特許第6980455号(P6980455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980455瞳アポダイゼーションを利用して改善した視覚性能と最小限のハローを有するコンタクトレンズ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980455
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】瞳アポダイゼーションを利用して改善した視覚性能と最小限のハローを有するコンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
   G02C7/04
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-157515(P2017-157515)
(22)【出願日】2017年8月17日
(65)【公開番号】特開2018-28666(P2018-28666A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2020年7月17日
(31)【優先権主張番号】15/240,025
(32)【優先日】2016年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ミンハン・チェン
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−184022(JP,A)
【文献】 米国特許第5662706(US,A)
【文献】 国際公開第98/025180(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/154768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善した視覚性能を有するソフトコンタクトレンズであって、
レンズ中央を取り囲む光学領域と、
前記光学領域を取り囲む周辺領域と、
前記光学領域及び前記周辺領域の少なくとも一部分にわたって適用される振幅変調成分及び位相変調成分を有するシステム瞳関数であって、前記振幅変調成分が平滑推移関数を含む、システム瞳関数と、
を備え
前記平滑推移関数がA(r)=exp(−α×(r/r))によって与えられ、rは動径座標であり、rは光学領域の半径であり、αはアポダイゼーションの強度を示す定数であり、
前記αの値が0.3から3.0まで変動し、前記rの値が4であり、前記rの値が0から4の間で変動する、ソフトコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記振幅変調成分にしたがって、本発明による前記ソフトコンタクトレンズの上又は中の前記光学領域及び前記周辺領域の少なくとも一部分に適用される材料を更に備える、請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記材料が中性濃度フィルタコーティング材を含む、請求項に記載のソフトコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記ソフトコンタクトレンズの透光率が、前記レンズ中央からレンズ外縁に向かい継続的に減少する、請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズに関し、より詳細には、瞳孔縁部の波面収差を低減し、ハローを低減し、かつ光散乱を低減する改善された視覚性能を提供するため、滑らかな瞳孔の推移及びより高度な吸収端という概念を組み合わせた、レンズの振幅透過プロファイルを変調する設計を備える、ソフトコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近視(myopia)又は近眼(nearsightedness)は、眼の視力障害又は屈折障害であり、網膜に到達する前に像からの光線が一点に集束する。近視は、概して、眼の球(eyeball)又は眼球(globe)が長すぎるため、又は角膜の傾斜が急すぎるために生じる。近視を矯正するためにマイナスすなわち負の倍率の球面レンズを利用することができる。遠視(Hyperopia)又は遠眼(farsightedness)は、眼の視覚障害又は屈折障害であり、網膜に到達した後か、又は網膜の後方で像からの光線が一点に集束する。遠視は、概して、眼の球又は眼球が短すぎるか、又は角膜が平らすぎるために生じる。遠視を矯正するためにプラスすなわち正の倍率の球面レンズを利用することができる。乱視は、視力障害又は屈折障害であり、眼が点物体に焦点を合わせて、網膜上で焦点が合った像にすることができないため、個体の視野がぼやけてしまう。乱視は、角膜の異常な湾曲を原因とする。完全な角膜は球状であるが、乱視を持つ個人において、角膜は球状ではない。言い換えると、角膜は、実際には、他方向よりも一方向で更に湾曲しているか、又は傾斜が急であり、それによって、画像を一点に集中させずに広がらせる。遠視を解決するために、球面レンズではなく円柱レンズが利用され得る。
【0003】
コンタクトレンズは、近視、遠視、乱視、並びに他の視力障害の矯正に利用されてもよい。コンタクトレンズはまた、着用者の眼の自然な外観を向上させるのに利用されてもよい。コンタクトレンズ又はコンタクトは、単に、眼上に設置されるレンズである。コンタクトレンズは、医療用デバイスと見なされ、視力の矯正のため、及び/又は美容若しくは他の治療上の理由で装用されてもよい。コンタクトレンズは、1950年代以降、視力を改善するために商用的に利用されてきた。初期のコンタクトレンズは、硬質材料から作成又は製作され、比較的高価で壊れやすかった。それに加えて、これら初期のコンタクトレンズを製作していた材料は、コンタクトレンズを通して結膜及び角膜まで十分に酸素を透過させることができず、そのことによって潜在的に多数の臨床上の副作用を引き起こす可能性があった。これらのコンタクトレンズは依然として利用されているが、最初の快適性が低いため、全ての患者に適しているわけではない。その後のこの分野における発展によって、ハイドロゲル系のソフトコンタクトレンズがもたらされ、今日では非常に一般的で広く利用されている。具体的には、今日利用可能なシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、酸素透過性が非常に高いというシリコーンの利益を、既に明らかとなっているハイドロゲルの快適性及び臨床的性能とを組み合わせている。本質的に、これらのシリコーンヒドロゲル系コンタクトレンズは、初期の硬質材料から製造されたコンタクトレンズより、酸素透過率が高く、装用が概ねより快適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ソフトコンタクトレンズは、いずれも患者にとっての高度な快適性及び使い易さを伴って、焦点ぼけ及び非点収差を含む異なるタイプの波面収差を提供することによって、有効な視力矯正デバイスとして広く使用されてきた。しかしながら、一部の患者は、明るい又は強い光に暴露されている間、例えば夜間運転中などに、ハロー効果及び/又は光の散乱を経験する。この現象は、患者の瞳孔縁部における光回折、及びソフトコンタクトレンズ自体の内部における複数回の反射によるものである。したがって、瞳孔端部の波面収差を低減し、ハローを低減し、かつ光散乱を低減する最適な視力矯正を担保する、健康的で快適な手段を患者に提供する、ソフトコンタクトレンズが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による、瞳アポダイゼーションを利用して改善した視覚性能と最小限のハローを有するコンタクトレンズは、上記で簡潔に説明した従来技術と関連する不利な点を克服する。
【0006】
一態様によれば、本発明は、改善した視覚性能を有するコンタクトレンズに関するものである。ソフトコンタクトレンズは、光学領域と、光学領域を取り囲む周辺領域と、光学領域及び周辺領域の少なくとも一部分にわたって適用される振幅変調成分及び位相変調成分を有し、振幅変調成分が平滑推移関数を含む、システム瞳関数(system pupil function)とを備える。
【0007】
ハロー及び光散乱は、主に、ソフトコンタクトレンズの2つの成分によって生じる。第1の成分は、瞳孔の縁部における光回折によるものであり、第2の成分は、ソフトコンタクトレンズを形成する材料内における複数の内部反射/光散乱によるものである。光散乱若しくはハロー効果を克服するか又は最小限に抑えるため、現行のソフトコンタクトレンズ設計に対してソフトコンタクトレンズの透過プロファイルを変更する。本発明によれば、平滑な瞳アポダイゼーション関数がレンズ設計に適用されて、瞳孔の縁部における光回折が排除されるか又は実質的に最小限に抑えられる一方で、レンズ縁部のより高い吸収を適用することによって、ソフトコンタクトレンズによる複数の光反射が実施的に低減され、好ましくは排除される。
【0008】
コンタクトレンズ、より具体的にはソフトコンタクトレンズは、球面屈折力及び/又は円柱屈折力の屈折異常を矯正するように設計される。しかしながら、より高次の収差により、瞳孔縁部又はソフトコンタクトレンズ縁部で屈折した光線は、像点へと正確に収束しないことがあり、したがってぼやけた像が観察されることがある。この瞳孔縁部又はソフトコンタクトレンズ縁部の波面収差によって誘発されるぼやけた像は、レンズ全体の視力矯正性能を低下させることがある。平滑な瞳アポダイゼーション関数を適用することによって、瞳孔縁部又はソフトコンタクトレンズ縁部はより強力な吸収を有し、瞳孔縁部又はソフトコンタクトレンズ縁部を通過する光線は強度が著しく低減されるようになり、したがって、縁部の波面収差が網膜像全体に果たす役割が著しく低減されることになる。基本的に、平滑な瞳アポダイゼーション関数を適用することによって、より良好なレンズの視力矯正性能が達成されてもよい。
【0009】
数学的には、光学系は一般に、その位相変調関数及びその振幅透過関数によって説明されてもよい。一般的には、しかしながら、最新技術のソフトコンタクトレンズでは、光学特性をソフトコンタクトレンズに組み込むのに、位相変調のみが利用されている。本発明では、ソフトコンタクトレンズは、最適な視力矯正を担保する位相変調の一方で、レンズのハローを実質的に最小限に抑えるか又は排除し、瞳孔縁部の波面収差及び光散乱を低減すると共に、滑らかな瞳孔の推移及びより高度な吸収端という概念を共に組み込んで、レンズ振幅透過プロファイルを変調するように設計される。
【0010】
本発明のソフトコンタクトレンズは、標準的な製造技術を利用して単純に製造でき、したがって、合理的なコストで、より快適で、健康的で、明瞭な視力を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明の上述及び他の特徴と利点は、添付図面に例証されるような、本発明の好ましい実施形態の以下のより詳しい記載から明白となるであろう。
図1A】本発明による異なる瞳アポダイゼーション設計を示す図である。
図1B図1Aの異なるアポダイゼーション設計に対応する光透過プロファイルを示す図である。
図2】本発明にしたがって計算されるような視力改善の平均及び標準偏差対両眼離反運動を表すグラフである。
図3A】本発明による、アポダイゼーションを含む場合と含まない場合の瞳関数及び点拡がり関数を示す図である。
図3B】本発明による、アポダイゼーションを含む場合と含まない場合の瞳関数及び点拡がり関数を示す図である。
図3C】本発明による、アポダイゼーションを含む場合と含まない場合の瞳関数及び点拡がり関数を示す図である。
図3D】本発明による、アポダイゼーションを含む場合と含まない場合の瞳関数及び点拡がり関数を示す図である。
図4A】本発明による、アポダイゼーションを含まないソフトコンタクトレンズの周辺部分に入る光と、アポダイゼーションを含むソフトコンタクトレンズの周辺部分に入る光とを示す図である。
図4B】本発明による、アポダイゼーションを含まないソフトコンタクトレンズの周辺部分に入る光と、アポダイゼーションを含むソフトコンタクトレンズの周辺部分に入る光とを示す図である。
図5】本発明による相対ハロー強度対アポダイゼーションを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
コンタクトレンズ又はコンタクトは、単に、眼上に設置されるレンズである。コンタクトレンズは、医療用デバイスと見なされ、視力の矯正のため、及び/又は美容若しくは他の治療上の理由で装用されてもよい。コンタクトレンズは、1950年代以降、視力を改善するために商用的に利用されてきた。初期のコンタクトレンズは、硬質材料から作成又は製作され、比較的高価で壊れやすかった。それに加えて、これら初期のコンタクトレンズを製作していた材料は、コンタクトレンズを通して結膜及び角膜まで十分に酸素を透過させることができず、そのことによって潜在的に多数の臨床上の副作用を引き起こす可能性があった。これらのコンタクトレンズは依然として利用されているが、最初の快適性が低いため、全ての患者に適しているわけではない。その後のこの分野における発展によって、ハイドロゲル系のソフトコンタクトレンズがもたらされ、今日では非常に一般的で広く利用されている。具体的には、今日利用可能なシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、酸素透過性が非常に高いというシリコーンの利益を、既に明らかとなっているハイドロゲルの快適性及び臨床的性能とを組み合わせている。本質的に、これらのシリコーンヒドロゲル系コンタクトレンズは、初期の硬質材料から製造されたコンタクトレンズより、酸素透過率が高く、装用が概ねより快適である。
【0013】
現在利用可能なコンタクトレンズは、依然として、視力矯正の費用効果の高い手段である。近視若しくは近眼、遠視若しくは遠眼、乱視、すなわち角膜の非球面性、及び老眼、すなわち、遠近調節する水晶体の能力の喪失を含む、視覚障害を矯正するために、薄いプラスチックレンズが眼の角膜にかぶせて装着される。コンタクトレンズは、多様な形態で入手可能であり、様々な機能性をもたらすべく多様な材料から製造されている。終日装用ソフトコンタクトレンズは、通常、酸素透過性を得るために水と組み合わされた軟質のポリマー材料から製造される。終日装用ソフトコンタクトレンズは、1日使い捨て型であっても、連続装用の使い捨て型であってもよい。1日使い捨てコンタクトレンズは、通常、1日装用された後、廃棄されるが、連続装用使い捨てコンタクトレンズは、通常、最大で30日間の期間装用される。着色ソフトコンタクトレンズは、種々の機能性を得るために種々の材料を使用する。例えば、識別用着色コンタクトレンズは、落としたコンタクトレンズを発見する際に装用者を支援するために、明るい色合いを用いるものであり、強調用着色コンタクトレンズは、装用者の生来の眼色を強調することを意図した半透明の色合いを有するものであり、着色カラーコンタクトレンズは、装用者の眼の色を変化させることを意図した、より暗く不透明な色合いを備え、光フィルタリング着色コンタクトレンズは、特定の色を強調する一方で他の色を弱めるように機能する。硬質ガス透過性ハードコンタクトレンズは、シロキサン含有ポリマーから製造されるものであるが、ソフトコンタクトレンズよりも硬質であり、したがって、その形状を保ち、より耐久性の高いものである。二重焦点コンタクトレンズは、老眼である患者専用に設計されるものであり、軟質及び硬質の両方の種類で入手可能である。トーリックコンタクトレンズは、乱視を有する患者専用に設計され、同様にソフト及びハードの両方の種類で入手可能である。上記の様々な態様を組み合わせたコンビネーションレンズ、例えばハイブリッドコンタクトレンズもまた入手可能である。
【0014】
光学系は、その光学伝達関数(変調伝達関数及び位相伝達関数)によって十分に説明されてもよい。光学伝達関数は、次式によって与えられるシステム瞳関数P(x,y)の自己相関によって決定されてもよい。
P(x,y)=A(x,y)exp[jW(x,y)] (1)
【0015】
システム瞳関数P(x、y)は、振幅変調成分A(x,y)及び位相変調成分W(x,y)の両方を含み、exp[jW(x,y)]は位相項の虚数成分である。ソフトコンタクトレンズの現行の設計では、光位相の変動プロファイルW(x,y)が、視力を向上するために修正され改善されるが、式(1)から容易に理解できるように、光学系瞳関数P(x,y)はまた、その振幅変調関数A(x,y)にも依存するか、又はその関数である。本発明によれば、振幅変調関数A(x,y)を具体的に設計することで、W(x、y)を操作することによって得られる改善に加えて、ソフトコンタクトレンズの光学補正性能を更に改善することができる。これらの追加の改善は、瞳孔縁部の波面収差及びハロー、具体的にはそれら両方の低減に関連する。
【0016】
一般的に、平滑化された推移関数が、この例示的な実施形態では次式によって与えられる、振幅変調関数A(x,y)に適用されてもよい。
A(r)=exp(−α×(r/r)) (2)
r=√(x+y)において、rは光学帯半径であり、αは、瞳アポダイゼーションのタイプを決定する、続いてより詳細に説明されるような定数である。本発明では、振幅変調関数は1以外の任意の値である。式(2)はデカルト座標ではなく円柱座標で与えられ、式(1)はデカルト座標で与えられる点に留意することが重要である。また、光学系瞳関数P(x,y)を決定するのに、式(2)以外の伝達関数が利用されてもよい点に留意することも重要である。
【0017】
例示的な一実施形態によれば、式(1)及び(2)を利用して、アポダイズされたソフトコンタクトレンズが設計されてもよく、結果として得られる視力は目のモデルを用いてシミュレーションされてもよい。図1Aに示されるように、αの異なる大きさは、様々なタイプの瞳アポダイゼーションを与える。第1のパネル100では、αは0に等しく、これはソフトコンタクトレンズにおける現況技術であり、第2のパネル102では、αは約0.5であり、第3のパネル104では、αは約1である。図1Bはまた、図1Aの各αに対する瞳関数100’、102’、及び104’の対応する透過プロファイルを示している。3つのパネルから分かるように、アポダイゼーションが強くなるにつれて、瞳孔縁部の波面収差による影響が少なくなり、ハローが少なくなるが、透過される光もまた少なくなる。これはトレードオフであり、つまり、透過光対ハロー及び縁部波面収差の影響が低減される。図1Aの第3のパネル104に示されるように、レンズの縁部は、より少ない光を透過する。
【0018】
上述したように、式(1)及び(2)を利用して、アポダイズされたソフトコンタクトレンズが設計されてもよく、結果として得られる視力は目のモデルを用いてシミュレーションされてもよい。眼球球面収差(SPHA)の量、即ち視力性能のインジケータは、目のモデルを使用することによって得られてもよい。本発明では、平均化したヒトの眼球球面収差及び所定の母集団にわたるその分布又は標準偏差を概略化した、目のモデルが開発された。より具体的には、眼球球面収差の分布は、年齢20〜60歳の間で変動し、+8D〜−12Dの範囲の屈折異常(所定の母集団)を有する患者の目の臨床測定によって得られた。次に、モデル化を適用して、測定した眼球球面収差情報の全てを概略化し、数学的関数を利用して、異なる年齢及び異なる屈折異常をもつ患者に関して、眼球球面収差の平均及び標準偏差を説明した。目のモデルを使用して、所定の母集団にわたる複数の目に対してモンテカルロシミュレーションを更に実施した。αによって示される、アポダイゼーションの大きさが異なる標準的な球面レンズを、目のモデルから生成された複数の目に個別に適合させ、視力(VA)をそれぞれ計算した。アポダイゼーションを含まない同じ球面レンズもまた、患者の目の同じグループ又は母集団に適合させ、視力もまた個別に計算した。個々の目それぞれに関して、アポダイゼーションを含むソフトコンタクトレンズを有する目と、アポダイゼーションを含まないソフトコンタクトレンズを有する目との視力の差を計算し、視力改善として定義した。図2は、計算された視力改善の平均及び標準偏差対両眼離反運動のグラフ表現である。計算を行う際、αを、0.3〜3.0の凡例で示されるように変更し、rを4で固定又は保持し、rを0〜4の間で変動させた。図示されるように、異なる量のアポダイゼーション(変動するα)は、異なるレベルの視力改善を実証している。アポダイゼーションがより強いと、即ちαがより大きいと、より高レベルの視力改善が観察される。一例として、αが0.8に等しい場合、平均した合計の視力改善は0.5のラインを上回る。より強いアポダイゼーションはより小さい「有効」瞳孔サイズをもたらすので、これは合理的である。視力に関して、図2に示されるように、αが3に等しいと視力の改善が最大になるが、光透過のトレードオフを忘れてはならない。
【0019】
視力改善の標準偏差は、実際には、母集団内における眼球球面収差のばらつきによる。一般に、正の眼球球面収差が大きい患者は、眼球球面収差がゼロか又は負の眼球球面収差を有する患者よりも多くの利益を経験する。眼球球面収差とアポダイゼーションとの相互作用が研究されてきており、当該技術分野において知られている。夜間の視力の改善が、ヒトの夜間近視を有効に最小限に抑え得ることは非常に重要である。平均して、正の眼球球面収差はヒトの目に存在する。この正の眼球球面収差は、暗い光の中では瞳孔サイズが大きくなること(拡張)から、夜間においてより著しい役割を果たすことがある。夜間におけるこの眼球球面収差の量の増加は、夜間近視効果に寄与することがある。本発明による平滑な瞳アポダイゼーションを適用することによって、縁部の光強度が低減され、それによって夜間近視が低減されることがある。換言すれば、夜間近視の低減は、縁部波面収差の低減による直接的な結果である。
【0020】
本発明によって視力を改善できるだけではなく、ハロー(瞳孔縁部における回折)及び光散乱(レンズ縁部における複数の反射)が、瞳透過の平滑な推移によって著しく低減されてもよい。ハロー及び光散乱のこの低減は、光線追跡を用いて実証することができる。図3に示されるように、はるかに弱いハローリング(halo rings)を最終画像において、点拡がり関数306で、アポダイズされた瞳関数304と共に確認することができる。より具体的には、図示されるように、アポダイゼーションを含まない瞳関数300では、点拡がり関数302は実質的なハローを示す。上述したように、光散乱の相当部分は、レンズ又は瞳孔の縁部における光反射によるものである。アポダイゼーションを適用することによって、レンズ縁部は光をより多く吸収するようになり、それによって光散乱が低減される。詳細に後述する図4A及び図4Bは、この効果を示している。
【0021】
ハローによる著しい問題は、夜間の強い照明光によってもたらされる。夜間運転中、車両の強いビーム照明が入ってくることによって、運転者の周辺視野にハローが形成される。図4Aは、アポダイゼーションがないソフトコンタクトレンズ402の周辺部分に入る光400を示し、図4Bは、アポダイゼーションがあるソフトコンタクトレンズ406の周辺部分に入る光404を示している。図示されるように、アポダイゼーションは、破線408によって示されるように、この入射周辺光404の強度を低減する。光ビームが瞳孔縁部から入ると仮定して、図5は、アポダイゼーションの量が異なる場合のハロー強度を示している。αが0.8に等しいとき、ハロー強度は、瞳アポダイゼーションがない場合のハロー強度の半分(0.45)未満である。ハローが減少すると、瞳孔に入る光強度は減少し続け、一般的に、αは、快適な視力の場合の10未満であるべきである。10に等しいと、合計の光透過は11.1%である。本発明によれば、αは好ましくは0.1から10の間で変動する。
【0022】
式(1)及び(2)にしたがったソフトコンタクトレンズのアポダイゼーションは、レンズの光学帯全体にわたって透過率が変動する中性濃度フィルタの薄いコーティングで製造されてもよい。当該技術分野で知られているように、中性濃度フィルタはスペクトル全体にわたって均一に阻害する。この中性濃度フィルタコーティングは、コーティング及び印刷技術を含む任意の好適な手段を利用して、適用又は達成されてもよい。それに加えて、任意の数の好適なコーティングが利用されてもよい。コーティングは、レンズ自体に、その上に、又はその中に適用されてもよい。
【0023】
ここで図示及び説明した実施形態は、最も実用的で好適な実施形態と考えられるが、当業者であれば、ここに図示及び開示した特定の設計及び方法からの変更はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、記載し例証した特定の構成に限定されないが、添付の特許請求の範囲に含まれ得る全ての修正と一貫するように構成されているべきである。
【0024】
〔実施の態様〕
(1) 改善した視覚性能を有するソフトコンタクトレンズであって、
光学領域と、
前記光学領域を取り囲む周辺領域と、
前記光学領域及び前記周辺領域の少なくとも一部分にわたって適用される振幅変調成分及び位相変調成分を有するシステム瞳関数であって、前記振幅変調成分が平滑推移関数を含む、システム瞳関数と、
を備える、ソフトコンタクトレンズ。
(2) 前記振幅変調成分が1に等しくない、実施態様1に記載のソフトコンタクトレンズ。
(3) 前記平滑推移関数が、対数関数、三角関数、及び多項式関数のうちの少なくとも1つによって表される、実施態様1に記載のソフトコンタクトレンズ。
(4) 前記平滑推移関数が、A(r)=exp(−α×(r/r))によって与えられる、実施態様1に記載のソフトコンタクトレンズ。
(5) 前記αの値が0.1から10まで変動する、実施態様4に記載のソフトコンタクトレンズ。
【0025】
(6) 前記振幅変調成分にしたがって、本発明による前記レンズの上又は中の前記光学領域及び前記周辺領域の少なくとも一部分に適用される材料を更に備える、実施態様1に記載のソフトコンタクトレンズ。
(7) 前記材料が中性濃度フィルタを含む、実施態様6に記載のソフトコンタクトレンズ。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5