(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記微細構造体と前記密着層との屈折率差が0.1以下であり、前記密着層と前記多層膜の最表層との屈折率差が0.1以下であることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光学フィルタと、前記光学フィルタを通過した光線の像を受光し電気信号に変換する撮像素子と、を備えることを特徴とする光学装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で示されたような多層膜のみで構成された反射防止膜の場合には、例えば、可視波長領域全域など、比較的広い波長領域にわたって反射率を低減するには、多層膜を構成する薄膜材料として使用できる材料が限定されているため、相当の層数を必要としたり、設計が複雑になってしまったりする問題がある。
【0008】
また、特許文献2で示されている、サブミクロンピッチで形成された微細構造体を光学フィルタの反射防止構造体として、光学膜と組合せて使用する場合は、特許文献1で示した多層膜構成の場合よりも、反射防止の波長領域を拡げることが比較的容易であり、さらに、反射率の低減も容易である。しかしながら、反射防止効果を発現する微細構造体と多層膜とを単純に組合せて配置することだけでは、光学フィルタ総体として最適な反射防止効果を得ることは大変難しい。
【0009】
本発明は、優れた光反射防止効果を有する光学フィルタ及び光量調整装置並びに光学装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学フィルタは、透明基板と、前記透明基板上に設けられた多層膜と、前記多層膜上に設けられた微細構造体と、を備え、前記微細構造体は、その最表面からの入射光に対して前記多層膜
と前記微細構造体
との界面での反射光の波長以下の微細凹凸構造を持つ微細構造面を有し、
前記多層膜と前記微細構造体との界面を除き、前記多層膜が有する複数の界面
、及び、前記多層膜
と前記透明基板
との界面
の全てにおける反射光の
合成波の強度が、光干渉
効果によって
低減され、前記多層膜と前記微細構造体との界面の反射光の強度が、前記微細構造体によって低減されることで、光学フィルタ総体としての反射光の強度が低減される積層構造とされたことを特徴とする。
かかる本発明の態様によれば、多層膜が有する界面、及び多層膜と透明基板との界面において、反射光が光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する光反射防止構造を有するため、優れた光反射防止効果が得られる。
【0011】
また、本発明の光学フィルタは、透明基板と、前記透明基板上に設けられた多層膜と、前記多層膜上に密着層を介在させて設けられた微細構造体と、を備え
る光学フィルタであって、前記微細構造体は、その最表面からの入射光に対して
前記光学フィルタが低減する反射光の波長以下の微細凹凸構造を持つ微細構造面を有し、前記密着層と前記
多層膜との界面を除き
、前記多層膜が有する複数の界面、及び、前記多層膜と前記透明基板との界面の全てにおける反射光の合成波の強度が、光干渉効果によって低減され、前記密着層と前記微細構造体との界面の反射光の強度が、前記微細構造体によって低減されることで、
前記光学フィルタ総体としての反射光の強度が低減される積層構造とされたことを特徴とする。
かかる本発明の態様によれば、多層膜が有する界面、及び多層膜と透明基板との界
面において、反射光が光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する光反射防止構造を有するため、優れた光反射防止効果が得られる。
【0012】
上記本発明では、前記微細構造体は、前記多層膜の外周端部を覆って前記透明基板上に達するまで延設されたことを特徴としてもよい。
かかる本発明の態様によれば、微細構造体が多層膜の保護膜としての役割を果たす。
【0013】
また、上記本発明では、前記微細構造体と前記多層膜の最表層との屈折率差が0.1以下であることを特徴としてもよい。
かかる本発明の態様によれば、より有効な光反射防止構造となる。
【0014】
また、上記本発明では、前記微細構造体と前記密着層との屈折率差が0.1以下であり、前記密着層と前記多層膜の最表層との屈折率差が0.1以下であることを特徴としてもよい。
かかる本発明の態様によれば、より有効な光反射防止構造となる。
【0015】
また、上記本発明では、前記
多層膜及び前記微細構造体を含む光反射防止構造は、前記透明基板の両面に設けられたことを特徴としてもよい。
かかる本発明の態様によれば、より有効な光反射防止構造となる。
【0018】
さらに、上記本発明では、前記光反射防止構造を備えたNDフィルタを広く対象としてもよいし、上記光学フィルタを光が通過する経路に配置して光量を調整する光量調整装置や、上記光学フィルタ
と、前記光学フィルタを通過した光線の像を受光し電気信号に変換する撮像素子と、を
備えるカメラ等の光学装置を広く対象としてもよい。
かかる本発明の態様によれば、光学特性を向上したNDフィルタ、光量調整装置、光学装置を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた光反射防止効果を有する光学フィルタ及び光量調整装置並びに光学装置を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明にかかる光学フィルタは、光透過性を有する透明基板と、反射低減効果を発現する微細構造体と、所定の光学特性を発現する多層薄膜(多層膜)である光学膜とを有し、少なくとも微細構造体と多層薄膜とで光反射防止構造が形成され、この光反射防止構造においては、詳細は後述するが、多層膜と微細構造体との界面で反射する反射光の位相と、多層膜が有する複数の界面、及び多層膜及び透明基板の界面を含む各界面で反射する反射光の位相との関係が、光干渉によって打ち消し合う逆位相の関係となる構造を有する。
【0022】
透明基板としては、光学フィルタの基板としての強度や光学特性を有するものであり、各種の光学膜や、反射防止構造体の形成用の基体として機能可能であるものが利用される。このような基板としては、B270iやD263Teco、BK7などガラス系の材料からなる基板、またはPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PC(ポリカーボネート)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、及びTAC(トリアセチルセルロース)等から選択した樹脂材料からなる基板を用いることができる。また、ガラス基板と樹脂層との複合材料からなる基板や、有機材と無機材を混合させた有機無機ハイブリッド基板を用いることもできる。
【0023】
また、多層薄膜により構成される光学膜は所望の光学特性を形成する膜であれば良く、例えば可視波長領域の光量を調整するND膜や、カメラなどに用いられ近赤外波長領域の光を低減するIRカット膜やUVIRカット膜などが挙げられる。これらの光学膜の形成方法としては、真空蒸着法やゾルゲル法など各種の成膜手法を選択することができ、光学膜の種類や、生産性等を考慮し、適宜最適な手法を選択すれば良い。
【0024】
また、このような光学膜を基板上に形成した後、フィルタの最表層に微細構造を形成する。本発明における微細構造体は、所望の光学フィルタの光学特性を得るために必要とされる反射防止機能を有するものであればよく、可視光の波長よりも短いピッチで配列された凹凸形状を有したものである。このような構造体の1種として、ランダムに形成された針状体及び柱状体等の突起、階段形状に微細に形成された凹凸構造の突出部または凹部によって、大気や隣接する媒体との屈折率差を低減したものが含まれても良く、目的に応じて構造や材料を任意に選択したものを用いることができる。
【0025】
このような、基板を透過する光の波長よりも短い周期で配置された多数の突起や凹凸構造などからなる微細構造体であれば、熱ナノインプリント法や光ナノインプリント法などの方法を用いて再現性良く作製することができる。
【0026】
さらに、本発明による構成の場合、微細構造体と光学膜との界面などが形成されるが、反射低減効果を期待した微細構造体を形成する場合、光学フィルタ総体としての反射を低減する為には、これら異なる物質間での界面反射も低減する必要がある。従って、界面を形成する2つの物質間の屈折率差を小さくすることが望ましい。
【0027】
ここで、前述した光学膜は、光学膜の最表層と微細構造体との界面での反射を無視した、それ以外の界面からの光干渉により総体的に形成される反射を可能な限り小さくする積層構成とした。これは以下の理由からである。
【0028】
まず、光学膜最表層と微細構造体との屈折率差を小さくすることで、この界面での反射を可能な限り低減し、微細構造体の反射低減効果を利用することで、媒質(空気)から光学膜最表層までの反射を理想的に低減する。
【0029】
次に、光学膜における基板側に向かう最表層以降では、最表層と微細構造体との界面以外の界面の光干渉効果により反射を低減する。そして、これら2つの反射低減構成を組合せることにより、光学フィルタ総体としての反射を低減させる。
【0030】
図1を例に、本発明の概念をさらに詳しく説明する。
図1は3層構成の光学膜である反射防止膜を設けた光学フィルタを例として、本発明の概念を説明する為の概略図である。
【0031】
図1(a)は基板1上に構成された3層の光学膜3aである反射防止膜を備えた光学フィルタ4aを表しており、
図1(b)は基板1上に構成された3層の光学膜3bに加え、最表層に反射低減効果を有する、低減する反射光の波長以下のサイズで構成された微細構造体3を配置した光学フィルタ4bを表している。
【0032】
図1(a)では、反射低減効果を得るために、透過光Tに対する各界面での反射光A1、A2、A3、A4の位相を調整し、これらの合成波である光学フィルタ4a総体としての反射光Raの強度を低減している。
【0033】
これに対し、本発明の概念を表した
図1(b)でも同様に、反射低減効果を得るために、透過光Tに対する各界面での反射光B1、B2、B3、B4の位相を調整して、光学フィルタ4b総体としての反射光Rbの強度を低減する。なお、微細構造体3と光学膜2bの最表層との界面の反射光B1は、微細構造体3の反射低減効果により、他界面との位相を調整する以前に強度が十分に低減している。
【0034】
従って、逆にB1の位相を調整しても、他界面での反射光を低減する効果を得ることは殆ど期待できず、微細構造体3と光学膜2bの最表層との界面での反射光B1を除いた、B2、B3、B4の位相を調整することでこれらの合成波である反射光を低減する。これに加え、既に強度が低減されているB1と合わせて、光学フィルタ4b総体としての反射光Rbの強度を低減する。
【0035】
以上のように、
図1(a)(b)に基づき3層構成の光学膜を例に説明したが、積層数はこれに限らず、さらに多層化された場合であっても、同様の考え方で、光学フィルタ総体としての反射光を低減することが可能である。
【0036】
つまりは、
図1(c)に示したように、基板1上にn層で構成された光学膜2cと微細構造体3との界面での反射光を除いた、光学膜2cにおける他の全ての界面における反射光、C2、C3・・・Cn−1、Cn、Cn+1の合成波の強度を低減するように、それぞれの反射光の位相を調整することで、光学フィルタ4c総体としての反射光Rcの強度を低減することができる。
【0037】
以上のように、筆者らは、多層構成の光学膜で形成される光学フィルタにおいて、全ての界面の中で、最表層と、空気などの最表層との屈折率差が大きい入射媒質との界面での反射が、光学フィルタ総体としての反射に与える影響が最も大きい為、この部分での反射強度を十分に低減し、さらに光学膜における他の全ての界面での反射光の強度を相殺させるように位相を適宜調整する構成とすることで、光学フィルタ総体としての反射を著しく低減させることが可能である点を見出した。
【0038】
以下、本発明の光学フィルタについて実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
多層薄膜により構成された、光量調整用の光学膜であるND膜に、反射低減効果を発現する微細構造体を設け作製したNDフィルタの実施例について、以下に詳しく記載する。
【0039】
近年における固体撮像素子の高感度化、高精細化等に伴う、撮影装置の絞りのハンチング現象や光の回折現象の対策として、真空成膜法などにより多層薄膜を透明基板に形成し作製されたNDフィルタが用いることができる。
【0040】
このようなフィルタについて、
図2に示すように、ND膜11上に微細構造体12を配置し、NDフィルタ13を形成した。
図2に示す構成において、厚さ1.0mmの透明なガラスであるB270ガラスを基板10として、この基板10上にND膜11を形成し、この上に微細構造体12を形成した。
【0041】
本実施例のような光学フィルタであるNDフィルタ13に用いる基板の光学特性としては、可視光波長領域における全光線透過率89%以上が好ましく、91%以上がさらに好ましい。
【0042】
最初に、基板10の片面側に、真空蒸着法により複数の薄膜を積層したND膜11を形成した。真空蒸着法は、膜厚を比較的に容易に制御でき、かつ可視光波長領域において散乱が非常に小さく、分光透過率の波長依存性を小さい値に制御することが可能な利点を有している。しかし、真空蒸着法に限定されず、スパッタリング法、IAD法、IBS法、イオンプレーティング法、クラスタ蒸着法等の成膜方法においても成膜が可能であり、目的や条件等を考慮し、最も適当な成膜方法を選択すればよい。
【0043】
ND膜11を構成する薄膜材料として、SiO
2やAl
2O
3などの誘電体層と、Ti、Nb、Ta、Zr、Ni、Cr、W、Mo、Au、Ag、Cu、Mg、Alなどの金属単体、またはこれらの合金や金属化合物により構成された光吸収層に加え、最表層の反射低減を目的として、比較的屈折率が低く環境性にも優れるMgF2などを用いることが可能であるが、本実施例では
図3で示すような積層構造とした。
【0044】
ここで、ND膜11の最表層は本実施例1ではSiO
2層としたが、これに限らず、先に挙げたMgF
2やSiO
2に加え、例えばAl
2O
3や、SiOなど酸価を変えたもの、SiNなど、SiやAl、Mgの金属化合物や、これらを混合させた層を適宜選択することが可能である。同様にTi、Nb、Ta、Zr、Ni、Cr、W、Mo、Au、Ag、Cuなどの金属化合物であっても良い。
【0045】
ここで、このようなND膜11の膜構成において、本実施例では、微細構造体12と多層膜であるND膜11の最表層となるSiO
2層との界面での反射を無視し、それ以外の界面での反射を光干渉効果により相殺させることで、それ以外の界面での総体的な反射を可能な限り小さくする膜構成とした。
【0046】
つまりは、ND膜11内で形成される界面と、ND膜11及び透明基板10の界面とのうち、微細構造体12及びND膜11の界面からの入射光に対する1つの界面での反射光の位相と他の界面での反射光の位相とが、光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する構成とした。
【0047】
ここで、反射低減の観点からND膜11の最表層であるSiO
2層と微細構造体12との屈折率差をそれぞれ0.1以下となるように構成した。波長540nmのおける屈折率を例に取ると、微細構造体の屈折率は1.42、ND膜11の最表層であるSiO
2層の屈折率は1.46であり、ND膜11と微細構造体12と界面での屈折率差は0.04となる構成とした。
【0048】
このように、隣接した、異なる物質間界面での屈折率差を0.1以下にすることで、この界面での反射を著しく低減することが可能であり、より好ましくは本例のように0.05以下となるように構成する。
【0049】
以上のように作製されたND膜11上に微細構造体12を形成した。微細構造体に関しては様々な作製方法が提案されているが、本実施例ではUV(紫外線)硬化樹脂を用いた光ナノインプリント法を選択した。
【0050】
ここで、ND膜11と微細構造体12との密着性を向上させる為、プライマー処理を行い、ND膜11と微細構造体12との間との間に密着層を設けることもできる。このようなプライマー液として、シランカップリング剤をベースに、IPAや硝酸等を適量加えたものなどを用いることが可能であり、PTFEフィルタを介し基板上に滴下し、スピンコート法などにより極薄膜となるように塗工した後、乾燥処理を行うことで、密着層を形成することも可能である。
【0051】
本実施例における微細構造体12は、突起構造を周期的に配置したピラーアレイ状とし、少なくてもND膜として必要される可視波長領域の光の反射率は低減できる構造となるように、可視波長の400nm以下となる、250nm以下のピッチで、構造体は高さ500nmの釣鐘型のモス・アイ形状とした。
【0052】
まずは、基板上にUV硬化樹脂を0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し適量滴下した後、スピンコート法により所定の膜厚となるように基板全面にUV硬化樹脂を塗工した。
【0053】
その後、この基板に、樹脂の硬化収縮を加味し、前述の形状を反転させ設計されたホールアレイ形状に離型処理を施した石英モールドを押し当て、少しの時間この状態を保持した後、そのままの状態でUV光を照射することで樹脂を硬化させ、前述のような形状を持つ微細構造体12を作製した。
【0054】
このようなUV硬化樹脂は各種様々な材料を用いることができ、本実施例では反射低減の観点から屈折率の低いフッ素系のUV硬化樹脂を用いたが、アクリル系のUV硬化樹脂を使用しても良いし、インプリントのプロセスによっては、SOGなどの無機系材料や、有機無機ハイブリッドタイプの材料を使用することも可能である。
【0055】
ここで、NDフィルタのように可視波長全域に吸収を持つフィルタの場合、紫外域にも吸収を持っている場合が多い。従って、使用するUV光の波長によっては、フィルタの基板側から光を照射した場合、NDフィルタがその光の少なくとも一部を吸収してしまい、十分な光が樹脂まで届かない場合がある。従って、そのような場合はモールド側からUV光を照射する必要があり、必要なUV光の波長を十分に透過する材質のモールドを選択する必要がある。
【0056】
以上によって作製されたNDフィルタ13の分光反射率特性を(株)日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4100を用い測定した結果が
図4である。可視波長領域における反射率が0.1%以下になった。以上より、本実施例1で作製された光学フィルタは非常に低い反射率を実現できた。
【0057】
(比較例)
実施例1で作製された光学フィルタと略同様の構成で、ND膜のみでの反射特性を最適化した膜構成に変え作製した比較例について、以下に詳細を記載する。
本比較例におけるNDフィルタは、本実施例1と同様に
図2に示す構成のように、ND膜21の上部に微細構造体22を形成した。
図2に示す構成において、厚さ1.0mmのBK−7ガラスを基板20として、この基板20上にND膜21を形成し、この上に微細構造体22を形成した。
【0058】
最初に、基板20の片面側に、真空蒸着法により複数の薄膜を積層したND膜21を形成した。ND膜21を構成する薄膜材料として、本実施例では
図5で示すような積層構造とした。また、成膜レート等の成膜プロセスの諸条件は、可能な限り実施例1と同様に調整した。
【0059】
ここで、このようなND膜21の膜構成において、本実施例では、基板20を含んだND膜21としての総体的な反射を可能な限り小さくする膜構成とし、同様の理由からND膜21の最表層は屈折率が低く、最表層として最も安定的に反射を低減可能なMgF2を選択した。
【0060】
このように作製されたND膜21上に、UV硬化樹脂を用いた光ナノインプリント法を用い、微細構造体22を形成した。
【0061】
ここで、反射低減の観点からND膜21の最表層であるMgF
2層と微細構造体22との屈折率差をそれぞれ0.1以下となるように構成した。波長540nmのおける屈折率を例に取ると、微細構造体の屈折率は1.42、MgF2層の屈折率は1.38であり、本実施例においては、ND膜21と微細構造体22と界面での屈折率差は0.04であり、屈折率差が0.05以下となる構成とした。
【0062】
本実施例における微細構造体22は、突起構造を周期的に配置したピラーアレイ状とし、少なくてもND膜として必要される可視波長領域の光の反射率は低減できる構造となるように、可視波長の400nm以下となる、250nm以下のピッチで、構造体は高さ500nmの釣鐘型のモス・アイ形状とした。
【0063】
まずは、基板上にUV硬化樹脂を0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し適量滴下した後、スピンコート法により所定の膜厚となるように基板全面にUV硬化樹脂を塗工した。
【0064】
その後、この基板に、樹脂の硬化収縮を加味し、前述の形状を反転させ設計されたホールアレイ形状に離型処理を施した石英モールドを押し当て、少しの時間この状態を保持した後、そのままの状態でUV光を照射することで樹脂を硬化させ、前述のような形状を持つ微細構造体22を作製した。
【0065】
このようなUV硬化樹脂は各種様々な材料を用いることが可能であるが、本比較例では実施例1と同じ、フッ素系のUV硬化樹脂を使用した。
【0066】
以上によって作製されたNDフィルタ23の分光反射率特性を(株)日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計U4100を用い測定した結果が
図6中の比較例サンプル(1)である。可視波長領域における反射率は2.9%以下になった。
【0067】
また、同様の構成で微細構造体22を形成しない、基板20と光学膜21のみで構成されたフィルタについて同様の測定を行った結果が
図6中の比較例サンプル(2)であり、可視波長域における反射率は0.4%以下になった。
【0068】
ここで、比較例で作製したこれら2つのフィルタと、実施例1で作製されたフィルタの透過特性を比較した結果が
図7であり、3サンプルでほぼ同じ分光透過特性を得られていることが分かる。
【0069】
本比較例では、ND膜のみでの反射特性を低減する膜構成としたことで、微細構造体を形成しない比較例サンプル(2)の方が、微細構造体を形成した比較例サンプル(1)よりも可視波長域での反射率が小さい結果となった。
【0070】
以上より、本比較例で作製されたサンプルと実施例1で作製されたサンプルを比較したところ、反射低減の観点から最適化された実施例1の構成の方が、より反射率が低い結果となった。
【0071】
(実施例2)
本実施例1では、微細構造体を備えたNDフィルタについて述べたが、この他の光学フィルタにおいても、同様の効果を得ることが可能である。例えば、IR(赤外線)カットフィルタ、UV(紫外線)カットフィルタ、UVIRカットフィルタ、カラーフィルタ、蛍光フィルタ、その他のバンドパスフィルタやエッジフィルタなどへ適用できる。
【0072】
これらの光学膜上に反射防止効果を発現する微細構造体を形成し、微細構造体との界面層と微細構造体との屈折率差を小さく構成し、更に各光学膜は、光学膜の最表層と微細構造体との界面での反射を無視した、それ以外の界面からの光干渉効果により形成される反射を可能な限り小さくする積層構成とすることで、光学フィルタ総体として非常に低い反射特性を得ることが可能である。
【0073】
(実施例3)
実施例1のような構成の光学フィルタにおいて、基板の両面に光学膜と微細構造体を構成した例や、光学膜全体を微細構造体で覆った例、更には界面の一部に密着層を挿入した例など、他の構成例について以下に説明する。
【0074】
1つ目として、
図8(a)に示す構成のように、基板の両面に多層薄膜により構成されたND膜を形成し、それぞれのND膜上に反射低減効果を発現する微細構造体を形成した構成例を記す。
【0075】
図8(a)に示す構成のように、透明なガラスである厚さ1.0mmのB270iガラスを基板30として、この基板30の片面側にND膜31と微細構造体33を、基板30のもう一方の面側にND膜32と微細構造体34をそれぞれ形成した。
【0076】
最初に、基板30の片面側に、真空蒸着法により複数の薄膜を積層したND膜31を形成した後、基板の表裏を変え、もう一方の面に同様にND膜32を形成した。ND膜31、32は、本実施例3では全く同じ層構成、成膜条件で形成したが、これに限る必要はない。
【0077】
ここで、基板両面の各々において、実施例1と同様に、ND膜31、32のそれぞれで最表層となるSiO
2層と微細構造体33、34との界面での反射を無視した、それ以外の界面での反射を光干渉効果により相殺させることで、それ以外の界面での総体的な反射を可能な限り小さくする、
図9のような膜構成とした。
【0078】
つまりは、ND膜31内で形成される界面と、ND膜31及び透明基板30の界面とのうち、微細構造体33及びND膜31の界面からの入射光に対する1つの界面での反射光の位相と他の界面での反射光の位相とが、光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する構成となっており、同様にND膜32内で形成される界面と、ND膜32及び透明基板30の界面とのうち、微細構造体34及びND膜32の界面からの入射光に対する1つの界面での反射光の位相と他の界面での反射光の位相とが、光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する構成とした。
【0079】
また、本実施例における微細構造体33、34は、突起構造を周期的に配置したピラーアレイ状とし、少なくてもND膜として必要される可視波長領域の光の反射率は低減できる構造となるように、可視波長の400nm以下となる、250nm以下のピッチで、構造体は高さ500nmの釣鐘型のモス・アイ形状とした。
【0080】
光学膜作製後、光学膜上にUV硬化樹脂を0.2μmのPTFEフィルタを介し適量滴下した後、スピンコート法により所定の膜厚となるように全面にUV硬化樹脂を塗工し、基板の表裏を変え、基板裏面にも同様にUV硬化樹脂を塗工した。
【0081】
その後、光ナノインプリント法により基板両面を同時にインプリントすることで微細構造体33、34を作製した。このようなUV硬化樹脂は各種様々な材料を用いることができるが、本実施例3ではフッ素系のUV硬化樹脂を使用した。
【0082】
ここで、ND膜31、32と微細構造体33、34との密着性を向上させる為、ND膜31と微細構造体33との間、またはND膜32と微細構造体34との間、もしくはその両方の界面に密着層を設けることも可能である。
【0083】
また、反射低減の観点からND膜31の最表層であるSiO
2層と微細構造体33、及びND膜32の最表層であるSiO
2層と微細構造体34との屈折率差をそれぞれ0.1以下となるように構成した。波長540nmのおける屈折率を例に取ると、微細構造体の屈折率は1.42、SiO2層の屈折率は1.46であり、反射低減の観点から、ND膜31の最表層であるSiO
2層と微細構造体33、さらにND膜32の最表層であるSiO
2層と微細構造体34の屈折率差はそれぞれ0.04で、それぞれで屈折率差が0.05以下となるに構成した。
【0084】
2つ目として、
図8(b)に示すような、光学膜全体を覆うように微細構造体を構成した例を記す。
図8(b)に示す構成のように、多層薄膜により構成されたND膜41上に密着層43を形成し、反射低減効果を発現する微細構造体42を設けたNDフィルタ44を作製した。
【0085】
図8(b)に示す構成において、透明な厚さ0.075mmのPETフィルムを基板40とし、基板40の片面側に、真空蒸着法により複数の薄膜を積層したND膜41を形成した。ここで、成膜エリアを限定する為に、マスク蒸着を行った。本実施例3のND膜41は
図3で示すような膜構成とした。
【0086】
ここで、実施例1と同様に、ND膜41は、ND膜41の最表層となるSiO2層と密着層43との界面での反射を無視した、それ以外の界面での反射を光干渉効果により相殺させることで、それ以外の界面での総体的な反射を可能な限り小さくする膜構成とした。
【0087】
つまりは、ND膜41内で形成される界面と、ND膜41及び透明基板40の界面とのうち、密着層43及びND膜41の界面からの入射光に対する1つの界面での反射光の位相と他の界面での反射光の位相とが、光干渉によって互いに打ち消し合う逆位相の関係を有する構成とした。
【0088】
次に、ND膜41と微細構造体42との密着性を向上させる為、プライマー処理を行い、ND膜41と微細構造体42との間との間に密着層43を設けた。このようなプライマー液として、シランカップリング剤をベースに、IPAや硝酸等を適量加え、さらに密着力を強化する目的で、TEOSを加えたものを用いた。
【0089】
これを、0.2μmのPTFEフィルタを介し基板上に滴下し、スピンコートにより極薄膜となるように塗工した後、所定の条件で乾燥処理を行い、密着層を形成する。ここで、下地となる光学膜に悪影響を与えない範囲であれば、プライマー液をより均一に塗工する為に、プライマー液塗工前に、UVオゾンなどによる親水化処理を施しても良い。
【0090】
また、このようなプロセスによる塗工を行った場合、光学膜が形成されていない基板部分にも密着層が形成されるが、これが問題となる場合は、マスキングを施したり、プロセスをインクジェット法やグラビア法、マイクロコンタクトプリント法などに変えたりして、塗工領域を制限し密着層を形成すれば良い。
【0091】
このように作製された、密着層43が形成されたND膜41の、断面を含む全てを覆う領域に微細構造体42を形成した。このような微細構造体の形成にはUV硬化樹脂を用いた光ナノインプリント法を用いた。
【0092】
微細構造体42は、突起構造を周期的に配置したピラーアレイ状とし、少なくてもND膜として必要される可視波長領域の光の反射率は低減できる構造となるように、可視波長の400nm以下となる、250nm以下のピッチで、構造体は高さ500nmの釣鐘型のモス・アイ形状とした。
【0093】
まずは、基板上にUV硬化樹脂を0.2μmのPTFEフィルタを介し適量滴下した後、スピンコート法により所定の膜厚となるように基板全面にUV硬化樹脂を塗工した。その後、光ナノインプリント法により微細構造体42を作製した。このようなUV硬化樹脂は各種様々な材料を用いることができるが、本実施例ではフッ素系のUV硬化樹脂を使用した。
【0094】
ここで、反射低減の観点から、塗工後の硬化した密着層43の屈折率を調整し、密着層43と隣接する微細構造体42、及び密着層43とND膜41の最表層であるSiO
2層との屈折率差をそれぞれ0.1以下となるように構成した。波長540nmのおける屈折率を例に取ると、微細構造体の屈折率は1.42、密着層の屈折率は1.42、SiO
2層の屈折率は1.46であり、本例においては、密着層43と微細構造体42との屈折率差は0.0であり、密着層とSiO
2層との屈折率差は0.04となる構成とした。
【0095】
また、このような密着層は、基板とND膜との界面に挿入されても良いし、基板とND膜との界面、及びND膜と微細構造体との界面など、2つ以上の界面に挿入されても良い。
【0096】
以上のように、光学膜全体を微細構造体で覆う構造とすることで、湿度や温度など周囲雰囲気からの影響を受け、形成された光学膜の一部が酸化したり、吸水することで光学特性が変化したりするのを大幅に低減することが可能であり、例えば本実施例3におけるND膜41など、特に反射低減効果を有する光学膜においては、反射率の増加を抑制することができる。
【0097】
(実施例4)
図10に光量絞り装置を示す。次に、本実施例1で作製したNDフィルタを備える光量絞り装置を光学装置(ビデオカメラ)に適用した実施例について
図10を用いて説明する。
【0098】
ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根51を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。
【0099】
このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ54を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。入射光がこの光量絞り装置53を通過し、固体撮像素子(不図示)に到達することで電気的な信号に変換され画像が形成される。
【0100】
また、
図11において、61はレンズユニット61A〜61Dを有する撮影光学系である。62はCCD等の固体撮像素子であり、撮影光学系61によって形成される光線a、bの像を受光し、電気信号に変換する。63は光学ローパスフィルタである。撮影光学系61は、
図11に示したNDフィルタ64、絞り羽根65、66、地板67で構成される光量絞り装置を有している。
【0101】
以上の実施例の構成によれば、解像度低下の少ないNDフィルタを提供することができる。NDフィルタ64に本実施例1で作製した微細構造体を備えたNDフィルタを用いたものは、低反射特性に優れていた。
【0102】
これにより作製された光量絞り装置は、フィルタの反射に起因したゴーストなどの不具合を著しく低減することができる。
【0103】
これに限らず、他の光学装置であっても、実施例1や実施例2、3のような光学フィルタを用いることで、フィルタの反射に起因した装置上の不具合を著しく低減することが可能である。