(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980662
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】有機光電子デバイス、そのようなデバイスのアレイ、およびそのようなアレイを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
H01L 51/42 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
H01L31/08 T
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-533121(P2018-533121)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-501531(P2019-501531A)
(43)【公表日】2019年1月17日
(86)【国際出願番号】EP2016082064
(87)【国際公開番号】WO2017108882
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年12月17日
(31)【優先権主張番号】1563286
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311015001
【氏名又は名称】コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ
(73)【特許権者】
【識別番号】513257535
【氏名又は名称】イソルグ
(73)【特許権者】
【識別番号】512092519
【氏名又は名称】トリクセル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンワディ,モハメッド
(72)【発明者】
【氏名】シャルロ,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,ジャン−イブ
(72)【発明者】
【氏名】ベリヤック,ジャン−マリー
(72)【発明者】
【氏名】ベルトッド,エムリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロール,ピエール
【審査官】
桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−187918(JP,A)
【文献】
特開2007−080911(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0269766(US,A1)
【文献】
特開2012−195512(JP,A)
【文献】
特開2011−114229(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0248822(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第103811663(CN,A)
【文献】
JEONG, J. et al.,Inverted Organic Photodetectors With ZnO Electron-Collecting Buffer Layers and Polymer Bulk Heterojunction Active Layers,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,米国,IEEE,2014年09月04日,Vol.20, No.6,DOI:10.1109/JSTQE.2014.2354649
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/119
H01L 31/18−31/20
H01L 51/42−51/48
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁基板(2)上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える光電子デバイス(1)であって、
− 仕事関数ΦCの材料から作られた1つのカソード(3)と、
− 前記カソード(3)の上に配置され、かつ仕事関数Φ1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層(4)と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層(5)であって、光の放出または検出に適し、かつ前記電子捕集層(4)の上に配置される1つの活性層(5)と、
− 前記活性層(5)の上に配置される1つの正孔捕集層(6)と、
− 前記正孔捕集層(6)の上に配置される1つのアノード(7)と
を少なくとも含む光電子デバイス(1)において、
− 前記電子捕集層(4)の前記仕事関数Φ1と前記活性層(5)の前記エネルギー準位HO1とが、前記カソード(3)から前記活性層(5)への正孔の注入を阻止し得るポテンシャル障壁を形成し、および
− 前記電子捕集層(4)の前記シート抵抗Rが108Ω/□以上であり、
− 前記電子捕集層(4)が連続しており、前記電子捕集層(4)が前記電子捕集層(4)の厚さ方向に柱状に配置される結晶子(16)を含み、前記電子捕集層(4)の前記材料の抵抗率が、前記電子捕集層(4)の厚さ方向において、前記電子捕集層(4)の主面と平行な方向においてよりも低い、ことを特徴とする、光電子デバイス(1)。
【請求項2】
前記電子捕集層(4)の前記仕事関数Φ1が、前記カソード(3)の前記仕事関数ΦCよりも小さい、請求項1に記載の光電子デバイス(1)。
【請求項3】
前記電子捕集層(4)の前記材料が、亜鉛酸化物およびチタン酸化物から選択される、請求項1または2に記載の光電子デバイス(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の複数の光電子デバイス(1)と、前記光電子デバイス(1)の少なくとも1つの部分に共通であり、かつ前記光電子デバイス(1)のそれぞれの間で材料が連続している電子捕集層(4)とを含むマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項5】
前記共通の捕集層(4)の前記シート抵抗Rが、前記共通の捕集層(4)の前記材料において、前記1つまたは複数の部分の前記光電子デバイス(1)間で電荷キャリアの電流を阻止できる、請求項4に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項6】
前記共通の電子捕集層(4)と少なくとも1つの活性層(5)との間に配置された少なくとも1つの安定化層(10)を含み、前記安定化層(10)が、ルミノシティに対する前記共通の電子捕集層(4)の前記材料の前記抵抗率の依存度を低下させることができる、請求項4または5に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項7】
前記安定化層(10)の前記材料が、スズ酸化物およびパラジウム酸化物から選択される不透明な酸化物である、請求項6に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項8】
前記共通の電子捕集層(4)の前記材料がp型ドーパントを含む、請求項4〜7のいずれか一項に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項9】
前記p型ドーパントが、パラジウム、コバルト、銅、およびモリブデンから選択される、請求項8に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項10】
少なくとも1つの前記電子捕集層が、金属酸化物ナノ粒子と極性高分子とを含み、前記極性高分子が、前記金属酸化物ナノ粒子上にグラフト化される、請求項4〜9のいずれか一項に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項11】
基板(2)、カソード(3)、電子捕集層(4)、活性層(5)、正孔捕集層(6)、およびアノード(7)から選択される少なくとも1つの要素が透明である、請求項4〜10のいずれか一項に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項12】
シンチレータ材料(23)の層を含み、前記層が各前記アノード(7)の上に配置される、請求項11に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)。
【請求項13】
電気絶縁基板(2)上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の光電子デバイス(1、8)であって、
− 仕事関数ΦCの材料から作られた1つのカソード(3)と、
− 前記カソード(3)の上に配置され、かつ仕事関数Φ1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層(4)と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層(5)であって、光の放出または検出に適し、かつ前記電子捕集層(4)の上に配置される1つの活性層(5)と、
− 前記活性層(5)の上に配置される1つの正孔捕集層(6)と、
− 前記正孔捕集層(6)の上に配置される1つのアノード(7)と
を少なくとも含む光電子デバイス(1、8)を製造するための方法であって、
少なくとも1質量%の二酸素含有雰囲気中において、0℃〜100℃に含まれる温度でカソードスパッタリングによって前記電子捕集層(4)の前記材料を堆積させる少なくとも1つのステップ
を含む方法。
【請求項14】
電気絶縁基板(2)上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の光電子デバイス(1、8)であって、
− 仕事関数ΦCの材料から作られた1つのカソード(3)と、
− 前記カソード(3)の上に配置され、かつ仕事関数Φ1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層(4)と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層(5)であって、光の放出または検出に適し、かつ前記電子捕集層(4)の上に配置される1つの活性層(5)と、
− 前記活性層(5)の上に配置される1つの正孔捕集層(6)と、
− 前記正孔捕集層(6)の上に配置される1つのアノード(7)と
を少なくとも含む光電子デバイス(1、8)を製造するための方法であって、
ゾルゲル法を使用して前記電子捕集層(4)を形成する少なくとも1つのステップを含み、前記ゾルゲル法が、前駆体高分子(15)を含む溶液を堆積させるステップを含み、前記前駆体高分子(15)が、金属酢酸塩、金属硝酸塩、および金属塩化物から選択される、方法。
【請求項15】
前記溶液がp型ドーパントを含む、請求項14に記載の光電子デバイス(1、8)を製造するための方法。
【請求項16】
電気絶縁基板(2)上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える、パターンで配置された請求項1〜3のいずれか一項に記載の複数の光電子デバイス(1)であって、
− 仕事関数ΦCの材料から作られた1つのカソード(3)と、
− 1つの共通の電子捕集層(4)であって、第1のサブレイヤ21と複数の第2のサブレイヤ22とを含み、各前記カソード(3)の上に配置され、かつ仕事関数Φ1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの共通の電子捕集層(4)と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層(5)であって、光の放出または検出に適し、かつ前記電子捕集層(4)の上に配置される1つの活性層(5)と、
− 前記活性層(5)の上に配置される1つの正孔捕集層(6)と、
− 前記正孔捕集層(6)の上に配置される1つのアノード(7)と
を少なくとも含む複数の光電子デバイス(1)を含む、請求項4〜12のいずれか一項に記載のマトリクスアレイ光電子デバイス(8)を製造するための方法であって、
− 第1の共通の電子捕集サブレイヤ(21)を堆積させるステップと、
− 前記光電子デバイス(1)の前記パターンに対応するパターンで複数の第2のサブレイヤ(22)を堆積させるステップと
を含む、前記電子捕集層(4)を堆積させる少なくとも2つのサブステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電子デバイスと、有機光電子デバイスのマトリクスアレイ、すなわち、光検出器のマトリクスアレイ(ピクセルイメージセンサ)または表示マトリクスアレイとに関する。本発明は、詳細には、限定するものではないが、間接検出の原理に基づき、好ましくは有機半導体を利用する大面積マトリクスアレイX線イメージセンサの製造に適用可能であり、その可能な用途は、医用放射線、非破壊検査および保安検査である。
【背景技術】
【0002】
X線イメージングの分野では、一般に、2つの検出モードが利用される。直接検出モードと呼ばれる第1のモードは、光検出器のマトリクスアレイを使用することを含み、各光検出器は、吸収したX線を電荷に変換できる。間接モードと呼ばれる第2のモードは、まず、シンチレータによりX線を可視光の光子に変換し、次いで、光検出器のマトリクスアレイを使用して、生成された可視光の光子を電荷に変換することを含む。本発明は、X線の間接検出ためのピクセルのマトリクスアレイに関し、各ピクセルは、有機光検出器に接続された少なくとも1つの薄膜トランジスタ(TFT)からなる。ピクセルのそれぞれにおいて、トランジスタは、一般に、有機光検出器の第1の電極に接続される。
【0003】
光の光変換に適する層は、一般に、第1の電極上に堆積される。この層は、例えば有機層であり、p型半導体とn型半導体とのナノ構造化混合物を含むことができる(Li,G.,Shrotriya,V.,Huang,J.,Yao,Y.,Moriarty,T.,Emery,K.,&Yang,Y.,2005,High−efficiency solution processable polymer photovoltaic cells by self−organization of polymer blends,Nature materials,4(11),864−868)。次いで、上部電極が光変換層上に堆積される。
【0004】
図1は、従来技術による有機フォトダイオードの構造を概略的に示す。この積層体は、例えば、透明基板(ガラス製、ポリエチレンナフタレート(PEN)製またはポリエチレンテレフタレート(PET)製)を含む。この基板は、透明金属電極(例えば、酸化インジウムスズ(ITO)製)で覆われた後、照射中に正孔を捕集可能な正孔捕集層(HCL)で覆われ、この層は、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)から作られる。これらの層は光変換に適する層によって覆われ、この層は活性層と呼ばれ、上記などのように生成される。最後に、活性層は、電子捕集層(ECL)で覆われ、この層は、例えば、アルミニウムから作られる。
図1に示す例では、フォトダイオードは透明基板を介して照射され、この照射モードおよびフォトダイオードの構造が、直接であるといわれる。電荷キャリアを伝達するための層は、電荷キャリアを捕集するための層(HCLおよびECL)に電気的に接続される。
図1に示す直接構造では、正孔の伝達は、ITO層を介して実現され、電子の伝達は、アルミニウム層を介して実現される。
【0005】
図2は、従来技術による、いわゆる反転型構造の有機フォトダイオードを概略的に示す。図示のフォトダイオードは、透明電子伝達層(ETL)で覆われた透明基板を含み、この層自体が透明電子捕集層(ECL)で覆われている。これらの層は、活性層および正孔捕集層(HCL)で覆われている。HCLは、例えば、銀層によって覆われ、この機能は、正孔の伝達を可能にすることと(HTL)、基板からの入射光を反射することとの両方である。ECLは、例えば、亜鉛酸化物(ZnO)またはチタン酸化物(TiO
x)から作られ、HCLは、例えば、PEDOT:PSSまたはモリブデン酸化物、タングステン酸化物もしくはバナジウム酸化物などの金属酸化物から作られる。このタイプの構造は、Jeong,J.et al.,Inverted Organic Photodetectors With ZnO Electron−Collecting Buffer Layers and Polymer Bulk Heterojunction Active Layers, Selected Topics in Quantum Electronics,IEEE Journal of,20(6),130−136によって開示されている。
【0006】
これらの2つの直接または反転型フォトダイオード構造では、光は、様々な層によって吸収され、特に上部電極および/または下部電極によって吸収され得る。
【0007】
医用イメージング用途のために、上述のような反転型有機フォトダイオードのマトリクスアレイを製造することが望ましい。このタイプのイメージングは、極めて低い検出閾値を要する。低い検出閾値を実現する方法の1つは、フォトダイオードの暗電流、すなわち、フォトダイオードへのバイアス印加下で照射光なしの場合のフォトダイオードの残留電流を制限またはさらには抑制することである。電子捕集層の材料の仕事関数が大きすぎる場合、この層から活性層の供与体への寄生的な正孔の注入が促される。従来技術の解決策の1つは、一般に使用される材料(一般的に、ITO)の仕事関数よりも小さい仕事関数を有する金属から下部電極(基板と接する電極)を作ることである。例えば、アルミニウムおよびクロムの仕事関数は、ITOよりも小さい。これらの材料には、容易に酸化され得るために空気の存在下で不安定になるという欠点がある。
【0008】
この技術的な課題は、Jeong,J.らによって説明されているように、下部電極と活性層との間に介在する電子捕集層を使用することによって部分的に解決でき、この役割は、活性層に接する材料の仕事関数を小さくすることであり、この目的のために亜鉛酸化物(ZnO)が使用され得る。使用されるZnOは半導体であり、フォトダイオードマトリクスアレイの様々なピクセル間でリーク電流が生じ得るため、これを(パターン画定リソグラフィステップなしで)全面に堆積させるという使用法は、技術的に問題がある。欠陥ピクセルは、例えば、仕事関数が活性層に意図せず不適切であった場合、近隣のピクセルのすべてにリーク電流を生じ、欠陥ピクセルを取り囲んでいるピクセルの領域をイメージングに不適当なものにし得る。1つの技術的解決策は、様々なピクセルを電気的に分離するために電子捕集層をエッチング可能にするリソグラフィステップであり得る。連続して必要なリソグラフィステップがあまりに多いと、デバイスの製造および/またはその製造歩留まりが損なわれる製造方法では、このステップは望ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Li,G.,Shrotriya,V.,Huang,J.,Yao,Y.,Moriarty,T.,Emery,K.,&Yang,Y.,2005,High−efficiency solution processable polymer photovoltaic cells by self−organization of polymer blends,Nature materials,4(11),864−868
【非特許文献2】Jeong,J.et al.,Inverted Organic Photodetectors With ZnO Electron−Collecting Buffer Layers and Polymer Bulk Heterojunction Active Layers, Selected Topics in Quantum Electronics,IEEE Journal of,20(6),130−136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の従来技術の欠点を改善することを目的とし、より具体的には、リーク電流が最小化されるマトリクスアレイ有機光電子デバイスを製造することを目的とし、その際、このようなデバイスの製造時に行われるフォトリソグラフィステップの数を制限可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を完全にまたは部分的に達成可能とする本発明の1つの主題は、電気絶縁基板上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える光電子デバイスであって、
− 仕事関数Φ
Cの材料から作られた1つのカソードと、
− 上記カソードの上に配置され、かつ仕事関数Φ
1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層であって、光の放出または検出に適し、かつ上記電子捕集層の上に配置される1つの活性層と、
− 上記活性層の上に配置される1つの正孔捕集層と、
− 上記正孔捕集層の上に配置される1つのアノードと
を少なくとも含む光電子デバイスにおいて、
− 上記電子捕集層の上記仕事関数Φ
1と上記活性層の上記エネルギー準位HO1とが、上記カソードから上記活性層への正孔の注入を阻止し得るポテンシャル障壁を形成し、および
− 上記電子捕集層の上記シート抵抗Rが10
8Ω以上であることを特徴とする、光電子デバイス。
【0012】
本デバイスの上記電子捕集層の上記仕事関数Φ
1が、上記カソードの上記仕事関数Φ
Cよりも厳密に小さいと有利である。
【0013】
本デバイスの上記電子捕集層の上記材料が、亜鉛酸化物およびチタン酸化物から選択されると有利である。
【0014】
本発明の別の主題は、複数の光電子デバイスと、上記光電子デバイスの少なくとも1つの部分に共通であり、かつ上記光電子デバイスのそれぞれの間で材料が連続している電子捕集層とを含むマトリクスアレイ光電子デバイスである。
【0015】
本マトリクスアレイ光電子デバイスの上記共通の捕集層のシート抵抗Rが、上記共通の捕集層の上記材料において、上記1つまたは複数の部分の上記光電子デバイス間で電荷キャリアの電流を阻止できると有利である。
【0016】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの上記共通の電子捕集層の上記材料の抵抗率が、上記電子捕集層の厚さ方向において、上記電子捕集層の主面の方向においてよりも低いと有利である。
【0017】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの上記共通の電子捕集層が、上記電子捕集層の厚さ方向に柱状に配置される結晶子を含むと有利である。
【0018】
本マトリクスアレイ光電子デバイスが、上記共通の電子捕集層と少なくとも1つの活性層との間に配置された少なくとも1つの安定化層を含み、上記安定化層が、ルミノシティに対する上記共通の電子捕集層の材料の抵抗率の依存度を低下させることができると有利である。
【0019】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの上記安定化層の材料が、スズ酸化物およびパラジウム酸化物から選択されることが好ましい不透明な酸化物であると有利である。
【0020】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの上記共通の電子捕集層の材料がp型ドーパントを含むと有利である。
【0021】
上記p型ドーパントが、パラジウム、コバルト、銅、およびモリブデンから選択されると有利である。
【0022】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの少なくとも1つの上記電子捕集層が、金属酸化物ナノ粒子と極性高分子とを含み、上記極性高分子が、上記金属酸化物ナノ粒子上にグラフト化されると有利である。
【0023】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスの基板、カソード、電子捕集層、活性層、正孔捕集層、およびアノードから選択される少なくとも1つの要素が透明であると有利である。
【0024】
上記マトリクスアレイ光電子デバイスが、シンチレータ材料の層を含み、上記層が各上記アノードの上に配置されると有利である。
【0025】
本発明の別の主題は、電気絶縁基板上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える光電子デバイスであって、
− 仕事関数Φ
Cの材料から作られた1つのカソードと、
− 上記カソードの上に配置され、かつ仕事関数Φ
1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層であって、光の放出または検出に適し、かつ上記電子捕集層の上に配置される1つの活性層と、
− 上記活性層の上に配置される1つの正孔捕集層と、
− 上記正孔捕集層の上に配置される1つのアノードと
を少なくとも含む光電子デバイスを製造するための方法であって、
少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも2質量%の二酸素含有雰囲気中において、0℃〜100℃に含まれる温度でカソードスパッタリングによって上記電子捕集層の材料を堆積させる少なくとも1つのステップ
を含む方法である。
【0026】
本発明の別の主題は、電気絶縁基板上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える光電子デバイスであって、
− 仕事関数Φ
Cの材料から作られた1つのカソードと、
− 上記カソードの上に配置され、かつ仕事関数Φ
1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの電子捕集層と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層であって、光の放出または検出に適し、かつ上記電子捕集層の上に配置される1つの活性層と、
− 上記活性層の上に配置される1つの正孔捕集層と、
− 上記正孔捕集層の上に配置される1つのアノードと
を少なくとも含む光電子デバイスを製造するための方法であって、
ゾルゲル法を使用して上記電子捕集層を形成する少なくとも1つのステップを含み、上記ゾルゲル法が、前駆体高分子を含む溶液を堆積させるステップを含み、上記前駆体高分子が、金属酢酸塩、金属硝酸塩、および金属塩化物から選択される、方法である。
【0027】
上記溶液がp型ドーパントを含むと有利である。
【0028】
本発明の別の主題は、電気絶縁基板上に配置されるプレーナ型薄層の積層体を備える、パターンで配置された複数の光電子デバイスであって、
− 仕事関数Φ
Cの材料から作られた1つのカソードと、
− 1つの共通の電子捕集層であって、第1のサブレイヤと複数の第2のサブレイヤとを含み、各上記カソードの上に配置され、かつ仕事関数Φ
1およびシート抵抗Rの材料から作られる1つの共通の電子捕集層と、
− 少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを備える1つの活性層であって、光の放出または検出に適し、かつ上記電子捕集層の上に配置される1つの活性層と、
− 上記活性層の上に配置される1つの正孔捕集層と、
− 上記正孔捕集層の上に配置される1つのアノードと
を少なくとも含む複数の光電子デバイスを含む、マトリクスアレイ光電子デバイスを製造するための方法であって、
− 第1の共通の電子捕集サブレイヤを堆積させるステップと、
− 上記光電子デバイスの上記パターンに対応するパターンで複数の第2のサブレイヤを堆積させるステップと
を含む、上記電子捕集層を堆積させる少なくとも2つのサブステップを含む方法である。
【0029】
例として提示する以下の例示的な説明を添付の図面を参照しながら読むことで、本発明がより良く理解され、本発明の他の利点、細部および特徴が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】従来技術の光電子デバイスの構造を概略的に示す。
【
図2】従来技術による、いわゆる反転型構造の有機フォトダイオードを概略的に示す。
【
図3】本発明の一実施形態による反転型構造の光電子デバイスの構造を概略的に示す。
【
図4】従来技術による光電子デバイスの構造に対応するバンド図を示す。
【
図5】本発明の一実施形態による構造に対応するバンド図を示す。
【
図6】本発明の一実施形態によるマトリクスアレイ光電子デバイスを概略的に示す。
【
図7】本発明の一実施形態による、上方から見たマトリクスアレイ光電子デバイスを概略的に示す。
【
図8】結晶子含有電子捕集層を含む光電子デバイスの1つの部分の断面を概略的に示す。
【
図9】本発明の一実施形態によるマトリクスアレイ光電子デバイスの基板上に配置された薄層を概略的に示す。
【
図10】正規化したゾルゲル反応の前駆体の濃度の変化のグラフを示す。
【
図11】ZnO粒子間の距離に対する前駆体高分子の寸法の影響を概略的に示す。
【
図12】電子捕集層に有機残基が存在する場合の電気伝導率の低下を概略的に示す。
【
図13】電子捕集層をエッチングするステップにより電子捕集層の抵抗が増加するマトリクスアレイ光電子デバイスを概略的に示す。
【
図14】マトリクスアレイ光電子デバイスがシンチレータ材料の層を含む本発明の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、従来技術の光電子デバイスの構造を概略的に示す。図示のデバイスは、上述のような直接構造のフォトダイオードである。
【0032】
図2は、従来技術による、いわゆる反転型構造の有機フォトダイオードを概略的に示す。
【0033】
図3は、本発明の一実施形態による反転型構造を有する光電子デバイス1の構造を概略的に示す。光電子デバイス1は透明基板2を含み、透明基板2の下から光電子デバイス1は照射され得る。透明とは、波長が可視光および/または紫外線付近および/または赤外線付近の範囲にある電磁気波を完全または部分的に透過できることを意味する。
図3において、照射は、上向きの黒色の矢印によって表されている。基板2は、ガラス製、PEN製、またはPET製とすることができる。光電子デバイス1を部分的に形成するプレーナ型薄層の積層体が基板2上に配置される。
【0034】
カソード3は、基板2の上に配置される。カソード3は、仕事関数がΦ
Cで示される材料から作られる。本発明の実施形態では、カソード3は、ITOから作られてもよい。この構造において、カソード3はまた、みなされ得る、電子伝達層、すなわちETL。
【0035】
電子捕集層4は、カソード3の上に配置される。電子捕集層4の材料の仕事関数は、Φ
1で示され、電子捕集層4のシート抵抗(Ω/□および/またはΩの単位で測定される)は、Rで示される。本発明の実施形態では、Rは、10
8Ωよりも厳密に大きく、好ましくは10
10Ωよりも厳密に大きく、および好ましくは10
11Ωよりも厳密に大きい。電子捕集層4は、チタン酸化物(TiO
x)または亜鉛酸化物(ZnO)から作ることができる。
【0036】
活性層5は、電子捕集層4の上に配置される。活性層5は、少なくとも1つのp型有機半導体であって、その最高被占分子軌道のエネルギー準位がHO1である、少なくとも1つのp型有機半導体と、n型半導体とを含み、光の放出または検出に適する。活性層5は、上記電子捕集層4の上に配置される。活性層5は、例えば、高分子とフラーレンとの混合物を含む。活性層5は、例えば、被覆作業を介して、メシチレンタイプの溶媒において、熱アニーリング後に200nmの乾燥厚さで堆積される。この層は、電子供与体材料(RR P3HTとして知られる、レジオレギュラー型のポリ(3−ヘキシルチオフェン))と、電子受容体材料(ICBAとして知られる、ジ[1,4]メタノナフタレノ[1,2:2’,3’;56,60:2’’,3’’][5,6]フラーレン−C
60−Ih)との質量比1:2のナノ構造化混合物である。活性層5は、全マトリクスアレイを覆うことができる。活性層5はまた、スプレーコーティングにより、クロロベンゼンタイプの溶媒において、熱アニーリング後に800nmの乾燥厚さで堆積されてもよい。この層も、電子供与体材料(PBDTTT−Cとして知られる、ポリ[(4,8−ビス−(2−エチルヘキシルオキシ)−ベンゾ(1,2−b:4,5−b’)ジチオフェン)−2,6−ジイル−alt−(4−(2−エチルヘキサノイル)−チエノ[3,4−b]チオフェン−)−2−6−ジイル)])と、電子受容体材料([70]PCBMとして知られる、[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル)との質量比1:2のナノ構造化混合物であってもよい。
【0037】
正孔捕集層(HCL)6は、活性層5の上に配置される。本発明の実施形態では、正孔捕集層6は、PEDOT:PSS、モリブデン酸化物(MoO
3)、タングステン酸化物(WO
3)、およびバナジウム酸化物(V
2O
5)から選択される材料から作られる。
【0038】
アノード7は、正孔捕集層6の上に配置される。本発明の一実施形態では、アノードは、例えば銀製の金属リフレクタであり、これには、光電子デバイス1の効率を高めるという利点がある。アノードはまた、正孔伝達層HTLとみなされ得る。
【0039】
本発明の実施形態では、電子捕集層4の仕事関数Φ
1と、活性層5のp型材料の最高被占分子軌道のHO1で記されるエネルギー準位とが、カソード3から活性層5への正孔の注入を阻止し得るポテンシャル障壁を形成する。この障壁は、0.3eVよりも厳密に大きく、好ましくは0.4eVよりも厳密に大きく、および好ましくは0.5eVよりも厳密に大きい。本デバイスの様々な層のエネルギー準位の詳細について
図5で説明する。
【0040】
本発明の一実施形態では、光電子デバイスは、上からの照射に適する。この場合、アノード7は、透明であり得る。この実施形態により、基板を通過する入射光線の散乱を避けることができ、かつ複数の光電子デバイス1のマトリクスアレイ構成の場合により良い分解能を得ることができる。
【0041】
図4は、従来技術による光電子デバイスの構造に対応するバンド図を示す。アノード7の仕事関数(Φ
Aで示す)およびカソード3の仕事関数(Φ
Cで示す)は、層のそれぞれの材料のフェルミ準位と、真空準位E
0との間のエネルギーの差として定義される。活性層5の電子親和力は、活性層5の最低空分子軌道(BVまたはLUMOと呼ばれる)と、真空準位E
0との間のエネルギーの差として定義され、活性層5の供与体材料11および活性層5の受容体材料12について、それぞれχ
Dおよびχ
Aで示され得る。活性層5のイオン化エネルギーは、活性層5の最高被占分子軌道(HOまたはHOMOと呼ばれる)と、真空準位E
0との間のエネルギーの差として定義され、活性層5の供与体材料11および活性層5の受容体材料12について、それぞれEI
DおよびEI
Aで示され得る。活性層5の供与体11のHOは、HO1で示されている。
【0042】
図5は、本発明の一実施形態による構造に対応するバンド図を示す。カソード3は、Φ
Cで示される仕事関数によって特徴づけられる。カソード3がITOから作られる場合、Φ
C=4.7eVである。電子捕集層4は、電子親和力χ
4およびイオン化エネルギーEI
4によって特徴づけられる。電子捕集層4がZnOから作られる場合、χ
4=4.2eV、Φ
1=4.2eV、およびEI
4=7.5eVである。活性層5は、供与体11の電子親和力χ
D、供与体11のイオン化エネルギーEI
D、受容体12の電子親和力χ
A、および受容体のイオン化エネルギーEI
Aによって特徴づけられる。
図3に示すような実施形態の場合、これらのエネルギー準位は、χ
D=3.7eV、EI
D=5.15eV、χ
A=3.9eV、およびEI
A=6.0eVに対応し得る。正孔捕集層6は、仕事関数Φ
6によって特徴づけられ、層がPEDOT:PSSから作られる場合、仕事関数Φ
6は、4.9eV〜5.5eVの範囲にあり得る。
【0043】
光電子デバイス1の接触は、注入の最適化、とりわけ、説明される用途に関連して、光生成電荷の捕集に適する仕事関数を有していなければならない。理想的には、アノード7の仕事関数は、活性層5の供与体11のHOであるHO1と合わせられ、カソード3の仕事関数は、活性層5の受容体12のLUMOと合わせられる。
【0044】
本発明の実施形態では、ITOから作られたカソード3は、4.6eV〜5eVの範囲にある仕事関数(例えば、ケルビンプローブによって測定される)を有する。さらに、従来技術の供与体材料11の多くは、4.6eV〜5.4eVの範囲にあるイオン化ポテンシャルを有する。ITOから作られたカソード3から活性層5の供与体材料11への寄生的な正孔の注入を阻止するための1つの技術的解決策は、例えば、カソード3と活性層5との間に、電子捕集層4に対応する層を堆積させることにより、活性層5に接触する材料の仕事関数を下げることである。
【0045】
光電子デバイス1の本実施形態では、カソード3から活性層5への寄生的な正孔の注入が阻止され、従って光電子デバイス1の暗電流が最小化または抑制され得る。従って、本発明の実施形態では、電子捕集層4の仕事関数Φ
1は、カソード3の仕事関数Φ
Cよりも厳密に小さく、従って寄生的な正孔の注入が最小化され得る。一般的に、本発明の一実施形態では、反転型フォトダイオード構造において、電子捕集層4により、上記カソード3から上記活性層5への正孔の注入を阻止できる1つ以上のポテンシャル障壁を形成できる。このポテンシャル障壁は、活性層5と電子捕集層4との間の境界および/または電子捕集層4とカソード3との間の境界にあり得る。
【0046】
エトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)を使用して電子捕集層4を生成することもできる。本発明の実施形態では、蒸着した銀の層をアノード7として使用でき、PEDOT:PSS、およびNi
xO
y、Cu
xO
y、またはMo
xO
yなどの金属酸化物から選択される材料を使用して正孔捕集層6を生成できる。
【0047】
図6は、本発明の一実施形態による、マトリクスアレイ光電子デバイス8を概略的に示す。本発明によるマトリクスアレイ光電子デバイス8は、複数の光電子デバイス1を含む。例えば、
図6には、4つの光電子デバイス1が示されている。本発明の一実施形態によるマトリクスアレイ光電子デバイス8は、光電子デバイス1の少なくとも1つの部分に共通であり、かつその部分の光電子デバイス1のそれぞれの間で材料が連続している電子捕集層4を含む。本発明の実施形態では、共通の電子捕集層4は、10
8Ωよりも厳密に大きく、好ましくは10
10Ωよりも厳密に大きく、および好ましくは10
11Ωよりも厳密に大きいシート抵抗を有し、上記共通の電子捕集層4の上記材料における、上記1つまたは複数の部分の上記光電子デバイス1間で電荷キャリアの電流を阻止し得る。このようにして、追加的なリソグラフィステップなしに共通の電子捕集層4を堆積させながら、所与のマトリクスアレイの様々な光電子デバイス1間のリーク電流を阻止できる。
【0048】
本発明の好ましい実施形態では、共通の電子捕集層4は、ZnOから作られる。共通の電子捕集層4の厚さは、1nmよりも大きく、好ましくは5〜500nm、および好ましくは10〜40nmであり得る。共通の電子捕集層4は、例えば、カソードスパッタリングによって堆積される。
【0049】
図7は、本発明の一実施形態による、上方から見たマトリクスアレイ光電子デバイス8を概略的に示す。導電性材料から作られた各行13および各列14は、TFTマトリクスアレイ20に接続され、バイアス印加および/または照射によって生成された電荷の収集を目的とした、光電子デバイス1のそれぞれと、マトリクスアレイ光電子デバイス8の外部との間の電気的接続の多重化を可能にしている。
【0050】
図7に示す正方形の灰色の領域は、灰色部分に配置された光電子デバイス1の境界に対応する。各TFT20は、マトリクスアレイ光電子デバイス8の下部電極、例えば、灰色の正方形によってこの幾何形状も規定されるカソード3に電気的に接続される。黒色の破線の正方形は、例示的な共通の電子捕集層4の堆積領域に対応する。この図は、概略図であり、システムを理解できるようにすることを意図したものであり、共通の電子捕集層4は、数百万個のカソード3に及ぶ場合もある。
【0051】
図8は、結晶子16を含有する電子捕集層4を含む光電子デバイス1の一部分の層の厚さ方向における断面図を概略的に示す。結晶子16は、電子捕集層4の厚さ方向に柱状に配置される。本発明の一実施形態では、共通の電子捕集層4は、複数の結晶子16を含む。電子捕集層4の材料は、カソード3から柱状に成長するように堆積されると有利である。従って、電子捕集層4の横方向(すなわち、電子捕集層4の主面の方向)の伝導率は、粒界17の存在によって制限される。
図8に示す実施形態では、電子捕集層4の伝導率は、電子捕集層4の等方性材料組織に関連して層の厚さ方向に実質的に不変である。対照的に、層の主面の方向における抵抗は、粒界17および/または結晶子16の密度に依存する。この横方向の抵抗が依存する電子捕集層4の材料の堆積温度も変わり得る。堆積温度は、電子捕集層4の結晶子の寸法に影響する。特に、結晶子16の寸法が大きくなった場合(例えば、堆積温度が上昇した場合)、結晶子16間の粒界17の密度は減少し、横方向の抵抗は低下する。対照的に、結晶子16の寸法が小さくなった場合、結晶子16の粒界17からの散乱が優勢になり、横方向の抵抗が増加する。より一般的には、本発明の実施形態では、共通の電子捕集層4の材料の抵抗率は、上記電子捕集層4の厚さ方向において、上記電子捕集層4の主面の方向においてよりも低い。さらにより一般的には、本発明の実施形態では、電子捕集層4の材料の抵抗率は異方性を有する。
【0052】
本発明の実施形態では、ZnOの仕事関数などの電子捕集層4の材料の仕事関数は、Φ
C=4.7eV、χ
D=3.7eV、EI
D=5.15eVでは、4eV〜4.7eVであることが好ましい。この材料の仕事関数が4.7eV未満であることにより、光電子デバイス1またはマトリクスアレイ光電子デバイス8の動作を保証でき、仕事関数が4eVよりも大きいことにより、光電子デバイスまたはマトリクスアレイ光電子デバイス8における寄生的な電荷キャリアの注入を最小化または抑制できる。
【0053】
一般的に、未ドープの亜鉛酸化物は、n型半導体とみなされる。電子捕集層4を堆積させるプロセスにより、特に材料がZnOである場合、その電気伝導特性を変えることができる。室温での堆積、かつ1質量%を上回る二酸素、好ましくは2質量%を上回る二酸素を含む雰囲気では、ZnOから作られた電子捕集層4の抵抗は、10
9〜10
12Ω/□の範囲にある。100℃〜400℃の範囲にある堆積温度では、二酸素の存在下において、シート抵抗は、実質的に一定であり、1Ω/□に等しい。
【0054】
より一般的には、本発明の一実施形態は、物理薄膜蒸着法、例えばカソードスパッタリングを、少なくとも1質量%の二酸素、好ましくは2質量%の二酸素を含む雰囲気中において、両端値を含む0℃〜100℃の範囲の温度で使用して電子捕集層4の材料を堆積させる少なくとも1つのステップを含む、光電子デバイス1および/またはマトリクスアレイ光電子デバイス8を製造するための方法である。
【0055】
堆積層の抵抗は、0℃〜100℃の範囲の温度で堆積を行った後のアニール(熱処理)により下がる。例えば、ZnOから作られた電子捕集層4では、200℃を上回る温度での熱処理により、シート抵抗の範囲は、10Ω/□〜10
9Ω/□になる。熱処理を行うことによって実現されるこの抵抗低下は、空気存在下でのZnOの酸化に起因し得る。電子捕集層4の抵抗は、上記層の堆積およびアニーリングのプロセスにより調整できる。
【0056】
図9は、本発明の一実施形態による、マトリクスアレイ光電子デバイス8の基板上に配置された薄層を概略的に示す。概略図が理解され得るように各種の層を離間させているが、本発明の一実施形態では、各層は直接接触する。マトリクスアレイ光電子デバイス8の製造において使用される技術的パラメータに応じて、電子捕集層4のZnOの抵抗率は、堆積温度または堆積後のアニールの温度に対して単純に依存しない場合がある。電子捕集層4の材料の抵抗率はまた、その環境に依存し得る。例えば、酸素の存在下では、電子捕集層4の表面において吸脱着プロセスが生じる。二酸素などの気体の状態の酸化分子は、ZnOの表面において吸着され、陰イオンO
2−に変換され得る。このプロセスは、式1により、自由電荷キャリアが枯渇した領域を生じ、電子捕集層4の表面の伝導率を低下させる。
O
2(気体)+e
−→O
2−(吸着)(1)
【0057】
照射の存在下では、光生成正孔は、電子捕集層4の表面に向けて移動し、酸素陰イオンを中和し得る。これは、式2により、電子捕集層4の表面の伝導率を増加させる。
O
2−+h
+→O
2(気体)(2)
【0058】
上述のように、電子捕集層4の材料の抵抗率および仕事関数は、光の影響を受ける。電子捕集層4を安定化するために、電子捕集層4上に、光に対してより高い安定性を有する安定化層10を堆積させることができる。この安定化層10は、例えば、抵抗が大きく、例えば10
8Ω/□よりも厳密に大きく、好ましくは10
10Ω/□よりも厳密に大きい、スズ酸化物(SnO
x)またはパラジウム酸化物(PdO
x)から作られ得る。安定化層10は、より一般的には、不透明な酸化物タイプの材料から作られ得る。安定化層10の厚さは、例えば、1〜500nm、および好ましくは10〜50nmである。一般的に、本発明の一実施形態では、マトリクスアレイ光電子デバイス8は、共通の電子捕集層4と少なくとも1つの活性層5との間に配置された安定化層10を含み、安定化層10は、ルミノシティに対する共通の電子捕集層4の材料の抵抗率の依存度を低下させることができる。
図9では、各灰色の正方形は、マトリクスアレイ光電子デバイス8を生成するための堆積層に対応し、安定化層10は、共通の電子捕集層4と1つ以上の活性層5との間に堆積されている。本発明の実施形態では、電子捕集層4、安定化層10、活性層5、および/または正孔捕集層6は、マトリクスアレイ光電子デバイス8の光電子デバイス1の1つの部分またはすべてに共通し得る。
【0059】
電子捕集層4は、p型不純物または元素がドープされ得る。これらの元素は、例えば、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、モリブデン、マンガン、および/または鉄である。例えば、ZnOから作られた電子捕集層4に存在するp型不純物により、電流を阻止し、かつ電子捕集層4の材料の抵抗を増加する正電荷キャリア(正孔)に関連する電気伝導率を制限できる。一般的に、共通の電子捕集層4は、p型元素を含むことができ、p型半導体または例えばPdO、CoO、またはCuOなどの絶縁酸化物を形成するために、パラジウム、コバルト、および/または銅を含むと有利であり得る。
【0060】
本発明の実施形態では、ゾルゲル法を使用して電子捕集層4を生成する。ゾルゲル堆積法は、実施が簡単であり、廉価であるという利点を有する。以下、ゾルゲル法の実施を説明する。本発明の一実施形態では、光電子デバイス1および/またはマトリクスアレイ光電子デバイス8を製造するための方法は、ゾルゲル法を使用して上記電子捕集層4を形成する少なくとも1つのステップを含み、ゾルゲル法は、前駆体高分子15を含む溶液を堆積させるステップを含む。上記前駆体高分子15は、金属酢酸塩、金属硝酸塩、および/または金属塩化物から得ることができる。
【0061】
部分真空中で行われるスパッタリング法とは対照的に、ゾルゲル法では特定の複雑な装置を必要としない。このプロセスは、スピンコータまたは印刷装置(インクジェット印刷、スクリーン印刷)により基板上に、電子捕集層4の材料、例えばZnOの前駆体である溶媒および高分子15を含む溶液を塗布するステップを含む。次いで、溶媒を蒸発させた後、熱処理により、形成された層を結晶化できる。一般的に、堆積後の熱処理の温度が400℃未満である場合、堆積層はあまり高密度ではないが、抵抗が大きい。ZnOを形成する場合、電子捕集層4は、ZnOと、合成で残った有機残基(例えば、前駆体高分子15、添加剤、および/または溶媒)とを含む。これらの合成残基は、電子捕集層4の電気伝導率に影響する。
【0062】
図10は、重量分析法により得られた、堆積後の熱処理後のゾルゲル反応の前駆体高分子15の正規化した濃度の変化をグラフで示す。より正確には、図示の比は、1−(m
f−m
i)/m
iに対応し、m
fは、所与の化学種の前駆体高分子15の最終質量であり、m
iは、所与の化学種の前駆体高分子15の初期質量である。
【0063】
点線の曲線(a)は、硝酸塩タイプの前駆体高分子15を使用するための熱処理の温度の関数としてこの比を示す。破線の曲線(b)は、酢酸塩タイプの前駆体高分子15を使用するための熱処理の温度の関数としてこの比を示す。実線の曲線(c)は、塩化物タイプの前駆体高分子15を使用するための熱処理の温度の関数としてこの比を示す。
【0064】
図11は、ZnO粒子間の距離に対する前駆体高分子15の寸法の影響を概略的に示す。使用される前駆体高分子15の化学的性質は可変であり、これに対して、様々な粒子、すなわちゾルゲル法の際に形成されたZnOの凝集体18間の距離が依存する。一般的に、電子捕集層4の電気抵抗は、最も近い近接するZnOの凝集体18間の距離dに比例して変化する。本発明の実施形態では、電子捕集層4の材料の最小シート抵抗が10
8Ω/□よりも大きくなるように、堆積後の熱処理の温度および距離dを調節できる。
【0065】
図12は、電子捕集層4に有機残基19が存在する場合の電気伝導率の低下を概略的に示す。破線は、ZnOの凝集体18における電流線を示し、残基19は、凝集体18間の境界に集中している。凝集体18間に形成された狭窄部と、これらの狭窄部における残基19の存在とにより、材料の電気抵抗が高まりやすい。
【0066】
本発明の一実施形態では、「錯体重合法」によるプロセスとみなされ得るゾルゲル堆積プロセスを使用できる。本プロセスは、
− 2−メトキシエタノールの溶媒に金属酢酸塩および/または金属硝酸塩および/または金属塩化物を添加し、50℃で溶媒に溶解するまで攪拌する、ステップと、
− 70℃で溶媒にエタノールアミン・酢酸を添加することによって金属錯体を形成するステップであって、形成されるイオンは金属イオンおよび酢酸イオンである、ステップと、
− 重合反応中、70℃で溶媒を攪拌しながら、前駆体高分子15が得られるまで待機するステップと、
− カソード3上に前駆体高分子15の溶液を堆積させるステップと
を含む。
【0067】
本プロセスは、塩化物、酢酸塩、および/または硝酸塩などの一般的な金属塩からの錯体または混合酸化物の合成に適するという利点を有する。前段で説明したプロセスの実施において酢酸塩を使用することが選択されると有利である。酢酸塩は、溶液中の水の存在に影響されないため、より安定である。従って、酢酸塩を使用する場合、不活性雰囲気中でプロセスを実施する必要がない。電気的に安定な酸化物が部分分解した後に酢酸塩が形成されると有利である。それらを使用することにより、電子捕集層4を再現性良く製造できる。酢酸を使用することにより、上述のゾルゲル法の第2のステップにおける金属イオンの沈殿を避けることができ、ゾルゲル法を実施するために調製した溶液の寿命を延ばすことができる。エタノールアミンは錯化剤であり、エタノールアミンにより、プロセスの重合ステップを安定化および促進できる。
【0068】
一実施形態では、熱処理後の電子捕集層4の伝導率を下げるために、ゾルゲル法の際にp型ドーパント(Pd、Cu、Ni、Co)が添加され得る。
【0069】
本発明の一実施形態では、電子捕集層4は、エトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)でグラフト化されたZnOナノ粒子を堆積させることによって形成される。ナノ粒子とは、球体の直径などの特徴寸法が0.1nm〜100nmの範囲にある粒子を意味する。PEIEは絶縁高分子であるため、PEIEによりグラフト化したZnOナノ粒子で生成された電子捕集層4は、極めて高いシート抵抗、例えば10
10Ω/□よりも大きいシート抵抗を有する。PEIEは、ヒドロキシル基またはアミン基を介してZnO粒子にグラフト化され得る。より一般的には、光電子デバイス1および/またはマトリクスアレイ光電子デバイス8は、金属酸化物ナノ粒子と、金属酸化物ナノ粒子上にグラフト化された極性高分子とを含み得る。
【0070】
図13は、2つの堆積ステップにおいて電子捕集層4を生成し、2つのタイプのサブレイヤを形成することにより、電子捕集層4の抵抗が増加するマトリクスアレイ光電子デバイス8を概略的に示す。
図13では、2つのサブレイヤは、破線で分離されている。第1の堆積が行われ、例えば10nm〜15nmの範囲にある厚さで第1のサブレイヤ21を形成し得る。この第1のサブレイヤ21は、共通であり、光電子デバイス1間(すなわち、様々なピクセル間)に堆積される。第2の堆積が行われ、複数のより厚い第2のサブレイヤ22を形成する。サブレイヤ22の堆積は、光電子デバイス1の構成のパターンに対応するパターンで行われる。第2のサブレイヤ22の堆積は、光電子デバイス1に対応する場所でエッチングされている金属マスクによって行われてもよい。
【0071】
マトリクスアレイ光電子デバイス8を製造するための一方法では、電子捕集層4のシート抵抗を局所的に高めるために、光電子デバイス1間において電子捕集層4の厚さを減らすことができる。
【0072】
本発明の一実施形態では、基板2、カソード3、電子捕集層4、活性層5、正孔捕集層6、およびアノード7から選択される少なくとも1つの要素が透明である。
【0073】
図14は、マトリクスアレイ光電子デバイス8がシンチレータ材料23の層を含む本発明の実施形態を示す。本発明の実施形態では、マトリクスアレイ光電子デバイス8のアノード7のそれぞれの上にシンチレータ材料23の層を配置してもよい。シンチレータ材料とは、イオン化放射線の吸収後、例えばX線の吸収後に例えば可視スペクトルで光を放出できる材料を意味する。本実施形態では、正孔捕集層6およびアノード7は透明であると有利である。これにより、本デバイス8は、X線をイメージングし得る。
【0074】
本発明の実施形態では、X線の検出は、活性層において直接行われてもよい。この場合、基板2、カソード3、電子捕集層4、正孔捕集層6、および/またはアノード7は、透明である必要はない。