特許第6980508号(P6980508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980508
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】バッテリー用の液体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20211202BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0569
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-237645(P2017-237645)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-101621(P2018-101621A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2020年12月7日
(31)【優先権主張番号】62/436,302
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/421,136
(32)【優先日】2017年1月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大道 馨
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ブルックス
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・マケニー
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−500725(JP,A)
【文献】 特表2009−529222(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093272(WO,A1)
【文献】 特開昭59−151779(JP,A)
【文献】 特開2001−172268(JP,A)
【文献】 特開2012−182060(JP,A)
【文献】 Vinod H. Jadhav et al.,Chemical Engineering Journal,2015年,Vol. 270,pp. 36-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質組成物の製造方法であって、
(a)溶媒にクラウンエーテル及びハロゲン化金属を溶解させるステップ;
(b)前記クラウンエーテル及び前記ハロゲン化金属を反応させてクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を形成するステップ;
(c)前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を単離するステップ;及び
(d)再充電可能なバッテリーの非水電解質溶液に前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を加え、前記電解質溶液に一以上のハロゲン化物イオンを提供するステップであって、前記電解質溶液が少なくとも一つの有機溶媒を含む、ステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化金属が、カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、及びカルシウムのイオンからなる群から選択された金属イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化金属がフッ化金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化金属がフッ化カリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記クラウンエーテルが、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、及び15−クラウン−5からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記クラウンエーテルが18−クラウン−6である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記クラウンエーテルが18−クラウン−6であり、前記ハロゲン化金属がフッ化カリウムであり、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体が18−クラウン−6フッ化カリウム錯体であり、前記電解質溶液に溶解されたフッ化物イオンの濃度が0.08〜0.20Mである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、プロパンニトリル、2,6−ジフルオロピリジン、2−フルオロベンゾニトリル、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス((トリフルオロメチル)スルホニル)アミド、及びビス(トリフルオロエチル)エーテルからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質溶液に溶解されたハロゲン化物イオンの濃度が0.01M〜1Mである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、リチウムイオンバッテリーは、携帯用電子機器を含む広範なエレクトロニクス用途に、そして情報技術、通信、医用生体工学、センシング、軍事及び照明を含む様々な分野で広く使用されるようになった。
【背景技術】
【0002】
リチウムはいくつかの有益な特性を有するが、リチウムイオンバッテリーはいくつかの欠点に悩まされてもいる。
【0003】
研究者はフッ化物シャトルバッテリーを含む代替手段を探し始めた。アノードで生成されたフッ化物イオンは電解質を通ってカソードまで移動することができ、このプロセスは充電式バッテリー用に可逆的にすることができる。このようなフッ化物シャトルバッテリーはリチウムイオンバッテリーよりも高いエネルギー密度を有し得る。
【0004】
しかし、現在までに記述されたフッ化物シャトルシステムは範囲が限定されている。例えば、フッ化物塩を可溶化する必要があるので、狭い範囲の溶媒しか電解質に使用することができない。更に、これらのバッテリーは比較的高いフッ化物塩の最低濃度を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、より低い塩濃度を用いて、より広範囲の溶媒と共に動作することができるフッ化物シャトルバッテリーに対する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態において、本開示は、電解質組成物の製造方法に向けられており、本方法は、溶媒中にクラウンエーテル及びハロゲン化金属を溶解させるステップと、前記クラウンエーテル及び前記ハロゲン化金属を反応させてクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を形成するステップと、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を単離するステップと、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を電解質へと添加し、電解質中でハロゲン化物イオンを生成するステップと、を備える。
【0007】
他の実施形態において、本開示は、アノードとカソードと電解質組成物とを備える電気化学セルに向けられ、前記電解質組成物は、溶媒と、約0.01M〜約1Mの濃度で存在するクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体とを含み、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体は電解質組成物中で少なくとも部分的に溶解状態で存在し、それによってハロゲン化物イオンが電解質組成物中に存在する。
【0008】
他の実施形態において、本開示は、アノードとカソードと電解質組成物とを備える電気化学セルに向けられ、前記電解質組成物は非水溶媒と、一以上のフッ化物イオンを含むクラウンエーテル‐フッ化金属錯体とを含み、前記クラウンエーテル‐フッ化金属錯体は少なくとも部分的に溶解され、前記電解質組成物中に溶解されたフッ化物イオンの濃度は約0.01M〜約1Mである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体の添加前及び添加後の、本開示に係る電解質の19F NMRスペクトルを示す図である。
図2】本開示に係る電解質とのPb板フッ素化反応の電気化学的試験の結果を示す図である。
図3】1時間にわたるフッ素化反応におけるPB板の画像を示す図である。
図4】1時間後のフッ素化反応のXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
用語「電気化学セル」は、化学エネルギーを電気エネルギーに、又はその反対に変換するデバイス及び/又はデバイス部品に言及する。電気化学セルは二以上の電極(例えば正極と負極)と電解質とを有し、電極表面で起こる電極反応が電荷移動プロセスをもたらす。電気化学セルは、一次電池、二次電池、及び電解システムを含むが、これらに限定されない。一般的なセル及び/又はバッテリー構造は当技術分野で知られている(例えば、Oxtoby著、Principles of Modern Chemistry、1999年、401〜443頁参照)。
【0011】
用語「電極」は、イオン及び電子が電解質及び外部回路と交換される導電体に言及する。「正極」と「カソード」は本明細書において同意語として使用され、電気化学セルにおいてより高い(即ち、負極よりも高い)電極電位を有する電極に言及する。「負極」と「アノード」は本明細書において同意語として使用され、電気化学セルにおいてより低い(即ち、正極よりも低い)電極電位を有する電極に言及する。カソード還元は化学種の電子の増加に言及し、アノード酸化は化学種の電子の喪失に言及する。本開示の正極及び負極は、有用な配置の範囲で提供されてよく、薄膜電極配置等の薄い電極設計を含む、電気化学及びバッテリー科学の技術分野で知られた因子を形成してよい。例えば米国特許第4,052,539号や、Oxtoby著、Principles of Modern Chemistry、1999年、401〜443頁に開示されたものを含む、当技術分野で知られたように電極は製造される。
【0012】
「電解質」はイオン伝導体に言及し、固体状態、液体状態(最もありふれている)、又はよりまれに気体(例えばプラズマ)でよい。電解質は、好ましくは液体状態で存在する。
【0013】
「カチオン」は正に帯電したイオンに言及し、「アニオン」は負に帯電したイオンに言及する。
【0014】
いくつかの実施形態において、本開示は、電解質組成物の製造方法に向けられており、本方法は、溶媒中にクラウンエーテル及びハロゲン化金属を溶解させるステップと、前記クラウンエーテル及び前記ハロゲン化金属を反応させてクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を形成するステップと、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を単離するステップと、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を電解質へと添加し、電解質中でハロゲン化物イオンを生成するステップと、を備える。
【0015】
他の実施形態において、本開示は、アノードとカソードと電解質組成物とを備える電気化学セルに向けられ、前記電解質組成物は溶媒と、約0.01M〜約1Mの濃度で存在するクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体とを含み、前記クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体は少なくとも部分的に電解質組成物中に溶解した状態で存在し、それによってハロゲン化物イオンが電解質組成物中に存在する。記述されたすべての態様は、方法及び装置に等しい力で当てはまる。
【0016】
本願で使用される限り、「ハロゲン化金属」は少なくとも一つの金属イオンと少なくとも一つのハロゲン化物イオンとを含む塩である。本願で使用される限り、「クラウンエーテル」は少なくとも炭素及び酸素原子を含み、二以上の炭素原子を酸素原子間に有する環状エーテルである。いかなる理論にも束縛されることを希望せず、クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体において、金属イオンは少なくとも部分的にクラウンエーテルによって結合されている(ligated)。従って、金属イオンは少なくとも部分的にハロゲン化物イオンから解離していてもよい。本開示の好ましい態様では、クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体は電解質中で少なくとも部分的に溶解した状態で存在し、ハロゲン化物イオンは少なくとも部分的に金属イオンから解離しており、金属イオンは少なくとも部分的にクラウンエーテルによって結合されている。いかなる理論にも束縛されることを希望せず、ハロゲン化金属のクラウンエーテルへの錯体形成はハロゲン化金属、成分金属イオン、及び/又は所定の溶媒、特に有機溶媒における成分ハロゲン化物イオンの溶解度を高めることがある。
【0017】
クラウンエーテルは、様々な異なるカチオン種と錯体を選択的に形成することができる大環状ポリエーテル化合物である。Izatt著、Chem.Rev.85:271、1985年、Bajaj著、Coord.Chem.Rev.87:55、1988年、及びLamb著、Journal of Chromatography、482:367−380、1989年。これらの化合物は、その化学構造が王冠の形状に似ているので、そして錯体形成によってカチオン種を「覆う(crown)」ことができるので、「クラウン」と言及される。クラウンエーテルは、ベンゾ−又はジベンゾ−クラウンエーテルなどの芳香族化合物、複素環式芳香族化合物、特にピリジンの誘導体、テトラヒドロフラン、ピペリジン、及びピロリジン等の酸素、硫黄又は窒素を含む複素環式非芳香族環状環、脂環式置換基、シクロペンタン及びシクロヘキサン等の飽和炭素環、脂肪族置換基等である一以上の置換基を含んでよい。いくつかの態様において、クラウンエーテルは、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、15−クラウン−5、12−クラウン−4、4,13−ジアザ−18−クラウン−6、1,7−ジアザ−12−クラウン−4、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、1−アザ−18−クラウン−6、4’,4’’(5’’)−ジ−tertブチルジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−18−クラウン−6、2−ヒドロキシメチル−12−クラウン−4、2,3−ナフト−15−クラウン−5、2−ヒドロキシメチル−15−クラウン−5、4’−アミノ−5’−ニトロベンゾ−15−クラウン−5、4−tert−ブチルシクロヘキサノ−15−クラウン−5、1−アザ−15−クラウン−5、4’−アミノベンゾ−15−クラウン−5、2−アミノメチル−18−クラウン−6、1−アザ−12−クラウン−4、4’−アミノベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−24−クラウン−8、2−アミノメチル−15−クラウン−5、4’−アミノジベンゾ−18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、4’−カルボキシベンゾ−15−クラウン−5、ジベンゾ−30−クラウン−10、ジベンゾ−21−クラウン−7、ジベンゾ−15−クラウン−5、4’−ホルミルベンゾ−15−クラウン−5、4’−ニトロベンゾ−15−クラウン−5、1,10−ジアザ−18−クラウン−6、1,10−ジベンジル−1,10−ジアザ−18−クラウン−6、及びジニトロジベンゾ−18−クラウン−6の一以上を含む。好ましくは、クラウンエーテルは18−クラウン−6である。クラウンエーテルの、選択された限定的ではない例が以下に示されている:
【0018】
【化1】
【0019】
いくつかの態様において、ハロゲン化金属は、カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、及びカルシウムのイオンからなる群から選択された金属イオンを含む。
【0020】
いくつかの態様において、ハロゲン化金属は、フッ化物、塩化物、及び臭化物のイオンからなる群から選択されたハロゲン化物イオンを含む。好ましくは、ハロゲン化金属はフッ化金属である。より好ましくは、ハロゲン化金属はフッ化カリウムである。
【0021】
いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体は、ハロゲン化カリウムと、18−クラウン−6エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6エーテル、又は15−クラウン−5エーテルとの反応生成物である。限定的でない例において、ハロゲン化カリウムは臭化カリウム、塩化カリウム、又はフッ化カリウムである。いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体は、ハロゲン化ナトリウムと、15−クラウン−5エーテルとの反応生成物である。限定的でない例において、ハロゲン化ナトリウムは臭化ナトリウム、塩化ナトリウム、又はフッ化ナトリウムである。いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体は、ハロゲン化リチウムと、12−クラウン−4エーテルとの反応生成物である。限定的でない例において、ハロゲン化リチウムはフッ化リチウムである。いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体はフッ化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウムと4,13−ジアザ−18−クラウン−6エーテルとの反応生成物である。いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体は、ハロゲン化カルシウムと、4,13−ジアザ−18−クラウン−6エーテル又は18−クラウン−6エーテルとの反応生成物である。限定的でない例において、ハロゲン化カルシウムは臭化カルシウム、塩化カルシウム、又はフッ化カルシウムである。
【0022】
いくつかの態様において、クラウンエーテル錯体は、以下の式によって特徴づけられる18−クラウン−6エーテルとフッ化金属との反応生成物である。
【0023】
【化2】
【0024】
ここでMはNa、K、又はCaである。
【0025】
いくつかの態様において、電解質は、一以上の有機溶媒を含む非水電解質である。本願で使用される限り、「有機溶媒」は炭素含有溶媒として定義される。
【0026】
いくつかの態様において、有機溶媒は、プロパンニトリル(PN)、2,6−ジフルオロピリジン(2,6−DFP)、2−フルオロベンゾニトリル(2−FBN)、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス((トリフルオロメチル)スルホニル)アミド(MPPyTFSI)、及びビス(トリフルオロエチル)エーテル(BTFE)からなる群から選択される。
【0027】
いくつかの態様において、クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体は、18−クラウン‐6‐フッ化カリウム錯体([18−クラウン−6K][F])、12−クラウン−4(フッ化リチウム)、又は15−クラウン−5(フッ化ナトリウム)を含む。いくつかの態様において、クラウンエーテルハロゲン化金属錯体は、臭化金属又は塩化金属と、18−クラウン−6、12−クラウン−4、又は15−クラウン−5を含むクラウンエーテルとの錯体を含む。いくつかの態様において、電解質は一以上の溶媒と、一以上のクラウンエーテル−ハロゲン化金属錯体とを含む。
【0028】
いくつかの態様において、一以上のクラウンエーテル−ハロゲン化金属錯体は、約0.01M〜約1Mの濃度まで電解質に加えられる。いくつかの態様において、クラウンエーテル−ハロゲン化金属錯体は、約0.01M〜約0.5Mの濃度まで電解質に加えられる。いくつかの態様において、クラウンエーテル−ハロゲン化金属錯体は、0.08M超の濃度で、任意で0.08M〜0.20M、任意で0.10M超、任意で0.115M超、任意で0.115M〜0.20M、そして任意で0.115M〜0.18Mの濃度で電解質に加えられる。
【0029】
クラウンエーテルとハロゲン化金属は、当技術分野で知られた任意の適切な手順によって反応させられてクラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体を形成してよい。例えば錯体はJadhav著、Chemical Engineering Journal、2015年、270:36−40に記述された方法によって形成されてよく、文献はその全体が参照によって本願に組み込まれる。水を含むが水に限定されない、クラウンエーテル及びハロゲン化金属の両方が可溶である任意の溶媒中で反応が実行されてよい。任意の温度で、任意の長さの時間で、錯体形成のために必要な任意の他の条件下で反応が行われてよい;錯体形成はNMR分光法を含む当業者に知られた分析的方法及び/又は分光学的方法によって確認されてよい。クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体は当技術分野で知られた任意の適切な手順によって単離されてよい。
【0030】
いくつかの態様によると、本開示に係る方法の一以上のステップが室温で実施されてよい。本願で使用される限り、用語「室温」は反応が実施される部屋の環境温度に言及する。いくつかの態様によると、室温は約23℃等の約21〜約27℃の温度でよい。
【0031】
本開示の電解質及び電解質組成物で使用されるのに適している有機溶媒は、既に記載されたものと、当業者に知られたものを含む。適切な有機溶媒は、クラウンエーテル‐ハロゲン化金属錯体が可溶であり、イオン移動度を有するものを含む。本願で使用される限り、溶媒中又は電解質中の「イオン移動度」又は「イオン伝導度」は、溶媒中又は電解質中のイオンの移動又は伝導の測定量である。表1は、様々な溶媒における18−クラウン−6フッ化カリウム錯体([18−クラウン−6K][F])の溶解度とイオン移動度のデータを示す。
【0032】
いくつかの態様において、アノード及びカソードは、それぞれ、互いと独立に、金属、フッ化金属、又はグラファイトを含んでよい。いくつかの態様において、アノード及びカソードは、それぞれ、互いと独立に、金属又はフッ化金属を含んでよく、金属はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、又はセリウムを含む。
【0033】
本発明の製造方法及び使用方法の完全な開示及び記述を当業者に提供するために以下の実施例が提示され、以下の実施例は、発明者が彼らの発明とみなすものの範囲を限定することが意図されておらず、下記の実験が実施された実験の全て又は唯一のものであることを示すことも意図されていない。用いられる数字(例えば、量、次元等)について精確さを保証するための努力が払われたが、いくらかの実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。
【0034】
[実施例1] 18−クラウン−6フッ化カリウム錯体の合成と遊離フッ化物イオンの検出
【0035】
フッ化カリウムの溶液(1.16g、20mmpl、1当量)及び18−クラウン−6(5.28g、20mmol、1当量)が、脱イオン水(30mL)中で、23℃で24時間攪拌された。減圧下で水が除去され、白色固体を得た。そして水が残らなくなるまで真空下で更に乾燥された。これにより6.38g(19.8mmol、99%)の18−クラウン−6フッ化カリウム錯体[18−クラウン−6K][F]が生成された。分光分析データは文献のものと対応した。H NMR(400MHz、CDCl) 3.70(s、24H)。
【0036】
図1(下)は、BTFE中における[18−クラウン−6K][F]のHデカップル19F NMRスペクトル(400MHz)を示し、錯体は0.15Mの濃度で存在している。比較のために、図1(上)は、乾燥BTFE(ニート)のHデカップル19F NMRスペクトル(400MHz)を示す。ニートBTFEの基準スペクトルと比較して、[18−クラウン−6K][F]のスペクトルは、δ−81ppmに新しいピークを示し、遊離フッ化物イオンに対応する。
【0037】
[実施例2] 様々な有機溶媒における18−クラウン−6フッ化カリウム錯体の溶解度
【0038】
実施例1で調製された18−クラウン−6フッ化カリウム錯体[18−クラウン−6K][F]が様々な有機溶媒中に溶解された。各溶媒中の18−クラウン−6フッ化カリウム錯体の溶解度が表1に示されている。
【0039】
【表1】
【0040】
[実施例3] Pb板フッ素化反応の電気化学的試験
【0041】
図2は反応からのサイクリックボルタモグラムを示す。PBF構造が約−1.4Vで発展した。PbFからの脱フッ素が約−2.3Vで観測された。
【0042】
図3は反応にわたるPb板を示す。板の段階的な退色が1時間にわたって観測され、PbFの形成を示した。
【0043】
図4は1時間のフッ素化反応後のXRDスペクトルを示す。約26°2θのピークがPbFに対応する。
【0044】
本願に記述された態様が上に概説された例示的な態様に関連して記述されてきたが、既知であろうと現在予想外であろうと、様々な代替、変更、変形、改善、及び/又は実質的同等物が、当技術分野において少なくとも通常の知識を有するものには明らかとなるだろう。従って、上述された例示的な態様は説明的なものと意図され、限定するものとは意図されない。本開示の精神及び範囲から逸脱せずに様々な変更が行われてよい。従って、本開示は全ての既知又は後に開発された代替、変更、変形、改善、及び/又は実質的同等物を含むと意図される。
【0045】
従って、特許請求の範囲は本願に示された態様に限定されると意図されず、特許請求の範囲の言語と一致する完全な範囲と一致すると意図され、単数形の要素への言及は、特別にそのように宣言されない限り、「一つかつ一つのみ」ではなく「一以上」を意味すると意図される。当業者に知られているか又は後に知られる本開示を通して記述された様々な態様の要素に対する全ての構造的及び機能的同等物は、参照によって本願に明示的に組み込まれ、特許請求の範囲に含まれると意図される。更に、本願に開示されたものは、その様な開示が特許請求の範囲に明示的に記載されているか否かと関係なく、公衆に捧げられることが意図されたものではない。要素が「のための手段」との句を用いて明示的に記載されない限り、特許請求の範囲の要素は手段+機能(means plus function)として解釈されない。
【0046】
更に、単語「例」は、本願において「例、実例、又は説明として役立つこと」を意味するように使用される。「例」として本願に記述された任意の態様は、他の態様に対して好ましい又は有利であると解釈される必要はない。特別に言及しない限り、用語「いくつかの」は一以上に言及する。「A、B、またはCの少なくとも1つ」、「A、BおよびCの少なくとも1つ」及び「A、B、C、またはそれらの任意の組み合わせ」などの組み合わせは、A、B、及び/又はCの任意の組合せを含み、Aの倍数、Bの倍数、またはCの倍数を含んでよい。具体的には、「A、B、又はCの少なくとも1つ」、「A、B、及びCの少なくとも1つ」、「A、B、C、またはそれらの任意の組み合わせ」などの組み合わせは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、A及びB、A及びC、B及びC、またはA及びB及びCでよく、任意のそのような組合せはA、B又はCの一以上のメンバーを含み得る。ここに開示されたものは、そのような開示が特許請求の範囲に明示的に記載されているか否かにかかわらず、公衆に捧げられるものとは意図されない。
【0047】
更に、本願にわたる全ての参照文献、例えば発行された若しくは許可された特許又は等価物を含む特許文献;特許出願公開;並びに非特許文献文書又は他の情報源資料;は、参照によって個々に取り込まれたかのように、これにより参照によってその全体が本願に取り込まれる。
図1
図2
図3
図4