクル特性に悪い影響を及ぼす。
【0093】
したがって、本発明では、水分散性の状態でPEDOTなどの伝導性高分子が強い酸性を帯びると、活物質を腐食させるか或いはリチウムイオンを消耗させてリチウムイオン電池のサイクル寿命特性が悪くなることを防止しようとするのである。水分散性の状態で強酸性を帯びない化合物であればいずれも本発明の目的に合致するといえる。本発明において、適切な酸度とは、水溶液の状態で水素イオン指数(pH)が2〜6の範囲であることを意味する。pHが2未満である場合には、酸性が非常に強いため、バインダーとしての使用時にリチウムイオンの損失が高くて不利であり、pHが6超過である場合には、酸性があまり弱くてPEDOTの合成時にドーパントとして作用することが難しいため、むしろ不利である。
【0094】
本発明の伝導性高分子は、アニリン、ピロール、チオフェンまたは3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの伝導性高分子合成用モノマーまたはこれから変性された変性伝導性高分子用モノマーから合成された伝導性高分子であって、伝導性高分子内でpH2〜6の化合物である水溶性アクリル系高分子をテンプレートとして用いた伝導性高分子である。この伝導性高分子の抵抗が10
5オーム/面積以下であることが好ましい。
【0095】
そして、前述したテンプレートとして使用可能なpH2〜6の化合物としては、水溶性のカルボキシル基、カーボネート基、アクリル酸基を有する高分子がある。その中で最も好ましい化合物は、水溶性アクリル酸化合物である。特に水溶性アクリル酸化合物の中でも、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid:PAA)が水素イオン指数(pH)2〜6の範囲に属し、伝導性高分子としての活用性が高い3,4−エチレンジオキシチオフェンの合成に有利であって最も好ましい。
【0096】
以下、本発明の内容は、活物質組成物の伝導性高分子として最も好ましいポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を中心に説明する。しかし、本発明で好ましい水溶性アクリル系高分子をテンプレートとして用いてPEDOTを合成し、これをリチウムイオン電池に活用するためのものなので、本発明の範囲が後述のPEDOTに限定されるものではなく、他の種類の伝導性高分子も同様の効果を持つことは自明である。また、本発明のアクリル系高分子であるPAAは、水溶性アクリル系高分子のいずれかの例示に過ぎず、伝導性高分子の合成のためのテンプレートとして用いることが可能なpH2〜6の高分子化合物であればいずれも使用可能であり、特に、アクリル系化合物が好ましい。
【0097】
前述したように、本発明は、新しいバインダーを合成し、これをリチウムイオン電池の活物質と混合するためのバインダーとして活用するためのものである。したがって、本発明の説明は、充放電サイクル特性が最も悪いものと知られているシリコンナノ粒子を負極活物質として用いる場合について記述しようとする。
【0098】
しかし、実施例から容易に分かるように、本発明の新しいバインダーは、シリコン系負極活物質だけでなく、従来の黒鉛系負極活物質、ニッケル−コバルト−マンガン系(NCM)正極活物質などの様々な種類の電極用活物質材料に適用可能である。
【0099】
この新しいバインダーは、従来のリチウムイオン電池用バインダーとして使用されていないものであって、自体的に電気伝導性を持つため、伝導性カーボンブラックとの混合時に正極活物質組成物の電気伝導特性がより安定化できるバインダーである。
【0100】
本発明で使用するバインダー物質の中で最も好ましい例として、PEDOT:PAAを中心に説明する。
【0101】
本発明のPEDOT:PAAの合成過程は、次のとおりである。
【0102】
まず、モノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(3,4−ethylenedioxythiophene:EDOT)、過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate:APS)、硫酸第二鉄などの酸化剤、及びPAAを秤量して水に混合した後、一定の温度で撹拌しながらPEDOT合成反応を誘導する。PEDOT:PAA合成反応が進むにつれて、反応溶液は紺青色(dark blue)に変わる。このように合成された溶液から透析バッグを用いて不純物を除去した後、適当なイオン交換樹脂を入れて再び攪拌して、反応溶液内に残っているイオン性不純物を除去してPEDOT:PAAを得る。この時、硫酸第二鉄などの補助剤を一緒に使用すると、粒子サイズの小さいPEDOT:PAA化合物を得ることができて有利である。
【0103】
本発明のPEDOT:PAAの合成の際に水に混合するEDOTの含有量は、0.5〜5.0モルとなるようにする。EDOTの含有量が 0.5モル未満である場合には、合成された伝導性高分子の電気伝導度が低くて不利であり、EDOTの含有量が5モル超過である場合には、モノマーがあまり多くて高分子の合成が円滑に行われないか、或いはあまりにも多い未反応モノマーが残って洗浄作業が複雑になり、むしろ不利である。
【0104】
本発明の合成反応に使用される酸化剤及びEDOTの含有量比は、理想的には一つの酸化剤分子が一つのEDOTを酸化させるものなので、モル比で1:0.8〜1:3を維持することが有利である。EDOTを基準に、酸化剤を3モル超過使用する場合には、伝導度が低くなり、酸化剤のモル比を0.8モル未満にする場合にも、やはり伝導度が低くなる。好ましくは0.8モル〜2モルであり、前述したように、さらに好ましくは1モルの比率が高い伝導度を示す。しかし、合成されたPEDOT:PAAの電気伝導度は、この比率によって左右されるので、所望の電気伝導度を得るために酸化剤とEDOTのモル比を調整して使用することもできる。
【0105】
本発明の最も重要な成分であるPAAは、基本的に水溶性高分子であって、重量平均分子量50,000〜4,000,000g/moleのアクリル系高分子である。合成反応に使用されるPAAの含有量は、EDOTに対して0.5〜5モル比の範囲であればよい。この時、PAAの含有量がEDOTに対して0.5モル比未満である場合には、合成されたPEDOT:PAA中のPEDOT成分の含有量があまり高いため、合成された伝導性高分子が溶液状に存在するのではなく、大きな粒子の形で存在するので、リチウムイオン電池のバインダーとして使用することが難しいという問題点があって不利である。また、PAAの含有量がEDOTに対して5モル比超過であれば、PAAの含有量があまり高いため、合成された伝導性高分子の伝導度があまりにも低くなり、バインダーとしての使用に不適合であってむしろ不利である。好ましくは、EDOTに対して1.0〜2.0モル比の範囲で使用することが有利である。
【0106】
また、PAAの分子量が50,000g/mole未満である場合には、PAAの分子量があまり低くてPAAがテンプレートとしての役割を果たせず、合成されたPEDOT:PAAが大きな粒子の形になって不利であり、PAAの分子量が4,000,000g/mole超過である場合には、水によく溶けないか、或いは合成されたPEDOT:PAAの粘度があまり高いため、使い勝手が悪くてむしろ不利である。
【0107】
本発明のPEDOT:PAA合成後の洗浄過程は、有機物合成後の洗浄過程と同様の過程を経て洗浄すればよい。つまり、反応溶液内には、合成しようとするPEDOT:PAA以外にも、未反応モノマー、酸化剤などの不純物が多く存在する。したがって、まず透析バッグを用いて不純物を濾過した後、再度カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂を適量混合して、透析処理された反応溶液に入れて放置することで残存イオンを除去するか、或いはこれらの交換樹脂をカラムに入れてイオン交換カラムを作り、透析処理された反応溶液をこのイオン交換カラムに通過させることで残存イオンを除去する。この時、使用する透析バッグの孔径及びイオン交換樹脂の種類は、試行錯誤を経て十分に見つけ出すことができるので、特別な種類の透析バッグ及びイオン交換樹脂の種類や方法に限定する必要がない。
【0108】
本発明のPEDOT:PAA合成時の合成及び洗浄後の固形分含有量を調整するためには、上述したモノマー、酸化剤、水溶性アクリル系高分子の各成分の割合を固形分含有量に合わせて調整して合成すればよい。
【0109】
リチウムイオン電池の製造の際には、バインダー物質として用いられる本発明のPEDOT:PAA溶液に活物質及びカーボンブラックなどの成分を均一に混合した後、活物質スラリーを作る工程が必要である。この時、使用するPEDOT:PAAバインダー溶液内に含まれている固形分(バインダー溶液内にあるPEDOT:PAAの含有量)は、1.0〜5%の範囲が適当である。これは、活物質の種類に応じて組成物を製造する際に、活物質、バインダー及び伝導性物質の含有量比によって組成物の粘度が異なる。これは、再び極板の上に活物質組成物をコーティングするときに電極物質層の形成に影響を与えているからである。この時、固形分含有量が1.0%未満であれば、溶液があまりにも薄いため、活物質を混合しても全体組成物の粘度があまり低くて活物質膜の形成が難しいか、或いは塗膜の厚さがあまりにも低くなるか、或いは溶媒があまり多くて活物質の表面にあるリチウムを洗い出すなどの問題点により、このバインダーにカーボンブラックまたはカーボンナノチューブなどの伝導性成分を混合しても充放電サイクル特性の向上が微々であって不利であり、固形分含有量が5%超過であれば、充放電サイクル特性の向上の面では良いが、活物質組成物の製造時に添加するPEDOT:PAA水分散液の量があまり少なくなって活物質組成物の製造が難しくなるか、或いはPEDOT:PAA溶液の製造自体が難しくなり、やっとすれば沈殿物が生じるおそれがあってむしろ不利である。
【0110】
リチウムイオン電池の製造時の正極活物質粒子とバインダーの混合の際に、伝導性カーボンブラックを一緒に混合して使用する。このカーボンブラックは、バインダー内に混合されて電気的に絶縁性がバインダー成分の電気伝導度を増加させる役割を果たす。
【0111】
本発明の伝導性高分子バインダーは、自体的に電気伝導度を持ってはいるが、自体的に使用されるよりは、他の従来のリチウムイオン電池と同様に伝導性カーボンブラックと混合して使用することができる。
【0112】
また、伝導性カーボンブラック以外に、伝導性を有するカーボンナノ材料、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのナノカーボン材料を一緒に混合して使用してもよい。特にカーボンナノチューブの場合、アスペクト比(aspect ratio)が非常に大きいため、これをカーボンブラックと共にまたは単独で伝導性高分子バインダーと混合して同じ効果を得ることができる。また、本発明者らの実験の結果、カーボンナノチューブを使用すると、活物質と極板との接着力を向上させることが確認された。
【0113】
本発明は、水溶性アクリル系高分子(PEDOT:PAA)をテンプレートにして伝導性高分子を合成し、これをリチウムイオン電池の活物質組成物の製造時にバインダー材料として使用することに関するものである。したがって、活物質の種類、すなわち黒鉛、シリコンナノ粒子またはその他の負極活物質及びこれらの負極活物質を混合して製造した負極活物質など、種類を問わずに、すべての種類の活物質に適用可能である。負極活物質中の黒鉛の場合には、黒鉛自体が電気伝導度に優れるため、別の伝導性カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの伝導性物質をさらに添加しなくてもよい。また、リチウムコバルトオキサイド(Lithium Cobalt−oxide:LCO)、ニッケル−コバルト−マンガン(Nickel−Cobalt−Manganese:NCM)、またはニッケル−コバルト−アルミニウム(Nickel−Cobalt−Aluminium:NCA)などの様々な正極活物質のバインダーとして使用することができることは自明である。また、本発明のバインダー物質は、負極または正極活物質の形状、すなわち粒子またはナノワイヤーまたはピラミッド形状などの特別な形状の活物質に限定されるものではなく、全種類の形状を有する活物質に適用可能である。本発明のPEDOT:PAAをバインダーとして使用するときに、正極活物質(または負極活物質)、バインダー及び伝導性カーボンブラックまたはカーボンナノチューブの含有量比は、従来の含有量比をそのまま使用すればよい。
【0114】
本発明のPEDOT:PAAバインダーと正極活物質(または負極活物質)及びカーボンブラックまたはカーボンナノチューブを混合して分散させる方法は、従来の分散法、すなわち惑星型自転空転型遠心ミキサー(Planetary centrifugal mixer:C−mixer)、高圧ホモジナイザー(high pressure homogenizer)、アトリッションミキサー、またはサンドボールミル(sand ball mill)など、一般的に使用する各種の高性能溶液混練機をそのまま使用すればよい。
【0115】
実験の結果、本発明のバインダーを使用する場合、正極活物質の含有量を従来の含量比に対して最大30%まで増加させても、金属極板の表面に正極活物質分散液を塗布、乾燥させて正極板を無理なく製造することができ、電池がうまく作動した。これは、本発明のPEDOT:PAAが活物質との界面接着力に優れるうえ、銅箔やアルミ箔などの金属性極板材料との接着力に優れるからである。特にカーボンナノチューブと一緒に使用すると、極板と電極物質との接着力がさらに増加することが確認された。
【0116】
上述した本発明の説明は、PSSAのように強酸性を帯びないpH2〜6の化合物をテンプレートとして用いる場合に共に適用できる。
【0117】
以下、本発明の内容を比較例及び実施例を介してより具体的に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。また、本発明の充放電サイクル試験の際に、初期に0.1C〜0.5Cレートに上げ、その後、0.5Cレートで寿命試験を行った。よって、本発明の実施例及び比較例の初期容量とは、3回サイクル後の容量を意味し、容量維持率は、3回サイクル後と最終サイクル後との容量を比較した数値である。リチウムイオン電池において重要なことは、繰り返し充放電の際に初期容量の維持率(容量維持率または残存率)が非常に重要である。したがって、本発明の実施例では、場合に応じて容量維持率を重点的に記載した。
【0118】
<実施例1〜2及び比較例1>PEDOT:CMCの合成
実施例1〜2は、PEDOT:CMCの合成に関するものである。実施例1は、置換度0.9のCMCを使用したものであり、実施例2は、置換度1.2のCMCを使用した例である。一方、比較例1は、置換度0.4のCMCを使用したものである。
【0119】
以下、PEDOT:CMCの合成過程は、置換度0.9のCMCを用いて説明する。
【0120】
まず、CMC(重量分子量:450,000g/mole、置換度:0.9、Sigma Aldrich社製)を水に2重量%となるように溶解し、その後、EDOT、CMC及び酸化剤を1:1:1のモル比にして容器に入れて攪拌しながら伝導性高分子の合成を誘導した。この時、伝導性高分子モノマーは、これらの成分のモル比よりもやや多く添加することが一般的である。
【0121】
まず、三口フラスコに水200g、CMC5.6g、EDOT2.98g及びAPS4.56gを仕込み、5分間攪拌して混合する。その後、常温で48時間攪拌しながら合成する。
【0122】
前記合成反応を経た溶液を透析バッグ(セルロース系管膜(tubular membrane))に入れて封じた後、これを超純水入りの容器に入れて24時間透析させることで、未反応モノマーを除去する。この時、未反応モノマーを除去されたことは、透析バッグを浸した水の色が黄色を呈するかを確認すればよい。その後、アニオン交換樹脂(Lewatit社製、MP62)とカチオン交換樹脂(Lewatit社製、S100)を重量比で1:1の割合にして溶液100重量部に対して30重量部を透析処理済みの反応溶液に入れ、5時間イオン交換処理して残存イオン成分を除去した。その後、400メッシュ網を用いてフィルタリングすることで紺青色の溶液を得るが、この紺青色の溶液は、PEDOT:CMCが分散されている伝導性高分子溶液としてのPEDOT:CMC水分散液である。
【0123】
実施例2及び比較例1は、実施例1と同様の方法で、それぞれ置換度1.2のCMC及び置換度0.4のCMCを用いてPEDOT:CMCを合成した。
【0124】
上記の技術で得られた伝導性高分子であるPEDOT:CMCは、実施例1の場合には、表面抵抗が10
7オーム/面積であり、粘度は250センチポイズ(cP)であり、実施例2の場合には、表面抵抗が10
6オーム/面積であり、粘度は320cPである紺青色の伝導性高分子である。一方、比較例1の場合には、CMC自体が水によく溶けないため、実施例1と2よりも遥かに長い時間溶かさなければならず、合成されたPEDOT:CMCの表面抵抗は10
9オーム/面積以上であることが測定された。
【0125】
<実施例3及び4>
実施例3及び4は、テンプレートをCMCとPAA(分子量:450,000g/mole、 Sigma Aldrich社製)を混合した以外は実施例2と同様にして行う。実施例3は、CMC:PAAの重量比が5:5であり、実施例4は、CMC:PAAの重量比が7:3であった。
【0126】
上記の技術で作られた伝導性高分子(PEDOT:CMC/PAA)は、いずれも紺青色を帯びるが、これらの伝導性高分子の表面抵抗は、実施例3の場合には10
5オーム/面積であり、実施例4の場合には10
6オーム/面積であると測定された。これにより、混合テンプレートの場合、PAAの含有量が高ければ表面抵抗が低くなることを確認した。
【0127】
<実施例5及び比較例2>黒鉛/SiOx(90:10)の混合活物質
実施例5は、実施例1の技術で製造したPEDOT:CMC溶液を黒鉛(理論容量:370mAh/g)とSiOx(理論容量:1,400mAh/g)を混合した混合活物質に適用した例である。
【0128】
実施例1のPEDOT:CMCを黒鉛/SiOx(重量比:90/10、理論容量:473mAh/g)の混合活物質及びカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ)を混合して負極活物質スラリーを製造した。PEDOT:CMC/混合活物質/カーボンナノチューブの固形分含有量に対して重量比が5:90:5の重量比となるように混合した。この時、各成分の混合物をC−mixerに入れ、2,000rpmで10分ずつ3回混練した後、超音波処理器を用いて10分間1回処理し、最後にC−mixerで10分間最終攪拌して電極物質組成物を製造する。このように製造された活物質スラリーの流れ状態を確認した結果、負極活物質スラリーの流れ状態が、まるで蜂蜜が流れるかの如き形状を示した。これにより、本発明のPEDOT:CMCで活物質スラリーを作る場合、電池の量産製造ラインでコーティング作業時に何らの問題もないことを確認した。
【0129】
この組成物を銅箔上に、乾燥及び圧延工程後の厚さが30ミクロンとなるように負電極層を形成した。
【0130】
上記の技術で製造した負電極板の表面にスコッチテープを貼り付けてから剥がす接着力試験を行った結果、電極物質層が極板から剥離せずによく接着されていることを確認した。
【0131】
上記の技術で製造された負電極板を用いてハーフセル構造のコインセル(CR2032)を作り、これに対する充放電サイクル試験を0.5Cレートで行った。この時、対電極(counter electrode)としては、リチウム金属箔を使用し、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ビニレン(VC)及び炭酸フルオロエチレン(FC)などのカーボネート類の混合溶媒(重量比:EC/DEC/VC/FEC=3/7/0.05/0.05)にLiPF
61.15モルを溶解させて電解液として使用した。コインセルの製造は、アルゴンガスで充填されたグローブボックスで行った。
【0132】
比較例2は、バインダー物質として、伝導性高分子ではない電気不導体でありながら、従来の負極活物質用バインダーとして使用されるCMCを使用した以外は、実施例5と同様にして行う。比較例2の技術で製作された負極活物質層に対する接着力試験の結果、スコッチテープで負極活物質層が極板から容易に剥離されることを確認した。
【0133】
上記の技術で製造したコインセルの充放電サイクル試験の結果、実施例5の場合には、3回サイクル後の放電容量445mAh/g、50回サイクル後の放電容量440mAh/gであって初期容量の減少がほとんどないことが確認された。一方、比較例2の場合には、3回サイクル後と50回サイクル後の放電容量がそれぞれ452mAh/g、373mAh/gと測定された。寿命曲線の減少傾向を見ると、実施例5の場合には、3回サイクル後と50回サイクル後との放電容量の差がほとんどなく、95%以上の容量維持率を示す一方、比較例2の場合には、約82%の容量維持率を示すことが確認された。特に比較例2の場合には、50回の充放電サイクル後にも容量が減少し続けることが観察され、サイクル回数が増えるほど容量がさらに減少するものと思われる。
【0134】
実施例5と比較例2の結果を比較すると、従来多く使用するCMC自体をバインダーとして使用するよりも、これをテンプレートとして用いて合成したPEDOT:CMCをバインダーとして使用することが遥かに優れた電池特性を示すことが分かる。
【0135】
<比較例3>流れ状態の比較用(PEDOT:PAA)
比較例3は、負極活物質スラリーの流れ状態を比較するために、伝導性高分子バインダーをPEDOT:PAA(実施例16)を使用した以外は、実施例5と同様にして行う。
【0136】
上記の技術で製造された負極活物質スラリーの流れ状態を確認した結果、比較例3の負極活物質スラリーは、容器に入れて傾けたとき、まるでプリンの如く断続的に滴下する様子を示した。
【0137】
実施例5と比較例3の結果から、本発明のPEDOT:CMCをバインダーとして用いて製造した負極活物質スラリーは、まるで蜂蜜の如く流れる特性を示して、本発明のPEDOT:CMCバインダーが電池コーティング工程にさらに適していることが明らかになった。
【0138】
<実施例6〜7及び比較例4>黒鉛/SiOx混合活物質の割合
実施例6〜7は、黒鉛とSiOxの混合活物質(黒鉛/SiOxの重量比:90/10)の重量を異にした以外は実施例5と同様にして行う。バインダー/混合活物質/カーボンナノチューブの重量比を、実施例6の場合には10/85/5、実施例7の場合には10/80/10、比較例4の場合には1/98.5/0.5にして、活物質スラリーを製造した。
【0139】
上記の技術で製造した負極活物質スラリーを銅箔上に、圧延後の厚さが35ミクロンとなるように塗布して負電極層を形成し、これに対するサイクル試験の結果、実施例6と実施例7の場合には、50回サイクル後の容量維持率が95%以上を維持する一方、比較例4の場合には、活物質の含有量があまり高いため、極板の上に形成された負電極層が非常に容易に破損してしまうという問題点が発見された。これに対する充放電サイクル寿命試験の結果、50回サイクル後の容量維持率が75%程度であって非常に悪い容量維持率を示すことが測定された。
【0140】
<実施例8>混合テンプレートを用いた伝導性高分子バインダー
実施例8は、実施例3の混合テンプレートを用いた伝導性高分子バインダーを使用した以外は実施例5と同様にして行う。
実施例8によって製造されたコインセルに対する寿命試験の結果、50回の充放電サイクル後にも容量維持率が95%以上維持されることを確認した。これにより、混合テンプレートを用いて合成された伝導性高分子もサイクル試験時の容量維持率に優れていることが分かる。
【0141】
<実施例9及び比較例5>シリコンナノ粒子
実施例9は、負極活物質としてシリコンナノ粒子(理論容量:4,200mAh/g)を用いて、シリコンナノ粒子/PEDOT:CMC/カーボンナノチューブの重量比が60:20:20となるようにして負電極板を製造した以外は、実施例5と同様にして行う。このように製造された負電極板の圧延工程後の厚さが30ミクロンとなるようにした。比較例5は、CMCをバインダー物質として用いた以外は実施例9と同様にして行う。
【0142】
実施例9によって製造されたコインセルの寿命試験の結果、実施例9及び比較例5の初期容量は約4000mAh/gであり、50回サイクル後の放電容量は、実施例9の場合には3,275mAh/gであり、比較例5のCMCを使用した場合には2,350mAh/gであると測定された。これにより、本発明のセルロース系伝導性高分子をバインダーとして用いた実施例9の寿命特性が比較例5の寿命特性よりも遥かに良いことが分かる。
【0143】
<実施例10〜11及び比較例6>バインダー/カーボンナノチューブの含有量
実施例10〜11は、バインダーとカーボンナノチューブの割合を異にした以外は実施例5と同様にして行う。バインダーとカーボンナノチューブの割合に関連し、バインダー/SiOx/黒煙/カーボンナノチューブの重量比は、実施例10の場合には5/9/81/5、実施例11の場合には7/9/81/3、比較例6の場合には9.6/9/81/0.4である。
【0144】
上記の技術で製造されたコインセルの充放電サイクル試験の結果、実施例10及び11は、50回サイクル後の容量維持率が95%以上であって、初期容量がほとんど減少しなかった。しかし、比較例6の場合には、50回サイクル後の容量維持率が81%であると測定された。
【0145】
これによりカーボンナノチューブの割合があまり低ければ、容量維持率が低くなることが分かった。
【0146】
<実施例12及び比較例7>カーボンナノチューブの長さ
実施例12と比較例7は、カーボンナノチューブの長さを異にした以外は実施例5と同様にして行う。実施例12の場合には、カーボンナノチューブの長さが40ミクロンであり、比較例7の場合には、カーボンナノチューブの長さが3ミクロンである。
【0147】
上記の技術によって製造されたコインセルに対する充放電寿命試験の結果、実施例12の場合には、50回サイクル後の容量維持率が95%以上維持される一方で、比較例7の場合には、83%程度であることが測定された。
【0148】
<実施例13〜14>混合伝導性高分子バインダー
実施例13及び14は、実施例1のPEDOT:CMCと他の化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子であるPEDOT:PAA(CNPS社製)及びPEDOT:PSS(Heraus社製、PT−2、ロータリー蒸発器で固形分を2重量%に合わせて使用)をそれぞれ混合し、これをバインダーとして用いて充放電寿命特性を測定した以外は、実施例5と同様にして行う。実施例13は、PEDOT:CMCとPEDOT:PAAを50:50の重量比で混合したものであり、実施例14は、PEDOT:CMCとPEDOT:PSSを50:50の重量比で混合し、これをバインダーとして用いたものである。
【0149】
上記の技術によって製造されたCR2032コインセルに対する充放電寿命試験の結果、実施例13及び14の両方とも50回サイクル後の容量維持率が95%以上であることを確認した。別途の実験を介して、PEDOT:PSSを単独でバインダーとして用いた場合、50回サイクル後の容量維持率が90%未満であることが観察された。しかし、上述したように、PEDOT:CMCと混合した混合バインダーの場合には、95%以上の容量維持率を示すことが観察された。これにより、PEDOT:CMCと混合して混合バインダーとして用いると、PEDOT:PSSの低い容量維持率が補完されて高い容量維持率を示すことが分かる。
【0150】
<実施例15及び比較例8>正極活物質:NCM
実施例15は、ニッケル−コバルト−マンガン(NCM)正極活物質を用いて製造したコインセル(CR2032)の特性試験に関するものである。本実施例のNCM系正極活物質を用いたCR2032コインセルは、実施例5の方法に基づいて製造した。この時、使用した正極活物質は、重量比でNCM/PEDOT:CMC/カーボンナノチューブ/カーボンブラック=92/3.5/3.0/1.5の割合であった。比較例8は、PVDF(正極用バインダー、ソルベイ社製)を用いた以外は実施例15と同様にして行う。PVDFはNMP(N−Methyl−2−pyrrolidone)に溶かして使用した。
【0151】
上記の技術で製造されたコインセルに対する充放電サイクル試験の結果、50回サイクル後の容量維持率は、実施例15の場合には95.7%、比較例8の場合には75%であると測定された。
【0152】
前記実施例1〜15及び比較例1〜8の結果を比較すると、本発明のセルロース系化合物を用いて合成してセルロース系伝導性高分子がよく作られることを確認した。また、テンプレートとして、セルロース系化合物とアクリル系化合物とを混合した混合テンプレートを用いても、伝導性高分子がよく作られることを確認した。また、互いに異なる化合物をテンプレートとして用いて合成された伝導性高分子バインダーを混合して作った混合伝導性高分子バインダーを用いても充放電寿命特性を向上させることが分かる。これらの伝導性高分子バインダーは、負極活物質だけでなく、正極活物質系にも共に適用できることを確認した。また、本発明のPEDOT:CMCをバインダーとして用いる場合、活物質層が極板の上によく接触しているようにし、特にカーボンナノチューブと一緒に用いる場合、電極層の緻密度を高めて電極層が機械的に安定して維持されるようにする。
【0153】
以下、水溶液の状態で水素イオン指数(pH)が2〜6の範囲である高分子化合物をテンプレートとして用いて合成される伝導性高分子バインダーに対する実施例を説明する。
【0154】
<実施例16〜19>PEDOT:PAAの合成
実施例16〜19は、PEDOT:PAAの合成に関するものであり、合成反応に使用される各成分の含有量比を調整して合成されたPEDOT:PAAを合成し、合成されたPEDOT:PAAの特性を比較したものである。
【0155】
まず、実施例16を介してEDOT、PAA及び酸化剤の割合をモル比で1:1:1にしてPEDOT:PAAを合成する過程を説明する。以下、実施例17〜19は、各成分の含有量の割合を調整する以外は実施例16と同様にして、合成すればよい。
【0156】
まず、三口フラスコに水200g、PAA(分子量1,250,000g/mole、繰り返し単位分子量:72g/mole)1.44g、EDOT(分子量140g/mole)2.98g、及びAPS(分子量228g/mole)4.56gを仕込み、5分間攪拌して混合する。その後、常温で24時間攪拌しながら合成する。
【0157】
前記合成反応を経た溶液を透析バッグ(セルロース管膜)に入れ、これを超純水入りのビーカーに置き、24時間透析させて未反応モノマーを除去する。この時、未反応モノマーが除去されたことは、透析バッグを浸した水の色が黄色を呈するかを確認すればよい。
【0158】
その後、アニオン交換樹脂(Lewatit社製、MP62)とカチオン交換樹脂(Lewatit社製、S100)を重量比で1:1の割合にして、溶液に対して10重量部を透析処理された反応溶液に入れ、3時間イオン交換処理して残存イオン成分を除去する。
【0159】
その後、400メッシュ網を用いてフィルタリングすることで紺青色の溶液を得るが、この紺青色の溶液は、PEDOT:PAAが含まれているPEDOT:PAA溶液である。
【0160】
表1は、実施例16〜19を介して合成したPEDOT:PAAの表面抵抗及び粘度などの特性を比較したものである。表1に示すように、紺青色の伝導性高分子が成功的に合成され、EDOTの含有量が増加するほど抵抗が減少することが分かる。
【0161】
上記のように合成されたPEDOT:PAAの化学式は、下記化学式2に示されたとおりである。
【0164】
表1は、実施例16〜19を介して合成されたPEDOT:PAA及び特性を示す。
【0166】
<実施例20及び比較例9>シリコンナノ粒子、PEDOT:PAA、カーボンナノチューブ混合物の極板との接着力/従来のバインダー
【0167】
実施例20は、実施例16の技術で製造したPEDOT:PAA溶液、シリコンナノ粒子(平均粒径:50ナノメートル)、及び多層カーボンナノチューブ(multiwall carbon nanotube:MWCNT)を固形分含有量に対して20:60:20の重量比となるように混合する。この時、シリコンナノ粒子0.6g、カーボンナノチューブ0.2g及び固形分2%のPEDOT:PAA溶液10gをC−mixerに入れ、2,000rpmで10分ずつ3回混練した後、バータイプの超音波処理器を用いて10分間1回処理し、最後にC−mixerで10分間最終攪拌して電極物質組成物を製造する。この組成物を銅箔上に、乾燥後の厚さが40ミクロンの厚さとなるように塗布して負電極板を作る。
【0168】
上記の技術で製造した負電極板の表面をナイフで傷つけた後、その上にスコッチテープを貼り付けてから剥がす接着力試験を行った結果、電極物質層が極板から剥離せずに強く接着されていた。
【0169】
<比較例9>
比較例9は、バインダー物質としてポリフッ化ビニリデン(polyvinylidenefluoride:PVDF、ソルベイ社製)を使用した以外は実施例20と同様にして行った。
【0170】
上記の技術で製造した負電極板の電極物質層に対するスコッチテープを用いた接着力試験の結果、電極物質層が極板から剥離することを確認した。
【0171】
実施例20と比較例9の結果から、従来のPVDFバインダーを用いる場合よりも、本発明のPEDOT:PAAをバインダーとして用いる場合に負電極板の電極物質層が極板に強く接着されていることが分かる。
【0172】
<実施例21及び比較例10〜12>
実施例21は、実施例20と同様の技術で負電極板を製造し、これを用いてハーフセル構造(CR2016タイプ)のコインセルを作った。比較例10〜12は、バインダーの種類を異ならせて同じ構造のコインセルを作った。上記の技術によって製造したコインセルを充放電テスト機に入れて充放電サイクル試験を行った。この時、対電極(counter electrode)としてはリチウム金属箔を使用し、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ビニレン(VC)及び炭酸フルオロエチレン(FC)などのカーボネート類の混合溶媒(重量比:EC/DEC/VC/FEC=3/7/0.05/0.05)にLiPF
61.15モルを溶解させて電解液として使用した。コインセルの製造は、アルゴンガスで充填されたグローブボックスで行った。
【0173】
上記の技術で製造したコインセルの充放電サイクル試験の結果が表2にまとめられている。表2の実施例21と比較例10〜12のバインダーの種類による充放電サイクル試験の結果を比較すると、ポリアクリル酸(polyacrylic acid polymer:PAA)バインダー、カルボキシメチルセルロースバインダー(carboxymethyl cellulose:CMC)、及びPEDOT:PSSAの100回サイクル試験後の残存容量(retention capacity、mAh/g)を比較すると、初期容量に対して、PEDOT:PAAは62.2%、PAAは36.5%、CMCは25.9%、PEDOT:PSSAは37.0%であると測定された。
【0174】
前記実施例21と比較例10〜12の結果を比較すると、負電極活物質としてシリコンナノ粒子を用いた場合、PEDOT:PAAの残存容量が他のバインダーに比べて遥かに高いことが分かる。特にPAA、PEDOT:PSSA、及びPEDOT:PAAの結果を比較すると、PAA自体をバインダーとして用いる場合よりも、PAAをテンプレートにしてPEDOTを合成してバインダーとして用いる場合に残存容量が遥かに高くなることが分かる。また、同じPEDOTであっても、PAAをテンプレートとして用いる場合が、PSSAをテンプレートとして用いる場合よりも寿命が遥かに良くなることが分かる。
【0175】
表2は実施例21と比較例10〜12のバインダーの種類による充放電試験サイクルの結果を示す。ここで、残存比(%)は、初期容量に対する残存容量の割合、すなわち容量維持率(%)を意味する。
【0177】
<実施例22及び比較例13>
実施例22及び比較例13は、負極活物質として、従来の商業化されたリチウムイオン電池の負極活物質である黒鉛を用いたものである。前記実施例22及び比較例13のハーフセル構造のコインセルは、次のとおりに製造した。実施例22は、C−mixerに黒鉛2.91gと固形分2%のPEDOT:PAA1.5gを投入した後、2,000rpmで10分ずつ2回混練して負極活物質組成物を製造した。この時、固形分に対する重量比は、97:3(黒煙:PEDOT:PAA)とした。これを銅箔に塗布し、乾燥させて乾燥後厚さ40ミクロンの負電極板を製造した。その後、実施例21の方法でハーフセル構造のコインセルを製造し、これを充放電サイクル試験機に入れて充放電サイクル試験を行った。
【0178】
比較例13は、バインダーとして、従来の商業化されたリチウムイオン電池の負極活物質組成物の製造に使用されるスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とCMCの混合バインダー(重量比で1:1)を用いた以外は、実施例21と同様にして行う。
【0179】
上記の技術で製造したコインセルの充放電サイクル試験の結果、100回充放電サイクル試験後の残存容量は、実施例22のPEDOT:PAAの場合には初期容量比79.2%であり、SBR:CMC混合バインダーの場合には初期容量比64.0%であった。
【0180】
実施例22と比較例13の結果を比較すると、従来の商業的に販売されているリチウムイオン電池のバインダー物質であるSBR/CMC混合バインダーに比べてPEDOT:PAAバインダーの性能に優れることが分かる。
【0181】
<実施例23及び比較例14>正極活物質:NCM電池
実施例23は、従来の商業化されて販売されている高容量リチウムイオン電池の正極活物質であるニッケル−コバルト−マンガン(NCM)正極活物質を用いて製造したコインセルの特性試験に関するものである。
【0182】
実施例23のNCM系正極活物質を用いた充放電サイクル試験用テストセルの製造は、次のとおりである。まず、正極活物質組成物は、NCM活物質:PEDOT:PAAバインダー:MWCNTの固形分に対して重量比が96:2:2となるように秤量した後、C−mixerに入れて2,000rpmで5分間混練する過程を4回繰り返し行って製造した。この組成物をアルミニウム極板の上にコーティング、乾燥させて厚さ40ミクロンの正電極板を製造した。負極板はリチウム金属をそのまま使用した。
【0183】
比較例14は、バインダー物質として、既存の商業化されて販売されているNCM系リチウムイオン電池の正極活物質組成物の製造に使用されるPVDF(ソルベイ社製)を用いた以外は、実施例23と同様にして行う。
【0184】
前記実施例23及び比較例14の試料に対する試験は、各試料に対して45℃で100サイクル充放電特性を測定した。
【0185】
測定の結果、実施例23の45℃で行った100サイクル充放電後の残存容量は初期容量比89.4%に維持されることが確認された。一方、従来のバインダーであるPVDFを用いる場合には、100サイクル充放電後の残存容量は67.4%であった。
【0186】
前記実施例23及び比較例14の結果を比較すると、実施例の正極活物質組成物においても本発明のPEDOT:PAAの残存容量特性に遥かに優れることが分かる。
【0187】
前記実施例16〜23及び比較例9〜14の結果を比較すると、本発明で合成したPEDOT:PAAをリチウムイオン電池のバインダーとして用いる場合、活物質組成物を塗布し、乾燥させて極板を製造する場合、活物質層と極板との接着力に非常に優れることが分かり、100回充放電サイクル試験後の残存容量が他のバインダー物質に比べて遥かに高く、これから製造されたリチウムイオン電池の寿命特性が大きく向上することが分かる。また、本発明のPEDOT:PAAは、負極活物質だけでなく、正極活物質の場合にも効果的であることが分かる。
【0188】
以下、カーボンナノチューブが混合される特性について説明する。
【0189】
<実施例24〜26及び比較例15〜18>シリコンナノ粒子、PEDOT:PAA、カーボンナノチューブ混合物の極板との接着力
【0190】
実施例24〜26は、カーボンナノチューブの含有量の差による接着力、電極層の緻密度及び100サイクル充放電試験後の残存容量を確認するためのものである。
【0191】
実施例24は、実施例16の技術で製造したPEDOT:PAA溶液、シリコンナノ粒子(平均粒径:50ナノメートル)、及び多層カーボンナノチューブ(multiwall carbon nanotube:MWCNT)を固形分含有量に対して20:60:20の重量比となるように混合する。この時、シリコンナノ粒子0.6g、カーボンナノチューブ0.2g及び固形分2%のPEDOT:PAA溶液10gをC−mixerに入れ、2,000rpmで10分ずつ3回混練した後、バータイプの超音波処理器を用いて10分間1回処理し、最後にC−mixerで10分間最終攪拌して電極物質組成物を製造した後、この組成物スラリーを厚さ8ミクロンの銅箔上に、乾燥後電極層の厚さが6ミクロンの厚さとなるように塗布して、合計厚さ14ミクロンの負電極板を作った。
【0192】
実施例25は、伝導性高分子バインダー:活物質:カーボンナノチューブの含有量比を25:65:10にし、実施例26は、その含有量比を15:55:30にして、バインダーの重量に対するカーボンナノチューブの含有量比を変化させてスラリーを製造した以外は、実施例24と同様にして行う。
【0193】
前記実施例24〜26の技術で製造した負電極板の表面をナイフで傷つけた後、その上にスコッチテープを貼り付けてから剥がす接着力試験を行った結果、電極層が極板から剥離せずに強く接着されていた。また、電極層をピンセットで引っ掻いても大きく傷つかない程度に電極層の緻密度が良好であった。このような現象は実施例24〜26で共に現れることが観察された。
【0194】
比較例15は、バインダー物質をPEDOT:PAAではなく、スチレン−ブタジエン(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)を1:1で混合した混合バインダーを用いた以外は実施例24と同様にして行った。比較例16は、伝導性付与剤としてカーボンナノチューブではなく、伝導性カーボンブラック(Super P)を用いた以外は比較例15と同様にして行った。
【0195】
比較例15の技術で作られたスラリーで負電極層を形成した場合、スコッチテープテストで約50%程度が脱落して、銅極板の上に形成された電極層の接着力が実施例24に比べて格段に劣り、ピンセットの尖った部分で電極層を引っ掻くと電極層が容易に脱落する現象が観察された。また、比較例16の場合には、スコッチテープテストでほぼ全体電極層が脱落し、表面をピンセットの尖った部分で引っ掻くと電極層が非常に簡単に砕けながら脱落する現象が観察された。
【0196】
これらの実施例24と比較例15〜16の結果を比較すると、本発明の伝導性高分子バインダーとカーボンナノチューブのみを用いて製造した活物質組成物を用いて電極層を形成する場合、極板への接着力及び電極層の緻密度が遥かに良いことが分かる。一方、従来の負電極用バインダーであるSBR/CMC混合バインダーを用いるか、或いは伝導性カーボンブラックを用いた場合には、極板との接着力及び電極層自体の緻密度が良くないことが分かる。特に伝導性カーボンブラックを伝導度付与剤として使用する場合、電極層と極板との接着力が非常に良くないだけでなく、電極層自体の緻密度も非常に悪いことを確認することができた。
【0197】
表3に前記実施例24〜26と比較例15〜16の充放電セルテスト結果がまとめられている。充放電サイクル試験は、ハーフセル構造のコインセル(CR2032タイプ)を用いて評価した。この時、対電極(counter electrode)としては、リチウム金属箔を使用し、電解質としては、1.15モルのLiPF
6がエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の重量比で混合した後、ここに炭酸ビニレン(vinylene carnobate、VC)と炭酸フルオロエチレン(fluoroethylene carbonate、FEC)の1:1の混合溶媒をさらに合計10重量%添加して製造した有機電解液を用いた。コインセルの製造は、アルゴンガスで充填されたグローブボックスで行った。本発明のすべてのセルテストのサイクル試験は0.5Cレート(0.5C rate)で行った。
【0198】
上記の技術で製造したコインセルの充放電サイクル試験結果が表3にまとめられている。表3の実施例24〜26及び比較例15〜16の充放電サイクル試験結果より、本発明の組成物スラリーで製造したハーフセルの場合、100回サイクル試験後の残存容量が比較例の結果に比べてかなり高いことが分かる。比較例15と比較例16の結果を比較すると、電気絶縁性の従来のバインダーを用いる場合、カーボンナノチューブまたは伝導性カーボンブラックの両方とも伝導性高分子バインダーに比べて遥かに低い残存容量を示す。比較例15と比較例16は、従来の黒鉛用バインダーであるCMC/SBR混合バインダーを用いる場合、本発明の伝導性高分子バインダーに比べて残存容量は低いものの、カーボンナノチューブを用いた場合が伝導性カーボンブラックを用いた場合よりもやや高い残存容量を示すことが分かる。特にサイクル試験の初期容量の減少程度を比較した結果、本発明の技術で製造された電池ハーフセルの場合、初期の数十回サイクルの間に容量が減少する程度が、比較例の試料に比べて遥かに低いことが分かる。
【0199】
比較例17及び18は、本発明の活物質スラリーの製造時に各成分の組成比の効果を比較したものである。比較例17及び18は、黒鉛を負電極活物質として用いる場合に一般的に適用するスラリー組成物の各成分の割合と同様の割合で活物質スラリーを製造したものである。
【0200】
表3に示すように、比較例17及び18の場合、サイクル試験の開始後から数十サイクルが過ぎていないときに残存容量がほぼ0mAh/gと急激に減少して、電池としての性能をすべて失ってしまうことが確認された。
【0201】
このような結果から、伝導性高分子バインダーだけでなく、従来のバインダーにおいてもカーボンナノチューブを用いた場合が電極層の極板との接着力を増進させるのはもとより、充放電サイクル後の残存容量も伝導性カーボンブラックに比べて良いことが分かる。また、本発明のスラリー組成物の組成比の組み合わせが、従来の黒鉛用として使用する組成物の成分割合よりも遥かに優れた性能を示すことができる。
【0202】
表3はサイクル試験による残存容量及び残存比を示す。
【0204】
<実施例27及び比較例19>SiOx
実施例27は、スラリー組成物の製造時にSi金属粒子の代わりにSiOxを負電極用活物質として用いた以外は実施例24と同様にして行った。比較例19は、表4に示されている活物質スラリーの組成比のとおりにバインダー物質と伝導性付与剤をそれぞれ異にした以外は、実施例27と同様にして行った。本実施例及び比較例では、理論容量1,400mAh/gのSiOxを使用した。
【0205】
表4にまとめられているように、SiOxの場合でも、本発明の伝導性高分子バインダーとカーボンナノチューブを用いる場合、3回サイクル後の残存容量が1,150mAh/g、100回サイクル後の残存容量が960mAh/gであって残存比が約83%である。CMC/SBR混合バインダーを用いた場合には、100回サイクル試験後の残存容量が約54%であると測定された。一方、従来の黒鉛を用いる場合に適用される組成比で(SBR/CMC/SiOx/カーボンブラック:2/2/95/1)スラリーを製造してハーフセルを作成する場合には、サイクル試験後の数十サイクル内に残存容量がほぼ0mAh/gと急激に減少して、電池としての性能を失ってしまうことが観察された。
【0206】
この結果から、本発明のバインダーを用いる場合は、従来のCMC/SBR混合バインダーおよび/または伝導性カーボンブラックを用いる場合よりも100回サイクル試験後の残存容量が優れることが分かる。
【0207】
特に、本発明の組成物の割合を適用する場合の電池の性能が、従来の黒鉛を使用するときに一般的に使用される組成物の割合に比べて格段に優れることが確認された。これは、活物質としてSi金属粒子を用いる場合と同様の結果である。
【0208】
表4はサイクル試験による残存容量及び残存比を示す。
【0210】
<実施例28〜30>Si/黒煙混合活物質の試験
前記実施例28〜30は、バインダーとカーボンナノチューブの含有量を20:20(バインダー/カーボンナノチューブの重量比)にし、シリコンナノ粒子と黒鉛の混合比を20:80に固定した状態で活物質の含有量を異にした以外は実施例24と同様にして行った。この時、電極層の厚さは、30ミクロンとなるように調整した。
【0211】
上記の技術で製造したコインセルの充放電サイクル試験の結果、100回充放電サイクル試験後の残存容量は、実施例28〜30のいずれも80%以上の残存容量を示すことを確認した。
【0212】
本実施例の場合は、CMC/SBR混合バインダー及び伝導性カーボンブラックを含む活物質組成物を用いたハーフセルに対するサイクル試験後の残存容量を比較しなかった。しかし、上述した実施例と比較例で述べたように、従来のバインダーを用いる場合は、本発明の伝導性高分子バインダー及びカーボンナノチューブを用いる場合に比べて低いサイクル特性を示すことは自明である。
【0213】
これにより、シリコン、SiOx、またはこれらと黒鉛との混合活物質も、本発明の伝導性高分子バインダー及びカーボンナノチューブを用いる場合が、そうでない場合に比べて格段に優れた電池性能を示すことが分かる。
【0214】
表5はサイクル試験による残存容量及び残存比を示す。
【0216】
<実施例31及び32>電極層の厚さの調整(黒煙/SiOxの重量比:80/20)
実施例31及び32は、黒鉛とSiOxとを混合した混合活物質を用いて組成物(バインダー/黒煙/SiOx/カーボンナノチューブの重量比:5/72/18/5)を作り、これを用いて負電極層の厚さを異にした以外は実施例24と同様にして行った。実施例31は電極層の厚さを25ミクロンとし、実施例32は電極層の厚さを40ミクロンとした。
【0217】
これらに対するセルテストの結果、実施例31及び32は共に100回サイクル試験後の残存容量が初期値比93%以上を維持して、電池としての性能に非常に優れることを確認した。
【0218】
<実施例33〜34及び比較例20>CNTの長さの調整(黒煙/SiOxの重量比:80/20)
実施例33〜34及び比較例20は、多層カーボンナノチューブの長さを異にして組成物を作り、これを極板に塗布して電極層を形成した以外は実施例32と同様にして行った。実施例33は長さ30ミクロンの多層カーボンナノチューブを使用し、実施例34は長さ60ミクロンの多層カーボンナノチューブを使用した。比較例20は、長さが2ミクロンと短い多層カーボンナノチューブを使用した。これらの組成物を用いて負電極層を形成した後に表面を尖ったピンセットで引っ掻いた場合、実施例33及び34の電極層は、優れた緻密度を示すことが確認されたが、比較例20の電極層は容易に引っ掛かれることが観察された。これにより、電極層の緻密度を高めるためには、一定の長さ以上のカーボンナノチューブであってこそ効果的であることが分かった。
【0219】
また、これらに対する充放電サイクル試験の結果、実施例33及び34の場合には、100回サイクル試験後の残存容量が93%以上と非常に優れた性能を維持する一方で、比較例20の場合には、80%程度であって、実施例33及び34よりは劣る性能を示すことが確認された。
【0220】
<実施例35〜37及び比較例21〜22>バインダー/カーボンナノチューブの割合(黒煙/SiOxの重量比:80/20)
実施例35〜37及び比較例21〜22は、伝導性高分子バインダーとカーボンナノチューブの含有量比を異にした以外は実施例34と同様にして行った。
【0221】
負電極層の緻密度を確認した結果、実施例35〜37の場合には、極板と電極層との接着力も良好であり、尖った先端で引っ掻いて評価した緻密度も良好であることが観察された。しかし、比較例の場合には、負電極層の緻密度は良好であるものの、極板との接着力は悪い(比較例21)か、或いは、極板との接着力は良好であるものの、電極層の緻密度は劣る(比較例22)など、実施例35〜37に比べて劣悪な特性を示した。
【0222】
また、100回の充放電寿命試験の結果(表6参照)、実施例の場合、100回の寿命試験後の残存容量がいずれも90%以上を維持するが、比較例21と比較例22の場合、100回の寿命試験後の残存容量が83%、75%程度と測定され、実施例35〜37に比べて相対的に非常に低い寿命特性を示した。特に、比較例22は、すなわち、カーボンナノチューブの含有量に比べて遥かに多くの含有量の伝導性高分子バインダーを用いる場合には、100回の寿命試験後の残存容量が80%以下に低下するとともに、充電と放電にあまり長時間がかかるという問題点が発見された。
【0223】
表6は、サイクル試験による残存容量及び残存比を示す。
【0225】
前記実施例と比較例の結果を比較すると、本発明の伝導性高分子及びカーボンナノチューブの混合物を用いて、ここに活物質を混合して活物質組成物スラリーを作り、これを用いてリチウムイオン電池を製造すると、電極層が極板との接着力に非常に優れるうえ、電極層自体の緻密度が良好であることが分かる。また、本発明の伝導性高分子バインダーとカーボンナノチューブのみを混合して製造した活物質組成物を用いて電池セルを作る場合、充放電サイクル試験後の残存容量が他のバインダー、すなわち電気絶縁性のバインダーまたはカーボンブラックを用いた場合に比べて遥かに高いことが分かる。したがって、本発明の技術を用いて製造したリチウムイオン電池の寿命特性が大きく向上することが分かる。
【0226】
上述のように製造された本発明の活物質組成物を含むリチウムイオン電池の例として図面を参照して説明する。
図1及び
図2に示すように、前記リチウムイオン電池は、正極集電体10、正極物質層20、分離膜30、負極物質層40、負極集電体50、密封のためのガスケット80及びケース90で構成される。
【0227】
本発明の活物質組成物は、正極物質層20及び負極物質層40に使用可能であり、図示されたリチウムイオン電池の構造だけでなく、活物質を用いる一般なリチウムイオン電池に多様に使用可能である。