【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム事業「高生産性・強靭複合材開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切断基材配置工程では、複数の前記評価値の中で、同じ前記評価値がある場合、前回に設定した前記切断基材の前記ドロップオフ部の位置と、同じ前記評価値に対応する前記積層構造の前記切断基材の前記ドロップオフ部のそれぞれの位置との距離を比較し、前記距離が離れている方の前記切断基材を選択して設定することを特徴とする請求項2または3に記載の複合材の設計方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の強化繊維基材を積層して形成される、例えば、板状の複合材は、積層方向における厚さが厚肉から薄肉となるように変化するテーパー形状の板厚変化部(厚さ変化部)を有している。板厚変化部は、積層方向に沿って切断した端部であるドロップオフ部が形成される繊維強化基材を含んでいる。一般的に、板厚変化部を形成する場合、繊維強化基材のドロップオフ部が、薄肉側から厚肉側に向かって、積層方向の下層から上層に位置するように、ドロップオフ部が形成される繊維強化基材を、階段状(ピラミッド状)に積層する。
【0005】
ここで、板厚変化部は、応力が集中し易いものとなっている。ドロップオフ部が形成される繊維強化基材を階段状に積層する場合、板厚変化部に加わる応力が集中することを緩和すべく、板厚変化部の変化量を緩やかなものとしている。つまり、板厚変化部のテーパー形状のテーパー比(積層方向における高さ:厚肉から薄肉へ向かう方向における長さ)が緩やかなものとなるように、積層方向における高さに対して、厚肉から薄肉へ向かう方向における長さを長くする。
【0006】
しかしながら、板厚変化部の変化量を緩やかなものにすると、板厚変化部の変化量を急なものとした場合に比べて、余分に厚肉部分が形成されてしまうことから、複合材の重量が増大してしまう。一方で、板厚変化部の変化量が急な(増大する)ものとなるように、ドロップオフ部が形成される繊維強化基材を、階段状に積層すると、強度の低下を招き、板厚変化部への応力による影響が増大してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、厚さ変化部における強度を向上させつつ、厚さ変化部の変化量を増大させて、厚さ変化部の重量を軽減することができる複合材の設計方法、複合材の評価方法及び複合材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複合材の設計方法は、複数の強化繊維基材を積層して形成される複合材を設計する複合材の設計方法であって、前記複合材は、前記積層方向における厚さが厚肉から薄肉となるように変化する厚さ変化部を有し、前記厚さ変化部は、前記積層方向に沿って切断した端部であるドロップオフ部が形成される前記繊維強化基材を含み、前記厚さ変化部において、前記積層方向に重なる複数の前記強化繊維基材のうち、1層となる前記強化繊維基材をベース基材とし、前記積層方向において前記ベース基材と対向する前記強化繊維基材をカバー基材とし、前記ベース基材と前記カバー基材との間に位置する前記ドロップオフ部を有する前記強化繊維基材を切断基材として設定する基材設定工程と、前記基材設定工程において設定された前記ベース基材、前記切断基材及び前記カバー基材に基づく応力解析を実行して、前記切断基材に対する応力に関する評価値を算出する評価値算出工程と、前記評価値算出工程において算出された前記評価値に基づいて、前記厚さ変化部における所定の前記強化繊維基材を、前記切断基材として設定する切断基材配置工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ベース基材、切断基材及びカバー基材を応力解析して、切断基材に対する評価値を算出することができ、また、この評価値に基づいて、所定の強化繊維基材を、切断基材として設定することができる。このため、例えば、応力が集中し難い強化繊維基材を切断基材として設定したり、せん断応力の大きさが小さい強化繊維基材を切断基材として設定したりすることで、厚さ変化部における強度を向上させることができる。このとき、強度を向上させた分だけ、厚さ変化部の変化量を増大させる、すなわち、厚さ変化部の厚さを薄くすることができるため、複合材の重量軽減を図ることができる。
【0010】
また、前前記基材設定工程では、積層される複数の前記強化繊維基材に対して、前記ベース基材、前記切断基材及び前記カバー基材からなる積層構造を複数設定し、前記評価値算出工程では、設定された複数の前記積層構造について、それぞれの前記積層構造の前記切断基材に対する応力集中の度合いを含む変数に基づいて前記評価値を算出し、前記切断基材配置工程では、複数の前記評価値に基づいて、前記厚さ変化部における所定の前記強化繊維基材を前記切断基材として設定することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、厚さ変化部において、複数の切断基材がある場合、複数の強化繊維基材の中において、複数の評価値に基づいて、複数の切断基材を設定することができる。このため、厚さ変化部における応力集中の緩和を図ることができる。
【0012】
また、前記基材設定工程では、積層される複数の前記強化繊維基材に対して、前記ベース基材、前記切断基材及び前記カバー基材からなる積層構造を複数設定し、前記評価値算出工程では、設定された複数の前記積層構造について、それぞれの前記積層構造の前記切断基材に対するせん断応力の大きさを、前記評価値として算出し、前記切断基材配置工程では、前記厚さ変化部における所定の前記強化繊維基材を前記切断基材として設定し、前記切断基材が設定されることで前記積層構造が変更され、変更後の複数の前記積層構造の評価値を合算した合算値を算出すると共に、前記切断基材として設定される所定の前記強化繊維基材を異ならせながら、変更後の複数の前記積層構造の前記合算値を複数算出し、複数の前記合算値の中で、予め設定されたしきい値よりも小さくなる前記合算値に対応する所定の前記強化繊維基材を、前記切断基材として選択し、且つ、選択された前記切断基材における前記評価値が、薄肉側に比して厚肉側で大きな値となるものを、前記切断基材として選択することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、厚さ変化部において、複数の切断基材がある場合、せん断応力の全体的な評価値を小さくできる複数の切断基材を選択することができる。また、選択された切断基材の中で、評価値が大きいものを、厚肉側に配置することができる。このため、厚さ変化部のせん断強度の向上を図ることができる。
【0014】
また、前記切断基材配置工程では、複数の前記評価値の中で、同じ前記評価値がある場合、前回に設定した前記切断基材の前記ドロップオフ部の位置と、同じ前記評価値に対応する前記積層構造の前記切断基材の前記ドロップオフ部のそれぞれの位置との距離を比較し、前記距離が離れている方の前記切断基材を選択して設定することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、前回に設定した切断基材のドロップオフ部の位置と、今回設定される切断基材のドロップオフ部の位置とを離すことができるため、応力が集中し易いドロップオフ部同士の位置を離すことで、ドロップオフ部の強度を向上させることができる。
【0016】
本発明の複合材の評価方法は、複数の強化繊維基材を積層して形成された複合材を評価する複合材の評価方法であって、前記複合材は、前記積層方向における厚さが厚肉から薄肉となるように変化する厚さ変化部を有し、前記厚さ変化部は、前記積層方向に沿って切断した端部であるドロップオフ部が形成される前記繊維強化基材を含み、前記厚さ変化部において、前記積層方向に重なる複数の前記強化繊維基材のうち、1層となる前記強化繊維基材をベース基材とし、前記積層方向において前記ベース基材と対向する前記強化繊維基材をカバー基材とし、前記ベース基材と前記カバー基材との間に位置する前記ドロップオフ部を有する前記強化繊維基材を切断基材として設定する基材設定工程と、前記基材設定工程において設定された前記ベース基材、前記切断基材及び前記カバー基材に基づく応力解析を実行して、前記切断基材に対する応力に関する評価値を算出する評価値算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、ベース基材、切断基材及びカバー基材を応力解析して、切断基材に対する評価値を算出することができる。このため、既存の複合材に対する応力の影響を評価することができる。
【0018】
本発明の複合材は、複数の強化繊維基材を積層して形成される複合材であって、前記積層方向における厚さが厚肉から薄肉となるように変化する厚さ変化部を有し、前記厚さ変化部は、前記積層方向に沿って切断した端部であるドロップオフ部が形成された前記強化繊維基材である複数の切断基材を含み、複数の前記切断基材を含む複数の前記強化繊維基材を積層して形成され、複数の前記切断基材の前記ドロップオフ部は、前記厚さ変化部の厚肉側から薄肉側に向かう方向において、厚肉側の前記ドロップオフ部と、厚肉側の前記ドロップオフ部に隣接する薄肉側の前記ドロップオフ部とが、積層方向において、1層以上となる前記強化繊維基材を介した位置関係となっており、前記位置関係は、複数の前記ドロップオフ部の全てにおいて成り立っていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、厚さ変化部における強度を向上させつつ、重量の軽減を図ることができる複合材を提供することができる。
【0020】
また、前記強化繊維基材は、繊維方向を一方向に揃えたプライ基材であり、前記積層方向に直交する面内において、基準となる基準方向と、前記プライ基材の前記繊維方向とが為す角度を配向角度としており、前記積層方向の中央を通る線である中心線を挟んで、一方側にある積層された複数の前記強化繊維基材からなる一方側積層構造と、前記中心線を挟んで、他方側にある積層された残りの複数の前記強化繊維基材からなる他方側積層構造と、を有し、前記一方側積層構造と前記他方側積層構造とは、前記強化繊維基材の前記配向角度が、前記中心線を中心に対称となる対称積層となっており、複数の前記切断基材の前記ドロップオフ部は、前記厚さ変化部の厚肉側から薄肉側に向かう方向において、前記一方側積層構造と前記他方側積層構造とに交互に配置されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、複合材が対称積層である場合に、応力の影響を受けやすいドロップオフ部同士の距離を離すことができるため、ドロップオフ部の強度を向上させることができる。
【0022】
また、前記厚さ変化部の薄肉側に設けられる薄肉部と、前記厚さ変化部の厚肉側に設けられる厚肉部と、を有し、前記薄肉部の厚さが前記厚肉部まで至る部位がベースラインとなっており、前記切断基材は、前記ベースラインに含まれることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、ベースライン内に、切断基材のドロップオフ部を設けることができるため、厚さ変化部の全域に切断基材のドロップオフ部を設けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0026】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る複合材の設計方法の対象となる一例の複合材を模式的に示す断面図である。
図2は、実施形態1に係る複合材の積層構造を示す断面図である。
図3は、実施形態1に係る複合材の設計方法のフローチャートである。
図4は、実施形態1に係る複合材の設計方法を説明する一例の説明図である。
図5は、実施形態1に係る複合材の設計方法を説明する一例の説明図である。
【0027】
実施形態1に係る複合材1の設計方法は、複合材1の厚さが変化する厚さ変化部の積層構造を最適化するための手法であり、この最適化を行うことで、厚さ変化部における強度を維持しつつ、余分な厚みの形成を抑制して、重量の軽減を図るものとなっている。先ず、複合材1の設計方法の説明に先立ち、この設計方法により形成された複合材1について説明する。
【0028】
複合材1は、
図1に示すように、航空機等の様々な箇所に用いられており、例えば、航空機の開口部に設けられる補強部(パッドアップ部ともいう)周り、航空機の部品を結合する結合部周り、翼根から翼端へ向かう部位等に適用することができる。つまり、複合材1は、厚さ変化部を有するものであれば、航空機のいかなる箇所に適用できる。また、複合材1は、航空機以外の複合構造体に適用してもよい。
【0029】
複合材1は、複数の強化繊維基材1aを積層して板状に形成されている。強化繊維基材1aは、強化繊維に樹脂が含浸されたものであり、強化繊維の繊維方向を一方向に引き揃えたプライ(プライ基材)である。プライは、積層方向に直交する面内において、基準となる基準方向と、プライの繊維方向とが為す角度を配向角度としている。つまり、基準方向と繊維方向とが同じ方向である場合、配向角度は、0°となる。実施形態1の複合材1においては、配向角度が0°、±45°、90°となるプライが用いられている。なお、用いるプライとしては、上記の配向角度に特に限定されず、例えば、配向角度が±15°、±60°等となるプライを用いてもよい。
【0030】
また、複合材1は、
図2に示すように、積層方向の中央を通る線である中心線Iを挟んで、一方側(
図2の上側)にある積層された複数の強化繊維基材1aからなる上側積層構造(一方側積層構造)5と、中心線Iを挟んで、他方側(
図2の下側)にある積層された残りの複数の強化繊維基材1aからなる下側積層構造(他方側積層構造)6と、を有している。上側積層構造5と下側積層構造6とは、強化繊維基材1aの配向角度が、中心線Iを中心に対称となる対称積層となっている。
【0031】
この複合材1は、
図1及び
図2に示すように、厚肉部11と、薄肉部12と、板厚変化部(厚さ変化部)13とを有している。
【0032】
厚肉部11は、積層方向における厚さが、薄肉部12に比して厚くなる部位である。厚肉部11は、
図2に示すように、一例として、1層となる強化繊維基材1aを16層積層することで形成されている。薄肉部12は、積層方向における厚さが、厚肉部11に比して薄くなる部位である。薄肉部12は、
図2に示すように、一例として、1層となる強化繊維基材1aを8層積層することで形成されている。なお、厚肉部11及び薄肉部12の積層数は、一例であり、複合材1に要求される性能に応じて適宜変化する。ここで、
図2に示すように、薄肉部12の厚さが厚肉部11まで至る部位がベースライン15となっている。
【0033】
板厚変化部13は、厚肉部11と薄肉部12との間に設けられ、厚肉部11、板厚変化部13及び薄肉部12は、連続して一体に形成されている。板厚変化部13は、積層方向における厚さが、厚肉部11から薄肉部12に向かって薄くなる部位である。板厚変化部13は、
図2に示すように、一例として、16層となる厚肉部11から8層となる薄肉部12へ向かって板厚が薄くなるように、8層の強化繊維基材1aを順に減らすことで、板厚を変化させている。
【0034】
具体的に、板厚変化部12において減らされる強化繊維基材1aは、切断基材23であり、切断基材23は、積層方向に沿って切断した薄肉部12側の端部であるドロップオフ部23aが形成されている。切断基材23は、積層方向における両側の強化繊維基材1aにより挟まれて設けられ、板厚変化部12において複数(8層)配置されていることから、ドロップオフ部23aも板厚変化部12において複数(8個)配置されている。なお、複合材1は、積層方向における最上面及び最下面の強化繊維基材1aが、被覆層となっていることから、最上面及び最下面の強化繊維基材1aを切断基材23とすることはない。
【0035】
ここで、8個のドロップオフ部23aについて、厚肉部11から薄肉部12に向かう方向(所定方向:
図2の左側から右側に向かう方向)から順に、ドロップオフ部23a1、ドロップオフ部23a2、・・・、ドロップオフ部23a8とする。このとき、所定方向において、厚肉側のドロップオフ部23aと、厚肉側のドロップオフ部23aに隣接する薄肉側のドロップオフ部23aとが、積層方向において、1層以上となる強化繊維基材1aを介した位置関係となっている。例えば、厚肉側のドロップオフ部23aがドロップオフ部23a1であり、薄肉側のドロップオフ部23aがドロップオフ部23a2である場合、積層方向において、ドロップオフ部23a1とドロップオフ部23a2との間には、4層の強化繊維基材1aが積層されている。この位置関係は、複数(8層)のドロップオフ部23aの全てにおいて、つまり、ドロップオフ部23a2とドロップオフ部23a3との間、ドロップオフ部23a3とドロップオフ部23a4との間、・・・、ドロップオフ部23a7とドロップオフ部23a8との間において、成り立っている。
【0036】
そして、上記のように板厚変化部13にドロップオフ部23aが配置されることで、複数のドロップオフ部23aは、所定方向において、上側積層構造5と下側積層構造6とに交互に配置されることになる。つまり、下側積層構造6には、ドロップオフ部23a1、ドロップオフ部23a3、ドロップオフ部23a5、ドロップオフ部23a7が配置され、上側積層構造5には、ドロップオフ部23a2、ドロップオフ部23a4、ドロップオフ部23a6、ドロップオフ部23a8が配置される。また、ドロップオフ部23aを有する複数の切断基材23は、その一部の切断基材23が、ベースライン15内に含まれる。このため、ベースライン15内には、ドロップオフ部23aが配置される。
【0037】
次に、
図3から
図5を参照して、上記の複合材1を設計する設計方法に関するフローについて説明する。実施形態1に係る複合材1の設計方法は、図示しないコンピュータを用いて、複合材1の応力解析を行い、応力解析の結果に基づいて、複合材1の積層構造に関する設計を行っている。
【0038】
先ず、コンピュータは、オペレータの操作に基づいて、基材設定工程S1を行う。基材設定工程S1では、板厚変化部13において、複数の強化繊維基材1aのうち、1層の強化繊維基材1aをベース基材21とし、ベース基材21と対向する強化繊維基材1aをカバー基材22とし、ベース基材21とカバー基材22との間に位置する強化繊維基材1aを切断基材23として設定する(ステップS1:基材設定工程)。ここで、ベース基材21及びカバー基材22は、積層方向において、切断基材23の両側に設けられるドロップオフ部23aが形成されない所定方向に延在する強化繊維基材1aとなっている。そして、切断基材23のドロップオフ部23aが、積層方向の両側のベース基材21及びカバー基材22に覆われることで、樹脂が流入する空間となるポケット24が形成される。
【0039】
基材設定工程S1では、
図4に示すように、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造31を複数設定する。ここで、積層方向における最上面及び最下面の強化繊維基材1aは被覆層となっていることから、最上面及び最下面の強化繊維基材1aの間の強化繊維基材1aを対象に、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22を設定する。具体的に、対象となる強化繊維基材1aは、14層の強化繊維基材1aとなっており、3層の積層構造31を積層方向に1層ずつずらして設定することで、12組の積層構造31が設定される。
【0040】
次に、コンピュータは、3層の積層構造31のそれぞれについて、応力解析を実行する(ステップS2:評価値算出工程)。評価値算出工程S2では、
図5に示すように、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造31に対して、所定方向(
図5では、層間に沿った方向)に沿った引張応力等の応力を付与して応力解析を実行し、切断基材23に対する応力集中の度合いに関する評価値を算出する。
【0041】
評価値は、一例として、下記する(1)式により算出される。ここで、σは、応力であり、rは、
図5に示す原点Oからの距離であり、λは、特異性指数であり、Kは、応力係数となっている。なお、応力σは、せん断応力またはミーゼス応力等であり、特に限定されない。また、なお、下記する(1)式は、一例であり、λまたはKの他、他の変数を含んで立式されたものであってもよく、特に限定されない。
σ=(K/r
λ) ・・・(1)
【0042】
評価値算出工程S2では、複数の積層構造31における複数の切断基材23のそれぞれについて、(1)式に基づき評価された、すなわち、λおよびKを考慮した評価値を算出する。評価値の算出結果は、
図4に示すとおり、切断基材23の対象となる強化繊維基材1aに対して、例えば、評価値A〜Lが算出される。なお、
図4に示す評価値は、初期の算出結果となっており、後述する切断基材配置工程S3において切断基材23が設定されると、複合材1の積層構造の一部が変化することから、変化した部分について、改めて評価値を設定する。
【0043】
続いて、コンピュータは、オペレータの操作により、評価値に基づいて、板厚変化部13における所定の強化繊維基材1aを、切断基材23として設定する(ステップS3:切断基材配置工程)。切断基材配置工程S3では、算出された複数の評価値に基づいて、板厚変化部13への応力集中が緩和されるように、切断基材23を設定する。このように設定することで、
図2に示すように、ドロップオフ部23a1〜23a8を有する複数の切断基材23が設定される。なお、切断基材配置工程S3では、切断基材23を設定することにより、積層構造31が変化する場合、同じ積層構造31となる評価値を適用してもよいし、再度応力解析を行って評価値を算出してもよい。
【0044】
上記のように切断基材23を設定することで、
図2に示す積層構造となる複合材1が設計される。
【0045】
以上のように、実施形態1によれば、ベース基材21、切断基材23及びカバー基22を応力解析して、切断基材23に対する評価値を算出することができ、また、この評価値に基づいて、所定の強化繊維基材1aを、切断基材23として設定することができる。このため、応力が集中し難い強化繊維基材1aを切断基材23として設定することで、板厚変化部13における応力の集中を緩和することができる。このとき、応力の集中が緩和できる分だけ、板厚変化部13の変化量を増大させる、すなわち、板厚変化部13の厚さを薄くすることができるため、複合材1の重量軽減を図ることができる。
【0046】
また、実施形態1によれば、板厚変化部13において、複数の切断基材23がある場合、複数の強化繊維基材1aの中において、複数の評価値に基づいて、複数の切断基材23を設定することができる。
【0047】
また、実施形態1によれば、前回に設定した切断基材23のドロップオフ部23aの位置と、今回設定される切断基材23のドロップオフ部23aの位置とを離すことができる。このため、複合材1が対称積層である場合であっても、応力が集中し易いドロップオフ部23a同士の位置を離すことで、ドロップオフ部23aへの応力集中をより緩和することができる。
【0048】
また、実施形態1によれば、応力集中が緩和された、重量の軽減を図ることができる複合材1を提供することができる。
【0049】
[実施形態2]
次に、
図6から
図9を参照して、実施形態2に係る複合材の設計方法について説明する。
図6は、実施形態2に係る複合材の設計方法を説明する一例の説明図である。
図7は、実施形態2に係る複合材の設計方法の効果を示す図である。
図8は、実施形態2に係る複合材に応力を与えたときの遷移を示す図である。
図9は、実施形態2の複合材に比して悪条件となるように設計した複合材に応力を与えたときの遷移を示す図である。実施形態2に係る複合材の設計方法は、実施形態1の複合材1の設計方法とほぼ同様の工程を含んでいることから、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。実施形態2に係る複合材1の設計方法は、実施形態1の評価値に代えて、せん断応力の大きさτmaxを評価値として用いている。具体的に、評価値τmaxは、応力解析によって求められるせん断応力の最大値である。
【0050】
実施形態2の複合材の設計方法は、実施形態1とほぼ同様の工程となっており、
図3に示すように、基材設定工程S1、評価値算出工程S2、切断基材配置工程S3を順に行っている。
【0051】
基材設定工程S1では、
図6に示すように、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造31を複数設定する。なお、基材設定工程S1は、実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
次に、評価値算出工程S2では、
図5に示すように、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造31に対して、所定方向(
図5では、層間に沿った方向)に沿った引張応力等の応力を付与して応力解析を実行し、切断基材23に対するせん断応力の最大値τmaxを、評価値τmaxとして算出する。
【0053】
評価値算出工程S2では、複数の積層構造31における複数の切断基材23のそれぞれについて評価値τmaxを算出する。評価値τmaxの算出結果は、
図6に示す数値となっている。なお、
図6に示す数値は、初期の算出結果となっており、後述する切断基材配置工程S3において切断基材23が設定されると、複合材1の積層構造の一部が変化することから、変化した部分について、改めて評価値τmaxを設定する。ここで、評価値τmaxは、数値が小さいほど、せん断応力の大きさが低いものとなっている。
【0054】
切断基材配置工程S3では、板厚変化部13における所定(実施形態2では、例えば、8層)の強化繊維基材1aを切断基材23として設定し、8層の切断基材23の組み合わせを1セットとする。1セットの組み合わせとなる切断基材23が設定されると積層構造31が変更されることから、切断基材配置工程S3では、変更後の複数の積層構造31について評価値τmaxを算出する。そして、切断基材配置工程S3では、複数の積層構造31における複数の評価値τmaxを合算した合算値を算出することで、板厚変化部13の全体的なせん断応力の大きさを導出する。
【0055】
そして、切断基材配置工程S3では、切断基材23として設定される所定の強化繊維基材1aを異ならせながら、変更後の複数の積層構造31の合算値を複数算出する。つまり、切断基材配置工程S3では、8層の切断基材23の組み合わせを異ならせて、組合せの異なるセットを複数設定する。そして、切断基材配置工程S3では、各セットの複数の積層構造31における複数の評価値τmaxを合算した合算値を算出する。
【0056】
切断基材配置工程S3において、複数のセットに対応する複数の合算値が算出されると、複数の合算値の中で、予め設定されたしきい値よりも小さくなる合算値に対応する所定のセットの強化繊維基材1aを、切断基材23として選択する。ここで、しきい値としては、例えば、複数の合算値に基づく中央値、または複数の合算値に基づいて導出される算術平均等であり、特に限定されない。また、切断基材配置工程S3では、しきい値よりも小さくなる合算値に対応する所定のセットについて、所定のセットにおける切断基材23の評価値τmaxが、薄肉側に比して厚肉側で大きな値となるものを、切断基材23として選択する。
【0057】
なお、8層の切断基材23の組み合わせを異ならせたセットは、オペレータが任意の強化繊維基材1aを切断基材23として選択して適宜設定してもよいし、遺伝的アルゴリズムを用いた最適化処理によって強化繊維基材1aを切断基材23として設定してもよく、特に限定されない。
【0058】
上記のように切断基材23を設定することで、板厚変化部13においてせん断応力の大きさが全体的に小さく、且つ、評価値τmaxが薄肉側に比して厚肉側で大きな値、換言すれば、評価値τmaxが厚肉側に比して薄肉側で小さな値となる複合材1が設計される。
【0059】
次に、
図7を参照して、実施形態2の設計方法に基づいて設計された複合材1の強度比について説明する。
図7は、その縦軸が複合材1の強度比となっており、その横軸に従来の複合材と、最適化された実施形態1の複合材1とが並んでいる。ここで、強度比は、従来の複合材の強度を「1」とした場合の強度比である。なお、従来の複合材1の形状と、実施形態1の複合材1の形状とは、同じ形状となっており、切断基材23の配置が異なるものとなっている。
図7に示すとおり、従来の複合材の強度比は「1」であり、実施形態2の複合材1の強度比が「1.5」程度となっている。このため、従来と実施形態2とで複合材1の形状が同じである場合には、実施形態2の設計方法を用いることで、強度比を、1.5倍程度にできることが確認された。換言すれば、従来と実施形態2とで複合材の強度比を同じとする場合には、実施形態2の複合材1の形状を、従来に比して薄肉にできることとなる。
【0060】
次に、
図8及び
図9を参照して、実施形態2の複合材1に、応力を付与したときの複合材1の形状の遷移について説明する。
図8は、実施形態2の複合材1であり、
図9は、実施形態2の複合材に比して悪条件となるように設計した複合材である。
図8及び
図9では、上側から下側に向かって時間が遷移しており、同様となる2つの複合材を用いている。
図8に示すように、複合材1に発生する亀裂は、せん断応力の最大値τmaxが大きいところからではなく、薄肉部12側の切断基材23近傍から生じる。これは、切断基材23のドロップオフ部23aの影響よりも、板厚の影響が大きくなったためと考えられる。このため、評価値τmaxが厚肉側に比して薄肉側で小さな値となるように、切断基材23を配置することが望ましい。また、
図9は、評価値τmaxが厚肉側に比して薄肉側で大きな値となるような悪条件に基づいて、切断基材23を配置した複合材である。複合材1に発生する亀裂は、薄肉部12側のせん断応力の最大値τmaxが大きいところから生じる。そして、
図9に示す複合材は、
図8に比して、亀裂の進展が早く、上側積層構造5と下側積層構造6とが分裂したものとなっている。この
図8及び
図9により、せん断応力の最大値を示す評価値τmaxは、実際の亀裂の発生を適切に評価可能な値であることが確認された。
【0061】
以上のように、実施形態2によれば、板厚変化部13において、複数の切断基材23がある場合、せん断応力の全体的な評価値τmaxを小さくできる複数の切断基材23を選択することができる。また、選択された切断基材23の中で、評価値τmaxが大きいものを厚肉側に配置することで、亀裂が発生し難い複合材1とすることができる。このため、板厚変化部13のせん断強度の向上を図ることができる。
【0062】
[実施形態3]
次に、
図10を参照して、実施形態3に係る複合材の評価方法について説明する。実施形態3に係る複合材1の評価方法は、既存の複合材に形成される板厚変化部13の積層構造を評価する手法であり、この評価を行うことで、応力が集中し易い部位またはせん断応力が大きい部位を推定することができる。ここで、実施形態3に係る複合材の評価方法は、実施形態1または実施形態2の複合材1の設計方法と同様の工程を含んでいることから、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び実施形態2と異なる部分について説明し、実施形態1及び実施形態2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。
図10は、実施形態3に係る複合材の評価方法のフローチャートである。
【0063】
実施形態3に係る複合材の評価方法は、実施形態1及び実施形態2と同様の基材設定工程S11と、実施形態1と同様の評価値算出工程S12または実施形態2と同様の評価値算出工程S12とを行っている。すなわち、複合材の評価方法では、実施形態1または実施形態2と同様に、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造31を複数設定し、設定した複数の積層構造31に対して応力解析を実行し、切断基材23に対する評価値または評価値τmaxを算出している。そして、これらの評価値に基づいて、応力が集中し易い部位を推定したり、評価値τmaxに基づいて、せん断応力が高い部位を推定したりする。
【0064】
以上のように、実施形態3によれば、既存の複合材1に対する応力の集中の度合いまたはせん断応力の大きさを評価することができる。そして、複数の強化繊維基材1aを積層することで形成された複合材1であっても、ベース基材21、切断基材23及びカバー基材22からなる3層の積層構造体31の応力解析により、複合材1の強度に関する評価を行うことができる。