(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された発明は、何れもマスキング効果を考慮していないため、その評価結果は必ずしも実際の聴感と一致しない。よって、特許文献1に記載の発明により予測した騒音レベルでは、その製品からの放射音が気になるか、気にならないかを適切に評価することはできない。同様に、特許文献2に記載の発明により予測した騒音の不快さだけでは、製品からの放射音が気になるか、気にならないかの気になり度合(聴感印象)を適切に評価することはできない。
【0006】
また、何らかのメッセージを伝えることを目的とするサイン音は、様々な環境の中で出力されており、注意喚起を促すのに十分な音量であることが重要である。したがって、非常事態を報らせるアラーム音が背景騒音によって聞き取れない、或いは聞き取り難いようでは、報知対象者らに注意喚起を促すことができず、サイン音としての機能を果たすことができない。このように、背景騒音下でサイン音源から出力されるサイン音が注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合(聴感印象)を評価できることは有用であるが、引用文献2には、そのような機能も無い。
【0007】
そこで、本発明は、背景騒音下で被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を定量的に行うことができる背景騒音下における対象音の近似官能評価方法、および該近似官能評価方法を適用した背景騒音下における対象音の近似官能評価システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、背景騒音下で被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を行う背景騒音下における対象音の近似官能評価方法であって、
前記被評価物から生じる対象音を取得する対象音取得ステップと、
前記被評価物の使用環境での背景騒音を取得する背景騒音取得ステップと、
前記背景騒音取得ステップにて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成ステップで作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出ステップと、
前記ラウドネス算出ステップで求めた対象音のラウドネスN′
subjectから、対象音のラフネスR′
subjectを求めるラフネス算出ステップと、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとラフネスR′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′が求まる下式(1)における全体係数αを、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cと、前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″と、を用いて下式(2)によって求める全体係数α算出ステップと、
EST′=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C) …(1)
α=EST″/(A×N″
subject+B×R″
subject+C) …(2)
前記ラウドネス算出ステップで求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記ラフネス算出ステップで求めたラフネスR′
subjectと、前記全体係数α算出ステップで求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値ESTを下式(3)により求める評価推定値算出ステップと、
EST=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C} …(3)
前記評価推定値算出ステップで求めた式(3)の評価推定値を、前記評価基準閾値と比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価ステップと、
を行うことを特徴とする。
【0009】
前記課題を解決するために、請求項2に係る発明は、被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を行う背景騒音下における対象音の近似官能評価方法であって、
前記被評価物から生じる対象音を取得する対象音取得ステップと、
前記被評価物の使用環境での背景騒音を取得する背景騒音取得ステップと、
前記背景騒音取得ステップにて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成ステップで作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出ステップと、
前記ラウドネス算出ステップで求めた対象音のラウドネスN′
subjectから、対象音のラフネスR′
subjectを求めるラフネス算出ステップと、
前記ラウドネス算出ステップで求めたミックス音源のラウドネスN
subjectと、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNとから、対象音のシャープネスS′
subjectを求めるシャープネス算出ステップと、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとラフネスR′
subjectとシャープネスS′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpnessが求まる下式(4)における全体係数αを、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Cと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Dと、前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpnessと、を用いて下式(5)によって求める全体係数α算出ステップと、
EST′
sharpness=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C×S′
subject+D) …(4)
α=EST″
sharpness/(A×N″
subject+B×R″
subject+C×S″
subject+D) …(5)
前記ラウドネス算出ステップで求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記ラフネス算出ステップで求めたラフネスR′
subjectと、前記シャープネス算出ステップで求めたシャープネスS′
subjectと、前記全体係数α算出ステップで求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpnessを下式(6)により求める評価推定値算出ステップと、
EST
sharpness=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C×S′
subject+D} …(6)
前記評価推定値算出ステップで求めた式(6)の評価推定値EST
sharpnessを、前記評価基準閾値EST″
sharpnessと比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価ステップと、
を行うことを特徴とする。
【0010】
前記課題を解決するために、請求項3に係る発明は、被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を行う背景騒音下における対象音の近似官能評価方法であって、
前記被評価物から生じる対象音を取得する対象音取得ステップと、
前記被評価物の使用環境での背景騒音を取得する背景騒音取得ステップと、
前記背景騒音取得ステップにて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成ステップと、
前記対象音取得ステップで取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成ステップで作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成ステップで作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出ステップと、
前記ラウドネス算出ステップで求めたミックス音源のラウドネスN
subjectと、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNとから、対象音のシャープネスS′
subjectを求めるシャープネス算出ステップと、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとシャープネスS′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpness2が求まる下式(7)における全体係数αを、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Bと、前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cと、前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpness2と、を用いて下式(8)によって求める全体係数α算出ステップと、
EST′
sharpness2=α(A×N′
subject+B×S′
subject+C) …(7)
α=EST″
sharpness2/(A×N″
subject+B×S″
subject+C) …(8)
前記ラウドネス算出ステップで求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記シャープネス算出ステップで求めたシャープネスS′
subjectと、前記全体係数α算出ステップで求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpness2を下式(9)により求める評価推定値算出ステップと、
EST
sharpness2=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×S′
subject+C} …(9)
前記評価推定値算出ステップで求めた式(9)の評価推定値EST
sharpness2を、前記評価基準閾値EST″
sharpness2と比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価ステップと、
を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、前記請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価方法において、前記対象音は、被評価物から生じる対象騒音とし、前記被評価物から生じる対象騒音が背景騒音下で気になるか気にならないかの気になり度合を評価推定値として求め、上記気になり度合の評価推定値に基づいて、背景騒音下における対象騒音の気になり度合を近似官能評価するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、前記請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価方法において、前記対象音は、サイン音源としての被評価物から出力されるサイン音とし、前記被評価物から出力されるサイン音が背景騒音下で注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合を評価推定値として求め、上記注意喚起度合の評価推定値に基づいて、背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合を近似官能評価するようにしたことを特徴とする。
【0013】
前記課題を解決するために、請求項6に係る発明は、背景騒音下で被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を行う背景騒音下における対象音の近似官能評価システムであって、
前記被評価物から生じる対象音を取得する対象音取得装置と、
前記被評価物の使用環境での背景騒音を取得する背景騒音取得装置と、
前記対象音取得装置により取得された対象音と、前記背景騒音取得装置により取得された背景騒音とを用いて、被評価物の使用環境での背景騒音を考慮した対象音に対する聴感印象の評価推定値を求め、該評価推定値に基づいて、被評価物から生じる対象音の近似官能評価を行う対象音評価装置と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る発明は、前記請求項6に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムにおいて、前記対象音評価装置は、
前記背景騒音取得装置にて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成手段で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出手段と、
前記ラウドネス算出手段で求めた対象音のラウドネスN′
subjectから、対象音のラフネスR′
subjectを求めるラフネス算出手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectを記憶する閾値ラウドネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectを記憶する閾値ラフネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aを記憶するラウドネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bを記憶するラフネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cを記憶する補正値記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″を記憶する評価基準閾値記憶手段と、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとラフネスR′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′が求まる下式(1)における全体係数αを、下式(2)によって求める全体係数α算出手段と、
EST′=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C) …(1)
α=EST″/(A×N″
subject+B×R″
subject+C) …(2)
前記ラウドネス算出手段で求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記ラフネス算出手段で求めたラフネスR′
subjectと、前記全体係数α算出手段で求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値ESTを下式(3)により求める評価推定値算出手段と、
EST=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C} …(3)
前記評価推定値算出手段で求めた式(3)の評価推定値ESTを、前記評価基準閾値EST″と比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る発明は、前記請求項6に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムにおいて、前記対象音評価装置は、
前記背景騒音取得装置にて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成手段で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出手段と、
前記ラウドネス算出手段で求めた対象音のラウドネスN′
subjectから、対象音のラフネスR′
subjectを求めるラフネス算出手段と、
前記ラウドネス算出手段で求めたミックス音源のラウドネスN
subjectと、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNとから、対象音のシャープネスS′
subjectを求めるシャープネス算出手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectを記憶する閾値ラウドネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectを記憶する閾値ラフネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectを記憶する閾値シャープネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aを記憶するラウドネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bを記憶するラフネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Cを記憶するシャープネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Dを記憶する補正値記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpnessを記憶する評価基準閾値記憶手段と、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとラフネスR′
subjectとシャープネスS′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpnessが求まる下式(4)における全体係数αを、下式(5)によって求める全体係数α算出手段と、
EST′
sharpness=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C×S′
subject+D) …(4)
α=EST″
sharpness/(A×N″
subject+B×R″
subject+C×S″
subject+D) …(5)
前記ラウドネス算出手段で求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記ラフネス算出手段で求めたラフネスR′
subjectと、前記シャープネス算出手段で求めたシャープネスS′
subjectと、前記全体係数α算出手段で求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpnessを下式(6)により求める評価推定値算出手段と、
EST
sharpness=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C×S′
subject+D} …(6)
前記評価推定値算出手段で求めた式(6)の評価推定値EST
sharpnessを、前記評価基準閾値EST″
sharpnessと比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価手段と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に係る発明は、前記請求項6に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムにおいて、前記対象音評価装置は、
前記背景騒音取得装置にて取得した背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する疑似ランダム信号作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音と、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号とを結合して、対象音と背景騒音を含む混合対象音信号であるミックス音源を作成するミックス音源作成手段と、
前記対象音取得装置で取得した対象音のラウドネスN′
subjectと、前記疑似ランダム信号作成手段で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成手段で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectを、それぞれ求めるラウドネス算出手段と、
前記ラウドネス算出手段で求めたミックス音源のラウドネスN
subjectと、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNとから、対象音のシャープネスS′
subjectを求めるシャープネス算出手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectを記憶する閾値ラウドネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectを記憶する閾値シャープネス記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aを記憶するラウドネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Bを記憶するシャープネス係数記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cを記憶する補正値記憶手段と、
前記被評価物から生じる対象音の評価基準となる境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpness2を記憶する評価基準閾値記憶手段と、
前記対象音のラウドネスN′
subjectとシャープネスS′
subjectを用いることで、背景騒音を考慮しない被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpness2が求まる下式(7)における全体係数αを、下式(8)によって求める全体係数α算出手段と、
EST′
sharpness2=α(A×N′
subject+B×S′
subject+C) …(7)
α=EST″
sharpness2/(A×N″
subject+B×S″
subject+C) …(8)
前記ラウドネス算出手段で求めたラウドネスN
subjectおよびラウドネスN
BGNと、前記シャープネス算出手段で求めたシャープネスS′
subjectと、前記全体係数α算出手段で求めた全体係数αとから、背景騒音を考慮した被評価物からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpness2を下式(9)により求める評価推定値算出手段と、
EST
sharpness2=α{A×(N
subject−N
BGN)+BS′
subject+C} …(9)
前記評価推定値算出手段で求めた式(9)の評価推定値EST
sharpness2を、前記評価基準閾値EST″
sharpness2と比較することにより、対象音の近似的な官能評価を行う近似官能評価手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に係る発明は、前記請求項6〜請求項9の何れか1項に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムにおいて、前期対象音取得装置は、被評価物から生じる対象騒音を取得するものとし、前記対象音評価装置は、前記被評価物から生じる対象騒音が背景騒音下で気になるか気にならないかの気になり度合を評価推定値として求め、該気になり度合の評価推定値に基づいて、背景騒音下における対象騒音の気になり度合を近似官能評価するようにしたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項11に係る発明は、前記請求項6〜請求項9の何れか1項に記載の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムにおいて、前記対象音取得装置は、サイン音源としての被評価物から出力されるサイン音を取得するものとし、前記対象音評価装置は、前記被評価物から出力されるサイン音が背景騒音下で注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合を評価推定値として求め、該注意喚起度合の評価推定値に基づいて、背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合を近似官能評価するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、背景騒音下で被評価物から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を定量的に行うことができる。よって、この定量化された近似官能評価を指標とすることにより、背景騒音下で被評価物から生じる騒音の抑制や、背景騒音下で被評価物から出力される音量の適正化を行うことが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付図面に基づいて、本発明に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価方法および背景騒音下における対象音の近似官能評価システムの実施形態につき説明する。なお、聴音評価の対象とする対象音の種類は、特に限定されず、背景騒音下で耳にする音であれば、何でも良い。聞こえない方が良い評価の対象としては、機械装置等から出る騒音がある。逆に、聞こえた方が良い評価の対象としては、ブザーやアラームといったサイン音がある。何れの場合でも、本発明によれば、背景騒音下における対象音を人が聴いて感じるような近似官能評価を定量的に行うことが可能である。
【0022】
図1は、本発明に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価方法を適用した第1実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム1を示し、具体的には、音信号収集装置10と対象音評価装置20とからなる。
【0023】
音信号収集装置10は、被評価物30から生じる対象騒音(ラトルノイズやサイン音など)を半無響室41の所要位置(被評価物30の近傍かつ使用者の耳位置と想定される位置)から取得する対象音取得装置としての機能、および被評価物30が使用されるオフィスや寝室等を模した被評価物使用環境42の所要位置(製品使用者が環境騒音を受聴するに適当と考えられる位置)から背景騒音を取得する背景騒音取得装置としての機能を一体に備える。半無響室41および被評価物使用環境42より収集した収集音は、デジタル信号の音声ファイルとして記録、或いはダイレクトに対象音評価装置20へ出力する。
【0024】
なお、
図1に示す騒音収集装置10のように、半無響室41からの対象音収集と、被評価物使用環境42からの背景騒音収集を、一対の集音マイク11で同時に行う必要は無く、対象音と背景騒音を別々に収集して、本体内に記憶しておき、対象音評価装置20と接続された後に収集した音声ファイルを送信するようにしても良い。また、音信号収集装置10と対象音評価装置20は、信号ケーブル等で接続する別体構成とせず、一体構造の装置(例えば、マイクを接続したノートPC等を用い、各種機能をソフトウェアで実現した装置)としても良い。
【0025】
一方、対象音評価装置20は、音信号収集装置10により収集された対象音と背景騒音を用いて、被評価物30を実際に使用する環境における背景騒音を考慮した評価推定値を求め、被評価物30から生じる対象音の聴音評価を行うものである。
【0026】
この対象音評価装置20によって対象音に対する聴感印象の評価推定値を定量的に求めるためには、例えば、サーストンの一対比較法によって官能評価結果(人間の感覚による評価結果)と高い相関を有する演算式を求める必要がある。その前提として、騒音評価に大きく関わる心理音響パラメータのうち、ラウドネス(聴覚が感じる音の強さを表現する値)とラフネス(音の粗さを表現する値)を用い、背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値を求めるための関係式として、暫定的に下式(1)を定める。
【0027】
EST′=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C) …(1)
【0028】
式(1)において、EST′は背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値、N′
subjectは被評価物30から放射される対象音のラウドネス(単位はsone)、R′
subjectは被評価物30から放射される対象音のラフネス(単位はasper)、AはN′
subjectにかかるラウドネス係数、BはR′
subjectにかかるラフネス係数、Cは補正値、αは全体にかかる全体係数である。
【0029】
ここで、全体係数αを意味ある数値とするため、被評価物30から放射される対象音のラウドネスN′
subject[sone]に代えて閾値ラウドネスN″
subject[sone]を式(1)に適用し、被評価物30から放射される対象音のラフネスR′
subject[asper]に代えて閾値ラフネスR″
subject[asper]を式(1)に適用し、背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′に代えて背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する評価基準閾値EST″を式(1)に適用することで、式(1)′とする。
【0030】
EST″=α(A×N″
subject+B×R″
subject+C) …(1)′
【0031】
なお、閾値ラウドネスN″
subject[sone]は、被評価物30から放射される対象音として許容できるラウドネスの値、あるいは被評価物30から放射される対象音として目標となるラウドネスの値である。同様に、閾値ラフネスR″
subject[asper]は、被評価物30から放射される対象音として許容できるラフネスの値、あるいは被評価物30から放射される対象音として目標となるラフネスの値である。また、評価基準閾値EST″は、被評価物30から放射される対象音をジャッジ(例えば、気になるか気にならないか、良く聞こえるか聞こえないか等を判定)する境界値である。この式(1)′から、全体係数αは下式(2)によって求めることができる。
【0032】
α=EST″/(A×N″
subject+B×R″
subject+C) …(2)
【0033】
したがって、適切なラウドネス係数Aおよびラフネス係数Bおよび補正値Cが定まれば、式(1)および式(2)から、背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′を定量的に求めることができる。無論、背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′が官能評価結果と極めて高い相関を有するためには、ラウドネス係数Aおよびラフネス係数Bおよび補正値Cに加えて、閾値ラウドネスN″
subject[sone]および閾値ラフネスR″
subject[asper]も適切な値に設定しておく必要がある。これには、実際に行った官能評価試験の結果を重回帰分析して、適切な値を探ってゆくことが有効である。
【0034】
上述した式(1)および式(2)から求めることができるのは、背景騒音を考慮しない被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′であるが、被評価物30の使用環境が無音であることは殆ど無く、何らかの背景騒音と一緒に被評価物30からの対象音を聞くこととなる。したがって、汎用的な騒音評価を行うためには、背景騒音を含む被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値ESTを定量的に求める必要がある。
【0035】
そのために、被評価物30からの対象音と背景騒音とをミックスした混合騒音のラウドネスN
subject[sone]と、背景騒音のみのラウドネスN
BGN[sone]を用いた下式(3)によって、背景騒音を含む被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値ESTを求める。
【0036】
EST=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C} …(3)
【0037】
上述したような手法により被評価物30からの対象音に対する聴感印象の評価推定値ESTを求め、その評価を行う対象音評価装置20には、フィルタ手段21、疑似ランダム信号作成手段22、ミックス音源作成手段23、ラウドネス算出手段24a、ラフネス算出手段24b、全体係数α算出手段25、プリセット値記憶部26(閾値ラウドネス記憶手段26a、閾値ラフネス記憶手段26b、ラウドネス係数記憶手段26c、ラフネス係数記憶手段26d、補正値記憶手段26e、評価基準閾値記憶手段26f)、評価推定値算出手段27、近似官能評価手段28、評価結果報知手段29を設ける。
【0038】
上記フィルタ手段21は、音信号収集装置10から対象音の信号が入力されると、被評価物30から生じる対象音のうち、聴感印象に大きく関与する周波数帯域の音のみを透過させるもので、周波数フィルタ等で構成できる。なお、半無響室41より取得した被評価物30の対象音から特定の周波数帯域を取り出す必要が無い場合は、全帯域を通過させれば良い。
【0039】
疑似ランダム信号作成手段22は、音信号収集装置10からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成する。具体的には、背景騒音に対して1/3オクターブバンド分析による周波数分析を行い、その分析結果を元に、その波形を模した疑似ランダム信号を作成するのである。1/3オクターブバンド分析には、実時間分析器等のハードウェアを用いても良いし、PCベースのソフトウェアによって実現した分析機能を用いても良い。また、1/3オクターブバンド疑似ランダム信号は、シグナルジェネレータ等で作成したホワイトノイズに対して、1/3オクターブバンド帯域ごとにイコライザー等を用いてフィルタ処理を行うことで実現できる。このようにして得られた疑似ランダム信号は、ミックス音源作成手段23およびラウドネス算出手段24aに供給される。なお、作成する疑似ランダム信号のサンプリング周波数、収録時間(サンプル数)は、対象音の信号に合わせておくことが望ましい。
【0040】
ミックス音源作成手段23は、フィルタ手段21を経た対象音と、疑似ランダム信号作成手段22が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合音信号であるミックス音源を作成する。2つの音声信号の結合は、オーディオミキサー等のハードウェアを用いても良いし、PCベースのミキシングソフトウェア等によって行っても良い。このようにして得られたミックス音源は、ラウドネス算出手段24aに供給される。
【0041】
ラウドネス算出手段24aは、少なくとも、前記疑似ランダム信号作成手段22で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、前記ミックス音源作成手段23で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段21から受領した背景騒音を含まない対象音のラウドネスN′
subjectを、それぞれ求める。そして、ラウドネス算出手段24aからラフネス算出手段24bへラウドネスN′
subjectが供給され、ラウドネス算出手段24aから評価推定値算出手段27へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectが供給される。なお、ラウドネスは、ノイズ信号の1/3オクターブバンド分析結果に対して、DIN 45631/A等の公知既存の算出方法により求めることができる。また、ラウドネスの算出手法は複数種あるが、非定常ラウドネス、もしくはパーセンタイルラウドネス(N5、N10 ラウドネス)として算出することが望ましい。
【0042】
ラフネス算出手段24bは、ラウドネス算出手段24aで求めた背景騒音を含まない対象音のラウドネスN′
subjectから、その時間履歴にどれだけの変動成分が含まれているかで対象騒音のラフネスR′
subjectを求める。このラフネスR′
subjectは評価推定値算出手段27へ供給される。
【0043】
全体係数α算出手段25は、評価推定値ESTを求める上で必要な全体係数αを前述した式(2)により算出するもので、算出した全体係数αを評価推定値算出手段27へ供給する。演算に必要な諸数値情報は、対象音評価装置20の使用者等が任意に設定できるプリセット値記憶部26から提供される。具体的には、被評価物30から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectが閾値ラウドネス記憶手段26aより供給され、被評価物30から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectが閾値ラフネス記憶手段26bより供給され、被評価物30から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aがラウドネス係数記憶手段26cより供給され、被評価物30から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bがラフネス係数記憶手段26dより供給され、被評価物30から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cが補正値記憶手段26eより供給され、被評価物30から生じる対象音を近似官能評価する境界値として予め設定された評価基準閾値EST″が評価基準閾値記憶手段26fより供給される。
【0044】
なお、プリセット値記憶部26に設定する各値を決める上で、ラウドネス算出手段24aにて算出した対象音のラウドネスN′
subject[sone]、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]、ミックス音源のラウドネスN
subject[sone]、ラフネス算出手段24bにて算出した対象音のラフネスR′
subject[asper]を参照することは有用であるから、これらの値を可視表示して、対象音評価装置20の使用者が確認できるようにしても良い。また、プリセット値記憶部26の各記憶手段に記憶させておくプリセット値は1種類に限らず、被評価物30からの対象音に応じた複数組のプリセット値を記憶させておき、対象音の種別に応じた各プリセット値の組み合わせを呼び出して使用できるようにすれば、利便性の高いものとなる。
【0045】
評価推定値算出手段27は、ラウドネス算出手段24aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段25で求めた全体係数αと、ラフネス算出手段24bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、プリセット値記憶部26から提供されるラウドネス係数Aおよびラフネス係数Bおよび補正値Cから、被評価物30より放射される対象音に対する聴感印象の評価推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した聴感印象の評価推定値)を、上式(3)の演算により求める。
【0046】
近似官能評価手段28は、評価推定値算出手段27で求めた評価推定値を、評価基準閾値記憶手段26fに設定記憶されている評価基準閾値EST″と比較することにより、聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価(近似官能評価)を行う。例えば、評価基準閾値EST″として「1」が設定されていれば、評価推定値ESTは、下式(4)にて算出できる。
【0047】
EST=1/(A×N″
subject+B×R″
subject+C)×{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C} …(4)
【0048】
式(4)にて算出された「評価推定値EST」が1より大きいときは「気になる音」あるいは「適切な音量」と近似官能評価でき、算出された「評価推定値EST」が1より小さいときは「気にならない音」あるいは「聞き取りにくい音量」のように近似官能評価できる。なお、算出された「評価推定値EST」が「評価基準閾値EST″」と同じ値「1」であった場合、これをどちらに振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「評価推定値EST″」に他の値を与えたときも、これを評価基準として同様に近似官能評価を行うことができる。
【0049】
評価結果報知手段29は、近似官能評価手段28による評価結果を対象音評価装置20の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。より簡易的には、評価の良否を緑ランプまたは赤ランプを点灯させて報らせるようにすることもできる。
【0050】
上述したように、本実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム1によれば、背景騒音下で被評価物30から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を定量的に行うことができる。よって、この定量化された近似官能評価を指標とすることにより、背景騒音下で被評価物30から生じる騒音の抑制や、背景騒音下で被評価物30から出力される音量の適正化を行うことが容易となる。
【0051】
次に、本実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム1を背景騒音下における対象騒音の気になり度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第1実施形態の第1適用例を説明する。
図2に示す背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム1′は、音信号収集装置10′と騒音評価装置20′とから構成する。
【0052】
音信号収集装置10′は、ノイズの発生源となる事務機器等の対象製品30′から生じる対象騒音を集音マイク11で半無響室41から収集する対象騒音取得装置の機能および対象製品30′が使用されるオフィス等の製品使用環境42′の背景騒音を集音マイク11で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。騒音評価装置20′は、音信号収集装置10′により収集した対象騒音と背景騒音から、対象騒音が気になるか気にならないかの気になり度合を近似官能評価する機能を備える。
【0053】
なお、各種の機械装置から放射される騒音は、大きく分けて、レベル変化が小さくほぼ一定とみなされる定常騒音と、レベル変化が伴う変動騒音に分けられる。定常騒音には、顕著な周波数ピーク成分を持つ離散周波数騒音や幅広い周波数範囲にわたって発生している広帯域騒音がある。一方、変動騒音には、発生の時間間隔が0.2秒程度以上の分離衝撃騒音と、レベルがほぼ一定で極めて短い間隔(0.2秒未満)で連続的に発生する準定常騒音がある。準定常騒音の中でも、変速機の歯打ち音のようにカラカラというラトルノイズは耳障りであり、不快感を生じやすいので、以下の説明では、対象製品30′から放射される騒音をラトルノイズに限定して説明するが、背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム1′は、その他の機械騒音全般の近似官能評価に適用可能である。
【0054】
騒音評価装置20′は、フィルタ手段21、疑似ランダム信号作成手段22、ミックス音源作成手段23、ラウドネス算出手段24a、ラフネス算出手段24b、全体係数α算出手段25、プリセット値記憶部26′(閾値ラウドネス記憶手段26a、閾値ラフネス記憶手段26b、ラウドネス係数記憶手段26c、ラフネス係数記憶手段26d、補正値記憶手段26e、気になり度合の許容閾値記憶手段26f′)、気になり度合の推定値算出手段27′、気になり度合評価手段28′、評価結果報知手段29を備える。
【0055】
フィルタ手段21は、音信号収集装置10′から対象騒音(ラトルノイズを含む騒音)の信号を受けて、対象製品30′から生じる対象騒音のうち、加振周波数範囲内の音をカットし、加振周波数より高い周波数のノイズ成分を透過させて、ミックス音源作成手段23およびラウドネス算出手段24aへ供給する。これは、ラトルノイズ評価時に、加振周波数より高い周波数でラトルノイズが顕著に聴感されるのに対して、加振周波数範囲内では、ラトルノイズ源を加振する加振器からの音が主成分となってしまうためである。すなわち、音信号収集装置10′により収集した対象騒音の信号から、加振周波数範囲内の音をカットすることで、ラトルノイズ評価に不要なノイズ成分を除去できるのである。
【0056】
疑似ランダム信号作成手段22は、音信号収集装置10′からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段23およびラウドネス算出手段24aへ供給する。
【0057】
ミックス音源作成手段23は、フィルタ手段21を経たラトルノイズと、疑似ランダム信号作成手段22が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段24aへ供給する。
【0058】
ラウドネス算出手段24aは、疑似ランダム信号作成手段22で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段23で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段21から供給された背景騒音を含まないラトルノイズのラウドネスN′
subjectを、それぞれ求め、ラウドネスN′
subjectをラフネス算出手段24bへ、ラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを気になり度合の推定値算出手段27′へそれぞれ供給する。
【0059】
ラフネス算出手段24bは、ラウドネス算出手段24aで求めた背景騒音を含まないラトルノイズのラウドネスN′
subjectから対象騒音のラフネスR′
subjectを求め、気になり度合の推定値算出手段27′へ供給する。
【0060】
全体係数α算出手段25は、プリセット値記憶部26′から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段26aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値ラフネス記憶手段26bに記憶された閾値ラフネスR″
subject、ラウドネス係数記憶手段26cに記憶されたラウドネス係数A、ラフネス係数記憶手段26dに記憶されたラフネス係数B、補正値記憶手段26eに記憶された補正値C、気になり度合の許容閾値記憶手段26f′に記憶された対象製品30′から生じるラトルノイズが気になるか気にならないかの境界値として予め設定された気になり度合の許容閾値EST″)を用いて、気になり度合の推定値ESTを求める上で必要な全体係数αを式(2)により算出し、求まった全体係数αを気になり度合の推定値算出手段27′へ供給する。
【0061】
気になり度合の推定値算出手段27′は、ラウドネス算出手段24aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段25で求めた全体係数αと、ラフネス算出手段24bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、ラウドネス係数記憶手段26cに記憶されたラウドネス係数Aと、ラフネス係数記憶手段26dに記憶されたラフネス係数Bと、補正値記憶手段26eに記憶された補正値Cとから、対象製品30′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した気になり度合の推定値)を、式(3)の演算により求める。
【0062】
ここで、式(3)のように定めた気になり度合の推定値ESTが近似官能評価に適したものであることを検証するために行った試験について説明する。
【0063】
背景騒音の音量を一定とし、対象製品30′から放射されるラトルノイズの音量を変化させた際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験1)を行った。この実験1で用いたミックス音源のラウドネスN
subject[sone]、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]、ラフネスR′
subject[asper]、予め設定した閾値ラウドネスN″
subjectおよび閾値ラフネスR″
subject、予め設定した気になり度合の許容閾値EST″に対して適切なラウドネス係数A、ラフネス係数B、補正値Cを重回帰分析により求め、式(3)より背景騒音を含む対象製品30′からのラトルノイズに対する気になり度合の推定値ESTを求める。
【0064】
図3は、被検者から得られた官能評価結果(標準得点)を横軸に、式(3)により求めた気になり度合の推定値ESTを縦軸にしてプロットした特性図である。この実験1で求まった各プリセット値は、
図4の一覧表に示すように、ラウドネス係数A=0.37、ラフネス係数B=0.60、補正値C=0.19である。また、被検者から得られた官能評価結果に対する式(3)の当てはまりの良さを示す自由度調整済決定係数R
2は0.95と非常に高いことから、騒音評価装置20′の気になり度合の推定値算出手段27′は、官能評価結果に極めて近い値として、気になり度合の推定値ESTを算出できることが検証された。
【0065】
なお、
図4には、背景騒音の音量を変化させ、ラトルノイズの音量を一定とした際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験2)、背景騒音をなくして、ラトルノイズの時間波形を変化させた際に、ラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験3)について、重回帰分析により求めたプリセット値と自由度調整済決定係数R
2を一覧にしてある。
【0066】
また、
図4に示す実験1&2は、実験1と実験2の官能評価結果を母集団として、重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。同様に、実験1&3は実験1と実験3の官能評価結果を母集団として、実験2&3は実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、実験1&2&3は実験1と実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、それぞれ重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。
【0067】
これらの検証試験において重回帰分析により求めたプリセット値(ラウドネス係数A、ラフネス係数B、補正値C)の結果より、ラウドネス係数Aは0.3〜0.8の範囲の数値として設定し、ラフネス係数Bは0.2〜0.6の範囲の数値として設定し、補正値Cは0.1〜0.6の範囲の数値として設定すれば良いことが分かる。
【0068】
気になり度合評価手段28′は、気になり度合の推定値算出手段27′が求めた気になり度合の推定値ESTを、気になり度合の許容閾値記憶手段26f′に設定記憶されている気になり度合の許容閾値EST″と比較することにより、対象製品30′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の評価を行う。例えば、気になり度合の許容閾値EST″として「1」が設定されていれば、気になり度合の推定値ESTは、式(4)にて算出できる。式(4)にて算出された「気になり度合の推定値EST」が1より大きいときは「気になる音」、算出された「気になり度合の推定値EST」が1より小さいときは「気にならない音」であると評価できる。なお、算出された「気になり度合の推定値EST」が「気になり度合の許容閾値EST″」と同じ値「1」であった場合、これを「気になる音」に振り分けるか、「気にならない音」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「気になり度合の許容閾値EST″」に他の値を与えたときも、同様に、気になるか気にならないかの評価を行うことができる。
【0069】
評価結果報知手段29は、気になり度合評価手段28′による評価結果を騒音評価装置20′の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0070】
上述した背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム1′を用いれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、対象製品30′から生じるラトルノイズが気になるか、気にならないかを、官能評価結果と相関性の高い「気になり度合」として定量評価できる。これにより、ラトルノイズの抑制不足によるユーザートラブルを未然に防ぐことができ、また、ラトルノイズの過剰な抑制による設計・製造コストの増大を防ぐことができる。
【0071】
次に、本実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム1を背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第1実施形態の第2適用例を説明する。
図5に示す背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム1″は、音信号収集装置10″とサイン音評価装置20″とから構成する。
【0072】
音信号収集装置10″は、サイン音の発生源となる火災報知器等のサイン音源30″から生じるサイン音を集音マイク11で半無響室41から収集するサイン音取得装置の機能およびサイン音源30″が使用されるオフィス等のサイン音出力環境42″の背景騒音を集音マイク11で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。サイン音評価装置20″は、音信号収集装置10″により収集したサイン音と背景騒音から、サイン音が注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合を近似官能評価する機能を備える。
【0073】
サイン音評価装置20″は、フィルタ手段21、疑似ランダム信号作成手段22、ミックス音源作成手段23、ラウドネス算出手段24a、ラフネス算出手段24b、全体係数α算出手段25、プリセット値記憶部26″(閾値ラウドネス記憶手段26a、閾値ラフネス記憶手段26b、ラウドネス係数記憶手段26c、ラフネス係数記憶手段26d、補正値記憶手段26e、注意喚起度合の許容閾値記憶手段26f″)、注意喚起度合の推定値算出手段27″、注意喚起度合評価手段28″、評価結果報知手段29を備える。
【0074】
フィルタ手段21は、音信号収集装置10″からサイン音の信号を受けて、サイン音源30″から生じるサイン音の周波数帯域(例えば、2kHz以下)を透過させて、ミックス音源作成手段23およびラウドネス算出手段24aへ供給する。
【0075】
疑似ランダム信号作成手段22は、音信号収集装置10″からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段23およびラウドネス算出手段24aへ供給する。
【0076】
ミックス音源作成手段23は、フィルタ手段21を経たサイン音と、疑似ランダム信号作成手段22が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段24aへ供給する。
【0077】
ラウドネス算出手段24aは、疑似ランダム信号作成手段22で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段23で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段21から供給された背景騒音を含まないサイン音のラウドネスN′
subjectとを、それぞれ求め、ラウドネスN′
subjectをラフネス算出手段24bへ、ラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを注意喚起度合の推定値算出手段27″へそれぞれ供給する。
【0078】
ラフネス算出手段24bは、ラウドネス算出手段24aで求めた背景騒音を含まないサイン音のラウドネスN′
subjectからサイン音のラフネスR′
subjectを求め、注意喚起度合の推定値算出手段27″へ供給する。
【0079】
全体係数α算出手段25は、プリセット値記憶部26″から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段26aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値ラフネス記憶手段26bに記憶された閾値ラフネスR″
subject、ラウドネス係数記憶手段26cに記憶されたラウドネス係数A、ラフネス係数記憶手段26dに記憶されたラフネス係数B、補正値記憶手段26eに記憶された補正値C、注意喚起度合の許容閾値記憶手段26f″に記憶されたサイン音源30″から生じるサイン音が注意を喚起するか喚起しないかの境界値として予め設定された注意喚起度合の許容閾値EST″)を用いて、注意喚起度合の推定値ESTを求める上で必要な全体係数αを式(2)により算出し、求まった全体係数αを注意喚起度合の推定値算出手段27″へ供給する。
【0080】
注意喚起度合の推定値算出手段27″は、ラウドネス算出手段24aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段25で求めた全体係数αと、ラフネス算出手段24bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、ラウドネス係数記憶手段26cに記憶されたラウドネス係数Aと、ラフネス係数記憶手段26dに記憶されたラフネス係数Bと、補正値記憶手段26eに記憶された補正値Cとから、サイン音源30″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の推定値ESTを、式(3)の演算により求める。
【0081】
注意喚起度合評価手段28″は、注意喚起度合の推定値算出手段27″が求めた注意喚起度合の推定値ESTを、注意喚起度合の許容閾値記憶手段26f″に設定記憶されている注意喚起度合の許容閾値EST″と比較することにより、サイン音源30″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の評価を行う。例えば、注意喚起度合の許容閾値EST″として「1」が設定されていれば、注意喚起度合の推定値ESTは、式(4)にて算出できる。式(4)にて算出された「注意喚起度合の推定値EST」が1より大きいときは「注意喚起に十分な音量」、算出された「注意喚起度合の推定値EST」が1より小さいときは「注意喚起に不十分な音量」であると評価できる。なお、算出された「注意喚起度合の推定値EST」が「注意喚起度合の許容閾値EST″」と同じ値「1」であった場合、これを「注意喚起に十分な音量」に振り分けるか、「注意喚起に不十分な音量」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「注意喚起度合の許容閾値EST″」に他の値を与えたときも、同様に、注意喚起に十分か不十分かの評価を行うことができる。
【0082】
評価結果報知手段29は、注意喚起度合評価手段28″による評価結果をサイン音評価装置20″の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0083】
上述した背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム1″を用いれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、サイン音源30″から出力されるサイン音が注意喚起に十分な音量か、不十分な音量かを、官能評価結果と相関性の高い「注意喚起度合」として定量評価できる。これにより、サイン音の音量不足により注意換気機能を十分に発揮できないような不具合を未然に防ぐことができ、また、サイン音の過剰な出力音量による聴感者への不快感を軽減することができる。
【0084】
なお、上述した第1実施形態の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムでは、心理音響パラメータのうち、ラウドネスとラフネスのみを用いて、背景騒音下で被評価物30から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と高い相関を有する評価推定値ESTを算出する演算式を設定した。しかしながら、さらに多くの心理音響パラメータを用いて評価推定値ESTを算出する演算式を適用すれば、官能評価結果と更に高い相関性のある評価推定値を取得できる可能性がある。
【0085】
そこで、
図6に示す第2実施形態の背景騒音下における対象音の近似官能評価システム2は、ラウドネスとラフネスに加えて、心理音響パラメータの一つであるシャープネスを用いることで、聴感印象の官能評価結果に一層近い評価推定値を定量的に取得して評価できる対象音評価装置を備えるものとした。すなわち、第2実施形態に係るに背景騒音下における対象音の近似官能評価システム2は、音信号収集装置60と対象音評価装置70とからなる。
【0086】
音信号収集装置60は、被評価物80から生じる対象騒音(ラトルノイズやサイン音など)を半無響室91の所要位置(被評価物80の近傍かつ使用者の耳位置と想定される位置)から取得する対象音取得装置としての機能、および被評価物80が使用されるオフィスや寝室等を模した被評価物使用環境92の所要位置(製品使用者が環境騒音を受聴するに適当と考えられる位置)から背景騒音を取得する背景騒音取得装置としての機能を一体に備える。半無響室91および被評価物使用環境92より収集した収集音は、デジタル信号の音声ファイルとして記録、或いはダイレクトに対象音評価装置70へ出力する。
【0087】
対象音評価装置70は、フィルタ手段71、疑似ランダム信号作成手段72、ミックス音源作成手段73、ラウドネス算出手段74a、ラフネス算出手段74b、シャープネス算出手段74c、全体係数α算出手段75、プリセット値記憶部76(閾値ラウドネス記憶手段76a、閾値ラフネス記憶手段76b、閾値シャープネス記憶手段76c、ラウドネス係数記憶手段76d、ラフネス係数記憶手段76e、シャープネス係数記憶手段76f、補正値記憶手段76g、評価基準閾値記憶手段76h)、評価推定値算出手段77、近似官能評価手段78、評価結果報知手段79を設ける。
【0088】
上記フィルタ手段71は、音信号収集装置60から対象音の信号が入力されると、被評価物80から生じる対象音のうち、聴感印象に大きく関与する周波数帯域の音のみを透過させるもので、周波数フィルタ等で構成できる。なお、半無響室91より取得した被評価物80の対象音から特定の周波数帯域を取り出す必要が無い場合は、全帯域を通過させれば良い。
【0089】
疑似ランダム信号作成手段72は、音信号収集装置60からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段73およびラウドネス算出手段74aに供給する。なお、作成する疑似ランダム信号のサンプリング周波数、収録時間(サンプル数)は、対象音の信号に合わせておくことが望ましい。
【0090】
ミックス音源作成手段73は、フィルタ手段71を経た対象音と、疑似ランダム信号作成手段72が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段74aに供給する。
【0091】
ラウドネス算出手段74aは、少なくとも、疑似ランダム信号作成手段72で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段73で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段71から受領した背景騒音を含まない対象音のラウドネスN′
subjectをそれぞれ求める。そして、ラフネス算出手段74bへラウドネスN′
subjectが、シャープネス算出手段74cへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectが、評価推定値算出手段77へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectが、それぞれラウドネス算出手段74aから供給される。
【0092】
ラフネス算出手段74bは、ラウドネス算出手段74aで求めた背景騒音を含まない対象音のラウドネスN′
subjectから、対象騒音のラフネスR′
subjectを求め、評価推定値算出手段77へ供給する。
【0093】
シャープネス算出手段74cは、シャープネスS[acum]を算出するものである。シャープネスの算出式は複数存在するが、一例として、zwickerのシャープネス算出式を下式(5)に示す。
【0095】
ただし、背景騒音下で聴感される対象音のシャープネスS
subjectは、「被評価物と背景騒音のミックス音源のラウドネス密度Ns
subject(z)[sone/Bark]」と「背景騒音(疑似ランダム信号)のラウドネス密度Ns
BGN(z)[sone/Bark]」のラウドネス密度差から得られると考えられる。そこで、背景騒音を考慮しない被評価物80からの対象音により聴感されるシャープネスS′
subjectは、下式(6)により求められると定義する。
【0097】
シャープネス算出手段74cは、例えば式(6)を用いてシャープネスS′
subjectを算出し、評価推定値算出手段77へ供給する。
【0098】
評価推定値算出手段77では、心理音響パラメータの一つであるシャープネスを用いて、背景音によるマスキング効果を考慮した評価推定値EST
sharpnessを算出する。評価推定値EST
sharpnessを算出する演算式を定めるにあたり、まず、背景騒音を考慮しない被評価物80からの騒音に対する評価推定値EST′
sharpnessを下式(7)により求めるものと仮定する。
【0099】
EST′
sharpness=α(A×N′
subject+B×R′
subject+C×S′
subject+D) …(7)
【0100】
式(7)において、EST′
sharpnessは背景騒音を考慮しない被評価物80からの対象音に対する聴感印象の評価推定値、N′
subjectは被評価物80から放射される対象音のラウドネス、R′
subjectは被評価物80から放射される対象音のラフネス、S′
subjectは被評価物80から放射される対象音のシャープネス、AはN′
subjectにかかるラウドネス係数、BはR′
subjectにかかるラフネス係数、CはS′
subjectにかかるシャープネス係数、Dは補正値、αは全体にかかる全体係数である。
【0101】
ここで、全体係数αを意味ある数値とするため、被評価物80から放射される対象音のラウドネスN′
subject[sone]に代えて閾値ラウドネスN″
subject[sone]を式(7)に適用し、被評価物80から放射される対象音のラフネスR′
subject[asper]に代えて閾値ラフネスR″
subject[asper]を式(7)に適用し、被評価物80から放射される対象音のシャープネスS′
subject[acum]に代えて閾値シャープネスS″
subject[acum]を式(7)に適用し、背景騒音を考慮しない被評価物80からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpnessに代えて背景騒音を考慮しない被評価物80からの対象音に対する評価基準閾値EST″
sharpnessを式(7)に適用することで、式(8)とする。
【0102】
EST″
sharpness=α(A×N″
subject+B×R″
subject+C×S″
subject+D)…(8)
【0103】
この式(8)から、全体係数αは下式(9)によって求めることができる。
【0104】
α=EST″
sharpness/(A×N″
subject+B×R″
subject+C×S″
subject+D) …(9)
【0105】
なお、上式(9)の全体係数αを求めるために、対象音評価装置70の全体係数α算出手段75には、プリセット値記憶部76から諸情報が供給される。具体的には、被評価物80から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectが閾値ラウドネス記憶手段76aより供給され、被評価物80から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラフネスR″
subjectが閾値ラフネス記憶手段76bより供給され、被評価物80から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectが閾値シャープネス記憶手段76cより供給され、被評価物80から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aがラウドネス係数記憶手段76dより供給され、被評価物80から生じる対象音に応じて予め設定されたラフネス係数Bがラフネス係数記憶手段76eより供給され、被評価物80から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Cがシャープネス係数記憶手段76fより供給され、被評価物80から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Dが補正値記憶手段76gより供給され、被評価物80から生じる対象音を近似官能評価する境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpnessが評価基準閾値記憶手段76hより供給される。
【0106】
上記のようにして全体係数α算出手段75が算出した全体係数αと、適切なラウドネス係数Aおよびラフネス係数Bおよびシャープネス係数Cおよび補正値Dが定まれば、背景騒音を考慮しない被評価物80からの騒音に対する評価推定値EST′
sharpnessを式(7)により定量的に求めることができる。そして、背景騒音を含む被評価物80からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpnessを算出する演算式は、被評価物80からの対象音と背景騒音とをミックスした混合騒音のラウドネスN
subject[sone]と、背景騒音のみのラウドネスN
BGN[sone]を用いた下式(10)とする。
【0107】
EST
sharpness=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C×S′
subject+D} …(10)
【0108】
すなわち、評価推定値算出手段77は、ラウドネス算出手段74aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、ラフネス算出手段74bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、シャープネス算出手段74cで求めたシャープネスS′
subjectと、全体係数α算出手段75で求めた全体係数αと、ラウドネス係数記憶手段76dに記憶されたラウドネス係数Aと、ラフネス係数記憶手段76eに記憶されたラフネス係数Bと、シャープネス係数記憶手段76fに記憶されたシャープネス係数Cと、補正値記憶手段76gに記憶された補正値Dとから、被評価物80より放射される対象音に対する聴感印象の評価推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した聴感印象の評価推定値)EST
sharpnessを、上式(10)の演算により求める。
【0109】
近似官能評価手段78は、評価推定値算出手段77で求めた評価推定値EST
sharpnessを、評価基準閾値記憶手段76hに設定記憶されている評価基準閾値EST″
sharpnessと比較することにより、聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価(近似官能評価)を行う。例えば、評価基準閾値EST″
sharpnessとして「1」が設定されていれば、評価推定値EST
sharpnessは、下式(11)にて算出できる。
【0110】
EST
sharpness=1/(A×N″
subject+B×R″
subject+C×S″
subject+D)×{A×(N
subject−N
BGN)+B×R′
subject+C×S′
subject+D} …(11)
【0111】
式(11)にて算出された「評価推定値EST
sharpness」が1より大きいときは「気になる音」あるいは「適切な音量」と近似官能評価でき、算出された「評価推定値EST
sharpness」が1より小さいときは「気にならない音」あるいは「聞き取りにくい音量」のように近似官能評価できる。なお、算出された「評価推定値EST
sharpness」が「評価基準閾値EST″
sharpness」と同じ値「1」であった場合、これをどちらに振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「評価推定値EST″
sharpness」に他の値を与えたときも、これを評価基準として同様に近似官能評価を行うことできる。
【0112】
評価結果報知手段79は、近似官能評価手段78による評価結果を対象音評価装置70の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。より簡易的には、評価の良否を緑ランプまたは赤ランプを点灯させて報らせるようにすることもできる。
【0113】
上述したように、第2実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム2によれば、音響心理パラメータの一つであるシャープネスを加味することで、背景騒音下で被評価物80から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と一層相関性の高い近似的な官能評価を定量的に行うことができる。よって、この定量化された近似官能評価を指標とすることにより、背景騒音下で被評価物80から生じる騒音の抑制や、背景騒音下で被評価物80から出力される音量の適正化を行うことが容易となる。
【0114】
次に、第2実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム2を背景騒音下における対象騒音の気になり度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第2実施形態の第1適用例を説明する。
図7に示す背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム2′は、音信号収集装置60′と騒音評価装置70′とから構成する。
【0115】
音信号収集装置60′は、ノイズの発生源となる事務機器等の対象製品80′から生じる対象騒音を集音マイク61で半無響室91から収集する対象騒音取得装置の機能および対象製品80′が使用されるオフィス等の製品使用環境92′の背景騒音を集音マイク61で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。騒音評価装置70′は、音信号収集装置60′により収集した対象騒音と背景騒音から、対象騒音が気になるか気にならないかの気になり度合を近似官能評価する機能を備える。なお、以下の説明では、対象製品80′から放射される騒音をラトルノイズに限定して説明するが、背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム2′は、その他の機械騒音全般の近似官能評価に適用可能である。
【0116】
騒音評価装置70′は、フィルタ手段71、疑似ランダム信号作成手段72、ミックス音源作成手段73、ラウドネス算出手段74a、ラフネス算出手段74b、シャープネス算出手段74c、全体係数α算出手段75、プリセット値記憶部76′(閾値ラウドネス記憶手段76a、閾値ラフネス記憶手段76b、閾値シャープネス記憶手段76c、ラウドネス係数記憶手段76d、ラフネス係数記憶手段76e、シャープネス係数記憶手段76f、補正値記憶手段76g、気になり度合の許容閾値記憶手段76h′)、気になり度合の推定値算出手段77′、気になり度合評価手段78′、評価結果報知手段79を備える。
【0117】
フィルタ手段71は、音信号収集装置60′から対象騒音(ラトルノイズを含む騒音)の信号を受けて、対象製品80′から生じる対象騒音のうち、加振周波数範囲内の音をカットし、加振周波数より高い周波数のノイズ成分を透過させて、ミックス音源作成手段73およびラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0118】
疑似ランダム信号作成手段72は、音信号収集装置60′からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段73およびラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0119】
ミックス音源作成手段73は、フィルタ手段71を経たラトルノイズと、疑似ランダム信号作成手段72が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0120】
ラウドネス算出手段74aは、疑似ランダム信号作成手段72で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段73で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段71から供給された背景騒音を含まないラトルノイズのラウドネスN′
subjectを、それぞれ求め、ラフネス算出手段74bへラウドネスN′
subjectを、シャープネス算出手段74cへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectを、気になり度合の推定値算出手段77′へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを、それぞれ供給する。
【0121】
ラフネス算出手段74bは、ラウドネス算出手段74aで求めた背景騒音を含まないラトルノイズのラウドネスN′
subjectから対象騒音のラフネスR′
subjectを求め、気になり度合の推定値算出手段77′へ供給する。
【0122】
シャープネス算出手段74cは、式(6)によりシャープネスS′
subject[acum]を算出し、気になり度合の推定値算出手段77′へ供給する。
【0123】
全体係数α算出手段75は、プリセット値記憶部76′から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段76aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値ラフネス記憶手段76bに記憶された閾値ラフネスR″
subject、閾値シャープネス記憶手段76cに記憶された閾値シャープネスS″
subject、ラウドネス係数記憶手段76dに記憶されたラウドネス係数A、ラフネス係数記憶手段76eに記憶されたラフネス係数B、シャープネス係数記憶手段76fに記憶されたシャープネス係数C、補正値記憶手段76gに記憶された補正値D、気になり度合の許容閾値記憶手段76h′に記憶された対象製品80′から生じるラトルノイズが気になるか気にならないかの境界値として予め設定された気になり度合の許容閾値EST″
sharpness)を用いて、気になり度合の推定値EST
sharpnessを求める上で必要な全体係数αを式(9)により算出し、求まった全体係数αを気になり度合の推定値算出手段77′へ供給する。
【0124】
気になり度合の推定値算出手段77′は、ラウドネス算出手段74aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段75で求めた全体係数αと、ラフネス算出手段74bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、シャープネス算出手段74cで求めたシャープネスS′
subjectと、ラウドネス係数記憶手段76dに記憶されたラウドネス係数Aと、ラフネス係数記憶手段76eに記憶されたラフネス係数Bと、シャープネス係数記憶手段76fに記憶されたシャープネス係数Cと、補正値記憶手段76gに記憶された補正値Dとから、対象製品80′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した気になり度合の推定値)EST
sharpnessを、式(10)の演算により求める。
【0125】
ここで、式(10)のように定めた気になり度合の推定値EST
sharpnessが近似官能評価に適したものであることを検証するために行った試験について説明する。
【0126】
背景騒音の音量を一定とし、対象製品80′から放射されるラトルノイズの音量を変化させた際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験1)を行った。この実験1で用いたミックス音源のラウドネスN
subject[sone]、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]、ラフネスR′
subject[asper]、予め設定した閾値ラウドネスN″
subjectおよび閾値ラフネスR″
subject、予め設定した気になり度合の許容閾値EST″
sharpnessに対して適切なラウドネス係数A、ラフネス係数B、シャープネス係数C、補正値Dを重回帰分析により求め、式(10)より背景騒音を含む対象製品80′からのラトルノイズに対する気になり度合の推定値EST
sharpnessを求める。
【0127】
この実験1で求まった各プリセット値は、
図8の一覧表に示すように、ラウドネス係数A=0.34、ラフネス係数B=0.64、シャープネス係数C=−0.03、補正値D=0.22である。また、被検者から得られた官能評価結果に対する式(10)の当てはまりの良さを示す自由度調整済決定係数R
2は0.95と非常に高いことから、騒音評価装置70′の気になり度合の推定値算出手段77′は、官能評価結果に極めて近い値として、気になり度合の推定値EST
sharpnessを算出できることが検証された。
【0128】
なお、
図8には、背景騒音の音量を変化させ、ラトルノイズの音量を一定とした際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験2)、背景騒音をなくして、ラトルノイズの時間波形を変化させた際に、ラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験3)について、重回帰分析により求めたプリセット値と自由度調整済決定係数R
2を一覧にしてある。
【0129】
また、
図8に示す実験1&2は、実験1と実験2の官能評価結果を母集団として、重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。同様に、実験1&3は実験1と実験3の官能評価結果を母集団として、実験2&3は実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、実験1&2&3は実験1と実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、それぞれ重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。
【0130】
これらの検証試験において重回帰分析により求めたプリセット値(ラウドネス係数A、ラフネス係数B、シャープネス係数C、補正値D)の結果より、ラウドネス係数Aは0.3〜1.2の範囲の数値として設定し、ラフネス係数Bは−0.2〜0.7の範囲の数値として設定し、シャープネス係数Cは−0.1〜0.7の範囲の数値として設定し、補正値Dは−1.4〜0.3の範囲の数値として設定すれば良いことが分かる。
【0131】
気になり度合評価手段78′は、気になり度合の推定値算出手段77′が求めた気になり度合の推定値EST
sharpnessを、気になり度合の許容閾値記憶手段76h′に設定記憶されている気になり度合の許容閾値EST″
sharpnessと比較することにより、対象製品80′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の評価を行う。例えば、気になり度合の許容閾値EST″
sharpnessとして「1」が設定されていれば、式(11)にて算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness」が1より大きいときは「気になる音」、算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness」が1より小さいときは「気にならない音」であると評価できる。なお、算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness」が「気になり度合の許容閾値EST″
sharpness」と同じ値「1」であった場合、これを「気になる音」に振り分けるか、「気にならない音」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「気になり度合の許容閾値EST″
sharpness」に他の値を与えたときも、同様に、気になるか気にならないかの評価を行うことができる。
【0132】
評価結果報知手段79は、気になり度合評価手段78′による評価結果を騒音評価装置70′の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0133】
上述した背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム2′を背景騒音下における対象騒音の気になり度合の近似官能評価に適用すれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、対象製品80′から生じるラトルノイズが気になるか、気にならないかを、官能評価結果と相関性の高い「気になり度合」として定量評価できる。これにより、ラトルノイズの抑制不足によるユーザートラブルを未然に防ぐことができ、また、ラトルノイズの過剰な抑制による設計・製造コストの増大を防ぐことができる。
【0134】
次に、第2実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム2を背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第2実施形態の第2適用例を説明する。
図9に示す背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム2″は、音信号収集装置60″とサイン音評価装置70″とから構成する。
【0135】
音信号収集装置60″は、サイン音の発生源となる火災報知器等のサイン音源80″から生じるサイン音を集音マイク61で半無響室91から収集するサイン音取得装置の機能およびサイン音源80″が使用されるオフィス等のサイン音出力環境92″の背景騒音を集音マイク61で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。サイン音評価装置70″は、音信号収集装置60″により収集したサイン音と背景騒音から、サイン音が注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合を近似官能評価する機能を備える。
【0136】
サイン音評価装置70″は、フィルタ手段71、疑似ランダム信号作成手段72、ミックス音源作成手段73、ラウドネス算出手段74a、ラフネス算出手段74b、シャープネス算出手段74c、全体係数α算出手段75、プリセット値記憶部76″(閾値ラウドネス記憶手段76a、閾値ラフネス記憶手段76b、閾値シャープネス記憶手段76c、ラウドネス係数記憶手段76d、ラフネス係数記憶手段76e、シャープネス係数記憶手段76f、補正値記憶手段76g、注意喚起度合の許容閾値記憶手段76h″)、注意喚起度合の推定値算出手段77″、注意喚起度合評価手段78″、評価結果報知手段79を備える。
【0137】
フィルタ手段71は、音信号収集装置60″からサイン音の信号を受けて、サイン音源80″から生じるサイン音の周波数帯域(例えば、2kHz以下)を透過させて、ミックス音源作成手段73およびラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0138】
疑似ランダム信号作成手段72は、音信号収集装置60″からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段73およびラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0139】
ミックス音源作成手段73は、フィルタ手段71を経たサイン音と、疑似ランダム信号作成手段72が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段74aへ供給する。
【0140】
ラウドネス算出手段74aは、疑似ランダム信号作成手段72で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段73で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段71から供給された背景騒音を含まないサイン音のラウドネスN′
subjectとを、それぞれ求め、ラフネス算出手段74bへラウドネスN′
subjectを、シャープネス算出手段74cへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectを、注意喚起度合の推定値算出手段77″へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを、それぞれ供給する。
【0141】
ラフネス算出手段74bは、ラウドネス算出手段74aで求めた背景騒音を含まないサイン音のラウドネスN′
subjectからサイン音のラフネスR′
subjectを求め、注意喚起度合の推定値算出手段77″へ供給する。
【0142】
シャープネス算出手段74cは、式(6)によりシャープネスS′
subject[acum]を算出し、注意喚起度合の推定値算出手段77″へ供給する。
【0143】
全体係数α算出手段75は、プリセット値記憶部76″から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段76aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値ラフネス記憶手段76bに記憶された閾値ラフネスR″
subject、閾値シャープネス記憶手段76cに記憶された閾値シャープネスS″
subject、ラウドネス係数記憶手段76dに記憶されたラウドネス係数A、ラフネス係数記憶手段76eに記憶されたラフネス係数B、シャープネス係数記憶手段76fに記憶されたシャープネス係数C、補正値記憶手段76gに記憶された補正値D、注意喚起度合の許容閾値記憶手段76h″に記憶されたサイン音源80″から生じるサイン音が注意を喚起するか喚起しないかの境界値として予め設定された注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness、を用いて、注意喚起度合の推定値EST
sharpnessを求める上で必要な全体係数αを式(9)により算出し、求まった全体係数αを注意喚起度合の推定値算出手段77″へ供給する。
【0144】
注意喚起度合の推定値算出手段77″は、ラウドネス算出手段74aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段75で求めた全体係数αと、ラフネス算出手段74bで求めたラフネスR′
subject[asper]と、シャープネス算出手段74cで求めたシャープネスS′
subjectと、ラウドネス係数記憶手段76dに記憶されたラウドネス係数Aと、ラフネス係数記憶手段76eに記憶されたラフネス係数Bと、シャープネス係数記憶手段76fに記憶されたシャープネス係数Cと、補正値記憶手段76gに記憶された補正値Dとから、サイン音源80″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の推定値EST
sharpnessを、式(10)の演算により求める。
【0145】
注意喚起度合評価手段78″は、注意喚起度合の推定値算出手段77″が求めた注意喚起度合の推定値EST
sharpnessを、注意喚起度合の許容閾値記憶手段76h″に設定記憶されている注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpnessと比較することにより、サイン音源80″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の評価を行う。例えば、注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpnessとして「1」が設定されていれば、式(11)にて算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness」が1より大きいときは「注意喚起に十分な音量」、算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness」が1より小さいときは「注意喚起に不十分な音量」であると評価できる。なお、算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness」が「注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness」と同じ値「1」であった場合、これを「注意喚起に十分な音量」に振り分けるか、「注意喚起に不十分な音量」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness」に他の値を与えたときも、同様に、注意喚起に十分か不十分かの評価を行うことができる。
【0146】
評価結果報知手段79は、注意喚起度合評価手段78″による評価結果をサイン音評価装置70″の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0147】
上述した背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム2″を背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合の近似官能評価に適用すれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、サイン音源80″から出力されるサイン音が注意喚起に十分な音量か、不十分な音量かを、官能評価結果と相関性の高い「注意喚起度合」として定量評価できる。これにより、サイン音の音量不足により注意換気機能を十分に発揮できないような不具合を未然に防ぐことができ、また、サイン音の過剰な出力音量による聴感者への不快感を軽減することができる。
【0148】
なお、上述した第2実施形態の背景騒音下における対象音の近似官能評価システムでは、心理音響パラメータのうち、ラウドネスとラフネスに加えて、心理音響パラメータの一つであるシャープネスを用いることで、背景騒音下で被評価物30から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と高い相関を有する評価推定値ESTを算出する演算式を設定した。しかしながら、心理音響パラメータのラフネスを用いない演算式を適用しても、官能評価結果と相関性のある評価推定値を取得できる可能性がある。
【0149】
そこで、
図10に示す第3実施形態の背景騒音下における対象音の近似官能評価システム3は、心理音響パラメータのラウドネスとシャープネスを用いることで、聴感印象の官能評価結果に近い評価推定値を定量的に取得して評価できる対象音評価装置を備えるものとした。すなわち、第3実施形態に係るに背景騒音下における対象音の近似官能評価システム3は、音信号収集装置100と対象音評価装置110とからなる。
【0150】
音信号収集装置100は、被評価物120から生じる対象騒音(ラトルノイズやサイン音など)を半無響室131の所要位置(被評価物120の近傍かつ使用者の耳位置と想定される位置)から取得する対象音取得装置としての機能、および被評価物120が使用されるオフィスや寝室等を模した被評価物使用環境132の所要位置(製品使用者が環境騒音を受聴するに適当と考えられる位置)から背景騒音を取得する背景騒音取得装置としての機能を一体に備える。半無響室131および被評価物使用環境132より収集した収集音は、デジタル信号の音声ファイルとして記録、或いはダイレクトに対象音評価装置110へ出力する。
【0151】
対象音評価装置110は、フィルタ手段111、疑似ランダム信号作成手段112、ミックス音源作成手段113、ラウドネス算出手段114a、シャープネス算出手段114b、全体係数α算出手段115、プリセット値記憶部116(閾値ラウドネス記憶手段116a、閾値シャープネス記憶手段116b、ラウドネス係数記憶手段116c、シャープネス係数記憶手段116d、補正値記憶手段116e、評価基準閾値記憶手段116f)、評価推定値算出手段117、近似官能評価手段118、評価結果報知手段119を設ける。
【0152】
上記フィルタ手段111は、音信号収集装置100から対象音の信号が入力されると、被評価物120から生じる対象音のうち、聴感印象に大きく関与する周波数帯域の音のみを透過させるもので、周波数フィルタ等で構成できる。なお、半無響室131より取得した被評価物120の対象音から特定の周波数帯域を取り出す必要が無い場合は、全帯域を通過させれば良い。
【0153】
疑似ランダム信号作成手段112は、音信号収集装置100からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段113およびラウドネス算出手段114aに供給する。なお、作成する疑似ランダム信号のサンプリング周波数、収録時間(サンプル数)は、対象音の信号に合わせておくことが望ましい。
【0154】
ミックス音源作成手段113は、フィルタ手段111を経た対象音と、疑似ランダム信号作成手段112が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段114aに供給する。
【0155】
ラウドネス算出手段114aは、少なくとも、疑似ランダム信号作成手段112で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段113で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段111から受領した背景騒音を含まない対象音のラウドネスN′
subjectをそれぞれ求める。そして、このラウドネス算出手段114aから、シャープネス算出手段114bへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectが、評価推定値算出手段117へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectが、それぞれ供給される。
【0156】
シャープネス算出手段114bは、シャープネスS[acum]を算出するものである。シャープネスの算出には、前述した式(6)を用いる。そして、式(6)を用いて算出したシャープネスS′
subjectを評価推定値算出手段117へ供給する。
【0157】
評価推定値算出手段117では、心理音響パラメータであるラウドネスとシャープネスを用いて、背景音によるマスキング効果を考慮した評価推定値EST
sharpness2を算出する。評価推定値EST
sharpness2を算出する演算式を定めるにあたり、まず、背景騒音を考慮しない被評価物120からの騒音に対する評価推定値EST′
sharpness2を下式(12)により求めるものと仮定する。
【0158】
EST′
sharpness2=α(A×N′
subject+B×S′
subject+C) …(12)
【0159】
式(12)において、EST′
sharpness2は背景騒音を考慮しない被評価物120からの対象音に対する聴感印象の評価推定値、N′
subjectは被評価物120から放射される対象音のラウドネス、S′
subjectは被評価物120から放射される対象音のシャープネス、AはN′
subjectにかかるラウドネス係数、BはS′
subjectにかかるシャープネス係数、Cは補正値、αは全体にかかる全体係数である。
【0160】
ここで、全体係数αを意味ある数値とするため、被評価物120から放射される対象音のラウドネスN′
subject[sone]に代えて閾値ラウドネスN″
subject[sone]を式(12)に適用し、被評価物120から放射される対象音のシャープネスS′
subject[acum]に代えて閾値シャープネスS″
subject[acum]を式(12)に適用し、背景騒音を考慮しない被評価物120からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST′
sharpness2に代えて背景騒音を考慮しない被評価物120からの対象音に対する評価基準閾値EST″
sharpness2を式(12)に適用することで、式(13)とする。
【0161】
EST″
sharpness2=α(A×N″
subject+B×S″
subject+C)…(13)
【0162】
この式(13)から、全体係数αは下式(14)によって求めることができる。
【0163】
α=EST″
sharpness2/(A×N″
subject+B×S″
subject+C) …(14)
【0164】
なお、上式(14)の全体係数αを求めるために、対象音評価装置110の全体係数α算出手段115には、プリセット値記憶部116から諸情報が供給される。具体的には、被評価物120から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値ラウドネスN″
subjectが閾値ラウドネス記憶手段116aより供給され、被評価物120から生じる対象音として許容あるいは目標となる値として予め設定された閾値シャープネスS″
subjectが閾値シャープネス記憶手段116bより供給され、被評価物120から生じる対象音に応じて予め設定されたラウドネス係数Aがラウドネス係数記憶手段116cより供給され、被評価物120から生じる対象音に応じて予め設定されたシャープネス係数Bがシャープネス係数記憶手段116dより供給され、被評価物120から生じる対象音に応じて予め設定された補正値Cが補正値記憶手段116eより供給され、被評価物120から生じる対象音を近似官能評価する境界値として予め設定された評価基準閾値EST″
sharpness2が評価基準閾値記憶手段116fより供給される。
【0165】
上記のようにして全体係数α算出手段115が算出した全体係数αと、適切なラウドネス係数Aおよびシャープネス係数Bおよび補正値Cが定まれば、背景騒音を考慮しない被評価物120からの騒音に対する評価推定値EST′
sharpness2を式(12)により定量的に求めることができる。そして、背景騒音を含む被評価物120からの対象音に対する聴感印象の評価推定値EST
sharpness2を算出する演算式は、被評価物120からの対象音と背景騒音とをミックスした混合騒音のラウドネスN
subject[sone]と、背景騒音のみのラウドネスN
BGN[sone]を用いた下式(15)とする。
【0166】
EST
sharpness2=α{A×(N
subject−N
BGN)+B×S′
subject+C} …(15)
【0167】
すなわち、評価推定値算出手段117は、ラウドネス算出手段114aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、シャープネス算出手段114bで求めたシャープネスS′
subjectと、全体係数α算出手段115で求めた全体係数αと、ラウドネス係数記憶手段116cに記憶されたラウドネス係数Aと、シャープネス係数記憶手段116dに記憶されたシャープネス係数Bと、補正値記憶手段116eに記憶された補正値Cとから、被評価物120より放射される対象音に対する聴感印象の評価推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した聴感印象の評価推定値)EST
sharpness2を、上式(15)の演算により求める。
【0168】
近似官能評価手段118は、評価推定値算出手段117で求めた評価推定値EST
sharpness2を、評価基準閾値記憶手段116fに設定記憶されている評価基準閾値EST″
sharpness2と比較することにより、聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価(近似官能評価)を行う。例えば、評価基準閾値EST″
sharpness2として「1」が設定されていれば、評価推定値EST
sharpness2は、下式(16)にて算出できる。
【0169】
EST
sharpness2=1/(A×N″
subject+B×S″
subject+C)×{A×(N
subject−N
BGN)+B×S′
subject+C} …(16)
【0170】
式(16)にて算出された「評価推定値EST
sharpness2」が1より大きいときは「気になる音」あるいは「適切な音量」と近似官能評価でき、算出された「評価推定値EST
sharpness2」が1より小さいときは「気にならない音」あるいは「聞き取りにくい音量」のように近似官能評価できる。なお、算出された「評価推定値EST
sharpness2」が「評価基準閾値EST″
sharpness2」と同じ値「1」であった場合、これをどちらに振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「評価推定値EST″
sharpness2」に他の値を与えたときも、これを評価基準として同様に近似官能評価を行うことできる。
【0171】
評価結果報知手段119は、近似官能評価手段118による評価結果を対象音評価装置110の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。より簡易的には、評価の良否を緑ランプまたは赤ランプを点灯させて報らせるようにすることもできる。
【0172】
上述したように、第3実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム3によれば、音響心理パラメータとしてラウドネスとシャープネスを用いることで、背景騒音下で被評価物120から生じる対象音に対する聴感印象の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価を定量的に行うことができる。よって、この定量化された近似官能評価を指標とすることにより、背景騒音下で被評価物120から生じる騒音の抑制や、背景騒音下で被評価物120から出力される音量の適正化を行うことが容易となる。
【0173】
次に、第3実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム3を背景騒音下における対象騒音の気になり度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第3実施形態の第1適用例を説明する。
図11に示す背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム3′は、音信号収集装置100′と騒音評価装置110′とから構成する。
【0174】
音信号収集装置100′は、ノイズの発生源となる事務機器等の対象製品120′から生じる対象騒音を集音マイク101で半無響室131から収集する対象騒音取得装置の機能および対象製品120′が使用されるオフィス等の製品使用環境132′の背景騒音を集音マイク101で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。騒音評価装置110′は、音信号収集装置100′により収集した対象騒音と背景騒音から、対象騒音が気になるか気にならないかの気になり度合を近似官能評価する機能を備える。なお、以下の説明では、対象製品120′から放射される騒音をラトルノイズに限定して説明するが、背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム3′は、その他の機械騒音全般の近似官能評価に適用可能である。
【0175】
騒音評価装置110′は、フィルタ手段111、疑似ランダム信号作成手段112、ミックス音源作成手段113、ラウドネス算出手段114a、シャープネス算出手段114b、全体係数α算出手段115、プリセット値記憶部116′(閾値ラウドネス記憶手段116a、閾値シャープネス記憶手段116b、ラウドネス係数記憶手段116c、シャープネス係数記憶手段116d、補正値記憶手段116e、気になり度合の許容閾値記憶手段116f′)、気になり度合の推定値算出手段117′、気になり度合評価手段118′、評価結果報知手段119を備える。
【0176】
フィルタ手段111は、音信号収集装置100′から対象騒音(ラトルノイズを含む騒音)の信号を受けて、対象製品120′から生じる対象騒音のうち、加振周波数範囲内の音をカットし、加振周波数より高い周波数のノイズ成分を透過させて、ミックス音源作成手段113およびラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0177】
疑似ランダム信号作成手段112は、音信号収集装置100′からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段113およびラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0178】
ミックス音源作成手段113は、フィルタ手段111を経たラトルノイズと、疑似ランダム信号作成手段112が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0179】
ラウドネス算出手段114aは、疑似ランダム信号作成手段112で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段113で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段111から供給された背景騒音を含まないラトルノイズのラウドネスN′
subjectを、それぞれ求め、シャープネス算出手段114bへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectを、気になり度合の推定値算出手段117′へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを、それぞれ供給する。
【0180】
シャープネス算出手段114bは、式(6)によりシャープネスS′
subject[acum]を算出し、気になり度合の推定値算出手段117′へ供給する。
【0181】
全体係数α算出手段115は、プリセット値記憶部116′から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段116aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値シャープネス記憶手段116bに記憶された閾値シャープネスS″
subject、ラウドネス係数記憶手段116cに記憶されたラウドネス係数A、シャープネス係数記憶手段116dに記憶されたシャープネス係数B、補正値記憶手段116eに記憶された補正値C、気になり度合の許容閾値記憶手段116f′に記憶された対象製品120′から生じるラトルノイズが気になるか気にならないかの境界値として予め設定された気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2)を用いて、気になり度合の推定値EST
sharpness2を求める上で必要な全体係数αを式(14)により算出し、求まった全体係数αを気になり度合の推定値算出手段117′へ供給する。
【0182】
気になり度合の推定値算出手段117′は、ラウドネス算出手段114aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段115で求めた全体係数αと、シャープネス算出手段114bで求めたシャープネスS′
subjectと、ラウドネス係数記憶手段116cに記憶されたラウドネス係数Aと、シャープネス係数記憶手段116dに記憶されたシャープネス係数Bと、補正値記憶手段116eに記憶された補正値Cとから、対象製品120′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の推定値(背景騒音によるマスキング効果を考慮した気になり度合の推定値)EST
sharpness2を、式(15)の演算により求める。
【0183】
ここで、式(15)のように定めた気になり度合の推定値EST
sharpness2が近似官能評価に適したものであることを検証するために行った試験について説明する。
【0184】
背景騒音の音量を一定とし、対象製品120′から放射されるラトルノイズの音量を変化させた際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験1)を行った。この実験1で用いたミックス音源のラウドネスN
subject[sone]、疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]、ラフネスR′
subject[asper]、予め設定した閾値ラウドネスN″
subjectおよび閾値ラフネスR″
subject、予め設定した気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2に対して適切なラウドネス係数A、シャープネス係数B、補正値Cを重回帰分析により求め、式(15)より背景騒音を含む対象製品120′からのラトルノイズに対する気になり度合の推定値EST
sharpness2を求める。
【0185】
この実験1で求まった各プリセット値は、
図12の一覧表に示すように、ラウドネス係数A=0.72、シャープネス係数B=0.25、補正値C=0.46である。また、被検者から得られた官能評価結果に対する式(15)の当てはまりの良さを示す自由度調整済決定係数R
2は0.757と比較的高いことから、騒音評価装置110′の気になり度合の推定値算出手段117′は、官能評価結果に近い値として、気になり度合の推定値EST
sharpness2を算出できることが検証された。
【0186】
なお、
図12には、背景騒音の音量を変化させ、ラトルノイズの音量を一定とした際に、背景騒音下で聴感されるラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験2)、背景騒音をなくして、ラトルノイズの時間波形を変化させた際に、ラトルノイズの気になり度合を被検者が評価する官能評価試験(実験3)について、重回帰分析により求めたプリセット値と自由度調整済決定係数R
2を一覧にしてある。
【0187】
また、
図12に示す実験1&2は、実験1と実験2の官能評価結果を母集団として、重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。同様に、実験1&3は実験1と実験3の官能評価結果を母集団として、実験2&3は実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、実験1&2&3は実験1と実験2と実験3の官能評価結果を母集団として、それぞれ重回帰分析によりプリセット値を求めたものである。
【0188】
これらの検証試験において重回帰分析により求めたプリセット値(ラウドネス係数A、シャープネス係数B、補正値C)の結果より、ラウドネス係数Aは0.7〜1.0の範囲の数値として設定し、シャープネス係数Bは0.1〜0.7の範囲の数値として設定し、補正値Cは−1.2〜0.5の範囲の数値として設定すれば良いことが分かる。
【0189】
気になり度合評価手段118′は、気になり度合の推定値算出手段117′が求めた気になり度合の推定値EST
sharpness2を、気になり度合の許容閾値記憶手段116f′に設定記憶されている気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2と比較することにより、対象製品120′より放射されるラトルノイズに対する気になり度合の評価を行う。例えば、気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2として「1」が設定されていれば、式(16)にて算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness2」が1より大きいときは「気になる音」、算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness2」が1より小さいときは「気にならない音」であると評価できる。なお、算出された「気になり度合の推定値EST
sharpness2」が「気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2」と同じ値「1」であった場合、これを「気になる音」に振り分けるか、「気にならない音」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「気になり度合の許容閾値EST″
sharpness2」に他の値を与えたときも、同様に、気になるか気にならないかの評価を行うことができる。
【0190】
評価結果報知手段119は、気になり度合評価手段118′による評価結果を騒音評価装置110′の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0191】
上述した背景騒音下における対象騒音の気になり度合評価システム3′を背景騒音下における対象騒音の気になり度合の近似官能評価に適用すれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、対象製品120′から生じるラトルノイズが気になるか、気にならないかを、官能評価結果と相関性の高い「気になり度合」として定量評価できる。これにより、ラトルノイズの抑制不足によるユーザートラブルを未然に防ぐことができ、また、ラトルノイズの過剰な抑制による設計・製造コストの増大を防ぐことができる。
【0192】
次に、第3実施形態に係る背景騒音下における対象音の近似官能評価システム3を背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合(聴感印象)の官能評価と相関性の高い近似的な官能評価に適用した第3実施形態の第2適用例を説明する。
図13に示す背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム3″は、音信号収集装置100″とサイン音評価装置110″とから構成する。
【0193】
音信号収集装置100″は、サイン音の発生源となる火災報知器等のサイン音源120″から生じるサイン音を集音マイク101で半無響室131から収集するサイン音取得装置の機能およびサイン音源120″が使用されるオフィス等のサイン音出力環境132″の背景騒音を集音マイク101で収集する背景騒音取得装置の機能を備える。サイン音評価装置110″は、音信号収集装置100″により収集したサイン音と背景騒音から、サイン音が注意を喚起するか喚起しないかの注意喚起度合を近似官能評価する機能を備える。
【0194】
サイン音評価装置110″は、フィルタ手段111、疑似ランダム信号作成手段112、ミックス音源作成手段113、ラウドネス算出手段114a、シャープネス算出手段114b、全体係数α算出手段115、プリセット値記憶部116″(閾値ラウドネス記憶手段116a、閾値シャープネス記憶手段116b、ラウドネス係数記憶手段116c、シャープネス係数記憶手段116d、補正値記憶手段116e、注意喚起度合の許容閾値記憶手段116f″)、注意喚起度合の推定値算出手段117″、注意喚起度合評価手段118″、評価結果報知手段119を備える。
【0195】
フィルタ手段111は、音信号収集装置100″からサイン音の信号を受けて、サイン音源120″から生じるサイン音の周波数帯域(例えば、2kHz以下)を透過させて、ミックス音源作成手段113およびラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0196】
疑似ランダム信号作成手段112は、音信号収集装置100″からの背景騒音に基づいて、擬似的な背景騒音である疑似ランダム信号を作成し、ミックス音源作成手段113およびラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0197】
ミックス音源作成手段113は、フィルタ手段111を経たサイン音と、疑似ランダム信号作成手段112が作成した疑似ランダム信号とを結合して、混合騒音信号であるミックス音源を作成し、ラウドネス算出手段114aへ供給する。
【0198】
ラウドネス算出手段114aは、疑似ランダム信号作成手段112で作成した疑似ランダム信号のラウドネスN
BGNと、ミックス音源作成手段113で作成したミックス音源のラウドネスN
subjectと、フィルタ手段111から供給された背景騒音を含まないサイン音のラウドネスN′
subjectとを、それぞれ求め、シャープネス算出手段114bへラウドネスN
BGNとラウドネスN
subjectを、注意喚起度合の推定値算出手段117″へラウドネスN
subjectとラウドネスN
BGNとラウドネスN′
subjectを、それぞれ供給する。
【0199】
シャープネス算出手段114bは、式(6)によりシャープネスS′
subject[acum]を算出し、注意喚起度合の推定値算出手段117″へ供給する。
【0200】
全体係数α算出手段115は、プリセット値記憶部116″から供給される諸情報(閾値ラウドネス記憶手段116aに記憶された閾値ラウドネスN″
subject、閾値シャープネス記憶手段116bに記憶された閾値シャープネスS″
subject、ラウドネス係数記憶手段116cに記憶されたラウドネス係数A、シャープネス係数記憶手段116dに記憶されたシャープネス係数B、補正値記憶手段116eに記憶された補正値C、注意喚起度合の許容閾値記憶手段116f″に記憶されたサイン音源120″から生じるサイン音が注意を喚起するか喚起しないかの境界値として予め設定された注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness2、を用いて、注意喚起度合の推定値EST
sharpness2を求める上で必要な全体係数αを式(14)により算出し、求まった全体係数αを注意喚起度合の推定値算出手段117″へ供給する。
【0201】
注意喚起度合の推定値算出手段117″は、ラウドネス算出手段114aで求めた疑似ランダム信号のラウドネスN
BGN[sone]およびミックス音源のラウドネスN
subject[sone]と、全体係数α算出手段115で求めた全体係数αと、シャープネス算出手段114bで求めたシャープネスS′
subjectと、ラウドネス係数記憶手段116cに記憶されたラウドネス係数Aと、シャープネス係数記憶手段116dに記憶されたシャープネス係数Bと、補正値記憶手段116eに記憶された補正値Cとから、サイン音源120″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の推定値EST
sharpness2を、式(15)の演算により求める。
【0202】
注意喚起度合評価手段118″は、注意喚起度合の推定値算出手段117″が求めた注意喚起度合の推定値EST
sharpness2を、注意喚起度合の許容閾値記憶手段116f″に設定記憶されている注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness2と比較することにより、サイン音源120″より出力されるサイン音に対する注意喚起度合の評価を行う。例えば、注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness2として「1」が設定されていれば、式(16)にて算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness2」が1より大きいときは「注意喚起に十分な音量」、算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness2」が1より小さいときは「注意喚起に不十分な音量」であると評価できる。なお、算出された「注意喚起度合の推定値EST
sharpness2」が「注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness2」と同じ値「1」であった場合、これを「注意喚起に十分な音量」に振り分けるか、「注意喚起に不十分な音量」に振り分けるかは、任意に定めておけば良い。無論、「注意喚起度合の許容閾値EST″
sharpness2」に他の値を与えたときも、同様に、注意喚起に十分か不十分かの評価を行うことができる。
【0203】
評価結果報知手段119は、注意喚起度合評価手段118″による評価結果をサイン音評価装置110″の使用者に報らせるもので、画面に可視表示、あるいはスピーカーによる音声出力で行う事ができる。
【0204】
上述した背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合評価システム3″を背景騒音下におけるサイン音の注意喚起度合の近似官能評価に適用すれば、背景騒音によるマスキング効果を考慮して、サイン音源120″から出力されるサイン音が注意喚起に十分な音量か、不十分な音量かを、官能評価結果と相関性の高い「注意喚起度合」として定量評価できる。これにより、サイン音の音量不足により注意換気機能を十分に発揮できないような不具合を未然に防ぐことができ、また、サイン音の過剰な出力音量による聴感者への不快感を軽減することができる。
【0205】
以上、本発明に係る背景騒音下における対象音の官能評価方法および背景騒音下における対象音の官能評価システムを実施形態に基づき説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての背景騒音下における対象音の官能評価方法および背景騒音下における対象音の官能評価システムを権利範囲として包摂するものである。