特許第6980963号(P6980963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6980963荷電粒子ビームステアリング装置または方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980963
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】荷電粒子ビームステアリング装置または方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 15/00 20060101AFI20211202BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20211202BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20211202BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20211202BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20211202BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20211202BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20211202BHJP
【FI】
   B23K15/00 503
   B22F3/16
   B22F3/105
   B23K15/00 501B
   B29C64/153
   B29C64/264
   B33Y10/00
   B33Y30/00
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-521788(P2019-521788)
(86)(22)【出願日】2017年10月18日
(65)【公表番号】特表2019-533579(P2019-533579A)
(43)【公表日】2019年11月21日
(86)【国際出願番号】EP2017076636
(87)【国際公開番号】WO2018073319
(87)【国際公開日】20180426
【審査請求日】2020年10月7日
(31)【優先権主張番号】1617693.5
(32)【優先日】2016年10月19日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519142088
【氏名又は名称】リライアンス プレシジョン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クロスランド、ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】マクレランド、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ホイル、フィル
(72)【発明者】
【氏名】レイドラー、イアン
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/103493(WO,A1)
【文献】 特開2014−053113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/00
B22F 3/16
B22F 3/105
B29C 64/153
B29C 64/264
B33Y 10/00
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加層製造を用いて生成物を形成する方法であって、
前記生成物を一連の層として形成する段階であって、各層は、所望される層形状を形成するために、粉末床として堆積される粉末を荷電粒子ビームを用いる前記粉末床の走査により融合させて形成される、段階
を備え、
各層毎に、前記粉末は、比較的長距離の偏向器と比較的短距離の偏向器との組合せを用いる前記荷電粒子ビームの走査により前記粉末床の連続部位を溶融することによって融合され、前記比較的長距離の偏向器は、前記比較的短距離の偏向器より大きい偏向角にわたって前記荷電粒子ビームを偏向し、
前記方法は、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの基底位置を設定するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階と、前記比較的長距離の偏向器によって設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階と、を備え
前記方法はさらに、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの異なる基底位置を設定するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階と、前記比較的長距離の偏向器によって設定される前記異なる基底位置の各々の周りで前記荷電粒子ビームを走査して、前記粉末床上の一連の所定の形状をトレースするために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階と、を繰り返す段階であって、前記一連の所定の形状が組合されて前記所望される層形状が形成される、段階を備え、
前記方法は、さらに、前記粉末床上の各基底位置において、前記荷電粒子ビームを走査して、前記一連の所定の形状のうちのある所定の形状をトレースするために、前記比較的短距離の偏向器を繰り返し用いる段階と、前記荷電粒子ビームの電流および前記比較的短距離の偏向器の走査速度を制御して、前記所定の形状内における前記粉末床の温度を均一に上昇させかつ維持する段階と、を備え、
前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器の各々は、通電コイル対または静電偏向器を有する、方法。
【請求項2】
一連の所定の形状をトレースするために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階を備え、前記一連の所定の形状の大部分は通のサイズおよび形状を有し、前記一連の所定の形状の大部分はテッセレーションされ前記所望される層形状の部分を形成する、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの複数の基底位置のアレイを設定するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階を備え、各基底位置の辺りで前記荷電粒子ビームにより走査される前記所定の形状は、間に隙間を残すことなくテッセレーションされることにより前記所望される形状の一部を形成する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記荷電粒子ビームを比較的低速で走査するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階と、前記荷電粒子ビームを比較的高速で走査するために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階とを備える、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記比較的長距離の偏向器は、1コイル当たり巻数25を超える複数のヘルムホルツコイルを有する電磁偏向器であり、比較的短距離の偏向器は、1コイル当たり巻数5未満の複数のヘルムホルツコイルを有する電磁偏向器である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記比較的長距離の偏向器を、前記荷電粒子ビームを前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの前記基底位置に位置合わせするように設定する段階と、前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記比較的短距離の偏向器の前記設定を前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように変えながら維持する段階と、を備え、かつさらに、
前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記荷電粒子ビームを前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの異なる基底位置に位置合わせするように変更する段階と、前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記比較的短距離の偏向器の前記設定を前記比較的長距離の偏向器により設定される前記異なる基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように変えながら維持する段階とを備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
付加層製造に使用するための荷電粒子光学アッセンブリであって、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源により提供される荷電粒子から、伝播方向に沿って進む荷電粒子ビームを形成するように動作可能なビーム形成装置と、
ビームステアリング装置と、
を備え、
前記ビームステアリング装置は、前記荷電粒子ビームを比較的大きい偏向角にわたって偏向し、かつ末床上に前記荷電粒子ビームの基底位置を設定するように動作可能な比較的長距離の偏向器と、前記荷電粒子ビームを比較的小さい偏向角にわたってのみ偏向し、かつ前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように動作可能な比較的短距離の偏向器とを有し、
前記比較的長距離の偏向器は、前記粉末床上に、前記荷電粒子ビームの異なる基底位置を設定するために繰り返し用いられるように構成されており、前記比較的短距離の偏向器は、前記比較的長距離の偏向器によって設定される前記異なる基底位置の各々の周りで前記荷電粒子ビームを走査して、前記粉末床上で一連の所定の形状をトレースするために用いられるよう構成されており、
前記一連の所定の形状が組合されて所望される層形状が形成され、
前記比較的短距離の偏向器は、前記粉末床上の各基底位置において前記荷電粒子ビームを走査して、前記一連の所定の形状のうちのある所定の形状をトレースするよう構成されており、前記荷電粒子ビームの電流が制御され、かつ、前記比較的短距離の偏向器の走査速度が制御されて、前記所定の形状内における前記粉末床の温度を均一に上昇させかつ維持し、
前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器の各々は、通電コイル対または静電偏向器を有する、荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項8】
前記比較的長距離の偏向器および/または前記比較的短距離の偏向器は、前記荷電粒子ビームを前記伝播方向に対して横方向に偏向させるように配置される、請求項に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項9】
前記比較的長距離の偏向器および/または前記比較的短距離の偏向器は、互いに対して、かつ前記伝播方向に対して直角に作用するように配置される第1の偏向器および第2の偏向器を含む、請求項に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項10】
前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器はそれぞれ、前記第1の偏向器および前記第2の偏向器を有し、
前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器の前記第1の偏向器は、前記荷電粒子ビームを共通の方向へ偏向するように配置され、かつ前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器の前記第2の偏向器は、前記荷電粒子ビームを共通の方向へ偏向するように配置される、請求項に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項11】
前記比較的長距離の偏向器および前記比較的短距離の偏向器双方の前記第1の偏向器および前記第2の偏向器は、前記荷電粒子ビームの経路の何れかの側に配置される他の電流伝送媒体のワイヤコイルを有するヘルムホルツコイルを含
前記比較的長距離の偏向器の前記ヘルムホルツコイルは、巻数50〜100のワイヤを含み、および/または前記比較的短距離の偏向器の前記ヘルムホルツコイルは、巻数1〜5のワイヤを含む、請求項10に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項12】
前記荷電粒子は、電子であり、かつ前記荷電粒子源は、電子源である、請求項7から11のいずれか一項に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
【請求項13】
請求項から12のいずれか一項に記載の荷電粒子光学アッセンブリと、
粉末を分配するように動作可能な少なくとも1つのホッパと、
前記少なくとも1つのホッパにより分配される前記粉末を、前記荷電粒子ビームを受け入れるための粉末床を画定する量で受け入れるように位置合わせされるテーブルと
を備える付加層製造装置。
【請求項14】
前記比較的長距離の偏向器は、前記荷電粒子ビームを、前記粉末床の面積の少なくとも半分にわたって走査するように動作可能であり、比較的短距離の偏向器は、前記荷電粒子ビームを、前記粉末床の前記面積の半分未満にわたって走査するように動作可能である、
請求項13に記載の付加層製造装置。
【請求項15】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行するようにプログラムされるコントローラをさらに備える、請求項13または14に記載の付加層製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な荷電粒子ビームステアリング装置を備える付加層製造装置に関し、かつ具体的には、新規な電子ビームステアリング装置に関する。本発明は、付加層製造装置における電子ビーム等の荷電粒子ビームをステアリングする方法にも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
付加層製造は、成熟した技術分野である。この技術は、基板媒体に注入されて基板のパーツを変造するエネルギー、例えば、形成されるべき生成物の一層を形成するように基板を溶融、融合または硬化させるエネルギーに注目する。新しい基板媒体の付加、および次層の形成が続く。このようにして、生成物は、一層ずつ形成され得る。
【0003】
基板媒体は、必要に応じて多くの異なる材料から選択され得る。例えば、基板媒体として一般的に使用されるものは、プラスチックおよび金属である。金属は、1つまたは複数のホッパから粉末形態で提供され、かつ作業台上に散開されて粉末床に形成され得る。各層が形成されるにつれて、作業台が粉末床の深さ分だけ下降され、新しい粉末床が仕掛品上に堆積され得る。
【0004】
エネルギー源は、典型的には、レーザビームまたは電子ビームの何れかである。本発明は、基本的には電子ビーム源に関するものであるが、他のタイプの荷電粒子ビームにも及ぶ。このような電子ビーム源は、電子ビームをステアリングまたは調整するために、電界および/または磁界を用いて制御される。一般に、電子ビームは、エネルギー源として使用され、かつ電磁偏向器を用いてステアリングされる。これらの電磁偏向器は、電子ビームが基板媒体にわたって走査されることを可能にし、よって、基板媒体上でパターンが走査またはトレースされ得る。
【0005】
形成されるべき生成物は、設計段階でXYZ直交座標にマッピングされる。生成物は、次に、最終製品を製造すべく連続的に形成される層に「分解」され得る。形成されるべき各層は、XY直交座標を用いて記述される(Z座標は、各層毎に決まっている)。電磁偏向器は、電子ビームを、アドレス可能グリッドとしてのXY座標を用いて画定される所望の経路に従って走査するために使用される。任意の特定の層について粉末床内に形成されるべき形状は、ビームが走査パターンを辿るに伴ってビームにより形成される。走査パターンは、通常、ベクトル(例えば、各直線の始点と終点とを結ぶ)により画定される可変長さの単純な線を含む。これらの線は、結合して、その層の所望される形状を形成する。
【0006】
電子ビームが粉末床上で走査されるにつれて、粉末内にエネルギーが蓄積され、その温度を上昇させる。電子ビームへの暴露は、上層内の粉末粒子が融合し合い、かつ上層内の粉末粒子が先行層とも融合して固体生成物が形成されるように、粉末の完全な溶融が保証されるべく慎重に制御される。しかしながら、粉末床に蓄積されるエネルギーは、欠陥の発生を防止しかつ材料微細構造の正しい形成を保証するように制御されなければならない。
【0007】
溶融池は、電子ビームがそのエネルギーを伝達するにつれて、かつ金属粉末を通して熱が伝導されるにつれて形成される。必要な全てのエネルギーを粉末床のある特定の場所に、電子ビームをその場所に留まるように制御することによって一回で堆積するのではなく、電子ビームは、通常、溶融池内で連続的に走査される。典型的には、電子ビームは、ある場所に複数回到来する。電子ビームがある場所を通るたびに、電子ビームは、その場所の温度を徐々に上昇させ、最終的に粉末が溶融する。任意の一時に、単に1つの溶融池ではなく、複数の別々の溶融池を形成することも知られている。従って、電子ビームは、ある特定の溶融池内で連続的に走査され、次に、粉末床を横断して比較的長い距離を別の溶融池へ、等々、と偏向され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子ビームを溶融池から溶融池へ移動させることは、溶融を必要としない粉末床の部位が繰り返し横断されることにより、ビームの時間およびパワーが無駄になることを意味する。今日まで、この問題に対処する試みは、走査方針および熱制御を最適化するための走査アルゴリズムを開発することに集中している。例えば、努力の多くは、各層の形状を、溶融を必要としない粉末床部位の横断を最小にする走査パターンへと変形する最良の方法に集中されてきた。しかしながら、これらの技術は、複雑でありかつ幾何学的形状に依存する。概して、作られる生成物に対しては、個々に特注の走査パターンが開発されなければならない。
【0009】
また、現在の走査パターンは、電子ビーム制御に対する要件が全く異なる。溶融池間で電子ビームを偏向させるためには、8000m/秒ものビーム偏向速度が報告されているが、各溶融池内での走査に際して妥当な溶融特性を達成するために必要な偏向速度は、毎秒数十メートルであるとされている。電磁偏向器の設計に際しては、溶融池間の走査とは対照的に、1つの溶融池内での走査に対する異なる要件を満たすことが大きな課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様によれば、本発明は、付加層製造を用いて生成物を形成する方法に存する。本方法は、生成物を一連の層として形成する段階を含み、各層は、所望される層形状を形成するために、粉末床として堆積される粉末を荷電粒子ビームを用いる粉末床の走査により融合させて形成される。各層毎に、粉末は、比較的長距離の偏向器と比較的短距離の偏向器との組合せを用いる荷電粒子ビームの走査により粉末床の連続部位を溶融することによって融合され、比較的長距離の偏向器は、短距離の偏向器より大きい偏向角にわたって荷電粒子ビームを偏向する。
【0011】
荷電粒子ビームは、電子ビームであってもよく、よって以下、荷電粒子ビームは、電子ビームであるものとする。しかしながら、以下で電子ビームが記述される場合、これは、荷電粒子ビームの説明でもあって、本発明が電子ビームに限定されないことは理解されるべきである。粉末は、金属粉末であってもよい。
【0012】
ビームのステアリングおよび制御には2つの態様があり、かつこれらの2つの態様が分離可能であることは、認識されている。第1に、ビームが粉末床の全ての部位にアクセスできるようにする長距離偏向が存在する。この長距離偏向は、溶融池間で電子ビームを走査するために使用されてもよい。したがって、比較的長距離の偏向器は、粉末床上に荷電粒子ビームの位置を設定するために使用されてもよい。
【0013】
第2に、電子ビームにより所望される走査パターンを達成するために使用される電子ビームの短距離偏向が存在する。したがって、比較的短距離の偏向器は、比較的長距離の偏向器によって設定される位置の近くで電子ビームを走査するために使用されてもよい。比較的長距離および短距離の偏向器の精度は、同じであってもよい。すなわち、比較的長距離および短距離の偏向器は、粉末床上の電子ビームの位置を同じ精度で設定可能であってもよい。精度は同じであり得るが、比較的長距離の偏向器は、概して、比較的短距離の偏向器より大きいステップサイズを有する位置間で電子ビームを移動させるために使用される。
【0014】
長距離偏向が、比較的長距離の偏向器である第1の偏向器(本明細書では、「メインフィールド」偏向器と呼ばれることもある)によって実行され、かつ精密偏向が、比較的短距離の偏向器である第2の偏向器(本明細書では、「サブフィールド」偏向器と呼ばれることもある)により小規模な偏向として実行され得ることは、認識されている。比較的長距離の偏向器は、粉末床の全範囲にわたって、または少なくとも粉末床の大部分にわたって電子ビームを偏向してもよい。一方で、比較的短距離の偏向器は、遙かに短い距離にわたって電子ビームを偏向してもよい。例えば、比較的短距離の偏向器は、電子ビームを、比較的長距離の偏向器の範囲のほんの一部、例えば前記範囲の10%以下、または1%以下の範囲にわたって偏向してもよい。比較的長距離の、および比較的短距離の偏向器は、役割が分かれていることから、これらの偏向器の設計は、その個々の役割に対して最適化されてもよい。例えば、遅速である比較的長距離の偏向器は、電子ビームの長距離移動を実行するために使用されてもよいのに対して、より速い、比較的短距離の偏向器は、電子ビームの遙かに短い距離の移動を実行するために使用されてもよい。
【0015】
比較的短距離の偏向器を用いる電子ビームでは、遙かに速い走査速度が達成され得ることから、粉末床内へのエネルギー蓄積は、粉末床内への熱エネルギーの制御された分散に適する速度で行われてもよい。これにより、ある場所の温度が、電子ビームがその場所に到来するにつれて、例えば電子ビームへの暴露間の温度降下よりも、連続して上昇されることが可能になる。したがって、実際に、ある部位の温度は、従来技術による「線走査」方法により達成される互い違い式にではなく、同時的に上昇されることが可能である。したがって、本発明は、「ラインスキャナ」としてではなく、「エリアスキャナ」として考えられてもよい。すなわち、走査速度は、粉末床を介する熱の伝播より何倍も速いことから、走査部位は、極めて特有の形状を有する単一のビームに暴露されたかのように考えられ得る。部位の温度プロファイルは、その部位の境界条件を補正し、かつ均一な溶融を保証するように調整されることが可能である。
【0016】
したがって、本発明の方法は、粉末床上の電子ビームの基底位置を設定するために、比較的長距離の偏向器を用いる段階と、比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の周りで電子ビームを走査するために、比較的短距離の偏向器を用いる段階とを含んでもよい。本方法は、粉末床上で所定の形状をトレースすべく電子ビームを走査するために、比較的短距離の偏向器を用いる段階を含んでもよい。所定の形状、または本明細書では別段で「プリミティブ」と称されるものは、このような所定のプリミティブのライブラリから選択されてもよい。プリミティブには、正方形、長方形、三角形および六角形等の形状が含まれてもよい。また、不規則なプリミティブが使用されることもある。また、プリミティブは、比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の辺りに、例えば2つの長方形を組み合わせてL字型の複合形状を形成することにより、複合形状を形成するように組み合わされてもよい。
【0017】
本方法は、さらに、粉末床上で一連の所定の形状をトレースすべく、比較的長距離の偏向器を繰り返し用いて、粉末床上の電子ビームの異なる基底位置を設定する段階と、比較的短距離の偏向器を繰り返し用いて、比較的長距離の偏向器により設定される異なる基底位置の各々の周りで電子ビームを走査する段階を含んでもよく、前記所定の形状は、組合せによって所望される層形状を作り出す。例えば、所定の形状は、当接または重なり合いによって所望される層形状を果たすように配置されてもよい。所定の形状の大部分は、共通のサイズおよび形状を有してよく、テッセレーションして所望される層形状の一部を形成してよい。所定の形状は、全てが同じであるとは限らない。例えば、層形状の大部分は、同じ所定の形状を用いて形成され得るが、層形状に必要な縁部の作製には、他の形状が必要とされることがある。例えば、層形状の内部の形成には、正方形が使用され得るのに対して、これに必要な縁は、一連の三角形を用いて近づけられてもよい。
【0018】
本方法は、各基底位置の辺りで電子ビームにより走査される所定の形状が間に隙間を残すことなくテッセレーションすることにより所望される形状の一部が形成されている状態で、粉末床上の電子ビームの基底位置アレイを設定するために、比較的長距離の偏向器を用いる段階を含んでもよい。例えば、所定の形状の大部分には、正方形が使用されてもよく、その場合は、粉末床上の正方形の位置アレイ間で電子ビームを移動させるために、比較的長距離の偏向器が使用されてもよい。
【0019】
比較的長距離の偏向器は、好ましくは、電子ビームを比較的低速で走査するために使用され、かつ比較的短距離の偏向器は、電子ビームを比較的高速で走査するために使用される。比較的長距離の偏向器および比較的短距離の偏向器の何れかまたは双方においては、静電偏向器または電磁偏向器が使用されてもよい。1つまたは複数の電磁偏向器が使用される場合、これらは、典型的には、ワイヤまたは他の通電材料のコイル巻数を含む。比較的長距離の偏向器からは大きい偏向が要求されることから、(比較的短距離の偏向器を通る電流より)比較的大きい電流により駆動され得る比較的多数の巻数が使用されてもよい。比較的長距離の偏向器における大電流および多い巻数は、それが(この場合も、比較的短距離の偏向器よりも)比較的高いインダクタンス、延いては比較的遅いスルーレートを有することを意味する。対照的に、比較的短距離の偏向器に要求されることは、小さい偏向の電子ビームを提供することのみであって、比較的少ない巻数が使用されてもよく、かつ比較的小さい電流を用いてコイルが駆動されてもよい。これは、比較的短距離の偏向器が比較的低いインダクタンス、延いては比較的高いスルーレートを有することを意味する。その結果、溶融池内で所望される走査パターンを辿りながら電子ビームが達成可能な走査速度は、従来技術よりも増加する。単なる例として、比較的長距離の偏向器は、1コイル当たり巻数25を超えるヘルムホルツコイルを備える電磁偏向器であってもよく、かつ比較的短距離の偏向器は、1コイル当たり巻数5未満のヘルムホルツコイルを備える電磁偏向器であってもよい。
【0020】
効果的には、本方法は、比較的短距離の偏向器を用いて電子ビームを走査し、走査開始位置における粉末床の温度と、電子ビームが所定の形状をトレースするための走査を完了した時点の走査終了位置における温度とが略同一であるに足る速度で各所定形状をトレースする段階を含んでもよい。本方法は、さらに、粉末床上の各基底位置で同じ所定の形状をトレースすることにより粉末床の温度を所定の形状内で均一に上昇させかつ維持すべく、比較的短距離の偏向器を繰り返し用いて電子ビームを走査する段階を含んでもよい。先に述べたように、本方法は、「ラインスキャナ」としてではなく、「エリアスキャナ」として考えられてもよい。すなわち、走査速度は、粉末床を介する熱の伝播より何倍も速いことから、所定の形状を作り出すための走査部位は、所定の形状を有する単一のビームに暴露されたかのように考えられ得る。さらに、溶融池の縁が周囲の非加熱粉末床へより多くの熱を失うことにより引き起こされるエッジ効果にも対処することができる。すなわち、部位の温度プロファイルは、その部位の境界条件を補正し、かつ均一な溶融を保証するように調整されることが可能である。
【0021】
比較的長距離および短距離の偏向器を用いる電子ビームの移動は、一緒に、または別々に実行されてもよい。
【0022】
別々に実行される場合、本方法は、比較的長距離の偏向器を、電子ビームを粉末床上の電子ビームの基底位置に位置合わせするように設定して、比較的長距離の偏向器の設定を、比較的短距離の偏向器の設定を比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の周りで電子ビームを走査するように変えながら維持する段階を含んでもよい。よって、本方法は、さらに、比較的長距離の偏向器の設定を、電子ビームを粉末床上の電子ビームの異なる基底位置に位置合わせするように変更して、比較的長距離の偏向器の設定を、比較的短距離の偏向器の設定を比較的長距離の偏向器により設定される異なる基底位置の周りで電子ビームを走査するように変えながら維持する段階を含んでもよい。従って、一連の所定の形状は、電子ビームが、比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の辺りを走査して所定の形状を、比較的長距離の偏向器を用いて電子ビームを次の形状をトレースするための次の基底位置上へ移動させる前に形成すること、等々、によってトレースされてもよい。
【0023】
比較的長距離の偏向器と比較的短距離の偏向器とが一緒に使用される場合、本方法は、比較的短距離の偏向器の設定を、比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の周りで電子ビームを走査するように変えながら、比較的長距離の偏向器を、粉末床上の電子ビームの一連の基底位置を介して電子ビームを走査するように変える段階を含んでもよい。例えば、比較的長距離の偏向器は、粉末床にわたる電子ビームの低速走査を生じさせるために使用されてもよく、一方で、比較的短距離の偏向器は、比較的長距離の偏向器により設定される基底位置の辺りで電子ビームの高速走査を実行させるために使用されてもよく、これにより、所望される形状が形成される。効果的には、電子ビームの制御が2つの異なる偏向器間で分割されることから、高速走査速度および高速スルーレート用に最適化され得る比較的短距離の偏向器を使用すれば、単一の偏向器を用いて粉末床にわたる電子ビームの長距離、低スルーレートの走査、ならびに短距離、高スルーレートの高速走査の双方を実行した場合より、遙かに高速である電子ビームの走査を実行し得る。
【0024】
さらなる態様によれば、本発明は、付加層製造に使用するための荷電粒子光学アッセンブリに存する。本アッセンブリは、荷電粒子源と、荷電粒子源により提供される荷電粒子から、伝播方向に沿って進む荷電粒子ビームを形成するように動作可能なビーム形成装置とを備える。本アッセンブリは、さらに、ビームステアリング装置を備え、本ビームステアリング装置は、荷電粒子ビームを比較的大きい偏向角にわたって偏向するように動作可能な長距離の偏向器と、荷電粒子ビームを比較的小さい偏向角にわたってのみ偏向するように動作可能な短距離の偏向器とを備える。大小の偏向角は、粉末床上にわたる荷電粒子ビームの長距離および短距離移動として捉えられる。先に述べたように、荷電粒子ビームは、電子ビームであってもよく、よって以下、荷電粒子ビームは、電子ビームであるものとする。しかしながら、以下で電子ビームが記述される場合、これは、荷電粒子ビームの説明でもあって、本発明が電子ビームに限定されないことは理解されるべきである。
【0025】
長距離の偏向器は、電子ビームを伝播方向に対して横方向に偏向させるように配置されてもよい。長距離の偏向器は、互いに対して、かつ伝播方向に対して直角に作用するように配置される第1の偏向器および第2の偏向器を備えてもよい。
【0026】
短距離の偏向器は、電子ビームを伝播方向に対して横方向に偏向させるように配置されてもよい。短距離の偏向器は、互いに対して、かつ伝播方向に対して直角に作用するように配置される第1の偏向器および第2の偏向器を備えてもよい。上述のように、長距離の偏向器および短距離の偏向器の双方が第1の偏向器および第2の偏向器を備える場合、長距離の偏向器および短距離の偏向器の第1の偏向器は、電子ビームを共通の方向へ偏向するように配置されてもよい。同じく、長距離の偏向器および短距離の偏向器の第2の偏向器も、電子ビームを共通の方向へ偏向するように配置されてもよい。したがって、伝播方向がデカルト座標系のZ軸を画定するとされる場合、長距離および短距離の偏向器の第1の偏向器は、電子ビームをX方向へ偏向するように配置されてもよく、よって第2の偏向器は、電子ビームをY方向へ偏向するように配置されてもよい。
【0027】
全てを含む、偏向器のうちの何れかは、例えばヘルムホルツコイルである電磁偏向器を備えてもよい。ヘルムホルツコイルは、電子ビーム経路の何れかの側に配置される他の電流伝送媒体のワイヤコイルを備えてもよい。ヘルムホルツコイルが長距離の偏向器の第1の偏向器および第2の偏向器の一方または双方に使用される場合、各コイルは、巻数50〜100のワイヤを備えてもよい。ヘルムホルツコイルが短距離の偏向器の第1の偏向器および第2の偏向器の一方または双方に使用される場合、各コイルは、巻数1〜5のワイヤを備えてもよい。
【0028】
電子ビームのステアリングには、電磁偏向よりむしろ、静電偏向が使用されてもよい。したがって、長距離の偏向器および短距離の偏向器双方の第1の偏向器および第2の偏向器は、電子ビーム経路の何れかの側に配置される静電偏向器を備えてもよい。
【0029】
荷電粒子として電子が使用される場合、荷電粒子光学アッセンブリは、荷電粒子源として作用する電子源を備えてもよい。よって、ビーム形成装置は、電子ビームを形成してもよく、かつビームステアリング装置は、電子ビームをステアリングしてもよい。
【0030】
本発明は、付加層製造装置にも存し、本付加層製造装置は、上述の電子光学アッセンブリのうちの何れかと、粉末を分配するように動作可能な少なくとも1つのホッパと、少なくとも1つのホッパにより分配される粉末を、電子ビームを受け入れるための粉末床を画定する量で受け入れるように位置合わせされるテーブルとを備える。
【0031】
場合により、長距離の偏向器は、電子ビームを粉末床エリアの少なくとも半分にわたって、例えば粉末床エリアの少なくとも75%、90%または95%にわたって走査するように動作可能である。場合により、短距離の偏向器は、電子ビームを粉末床エリアの半分未満にわたって、例えば粉末床エリアの25%、10%、5%または1%未満にわたって走査するように動作可能である。
【0032】
付加層製造は、さらに、上述の方法のうちの何れかを実行するようにプログラムされるコントローラを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
次に、本発明をより容易に理解できるように、添付の図面を単に例として参照する。
【0034】
図1】本発明を使用できる付加層製造装置を示す。
図2a】本発明の実施形態による、電子ビームを供給しかつ電子ビームを走査するように動作可能な電子源および電磁偏向器アッセンブリを示す側面略図である。
図2b】本発明の実施形態による、電子ビームを供給しかつ電子ビームを走査するように動作可能な電子源および電磁偏向器アッセンブリを示す、図2aの線B−Bに沿った図である。
図3】電子ビームにより走査されるべきメインフィールドを形成する粉末床、およびメインフィールドをサブフィールドおよびプリミティブに分割し得る方法を示す略図である。
図4】本発明の一実施形態による、付加層製造中に生成物の層を形成する方法を示す略図である。
図5】粉末床、形成されるべき別の生成物の層、および生成物の層を覆うプリミティブの別の配置を示す略図である。
図6】付加層製造を用いて生成物を形成するための走査パターンの生成方法を示す略図である。
図7】付加層製造の間に生成物を形成するための走査パターンの生成方法を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の実施形態が実装され得る付加製造装置100を示す。装置100は、電子ビームを用いて金属粉末から生成物を付加層製造するためのものである。
【0036】
この目的に沿って、装置100は、後により詳細に説明するように、電子ビーム103を形成し、調整しかつステアリングする電子光学アッセンブリ101を備える。装置100は、さらに、金属粉末122を入れる粉末ホッパ121と、可動テーブル130とを備える。ホッパ121は、テーブル130上へ粉末の薄層を置くように粉末を分配する。任意の数のホッパ121が使用されてよく、よって、図1に示す2つは、単に一例である。
【0037】
粉末122をテーブル130上へ均等に分配するために、スクレーパまたはブレード(不図示)等の機構が使用されてもよい。電子光学アッセンブリ101は、電子ビーム103が粉末床123上で走査されて粉末122が融合されかつ固体生成物150が形成されるように、電子ビーム103をステアリングする。生成物150の各層が形成された後、テーブル130は、矢印131が示す方向へ下げられる。テーブル130は、粉末床123の上面が電子ビーム103に対して常に同じ高さで形成されるように下げられる。粉末床123の最初の層は、粉末122をテーブル130と融合させ得るテーブル130への熱伝導を最小限に抑えるために、後続層より厚くなるように堆積されてもよい。したがって、非溶融粉末124の完全な層が、生成物150の形成に伴ってその下に残される。
【0038】
電子ビームを用いる付加製造は、概して真空条件下で実行され、よって、装置100は、封入真空チャンバ140を備える。真空チャンバ140内の真空は、任意の一般的に利用可能なポンピングシステム、例えば粗引きポンプで裏打ちされるターボ分子ポンプ等のポンピングシステム144によって生成されかつ保持される。ポンピングシステム144は、コントローラ110によって制御されてもよい。図1に示すように、ポンピングシステム144は、真空チャンバ140の、電子光学アッセンブリ101を収容する部分を排気するために使用されてもよい。真空チャンバ140内の圧力は、1×10−3ミリバール〜1×10−6ミリバールの範囲内であってもよい。
【0039】
この目的に沿って、装置100は、電子を発生するための電子源102と、放出される電子から電子ビーム103を調整して形成するためのレンズ220と、電子ビーム103をステアリングするための電磁偏向器240、250とを含む電子光学アッセンブリ101を備える。電子源102および偏向器104の動作は、適切にプログラムされるコンピュータ等のコントローラ110によって制御される。
【0040】
図2aおよび図2bは、電子光学アッセンブリ101をより詳細に示す。電子光学アッセンブリ101は、電子を発生するための電子源102と、放出される電子から電子ビーム103を形成しかつ調整するためのレンズ220と、電子ビーム103をステアリングするための電磁偏向器240、250とを備える。電子源102、レンズ220および偏向器240、250の動作は、適切にプログラムされるコンピュータ等のコントローラ110によって制御される。電子源103およびレンズ220の配置は、従来のものが任意に使用されてもよく、よって、ここでは詳述しない。基本的に、電子源103およびレンズ220は、電子光学アッセンブリ101の中心軸202に沿って進む集束電子ビーム103を送達する。
【0041】
次に、電磁偏向器240および250は、電子ビーム103を粉末床123を横切るように方向づけステアリングすることにより、電子ビーム103を所望される走査パターンに従って走査する。これらの偏向器うちの第2の偏向器250は、電子ビームをより長い距離にわたって偏向し、よって本明細書では、これをメインフィールド偏向器250と称する。このメインフィールド偏向器250は、電子ビーム103のより長い範囲のステアリングを提供し、電子ビーム103を粉末床123の全範囲(または「メインフィールド」)にわたってステアリングすることができる。電子ビームをより短い距離にわたって偏向する偏向器は、メインフィールド偏向器250により生成される電磁場に小さい動的外乱を効果的に加えるサブフィールド偏向器240である。この動的外乱は、メインフィールド偏向器250により設定される位置の辺りで電子ビーム103を走査する。したがって、サブフィールド偏向器240の使用により、粉末床123の、メインフィールド偏向器250により設定される基底位置の辺りの小さいエリアまたは「サブフィールド」を介して電子ビーム103を走査することができる。後により詳細に説明するように、メインフィールド偏向器250を用いて電子ビーム103を粉末床123の異なるエリアへ動かすことにより、異なるサブフィールドが走査されてもよい。
【0042】
上述の偏向器240、250は各々、ヘルムホルツコイルのような通電コイル対を備える従来の電磁偏向器であっても、適切な電位に設定される導電プレート対を備える従来の静電偏向器であってもよい。何れの場合も、偏向器は、技術上周知であるように、コントローラ110によって、所望される偏向を提供するように動作させられる。
【0043】
メインフィールド偏向器250およびサブフィールド偏向器240は、電子ビーム103の経路を横断する方向に作用して、電子ビーム103を中心軸202から離れるようにステアリングする(または、電子ビーム103の中心軸202に沿った進行を保つ)。このステアリングは、別々の偏向器により制御される直交成分に分離される。したがって、偏向器240、250は、図2bに示すように、X座標およびY座標の双方で電子ビーム103の制御を実行するために、直交配置された対で設けられる。したがって、各偏向器には、4つのエレメントが存在する。例えば、図2bは、2つのヘルムホルツコイルを備えるメインフィールド偏向器250を示している。第1のコイル対250xは、電子ビーム103の両側に位置決めされてX座標方向に分離され、これにより、電子ビーム103のX方向におけるステアリングが可能にされる。第2のコイル対250yは、電子ビーム103の両側に位置決めされてY座標方向に分離され、これにより、電子ビーム103のY方向におけるステアリングが可能にされる。この配置は、サブフィールド偏向器240についても繰り返される。
【0044】
メインフィールド偏向器250は、0.1m、0.2m、0.3m、0.4m、0.5m等の距離にわたって、またはこれを超える距離にもわたって電子ビーム103を走査できるはずのものである(XおよびY座標の双方について言えるが、XおよびY方向の偏向距離は、正方形のメインフィールドを提供するように一致される必要はなく、長方形のメインフィールドも発生し得る)。この比較的大きい偏向距離を提供するために、メインフィールド偏向器250は、典型的には1コイル当たり巻数50〜100のワイヤを有する、約1〜10Aの電流を流しかつ約100kHzの周波数で動作するヘルムホルツコイルとして設計されてもよい。あるいは、電子ビーム103を正および負双方のXおよびY方向へ偏向するために、各軸内に、±約5,000Vの可変電圧が印加される平行電極プレートが使用されてもよい。
【0045】
サブフィールド偏向器240は、遙かに細かい偏向距離、例えば(XおよびY方向双方に)0.001m、0.025m、0.005m、0.01mまたは0.05mの距離、を生成するが、メインフィールド偏向器250より遙かに速く電子ビームを駆動することができるはずのものである。したがって、サブフィールド偏向器240は、異なる設計である可能性がある。例えば、ヘルムホルツコイルが使用される場合、各コイルは、典型的には単に1回巻きまたは数回巻きのワイヤを含み、典型的には数百ミリアンペア〜1Aの電流を伝送しかつ約25MHzの周波数で動作する。あるいは、メインフィールド偏向器250の場合と同様に、サブフィールド偏向器240において平行電極プレートが使用されてもよいが、印加電圧要件は下がり、±200V等である。
【0046】
次に、図3を参照して、メインフィールド、サブフィールドおよび「プリミティブ」についてさらに説明する。先に述べたように、メインフィールド偏向器250により提供される電子ビーム103の偏向距離は、メインフィールドのサイズおよび形状を画定する。典型的には、XおよびY方向の偏向距離は、正方形のメインフィールドが生じるように同じである。図3は、0.3m×0.3mで広がるメインフィールドの一例300を示す。粉末床123は、このサイズに一致する場合も、しない場合もある。例えば、粉末床123は、粉末床123の縁からの粉末が装置100の周囲部分と融合しないように、メインフィールド300の周囲に余裕を持たせるべく僅かに大きくてもよい。
【0047】
先に述べたように、電子ビーム103は、メインフィールド偏向器250を用いてメインフィールドにおける任意の位置へ設定されてもよい。次に、電子ビーム103は、サブフィールド偏向器240を用いて走査されてもよい。各サブフィールドのサイズは、サブフィールド偏向器240により提供される移動距離によって設定される。XおよびY方向の偏向距離は、正方形のサブフィールドが生じるように一致される可能性がある。メインフィールド偏向器250を用いる電子ビーム103の移動は、メインフィールド全体、または少なくともメインフィールドの、形成されるべき生成物150の現行層が延在する部分を覆うサブフィールドアレイが生じるように実行されてもよい。
【0048】
図3の円305内の詳細は、メインフィールド300がこうしてサブフィールド正方形310のアドレス可能グリッドに分割され得る方法を示す。サブフィールド310は、重なり合うアドレス可能座標なしにパッチワークパターンで隣り合わせに配置されている。各サブフィールド310のサイズは、0.005m×0.005mであって、サブフィールド偏向器240の移動距離に一致する。
【0049】
電子ビーム103をサブフィールド位置のうちの何れへも偏向することができるメインフィールド偏向器250は、電子ビーム103をこれらのサブフィールド310内へ順番に配置する。例えば、メインフィールド偏向器250は、電子ビーム103を、320に示すような各サブフィールド310の右下の基底位置に位置合わせしてもよい。よって、電子ビーム103の開始位置がサブフィールド310内のどこであるかに関わらず、サブフィールド偏向器240は、サブフィールド310内の粉末を溶融する、またはその温度を上げるように電子ビーム103を走査する。
【0050】
走査により、電子ビーム103がサブフィールド310のエリア全体を横断する場合もあれば、電子ビーム103がサブフィールド310のエリアの一部のみを横断する場合もある。電子ビーム103がサブフィールド310内で走査されるにつれて電子ビーム103によりトレースされる形状を、本明細書では「プリミティブ」と称する。プリミティブは、サブフィールドより小さい場合もあれば、サブフィールドと同じサイズである場合もある。
【0051】
典型的には、正方形または三角形等の単純な形状に一致するプリミティブが使用される。図3の例において、サブフィールド310は正方形であり、よって正方形のプリミティブを用いてサブフィールド全体が走査される。さらに、プリミティブは、サブフィールド内で組み合わされて複合形状を形成してもよい。例えば、サイズが異なる2つの正方形プリミティブを用いてL字形が画定されてもよい。また、例えば、生成物150の不規則な縁を形成できるように、不規則なプリミティブが使用されてもよい。異なる形状のプリミティブの例については、図4〜6を参照して後に提示する。
【0052】
プリミティブは、サブフィールド偏向器240を用いて電子ビーム103を走査し、所望される形状をなぞって描くことにより形成される。例えば、サブフィールド偏向器240は、電子ビーム103が終了位置340に達するまで、電子ビーム103に図3の線330で示されるラスタパターンを辿らせてもよい。このようにして、サブフィールド310全体を満たす正方形のプリミティブが生成される。走査線330の間隔は、電子ビーム103のサイズ、走査速度およびビーム出力、および材料、パターン密度および近傍特徴等の他のアプリケーション固有パラメータに従って設定されてもよい。
【0053】
高速のサブフィールド偏向器240は、粉末床123内に電力が、粉末122内での熱エネルギーの管理された分散を可能にする制御された速度で蓄積されることを可能にする。
【0054】
さらなる利点は、サブフィールド310内で粉末床123を暴露するために必要な走査が、従来技術のマシンを用いて達成可能なものより遙かに速くかつより正確な走査ケイパビリティを有するサブフィールド偏向器240によって実行され、一方で、より遅速のメインフィールド偏向器250が、単に電子ビーム103を必要なサブフィールド開始位置320に極めて正確に位置決めするために使用されることにある。
【0055】
粉末床123内に電力が、粉末122内での熱エネルギーの設計された分散に適する制御された速度で蓄積されることを可能にする高速のサブフィールド偏向器240には、実質的な利点がある。具体的には、実際に、サブフィールド310の全エリア内の温度の慎重な制御を可能にするエリア走査を実行することができる。
【0056】
速い走査速度は、走査間の熱分散が比較的小さくなるように1つの部位が複数回走査されることを可能にし、よって、走査部位は、あたかもそれが極めて特異な形状(すなわち、プリミティブの所望される形状または所望される複合形状、例えば、電子ビーム103が図3に示す例示的なサブフィールド310内のエリア全体を走査する場合には正方形)の単一の大きい電子ビーム103に暴露されたかのように考えることができる。したがって、電子ビーム103は、もはや単純なガウスビームプロファイルを有するものとされる必要はなく、むしろ、所望されるプリミティブおよび複合形状を形成するために画定された部位を溶融することができる拡張形状を有するものとされる。
【0057】
したがって、電子ビーム103がサブフィールド310からサブフィールド310へ移動されるにつれて、形成されている生成物150の層は、サブフィールド毎に効果的に走査される。その結果、生成物150の層は、各サブフィールド310内でプリミティブまたは複合形状を瞬時に形成することにより、順番に効果的に形成される。したがって、電子光学アッセンブリ101は、プリミティブおよび複合形状が粉末床123へ「プリント」されることを可能にする、シェイプジェネレータとして想定されることが可能である。したがって、形成されるべき層は、従来技術で行われているような走査線への分解ではなく、これらのプリミティブ形状に分解されてもよい。
【0058】
粉末床123に入射する電力密度は、サブフィールド偏向器240と、電子ビーム103が横断する単位時間当たりの面積によって容易に制御されることが可能である。粉末床123へ送達される電力密度を電子ビーム103の電流およびエネルギーから除外する能力は、ユーザに、ジョブのプロセスパラメータを開発するための別の自由度を与える。さらに、サブフィールド走査速度およびサブフィールド偏向器240の高い精度は、サブフィールド310内に形成される溶融池の精密制御を可能にし、かつ複数の溶融池を同時に運転する必要性を克服する。また、より低いインダクタンスのサブフィールド偏向器240が、メインフィールド偏向器250より遙かに速い位置整定時間を有することも留意されるべきである。
【0059】
図3のメインフィールド300は、電子銃アッセンブリ101の基本基準グリッドを示している。メインフィールド300は、0.3m×0.3mのサイズで示されているが、これは、マシンモデルに依存するパラメータとなる。サブフィールド310のサイズは、ユーザによる選択が可能であって、製造されている生成物150に依存する。図3の例では、各サブフィールド310のサイズは0.005m×0.005mとして選択されていて、メインフィールド300内に360,000個のサブフィールドが存在する。走査解像度の最小画素サイズ(すなわち、電子ビーム103の個々のアドレス指定可能位置)は、ユーザにより、サブフィールド310のサイズより適度に小さい数に設定される。例えば、隣接するピクセル位置は、XおよびY方向の双方に1×10−6mだけ分離されてもよい。また、このパラメータは、ユーザにより、作られる生成物150に従って設定されてもよい。この例では、サブフィールド310当たり250,000個のアドレス指定可能画素位置が存在していて、プリミティブ形状の詳細な画定、およびメインフィールド300における9×1010個のアドレス指定可能画素位置が可能にされる。
【0060】
メインフィールド偏向器250の分解能および精度は、コントローラ110によって、例えばコントローラ110のデジタル/アナログ変換器(DAC)によって設定される。メインフィールド偏向器250は、より広いエリアを走査しなければならないことから、より小さいエリア(約12ビット)をカバーするサブフィールド偏向器240よりも高いビット数(約16ビット)を必要とする。
【0061】
先に述べたように、本発明は、形成されるべき生成物150の層が、結合して暴露されるべき二次元パターンを記述するプリミティブ形状に分解されることを可能にする。これは、始点と終点および横断速度による単純な線のみを表すプリミティブ形状を用いる従来技術とは対照的である。
【0062】
次に、図4〜6を参照して説明するように、異なる形状の生成物150を記述するために、「プリミティブ」形状のライブラリが使用されてもよい。例えば、ある層は、正方形、長方形、三角形、六角形および平行四辺形、およびこれらの任意の組合せに一致するプリミティブ形状に分解されてもよい。他の形状もまた、可能である。
【0063】
図4は、粉末床123における、形成されるべき生成物の一層150を示す。図中には、メインフィールド300の範囲が、メインフィールド300のサブフィールド310への分割と共に示され、かつ層151がプリミティブに分解され得る方法の2例も示されている。第1の例において、層151は、サブフィールド310に一致する正方形のプリミティブ410aを用いて形成されている。すなわち、各サブフィールド310は、サブフィールド偏向器240をその最大偏向距離を介して駆動することにより完全に埋められる。図4の詳細は、正方形のサブフィールド310およびプリミティブ410aが、層151内に形成されるべき角152を埋めるために配置され得る方法も示している。すなわち、メインフィールド偏向器250により設定される電子ビーム103の位置は、結果として生じるサブフィールド310が図4の詳細に示される縁に沿って整列するように選ばれてもよい。
【0064】
図4の第2の詳細は、テッセレーションした三角形プリミティブ410bに分解された層151を示す。三角形のサイズは、異なる大きさの、または異なる形状のプリミティブ410の使用を回避すべく層151の形状を可能な限り密に埋めるように選ばれてもよい。電子ビーム103が各プリミティブ形状410bをトレースできるように、サブフィールド310は、重複するものが画定されてもよい。あるいは、三角形410bは、隣接する4つの三角形410bが単一の正方形サブフィールド310を埋めるような大きさにされてもよい。次に、三角形410bは、単一のサブフィールド310内で順次、メインフィールド偏向器250がそのサブフィールド310内に電子ビーム位置を維持する場合は連続して、あるいは、メインフィールド偏向器250が他のサブフィールド310へ電子ビーム103を送るために使用された後に、別の三角形410bをトレースすべくサブフィールド310に戻ってくる場合は、間隔をおいて、トレースされてもよい。
【0065】
認識されるであろうが、層151の形状が全て同一形状のプリミティブ410への分解に適するわけではない。図5は、こうした一例を示す。ここでは、層151の大部分が、各サブフィールド310を埋める正方形のプリミティブ510aに分解されている。しかしながら、層151の縁については、層151が辿る縁に沿って次々に変わり得る不規則な形状のプリミティブで塞ぐ必要がある。図5の詳細は、曲がった境界を有する一連の異なる形状のサブフィールド510b、c、d、e、f、他で埋められる曲がった角152を示す。
【0066】
プリミティブ410、510を走査する順序の決定には、異なる戦略が使用されてもよい。例えば、電子ビーム103は、1つのプリミティブ410、510から隣りのプリミティブ410、510へ、等々と移動されてもよい。しかしながら、他の段取りも可能である。例えば、既に走査されている何れかの隣接するプリミティブ410、510が周囲温度に、または周囲温度近くに戻るまで、プリミティブ410、510を走査しないことが効果的である場合もある。材料の熱冷却特性を管理するための最も効率的な走査戦略は、アプリケーションによって決まる。この戦略は、溶融後熱管理を見込むものであって、これにより、電子ビーム103を熱環境の修正に用いて所望される材料特性を作り出すことができる。
【0067】
図6は、本発明の一実施形態による、生成物150の一層151を形成する方法600を示す。方法600は、610で始まる。本例において、電子ビーム103は、段階610で開始される。これは、常に必要というわけではない。例えば、先行する層151が形成されたばかりであるとすると、新しい粉末床123が堆積される間、電子ビーム103のスイッチは、入ったままであり得る。この場合、粉末122がその堆積に伴って溶融されないことを保証するために、電子ビーム103は、粉末床123から離れるように偏向され得る。電子ビーム103のスイッチが層間でオンにされたままである場合、電子流は、減じられることがあり、その場合、電子ビーム103を粉末床123から離れるように偏向させる必要はないことがある。
【0068】
段階620において、コントローラ110は、メインフィールド偏向器250を用いて、電子ビーム103を、処理されるべき第1のサブフィールド310内の一アドレスへ移動させる。このアドレスは、コントローラ110がアクセス可能にされる走査パターンファイルにおいて指定される。先に述べたように、粉末床123を横断する電子ビーム103の走査速度は、メインフィールド偏向器250によって動かされることから、サブフィールド偏向よりも遅くなる。
【0069】
電子ビーム103が特定の第1のサブフィールド310内の位置にある状態で、コントローラ110は、段階630に示されるように、サブフィールド偏向器240を用いて電子ビーム103をサブフィールド310内で走査し、所望されるプリミティブ形状をトレースしかつ充填する。先に述べたように、プリミティブ410、510内の粉末122は、プリミティブ410、510により画定される形状を有する単一のエリアとして効果的に溶融される。同じく先に述べたように、プリミティブは、2つ以上のプリミティブで形成される複合形状であってもよい。プリミティブは、プリミティブ形状の何れであってもよいが、単純に組み合わされて必要な複合形状を形成する。この実施形態では、各プリミティブは、段階630毎にトレースされ、すなわち、電子ビーム103は、全てのプリミティブが走査され、よって複合形状が完成するまでサブフィールド310内に留まる。
【0070】
段階640において、コントローラ110は、処理を必要とする層151内の全てのサブフィールドが処理されたかどうかを判定する。処理を必要とする全てのサブフィールド310の処理が完了していなければ、本方法は、経路645を介してループバックし、段階620へ戻る。段階620において、コントローラ110は、再びメインフィールド偏向器250を用いて、今度は電子ビーム103を、走査パターンにおける次に指定されたサブフィールド310内の規定された開始位置へ移動させる。次に、本方法は、段階630へと続き、次のサブフィールド310が、コントローラによる指示の通りにサブフィールド偏向器240を用いて電子ビーム103により処理されることを確認する。段階640は、処理を必要とする全てのサブフィールド310が処理されるまで段階620〜640を介する複数のループが実行されて、走査を必要とする現行層151内の全てのサブフィールド310が処理されているかどうかに関する別のチェックを確認する。この段階で、段階640における結果は肯定となり、よって方法600は、段階650へ進む。
【0071】
この例では、段階650において、電子ビーム103がオフにされる。しかしながら、代替として、電子ビーム103は、電流を減少され、またはスイッチが入ったたままで、粉末122が堆積して次層151用の粉末床123が形成されるように移動されてもよい。
【0072】
図7は、付加層製造の間に使用される、生成物150を形成するための走査パターンを生成する方法700を示す。方法700は、段階710で始まり、生成物150のモデルが得られる。これは、モデルを生成する段階を含む場合も、モデルの記述を含むコンピュータファイルを受信する、またはこれにアクセスする段階を含む場合もある。いずれにしても、段階710は、形成されるべき生成物150のサイズおよび形状を記述するコンピュータファイルを所有するコンピュータを確認する。このようなファイル、およびその作成方法は、周知であり、よって、詳述しない。
【0073】
段階720において、コンピュータは、生成物150のモデルを層151に分解し、各層151は、付加層製造の間に単一の支持テーブル130の位置で形成される、生成物150を介する一層151を表す。各層151は、Z座標によって画定され、かつ層151の形状は、XおよびY座標を用いて画定される。
【0074】
次に、段階730において、コンピュータは、未処理の層151を選択する。この層151は、最下層151であってもよい。段階740において、コンピュータは、選択された層151の形状をサブフィールド310に分解する。層151がサブフィールド310に分解された状態で、コンピュータは、次に、メインフィールド偏向器250を用いて全てのサブフィールド310間で電子ビーム103を移動させるための命令を生成する。
【0075】
次に、段階750において、コンピュータは、未処理のサブフィールド310を選択し、かつ段階760において、そのサブフィールドの1つまたは複数のプリミティブ形状を走査するための命令を生成する。これらの命令は、所望される1つまたは複数のプリミティブ形状を画定するために、サブフィールド偏向器240を用いて制御される通りに電子ビーム103を各サブフィールド310内で走査する方法を決定する。先に述べたように、これは、2つ以上のプリミティブで形成される複合形状であってもよい。この段階760は、サブフィールド152の形状を分析し、かつプリミティブ形状のライブラリからプリミティブ410、510の適切に一致する形状を見つけることによって実行されてもよい。
【0076】
段階770において、コンピュータは、現行層151内の全てのサブフィールド310が処理されているかどうかを判定する。処理されていなければ、方法700は、経路775に沿って段階750へループバックし、ここで未処理のサブフィールド310が選択され、続いてさらなる段階760に従って処理され、段階770において、再び決定が下される。この繰り返しループは、段階770での判定が、現行層151内の全てのサブフィールド310が処理されていることを示すまで続く。図7に示すように、段階770で肯定的な判定が下されると、方法700は、段階780へ続き、ここでコンピュータにより別の判断が下される。
【0077】
すなわち、全ての層151について命令が生成されたことを確認する決定が行われる。図7に略示されているように、段階780において、コンピュータは、実際には、全ての層151が処理されているかどうかを判定する。処理されていなければ、方法700は、経路785を遡って段階730に戻り、段階730で次層151が選択され、かつ段階740〜770で処理され、等々により、最終的に全ての層151が処理されて生成物150における全ての層151を画定する走査命令セットが生成されていることを確実にする。
【0078】
全ての層151がこうして処理されると、方法700は、段階790へ進み、ここでコンピュータが、完全な走査命令を含むファイルを出力する。このファイルは、メモリに保存されても、上述のコントローラ110のようなコントローラへ送信されてもよい。実施形態によっては、コントローラ110は、コンピュータの機能を実行し、すなわち、コントローラ110は、図7の方法700を実行してスキャン命令を生成してもよく、次に、図6の方法600を実行することにより走査命令を実行してもよい。走査命令は、ユーザによる再検討および承認を経て初めて実行されてもよい。
【0079】
当業者には、上述の実施形態に対し、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を逸脱することなく、変更を加え得ることが認識されるであろう。
【0080】
例えば、上述の実施形態は、全て、粉末122を溶融するために電子ビーム103を用いる。しかしながら、電子ビーム103の代わりに他のタイプの荷電粒子ビームが使用されてもよい。
【0081】
図7では、段階740でサブフィールド310が画定され、プリミティブ410、510は、その後段階760で画定されている。この場合、プリミティブ410、510は、先に画定されたサブフィールド310が嵌まるように作られなければならない。しかしながら、企図される他の実施形態では、段階740〜770を組み合わせることによってさらなるフレキシブルさが達成されてもよい。すなわち、各層151毎に、層151は、サブフィールド310およびプリミティブ410、510へ同時に分解される。こうすることにより、サブフィールド310の配置は、プリミティブ410、510の選択を最適化するように決定され得る。例えば、図4に示す詳細を参照して先に述べた角の充填方法は、この方法で実装されてもよい。
(項目1)
付加層製造を用いて生成物を形成する方法であって、
前記生成物を一連の層として形成する段階であって、各層は、所望される層形状を形成するために、粉末床として堆積される粉末を荷電粒子ビームを用いる前記粉末床の走査により融合させて形成される、段階
を備え、
各層毎に、前記粉末は、比較的長距離の偏向器と比較的短距離の偏向器との組合せを用いる前記荷電粒子ビームの走査により前記粉末床の連続部位を溶融することによって融合され、前記比較的長距離の偏向器は、前記短距離の偏向器より大きい偏向角にわたって前記荷電粒子ビームを偏向し、前記方法は、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの基底位置を設定するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階と、前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階とを備える、
方法。
(項目2)
前記粉末床上で所定の形状をトレースすべく前記荷電粒子ビームを走査するために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階を備える、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記比較的長距離の偏向器を繰り返し用いて、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの異なる基底位置を設定する段階と、前記粉末床上で一連の所定の形状をトレースすべく、前記比較的短距離の偏向器を繰り返し用いて、前記比較的長距離の偏向器により設定される前記異なる基底位置の各々の周りで前記荷電粒子ビームを走査する段階とをさらに備え、前記所定の形状は、組合せによって前記所望される層形状を作り出す、
項目2に記載の方法。
(項目4)
一連の所定の形状をトレースするために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階を備え、前記一連の所定の形状の大部分は、共通のサイズおよび形状を有し、かつテッセレーションして前記所望される層形状の一部を形成する、
項目3に記載の方法。
(項目5)
各基底位置の辺りで前記荷電粒子ビームにより走査される前記所定の形状が間に隙間を残すことなくテッセレーションすることにより前記所望される形状の一部を形成している状態で、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの基底位置アレイを設定するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階を備える、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記荷電粒子ビームを比較的低速で走査するために、前記比較的長距離の偏向器を用いる段階と、前記荷電粒子ビームを比較的高速で走査するために、前記比較的短距離の偏向器を用いる段階とを備える、項目2〜5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記長距離の偏向器は、1コイル当たり巻数25を超えるヘルムホルツコイルを備える電磁偏向器であり、かつ前記短距離の偏向器は、1コイル当たり巻数5未満のヘルムホルツコイルを備える電磁偏向器である、
項目6に記載の方法。
(項目8)
前記比較的短距離の偏向器を用いて前記荷電粒子ビームを走査し、前記走査の開始位置における前記粉末ビームの温度が、前記荷電粒子ビームが前記所定の形状をトレースするための前記走査を完了した時点の前記走査の終了位置における温度と略同一であるに足る速度で各所定の形状をトレースする段階を備える、項目6または7に記載の方法。
(項目9)
前記粉末床上の各基底位置で前記同じ所定の形状をトレースすることにより前記粉末床の温度を前記所定の形状内で均一に上昇させかつ維持すべく、前記比較的短距離の偏向器を繰り返し用いて、前記荷電粒子ビームを走査する段階をさらに備える、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記比較的長距離の偏向器を、前記荷電粒子ビームを前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの前記基底位置に位置合わせするように設定し、前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記比較的短距離の偏向器の前記設定を前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように変えながら維持する段階を備え、かつさらに、
前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記荷電粒子ビームを前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの異なる基底位置に位置合わせするように変更する段階と、前記比較的長距離の偏向器の前記設定を、前記比較的短距離の偏向器の前記設定を前記比較的長距離の偏向器により設定される前記異なる基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように変えながら維持する段階とを備える、項目1〜9のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記比較的短距離の偏向器の前記設定を、前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように変えながら、前記比較的長距離の偏向器を、前記粉末床上の前記荷電粒子ビームの一連の基底位置を介して前記荷電粒子ビームを走査するように変える段階を備える、項目1〜9のいずれかに記載の方法。
(項目12)
付加層製造に使用するための荷電粒子光学アッセンブリであって、
荷電粒子源と、
前記荷電粒子源により提供される前記荷電粒子から、伝播方向に沿って進む荷電粒子ビームを形成するように動作可能なビーム形成装置と、
ビームステアリング装置と、
を備え、
前記ビームステアリング装置は、前記荷電粒子ビームを比較的大きい偏向角にわたって偏向し、かつ前記粉末床上に前記荷電粒子ビームの基底位置を設定するように動作可能な長距離の偏向器と、前記荷電粒子ビームを比較的小さい偏向角にわたってのみ偏向し、かつ前記比較的長距離の偏向器により設定される前記基底位置の周りで前記荷電粒子ビームを走査するように動作可能な短距離の偏向器とを有する、
荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目13)
前記長距離の偏向器は、前記荷電粒子ビームを前記伝播方向に対して横方向に偏向させるように配置される、
項目12に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目14)
前記長距離の偏向器は、互いに対して、かつ前記伝播方向に対して直角に作用するように配置される第1の偏向器および第2の偏向器を含む、
項目13に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目15)
前記短距離の偏向器は、前記荷電粒子ビームを前記伝播方向に対して横方向に偏向させるように配置される、
項目12〜14のいずれかに記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目16)
前記短距離の偏向器は、互いに対して、かつ前記伝播方向に対して直角に作用するように配置される第1の偏向器および第2の偏向器を含む、
項目15に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目17)
前記長距離の偏向器および前記短距離の偏向器の前記第1の偏向器は、前記荷電粒子ビームを共通の方向へ偏向するように配置され、かつ前記長距離の偏向器および前記短距離の偏向器の前記第2の偏向器は、前記荷電粒子ビームを共通の方向へ偏向するように配置される、
項目14に従属する場合の項目16に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目18)
前記長距離の偏向器および前記短距離の偏向器双方の前記第1の偏向器および前記第2の偏向器は、前記荷電粒子ビームの経路の何れかの側に配置される他の電流伝送媒体のワイヤコイルを有するヘルムホルツコイルを含む、
項目17に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目19)
前記長距離の偏向器の前記コイルは、巻数50〜100のワイヤを含み、かつ/または前記短距離の偏向器の前記コイルは、巻数1〜5のワイヤを含む、
項目18に記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目20)
前記長距離の偏向器および前記短距離の偏向器双方の前記第1の偏向器および前記第2の偏向器は、前記荷電粒子ビームの経路の何れかの側に配置される静電偏向器を含む、
項目12〜17のいずれかに記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目21)
前記荷電粒子は、電子であり、かつ前記荷電粒子源は、電子源である、
項目12〜20のいずれかに記載の荷電粒子光学アッセンブリ。
(項目22)
項目12〜21のいずれかに記載の荷電粒子光学アッセンブリと、
粉末を分配するように動作可能な少なくとも1つのホッパと、
前記少なくとも1つのホッパにより分配される前記粉末を、前記電子ビームを受け入れるための粉末床を画定する量で受け入れるように位置合わせされるテーブルと
を備える付加層製造装置。
(項目23)
前記長距離の偏向器は、前記電子ビームを、前記粉末床の面積の少なくとも半分にわたって走査するように動作可能であり、かつ前記短距離の偏向器は、前記電子ビームを、前記粉末床の前記面積の半分未満にわたって走査するように動作可能である、
項目22に記載の装置。
(項目24)
項目1〜11のいずれかに記載の方法を実行するようにプログラムされるコントローラをさらに備える、項目22または23に記載の付加層製造装置。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7