特許第6980941号(P6980941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980941ウイルス不活化コート組成物、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法およびウイルス不活化コート材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6980941
(24)【登録日】2021年11月19日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】ウイルス不活化コート組成物、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法およびウイルス不活化コート材
(51)【国際特許分類】
   C09D 193/00 20060101AFI20211202BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20211202BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20211202BHJP
   A01N 63/50 20200101ALI20211202BHJP
   B32B 23/14 20060101ALI20211202BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20211202BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20211202BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20211202BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20211202BHJP
【FI】
   C09D193/00
   A01P1/00
   A01N43/16 A
   A01N63/50 100
   B32B23/14
   B32B7/12
   A01N25/02
   C09D7/63
   C09D7/20
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2021-88859(P2021-88859)
(22)【出願日】2021年5月27日
【審査請求日】2021年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2020-156043(P2020-156043)
(32)【優先日】2020年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
(72)【発明者】
【氏名】船木 亮佑
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−116692(JP,A)
【文献】 特開2011−236204(JP,A)
【文献】 特開2020−128354(JP,A)
【文献】 特開2019−123889(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
A01N
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含み、
前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、およびアンジオテンシン変換酵素IIから選ばれる少なくとも1種であり、
前記膠100質量部に対して、前記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、前記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、
前記膠、前記アルコールおよび前記水の合計を100質量%としたときに、前記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、前記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、前記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含み、
前記アルキルアミンオキシドは、下記式(1)で表される化合物であり、
【化1】

前記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であり、R2およびR3はメチル基である、
ウイルス不活化コート組成物。
【請求項2】
さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含み、
前記膠、前記アルキルアミンオキシド、前記ウイルス捕捉剤、前記アルコールおよび前記水の合計100質量部に対して、前記ハジキ防止剤を0.3質量部以上3.0質量部以下の量で含む、
請求項1に記載のウイルス不活化コート組成物。
【請求項3】
さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含み、
前記膠、前記アルキルアミンオキシド、前記ウイルス捕捉剤、前記アルコールおよび前記水の合計100質量部に対して、前記着色剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の量で含む、
請求項1または2に記載のウイルス不活化コート組成物。
【請求項4】
ウイルス不活化対象物の表面に、請求項1〜3のいずれか1項に記載のウイルス不活化コート組成物を塗布し、ウイルス不活化コート層を形成する、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法。
【請求項5】
基体に、膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含むウイルス不活化コート組成物が含浸されており、
前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、およびアンジオテンシン変換酵素IIから選ばれる少なくとも1種であり、
前記ウイルス不活化コート組成物は、前記膠100質量部に対して、前記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、前記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、
前記アルキルアミンオキシドは、下記式(1)で表される化合物であり、
【化2】

前記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であり、R2およびR3はメチル基であり、
前記基体は、紙、不織布、織布、編物または多孔質構造体である、
ウイルス不活化コート材。
【請求項6】
前記ウイルス不活化コート組成物が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、
請求項5に記載のウイルス不活化コート材。
【請求項7】
前記ウイルス不活化コート組成物が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、
請求項5または6に記載のウイルス不活化コート材。
【請求項8】
粘着層と、基材と、ウイルス不活化コート層とがこの順で積層されており、
前記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、
前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、およびアンジオテンシン変換酵素IIから選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルキルアミンオキシドは、下記式(1)で表される化合物であり、
【化3】

前記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であり、R2およびR3はメチル基である、
ウイルス不活化コート材。
【請求項9】
基材と、基材上に積層され、ウイルス不活化対象物の表面に転写可能なウイルス不活化コート層とを有し、
前記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、
前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、およびアンジオテンシン変換酵素IIから選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルキルアミンオキシドは、下記式(1)で表される化合物であり、
【化4】

前記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であり、R2およびR3はメチル基である、
ウイルス不活化コート材。
【請求項10】
前記ウイルス不活化コート層が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、
請求項8または9に記載のウイルス不活化コート材。
【請求項11】
前記ウイルス不活化コート層が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、
請求項8〜10のいずれか1項に記載のウイルス不活化コート材。
【請求項12】
棒状に成形された成形体であり、
前記成形体は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、
前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、およびアンジオテンシン変換酵素IIから選ばれる少なくとも1種であり、
前記アルキルアミンオキシドは、下記式(1)で表される化合物であり、
【化5】

前記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であり、R2およびR3はメチル基である、
ウイルス不活化コート材。
【請求項13】
前記成形体が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、
請求項12に記載のウイルス不活化コート材。
【請求項14】
前記成形体が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、
請求項12または13に記載のウイルス不活化コート材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活化コート組成物、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法およびウイルス不活化コート材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(a)エタノールを7〜25質量%、ならびに(b)非イオン界面活性剤、両性界面活性剤および陽イオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を0.02〜0.7質量%含有する除菌用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−236204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の除菌用組成物を用いてウイルス不活化を行った場合は、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が持続しない問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能なウイルス不活化コート組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のウイルス不活化コート組成物は、膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含み、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種であり、上記膠100質量部に対して、上記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、上記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記膠、上記アルコールおよび上記水の合計を100質量%としたときに、上記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、上記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、上記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明のウイルス不活化コート組成物によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0009】
<実施形態のウイルス不活化コート組成物>
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含む。また、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、上記膠100質量部に対して、上記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、上記シアル酸を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含む。また、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、上記膠、上記アルコールおよび上記水の合計を100質量%としたときに、上記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、上記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、上記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含む。
【0010】
なお、本明細書において、ウイルス不活化とは、ウイルスを死滅させる(感染性を失わせる)ことを意味する。ウイルスとしては、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなど、エンベロープを有するウイルスが挙げられる。
【0011】
上記成分を上記特定の量で含む実施形態のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス不活化対象物の表面に塗布して用いられる。塗布された実施形態のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス不活化対象物の表面でウイルス不活化コート層を形成する。ウイルス不活化コート層は、長期間安定して存在できるため、ウイルス不活化効果が長期間持続可能である。また、ウイルス不活化コート層は、べたつかないため、ウイルス不活化対象物の使用に影響を与えない。さらに、ウイルス不活化コート層は、後述する水性染料を含まない場合は無色透明であるため、ウイルス不活化対象物の美観を損ねない。また、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、金属を変色させないため、ウイルス不活化対象物が金属で構成されている場合も、ウイルス不活化対象物の美観を損ねない。
【0012】
実施形態のウイルス不活化コート組成物から形成されるウイルス不活化コート層は、水溶性のため、水拭きによって取り去ることができる。ウイルス不活化コート層の形成から一定期間経過すると、ウイルス不活化コート層の表面に汚れが付着する場合がある。上記汚れによって、ウイルス不活化効果が低下する場合もあり得る。このような場合には、ウイルス不活化コート層を水拭きによって取り去り、新たに、実施形態のウイルス不活化コート組成物を用いてウイルス不活化コート層を設けることができる。
【0013】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、沈殿も生じ難く、保存安定性に優れる。たとえば、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、密閉容器中、5℃以上60℃以下で変質せず、好適に保存できる。
【0014】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、膠を含む。膠は、ウイルス不活化コート層中、網目構造を構成し、その網目の中に、アルキルアミンオキシドおよびシアル酸を安定して保持できると考えられる。このため、実施形態のウイルス不活化コート組成物を用いたウイルス不活化コート層によれば、ウイルス不活化効果が長期間持続すると考えられる。膠を用いることにより、べたつかず、後述する水性染料を含まない場合は無色透明であり、変質し難いウイルス不活化コート層が形成できる。また、膠が上記の量で含まれているため、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、保存安定性に優れ、好適な厚さのウイルス不活化コート層が形成できる。また、より好適な厚さのウイルス不活化コート層を均一に形成する観点からは、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、上記膠、上記アルコールおよび上記水の合計を100質量%としたときに、上記膠を2.0質量%以上3.0質量%以下の量で、上記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、上記水を89.5質量%以上95.5質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0015】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、アルキルアミンオキシドを含む。アルキルアミンオキシドは、エンベロープを有するウイルスのエンベロープを損傷し、無毒化、無害化できる。アルキルアミンオキシドは、少量でも、ウイルスを無毒化、無害化でき、膠との相性がよいため、好適に用いられる。また、アルキルアミンオキシドは、実施形態のウイルス不活化コート組成物の塗布性を向上する役割も有する。
【0016】
アルキルアミンオキシドは、たとえば、下記式(1)で表される化合物が好適に用いられる。アルキルアミンオキシドは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
上記式(1)中、R1は、アミド基で分断されていてもよい炭素原子数8〜16のアルキル基またはアルケニル基を示し、R2、R3は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜3のアルキル基または炭素原子数1〜3のヒドロキシアルキル基を示す。
【0019】
上記式(1)中、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基または炭素原子数8〜14のアルカノイルアミノプロピル基であることが好ましく、R1は炭素原子数8〜14のアルキル基であることがより好ましく、R2、R3はメチル基であることが好ましい。
【0020】
アルキルアミンオキシドとしては、具体的には、N−デシル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ラウリル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ミリスチル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−カプロイルアミノプロピル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ラウロイルアミノプロピル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ミリスチロイルアミノプロピル−N,N−ジメチルアミンオキシドが挙げられる。これらのうちで、N−ラウリル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−デシル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ミリスチル−N,N−ジメチルアミンオキシドが特に好ましい。
【0021】
アルキルアミンオキシドが上記の量で含まれているため、実施形態のウイルス不活化コート組成物を用いて形成されたウイルス不活化コート層は、長期間ウイルス不活化効果を維持できるようになる。また、ウイルス不活化コート層のべたつきも抑えられる。
【0022】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、シアル酸を含む。シアル酸は、ウイルス(インフルエンザウイルスなど)の表面上に存在するヘマグルチニンに結合し、ウイルスを捕捉することができる。すなわち、シアル酸は、ウイルス捕捉剤の1種であり、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス捕捉剤としてシアル酸を含むといえる。ウイルス不活化対象物に設けられたウイルス不活化コート層に含まれるシアル酸がウイルスを捕捉していると、その後、ウイルス不活化対象物に触れた人がいたとしても、その人にウイルスが移り難くなる。また、シアル酸がウイルスを捕捉していると、アルキルアミンオキシドがウイルスを無毒化、無害化している間、ウイルスの移動が抑えられる。このため、ウイルスを確実に無毒化、無害化できる。
【0023】
シアル酸とは、ノイラミン酸の総称である。シアル酸は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。シアル酸としては、たとえば、N−アセチルノイラミン酸、N−グリコリルノイラミンが挙げられる。
【0024】
シアル酸が上記の量で含まれているため、実施形態のウイルス不活化コート組成物を用いて形成されたウイルス不活化コート層は、ウイルスを好適に捕捉できる。また、シアル酸が上記の量で含まれているため、実施形態のウイルス不活化コート組成物の保存安定性を向上できる。
【0025】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、炭素原子数1〜3のアルコールを含む。アルコールは、実施形態のウイルス不活化コート組成物の塗布性を向上できる。また、実施形態のウイルス不活化コート組成物の保存安定性を高められる。
【0026】
炭素原子数1〜3のアルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。アルコールは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アルコールが上記の量で含まれていると、実施形態のウイルス不活化コート組成物中の他の成分が析出せず、保存安定性の点で好ましい。
【0028】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、水を含む。水は、金属成分を除去したイオン交換水、蒸留水が好適に用いられる。
【0029】
さらに、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含んでいてもよい。このようなハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物に対して、はじかずに塗布することができる。故に、実施形態のウイルス不活化コート組成物がはじかれて塗布できずにウイルス不活化コート層が形成されない部位、すなわちウイルスを不活化できない部位をなくすことができる。さらに、ウイルス不活化コート層となった場合に、上記ハジキ防止剤は、該層から徐々に揮発して添加の影響が小さくなると考えられる。
【0030】
上記シロキサン化合物において、ポリアルキレンオキサイド構造としては、ポリエチレンオキサイド構造(−[CH2CH2O]n−)、ポリプロピレンオキサイド構造(−[CH2CH2CH2O]n−)が挙げられる。上記シロキサン化合物としては、トリシロキサン化合物であっても、テトラシロキサン化合物であってもよく、トリシロキサン化合物であることが好ましい。上記シロキサン化合物は、具体的には、Poly(oxy−1,2−ethanediyl),.alpha.−methyl−.omega.−[3−[1,3,3,3−tetramethyl−1−[(trimethylsilyl)oxy]−1−disiloxanyl]propoxy]−(CAS 27306−78−1、単体の引火点214℃)であることが好ましい。上記ハジキ防止剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記ハジキ防止剤は、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.3質量部以上3.0質量部以下の量で含まれていることが好ましい。上記ハジキ防止剤は、このように少量を添加しただけで効果があり、目的の機能を損なわない範囲で加えることが好ましい。
【0032】
さらに、実施形態のウイルス不活化コート組成物は、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含んでいてもよい。このような着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物に対して塗布できているか否か、あるいは、ウイルス不活化コート層が形成できているか否かを容易に確認できる。水溶性染料を含む場合は、目視で確認できる。また、クマリン誘導体を含む場合は、紫外線を照射すると発せられる蛍光により確認できる。なお、ウイルス不活化対象物の外観色が変わってもよいときには、水溶性染料が好適に用いられ、ウイルス不活化対象物の外観色が変わらない方がよいときには、クマリン誘導体が好適に用いられる。
【0033】
水溶性染料としては、実施形態のウイルス不活化コート組成物中に溶解できれば、特に制限されないが、たとえばベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)、ベーシックブルー17(CAS 92−31−9)などの青色染料、アシッドグリーン3(CAS 4680−78−8)などの緑色染料、アシッドレッド52(CAS 3520−42−1)などの赤色染料が好適に用いられる。上記水溶性染料は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
クマリンは、2H−クロメン−2−オンを基本骨格とする化合物である。クマリン誘導体としては、たとえば上記基本骨格の7位に電子供与性基が導入されている化合物が挙げられる。電子供与性基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基が挙げられる。また、上記基本骨格の4位に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基を有していてもよい。これらのうちで、上記基本骨格の7位にジエチルアミノ基を有し、上記基本骨格の4位にメチル基を有するクマリン誘導体が好適に用いられる。上記クマリン誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記着色剤は、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下の量で含まれていることが好ましい。
【0036】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、さらに、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、たとえば、酸化チタンが挙げられる。その他の成分を含む場合は、上記膠100質量部に対して、その他の成分を0.1質量部以上5.0質量部以下の量で含んでいてもよい。
【0037】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、上述した成分を上記の量で適宜混合して調製することができる。
【0038】
実施形態のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化に好適に用いられる。ウイルス不活化対象物としては、金属、プラスチック、ガラス、陶器、木、皮革などで構成された製品が挙げられる。このような製品としては、ドアノブ、手すり、カウンター、家具、生活雑貨、時計バンド(金属または皮革で構成された時計バンド)が挙げられる。ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法では、具体的には、ウイルス不活化対象物の表面に、上述したウイルス不活化コート組成物を塗布し、ウイルス不活化コート層を形成する。ウイルス不活化対象物の表面に、実施形態のウイルス不活化コート組成物が塗布された後、アルコールおよび水がある程度蒸発すると、ウイルス不活化コート層となる。このウイルス不活化コート層は、べたつかず、水性染料を含まない場合は無色透明であり、ウイルス不活化対象物の表面に安定して存在できる。これにより、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能となる。
【0039】
また、実施形態のウイルス不活化コート組成物が、ハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位により確実に該層を形成できる。さらに、実施形態のウイルス不活化コート組成物が、着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が形成できているかを容易に確認できる。
【0040】
実施形態のウイルス不活化コート組成物を塗布する際には、15℃以上25℃で行うことが好ましい。具体的には、ウイルス不活化対象物表面に対して、実施形態のウイルス不活化コート組成物を含浸させた布やはけにより、上記組成物を塗布してもよく、霧吹き、噴霧器を用いて、上記組成物を塗布してもよい。あるいは、ウイルス不活化対象物表面に、実施形態のウイルス不活化コート組成物を流し、上記表面上の余分な上記組成物を布で拭いて塗布してもよい。さらに、実施形態のウイルス不活化コート組成物をスポンジキャップ付容器に入れて、スポンジキャップのスポンジを介して上記組成物を塗布してもよい。
【0041】
実施形態のウイルス不活化コート組成物を塗布し直す際には、まず、既に形成されているウイルス不活化コート層を水拭きによって取り去る。次いで、上記のように、新たに、ウイルス不活化コート層を設ける。ウイルス不活化コート層の表面に汚れによって、ウイルス不活化効果が低下しても、新たに設けたウイルス不活化コート層により、再びウイルス不活化効果が発揮される。
【0042】
<実施形態のウイルス不活化コート組成物の変形例>
上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物では、ウイルス捕捉剤としてシアル酸を含む場合について説明した。これに対して、変形例のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス捕捉剤として、シアル酸の代わりに、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンを含んでいる。C−タイプレクチンとしては、DC−SIGN、L−SIGN、MR、MGLが挙げられる。これらウイルス捕捉剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、シアル酸と、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンとを併用してもよい。スルファチドは、シアル酸と同様に、ウイルスのうち、特にインフルエンザウイルスなどの表面上に存在するヘマグルチニンに結合し、ウイルスを捕捉することができる。一方、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンは、ウイルスのうち、特に新型コロナウイルス(SARS−Cov−2)などの表面上に存在するヘマグルチニンに結合し、ウイルスを捕捉することができる。このため、ウイルス不活化対象物に設けられたウイルス不活化コート層に含まれるウイルス捕捉剤がウイルスを捕捉することができ、その後、ウイルス不活化対象物に触れた人がいたとしても、その人にウイルスが移り難くなる。また、ウイルス捕捉剤がウイルスを捕捉していると、アルキルアミンオキシドがウイルスを無毒化、無害化している間、ウイルスの移動が抑えられる。このため、変形例のウイルス不活化コート組成物によっても、ウイルスを確実に無毒化、無害化できる。
【0043】
変形例のウイルス不活化コート組成物は、ウイルス捕捉剤としてシアル酸以外の上記ウイルス捕捉剤を含むほかは、上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物と同様である。なお、ウイルス捕捉剤の2種以上を併用する場合は、その合計量が、膠100質量部に対して、0.1質量部以上1.0質量部以下の量であることが好ましい。ウイルス捕捉剤が上記の量で含まれていると、変形例のウイルス不活化コート組成物を用いて形成されたウイルス不活化コート層は、ウイルスを好適に捕捉できる。
【0044】
<実施形態1〜4のウイルス不活化コート材>
実施形態1のウイルス不活化コート材は、基体に、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含むウイルス不活化コート組成物が含浸されており、上記ウイルス不活化コート組成物は、上記膠100質量部に対して、上記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、上記シアル酸を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記基体は、紙、不織布、織布、編物または多孔質構造体である。上記ウイルス不活化コート組成物は、上記膠、上記アルコールおよび上記水の合計を100質量%としたときに、上記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、上記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、上記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0045】
実施形態1のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート組成物は、さらに、上記ハジキ防止剤を含んでいてもよい。上記ハジキ防止剤は、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.3質量部以上3.0質量部以下の量で含まれていることが好ましい。また、実施形態1のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート組成物は、さらに、上記着色剤を含んでいてもよい。上記着色剤は、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.01質量部以上1.0質量部以下の量で含まれていることが好ましい。
【0046】
上記ウイルス不活化コート材は、具体的には、基体に、上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物を含浸させて作製する。なお、上記ウイルス不活化コート材の作製後、アルコールおよび水は蒸発しうる。このため、実施形態1のウイルス不活化コート材中、アルコールおよび水の量は、作製直後よりも減っている場合もある。
【0047】
ウイルス不活化対象物に上記ウイルス不活化コート材を接触させると、ウイルス不活化対象物の表面に、基体に含浸されていた上記ウイルス不活化コート組成物が塗布され、ウイルス不活化コート層が形成できる。ウイルス不活化対象物の表面に、上記ウイルス不活化コート組成物が塗布された後、アルコールおよび水がある程度蒸発すると、ウイルス不活化コート層となる。このウイルス不活化コート層により、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間発揮される。また、上記ウイルス不活化コート組成物が、ハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位により確実に該層を形成できる。さらに、上記ウイルス不活化コート組成物が、着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が形成できているかを容易に確認できる。
【0048】
具体的には、実施形態1のウイルス不活化コート材は、個包装された包装体としてもよく、複数個を含む包装体としてもよい。個包装された包装体としては、1個のウイルス不活化コート材を袋に収容した包装体が挙げられる。このような包装体は、たとえば、長方形のフィルムにより上記ウイルス不活化コート材を包囲し、端部をヒートシールして製造できる。複数個を含む包装体としては、平たく折り重ねた複数のウイルス不活化コート材を積層した状態で袋に収容した包装体が挙げられる。このような包装体も、たとえば、長方形のフィルムにより上記ウイルス不活化コート材を包囲し、端部をヒートシールして製造できる。複数個を含む包装体の場合は、包装体を構成しているフィルムに、ウイルス不活化コート材を取り出すための開口部を設けておき、開口部を開閉可能に覆う蓋材を備えておくことが好ましい。これによれば、ウイルス不活化コート材を1個ずつ取り出しやすく、かつ、開封後にも開口部を閉じることでウイルス不活化コート材の変質を防止できる。また、複数個を含む包装体としては、ロール状に巻いたウイルス不活化コート材を円筒形状の容器に詰めた包装体も挙げられる。
【0049】
実施形態2のウイルス不活化コート材は、粘着層と、基材と、ウイルス不活化コート層とがこの順で積層されており、上記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、シアル酸を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含む。基材は、たとえば、樹脂、紙、布、金属などからなる。
【0050】
実施形態2のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート層は、さらに、上記ハジキ防止剤を含んでいてもよい。また、実施形態2のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート層は、さらに、上記着色剤を含んでいてもよい。
【0051】
上記ウイルス不活化コート層は、具体的には、上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物から、水およびアルコールを蒸発させて得られる。このため、実施形態2のウイルス不活化コート材中、アルコールおよび水の量は、通常、上記ウイルス不活化コート組成物中よりも減っている。
【0052】
上記ウイルス不活化コート材は、粘着層を介してウイルス不活化対象物に貼り付けることができる。上記ウイルス不活化コート材表面のウイルス不活化コート層により、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間発揮される。また、上記ウイルス不活化コート層が、ハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位により確実に該層を貼り付けられる。さらに、上記ウイルス不活化コート層が、着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が貼り付けられているかを容易に確認できる。
【0053】
具体的には、実施形態2のウイルス不活化コート材は、ロール状に重ね巻きされた巻物であってもよい。また、実施形態2のウイルス不活化コート材は、粘着層側に、さらに剥離層が積層されていてもよい。この場合は、上記ウイルス不活化コート材は、剥離層を剥離して、露出した粘着層により、ウイルス不活化対象物に貼り付けることができる。
【0054】
実施形態3のウイルス不活化コート材は、基材と、基材上に積層され、ウイルス不活化対象物の表面に転写可能なウイルス不活化コート層とを有し、上記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、シアル酸を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含む。
【0055】
実施形態3のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート層は、さらに、上記ハジキ防止剤を含んでいてもよい。また、実施形態2のウイルス不活化コート材において、上記ウイルス不活化コート層は、さらに、上記着色剤を含んでいてもよい。
【0056】
上記ウイルス不活化コート層は、具体的には、上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物から、水およびアルコールを蒸発させて得られる。このため、実施形態3のウイルス不活化コート材中、アルコールおよび水の量は、通常、上記ウイルス不活化コート組成物中よりも減っている。
【0057】
ウイルス不活化対象物を水で濡らし、上記ウイルス不活化コート層を接触させると、上記ウイルス不活化コート層が一部溶解する。次いで、ウイルス不活化対象物の表面で、溶解した上記ウイルス不活化コート層の一部が固まり、上記ウイルス不活化コート層が転写される。このウイルス不活化コート層により、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間発揮される。また、上記ウイルス不活化コート層が、ハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位により確実に該層を転写できる。さらに、上記ウイルス不活化コート層が、着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が転写されているかを容易に確認できる。
【0058】
実施形態4のウイルス不活化コート材は、棒状に成形された成形体であり、上記成形体膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、シアル酸を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含む。
【0059】
実施形態4のウイルス不活化コート材において、上記成形体は、さらに、上記ハジキ防止剤を含んでいてもよい。また、実施形態2のウイルス不活化コート材において、上記成形体は、さらに、上記着色剤を含んでいてもよい。
【0060】
上記ウイルス不活化コート材は、具体的には、上述した実施形態のウイルス不活化コート組成物から、水およびアルコールを蒸発させて得られる。このため、実施形態4のウイルス不活化コート材中、アルコールおよび水の量は、通常、上記ウイルス不活化コート組成物中よりも減っている。
【0061】
ウイルス不活化対象物を水で濡らし、上記ウイルス不活化コート材を擦り付けると、ウイルス不活化コート材が一部溶解する。次いで、ウイルス不活化対象物の表面に、溶解したウイルス不活化コート材の一部からウイルス不活化コート層が形成される。このウイルス不活化コート層により、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間発揮される。また、上記成形体が、ハジキ防止剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位により確実に該層を形成できる。さらに、上記成形体が、着色剤を含んでいると、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が形成されているかを容易に確認できる。
【0062】
具体的には、実施形態4のウイルス不活化コート材は、スティックのり容器、口紅の容器などのような繰り出し式容器に収容してもよい。
【0063】
<実施形態1〜4のウイルス不活化コート材の変形例>
上述した実施形態1〜4のウイルス不活化コート材では、ウイルス捕捉剤としてシアル酸を含む場合について説明した。これに対して、変形例のウイルス不活化コート材は、ウイルス捕捉剤として、シアル酸の代わりに、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンを含んでいる。C−タイプレクチンとしては、DC−SIGN、L−SIGN、MR、MGLが挙げられる。これらウイルス捕捉剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、シアル酸と、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンとを併用してもよい。スルファチドは、シアル酸と同様に、ウイルスのうち、特にインフルエンザウイルスなどの表面上に存在するヘマグルチニンに結合し、ウイルスを捕捉することができる。一方、アンジオテンシン変換酵素IIまたはC−タイプレクチンは、ウイルスのうち、特に新型コロナウイルス(SARS−Cov−2)などの表面上に存在するヘマグルチニンに結合し、ウイルスを捕捉することができる。このため、ウイルス不活化対象物に設けられたウイルス不活化コート層に含まれるウイルス捕捉剤がウイルスを捕捉することができ、その後、ウイルス不活化対象物に触れた人がいたとしても、その人にウイルスが移り難くなる。また、ウイルス捕捉剤がウイルスを捕捉していると、アルキルアミンオキシドがウイルスを無毒化、無害化している間、ウイルスの移動が抑えられる。このため、変形例のウイルス不活化コート材によっても、ウイルスを確実に無毒化、無害化できる。
【0064】
変形例のウイルス不活化コート材は、ウイルス捕捉剤としてシアル酸以外の上記ウイルス捕捉剤を含むほかは、上述した実施形態1〜4のウイルス不活化コート材と同様である。なお、ウイルス捕捉剤の2種以上を併用する場合は、その合計量が、膠100質量部に対して、0.1質量部以上1.0質量部以下の量であることが好ましい。変形例のウイルス不活化コート材は、実施形態のウイルス不活化コート組成物の代わりに、変性例のウイルス不活化コート組成物を用いることにより製造できる。
【0065】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含み、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種であり、上記膠100質量部に対して、上記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、上記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記膠、上記アルコールおよび上記水の合計を100質量%としたときに、上記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、上記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、上記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含む、ウイルス不活化コート組成物。
上記〔1〕のウイルス不活化コート組成物によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能である。
〔2〕 さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含み、上記膠、上記アルキルアミンオキシド、上記ウイルス捕捉剤、上記アルコールおよび上記水の合計100質量部に対して、上記ハジキ防止剤を0.3質量部以上3.0質量部以下の量で含む、請求項1に記載のウイルス不活化コート組成物。
上記〔2〕のウイルス不活化コート組成物によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層をより確実に形成できる。
〔3〕 さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含み、上記膠、上記アルキルアミンオキシド、上記ウイルス捕捉剤、上記アルコールおよび上記水の合計100質量部に対して、上記着色剤を0.01質量部以上1.0質量部以下の量で含む、〔1〕または〔2〕に記載のウイルス不活化コート組成物。
上記〔3〕のウイルス不活化コート組成物によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化コート層を形成したい部位に該層が形成できているかを容易に確認できる。
〔4〕 ウイルス不活化対象物の表面に、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のウイルス不活化コート組成物を塗布し、ウイルス不活化コート層を形成する、ウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法。
上記〔4〕のウイルス不活化対象物のウイルス不活化方法によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間発揮できる。
〔5〕 基体に、膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含むウイルス不活化コート組成物が含浸されており、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種であり、上記ウイルス不活化コート組成物は、上記膠100質量部に対して、上記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、上記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記基体は、紙、不織布、織布、編物または多孔質構造体である、ウイルス不活化コート材。
〔6〕 上記ウイルス不活化コート組成物が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、〔5〕に記載のウイルス不活化コート材。
〔7〕 上記ウイルス不活化コート組成物が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、〔5〕または〔6〕に記載のウイルス不活化コート材。
〔8〕 粘着層と、基材と、ウイルス不活化コート層とがこの順で積層されており、上記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種である、ウイルス不活化コート材。
〔9〕 基材と、基材上に積層され、ウイルス不活化対象物の表面に転写可能なウイルス不活化コート層とを有し、上記ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種である、ウイルス不活化コート材。
〔10〕 上記ウイルス不活化コート層が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、〔8〕または〔9〕に記載のウイルス不活化コート材。
〔11〕 上記ウイルス不活化コート層が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載のウイルス不活化コート材。
〔12〕 棒状に成形された成形体であり、上記成形体は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、上記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種である、ウイルス不活化コート材。
〔13〕 上記成形体が、さらに、ハジキ防止剤としてポリアルキレンオキサイド構造を含む基を有するシロキサン化合物を含む、〔12〕に記載のウイルス不活化コート材。
〔14〕 上記成形体が、さらに、着色剤として水溶性染料またはクマリン誘導体を含む、〔12〕または〔13〕に記載のウイルス不活化コート材。
上記〔5〕〜〔13〕のウイルス不活化コート材によれば、ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能である。
【0066】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1−1]
膠(商品名:粉膠、藤倉応用化工株式会社製)、ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)、N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)、エタノールおよび水を用いて、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
ここで、作製したウイルス不活化コート組成物は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。また、膠、アルコールおよび水の合計を100質量%としたときに、膠を2.0質量%の量で、アルコールを5.0質量%の量で、水を93.0質量%の量で含んでいた(表1)。
【0068】
[実施例1−2〜1−4]
表1に示すように、膠の量を変更した以外は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0069】
[実施例2−1〜2−2]
表1に示すように、アルキルアミンオキシドの量を変更した以外は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0070】
[実施例3−1]
表1に示すように、シアル酸の量を変更した以外は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0071】
[比較例1−1]
膠の代わりに、ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール4000、東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、コート組成物を作製した。
【0072】
【表1】
【0073】
なお、表1において、アルキルアミンオキシドおよびシアル酸の量(質量部)は、膠またはポリエチレングリコール100質量部に対する量である。また、膠またはポリエチレングリコール、アルコールおよび水の量(質量%)は、膠またはポリエチレングリコール、アルコールおよび水の合計を100質量%としたときの量である。
【0074】
[評価方法およびその結果]
〔ウイルス不活化試験〕
(1)TCID50法により、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物のウイルス感染価を求めた。具体的には、ガラス片(50mm×50mmの正方形)上に、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物を塗布し、常温にて1時間乾かし、ウイルス不活化コート層を形成した。ウイルス不活化コート層の形成後すぐに、このウイルス不活化コート層上に、インフルエンザウイルスを含む溶液0.4mLを付着し、滅菌フィルムを重ね、一定時間静置した。次いで、生理食塩水が入った滅菌パックに、滅菌フィルムを重ねたままガラス片を入れ、残存ウイルスを浮遊させた。次いで、上記生理食塩水を希釈し、残存ウイルスを培養し、5日後、細胞の形態変化を観察した。なお、対照用に、ウイルス不活化コート層を形成しなかったガラス片を用いた。これにより、ウイルス感染価を求めた。
また、ウイルス不活化コート層を形成後、1カ月室温にて静置した場合についても、ウイルス感染価を求めた。すなわち、1カ月室温にて静置したウイルス不活化コート層上に、インフルエンザウイルスを含む溶液0.4mLを付着し、滅菌フィルムを重ね、一定時間静置した。次いで、生理食塩水が入った滅菌パックに、滅菌フィルムを重ねたままガラス片を入れ、残存ウイルスを浮遊させた。次いで、上記生理食塩水を希釈し、残存ウイルスを培養し、5日後、細胞の形態変化を観察した。なお、対照用に、ウイルス不活化コート層を形成しなかったガラス片を用いた。これにより、ウイルス感染価を求めた。
(2)インフルエンザウイルスの代わりに、豚感染コロナウイルスを含む溶液を用いた以外は、上記(1)と同様にして、ウイルス感染価を求めた。
(3)実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例1−2〜1−4、2−1、2−2、3−1で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記(1)、(2)と同様にしてウイルス感染価を求めた。
(4)実施例1−1〜1−4、2−1、2−2、3−1で得られたウイルス不活化コート組成物は、いずれも、得られたウイルス感染価より、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。具体的には、形成後すぐのウイルス不活化コート層および1カ月室温にて静置したウイルス不活化コート層ともに、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。このように、ウイルス不活化コート層は、ウイルス不活化効果を長期間持続できることが分かった。
【0075】
〔ウイルス不活化コート層の形成および除去〕
(1)マットな表面を有する机の表面上に、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物を含浸させた布を用いて、上記ウイルス不活化コート組成物を塗布し、常温にて1時間乾かし、ウイルス不活化コート層を形成した。ウイルス不活化コート層が形成されたことにより、机表面に光沢が見られた。また、表面を触っても、べたつかなかった。
その後、水で濡らした布でウイルス不活化コート層上を拭いたところ、机表面は元のマットな外観に戻った。ウイルス不活化コート層が除去できたことが分かった。
(2)実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例1−2〜1−4、2−1、2−2、3−1で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記(1)と同様にして、ウイルス不活化コート層の形成および除去を行った。
いずれも、ウイルス不活化コート層が形成されたことにより、机表面に光沢が見られた。また、表面を触っても、べたつかなかった。その後、水で濡らした布でウイルス不活化コート層上を拭いたところ、机表面は元のマットな外観に戻った。ウイルス不活化コート層が除去できたことが分かった。
(3)実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、比較例1−1で得られたコート組成物を用いた以外は、上記(1)と同様にして、コート層の形成および除去を行った。
コート層が形成されたことにより、机表面に光沢が見られた。ただし、表面を触るとべたついていた。その後、水で濡らした布でコート層上を拭いたところ、机表面は元のマットな外観に戻った。コート層が除去できたことが分かった。
【0076】
〔霧吹きによるウイルス不活化コート層の形成〕
(1)マットな表面を有する机の表面上に、霧吹きを用いて、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物を塗布し、常温にて1時間乾かし、ウイルス不活化コート層を形成した。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
(2)実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例1−2〜1−4、2−1、2−2、3−1で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記(1)と同様にして、ウイルス不活化コート層の形成を行った。
実施例1−2、2−1、2−2、3−1で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた場合も、机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
一方、実施例1−3、1−4で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた場合は、机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が形成されたことが分かったが、層の表面に凹凸が見られた。なお、ウイルス不活化効果には問題はないと考えられる。
【0077】
[実施例4−1]
不織布に、実施例1−1のウイルス不活化コート組成物を含浸させて、ウイルス不活化コート材を作製した。このため、ウイルス不活化コート材には、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含むウイルス不活化コート組成物が含まれており、ウイルス不活化コート組成物は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。次いで、平たく折り重ねた複数のウイルス不活化コート材を積層した状態で袋に収容した包装体とした。具体的には、長方形のフィルムにより上記ウイルス不活化コート材を包囲し、端部をヒートシールして製造した。ここで、包装体を構成しているフィルムに、ウイルス不活化コート材を取り出すための開口部を設け、開口部を開閉可能に覆う蓋材を設けた。また、上記フィルムは、第一の樹脂フィルムと、アルミニウム箔と、ヒートシール性を有する第二の樹脂フィルムとがこの順に積層された積層フィルムであった。
包装体からウイルス不活化コート材を取り出した。次いで、マットな表面を有する机の表面上に、ウイルス不活化コート材を用いてウイルス不活化コート組成物を塗布し、ウイルス不活化コート層を形成した。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0078】
[実施例4−2]
粘着層と、基材と、ウイルス不活化コート層とがこの順で積層されたウイルス不活化コート材を作製した。ウイルス不活化コート材は、ロール状に重ね巻きされた巻物とした。また、ウイルス不活化コート層は、実施例1−1のウイルス不活化コート組成物を用いて、水およびアルコールを蒸発させて形成した。このため、ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。
マットな表面を有する机の表面上に、粘着層を介してウイルス不活化コート層を貼り付けた。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0079】
[実施例4−3]
剥離層と、粘着層と、基材と、ウイルス不活化コート層とがこの順で積層されたウイルス不活化コート材を作製した。ウイルス不活化コート層は、実施例1−1のウイルス不活化コート組成物を用いて、水およびアルコールを蒸発させて形成した。このため、ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。
マットな表面を有する机の表面上に、剥離層を剥離し、露出した粘着層を介してウイルス不活化コート層を貼り付けた。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0080】
[実施例4−4]
基材と、基材上に積層され、ウイルス不活化対象物の表面に転写可能なウイルス不活化コート層とを有するウイルス不活化コート材を作製した。ウイルス不活化コート層は、実施例1−1のウイルス不活化コート組成物を用いて水およびアルコールを蒸発させて形成した。このため、ウイルス不活化コート層は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。
マットな表面を有する机の表面上を水で濡らし、ウイルス不活化コート層を接触させ、机の表面に、ウイルス不活化コート層を転写した。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0081】
[実施例4−5]
棒状に成形された成形体であり、膠、アルキルアミンオキシドおよびシアル酸を含むウイルス不活化コート材を作製した。ウイルス不活化コート材は、実施例1−1のウイルス不活化コート組成物を用いて水およびアルコールを蒸発させて形成した。このため、ウイルス不活化コート材は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。次いで、棒状のウイルス不活化コート材を繰り出し式容器に収容した。
マットな表面を有する机の表面上を水で濡らし、容器先端から繰り出したウイルス不活化コート材を擦り付けると、机の表面に、ウイルス不活化コート層が形成された。机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0082】
[実施例5−1]
ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)の代わりに、デシルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:カデナックス(登録商標)DM10D−W、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0083】
[実施例5−2]
ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)の代わりに、テトラデシルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:カデナックス(登録商標)DM14D−N、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0084】
[実施例6−1]
N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)の代わりに、スルファチド(Sulfatides、製品番号:131305P、メルク株式会社製)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0085】
[実施例6−2]
N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)の代わりに、アンジオテンシン変換酵素II(カタログ番号:SAE0064、製品名:Angiotensin Converting Enzyme−2,ACE2、メルク株式会社製)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0086】
[評価方法およびその結果]
〔ウイルス不活化試験〕
実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活性コート組成物について、実施例1−1で得られたウイルス不活性コート組成物と同様に、ウイルス不活化試験を行った。すなわち、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記〔ウイルス不活化試験〕の(1)、(2)と同様にしてウイルス感染価を求めた。
実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活化コート組成物は、いずれも、得られたウイルス感染価より、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。具体的には、形成後すぐのウイルス不活化コート層および1カ月室温にて静置したウイルス不活化コート層ともに、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。このように、ウイルス不活化コート層は、ウイルス不活化効果を長期間持続できることが分かった。
【0087】
〔ウイルス不活化コート層の形成および除去〕
実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活性コート組成物について、実施例1−1で得られたウイルス不活性コート組成物と同様に、ウイルス不活化コート層の形成および除去を行った。すなわち、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記〔ウイルス不活化コート層の形成および除去〕の(1)と同様にしてコート層の形成および除去を行った。
いずれも、ウイルス不活化コート層が形成されたことにより、机表面に光沢が見られた。また、表面を触っても、べたつかなかった。その後、水で濡らした布でウイルス不活化コート層上を拭いたところ、机表面は元のマットな外観に戻った。ウイルス不活化コート層が除去できたことが分かった。
【0088】
〔霧吹きによるウイルス不活化コート層の形成〕
実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活性コート組成物について、実施例1−1で得られたウイルス不活性コート組成物と同様に、霧吹きによるウイルス不活化コート層の形成を行った。すなわち、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例5−1、5−2、6−1、6−2で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記〔霧吹きによるウイルス不活化コート層の形成〕の(1)と同様にしてコート層の形成および除去を行った。
いずれも、机表面に光沢が見られ、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
【0089】
[実施例7−1]
膠(商品名:粉膠、藤倉応用化工株式会社製)、ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)、N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)、ハジキ防止剤としてPoly(oxy−1,2−ethanediyl),.alpha.−methyl−.omega.−[3−[1,3,3,3−tetramethyl−1−[(trimethylsilyl)oxy]−1−disiloxanyl]propoxy]−(CAS 27306−78−1)(信越シリコーン、品名:KP−110、信越化学工業株式会社製)、エタノールおよび水を用いて、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
ここで、作製したウイルス不活化コート組成物は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。また、膠、アルコールおよび水の合計を100質量%としたときに、膠を2.0質量%の量で、アルコールを5.0質量%の量で、水を93.0質量%の量で含んでいた。
また、上記ハジキ防止剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.3質量部の量で含んでいた。
【0090】
[実施例7−2]
上記ハジキ防止剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、1.0質量部の量で含むように用いた他は、実施例7−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0091】
[実施例7−3]
上記ハジキ防止剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、3.0質量部の量で含むように用いた他は、実施例7−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0092】
[実施例8−1]
膠(商品名:粉膠、藤倉応用化工株式会社製)、ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)、N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)、ハジキ防止剤としてPoly(oxy−1,2−ethanediyl),.alpha.−methyl−.omega.−[3−[1,3,3,3−tetramethyl−1−[(trimethylsilyl)oxy]−1−disiloxanyl]propoxy]−(CAS 27306−78−1)(信越シリコーン、品名:KP−110、信越化学工業株式会社製)、着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)、エタノールおよび水を用いて、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
ここで、作製したウイルス不活化コート組成物は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。また、膠、アルコールおよび水の合計を100質量%としたときに、膠を2.0質量%の量で、アルコールを5.0質量%の量で、水を93.0質量%の量で含んでいた。
また、上記ハジキ防止剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.3質量部の量で含んでいた。
また、上記着色剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.01質量部の量で含んでいた。
【0093】
[実施例8−2]
上記着色剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、1.0質量部の量で含むように用いた他は、実施例8−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0094】
[実施例8−3]
上記着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)の代わりに、アシッドグリーン3(CAS 4680−78−8)(製品コード:G0176、東京化成工業株式会社製)を用いた他は、実施例8−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0095】
[実施例8−4]
上記着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)の代わりに、アシッドレッド52(CAS 3520−42−1)(製品コード:A0600、東京化成工業株式会社製)を用いた他は、実施例8−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0096】
[実施例8−5]
上記着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)の代わりに、上記基本骨格の7位にジエチルアミノ基を有し、上記基本骨格の4位にメチル基を有するクマリン誘導体(商品名:M0631、東京化成工業株式会社製)を用いた他は、実施例8−1と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0097】
[実施例8−6]
膠(商品名:粉膠、藤倉応用化工株式会社製)、ラウリルジメチルアミンオキシド水溶液(商品名:ユニセーフ(登録商標)A−LM、日油株式会社製)、N−アセチルノイラミン酸(ナカライテスク株式会社製)、着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)、エタノールおよび水を用いて、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
ここで、作製したウイルス不活化コート組成物は、膠100質量部に対して、アルキルアミンオキシドを1.0質量部の量で、シアル酸を0.1質量部の量で含んでいた。また、膠、アルコールおよび水の合計を100質量%としたときに、膠を2.0質量%の量で、アルコールを5.0質量%の量で、水を93.0質量%の量で含んでいた。
また、上記着色剤を、膠、アルキルアミンオキシド、シアル酸、アルコールおよび水の合計100質量部に対して、0.01質量部の量で含んでいた。
【0098】
[実施例8−7]
上記着色剤としてベーシックブルー12(CAS 2381−85−3)(製品コード:N0317、東京化成工業株式会社製)の代わりに、上記基本骨格の7位にジエチルアミノ基を有し、上記基本骨格の4位にメチル基を有するクマリン誘導体(商品名:M0631、東京化成工業株式会社製)を用いた他は、実施例8−6と同様にして、ウイルス不活化コート組成物を作製した。
【0099】
[評価方法およびその結果]
〔ウイルス不活化試験〕
実施例7−1〜7−3、8−1〜8−7で得られたウイルス不活性コート組成物について、実施例1−1で得られたウイルス不活性コート組成物と同様に、ウイルス不活化試験を行った。すなわち、実施例1−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例7−1〜7−3、8−1〜8−7で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記〔ウイルス不活化試験〕の(1)、(2)と同様にしてウイルス感染価を求めた。
実施例7−1〜7−3、8−1〜8−7で得られたウイルス不活化コート組成物は、いずれも、得られたウイルス感染価より、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。具体的には、形成後すぐのウイルス不活化コート層および1カ月室温にて静置したウイルス不活化コート層ともに、インフルエンザウイルスおよび豚感染コロナウイルスを充分不活化できることが分かった。このように、ウイルス不活化コート層は、ウイルス不活化効果を長期間持続できることが分かった。
【0100】
〔ウイルス不活化コート層の形成(ハジキ防止性能およびウイルス不活化コート層の形成確認)〕
(1)マットな白色表面を有する机の表面上に、実施例8−1で得られたウイルス不活化コート組成物を含浸させた布を用いて、上記ウイルス不活化コート組成物を塗布し、常温にて1時間乾かし、ウイルス不活化コート層を形成した。ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。具体的には、着色剤を含むため、着色したウイルス不活化コート層が得られた。机の表面の色の均一性により、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
(2)実施例8−1で得られたウイルス不活化コート組成物の代わりに、実施例8−2〜8−7で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた以外は、上記(1)と同様にして、ウイルス不活化コート層の形成を行った。
実施例8−2〜8−5で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた場合も、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。具体的には、実施例8−2〜8−4では、着色剤を含むため、着色したウイルス不活化コート層が得られた。机の表面の色の均一性により、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。また、実施例8−5では、無色透明のウイルス不活化コート層が得られた。机の表面にブラックライトを当てたところ、蛍光の均一性により、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。
一方、実施例8−6で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた場合も、着色したウイルス不活化コート層が得られた。机の表面の色の均一性により、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。ただし、実施例8−1〜8−4の方が、机の表面の色がより均一であり、ウイルス不活化コート層がより均一に形成されたことが分かった。
また、実施例8−7で得られたウイルス不活化コート組成物を用いた場合も、無色透明のウイルス不活化コート層が得られた。机の表面にブラックライトを当てたところ、蛍光の均一性により、ウイルス不活化コート層が均一に形成されたことが分かった。ただし、実施例8−5の方が、机の表面の蛍光がより均一であり、ウイルス不活化コート層がより均一に形成されたことが分かった。
なお、実施例8−1〜8−5では、ハジキ防止剤および着色剤を用いたが、着色剤を用いずハジキ防止剤を用いた実施例7−1〜7−3も、ハジキ防止剤を用いたことにより、ウイルス不活化コート層をより均一に形成できると考えられる。
【要約】
【課題】ウイルス不活化対象物において、ウイルス不活化効果が長期間持続可能なウイルス不活化コート組成物を提供すること。
【解決手段】ウイルス不活化コート組成物は、膠、アルキルアミンオキシド、ウイルス捕捉剤、炭素原子数1〜3のアルコールおよび水を含み、前記ウイルス捕捉剤は、シアル酸、スルファチド、アンジオテンシン変換酵素IIおよびC−タイプレクチンから選ばれる少なくとも1種であり、前記膠100質量部に対して、前記アルキルアミンオキシドを0.1質量部以上2.0質量部以下の量で、前記ウイルス捕捉剤を0.1質量部以上1.0質量部以下の量で含み、前記膠、前記アルコールおよび前記水の合計を100質量%としたときに、前記膠を2.0質量%以上9.0質量%以下の量で、前記アルコールを2.5質量%以上7.5質量%以下の量で、前記水を83.5質量%以上95.5質量%以下の量で含む。
【選択図】なし