特許第6980886号(P6980886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980886微細放電加工用電極線、製造方法及び応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980886
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】微細放電加工用電極線、製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/06 20060101AFI20211202BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20211202BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20211202BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20211202BHJP
   C25D 3/22 20060101ALI20211202BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20211202BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20211202BHJP
   C22C 45/00 20060101ALI20211202BHJP
   C22C 9/04 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   B23H3/06
   B22F7/04 J
   C25D7/06 U
   C25D5/50
   C25D3/22 101
   H01B5/02 A
   H01B13/00 501F
   C22C45/00
   !C22C9/04
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-177699(P2020-177699)
(22)【出願日】2020年10月23日
(65)【公開番号】特開2021-49637(P2021-49637A)
(43)【公開日】2021年4月1日
【審査請求日】2020年10月23日
(31)【優先権主張番号】202010509917.X
(32)【優先日】2020年6月5日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520414398
【氏名又は名称】▲寧▼波博徳高科股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningbo bode hightech Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁 志▲寧▼
(72)【発明者】
【氏名】万 林▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】林 火根
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 桐
(72)【発明者】
【氏名】▲顧▼ 洪方
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 益波
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−510378(JP,A)
【文献】 特開平7−80726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 3/06
B22F 7/04
C25D 7/06
C25D 5/50
C25D 3/22
H01B 5/02
H01B 13/00
C22C 45/00
C22C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含む微細放電加工用電極線であって、
前記表面層は、コア材の外表面を覆う内層と、内層の外表面を覆い、アモルファス層である外層とを含むことを特徴とする微細放電加工用電極線。
【請求項2】
前記内層の外表面は、弛緩及び/又は再構成表面構造を呈することを特徴とする請求項1に記載の微細放電加工用電極線。
【請求項3】
前記アモルファス層は、49.5〜90wt%Zn、1.5〜42wt%Cu、0.158〜6.6%Xという化学元素からなり、残量がOであり、Xは、少なくとも3つの異なる元素X1、X2、X3を含み、X1は、Fe、Al又はCaであり、X2は、Si、C、S又はBであり、X3は、Fe、Al、Ca、Si、C、S又はBのうちの、X1、X2と異なる任意の一種類であることを特徴とする請求項1に記載の微細放電加工用電極線。
【請求項4】
前記内層は、β相又はβ’相の銅亜鉛合金であることを特徴とする請求項1に記載の微細放電加工用電極線。
【請求項5】
前記アモルファス層は、内層の外表面を完全又は未完全に覆うことを特徴とする請求項1に記載の微細放電加工用電極線。
【請求項6】
前記アモルファス層の厚さは、1〜10μmであり、前記内層の厚さは、5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の微細放電加工用電極線。
【請求項7】
直径が0.5〜1.5mmである黄銅母線を形成するコア材製造ステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた母線に対して脱脂、酸洗浄、水洗い及び電気メッキの処理を行い、母線上に厚さが0.5〜50μmである亜鉛メッキ層を形成し、第一の線材半製品を取得する電気メッキステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた第一の線材半製品に対して50〜550℃で合金化処理を行い、黄銅コア材、内層及び初期外層からなる第二の線材半製品を形成する合金化ステップ(3)と、
ステップ(3)で得られた第二の線材半製品に対して粉末冶金により層被覆処理を行い、処理温度が300〜1000℃であり、処理プロセスにおける温度の変動が20℃以内であり、100℃以下に冷却された後に窯出しし、黄銅コア材、内層及びアモルファス外層からなる第三の線材半製品を形成する粉末冶金ステップ(4)と、
ステップ(4)で得られた第三の線材半製品に対してマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工を行い、直径が0.05〜0.25mmである電極線の完成品を取得する完成品までの延伸ステップ(5)と、を含むことを特徴とする微細放電加工用電極線の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)の電気メッキ液の化学成分は、濃度の合計が0.1〜400g/Lである炭素、窒素、酸素、水素と、濃度の合計が0.5〜600g/Lであるホウ素、硫黄、塩素と、濃度が1.2〜1000g/Lであるアルミニウムと、濃度が100〜1500g/Lである亜鉛とを含み、前記ステップ(2)の電気メッキは、速度が10〜500m/minであり、電流が1200〜2500Aであり、電圧が120〜220Vであることを特徴とする請求項7に記載の微細放電加工用電極線の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(4)の冷却時間は、5〜30分間であることを特徴とする請求項7に記載の微細放電加工用電極線の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(5)では、延伸速度は、600〜1500m/minであり、アニーリング電圧は、12〜60Vであり、アニーリング電流は、15〜50Aであることを特徴とする請求項7に記載の微細放電加工用電極線の製造方法。
【請求項11】
前記電極線は、請求項1〜6の何れか1項に記載の電極線であり、微細放電加工に用いられることを特徴とする微細放電加工用電極線の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、機械製造分野に関し、特に、微細放電加工用電極線、製造方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の益々小型化及び精密化への進化に伴い、微細放電加工技術は、非接触式精密製造法の1つとして、その超精細及び高精度の加工特徴によって学術界及び工業界で注目され、既に微小機械製造分野の重要な構成部分になり、製造業において幅広く応用されている。
【0003】
微細放電加工(マイクロEDM)は、加工液に浸っている両極間におけるパルス放電時に生じた電気腐食作用を利用して、導電材料を腐食除去する特殊な加工方法であり、マイクロ放電加工又は微細電気腐食加工とも呼ばれ、主に複雑な形状の微小な穴やキャビティを有する金型及び部品を加工するのに用いられ、例えば、航空エンジン羽根の上の気体膜の孔加工、エンジンオイルノズル穿孔、化学繊維押し出しノズルの孔加工、時計の歯車又は装飾等の精密部品の孔加工、医療機器のメーター内の部品の孔加工、微細金型加工等々である。
【0004】
微細放電加工に影響を与える要素は沢山あり、例えば、高周波数電源、工具電極、組立精度、制御システム、工程設計及び作動媒体等であり、これらの要素は、全て微小な穴やキャビティの加工精度及び表面品質に直接に影響を与える。なお、工具電極は、微細放電の超精細及び高精度の加工を実現するための制約性の鍵である。なぜならば、サイズのとても小さい微小な穴及びマイクロキャビティを加工するために、まずそれよりもっと小さくて高精度の工具電極を獲得する必要がある。微細放電で工具電極をオンラインで製作することに対して研究を行うことによって最大限で微細放電加工の高精度の要求を満たすことは、微小な穴及び微小な部材を加工する専用微細放電加工の超精細及び高精度の加工技術を実現する鍵である。
【0005】
ワイヤ放電研削加工(WEDG)は、微細放電加工において工具電極をオンラインで製作する方法であり、銅/黄銅の電極線と工具電極の間のポイント放電により工具電極の余分の部分を腐食除去し続けることで、様々な微細で異形の工具電極を加工する。しかしながら、伝統的な電極線のキャパシタンス効果から生じた高エネルギー放出、不均一な電気火花分布及び不連続な電気火花腐食、放電爆発力の干渉及び加工屑除去の滞り等の影響により、電極線と工具電極の隙間を変化させ、ひいては工具電極の表面品質に影響を与え、平滑度が悪く、微小なひび割れが沢山あり、微細放電工具電極の加工精度が大きく低下してしまう。
【0006】
故に、WEDG方法は、ミクロンレベルの工具電極を加工することができるが、設計サイズが与えられた工具電極に対し、同じ加工の電気的パラメータ、同じ加工液、同じ工作機械及び電極材料を用いてテストを繰り返して行っても、得られた工具電極の精度は、依然として要求を満たすことができず、特に電極の位置決め精度及び形状精度(ここでは、真円度を指す)が非常に大きなばらつき範囲内で変動し、さらなる進化が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、オンライン加工精度及び表面品質を高めることができる微細放電加工用電極線を提供する。
【0008】
本発明は、外層がアモルファスである電極線を製造することができ、高精度の微細放電加工に用いられる前記微細放電加工用電極線の製造方法も提供する。
【0009】
本発明は、微細放電加工精度を高めることができる前記微細放電加工用電極線の応用も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の技術解決案の1つは、微細放電加工用電極線を提供する。前記微細放電加工用電極線は、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、前記表面層は、コア材の外表面を覆う内層と、内層の外表面を覆い、アモルファス層である外層とを含むことを特徴とする。本発明に記載のアモルファスは、構造が無定形又はガラス状態を呈し、微細構造が短距離で秩序的であり、長距離で無秩序であることを意味する。アモルファス層の原子は、配列が不規則であり、遠距離で無秩序であり、抵抗率が高く、非常に高いキャパシタンス効果耐性を有するので、キャパシタンス効果による電極線の高エネルギー放出を大きく減少させ、放電プロセスにおいて均一な電気火花分布を形成することができる。アモルファス層の組織構造は、短距離で秩序的である無定形又はガラス状態の構造を呈し、構造の中に大量の微細空間があり、密度が比較的低く、融点もより高く、高温アブレーション現象が殆どない。無定形又はガラス状態の構造であるため、その組織が連続性を有しておらず、材質が硬くて脆いので、当該電極線は、熱膨張係数が比較的小さく、ピーク電流耐性が比較的強い。よって、電極線の放電プロセスにおいて自身が燃え切れるまたは変形することを防止し、工具電極の表面の熱侵食及び凹凸の現象を軽減することができる。更に、当該構造の電極線は、オンライン加工精度及び表面品質を向上させることができる。
【0011】
また、前記内層の外表面は、弛緩及び/又は再構成表面構造を呈する。ここの弛緩又は再構成表面構造は、内層の外表面の原子の縦方向と横方向の配列がその内部に比べて変化していることを意味する。縦方向には、銅、亜鉛、鉄、硫黄及びシリコン等の原子が元の位置に対して移動しており、即ち、表面の弛緩が生じ、弛緩により微量元素の原子が表面の最も外の領域に位置する。横方向には、これらの原子の間隔が不規則であり、表面に再構成が生じ、再構成により2つ又はより多い原子が近づき、原子の集合体が形成される。故に、内層の外表面の原子の配列が非常に不規則となり、結晶体セルの体積が膨張し、表面に弛緩が生じ、結晶体の構造に再構成が生じる。このような構造は、システムのエネルギーを下げることができ、外来の原子又は分子を吸着して外層をアモルファス層に形成することに非常に有利である。また、表面張力の理論に基づき、気泡が弛緩又は再構成の表面構造から逸出し、電極線と微細な電極の隙間に対する瞬間爆発力の直接な干渉を大幅に減少させることができ、微細放電加工の精度を高めることに有利である。
【0012】
また、前記アモルファス層は、49.5〜90wt%のZn、1.5〜42wt%のCu、0.158〜6.6%のXという化学元素からなり、残量がO(酸素)である。なお、Xは、少なくとも3つの異なる元素X1、X2、X3を含み、X1は、Fe、Al又はCaであり、X2は、Si、C、S又はBであり、X3は、Fe、Al、Ca、Si、C、S又はBのうちの、X1、X2と異なる任意の一種類である。前記アモルファス層は、含量の合計が0.3wt%以下である、不可避な不純物が存在する場合もある。アモルファス層の混合組織は、電極線自身の放電損耗を下げ、連続して安定する微細な放電腐食を実現し、電極線と微細な工具電極の隙間が一定であることを保障し、微細な工具電極の表面品質を高め、平滑度が高く、微小なひび割れが生じない。また、表面層の金属の主な元素は、亜鉛であり、亜鉛のガス化効果がとても良く、放電効率を高めることに寄与し、加工速度を高め、加工時間を節約することができる。
【0013】
また、前記内層は、β相又はβ’相の銅亜鉛合金であり、導電性能が優れ、微細な電気火花がポイント放電して工具電極を腐食することに有利である。
【0014】
また、前記アモルファス層は、内層の外表面を完全又は未完全に覆う。
【0015】
また、前記アモルファス層の厚さは、1〜10μmであり、前記内層の厚さは、5〜50μmである。
【0016】
当該技術案は、以下の有益な効果を有する。
【0017】
当該特殊な構造の非静電層は、抵抗率が高く、融点が高く、膨張係数が小さく、キャパシタンス効果耐性が高いという特徴を有するので、電極線全体は、より優れる導電率、引張強度及び製品塑性と靱性を有し、加工精度を高めることができるだけではなく、応力を除去し、変形を減少させることもでき、加工表面は、やけどがなく、滑らかであり、微小なひび割れがなく、加工品質を高めるという目的を実現することができる(例えば、表面の粗さは、Ra0.05μmに達することができる)。
【0018】
本発明のもう1つの技術案は、微細放電加工用電極線の製造方法を提供する。当該微細放電加工用電極線の製造方法は、直径が0.5〜1.5mmである黄銅母線を形成するコア材製造ステップ(1)と、ステップ(1)で得られた母線に対して脱脂、酸洗浄、水洗い及び電気メッキの処理を行い、母線上に厚さが0.5〜50μmである亜鉛メッキ層を形成し、第一の線材半製品を取得する電気メッキステップ(2)と、ステップ(2)で得られた第一の線材半製品に対して50〜550℃で合金化処理を行い、黄銅コア材、内層及び初期外層からなる第二の線材半製品を形成する合金化ステップ(3)と、ステップ(3)で得られた第二の線材半製品に対して粉末冶金により層被覆処理を行い、処理温度が300〜1000℃であり、処理プロセスにおける温度の変動が20℃以内であり、100℃以下に冷却された後に窯出しし、黄銅コア材、内層及びアモルファス外層からなる第三の線材半製品を形成する粉末冶金ステップ(4)と、ステップ(4)で得られた第三の線材半製品に対してマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工を行い、直径が0.05〜0.25mmである電極線の完成品を取得する完成品までの延伸ステップ(5)とを含む。
【0019】
また、ステップ(2)の電気メッキ液の化学成分は、濃度の合計が0.1〜400g/Lである炭素、窒素、酸素、水素と、濃度の合計が0.5〜600g/Lであるホウ素、硫黄、塩素と、濃度が1.2〜1000g/Lであるアルミニウムと、濃度が100〜1500g/Lである亜鉛とを含む。前記ステップ(2)の電気メッキは、速度が10〜500m/minであり、電流が1200〜2500Aであり、電圧が120〜220Vである。
【0020】
また、ステップ(4)の冷却時間は、5〜30分間である。
【0021】
また、ステップ(5)において、延伸速度は、600〜1500m/minであり、アニーリング電圧は、12〜60Vであり、アニーリング電流は、15〜50Aである。
【発明の効果】
【0022】
当該技術案は、以下の有益な効果を有する。
【0023】
当該製造方法は、外層がアモルファス層であり、微細放電加工用に適用できる電極線を獲得することができる。当該電極線は、性能が高く、寿命が長く、幾何学的形状の一致性が高く、高精度の工具電極の加工及びリミットサイズの加工に適用できる。また、実際の加工要求に基づき、様々な複雑な形状の微細放電加工の要求を満たし、例えば、円柱形、円錐形、角柱状、ねじ状及び傾斜度のある電極(多軸連動デジタル制御システムを配置する必要がある)であり、工具電極の自動化形成が実現されやすい。また、当該製造方法は、生産工程が簡単であり、操作可能性が高く、製造ステップが少なく、生産設備が簡単であり、要求を満たす製品が得られやすく、規模化、自動化の生産が実現されやすい。
【0024】
本発明のもう1つの技術案は、微細放電加工における電極線の応用を提供する。
【0025】
当該技術案は、以下の有益な効果を有する。
【0026】
電極線は、外表面に覆われるアモルファス構造により、キャパシタンス効果による高エネルギー放出が大幅に減少されるので、放電プロセスにおいて均一な電気火花分布を形成することができる。
【0027】
アモルファスの混合組織は、電極線自身の放電損耗を下げ、連続して安定する微細放電腐食を実現し、電極線と微細な工具電極の隙間が一定であることを保障することができるので、微細な工具電極の表面品質が高まり、平滑度が高く、微小なひび割れが生じない。
【0028】
放電プロセスにおいて電極線自身が絶えずに一方向に移動して送りし、微細な工具電極が絶えずに回転するので、本発明による電極線に特殊な構造が設置されていることは、媒体の粘着性の抵抗力を有効的に減少させることができ、加工屑の排出がより容易になり、放電隙間における電気腐食の産物の過多の蓄積が避けられている。よって、異常放電の発生が低減し、加工表面の品質が高まる。
【0029】
本発明の電極線で加工することにより生じた粗さの値は、明らかに黄銅線で放電することにより生じた粗さの値より小さいので、本発明の電極線で加工された微細な工具電極の変質層がより小さく、微細な工具電極の使用寿命を高めることに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、微細放電加工の基本部材の模式図である。
図2図2は、本発明の電極線の完成品の局部断面模式図である。
図3図3は、本発明の第一の線材の横断面模式図である。
図4図4は、本発明の第二の線材の横断面模式図である。
図5図5は、本発明の第三の線材の横断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、具体的な実施形態を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、以下の具体的な実施形態に限らない。
【0032】
以下の実施形態は、本発明がカバーする範囲を限定するものではなく、記載のステップもその実行順序を限定するものではなく、記載の方向は、図面のみに限定される。当業者は、現有の周知常識を用いて本発明に対して明らかな改良を行っても、本発明の特許請求の範囲に属する。
【0033】
微細放電加工と伝統的な放電加工の違いは、微細放電加工対象のサイズがミクロンレベルであるので、微細加工電源のパルスのエネルギーが非常に小さく、通常、10−6〜10−7Jである。よって、微細放電加工は、通常、比較的長い時間を必要とする。また、微細放電加工における放電腐食除去は、主にワークピース材料の熱溶融のプロセスであるので、パルスのエネルギーが高ければ、ワークピース腐食除去の体積が大きくなり、相応する加工効率も高くなるが、ワークピースの表面の粗さ及び放電隙間も大きくなることを招き、加工精度を保証することが困難である。故に、単電極の微細放電加工にとって、加工効率及び精度を兼ねることが困難である。また、通常の低速ワイヤ放電加工に比べ、微細放電加工の電極損耗がより激しく、伝統的な電極交換の方法で電極を補償すれば、微細な工具電極の形状の一致性を保障することが困難だけではなく、再度装着する際の位置決め精度も保障することが困難である。
【0034】
微細放電加工技術は、非接触式であり、精度が高く、ばりがなく、熱処理後に加工可能である等のメリットを有し、導電材料の微小な構造部品の精密な製造に適用する。微細な構造の微細放電加工に対し、工程プロセスに適する微細な工具電極を用いる必要がある。図1は、現在の微細放電加工の基本的な部材を示している。
【0035】
本発明による技術案は、微細放電加工用電極線を提供する。図2に示すように、当該微細放電加工用電極線は、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、前記表面層は、コア材の外表面を覆う内層と、内層の外表面を覆い、アモルファス層である外層とを含むことを特徴とする。本発明による電極線は、外表面を覆うアモルファス構造により、原子が不規則的に配列し(原子の配列は長距離秩序なし)、抵抗率が高く、非常に高いキャパシタンス効果耐性を有するので、キャパシタンス効果による高エネルギー放出を大幅に減少させ、放電プロセスにおいて均一な電気火花分布を形成することができる。本発明の電極線の外層は、アモルファス材料であり、その特徴としては、組織構造が無定形又はガラス状態の構造を呈し、原子の配列は、短距離秩序があり、即ち、局部領域において質点の配列形式が結晶体に類似するが、このような、局部において規則正しく配列する領域は、非常に分散しており、これらの構造に大量の微細な空間があり、密度が比較的低く、融点もより高く、高温アブレーション現象が殆どない。無定形又はガラス状態の構造であるため、その組織が連続性を有しておらず、材質が硬くて脆いので、当該電極線は、熱膨張係数が比較的小さく、ピーク電流に耐える能力が比較的強い。よって、電極線の放電プロセスにおいて自身が燃え切れるまたは変形することを防止し、工具電極の表面の熱侵食及び凹凸の現象を軽減することができる。更に、微細放電加工オンライン加工の精度及び表面品質を向上させることができる。
【0036】
前記内層の外表面は、弛緩(緩和)及び/又は再構成表面構造を呈することが好ましい。表面張力の理論に基づき、気泡が弛緩又は再構成表面構造から逸出し、電極線と微細な電極の隙間に対する瞬間爆発力の直接な干渉を大幅に減少させることができ、微細放電加工の精度を高めることに有利である。アモルファス層の化学元素は、49.5〜90wt%のZn、1.5〜42wt%のCu、0.158〜6.6%のXという化学元素からなり、残量がOである。Xは、少なくとも3つの異なる元素X1、X2、X3を含み、X1は、Fe、Al又はCaであり、X2は、Si、C、S又はBであり、X3は、Fe、Al、Ca、Si、C、S又はBのうちの、X1、X2と異なる任意の一種類であり、その他の不可避な不純物の含量の合計が0.3wt%以下である。「Xは、少なくとも3つの異なる元素X1、X2、X3を含み、X1は、Fe、Al又はCaであり、X2は、Si、C、S又はBであり、X3は、Fe、Al、Ca、Si、C、S又はBのうちの、X1、X2と異なる任意の一種類である」ことは、Xの例に対し、Xは、少なくとも3つの異なる元素を含み、例えば、X1は、Feであり、X2は、Siであれば、X3は、Al、Ca、C、S又はBのうちのいずれか一種類であると理解すべきである。アモルファス層の混合組織は、電極線自身の放電損耗を下げ、連続して安定する微細な放電腐食を実現し、電極線と微細な工具電極の隙間が一定であることを保障し、微細な工具電極の表面品質を高め、平滑度が高く、微小なひび割れが生じない。また、表面層の金属の主な元素は、亜鉛であり、亜鉛のガス化効果がとても良く、放電効率を高めることに寄与し、加工速度を高め、加工時間を節約することができる。
【0037】
電極線の内層は、β相又はβ’相の銅亜鉛合金であることが好ましく、導電性能が優れ、微細な電気火花がポイント放電して工具電極を腐食することに有利である。β相又はβ’相の銅亜鉛合金は、約45%〜51%の亜鉛を含有する銅亜鉛合金を表す。一定の環境温度では、合金構造は、規則正しく且つ一定の脆さを有し、通常、β’相と呼ばれ、一定の温度を超えると、構造が不規則となり、β相と呼ばれる。β相とβ’相の間の転換は、避けられないが、与えられる影響がとても小さい。
【0038】
アモルファス層は、内層の外表面を完全又は未完全に覆う。アモルファス層の厚さは、1〜10μmであることが好ましく、前記内層の厚さは、5〜50μmである。
【0039】
前記電極線の製造方法は、以下の基本ステップを含む。
(1)コア材製造:直径が0.5〜1.5mmである黄銅母線を形成し、黄銅コア材の成分は、57.5〜71.5wt%のCu、0.003〜0.30wt%のFe、0.001〜0.10wt%のSiであり、残量がZnである。
(2)電気メッキ:ステップ(1)で得られた母線に対して脱脂、酸洗浄、水洗い及び電気メッキの処理を行い、母線上に厚さが0.5〜50μmである亜鉛メッキ層を形成し、第一の線材半製品を取得し、図3は、その横断面を示しており、電気メッキ液の化学成分は、濃度の合計が0.1〜400g/Lである炭素、窒素、酸素、水素と、濃度の合計が0.5〜600g/Lであるホウ素、硫黄、塩素と、濃度が1.2〜1000g/Lであるアルミニウムと、濃度が100〜1500g/Lである亜鉛とを含み、電気メッキは、速度が10〜500m/minであり、電流が1200〜2500Aであり、電圧が120〜220Vである。
(3)合金化:ステップ(2)で得られた第一の線材半製品に対して50〜550℃で合金化処理を行い、黄銅コア材、内層及び初期外層からなる第二の線材半製品を形成し、図4は、その横断面を示している。
(4)粉末冶金:ステップ(3)で得られた第二の線材半製品に対して粉末冶金により層被覆処理を行い、処理温度が300〜1000℃であり、処理温度が安定すると、与えられた任意の時間間隔内において、仕事空間内の任意の一点の最高温度と最低温度の差が20℃以下であり、100℃以下に冷却(5〜30分間以内)された後に窯出しし、黄銅コア材、内層及びアモルファス外層からなる第三の線材半製品を形成し、図5は、その横断面を示している。
(5)完成品までの延伸:ステップ(4)で得られた第三の線材半製品に対してマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工を行い、延伸速度が600〜1500m/minであり、アニーリング電圧が12〜60Vであり、アニーリング電流が15〜50Aであり、直径が0.05〜0.25mmである電極線の完成品を取得し、図2は、完成品の局部断面を示している。
【0040】
本発明の電極線は、引張強度をコンピュータ制御電子式万能試験機でテストし、導電率をブリッジ法でテストした。
【0041】
前記電極線は、微細放電加工に適用し、微細な工具電極のオンライン加工精度及び表面品質を有効的に高めることができる。その原因は、以下を含む。
【0042】
1)外表面を覆うアモルファス合金構造により、原子が不規則な配列を呈し、抵抗率が高く、とても高いキャパシタンス効果耐性を有し、キャパシタンス効果による高エネルギー放出を大幅に減少させ、放電プロセスにおいて均一な電気火花分布を形成することができる。
【0043】
2)アモルファスの混合組織は、電極線自身の放電損耗を下げ、連続して安定する微細な放電腐食を実現し、電極線と微細な工具電極の隙間が一定であることを保障し、微細な工具電極の表面品質を高め、平滑度が高く、微小なひび割れが生じない。
【0044】
3)電極線の表面層の内層の外表面に特殊な弛緩及び/又は再構成構造を設置することにより、表面張力の理論に基づき、気泡が弛緩又は再構成構造から逸出し、電極線と微細な工具電極の隙間に対する瞬間爆発力の直接な干渉を大幅に減少させることができ、微細放電加工の精度を高めることに有利である。
【0045】
4)放電プロセスにおいて電極線自身が絶えずに一方向に移動して送りし、微細な工具電極が絶えずに回転するので、本発明による電極線に特殊な構造が設置されていることは、媒体の粘着性の抵抗力を有効的に減少させることができ、加工屑の排出がより容易になり、放電隙間における電気腐食の産物の過多の蓄積が避けられている。よって、異常放電の発生が低減し、加工表面の品質が高まる。
【0046】
5)当該電極線は、材質がβ相又はβ’相の銅亜鉛合金である内層を有し、導電性能が優れ、微細な電気火花がポイント放電して工具電極を腐食することに有利である。
【0047】
6)当該電極線の表面層の金属の主な元素は、亜鉛であり、亜鉛のガス化効果がとても優れ、放電効率を高めることに寄与し、加工速度を高め、加工時間を節約することができる。
【0048】
7)当該電極線は、引張強度が高く、製品塑性と靱性を有するので、小さなシャフト型の線回収及び線出しに便利であり、線が切れにくい。
【0049】
8)当該電極線は、加工精度が高く、柔軟性が良いので、微細放電により電極をオンラインで製作する際の加工表面の品質を有効的に高め、微細放電加工技術の長足の発展を促進する。
【0050】
9)当該電極線は、実際の加工要求に基づき、様々な複雑な形状の微細放電加工の要求を満たし、例えば、円柱形、円錐形、角柱状、ねじ状及び傾斜度のある電極(多軸連動デジタル制御システムを配置する必要がある)であり、工具電極の自動化形成が実現されやすい。
【0051】
10)電気火花の変質層の厚さは、約Rmax値の3〜4倍であり、基本的に荒加工において形成する。本発明の電極線で加工することにより生じた粗さの値は、明らかに黄銅線で放電することにより生じた粗さの値より小さく、粗さの値が小さければ小さいほど、電極線のパルス幅が小さくなり、電流の作用時間が短くなり、熱量が材料の奥行き方向へ伝達するのに必要とする十分な時間がなく、熱量が達する深さも比較的小さいので、加工材料の変質層が比較的薄く、使用寿命がより長い。
【実施形態1】
【0052】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mm(ここでは、電極線の直径を指す)であり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と、内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、53.38wt%のZn、30.67wt%のCu、0.41wt%のAl、0.87wt%のC、0.003wt%のSi及び0.002wt%のSからなり、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、5.5μmであり、内層の外表面の構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが10μmである。
【0053】
前記微細放電加工用電極線の製造プロセスは、次の通りである。
【0054】
(1)直径が1.2mmであり、銅の含有量が62.8wt%であり、シリコンの含有量が0.01wt%である黄銅母線コア材を製造する。
【0055】
(2)ステップ(1)で得られた母線に対して脱脂、酸洗浄、水洗い及び連続電気亜鉛メッキの処理を行い、メッキ液の1リットルあたりの中に380gの硫酸亜鉛、25gの硫酸アルミニウム、及びポリエチレングリコール、アラビアゴム、ピーチレジン、デキストリン又はグルコース等の添加剤13gを添加し、メッキ層の厚さが10μmであり、第一の線材半製品を獲得する。なお、電気メッキは、速度が150m/minであり、電流が1200Aであり、電圧が150Vである。
【0056】
(3)ステップ(2)で電気メッキされた第一の線材半製品を、密封する容器に入れて真空排気し、真空度が−0.10MPaであり、その後、合金化処理を行い、温度が270℃であり、処理時間が600minであり、コア材とメッキ層に合金化及び化学偏析反応を完成させることで、電極線の内層の材質が得られ、内部の元素が線材半製品の表面に偏析し、第二の線材半製品を獲得する。
【0057】
(4)前記ステップ(3)で得られた第二の線材半製品を酸素雰囲気に置き、酸素の濃度を約20.9%とし、550℃まで温度上昇させ、焼結反応時間を180minとし、温度の変動を10℃以内に制御し、続いて風冷又は水冷を用いて30minの時間内で室温まで迅速に冷却し、その後、窯出しし、最終的に必要とする外層のアモルファス材料を形成して第三の線材半製品を獲得する。
【0058】
(5)最後に、前記得られた第三の線材半製品に対してマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工を行い、延伸速度が1000m/minであり、アニーリング電圧が32Vであり、アニーリング電流が25Aであり、直径が0.25mmである電極線の完成品を獲得する。
【実施形態2】
【0059】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、49.5wt%のZn、41.5wt%のCu、0.61wt%のFe、0.78wt%のCa、0.002wt%のSi及び0.002wt%のSを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、1μmであり、内層の外表面の構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが5μmである。
【実施形態3】
【0060】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、75.5wt%のZn、12wt%のCu、0.42wt%のFe、0.005wt%のSi及び0.003wt%のPを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、8μmであり、内層の外表面の再構成構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が46.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが40μmである。
【実施形態4】
【0061】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、60.5wt%のZn、12.5wt%のCu、0.55wt%のC、0.024wt%のAl及び0.024wt%のBを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、10μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.8wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが50μmである。
【実施形態5】
【0062】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、71.5wt%のZn、11.5wt%のCu、0.60wt%のCa、0.78wt%のFe、0.002wt%のSi及び0.85wt%のCを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、3μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が51.2wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが30μmである。
【実施形態6】
【0063】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、74.5wt%のZn、1.5wt%のCu、0.50wt%のCa、2.0wt%のFe、2.5wt%のB及び1.6wt%のCを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、7μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが38μmである。
【実施形態7】
【0064】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、77.5wt%のZn、14.7wt%のCu、0.60wt%のCa、0.78wt%のAl、0.002wt%のSi及び0.85wt%のCを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、4μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが25μmである。
【実施形態8】
【0065】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、82.5wt%のZn、5.2wt%のCu、0.50wt%のAl、0.98wt%のFe及び0.003wt%のSiを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、9μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が48.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが45μmである。
【実施形態9】
【0066】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、88.5wt%のZn、1.9wt%のCu、0.88wt%のFe、0.002wt%のB及び0.85wt%のSを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、5μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが30μmである。
【実施形態10】
【0067】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、55.5wt%のZn、42.5wt%のCu、0.05wt%のCa、0.1wt%のFe及び0.008wt%のSiを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、2μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが30μmである。
【実施形態11】
【0068】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、84.5wt%のZn、12.5wt%のCu、0.60wt%のCa、0.08wt%のSi及び0.85wt%のCを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、1μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が50.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが25μmである。
【実施形態12】
【0069】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、73.5wt%のZn、17.5wt%のCu、0.68wt%のCa、2.2wt%のSi及び0.8wt%のCを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、6μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が46.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが36μmである。
【実施形態13】
【0070】
微細放電加工用電極線は、直径D0が0.20mmであり、材質が黄銅であるコア材と、コア材の外を覆う表面層とを含み、表面層は、コア材の外表面を覆う内層と内層の外表面を覆う外層からなる。外層は、アモルファス層であり、90wt%のZn、3.5wt%のCu、0.2wt%のCa、1.8wt%のFe及び0.02wt%のSiを含み、残量がOである。当該アモルファス層の厚さは、7μmであり、内層の外表面の弛緩構造を完全又は未完全に覆う。当該電極線の内層は、材質は、亜鉛の含有量が48.5wt%であるβ相又はβ’相の銅亜鉛合金からなり、厚さが35μmである。
【比較例】
【0071】
比較例1、2は、D0が0.20mmである市販の赤銅線を、微細放電加工に応用する際にテストして比較する例である。
【0072】
比較例3、4、5は、D0が0.20mmである市販の普通の黄銅線A、B、Cを、微細放電加工に応用する際にテストして比較する例である。
【0073】
比較例6は、番号が201310562102.8であり、名称が低速ワイヤ電気火花放電加工用電極線及びその製造方法である特許に記載の技術案に基づいて製造された電極線を、微細放電加工に応用する際にテストして比較する例である。
【0074】
比較例7は、番号が201610795405.8であり、名称が単方向ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法である特許に記載の技術案に基づいて製造された電極線を、微細放電加工に応用する際にテストして比較する例である。
【0075】
<引張強度及び導電率>
電極線の完成品は、コンピュータ制御電子式万能試験機でその引張強度性能をテストし、その導電率をブリッジ法でテストし、表1は、その結果を表している。
【0076】
【表1】
表1の各データは、何れも同等の条件でテストして得られ、なお、電極線の直径は何れも0.20mmである。当然ながら、当業者は、各実施形態の中のコア材の直径、ステップ2、3、4の加工パラメータ及びステップ5のマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工の条件を有効的に調整することにより、各実施形態の中の完成品の電極線は、直径が0.05mm〜0.25mmの範囲内に変化するようにさせることができる。
【0077】
表1の本発明の微細放電加工用電極線の引張強度が比較的高く、良好な製品の塑性と靱性を有し、導電率が明らかに同類の製品のレベルを超えている。
【0078】
<微細放電加工試験>
試験でテストする微細放電機は、スイスSARIX会社が製造するSX−100HPM機器である。
【0079】
試験の条件は、次の通りである。
【0080】
テストする、加工される微細電極のサイズは、直径がφ10μm(電極の直径)であり、長さが150μmであり、材質がタングステン銅である。設備のパラメータは、X/Y/Z/Z2軸行程距離が250X150X150X150mmであり、Z軸送り速度が最大650mm/minであり、X、Y軸送り速度が最大800mm/minであり、解像度が0.1μmであり、冷却モードが70bar冷却オイル/水高圧ポンプである。
【0081】
加工する微細な工具電極は、放電機器SX−100HPMでその位置決め精度をテストし、レーザ線径測定機器でその形状精度(ここでは、真円度を指す)をテストし、ミツトヨ粗さ測定機器でその加工表面の粗さをテストし、200倍の光学顕微鏡でその加工表面の微小なひび割れの状況を観察し、表2は、その結果を示している。
【0082】
表2の各データは、何れも同等の条件でテストして得られ、なお、電極線の直径が何れも0.20mmである。当然ながら、当業者は、各実施形態の中のコア材の直径、ステップ2、3、4の加工パラメータ及びステップ5のマルチモード連続延伸及びオンライン応力緩和アニーリング加工の条件を有効的に調整することにより、各実施形態の中の完成品の電極線は、直径が0.05mm〜0.25mmの範囲内に変化するようにさせることができる。
【0083】
表2においては、実施形態1〜13の電極線及び比較例1〜7の電極線で加工して得られた微細な工具電極の性能データを比較し、本発明の微細放電加工用電極線が明らかな優勢を有し、本発明の微細放電加工用電極線で加工して得られた微細な工具電極がより高い位置決め精度及び形状精度を有し、加工表面の平滑度がより良く、加工表面に微小なひび割れが全然ない。
【0084】
【表2】
【符号の説明】
【0085】
1 第一のパルス電源
2 第二のパルス電源
3 電極線
4 工具電極
5 材料部材
6 加工液
7 ガイド
8 自動送り調節装置
301 コア材
302 内層
303 外層
304 電気メッキ層
305 初期外層
図1
図2
図3
図4
図5