特許第6980243号(P6980243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980243消毒機能付き高清浄環境システムおよびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6980243
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】消毒機能付き高清浄環境システムおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/003 20210101AFI20211202BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20211202BHJP
   F24F 8/26 20210101ALI20211202BHJP
   F24F 8/24 20210101ALI20211202BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20211202BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20211202BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20211202BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   F24F7/003
   F24F7/003 100
   F24F7/06 C
   F24F8/26
   F24F8/24
   F24F11/70
   A61L9/14
   B01D53/22
   A61L9/16 F
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-71518(P2021-71518)
(22)【出願日】2021年4月21日
【審査請求日】2021年4月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507139133
【氏名又は名称】シーズテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512311100
【氏名又は名称】株式会社石橋建築事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】512311096
【氏名又は名称】飛栄建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515055421
【氏名又は名称】有限会社近代設備設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸守
(72)【発明者】
【氏名】江藤 月生
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 恭弘
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−064305(JP,A)
【文献】 特開2009−219531(JP,A)
【文献】 特開2010−246618(JP,A)
【文献】 特開平11−313878(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/084086(WO,A1)
【文献】 特許第6292563(JP,B1)
【文献】 国際公開第2018/193789(WO,A1)
【文献】 特開2014−095694(JP,A)
【文献】 特開2015−111042(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3192618(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3156408(JP,U)
【文献】 特開2019−063054(JP,A)
【文献】 特開2010−264074(JP,A)
【文献】 特開2018−050483(JP,A)
【文献】 特開2012−044957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/003
F24F 7/06
F24F 8/26
F24F 8/24
F24F 11/70
A61L 9/14
B01D 53/22
A61L 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部に粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる殺菌装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された粒子数計測器とを有し、
上記部屋または閉空間の内部を上記清浄化装置により清浄化したときに上記粒子数計測器により測定される粒子数密度が予め決められた粒子数密度を下回ってから上記殺菌装置により殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させるように構成されている殺菌機能付き高清浄環境システム。
【請求項2】
上記予め決められた粒子数密度は外界の粒子数密度の1/100以下である請求項1記載の殺菌機能付き高清浄環境システム。
【請求項3】
上記予め決められた粒子数密度はUS209D クラス100の粒子数密度である請求項1記載の殺菌機能付き高清浄環境システム。
【請求項4】
上記殺菌装置は殺菌ミスト発生器または殺菌ガス発生器である請求項1〜3のいずれか一項記載の殺菌機能付き高清浄環境システム。
【請求項5】
少なくとも二つの気体吸入口と少なくとも二つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも二つの気体吸入口の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の一つと連通するとともに、上記少なくとも二つの気体吸入口の他の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の他の一つと連通し、
上記二つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、上記膜を以てお互いから隔てられるように構成され、
上記部屋または閉空間の外界から導入される空気が上記気体吸入口の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から外界へと送出される一方、上記部屋または閉空間の内気が上記気体吸入口の他の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記部屋または閉空間へ還流され、
上記部屋または閉空間の体積をV、上記膜中の酸素の拡散定数をD、上記膜の厚みをLとした時、上記体積Vと上記膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、
上記部屋または閉空間の内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記部屋または閉空間の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記部屋または閉空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
【数0】
を満たすように設定されているガス交換ユニットが上記部屋または閉空間に設置されている請求項1〜のいずれか一項記載の殺菌機能付き高清浄環境システム。
【請求項6】
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部に粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる殺菌装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された粒子数計測器とを有する殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法であって、
上記部屋または閉空間の内部を上記清浄化装置により清浄化したときに上記粒子数計測器により測定される粒子数密度が予め決められた粒子数密度を下回ってから上記殺菌装置により殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる
ことを特徴とする殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法。
【請求項7】
上記予め決められた粒子数密度は外界の粒子数密度の1/100以下である請求項6記載の殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消毒機能付き高清浄環境システムおよびその使用方法に関し、特に、病原性の細菌やウイルス等による人間(ヒト)の感染の防止に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
現代文明の進歩に伴い、人間活動に対して地球の有限性が無視し得なくなり、社会の「持続性」が大きな課題となっている。そうした背景にあって、人間の活動を、生産活動等の「動脈」部分から、その結果生じる副産物を処理する「静脈」部分まで、包括的に一体として対処できる清浄環境の実現が重要である。特に、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)が世界的に猛威をふるっている現下のコロナ禍の中においては、新型コロナウィルスの浮遊を抑えた清浄空間の実現、並びに、部屋の側壁等の2次元面における新型コロナウイルスの不活化が重要となる。より一般的には、清浄環境の実現に際しては、新型コロナウイルスだけでなく、他の病原性のウイルスや細菌等の病原性微生物の浮遊を抑えた清浄空間、並びに、部屋の側壁等の2次元面におけるこれらの病原性微生物の殺菌あるいは不活化が重要である。
【0003】
在来式の清浄環境技術は、部屋あるいは閉空間と外界との間で気流としての空気のやりとりのある解放系に対するファンフィルターユニット(Fan Filter Unit:FFU)の使用に基づいており、外界から空気を導入する結果、当該FFUのフィルターは目詰まりをし続ける。
【0004】
この目詰まりによるフィルターの機能低下を避けるべく、フィルター以外の手法、即ち、静電噴霧ミストによる浮遊塵埃の抑制が提案され、実験的に検証されている(非特許文献1)。また、プラズマイオンクラスターや静電霧化により生成した機能性ミストによるウイルスの抑制も報告されている(非特許文献2、3、4)。これらの技術は、空気中を漂う塵埃およびウイルスを上記ミストやイオンクラスターにより、叩き落としたり、不活化させる戦略を取っていると言うことができる。逆に見ると、部屋の内部空間に漂う塵埃や菌などが存在する際には、当該ミスト微粒子は、3次元空間内で消費されてしまい、部屋を構成するあらゆる2次元面(壁、床、天井はもとより、部屋内に置かれた机や椅子、或いは部屋への出入りを行う際のドア、特に、その取っ手やノブの表面など)に届く確率が僅少になってしまう。2次元面の消毒の性能が落ちてしまう。静電噴霧ミストによる浮遊塵埃・ウイルスの抑制の戦略では、部屋内の2次元面の消毒は、主に拭き取りや人手による局所的な薬液噴霧などに依ることとなり、手間が非常に掛かる。
【0005】
浮遊塵埃およびウイルスと意図的に導入したミストとの相互作用を利用するという非特許文献1の原理に基づき、図14に示すように、在来式の部屋(これは、所定の時間に一定量の給気と排気がなされる解放系であり、オープンエアフローシステムということができる)において空間内の消毒・殺菌を行うことが従来より提案されている。即ち、図14に示すように、部屋501の内部に殺菌ミスト発生器502を設置し、殺菌ミスト502aを発生させることにより殺菌を行う。外界(室外)から部屋501の内部に空気流が熱を伴って風量Fで導入され、再び外界に空気流が熱を伴って風量Fで排出されることで換気が行われる。しかしながら、このような在来式の解放系においては、殺菌ミスト502aの効果が換気プロセスにより減殺されてしまうため、塵埃およびウイルスを十分に減少させることができない。
【0006】
室内に存在する病原性微生物を減らすには、まず、室内の3次元空間に漂う病原性微生物を減らし、室内の壁や室内のあらゆる物体の表面等の2次元面に付着している病原性微生物を減らす必要がある。
【0007】
3次元空間、即ち空気中を漂う病原性微生物による感染を防止するには、まずi)空気中に存在する病原性微生物の数をフィルタリングなど濾過により減らす方法(除菌)と、ii)病原性微生物に化学物質を作用させて数はそのままながら当該病原性微生物を不活化する方法(殺菌)とがある。
【0008】
2次元面に付着している病原性微生物による感染を防止するには、iii)拭き取りにより数自体を減らす方法(洗浄)と、2次元面に付着している病原性微生物に化学物質を作用させて数はそのままながら当該病原性微生物を不活化する方法(殺菌)とがある。
【0009】
新型コロナウイルスのアウトブレークを契機として、近時、室内の除菌、殺菌が重要度を増している。
【0010】
こうした背景の下、次亜塩素酸水の噴霧による殺菌を謳う装置やシステムが世の中に出回っており、検証もなされている。また、最近は、MA−T(Matching Transformation
System)が新型コロナウィルス等の感染症対策として有効であるとされ、注目を集めている(非特許文献5)。これまで、数ある製品が、除塵や除菌に効果があると喧伝されてきた。その際の究極の問題は、「これらの装置の効果検証実験が有限体積の閉鎖系で行われる」のに対し、実際の家庭等の住環境は(換気回数等を規定した法令に従う必然として)解放系であることである。即ち、閉鎖系から解放系に移るとき、殺菌の効果がどれくらい減殺されるかの定量評価が(換気の実状況はケースバイケースで異なるので)なされておらず、実際上ほぼ不可能であった。また、新しい抗ウイルス・抗菌製品の開発も進んでいる(非特許文献6)。しかし、これらの新技術、新商品、および付随するメカニズムをより有効に作用・発現させるプラットフォームの存在が求められるが十分に応えられているとは言い難い。
【0011】
上述のように在来の部屋は解放系であるので上記の除殺菌が換気プロセスにより減殺される。殺菌・消毒の抑制について、上記のi)〜iv) 、特にi)、ii) 、iv) をトータルに行う除菌法は存在しなかった。また除菌効率を常時、折に触れて、チェックできる方法もなかった。
【0012】
このような中、本発明者らは、孤立・閉鎖性を特徴とするオリジナル技術であるクリーン ユニット システム プラットフォーム(Clean Unit System Platform: CUSP)(非特許文献7)に基づいて高性能クリーン環境システムを実現したが(特許文献1、2、3)、まだ、このシステムが持つ潜在的な能力を最大限引き出せていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第10677483号公報
【特許文献2】国際公開第2014/084086号公報
【特許文献3】特許第6292563号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】田中、葛、原、“静電噴霧ミストによるPM2.5(微小粒子) 及びウイルスの除去処理装置の開発" 、空気清浄 第57巻4号、pp.193-198(2019)
【非特許文献2】[令和3年4月12日検索]、インターネット〈URL:https://corporate.jp.sharp/news/200907-a.html 〉「世界初、プラズマクラスター技術で、空気中に浮遊する「新型コロナウイルス」の減少効果を実証」
【非特許文献3】[令和3年4月12日検索]、インターネット〈URL:https://news.mynavi.jp/article/20201019-panasonic _nanoe/〉「こんな時代だから知っておきたい「ナノイー」って結局なに? 除菌・脱臭は本当にできる?」
【非特許文献4】[令和3年4月12日検索]、インターネット〈URL:https://www.panasonic.com/jp/support/consumer/appliance/jiaensosan.html 〉「次亜塩素酸空間除菌脱臭機( ジアイーノ) 」
【非特許文献5】[令和3年4月11日検索]、インターネット〈URL:https://matjapan.jp/〉「日本MA−T工業会「MA−T:Matching Transformation System、日本の独自技術で感染症対策から産業創造まで」
【非特許文献6】松村 吉信監修「抗ウイルス・抗菌製品開発〜基礎、作用メカニズムから評価、認証、商品化まで」、株式会社エヌ・ティー・エス、2021年3月30日初版第一刷発行(ISBN 978-4-86043-718-3)
【非特許文献7】[令和3年4月11日検索]、インターネット〈URL:https://www.amed.go.jp/koubo/02/01/0201C_00094.html〉「令和2年度「ウイルス等感染症対策技術開発事業」の採択課題 基礎研究支援「ウイルス等感染症患者用高清浄閉空間システムの飛躍的高機能化」北海道大学 石橋 晃」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、室内等に浮遊する病原性微生物や塵埃等の数の減少と病原性微生物の殺菌効果との相乗効果により、室内等に浮遊する不活化されていない病原性微生物や塵埃等の数、あるいは室の壁等の2次元面に付着した不活化されていない病原性微生物の数が極めて抑制された清浄な空間を容易に得ることができる殺菌機能付き高清浄環境システムおよびその使用方法を提供することである。
【0016】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記の清浄空間を利用する人が入れ替わる際に、効果的に内部を消毒することで、当該清浄空間を繰り返し、安心・安全に利用することができる殺菌機能付き高清浄環境システムおよびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、この発明は、
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部に粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる殺菌装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された粒子数計測器と、
を有する殺菌機能付き高清浄環境システムである。
【0018】
この殺菌機能付き高清浄環境システムにおいて、「外界」とは、必ずしも戸外という意味ではなく、上記の部屋または閉空間の外の空間という意味であり、その形態は、上記の部屋または閉空間に隣接する部屋や廊下であってもよい。また、「粒子」とは、塵埃粒子(ダスト粒子)、ウイルス、細菌等の粒子全般を含む。ウイルスおよび細菌の病原性の有無は問わない。
【0019】
この殺菌機能付き高清浄環境システムは、典型的には、部屋または閉空間の内部を清浄化装置により清浄化したときに粒子数計測器により測定される粒子数密度が予め決められた粒子数密度を下回ってから殺菌装置により殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させるように構成される。粒子数計測器は、必要に応じて、部屋または閉空間の内部の複数箇所に設置されてもよく、こうすることでそれらの複数箇所の粒子数密度を測定することができる。また、殺菌装置も、必要に応じて、部屋または閉空間の内部の複数箇所に設置されてもよく、こうすることでその複数箇所から殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させることができる。予め決められた粒子数密度(基準粒子数密度)は、必要に応じて選択されるが、例えば外界の粒子数密度の1/100以下であり、好適にはUS209D クラス100、より好適にはUS209D クラス10の粒子数密度である。こうすることで、部屋または閉空間の内部の空気中に浮遊する粒子数を大幅に減少させた状態、従って浮遊する粒子に含まれる病原性微生物(ウイルス、細菌等)の数を大幅に減少させた状態で、これらの粒子に散乱あるいは阻止されることなく、殺菌ミストまたは殺菌ガスを部屋または閉空間の内部に効果的に発生させることができる。即ち、部屋または閉空間の内部に浮遊する粒子数を大幅に減少させた状態で殺菌ミストまたは殺菌ガスを部屋または閉空間の内部に発生させることにより、殺菌ミストまたは殺菌ガスと空気中に浮遊する粒子との間の本来無用の相互作用を減少させることができ、殺菌ミストまたは殺菌ガスと残存する病原性微生物との間の相互作用確率を高くすることができ、ひいては殺菌効率の向上を図ることができる。即ち、この殺菌機能付き高清浄環境システムにおいては、在来式の解放系システムでは到底得られなかった、浮遊塵埃、ウイルス、細菌等の減少と殺菌効果との相乗効果を得ることができる。殺菌装置は、典型的には、殺菌ミスト発生器あるいは殺菌ガス発生器あるいはこれらを組み合わせたものであるが、これに限定されるものではない。殺菌ミストは、必要に応じて選択されるが、例えば、次亜塩素酸を含むミスト、MA−T(水にごく少量の亜塩素酸イオンを混ぜた水溶液で、亜塩素酸イオン(水性ラジカル)が菌やウイルスを攻撃することが知られている)を含むミスト、次亜塩素酸ナトリウムを含むミスト等が挙げられる。殺菌ガスは、必要に応じて選択されるが、例えば、オゾンガスが挙げられる。
【0020】
外界と内部との界面の少なくとも一部にある、粒子を通さず、気体分子は通す膜(ガス交換膜)は、ガス交換ユニット(ガス交換装置)に設けられることもあるし、部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に設けられることもある。ガス交換ユニットは、少なくとも二つの気体吸入口と少なくとも二つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、上記少なくとも二つの気体吸入口の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の一つと連通するとともに、上記少なくとも二つの気体吸入口の他の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の他の一つと連通し、上記二つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、上記膜を以てお互いから隔てられるように構成され、上記部屋または閉空間の外界から導入される空気が上記気体吸入口の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から外界へと送出される一方、上記部屋または閉空間の内気が上記気体吸入口の他の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記部屋または閉空間へ還流され、上記部屋または閉空間の体積をV、上記膜中の酸素の拡散定数をD、上記膜の厚みをLとした時、上記体積Vと上記膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、上記部屋または閉空間の内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記部屋または閉空間の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記部屋または閉空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
【数0】
を満たすように設定されている。上記の膜が部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に設けられる場合、部屋または閉空間は、例えば、壁の少なくとも一部が上記の膜により構成されたテントにより構成される。
【0021】
この殺菌機能付き高清浄環境システムにおいては、ガス交換膜の効果で部屋または閉空間内のガス分子濃度は精度良く制御されつつ、閉空間の内外の分子交換(拡散過程)はミスト粒子には全く影響しないので、殺菌を非常に効率的に行うことができる。即ち、ガス交換膜による拡散換気により、部屋または閉空間内のガス分子濃度を制御しているので、殺菌ミストは、換気に拠る影響を全く受けることなく、殺菌効果を最大限発揮する。換気に伴う室内空調エネルギー消費は室内空調エネルギー消費を最小化し、殺菌においても高効率の次世代ZEB(Net Zero Energy Building)あるいはZEH(Net Zero Energy House)を実現することができる。
【0022】
また、この発明は、
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部に粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる殺菌装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置された粒子数計測器とを有する殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法であって、
上記部屋または閉空間の内部を上記清浄化装置により清浄化したときに上記粒子数計測器により測定される粒子数密度が予め決められた粒子数密度を下回ってから上記殺菌装置により殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる
ことを特徴とする殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法である。
【0023】
この殺菌機能付き高清浄環境システムの使用方法の発明においては、その性質に反しない限り、上記の殺菌機能付き高清浄環境システムの発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、部屋または閉空間の内部の粒子数密度を減少させた状態で殺菌装置により殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させるため、殺菌ミストおよび/または殺菌ガスと部屋または閉空間の内部の粒子との間の相互作用確率が減少することにより殺菌ミストおよび/または殺菌ガスの損失を大幅に減少させることができ、部屋または閉空間の内部の壁や内部に存在する物体の表面に殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを効率的に届けることができ、それによってそれらの壁や物体表面の殺菌を効果的に行うことができる。また、部屋または閉空間の内部の清浄空間を利用する人が入れ替わる際に、効果的に内部を消毒することができることにより、当該清浄空間を繰り返し、安心・安全に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施の形態による消毒機能付き高清浄環境システムを示す略線図である。
図2】一実施の形態による消毒機能付き高清浄環境システムにおいて部屋または閉空間がテント式CUSPである場合を示す略線図である。
図3】実施例1による消毒機能付き高清浄環境システムを示す略線図である。
図4図3に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器から純水ミストを噴射したときの粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図5図3に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器から純水ミストを噴射したときの粒子数密度、湿度、温度および含水量の経時変化を示す略線図である。
図6図3に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で純水ミストおよび次亜塩素酸水含有ミストを噴射したときの粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図7図3に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で純水ミストおよびMA−T含有ミストを噴射したときの粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図8図3に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で純水ミストおよび市水ミストを噴射したときの粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図9】実施例2による消毒機能付き高清浄環境システムを示す略線図である。
図10図9に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器をオン/オフさせたときに部屋の各部で測定されたミストを含む粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図11図9に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器をオン/オフさせたときに部屋のC地点で測定されたミストを含む粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図12図9に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器をオン/オフさせたときに部屋のB地点で測定されたミストを含む粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図13図9に示す消毒機能付き高清浄環境システムの部屋の内部で加湿器をオン/オフさせたときに部屋のD地点で測定されたミストを含む粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図14】従来の開放系のシステムを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0027】
〈一実施の形態〉
[消毒機能付き高清浄環境システム]
図1は一実施の形態による消毒機能付き高清浄環境システムを示す。図1に示すように、この消毒機能付き高清浄環境システムは、外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間11を有する。部屋または閉空間11は、独立して設けられたものであってもよいし、例えば一般的な戸建住宅の部屋、マンション等の集合住宅の部屋、病院の部屋、高齢者養護施設の部屋等であってもよい。あるいは、部屋または閉空間101はテントであってもよい。この部屋または閉空間11には人が出入りすることができるようになっている。そのために、例えば、部屋または閉空間11の側壁に出入り口(図示せず)、例えば、スライド式の引き戸が設けられる。あるいは、部屋または閉空間11がテントである場合には、例えば、テントの側面に設けられた出入り用のファスナーを開け閉めすることで人が出入りすることができる。部屋または閉空間11の内部の大きさ(幅、奥行、高さ)および形状は必要に応じて選ばれる。
【0028】
部屋または閉空間11には、この部屋または閉空間11の内部を清浄化する清浄化装置が設けられる。図1においては、この清浄化装置として、部屋または閉空間11の内気を取り込む開口(図示せず)と、当該吸引内気を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を部屋または閉空間11の内部に戻す吹き出し口(図示せず)とが対となって設けられたFFU12が部屋または閉空間11の床に設置されている場合が示されている。このFFU12により100%循環フィードバック系が構成されている。FFU12の代わりに部屋または閉空間11の天井に設置されるFFUを用いてもよい。このように孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間11において100%循環フィードバック系が構成されていることにより、孤立閉鎖系の内気がFFU12のフィルターを何度も通過するため、清浄度が高く、究極的には後述の(3)式に示す高清浄度が得られる。典型的には、部屋または閉空間11の内部のバックグラウンドの清浄度を、US209D クラス10〜100に維持する。部屋または閉空間11の内部の清浄化後はFFU12は無負荷運転となるため、FFU12のフィルターの寿命が長く維持コストも安い。このため、“省エネ" 上の優位性も得られる。このように部屋または閉空間11の内部の清浄度を高く維持することにより、部屋または閉空間11の内部の人が吸引する塵埃等の粒子数を大幅に減少させることができ、人に与える負荷を大幅に軽減することができる。このため、例えば、本発明の一の矢(ウイルスからの守り)として、新型コロナウィルス感染者を高清浄の部屋または閉空間11の内部に収容することで守り、免疫系への余計な負荷をなくすことで健康回復を加速することができる。
【0029】
また、部屋または閉空間11の内部と外界との間でガス交換能力を与えるために、部屋または閉空間11の内部と外界との界面の少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜、即ちガス交換膜により構成される。ここでは、一例として、複数のガス交換膜が互いに間隔を空けて積層されたガス交換ユニット13が部屋または閉空間11の天井に設置された場合が示されているが、部屋または閉空間11の壁の少なくとも1つの少なくとも一部がガス交換膜により構成されてもよい。図1中、ガス交換ユニット13の内部に示されている破線はガス交換ユニット13に含まれるガス交換膜13aを模式的に示したものであり、このガス交換膜13aを介して部屋または閉空間11の内部と外界との間で酸素(O2 )分子や二酸化炭素(CO2 )分子等の分子が交換されるほか、熱も交換される様子が示されている。ガス交換ユニット13の詳細については、例えば、特許文献1−3に記載されている(特許文献1−3ではガス交換装置と記載されている)。ガス交換ユニット13は、部屋または閉空間11の内気を内気回収口から取り込んで二枚のガス交換膜の間の空間からなる内気通路を通して部屋または閉空間11に戻すとともに、外気導入口から外気を導入して二枚のガス交換膜の間の空間からなる、内気通路と独立した外気通路を通して外部に排出し、その間にガス交換膜を介して内気と外気との間で酸素および二酸化炭素のガス交換を行うことにより、外気と同等の酸素濃度および二酸化炭素濃度となった内気を部屋または閉空間11に戻すようになっている。
【0030】
部屋または閉空間11の内部には、殺菌ミスト14aを発生させる殺菌ミスト発生器14および塵埃やミスト等を含む各種粒子の粒子数密度を測定するための粒子数計測器15が設置されている。殺菌ミスト発生器14および粒子数計測器15は、必要に応じて、部屋または閉空間11の複数箇所に設置してもよい。このように孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間11に殺菌ミスト発生器14が設置されることにより、従来の“効果的な装置" の性能試験環境と同一の環境となる(これらの装置の効果検証がなされた体積と実住環境の体積とは、密度の観点から、スケーリングを以って考慮に入れる)ため、当該検証実験を以って、そのまま実生活環境で効果があると宣言できるという圧倒的な意義がある。粒子数計測器15により測定された、時間tの関数としての粒子数密度は、有線または無線で部屋または閉空間11の内部または外部に設置されたコンピュータ(図示せず)に送ることができるようになっている。例えば、粒子数計測器15とコンピュータとが有線または無線のLAN等により接続される。殺菌ミスト発生器14も、このコンピュータと接続されている。そして、このコンピュータに予め組み込まれたプログラムにより、粒子数計測器15により測定された粒子数密度に基づいて殺菌ミスト発生器14の動作が制御されるようになっている。このプログラムは、例えば、粒子数計測器15により測定された粒子数密度が予め決められた基準粒子数密度を下回ったときに殺菌ミスト発生器14をオンとして殺菌ミストを発生させるようにする。基準粒子数密度は、例えば、US209D クラス100の粒子数密度である。このように、粒子数計測器15により測定された粒子数密度が予め決められた基準粒子数密度を下回って部屋または閉空間11の内部が清浄化された後に殺菌ミストを発生させるようにしているので、粒子数計測器15により殺菌ミストの数密度をモニタリングすることができ、部屋または閉空間11の内部における殺菌ミストによる殺菌作用を確認することができる。粒子数計測器15により測定された粒子数密度の経時変化は、コンピュータに接続されたディスプレイ(図示せず)に表示することができ、必要に応じてコンピュータに接続されたプリンタ(図示せず)でプリントすることができ、コンピュータの記憶装置あるいはコンピュータに接続された外部記憶装置に保存することができるようになっている。
【0031】
[消毒機能付き高清浄環境システムの使用方法]
この消毒機能付き高清浄環境システムの使用方法を説明する。
【0032】
この消毒機能付き高清浄環境システムは、殺菌ミストを使用して消毒を行うため、基本的には、安全の確保のため、部屋または閉空間11に人がいない無人状態で使用する。ただし、安全性が確かめられた濃度の殺菌ミストを使用する場合は、部屋または閉空間11に人が滞在する環境で使用してもよい。
【0033】
まず、FFU12または部屋または閉空間11の天井に設置されるFFUの運転により部屋または閉空間11の内部を清浄化する。粒子数計測器15により部屋または閉空間11の内部の塵埃や病原性微生物等を含む各種粒子の粒子数密度n(t)を測定する。部屋または閉空間11の内部の粒子数密度が基準粒子数密度(例えば、US209D クラス100)を下回るまで清浄化し、その状態を維持する。粒子数計測器15は常時運転させておく。
【0034】
この状態で殺菌ミスト発生器14をオンとし、殺菌ミスト14aを発生させる。この場合、部屋または閉空間11の内部の粒子数密度n(t)が十分に低いため、殺菌ミスト14aは粒子により散乱等されることなく部屋または閉空間11の内部の空気中や部屋または閉空間11の内部の各種物体や壁等の表面に効率的に届き、空気中に浮遊する病原性微生物や物体や壁等の表面の2次元面に付着した病原性微生物の殺菌を行うことができる。
【0035】
こうして殺菌ミスト14aの発生により一定時間殺菌を行った後、粒子数計測器15により測定されたn(t)の値により殺菌効果を確認する。即ち、n(t)の値が殺菌を行う前に比べて予め決められた値より減少した場合は、予め決められたレベルの殺菌効果が得られたとして殺菌ミスト発生器14をオフとして殺菌ミスト14aの発生を停止する。n(t)の値が殺菌を行う前に比べて予め決められた値より減少していない場合は、予め決められたレベルの殺菌効果が得られなかったとして殺菌ミスト発生器14による殺菌ミスト14aの発生を継続し、n(t)の値が殺菌を行う前に比べて予め決められた値より減少するまで殺菌ミスト14aの発生を継続する。以上のようにして、部屋または閉空間11の消毒を行う。
【0036】
部屋または閉空間11の消毒を行った後、人が部屋または閉空間11の内部に入って生活、各種活動等を行う。部屋または閉空間11から人が退出し、替わりに別の人が入る場合は、入る前に上述のようにして部屋または閉空間11の殺菌を行う。
【0037】
ここで、部屋または閉空間11内の粒子数密度n(t)およびガス(分子) 濃度η(t)の時間変化特性について説明する。ここでは、一例として、部屋または閉空間11が図2に示すテント式CUSPである場合について説明するが、以下の説明は部屋または閉空間11がテント式CUSP以外のものである場合も成立する。
【0038】
図2に示すように、少なくとも壁の一部がガス交換膜により形成されたテント101内の一方の片側(人102が就寝する時に頭が向く側)にFFU12を設置し、テント101内の他方の片側(人102が就寝する時に足が向く側)に粒子数計測器15を設置する。FFU12の隣には酸素や二酸化炭素等の多種分子濃度モニター103を設置する。この場合、テント101を構成するガス交換膜を介してガス交換が行われるので、ガス交換ユニット13は設置されていない。FFU12の運転によりテント101内には矢印で示すように空気が流れて循環し、100%循環フィードバック系が構成される。就寝中の人102の体動により、ダスト微粒子が散乱あるいは発生する。
【0039】
粒子数密度n(t)は
【数1】
なる微分方程式を満たす。ただし、Vはテント101の体積、Sはテント101の内表面積、σは単位面積・単位時間当たりの粒子発生量、FはFFU12の風量、γは粒子捕集効率である。
【0040】
(1)式を解くと
【数2】
が求められる。ただし、t=0のときの粒子数密度n(0)=N0 とした。
【0041】
t→∞のとき(2)式は
【数3】
となる。実際には、FFU12の運転を開始してから十分に時間が経った時(t>10V/γF)には実質的に(3)式の究極の粒子数密度が得られる。
【0042】
一方、ガス分子濃度η(t)は
【数4】
なる微分方程式を満たす。ただし、Aはテント101を形成するガス交換膜の面積、Lはこのガス交換膜の厚み、Dはこのガス交換膜中の注目するガス分子(酸素分子等)の拡散定数、Bはテント101の内部での呼吸等によるガス消費・発生レート(消費される酸素では正の値となり、二酸化炭素やその他の体外に放出されるガスでは負の値となる)、ηo はテント101の外界の当該ガス分子濃度である。
【0043】
この孤立閉空間を構成するテント101の内部空間においては、アボガドロ数をNA 、系の置かれた圧力(〜1気圧)における1モル当たりの気体体積をC、ガス交換膜を通してテント101の内部に入ってくる注目するガス(酸素等)のフラックスをjとすると、時刻t+δtにおける当該ガスの体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける当該ガスの体積Vη(t)を使って
【数5】
が成り立つ。ここで、既に述べたように100%循環フィードバック系がテント101内に構築されているので、FFU12により発生する空気流により、テント101の内部空間の空気は十分早くかき回されるため、空気を構成するガス分子はテント101の内部で十分早く均一化するので、テント101の内部空間では空間座標依存性を良い近似で無視することができることを用いた。(5)式の右辺第3項は、上記ガス交換膜の両側(即ちテント101の内部と外界)での当該ガスの濃度差(濃度勾配)のために流入してくる当該ガスの分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として当該ガスがテント101の内部に入ってくるのであり、上述の(5)式で記述される現象とは全く性質を異にする)。(5)式において、jは
【数6】
で与えられる。ただし、φはテント101の内部の単位体積当たりの当該ガス分子数、ガス交換膜に垂直な方向をx軸としたとき、∇はこのx軸方向の微分演算子である。Lは、テント101の内部空間の厚みに比べ3桁以上程度小さく、極めて薄いと見なせるので、(5)式は、
【数7】
と良い精度で近似することができる。η0 はη(0)であり、(4)式、(5)式におけるのと同様に、外界の当該ガスの濃度であり、当該ガスが酸素である場合は通常20.9%程度である。(7)式より、微分方程式
【数8】
が導かれる。(8)式の厳密解は、
【数9】
と求まる。ここでは十分時間がたった後の定常状態に対応する解に興味があるので、右辺のexp(−[AD/L]t/V)=0とおくと、時刻tにおける当該ガスの濃度(例えば酸素濃度)は
【数10】
と求まる((9)式でt→∞とした場合に一致する)。
【0044】
清浄度に加えて空気質を決めるもう一つのパラメーターは、空気中のガス分子濃度である。分子拡散を通じて、CUSP内部のガス分子濃度を制御することができる。図2に示す、孤立した閉空間を構成するテント式CUSPでは、テント101の壁の一部がガス交換膜から成ることで分子の拡散を通じて、テント101の内部のガス分子濃度を制御することができる。即ち、図2に示すテント式CUSPでは、内外の界面に面積A、厚みL、分子拡散定数Dを有するガス交換膜を用いることで、(9)式より導かれる換気風量F=AD/Lなる対応原理(スケーリング則)に従って機械換気風量Fと同等の換気が実現できる。また、(3)に従ってテント式CUSP中の酸素濃度、二酸化炭素濃度をモニタリングできるので、非接触、非侵襲にて患者の容体について時々刻々のデータ解析(効率的な見守り)を行うことができる。実際、図2に示すコンパクトなテント式CUSP内で、蝋燭を燃焼させた際の酸素濃度と二酸化炭素濃度の時間変化を高精度で測定できている。本発明の二の矢(パーソナル清浄空間内の患者の状態モニタリング)として、COVID−19患者(陽性者)の呼吸状態測定を非接触、非侵襲にて行うことができる。また、(3)式、(4)式は、Bを負の適切な値に取ると、二酸化炭素や病態の指標となる有機分子濃度も記述でき、体外放出分子が解析できる。
【0045】
図2に示すテント式CUSPにおいて、呼吸によりレートBで酸素が消費される場合はBは正の値であるが、(9)式、(10)式自体は、Bを負の適切な値にとると二酸化炭素の発生も記述できる汎用的な式である。
【0046】
図1に示す消毒機能付き高清浄環境システムの基本的な性能の検証を行った結果について説明する。消毒機能付き高清浄環境システムの部屋または閉空間11として密閉性の高いビルの部屋を使用し、CUSPを構成した。この実施例1による消毒機能付き高清浄環境システムの部屋201を図3に示す。この部屋201は幅約7m、奥行き約4m、高さ約3mの直方体の形状を有する。図3に示すように、この部屋201のドア202の前方の床に細長いテーブル203を部屋201の長手方向に平行に設置した。床からテーブル203の上面までの高さは約40cmである。このテーブル203のドア202側の一端部の上に殺菌ミスト発生器14として加湿器204を設置し、このテーブル203の他端部の上に粒子数計測器15を設置した。加湿器204としては市販の加湿器(SRD−BK801)を用いた。加湿器204と粒子数計測器15との間の距離は約60cmである。加湿器204からは図3に示すようにミスト204aが発生するようになっている。テーブル201の加湿器204が設置されている側と入口のドア202との間の床の上に、ドア202が設けられている壁とほぼ平行に3台のFFU12−1、12−2、12−3を設置した。部屋201のドア203が設けられている壁と対向する壁には窓(図示せず)が設けられ、この窓が設けられている壁の前に机205を設置した。この机205のほぼ中央部の上には温・湿度計206を、両端部の上にそれぞれ粒子数計測器15−1、15−2を設置した。加湿器204と机205の上の2台の粒子数計測器15−1、15−2との間の距離は約4mである。机205の左側の粒子数計測器15−1としては市販のDylos DC−170を、右側の粒子数計測器15−2としては市販のMetOne HHPC3+を用いた。
【0047】
図4Aは、図3に示す殺菌機能付高清浄環境において、加湿器204から純水ミストを発生させたときの、机205上に設置した粒子数計測機15−2による粒子数密度の測定結果を示す。図4Bは、図4Aでは縦軸の粒子数密度をログスケールで示したのに対し、リニアスケールで示したものである。図4AおよびBに示すように、FFU12−1、12−2、12−3の運転および粒子数計測機15−2による粒子数密度の測定を開始してから約60分後に純水を入れた加湿器204をオンして純水ミストを発生させ、約110分後に加湿器204をオフにして純水ミストの発生を停止し、約130分後に加湿器204を再度オンして純水ミストを発生させ、約170分後に加湿器204をオフにして純水ミストの発生を停止した。図4AおよびBから分かるように、純水ミストの発生および停止に伴い粒子数密度(塵埃、微生物等の粒子の粒子数密度とミスト数密度との和)の増減が観測されている。孤立閉鎖系を構成する部屋201におけるFFU12−1、12−2、12−3の運転により100%循環フィードバック系が構成されることにより部屋201の高清浄化が行われている(引き算の戦略が成功している)ので、このような意図的な純水ミストの発生(足し算の戦略)の定量評価が初めて可能となっていることに注意されたい。
【0048】
図5AおよびBは、図4Aに示すデータの測定を行った日と異なる日に、図3に示す殺菌機能付高清浄環境において、加湿器204から純水ミストを発生させたときの、机205上に設置した粒子数計測機15−2による粒子数密度、湿度、温度および含水量の測定結果を示す。図5Aに示すように、FFU12−1、12−2、12−3の運転および粒子数計測機15−2による粒子数密度の測定を開始してから約120分後に純水を入れた加湿器204をオンして純水ミストを発生させ、約160分後に加湿器204をオフにして純水ミストの発生を停止し、約180分後に加湿器204を再度オンして純水ミストを発生させ、約230分後に加湿器204をオフして純水ミストの発生を停止し、約260分後に加湿器204を再びオンして純水ミストを発生させ、約305分後に加湿器204をオフにして純水ミストの発生を停止した。図5Aから分かるように、純水ミストの発生および停止に伴い粒子数密度(塵埃、微生物等の粒子の粒子数密度とミスト数密度との和)の増減が観測されている。図5Bは、図5Aに対応した湿度、温度および含水量の変化を示すが、温度がほぼ一定の中、湿度は純水ミストの発生に明瞭に追随しており、また、含水量も、微小変化であるが、追随が見て取れる。
【0049】
図6は、図4A図5AおよびBに示すデータの測定を行った日と異なる日に、図3に示す殺菌機能付高清浄環境において、純水を入れた加湿器204に加えてその直ぐ隣に設置した次亜塩素酸水(50ppm)を入れたもう一台の加湿器204からそれぞれ純水ミストおよび次亜塩素酸(50ppm)含有ミストを発生させたときの、テーブル203上に設置した粒子数計測機15による粒子数密度の測定結果を示す。粒子数計測機15としては市販のMetOne HHPC3+を用いた。図7は、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)及び新型コロナウイルスに対し効力を持つとされるMA−T (非特許文献5) のミストを発生させた時の同様の結果である。MA−Tは純水に比して粒径分布が異なり、遠隔地点まで届くミスト量も多い。MA−Tミストにより、部屋の内面および部屋に設置された各種物品等の表面を消毒する(燻蒸する)ことで、当該清浄空間や設置物品の安心・安全な繰り返し使用にも目途をつけることができた。以って、感染症対策上の医療ニーズに大いに応えることができる。また、図8は、図6に示すデータの測定を行った日と同日に、図3に示す殺菌機能付高清浄環境において、純水を入れた加湿器204に加えてその直ぐ隣に設置した市水を入れたもう一台の加湿器204からそれぞれ純水ミストおよびカルキ(0.4ppm)含有ミストを発生させたときの粒子数密度の測定結果を示す。図6図8に示す結果より、まず重要なことは、部屋201が100%循環フィードバック系を構成していることにより、浮遊塵埃粒子数密度を通常の1000分の1程度に容易に減少させることができるので、いわば浮遊塵埃によるノイズレベルを下げることができており、その結果、微量のミスト(シグナルに相当) が検出できていることである。これは、非特許文献1に記載された状況と全く対極の位置にある。即ち、非特許文献1では、空気中の塵埃を、フィルターによりろ過するのではなく、ミストを発生させ、このミストと浮遊塵埃とを衝突させ、いわば、叩き落とすことで清浄空間を得ようとするものである。逆に言えば、空気中に浮遊塵埃が多く漂っていると、折角発生させたミストを遠方へ届かせることができない、言い換えればミストの平均自由行程が短くなっていることを示している。100%循環フィードバック系により、予め浮遊塵埃数密度を極小化しておくことで、ミストを定量性よく遠方まで届かせることが可能な、S/N比の高いシステムが可能となっている。100%循環フィードバック系のみのシステムは、例えば図1に示すような系を構築することで、浮遊塵埃を極めて効率的に減らす処方ということで、いわば、引き算の戦略である。他方、図6図8に示す処方は、100%循環フィードバック系で得られた高清浄空間に、所望の性質を持つミストを定量的にかつ制御性良く、積極的に加えるということで、足し算の戦略と言うことができる。
【0050】
図6図8より、加湿器204近傍でのミスト量の測定の結果、純水ミスト、次亜塩素酸含有ミスト、MA−Tミストおよび市水ミストの3種類の液体のミスト数密度に有意な差は求められなかった。ミスト中の水以外の分子含有量が、それぞれ、〜0(純水)、50ppm(次亜塩素酸水)および0.4ppm(市水)のレベルであるので、ミスト形成過程に影響を与えることはないと考えられるので、これは妥当な結果であると判断される(同じく、粒子数計測の方に関しても、レーザー光の散乱により、粒子数を計測しているが、上記の小さい分子濃度では、屈折率に変化は生じず、従って検出感度も4種類のミストに対し、全く同等であると考えられる)。
【0051】
以上のことより、ほぼ同じ量のミストが発生しているにも関わらず、4m遠方でのミスト数は、図6図8から分かるように、純水ミストは、次亜塩素酸含有ミストおよびカルキ含有市水ミストに対し、数十分の一の数しか届いていない。純水は、水分子のみからなり、核となる分子が無いため、蒸発に伴う粒径減少で、最終的に雲散霧消してしまうのに対し、次亜塩素酸やカルキを含むミストは、これらの分子が最後まで残り、結果として粒子数計測器により計測されていると判断される。以上の知見は、COVID−19の発生原因の解明に適用することができる。即ち、距離の関数として粒子数ならびに感染発生率を測定することで、新型コロナウィルスによる感染が、飛沫感染によるものか、空気感染によるものかに関して確定できる。
【0052】
上記の引き算の戦略と足し算の戦略とを併せ持ったシステムに、マルチ階層相関解析を適用することで、人体(特に病態にある人)に有効な物質をミストを通じて、定量的に与えた時の人体の反応を、物理学的な線形応答、非線型応答の観点で、定量的に解析することが可能となる。また、これをマンマシンインタフェースの動作機構に組み込むことも可能となる。
【0053】
図9は、実際の建築物のより大規模な部屋301(床の一辺が約10mの正方形の平面形状を有し、天井高さは、実験に用いた部屋では1〜2階吹き抜け構造の為、通常の約2倍の5m程)にこの消毒機能付き高清浄環境システムを適用した実施例2を示す。部屋301では、天井に設置されたFFUを用いてCUSPが構成されている。図9に示すように、部屋301の一つの隅(A地点)に設置した高さ約1mのストッカー302上に純水を入れた加湿器204および粒子数計測器15−1を設置し、部屋301の中心Bに置いた椅子303の高さ約50cmの座面上に粒子数計測器15−2を設置し、部屋301の対角線上のA地点と反対側のC地点に置いた椅子304の高さ約50cmの座面上に粒子数計測器15−3を設置し、部屋301の一辺のA地点と反対側の隅に設置した高さ約1mのストッカー305上に粒子数計測器15−4を設置した。そして、加湿器204から純水ミストを発生させ、ストッカー302上の粒子数計測器15−1、椅子303の座面上の粒子数計測器15−2、椅子304の座面上の粒子数計測器15−3およびストッカー305上の粒子数計測器15−4によりそれぞれ粒子数密度を測定した。地点Eは加湿器204の近傍における測定に対応している。ストッカー302上の粒子数計測器15−1、椅子303の座面上の粒子数計測器15−2および椅子304の座面上の粒子数計測器15−3としては市販のMetOne HHPC3+を、ストッカー305上の粒子数計測器15−4としては市販のDylos DC−170を用いた。図10図13に実験結果を示す。図12図11および図13は、図9に示す殺菌機能付高清浄環境システムにおいて、加湿器204から純水ミストを発生させたときの、それぞれ、粒子数計測器15−2(B地点)、粒子数計測器15−3(C地点)および粒子数計測器15−4(D地点)による各々、粒径0.3μm以上の、0.5μm以上の、及び1.0μm以上の総粒子数の体積密度(0.1立方フィート[cf]当たりの左記総粒子数)の測定結果を示す。図10は、粒径0.5μm以上の総粒子数について、B、C、D地点における各測定結果を、比較の為、一緒にプロットしたものである。なお、図10および図11においてE地点または単にEと記載があるのは、t=約200〜220分の間、B地点の粒子数計測器15−2をE地点に移動させて加湿器204における粒子数密度を測定したものである(この状況を便宜上、粒子数計測器15−1と表現した)。図10中にCUSPオン、加湿器204によるミストの発生のオン/オフのタイミングを示す。図10図13に示すように、CUSP動作により部屋301の清浄化が行われた後に、ミスト発生をオンにすることにより、加湿器204由来の粒子(ミスト)数増加が明瞭に確認された。特に図10より明らかなように、CUSPオンとなる前の粒子数密度が、B、C、D地点、各場所によらず等しく105 個/0.1cf(=106 個/cf即ち、US209D クラス1000000に相当)の状況から、ミストをオンする直前のt=約140分には、ミストをオンする前の清浄度の約1/100(即ち、US209D クラス10000のクリーンルーム状態)に到達していることがわかる。こうしてバックグラウンドの塵埃数密度を抑制したことにより、加湿器204をオンした後の粒子数(ミスト数)増加が、図10に示すように、加湿器204から約10mと、非常に離れた地点においても、精度良く測定できている(もしCUSPをオンしていなければ、このミスト数の増加は、バックグラウンドの上記US209D クラス1000000の塵埃に埋もれてしまい、特に加湿器204から離れた地点での、定量的評価は不可能である)ことに留意されたい。即ち、このように10m級の長距離へのミストの到達が確認されたことは、本発明による引き算(即ちCUSPによる残留浮遊塵埃数の抑制)と足し算(意図的かつ定量的に制御可能な有用物質即ちミストの供給)との相乗効果(バックグラウンド浮遊塵埃によって有用物質の遠方到達が妨げられないこと)による消毒等の効果が遠距離にも及び、且つ、そのミスト量が粒子数計測器により定量的に粒子数として評価できることが実験により証明された。また上記実験における部屋体積を勘案すると、天井高さが約2.5〜3mである通常の部屋に対しては、一辺約14m(床面積が図9の2倍に相当)のより大ぶりの部屋においても同等の効果がもたらされる(或いは、図9と同じ底面積を有する通常の部屋では、その天井高さは約2.5〜3mであるので、上記ミスト発生条件下では、その効果をより協力に発揮させ得る)と見積もられる。
【0054】
以上のように、この一実施の形態によれば、CUSP動作により部屋または閉空間11の内部の粒子数密度を減少させた状態で殺菌ミスト発生器14により殺菌ミスト14aを発生させるため、殺菌ミスト14aと部屋または閉空間11の内部の浮遊塵埃等との間の相互作用確率が減少することにより殺菌ミスト14aの損失を大幅に減少させることができ、部屋または閉空間11の内部の壁や内部に存在する物体の表面に殺菌ミスト14aを効率的に届けることができ、それによってそれらの壁や物体表面の殺菌を効果的に行うことができる。また、部屋または閉空間11の内部の清浄空間を利用する人が入れ替わる際に、効果的に内部を消毒することができることにより、当該清浄空間を繰り返し、安心・安全に利用することができる。これまで、プラズマクラスター(登録商標)、ナノイー(登録商標)やジアイーノなどの製品群が、除塵や除菌に効果があるとされているが、その究極の問題として「これらの装置の効果検証実験が有限体積の閉鎖系で行われており(非特許文献2〜4)、実際の家庭等の住環境が解放系・オープンエアフローシステムである際の効能・効果が定性的にしか判断できない」のに対し、CUSPは孤立・閉鎖系であることから、上記諸製品の閉鎖系での実験結果が、体積を勘案することで定量的に厳密に移植できる。即ち、本発明の技術思想を組み込んだ部屋においては、その実使用環境において、初めて上記諸装置群の効能・効果の定量的な予測が可能となる。また、解放系( オープンエアフローシステム) である在来系では、(フィルタ越しではあるが)室内滞在者の肺と外界が直接繋がっているため、空気流に乗ってくる新型コロナウイルス等を完全にゼロとする事は原理的に不可能である。他方、CUSPシステムは、孤立閉鎖系( クローズド エアフローシステム)で常に内外等圧のため、空気流に乗って移動する菌・塵埃の出入りが原理的にゼロであり、室内滞在者は究極の安全性を得ることができる。
【0055】
さらに、この一実施の形態によれば、次のような種々の利点を得ることができる。1)ボトムラインとして、COVID−19用の緊急対策(体育館等への多数ベッド収容)や、透析や献血の際に人々を感染から守ることができ、パーソナル高清浄環境として、量産や大量導入が可能である。2)空間内分子濃度測定による内部滞在者の状態モニタリングを行い、更に3)上記ミスト導入実施例に従い、次亜塩素酸などの殺菌効果を持つ微粒子の噴霧により、部屋内の効率的な除菌をすることで、当該清浄空間の消毒を行うことができる。その後、有効物質の経口・経肺導入による治療も可能となる。更に、光触媒と結合して、匂い取りもできる。加えて、上記の1)と2)は、もともとある塵や匂い分子を除去すること(いわば守りによる空気質向上で、3)は、元々は無い、良好な効力を発揮する微粒子を積極的に発生させて室内空気に付加すること(いわば攻め)を以って、清浄空間を浮遊塵埃・菌の減少ならびに同空間への消毒・殺菌など有用物質の供給という2重の効果で得ることができる。
【0056】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0057】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、配置等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、配置等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0058】
11…部屋または閉空間、12…FFU、13…ガス交換ユニット、13a…ガス交換膜、14…殺菌ミスト発生器、14a…殺菌ミスト、15…粒子数計測器、204…加湿器
【要約】
【課題】室内等に浮遊する病原性微生物や塵埃等の数の減少と病原性微生物の殺菌効果との相乗効果により、室内等に浮遊する不活化されていない病原性微生物や塵埃等の数、あるいは室の壁等の2次元面に付着した不活化されていない病原性微生物の数が極めて抑制された清浄な空間が容易に得られる殺菌機能付き高清浄環境システムを提供する。
【解決手段】殺菌機能付き高清浄環境システムは、孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にガス交換膜13aを有する部屋または閉空間11と、部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体を粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置12と、殺菌ミストおよび/または殺菌ガスを発生させる殺菌装置14と、粒子数計測器15とを有する。
【選択図】図1
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