【実施例】
【0018】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0019】
実施例1
(アトピー性皮膚炎モデルマウスのDRGにおけるリポカリン−2の発現部位の検討)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製及びDRG病理スライドの作製
アトピー性皮膚炎モデルマウスは、コナヒョウダニ由来アレルゲンを含む軟膏であるビオスタAD(株式会社ビオスタ)塗布を週2回、3週間、計6回繰り返すことにより作製した。初回のビオスタ塗布時は、マウスの頸背部をバリカンで剃毛し、除毛クリームで完全に除毛後、ビオスタAD(75mg)を頸背部の除毛した部位に塗布した。ビオスタADの2〜6回目の塗布時は、4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液(150μL)を頸背部に塗布して2時間後に、ビオスタAD(75mg)を塗布することにより皮膚炎を誘発した。6回目のビオスタAD塗布から3日後に、DRGを摘出した。摘出したDRGは、4%パラホルムアルデヒドに浸漬して、4℃で4時間静置した後、20%スクロース溶液に浸漬し、4℃で16時間静置した。その後、O.C.T compound(サクラファインテックジャパン)に浸漬して、ドライアイスを用いて、凍結包埋した。凍結包埋したDRGをクライオスタット(ライカ)を用いて10μmの厚さに薄切し、スライドガラスに貼付した。
(2)免疫組織化学及び顕微鏡観察
作製したDRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸漬した。5% 正常ロバ血清、2%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で1時間室温にてインキュベートした後、200倍希釈したラット抗リポカリン−2抗体(Novus)及び200倍希釈したウサギ抗GLAST抗体(Novus)を含有するブロッキング液中で16時間4℃インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗ラット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温にてインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ)を使用して3次元画像を構築した。
【0020】
(結果)
図1に示すように、リポカリン−2(LCN2)は、脊髄後根神経節(DRG)におけるサテライトグリア細胞(SGC)において強く発現していることがわかった。
【0021】
実施例2
(マウスDRGにおけるLCN2陽性SGCの割合)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1と同様の方法でNC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製を行った。なお、本検討では、毛刈り、除毛及び4%SDSの塗布を行うが、ビオスタADを塗布しないコントロールマウスも併せて作製した。
(2)DRG病理標本の作製
実施例1と同様の方法でアトピー性皮膚炎マウス及びコントロールマウスのDRG病理標本を作製した。
(3)免疫組織化学及び顕微鏡観察
DRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、PBSに浸漬した。5%正常ロバ血清、2% BSA及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で室温で1時間インキュベートした後、200倍希釈したラット抗リポカリン−2抗体(Novus)及び200倍希釈したウサギ抗GLAST抗体(Novus)を含有するブロッキング液中で16時間4℃インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗ラット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温にてインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ社製)を使用して3次元画像を構築した。
(4)リポカリン−2(LCN2)陽性サテライトグリア細胞(SGC)の計測
前項(3)で取得した画像について、DAPI(核)及びGLAST(サテライトグリア細胞)が共染色される細胞の数を視覚的にカウントした。カウントした細胞のうち、さらにリポカリン−2にも共染色される細胞数をカウントした。各個体のリポカリン−2、GLAST及びDAPI陽性細胞数をGLAST及びDAPI陽性細胞数で除して100倍した値を、リポカリン−2陽性SGCの比率(%)とした。
【0022】
(結果)
図2に示すように、アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、リポカリン−2(LCN2)陽性サテライトグリア細胞(SGC)の割合が、正常マウス(Control)に比べて有意に増加していた。
【0023】
実施例3
(リポカリン−2受容体のアトピー性皮膚炎モデルマウスのDRGにおける発現検討)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1と同様の方法でNC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルを作製した。
(2)DRG病理標本の作製
実施例1と同様の方法でアトピー性皮膚炎マウスのDRG病理標本を作製した。
(3)免疫組織化学及び顕微鏡観察
DRG病理スライドは、60分間室温で風乾後、PBSに浸漬した。5%正常ロバ血清、2%BSA及び0.2% TritonX−100を含有するPBS(ブロッキング液)中で1時間室温にてインキュベートした後、1000倍希釈したモルモット抗NeuN抗体(Novus)及び100倍希釈したウサギ抗SLC22A17抗体(Novus)を含有するブロッキング液中にて4℃で16時間インキュベートした。病理スライドを、0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、1000倍希釈したAlexa Fluor 488コンジュゲートロバ抗ウサギ抗体及び1000倍希釈したAlexa Fluor 594コンジュゲートロバ抗モルモット抗体を含有するブロッキング液中で1時間室温でインキュベートした。0.05% Tween−20を含有するPBSで洗浄後、VECTASHILD Mounting Medium with DAPIを用いて、封入した。共焦点顕微鏡観察をLeica TCS SP2顕微鏡(ライカ)を用いて実施した。Zスタック画像(厚さ10μm)を0.9μm毎に収集し、Leica Confocal Software(ライカ社製)を使用して3次元画像を構築した。
【0024】
(結果)
図3に示すように、リポカリン−2受容体の一つであるSLC22A17は、DRGの神経細胞に強く発現していることがわかった。
【0025】
実施例4
(リポカリン−2のDRG及び脊髄での発現)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
アトピー性皮膚炎モデルマウスは、ビオスタAD塗布を週2回、3週間、計6回繰り返すことにより作製した。初回のビオスタ塗布時は、マウスの頸背部をバリカンで剃毛し、除毛クリームで完全に除毛後、ビオスタAD(75mg)を頸背部の除毛した部位に塗布した。ビオスタADの2〜6回目の塗布時は、4% SDS溶液(150μL)を頸背部に塗布して2時間後に、ビオスタAD(75mg)を塗布することにより皮膚炎を誘発した(アトピー性皮膚炎モデルマウス)。なお、毛刈り、除毛及び4% SDSの塗布を行うが、ビオスタADを塗布しないコントロールマウスとして作製した。2、4及び6回目のビオスタAD塗布から3日後に、DRG及び脊髄を摘出した。
(2)遺伝子発現解析
各遺伝子の転写レベルを、定量リアルタイムPCRによって分析した。全RNAを、製造業者の取扱説明書に従って、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてDRG及び脊髄から抽出し、PrimeScript RT reagent kit(Takara)を用いて、cDNAに逆転写した。定量リアルタイムPCRは製造業者の取扱説明書に従って、SYBR Premix Ex Taq(Takara)を使用して、Applied Biosystems 7900HT Fast Real−time PCR system(Applied Biosystems)により実施した。使用したプライマーに関する情報を下に示す。リボソームタンパク質S18(RPS18)を内部標準遺伝子として使用した。各mRNAの量を、RPS18のmRNA量に対して標準化した。
【0026】
プライマー配列
リポカリン−2; 5’- TCC CCT GAA CTG AAG GAA CG -3’ (forward)(配列番号1) and 5’- AGC CAC ACT CAC CAC CCA TT -3’ (reverse) (配列番号2)
RPS18; 5’-TTT GCG AGT ACT CAA CAC CAA CAT C-3’ (forward) (配列番号3) and 5’-GAG CAT ATC TTC GGC CCA CAC-3’ (reverse) (配列番号4)
【0027】
(結果)
図4に示すように、リポカリン−2(LCN2)は、DRGにおいては1週目から、脊髄においては3週目でやっと有意に遺伝子発現量が増加した。すなわち、リポカリン−2は、脊髄よりもDRGで初期から持続的に発現していることがわかる。
【0028】
実施例5
(リポカリン−2中和抗体の作用)
(方法)
(1)NC/Ngaマウスを用いたアトピー性皮膚炎モデルの作製
実施例1に記載と同様の方法でアトピー性皮膚炎モデルを作製した。
(2)アトピー性皮膚炎モデルに対するリポカリン−2中和抗体の投与
アトピー性皮膚炎モデルの皮膚炎誘発日の4% SDS塗布の直前に、ラット抗リポカリン−2中和抗体(R&D)あるいはラットIgG2A(アイソタイプコントロール抗体)(R&D)を1匹あたり1μg髄腔内投与した。各抗体投与液は、滅菌したPBSで0.2μg/μLの濃度に希釈し、1匹あたり5μL投与した。
(3)掻破行動解析
SCLABA(登録商標)−Real(株式会社ノベルテック)を用いて掻破行動の測定及び解析を行った。掻破行動は、1回目(0週目)、3回目(1週目)及び5回目(2週目)のビオスタADによる皮膚炎誘発日、6回目のビオスタADによる皮膚炎誘発から3日後(3週目)の1あるいは2日前に、各マウス12時間の掻破行動の測定を行った。
(4)皮膚炎スコア
皮膚炎スコアは、1回目(0週目)、3回目(1週目)及び5回目(2週目)のビオスタADによる皮膚炎誘発日、6回目のビオスタADによる皮膚炎誘発から3日後(3週目)に評価した。なお、皮膚炎スコアは下記の皮膚炎スコア表にしたがって、(i)発赤・出血、(ii)痂皮形成・乾燥、(iii)浮腫、(iv)擦傷の4項目(各0−3点)を評価し、合計点(0−12点)を算出した。
【0029】
皮膚炎スコア表
(i)発赤・出血
0:無症状 ;背中に発赤および出血症状が認められない状態
1:軽度 ;背中に発赤が局所的に認められ,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
2:中等度 ;背中に発赤が散在的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
3:重度 ;背中に発赤が全体的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められる状態
(ii)痂皮形成・乾燥
0:無症状 ;背中に痂皮形成および乾燥症状なし
1:軽度 ;背中に局所的に認められ,皮膚がわずかに白色化し,角質の剥離がわずかに認められる状態
2:中等度 ;背中に散在的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
3:重度 ;背中に痂皮が全体的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
(iii)浮腫
0:無症状 ;背中に厚みが認められない状態
1:軽度 ;背中にわずかに厚みが認められる状態
2:中等度 ;背中に明らかな厚みやしわが認められる状態
3:重度 ;背中に明らかな厚みがあり,指で触れた時に硬さが感じられる状態
(iv)擦傷
0:無症状 ;背中に擦傷が認められない状態
1:軽度 ;背中に連続的でない擦傷が認められる状態
2:中等度 ;背中に小規模に連続的な擦傷が認められる状態
3:重度 ;背中に連続的な擦傷が認められる状態
【0030】
(結果)
図5に示すように、リポカリン−2中和抗体は、アトピー性皮膚炎を3週目において有意に抑制した。一方、掻破回数は、低値を示したが有意差はなかった。