(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外径変化量の増大を抑制することができる弾性体を一体に具備したトルクリミッタ、そのトルクリミッタを用いて分離性能の低下を長期に抑制することができる分離機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1記載のトルクリミッタは、
永久磁石からなる円筒状外周部を有する第1回転体と、
前記円筒状外周部に対向するヒステリシス材からなる円筒状内周部を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体と、
前記第2回転体の外周部に固定された、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が
30MPa以上44.3MPa以下であり、前記動的弾性率E1(22℃)が1.0MPa以上1.95MPa以下である弾性体と、
を備えた、
ことを特徴とするトルクリミッタ。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のトルクリミッタにおいて、
前記ヒステリシス材が、周方向異方性を有する、
ことを特徴とする。
【0008】
前記課題を解決するために、請求項3記載の分離機構は、
送り出されるシート材に給送力を付与する給紙ローラと、
前記給紙ローラに圧接して送り出された複数枚のシート材のうち最上位の前記シート材以外の前記シート材を分離する請求項1又は2に記載のトルクリミッタと、を備えた、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載の分離機構において、
前記給紙ローラが前記弾性体を備えた、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、弾性体を一体に具備したトルクリミッタの外径変化量の増大を抑制するとともに分離機構における用紙の重送を抑制することができる。
請求項2に記載の発明によれば、トルクリミッタのヒステリシストルクを増大させつつ初期トルクのバラツキをより小さくしてトルクリミッタを小型化することができる。
請求項3に記載の発明によれば、分離機構を小型化しつつ寿命を長くすることができる。
請求項4に記載の発明によれば、給紙ローラの磨耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び具体例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び具体例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0013】
(1)トルクリミッタの構成
図1は本実施形態に係るトルクリミッタ1の断面模式図、
図2(a)は平板状のヒステリシス材の磁場処理方法を示す模式図、(b)は磁場処理の方向を示す模式図、(c)は周方向異方性のヒステリシス材を示す図である。
トルクリミッタ1は、第1回転体10と、第2回転体20とを含んで構成されている。第1回転体10の一端側は第2回転体20の一端側で回転可能に支持され、第1回転体10の他端側は蓋体40を介して第2回転体20と回転可能に支持されている。
【0014】
(1.1)第1回転体
第1回転体10は、中空状のシャフト11と、シャフト11の外周面に円筒状外周部の一例としての永久磁石12が固着されて構成されている。
シャフト11は、一例として合成樹脂材料で構成され、合成樹脂材料としては、具体的には、ポリアセタール(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)等が挙げられる。
【0015】
永久磁石12は、多極着磁されていることが好ましく、具体的にはフェライト磁石や希土類磁石に多極着磁(本実施形態においては14極)がなされている。トルクリミッタの小型化、高トルク化の観点からは希土類磁石を用いるのが好ましく、希土類磁石としては、Nd−Fe−B磁石、Sm−Fe−N磁石、Sm−Co系磁石が挙げられる。
永久磁石が多極着磁されることで、第1回転体10と第2回転体20との間に生じるヒステリシストルクのトルクリップルを抑制することができる。
【0016】
(1.2)第2回転体
第2回転体20は、中空状のハウジング21と、ハウジング21の内周面の永久磁石12に対向する部分に固着された円筒状内周部の一例としてのヒステリシス材22と、ハウジング21の外周面に固着された弾性体の一例としてのゴム層30から構成されている。
【0017】
(1.2.1)ヒステリシス材
ヒステリシス材22は、Fe−Cr−Co、Fe−Mn、Al−Ni、Al−Ni−Coからなる群から選択される半硬質磁性体に特定の磁場処理を行うことにより形成される。
具体的には、熱間圧延、冷間圧延された半硬質磁性体を切断して平板状(矩形状)にして、
図2(a)に示すように、得られた平板状の半硬質磁性体220を磁場処理機300内に積層して配列した状態で、
図2(b)に示すように、磁場配向方向を一定方向(図中 矢印B参照)にして磁場処理を行う。その後、平板状の半硬質磁性体220を円筒状に曲げ加工を行い、研磨加工後、時効処理を施す。
このような加工方法により、
図2(c)に示すような、周方向に異方化された(周方向異方性)円筒状のヒステリシス材22が得られる。
【0018】
ヒステリシス材22が周方向に異方化された周方向異方性を有することで、トルクリミッタ1のヒステリシストルクが増大して、トルクリミッタ1をより小型化することができる。
また、周方向異方性を有するヒステリシス材22は、平板状の半硬質磁性体220を磁場処理する方法によって規則正しい異方性が得られ、一度に複数が大量製造される場合に、ロット当りのトルクリミッタ1の初期トルクのバラツキがより小さく抑えられる。
【0019】
(1.2.2)ゴム層
ゴム層30は、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPa以上であり、動的弾性率E1(22℃)が1.0MPa以上10MPa以下であるゴム組成物からなる。また、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が30MPa以上であることが好ましい。
動的弾性率E1(22℃)は、動的粘弾性の温度分散測定により得られる、測定温度が常温の22℃のときの動的弾性率E1の値である。
損失正接tanδ(22℃)は、動的粘弾性の温度分散測定により得られる、測定温度が常温の22℃のときの損失正接tanδの値である。
【0020】
ゴム層30のゴム組成物が、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPa以上である場合、トルクリミッタ1が分離機構に用いられた際の、トルクリミッタ1のゴム層30の磨耗による外径変化量の増大を抑制することができる。
【0021】
動的弾性率E1(22℃)は、1.0MPa以上10MPa以下である。動的弾性率E1(22℃)が1.0MPaより小さい場合には、ゴム層30の耐摩耗性が低下して外径変化量が大きくなる。動的弾性率E1(22℃)が10MPaより大きい場合には、分離機構に用いられた際に、初期摩擦係数が低く、ニップ部Nに用紙Pが1枚搬送された場合におけるトルクリミッタ1の順転性が悪化して、ゴム層30の偏磨耗や異音が発生する虞がある(
図3(c)参照)。また、ゴム層30と用紙Pとの間の摩擦係数が、用紙間の摩擦係数よりも低下して、ニップ部Nに用紙Pが2枚以上搬送された場合に重送が発生する虞がある(
図3(b)参照)。
【0022】
損失正接tanδ(22℃)は0.01以上0.1以下であることが好ましい。損失正接tanδ(22℃)が0.01より小さい場合には、ゴム組成物中の充填剤が少なく、架橋密度の高い配合となるために機械強度が小さくなり、ゴム層30が破壊する虞がある。
損失正接tanδ(22℃)が0.1より大きい場合には、ゴム層30の変形時に発生するポリマー主鎖間、ポリマー主鎖と充填剤間、充填剤間の摩擦(ロス)が大きくなり、耐摩耗性が低下する虞がある。
【0023】
ゴム層30は、ゴム材料であれば特に限定されないが、具体的にはエチレンプロピレン共重合体ゴム(EPDM)を主成分とすることが好ましい。
尚、EPDM以外のゴム材料としては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、ブタジエン−ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、およびエピクロルヒドリンゴムなどの少なくとも1つを含んでも良い。
また、ゴム材料としてEPDMを用いる場合、EPDMは、非油展グレード、油展グレードのいずれであっても良く、非油展グレードと油展グレードを混合したものであっても良い。
【0024】
(2)分離機構の構成
図3(a)はトルクリミッタを用いた分離機構を含む給紙装置の断面模式図、(b)は複数枚の用紙束を分離するときの分離機構の動作を示す断面模式図、(c)は単枚の用紙を搬送するときの分離機構の動作を示す断面模式図である。
給紙装置100は、シート材としての用紙Pを積載した用紙カセット110と、用紙Pの上面の先端側に当接して用紙カセット110から用紙Pを送り出すナジャーローラ120と、ナジャーローラ120から送り込まれた用紙Pを1枚ずつ分離しながら(捌いて)搬送する分離機構50を含んで構成されている。
【0025】
ナジャーローラ120の用紙搬送方向下流側には分離機構50が配置されている。分離機構50は、給紙ローラの一例としてのフィードローラ2と、フィードローラ2の下側で、フィードローラ2に対向して圧接配置されたリタードローラとしてのゴム層30を備えたトルクリミッタ1から構成され、フィードローラ2とトルクリミッタ1との間に、用紙カセット110から送り出された用紙Pを挟持するニップ部Nが形成される。
【0026】
フィードローラ2は、駆動力を伝達する回転軸が挿通される中空状の芯材2aの外周面にゴム層2bが固着されている。
ゴム層2bは、トルクリミッタ1のゴム層30と同一のゴム組成物で構成されていることが好ましい。具体的には、ゴム層2bは、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPa以上であり、動的弾性率E1(22℃)が1.0MPa以上10MPa以下であるゴム組成物からなる。
【0027】
フィードローラ2は、不図示の駆動源によって、用紙搬送方向と直交する方向を軸方向として、この軸周りに回転駆動される駆動ローラであり、フィードローラ2が、用紙カセット110から送り出されニップ部Nに搬送される用紙Pの上面(表面)に当接して、回転駆動することにより、用紙Pが下流へ搬送される(図中 矢印R参照)。
【0028】
トルクリミッタ1は、用紙搬送方向に直交する方向を軸方向として、不図示の駆動源によって、この軸周りにフィードローラ2に圧接しながら逆回転するリタードローラであり、複数枚の用紙Pが重なってニップ部Nに搬送された場合に、その用紙Pへ下面側(裏面側)から搬送抵抗を付与して、フィードローラ2が搬送する用紙Pの重送を抑制する(
図3(b)参照)。
ニップ部Nに搬送される用紙Pが1枚の場合には、フィードローラ2の表面に用紙Pが当接し、この用紙Pとの摩擦によって、トルクリミッタ1へ回転力が付与されると、トルクリミッタ1は従動回転して用紙Pが下流へ搬送される(
図3(c)参照)。
尚、トルクリミッタ1は、逆回転の駆動力が付与されず、軸周りに回転する従動ローラであってもよい。
【0029】
このように、分離機構50においては、トルクリミッタ1がブレーキとして機能することにより、複数枚の用紙Pが重なってニップ部Nに搬送された場合に、その用紙Pへ下面側(裏面側)から搬送抵抗を付与して、フィードローラ2が搬送する用紙Pの重送を抑制している。
【0030】
係る分離機構50において、ヒステリシス損失に基づくヒステリシストルクによってトルク伝達を行うトルクリミッタ1は、バネ式のトルクリミッタに比して耐久性が高く、ハウジング21の外周面に固着されたゴム層30の耐久性が低い場合には、伝達トルクが維持されているにもかかわらず、分離性能が低下して分離機構50の寿命が短くなる虞があった。
【0031】
本実施形態に係るトルクリミッタ1をリタードローラとして用いた分離機構50は、フィードローラ2と圧接しながら協働して複数枚の用紙Pの分離を行うトルクリミッタ1が、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPa以上であり、また、動的弾性率E1(22℃)が、1.0MPa以上10MPa以下であるゴム組成物からなるゴム層30を備えている。
そのために、トルクリミッタ1のゴム層30の磨耗による外径変化量の増大を抑制してトルクリミッタ1の交換寿命を長くすることができる。
【実施例】
【0032】
「トルクリミッタの作成」
第1回転体10は、中空状のシャフト11に外径14.37mm、内径11.47mm、着磁極数14極、着磁ピッチ3.22mmの永久磁石12を挿入して固着した。
第2回転体20は、ハウジング21に外径15.60mm、内径14.80mmの周方向異方性ヒステリシス材を挿入して固着した。また、外径15.60mm、内径14.80mmの径方向異方性ヒステリシス材を用いた比較例のトルクリミッタも作成した。
尚、本実施例及び比較例におけるトルクリミッタは、ヒステリシス材の磁場の配向方向以外、各構成部材の材料及び寸法等は全て同一である。
【0033】
「トルクリミッタの最大トルク評価」
図4は、実施例及び比較例のトルクリミッタをそれぞれ15個作成して最大トルクを測定した結果を示す図である。
比較例のトルクリミッタの最大トルクは最大値314gfcm、最小値278gfcm、バラツキは36gfcmであった。一方、実施例のトルクリミッタの最大トルクは最大値326gfcm、最小値312gfcm、バラツキは14gfcmであった。
【0034】
この結果から、周方向異方性ヒステリシス材を用いた実施例のトルクリミッタは、径方向異方性ヒステリシス材を用いた比較例のトルクリミッタに比して、初期トルクが大きく、そのバラツキも小さいことが示された。そのために、周方向異方性ヒステリシス材を用いた実施例のトルクリミッタは、ヒステリシストルクが増大して、トルクリミッタをより小型化することができ、その外面にゴム層30を配置してトルクリミッタを内蔵したリタードローラを構成する場合に好適である。
【0035】
「ゴム組成物の作成」
本実施形態に係るトルクリミッタ1のゴム層30のゴム組成物は、所定量のポリマー成分と、架橋剤と、必要に応じて所定量の軟化剤、充填剤、その他加硫促進剤、加硫促進助剤、および老化防止剤等の添加剤と、からなる配合物を混練機を用いて混練して未加硫のゴム組成物を得て、これを所定の金型内で160℃、30分間の条件で加硫成形してから、さらに160℃、60分間の条件で2次加硫した。
【0036】
その後、成形されたゴムチューブを円筒研磨盤で所望の外径になるまで研磨し、所望の長さにカットした後、ゴム層30として、
図1に示すようなハウジング21の外周面に挿入し、ゴム層30を備えた実施例及び比較例のトルクリミッタを作成した。
【0037】
「粘弾性特性の測定」
混練機を用いて所定量のポリマー成分と、架橋剤と、必要に応じて所定量の軟化剤、充填剤、その他加硫促進剤、加硫促進助剤、および老化防止剤等の添加剤とからなる配合物を混練し、金型を用いて、160℃、30分間の条件で加硫成形し、さらに160℃、60分間の条件で2次加硫した。これにより、シート状のゴム架橋物を得た。このシートから、幅5mm×長さ20mm×厚さ2mmの短冊状のサンプルを打ち抜いて粘弾性特性測定用のゴム組成物とした。
打抜いたサンプルの粘弾性特性(温度分散)は、JISK6394(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの動的性質試験方法/小型試験装置)に準拠して、動的粘弾性測定装置(UBM社製、Rheogel E4000FHP)を用いて下記の測定条件で測定した。
測定温度:−84℃〜120℃
測定温度の昇温速度:2℃/min
測定温度間隔:1℃
測定周波数:10Hz
初期歪み:1.3mm
振幅:2μm
変形モード:引っ張り
チャック間距離10mm
波形:正弦波
【0038】
作成したそれぞれのサンプルの測定結果から、動的弾性率E1(22℃)の値及び損失正接tanδ(22℃)の値を読み取った。
【0039】
「通紙試験」
実施例および比較例のゴム層30を備えたトルクリミッタをDocuPrint4050(富士ゼロックス社製)に装着し、用紙「Business4200」(Xerox社製)を温度10℃、湿度15%RH環境下で50000枚に亘って通紙した。測定は、通紙試験開始後、5000枚、10000枚、20000枚、30000枚、40000枚、50000枚の時点で、外径変化量[mm]を温度10℃、湿度15%RH環境下で測定した。
ここで、「外径変化量」とは、所定枚数の用紙を通紙した後のトルクリミッタ1(リタードローラ)のゴム層30の外径から、初期のトルクリミッタ1(リタードローラ)のゴム層30の外径を引いた値である。外径変化量の絶対値が小さいほどゴム層30が削れにくく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0040】
「粘弾性特性及び通紙性能の評価」
図5は実施例1〜4及び比較例1に係るゴム組成物の機械物性、粘弾性特性、及び係るゴム組成物を用いた分離機構50の通紙評価を示す図、
図6は実施例1〜4及び比較例1における動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)とトルクリミッタ1(リタードローラ)のゴム層30の外径変化量との関係を示す図、
図7は比較例1〜3における粘弾性特性と外径変化量との関係を示す図である。
【0041】
図5及び
図6に示す結果から、粘弾性特性の測定において、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20[MPa]以上であれば、リタードローラとしてのゴム層30の外径変化量が抑制され、分離機構50としての寿命が長いことが分かった。
【0042】
動的弾性率E1(22℃)は、分離機構50のフィードローラ2、トルクリミッタ1のゴム層30の変形量に関係し、動的弾性率E1(22℃)が高い場合には、フィードローラ2、トルクリミッタ1のゴム層30の変形量を抑制して、用紙Pと相対的なスリップが少なくなり耐磨耗性を向上させることができる。
一方、損失正接tanδ(22℃)を低くする、例えば損失正接tanδ(22℃)を0.1未満とすることで、ゴム層30の変形時に発生するポリマー主鎖間、ポリマー主鎖と充填剤間、充填剤間の摩擦(ロス)を小さくすることができる。
その結果、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)を大きくするゴム組成物とすることで、リタードローラとしての耐磨耗性を向上することができたと推察される。
【0043】
比較例1は、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が17.6、すなわち20未満と小さく、フィードローラの外径変化量が−0.1134mm、リタードローラの外径変化量が−0.2080と磨耗量が多い結果となった。
【0044】
図7に示すように、比較例2は、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPaを超えている場合であっても、実施例に比して、リタードローラの外径変化量の絶対値が大きい場合がある。
比較例2においては、動的弾性率E1(22℃)が0.81[MPa]と低い。その結果、トルクリミッタ1のゴム層30の変形量が大きく耐磨耗性が劣る結果になったと推察される。
【0045】
また、比較例3は、通紙初期段階から重送が発生しており、リタードローラとして採用できるものではなかった。この結果は、
図7に示すように、比較例3の動的弾性率E1(22℃)が26.62[MPa]と大きいため、用紙Pとリタードローラとの間のニップ量が小さく、通紙により、リタードローラと用紙Pとの間の摩擦係数が、用紙間の摩擦係数よりも低下して、重送が発生したものと推察される。
その結果、動的弾性率E1(22℃)が1.0MPa以上10MPa以下であれば通紙により重送が発生することがなく、外径変化量を抑制することができるゴム組成物を得ることができる。
【0046】
以上、本発明に係る実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことが可能である。例えば、ゴム層30を構成するゴム組成物としては、EPDM等に限られず、動的弾性率E1(22℃)と損失正接tanδ(22℃)の比E1(22℃)/tanδ(22℃)が20MPa以上であり、動的弾性率E1(22℃)が1.0MPa以上10MPa以下であるウレタンゴムであっても良い。