(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークが積層された前記ステルスダイシング用粘着シートにおける、前記ワークが積層されていない領域を、加熱により収縮する工程を備える半導体装置の製造方法に使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のステルスダイシング用粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、基材と、基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える。
【0023】
1.ステルスダイシング用粘着シートの構成部材
(1)基材
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、熱機械分析装置を用いて、基材を昇温速度20℃/分で25℃から120℃まで加熱しながら、0.2gの荷重で引っ張る場合において、基材の60℃のときの長さから基材の初期の長さを減じて得られる基材の長さの変化量をΔL
60℃(μm)とし、基材の90℃のときの長さから基材の初期の長さを減じて得られる基材の長さの変化量をΔL
90℃(μm)としたときに、基材が、下記式(1)
ΔL
90℃−ΔL
60℃<0μm …(1)
の関係を満たす。
【0024】
基材が上記式(1)の関係を満たす場合、基材では、90℃のときの長さが、60℃のときの長さよりも短くなっていることを意味する。そのため、ヒートシュリンクの際に、基材を例えば90℃以上、200℃以下といった温度に加熱したときに、基材が良好に収縮することができる。これにより、当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートは、優れたヒートシュリンク性を有するものとなり、ヒートシュリンク後において、チップ同士が離間した状態を良好に維持することができ、チップ同士の衝突が抑制された良好なピックアップを行うことが可能となる。なお、上記変化量ΔL
90℃およびΔL
60℃の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載する通りである。
【0025】
また、ステルスダイシング用粘着シートがさらに優れたヒートシュリンク性を発揮するという観点から、ΔL
90℃−ΔL
60℃の値は、特に−10μm以下であることが好ましい。また、ΔL
90℃−ΔL
60℃の値の下限値については、特に限定されないものの、通常−3000μm以上であり、特に−2000μm以上であることが好ましい。
【0026】
なお、本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートが使用されるワークとしては、例えば、半導体ウエハ、半導体パッケージ等の半導体部材、ガラス板等のガラス部材等が挙げられる。上記半導体ウエハは、貫通電極を有する半導体ウエハ(TSVウエハ)であってもよい。本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、上記の通り、ヒートシュリンク後におけるチップ同士の衝突を抑制することができるため、厚さが薄く、それにより上記衝突によるチップの破損が生じ易いワークを使用する場合であっても、当該破損を効果的に抑制することができる。そのためステルスダイシング用粘着シートが使用されるワークとしては、一般的に非常に薄い厚さを有する、貫通電極を有する半導体ウエハが好適である。
【0027】
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで加熱することで得られる基材についてのDSC曲線において、30℃から100℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
30℃−100℃とし、25℃のときの測定値(mW)をH
25℃としたときに、基材が、下記式(2)
H
30℃−100℃/H
25℃≦4.0 …(2)
の関係を満たすことが好ましい。基材が上記式(2)を満たす場合、基材が、30℃から100℃という温度範囲に吸熱ピークを有しない傾向が高まり、基材の融点は比較的高いものとなる。そのため、基材、および当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートが優れた耐熱性を有するものとなる。特に、ステルスダイシング用粘着シートを、加熱された吸着テーブル上に載置する場合であっても、基材の軟化による吸着テーブルへの密着が抑制され、ステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルから良好に分離することができる。なお、上記示差走査熱量計を用いた測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0028】
ステルスダイシング用粘着シートがさらに優れた耐熱性を示すという観点から、H
30℃−100℃/H
25℃の値は、特に3.0以下であることが好ましい。また、H
30℃−100℃/H
25℃の値の下限値については、特に限定されないものの、通常0.1以上であることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで加熱することで得られる基材についてのDSC曲線において、105℃から200℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
105℃−200℃とし、25℃のときの測定値(mW)をH
25℃としたときに、基材が、下記式(3)
H
105℃−200℃/H
25℃≧1.0 …(3)
の関係を満たすことが好ましい。基材が上記式(3)を満たす場合、基材が、前述した式(1)の関係を満たし易くなり、当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートは、優れたヒートシュリンク性を効果的に発揮するものとなる。その結果、ヒートシュリンク後において、チップ同士が離間した状態をより良好に維持することができ、チップ同士の衝突が抑制された良好なピックアップを効果的に行うことができる。なお、上記示差走査熱量計を用いた測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0030】
なお、ステルスダイシング用粘着シートがさらに優れた耐熱性を示すという観点から、H
105℃−200℃/H
25℃の値は、特に1.1以上であることが好ましい。また、H
105℃−200℃/H
25℃の値の上限値については、特に限定されないものの、通常20以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで加熱することで得られる基材についてのDSC曲線において、30℃から100℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
30℃−100℃とし、105℃から200℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
105℃−200℃としたときに、基材が、下記式(4)
H
105℃−200℃/H
30℃−100℃≧0.1 …(4)
の関係を満たすことが好ましい。基材が上記式(4)を満たす場合、基材が、前述した式(1)の関係を満たし易くなり、当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートは、優れたヒートシュリンク性を効果的に発揮するものとなる。その結果、ヒートシュリンク後において、チップ同士が離間した状態をより良好に維持することができ、チップ同士の衝突が抑制された良好なピックアップを効果的に行うことができる。さらに、基材が上記式(4)を満たす場合、基材が、30℃から100℃という温度範囲に吸熱ピークを有しない傾向が高まるとともに、105℃から200℃という温度範囲に吸熱ピークを有する傾向が高まり、基材の融点は比較的高いものとなる。その結果、基材、および当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートが優れた耐熱性を有するものとなる。特に、ステルスダイシング用粘着シートを、加熱された吸着テーブル上に載置する場合であっても、基材の軟化による吸着テーブルへの密着が抑制され、ステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルから良好に分離することができる。なお、上記示差走査熱量計を用いた測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0032】
なお、ステルスダイシング用粘着シートがさらに優れた耐熱性を示すという観点から、H
105℃−200℃/H
30℃−100℃の値は、特に0.7以上であることが好ましく、さらには1.5以上であることが好ましい。また、H
105℃−200℃/H
30℃−100℃の値の上限値については、特に限定されないものの、通常20以下であることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、基材の23℃における引張弾性率が、450MPa以下であることが好ましく、特に400MPa以下であることが好ましく、さらには300MPa以下であることが好ましい。また、当該引張弾性率は、50MPa以上であることが好ましく、特に70MPa以上であることが好ましく、さらには100MPa以上であることが好ましい。当該引張弾性率が450MPa以下であることで、基材は加熱により収縮し易いものとなり、そのため、ヒートシュリンク後において、半導体チップやガラスチップ間を離間した状態で効果的に維持することが可能となる。一方、当該引張弾性率が50MPa以上であることで、基材が十分な剛性を有するものとなり、当該基材を備えるステルスダイシング用粘着シートは、加工性やハンドリング性に優れたものとなる。なお、上記引張弾性率の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0034】
基材の材料としては、熱機械分析装置による測定に関する上記式(1)の関係を満たすとともに、ステルスダイシング用粘着シートの使用工程における所望の機能を発揮するものである限り、特に限定されない。また、粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から構成される場合には、基材の材料が、粘着剤層の硬化のために照射されるエネルギー線に対して良好な透過性を発揮できることが好ましい。
【0035】
基材は、樹脂系の材料を主材とする樹脂フィルムであることが好ましく、その具体例としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体フィルム、その他のエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリスチレンフィルム;フッ素樹脂フィルム;ポリイミドフィルム;ポリカーボネートフィルムなどが挙げられる。ポリオレフィン系フィルムにおいて、ポリオレフィンはブロックコポリマーまたはランダムコポリマーであってもよい。ポリエチレンフィルムの例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等が挙げられる。また、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムといった変性フィルムも用いられる。また、基材は、上述したフィルムが複数積層されてなる積層フィルムであってもよい。この積層フィルムにおいて、各層を構成する材料は同種であってもよく、異種であってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0036】
基材としては、上記フィルムの中でも、熱機械分析装置による測定に関する上記式(1)の関係を満たし易いという観点から、低密度ポリエチレンフィルム、直鎖低密度ポリエチレンフィルム、ランダムコポリマーのポリプロピレンフィルム(ランダムポリプロピレンフィルム)またはエチレン−メタクリル酸共重合体フィルムを使用することが好ましい。
【0037】
基材は、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、着色剤、赤外線吸収剤、イオン捕捉剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の含有量としては、特に限定されないものの、基材が所望の機能を発揮する範囲とすることが好ましい。
【0038】
基材の粘着剤層が積層される面には、粘着剤層との密着性を高めるために、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理が施されてもよい。
【0039】
基材の厚さは、450μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには350μm以下であることが好ましい。また、当該厚さは、20μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。基材の厚さが450μm以下であることで、基材がヒートシュリンクし易いものとなり、半導体チップやガラスチップ間を良好に離間して維持することが可能となる。また、基材の厚さが20μm以上であることで、基材が良好な剛性を有するものとなり、ステルスダイシング用粘着シートがワークを効果的に支持することが可能となる。
【0040】
(2)粘着剤層
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートにおいて、粘着剤層は、ステルスダイシング用粘着シートの使用工程における所望の機能を発揮するものである限り、特に限定されない。ステルスダイシング用粘着シートが粘着剤層を備えることで、当該粘着剤層側の面に対してワークを良好に貼付し易くなる。
【0041】
粘着剤層は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用することができる。これらの中でも、ステルスダイシング用粘着シートを延伸した際に半導体チップ等の脱落を効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0042】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により硬化して粘着力が低下するため、半導体チップとステルスダイシング用粘着シートとを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。
【0043】
粘着剤層を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、非エネルギー線硬化性ポリマー(エネルギー線硬化性を有しないポリマー)と少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。また、エネルギー線硬化性を有するポリマーと非エネルギー線硬化性ポリマーとの混合物であってもよいし、エネルギー線硬化性を有するポリマーと少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物であってもよいし、それら3種の混合物であってもよい。
【0044】
最初に、エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合について、以下説明する。
【0045】
エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(A)(以下「エネルギー線硬化型重合体(A)」という場合がある。)であることが好ましい。このエネルギー線硬化型重合体(A)は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(a2)とを反応させて得られるものであることが好ましい。
【0046】
アクリル系共重合体(a1)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位とを含むことが好ましい。
【0047】
アクリル系共重合体(a1)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基とを分子内に有するモノマーであることが好ましい。
【0048】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0049】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
アクリル系共重合体(a1)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜20であるアルキル(メタ)アクリレートの他、例えば、分子内に脂環式構造を有するモノマー(脂環式構造含有モノマー)が好ましく用いられる。
【0052】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、特にアルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が好ましく用いられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
脂環式構造含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が好ましく用いられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、好ましくは1質量%以上、特に好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上の割合で含有する。また、アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、好ましくは35質量%以下、特に好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下の割合で含有する。
【0055】
さらに、アクリル系共重合体(a1)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上の割合で含有する。また、アクリル系共重合体(a1)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、好ましくは99質量%以下、特に好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下の割合で含有する。
【0056】
アクリル系共重合体(a1)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られるが、これらモノマーの他にもジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、スチレン等が共重合されてもよい。
【0057】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)を、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(a2)と反応させることにより、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0058】
不飽和基含有化合物(a2)が有する官能基は、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基がヒドロキシ基、アミノ基または置換アミノ基の場合、不飽和基含有化合物(a2)が有する官能基としてはイソシアネート基またはエポキシ基が好ましく、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基がエポキシ基の場合、不飽和基含有化合物(a2)が有する官能基としてはアミノ基、カルボキシ基またはアジリジニル基が好ましい。
【0059】
また上記不飽和基含有化合物(a2)には、エネルギー線重合性の炭素−炭素二重結合が、1分子中に少なくとも1個、好ましくは1〜6個、さらに好ましくは1〜4個含まれている。このような不飽和基含有化合物(a2)の具体例としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2−(1−アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0060】
上記不飽和基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマーモル数に対して、好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上の割合で用いられる。また、上記不飽和基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマーモル数に対して、好ましくは95モル%以下、特に好ましくは93モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下の割合で用いられる。
【0061】
アクリル系共重合体(a1)と不飽和基含有化合物(a2)との反応においては、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基と不飽和基含有化合物(a2)が有する官能基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(a1)中に存在する官能基と、不飽和基含有化合物(a2)中の官能基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(a1)中の側鎖に導入され、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0062】
このようにして得られるエネルギー線硬化型重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であるのが好ましく、特に15万以上であるのが好ましく、さらには20万以上であるのが好ましい。また、当該重量平均分子量(Mw)は、150万以下であるのが好ましく、特に100万以下であるのが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0063】
エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化型重合体(A)といったエネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合であっても、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)をさらに含有してもよい。
【0064】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0065】
かかるエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能性アクリル酸エステル類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等の多官能性アクリル酸エステル類、ポリエステルオリゴ(メタ)アクリレート、ポリウレタンオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
エネルギー線硬化型重合体(A)に対し、エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合、エネルギー線硬化性粘着剤中におけるエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の含有量は、エネルギー線硬化型重合体(A)100質量部に対して、0質量部超であることが好ましく、特に60質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、エネルギー線硬化型重合体(A)100質量部に対して、250質量部以下であることが好ましく、特に200質量部以下であることが好ましい。
【0067】
ここで、エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させるためのエネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(C)を添加することが好ましく、この光重合開始剤(C)の使用により、重合硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0068】
光重合開始剤(C)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン}、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
光重合開始剤(C)は、エネルギー線硬化型共重合体(A)(エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合には、エネルギー線硬化型共重合体(A)およびエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の合計量100質量部)100質量部に対して0.1質量部以上、特に0.5質量部以上の量で用いられることが好ましい。また、光重合開始剤(C)は、エネルギー線硬化型共重合体(A)(エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合には、エネルギー線硬化型共重合体(A)およびエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の合計量100質量部)100質量部に対して10質量部以下、特に6質量部以下の量で用いられることが好ましい。
【0070】
エネルギー線硬化性粘着剤においては、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、非エネルギー線硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分(D)、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0071】
非エネルギー線硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分(D)としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられ、重量平均分子量(Mw)が3000〜250万のポリマーまたはオリゴマーが好ましい。当該成分(D)をエネルギー線硬化性粘着剤に配合することにより、硬化前における粘着性および剥離性、硬化後の強度、他の層との接着性、保存安定性などを改善し得る。当該成分(D)の配合量は特に限定されず、エネルギー線硬化型共重合体(A)100質量部に対して0質量部超、50質量部以下の範囲で適宜決定される。
【0072】
架橋剤(E)としては、エネルギー線硬化型共重合体(A)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩、反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0073】
架橋剤(E)の配合量は、エネルギー線硬化型共重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.03質量部以上であることが好ましく、さらには0.04質量部以上であることが好ましい。また、架橋剤(E)の配合量は、エネルギー線硬化型共重合体(A)100質量部に対して、8質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには3.5質量部以下であることが好ましい。
【0074】
次に、エネルギー線硬化性粘着剤が、非エネルギー線硬化性ポリマー成分と少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とする場合について、以下説明する。
【0075】
非エネルギー線硬化性ポリマー成分としては、例えば、前述したアクリル系共重合体(a1)と同様の成分が使用できる。
【0076】
少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、前述の成分(B)と同じものが選択できる。非エネルギー線硬化性ポリマー成分と少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの配合比は、非エネルギー線硬化性ポリマー成分100質量部に対して、少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマー1質量部以上であるのが好ましく、特に60質量部以上であるのが好ましい。また、当該配合比は、非エネルギー線硬化性ポリマー成分100質量部に対して、少なくとも1つ以上のエネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマー200質量部以下であるのが好ましく、特に160質量部以下であるのが好ましい。
【0077】
この場合においても、上記と同様に、光重合開始剤(C)や架橋剤(E)を適宜配合することができる。
【0078】
粘着剤層の厚さは、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることが好ましく、さらには3μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、50μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であることが好ましく、さらには20μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さが1μm以上であることで、ステルスダイシング用粘着シートのワークに対して良好な粘着力を発揮するものとなり、意図しない段階におけるワークの剥がれを効果的に抑制することができる。また、粘着剤層の厚さが50μm以下であることで、ステルスダイシング用粘着シートの粘着力が過度に高くなることが抑制され、ピックアップ不良の発生等を効果的に抑制することができる。
【0079】
(3)剥離シート
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、粘着剤層における粘着面をワークに貼付するまでの間、当該面を保護する目的で、当該面に剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができ、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20μm以上、250μm以下である。
【0080】
2.ステルスダイシング用粘着シートの製造方法
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートにおいて、基材の製造方法は、得られる基材が熱機械分析装置による測定に関する上記式(1)の関係を満たす限り、特に限定されない。例えば、前述した材料を使用して、Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法等によって基材を製造することができる。これらの製造方法の中でも、Tダイ法を使用することが好ましい。
【0081】
また、本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートにおいて、粘着剤層の形成方法は、特に限定されない。例えば、剥離シート上において形成した粘着剤層を、上記のように製造した基材の片面側に転写することで、ステルスダイシング用粘着シートを得ることができる。この場合、粘着剤層を構成する粘着性組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗工液を調製し、剥離シートの剥離処理された面(以下「剥離面」という場合がある。)上に、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等によりその塗工液を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。塗工液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。この積層体における剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、ステルスダイシング用粘着シートをワークに貼付するまでの間、粘着剤層の粘着面を保護するために用いてもよい。
【0082】
粘着剤層を形成するための塗工液が架橋剤を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のエネルギー線硬化型重合体(A)または非エネルギー線硬化性ポリマー成分と架橋剤(E)との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上記の方法などによって基材に粘着剤層を積層させた後、得られたステルスダイシング用粘着シートを、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0083】
上述のように剥離シート上で形成した粘着剤層を基材の片面側に転写する代わりに、基材上で直接粘着剤層を形成してもよい。この場合、前述した粘着剤層を形成するための塗工液を基材の片面側に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成する。
【0084】
3.ステルスダイシング用粘着シートの使用方法
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、ステルスダイシングに使用することができる。また、本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、ステルスダイシングの工程を備える半導体装置の製造方法に使用することができる。
【0085】
本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、前述の通り、ヒートシュリンク後におけるチップ同士の衝突を抑制することができるため、厚さが薄く、それによりチップの破損が生じ易いワークに好適に使用することができる。例えば、本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、貫通電極を有する半導体ウエハ(TSV)に好適に使用することができる。
【0086】
以下に、ステルスダイシングの工程を備える半導体装置の製造方法の一例を説明する。最初に、硬質支持体に固定されたワーク(半導体ウエハ)の片面を研削する(バックグラインド)工程が行われる。半導体ウエハは、硬質支持体に対して、例えば接着剤により固定されている。硬質支持体としては、例えばガラス等が使用される。バックグラインドは、一般的な方法により行うことができる。
【0087】
続いて、バックグラインドが完了した半導体ウエハを、硬質支持体からステルスダイシング用粘着シートに転写する。このとき、半導体ウエハのバックグラインドした面に対して、ステルスダイシング用粘着シートの粘着剤層側の面を貼付した後、硬質支持体を半導体ウエハから分離する。硬質支持体の半導体ウエハから分離は、硬質支持体と半導体ウエハとの固定に使用していた接着剤の種類に応じた方法により行うことができ、例えば、加熱により接着剤を軟化させた上で、硬質支持体を半導体ウエハからスライドさせる方法、レーザ光照射により接着剤を分解する方法等が挙げられる。なお、半導体ウエハから硬質支持体が分離された後、リングフレームに対して、ステルスダイシング用粘着シートにおける周縁部を貼付する。
【0088】
続いて、ステルスダイシング用粘着シート上に積層された半導体ウエハを、溶剤を用いて洗浄する工程が行われる。これにより、半導体ウエハに残存する接着剤を除去することができる。当該洗浄は、一般的な方法にて行うことができ、例えば、ステルスダイシング用粘着シートと半導体ウエハとの積層体を溶剤中に浸漬する方法、半導体ウエハよりやや大きな枠を、ウエハを囲繞するようにステルスダイシング用粘着シート上に配置し、枠内に溶剤を投入する方法等が挙げられる。
【0089】
続いて、必要に応じて、ステルスダイシング用粘着シート上に積層された半導体ウエハに対して、別の半導体ウエハを積層してもよい。このとき、半導体同士は、接着剤等を用いて固定することができ、例えば非導電性接着フィルム(Nonconductive film;NCF)により固定することできる。半導体ウエハの積層は、必要な積層数となるまで繰り返してもよい。このような半導体ウエハの積層は、特に、半導体ウエハとしてTSVウエハを使用し、積層回路を製造する際に好適に行われる。
【0090】
続いて、ステルスダイシング用粘着シート上において半導体ウエハまたは半導体ウエハの積層体(以下において「半導体ウエハ」という場合、特に言及しない限り、半導体ウエハまたは半導体ウエハの積層体をいうものとする。)のステルスダイシングが行われる。この工程では、半導体ウエハに対してレーザ光を照射して、半導体ウエハ内に改質部を形成する。レーザ光の照射は、ステルスダイシングにおいて一般的に使用される装置および条件を用いて行うことができる。
【0091】
続いて、半導体ウエハを、ステルスダイシングにより形成された改質部において分割し、複数の半導体チップを得る。当該分割は、例えば、ステルスダイシング用粘着シートと半導体ウエハとの積層物をエキスパンド装置に設置し、0℃〜室温環境下でエキスパンドすることで行うことができる。
【0092】
続いて、ステルスダイシング用粘着シートを再度エキスパンドする。当該エキスパンドは、得られた半導体チップ同士を離間させることを主な目的として行われる。さらに、エキスパンドした状態を維持したままステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルで吸着する。ここでのエキスパンドは、常温または加熱した状態で行うことができる。また、エキスパンドは、一般的な装置を用いて一般的な方法により行うことができ、また、使用される吸着テーブルも一般的なものを用いて行うことができる。
【0093】
続いて、ステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルで吸着したまま、得られた半導体チップが積層されたステルスダイシング用粘着シートにおける、半導体チップが積層されていない領域を、加熱により収縮(ヒートシュリンク)する。具体的には、ステルスダイシング用粘着シートにおける半導体チップが積層された領域と、ステルスダイシング用粘着シートにおけるリングフレームが貼付された領域との間における領域を加熱し、当該領域を収縮させる。このときの加熱条件としては、ステルスダイシング用粘着シートの温度を、90℃以上とすることが好ましい。また、ステルスダイシング用粘着シートの温度を、200℃以下とすることが好ましい。本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートでは、熱機械分析装置を用いて測定される基材の長さの変化量ΔL
90℃およびΔL
60℃が前述した式(1)の関係を満たすことにより、基材が加熱により良好に収縮することができる。それにより、後述するように、ステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルによる吸着から解放した後においても、半導体チップ同士が離間した状態を良好に維持することができ、半導体チップのピックアップを良好に行うことができる。
【0094】
続いて、上述した吸着テーブルによる吸着からステルスダイシング用粘着シートを解放する。上記ヒートシュリンク工程において、ステルスダイシング用粘着シートにおける半導体チップが積層された領域と、ステルスダイシング用粘着シートにおけるリングフレームが貼付された領域との間における領域が収縮したことにより、ステルスダイシング用粘着シートでは、半導体チップが貼付された領域を周縁部方向に引き伸ばす力が生じている。その結果、吸着テーブルによる吸着から解放した後においても、半導体チップ同士が離間した状態を維持することができる。
【0095】
その後、個々の半導体チップを、隣接する半導体チップから離間した状態で、ステルスダイシング用粘着シートからピックアップする。このピックアップは、一般的な装置を使用して、一般的な方法にて行うことができる。上述したように、本実施形態に係るステルスダイシング用粘着シートは、優れたヒートシュリンク性を発揮する結果、半導体チップ同士を良好に離間した状態で維持することができ、それにより、ピックアップを良好に行うことができる。
【0096】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0097】
例えば、基材と粘着剤層との間、または基材における粘着剤層とは反対側の面には、その他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0098】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0099】
〔実施例1〕
(1)基材の作成
低密度ポリエチレンを含有する樹脂組成物(住友化学社製,製品名「スミカセンF−412−1」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形し、厚さ70μmの基材を得た。
【0100】
(2)粘着剤組成物の調製
アクリル酸n−ブチル(BA)62質量部と、メタクリル酸メチル(MMA)10質量部と、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)28質量部とを反応させて得られたアクリル系共重合体(a1)と、当該アクリル系共重合体(a1)のHEAに対して80mol%のメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)とを反応させて、エネルギー線硬化型重合体(A)を得た。このエネルギー線硬化型重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)は、50万であった。
【0101】
得られたエネルギー線硬化型重合体100質量部(固形分換算,以下同じ)と、光重合開始剤としての1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)3.0質量部と、架橋剤としてのトリレンジイソシアネート(東ソー社製,製品名「コロネートL」)1.0質量部とを溶媒中で混合し、粘着剤組成物を得た。
【0102】
(3)粘着剤層の形成
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET381031」)の剥離面に対して、上記粘着剤組成物を塗布し、加熱により乾燥させることで、剥離シート上に、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。
【0103】
(4)ステルスダイシング用粘着シートの作製
上記工程(3)で形成した粘着剤層の剥離シートとは反対側の面と、上記工程(1)で作製した基材の片面とを貼り合わせることで、ステルスダイシング用粘着シートを得た。
【0104】
〔実施例2〕
基材として、低密度ポリエチレンを含有する樹脂組成物(住友化学社製,製品名「スミカセンF−723P」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形して得られた、厚さ70μmの基材を使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0105】
〔実施例3〕
基材として、低密度ポリエチレンを含有する樹脂組成物(住友化学社製,製品名「スミカセンCE3506」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形して得られた、厚さ70μmの基材を使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0106】
〔実施例4〕
基材として、ランダムポリプロピレンを含有する樹脂組成物(プライムポリマー社製,製品名「プライムTPO J−5710」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形して得られた、厚さ70μmの基材を使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0107】
〔実施例5〕
基材として、ランダムポリプロピレンを含有する樹脂組成物(プライムポリマー社製,製品名「プライムTPO F−3740」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形して得られた、厚さ70μmの基材を使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0108】
〔実施例6〕
基材として、エチレン−メタクリル酸共重合体を含有する樹脂組成物(三井デュポンポリケミカル社製,製品名「ニュクレルNH903C」)を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押出成形して得られた、厚さ70μmの基材を使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0109】
〔比較例1〕
基材として、厚さ80μmのポリブチレンテレフタレートフィルムを使用する以外、実施例1と同様にしてステルスダイシング用粘着シートを製造した。
【0110】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC−8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL−H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0111】
〔試験例1〕(基材の引張弾性率の測定)
実施例および比較例で作製した基材を15mm×140mmの試験片に裁断し、JIS K7161:2014に準拠して、温度23℃および相対湿度50%における引張弾性率を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロンRTA−T−2M」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、引張弾性率(MPa)を測定した。なお、測定は、基材の成形時の押出方向(MD)およびこれに直角の方向(CD)の双方で行い、これらの測定結果の平均値を引張弾性率破断伸度とした。結果を表1に示す。
【0112】
〔試験例2〕(示差走査熱量計による測定)
実施例および比較例で作製した基材から4.0mg分を切り出して、測定サンプルとした。当該測定サンプルを、示差走査熱量計(TAインスツルメンツ社製,製品名「Q2000」)を用いて、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで加熱して、DSC曲線を得た。
【0113】
得られたDSC曲線における、25℃のときの測定値(mW)をH
25℃とし、30℃から100℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
30℃−100℃とし、105℃から200℃の範囲における測定値(mW)の最小値をH
105℃−200℃とした。これらの結果を表1に示す。
【0114】
また、H
25℃に対するH
30℃−100℃の比(H
30℃−100℃/H
25℃)、H
25℃に対するH
105℃−200℃の比(H
105℃−200℃/H
25℃)、およびH
30℃−100℃に対するH
105℃−200℃の比(H
105℃−200℃/H
30℃−100℃)を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0115】
〔試験例3〕(熱機械分析装置による測定)
実施例および比較例で作製した基材を4.5mm×20mmのサイズにカットし、測定サンプルとした。当該測定サンプルを、熱機械分析装置(BRUKER社製,製品名「TMA4000SA」)に、チャック間距離を15mmとして設置した後、昇温速度20℃/分で25℃から120℃まで加熱しながら、0.2gの荷重で長軸方向に引っ張った。そして、60℃および90℃における測定サンプルのチャック間距離をそれぞれ測定した。
【0116】
そして、60℃における測定サンプルのチャック間距離から初期のチャック間距離を減じることで、測定サンプルのチャック間距離の変化量ΔL
60℃(μm)を算出した。また、90℃における測定サンプルのチャック間距離から初期のチャック間距離を減じることで、測定サンプルのチャック間距離の変化量ΔL
90℃(μm)を算出した。さらに、ΔL
90℃からΔL
60℃を減じて得られる値(ΔL
90℃−ΔL
60℃)(μm)を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0117】
〔試験例4〕(耐熱性の評価)
実施例および比較例で製造したステルスダイシング用粘着シートから剥離シートを剥離した後、当該ステルスダイシング用粘着シートにおける基材側の面を、マルチウエハマウンター(リンテック社製,製品名「RAD−2700 F/12」)が備える吸着テーブルに2分間吸着させた。当該吸着の間、吸着テーブルを70℃に加熱した。
【0118】
2分間が経過後、吸着テーブルによる吸着を停止した後、ステルスダイシング用粘着シートが吸着テーブルから分離するように、上記マルチウエハマウンターが備える搬送手段を駆動させた。このとき、当該分離が良好に行われ、ステルスダイシング用粘着シートを問題なく搬送できたものを「○」、ステルスダイシング用粘着シートのポーラステーブルへの密着が少し生じたものの、ステルスダイシング用粘着シートを搬送することができたものを「△」、ステルスダイシング用粘着シートがポーラステーブルに完全に密着して、搬送ができなかったものを「×」として、ステルスダイシング用粘着シートの耐熱性を評価した。結果を表1に示す。
【0119】
以上の耐熱性の評価を、上記吸着テーブルを90℃に加熱した場合についても行った。その結果を表1に示す。
【0120】
〔試験例5〕(ヒートシュリンク性の評価)
実施例および比較例で製造したステルスダイシング用粘着シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の粘着面に対して、マルチウエハマウンター(リンテック社製,製品名「RAD−2700 F/12」)を用いて、シリコンウエハ(外径:8インチ,厚さ:100μm)およびリングフレーム(ステンレス製)に貼付した。
【0121】
次いで、ステルスダイシング用粘着シート上に貼付された上記シリコンウエハに対して、レーザーソー(ディスコ社製,製品名「DFL7361」)を用いて波長1342nmのレーザ光を照射し、得られるチップサイズが8mm×8mmとなるように、シリコンウエハ内に改質部を形成した。
【0122】
次いで、ステルスダイシング用粘着シートが貼付された、レーザ光照射後のシリコンウエハおよびリングフレームを、ダイセパレーター(ディスコ社製,製品名「DDS2300」)に設置し、0℃にて、引き落とし速度100mm/秒、エキスパンド量10mmでエキスパンド(クールエキスパンド)した。これにより、半導体ウエハは改質部において分割され、それぞれのチップサイズが8mm×8mmである複数の半導体チップが得られた。
【0123】
続いて、引き落とし速度1mm/秒、エキスパンド量7mmで、ステルスダイシング用粘着シートをエキスパンドした。さらに、エキスパンドした状態のまま、ステルスダイシング用粘着シートを吸着テーブルで吸着した後、ステルスダイシング用粘着シートにおける、半導体チップが貼付された領域とリングフレームが貼付された領域との間を加熱した。このときの加熱条件としては、IRヒータの設定温度を600℃、回転速度を1deg/sec、ステルスダイシング用粘着シートを支持する吸着テーブルとヒータとの距離を13mmと設定した。これにより、ステルスダイシング用粘着シートは、約180℃に加熱された。
【0124】
その後、吸着テーブルによる吸着からステルスダイシング用粘着シートを解放し、隣り合う半導体チップ間の距離を5点測定し、その平均値を算出した。そして、当該平均値が20μm以上である場合を「〇」、20μm未満である場合を「×」として、ヒートシュリンク性を評価した。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
表1から分かるように、実施例で得られたステルスダイシング用粘着シートは、ヒートシュリンク性に優れていた。また、実施例1〜3で得られたステルスダイシング用粘着シートは、耐熱性にも優れていた。