特許第6980246号(P6980246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980246
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】プログラム及び潅漑制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
   A01G25/00 501D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-60163(P2017-60163)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-161087(P2018-161087A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】西川 弘太郎
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−064650(JP,A)
【文献】 特開2004−275147(JP,A)
【文献】 特開平11−346581(JP,A)
【文献】 特開2016−220681(JP,A)
【文献】 特開平07−087856(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105359939(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0029568(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
A01G 22/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択可能な複数の動作モード中の第1の動作モードにおいて、コンピュータが実行するプログラムであって、上記コンピュータを、
制御対象となる水田の水位の情報を取得する水位取得手段、
上記水田の給水側の水門の開閉状態の情報を取得する水口取得手段、
上記水田の排水側の水門の開閉状態の情報を取得する水尻取得手段、
上記水田の農薬濃度の情報を取得する農薬濃度取得手段、
上記水田に植えられた作物の発育度の情報を入力する入力手段、
上記作物の発育度の情報に応じた水田の目標水位の情報を記憶する記憶手段、
記入力手段で入力した作物の発育度の情報基づいて上記記憶手段から現時点の目標水位の情報を検索し、検索した結果と、上記水位取得手段、上記水口取得手段、上記水尻取得手段、上記農薬濃度取得手段で取得した各情報とに応じて上記給水側及び上記排水側の水門の新たな各開閉状態を算出する算出手段、及び
上記算出手段で算出した内容に応じて上記給水側及び上記排水側の水門の各開閉状態を制御する信号を出力する出力手段
として機能させるプログラム。
【請求項2】
上記算出手段は、上記農薬濃度取得手段で取得した農薬濃度の情報を予め設定された閾値と比較し、その比較結果に基づいて、上記排水側の水門での排水量を制限するように開閉状態を算出する、請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
選択可能な複数の動作モード中の第2の動作モードにおいて、上記コンピュータを、さらに、
上記算出手段で算出した上記給水側及び上記排水側の水門の新たな各開閉状態を報知する報知手段と、
上記報知手段で報知した内容に対応する上記給水側及び上記排水側の水門の新たな各開閉操作を受付ける操作受付手段と、
して機能させ、上記出力手段は、上記操作受付手段で各開閉操作を受付けた時点で対応する信号を出力する、請求項1または2記載のプログラム。
【請求項4】
選択可能な複数の動作モード中の第1の動作モードにおいて、
制御対象となる水田の水位の情報を取得する水位取得手段と、
上記水田の給水側の水門の開閉状態の情報を取得する水口取得手段と、
上記水田の排水側の水門の開閉状態の情報を取得する水尻取得手段と、
上記水田の農薬濃度の情報を取得する農薬濃度取得手段と、
上記水田に植えられた作物の発育度の情報を入力する入力手段と、
上記作物の発育度の情報に応じた水田の目標水位の情報を記憶する記憶手段と、
記入力手段で入力した作物の発育度の情報基づいて上記記憶手段から現時点の目標水位の情報を検索し、検索した結果と、上記水位取得手段、上記水口取得手段、上記水尻取得手段、上記農薬濃度取得手段で取得した各情報とに応じて上記給水側及び上記排水側の水門の新たな各開閉状態を算出する算出手段と、
上記算出手段で算出した内容に応じて上記給水側及び上記排水側の水門の各開閉状態を制御する信号を出力する出力手段と
を備える潅漑管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲作等を行なう、屋外の水田はもとより、屋内の植物工場等への適用も含む水田の潅漑に好適なプログラム及び潅漑制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水田の水位の管理を自動的にするための技術が提案されている。(例えば、特許文献1,2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−248076号公報
【特許文献2】特開平11−009123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、水田の排水側の畦部に水位管理装置を設置し、回転円板の中心位置から偏心した円状の排水口を有する円板を回転させて、水田の水位を調整する技術が記載されている。
【0005】
また上記特許文献2には、手元側送受信機の送信データに基づいて、日時と気温、水温、日照時間に応じた排水側の水門ゲートの高さ指示値を現場側送受信機に送信し、現場側送受信機は送信データを現場のPCS3に転送し、現場のPCS3は、設定時刻の各基準値とその実測値とを比較して補正係数を算出することで、ゲート高さの指示値を自動的に調節するようにした技術が記載されている。
【0006】
上記特許文献1,2いずれにおいても、排水側に設けられた調整機構を用い、給水側で適時所定量の給水を行ないながら、合わせて排水側での流量を加減制御するものであり、その時々で多寡はあるが、基本として排水を行なうことが前提となっている。
【0007】
したがって、例えば、農薬を散布した後も止水ができずに農薬が流出する、水田に常に水が流入するので落水や中干し作業等ができない、などの不具合が発生する。そのため、上記水位管理装置を単体で使用することは現実的ではなく、その他の補助装置が必要となる。
【0008】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、装置単体で健全な潅漑の水位制御を行なうことが可能なプログラム及び潅漑制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、選択可能な複数の動作モード中の第1の動作モードにおいて、コンピュータが実行するプログラムであって、上記コンピュータを、制御対象となる水田の水位の情報を取得する水位取得手段、上記水田の給水側の水門の開閉状態の情報を取得する水口取得手段、上記水田の排水側の水門の開閉状態の情報を取得する水尻取得手段、上記水田の農薬濃度の情報を取得する農薬濃度取得手段、上記水田に植えられた作物の発育度の情報を入力する入力手段、上記作物の発育度の情報に応じた水田の目標水位の情報を記憶する記憶手段、記入力手段で入力した作物の発育度の情報基づいて上記記憶手段から現時点の目標水位の情報を検索し、検索した結果と、上記水位取得手段、上記水口取得手段、上記水尻取得手段、上記農薬濃度取得手段で取得した各情報とに応じて上記給水側及び上記排水側の水門の新たな各開閉状態を算出する算出手段、及び上記算出手段で算出した内容に応じて上記給水側及び上記排水側の水門の各開閉状態を制御する信号を出力する出力手段として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置単体で健全な潅漑の水位制御を行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る水管理装置の機能構成と設置環境とを示すブロック図。
図2】同実施形態に係る自動モード時及び教育モード時に水管理装置が実行する処理内容を示すフローチャート。
図3】同実施形態に係る手動モード時にマスタ機となった水管理装置が実行する処理内容を示すフローチャート。
図4】同実施形態に係る手動モード時にスレーブ機となった水管理装置が実行する処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る水管理装置10の機能構成と設置環境とを示すブロック図である。同図において、水管理装置10は、インターネットを含むネットワークNWを介して、水管理装置10と同様の他の複数の水管理装置、及びこれらに統括して情報提供を行なうサーバ装置SVと接続されると共に、基地局BSを介して、上記水管理装置10の保守、管理を行なう管理者が所持する携帯情報機器、例えばスマートフォン20とも接続される。
管理者が所持する携帯情報機器としては、下記に示すアプリケーションプログラムをインストール可能な機器であれば、スマートフォンに限らず、他にタブレットPCやフィーチャフォン等でも良い。
【0013】
スマートフォン20では、水管理装置10用のアプリケーションプログラムを予めインストールしておくことにより、当該アプリケーションプログラムを起動して水管理装置10の運用状態、農薬濃度、塩分濃度、水位、水温、気温、湿度、及び水田における稲の画像等を数値によりモニタ表示できると共に、水管理装置10に対する操作入力を行なうことも可能であるものとする。
【0014】
上記水管理装置10は、水田単位に設置されるものであり、通信部31、制御部32、操作部33、及び入出力盤34を有する。操作部33を除く、上記通信部31、制御部32、及び入出力盤34は、それぞれ例えばプログラマブルロジックコントローラにより実装構成することが想定される。その場合、操作部33は別体でディスプレイと一体化されたタッチパネルで構成するものとしても良い。
【0015】
また、通信部31、制御部32及び操作部33を纏めて、例えばノートブックタイプのパーソナルコンピュータ、Arduino(登録商標)等のマイクロコンピュータ等で構成しても良い。
【0016】
通信部31は、この水管理装置10の制御部32と上記ネットワークNWとを接続し、双方間で送受されるデータの入出力を行なう。
【0017】
制御部32は、例えばマイクロプロセッサとメインメモリ及びプログラムメモリ等を有し、予め設定されたプログラム、及び操作部33での操作に従って、後述する制御動作を実行する。
【0018】
操作部33は、ディスプレイと一体化されたタッチパネルで構成され、後述する各センサでの検出結果の数値等を表示する一方で、水門動作を指示するためのタッチ操作を受付ける。
【0019】
入出力盤34は、水口となる給水側の水門35を開閉動作するモータ(M)36、水尻となる排水側の水門37を開閉動作するモータ(M)38に対してそれぞれ駆動電力を供給して動作させる一方で、当該水田中に設置された水位センサ39、バイオセンサ40、塩分センサ41、温度センサ42、湿度センサ43、及びカメラ44からそれぞれ検出結果、撮影画像信号を受信し、デジタル化した上で上記制御部32へ送出する。なお、ここでは、実施形態としてモータとしているが、水門を開閉させるアクチュエータ全般を含む。制御対象は、水門以外でもよい。また制御則は、オン/オフの2値制御、PID(Proportional−Integral−Differntial)制御等、この限りではない。
【0020】
水位センサ39は、当該水田における湛水の水位を検出する。
【0021】
バイオセンサ40は、当該水田における湛水中の農薬の濃度を検出する。
【0022】
塩分センサ41は、当該水田における湛水中の塩分の濃度を検出する。
【0023】
温度センサ42は、当該水田における湛水の温度、及び気温を検出する。
【0024】
湿度センサ43は、当該水田における湛水より上部の作物位置及び土壌での湿度を検出する。
カメラ44は、定点設置された撮影対象となる稲の画像を撮影し、得られた画像信号をデジタル化して上記入出力盤34へ出力する。なお、カメラ44は電動雲台を有し、ズームレンズ光学系を有するものとして、操作部33または上記スマートフォン20での操作に応じて、設置された位置から任意の撮影方向及び任意の撮影画角で画像を取得できるものとしても良い。
【0025】
なお本実施形態では、制御部32が入出力盤34を介してモータ36,38により水門35,37をそれぞれ個別に開閉制御する過程で、その時点での水門35,37の各開閉状態の情報をそれぞれ更新して所望の水門の高さを保持しているものとする。
【0026】
また上記実施形態では、制御部32内のプログラムメモリに記憶しているプログラムを、サーバ装置SVからネットワークNWを介してダウンロードしてインストールさせる一方で、制御部32での制御動作による実行内容をネットワークNWを介してサーバ装置SVにアップロードさせることが可能であるものとする。
【0027】
次に上記実施形態の動作について説明する。
本実施形態では、自動モード、教育モード、及び手動モードのいずれかでの動作が可能であるものとする。ここで自動モードとは、習熟度の高い、所謂ベテランの農作業者による水管理とその際の農薬濃度、塩分濃度、水位、水温、気温等と水門35,37の開閉状態をDVI(DeVelopmental Index:発育指数)やフローラルステージ等と関連付けて記録してデータ化した上で、これらのデータから各水門35,37を開閉する条件の判別式等を導いて形式知化し、プログラムとして予め記憶しておくことで、当該プログラムに従って制御部32がモータ36,38を用いて各水門35,37を自動的に開閉制御するモードである。
なお、予め記憶される自動モードのプログラムに関しては、後述する手動モード時に、マスタ機として設定された水管理装置10において実行するログ記録処理によって、農薬濃度、塩分濃度、水位、水温、気温、湿度等の外界状況とDVI値、フローラルステージ等から各水門35,37を開閉制御する判別式等が随時ブラッシュアップされながら更新記録された上で、他のスレーブ機として設定された水管理装置10,10,‥‥にも配信されるものとする。
【0028】
教育モードでは、上記自動モードに加えて、モータ36,38が各水門35,37を開閉制御するための操作量を、予め登録してあるスマートフォン20にて報知し、その報知した内容に合致する操作が操作部33で実行されることを受付けて、実際にモータ36,38を用いて各水門35,37を開閉制御するモードである。
【0029】
手動モードは、大規模水田地帯において、マスタ/スレーブ制御を行なうモードである。マスタ側となる1台の水管理装置10と、多数台のスレーブ側となる他の水管理装置10,10,‥‥を上記ネットワークNWで事前に登録設定しておく。マスタ側の水管理装置10において農作業者が操作部33により手動操作することで、当該操作内容をスレーブ側の他の多数台の水管理装置10,10,‥‥に転送し、これを受けたスレーブ側の各水管理装置10では、マスタ側と同様の操作を、操作部33での指示なしに実行する。また、自動・教育モードでのマスタ/スレーブ制御も可能とする。
【0030】
大規模水田地帯では、個々の水田の形状や外界の状況はほぼ同じであると思われるので、マスタ側での水田に対する水管理装置10での操作に応じて、スレーブ側の多数の水田での水管理装置10,10,‥‥の操作を同調させることができる。
【0031】
図2は、上記自動モード時及び教育モード時に、水管理装置10の主として制御部32が実行するアプリケーションプログラムの処理内容を示すフローチャートである。
【0032】
その当初に制御部32では、予め設定された水位の制御タイミングとなったか否かを判断する(ステップS101)。ここで制御部32は、例えば現在時刻を計時し続けるRTC(Real Time Clock)をプロセッサに内蔵し、現在時刻が正時となったか否かにより、1時間周期で以下の処理を実行する。なお、以下の処理を実行する周期や実行タイミング等は、上記した内容に限らず、水管理装置10の管理者が任意に設定できるものとする。制御部32が制御動作を行なう基盤となるOS(オペレーティングシステム)は、Windows(登録商標)やLinux(登録商標)等のいずれでもよいが、よりリアルタイム性を有すると共に、セキュリティ上の能力が充分であるものが望ましい。
【0033】
上記ステップS101において、予め設定された水位の制御タイミングとなっていないと判断した場合(ステップS101のNo)、制御部32は次に操作部33により当該水田に植えられた稲のDVIを示す数値が入力されたか否かを判断する(ステップS102)。ここでDVIを示す数値としては、具体的には幼穂、出穂等の長さや玄米の大きさ(単位[mm])等、各フローラルステージと対応した具体的な数値を入力することで、制御部32側で対応するDVI値に自動変換するものとすれば良い。
例えば管理者が上記の具体的なパラメータの数値を入力すると、当該アプリケーションプログラムにおいて自動的にDVI値に変換して入力を行なうもので、ここで併せて制御部32は、入力されたパラメータの数値に従って次の水口及び水尻となる水門35,37を開閉制御するまでの時間を予測して表示するものとしても良い。
また上記具体的なパラメータ数値の入力は、カメラ44での撮影により取得した画像データから画像処理等を施して得ることで自動化するものとしても良い。
【0034】
このDVI値は、当該水田の管理者が、例えば少なくとも1日1回、定時に入力することで、入力された数値が制御部32内で更新記憶される。
【0035】
上記ステップS102において、DVI値の入力もないと判断した場合(ステップS102のNo)、制御部32は上記ステップS101の処理に戻る。
【0036】
こうして制御部32では、ステップS101,S102の処理を繰返し実行することで、制御タイミングとなるか、またはDVI値が入力されるのを待機する。
【0037】
上記ステップS102において、DVI値を入力する操作があったと判断した場合(ステップS102のYes)、制御部32は操作部33から入力されるDVI値をその時点での日時の情報と関連付けて内部のメモリに更新記憶すると共に、ネットワークNWを介してサーバ装置SV側にも当該水管理装置10での情報として更新記憶させた上で(ステップS103)、再び上記ステップS101からの処理に戻る。
【0038】
また上記ステップS101において、制御タイミングとなったと判断した時点で(ステップS101のYes)、制御部32は水位センサ39での検出信号からその時点での水田の水位の情報を取得する(ステップS104)。
【0039】
さらに制御部32は、バイオセンサ40での検出信号からその時点での農薬濃度の情報を取得する(ステップS105)。
【0040】
合わせて制御部32は、記憶している当該水田の最新のDVI値に対応して記憶されている設定水位の情報を取得し、その水位を制御目標とする(ステップS106)。
【0041】
次に制御部32は、制御内容を決定するべく、直前の上記ステップS105で取得した農薬濃度の情報が、予め設定されている、農薬が流出しても問題を生じない程度のしきい値よりも高いか否かを判断する(ステップS107)。
【0042】
ここで農薬濃度の情報がしきい値以下であると判断した場合(ステップS107のNo)、制御部32はさらにその時点での日付情報から当該水田における止水期間中であるか否かを判断する(ステップS108)。
【0043】
上記ステップS107において、農薬濃度の情報がしきい値より高いと判断した場合(ステップS107のYes)、及び上記ステップS108において、水田における止水期間中であると判断した場合(ステップS108のYes)、制御部32は現時点の水位と、現時点での水門35,37の開閉状態、及び上記ステップS106で取得した設定水位とを鑑みて、排水側の水門37での排水量が「0(ゼロ)」となるような水門35,37の各調整量を決定する(ステップS109)。
【0044】
また上記ステップS107において、農薬濃度の情報がしきい値以下であると判断した後(ステップS107のNo)、上記ステップS108において、水田が止水期間中ではないと判断した場合(ステップS108のNo)、制御部32は現時点での水位と、現時点での水門35,37の開閉状態、及び上記ステップS106で取得した設定水位とを鑑みて、全体でより合理的となるように水門35,37の各調整量を決定する(ステップS110)。
【0045】
上記ステップS109またはステップS110での水門35,37の各調整量の決定後、制御部32はこの水管理装置10が教育モード下で運用されているか否かを判断する(ステップS111)。
【0046】
ここで教育モード下で運用されていると判断した場合にのみ(ステップS111のYes)、制御部32はネットワークNWを介して、この水管理装置10と対応付けて予め登録されている管理者が所持するスマートフォン20において、決定された水門35,37の調整量の操作を促す表示画面と音声、及びバイブレータによる振動等による報知処理を行なうと共に、操作部33での操作を受付ける(ステップS112)。
【0047】
合わせて制御部32は、上記報知を行なった通りの操作が操作部33で実行され、完了したか否かを判断する(ステップS113)。ここで当該操作が実行され。完了していないと判断した場合(ステップS113のNo)、制御部32は再び上記ステップS112の処理に戻り、スマートフォン20での報知処理を続行する。
【0048】
そして、実際に報知を行なった通りの操作が操作部33で実行され、完了したと判断した時点で(ステップS113のYes)、制御部32はあらためて上記ステップS109またはステップS110で決定された、水門35,37の各調整量に基づいてモータ36,38それぞれを入出力盤34により回転駆動させる(ステップS114)。
【0049】
以上で制御タイミング毎に実行される自動制御動作を一旦終了して、再び次の制御タイミングとDVI値の入力に備えるべく上記ステップS101からの処理に戻る。
【0050】
また上記ステップS111において、教育モード下では運用されていないと判断した場合(ステップS111のNo)、この水管理装置10は自動モード下であることとなるので、制御部32は上記ステップS112,S113の処理を実行せずに、直接上記ステップS114に進み、上記ステップS109またはステップS110で決定された、水門35,37の各調整量に基づいてモータ36,38それぞれを入出力盤34により回転駆動させる。
【0051】
以上に示した如く、自動モードにおいては、極力農薬の流出を抑えつつ、給水側の水門35と排水側の水門37の双方を統括して制御して、プログラムにより予め設定された、その時点のDVI値に基づいた適切な水位となるように自動で動作させることができる。
【0052】
加えて教育モードにおいては、適切な水位の設定に関する操作を管理者に報知して促し、当該操作が実行されたことを判断した上で、自動モード時と同様の制御動作を行なうようにしたため、習熟度の低い管理者による誤操作を回避しつつ、状況に応じた適切な操作についてベテラン農作業者の技術を確実に伝承させることができる。
【0053】
なお、上記図2で示した動作処理内容とは別に、例えば塩害等の影響を受けて、稲作に適さない程度の塩分濃度を示す情報が上記塩分センサ41での検出により取得された場合には、当該水田を稲作に適した状態に戻すための処理を優先する必要がある。
【0054】
この場合、排水側の水門37を閉じるとともに給水側の水門35を開けて、水田を深水の状態となるまで湛水させた後に、給水側の水門35を閉じると共に排水側の水門37を開けて、湛水を水田内の塩分と共に一挙に落水させる、という処理を繰返し行なうことにより、塩分センサ41で検出される塩分濃度を徐々に且つ確実に低下させていくことができる。
【0055】
その際においても、水田の水位を水位センサ39により検出させながら、モータ38による水門37の開閉制御、モータ36による水門35の開閉制御をそれぞれ制御部32により自動化して実行させることができるので、管理者の手間を大幅に簡略化するとともに、必要最低限の時間で当該処理を実行することができる。
【0056】
次に手動モード時の動作についても説明する。
上述した如く手動モードは、大規模水田地帯において多数の水管理装置10,10,‥‥を連携させ、マスタ/スレーブ制御を行なうモードである。
【0057】
図3は、手動モード時にマスタ機として登録設定された水管理装置10において、主としてその制御部32が実行する処理内容を示すフローチャートである。
【0058】
処理当初に制御部32は、操作部33による手動操作がなされたか否かを繰返し判断することで、手動操作がなされるのを待機する(ステップS201)。
【0059】
手動操作がなされたと判断した場合(ステップS201のYes)、制御部32はその操作内容を受付けた上で(ステップS202)、受付けた操作内容に従ってモータ36による給水側の水門35の開閉操作、モータ38による排水側の水門37の開閉操作の少なくとも一方を含む水位調整動作を実行する(ステップS203)。
【0060】
加えて制御部32は、受付けて実行した操作内容を、ネットワークNWを介してスレーブ機として登録設定している他の多数の水管理装置10,10,‥‥に一括送信する(ステップS204)。
【0061】
さらにこの制御部32では、その時点で水位センサ39、バイオセンサ40、塩分センサ41、温度センサ42、及び湿度センサ43で検出できる各情報を取得した上で、取得した各情報と、上記受付けた操作内容、及び日時の情報を付加し、一連のログ情報として、ネットワークNWを介して上記サーバ装置SVに記憶させる(ステップS205)。
加えて制御部32は、上記ログ記録処理時に平行して、農薬濃度、塩分濃度、水位、水温、気温、湿度等の外界状況とDVI値、フローラルステージ等とから各水門35,37を開閉制御する判別式等を随時ブラッシュアップしながら更新記録する。
なおこのマスタ機の水管理装置10で更新記録した各水門35,37を開閉制御するための判別式等を含むデータに関しては、その都度他のスレーブ機として設定された水管理装置10,10,‥‥にも随時配信するものとしても良いし、一連の稲作シーズン終了後に一括して同スレーブ機として設定された水管理装置10,10,‥‥に配信するものとしても良い。
【0062】
以上で操作部33での操作に対する一連の処理動作を終了し、次の操作に備えるべく上記ステップS201からの処理に戻る。
【0063】
図4は、手動モード時にスレーブ機として登録設定された水管理装置10において、主としてその制御部32が実行する処理内容を示すフローチャートである。
【0064】
処理当初に制御部32は、通信部31から上記ネットワークNWを介して、マスタ機となる水管理装置10からの手動操作信号の受信があるか否かを繰返し判断することで、手動操作信号の受信があるのを待機する(ステップS301)。
【0065】
手動操作信号の受信があったと判断した場合(ステップS301のYes)、制御部32はその操作内容を受信した上で(ステップS302)、受信した手動操作信号に従ってモータ36による給水側の水門35の開閉操作、モータ38による排水側の水門37の開閉操作の少なくとも一方を含む水位調整動作を実行する(ステップS303)。
【0066】
加えて制御部32は、その時点で水位センサ39、バイオセンサ40、塩分センサ41、温度センサ42、及び湿度センサ43で検出できる各情報を取得した上で、取得した各情報と、上記受信して実行した操作内容、及び日時の情報を付加し、一連のログ情報として、ネットワークNWを介して上記サーバ装置SVに記憶させる(ステップS205)。
【0067】
以上でネットワークNWから通信部31を介して受信した、マスタ機からの手動操作信号の受信に対する一連の処理動作を終了し、次の受信に備えるべく上記ステップS301からの処理に戻る。
【0068】
このように手動モード時においては、マスタ機側の水管理装置10で手動操作された内容が、多数のスレーブ機側の水管理装置10,10,‥‥で自動的に反映して実行されることになるので、個々の水田の形状や外界の状況はほぼ同じであると思われる大規模水田地帯において省力化、省人化を図ることができる。
【0069】
以上詳述した如く本実施形態によれば、水管理装置10の装置単体で健全な潅漑の水位制御を行なうことが可能となる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0071】
10…水管理装置
20…スマートフォン
31…通信部
32…制御部
33…操作部
34…入出力盤
35…給水側水門(水口)
36…モータ(M)
37…排水側水門(水尻)
38…モータ(M)
39…水位センサ
40…バイオセンサ
41…塩分センサ
42…温度センサ
43…湿度センサ
44…カメラ
BS…基地局
NW…ネットワーク
SV…サーバ装置
図1
図2
図3
図4