特許第6980250号(P6980250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980250
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20211202BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20211202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   A61K39/395 D
   A61P17/00
   A61P37/08
   A61P43/00 111
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-114978(P2017-114978)
(22)【出願日】2017年6月12日
(65)【公開番号】特開2019-1721(P2019-1721A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 建二
(72)【発明者】
【氏名】冨永 光俊
(72)【発明者】
【氏名】幸坂 涼平
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 Nature Medicine,2015年,Vol.21, No.8, pp.927-931
【文献】 生化学,2016年,Vol.88, No.5,pp.654-656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 45/00−45/08
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポカリン−2中和抗体を有効成分とするアトピー性皮膚炎の皮疹症状改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎の症状を改善するアトピー性皮膚炎治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。アトピー素因とは、家族歴、既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)があること、またはIgE抗体を産生しやすい素因をさす。アトピー性皮膚炎の患者は、近年さらに増加している。
【0003】
アトピー性皮膚炎の治療手段としては、ステロイド、免疫抑制剤、保湿剤、非ステロイド系抗炎症剤等の薬物療法、アレルゲンの除去、食事制限、皮膚や環境を清潔に保つ等の生活指導等が行なわれている(非特許文献1)。しかしながら、ステロイドや免疫抑制剤等は副作用の問題があり、また非ステロイド系抗炎症剤等では十分な効果が得られない。
【0004】
かかる状況において、アトピー性皮膚炎の痒みや皮疹の発生に関与する因子に関する研究がされている。好中球の分泌顆粒中のIV型コラーゲンの分解酵素であるMMP−9と共有結合しているタンパクとして同定されたリポカリン−2(LCN2、NGAL)は、マウスの髄腔内に投与すると痛覚過敏を引き起こすことが報告されている(非特許文献2)。また、アトピー性皮膚炎モデルマウス(NC/Nga、自然発症モデル)の脊髄後角でリポカリン−2の発現量が増加し、リポカリン−2は脊髄のアストロサイトに局在すること、さらにマウスに髄腔内投与すると、リポカリン−2のみでは掻破行動をおこさないが、GRP誘発の掻破行動を増強することが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版
【非特許文献2】JBC. 2013 Aug; 288(3): 24116-24127
【非特許文献3】Nat. Med. 2015 Aug; 21(8): 927-931
【非特許文献4】Acta Derm. Venereol. 2016 Jun 15; 96(5): 624-629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の研究によれば、アトピー性皮膚炎においては、脊髄後角のアストロサイトよりむしろ、脊髄後根神経節(DRG)細胞とそれを取り囲むサテライトグリア細胞(SGC)からなる脊髄後根神経節が炎症や痒みに深く関与していることを見出している(非特許文献4)。
従って、本発明の課題は、アトピー性皮膚炎の主症状である皮疹の症状を改善する新たな医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、アトピー性皮膚炎モデルの脊髄後根神経節(DRG)で発現している因子をスクリーニングしたところ、リポカリン−2がDRGにおけるサテライトグリア細胞に強く発現しており、アトピー性皮膚炎モデルにおいてはリポカリン−2陽性サテライトグリア細胞の割合が正常マウスに比べて有意に増加しており、またリポカリン−2受容体は脊髄後根神経節で発現しており、リポカリン−2遺伝子発現量は、アトピー性皮膚炎では脊髄よりも脊髄後根神経節において初期から有意に持続的に発現していることを見出した。そしてさらに検討を続けたところ、リポカリン−2阻害剤の代表例であるリポカリン−2中和抗体がアトピー性皮膚炎の痒みよりも皮疹を有意に抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕リポカリン−2阻害剤を有効成分とするアトピー性皮膚炎治療薬。
〔2〕アトピー性皮膚炎治療薬が、アトピー性皮膚炎の皮疹症状改善薬である〔1〕記載のアトピー性皮膚炎治療薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アトピー性皮膚炎の主症状である皮疹症状を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ADモデルマウスのDRGにおけるLCN2の発現部位の検討結果を示す。GLASTは、抗GLAST抗体染色像を、LCN2は抗リポカリン−2抗体染色像を、Mergeは二重染色像を示す。
図2】マウスDRGにおけるLCN2陽性SGCの割合(%)を示す。Controlはコントロールマウスを、ADはアトピー性皮膚炎モデルマウスを示す。
図3】Lipocalin−2受容体のAD発症NC/NgaマウスDRGにおける発現検討結果を示す。SLC22A17は抗SLC22A17抗体染色像を、NeuNは抗NeuN抗体染色像を、Mergeは二重染色像を示す。
図4】LCN2遺伝子発現量の経時的変化を示す。DRGと脊髄の比較を示す。
図5】皮膚炎スコア及び掻破行動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアトピー性皮膚炎治療薬の有効成分は、リポカリン−2阻害剤である。
リポカリン−2は、前述のように、好中球の分泌顆粒中のIV型コラーゲンの分解酵素であるMMP−9と共有結合しているタンパクとして同定された因子であり、マウスの髄腔内に投与すると痛覚過敏を引き起こすことが報告されている。また、アトピー性皮膚炎モデルマウスの脊髄後角でリポカリン−2の発現量が増加し、リポカリン−2は脊髄のアストロサイトに局在すること、さらにマウスに髄腔内投与すると、リポカリン−2のみでは掻破行動をおこさないが、GRP誘発の掻破行動を増強することが報告されている。しかし、リポカリン−2が、アトピー性皮膚炎モデルの脊髄後根神経節(DRG)のサテライトグリア細胞で発現していること、及び脊髄よりもDRGにおいて初期から強く発現していることは全く知られていない。
【0013】
リポカリン−2阻害剤としては、リポカリン−2拮抗剤、リポカリン−2中和抗体、リポカリン−2受容体拮抗剤、リポカリン−2受容体中和抗体等が挙げられる。リポカリン−2中和抗体等の抗体は、既に知られており市販品を用いることもできる。また、これらの抗体は、マウス抗体等の非ヒト動物抗体でもよいし、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体であってもよい。
【0014】
リポカリン−2阻害剤は、後記実施例に示すように、アトピー性皮膚炎モデルマウスに投与すると皮膚炎の主症状である皮疹を有意に抑制する。この作用は、痒みに対する作用よりも強いものであった。
従って、リポカリン−2阻害剤は、アトピー性皮膚炎の症状、特に皮疹症状の改善用治療薬として有用である。ここで、皮疹としては、紅斑、急性期の丘疹、湿潤・痂皮、慢性期の丘疹、結節・苔癬化が挙げられる。
【0015】
本発明のアトピー性皮膚炎治療薬は、注射、経口及び外用のいずれの投与形態でも使用することができる。従って、これらの作用を目的とする医薬、医薬部外品、化粧料、機能性食品、特定保健用食品等として有用である。
【0016】
本発明のアトピー性皮膚炎治療薬の経口投与用の形態としては、錠剤、顆粒、粉末、カプセル等の固形剤、ゲル剤、液剤、シロップ剤等の液剤等が挙げられる。また外用の形態としては、クリーム、軟膏、乳液、ローション、オイル、パックなどの形態が挙げられる。また注射剤としては静注、皮下注が挙げられる。
【0017】
本発明のアトピー性皮膚炎治療薬中のリポカリン−2阻害剤の含有量は特に制限されないが、0.001〜100質量%、さらに0.1〜50質量%、特に0.1〜30質量%が好ましい。その投与量は1日あたり、1mg〜500mg、特に1mg〜300mgとするのが好ましい。
【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0019】
実施例1
(アトピー性皮膚炎モデルマウスのDRGにおけるリポカリン−2の発現部位の検討)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製及びDRG病理スライドの作製
アトピー性皮膚炎モデルマウスは、コナヒョウダニ由来アレルゲンを含む軟膏であるビオスタAD(株式会社ビオスタ)塗布を週2回、3週間、計6回繰り返すことにより作製した。初回のビオスタ塗布時は、マウスの頸背部をバリカンで剃毛し、除毛クリームで完全に除毛後、ビオスタAD(75mg)を頸背部の除毛した部位に塗布した。ビオスタADの2〜6回目の塗布時は、4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液(150μL)を頸背部に塗布して2時間後に、ビオスタAD(75mg)を塗布することにより皮膚炎を誘発した。6回目のビオスタAD塗布から3日後に、DRGを摘出した。摘出したDRGは、4%パラホルムアルデヒドに浸漬して、4℃で4時間静置した後、20%スクロース溶液に浸漬し、4℃で16時間静置した。その後、O.C.T compound(サクラファインテックジャパン)に浸漬して、ドライアイスを用いて、凍結包埋した。凍結包埋したDRGをクライオスタット(ライカ)を用いて10μmの厚さに薄切し、スライドガラスに貼付した。
(2)免疫組織化学及び顕微鏡観察
作製したDRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬した。5% 正常ロバ血清、2%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で1時間室温にてインキュベートした後、200倍希釈したラット抗リポカリン−2抗体(Novus)及び200倍希釈したウサギ抗GLAST抗体(Novus)を含有するブロッキング液中で16時間4℃インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗ラット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温にてインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ)を使用して3次元画像を構築した。
【0020】
(結果)
図1に示すように、リポカリン−2(LCN2)は、脊髄後根神経節(DRG)におけるサテライトグリア細胞(SGC)において強く発現していることがわかった。
【0021】
実施例2
(マウスDRGにおけるLCN2陽性SGCの割合)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1と同様の方法でNC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製を行った。なお、本検討では、毛刈り、除毛及び4%SDSの塗布を行うが、ビオスタADを塗布しないコントロールマウスも併せて作製した。
(2)DRG病理標本の作製
実施例1と同様の方法でアトピー性皮膚炎マウス及びコントロールマウスのDRG病理標本を作製した。
(3)免疫組織化学及び顕微鏡観察
DRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、PBSに浸漬した。5%正常ロバ血清、2% BSA及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で室温で1時間インキュベートした後、200倍希釈したラット抗リポカリン−2抗体(Novus)及び200倍希釈したウサギ抗GLAST抗体(Novus)を含有するブロッキング液中で16時間4℃インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗ラット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温にてインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ社製)を使用して3次元画像を構築した。
(4)リポカリン−2(LCN2)陽性サテライトグリア細胞(SGC)の計測
前項(3)で取得した画像について、DAPI(核)及びGLAST(サテライトグリア細胞)が共染色される細胞の数を視覚的にカウントした。カウントした細胞のうち、さらにリポカリン−2にも共染色される細胞数をカウントした。各個体のリポカリン−2、GLAST及びDAPI陽性細胞数をGLAST及びDAPI陽性細胞数で除して100倍した値を、リポカリン−2陽性SGCの比率(%)とした。
【0022】
(結果)
図2に示すように、アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、リポカリン−2(LCN2)陽性サテライトグリア細胞(SGC)の割合が、正常マウス(Control)に比べて有意に増加していた。
【0023】
実施例3
(リポカリン−2受容体のアトピー性皮膚炎モデルマウスのDRGにおける発現検討)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1と同様の方法でNC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルを作製した。
(2)DRG病理標本の作製
実施例1と同様の方法でアトピー性皮膚炎マウスのDRG病理標本を作製した。
(3)免疫組織化学及び顕微鏡観察
DRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、PBSに浸漬した。5%正常ロバ血清、2%BSA及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で1時間室温にてインキュベートした後、1000倍希釈したモルモット抗NeuN抗体(Novus)及び100倍希釈したウサギ抗SLC22A17抗体(Novus)を含有するブロッキング液中にて4℃で16時間インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗モルモット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温でインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ社製)を使用して3次元画像を構築した。
【0024】
(結果)
図3に示すように、リポカリン−2受容体の一つであるSLC22A17は、DRGの神経細胞に強く発現していることがわかった。
【0025】
実施例4
(リポカリン−2のDRG及び脊髄での発現)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
アトピー性皮膚炎モデルマウスは、ビオスタAD塗布を週2回、3週間、計6回繰り返すことにより作製した。初回のビオスタ塗布時は、マウスの頸背部をバリカンで剃毛し、除毛クリームで完全に除毛後、ビオスタAD(75mg)を頸背部の除毛した部位に塗布した。ビオスタADの2〜6回目の塗布時は、4% SDS溶液(150μL)を頸背部に塗布して2時間後に、ビオスタAD(75mg)を塗布することにより皮膚炎を誘発した(アトピー性皮膚炎モデルマウス)。なお、毛刈り、除毛及び4% SDSの塗布を行うが、ビオスタADを塗布しないコントロールマウスとして作製した。2、4及び6回目のビオスタAD塗布から3日後に、DRG及び脊髄を摘出した。
(2)遺伝子発現解析
各遺伝子の転写レベルを、定量リアルタイムPCRによって分析した。全RNAを、製造業者の取扱説明書に従って、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてDRG及び脊髄から抽出し、PrimeScript RT reagent kit(Takara)を用いて、cDNAに逆転写した。定量リアルタイムPCRは製造業者の取扱説明書に従って、SYBR Premix Ex Taq(Takara)を使用して、Applied Biosystems 7900HT Fast Real−time PCR system(Applied Biosystems)により実施した。使用したプライマーに関する情報を下に示す。リボソームタンパク質S18(RPS18)を内部標準遺伝子として使用した。各mRNAの量を、RPS18のmRNA量に対して標準化した。
【0026】
プライマー配列
リポカリン−2; 5’- TCC CCT GAA CTG AAG GAA CG -3’ (forward)(配列番号1) and 5’- AGC CAC ACT CAC CAC CCA TT -3’ (reverse) (配列番号2)
RPS18; 5’-TTT GCG AGT ACT CAA CAC CAA CAT C-3’ (forward) (配列番号3) and 5’-GAG CAT ATC TTC GGC CCA CAC-3’ (reverse) (配列番号4)
【0027】
(結果)
図4に示すように、リポカリン−2(LCN2)は、DRGにおいては1週目から、脊髄においては3週目でやっと有意に遺伝子発現量が増加した。すなわち、リポカリン−2は、脊髄よりもDRGで初期から持続的に発現していることがわかる。
【0028】
実施例5
(リポカリン−2中和抗体の作用)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1に記載と同様の方法でアトピー性皮膚炎モデルを作製した。
(2)アトピー性皮膚炎モデルに対するリポカリン−2中和抗体の投与
アトピー性皮膚炎モデルの皮膚炎誘発日の4% SDS塗布の直前に、ラット抗リポカリン−2中和抗体(R&D)あるいはラットIgG2A(アイソタイプコントロール抗体)(R&D)を1匹あたり1μg髄腔内投与した。各抗体投与液は、滅菌したPBSで0.2μg/μLの濃度に希釈し、1匹あたり5μL投与した。
(3)掻破行動解析
SCLABA(登録商標)−Real(株式会社ノベルテック)を用いて掻破行動の測定及び解析を行った。掻破行動は、1回目(0週目)、3回目(1週目)及び5回目(2週目)のビオスタADによる皮膚炎誘発日、6回目のビオスタADによる皮膚炎誘発から3日後(3週目)の1あるいは2日前に、各マウス12時間の掻破行動の測定を行った。
(4)皮膚炎スコア
皮膚炎スコアは、1回目(0週目)、3回目(1週目)及び5回目(2週目)のビオスタADによる皮膚炎誘発日、6回目のビオスタADによる皮膚炎誘発から3日後(3週目)に評価した。なお、皮膚炎スコアは下記の皮膚炎スコア表にしたがって、(i)発赤・出血、(ii)痂皮形成・乾燥、(iii)浮腫、(iv)擦傷の4項目(各0−3点)を評価し、合計点(0−12点)を算出した。
【0029】
皮膚炎スコア表
(i)発赤・出血
0:無症状 ;背中に発赤および出血症状が認められない状態
1:軽度 ;背中に発赤が局所的に認められ,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
2:中等度 ;背中に発赤が散在的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
3:重度 ;背中に発赤が全体的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められる状態
(ii)痂皮形成・乾燥
0:無症状 ;背中に痂皮形成および乾燥症状なし
1:軽度 ;背中に局所的に認められ,皮膚がわずかに白色化し,角質の剥離がわずかに認められる状態
2:中等度 ;背中に散在的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
3:重度 ;背中に痂皮が全体的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
(iii)浮腫
0:無症状 ;背中に厚みが認められない状態
1:軽度 ;背中にわずかに厚みが認められる状態
2:中等度 ;背中に明らかな厚みやしわが認められる状態
3:重度 ;背中に明らかな厚みがあり,指で触れた時に硬さが感じられる状態
(iv)擦傷
0:無症状 ;背中に擦傷が認められない状態
1:軽度 ;背中に連続的でない擦傷が認められる状態
2:中等度 ;背中に小規模に連続的な擦傷が認められる状態
3:重度 ;背中に連続的な擦傷が認められる状態
【0030】
(結果)
図5に示すように、リポカリン−2中和抗体は、アトピー性皮膚炎を3週目において有意に抑制した。一方、掻破回数は、低値を示したが有意差はなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]