(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980750
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】アルファ−シヌクレイン検出アッセイ及びアルファ−シヌクレイン病を診断するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20211202BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20211202BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20211202BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
G01N33/68ZNA
G01N33/52 C
G01N33/543 575
!C07K14/47
【請求項の数】43
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-500334(P2019-500334)
(86)(22)【出願日】2017年7月6日
(65)【公表番号】特表2019-527353(P2019-527353A)
(43)【公表日】2019年9月26日
(86)【国際出願番号】GB2017051988
(87)【国際公開番号】WO2018007817
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年4月27日
(31)【優先権主張番号】1611840.8
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501337513
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ コート オブ ザ ユニバーシティ オブ エジンバラ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アリソン・グリーン
(72)【発明者】
【氏名】グラハム・フェアファウル
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2004/073651(WO,A2)
【文献】
国際公開第2016/040907(WO,A1)
【文献】
特表2016−514266(JP,A)
【文献】
Lise Giehm,Strategies to increase the reproducibility of protein fibrillization in plate reader assays,Analytical Biochemistry,2010年,Vol.400,Page.270-281
【文献】
Claudio Ruffmann et al.,Gut feelings about a-synuclein in gastrointestinal biopsies: biomarker in the making?,Movement disorders,2016年01月22日,Vol.31 No.2,Page.193-202
【文献】
Graham Fairfoul,Alpha-synuclein RT-QuIC in the CSF of patients with alpha-synucleinopathies,Annals of Clinical and Translational Neurology,2016年,Vol.3 No.10,Page.812-818
【文献】
Lise Giehm,Assays for a-synuclein aggregation,Methods,2011年,Vol.53,Page.295-305
【文献】
Seok-Joo Park,Establishment of Method for the Determination of Aggregated α-Synuclein in DLB Patient Using RT-QuIC Assay,Protein & Peptide Letters,2021年,Vol.28,Page.115-120
【文献】
Maria Eugenia Goya,Probiotic Bacillus subtilis Protects against a-Synuclein Aggregation in C. elegans,Cell Reports,2020年01月14日,Vol.30,Page.367-380.e1-e7
【文献】
Bradley R. Groveman,Rapid and ultra-sensitive quantitation of disease-associated α-synuclein seeds in brain and cerebrospinal fluid by αSyn RT-QuIC,Acta Neuropathologica Communications,2018年,Vol.6,Page.7
【文献】
Irene Perez-Pi,αSynuclein−Confocal Nanoscanning (ASYN-CONA), a Bead-Based Assay for Detecting Early-Stage αSynuclein Aggregation,Anal. Chem.,2019年,Vol.91,Page.5582−5590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/52
G01N 33/543
C07K 14/47
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体液中のアルファ−シヌクレイン凝集の存在を検出するインビトロの方法であって、前記方法が、
(i)反応試料を用意する工程であって、前記反応試料が、
(a)ジルコニア及び/若しくはシリカ、又はガラスを含むビーズ群であって、前記ビーズ群が、1mmから0.1mm±10%の平均直径を有する、ビーズ群、
(b)チオフラビンT、並びに
(c)アルファ−シヌクレイン、又は前記方法の反応条件において凝集するペプチドの能力に実質的に影響を及ぼさない1から10のアミノ酸の置換又は挿入を有するアルファ−シヌクレインの変異体
を含む、反応試料を用意する工程、
(ii)前記生体液及び前記反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iii)前記反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(iv)前記反応混合物に、前記チオフラビンTを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(v)インキュベートする間に前記反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程
を含み、
工程(iii)から(v)が同時に行われ、工程(iii)から(v)の間の前記反応混合物の蛍光の有意な増大は、前記反応混合物中のアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示し、前記反応混合物中のアルファ−シヌクレインの凝集体の存在は、前記生体試料中のアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示す、方法。
【請求項2】
前記体液が、脳脊髄液、血液、血液画分、鼻水、鼻組織、尿、便、及びリンパからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応試料が、緩衝された反応試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記反応試料が、前記反応試料のpHをpH6からpH8.5に維持するように緩衝される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質凝集体が、ベータシート含有物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応試料が、凝集基質として作用するための、0.01mg/mLのアルファ−シヌクレインから10mg/mLのアルファ−シヌクレインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応試料のアルファ−シヌクレインが、全長アルファ−シヌクレインである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記反応試料が、反応混合物100μL当たり1mgから150mgのビーズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生体液中のアルファ−シヌクレインの凝集体の存在が、アルファ−シヌクレインの異常な凝集に関連する疾患を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記反応混合物が、40時間超、インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、25℃から45℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
生体液中のアルファ−シヌクレイン凝集の存在を検出するインビトロの方法であって、前記方法が、
(i)反応試料を用意する工程であって、前記反応試料が、
(a)ジルコニア及び/若しくはシリカ、又はガラスを含むビーズ群であって、前記ビーズ群が、1mmから0.1mm±10%の前記ビーズの平均直径を有する、ビーズ群、
(b)チオフラビンT、並びに
(c)アルファ−シヌクレイン、又は前記方法の反応条件において凝集するペプチドの能力に実質的に影響を及ぼさない1から10のアミノ酸の置換又は挿入を有するアルファ−シヌクレインの変異体
を含む、反応試料を用意する工程、
(ii)前記生体液及び前記反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iii)前記反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(iv)前記反応混合物に、前記チオフラビンTを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(v)インキュベートする間に前記反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程
を含み、
工程(iii)から(v)が同時に行われ、工程(iii)から(v)の間の前記反応混合物の蛍光の有意な増大は、アルファ−シヌクレインの異常な凝集に関連する疾患を示す、方法。
【請求項13】
前記疾患が、パーキンソン病又はレビー小体型認知症である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記生体液が、脳脊髄液、血液、血液画分、鼻水、鼻組織、尿、便、及びリンパからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記反応試料が、緩衝された反応試料であり、前記反応試料が、前記反応試料のpHをpH6からpH8.5に維持するように緩衝される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記反応試料が、凝集基質として作用するための、0.01mg/mLのアルファ−シヌクレインから10mg/mLのアルファ−シヌクレインを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記反応試料が、反応混合物100μL当たり1mgから150mgのビーズを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
ヒト脳脊髄液におけるアルファ−シヌクレイン凝集の存在を検出するためのインビトロの方法であって、前記方法が、
(i)反応試料を用意する工程であって、前記反応試料が、
(a)ジルコニア/シリカを含むビーズ群であって、前記ビーズ群が、0.1mm±10%の前記ビーズの平均直径を有する、ビーズ群、
(b)チオフラビンT、及び
(c)ヒト組換え全長(1〜140aa)アルファ−シヌクレイン
を含む、反応試料を用意する工程、
(ii)前記ヒト脳脊髄液及び前記反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iii)前記反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(iv)前記反応混合物に、前記チオフラビンTを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(v)インキュベートする間に前記反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程
を含み、
工程(iii)から(v)の間の前記反応混合物の蛍光の有意な増大は、前記反応混合物中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示し、前記反応混合物中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在は、前記ヒト脳脊髄液中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示す、方法。
【請求項19】
前記反応試料が、緩衝された反応試料であり、前記反応試料が、前記反応混合物のpHをpH8.2に維持するように緩衝される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記反応試料が、リン酸緩衝液をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記リン酸緩衝液が、100mMの濃度で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記ThTが、10μMの濃度で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記反応試料が、凝集基質として作用するための、0.1mg/mLの前記ヒト組換え全長(1〜140aa)アルファ−シヌクレインを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記反応試料が、反応混合物100μL当たり20mgから40mgのビーズを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記断続的な撹拌サイクルが、8の字(double orbital)振とうによる撹拌を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記断続的な撹拌サイクルが、1分間当たり200回転の速度での8の字(double orbital)振とうによる撹拌を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記断続的な撹拌サイクルで前記反応混合物をインキュベートすることが、1分間当たり200回転の速度での1分間の8の字(double orbital)振とう及びその後の14分間のインキュベーションを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、30℃から34℃の温度で実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記反応混合物の総体積が、100μLである、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記反応混合物に前記ThTを励起させる波長の光を照射することが、450nmの励起及び480nmの発光を照射することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
生体液におけるアルファ−シヌクレイン凝集の存在を検出するためのインビトロの方法であって、前記方法が、
(i)反応試料を用意する工程であって、前記反応試料が、
(a)ジルコニア及び/又はシリカ、又はガラスを含むビーズ群であって、前記ビーズ群が、0.8mm±10%の前記ビーズの平均直径を有する、ビーズ群、
(b)チオフラビンT、並びに
(c)アルファ−シヌクレイン、又は前記方法の反応条件において凝集するペプチドの能力に実質的に影響を及ぼさない1から10のアミノ酸の置換又は挿入を有するアルファ−シヌクレインの変異体
を含む、反応試料を用意する工程、
(ii)前記生体液及び前記反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iii)前記反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(iv)前記反応混合物に、前記チオフラビンTを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(v)インキュベートする間に前記反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程
を含み、
工程(iii)から(v)の間の前記反応混合物の蛍光の有意な増大は、前記反応混合物中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示し、前記反応混合物中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在は、前記生体試料中におけるアルファ−シヌクレインの凝集体の存在を示す、方法。
【請求項32】
前記反応試料が、緩衝された反応試料であり、前記反応試料が、前記反応混合物のpHをpH8.0に維持するように緩衝される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記反応試料が、リン酸緩衝液をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記チオフラビンTが、10μMの濃度で存在する、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記反応試料が、凝集基質として作用するための、0.1mg/mLの前記アルファ−シヌクレイン又は変異体を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記断続的な撹拌サイクルが、8の字(double orbital)振とうによる撹拌を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記断続的な撹拌サイクルが、1分間当たり少なくとも200回転の速度での8の字(double orbital)振とうによる撹拌を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記断続的な撹拌サイクルで前記反応混合物をインキュベートすることが、1分間当たり少なくとも200回転の速度での1分間の8の字(double orbital)振とう及びその後のインキュベーションを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記方法が、25℃から45℃の温度で実施される、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記反応混合物の総体積が、100μLである、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記反応混合物に前記ThTを励起させる波長の光を照射することが、450nmの励起及び480nmの発光を照射することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記体液が、脳脊髄液、血液、血液画分、鼻水、鼻組織、尿、便、及びリンパからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
前記生体液が、細胞に基づく組織である、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料における凝集型タンパク質の検出のためのアッセイ、更に具体的には、生体試料における凝集型アルファ-シヌクレインの検出のためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
アルファ-シヌクレイン(a-syn)は、4番染色体上に位置するSNCA遺伝子によってコードされる、十分に保存された、140アミノ酸からなり分子量19kDaの低分子酸性タンパク質である
1。アルファ-シヌクレインは、中枢神経系内のシナプス前神経終末に高濃度で位置し、そこでシナプス小胞の生物学において役割を有する
2。シヌクレイン病は、ニューロン及びグリアの選択的集団内でのa-synの線維性凝集体の蓄積に関連する一連の神経変性障害である。これらの蓄積は、パーキンソン病(PD)若しくはレビー小体型認知症(DLB)等の疾患の場合は、レビー小体(LB)であるニューロン神経細胞体内若しくは変性神経突起内で、又は多系統萎縮症(MSA)の場合はグリア細胞質内封入体内で見ることができる
3。
【0003】
a-synの存在は、脳脊髄液(CSF)
4及び血清
5等の生体液中で検出されている。ELISAによるCSF中のa-syn濃度の測定は、a-synに関連する障害のバイオマーカーとして提案されている。しかし、多くの研究がPD及びDLBにおけるCSF a-synレベルの低減を示しているものの
4,6、全体としての結果は一貫していない
7。CSF a-synの低減が実証されている研究においてさえも差は小さく
8、患者群内で、及び患者群と対照群との間で、著しいオーバーラップがある。更に、実験室間でのCSF a-syn測定の標準化は困難であることが証明されている
9。
【0004】
最近、a-synの凝集特性が、その凝集が伝達性海綿状脳症(TSE)の原因となるプリオンタンパク質と比較されている
10。実際、最近の文献では、アルファ-シヌクレイン病が本当にプリオン様疾患であるかについて多くの議論がなされている
11。リアルタイム振動誘発型変換(real-time quaking induced conversion)(RT-QuIC)と呼ばれる最近報告された技術は、プリオンタンパク質が自己凝集を誘発する能力を利用するものであり、最も一般的なヒト形態のTSEである孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)の診断用CSF検査を構築するために使用されている
12。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO00/67796
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ben-Bassatら(J. Bacteriol. 169:751〜7、1987)
【非特許文献2】O'Reganら(Gene 77:237〜51、1989)
【非特許文献3】Sahin-Tothら(Protein Sci. 3:240〜7、1994)
【非特許文献4】Hochuliら(Bio/Technology 6: 1321〜5、1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、プリオンタンパク質とa-synとの間の著しい差を考慮すると、これらの技術は、生体試料中のa-syn又はa-syn凝集体の存在を何らかの信頼性のある方法で検出することができていない。したがって、生体試料中のa-syn及びa-syn凝集体の存在を検出するための信頼性のあるアッセイが依然として必要とされている。
【0008】
本発明の少なくとも1つの目的は、生体試料中のa-syn及び/又はa-synの凝集体の存在を検出するための改良されたアッセイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によると、生体試料中のアルファ-シヌクレイン凝集の存在を検出する方法であって、
(i)生体試料を用意する工程、
(ii)ビーズ群(population of beads)と、タンパク質凝集体に結合するように及びタンパク質凝集体に結合すると蛍光を増大させるように適合させたフルオロフォアと、アルファ-シヌクレイン又はその断片若しくは変異体とを含む反応試料を用意する工程、
(iii)生体試料及び反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iv)反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(v)試料に、反応試料のフルオロフォアを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(vi)インキュベートする間に反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程、
を含み、
工程(iv)から(vi)が同時に行われ、工程(iv)から(vi)の間の反応混合物の蛍光の有意な増大は、反応混合物中のアルファ-シヌクレインの凝集体の存在を示し、反応混合物中のアルファ-シヌクレインの凝集体の存在は、生体試料中のアルファ-シヌクレインの凝集体の存在を示す、方法が提供される。
【0010】
当業者には、用語「アルファ-シヌクレイン」、「a-syn」、「α-シヌクレイン」、及び「α-syn」が、アルファ-シヌクレインタンパク質を指し、本明細書全体を通して区別せずに用いられることが理解されよう。例えば、生体試料がヒト対象から得られる実施形態では、アルファ-シヌクレインは、配列番号1を有するヒトアルファ-シヌクレインである。
【0011】
配列番号1:
【化1】
【0012】
アルファ-シヌクレインに関連する用語「断片」は、アルファ-シヌクレインの配列の少なくとも10、20、30、50、100、120、130、若しくは140、又はその間の任意の整数の連続するヌクレオチドからなるポリヌクレオチドを意味するものであり、好ましい断片は、本発明の方法の条件下で凝集し得る断片である。例えば、断片は、非変性アルファ-シヌクレイン配列のアミノ酸配列1〜60又は61〜140を含み得る。
【0013】
アルファ-シヌクレインに関連する「変異体」は、ペプチド配列若しくはポリペプチド配列における少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入、及び/若しくは欠失、又はこのタンパク質に化学的に連結した部分への改変を有する、アルファ-シヌクレインタンパク質を意味する。
【0014】
保存的置換:類似の生化学的特性を有するアミノ酸残基に対する1つ又は複数のアミノ酸置換(例えば、1、2、5、又は10残基の)。典型的には、保存的置換は、その結果生じるペプチド又はポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を与えない。例えば、アルファ-シヌクレイン内の保存的置換は、本発明の方法の反応条件でペプチドが凝集する能力にほとんど影響しないアミノ酸置換であり得る。特定の例では、アルファ-シヌクレイン内の保存的置換は、本発明の方法の反応条件下でタンパク質が凝集する能力を顕著に改変しないアミノ酸置換である。アルファ-シヌクレインの変異体のスクリーニングを使用して、どのアミノ酸残基がアミノ酸置換を許容し得るかを同定することができる。
【0015】
一例では、アルファ-シヌクレインはヒトアルファ-シヌクレインであり得、配列番号1内の保存的置換等、1つの保存的置換がペプチド内に含まれ得る。別の例では、10以下の、例えば5以下の保存的置換がペプチド内に含まれる。本発明のペプチド又はタンパク質は、したがって、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれを超える保存的置換を含み得る。ポリペプチドは、例えば、部位特異的突然変異生成又はPCR等の標準的な手順を使用して、そのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を操作することによって、1つ又は複数の保存的置換を含有するように生産され得る。或いは、ポリペプチドは、例えば当技術分野において知られているようなペプチド合成方法を使用することによって、1つ又は複数の保存的置換を含有するように生産され得る。
【0016】
置換変異体は、アミノ酸配列内の少なくとも1つの残基が除去され、その位置に異なる残基が挿入された変異体である。タンパク質内の元のアミノ酸に代わり置換され得、保存的置換とみなされるアミノ酸の例には、Alaに代わるSer;Argに代わるLys;Asnに代わるGln又はHis;Aspに代わるGlu;Glnに代わるAsn;Gluに代わるAsp;Glyに代わるPro;Hisに代わるAsn又はGln;Ileに代わるLeu又はVal;Leuに代わるIle又はVal;Lysに代わるArg又はGln;Metに代わるLeu又はlle;Pheに代わるMet、Leu又はTyr;Serに代わるThr;Thrに代わるSer;Trpに代わるTyr;Tyrに代わるTrp又はPhe;及びValに代わるIle又はLeuが含まれる。
【0017】
一実施形態では、置換は、Ala、Val、Leu及びIleの間で、Ser及びThrの間で、Asp及びGluの間で、Asn及びGlnの間で、Lys及びArgの間で、並びに/又はPhe及びTyrの間である。
【0018】
保存的置換についてのさらなる情報は、とりわけ、Ben-Bassatら(J. Bacteriol. 169:751〜7、1987)、O'Reganら(Gene 77:237〜51、1989)、Sahin-Tothら(Protein Sci. 3:240〜7、1994)、Hochuliら(Bio/Technology 6: 1321〜5、1988)、WO00/67796(Curdら)、並びに遺伝学及び分子生物学の標準的なテキストで見ることができる。
【0019】
通常、アルファ-シヌクレインは、凝集しにくい、安定的に折り畳まれたテトラマーを形成する。しかし、アルファ-シヌクレインにおける突然変異が凝集を促進すること、並びにアルファ-シヌクレインのこれらの凝集体が、レビー小体型認知症及びパーキンソン病等のアルファ-シヌクレイン病に関与すると考えられている原線維の第一の構成要素であることが示唆されている。
【0020】
したがって、生体試料がアルファ-シヌクレインの凝集体を含んでいるかどうかを検出又は判定することによって、侵襲性の又は高価な技術を要することなくこのような病理の検出が可能になり得、標準的な方法を使用してのこのような病理の検出が可能になるより前にこのような病理を検出することが可能になり得る。
【0021】
リアルタイム振動誘発型変換(RT-QuIC)等のアッセイは、これまで、アルファ-シヌクレインの凝集体の存在を検出できていない。本発明者らは、驚くべきことに、本発明の修正型RT-QuIC法によって、非常に高い感度及び特異性でアルファ-シヌクレインを検出することが可能になり、アルファ-シヌクレイン凝集体に関連する病理を、他のタンパク質凝集体に関連する病理から区別することが可能になることを見出した。
【0022】
「蛍光の有意な増大」という用語は、適切な時点での、典型的には90〜120時間以内の、少なくとも、相対蛍光の平均が、陰性対照又はベースラインの蛍光の相対蛍光の平均の標準偏差の2倍をプラスされた、蛍光の増大を指す。
【0023】
典型的には、生体試料は体液試料である。しかし、生体試料は、細胞に基づく組織試料であり得る。生体試料は、健康管理担当の医師が、対象がアルファ-シヌクレインの凝集体の存在に関連する疾患を有し得るかどうかを判定することを可能にするために、本発明の方法を使用する分析のために対象から採取され得る。
【0024】
体液は、脳脊髄液、血液又は血液画分、鼻水又は組織、尿、便、及びリンパを含む群から選択され得る。好ましくは、体液は、脳脊髄液、血漿又は他の血液画分、及び鼻組織又は鼻水を含む群から選択される。例えば、体液は、脳脊髄液であり得る。別の例では、体液は、例えば鼻のスワブを使用して抽出された鼻組織又は鼻水であり得る。さらなる例では、体液は、血液試料又は血液画分であり得る。
【0025】
したがって、本発明の方法は、対象から採取した生体試料から、アルファ-シヌクレインの凝集に関連する疾患を検出することを可能にして、非侵襲性の診断方法又は予後診断方法を可能にし得る。
【0026】
生体試料は、典型的には、哺乳動物対象から、好ましくはヒト対象から採取される。しかし、生体試料は、魚類対象、鳥類対象、爬虫類対象、又は両生類対象から採取され得る。
【0027】
反応試料は、典型的には溶媒を含む。溶媒は、反応試料が水性溶液となるように、水性溶媒であり得る。
【0028】
反応試料は、反応試料のpHを実質的に維持するために、緩衝された反応試料であり得る。例えば、反応試料は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、ピペラジン-N,N'-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、又はSorensenのリン酸緩衝液等の、生物学的に許容可能な緩衝液を含み得る。
【0029】
典型的には、反応試料は、反応試料のpHを約pH6から約pH8.5に維持するように緩衝される。好ましくは、反応試料は、反応試料のpHを約7.0から約8.5に維持するように緩衝される。例えば、反応試料は、試料のpHをpH7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、又は8.4に維持するように緩衝され得る。
【0030】
好ましくは、反応試料は、pH9.0未満のpHを維持するように緩衝される。
【0031】
好ましくは、反応試料は、反応試料のpHをpH8.0、8.2、又は8.4に維持するように緩衝される。
【0032】
反応試料のフルオロフォアは、典型的には、タンパク質の凝集体に結合すると蛍光を変化させる。例えば、フルオロフォアは、溶液中で遊離していると弱く蛍光を発し得、タンパク質凝集体に結合していると強く蛍光を発し得る。或いは、フルオロフォアは、溶液中で遊離していると蛍光を発せず、タンパク質凝集体に結合していると蛍光を発し得る。
【0033】
タンパク質凝集体は多くの(significant)ベータシート含有物を含み得、非凝集型タンパク質は多くのベータシート含有物を有していなくてもよく、フルオロフォアは、タンパク質のベータシートに結合するような構造であり得る。
【0034】
フルオロフォアの発光スペクトルは、フルオロフォアが凝集型タンパク質に結合すると偏移し得る。例えば、フルオロフォアの発光スペクトルは、フルオロフォアがタンパク質凝集体に結合すると赤方偏移し得る。或いは、フルオロフォアの発光スペクトルは、フルオロフォアがタンパク質凝集体に結合すると青方偏移し得る。
【0035】
典型的には、フルオロフォアはチオフラビンである。好ましくは、フルオロフォアはチオフラビンT(ThT)である。
【0036】
或いは、フルオロフォアは、シアニンT-284、又は、アルファ-シヌクレイン凝集体等のタンパク質凝集体に結合すると蛍光を増大させる別のフルオロフォアであり得る。
【0037】
標準的なRT-QuICでは、凝集型となる少量のタンパク質が、タンパク質凝集のための基質として作用するために、反応試料中に含まれる。したがって、反応試料は、凝集基質として作用するための、1mg/mL未満のアルファ-シヌクレインを含み得る。反応試料は、0.5mg/mL未満のアルファ-シヌクレインを含み得る。反応試料は、0.1mg/mL未満のアルファシヌクレインを含み得る。
【0038】
反応試料は、凝集基質として作用するための、およそ0.01mg/mLのアルファ-シヌクレインから約10mg/mLのアルファ-シヌクレインを含み得る。反応試料は、凝集基質として作用するための、およそ0.1mg/mLから約1mg/mLのアルファ-シヌクレインを含み得る。
【0039】
反応試料のアルファ-シヌクレインは、ヒト又は他の種由来の組換えアルファ-シヌクレインであり得る。反応試料のアルファ-シヌクレインは、全長アルファ-シヌクレインの断片であり得る。例えば、断片は、全長アルファ-シヌクレインのアミノ酸1〜60又は61から140を含み得る。
【0040】
反応試料のビーズ群のビーズは、ジルコニア、シリカ、ガラス、石英、若しくはポリマー、例えば、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、又はその組み合わせを含み得る。
【0041】
典型的には、ビーズ群は、およそ1mmからおよそ0.001mmのビーズの平均直径を有する。
【0042】
ビーズ群の平均直径は、およそ1mmからおよそ0.1mmであり得る。例えば、ビーズの平均直径は、1mm、0.5mm、又は0.1mmであり得る。
【0043】
ビーズ群は、平均直径のおよそプラス又はマイナス10%の、標準的直径分布を有し得る。したがって、ビーズの直径はほぼ均質であり得る。
【0044】
反応試料は、反応混合物100μL当たりおよそ1mgからおよそ150mgのビーズを含み得る。反応試料は、反応混合物100μL当たりおよそ10mgからおよそ100mgのビーズを含み得る。反応混合物は、反応混合物100μL当たりおよそ10、20、30、40、若しくは50mg、又はその間の量のビーズを含み得る。例えば、反応混合物は、反応混合物100μL当たり約10から50mgのビーズ、反応混合物100μL当たり20から50mgのビーズ、又は反応混合物100μL当たり30から50mgのビーズを含み得る。
【0045】
生体試料中のアルファ-シヌクレインの凝集体の存在は、アルファ-シヌセインの異常な凝集に関連する疾患の指標である。例えば、疾患は、レビー小体型認知症若しくはパーキンソン病、又は他のアルファ-シヌクレイン病であり得る。
【0046】
反応混合物は、40時間超、60時間超、80時間超、又は120時間超、インキュベートされ得る。反応混合物は、一定時間撹拌され得、一定時間立てておかれる。典型的には、反応混合物を撹拌する時間は、反応混合物を撹拌せずに立てておく時間よりも著しく短い。反応混合物は、少なくとも1分、少なくとも2分、又は少なくとも5分の間、撹拌され得る。反応混合物は、少なくとも10分、少なくとも15分、又は少なくとも20分の間、立てておかれる。例えば、反応混合物は、1分の間撹拌され得、14分の間、撹拌せずに立てておかれる。
【0047】
断続的な撹拌サイクルは、断続的な振とうサイクルを含み得る。振とうサイクルでは、反応混合物を円形(circular)又は軌道(orbital)の動きで動かし得、したがって、振とう速度は、例えば、1分当たりの回転数の点から定義され得る。或いは、振とうサイクルは、反応混合物を単一軸に沿って前後に動かし得、したがって、振とう速度は、1分当たりの反復数の点から定義され得る。
【0048】
反応混合物は、一定速度で撹拌され得る。以下では、撹拌速度は1分当たりの回転数で表されるが、同様に、振とうが直線状の動きに従う実施形態では、1分当たりの反復数に適用され得る。反応混合物は、1分当たり少なくとも100回転数で撹拌され得る。反応混合物は、1分当たり少なくとも150回転数で撹拌され得る。反応混合物は、1分当たり少なくとも200回転数で撹拌され得る。反応混合物は、1分当たり少なくとも100回転数から1分当たり少なくとも300回転数で撹拌され得る。反応混合物は、1分当たり少なくとも150回転数から1分当たり少なくとも250回転数で撹拌され得る。例えば、反応混合物は、1分当たり150、200、又は250回転数で撹拌され得る。好ましくは、反応混合物は、1分当たり200回転数で撹拌される。
【0049】
反応混合物の所要の撹拌速度は、振とう器の振とう軌道(shaking orbital)に応じて変化し得る。反応混合物の所要の撹拌速度は、本方法で使用する生体試料に応じて変化し得る。例えば、生体試料が血漿中の血小板等の血液画分である実施形態では、例えば、反応混合物は、1分当たり400、600、800、900、又は1000回転の速度で撹拌され得る。
【0050】
断続的な撹拌サイクルは、反応混合物の断続的な超音波処理を含み得る。反応混合物の超音波処理は、反応混合物を撹拌して凝集を促進し得る。反応混合物を撹拌する別の方法もまた使用され得る。
【0051】
本発明の方法は、25℃から45℃の温度で行われ得る。本発明の方法は、30℃から40℃の温度で行われ得る。例えば、本方法は、30℃、32℃、34℃、36℃、38℃、又は40℃、及びその間の値の温度で行われ得る。
【0052】
一実施形態では、本発明の方法は、約30℃の温度で行われ得る。代替的な実施形態では、本発明の方法は、約35℃又は約37℃の温度で行われ得る.
【0053】
生体試料は、生体試料中のアルファ-シヌクレインを濃縮するために、本発明の方法の前に処理され得る。生体試料は、アルファ-シヌクレインを複合生体試料から抽出するために、本発明の方法の前に処理され得る。
【0054】
生体試料は、ビーズ群で処理され得る。ビーズは、磁気材料を含み得る。例えば、ビーズは常磁性材料を含み得、このビーズによって、外部から印加された磁界を使用して、ビーズの表面に特異的に結合する材料を分離して、複合混合物からビーズを抽出することが可能となり得る。磁気ビーズによって、本発明の方法の前に生体試料中のアルファ-シヌクレインを抽出又は濃縮することが可能となり得る。
【0055】
例えば、ビーズは、超常磁性の酸化鉄、又は別の常磁性材料を含み得、アルファ-シヌクレインはビーズに結合し得、したがって、磁界の印加によって、アルファ-シヌクレインが生体試料中で分離又は濃縮されることが可能となり得る。
【0056】
本発明の第2の態様では、アルファ-シヌクレイン病を診断する方法であって、
(i)対象由来の生体試料を用意する工程、
(ii)ビーズ群と、タンパク質凝集体に結合するように及びタンパク質凝集体に結合すると蛍光を増大させるように適合させたフルオロフォアと、アルファ-シヌクレイン又はその断片若しくは変異体とを含む反応試料を用意する工程、
(iii)生体試料及び反応試料を組み合わせて、反応混合物を形成する工程、
(iv)反応混合物を、断続的な撹拌サイクルでインキュベートする工程、
(v)試料に、反応試料のフルオロフォアを励起させる波長の光を照射する工程、並びに
(vi)インキュベートする間に反応混合物の蛍光のレベルを決定する工程
を含み、
工程(iv)から(vi)が同時に行われ、工程(iv)から(vi)の間の反応混合物の蛍光の有意な増大は、対象がアルファ-シヌクレイン病を有することを示す、方法が提供される。
【0057】
アルファ-シヌクレイン病は、典型的には、パーキンソン病又はレビー小体型認知症である。
【0058】
本発明は、第3の態様では、水性緩衝溶液、フルオロフォア、及びアルファ-シヌクレイン又はその断片若しくは変異体を含むキットオブパーツ(kit of parts)であって、水性緩衝溶液がビーズ群を含む、キットオブパーツの提供にも及ぶ。
【0059】
キットオブパーツは、第1及び第2の態様の方法のための反応試料として使用され得る。
【0060】
本発明の第1の態様のための、好ましい任意選択の特徴は、第2及び第3の態様のための好ましい任意選択の特徴である。
【0061】
ここで、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して、非限定的な例として記載する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】標準的なRT-QuICのプロセスを示す略図である。
【
図2】レビー小体型認知症(DLB)患者、アルツハイマー病(AD)患者、及び孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)患者の脳ホモジネート(BH)試料と、対照の、突然死(SD)した、疾患の神経病理学的エビデンスを有さない患者の脳ホモジネート(BH)試料との、RT-QuICグラフである。
【
図3】混合型病理を有する患者のBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図4】DLBと確認された患者及びsCJDと確認された患者の脳脊髄液(CSF)試料のRT-QuICグラフである。
【
図5】対照CSF試料及びDLB患者の1つのBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図6】AD患者のCSF試料及びDLB患者の1つのBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図7】DLB患者のCSF試料及びDLB患者の1つのBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図8】DLB患者及びAD患者のCSF試料並びにDLB患者の1つのBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図9】パーキンソン病(PD)患者のCSF試料及び対照対象のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図10】A)ビーズを有する、及びB)ビーズを有さない、SD BH試料のRT-QuICグラフである。
【
図11】A)ビーズを有する、及びB)ビーズを有さない、DLB BH試料のRT-QuICグラフである。
【
図12】A)ビーズを有する、及びB)ビーズを有さない、パーキンソン病の脳脊髄液(CSF)試料のRT-QuICグラフである。
【
図13】A)ビーズを有する、及びB)ビーズを有さない、レビー小体型認知症のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図14A】ビーズを有さない、レビー小体型認知症のBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図14B】ウェル当たり18.7mgのビーズを有する、レビー小体型認知症のBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図14C】ウェル当たり37.5mgのビーズを有する、レビー小体型認知症のBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図15A】0.1mmのジルコニウム/シリカビーズについての、対照対象(SDBH)、レビー小体病患者(LBDBH)、アルツハイマー病(ADBH)、若しくは孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJDBH)のBH、又はシード形成なしのRT-QuICグラフを示す図である。
【
図15B】0.5mmのジルコニウム/シリカビーズについての、対照対象(SDBH)、レビー小体病患者(LBDBH)、アルツハイマー病(ADBH)、若しくは孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJDBH)のBH、又はシード形成なしのRT-QuICグラフを示す図である。
【
図15C】2.3mmのジルコニウム/シリカビーズについての、対照対象(SDBH)、レビー小体病患者(LBDBH)、アルツハイマー病(ADBH)、若しくは孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJDBH)のBH、又はシード形成なしのRT-QuICグラフを示す図である。
【
図16A】0.1mmのジルコニウム/シリカビーズ37mgを添加した、レビー小体病(LB)患者又は対照対象のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図16B】0.5mmのジルコニウム/シリカビーズ37mgを添加した、レビー小体病(LB)患者又は対照対象のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図16C】2.3mmのジルコニウム/シリカビーズ37mgを添加した、レビー小体病(LB)患者又は対照対象のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図17】(A)0.5mmの鋼鉄ビーズ又は(B)0.5mmのガラスビーズを使用した、シード形成させないままの反応と比較した、対照対象(SDBH)、レビー小体病(LBDBH)患者、及びアルツハイマー病(ADBH)患者のBH試料のRT-QuICグラフである。
【
図18】(A)0.5mmの鋼鉄ビーズ又は(B)0.5mmのガラスビーズを使用した、シード形成させないままの反応と比較した、対照対象及びレビー小体病患者(LBDBH)のCSF試料のRT-QuICグラフである。
【
図19】PD患者及び対照対象の、EDTAで抗凝固処理された血液試料から単離された血小板試料のRT-QuICグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の様々な実施形態の実施及び使用を以下に詳述するが、本発明が、多種多様な具体的背景で具体化され得る多くの適用可能な発明概念を提供することが理解される。本明細書において論じられる具体的な実施形態は、本発明を実施及び使用するための具体的な方法の例にすぎず、本発明の範囲を定めるものではない。
【0064】
本発明の理解を容易にするために、多くの用語が以下に定義される。本明細書において定義される用語は、本発明が関連する分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」等の用語は、単数のもののみを指すことを意図したものではなく、全般的なクラスも含み、その一般的なクラスのうち、具体的な例が説明のために使用され得る。本明細書における専門用語は、本発明の具体的な実施形態を記載するために使用されるが、それらの使用は、特許請求の範囲に概説されている場合を除き、本発明を定めるものではない。
【0065】
全般的な材料及び方法
アルファ-シヌクレインのリアルタイム振動誘発型凝集
RT-QuIC反応緩衝液(RB)は、100mMのリン酸緩衝液(pH8.2)、10μMのチオフラビンT(ThT)、及び0.1mg/mLのヒト組換え全長(1〜140aa)アルファ-シヌクレイン(Stratech社、ケンブリッジ、UK)から構成されるものであった。底が透明の黒色96ウェルプレート(Nalgene Nunc International社、Fisher Scientific Ltd社、UK)の各ウェルに、98μL、90μL、又は85μLのRB(シードの添加量に応じる)、及び0.5mmのジルコニウム/シリカビーズ(Thisle Scientific Ltd社、グラスゴー、UK)37±3mgを入れた。反応物に、2μLの作用強度の脳ホモジネート(BH)、5μl、10μl、又は15μlの無希釈CSFをシード形成させて、最終反応体積100μlとした。プレートをプレート密封フィルム(Fisher Scientific Ltd社、UK)で密封し、BMG OPTIMA FluoSTARプレートリーダー内で、30℃で120時間、8の字(double orbital)で1分間振とうし(200rpm)、14分休ませるという断続的な振とうサイクルで、インキュベートした。ThT蛍光測定(450nmの励起及び480nmの発光)を15分毎に行った。各試料を2組測定して、2つの陰性対照試料(SD及びAD BHをシード形成させた反応)、1つの陽性対照(DLB BHをシード形成させた反応)、シード形成なしの反応、及び44のCSF試料を1つのプレートで試験できるようにした。
【0066】
患者群
CSF RT-QuICの構築の初期段階は、純粋DLB(n=12)、PD(n=2)、進行性核上麻痺(PSP)(n=2)、大脳皮質基底核変性症(n=3)、AD病理を伴うDLB(n=17)、偶発性LBを伴うAD(n=13)、純粋AD(n=30)の診断が臨床的且つ神経病理学的に確定されたOPTIMAコホート(Oxford Project to Investigate Memory and Ageing)、並びに対照(n=20)から得た、99のCSF試料で行った。1988に開始されたOPTIMAは、臨床的追跡の間の複数の時点でのCSFコレクションを含む、認知症及び加齢のプロスペクティブな縦断的臨床病理学的研究である。全ての臨床的及び病理学的プロトコルは詳述されており
13、地域の倫理委員会によって承認されており、参加者からは、登録の前にインフォームドコンセントを得た。
【0067】
RT-QuICの検証段階は、これまでの最大の臨床的に最も特徴付けされた縦断的PDコホートの1つであるOxford Discoveryコホートから得たCSF試料(20のPD、15の対照、及び3人のリスク保有者)で行った。このコホートの全ての臨床的詳細は、これまでに記載されている
14。簡潔に述べると、UK PD Society Brain Bank診断基準
15に従って3年半以内に特発性PDと診断された患者を、2010年9月から2014年9月の間に、2900万人の集団(倫理研究10/H0505/71)から募った。20人のPD患者の間での平均罹病期間は1.6±1.1年(範囲0.1〜3.2年)であり、Hoehn及びYahrのステージは1.9±0.4(範囲1〜3、最大可能スコア5)であった。対照集団は、研究に参加している患者の配偶者及び友人、並びに一般人から募った。リスク保有者群は、一晩の睡眠ポリグラフ検査
16でレム睡眠行動が確認された患者を含み、その80%は、レビー小体障害を時間とともに発症したことが示されている
17。人数統計情報をTable 1(表1)に示す。
【0069】
Table 1(表1):調べたOptima患者及びDiscovery患者についての患者数統計情報
【0070】
脳ホモジネート
脳組織を、NCJDRSU(倫理ライセンス11/ES/0022)のMRC Brain Bankから入手した。全ての組織を試料採取の2時間以内に-80℃で凍結し、分析まで-80℃で保管した。脳組織は、使用まで2〜18年の間、保管されていた。
【0071】
前頭前皮質組織を、アルツハイマー病(AD)患者、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)患者、及びびまん性レビー小体型認知症(DLB)患者から採取した。更に、前頭前皮質を、MRC Sudden Death Brain and Tissue Bankの、神経変性疾患を有さない個体から得た(Sudden Death(SD)対照)。前頭前皮質組織及び黒質組織の両方を、混合型AD/DLB、混合型sCJD/DLB、及び混合型AD/PDの患者から得た。使用した全てのケースは組織学的に調べられており、診断は、国際的に認められた基準を使用して行われた
18。最初の10%w/vの脳ホモジネート(BH)は、1mMのEDTA、150mMのNaCl、0.5%トリトンX、及びRoche社の完全プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用して調製した。その後の作用強度のBHは、上記のものを1:20000でPBSで希釈することによって調製した。
【0072】
脳脊髄液試料
CSF試料を、分析まで、ポリプロピレン管内の0.5mLのアリコートで、-80℃で保管した。OPTIMAコホートの99のCSF試料及びOxford Parkinson's Disease Centre (OPDC) Discovery研究の38のCSF試料は、オクスフォード大学のNuffield Department of Clinical Neurosciencesから入手した。全てのCSF試料を、オクスフォード大学からエディンバラ大学に、ドライアイス上に載せて移送し、到着まで-80℃で保管した。更に、NCJDRSU CSF Bankの神経病理学的にsCJD又はDLBと確認された患者のCSF試料を分析した。NCJDRSU CSF BankのCSF試料の使用についての倫理的承認は、スコットランドの他施設研究倫理委員会05/MRE00/67によってカバーされていた。全てのCSFを遠心し、分析まで-80℃で保管した。
【0073】
結果
RT-QuICの構築を、DLB、アルツハイマー病(AD)、及びsCJDと臨床病理学的に診断された患者の前頭前皮質BHを使用して行った。突然死し、MRC Sudden Death脳バンクの一員であった、神経疾患の神経病理学的エビデンスを有さない患者を、対照(SD)として使用した(
図2)。DLBのBHをシード形成させたRT-QuIC反応は、50時間の誘導期を有し、その後、チオフラビンT蛍光シグナルが見られ、これは70時間目に最大となった。他のタンパク質ミスフォールディング障害(AD又はsCJD)を有する患者又はSD対照のBHをシード形成させた反応のいずれも、120時間後であっても正の応答を示さなかった。
【0074】
多くの疾患病理、特にADに関連する病理及びa-syn病理が一般に共存する
19。別のタンパク質ミスフォールディング障害の存在が、DLB又はPDのいずれかによって誘発されるa-syn凝集に干渉し得るかどうかを調べるために、混合型病理を有する患者の前頭前皮質のBHを調べた(
図3)。AD又はsCJD等の第2のタンパク質ミスフォールディング障害の存在は、DLB又はPDのBHによって誘発されるRT-QuIC反応を阻害しない(
図2及び
図3)。構築されたRT-QuIC法がCSF中のa-synを検出するために十分感度が高かったかどうかを調べるために、DLBであると神経病理学的に確認された患者の2つのCSF試料、及びsCJDであると神経病理学的に確認されたケースの1つのCSF試料を分析した(
図4)。DLB患者の両CSF試料は、60〜100時間の間の誘導期を有する正の応答を示した。
【0075】
疾患を有するとその後に神経病理学的に確認された患者の、OPTIMA研究の一環として得た99のインビボCSF試料の探索的セットを、3つの異なる体積(すなわち、5、10、及び15μl)で分析して、RT-QuICの感度及び特異性を調べ、分析のための最適なCSF体積を計算した(Table 2(表2))。15μlの体積を使用して、92%の感度がDLBのCSF試料で得られ(
図7及び
図8)、65%の感度が混合型DLB/AD病理を有する患者のCSF試料で得られた。対照対象(
図5)、又は純粋AD、CBD、若しくはPSPを有する患者(
図6)のCSF試料のいずれも、正ではなかった。CSF試料のこの探索的セットを使用して、正の応答を、2つのCSF複製物の少なくとも1つの120時間目での陰性対照の平均より>2SD大きい相対蛍光単位(rfu)値と定義した。
【0077】
Table 2(表2). DLB、混合型DLB//AD、偶発性LBを伴うAD、AD、PDであると神経病理学的に確認された患者、及び健康な対照(探索群)、並びに、PDであると臨床的に診断された患者、PDのリスクがある患者、大脳皮質基底核変性症であると神経病理学的に確認された患者、及び核上麻痺であると神経病理学的に確認された患者、及びPD対照(検証群)のCSF試料をシード形成させた正のRT-QuIC反応。正のRT-QuIC応答を、2つのCSF複製物の少なくとも1つの120時間目での陰性対照の平均より>2SD大きい相対蛍光単位(rfu)値として分類した。
【0078】
本研究の第2の段階は、これらの分析条件及びカットオフ基準を、広範なプロスペクティブなOPDC Discoveryコホート
20から得た、20人のPDであると臨床的に診断された患者、15人の対照患者、及び3人の将来的にアルファ-シヌクレイン病を発症するリスクが高いと認識されている
20レム睡眠行動障害(RBD)を有する患者の、検証用インビボCSF試料の組に適用するためのものであった。最終診断についての予備知識を伴わずに、これらのCSF試料をコード化し、分析し、報告した。試料をデコードした後、結果は、20人のPD患者のうち19人が正のRT-QuIC応答を有し(
図9)、15人の対照のいずれも正ではなかったことを示した。これにより、PDについてのRT-QuICの感度及び特異性はそれぞれ95%及び100%という結果となった(Table(表2))。興味深いことに、3人のPDを発症するリスクがある患者の全てが、正のRT-QuIC応答を有していた。これらの患者は、そのうち80%がレビー小体障害の発症まで進行することが示されているRBDを有していた
20。
【0079】
考察
DLB及びPDの両方の早期診断は、感度が高く信頼性のある臨床診断試験が存在しないために、妨げられている。両条件は、CSF内に放出される凝集形態のa-synの神経病理学的蓄積を基にする。本発明者らは、凝集型a-synの、非凝集型a-synのさらなる凝集を誘発する能力を、臨床的様式で利用して、DLB及びPDにおける異常なCSF a-synを100%特異性でそれぞれ92%及び95%の感度で検出し得る技術を構築した。独自に、本発明者らは、レビー小体障害を将来的に発症するリスクが高い3人のRBD患者が、正のRT-QuIC応答を示したことを見出し、このことは、この試験が前駆期PDの早期診断試験として使用され得ることを示唆する。より大きなRBD患者コホートにおける試験検証及びその後の継続的な縦断的評価に焦点を当てた将来的な作業によって、神経保護療法の治験が行われ得る、早期PD転換のリスクが最も高い前駆期個体のリスク層別化におけるこのアッセイの有用性が試験されよう。本発明者らはまた、CBD患者及びPSP患者のCSF試料が正のRT-QuIC応答を示さないことを見出した。これらは、a-synよりもむしろタウタンパク質異常に関連する行動障害であり、早期段階でPDと誤解され得る。したがって、RT-QuICは、異常なa-synの検出のための新規なアプローチ、並びに、MSA等の他のアルファ-シヌクレイン病に加えてPD及びDLBの早期臨床診断を向上させる可能性を有するアプローチを提供する。
【0080】
アルファ-シヌクレインの検出のための修正型RT-QuiCアッセイにおけるビーズの役割
図10〜
図13を参照して、上記のアッセイにおいて使用されるビーズの役割を示すために、A)ビーズを伴う、及びB)ビーズを伴わない、突然死(SD)脳ホモジネート(BH)試料、A)ビーズを伴う、及びB)ビーズを伴わない、レビー小体型認知症BH試料、A)ビーズを伴う、及びB)ビーズを伴わない、パーキンソン病脳脊髄液(CSF)試料、並びにA)ビーズを伴う、及びB)ビーズを伴わないレビー小体型認知症CSF試料について、並行アッセイを行った。これらのアッセイは、上記の同一の一般的方法を使用して行った。
図10で見ることができるように、SD試料についての読み取りは見られなかった。更に、ビーズを伴わない、レビー小体病を有する試料及びパーキンソン病を有する試料(
図11B、
図12B、又は
図13B)は、読み取りを示さなかった。しかし、読み取りは、ビーズを伴う、レビー小体病を有する試料又はパーキンソン病を伴う試料で明らかに見られる。したがって、ビーズの存在は、RT-QuiCを使用してa-syn凝集体の存在を検出するための能力に、極めて重要である。
【0081】
図14を参照して、ビーズ濃度の影響を、レビー小体型認知症の脳ホモジネート試料を使用して調べた。反応混合物中にビーズが存在しない試料は、一定の蛍光シグナルを示し、負のRT-QuiCの結果を示した。逆に、ウェル当たり18.7mgのビーズ及びウェル当たり37.5mgのビーズを有する試料は、蛍光の明らかな増大を示し、ビーズの濃度が高いほど、より明らかで早いシグナルを示した。
【0082】
したがって、反応混合物中のビーズの存在は、アルファ-シヌクレイン凝集体の検出のためのシグナルを得るために不可欠であることが明らかである。
【0083】
1. 0.1mm、0.5mm、及び2.3mmのジルコニウム/シリカビーズ(およそ37±3mg)を使用し、BHsをシード形成させた、a-syn RT-QuIC反応
0.1mm、0.5mm、又は2.3mmのビーズ37mgを添加したRT-QuIC反応に、5μLの1:20万希釈の、対照対象(SDBH)、レビー小体病患者(LBDBH)、アルツハイマー病(ADBH)、若しくは孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJDBH)の同一のBHをシード形成させたか、又はシード形成させなかった。0.1mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図15Aに示し、0.5mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図15Bに示し、2.3mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図15Cに示す。
【0084】
図15A、
図15B、
図15Cから、ジルコニウム/シリカビーズのサイズの増大が、LBDBHをシード形成させた反応で、正のa-syn RT-QuIC応答を止める(illicit)ためにかかる時間を増大させることが分かる。しかし、0.1mmのジルコニウム/シリカビーズを使用すると応答時間がより早いにもかかわらず、a-syn RT-QuICは、ADBHをシード形成させた反応で正の反応を示した。
【0085】
2. 0.1mm、0.5mm、及び2.3mmのジルコニウム/シリカビーズ(およそ37±3mg)を使用し、CSF試料をシード形成させた、a-syn RT-QuIC反応
0.1mm、0.5mm、又は2.3mmのビーズ37mgを添加したRT-QuIC反応に、15μLのレビー小体病患者(LB)又は対照対象のCSF試料をシード形成させた。0.1mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図16Aに示し、0.5mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図16Bに示し、2.3mmのジルコニウム/シリカビーズで得られたa-syn RT-QuIC応答を
図16Cに示す。
【0086】
0.1mm及び0.5mmのジルコニウム/シリカビーズの使用によって、LB CSF試料をシード形成させると正のa-syn RT-QuIC反応が得られたが、対照CSF試料では得られなかった。対照的に、2.3mmのジルコニウム/シリカビーズの使用は、LB患者のCSF試料をシード形成させたa-syn RT-QuIC反応をサポートしなかった。同一のCSF試料を、
図16A、
図16B、及び
図16Cで説明される実験において使用した。
【0087】
図15及び
図16で説明される実験の結果は、2.3mmのジルコニウム/シリカの使用によって、LB患者のBH又はCSFをシード形成させたa-syn RT-QuIC反応が加速しないことを実証する。0.1mm又は0.5mmのジルコニウム/シリカビーズを使用するa-syn RT-QuIC反応の結果は類似していたが、0.1mmのジルコニウム/シリカビーズを使用するa-syn RT-QuIC反応は、ADBHが正の反応を誘発するという結果を示した。0.1mmのジルコニウム/シリカビーズは、非常にサイズが小さいためにその取り扱いが困難であり、そのため、より大きな0.5mmのジルコニウム/シリカよりも静的となる傾向があった。したがって、ビーズの組成についての全てのさらなる研究は、直径0.5mmのビーズで行った。
【0088】
3. 0.5mmの鋼鉄ビーズ及び0.5mmのガラスビーズを使用し、BHをシード形成させた、a-syn RT-QuIC反応
0.5mmの鋼鉄ビーズ又はガラスビーズ37mgを添加したRT-QuIC反応に、5μLの1:20万希釈の、対照対象(SDBH)、レビー小体病患者(LBDBH)、及びアルツハイマー病(ADBH)の同一のBHをシード形成させ、シード形成させていないままの反応と比較した。0.5mの鋼鉄ビーズを使用したa-syn RT-QuIC応答を
図17Aに示し、ガラスビーズでのa-syn RT-QuIC応答を
図17Bに示す。
【0089】
0.5mmの鋼鉄ビーズの使用は、LBDBHをシード形成させたa-syn RT-QuIC反応をサポートしない。対照的に、0.5mmのガラスビーズの使用は、LBDBHをシード形成させると正のa-syn RT-QuIC反応を生じさせ、しかし、シード形成なしの反応及びADBHをシード形成させた反応は、蛍光の段階的な増大を示し、ベースラインが安定していない。
【0090】
4. 0.5mmの鋼鉄ビーズ及び0.5mmのガラスビーズを使用し、CSF試料をシード形成させた、a-syn RT-QuIC反応
0.5mmの鋼鉄ビーズ又はガラスビーズ37mgを添加したRT-QuIC反応に、15μLのレビー小体病患者(LB)又は対照対象のCSF試料をシード形成させた。0.5mmの鋼鉄ビーズを使用した、CSFをシード形成させたa-syn RT-QuIC反応を
図18Aに示し、ガラスビーズでのa-syn RT-QuIC応答を
図18Bに示す。鋼鉄ビーズの使用は、LB患者のCSF試料の、a-syn RT-QuICにシード形成する能力を阻害し、一方、ガラスビーズの使用は、蛍光の非特異的増大をもたらし、同様に、a-syn RT-QuIC応答をサポートしない。
【0091】
上記の実験から得られる全体的な結論は、0.5mmのジルコニウム/シリカビーズ37mg/ウェルの添加が、LBDを有する患者のBH試料又はCSF試料をシード形成させたa-syn RT-QuIC反応の最良のプロモータであるということである。
【0092】
パーキンソン病(PD)患者の血液成分の、アルファ-シヌクレイン(α-syn)リアルタイム振動誘発型変換(RT-QuIC)にシード形成する能力の研究
血小板を、2人のPD患者及び1人の対照対象由来のEDTA抗凝固処理された血液試料から単離した。振とう速度を200rpmから600rpmまで加速し、反応温度を42℃まで上げることによって、2人のPD患者の血小板15μLを使用してのa-syn RT-QuIC反応へのシード形成が可能になった(
図19)。対照的に、対照対象の血小板では反応にシード形成できなかった。したがって、このことは、本発明の方法が、血液試料がa-synの凝集体を含むかどうかの判定において効果的であり、したがって、血液試料を採取した対象がパーキンソン病又はレビー小体型認知症等のアルファ-シヌクレイン病を有するかどうかを潜在的に診断するために効果的であることを実証した。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]