(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記塗膜に付与する、塗膜の広さ方向に実質的に均等な電界は、当該塗膜の広さ方向である塗膜の平面方向における電界の強さの差が1kv/cm未満である、請求項1に記載の塗膜形成方法。
【背景技術】
【0002】
未硬化の塗膜が平滑化に欠ける場合、そのまま硬化させると外観不良となる。そしてこの平滑性は塗装物の仕上がり外観に大きな影響を与える。よって塗膜の平滑性を改良することは、塗料業界における課題となっていた。
【0003】
そこで従来は、塗膜を平滑化させる為に、溶剤を添加することによって塗料の粘度調整を行なうか、シリコン化合物のような所謂レベリング剤を塗料に添加していた。しかし、前者の場合は所謂セッティング時間を充分に取る必要があり、後者の場合では、レベリング剤の添加量の調整が難しいという欠点があった。
【0004】
また従前においては、溶剤やレベリング剤の添加の必要性を無くして塗膜の平滑化を実現する技術も提案されている。例えば特許文献1(特開平5−154441号公報)では、塗液を塗布した基板を直接的、間接的に微振動を与えることにより塗液のうねりの波長を減少させ、塗膜の平滑化を図る方法が提案されており、微振動を与える方法としては超音波を用いる方法が提案されている。
【0005】
また特許文献2(特開2004−290722号公報)では、熱硬化性を有する塗料を用いて表面平滑性の高い塗膜を得る方法として、基材上に、活性エネルギー線の照射および加熱によって硬化する塗料を塗布して未硬化塗膜を形成する工程、上記未硬化塗膜に対し、その表面がフローするよう加熱を行う工程、上記フローした塗膜に上記活性エネルギー線を照射して、表面を固定させる工程、上記表面を固定させた塗膜を硬化するように焼き付けを行う工程からなる塗膜形成方法が提案されている。この文献において、活性エネルギー線として、紫外線、X線、電子線、近赤外線または可視光などが挙げられている。
【0006】
そして特許文献3(特開2010−201391号公報)では、塗膜の表面に入射することで熱を発生させるエネルギビームを、前記塗膜の表面に形成されている凹凸領域に照射し、発生する熱によって、前記塗膜を溶融かつ流動させることにより、前記凹凸領域を平滑化する工程を有する塗膜平滑化方法が提案されている。この文献において、エネルギビームはとして電子ビームが挙げられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り塗装面を平滑化する技術はいくつか提案されているが、微振動を利用するか、活性エネルギー線を利用するか、或いはエネルギビームを利用するものであった。そこで本発明は、これら従前の平滑手法とは異なり、電界を利用した新たな平滑手法や、塗膜が平滑化された塗装物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する為に、本発明では電界を利用して塗膜の平滑性を向上させる技術を提供するものである。
【0010】
即ち本発明では、少なくとも何れかの領域に塗装が施されている塗装物であって、当該塗装によって形成された塗膜は、電界中で硬化されることにより平滑化されている塗装物を提供する。
【0011】
また本発明では、上記塗装物に形成される塗膜をはじめとして、他の平滑された塗膜を形成することのできる電界利用の塗膜形成方法として、平滑化された塗膜を形成する塗膜形成方法であって、塗装対象物に流動状態の塗膜を形成すると共に、当該塗膜に対して、その広がり方向において実質的に均等な電界を付与し、当該電界の付与によって流動状態の塗膜を平滑化し、平滑化させた状態で塗膜を硬化させる塗膜形成方法を提供する。
【0012】
上記電界は塗膜の広さ方向において、略均等の強さとすることにより、流動状態の塗膜を平滑にすることができる。かかる塗膜の平滑化は、流動状態の塗膜に対して電界を作用させることにより、塗膜表面に均等な電界が加えられ、塗膜表面が均一になろうとする力を促進できるものと考えられる。この為、塗膜に付与する電界は、塗膜の広がり方向に実質的に均等であることが望ましく、当該塗膜の広さ方向における電界の強さの差が1kv/cm未満であることが望ましい。
【0013】
また、上記のように電界によって塗膜を平滑化する際には、前記流動状態の塗膜に付与する電界は、0.5kV/cm以上、30kV/cm以下とするのが望ましい。ただし、かかる電界の強さは、塗膜を形成する塗料の導電性や粘度などの特性、又は目標とする塗膜の平滑性等によって、任意に調整することができる。
【0014】
上記塗膜形成方法では、流動状態の塗膜に対して、その広がり方向に、ほぼ均等な静電荷を付与する。この為、当該電界を形成する電極は、塗膜と対向状に配置されていることが望ましく、更に塗膜と電極との距離を略均等にして、塗膜の広がり方向に存在することが望ましい。これにより、塗膜と対向配置される電極を、塗膜が帯電した電荷と逆の電荷とし、これを塗膜と対向状に配置することにより、塗膜に対して電界による力を均等に作用させることができる。ただし、当該塗膜における一部の領域だけを平滑化させる場合には、当該平滑化させる領域と対向するように電極を配置することができる。
【0015】
また本発明では前記課題を解決するべく、平滑化された塗膜を形成する塗膜形成装置であって、流動状態の塗膜が設けられる塗装対象物と、当該塗装対象物に設けられた流動状態の塗膜を帯電させる放電電極と、前記塗膜と対向して配置されると共に、当該塗膜との間で電界を形成する電極とからなり、前記帯電された塗膜と電極との間に形成される電界は、前記塗膜の広がり方向において実質的に均等である塗膜形成装置を提供する。
【0016】
かかる塗膜形成装置では、放電電極によって流動状態の膜材を帯電させることができ、これにより当該膜材と対向配置される電極との間に電界を形成することができる。従って前記した塗膜形成方法により、塗膜の広さ方向に略均等な電界を付与することができ、塗膜を平滑化させることができる。
【0017】
また本発明では、前記塗膜形成方法を実施することもできる他の塗膜形成装置を提供する。即ち、平滑化された塗膜を形成する塗膜形成装置であって、流動状態の塗膜が設けられる、導電性を有する塗装対象物と、当該塗装対象物と対向して配置されると共に、当該塗装対象物との間で電界を形成する電極とからなり、前記塗装対象物と電極との間に形成される電界は、前記塗膜の広がり方向において実質的に均等である塗膜形成装置を提供する。
【0018】
かかる塗膜形成装置では、塗装対象物と電極との間に電界を形成することができ、塗装対象物と同じ電位となる塗膜にも電界を作用させることができる。その結果、前記した塗膜形成方法により、塗膜の広さ方向に略均等な電界を付与することができ、塗膜を平滑化させることができる。
【0019】
そして上記塗膜形成装置では、前記塗膜の表面を4kv以上に帯電させるように形成するのが望ましい。塗膜に対して電界の力をさせて、平滑化を実現させるためである。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の塗装物と塗膜形成方法、及び塗膜形成装置によれば、従前の平滑手法とは異なり、電界を利用して塗膜の平滑化を実現することができる。これにより、微振動の付与や活性エネルギー線などの照射を不要としながらも、平滑化した塗装を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態にかかる塗装物と、電界を利用した塗膜形成方法及び塗膜形成装置を具体的に説明する。
【0023】
図1は本実施の形態にかかる塗膜形成装置を示す(A)平面図、(B)正面図、(C)左側面図である。この実施の形態にかかる塗膜形成装置は、
図1(A)(B)において右側に配置した帯電装置と、その左側に配置した課電界装置とで構成している。そして本実施の形態では、当該塗膜形成装置における塗膜の硬化状態を確認するために、更に硬化測定装置を設置している。
【0024】
かかる塗膜形成装置60では、帯電装置45によって、塗装対象物20に設けた塗膜10を帯電させる塗膜帯電処理を実行する。即ち、当該帯電装置45は、
図2(A)に示すように、針電極46とグリッド電極47とで構成しており、このグリッド電極47の下部に、流動状態の塗膜10を形成した塗装対象物20を配置し、その塗膜10に対して、針電極46とグリッド電極47による放電を行うことで、当該塗膜10を帯電させる。この塗膜帯電処理で帯電される塗膜10は、流動状態(半流動状態を含む)の塗膜であり、前記塗装対象物20に対して、塗布や噴射等によって設けることができる。また、当該塗膜10は、フィルム又はシート状に形成した塗膜10を塗装対象物20に設置した後に、これを溶剤又は熱などによって溶融させて、流動状態の塗膜とすることもできる。 かかる塗膜10を形成する材料は、硬化前において流動性を有することが必要であり、その限りにおいて、液状、ゲル状、ゾル状であって良く、更に粉状であっても良い。また、当該塗膜10を構成する材料は、少なくとも硬化前において導電性を有することが望ましい。これは当該材料が電界の影響を受けやすいようにするためである。また、塗装対象物は、前記塗膜が帯電可能である限りにおいて、その材質や導電性の有無、更に形状などを問うことなく使用することができる。
【0025】
上記帯電装置45は、前記塗膜10を均等に帯電させることができるのであれば、他の構成であっても良い。本実施の形態では、塗膜の背後にアース板48を配置しており、これにより塗膜10の帯電電界EFを強めている。かかるアース板48は、導電性材料を用いて形成されており、本実施の形態では金属板を用いて形成している。ただし当該アース板48は導電性を有すれば良いことから、導電性プラスチックなどによって形成することも可能である。また、当該アース板48は、本実施の形態では板状に形成しているが、塗膜の平面形状に合わせて、曲面形状や凹凸を有する形状に形成することもできる。かかるアース板48は電気的に接地されており、これにより塗膜10の帯電電圧を高めることができる。その結果、本実施の形態にかかる塗膜形成装置60においては、塗装対象物20に設けた流動状態の塗膜10の表面を4 kVに帯電させている。ただし、当該塗膜の帯電電圧は、塗膜10を構成する塗料の粘度や導電性、更には当該塗膜に厚さに応じて適宜調整することができる。そして当該流動状態の塗膜に付与する電界は、0.5kV/cm以上、30kV/cm以下 であることが望ましい。流動状態の塗膜の挙動や後述するレベリング処理時における放電の問題を解決するためである。
【0026】
上記の帯電装置によって塗膜を帯電させた後においては、塗装対象物20の背後に設けたアース板48を取り外し、これを課電界装置50に移送する。かかる課電界装置50では流動状態の塗膜10を平滑化させるレベリング処理を実行し、そして平滑化された流動状態の塗膜10を硬化させることによって、平滑化された塗膜10を形成する塗膜形成方法を実現することができる。
【0027】
このレベリング処理では、課電界装置50によって、前記塗装対象物20に設けた塗膜に対して、その広がり方向において実質的に均等な電界EFを付与することにより平滑化を実現している。かかる課電界装置50は、導電性材料を用いて形成されて前記塗膜10と対向する課電界部51からなり、当該課電界部51をアースすることによって、この課電界部と対向状に配置された帯電した塗膜10には、当該塗装表面から課電界部51に向かう電界EFがかかることになる。かかる課電界部51は、塗膜10に作用する電界の強さが、塗膜10の広がり方向に一定であることが望ましい。よって、当該課電界部51は、塗装対象物20に形成された塗膜10と、略同じ距離(間隔)で存在することが望ましく、当該塗膜が凹凸面に形成されている場合には、当該塗膜10の凹凸面と相補的に対向する凹凸面を有するように形成することが望ましい。特に本実施の形態では、塗膜を大凡平面形状としており、当該塗膜10に対してレベリング処理を実行する課電界装置50は、
図2(B)に示すように、課電界部51として金属板を用い、アースされた金属板で構成している。この金属板の下に帯電させた塗膜10を配置することで、塗膜10と金属板との距離は塗膜の広がり方向においてほぼ一定となり、塗装表面から金属板に向かって上向きに電界を発生させている。
【0028】
図3は、このレベリング処理における作用・効果を示す略図である。
図3(A)に示すように、前記塗膜帯電処理によって帯電した塗膜10を備える塗装対象物20は、当該レベリング装置(課電界装置50)におけるアースされた課電界部51に対向状態で配置されている。かかる流動状態の塗膜10は、塗膜形成処理において塗布等され、帯電された後の段階では、平滑性は向上した状態とはなっていない。そこでこの帯電した流動状態の塗膜10に対して、
図3(B)に示すように均等に電界を作用させることにより、塗膜の電荷は課電界部51に引き寄せられ、次第に均質化(レベリング)が図られることになる。即ち、帯電状態にある流動性を有する塗膜10には、課電界部51との間において静電気力による引力が生じる。そして当該電界の強さを、塗膜の広がり方向に略均等にしていることから、流動状態の塗膜10の表面における凹凸は解消され、平滑化が図られることになる。
【0029】
ここで、当該塗膜10に対する電界EFの作用を
図3に基づいて説明する。
図3(B)において、塗膜表面の微小領域dSにq
0の電荷を帯電させ、当該塗膜10の上に課電界部51(金属板)を設置し、真空中の誘電率(F/m)をε
0とし、当該課電界部(金属板)51と塗膜表面との距離dを「d=f(x,y)」とする(f(x,y)は塗膜10の凹凸を表わす関数である。)。そして微小面積dSにおける静電容量をCとすると、以下の数式1が与えられる。
【0031】
そして、このキャパシタに蓄えられる静電エネルギーをUとすると、以下の数式2が与えられる。
【数2】
【0032】
この微小領域dSに働くx方向の力をF
xとし、y方向の力をF
yとすると、以下の数式3が得られる。
【数3】
【0033】
この数式3から、「f(x,y)」の微分が大きいほど、即ち表面の凹凸が大きいほど、前記塗膜表面に大きな復元力が働き、また塗膜表面に供給する電荷q
0が大きいほど、塗膜表面に大きな復元力が働くことから、これらによって流動状態の塗膜表面を平滑化できるものと考えられる。
【0034】
そして上記のようにレベリング処理されている塗膜10は、平滑化が保たれている状態で硬化させることにより、平滑化された塗膜(及び平滑化された塗膜を有する塗装物)を形成することができる。上記塗膜形成装置60によって、塗装によって形成された塗膜10が電界中で硬化されており、メッキのような平滑性 を有する塗装物を形成することができる。
【0035】
前記流動状態の塗膜の硬化は、自然乾燥によって硬化させる他、硬化剤によって硬化することもでき、更に紫外線などの光を照射させることによって硬化させることもできる。即ち、本実施の形態にかかる塗膜形成装置60は、形成する塗膜10に応じた硬化手段として、送風機、加熱装置、紫外線照射機等を備えることができる。
【0036】
そして上記本実施の形態にかかる塗膜形成装置60を使用することにより、平滑化された塗膜を形成する塗膜形成方法であって、塗装対象物に流動状態の塗膜を形成すると共に、当該塗膜10に対して、その広がり方向において実質的に均等な電界を付与し、当該電界を付与することによって平滑化させた流動状態の塗膜を硬化させる塗膜形成方法を実現することができる。
【0037】
図4は上記塗膜形成装置60を用いて構成した塗膜形成ライン71の実施形態を示す全体略図である。この実施の形態にかかる塗膜形成ライン71では、塗装対象物20に対して塗膜10を形成する塗装処理を行う塗装装置40と、塗装対象物20に設けた塗膜20に対して電荷を付与する塗膜帯電処理を行う帯電装置45と、帯電した塗膜に対してレベリング処理を行い課電界装置50とで構成しており、加工対象物(ワーク)は、この順序で、ベルトコンベアーやチェーンコンベアーなどの移送手段によって移送することができる。即ち本実施の形態にかかる塗膜形成ライン71は、流動状態の塗膜10を帯電させる塗膜帯電処理を実施している。かかる塗膜帯電処理を実施するに先立って、塗装対象物20には流動状態の塗膜10を設ける塗装工程を実施する。本実施の形態における塗装工程では、スプレー等によって、塗膜10を形成する流動状態の材料を塗装対象物20に塗布することで塗膜を形成している。ただし、当該塗装処理では、後述するアプリケーターを用いて塗膜を形成することもできる。特に本実施の形態にかかる塗膜10は、その後に帯電させる必要があることから、当該塗膜を形成する材料(塗料)として、導電性を有する材料が用いられている。
【0038】
当該塗装処理の後においては、当該流動状態の塗膜を帯電させる帯電工程を実施する、この帯電工程は、帯電装置45を用いて行うことができ、本実施の形態では、当該帯電装置45を針電極46とグリッド電極47で構成している。塗装処理で形成された流動状態の塗膜10を、グリッド電極47の下部に移動させて、当該塗膜10を帯電させる。特に、塗膜10を設ける塗装対象物20は、金属などの導電性材料で形成する他、非導電性材料を用いて形成したものであって良い。かかる帯電工程では、前記流動状態の塗膜の表面を0.5kv/cm〜30kv/cmに帯電することが望ましい 。0.5kv/cm未満では塗膜の平滑化が困難であり、30kv/cmを超えると、当該塗膜形成装置の構造次第では、大気中では塗膜と電極との間で放電が生じることが考えられる為である。
【0039】
そして上記帯電工程で塗膜10を帯電させた後においては、当該流動状態の塗膜を平滑化させるレベリング処理を実施する。本実施の形態におけるレベリング処理では、塗膜10の広さ方向に、略均等な電界を形成する課電界装置50を用いて行うことができる。特に本実施の形態にかかる塗膜形成ライン71では、当該レベリング処理に供給される塗膜10は帯電されていることから、アースされた導電性部材(課電界部51)を用いて前記課電界装置50を形成することができる。例えば、塗膜10の広さ方向に沿って展開する導電性板(金属板)などをアースさせることにより、塗膜10の広さ方向に略均等な電界EFを形成することができる。
【0040】
以上のようにアースした導電性部材(課電界部51)を、帯電させた塗膜10と対向させて配置することにより、塗膜10から導電性部材(課電界部51)に向かって電界が形成され、よって当該電界EFの強弱によって塗膜10の平滑性を調整することができる。即ち、電界EFを強くして平滑性を高めたり、或いは電界EFを低くして平滑性を低く抑えることができる。よって、この実施の形態においては、電界の強さによって、平滑性の程度を調整可能とする塗膜形成方法と、電界の強さを調整可能とする電界調整手段を有する塗膜形成装置を提供することができる。
【0041】
図5は他の実施の形態にかかる塗膜形成ライン72の実施形態を示す全体略図である。この実施の形態にかかる塗膜形成ライン72では、流動状態の塗膜10と対向配置した電極30によって電界EFを印加するように構成している。即ち、この実施の形態にかかる塗膜形成ライン72は、平滑化された塗膜10を形成する塗膜形成装置60であって、流動状態の塗膜10が設けられる、導電性を有する塗装対象物20と、当該塗装対象物20と対向して配置されると共に、当該塗装対象物との間で電界EFを形成する電極30とからなり、前記塗装対象物20と電極30との間に形成される電界EFは、前記塗膜10の広がり方向において実質的に均等である塗膜形成装置60を用いて構成している。
【0042】
この実施の形態にかかる塗膜形成ライン72は、加工対象となる塗膜を塗装対象物に塗布する塗装装置40で実行される塗装処理と、塗装した塗膜を帯電させると共に平滑化させるレベリング処置(塗膜形成装置60)とで構成している。
【0043】
上記塗装処理を行う塗装装置40は、塗布や噴射などによって塗装対象物20に対して塗料10を塗布する他、フィルム状に形成した塗膜を塗装対象物20に設置して、これを熱や溶媒などによって溶解させることにより、流動状態の塗膜10を形成することができる。特に本実施の形態においては、当該塗装装置40はアプリケーターを用いて構成 しており、アプリケーターによって塗膜10の厚さを調整しながら、アプリケーターと塗装対象物とを相対的に移動させることにより、塗装対象物上に均一な膜厚の塗膜を設けることができる。アプリケーターと塗装対象物との相対的な移動は、コンベアー等の搬送路による塗装対象物20の搬送によって行う他、前記アプリケーター(塗装装置40)を、コーターによって予め設定した速度で動かすことによっても行うことができる。特に、塗装装置40をアプリケーターで構成することにより、塗膜10の厚さを正確に設定することができ、これによりレベリング処理における電界EFの強さも正確に設定することができる。
【0044】
上記塗装装置40によって、塗装対象物上に、流動状態の塗膜を均一に設けた後においては、前記実施の形態に示したような塗膜形成装置60よって、塗装した塗膜の膜厚を平滑化するレベリング処理を実施する。この実施の形態にかかる塗膜形成ライン72では、金属を用いて形成された導電性を有する塗装対象物上に塗膜10を設けている。この為、塗膜を導電性を有する材料で形成すると共に、当該塗装対象物20を接地することにより、当該塗膜10は電気的に接地されることになる。そして電極30に電圧を印加することにより、当該電極30と前記塗膜10との間に略均等な電界EFを付与することができ、当該略均等な電界によって流動状態の塗膜10を平滑化することができる。そして平滑化させた状態で、流動状態の塗膜10を硬化させることにより、平滑性を有する塗装物を製造することができる。
【0045】
以上の塗膜形成方法によって、塗膜表面の平滑化が可能となる。これにより塗膜10でありながらも、メッキ加工を施したような塗膜を形成することもできる。即ち、近年では、ナノテクノロジー技術の発展に伴い、塗装に高級感を与えるメッキ調塗料の開発が進められている。このメッキ調塗料は、銀コロイドや、ナノフレークを顔料とする高輝度メタリック塗料などとして市販されている。しかしながら、このようなメッキ調塗料が製品として提供されているにもかかわらず、従前においては当該塗料を希望の外観どおりに塗装する技術は未だ確立されていない。この為自動車部品等への応用は進んでいない状況であった。そしてこれらのメッキ調塗料は、その下地層が凸凹なく均一に塗膜されていることが要求されていた。そこで上記実施の形態にかかる塗膜形成方法や、この方法を実現可能な塗膜形成装置60を使用することにより、下地層としての塗膜や、メッキ調塗料の塗膜を平滑化させた状態で形成することができ、塗料によってメッキと同様な平滑面を形成するとの課題を解決することができる。
【実施例1】
【0046】
この実施例では、上記
図2及び3に示した塗膜形成装置60を用いて、本実施の形態にかかる塗膜形成方法を行うことにより、塗膜の表面を平滑化できることを確認した。
【0047】
即ち、本実施例で使用した帯電装置45は、前記
図2に示したように、針電極46とグリッド電極47で構成し、グリッド電極47の下部に塗膜したサンプルを置いて、その塗膜10を帯電させた。その際、塗膜の背後にアース板48を置くことで帯電電界を強めた。塗膜10の表面を4 kVに帯電させた後、背後のアース板48を取り外し、塗膜10を
図3に示したレベリング装置(課電界装置50)の下に移動させた。このレベリング装置は、アースされた金属板51からなり、この下に帯電した塗膜10がくることで塗装表面から金属板51に向かって上向きに電界EFがかかる。この上向きに働く電界の強さを電界センサー(SMC社製 IZD10-110)で検出し、検出した電圧はデータロガー(オムロン社製 ZR-RX20)を用いて記録した。
【0048】
本実施例では、塗膜10を形成するための塗料として、ニッペホームプロダクツ社製の水性スプレーのブラック(商品名:EXEブラック)とマリンブルー(商品名:EXEマリンブルー)を使用した。塗装対象物20としてのアクリル板を2枚並べエタノールで下処理し、それぞれのアクリル板に塗料を15秒間スプレーして、前記ブラック塗料を塗布したアクリル板のサンプルと、前記マリンブルー塗料を塗布したアクリル板のサンプルを製造した。各塗料を塗布したアクリル板のサンプルは、それぞれ2枚づつ作成し、その内の一方は自然乾燥させ、もう一方は3秒間帯電させて、すぐに電界をかけてレベリング処理を行った。このレベリング処理において、各サンプルの帯電電圧が1000 V以下まで低下したら、もう一度3秒間帯電させ電界をかけた。この実施例では、
図6の塗膜の帯電電圧−時間グラフに示すように、ブラック塗料を塗布したサンプルでは、帯電電圧が1700 Vから1000 V以下まで低下したため、再度1回だけ帯電を行った(
図6(A))。マリンブルーでは1700 Vから1050 Vまで変化したが、2回目の帯電は行わなかった(
図6(B))。
【0049】
そしてレベリング処理を施した塗膜と施さない塗膜(自然乾燥させた塗膜)の表面状態を観測した。この表面状態の観察では、塗膜表面の凹凸を観測するため蛍光灯が映るような角度で写真撮影を行った。
【0050】
図7は、この撮影画像において、ブラック塗料をスプレーで塗布したサンプルを映した画像である。この
図7において、(A)は自然乾燥させたサンプルを映した画像であり、(B)はレベリング処理により電界をかけたサンプルを映した画像である。この
図7の結果からも明らかなように、レベリング処理により電界をかけたサンプルは、光の線が細くなり表面の凸凹が少なくなっていることが分かる。
【0051】
図8は、前記撮影画像において、マリンブルー塗料をスプレーで塗布したサンプルを映した画像である。この
図8において、(A)は自然乾燥させたサンプルを映した画像であり、(B)はレベリング処理により電界をかけたサンプルを映した画像である。この
図8の結果からも明らかなように、マリンブルー塗料をスプレーによって塗布したサンプルでは自然乾燥させたサンプルと、レベリング処理により電界をかけたサンプルとでは、その表面の凹凸において大きな差異は見られなかった。
【0052】
またこの実施例では、上記のサンプルの作成に使用した塗膜(塗料)の電気的特性を確認するために、硬化度測定装置(KASUGA社製、TOMAKUSENSER)を用いて表面抵抗率に相関するDc値を測定した。Dc値が低いほど塗膜の導電性が高いことを示す。
【0053】
図9のDc値−時間グラフに示すように、何れの塗料も時間の経過とともに表面の抵抗値が増加してゆき、ブラック塗料ではDc値が0.4、マリンブルー塗料ではDc値が1.4で飽和した。この実験結果から、ブラック塗料の方がマリンブルー塗料よりも導電性が高いことが確認できた。この結果から、導電性の高い塗膜の方がレベリングされやすいことが確認できた。
【0054】
そして前記
図6に示したサンプル(ブラック塗料を塗布したサンプル)の塗装表面の状態を接触式走査プローブ顕微鏡(AEP Technology社製 NanoMap-D)で測定した。この測定では、x方向に500μm刻み、y方向に500μm刻みで高さを測定してマッピングし、得られた凹凸曲線をx方向に微分した値でマッピングし直した。その結果を
図10に示す。
【0055】
この結果から、電界を印加してレベリング処理を行ったサンプルの方が、電界を付与することなく自然乾燥させたサンプルに比べて凹凸が小さくなっており、レベリング処理では、前記数式3で与えられる力が働いていることが確認できた。