特許第6980256号(P6980256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980256電解液および当該電解液を用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980256
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】電解液および当該電解液を用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20211202BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211202BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20211202BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20211202BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20211202BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20211202BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01M10/0569
   H01M12/08 K
   H01G11/64
   H01G11/06
   H01M10/0525
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-171369(P2017-171369)
(22)【出願日】2017年9月6日
(65)【公開番号】特開2019-46746(P2019-46746A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山縣 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】松井 由紀子
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/022792(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/055126(WO,A2)
【文献】 特開2013−058365(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150679(WO,A1)
【文献】 特開2015−011823(JP,A)
【文献】 特開2016−207641(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114605(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05〜10/0587
H01M 12/08
H01G 11/64
H01G 11/06
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、
前記電解液の総体積を基準として、上記リチウム塩としてLiFSIを、2.25mol/dm以上、3.0mol/dm以下含み、
前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm以上含み、
前記イオン液体は、EMImFSIであることを特徴とする、電解液。
【請求項2】
正極、負極、および請求項1に記載の電解液を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項3】
前記正極は正極活物質を含み、
前記正極活物質は、LiNi1/3Mn1/3Co1/3であることを特定する、請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池、リチウム金属電池、リチウムイオンキャパシタ、およびリチウム空気電池からなる群より選ばれる1以上の蓄電デバイスであることを特徴とする、請求項2または3に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液および当該電解液を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、および電気自動車等に搭載される蓄電デバイス(例えば、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等が包含される)が開発されている。
【0003】
これらの中でもリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、およびデジタルカメラ等に広く利用されており、小型軽量でありかつ比較的電力消費の大きな各携帯型機器には、必要不可欠なものとなっている。これは、リチウムイオン二次電池が、小型かつ軽量であり、また充電可能であり、さらに単位容積あるいは単位重量あたりの蓄電容量が大きいためである。近年では電動自転車もしくは電動自動車などの移動体のみならず、航空機もしくは宇宙機などへの中型のリチウムイオン二次電池の搭載事例がある。また、住宅用から電力系統接続用など定置用電力貯蔵システムとしての大型のリチウムイオン二次電池の開発が進められており、環境負荷を低減させる手段としてもその開発に期待が寄せられている。加えて、蓄電システムを必要とする機器の多様化に応じて、リチウムイオン二次電池だけではなく、高容量化を狙った金属リチウム電池やリチウム硫黄電池、さらに、リチウムイオン二次電池と他の蓄電デバイス技術との組み合わせによる新規デバイスも提案されており、中でもリチウムイオンキャパシタおよびリチウム−空気電池などは有望視されている。
【0004】
上述のリチウムイオン二次電池および新規リチウムイオン利用蓄電デバイスについて、電極材料の設計方針は大きく異なるが、電解液の基本的な設計は共通と言える。つまり、電解液は非水系電解液であり、充放電時の電荷キャリアとなるリチウムイオンおよびその対アニオンからなるリチウム塩、ならびにこのリチウム塩を溶解させる能力のある非水溶媒から構成されている。また、上記非水系電解液には、蓄電デバイスの安定作動および副反応抑制を目的とした添加剤が含まれることがある。この非水系電解液に使用される非水溶媒としては、リチウム塩を溶解しやすく、かつ電気分解しにくい極性非プロトン性の有機溶媒が使用されている。
【0005】
しかし、極性非プロトン性の有機溶媒は引火点が非常に低いために、過充電時または短絡時の発熱により、引火および爆発等の電池の安全性について大きな問題を抱えている。特に近年では、大容量、かつ高出力のリチウムイオン二次電池あるいはリチウムイオン利用蓄電デバイスの開発が進む一方で、可燃性および引火性の電解液は引き続き利用されていることから、安全性の問題はますます重要な解決すべき課題となっている。このため、リチウムイオン二次電池あるいはリチウムイオン利用蓄電デバイスの非水系電解液に難燃性の化合物としてイオン液体を使用することが種々検討されている(例えば特許文献1〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−09382号公報(2005年4月7日公開)
【特許文献2】特開2004−307481号公報(2004年11月4日公開)
【特許文献3】特開2004−043407号公報(2004年2月12日公開)
【特許文献4】特開2009−026542号公報(2009年2月5日公開)
【特許文献5】国際公開第2009/011249号(2009年1月22日公開)
【特許文献6】特開2010−287380号公報(2010年12月24日公開)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第53回電池討論会講演予稿集.1H29.(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで報告されているイオン液体を電解液あるいは固体電解質(電解液を固形化したものである)として用いたリチウムイオン二次電池は、有機溶媒系の電解液を用いた電池と比較すると、電池の内部抵抗が高く、ほぼ全ての電池において、出力特性、充放電サイクル特性、ならびに高温および低温特性(これら4つの特性をまとめて電気化学的特性(電池に用いられるときには電池特性)とも称する)に劣る。
【0009】
特許文献4、5および6等では、電池の出力特性が多少改善されるが、依然として、それらの文献で開示されている電池の電池特性は、有機溶媒系の電解液を用いた電池の電池特性と比較すると劣る。非特許文献1は、電解液中のリチウム塩をLiTFSIからLiFSIに置き換えることでリチウムイオン電池用負極の出力特性および低温特性が向上することを明らかにしている。ただし、依然として、非特許文献1で開示されている電池の電池特性は、有機溶媒系の電解液を用いた電池の電池特性には及ばない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、これまでに報告されているリチウム塩およびイオン液体を含む電解液を用いた蓄電デバイスと比較して、優れた電気化学的特性と、イオン液体の利用によってもたらされる高い安全性と、を両方提供可能な新規の電解液、および当該電解液を用いた新規の蓄電デバイスを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、溶解させるリチウム塩および電解液中のビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン[FSI]の濃度を特定の範囲とした構成によって、希釈溶媒および/または添加剤等を用いることなく、特異的な電気化学的特性が得られることを見出した。
【0012】
すなわち本発明者らは、上記構成によって、イオン液体を用いた蓄電デバイスの欠点である、出力特性、充放電サイクル特性、ならびに高温および低温特性などの電気化学的特性を大幅に改善することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成である。
〔1〕イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、上記電解液の総体積を基準として、上記リチウム塩を、1.6mol/dm〜3.0mol/dm含み、上記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン[FSI]を、1.6mol/dm以上含むことを特徴とする、電解液。
〔2〕正極、負極、および〔1〕に記載の電解液を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
〔3〕リチウムイオン二次電池、リチウム金属電池、リチウムイオンキャパシタ、およびリチウム空気電池からなる群より選ばれる1以上の蓄電デバイスであることを特徴とする、〔2〕に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係る電解液によれば、当該電解液を用いた蓄電デバイスに対して、優れた電気化学的特性と高い安全性との両方を提供できるという効果を奏する。また、本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスによれば、優れた電気化学的特性と高い安全性との両方を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る電解液を用いた評価用2極式フルセル、および従来の電解液を用いた評価用2極式フルセルについて、60℃の条件下、定電流にて充放電を行い、放電容量を測定した結果を示すグラフである。
図2】本発明の一実施形態に係る電解液を用いた評価用2極式フルセル、および従来の電解液を用いた評価用2極式フルセルについて、0℃の条件下、定電流にて充放電を行い、放電容量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0017】
〔電解液〕
本明細書において、「電解液」とは、電気化学反応に際してイオンを電導させる媒体、を意味する。また、本明細書において、「イオン液体」とは、100℃以下の環境下において液体で存在する塩を意味し、「イオン性液体」、「イオン性流体」または「常温溶融塩」とも称される。
【0018】
本発明の一実施形態に係る電解液は、イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、上記電解液の総体積を基準として、上記リチウム塩を、1.6mol/dm〜3.0mol/dm含み、上記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(以下、「FSI」と略記する場合がある)を、1.6mol/dm以上含んでいる。
【0019】
本明細書中では、「本発明の一実施形態に係る電解液」を、単に「本電解液」ともいう。また、本明細書中では、「本発明の一実施形態に係るイオン液体」を、単に「本イオン液体」ともいう。用語「本電解液」、または「本イオン液体」は、それぞれ、電解液、またはイオン液体を何ら限定するものではなく、単に上記電解液、または上記イオン液体の一実施形態を示すにすぎない。
【0020】
(イオン液体)
本イオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩である。イオン液体は、幅広い温度領域において液体状態であることの他にも、(1)蒸気圧が極めて低く不揮発性であること、(2)優れた熱安定性および電気化学安定性を有していること、(3)粘度が低いこと、ならびに(4)イオン導電性が高いこと、などの特徴を有している。
【0021】
上記カチオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであれば、特に制限されない。上記カチオンとしては、一般的には、C、H、N、P、OもしくはS、またはこれらの2種類以上の元素を構造中に含み、鎖状または環状構造を骨格に有するカチオンが用いられる。これらのカチオンの中でも、特に、窒素(N)元素を構造中に含み、鎖状または環状構造を骨格に有するカチオンが、工業的に安価であること、および、化学的、電気化学的に安定である点で、好ましい。
【0022】
本イオン液体に用いられるカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、およびテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0023】
上記イミダゾリウムとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム[EMIm]、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム、および1,3−ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0024】
上記ピリジニウムとしては、例えば、1−プロピルピリジニウム、1−ブチルピリジニウム、1−アリルピリジニウム、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、および1−エチル−3−メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0025】
上記ピロリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピロリジニウム[MPPyr]、N−メチル−N−ブチルピロリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピロリジニウム、N−アリル−N−メチルピロリジニウム、およびN−アリル−N−プロピルピロリジニウム等が挙げられる。
【0026】
上記ピペリジニウムとしては、例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム、N−メチル−N−ブチルピペリジニウム、N−メチル−N−メトキシメチルピペリジニウム、およびN−アリル−N−プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0027】
上記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム、およびメチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0028】
上記ピラゾリウムとしては、例えば、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム、および1−アリル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0029】
上記テトラアルキルホスホニウムとしては、例えば、P−ブチル−P,P,P−トリエチルホスホニウム、およびP,P,P−トリエチル−P−(2−メトキシエチル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0030】
上記カチオンと組み合わされることによって本イオン液体を構成するアニオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであれば、特に制限されない。例えば、BF、PF、SbF、NO、CFSO、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン;FSI]、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド;TFSI]、(CSO、(CFSO、CFCO、CCO、CHCO、(CN)等が挙げられる。これらのアニオンは2種類以上を含んでいてもよい。
【0031】
上記イオン液体は、上記カチオンの少なくとも1種と、上記アニオンの少なくとも1種とを適宜組み合わせて構成することができる。
【0032】
本イオン液体は、(1)比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、かつ、電気化学的な安定性に優れること、(2)得られたイオン液体を有する蓄電デバイスにおいて電気的特性の低下が抑制され、蓄電デバイスにおける電気化学的特性が優れたものとなること、および(3)取扱いが容易であることから、FSIをアニオンとして含むイオン液体であることが好ましい。また、本イオン液体は、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、得られたイオン液体を有する蓄電デバイスにおいて電気的特性の低下が抑制され、蓄電デバイスにおける電気化学的特性が優れたものとなること、および取扱いが容易であるという観点からは、イミダゾリウムまたはピロリジニウム等を、カチオンとして含むイオン液体であることが好ましい。
【0033】
すなわち、本イオン液体としては、アニオンとしてのFSIと、カチオンとしてのイミダゾリウムまたはピロリジニウムとの塩が好ましく、具体的には、EMImFSI、およびMPPyrFSI等が挙げられる。
【0034】
(リチウム塩)
本電解液の上記イオン液体と混合されるリチウム塩としては、通常、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスにおいて非水電解液とともに使用されているリチウム塩であれば、特に限定されることなく使用することができる。そのようなリチウム塩の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO[LiTFSI]、LiN(FSO[LiFSI]、LiBC、LiB(C、LiSOCH、LiB(C等が挙げられる。
【0035】
中でも、(1)得られた電解液におけるイオン伝導性ならびに化学的および電気化学的な安定性が優れること、ならびに(2)当該電解液を有する蓄電デバイスにおける電気化学的特性が優れることから、LiFSIが好ましい
【0036】
本電解液は、FSI(FSIアニオンとも称する)を含むイオン液体、およびリチウム塩としてLiFSI、を混合した電解液であることが特に好ましい。上記構成であれば、(1)得られた電解液におけるイオン伝導性ならびに化学的および電気化学的な安定性が優れること、ならびに(2)当該電解液を有する蓄電デバイスにおける電気化学的特性が優れること、の利点を有する。
【0037】
(添加剤)
本電解液には、上記イオン液体およびリチウム塩以外に、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で添加剤が含まれていてもよい。
【0038】
かかる添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルエーテル、フルオロエチレンカーボネートなどのフッ素置換体、スルホランなどのスルホン系化合物等を挙げることができる。これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0039】
本電解液はこれらの添加剤を含むことによって、当該電解液を含む蓄電デバイスにおける電気的特性をより向上させることができる、という利点を有する。
【0040】
(固体電解質)
本電解液は、固形化され、固体電解質とされてもよい。すなわち固体電解質は、電解液の一態様である。従って、固体電解質も、本発明の範囲内に含まれる。
【0041】
電解液を固形化する方法としては、電解液に固形化剤を添加する方法が挙げられる。
換言すれば、本電解液には、上記イオン液体、リチウム塩、および任意で含有し得る添加剤、以外に、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で固形化剤が含まれていてもよい。固形化剤としては、日本国公開公報第2013−058365号に記載の、高分子化合物などが好適に挙げられる。本電解液に上記高分子化合物などの固形化剤を添加して当該電解液を固形化した、固体電解質を用いることによって、(1)耐漏液性に優れた蓄電デバイスを得ることが可能であり、また、(2)電極間の短絡を防止することができるため、セパレータが不要となることによって、より薄型化および軽量化された蓄電デバイスを得ることが可能となる。
【0042】
(電解液におけるリチウム塩およびFSIアニオンの含有量)
本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm以上であり、1.80mol/dm以上であることが好ましく、2.00mol/dm以上であることがより好ましく、2.25mol/dm以上であることがさらに好ましい。また、本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として3.0mol/dm以下であり、3.0mol/dm未満であってもよく、2.5mol/dm以下であってもよい。
【0043】
また、本電解液に含まれるFSIアニオンは、電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm以上であり、1.8mol/dm以上であることが好ましく、2.0mol/dm以上であることがより好ましく、2.2mol/dm以上であることがさらに好ましく、2.4mol/dm以上であることがさらに好ましく、2.5mol/dm以上であることが特に好ましい。
【0044】
電解液は、イオン液体、リチウム塩、および任意で含有され得るその他の物質、を含んでいる。FSIアニオンは、これらイオン液体、リチウム塩、またはその他の物質のうち、いずれに由来するFSIアニオンであってもよい。すなわち、電解液に含まれるFSIアニオンの含有量を上記構成とするためには、例えば、電解液を次のように調整すればよい:(1)FSIアニオンとリチウムイオンとから成るリチウム塩(LiFSI)を、電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm〜3.0mol/dmの範囲で任意のイオン液体に溶解して調製する;(2)FSIアニオンを含むイオン液体に任意のリチウム塩を溶解して調製する;または(3)任意のイオン液体に、任意のリチウム塩と、FSIアニオンを含む化合物とを、FSIアニオンの最終濃度が電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm以上となるように溶解して調製する。
【0045】
(1)の場合にはイオン液体がFSIアニオンを含んでいなくてもよく、(2)の場合にはリチウム塩がFSIアニオンを含んでいなくてもよく、また、(3)の場合には、イオン液体およびリチウム塩がともにFSIアニオンを含んでいなくてもよい。また、(3)における化合物は、例えば、ナトリウムまたはマグネシウムとFSIアニオンとの塩などが挙げられるが、FSIアニオンを含む限り、特に限定されない。
【0046】
なお、電解液に含まれるFSIアニオンの濃度の上限値は特に制限されない。従って、電解液に含まれるイオン液体およびリチウム塩の両方がFSIアニオンを含んでいてもよい。
【0047】
〔電解液の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る電解液の製造方法は、イオン液体を製造する工程と、イオン液体にリチウム塩を溶解する工程と、を有する。なお、本発明の一実施形態に係る電解液の製造方法は、他の工程を含んでもよい。
【0048】
上記イオン液体を製造する工程では、アニオン交換法、酸エステル法および中和法などの従来公知の方法を用いてイオン液体を製造する。これらの中でも、酸エステル法および中和法は、合成できるイオン液体の種類が限られるため、アニオン交換法が最も一般的に用いられている。
【0049】
アニオン交換法とは、アニオン交換反応を利用した合成法であり、目的とするイオン液体を構成するカチオンを含むハロゲン化物と、目的とするイオン液体を構成するアニオンを含む塩とを反応させることによってイオン液体を合成する方法である。
【0050】
上述したように、本イオン液体は、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる常温で溶融状態の塩であり、カチオンおよびアニオンのみからなることが好ましい。しかし、実際には、イオン液体中には、例えば、水分などの微量な不純物が含まれている。これらの不純物は、主として、イオン液体の合成過程において、副産物として生成されて生じるかまたは混入されるものであり、製造したイオン液体に大きな影響を及ぼし得る。例えば、イオン液体中に水分が含まれている場合、イオン液体中に含まれている水分は、イオン液体の電気化学的な副反応を誘発するなど、イオン液体の電解液としての性能に影響を及ぼし得る。
【0051】
水分の混入の他の要因としては、大気中の水分の吸湿を挙げることができる。大気中の水分の吸湿は、特に親水性のイオン液体において問題となり得るが、疎水性のイオン液体であっても、大気中の水分の吸湿が1重量%程度起きる。したがって、親水性および疎水性を問わず、イオン液体を製造する工程において、イオン液体中に含まれる水分は除去されることが好ましい。
【0052】
イオン液体中の水分除去には、水分を除去する方法として周知の方法を用いることが可能である。水分を除去する方法としては、例えば、(1)高真空かつ高温条件下での真空乾燥、および(2)モレキュラーシーブス、シリカまたはアルミナによる吸着脱水の使用、などを挙げることができる。また、水の電気分解を利用して、イオン液体中の水分を水素および酸素に分解することによる水分除去方法、または、イオン液体の合成反応自体を、ppmオーダーにて水分管理することのできるドライルーム内において行う方法、が用いられてもよい。
【0053】
同様に、イオン液体に溶存ガスが含まれる可能性がある。一部のイオン液体では、非プロトン性有機溶媒に比べて二酸化炭素および/または酸素の飽和溶解度が高いものが存在する。これらのガスは大気中あるいは製造する工程での雰囲気ガスに含まれるガスが、イオン液体に溶解することで生じた場合が多い。これらの溶存ガスはイオン液体の電解液としての化学的、電気化学的性能に影響を及ぼし得る。
【0054】
イオン液体中の溶存ガス除去には、溶存ガスを除去する方法として周知の方法を用いることが可能である。溶存ガスを除去する方法として、例えば、(1)減圧下での脱気、(2)不活性ガスのバブリング、(3)電気化学的除去などを上げることができる。また、イオン液体の取扱を不活性ガス雰囲気のグローブボックス内において行う方法などが用いられても良い。
【0055】
上述したように、本イオン液体は、水分および/または溶存ガスを含まず、カチオンおよびアニオンのみからなることが好ましいが、水分および/または溶存ガスを含むイオン液体を本発明から除外するものではない。水分を含むイオン液体も本発明の一部である。
【0056】
イオン液体にリチウム塩を混合する工程では、従来公知の方法を用いてイオン液体とリチウム塩とを混合することができる。具体的には、液相のイオン液体に、所定の量となる固相のリチウム塩を加え、攪拌(必要に応じて加熱攪拌)を行うことによって、イオン液体とリチウム塩との混合物を得ることができる。
【0057】
〔蓄電デバイス〕
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、正極、負極、および〔電解液〕の項にて上述した本電解液を含む。本発明の一実施形態に係る蓄電デバイスは、さらにセパレータを含んでいてもよい。ただし、電極同士が物理的に接触しない構成であればよいため、上記蓄電デバイスは、セパレータを備える構成に限定されるものではない。本明細書中では、「本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス」を、単に「本蓄電デバイス」ともいう。用語「本蓄電デバイス」は、蓄電デバイスを何ら限定するものではなく、単に上記蓄電デバイスの一実施形態を示すにすぎない。
【0058】
本蓄電デバイスは、本電解液を含むため、従来の蓄電デバイスよりも優れた電気化学的特性(出力特性、充放電サイクル特性、ならびに高温および低温特性など)および高い安全性の両方を実現できるという利点を有する。
【0059】
本蓄電デバイスが有する本電解液は、(1)優れたリチウムイオン伝導性、(2)非特許文献であるYamagata et al.,Electrochim.Acta,110,181−190(2013)で説明される特異的電極と電解液との間の界面による電気化学的安定性、および、(3)得られる本蓄電デバイスの内部抵抗の低減、を実現できる。従って、本蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、リチウム金属電池、リチウムイオンキャパシタ、およびリチウム空気電池からなる群より選ばれる1以上の蓄電デバイスであることが好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本電解液と、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極とを含み、これら正極と負極との間に設けたセパレータを含んでいてもよい。
【0061】
本発明の一実施形態に係るリチウム金属電池は、本電解液と、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極と、リチウム金属相の析出および溶解が可能な負極とを含み、これら正極と負極との間に設けたセパレータを含んでいてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオンキャパシタは、本電解液と、正極として1つの多孔質電極と、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な、あるいは金属相の析出および溶解が可能な負極とを含み、電極間にセパレータを含んでいてもよい。
【0063】
本発明の一実施形態に係るリチウム空気電池は、本電解液と、正極として空気極と、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な、あるいはリチウム金属相の析出および溶解が可能な負極とを含み、電極間にセパレータを含んでいてもよい。
【0064】
本蓄電デバイスに係る、リチウムイオン二次電池、リチウム金属電池、リチウムイオンキャパシタ、およびリチウム空気電池では、これら蓄電デバイスに含まれる各部材、および当該部材の製造方法は、それぞれ公知の部材および製造方法が使用され得る。以下、リチウムイオン二次電池を例に挙げて、蓄電デバイスに含まれる各部材について具体的に説明する。
【0065】
(正極)
本発明の一実施形態における正極は、正極活物質、導電剤、バインダーおよび集電体を含む。
【0066】
上記正極活物質としては、リチウムイオンの挿入または脱離が可能であるものであれば、特に制限されることはない。上記正極活物質としては、例えば、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、MoO、Fe、Ni、およびCoO等の遷移金属酸化物;LiCoO、LiNiO、LiNiCo(1−X)、LiMnNiCo(a+b+c=1)、LiNiCooAl(a+b+c=1)、LiMnO、LiMn、およびLiFePO等のリチウムと遷移金属とを含むリチウム複合酸化物;TiS、MoS、およびNbSe等の金属カルコゲン化物;ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、およびポリアニリン等の導電性高分子化合物;硫黄あるいは硫黄化合物;ならびに、これらの活物質を含む複合材料等、が挙げられる。
【0067】
また、(1)上記リチウム複合酸化物に、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドーブしたもの、および、(2)上記リチウム複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al、SiO等で表面処理したもの、も上記正極活物質として使用できる。
【0068】
上記正極活物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することも可能である。正極活物質の量は、正極の用途等により異なり、特に限定されないが、通常、正極活物質、導電剤およびバインダーの総重量に対して、90重量%以上、100重量%以下である。
【0069】
正極に用いられる導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定されることなく、任意の電子伝導性材料が使用され得る。通常、アセチレンブラック、ケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を使用することも可能である。これらは単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いることもできる。
【0070】
導電剤の添加量は、得られる蓄電デバイスの電気容量の観点から、正極活物質の重量に対して1重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上、10重量%以下であることがより好ましい。
【0071】
上記正極に含まれるバインダーは、正極活物質と導電剤とを結着させるものであり、正極活物質と導電剤とを覆うように混合され、正極活物質に対して導電剤を固定するものである。バインダーは、結着剤とも称される。
【0072】
正極に用いられるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF);PVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、およびパーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体等のPVdF共重合体樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびフッ素ゴム等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、およびスチレン−アクリロニトリル共重合体等のポリマー、が挙げられる。
【0073】
また、上記バインダーには、上述した各物質と共に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸およびキトサン等の多糖類、ゼラチンおよびヒアルロン酸等のタンパク質類、ならびにポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂等、を併用することができる。正極に用いられるバインダーは、上述したこれらの具体例に限定されるものではない。
【0074】
正極に用いられるバインダーとしては、上述した具体例を単独で使用してもよいし、上述した具体例の2種類以上を混合して用いてもよい。正極に用いられるバインダーの添加量は、得られる蓄電デバイスの電気容量の観点から、正極活物質に対して1重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上、5重量%以下であることがより好ましい。
【0075】
上記正極は、上記正極活物質、導電剤、およびバインダー等からなる塗工液を正極用集電体に塗布することにより製造することができる。
【0076】
正極用集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用可能である。正極用集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、および導電性ガラス等を挙げることができる。上記塗工液との接着性、得られた正極の導電性および耐酸化性、等の向上の目的のために、アルミニウム等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した正極用集電体を用いてもよい。
【0077】
これらの正極用集電体の表面を酸化処理することも可能である。また、正極用集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチまたはエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、および発泡体等の成形体、であってもよい。正極用集電体の厚みは特に限定されないが、1μm以上、100μm以下のものが通常用いられる。
【0078】
(負極)
本発明の一実施形態における負極は、負極活物質、導電剤、バインダーおよび集電体を含む。
【0079】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを挿入もしくは脱離することができるもの、または金属リチウムを析出もしくは溶解することができるものであれば特に制限されることはない。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、および活性炭等の炭素材料が挙げられる。また、金属リチウム、合金、およびスズ化合物等の金属材料、リチウム遷移金属窒化物、結晶性金属酸化物、非晶質金属酸化物、ケイ素材料、ならびにレドックス性の導電性ポリマー等も挙げられる。
【0080】
上記負極活物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することも可能である。負極活物質の量は、負極の用途等により異なり、特に限定されないが、通常、負極活物質、導電剤およびバインダーの総重量に対して、80重量%以上、100重量%以下である。
【0081】
負極に用いられる導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定されることなく、任意の電子伝導性材料が使用され得る。通常、アセチレンブラック、ケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を使用することも可能である。これらは単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いることもできる。
【0082】
導電剤の添加量は、得られる蓄電デバイスの電気容量の観点から、負極の全重量に対して1重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、2重量%以上、10重量%以下であることがより好ましい。
【0083】
負極活物質、導電剤およびバインダーの配合比(重量%)は、特に限定されるものではないが、例えば、負極活物質:導電剤:バインダー=80〜97:4〜10:2〜15とすることができる。負極活物質、導電剤およびバインダーの含有比(配合比)の合計は100である。すなわち、負極におけるバインダーの配合率は、得られる蓄電デバイスの電気容量の観点から、2重量%以上、15重量%以下であることが好ましい。また、より好ましくは、5重量%以上、10重量%以下である。2重量%未満の場合、負極活物質、導電剤およびバインダーが均一に混合された塗工液を作製することが困難となり、15重量%を超えるとバインダーの配合率が増加する結果、負極活物質の配合率の低下を招く。
【0084】
上記負極は、上記負極活物質、導電剤、およびバインダー等からなる塗工液を負極用集電体に塗布することにより製造することができる。
【0085】
負極用集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用可能である。負極用集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、およびAl−Cd合金等を挙げることができる。上記塗工液との接着性、得られた負極の導電性および耐酸化性、等の向上の目的のために、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した負極用集電体を用いてもよい。
【0086】
これらの負極用集電体の表面を酸化処理することも可能である。また、負極用集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチまたはエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、および発泡体等の成形体、であってもよい。負極用集電体の厚みは特に限定されないが、1μm以上、100μm以下のものが通常用いられる。
【0087】
(電極の作製方法)
正極および負極の作製方法の一例を説明する。正極用の塗工液を正極用集電体に、負極用の塗工液を負極用集電体に、それぞれ所望の厚さにて塗布することにより、正極および負極をそれぞれ作製することができる。塗工液を塗布する方法(塗布法)としては、集電体に塗工液を塗布し、ドクターブレードにより余分な塗工液を除去する方式、集電体に塗工液を塗布し、ローラにより塗工液を圧延する方式等の公知の塗布法が挙げられる。
【0088】
塗布した塗工液を乾燥するときの温度は特に限定されず、塗工液中の各材料の配合率により適宜変更すればよいが、通常、70℃以上、90℃以下である。また、得られた正極または負極の厚さは、リチウムイオン二次電池の用途により適宜変更すればよい。
【0089】
(セパレータ)
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレータを備えることが好ましい。
【0090】
セパレータは公知のものを使用でき、特に限定されない。セパレータとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリルなどの耐熱性樹脂製フィルムの微多孔膜;複数の樹脂層から構成される多層フィルム;前記樹脂を成分とする繊維またはガラス繊維等からなる不織布が挙げられる。
【0091】
また、上記微多孔膜、上記多層フィルム、および上記不織布の表面に、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウムおよびチタニア等のセラミック微粒子を付着させたセパレータが、より好ましく用いられる。
【0092】
上記セパレータの空隙率は、電解液の含浸工程または電荷の拡散の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。また、上記空隙率は、95%以下であることがより好ましい。
【0093】
ここで、上記空隙率は、セパレータの見掛け密度と構成材料の固形分の真密度とから、次式により算出される値である。
空隙率(%)=100−(セパレータの見掛け密度/構成材料の固形分の真密度)×100
一方、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、必ずしもセパレータを備えていなくてもよい。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池がセパレータを備えていない場合には、当該リチウムイオン二次電池は、電極同士が物理的に接触しない構成を有する。
【0094】
〔蓄電デバイスの製造方法〕
本蓄電デバイスの製造方法の一例として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法としては、例えば、下記(1)〜(4)で示す方法が挙げられる:(1)上記正極と、上記負極と、上記セパレータとに、本発明の一実施形態に係る電解液を、下記(2)〜(5)に先立ってあらかじめ含ませる。ただし、上述のように電解液を正極と負極とセパレータとに、あらかじめ含ませることに限定されるものではなく、電解液を下記(2)〜(5)の途中で添加してもよい;(2)上記正極と、上記負極との間に上記セパレータを配置したものを積層する;(3)その後、リチウムイオン二次電池の筐体となる容器に(2)で作製した積層体を捲回あるいは複数積層した後に入れる;(4)次いで、上記容器内を本発明の一実施形態に係る電解液で満たす;(5)最後に、減圧しつつ密閉する。
【0095】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、上記積層体を倦回あるいは複数積層した後にラミネートフィルムで外装してもよいし、角形、楕円形、円筒形、コイン形、ボタン形、シート形の金属缶で外装してもよい。なお、リチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0096】
リチウムイオン二次電池の電池特性は、出力特性、充放電サイクル特性、ならびに高温特性および低温特性などが挙げられる。これらの特性を測定することによって、リチウムイオン二次電池の性能を検証することができる。
【0097】
〔本発明の着想点および従来技術に対する長所〕
本発明に想到した着想点、および本発明の一実施形態と従来技術との差異について以下に説明する。
【0098】
従来、イオン液体にリチウム塩を溶解させた電解液は種々報告されているが(特許文献1〜6および非特許文献1など)、いずれの先行技術においても、リチウム塩の電解液に対する濃度は、電解液の総体積を基準として1.5mol/dm未満である。これは、電解液中のリチウム塩が1.5mol/dm以上の濃度である場合には、イオン伝導度が低下することが観察されており、イオン伝導度の低下に起因して電気化学的特性が低下すると考えられているためである。従って、イオン液体は、電気化学的な特性を重視する場面に用いられる蓄電デバイスへの適用は不向きであると見なされていた。
【0099】
これに対して、発明者らは、電解液中に一定濃度のFSIアニオンが含まれる場合には、電解液中のリチウム塩の濃度を1.6mol/dm以上としたとき、イオン伝導度が低下せず、むしろ上昇することを見出した。さらに、発明者らは、電解液中に一定濃度以上(具体的には蓄電に利用されるリチウムイオン量よりも過剰量)のリチウムイオンが存在する場合には、特異的な電池特性を示すことを見出した(Yamagata et al.,Electrochim.Acta,110,181−190(2013))。
【0100】
特異的な電池特性を示す理由は、電極と電解液との境界面上に安定な界面を形成し、当該界面が圧倒的に低抵抗であることに起因すると考えられる。発明者らは、イオン液体を含む電解液が電気化学的に優れた特性を有する蓄電デバイスを提供可能であることを理論的に説明していたが、実際に、電気化学的に優れた特性を有する蓄電デバイスを提供可能な、イオン液体を含む電解液を実現するには至っていなかった。
【0101】
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、電解液中のリチウム塩濃度およびFSIアニオン濃度を所定の濃度とすることによって、電気化学的特性に優れた蓄電デバイスを提供可能な新規の電解液を提供するに至り、本発明を完成させた。
【0102】
本発明の一実施形態では、電解液中のリチウム塩の濃度を、電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm〜3.0mol/dmとする。さらに、電解液中のビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン[FSI]の濃度を、電解液の総体積を基準として、1.6mol/dm以上とする。上記構成とすることにより、電解液中のリチウムイオンが電極と電解液との境界面上に創り出す、安定な界面がより一層強化され、それによって電気化学的に非常に優れた蓄電デバイスが構築できると考えられる。一方、電解液中のリチウム塩濃度が本発明の範囲未満である場合には、電極と電解液との境界面上に強化された安定な界面を形成するには不十分である。また、電解液中のリチウム塩濃度が本発明の範囲を越える場合には、電解液のイオン伝導性低下(高粘度化)が優先的となり、得られる蓄電デバイスの電気化学的特性の低下を招く。なお、本発明は、上述した理論に限定されるものではない。
【0103】
また、本発明の一実施形態に係る電解液は、イオン液体を用いることにより、過充電時および短絡時の発熱時においても引火や爆発の危険性を排除することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、電池の使用環境の悪さ、および事故の際の内部温度上昇、によってもたらされる電池の短絡、発火、および爆発といった問題を克服することができる。
【0104】
また、本発明の一実施形態に係る電解液を含む蓄電デバイスでは、後述する実施例にて示したように、安定作動および正極の実質容量の発現にも成功していることが、従来技術と明確に異なる点である。本発明の一実施形態に係る電解液を含む蓄電デバイス(リチウムイオン二次電池)は、特に、従来の有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池の性能を上回った初めてのイオン液体系電池であり、学術界および産業界に与えるインパクトは非常に大きい。本発明の一実施形態に係る電解液を含む蓄電デバイスの装着によって、様々なアプリケーションの安全な利用を実現することができ、社会に大いに貢献するといえる。
【実施例】
【0105】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1および図2に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
まず、本電解液の正極または負極のそれぞれに対する効果を評価するために、正極または負極のそれぞれについて対極をリチウムとした評価用2極式ハーフセル(電気化学セル)を作製した。
【0107】
[実施例1〜3、および比較例1〜8]
負極(グラファイト)に対する電解液の効果を評価するために、グラファイトを作用極(正極)、リチウムを対極(負極)として、以下の表1に示す構成および方法にて、評価用2極式ハーフセル(電気化学セル)を作製した。

(構成)
【0108】
【表1】
【0109】
表1において、リチウム塩の濃度は、電解液の総体積(dm)に対する濃度である。
【0110】
(製造方法)
表1で示した作用極(正極)および対極(負極)を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して、2極式ハーフセルを作製した。
【0111】
<出力特性評価1>
実施例1〜3、および比較例1〜8にて得られた評価用2極式ハーフセルに対して、出力特性評価を行った。具体的には、それぞれの評価用2極式ハーフセルに対して、以下の測定条件下にて、各Cレートにて5サイクルずつ充放電を行い、それらの放電容量(Discharge capacity;mAh/g)を測定した。放電容量は、作用極の活物質(換言すればグラファイト負極)の重量(g)を基準として示している。
【0112】
(測定条件)
作動電圧範囲:0.005〜1.5V
充電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)での充電を行い、下限電圧に到達した後に設定電流の1/10となるまで下限電圧での充電を行う
放電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)で上限電圧に到達するまで放電を行う
1.0Cレート=375mA/g
作動温度:25℃
ここで、1.0Cレートとは、定電流にて充電あるいは放電した場合、ちょうど1時間で所定の容量値に到達し、充電終了あるいは放電終了となる電流値を表す。
【0113】
測定結果を表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2を参照して、本発明一実施形態の効果を説明する。
【0116】
最初に、イオン液体をEMImFSI、リチウム塩をLiFSIとした電解液中における、グラファイト負極の出力特性について、比較する。リチウム塩の濃度が本発明にて特定した濃度の範囲内である、実施例1および2は、一般的な有機電解液系を用いた比較例1、ならびにリチウム塩濃度が本発明の範囲外である、比較例2および3と比較して、高い出力特性が得られている。上述したように、一般的に、電解液に溶解するリチウム塩濃度が高いほど電解液のイオン伝導性が低下し、かつ、高粘性となる。そのため、電池性能(出力特性)はリチウム塩濃度の増加とともに低下する(よって通常、リチウム塩濃度は0.5〜1.5mol/dmとなっている)。表2を見ると、比較例2の方が実施例1、2よりも出力特性が高い場合があるが、不可逆容量成分を含み、かつ、大電流にすると出力特性が低下するために良い特性とは言えない。
【0117】
電解液中のリチウム塩を本発明の範囲内としたときにもたらされる電池特性の特異性について、他のイオン液体系(TFSI系)においても検証した(実施例3、比較例4および5)。
【0118】
具体的には、TFSI系のイオン液体としてMPPyrTFSIを採用し、これにLiFSIを所定の濃度溶解させた電解液を採用して評価した。充電および放電を1.0Cで行った場合の放電容量値は、実施例1〜3および比較例1〜8の中で、実施例3が最も高く、実施例3はリチウム塩濃度が2.50mol/dmである。しかし、実施例3は、充電および放電を5.0C以上で行った場合、動作が不安定になる。実施例1、2ではそのような事はない。すなわち、イオン液体として、EMImFSIを用いた方がMPPyrTFSIを用いるより良い特性を示す。一方で、FSIアニオンがリチウム塩から供給され、系内に1.60mol/dm以上存在している、つまり本発明において特定した濃度にて電解液内にFSIが共存した系である場合には、特異的な電池特性が得られる。
【0119】
次に、FSIアニオンが本発明において特定した濃度(1.60mol/dm以上)にて、電解液系内に含まれる必要性について評価した結果を説明する。FSIアニオンを一切含まないイオン液体電解液系(比較例6〜8)では、リチウム塩が本発明において特定した濃度の範囲内で存在していても(具体的には2.50mol/dm)、グラファイトの出力特性(1.0C)は非常に悪いことが分かる(比較例8)。また、電解液内のリチウム塩濃度が高くなるほどグラファイトの出力特性(1.0C)が低下しており、よって、本発明の特異的な電池特性はリチウム塩とFSIアニオンとの共存が必須であることを示している。
【0120】
[実施例4〜6、および比較例9〜14]
正極(LiNi1/3Mn1/3Co1/3(層状酸化物))に対する電解液の効果を評価するために、層状酸化物を作用極(正極)、リチウムを対極(負極)として、以下の表3に示す構成および方法にて、評価用2極式ハーフセル(電気化学セル)を作製した。
【0121】
(構成)
【0122】
【表3】
【0123】
表3において、リチウム塩の濃度は、電解液の総体積(dm)に対する濃度である。また、表3において、NMCは、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を意味する。
【0124】
(製造方法)
表3で示した作用極(正極)および対極(負極)を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して、2極式ハーフセルを作製した。
【0125】
<出力特性評価2>
実施例4〜6、および比較例9〜14にて得られた評価用2極式ハーフセルに対して、出力特性評価を行った。具体的には、それぞれの評価用2極式ハーフセルに対して、以下の測定条件下にて、各Cレートにて5サイクルずつ充放電を行い、それらの放電容量(Discharge capacity;mAh/g)を測定した。放電容量は、作用極の活物質(換言すれば層状酸化物正極)の重量(g)を基準として示している。
【0126】
(測定条件)
作動電圧範囲:3.0〜4.5V
充電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)での充電を行い、上限電圧に到達した後に設定電流の1/10となるまで上限電圧での充電を行う
放電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)で下限電圧に到達するまで放電を行う
1.0Cレート:150mA/g
作動温度:25℃
測定結果を表4に示す。
【0127】
【表4】
【0128】
グラファイト負極と同様に、リチウム塩濃度の異なるイオン液体電解液中における、層状酸化物正極の出力特性を比較した(表4)。本実施例では代表的な層状酸化物正極であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3(以下NMC)を採用して評価した。表4を参照して、本発明一実施形態の効果を説明する。
【0129】
最初に、イオン液体をEMImFSI、リチウム塩をLiFSIとした電解液中における、層状酸化物正極の出力特性について、比較する。リチウム塩の濃度が本発明にて特定した濃度の範囲内である、実施例4および5の出力特性は、一般的な有機電解液系を用いた比較例9、およびリチウム塩濃度が本発明の範囲外である比較例10が示す出力特性を圧倒している。このことから、リチウム塩濃度を本発明にて特定した濃度の範囲内とすることによって、正極の出力特性に対してもたらされる特異性が明確に現れていることが分かる。
【0130】
電解液中のリチウム塩を本発明にて特定した濃度の範囲内としたときにもたらされる電池特性の特異性について、他のイオン液体系(TFSI系)においても検証した(実施例6、比較例11および12)。
【0131】
具体的には、TFSI系のイオン液体としてMPPyrTFSIを採用し、これにLiFSIを所定の濃度溶解させた電解液(LiFSI/MPPyrTFSI)を採用して評価した。充電および放電を1.0Cで行った場合の放電容量値は、電解液としてLiFSI/MPPyrTFSIを採用した実施例6、比較例11および12の中で、実施例6が高い。ただし、実施例6は充電および放電を8.0C以上で行った場合、出力特性が大幅に低下する。比較例11、12は、充電および放電を5.0C以上で行った場合、出力特性が大幅に低下する。実施例4、5ではそのような事はない。すなわち、イオン液体として、EMImFSIを用いた方がMPPyrTFSIを用いるより良い特性を示す。
【0132】
次に、正極の出力特性において、FSIアニオンが本発明において特定した濃度(1.60mol/dm以上)にて、電解液系内に含まれる必要性について評価した結果を説明する。比較例13および14は、FSIアニオンを一切含まないイオン液体電解液系である。電解液中にFSIアニオンを一切含まない場合には、リチウム塩を本発明にて特定した濃度の範囲内で含有している(具体的には2.50mol/dm)比較例14であっても、FSIアニオンを含む系(実施例6)のような出力特性が得られないことが分かる。また、電解液内のリチウム塩濃度が高くなるほどグラファイトの出力特性(1.0C)が低下しており、よって、本発明の特異的な電池特性はリチウム塩とFSIアニオンとの共存が必須であることを示している。
【0133】
[実施例7〜9、比較例15および16]
リチウムイオン二次電池に対する電解液の効果を評価するために、層状酸化物(NMC)を正極、グラファイトを負極として、以下の表5に示す構成および方法にて、評価用2極式フルセル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0134】
(構成)
【0135】
【表5】
【0136】
表5において、リチウム塩の濃度は、電解液の総体積(dm)に対する濃度である。また、表5において、NMCは、LiNi1/3Mn1/3Co1/3を意味する。
【0137】
(製造方法)
表5で示した正極および負極を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して、2極式フルセルを作製した。
【0138】
<出力特性評価3>
実施例7〜9、比較例15および16にて得られた評価用2極式フルセルに対して、出力特性評価を行った。具体的には、それぞれの評価用2極式フルセルに対して、以下の測定条件下にて、各Cレートにて5サイクルずつ充放電を行い、正極の活物質重量(g)を基準としてそれらの放電容量(Discharge capacity;mAh/g)を測定した。
【0139】
(測定条件)
作動電圧範囲:3.0〜4.5V
充電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)での充電を行い、上限電圧に到達した後に設定電流の1/10となるまで上限電圧での充電を行う
放電:定電流(0.1、1.0、5.0、8.0、および10.0Cレート)で下限電圧に到達するまで放電を行う
1.0Cレート:150mA/g
作動温度:25℃
測定結果を表6に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
表6を参照して、負極をグラファイト、正極を層状酸化物正極NMCとした電気化学セル(リチウムイオン電池)の出力特性を比較した結果を説明する。実施例7〜9では、リチウム塩濃度は、それぞれ2.00、2.50、3.00mol/dmであり、本発明にて特定した濃度の範囲内である。
【0142】
実施例7〜9の電池の出力特性は、一般的な有機電解液系を用いた比較例15の出力特性を超えており、リチウム塩の濃度を本発明にて特定した濃度の範囲内とすることによる、特異的な電池特性向上の現象が確認できた。ただし、実施例9は実施例8に比べて各Cレートにおける容量値が減少している。これはリチウム塩濃度が高いことにより、電解液のイオン伝導性低下の影響が出始めていることによると考えられる。よって、リチウム塩濃度は3.00mol/dm以下が好ましいと言える。一方で、従来のリチウム塩濃度(比較例16)は他のいずれの系に比べて低い容量となる。すなわち1.46mol/dmのリチウム塩濃度は、特異的な電池特性の向上には不十分な濃度である。
【0143】
<充放電サイクル特性評価および作動温度特性評価>
さらに、実施例7〜9、比較例15および16にて得られた評価用2極式フルセル(リチウムイオン二次電池)に対して、以下の測定条件にて、放電容量保持率を測定し、また、サイクル耐久性を評価した。
(測定条件)
作動電圧範囲:3.0〜4.5V
充電:1.0Cの定電流(ただし初回サイクルのみ0.1Cレート)での充電を行い、上限電圧に到達した後に設定電流の1/10となるまで上限電圧での充電を行う。
【0144】
放電:1.0Cの定電流(ただし初回サイクルのみ0.1Cレート)で下限電圧に達するまで放電を行う。
【0145】
1.0Cレート:150mA/g
作動温度:25℃
実施例7、8、比較例15および16に対して、充電および放電をそれぞれ1.0Cで行ったときの100サイクル目の容量保持率を表7に示す。なお、容量保持率は、初回サイクルに対するものである。
【0146】
【表7】
【0147】
表7より、イオン液体を電解液として用いている評価用2極式フルセル(実施例7および8、および比較例16)の容量保持率は、いずれにおいても、有機電解液系を電解液として用いている評価用2極式フルセル(比較例14)の容量保持率を上回ったことが分かる。また、電解液中のリチウム塩濃度が2.50mol/dm−3である実施例8が最も容量保持率が高いことが分かる。すなわち、本発明の一実施形態に係る電解液を含むリチウムイオン二次電池は、長期間にわたる充放電サイクルが可能であり、技術的に実現可能なリチウムイオン二次電池である。
【0148】
次に、実施例7、8、および比較例16にて得られた各電池(評価用2極式フルセル)に対して、60℃の高温環境下、あるいは0℃の低温環境下における作動安定性を比較した。60℃または0℃の温度環境下における作動安定性は、作動温度を60℃または0℃に変更したこと以外は、上記測定条件と同じ方法で測定した。
【0149】
最初の10サイクルについて常温環境にて予備サイクルを行った後、60℃の環境下にて充電および放電をそれぞれ1.0Cで行い、サイクルにともなう放電容量を測定し、結果を図1に示した。図1は、本発明の一実施形態に係る電解液を用いた評価用2極式フルセル、および従来の電解液を用いた評価用2極式フルセルについて、60℃の環境下、定電流にて充放電を行い、放電容量を測定した結果を示すグラフである。
【0150】
図1より、本発明の一実施形態に係る電解液を用いた電池(実施例7および8)は、非常に安定した充放電サイクルが可能となること、および、本発明の範囲外の電解液を用いた電池(比較例16)では放電容量の大幅な減少が見られることが分かる。
【0151】
次に、最初の10サイクルについて常温環境にて予備サイクルを行った後、0℃の環境下にて充電および放電をそれぞれ1.0Cで行い、サイクルにともなう放電容量を測定し、結果を図2に示した。図2は、本発明の一実施形態に係る電解液を用いた評価用2極式フルセル、および従来の電解液を用いた評価用2極式フルセルについて、0℃の環境下、定電流にて充放電を行い、放電容量を測定した結果を示すグラフである。
【0152】
図2より、本発明の範囲外である、リチウム塩濃度(1.46mol/dm)の電解液を含む比較例16の電池は、徐々に放電容量を失っていくことが分かる。しかし、本発明の範囲内である、リチウム塩濃度(2.5mol/dmおよび2.0mol/dm)の電解液を含む実施例7および8の電池は、長期間にわたる充放電であっても、非常に安定かつ高い放電容量を維持していることが分かる。
【0153】
以上のように、電解液の総体積を基準として、電解液中のリチウム塩濃度を、1.6mol/dm〜3.0mol/dmとし、電解液中のFSIアニオン濃度を1.6mol/dm以上とすることによって、高温および低温環境下でも安定な作動を容易に実現できる電池を提供可能である。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の電解液は、リチウムイオン二次電池の他、リチウムイオン二次電池と同様の電極反応機構を有し、その充放電に安定な、電極と電解液との界面、を形成するメカニズムの形成が好ましい他の蓄電デバイスにも適用が容易である。
【0155】
上記他のデバイスとしては、例えば、リチウム金属電池、リチウム空気電池、リチウムイオンキャパシタ、およびその他の電気化学キャパシタ等が挙げられる。また、これらのデバイスは、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、およびデジタルカメラ等の各種の携帯型機器に使用することができる。
【0156】
上記デバイスはさらに、電動自転車、電動自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、航空機、ドローン、ロボット、自然エネルギーの高効率利用に基づく電気エネルギー蓄電システム、人工衛星やロケット等の宇宙機、宇宙構造物、宇宙活動に利用する携帯機器、海底探査用機器、および海底探査船等に搭載する中型および大型の電池にも有用である。
図1
図2