特許第6980440号(P6980440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980440
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】油性磁性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20211202BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20211202BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20211202BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20211202BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   C09D11/322
   C09D11/326
   C09D11/36
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-143873(P2017-143873)
(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公開番号】特開2019-26659(P2019-26659A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】山田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 直史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祥史
【審査官】 武重 竜男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−312922(JP,A)
【文献】 特開平06−338050(JP,A)
【文献】 特開2016−221807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトを含む磁性顔料、酸価を有し、塩基価を有しない顔料分散剤A、酸価及び塩基価を有する顔料分散剤B、及び非水系溶剤を含み、
前記非水系溶剤は、蒸留初留点が150℃以上である石油系炭化水素溶剤、及び脂肪酸エステル系溶剤を含み、
前記フェライトを含む磁性顔料はインク全量に対し30質量%以上である、油性磁性インクジェットインク。
【請求項2】
前記顔料分散剤Aは、ヒドロキシステアリン酸及びポリヒドロキシステアリン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項3】
前記顔料分散剤Bは、酸価が5mgKOH/g以上である、請求項1又は2に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項4】
前記顔料分散剤Aと前記顔料分散剤Bとの質量比が、顔料分散剤A:顔料分散剤B=20:80〜80:20である、請求項1から3のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項5】
前記脂肪酸エステル系溶剤の沸点は200℃以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項6】
前記顔料分散剤Aは、酸価が10mgKOH/g以上であり、前記顔料分散剤Bは、酸価が5mgKOH/g以上、塩基価が3mgKOH/g以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項7】
前記顔料分散剤Aは質量比で磁性顔料1に対して0.01〜1であり、前記顔料分散剤Bは質量比で磁性顔料1に対して0.01〜1である、請求項1から6のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項8】
前記顔料分散剤Aは高分子化合物である、請求項1から7のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【請求項9】
前記顔料分散剤A及び前記顔料分散剤Bの合計量は、質量比で顔料1に対し0.1〜1である、請求項1から8のいずれか1項に記載の油性磁性インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性磁性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
小切手や紙幣などの印刷に用いられるセキュリティ印刷の一種として、磁性顔料を含む画像を形成する磁気印刷が知られている。磁気インクで印刷された磁気情報を磁気ヘッドで読み取る方法として、磁気インク文字認識システム(MICR)がある。この磁気インクには磁性顔料が含まれており、一般に酸化鉄やフェライト等が用いられる。
磁気印刷で用いられる印刷方法としては、従来、磁性インクを用いた方法の他に、磁性トナーや磁性インクリボンを用いた方法が知られているが、近年、印刷コスト等の点から磁性インクを用いたインクジェット印刷方法の開発が進められている。
【0003】
特開2014−234515号公報(特許文献1)には、デジタル・データ・リソグラフィに適する磁気インクとして、硬化性モノマーを主成分とする溶液に磁性顔料が含まれるインクが提案されている。
【0004】
特開2016−221807号公報(特許文献2)には、磁性顔料を有する油性の磁性インクを印刷した後に、着色剤を有する色インクを印刷することで、良好な磁気特性とともに所望の色彩を備える画像を提供する、インクジェット印刷に適する磁気印刷方法が提案されている。特許文献2の実施例では、非水系溶剤に磁性顔料が1種類の分散剤とともに配合されている。
【0005】
特開2009−500816号公報(特許文献3)には、ショックアブソーバー、クラッチ、ブレーキ等に使用するための磁場の作用下でレオロジー特性が変化する磁性流体配合物が提案されている。この磁性流体配合物には、基油、カルボニル鉄紛等の磁性粒子、分散剤、及びチキソトロープ剤が配合される。特許文献3の実施例では、80質量%以上の磁性粒子が配合され、さらにチキソトロープ剤ととともに、分散剤としてリン酸エステル、ポリヒドロキシステアリン酸、アルキル樹脂がそれぞれ単独で配合されるインクについて、再分散力、流動挙動が検討されている。
【0006】
特開2012−233053号公報(特許文献4には、水性の磁性インクジェットインクとして、水性分散媒中に、MnCoFe(x+y=1、かつx/yが0.5以上、0.9以下)で表されるコバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子を分散させたインクにおいて、特定のジホスホン酸アミン塩を分散安定剤として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−234515号公報
【特許文献2】特開2016−221807号公報
【特許文献3】特開2009−500816号公報
【特許文献4】特開2012−233053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、磁気インクでは、文字を読み取るために磁性顔料の濃度を高める必要があるが、磁性顔料が高濃度になると分散安定性も低下し、特に高温環境における経時での粘度変化が顕著となって、貯蔵安定性が低下する問題がある。また、磁性顔料は、一般的なインクに用いられる顔料に比べて、比重が大きいため、貯蔵安定性がより問題になる。
インクジェットインクでは、磁性顔料が高濃度で含まれると、インク粘度が上昇し、インクジェットノズルからの吐出不良が生じる問題がある。インク粘度は、水性インクよりも溶剤粘度が高い油性インクでより問題となる。
【0009】
特許文献1から4では、いずれも2種以上の分散剤を組み合わせて用いることが具体的に開示されていない。
特許文献1では、モノマー成分を主成分とする硬化性インクのため、1種類の分散剤によって磁性顔料を十分に分散可能である。
特許文献2の磁性インクでは、インク粘度及び貯蔵安定性をさらに改善して、磁性顔料をより高濃度に配合するためにさらに検討が必要である。
特許文献3では、高濃度で配合される磁性粒子の沈殿後の再分散性が重要であり、磁性粒子が分散した状態を長時間にわたって維持するものではない。
特許文献4では、水性の磁性インクであり、油性インクの高粘度化の問題を考慮すると、水性インクの成分を油性インクにそのまま用いることは難しいし、インク粘度及び貯蔵安定性についてさらに検討が必要である。
【0010】
また、特許文献4のコバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子のように保磁力が大きく、残留磁化が高い磁性粒子は、インク中で凝集しやすい問題がある。磁性体粒子の凝集は、インクの粘度変化を引き起こし、インクジェットインクでは、インクジェットヘッドからの吐出不良につながることがある。油性インクにおいてコバルトマンガンフェライトからなる磁性体粒子を用いる場合、特許文献1〜3で用いられる各種分散剤を用いても、インク粘度及び貯蔵安定性が十分に改善されない問題がある。
【0011】
本発明の一目的としては、低粘度であるとともに、貯蔵安定性を改善する油性磁性インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態としては、フェライトを含む磁性顔料、酸価を有し、塩基価を有しない顔料分散剤A、酸価及び塩基価を有する顔料分散剤B、及び非水系溶剤を含む、油性磁性インクである。
【発明の効果】
【0013】
一実施形態によれば、低粘度であるとともに、貯蔵安定性を改善する油性磁性インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0015】
一実施形態による油性磁性インク(以下、単にインクと称することがある。)としては、フェライトを含む磁性顔料、酸価を有し、塩基価を有しない顔料分散剤A、酸価及び塩基価を有する顔料分散剤B、及び非水系溶剤を含む、ことを特徴とする。
これによれば、低粘度であるとともに、貯蔵安定性を改善する油性磁性インクを提供することができる。特に、高温下での貯蔵安定性を改善することができる。また、このインクによって印刷物に形成される文字は、磁性読取可能な磁性強度を備えることができる。
【0016】
磁性顔料は、比重が大きいため、非水系溶剤中に安定して分散しにくい問題がある。分散性を改善するために、顔料分散剤を多めに添加しても、分散性は十分に改善されずに、かえってインク粘度が上昇することがある。
磁性顔料は、その表面に水酸基等の官能基を有する。磁性顔料表面の水酸基は、周辺のpHに依存して、酸性または塩基性を示す。顔料分散剤Aは、酸性の官能基を有し、塩基性の水酸基と相互作用すると考えられる。また、顔料分散剤Bは、酸性の官能基と塩基性の官能基とを有し、酸性の水酸基と塩基性の水酸基の両方と相互作用すると考えられる。
顔料分散剤Aと顔料分散剤Bとを併用することによって、磁性顔料表面の水酸基が酸性又は塩基性かによらずに、磁性顔料表面の水酸基に作用して、磁性顔料表面と効率よく相互作用することができる。このため、低粘度で、貯蔵安定性が良好な油性磁性インクが得られると考えられる。
【0017】
例えば、コバルトを含むフェライト粒子のような磁性顔料を用いる場合では、鉄やコバルトなど異なる元素を含むため等電点が異なると考えられ、いずれのpHにおいても、磁性顔料表面に酸性の水酸基と塩基性の水酸基が混在すると考えられる。顔料分散剤を単独で用いる場合には、磁性顔料表面の酸性の水酸基と塩基性の水酸基のどちらか一方に偏って顔料分散剤の官能基が作用して、磁性顔料表面と十分に相互作用しない可能性がある。この場合も、顔料分散剤Aと顔料分散剤Bとを併用することで、上記の通り、磁性顔料表面と効率よく相互作用して、インクを低粘度化するとともに、貯蔵安定性を改善することができる。
【0018】
磁性インクには、磁性顔料が含まれることが好ましい。
この磁性顔料は、磁性材料によって形成される粒子である。磁性材料の種類にもよるが、着色剤を含まない場合は、磁性顔料は黒色を呈するものが多い。
磁性顔料には、フェライト等の強磁性体を好ましく用いることができる。
フェライトは各種金属酸化物との固溶体であることが好ましい。例えば、フェライトには、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)等が単独で、または2種以上混合されて含まれてよい。
磁性顔料の一例には、コバルトを含むフェライト粒子、コバルト及びマンガンを含むフェライト粒子、バリウムを含むフェライト粒子等が挙げられる。特に、コバルトを含むフェライト粒子は、保磁力及び残留磁化に優れるため、磁性インクに適し、また、顔料分散剤A及び顔料分散剤Bと併用することでインク粘度及び貯蔵安定性を改善することができる。
【0019】
また、磁性顔料の粒子径は、分散状態のメジアン径が、10nm〜200nmであることが好ましい。10nmより小さいと、にじみが大きくなり、文字の磁性認識精度が低下することがある。200nmより大きいと、磁性粒子の沈降が起こることがある。
ここで、磁性顔料の分散状態のメジアン径は、動的散乱方式による体積基準のメジアン径であり、例えば、株式会社堀場製作所製のナノ粒子解析装置「SZ−100S」等を用いて測定することができる。以下同じである。
【0020】
磁性顔料は、インク全量に対し、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。これによって、印刷画像の視認性とともに磁性強度を高めることができる。
磁性顔料は、インク全量に対し、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは50質量%以下である。磁性顔料は、比較的比重が重いが、分散剤A及び分散剤Bを用いることで、磁性顔料を高濃度としても、分散安定性を良好に維持することができる。
【0021】
油性磁性インクには、酸価を有し、塩基価を有しない顔料分散剤A、及び酸価及び塩基価を有する顔料分散剤Bが含まれることが好ましい。
【0022】
ここで、酸価は、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム(mg)数で表される。
塩基価は、試料1g中に含まれる塩基性成分を中和するのに要する塩酸又は過塩素酸と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数で表される。
酸価及び塩基価は、JISK2501:2003「石油製品及び潤滑油─中和価試験方法」にしたがって測定することができる。
【0023】
顔料分散剤Aは、酸価を有し、塩基価を有しないことが好ましい。顔料分散剤が酸価を有する場合、顔料分散剤に酸性基が含まれることを示す。顔料分散剤が塩基価を有しない場合、顔料分散剤に塩基性基が含まれないことを示す。
顔料分散剤Aの酸価は、0mgKOH/g超過、又は1mgKOH/g以上であればく、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、一層好ましくは30mgKOH/g以上である。
顔料分散剤Aの酸価は、200mgKOH/g以下であればく、好ましくは150mgKOH/g以下であり、より好ましくは100mgKOH/g以下である。
顔料分散剤Aの塩基価は、0mgKOH/gであることが好ましい。
【0024】
なお、顔料分散剤Aは塩基価を有しないが、顔料分散剤Aに塩基性基が微量で含まれる可能性がある場合は、塩基価が1以下の範囲で顔料分散剤Aとして用いてもよい。特に、顔料分散剤Aの酸価が10mgKOH/g以上、好ましくは30mgKOH/g以上になる場合は、塩基価が1mgKOH/g以下で微量の塩基性が含まれても、酸性基と塩基性基との電荷バランスを考慮すると、顔料分散剤Aとして用いてもよい。
【0025】
顔料分散剤Aには、アニオン性の顔料分散剤を好ましく用いることができる。
顔料分散剤Aは、低分子化合物及び高分子化合物のいずれであってもよく、非水系溶剤に溶解性又は分散性を示すことがこのましい。
顔料分散剤Aには、カルボキシ基、リン酸基等の酸性基が含まれてもよいが、これに限定されない。
顔料分散剤Aとしては、例えば、ヒドロキシステアリン酸、ポリヒドロキシステアリン酸等を、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
顔料分散剤Aとして使用可能な市販品としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース3000、21000」(いずれも商品名)等を好ましく用いることができる。
【0027】
顔料分散剤Aは、インク全量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。
顔料分散剤Aは、インク全量に対し、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
また、顔料分散剤Aは、質量比で、磁性顔料1に対し0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.03以上である。
顔料分散剤Aは、質量比で、磁性顔料1に対し1以下であることが好ましく、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.2以下である。
これによって、インクに磁性顔料を安定して分散させるとともに貯蔵安定性を改善することができ、また、インク粘度の上昇を防止することができる。
【0028】
顔料分散剤Bは、酸価及び塩基価を有することが好ましい。顔料分散剤が酸価を有する場合、顔料分散剤に酸性基が含まれることを示す。顔料分散剤が塩基価を有する場合、顔料分散剤に塩基性基が含まれることを示す。
顔料分散剤Bの酸価は、0mgKOH/g超過、又は1mgKOH/g以上であればよく、好ましくは5mgKOH/g以上であり、より好ましくは7mgKOH/g以上である。
顔料分散剤Bの酸価は、200mgKOH/g以下であればく、好ましくは150mgKOH/g以下であり、より好ましくは100mgKOH/g以下である。
顔料分散剤Bの塩基価は、0mgKOH/g超過、又は1mgKOH/g以上であればよく、好ましくは3mgKOH/g以上であり、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは30mgKOH/g以上である。
顔料分散剤Bの塩基価は、200mgKOH/g以下であればよく、好ましくは150mgKOH/g以下であり、より好ましくは100mgKOH/g以下である。
【0029】
顔料分散剤Bは、酸価よりも塩基価が大きいことが好ましい。これによって、顔料分散剤Bの酸性基と塩基性基との電荷バランスが、顔料分散剤Aと作用しあって、インクの貯蔵安定性をより改善することができる。顔料分散剤Bにおいて、塩基価と酸価の差「塩基価−酸価」は150以下であることが好ましく、より好ましくは100以下である。また、顔料分散剤Bにおいて、塩基価と酸価の差「塩基価−酸価」は10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0030】
顔料分散剤Bには、両性分散剤、アニオン性分散剤の中でも塩基性基を有するもの、カチオン性分散剤の中でも酸性基を有するものを好ましく用いることができる。
顔料分散剤Bは、低分子化合物及び高分子化合物のいずれであってもよく、非水系溶剤に溶解性又は分散性を示すことが好ましい。
顔料分散剤Bには、カルボキシ基、リン酸基等の酸性基が含まれてもよいが、これに限定されない。
顔料分散剤Bには、アミノ基等の塩基性基が含まれてもよいが、これに限定されない。
【0031】
顔料分散剤Bとして使用可能な市販品としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製「ソルスパース13940(ポリエステルアミン系)、11200、28000、16000、17000」(いずれも商品名);クローダジャパン株式会社製「CrodafosO3A、Hypermer KD11、Hypermer LP5」(いずれも商品名);川研ファインケミカル株式会社製「ヒノアクトKF1300M」(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0032】
顔料分散剤Bは、インク全量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上である。
顔料分散剤Bは、インク全量に対し、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
また、顔料分散剤Bは、質量比で、磁性顔料1に対し0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.03以上である。
顔料分散剤Bは、質量比で、磁性顔料1に対し1以下であることが好ましく、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.2以下である。
これによって、インクに磁性顔料を安定して分散させるとともに貯蔵安定性を改善することができ、また、インク粘度の上昇を防止することができる。
【0033】
顔料分散剤A及び顔料分散剤Bは、合計量で、インク中に0.1〜20質量%であってよく、3〜10質量%が好ましい。
顔料分散剤A及び顔料分散剤Bは、合計量で、質量比で、顔料1に対し0.01〜1であってよく、0.1〜0.3が好ましい。
顔料分散剤Aと顔料分散剤Bとの質量比「顔料分散剤A:顔料分散剤B」は、10:90〜90:10が好ましく、20:80〜80:20がより好ましく、25:75〜75:25であってもよい。
【0034】
インクに顔料分散剤A及び顔料分散剤Bが配合されることで、その他の顔料分散剤をさらに配合しなくても、磁性顔料の分散性及び貯蔵安定性を十分に改善することができる。なお、その他の顔料分散剤がインクに配合されてもよい。
【0035】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤のいずれも使用できる。なお、一実施形態において、非水系溶剤には、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合しない非水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
非極性有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。
脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水系溶剤を挙げることができる。市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN−10、カクタスノルマルパラフィンN−11、カクタスノルマルパラフィンN−12、カクタスノルマルパラフィンN−13、カクタスノルマルパラフィンN−14、カクタスノルマルパラフィンN−15H、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもJXTGエネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製);モレスコホワイトP−40、モレスコホワイトP−60、モレスコホワイトP−70、モレスコホワイトP−80、モレスコホワイトP−100、モレスコホワイトP−120、モレスコホワイトP−150、モレスコホワイトP−200、モレスコホワイトP−260、モレスコホワイトP−350P(いずれも株式会社MORESCO製)等を好ましく挙げることができる。
芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもJXTGエネルギー株式会社製)等を好ましく挙げることができる。
石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが一層好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0037】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。
例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸エチルヘキシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2−オクチルデシル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16〜30の脂肪酸エステル系溶剤;
イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、1−オクタデカノール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12〜20の高級アルコール系溶剤;
ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α−リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14〜20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。
脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水系溶剤には、沸点を示さない非水系溶剤も含まれる。
【0038】
これらの非水系溶剤は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。
油性磁性インクでは、低いインク粘度と高い吐出安定性を両立するために、炭化水素溶剤及びエステル系溶剤の中から少なくとも1種を用いることが好ましく、炭化水素系溶剤とエステル系溶剤を併用することがより好ましい。
【0039】
上記各成分に加えて、油性インクには、本発明の効果を損なわない限り、各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0040】
インクは、上記した各成分を混合することで作製することができる。好ましくは、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより調製できる。
【0041】
一実施形態によるインクは、低粘度で貯蔵安定性が良好であるため、インクジェットインクとして用いることができる。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから一実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにすることが好ましい。
インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜40mPa・sであることが好ましく、5〜35mPa・sであることがより好ましく、10〜30mPa・s程度であることが、一層好ましい。
【0042】
一実施形態において、記録媒体は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙を用いることができる。
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm〜数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0043】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0044】
本発明の一連の実施形態を以下に説明する。
[1]フェライトを含む磁性顔料、酸価を有し、塩基価を有しない顔料分散剤A、酸価及び塩基価を有する顔料分散剤B、及び非水系溶剤を含む、油性磁性インク。
[2]前記顔料分散剤Aは、ヒドロキシステアリン酸及びポリヒドロキシステアリン酸からなる群から選択される1種以上である、[1]に記載の油性磁性インク。
[3]前記顔料分散剤Bは、酸価が5mgKOH/g以上である、[1]又は[2]に記載の油性磁性インク。
[4]前記顔料分散剤Aと前記顔料分散剤Bとの質量比が、顔料分散剤A:顔料分散剤B=20:80〜80:20である、[1]から[3]のいずれかに記載の油性磁性インク。
[5]前記非水系溶剤は、炭化水素系溶剤及びエステル系溶剤からなる群から選択される1種以上である、[1]から[4]のいずれかに記載の油性磁性インク。
[6]前記顔料分散剤Aは、酸価が10mgKOH/g以上であり、前記顔料分散剤Bは、酸価が5mgKOH/g以上、塩基価が3mgKOH/g以上である、[1]から[5]のいずれかに記載の油性磁性インク。
[7]前記顔料分散剤Aは質量比で磁性顔料1に対して0.01〜1であり、前記顔料分散剤Bは質量比で磁性顔料1に対して0.01〜1である、[1]から[6]のいずれかに記載の油性磁性インク。
[8]インクジェットインクである、[1]から[7]のいずれかに記載の油性磁性インク。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
「インクの作製」
インク処方を表1〜表3に示す。各表に示す成分割合にしたがって、各成分を混合した。混合物を、ジルコニアビーズとともに、50mL容器に入れて、株式会社セイワ技研社製のビーズミル「ロッキングミルRM05型(商品名)」を用いて、60Hz、2時間で分散した。その後、ジルコニアビーズを除去し、油性磁性インクを得た。
用いた磁性顔料は次のように準備した。インクジェットインク用に市販されているDiversified Nano Solutions Corporation(DNSC)社製「HD−2a(商品名)」の水性磁性分散体を高温乾燥させて磁性粒子粉体を取り出した。この磁性粒子粉体を磁性顔料として用いた。
【0047】
用いた成分は、以下の通りである。
コバルトマンガンフェライト:上記したDNSC社製「HD−2a(商品名)」を乾燥させたもの。
ソルスパース3000:日本ルーブリゾール株式会社製。
ソルスパース21000:日本ルーブリゾール株式会社製。
ソルスパース11200:日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分50%。
ヒノアクトKF1300M:川研ファインケミカル株式会社製。
ソルスパース28000:日本ルーブリゾール株式会社製。
ソルスパース13940:日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分40%。
CrodafosO3A:クローダジャパン株式会社製。
ソルスパース20000:日本ルーブリゾール株式会社製。
アイソパーL:イソパラフィン系溶剤、エクソンモービル社製「アイソパーL」。
イソノナン酸2−エチルヘキシル:高級アルコール工業株式会社製「ES108109」。
分散剤は商品名であり、分散剤に溶媒が含まれる場合は、カッコ内に有効成分を併記する。
各表に各分散剤の酸価及び塩基価を示す。酸価及び塩基価は、JISK2501:2003「石油製品及び潤滑油─中和価試験方法」にしたがって測定した。酸価及び塩基価の単位は「mgKOH/g」である。
【0048】
「評価」
上記インクについて、以下の方法により評価を行った。これらの評価結果を各表に併せて示す。
【0049】
(分散性)
インクを作製する際の磁性顔料の分散性を、以下の基準で評価した。
A:ビーズを除去する工程において、ビーズとインクを容易に分離できる。
B:ビーズを除去する工程において、ビーズとインクが分離できないほど粘度が高くなった。
【0050】
(インク粘度)
インク粘度は下記の基準で評価した。インク粘度は、レオメーターARG2(ティ−・エイ・インスツルメント社製)を用いて室温(23℃)で測定した。
A:インク粘度が35mPa・s以下。
B:インク粘度が35mPa・s超過。
【0051】
(貯蔵安定性)
まず、インク作製直後のインク粘度を測定した。次に、10mLのインクをスクリューバイアル瓶に入れ、70℃で2週間放置した。その後、インクをサンプリングして放置後のインク粘度を測定した。下記式にしたがって粘度変化率を算出し、下記の基準で評価した。なお、粘度測定は、上記インク粘度と同様の方法で測定した。
粘度変化率(%)=(放置後の粘度−作製直後の粘度)/作製直後の粘度×100
A:粘度変化率が±5%以内。
B:粘度変化率が±5%超過、±10%以内。
C:粘度変化率が±10%超過。
【0052】
(磁力信号強度)
ライン式インクジェットプリンタ「オルフィスEX9050」(理想科学工業株式会社製)を用いて、各インクによってE13B文字を印刷した。次いで、グローリー株式会社製リーダースキャナー「FB−20(商品名)」を用いて、プログラム「FB20MTR(商品名)」にて、得られた印刷物の磁力信号を読み取った。以下の基準で磁力信号強度を評価した。なお、E13B文字は、磁気インク文字認識(MICR)字体の規格である。
A:磁力信号を検出できた。
B:磁力信号を検出できなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
各表に示す通り、各実施例のインクは、低粘度で、分散性及び貯蔵安定性がよかった。さらに、各実施例の印刷物は、磁力信号強度が十分であった。
実施例1〜5では、各種分散剤A及び分散剤Bを用いており、結果が良好であった。
実施例1〜5を通して、分散剤Bの塩基価が酸価よりもより大きいことで、貯蔵安定性がより改善された。
また、実施例9から、分散剤Bの酸価が大きくなると、貯蔵安定性の低下に影響することがわかる。
【0057】
実施例2、6〜8では、分散剤A及び分散剤Bの組み合わせが同じであり、分散剤A及び分散剤Bの質量比及び合計量を変更したものであり、結果が良好であった。
【0058】
比較例1は、分散剤Bを配合しないインクであり、貯蔵安定性が低下した。
比較例2及び3は、分散剤Aを配合しないインクであり、高粘度化した。
比較例3では、分散剤Bのなかから酸価が大きく塩基価が小さい分散剤を用いているが、この分散剤が分散剤Aとして作用することはなく、高粘度化を防止できなかった。
比較例4では、分散剤Aとともに、酸価を有しない比較分散剤Cを用いているが、分散性が悪く、インクが作製できなかった。