(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るダイシングシートの断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るダイシングシート1は、基材2と、基材2の第1の面側(
図1中、上側)に積層された粘着剤層3と、粘着剤層3上に積層された剥離シート6とを備えて構成される。剥離シート6は、ダイシングシート1の使用時に剥離除去され、それまで粘着剤層3を保護するものであり、本実施形態に係るダイシングシート1から省略されてもよい。ここで、基材2における粘着剤層3側の面を「第1の面」、その反対側の面(
図1中、下面)を「第2の面」という。
【0018】
本実施形態に係るダイシングシート1は、一例として、ワークとしての半導体ウエハやガラス基板のダイシング加工時にワークを保持するために用いられるが、これに限定されるものではない。
【0019】
本実施形態に係るダイシングシート1は、通常、長尺に形成されてロール状に巻き取られ、ロール・トゥ・ロールで使用される。
【0020】
1.基材
(1)物性
(1−1)平均粗さ
基材2の第2の面(以下「基材2の背面」という場合がある。)における算術平均粗さ(Ra)は、0.01μm以上、0.5μm以下であり、かつ、最大高さ粗さ(Rz)は、3μm以下である。この算術平均粗さ(Ra1)および最大高さ粗さ(Rz)は、ANSI/ASME B46.1に基づいて測定したものであり、測定方法の詳細は後述する試験例に示す通りである。
【0021】
通常、算術平均粗さ(Ra)が小さくなるほど表面が平滑になるため、光線透過性が高くなると考えられる。しかしながら、算術平均粗さ(Ra)を小さくしようとすると、樹脂フィルムの製膜時にエア(気泡)を巻き込み易くなり、製膜される樹脂フィルムに、部分的に気泡跡が形成されてしまう。その結果、算術平均粗さ(Ra)自体は小さくなっても、最大高さ粗さ(Rz)が大きくなってしまう傾向が強かった。基材を構成する樹脂フィルムに上記のような気泡跡があると、当該気泡跡にて光線の透過が妨げられる。そのため、基材の背面側から当該樹脂フィルムを介してカメラでワークを撮像したときに、カメラがアライメントマークを高精度で撮像することが困難になる。
【0022】
本実施形態では、基材2の背面における算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm以上、0.5μm以下であり、かつ、最大高さ粗さ(Rz)が、3μm以下であることにより、基材2の背面側から当該ダイシングシートを介してカメラでワークを撮像したときに、光線が基材2の背面の凹凸で乱されることなくダイシングシート1を透過するため、ワークの像がカメラまで正確に届き、高倍率撮像を高精度で行うことができる。これにより、アライメント動作を正確に行うことが可能となり、ダイシング、特にステルスダイシングの加工性を向上させることができる。
【0023】
基材2の背面における算術平均粗さ(Ra)の下限値は、上記の通り0.01μm以上であり、好ましくは0.05μm以上であり、特に好ましくは0.1μm以上である。算術平均粗さ(Ra)が0.01μm未満であると、最大高さ粗さ(Rz)を3μm以下にすることが困難になる。一方、基材2の背面における算術平均粗さ(Ra)の上限値は、上記の通り0.5μm以下であり、好ましくは0.4μm以下であり、特に好ましくは0.3μm以下である。算術平均粗さ(Ra)が0.5μmを超えると、基材2の背面の凹凸にて光線の透過が妨げられる。
【0024】
また、基材2の背面における最大高さ粗さ(Rz)は、上記の通り3μm以下であり、好ましくは2.5μm以下であり、特に好ましくは2μm以下である。最大高さ粗さ(Rz)が3μmを超えると、基材2の背面の凹凸にて光線の透過が妨げられる。一方、基材2の背面における最大高さ粗さ(Rz)の下限値は、特に限定されないが、フィルムの製膜方法上、通常は0.01μm以上である。
【0025】
基材2の第1の面(以下「基材2の正面」という場合がある。)には、粘着剤層3が積層され、基材2の正面の凹凸が粘着剤層3によって埋められるため、基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)は、特に限定されない。しかしながら、それらの値が大き過ぎると、基材2の正面の凹凸が粘着剤層3によって埋められきれない場合もあり得るため、基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)は、上限値として、2.5μm以下であることが好ましい。基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)の下限値は、特に限定されないが、フィルムの製膜方法上、通常は0.01μm以上である。また、上記の理由により、基材2の正面の最大高さ粗さ(Rz)は、上限値として、2.5μm以下であることが好ましい。また、基材2の正面の最大高さ粗さ(Rz)の下限値は、特に限定されないが、フィルムの製膜方法上、通常は0.01μm以上である。
【0026】
(1−2)ヘイズ値
基材2のヘイズ値(JIS K7136:2000に準じて測定した値)は、15%以下であることが好ましく、特に13%以下であることが好ましく、さらには10%以下であることが好ましい。基材2のヘイズ値が15%以下であると、基材2の背面側から当該ダイシングシートを介してカメラでワークを撮像したときに、光線が基材2を良好に透過し、ワークの像がカメラまでより正確に届き、高倍率撮像をより高精度で行うことができる。
【0027】
なお、基材2のヘイズ値の下限値は、特に限定されないが、通常は0.01%以上であり、好ましくは0%である。
【0028】
(1−3)厚さ
基材2の厚さは、ダイシングシート1が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されないが、20〜450μmであることが好ましく、特に25〜400μmであることが好ましく、さらには50〜350μmであることが好ましい。
【0029】
(2)材料
基材2は、樹脂フィルムによって構成されることが好ましい。基材2を構成する樹脂フィルムの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。また、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。さらに上記フィルムの同種または異種を複数積層した積層フィルムであってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0030】
上記の中でも、ポリオレフィン系フィルムが好ましく、特に、ポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンフィルムが好ましい。ポリプロピレンフィルムとしては、特にランダムコポリマーポリプロピレンフィルムが好ましい。ポリエチレンフィルムとしては、特に低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムが好ましい。上記の中でも、ランダムコポリマーポリプロピレンフィルムが最も好ましい。これらの樹脂フィルムによれば、前述した物性を満たし易い。また、これらの樹脂フィルムは、エキスパンド性、ワーク貼付性、チップ剥離性等の観点からも好ましい。
【0031】
上記樹脂フィルムは、その表面に積層される粘着剤層3との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0032】
なお、基材2は、上記樹脂フィルム中に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0033】
(3)製造方法
基材2を構成する樹脂フィルムは、樹脂フィルムの種類に応じた製造方法によって製造することができるが、主に押出成形のTダイ法によって製造される。前述した算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)を有する樹脂フィルムを製造するためには、樹脂フィルムの製膜時にエア(気泡)を巻き込まないようにする必要がある。例えば、減圧下、真空下等で押出成形することにより、かかるエアの巻き込みを抑制し、気泡跡のない樹脂フィルムを製造することができる。また、製膜時のクーリングロール等の各工程ロールの表面粗さを調整することでも、気泡跡のない樹脂フィルムを製造することができる。ただし、前述した算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)を有する樹脂フィルムの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0034】
2.粘着剤層
本実施形態に係るダイシングシート1が備える粘着剤層3は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。非エネルギー線硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用することができる。これらの中でも、ダイシング工程等にてワークまたは加工物の脱落を効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0035】
一方、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたは加工物とダイシングシート1とを分離させたいときに、エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。
【0036】
粘着剤層3を構成するエネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、エネルギー線硬化性を有しないポリマーとエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0037】
エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合について、以下説明する。
【0038】
エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(A)(以下「エネルギー線硬化型重合体(A)」という場合がある。)であることが好ましい。このエネルギー線硬化型重合体(A)は、官能基含有モノマー単位を有する(メタ)アクリル系共重合体(a1)と、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)とを反応させて得られるものであることが好ましい。
【0039】
アクリル系共重合体(a1)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位とからなる。
【0040】
アクリル系共重合体(a1)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基とを分子内に有するモノマーであることが好ましい。
【0041】
上記官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
アクリル系共重合体(a1)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1〜20であるアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが用いられる。これらの中でも、特に好ましくはアルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が用いられる。
【0043】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を通常3〜100質量%、好ましくは5〜40質量%の割合で含有し、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を通常0〜97質量%、好ましくは60〜95質量%の割合で含有してなる。
【0044】
アクリル系共重合体(a1)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られるが、これらモノマーの他にもジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、スチレン等が共重合されてもよい。
【0045】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)を、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)と反応させることにより、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0046】
不飽和基含有化合物(a2)が有する置換基は、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、官能基がヒドロキシル基、アミノ基または置換アミノ基の場合、置換基としてはイソシアネート基またはエポキシ基が好ましく、官能基がエポキシ基の場合、置換基としてはアミノ基、カルボキシル基またはアジリジニル基が好ましい。
【0047】
また不飽和基含有化合物(a2)には、エネルギー線重合性の炭素−炭素二重結合が、1分子毎に1〜5個、好ましくは1〜2個含まれている。このような不飽和基含有化合物(a2)の具体例としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2−(1−アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等が挙げられる。
【0048】
不飽和基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマーに対して、通常10〜100mol%、好ましくは20〜95mol%の割合で用いられる。
【0049】
アクリル系共重合体(a1)と不飽和基含有化合物(a2)との反応においては、官能基と置換基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(a1)中に存在する官能基と、不飽和基含有化合物(a2)中の置換基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(a1)中の側鎖に導入され、エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0050】
このようにして得られるエネルギー線硬化型重合体(A)の重量平均分子量は、1万以上であるのが好ましく、特に15万〜150万であるのが好ましく、さらに20万〜100万であるのが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0051】
エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合であっても、エネルギー線硬化性粘着剤は、エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)をさらに含有してもよい。
【0052】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0053】
かかるエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能性アクリル酸エステル類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等の多官能性アクリル酸エステル類、ポリエステルオリゴ(メタ)アクリレート、ポリウレタンオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合、エネルギー線硬化性粘着剤中におけるエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の含有量は、5〜80質量%であることが好ましく、特に20〜60質量%であることが好ましい。
【0055】
ここで、エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(C)を添加することが好ましく、この光重合開始剤(C)の使用により、重合硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0056】
光重合開始剤(C)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、(2,4,6−トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2−ベンゾチアゾール−N,N−ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン}、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
光重合開始剤(C)は、エネルギー線硬化型共重合体(A)(エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合には、エネルギー線硬化型共重合体(A)およびエネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の合計量100質量部)100質量部に対して0.1〜10質量部、特には0.5〜6質量部の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0058】
エネルギー線硬化性粘着剤においては、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0059】
エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられ、重量平均分子量(Mw)が3000〜250万のポリマーまたはオリゴマーが好ましい。
【0060】
架橋剤(E)としては、エネルギー線硬化型共重合体(A)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアナート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩、反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0061】
これら他の成分(D),(E)をエネルギー線硬化性粘着剤に配合することにより、硬化前における粘着性および剥離性、硬化後の強度、他の層との接着性、保存安定性などを改善し得る。これら他の成分の配合量は特に限定されず、エネルギー線硬化型共重合体(A)100質量部に対して0〜40質量部の範囲で適宜決定される。
【0062】
次に、エネルギー線硬化性粘着剤が、エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分とエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とする場合について、以下説明する。
【0063】
エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分としては、例えば、前述したアクリル系共重合体(a1)と同様の成分が使用できる。エネルギー線硬化性樹脂組成物中におけるエネルギー線硬化性を有しないポリマー成分の含有量は、20〜99.9質量%であることが好ましく、特に30〜80質量%であることが好ましい。
【0064】
エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとしては、前述の成分(B)と同じものが選択される。エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分とエネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの配合比は、ポリマー成分100質量部に対して、多官能モノマーおよび/またはオリゴマー10〜150質量部であるのが好ましく、特に25〜100質量部であるのが好ましい。
【0065】
この場合においても、上記と同様に、光重合開始剤(C)や架橋剤(E)を適宜配合することができる。
【0066】
粘着剤層3の厚さは、ダイシングシート1が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、1〜50μmであることが好ましく、特に2〜30μmであることが好ましく、さらには3〜20μmであることが好ましい。
【0067】
3.剥離シート
本実施形態における剥離シート6は、ダイシングシート1が使用されるまでの間、粘着剤層3を保護する。本実施形態における剥離シート6は、粘着剤層3上に直接積層されているが、これに限定されるものではなく、粘着剤層3上に他の層(ダイボンディングフィルム等)が積層され、当該他の層上に剥離シート6が積層されてもよい。
【0068】
剥離シート6の構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20〜250μm程度である。
【0069】
4.ダイシングシートの製造方法
ダイシングシート1を製造するには、一例として、剥離シート6の剥離面に、粘着剤層3を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する粘着剤層用の塗布剤を塗布し乾燥させて粘着剤層3を形成する。その後、粘着剤層3の露出面に基材2を圧着し、基材2、粘着剤層3および剥離シート6からなるダイシングシート1を得る。
【0070】
本実施形態における粘着剤層3は、リングフレーム等の治具に貼付可能であることが好ましい。この場合に、粘着剤層3がエネルギー線硬化性粘着剤からなるとき、エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させないことが好ましい。これにより、リングフレーム等の治具に対する接着力を高く維持することができる。
【0071】
基材2および粘着剤層3の積層体は、所望によりハーフカットし、所望の形状、例えばワーク(半導体ウエハ)に対応する円形等の形状にしてもよい。この場合、ハーフカットにより生じた余分な部分は、適宜除去すればよい。
【0072】
5.ダイシングシートの使用方法
本実施形態に係るダイシングシート1は、ステルスダイシングに用いられることが好ましい。また、本実施形態に係るダイシングシート1は、基材2の第1の面側に位置するワークを、基材2の第2の面側から撮像する動作を含む用途に用いられることが好ましい。具体的には、ステルスダイシングにおいて、ワークのアライメントマーク等を、カメラ(例えば赤外線カメラ)により高倍率で撮像し、そのデータに基づいてダイシングラインを読み込むアライメント動作を行う場合に、上記ワークを支持するダイシングシートとして用いられることが好ましい。ワークとしては、例えば、半導体ウエハ、ガラス基板等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
本実施形態に係るダイシングシート1を用いて、一例としてワークとしての半導体ウエハから、ステルスダイシングによってチップを製造する方法を以下に説明する。
【0074】
最初に、巻き取ったロール状のダイシングシート1を繰り出して、
図2に示すように、ダイシングシート1の粘着剤層3に半導体ウエハ7およびリングフレーム8を貼付する。これにより、ダイシングシート1の粘着剤層3側の面に半導体ウエハ7およびリングフレーム8が積層された構成を備える積層構造体(以下「積層構造体L」という場合がある。)を得る。
【0075】
次いで、積層構造体Lを、ステルスダイシング工程に付す。具体的には、積層構造体Lを分割加工用レーザ照射装置(レーザダイサー)に設置し、半導体ウエハ7のダイシングシート1側もしくはダイシングシート1の逆側に付されたアライメントマークを、カメラにより撮像し、そのデータに基づいてダイシングラインを読み込むアライメント動作を行う。カメラの種類は特に限定されないが、例えば、赤外線カメラ、CCDカメラ等が一般的に使用される。このとき、ダイシングシート1において、基材2の背面における算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)が所定の範囲に設定されていることにより、光線が基材2の背面の気泡等による凹凸で乱されることなくダイシングシート1を透過するため、アライメントマークの像がカメラまで正確に届き、高倍率撮像を高精度で行うことができ、したがってアライメント動作を正確に行うことができる。
【0076】
レーザダイサーは、上記半導体ウエハ7に対して、読み込んだダイシングラインに沿って、ダイシングシート1を介してレーザ光を照射し、半導体ウエハ7内に改質層を形成する。上記の通り、アライメント動作は正確に行われているため、改質層の形成は、半導体ウエハ7に設けられた所定のダイシングラインに沿って確実に行われる。なお、ダイシングシート1の表面粗さが上記のように設定されていることにより、レーザ光の透過性も優れる。その後、ダイシングシート1を伸長させるエキスパンド工程を実施することにより、半導体ウエハ7に力(主面内方向の引張力)を付与する。その結果、ダイシングシート1に貼着する半導体ウエハ7は分割されて、チップが得られる。その後は、ピックアップ装置を用いて、ダイシングシート1からチップをピックアップする。
【0077】
上記のステルスダイシング工程では、改質層の形成が、半導体ウエハ7に設けられた所定のダイシングラインに沿って確実に行われるため、半導体ウエハ7は良好に分割され、したがってステルスダイシングの加工性は非常に良好なものとなっている。
【0078】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0079】
例えば、ダイシングシート1における基材2と粘着剤層3との間には、他の層が介在していてもよい。また、ダイシングシート1における粘着剤層3と剥離シート6との間には、他の層が介在していてもよい。当該他の層としては、例えば、ダイボンディングフィルムが挙げられる。この場合、ダイシングシート1は、ダイシングダイボンディングシートとして使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0081】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
ランダムコポリマーポリプロピレン樹脂からなる樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ70μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0082】
(2)粘着剤層用塗布剤の調製
ブチルアクリレート62質量部と、メチルメタクリレート10質量部と、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)28質量部とを共重合して得た共重合体に、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を、共重合体のHEAに対して80mol%反応させて、側鎖にエネルギー線重合性基を有するエネルギー線硬化性アクリル系重合体(重量平均分子量50万)を得た。
【0083】
上記のエネルギー線硬化性アクリル系重合体100質量部(固形分濃度;以下同じ)に対して、光重合開始剤(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)3.0質量部およびイソシアネート化合物(東ソー社製,製品名「コロネートL」)1.0質量部を配合するとともに、溶媒で希釈することにより、粘着剤層用塗布剤を得た。
【0084】
(3)ダイシングシートの製造
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET381031」)を用意し、その剥離シートの剥離面上に、前述の粘着剤層用塗布剤を、ナイフコーターにて塗布し、乾燥させて、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。その粘着剤層上に、上記で作製した基材の正面を重ねて両者を貼り合わせ、基材(70μm)/粘着剤層(20μm)/剥離シートからなる積層体を得た。
【0085】
上記で得られた積層体に対し、上記基材側から、基材および粘着剤層の積層体を切断するようにハーフカットを施して、直径370mmの円形のダイシングシートを形成した。
【0086】
〔実施例2〜3および比較例1〜4〕
基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を表1に示すように変更した基材を作製した。当該基材を使用する以外、実施例1と同様にして実施例2〜3および比較例1〜4のダイシングシートを製造した。
【0087】
〔試験例1〕<基材の表面粗さの測定>
実施例および比較例で作製した基材の背面の算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)を、光干渉式表面粗さ計(Veeco社製,製品名「WYKO NT1100」)を用いて、以下の測定条件で、ANSI/ASME B46.1に準拠して測定した。結果を表1に示す。
[測定条件]
・対物レンズ倍率:10倍
・内部レンズ倍率:1倍
・モード:VSI
・測定面積:0.27mm
2【0088】
〔試験例2〕<ヘイズ値の測定>
実施例および比較例で作製した基材について、JIS K7136:2000に準じて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH−5000」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。なお、このヘイズ値は、測定サンプルの内部に起因するヘイズ(内部ヘイズ)と、測定サンプルの表面状態に起因するヘイズ(外部ヘイズ)との合計値を示す。結果を表1に示す。
【0089】
〔試験例3〕<アライメント性評価>
実施例および比較例で得られたダイシングシートの粘着剤層に、ダイシングラインが付されたシリコンミラーウエハ(直径:12インチ)およびリングフレームを貼付し、積層構造体を得た(
図2参照)。このとき、シリコンウエハのダイシングラインがダイシングシート側になるように、シリコンウエハを貼付した。
【0090】
次いで、上記積層構造体を、レーザダイサー(DISCO社製,製品名「DFL7361」)にセットし、ダイシングシート越しに、赤外線カメラの焦点を半導体ウエハのダイシングラインに合わせた。赤外線カメラから取得される画像が表示されるアライメント画面(高倍率設定)を見て、ダイシングラインが問題なく認識できたものを○、ダイシングラインが一部不鮮明であったが、認識可能であったものを△、ダイシングラインが不鮮明であったものを×と評価した。結果を表1に示す。
【0091】
〔試験例4〕<ステルスダイシング性評価>
試験例3と同様に、上記積層構造体をレーザダイサー(DISCO社製,製品名「DFL7361」)にセットした後、波長1342nmのレーザ光を照射し、シリコンウエハ内に一定間隔の改質層を形成した。その後、上記積層構造体をダイセパレーター(ディスコ社製,製品名「DDS2300」)に設置し、0℃にて、引き落とし速度100mm/秒、エキスパンド量10mmでエキスパンドを行い、8mm×8mmのチップを得た。
【0092】
上記のステルスダイシングによって得られたチップの断面をデジタル顕微鏡(キーエンス社製,製品名「VHX−1000」)により倍率500倍にて、改質層を確認した。その結果、一定間隔の改質層が確認できたものを「○」(ステルスダイシング性良好)、改質層の間隔が一定でなかったり、改質層に抜けが確認されたものを「×」(ステルスダイシング性不良)と評価した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から分かるように、実施例で得られたダイシングシートによれば、アライメント性に優れ、それによりステルスダイシング性も良好であった。