(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記定着工程を実行するサイクルでは、前記記録媒体に対して相対的に移動可能である前記定着手段を前記記録媒体に当接させる位置に移動させ、前記定着工程を実行しないサイクルでは、前記定着手段を前記記録媒体に当接しない位置に移動させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
前記定着工程を実行するサイクルでは、前記定着工程を行う領域である定着エリアを通過する経路で前記記録媒体を搬送し、前記定着工程を実行しないサイクルでは、前記定着エリアを通過しない経路で前記記録媒体を搬送することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
前記定着手段は定着ローラであり、複数回の前記定着工程において、前記定着ローラの表面と前記記録媒体に形成されるインク層の表面との配置関係が一定となるように前記定着ローラを移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
形成する前記画像の画像データから必要なインク層の厚み情報と色情報を取得する工程と、前記取得した厚み情報と色情報から、必要なサイクル数とサイクル毎のインク層厚みを決定する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
前記定着工程は、最初のサイクルから又は前回の定着工程の実行されるサイクルから、前記サイクル毎のインク付与量から決定されるインク層の厚みの積算値が一定値を越えないサイクルで実行される、請求項5に記載のインクジェット記録方法。
前記インクは樹脂粒子を含む固形分を水性媒体に分散させた水性インクであり、前記記録媒体は難吸水性又は非吸水性の記録媒体である請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
前記インク付与工程は、複数の領域に分割された前記画像の該領域毎に該インク付与工程の実行回数を異ならせる請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
前記搬送手段は、画像の形成を行う領域である印字エリアと画像形成面の定着を行う領域である定着エリアとを前記記録媒体が通過する第1記録媒体搬送経路と、前記定着エリアは通過せず前記印字エリアだけを前記記録媒体が通過する第2記録媒体搬送経路と、を有する請求項10に記載のインクジェット記録装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、記録媒体上の画像形成面のインク層に任意に凹凸を設けて見た目や質感を変える装飾印刷の需要が高まっている。画像形成面に凹凸を設ける方法はいくつか提案されているが、特許文献1のような反応液と樹脂エマルジョンの組み合わせによって、複数のインク付与工程を繰り返すことで少しずつ画像を形成してインク層に凹凸を設けることも可能である。
【0006】
しかしながら、画像形成面に形成されたインク層の凹凸の差が大きい場合には、画像形成が完了した後に定着を行うと、インク層の凹部に定着ローラが当接できない場合が発生する。定着ローラに画像形成面が直接接触していなくても非常に近い距離にあればある程度の熱は伝わるが、距離が離れている場合には熱を十分に加えられないため未定着な状態となることがある。未定着な部分があると光沢や擦過性が低下してしまう。
【0007】
また、この問題を解決するためにインク付与を繰り返し行う工程の間に定着工程を入れて毎回定着を行う本体構成を取ることも可能である。しかし定着後には反応液の凝集効果が大幅に失われることから、毎回反応液付与が必要となるため、反応液の消費量が非常に多くなってしまう。
【0008】
本発明は、画像形成面に大きな凹凸を持つ画像の形成においても凹部の未定着を低減して光沢や擦過性の低下を抑制するとともに、反応液の消費量を抑制することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係るインクジェット記録方法は、
記録媒体にインクと混合することにより増粘または凝集する反応液を付与する反応液付与工程と、
前記記録媒体に前記インクを付与するインク付与工程と、
前記記録媒体の画像形成面を定着手段により少なくとも加熱して定着する定着工程と、
を含むインクジェット記録方法において、
前記反応液付与工程、前記インク付与工程及び前記定着工程のうちの少なくとも1つの工程を実行するサイクルを複数回実施することにより1つの画像を形成し、
前記インク付与工程を前記複数回の各サイクルに実行し、
前記複数回のサイクルは、前記定着工程を実行するサイクルと実行しないサイクルとを含み、前記定着工程を実行するサイクルは少なくとも未定着領域全ての定着が可能なタイミングで実施され、
前記反応液付与工程は、最初のサイクルと、前記定着工程を実行したサイクルの次のサイクルにおいて、前記インク付与工程の前に実行することを特徴とする。
【0010】
また、インクジェット記録装置は、
記録媒体に反応液を付与する反応液付与工程を実行する手段と、
前記記録媒体にインクを付与するインク付与工程を実行する手段と、
前記記録媒体の画像形成面を定着する定着工程を実行する手段と、
前記記録媒体を搬送する搬送手段と、
を備えるインクジェット記録装置において、
前記反応液付与工程、前記インク付与工程及び前記定着工程の実行タイミングを決定するタイミング決定手段を備え、
該タイミング決定手段は、
1つの画像を形成するまでの前記定着工程の実行回数が前記インク付与工程の実行回数よりも少なく、かつ前記定着工程は少なくとも未定着領域全ての定着が可能であるように、前記インク付与工程と前記定着工程の実行タイミングを決定し、
画像形成の開始直後と前記定着工程の直後とを、前記反応液付与工程の実行タイミングと決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置によれば、画像形成面に大きな凹凸を持つ画像の形成においても凹部の未定着を低減して光沢や擦過性の低下を抑制することができるとともに、反応液の消費量を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
(実施形態1)
図1(a)は本発明の実施形態1に係るインクジェット記録装置の画像形成部の概略構成図である。本発明では枚葉の記録媒体に画像を形成する。
【0014】
まず、インクジェット記録装置に供給された記録媒体20は渡し胴(搬送手段)8に送られて、渡し胴8に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられることによって渡し胴8に固定される。渡し胴8に固定された記録媒体20は渡し胴8が回転することによって搬送ドラム(搬送手段)7との受け渡し部12に搬送される。受け渡し部12に到達した記録媒体20は、搬送ドラム7に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に渡し胴8の咥え爪から開放されて、搬送ドラム7の回転に伴い搬送ドラム7に沿って搬送される。
【0015】
搬送ドラム7の表面には微細な吸引口(不図示)が設けられており、搬送ドラム7に内蔵された送風ファン(不図示)によって負圧が発生している。この負圧によって記録媒体20は吸着された状態で搬送される。記録媒体20を吸着して搬送することによって、画像形成中に発生するカールやコックリング、記録媒体20の浮きを抑制すると共に、画像形成におけるインク滴の着弾精度を高めた高品位な画像を形成することができる。
【0016】
本実施形態の記録媒体は、印刷用紙や塩ビフィルムなどの難吸水性の記録媒体や、プラスチックフィルム、金属箔など水性インクを基本的に吸収しない非吸水性の記録媒体など、搬送ドラム7の表面形状に追従する可撓性を有する材料が適用できる。
【0017】
搬送ドラム7で搬送される記録媒体20は、まず記録ヘッド1(反応液付与工程を実行する手段)によって反応液が付与される。反応液は、インクと接触することによりインク中のアニオン性基を有する成分(樹脂、自己分散顔料など)を凝集させるものであり、反応剤を含有する。反応剤としては、例えば、多価金属イオン、カチオン性樹脂などのカチオン性成分や、有機酸など挙げることができる。本実施形態では反応液の反応液種としてグルタル酸などの有機酸を採用している。なお、反応液は記録ヘッド(インクジェットヘッド)での付与に限定されず、公知の塗布手段を用いて付与することができる。
【0018】
具体的には、インクジェットヘッドの他、グラビアオフセットローラ、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)などが挙げられる。反応液付与装置による反応液の付与は、記録媒体上でインクと混合(反応)することができれば、インクの付与前に行っても、インクの付与後に行ってもよい。好ましくは、インクの付与前に反応液を付与する。反応液をインクの付与前に付与することによって、インクジェット方式による画像記録時に、隣接して付与されたインク同士が混ざり合うブリーディングや、先に着弾したインクが後に着弾したインクに引き寄せられてしまうビーディングを抑制することもできる。
【0019】
反応液はインクと接触することによって、記録媒体上でのインク及び/又はインク組成物の一部の流動性を低下せしめて、インクによる画像形成時のブリーディングや、ビーディングを抑制することができる。具体的には、反応液に含まれる反応剤(インク高粘度化成分とも称する)が、インクを構成している組成物の一部である色材や樹脂等と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着する。これによって、インク全体の粘度の上昇や、色材などインクを構成する成分の一部が凝集することによる局所的な粘度の上昇を生じさせ、インク及び/又はインク組成物の一部の流動性を低下させることができる。
【0020】
なお、本実施形態では反応液の反応液種として有機酸を採用したが、他に多価金属塩やカチオンポリマーなどのインク中の顔料粒子や樹脂粒子を凝集させる機能を持つものであれば、特にこれに限定するものではない。
【0021】
記録ヘッド1の搬送方向の下流側では記録ヘッド2〜6(インク付与工程を実行する手段)が配置され、ここでインクが付与されてインク層が形成される。記録ヘッド2からはブラックインク、記録ヘッド3からはイエローインク、記録ヘッド4からはマゼンタインク、記録ヘッド5からはシアンインク、記録ヘッド6からは色材を含まないクリアインクが付与される。記録媒体20が記録ヘッド1〜6と相対して通過する領域が画像を形成するための印字エリアとなる。本実施形態の有色インクには色材としての顔料粒子に加えて樹脂粒子が分散された状態で添加されている。下地として付与された反応液とインクが混合することによって、反応液中の有機酸とインク中の顔料粒子、及び、樹脂粒子が即座に反応して顔料粒子と樹脂粒子を凝集させることができる。同様に本実施形態のクリアインクには色材を含まず、樹脂粒子が分散された状態で添加されており、反応液とインクが混合することによって反応液中の有機酸とインク中の樹脂粒子が即座に反応して樹脂粒子を凝集させることができる。すなわち、本発明で使用するインクは、有色インク、クリアインクともに、樹脂粒子を含む固形分を水性媒体で分散させた水性インクである。
【0022】
インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定にする、すなわち樹脂分散剤やその補助として、(ii)記録される画像の各種特性を向上させる、などの理由でインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に水溶性樹脂として溶解した状態であってもよく、水性媒体中に樹脂粒子として分散した状態であってもよい。樹脂粒子は色材を内包するものである必要はない。
【0024】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン樹脂が好ましい。
【0025】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα−メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0026】
インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。水性インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。
【0027】
本実施形態で採用している記録ヘッドは記録媒体20の幅よりも長いノズル列を持つ所謂ライン型の記録ヘッドであることが好ましい。ライン型の記録ヘッドであれば、記録ヘッドは固定した状態で記録媒体20を搬送して画像形成領域全体に画像を形成できるため、比較的重量のある記録ヘッドを動かす必要がない。そして、記録ヘッドの移動が不要となると共に、記録媒体20は一方向に搬送すれば良いため、高速の画像形成に対応することができる。
【0028】
記録ヘッド1〜6の印字エリアを通過した記録媒体20は乾燥機11によって、付与されたインク中の大部分の水分が乾燥除去される。乾燥機11には熱源としてのハロゲンヒータ(不図示)と送風ファンが内蔵されている。なお、水分を除去する方法は本実施形態の構成に限定するものではなく、IRヒータなどの公知の方式を使用しても良い。
【0029】
乾燥機11によってインク中の水分の大部分が除去された記録媒体20は定着ローラ(定着手段又は定着工程を実行する手段)9によって画像形成面が定着される。定着ローラ9の表面を画像形成面に直接当接して熱を加えることによって熱を効率的に伝えて、インク中に含まれる樹脂粒子を軟化して膜化させることができる。また同時に圧力を加えることによって膜の平滑化が促進される。なお必ずしも樹脂粒子は完全に軟化させて膜化する必要はなく、樹脂粒子の表面が軟化して粒子同士がくっ付いた状態でも機能することを確認している。定着ローラ9の表面素材としてはフッ素樹脂(例えばPTFE)など平滑性が高く、また画像形成面との剥離性が良いものを用いている。
【0030】
定着時の温度(ニップ温度)はインク中に含まれる樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)以上であり、MFTよりも十分高温であることが好ましい。よって採用する樹脂粒子によってニップ温度を調整することが望ましい。また、定着時の圧力(ニップ圧力)はインク層表面を十分に平滑化できる圧力であることが好ましい。
【0031】
本実施形態では定着ローラ9が記録媒体に対して相対的に可動式の構成となっており、定着を行わないときには
図1(b)のように定着ローラ9を画像形成面と当接しない位置まで移動させる。
【0032】
つまり、インクジェット記録装置は、定着ローラ9が、定着を行う(記録媒体と当接する)位置(
図1(a)に示す位置)と、定着を行わない(記録媒体と当接しない)位置(
図1(b)に示す位置)との間で移動可能なように構成されている。
【0033】
定着エリアを通過後、記録媒体20は画像形成が全て完了した場合には、渡し胴(搬送手段)10との受け渡し部13において、渡し胴10に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に搬送ドラム7の咥え爪(不図示)から開放される。そして渡し胴10の回転に伴い渡し胴10に沿って搬送されて、その先の排紙ローラ(不図示)によって排紙される。一方で画像形成が完了していない場合には、受け渡し部13において渡し胴10への受け渡しは行わずに、そのまま搬送ドラム7に搬送されて再び記録ヘッド1〜6の印字エリアに戻る。画像形成が全て完了するまで搬送ドラム7上を繰り返し回転して搬送されながら画像を形成する。定着エリアとは、画像形成面の定着を行う領域であり、記録媒体が定着手段と当接する領域である。
【0034】
本実施形態では、定着は搬送ドラム上に固定された記録媒体に定着ローラを当接させて行っている。しかし定着装置の構成はこれに限られない。例えば、定着ベルト、加圧(加熱)ローラ、支持ローラ、剥離ローラを備えた構成でもよい(図示せず)。定着ベルトは、加圧ローラと剥離ローラ間に張架されており、記録媒体を直進的に搬送する搬送装置と同期して回転する。加圧ローラと支持ローラは、定着ベルトを介して配置され、定着ベルトと記録媒体を加圧、加熱する。この場合、記録ヘッドは記録媒体搬送装置によって搬送される記録媒体と相対する位置に配置される。
【0035】
図3は、インクジェット記録装置における装置全体の制御システムを示すブロック図である。ここで、31は外部プリントサーバー等の記録データ生成部、32は操作パネル等の操作制御部、33は記録プロセスを実施するためのプリンタ制御部、34は記録媒体を搬送するための記録媒体搬送制御部、35は印刷するためのインクジェットデバイスである。
【0036】
プリンタ制御部33は、インクジェット記録装置全体を制御するとともに、画像形成条件決定部として画像形成に必要なサイクル数とインク層厚みを決定する。また、タイミング決定手段として反応液付与工程、インク付与工程、定着工程の実行タイミングの決定等を行う(いずれも後述)。
【0037】
次に本実施形態における画像形成について説明する。まず画像が形成されるまでの工程のフローについて
図2を用いて説明する。この例では、記録媒体に反応液を付与する反応液付与工程と、記録媒体にインクを付与するインク付与工程と、記録媒体の画像形成面を定着する定着工程と、のうちの少なくとも1つの工程を実行するサイクルを複数回実施することによって1つの画像を形成する。
【0038】
画像形成が開始されるとまず、これから実施するサイクルが反応液の付与タイミングであるかを判断する(ステップS11)。反応液の付与タイミングである場合(S11:Yes)には反応液を付与し(ステップS12)、その後インクを付与(ステップS13)して画像を形成する。反応液の付与タイミングでない場合(S11:No)には反応液を付与せずにインクを付与(ステップS13)して画像を形成する。次にこのサイクルが定着のタイミングであるか判断する(ステップS14)。定着のタイミングである場合(S14:Yes)には定着を実施する(ステップS15)。次に画像形成が終了したか否かを判断する(ステップS17)。ここで画像形成が終了している場合(S17:Yes)には記録媒体を排紙して処理を終了する。一方、画像形成が終了していない場合(S17:No)には反応液の付与タイミングを判断するステップS11に戻る(次のサイクルを開始する)。戻ってステップS14で定着のタイミングでないと判断された場合(S14:No)には、次に画像形成が終了したか否かを判断する(ステップS16)。画像形成が終了していないとき(S16:No)には反応液の付与タイミングを判断するステップS11に戻る(次のサイクルを開始する)。画像形成が終了しているとき(S16:Yes)には定着のタイミングでなくても定着を実施し(ステップS18)、排紙して(ステップS19)、処理を終了する。
【0039】
次に本実施形態におけるインクを付与する際の画像の形成条件の決め方、具体的には、画像形成に必要なサイクル数とインク層厚みの決め方について
図4を用いて説明する。まず、形成する画像の画像データから必要なインク層の厚み情報と色情報を取得する(ステップS21)。厚み情報は例えば、色データとは別に画像データに含まれているものであり、画像領域毎に形成したい厚みのデータである。厚みデータは例えば色データとは別の厚みデータ専用のプレーンであり、画素毎に厚みが0〜255の合計256階調で表現されている。さらに厚みの256階調を実際の厚みに変換するテーブルを別に持つことによって厚みデータを得る。次にステップS21で取得したインク層の厚み情報と色情報から凹凸のある画像を形成するために必要なサイクル数とサイクル毎のインク付与量に基づくインク層厚みを決定する(ステップS22)。例えば有色インクに加えて色材を含まないクリアインクを用いる場合、色情報から色を再現するための有色インクの1サイクル毎のインク層厚みとサイクル数を決める。次に厚み情報から有色インク層の積算厚みに対して不足分をクリアインクで形成するためのサイクル毎の付与量に基づくクリアインク層厚みとサイクル数を決定する。
【0040】
クリアインクの1サイクルあたりのインク付与量は予め上限が決められており、クリアインクで実現する1サイクルあたりのクリアインク層の厚みに応じてサイクル数が自動的に決まる。本実施形態では最初の2サイクルで有色インクによって色としての画像を形成し、それ以降のサイクルではクリアインクを付与して画像形成面に凹凸を形成する。
【0041】
次に反応液の付与工程、インクの付与工程、及び定着工程のタイミングと、実際に画像が積層して形成される様子を表1と
図5を用いて説明する。表1は、タイミング決定手段33により決定された、各サイクルで反応液付与工程、インク付与工程、定着工程がそれぞれ実行されるタイミングを白丸で示したものである。サイクルの回数は14まで、即ち14回のサイクルを繰り返し実施して1つの画像を形成する場合の各工程の実行パターン表である。本実施形態では表1のように、反応液の付与工程は最初のサイクル(画像形成の開始直後)、及び、定着工程を行った次のサイクル(定着工程の直後)で実行する。またインクの付与工程は全てのサイクルで実行する。そして定着工程は画像形成面のインク層の凹凸が大きくなり定着ローラで凹部の定着ができなくなる前に実行する。ここでの凹凸差は未定着部分の凹凸差であり、すでに定着された凹部について未定着部分との凹凸差を考慮する必要はない。本実施形態では1回のサイクルで形成できる最大の厚み量に基づいて4サイクル毎に定着工程を実行する。
【0043】
表1に示すように、インク付与工程はすべてのサイクルで行うが、定着工程は第4、8、12、14サイクルだけしか行わない。このように毎サイクル実行されるインク付与工程に対して、定着工程を間欠的(特定のサイクルだけ)に行う。即ちインク付与工程の実行回数よりも定着工程の実行回数を少なくする。例えば、定着工程は、最初のサイクル(画像形成開始直後)から又は前回の定着工程の実行されるサイクルから、所定のサイクル数毎に実行される。これにより、定着直後(と最初のサイクル)に行う反応液付与工程の実行回数もインク付与工程の実行回数よりも少なくなる。そのため、定着工程を毎サイクル行う場合に比べて反応液の消費量を抑制することができる。さらに定着工程は、少なくとも未定着領域全ての定着が可能なタイミング(前回の定着工程以降に付与したインクを全て定着させることができるタイミング)で行う。これにより、未定着部分が生じることによって光沢や擦過性の低下が発生することを抑制することができる。
【0044】
図5では、それぞれインク層の高さが異なる領域A、領域B、領域C,領域Dがある例を記載する。まず(a)に示す1サイクル目は反応液が一度も付与されていない状態のため、その後に付与されるインクと反応させるために反応液を記録媒体20上に付与する(反応液付与工程)。反応液は画像を形成する領域に対して均一な膜が形成されるように付与される。なお反応液の付与量は反応液の物性や記録媒体20の種類に応じて調整することが望ましい。
【0045】
次に各色からサイクル毎に分割された画像データに基づいて反応液が付与された上にインクが付与される(インク付与工程)。反応液とインクが混合することによって反応液中の有機酸と顔料粒子、及び、樹脂粒子が反応して即座に凝集する。1サイクル目では画像形成面に大きな凹凸が形成される程のインク層が形成されていないので定着は行わない。そのため定着ローラ9は画像形成面に当接しないように離れた位置に移動している。
【0046】
次に(b)に示す2サイクル目では1サイクル目で付与した反応液に含まれる有機酸が残存しているため反応液は付与せず、インクのみ付与して画像を形成する。有色インクによる画像形成はここで完了する。1サイクル目と同様に2サイクル目においても定着は行わない。
【0047】
次に(c)の3サイクル目からはクリアインクを付与するが、1サイクル目で付与した反応液に含まれる有機酸が残存しているため反応液は付与せず、クリアインクのみを付与してさらに画像を形成する。1サイクル目と同様に3サイクル目においても定着は行わない。領域Bの画像形成はこのサイクルで完了する。
【0048】
次に(d)の4サイクル目では反応液は付与せずにクリアインクのみ付与して画像を形成し、その後定着を行う(定着工程)。4サイクル目以降では画像形成面の凹凸が大きくなり凹部に定着ローラが当接できずに未定着となる部分が発生する可能性があるため、この時点で定着を行う。3サイクル目で画像形成が完了している領域Bに対してもここで定着が行われる。4サイクル目で定着を行うために3サイクル目に記録媒体20が定着エリアを通過してから4サイクル目に定着エリアに搬送される間に定着ローラ9を画像形成面と当接する位置(
図1(a))まで移動させておく。
【0049】
次に(e)の5サイクル目では、4サイクル目の定着によって画像形成面が乾燥して反応液による凝集効果が薄れてしまう。そこで5サイクル目ではまず反応液の付与を行い、続けてクリアインクを付与する。定着は行わない。
【0050】
このようなタイミングで画像形成を繰り返し、最終サイクルである図中(f)の14サイクル目では定着のタイミングでない場合であっても定着を行い、画像形成面の最表層面の定着を行う。なお6サイクル目で画像形成が完了する領域Cは8サイクル目の定着タイミングによって定着が行われる。同様に13サイクル目で画像形成が完了する領域Dは14サイクル目の定着タイミングによって定着が行われる。
【0051】
以上が本実施形態における反応液とインクの付与、定着のタイミングとなる。以上のように、画像を複数の領域に分割し、その領域毎にインク付与工程の実行回数を異ならせることができる。つまり、タイミング決定手段33は、各インク付与工程において、インクを付与する領域とインクを付与しない領域とを決定することができる。これにより、凹凸のある画像を形成することができる。また、所定の条件で定着工程と反応液付与工程を実行することにより、大きな凹凸を持つ画像であっても凹部の未定着を低減して光沢や擦過性の低下を抑制することができるとともに、反応液の消費量を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態ではインクとしてブラック、イエロー、マゼンタ、シアン、クリアインクの5色を採用している。しかしこれらに加えて、顔料濃度の低い淡インクや、レッド、ブルー、グリーンなどの特色インク、金属片などを添加したシルバーインクなどを採用しても良い。
【0053】
(実施形態2)
次に実施形態2について
図6を用いて説明する。本実施形態では定着の構成が実施形態1と異なる。実施形態1ではサイクル毎の定着の有無を定着ローラの移動によって行っていたが、本実施形態では定着する搬送経路と定着しない搬送経路の2つの搬送路を持ち、これを切り替えることによって行う。実施形態1に対して定着する搬送経路の搬送距離が若干長くなるためスループットが若干低下するが、熱源である定着ローラを記録ヘッドから離して設置することができるため、記録ヘッドの昇温などを抑制することができる。また定着ローラを定着する場合としない場合で大きく移動させる必要がないため比較的シンプルな装置構成とすることができる。
【0054】
図6に示すインクジェット記録装置では、定着工程を実行する場合の記録媒体20の搬送経路と、定着工程を実行しない場合の記録媒体20の搬送経路とが異なっている。即ち、定着工程を実行するサイクルでは、定着工程を行う(固定された定着ローラと当接する)位置を通過する搬送経路で記録媒体20が搬送される。定着工程を実行しないサイクルでは、記録媒体20は定着工程を行う位置を通過しない搬送経路で搬送される。
【0055】
言い換えれば、インクジェット記録装置は、記録媒体20が、画像を形成する領域である印字エリアと画像形成面の定着を行う領域である定着エリアとを通過する第1記録媒体搬送経路(
図6(a)参照)を有する。さらに定着エリアは通過せず印字エリアだけを記録媒体20が通過する第2記録媒体搬送経路(
図6(b)参照)を有する。印字エリアは、前述のように記録媒体が記録ヘッド1〜6に相対する領域である。定着エリアは、記録媒体が定着ローラに当接する領域である。そして各サイクルでいずれかの記録媒体搬送経路を選択可能である。
【0056】
詳細には、定着を行う場合には、
図6(a)に示すように、記録媒体20が乾燥機11を通過した後に渡し胴14に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に搬送ドラム7の咥え爪から開放されて、渡し胴14の回転に伴い搬送される。さらに記録媒体20は渡し胴15に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に渡し胴14の咥え爪から開放されて、渡し胴15の回転に伴い搬送される。渡し胴15に対面する位置には定着ローラ9が設置されており、記録媒体20がここを通過することによって画像形成面に熱と圧力を加えて、画像形成面を定着する。定着後は記録媒体20が渡し胴16に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に渡し胴15の咥え爪から開放されて、渡し胴16の回転に伴い搬送される。さらに搬送ドラム7に設けられた咥え爪(不図示)に先端部を咥えられると同時に渡し胴16の咥え爪から開放されて、搬送ドラム7の回転に伴い搬送ドラム7に沿って搬送される。そして記録媒体20は記録ヘッド1〜6の印字エリアに戻る。以上が定着を行う搬送経路となる。なお、点線の矢印は排紙方向である。
【0057】
一方で、定着を行わない場合には、
図6(b)に示すように、記録媒体20が乾燥機11を通過後に渡し胴14に設けられた咥え爪(不図示)に咥えないことで、搬送ドラム7による搬送が継続されて、記録媒体20は記録ヘッド1〜6の印字エリアに戻る。以上が定着を行わない搬送経路となる。
【0058】
本実施形態では定着する搬送経路と定着しない搬送経路の2つの搬送経路を持ち、これを切り替えることによって定着の有無を決定する。そのため、装置サイズは実施形態1よりも大型化するが、実施形態1のように定着ローラを可動式にする必要がないため、シンプルな装置構成とすることができる。
【0059】
(実施形態3)
次に本発明の実施形態3について説明する。実施形態1では定着の有無を予め決めた所定のタイミングとしていたが、本実施形態では画像データのインク層の厚み情報と色情報から得られたインク層の厚み積算値と定着ローラの定着可能厚みとを比較して定着のタイミングを決定する。
【0060】
図7は本実施形態を説明する、タイミング決定手段が行うタイミング決定フローチャートである。ステップS31とS32は実施形態1で記載した内容と同じである。本実施形態ではステップ33でサイクル毎に記録媒体の表面(インクが付与されていない白地)を基準としたインク層の厚みの積算値を算出する。次にステップS34にてステップS33で算出した積算値から定着のタイミングを決定する。
【0061】
図7のフローチャートによって決定した定着のタイミングの一例を表2に示す。ステップS31で取得したインク層の厚み情報と色情報から有色インクによる画像形成として1回のサイクルで3μm厚のインクを付与し、2サイクルで合計6μm厚の有色インク層を形成する。3サイクル目以降はクリアインクによる画像形成とし、1回のサイクルで1.5μm厚を付与し、12サイクル合計で最大18μm厚のクリアインク層を形成する。合計14回のサイクルで最大24μm厚の画像を完成する。各サイクルにおけるインク層の厚みの積算値は表2のようになり、1サイクル目で3μm、2サイクル目で6μm、3サイクル目で7.5μm、4サイクル目で9μmとなり、14サイクル目で24μmに到達する。
【0063】
本実施形態の定着ローラでは10μmまでの凹凸に対しては凹部においても定着ローラを当接することが可能(つまり、定着可能厚みが10μm)であるため、積算したインク層の厚みが定着可能厚みである10μmを超えない最大のサイクルで定着を行う。本実施形態では4サイクル目で積算のインク層厚みが9μmとなり、5サイクル目では10.5μmとなり10μmを超えるため、定着は4サイクル目に行う。定着を行うサイクル以降の積算インク厚みについては、工程毎の積算値を一度リセットして積算する。本実施形態では4サイクル目で定着を行うので5サイクル目以降は積算値を一度リセットして5サイクル目では1.5μm、6サイクル目で3μmとなる。2回目の定着は10サイクル目で9μm、11サイクル目で10.5μmと10μmを超えるため、10サイクル目に行う。最後に画像形成が終了する14サイクル目では定着のタイミング(積算インク厚み)によらず必ず定着を行う。
【0064】
以上のように本実施形態ではインク層の厚み情報と色情報から工程毎のインク層の厚みを把握し、この情報に基づいて、未定着のインクの積算厚みが一定値(例えば定着可能厚み)を超えない範囲のサイクルで定着のタイミングを決める。これによって定着工程の回数を最小限に抑えることができる。そのため、定着工程を行った直後のサイクルで実行する反応液付与工程の回数も最小限に抑えることができ、反応液の消費量を抑制できる。
【0065】
(実施形態4)
次に本発明の実施形態4について表3を用いて説明する。本実施形態では定着ローラの記録媒体からの距離を画像形成面のインク層の厚みに応じて調整する。
【0066】
表3は実施形態4における定着の有無のタイミングに対して、定着ローラの位置調整のタイミングと調整量の一例を記載したものである。表中のように最初の定着を4サイクル目に行った後、4サイクル目におけるインク層の厚みの積算値の9μmだけ定着ローラを記録媒体に対して遠ざかるように移動させる。同様に2回目に定着を行う10サイクル目の定着を実施後にもさらに9μm離し、初期の位置から18μm定着ローラを移動させる。つまり、複数回の定着工程において、定着ローラの表面と記録媒体に形成されたインク層の表面との配置関係(距離)が一定となるように定着ローラの位置を移動させる。これにより、それぞれの定着工程で定着ロ−ラがインク層の表面を押し込む距離を同じとすることができる。このように定着する毎に画像形成面のインク層の厚み分の距離だけ定着ローラを移動させることによって、常に同じ定着条件で定着を行うことができる。
【0068】
なお、本実施形態は実施形態1の形態でも実施形態2の形態でも適用することができる。例えば、実施形態1では、定着工程時の定着ローラの位置は、インク厚さに応じて微調整してもよい。また実施形態2では基本的に定着ローラの位置は固定されている。しかし、固定されているというのは、あくまで記録媒体の画像形成面と当接する範囲内で固定されているということであり、インク層の厚みが増加した場合は、それに伴い定着ローラの位置を、記録媒体のインク層と当接する範囲内で移動させる場合も含む。
【0069】
(その他の実施形態)
上記の実施形態では、いずれも記録媒体上に直接インクを付与して画像を形成、定着する直接描画方式を例にとって説明した。しかしこれに限らず本発明はいったん転写体上にインクを付与してインク像を形成し、そのインク像を記録媒体へ転写する転写型のインクジェット記録方法及び記録装置にも適用することができる。その場合は、転写型のインクジェット記録方法や記録装置に必要な公知の工程や部材を配置することができる。
また上記の実施形態では、ドラム式の搬送手段とローラ式の定着手段を用いて、可撓性のある記録媒体をドラム表面に密着させた状態で各工程を実行する形態を説明した。しかし記録媒体の種類、搬送手段、定着手段はこのようなドラム形態に限られない。例えば、不撓性の金属板やプラスチックプレート等の記録媒体に画像を形成することができる。この場合、例えばベルト状の平坦な面を有する搬送手段と定着手段を用い、搬送手段で記録媒体を繰り返し往復させて反応液付与工程、インク付与工程、定着工程を行うように構成してもよい。