(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980698
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】活性SCR触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 29/56 20060101AFI20211202BHJP
B01J 29/76 20060101ALI20211202BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20211202BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20211202BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20211202BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20211202BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20211202BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
B01J29/56 AZAB
B01J29/76 A
F01N3/08 B
F01N3/10 A
F01N3/24 E
F01N3/28 301P
F01N3/28 301E
F01N3/035 A
B01D53/94 223
B01D53/94 400
【請求項の数】24
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-557816(P2018-557816)
(86)(22)【出願日】2017年5月2日
(65)【公表番号】特表2019-520967(P2019-520967A)
(43)【公表日】2019年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2017060379
(87)【国際公開番号】WO2017191111
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2020年4月22日
(31)【優先権主張番号】16168137.4
(32)【優先日】2016年5月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フェイ・ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ゼガー
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・ギースホフ
【審査官】
安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−505744(JP,A)
【文献】
特表2015−502909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
F01N 3/035,3/08,3/10,3/24,3/28
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
8個の4面体原子の最大環員数である鉄及び銅含有小細孔ゼオライトを含む触媒であって、前記小細孔ゼオライトのチャンネル幅が少なくとも1つの次元において0.38nm(3.8オングストローム)より広くなっており、
前記小細孔ゼオライトの構造型が、EAB、ERI、ESV、JBW、又はLEVであり、
前記小細孔ゼオライトが、各場合において交換小細孔ゼオライトの総重量に基づいて、銅を、Cuとしての計算で、0.2〜3重量%の量で含有し、鉄を、Feとしての計算で、0.2〜3重量%の量で含有し、
前記触媒が、SCR活性であることを特徴とする、触媒。
【請求項2】
前記小細孔ゼオライトのチャンネル幅が、少なくとも1つの次元において0.47nm(4.7オングストローム)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記小細孔ゼオライトの構造型が、ERI又はLEVであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記小細孔ゼオライトのSAR値が、1〜50であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記小細孔ゼオライトが、各場合において前記交換小細孔ゼオライトの総重量に基づいて、銅を、Cuとしての計算で、1.5重量%の量で含有し、鉄を、Feとしての計算で、1.3重量%の量で含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記小細孔ゼオライトが、構造型ERIのものであり、SAR値は、5〜15であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
Cu:Alのモル比が、0.03〜0.10であることを特徴とする、請求項6に記載の触媒。
【請求項8】
(Cu+Fe):Alのモル比が、0.12〜0.2であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の触媒。
【請求項9】
前記小細孔ゼオライトが、構造型LEVのものであり、SAR値は、20〜40であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
Cu:Alのモル比が、0.15〜0.30であることを特徴とする、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
(Cu+Fe):Alのモル比が、0.32〜0.50であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の触媒。
【請求項12】
担持担体上にコーティングの形態で存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項13】
前記担持担体が、フロースルー型担体又はウォールフロー型フィルタであることを特徴とする、請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
前記担持担体が、不活性であり、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、又はコージェライトからなることを特徴とする、請求項12又は13に記載の触媒。
【請求項15】
前記担持担体が、触媒活性材料を含むことを特徴とする、請求項12又は13に記載の触媒。
【請求項16】
前記担持担体が、SCR触媒活性材料を含むことを特徴とする、請求項15に記載の触媒。
【請求項17】
前記SCR触媒活性材料が、バナジウム、チタン、及びタングステン化合物を含有する混合酸化物を含むこと、を特徴とする、請求項16に記載の触媒。
【請求項18】
担持担体の一部として存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項19】
前記担持担体が、フロースルー型担体又はウォールフロー型フィルタであることを特徴とする、請求項18に記載の触媒。
【請求項20】
前記担持担体が、触媒活性材料でコーティングされていることを特徴とする、請求項18又は19に記載の触媒。
【請求項21】
リーン運転の燃焼エンジンの排気ガスを浄化するための方法であって、前記排気ガスを、請求項1〜20のいずれか一項に記載の触媒上を通すことを特徴とする、方法。
【請求項22】
リーン運転の燃焼エンジンからの排気ガスを浄化するためのシステムであって、前記システムが、請求項1〜20のいずれか一項に記載の触媒、及び尿素水溶液のためのインジェクタを含み、前記インジェクタが、請求項1〜20のいずれか一項に記載の触媒の上流に置かれていることを特徴とする、システム。
【請求項23】
酸化触媒、尿素水溶液のためのインジェクタ、及び請求項1〜20のいずれか一項に記載の触媒を含み、前記インジェクタが、請求項1〜20のいずれか一項に記載の触媒の上流に置かれていることを特徴とする、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
担持材料上の白金が、酸化触媒として使用されることを特徴とする、請求項23に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼エンジンの排気ガス中の窒素酸化物を還元するための、活性SCR触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
主にリーン運転の燃焼エンジンを有する自動車からの排気ガスは、具体的には、粒子排出物に加えて、一次排出物の一酸化炭素CO、炭化水素HC、及び窒素酸化物NOxを含有する。最大15体積%の比較的高い酸素含有量のため、一酸化炭素及び炭化水素は、酸化によって比較的容易に無害化することができる。しかしながら、窒素酸化物の窒素への還元は、はるかに困難になる。
【0003】
酸素の存在下で、排気ガスから窒素酸化物を除去するための既知の方法は、適切な触媒上でのアンモニアによる選択的触媒還元(SCR法)である。本方法では、排気ガスから除去されるべき窒素酸化物が、アンモニアを使用して窒素及び水に変換される。還元剤として使用されるアンモニアは、アンモニア前駆体化合物、例えば尿素、カルバミン酸アンモニウム、又はギ酸アンモニウムを排気ガス流中に送給し、その後の加水分解によって利用可能にすることができる。
【0004】
例えば、ある種の金属交換ゼオライトを、SCR触媒として使用することができる。ゼオライトは、多くの場合、その最大細孔開口の環員数によって、大細孔、中細孔、及び小細孔のゼオライトに細分化される。大細孔ゼオライトの最大環員数は12であり、中細孔ゼオライトの最大環員数は10である。小細孔ゼオライトの最大環員数は8である。
【0005】
大型車両の分野において、鉄交換β型ゼオライト、すなわち大細孔ゼオライトに基づくSCR触媒は、従来から大いに使用されてきた。しかし、これらの製品では、鉄粒子の極めて目立った凝集及びゼオライト構造の脱アルミニウムが、耐用寿命の伸びと共に観察される。したがって、鉄交換β型ゼオライトに基づくSCR触媒の水熱安定性は、高度化した要件を満たすことができない。
【0006】
小細孔ゼオライトに基づくSCR触媒も既知であり、例えば、米国特許公開第2014/154175号、国際公開第2010/043891(A1)号、同第2008/106519(A1)号、同第2008/118434(A1)号、及び同第2008/132452(A2)号を参照されたい。最後に挙げた文書では、多数の小細孔ゼオライト、とりわけまた、構造型がEAB、ERI、及びLEVのものを開示している。しかし、鉄交換小細孔ゼオライトに基づくSCR触媒は、未使用状態で弱点を示すことが見出された。
【0007】
銅交換小細孔ゼオライトに基づくSCR触媒、特に銅交換チャバザイトに基づくSCR触媒もまた、上述の文書及び欧州特許公開第2,878,361(A1)号から既知である。
【0008】
また、欧州特許公開第2520365(A2)号から、第1の金属を含有する第1の分子ふるいを、第2の金属を含有する第2の分子ふるいと混合することも、既知である。
【0009】
また、国際公開第2013/126619(A1)号では、2種の金属、例えば鉄及び銅で交換したゼオライトも既に開示している。この文書によれば、鉄及び銅で交換したチャバザイト(SSZ−13、実施例1〜3を参照されたい。)には、等しい部のNO及びNO
2が排気ガス中に存在する場合に利点があり、それにより、いわゆるファスト(fast)SCR反応が、次の反応式にしたがって進行し得る。
4NH
3+2NO+2NO
2→4N
2+6H
2O
国際公開第2013/082560(A1)号は、SAR値が3〜10の微多孔質結晶性材料であって、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属、又はこれらの混合物から選択される第1の金属、並びに銅、鉄、又はこれらの混合物から選択される第2の材料を含有する、微多孔質結晶性材料を開示している。
国際公開第2010/043891(A1)号では、平均晶粒径が0.5マイクロメートル(μm)より大きい小細孔アルミノシリケートゼオライトを開示している。これらの構造型は、CHA、ERI、及びLEVであり、好ましくはCHAである。ある実施形態において、ゼオライトは、銅及び鉄を含有してもよい。
【0010】
国際公開第2011/045252(A1)号では、SAR値が30未満であり、Cu:Alの比が0.45未満の、構造型LEVの銅含有ゼオライトを開示している。ゼオライトは、銅に加え、1種以上の遷移金属を含有してもよく、鉄もまた挙げられる。
【0011】
米国特許公開第2012/014867号では、SAR値が4〜50の構造型ZSR−34、OFF、及び/又はERI、好ましくはZSM−5の銅含有ゼオライトを開示している。ゼオライトは、銅に加え、1種以上の遷移金属を含有してもよく、鉄もまた挙げられる。
【0012】
欧州特許公開第2985068(A1)号では、窒素酸化物吸蔵触媒及びSCR触媒を含む、触媒系を開示している。この系のSCR触媒は、ERI及びLEVをはじめとする一連のゼオライトから選択されるものであってもよい。コバルト、鉄、銅、又はこれらの金属のうち2種若しくは3種の混合物が、金属として開示されている。
【0013】
米国特許公開第2015/290632号は、チャバザイト合成中に鉄が組み込まれ、続いてのイオン交換工程において銅が組み込まれた、CuFe/CHA系を開示している。この製品は、経時劣化状態において、350℃より高い温度範囲においてはCu/CHAより良好なSCR活性を示すが、350℃より低い温度範囲においてはより劣るSCR活性を示す。
【0014】
大型の分野では、未使用状態における十分な活性、及び高い水熱安定性を特徴とするSCR触媒が、引き続いて必要とされている。特に、好適な触媒はまた、次の反応式に従う、いわゆるスタンダード(standard)SCR反応においても十分なSCR活性になる。
4NH
3+4NO+O
2→4N
2+6H
2O
(すなわち、NO
2なし。)
【0015】
ここで驚くべきことに、鉄及び銅の両者で交換したある種の小細孔ゼオライトに基づくSCR触媒は、これらの要件に合致することが見出された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、8個の4面体原子の最大環員数である鉄及び銅含有小細孔ゼオライトを含む触媒であって、小細孔ゼオライトのチャンネル幅が少なくとも1つの次元において0.38nm(3.8オングストローム)より広くなっていることを特徴とする、触媒に関する。
【0017】
本発明の範囲内では、用語「チャンネル幅」は、Ch.Baerlocher,Atlas of Zeolite Framework Types,6th revised edition2007(第8ページを参照されたい。)において定義されたような用語「チャンネルの結晶学的自由直径」として理解されたい。
本発明によれば、チャンネル幅は、少なくとも1つの次元において0.38nm(3.8オングストローム)より広いことが必要である。他の次元におけるチャンネル幅は、本発明の範囲内で重要ではない。
【0018】
本発明の一実施形態において、小細孔ゼオライトのチャンネル幅は、少なくとも1つの次元において0.47nm(4.7オングストローム)以上である。
【0019】
少なくとも1つの次元において8個の4面体原子の最大環員数及び0.38nm(3.8オングストローム)より広いチャンネル幅の小細孔ゼオライトは、Appendix E of the Atlas of Zeolite Framework Typesで特定されている。
【0020】
本発明のある実施形態において、少なくとも1つの次元において8個の4面体原子の最大環員数及び0.38nm(3.8オングストローム)より広いチャンネル幅の、小細孔ゼオライトの構造型は、EAB(少なくとも1つの次元において0.51nm(5.1オングストローム)のチャンネル幅)、ERI(少なくとも1つの次元において0.51nm(5.1オングストローム)のチャンネル幅)、ESV(少なくとも1つの次元において0.47nm(4.7オングストローム)のチャンネル幅)、JBW(少なくとも1つの次元において0.48nm(4.8オングストローム)のチャンネル幅)、又はLEV(少なくとも1つの次元において0.48nm(4.8オングストローム)のチャンネル幅)であり、好ましくはERI及びLEVである。
CHAのチャンネル幅は、両次元において0.38nm(3.8オングストローム)であるため、この構造型は本発明の範囲内にない。
【0021】
EABの構造型のゼオライトとして、当業者に公知のこの型の全てのゼオライトを使用することができる。例には、TMA−E及びベルバーガイトがある。
ERIの構造型のゼオライトとして、当業者に公知のこの型の全てのゼオライトを使用することができる。これらとしては、天然起源のものが挙げられるが、好ましくは合成により製造したエリオナイトが挙げられる。例には、LindeT、LZ−220及びZSM−34がある一方、特に「エリオナイト」として表される材料がある。
ESVの構造型のゼオライトとして、当業者に公知のこの型の全てのゼオライトを使用することができる。例には、ERS−7がある。
JBWの構造型のゼオライトとして、当業者に公知のこの型の全てのゼオライトを使用することができる。例には、Na−Jがある。
LEVの構造型のゼオライトとして、当業者に公知のこの型の全てのゼオライトを使用することができる。例には、Nu−3、ZK−20、RUB−1、及びLZ−132がある一方、特に「レビナイト」と呼ばれる材料がある。
【0022】
本発明の範囲内では、用語「ゼオライト」は、アルミノシリケートのみならず、本発明による構造のものである限りでシリコアルミノホスフェート又はアルミノホスフェートの型のいわゆるゼオライト類縁化合物も指す。ERIの構造型の例には、SAPO−17及びAIPO−17があり、並びにLEVの構造型の例には、SAPO−35及びAIPO−35がある。
【0023】
本発明のある実施形態において、小細孔ゼオライトのSAR値は、1〜50、好ましくは5〜35である。当業者であれば、SAR値がシリカ対アルミナのモル比であることを理解する。
本発明の好ましい実施形態において、小細孔ゼオライトは、構造型ERIのものであり、SAR値は、5〜15、特に5〜10である。
本発明の更に好ましい実施形態において、小細孔ゼオライトは、構造型LEVのものであり、SAR値は、20〜40、例えば、30〜40、又は25〜35、又は30〜35である。
【0024】
本発明のある実施形態において、小細孔ゼオライトは、各場合において交換ゼオライトの総重量に基づいて、銅を、Cuとしての計算で、0.2〜3重量%、好ましくは1〜2重量%未満、約1〜1.9重量%の量で含有し、鉄を、Feとしての計算で、0.2〜3重量%、好ましくは1〜2重量%の量で含有する。
特に好ましくは、小細孔ゼオライトは、各場合において交換ゼオライトの総重量に基づいて、銅を、Cuとしての計算で1.5重量%の量で含有し、鉄を、Feとしての計算で1.3重量%の量で含有する。この実施形態において、銅の鉄に対する原子比は、1である。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、小細孔ゼオライトは、構造型ERIのものであり、Cu:Alのモル比は、0.03〜0.10、特に0.05〜0.09である。(Cu+Fe):Alのモル比は、0.12〜0.2、特に0.13〜0.17である。
本発明の更に好ましい実施形態において、小細孔ゼオライトは、構造型LEVのものであり、Cu:Alのモル比は、0.15〜0.30、特に0.18〜0.25である。(Cu+Fe):Alのモル比は、0.32〜0.50、特に0.39〜0.47である。
【0026】
本発明のある実施形態において、小細孔ゼオライトは、銅及び鉄以外の更なる金属を含有しない。特に、小細孔ゼオライトは、アルカリ金属を含有せず、アルカリ土類金属を含有せず、及び希土類金属を含有しない。また、小細孔ゼオライトは、特にコバルトを含有しない。
【0027】
本発明による触媒は、知られている方法そのままにより容易に製造することができる。
例えば、それを、固体の昇華により得ることができる。この目的のために、小細孔ゼオライトの銅及び鉄化合物との乾燥したよく混ぜた混合物、例えばそれぞれのアセチルアセトネートを準備し、次いで100〜600℃の温度で金属又は金属イオンに分解する。続いて、焼成を行うには、小細孔ゼオライト中の銅及び鉄の固体の昇華を成し遂げるのにそれぞれ十分に高い温度及び十分に長い時間にする。
次いで、得られた粉体を水及びバインダー中に分散し、例えば、ベーマイト又はシリカゲルを添加する。次いで、得られた混合物を撹拌又はホモジナイザー処理するだけでよく、担持担体をコーティングするためのコーティング用懸濁液(ウォッシュコート)として、直接使用することができる。
あるいは、本発明による触媒はまた、小細孔ゼオライトを、例えば水中でナトリウム型、カリウム型、又はアンモニウム型にスラリー化した後、相当する量の可溶性の銅及び鉄塩を添加することによっても、製造することができる。アセテートは、特に可溶性塩として使用される。
【0028】
本発明による触媒のある実施形態において、それは、担持担体上にコーティングの形態で存在する。担持担体はまた、いわゆるフロースルー型担体であっても、ウォールフロー型フィルタであってもよい。
両者とも、不活性材料、例えば、炭化ケイ素、アルミニウムチタネート、又はコージェライトからなっていてもよい。このような担持担体は、当業者に公知であり市販されている。
【0029】
しかし、担持担体自体もまた、触媒活性であってもよく、及び触媒活性材料、例えば、SCR触媒活性材料を含有してもよい。この目的のためSCR触媒活性材料として考えられるものは、原則として当業者に公知の全ての材料、すなわち例えば、混合酸化物に基づくもの、並びに金属交換ゼオライト化合物に基づくもの、特にCu及び/又はFe交換ゼオライト化合物に基づくものである。特に、バナジウム、チタン、及びタングステン化合物を含む混合酸化物は、この目的のために考慮される。
これらの担持担体は、触媒活性材料に加え、マトリックス成分を含有する。他にまた触媒担体を製造するためにも使用される全ての不活性材料は、マトリックス成分として使用することができる。これらは、例えば、シリケート、酸化物、窒化物、又は炭化物であり、特に好ましくは、マグネシウムアルミニウムシリケートである。
【0030】
本発明による触媒の他の実施形態において、それ自体は、担持担体の一部として、すなわち例えば、フロースルー型担体又はウォールフロー型フィルタの一部として存在する。このような担持担体は、既に上記記載したマトリックス成分を更に含有する。
【0031】
本発明による触媒を含有する担持担体を、排気ガス浄化にこのように使用することができる。しかしまた、それらは、触媒活性材料、例えば、SCR触媒活性材料で順にコーティングされているものであってもよい。これらの材料をSCR触媒活性とする場合、前述のSCR触媒が考慮される。
【0032】
触媒活性担持担体を製造するため、混合物を、例えば、10〜95重量%の不活性マトリックス成分及び5〜90重量%の触媒活性材料からなるものとし、公知の方法そのままにより押出加工する。既に上記記載したように、他にまた触媒担体を製造するためにも使用される全ての不活性材料を、マトリックス成分として使用することができる。これらは、例えば、シリケート、酸化物、窒化物、又は炭化物であり、特に好ましくは、マグネシウムアルミニウムシリケートである。
【0033】
本発明による触媒を不活性担持担体か又は自体が触媒活性の担持担体に適用すること、及び触媒活性コーティングを、本発明による触媒を含む担持担体に適用することは、当業者に公知の方法によって行うことができるため、例えば、通常のディップコーティング法、又はポンピング及び吸引によるコーティング方法に続いての熱的後処理(焼成)によって行うことができる。
当業者には、ウォールフロー型フィルタの場合、本発明による触媒の平均孔径及び平均粒径を互いに適合させることができることは公知であり、これにより、得られたコーティングは、多孔質ウォール上にのせられ、ウォールフロー型フィルタのチャンネルを形成(オンウォールコーティング)する。しかし好ましくは、平均孔径及び平均粒径を互いに適合させることにより、本発明による触媒は、多孔質ウォール内に入り、ウォールフロー型フィルタのチャンネルを形成し、ひいては内部細孔表面のコーティング(インウォールコーティング)が行われる。この事例において、本発明による触媒の平均粒径は、ウォールフロー型フィルタの細孔内に入り込むのに十分に小さいものである必要がある。
【0034】
本発明による触媒は、リーン運転の燃焼エンジン、特にディーゼルエンジンからの排気ガスを浄化するために、好都合に使用することができる。それにより、排気ガス中に含有される窒素酸化物は、無害な化合物である窒素及び水に変換される。
【0035】
したがって、本発明はまた、リーン運転の燃焼エンジンの排気ガスを浄化する方法であって、排気ガスを本発明による触媒上に通すことを特徴とする、方法に関する。
【0036】
本発明による方法において、好ましくはアンモニアが、還元剤として使用される。例えば、必要とされるアンモニアを、例えば上流の窒素酸化物吸蔵触媒(「リーンNOxトラップ」−LNT)によって、本発明による粒子フィルタの上流で、排気ガスの系内にて生成させることができる。この方法は、「パッシブSCR」として知られている。
しかしまた、アンモニアを、好適な形態で、例えば、尿素、カルバミン酸アンモニウム、又はギ酸アンモニウムの形態で担持し、必要に応じて排気ガス流に添加することもできる。また、尿素水溶液を担持すること、及びこの水溶液を本発明による触媒中にその上流で必要に応じてインジェクタにより計り入れることも、一般的である。
【0037】
したがって、本発明はまた、リーン運転の燃焼エンジンからの排気ガスを浄化するためのシステムであって、本発明による触媒を、好ましくは担持担体上のコーティングの形態で、又は担持担体の一部として含み、及び尿素水溶液のためのインジェクタを含み、インジェクタが、本発明による触媒の上流に置かれていることを特徴とする、システムにも関する。
【0038】
例えば、窒素酸化物が一酸化窒素及び二酸化窒素の1:1の混合物中に存在する場合、又はこの比率に近い任意の事例において、アンモニアによるSCR反応はより速く進行することが、SAE−2001−01−3625から公知である。リーン運転の燃焼エンジンの排気ガスの一酸化窒素は、通常、二酸化窒素と比較して過剰なので、本文書では、酸化触媒の寄与により二酸化窒素の割合を増加させることが企図される。本発明による方法を、スタンダードSCR反応に、すなわち二酸化窒素なしで使用することができるばかりでなく、ファストSCR反応にも、すなわち一部分の一酸化窒素が二酸化窒素に酸化されたことにより理想的には一酸化窒素及び二酸化窒素の1:1混合物が存在している場合にも使用することができる。
【0039】
したがって、本発明はまた、リーン運転の燃焼エンジンからの排気ガスを浄化するためのシステムであって、酸化触媒、尿素水溶液のためのインジェクタ、及び本発明による触媒を含み、好ましくはその触媒を、担持担体上のコーティングの形態にて又は担持担体の一部として含むことを特徴とする、システムにも関する。
本発明のある実施形態において、担体材料上の白金が、酸化触媒として使用される。
この目的のため、当業者に公知の全ての材料が、担持材料とみなされる。担持材料は、BET表面が30〜250m
2/g、好ましくは100〜200m
2/g(DIN66132にしたがって求めて)であり、特に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及びこれらの酸化物のうちの少なくとも2つの混合物又は混合酸化物である。
好ましくは、酸化アルミニウム、及びアルミニウム/ケイ素混合酸化物である。酸化アルミニウムを使用する場合、これは、特に好ましくは、例えば酸化ランタンによって安定化されている。
本発明によるシステムを使用するには、酸化触媒、次いで尿素水溶液用のためのインジェクタ、及び最後に本発明による触媒が、排気ガス流の方向に配置されるようにする。
【発明の効果】
【0040】
本発明による触媒の利点は、銅のみで又は鉄のみで交換した小細孔ゼオライトと比較して、驚くべきものである。加えて、これはまた、銅及び鉄で交換したチャバザイト型のゼオライトと比較しても利点がある。
【0041】
本発明を、以下の実施例及び図面においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】未使用状態におけるK1、VK1、及びVK2のSCR活性を示す。
【
図2】経時劣化状態におけるK1、VK1、及びVK2のSCR活性を示す。
【
図3】未使用状態におけるK2、VK3、及びVK4のSCR活性を示す。
【
図4】経時劣化状態におけるK2、VK3、及びVK4のSCR活性を示す。
【
図5】未使用状態におけるVK5、VK6、及びVK7のSCR活性を示す。
【
図6】経時劣化状態におけるVK5、VK6、及びVK7のSCR活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実施例1
1.24gの銅アセチルアセトネート(24.4重量%、Cu)及び1.65gの鉄アセチルアセトネート(15.8重量%、Fe)を、19.8gのエリオナイト(SAR値が8)と軽く混合し、ホモジナイザー処理した後、550℃で2時間かけて焼成した。これにより、1.5重量%の銅及び1.3重量%の鉄で交換した約20gのエリオナイト(以下、K1と呼ぶ。)が得られた。
【0044】
比較例1
実施例1において記載した手順を繰り返し、異なるのは、鉄アセチルアセトネートを省いた点であった。これにより、1.5重量%の銅で交換した約20gのエリオナイト(以下、VK1と呼ぶ。)が得られた。
【0045】
比較例2
実施例1において記載した手順を繰り返し、異なるのは、銅アセチルアセトネートを省いた点、及び鉄アセチルアセトネートを2.53gの量で使用した点であった。これにより、2.0重量%の鉄で交換した約20gのエリオナイト(以下、VK2と呼ぶ。)が得られた。
【0046】
実施例2
実施例1において記載した手順を繰り返し、異なるのは、エリオナイトの代わりに、19.8gのレビナイト(SAR値が30)を使用した点であった。これにより、1.5重量%の銅及び1.3重量%の鉄で交換した約20gのレビナイト(以下、K2と呼ぶ。)が得られた。
【0047】
比較例3
実施例2において記載した手順を繰り返し、異なるのは、鉄アセチルアセトネートを省いた点であった。これにより、1.5重量%の銅で交換した約20gのレビナイト(以下、VK3と呼ぶ。)が得られた。
【0048】
比較例4
実施例2において記載した手順を繰り返し、異なるのは、銅アセチルアセトネートを省いた点、及び鉄アセチルアセトネートを2.53gの量で使用した点であった。これにより、2.0重量%の鉄で交換した約20gのレビナイト(以下、VK4と呼ぶ。)が得られた。
【0049】
比較例5
実施例1において記載した手順を繰り返し、異なるのは、エリオナイトの代わりに、19.8gのチャバザイト(SAR値が28)を使用した点であった。これにより、1.5重量%の銅及び1.3重量%の鉄で交換した約20gのチャバザイト(以下、VK5と呼ぶ。)が得られた。
【0050】
比較例6
比較例5において記載した手順を繰り返し、異なるのは、鉄アセチルアセトネートを省いた点であった。これにより、1.5重量%の銅で交換した約20gのチャバザイト(以下、VK6と呼ぶ。)が得られた。
【0051】
比較例7
比較例5において記載した手順を繰り返し、異なるのは、銅アセチルアセトネートを省いた点、及び鉄アセチルアセトネートを2.53gの量で使用した点であった。これにより、2.0重量%の鉄で交換した約20gのチャバザイト(以下、VK7と呼ぶ。)が得られた。
【0052】
比較実験
a)触媒K1及びK2、並びにVK1〜VK7を、未使用のものとし、比較した。経時劣化を、580℃で、N
2中に10%のH
2O及び10%のO
2として100時間かけて行った。
b)経時劣化した触媒K1及びK2、並びにVK1〜VK7のSCR活性を、下記の表に示す条件下、固定床式の石英反応器中で試験した。
この目的のため、触媒の粉体を最初に分級し、500〜700μmの画分を試験に使用した。
次いで、それらを、N
2中にて600℃まで、次いで試験用ガス(下記の表を参照されたい。)に対し加熱し、100℃まで2K/分にて冷却した。一方、NOのNH
3による変換を、オンラインFT−IRによりモニターした。
【0054】
結果を
図1〜
図6に示す。
このようにK1(銅及び鉄含有エリオナイト)は、VK1(銅含有エリオナイト)及びVK2(鉄含有エリオナイト)と比較して明確な利点を未使用状態において既に示しており、経時劣化状態において更に向上している。K2(銅及び鉄含有レビナイト)をVK3(銅含有レビナイト)及びVK4(鉄含有レビナイト)と比較した場合、同様の図が得られる。K2及びVK3により未使用状態においてほぼ同じ結果が得られる一方、K2の利点は経時劣化状態において大幅なものになる。
チャバザイトを含有する、VK5、VK6、及びVK7を比較した場合。異なる図が得られる。ここで、銅のみを含有するVK6により、未使用状態及び経時劣化状態において最良の結果が得られる。