(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980420
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】ボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
F16B35/00 M
F16B35/00 T
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-115847(P2017-115847)
(22)【出願日】2017年6月13日
(65)【公開番号】特開2019-2439(P2019-2439A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】593104132
【氏名又は名称】イワタボルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】影山 正直
【審査官】
児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−232682(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2009−0044684(KR,A)
【文献】
米国特許第06135892(US,A)
【文献】
特表2012−504731(JP,A)
【文献】
特開平07−238911(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0281763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と軸部を有するボルトであって、
前記軸部は、
ナットとかみ合う通常ねじ部と、
前記通常ねじ部よりも先端側に設けられ、前記通常ねじ部のねじ山より小径のねじ山を有する案内ねじ部と、を有し、
前記案内ねじ部の先端に前記通常ねじ部の谷の径よりも大径の保護部が前記案内ねじ部から連続して形成され、前記案内ねじ部のねじ山の先端に圧力側フランク面は形成されているが遊び側フランク面は形成されておらず、
前記保護部と連続している部位以外の前記案内ねじ部の前記遊び側フランク面側の谷の径は、前記保護部の外径よりも小径とされている、ボルト。
【請求項2】
前記保護部の前端に先端に向かって小径となるテーパ部が設けられている、請求項1に記載のボルト。
【請求項3】
前記保護部は、前記案内ねじ部のねじ山の外径がナットのねじ山の内径のJIS B 0209-2:2001で定められる規格下限値より小さくなる位置より先端側の前記案内ねじ部の谷の径を、前端の前記案内ねじ部のねじ山の外径と同じかそれより大きくすることにより形成されている、請求項1または2に記載のボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトをナットに対して斜めに挿入してしまうと、締め付け時にボルトとナットの間でかじりが生じてしまう。そこで特許文献1は、通常ねじ部と、案内ねじ部と、円筒状ガイドを有するボルトを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-156400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のボルトにおいては、案内ねじ山と円筒状ガイドとの間に軸方向の隙間を設けることにより、案内ねじ山が雌ねじ部材の入り口に係合するまでの円筒状ガイドの進入量を長くし、円筒状ガイドの外径の寸法精度を上げることなく、ボルト挿入時の傾きを小さくしている。
しかし、特許文献1に記載のボルトにおいても締結時のナットへのかじりの抑制に改善の余地があることを本発明者は見出した。
そこで本発明は、締結時のナットへのかじりが抑制されたボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一側面に係るボルトは、
頭部と軸部を有するボルトであって、
前記軸部は、
ナットとかみ合う通常ねじ部と、
前記通常ねじ部よりも先端側に設けられ、前記通常ねじ部のねじ山より小径のねじ山を有する案内ねじ部と、を有し、
前記案内ねじ部の先端に前記通常ねじ部の谷の径よりも大径の保護部が前記案内ねじ部から連続して形成され、前記案内ねじ部のねじ山の先端に圧力側フランク面は形成されているが遊び側フランク面は形成されていない。
【0006】
上述したボルトにおいて、前記保護部の前端に先端に向かって小径となるテーパ部が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るボルトによれば、締結時のナットへのかじりが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ナットと本発明の実施形態のボルトを示す図である。
【
図2】比較例のボルトがナットに対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
【
図3】本実施形態のボルトがナットに対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
【
図4】比較例のボルトがナットに対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
【
図5】本実施形態のボルトがナットに対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るボルト1を図面を用いて説明する。
図1はボルト1とナット100を示している。
【0010】
図1に示すように、ボルト1は、頭部2と軸部3を有している。軸部3はボルト1の軸方向に延びている。以降の説明において、説明の都合上、軸方向の頭部2側を後方、軸方向の軸部3側を前方と呼ぶ。頭部2は、図示した六角形状に限られず、円柱状や多角形状であってもよい。
【0011】
図1に示すように、軸部3には、通常ねじ部10と、案内ねじ部20と、保護部30とが設けられている。軸方向の後方から前方に向かって、通常ねじ部10と案内ねじ部20と保護部30がこの順に設けられている。
【0012】
通常ねじ部10は、ナット100のねじ山とかみ合う部位である。通常ねじ部10の外周面にはねじ山(以降、通常ねじ山11と呼ぶ)が設けられている。通常ねじ山11の外径d1は軸方向のいずれの部位も同一である。通常ねじ山11の外径d1は、ナット100のねじ山の内径D1より大きく、ナット100の谷の径D2より小さい。通常ねじ山11の谷の径d2は、ナット100のねじ山の内径D1よりも小さい。
【0013】
案内ねじ部20は、通常ねじ部10と連続して設けられている。案内ねじ部20のねじ山(以降、案内ねじ山21と呼ぶ)は、通常ねじ山11と連続している。案内ねじ山21は後方から前方に行くにつれて徐々に山高さが低くなるように形成されている。案内ねじ山21の後端の山高さは通常ねじ山11の前端の山高さと同一である。案内ねじ山21のピッチは通常ねじ山11のピッチと同じである。案内ねじ部20の谷の径d3は、通常ねじ部10の谷の径d2と等しい。
【0014】
保護部30は、案内ねじ部20と連続して設けられている。保護部30は、案内ねじ山21の外径がナット100のねじ山の内径D1のJIS B 0209-2:2001で定められる規格下限値より小さくなる位置より先端側の案内ねじ部20の谷の径d3を、案内ねじ山21の前端25の外径と同じかそれより大きくすることにより形成されている。なお、JIS B 0209-2:2001はISO 965-2:1998と同等の規格である。
【0015】
保護部30の外径d4は、案内ねじ部20の谷の径d3よりも大きい。保護部30は案内ねじ山21の前端25の山頂と連続して設けられている。保護部30の外径d4は、図示したように軸方向位置によらずに一定としてもよいし、例えば前方に向かって先細りとなるように変化していてもよい。
【0016】
保護部30の後端の外径d4は、通常ねじ山11の外径d1の80%以上90%以下とすることができる。保護部30の後端の外径d4は、ナット100のねじ山の内径D1の90%以上100%未満とすることができる。
【0017】
案内ねじ山21の前端25と保護部30とが連続しており、保護部30の外径d4が案内ねじ部20の谷の径d3よりも大きい。このため、案内ねじ山21の前端25(先端)には遊び側フランク面22が形成されていない。なお、案内ねじ山21の前端25には圧力側フランク面23は形成されている。遊び側フランク面22とはねじ山の前方を向く斜面である。遊び側フランク面22は、ねじ山の山頂より締結相手(ナット100)側に位置する斜面である。圧力側フランク面23とは、ねじ山の後方を向く面である。圧力側フランク面23は、ねじ山の山頂より締結相手(ナット100)の反対側に位置する斜面である。
【0018】
なお、
図1に示したように、保護部30の前端25に先端に向かって小径となるテーパ部40が設けられていてもよい。テーパ部40により、ボルト1をナット100へ挿入しやすくなる。
【0019】
図2および
図3を用いて本実施形態に係るボルト1の効果を説明する。まず、
図2の比較例に係るボルト1Aを用いて、本発明に係るボルト1が解決しようとする課題を詳細に説明する。
図2は比較例のボルト1Aがナット100に対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
【0020】
図2に示すように、比較例のボルト1Aにおいて、ねじ部に通常ねじ部10Aと、案内ねじ部20Aと、案内ねじ山21Aの外径と等しいかそれよりも小さい径のガイド部30Aが設けられている。案内ねじ山21Aはガイド部30Aと連続していない。案内ねじ山21Aは、前端に向かうにつれて山高さが徐々に小さくなり谷部に収束し、ねじ山がなくなる形状となっている。案内ねじ山21Aの前端25Aには遊び側フランク面22Aと圧力側フランク面23Aの両方が形成されている。案内ねじ部20Aの前端25Aと案内ねじ山21Aとの間には微小高さのねじ山が形成されている。微小高さのねじ山にも遊び側フランク面22Aと圧力側フランク面23Aの両方が形成されている。
【0021】
図2において、ナット100に対して傾いた状態でボルト1Aが挿入されると、挿入の初期段階ではナット100のねじ山101はガイド部30Aに当接するが、挿入するにつれてナット100のねじ山101は、ガイド部30Aと案内ねじ部20Aとの間の谷部26Aに落ち込んでしまう。案内ねじ山21Aの前端25A近傍において、ナット100のねじ山101がボルト1Aの遊び側フランク面22Aをひっかいてしまう。すると、案内ねじ山21Aの前端25Aがナット100のねじ山101によってせん断されてしまうことがある。この状態でボルト1Aをナット100にねじ込んでいくと、せん断された案内ねじ山21Aの前端25Aの破片がボルト1Aとナット100の間に噛み込まれ、ボルト1Aとナット100の間にかじりが生じてしまう。なお、案内ねじ山21Aの前端25Aだけではなく、前端25Aから続く案内ねじ山21Aの前方側の一部分もナット100のねじ山101によってせん断されてしまうことがある。このように、ナット100のねじ山101は案内ねじ山21Aの前端25A近傍をせん断してしまうことがある。
【0022】
図3は、上述した本実施形態に係るボルト1がナット100に対して傾いた状態で挿入される様子を示す図である。
図3に示すように、ナット100に対して傾いた状態でボルト1が挿入されると、挿入の初期段階ではナット100のねじ山101は保護部30に当接する。挿入するにつれてナット100のねじ山101は保護部30の外周を滑り、案内ねじ山21の前端25近傍の山頂を越える。このため、最も強度の弱い案内ねじ山21の前端25は、ナット100のねじ山101からせん断される力を受けにくく、比較例のように案内ねじ山21の前端25近傍がせん断されにくい。
【0023】
なお、さらにボルト1をナット100にねじ込んでいくと、ナット100のねじ山101は案内ねじ山21の前端25から離れた部位において遊び側フランク面22に接触する。しかし、案内ねじ山21の前端25から離れた後方の部位においては、案内ねじ山21はある程度大きく形成されており、十分な強度を有している。また、案内ねじ山21の前端25が保護部30とつながっているため、案内ねじ山21Aの前端25Aがガイド部30Aとつながっていない比較例と比べて、遊び側フランク面22に作用するせん断力に対する機械的な強度が高い。このため、案内ねじ山21の前端25から離れた部位においてナット100のねじ山101からせん断力を受けたとしても、案内ねじ山21の前端25近傍がボルト1からせん断されにくい。
【0024】
案内ねじ山21の前端25において、圧力側フランク面23にせん断力を受けてもせん断されにくくするためにねじ山をある程度大きく形成する必要がある。そこで、保護部30の後端の外径d4は、案内ねじ山21の谷の径d3よりも0.15P(Pは案内ねじ山21のピッチ)以上大きくする。好ましくは、並目ねじの場合、保護部30の後端の外径d4は、案内ねじ山21の谷の径d3よりも0.2P以上大きくする。並目ねじの場合、保護部30の後端の外径d4は、案内ねじ山21の谷の径d3のP以下とすることが好ましい。
【0025】
また、ナット100に対して斜めに挿入されるボルト1の傾き角度を小さくするため、保護部30の後端の外径d4は、ナット100のねじ山の内径D1のJIS B 0209-2:2001で定められる規格下限値の90%以上100%未満とする。好ましくは、保護部30の後端の外径d4は、ナット100のねじ山の内径D1のJIS B 0209-2:2001で定められる規格下限値の95%以上100%未満とする。
【0026】
なお、
図2および
図3においては、ボルト1のナット100への挿入時に遊び側フランク面22にせん断力が作用する場合を説明したが、ボルト1のナット100への挿入時に圧力側フランク面23にせん断力が作用する場合も同様である。
【0027】
図4および
図5はボルト1A,1のナット100への挿入時に圧力側フランク面23A,23にせん断力が作用する様子を示す図である。
図4は
図2と同様の比較例のボルト1Aをナット100へ挿入する様子を示し、
図5は
図3と同様の本実施形態のボルト1をナット100へ挿入する様子を示す。
【0028】
図4に示すように、比較例のボルト1Aをナット100に挿入していくと、ナット100のねじ山101が案内ねじ山21Aの圧力側フランク面23Aを押し、ボルト1Aをナット100へ引き込むような力が作用することがある。この場合に、比較例のボルト1Aにおいては、案内ねじ山21Aの前端25Aが小さいためナット100のねじ山101によってせん断力を受けるとせん断してしまうことがある。せん断された案内ねじ山21Aの前端25A近傍の破片がボルト1Aとナット100の間でかじりを生じさせてしまう。
【0029】
しかし
図5に示すように、本実施形態のボルト1によれば、案内ねじ山21の前端25はある程度大きく形成されており、かつ、保護部30とつながっているので、機械的強度が高い。このため、圧力側フランク面23からせん断力を受けたとしても、案内ねじ山21の前端25近傍がせん断されにくい。
【符号の説明】
【0030】
1,1A ボルト
2 頭部
3 軸部
10,10A 通常ねじ部
11 通常ねじ山
20,20A 案内ねじ部
21,21A 案内ねじ山
22,22A 遊び側フランク面
23,23A 圧力側フランク面
25,25A 前端
30 保護部
30A ガイド部
40 テーパ部
100 ナット
101 ねじ山
d1 通常ねじ山の外径
d2 通常ねじ部の谷の径
d3 案内ねじ部の谷の径
d4 保護部の外径
D1 ナットのねじ山の内径
D2 ナットの谷部の内径