特許第6980443号(P6980443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980443
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】露光装置及び物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20211202BHJP
   G02B 13/22 20060101ALI20211202BHJP
   G02B 13/24 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   G03F7/20 521
   G02B13/22
   G02B13/24
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-146780(P2017-146780)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2019-28223(P2019-28223A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】水谷 将樹
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−015987(JP,A)
【文献】 特開平08−316123(JP,A)
【文献】 特開2003−059817(JP,A)
【文献】 特開2005−101314(JP,A)
【文献】 特開2006−019702(JP,A)
【文献】 特開2000−114163(JP,A)
【文献】 特開2001−237183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G02B 13/22
G02B 13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を露光する露光装置において、
マスクを照明する照明光学系と、
前記マスクのパターンを基板上に投影する投影光学系と、
前記照明光学系の少なくとも1つの光学素子を前記投影光学系の光軸に対して偏心させる、又は、前記投影光学系の少なくとも1つの光学素子を前記照明光学系の光軸に対して偏心させる偏心機構と、を有し、
前記投影光学系の焦点位置からデフォーカスした位置のデフォーカス量に基づいて前記偏心機構により前記光学素子を偏心させることにより、前記デフォーカスした位置で発生する回転非対称性のディストーションを変更する、ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記照明光学系の光学素子を前記投影光学系の光軸に対して偏心させることにより、前記照明光学系の光軸からの距離に対するテレセントリシティの特性をシフトさせて、前記回転非対称性のディストーションを変更することを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記照明光学系の光軸からの距離に対するテレセントリシティの特性は、前記距離の3次の成分を有し、
前記投影光学系の光軸からの距離に対するテレセントリシティの特性は、前記距離の3次の成分を有し、
前記光学素子を偏心させることにより、2次の前記回転非対称性のディストーションを変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記照明光学系の光軸と前記投影光学系の光軸がずれていない状態において、前記照明光学系の光軸からの距離に対するテレセントリシティの特性と、前記投影光学系の光軸からの距離に対するテレセントリシティの特性とは、互いに相殺し合う特性を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記偏心機構を制御する制御部と、
前記回転非対称性のディストーションを計測する計測部と、を有し、
前記制御部は、前記基板を露光するときのデフォーカス量の情報と前記回転非対称性のディストーションの計測結果に基づいて、前記光学素子を偏心させて、計測された前記回転非対称性のディストーションを補正するように前記偏心機構を制御する、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記偏心機構を制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記基板を露光するときのデフォーカス量の情報と、前記基板を露光するときの前記回転非対称性のディストーションの目標形状の情報と、を取得し、前記デフォーカス量と前記目標形状に基づいて前記光学素子の偏心量を算出することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記照明光学系の光軸と前記投影光学系の光軸を相対的に偏心させることにより前記回転非対称性のディストーションを変更することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
基板を露光する露光装置において、
マスクを照明する照明光学系と、
前記マスクのパターンを基板上に投影する投影光学系と、
前記照明光学系の少なくとも1つの光学素子を前記投影光学系の光軸に対して偏心させる、又は、前記投影光学系の少なくとも1つの光学素子を前記照明光学系の光軸に対して偏心させる偏心機構と、
前記偏心機構を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記基板を露光するときのデフォーカス量の情報と、前記基板を露光するときの前記投影光学系の焦点位置からデフォーカスした位置で発生する回転非対称性のディストーションの目標形状の情報と、を取得し、前記デフォーカス量と前記目標形状に基づいて前記光学素子の偏心量を算出し、
前記偏心機構により前記光学素子を前記偏心量に基づいて偏心させることにより、前記回転非対称性のディストーションを変更する、ことを特徴とする露光装置
【請求項9】
請求項1乃至の何れか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
露光された基板を現像する工程と、を有し、
現像された基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置及び物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ技術を用いて半導体素子、液晶表示素子等を製造する際に、マスクのパターンを投影光学系によって基板に投影してパターンを転写する露光装置が使用されている。
【0003】
基板上に微細パターンを形成するために、マスク面や基板面などの被照射面における照度均一性を向上するとともに、被照射面の各点を照明する照明光の角度分布の光量重心(テレセントリシティ)を基板に対して垂直にすることが要求されている。
【0004】
しかし、テレセントリシティが悪化すると、投影光学系の像面(焦点位置)から光軸方向にずれた位置で基板が露光された時に、基板面での像を結ぶ位置が光軸に対して垂直方向にシフトする。また、テレセントリシティが被照射面の各位置により異なる場合、基板面上に歪曲した像が形成されることになる。
【0005】
基板がデフォーカス方向にずれて位置決めされた場合であっても、照明光の基板に対するテレセントリック性の崩れ等に起因して生ずる回転対称性のディストーション(像の歪み)を補正する露光装置が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された露光装置では、光学系により発生するテレセントリシティの情報を記憶しておき、基板が位置決めされた位置でのデフォーカス量に応じてレンズを光軸方向に駆動させて基板を露光する。これにより、投影倍率などの回転対称性のディストーションを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−59817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レンズの面形状などの製造誤差によって光学系の収差が生じ、デフォーカスした位置において回転非対称性のディストーションが発生することがある。特許文献1に開示された露光装置では、レンズを光軸方向に駆動させて回転対称なディストーションを補正しているが、特許文献1には、このような回転非対称性のディストーションを補正する技術は開示されていない。
【0008】
また、基板に厚膜のレジストを塗布して露光する場合、レジストプロファイル(パターン形状)を制御するために、投影光学系の像面から光軸方向にデフォーカスした位置におけるディストーションを制御する必要がある。基板は前の露光工程などの基板処理工程を経ることによって、基板に既に形成されたパターンが歪んでしまっているため、任意の歪みに重ね合わせてパターンを露光することができる露光装置が要求されている。
【0009】
そこで、本発明は、デフォーカスした位置において発生する回転非対称性のディストーションを補正することができる露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一側面としての露光装置は、基板を露光する露光装置において、マスクを照明する照明光学系と、前記マスクのパターンを基板上に投影する投影光学系と、前記照明光学系の少なくとも1つの光学素子を前記投影光学系の光軸に対して偏心させる、又は、前記投影光学系の少なくとも1つの光学素子を前記照明光学系の光軸に対して偏心させる偏心機構と、を有し、前記投影光学系の焦点位置からデフォーカスした位置のデフォーカス量に基づいて前記偏心機構により前記光学素子を偏心させることにより、前記デフォーカスした位置で発生する回転非対称性のディストーションを変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、デフォーカスした位置において発生する回転非対称性のディストーションを補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における露光装置の概略図を示す図である。
図2】テレセントリシティを説明するための図である。
図3】テレセントリシティ誤差がある状態を示す図である。
図4】テレセントリシティの像高依存性を示す図である。
図5】露光装置のテレセントリシティを示す図である。
図6】照明光学系の偏心によるテレセントリシティ特性を示す図である。
図7】照明光学系を偏心した後の露光装置のテレセントリシティ誤差を示す図である。
図8】回転非対称性のディストーションを示す図である。
図9】第1実施形態における制御フローの図である。
図10】第2実施形態における露光装置の概略図を示す図である。
図11】第2実施形態における制御フローの図である。
図12】第3実施形態における制御フローの図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1に露光装置100の概略図を示す。光源101からリレーレンズ108の間を構成するユニットを照明光学系120と定義する。光源101は、超高圧水銀ランプ等から成っている。楕円ミラー102は光源101からの光を集光する。楕円ミラー102の第1焦点付近に光源101が配置されている。楕円ミラー102で反射された光は、リレー光学系103に導かれる。リレー光学系103を透過した光はオプティカルインテグレータ104を透過して多数の2次光源が形成される。そして、開口絞り105により、光束断面が所望の光強度形状に成形される。開口絞り105は被照射面とフーリエ変換になる面にあるため、開口絞り105の形状は被照射面の角度分布を決定する。そして、所望の角度分布を持った光はコンデンサレンズ106を介して、視野絞り107をほぼ均一に照射する。視野絞り107で所望の形状の照明領域に形成された光は、リレーレンズ108を介して、被照射面であるマスク(レチクル)109を照明する。
【0015】
駆動機構116(偏心機構)は、照明光学系120を照明光学系120の光軸120aに対して垂直な方向に駆動する(偏心する)アクチュータを有する。
【0016】
投影光学系110は、照明されたマスク109のパターンを、基板を位置決めする基板ステージ113上の基板保持チャック112に保持された基板111に投影して、基板111を露光する。
【0017】
基板ステージ113には、基板を露光する光のテレセントリシティを計測するためのセンサ114が設けられている。センサ114は、ピンホールやスリットなどの遮光板と、ピンホールやスリットを通過した光を受光して電気信号に変換するCCDなどの光電変換素子を有する。センサ114は、ステージ113によって投影光学系110の投影領域内に移動されることによって、光軸に対して垂直な面における各位置に入射する光の角度分布を測定する。
【0018】
制御部115は、センサ114によって測定された角度分布の情報を取得して光量重心(テレセントリシティ)を求める。テレセントリシティ(テレセン度)とは、投影光学系の光軸に対する、像面上の各位置における光量重心の平行度であり、傾き角度や、基板が1μmデフォーカスした時の像のずれ量で表わされる。そして、各位置における光量重心に基づいて、投影光学系110の像面(焦点位置、フォーカス位置)から、投影光学系110の光軸110aに平行な方向(デフォーカス方向)にずれた位置におけるディストーションを算出する。当該位置におけるディストーションをデフォーカスディストーションとも称する。制御部115は、算出されたディストーションに基づいて、照明光学系120の光軸に垂直方向への駆動量を算出し、算出された駆動量だけ照明光学系120を駆動するように駆動機構116を制御する。
【0019】
図2は基板111上での露光光のテレセントリシティを示した図である。基板111上の各位置について、投影光学系110の光軸上における位置を軸上像高21、投影光学系110の光軸からX方向にマイナス側の位置を軸外像高22、投影光学系110の光軸からX方向にプラス側の位置を軸外像高23とする。像高は、投影光学系110の光軸からの距離を表す。軸上像高21における基板111面に対して垂直な軸を210、軸外像高22における基板111面に対して垂直な軸を220、軸外像高23における基板111面に対して垂直な軸を230とする。軸上像高21における露光光の光量重心の光線を211、軸外像高22における露光光の光量重心の光線を221、軸外像高23における露光光の光量重心の光線を231とする。
【0020】
軸上像高21における光線211は軸210に対して平行であり、テレセントリックである。つまり、テレセントリシティに起因する、デフォーカスした位置における像のずれがないことを意味している。同様に、軸外像高22における光線221は軸220に対して平行であり、軸外像高23における光線231は軸230に対して平行である。
【0021】
図3はテレセントリックではない状態を示した図である。テレセントリックではない状態における、軸上像高21における露光光の光量重心の光線を311、軸外像高22における露光光の光量重心の光線を321、軸外像高23における露光光の光量重心の光線を331とする。
【0022】
軸上像高21における光線311と軸210は平行ではなく、テレセントリックではない(テレセントリシティ誤差がある)。つまり、テレセントリシティに起因する、デフォーカスした位置における像のずれがあることを意味している。同様に、軸外像高22における光線321と軸220は平行ではなく、軸外像高23における光線331と軸230は平行ではなく、テレセントリックではない。
【0023】
基板111上に形成される像の位置は、露光光のテレセントリシティの角度と、基板111の露光面のベストフォーカス位置からのズレ量(デフォーカス量)に依存する。ベストフォーカス位置において投影光学系の歪曲収差がない場合には、テレセントリックではない場合でも、基板111の露光面がベストフォーカス位置にあるときに像が形成される位置はずれない。しかし、基板111を上下方向にデフォーカス量Δhだけ動かした位置で露光すると、テレセントリシティの角度とデフォーカス量Δhに依存して、基板111上に形成される像の位置がずれる。このとき、光線321によって形成される像の位置のずれ量(誤差)をΔd1、光線311によって形成される像の位置のずれ量をΔd2、光線331によって形成される像の位置のずれ量をΔd3が生じる。
【0024】
基板に厚膜のレジストを塗布して露光する場合、レジストプロファイル(パターン形状)を制御するために、投影光学系の像面から光軸方向にデフォーカスした位置におけるディストーションを制御する必要がある。
【0025】
テレセントリシティが像高により異なる場合は、デフォーカス時の像の位置のずれ量が像高毎に異なる。この特性を利用することで、基板上に形成される像に、例えば、各位置に対して非線形なディストーション(歪曲)を調整することができる。
【0026】
以下、投影光学系110及び照明光学系120に製造誤差等がない理想的な場合について説明する。
【0027】
図4(a)は投影光学系110のマスク109側のテレセントリシティの像高依存性を示した図である。原点位置は軸上像高である。ここでは一例として像高に依存して3次成分にテレセントリシティが変化する状態を示している。
【0028】
図4(b)は照明光学系120のマスク109側のテレセントリシティの像高依存性を示した図である。原点位置は軸上像高である。ここでは一例として投影光学系110のテレセントリシティ誤差を低減するように、像高に依存して3次成分にテレセントリシティが変化する状態を示している。
【0029】
露光装置100全体のテレセントリシティ、つまり、基板111を露光する露光光のテレセントリシティは、投影光学系110と照明光学系120のテレセントリシティの和となる。そのため、照明光学系の光軸と投影光学系の光軸がずれていない状態において、照明光学系の像高に対するテレセントリシティの特性と、投影光学系の像高に対するテレセントリシティの特性とは互いに相殺し合う。
【0030】
したがって、像高に依存したテレセントリシティ誤差、が発生しない。
【0031】
図5は、露光装置100のテレセントリシティを示した図である。基板111上でのテレセントリシティ誤差が無くなるように、投影光学系110のマスク109側のテレセントリシティ401に照明光学系120のマスク109側のテレセントリシティ402を合わせるようにしている。
【0032】
しかし、投影光学系110又は照明光学系120のレンズの面形状や材料、レンズの保持機構の製造誤差、又は、レンズの位置や角度の誤差によって、露光装置100のテレセントリシティに誤差が生じうる。そのため、デフォーカス位置において回転非対称性のディストーションが発生してしまう。
【0033】
そこで、本実施形態では、投影光学系110の光軸に対して垂直な方向にずれるように照明光学系120を偏心することによって、デフォーカス位置において発生する回転非対称性のディストーションを補正する。
【0034】
図6は、照明光学系120を偏心する前と後での、照明光学系120のテレセントリシティの像高依存性を示した図である。破線701は偏心前のテレセントリシティ特性、実線702は偏心後のテレセントリシティ特性を示している。照明光学系120を投影光学系110の光軸に対して垂直方向に偏心させると、照明光学系120のテレセントリシティ特性は、像高方向にシフトする。
【0035】
図7は、照明光学系120を投影光学系110の光軸に対して垂直な方向に偏心させた時の、露光装置100のテレセントリシティの像高依存性を示した図である。実線703は投影光学系110のテレセントリシティ特性を示している。露光装置110のテレセントリシティは、シフトした照明光学系120のテレセントリシティ特性702と、投影光学系110のテレセントリシティ特性703との和704となる。
【0036】
本実施形態では、投影光学系110のもつテレセントリシティ特性703と照明光学系120の持つテレセントリシティ特性702がそれぞれ像高に依存して3次成分であった。そのため、露光装置100のテレセントリシティ特性704は、それらの差分にあたる2次成分の像高依存性をもったテレセントリシティ特性になる。数式で示すと以下のようになる。
【0037】
照明光学系120を投影光学系110の光軸に対して垂直なX方向に距離dXの量だけ偏心させた時のテレセントリシティ特性704のX成分ΔXを、ΔX=A(dX)+B(dX)+Cとなる。Aは2次係数、Bは1次係数、Cは0次係数である。また、照明光学系120を投影光学系110の光軸に対して垂直なY方向に距離dYの量だけ垂直に偏心させた時のテレセントリシティ704のY成分ΔYはΔY=A’(dX)+B’(dX)+C’となる。A’は2次係数、B’は1次係数、C’は0次係数である。
【0038】
基板111をデフォーカスさせて露光した場合、テレセントリシティ特性と、基板111上に形成される像の位置のずれの特性は同様である。そのため、照明光学系120の偏心によって、基板111上に形成される像に、像高に依存した2次成分の位置誤差、つまり、回転非対称性のディストーションを発生させることができる。
【0039】
図8は、デフォーカス位置にある基板111上に形成される像の回転非対称性のディストーションを示した図である。正方格子状の破線91は、ディストーションのない理想的な形状を示している。実線92は、照明光学系120を光軸に対して垂直なX方向に偏心させたときの回転非対称性のディストーション形状を示している。
【0040】
照明光学系120を偏心させたX方向に関しては、X方向の座標に依存して2次成分のX誤差ΔXを発生させることができる。また、X方向に対して垂直なY方向に関しては、X方向に座標に依存して2次成分のY誤差ΔYを発生させることができる。
【0041】
このように、照明光学系120の光軸を投影光学系110の光軸に対して垂直な方向にずれるように照明光学系120を偏心させることによって、回転非対称性のディストーションを変更することができる。そのため、照明光学系120や投影光学系110に起因して発生した、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーションを低減するように調整することができる。したがって、基板111をデフォーカスさせて露光した場合であっても、歪みの少ないパターンを基板111上に形成することができる。
【0042】
本実施形態における制御フローを説明する。図9は制御フローを示す図である。まず、基板を露光する前に、基板ステージ113に搭載されているセンサ114を用いて露光装置100のテレセントリシティを測定する(S101)。その際、軸上像高、複数の軸外像高それぞれで光量重心を測定する。制御部115は、センサ114による測定データを取得し、各像高の光量重心から、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーション成分D1を算出する(S102)。
【0043】
照明光学系120を投影光学系110に対して偏心させたときの照明光学系120の偏心量に対する、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーションの変化量(敏感度)をE1とする。制御部115は、算出されたディストーション成分D1と敏感度E1から、F1=D1/E1の式に従って、照明光学系120を偏心させるために必要な駆動量F1を計算する(S103)。
【0044】
制御部115は、算出した駆動量F1だけ照明光学系120を光軸に対して垂直な方向に偏心させるように駆動機構部116を制御して、照明光学系120を駆動する(S104)。このように、露光装置100のデフォーカス位置における回転非対称性のディストーションを補正した後、デフォーカス位置において、回転非対称性のディストーションが低減された状態で、マスクのパターンを基板上に投影して基板を露光する(S105)。
【0045】
本実施形態では投影光学系110及び照明光学系120のテレセントリシティの像高依存性が3次成分の場合について説明したが、必ずしも3次に限らない。例えば、投影光学系110及び照明光学系120のテレセントリシティの像高依存性が2次成分の場合には、デフォーカスディストーションの1次成分を調整することが可能である。また更なる高次成分を持たせた場合、高次のデフォーカスディストーションを調整することも可能である。
【0046】
また、投影光学系110の光軸110aを照明光学系120の光軸120aに対して偏心させても良い。つまり、照明光学系の光軸と投影光学系の光軸を相対的に偏心させることにより回転非対称性のディストーションを変更することができる。
【0047】
[第2実施形態]
図10は、本実施形態における露光装置の概略図である。第1実施形態の構成と同じ構成については説明を省略する。
【0048】
本実施形態の露光装置100Aは、リレーレンズ108(光学系)を光軸120aに対して垂直な方向に駆動する駆動機構117を有する。制御部115は、決定された駆動量に基づいて駆動機構117を制御する。また、露光装置100Aは、リレーレンズ108内の一部のレンズ119(光学素子)を光軸120aに対して垂直な方向に駆動する駆動機構118を有する。御部115は、決定された駆動量に基づいて駆動機構118を制御する。
【0049】
本実施形態では、リレーレンズ108、又は、リレーレンズ108内の一部のレンズ119を投影光学系110の光軸110aに対して偏心させる。これによって、投影光学系の焦点位置からデフォーカスした位置で発生する回転非対称性のディストーションを変更する。リレーレンズ108、又は、レンズ119の偏心による、テレセントリシティ特性の変化、つまり、回転非対称性のディストーションの変化は第1実施形態と同様である。したがって、基板111をデフォーカスさせて露光した場合、像高に依存した2次成分の位置誤差を発生させることができる。
【0050】
本実施形態における制御フローを説明する。図11は制御フローを示す図である。まず、基板を露光する前に、基板ステージ113に搭載されているセンサ114を用いて露光装置100Aのテレセントリシティを測定する(S201)。その際、軸上像高、複数の軸外像高それぞれで光量重心を測定する。制御部115は、センサ114による測定データを取得し、各像高の光量重心から、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーション成分D2を算出する(S202)。
【0051】
リレーレンズ108、又は、レンズ119を投影光学系110に対して偏心させたときのリレーレンズ108、又は、レンズ119の偏心量に対する、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーションの変化量(敏感度)をE2とする。制御部115は、算出されたディストーション成分D2と敏感度E2から、F2=D2/E2の式に従って、リレーレンズ108、又は、レンズ119を偏心させるために必要な駆動量F2を計算する(S203)。
【0052】
制御部115は、算出した駆動量F2だけリレーレンズ108、又は、レンズ119を光軸に対して垂直な方向に偏心させるように駆動機構117又は駆動機構118を制御して、リレーレンズ108、又は、レンズ119を駆動する(S204)。このように、露光装置100Aのデフォーカス位置における回転非対称性のディストーションを補正した後、デフォーカス位置において、回転非対称性のディストーションが低減された状態で、マスクのパターンを基板上に投影して基板を露光する(S205)。
【0053】
本実施形態では、リレーレンズ108、又は、リレーレンズ108内の一部のレンズ119を偏心させる形態について説明したが、必ずしもその形態に限定されるものではない。リレーレンズ108内の視野絞り107側のレンズを偏心させても良く、また、複数のレンズを偏心させても良い。また、投影光学系110内の一部のレンズ(光学素子)、又はレンズ群を照明光学系120の光軸120aに対して偏心させても良い。
【0054】
本実施形態によれば、照明光学系全体を駆動させることなく、一部のレンズを偏心する簡素な駆動機構によって、投影光学系の焦点位置からデフォーカスした位置で発生する回転非対称性のディストーションを変更することができる。
【0055】
[第3実施形態]
露光装置を使用するリソグラフィ工程では、前の工程で基板に形成されたパターンに対して重ね合わせて露光することが一般的である。その際、前の工程で露光処理した露光装置と重ね合わせ露光をするときに使用する露光装置が異なる場合、露光装置の光学的誤差として存在するディストーション成分の装置間差が重ね合わせ誤差となり、重ね合わせ精度に悪影響を及ぼす。ディストーション成分の装置間差は、各露光装置の光学性能の誤差等で決まるため、倍率誤差のような回転対称成分ばかりでなく、高次収差等の影響を受けて発生する回転非対称性のディストーション成分もある。
【0056】
そこで、本実施形態では、前の工程で基板に形成されたパターンに対して重ね合わせて露光する場合におけるディストーションの調整方法を説明する。露光装置の構成は第1実施形態と同じである。
【0057】
本実施形態における制御フローを説明する。図12は制御フローを示す図である。
【0058】
まず、前の工程で基板に形成されたパターンに対して、マスクのパターンを重ね合わせる重ね合わせ露光を行う(S301)。次に、現像処理などで基板上にパターンを形成した後、重ね合わせ計測機(計測部)でショット内の重ね合わせ計測マークの位置ずれ量を計測する(S302)。重ね合わせ計測は、露光装置内で行っても良いし、外部計測機を用いて行っても良い。
【0059】
制御部115は、計測された重ね合わせ計測マークの位置ずれ量(計測結果)から重ね合わせ誤差の情報を取得し、得られた重ね合わせ誤差の情報から、回転非対称性のディストーション成分D3を算出する(S303)。算出されたディストーション成分をディストーションの目標形状とする。
【0060】
照明光学系120を投影光学系110の光軸に対して偏心させたときの照明光学系120の偏心量に対する、デフォーカス位置における回転非対称性のディストーションの変化量(敏感度)をE3とする。
【0061】
次に、基板に厚膜のレジストを塗布して露光する場合、基板表面位置のデフォーカス量を設定することができる。そして、制御部115は、算出されたディストーション成分D3(目標形状)と敏感度E3と、基板表面位置のデフォーカス量Gから、F3=D3×G/E3の式に従って、照明光学系120を偏心させるために必要な駆動量F3を計算する(S304)。
【0062】
制御部115は、算出した駆動量F3だけ照明光学系120を光軸に対して垂直な方向に偏心させるように駆動機構部116を制御して、照明光学系120を駆動する(S305)。このように、露光装置100のデフォーカス位置における回転非対称性のディストーションを調整した後、デフォーカス位置において、回転非対称性のディストーションを低減(補正)する。この状態で、マスクのパターンを、厚膜のレジストが塗布された次の基板上に投影して基板を露光する(S306)。
【0063】
本実施形態では、照明光学系120を偏心させる形態について説明したが、必ずしもその形態に限定されるものではない。第2の実施形態で示したように、リレーレンズ108内の一部のレンズを偏心させたり、投影光学系のレンズを偏心させたりしても良い。
【0064】
本実施形態によれば、既に基板に形成されたパターンが回転非対称性のディストーション成分を有していても、重ね合わせ露光を行う場合に、重ね合わせ誤差を低減することができる。
【0065】
[第4実施形態]
(物品製造方法)
次に、前述の露光装置を利用した物品(半導体IC素子、液晶表示素子、カラーフィルタ、MEMS等)の製造方法を説明する。物品は、前述の露光装置を使用して、感光剤が塗布された基板(ウェハ、ガラス基板等)を露光する工程と、その基板(感光剤)を現像する工程と、現像された基板を他の周知の加工工程で処理することにより製造される。他の周知の工程には、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等が含まれる。本製造方法によれば、従来よりも高品位の物品を製造することができる。
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