(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
物標を検知可能な方位の範囲内で複数の物標が同時に存在し得る方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルと前記方位の組合せとが対応付けられた情報を記憶する記憶部と、
送信波を送信する送信部と、
前記送信波が物標で反射された反射波を複数の受信アンテナで受信する受信部と、
前記複数の受信アンテナで受信した前記反射波および前記モードベクトルに基づいて前記物標の方位を示す角度スペクトラムを順次算出し、角度スペクトラムが最も高かった前記モードベクトルに対応付けられた方位の組合せを同時に存在する前記物標の方位の組合せとして導出する導出部と
を備え、
前記モードベクトルは、前記複数の物標毎のモードベクトルを加算したものであり、前記複数の物標毎のモードベクトルは、前記複数の受信アンテナで受信される反射波の位相に対応したものである
ことを特徴とするレーダ装置。
物標を検知可能な方位の範囲内で複数の物標が同時に存在し得る方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルと前記方位の組合せとが対応付けられたモードベクトル情報を記憶する工程と、
送信波を送信する工程と、
前記送信波が物標で反射された反射波を複数の受信アンテナで受信する工程と、
前記複数の受信アンテナで受信した前記反射波および前記モードベクトル情報に基づいて前記物標の方位を示す角度スペクトラムを順次算出し、角度スペクトラムが最も高かった前記モードベクトルに対応付けられた方位の組合せを同時に存在する前記物標の方位の組合せとして導出する工程と
を含み、
前記モードベクトルは、前記複数の物標毎のモードベクトルを加算したものであり、前記複数の物標毎のモードベクトルは、前記複数の受信アンテナで受信される反射波の位相に対応したものである
ことを特徴とする物標検知方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検知方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。まず、
図1を参照し、実施形態に係るレーダ装置1の構成の一例について説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係るレーダ装置1を示すブロック図である。なお、
図1では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0012】
換言すれば、
図1に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0013】
レーダ装置1は、車両(以下、「自車両」と記載する)に搭載され、自車両の周囲に存在する物標を検知する。なお、レーダ装置1は、航空機や船舶に搭載されて周囲の物標を検知することも可能である。
【0014】
以下では、レーダ装置1がFCM(Fast Chip Modulation)方式によって物標を検知する装置である場合について説明する。なお、レーダ装置1が物標を検知する方式は、FCM方式に限定されるものではなく、FM−CW方式であってもよい。
【0015】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信系を構成する構成要素として、送信部2と、送信アンテナ4とを備える。送信部2は、信号生成部21と、発振器22とを備える。
【0016】
また、レーダ装置1は、受信系を構成する構成要素として、受信アンテナ5−1〜5−4と、受信部6−1〜6−4とを備える。受信部6−1〜6−4はそれぞれ、ミキサ61と、A/D変換部62とを備える。また、レーダ装置1は、信号処理系を構成する構成要素として、信号処理装置7を備える。
【0017】
なお、以下では、説明の簡略化のため、単に「受信アンテナ5」と記載した場合には、受信アンテナ5−1〜5−4を総称するものとする。かかる点は、「受信部6」についても同様とする。
【0018】
送信部2は、送信波を生成する処理を行う。信号生成部21は、後述する信号処理装置7が備える送信制御部71の制御により、のこぎり波状に周波数が周期的に変化する送信波を生成するための変調信号を生成して発振器22へ出力する。
【0019】
発振器22は、かかる信号生成部21によって生成された変調信号に基づいて、変調した周期的に周波数が変化する変調波の送信波(複数の連続するチャープ)を生成して送信アンテナ4へ出力する。
【0020】
送信アンテナ4は、発振器22によって生成された送信波を、たとえば、自車両の前方へ送出する。なお、
図1に示すように、発振器22によって生成された送信波は、後述するミキサ61に対しても分配される。
【0021】
受信アンテナ5は、送信アンテナ4から送出された送信波が物標において反射することで、かかる物標から到来する反射波を受信する。受信部6のそれぞれは、受信した各反射波を信号処理装置7へ渡すまでの前段処理を行う。
【0022】
具体的には、ミキサ61のそれぞれは、上述のように分配された送信波と、受信アンテナ5のそれぞれにおいて受信された反射波とをミキシングし、送信波と反射波との差の絶対値をとることにより、ビート信号を生成する。なお、受信アンテナ5とミキサ61との間にはそれぞれ対応する増幅器を配してもよい。
【0023】
A/D変換部62は、ミキサ61において生成されたビート信号をデジタル変換し、信号処理装置7に対して出力する。かかるA/D変換部62は、ミキサ61によって生成されたビート信号を所定周期のタイミングでADサンプリングすることによってアナログのビート信号をデジタルの受信信号に変換する。
【0024】
信号処理装置7は、送信制御部71と、検知部72と、記憶部73とを備える。記憶部73は、例えば、ハードディスクドライブや不揮発性メモリ、レジスタといった記憶デバイスであり、モードベクトル情報74を記憶する。
【0025】
モードベクトル情報74は、物標が存在し得る方位毎に作成されるモードベクトルと、物標の方位とが対応付けられた情報であり、後述する方位演算部83が物標の方位を導出する場合に使用される情報である。かかるモードベクトル情報74の一例については、
図2、
図5、および
図7を参照して後述する。
【0026】
送信制御部71は、送信波を生成して出力させるように信号生成部21の動作を制御する。検知部72は、FCM方式によって物標の方位、物標までの距離、および物標との相対速度を算出して物標を検知する。
【0027】
ここで、検知部72がFCM方式によって物標までの距離、および物標との相対速度を算出する算出方法について簡単に説明する。検知部72は、各A/D変換部62から入力されるビート信号に基づいて、物標までの距離、および物標との相対速度を算出する。
【0028】
このとき、検知部72には、送信波の1周期毎(チャープ毎)にビート信号が入力される。かかる場合、送信部2によって送信波が送信されてから、送信波が物標で反射された反射波が受信部6によって受信されるまでの時間(遅延時間)が物標とレーダ装置1との距離に比例して増減するため、ビート信号の周波数は物標までの距離に比例する。
【0029】
このため、検知部72は、ビート信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理すると、FFT処理の処理結果では、物標の距離に対応する周波数の位置にピークが出現する。
【0030】
このとき、FFT処理では、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、「距離BIN」と記載する)毎に受信レベルや位相情報が抽出されるため、正確には物標との距離に対応する周波数の距離BINにピークが出現する。したがって、検知部72は、ピーク周波数を検出することで物標までの距離を求めることができる。
【0031】
また、FCM方式では自車両と物標との間に相対速度が生じている場合は、検知部72へ順次入力されるビート信号間にドップラ周波数に応じた位相の変化が現れる。このため、検知部72は、ビート信号間のドップラ周波数を検出して相対速度を算出する。
【0032】
例えば、レーダ装置1と物標との相対速度が0の場合、反射波にドップラ成分は生じていないため、各チャープに対応する反射波の位相は全て同じになる。一方、レーダ装置1と物標との間に相対速度がある場合、各チャープに対応する反射波の間にドップラの位相変化が生じる。また、ビート信号をFFT処理して得られたピーク情報にはこの位相情報が含まれている。
【0033】
このため、検知部72は、各ビート信号から得られた同じ物標のピーク情報について、時系列で2回目のFFT処理を行うことにより、位相情報からドップラ周波数を算出することができる。そして、2回目のFFT処理の処理結果では、その周波数位置にピークが出現する。
【0034】
このとき、2回目のFFT処理では、速度分解能に応じて所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(以下、「速度BIN」と記載する)毎に位相情報が抽出されるため、物標の相対速度に対応する周波数の速度BINにピークが出現する。したがって、検知部72は、ピーク周波数を検出することで物標との相対速度を求めることができる。
【0035】
かかる検知部72は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートなどを有するマイクロコンピュータや各種の回路を含む。
【0036】
検知部72は、CPUがROMに記憶された物標検知プログラムを、RAMを作業領域として使用して実行することにより機能する複数の処理部を備える。具体的には、検知部72は、FFT部81、ピーク抽出部82、方位演算部83、および距離相対速度演算部84を備える。
【0037】
なお、検知部72が備える各処理部は、それぞれ一部または全部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されてもよい。
【0038】
FFT部81は、各受信部6のA/D変換部62から順次入力されるビート信号について1回目のFFT処理を行い、所定の周波数間隔で設定された距離BIN毎に処理結果を求める。
【0039】
さらに、FFT部81は、1回目のFFT処理の処理結果を複数のビート信号について同一の距離BIN毎に2回目のFFT処理を行い、所定の周波数間隔で設定された速度BIN毎に処理結果を求める。
【0040】
そして、FFT部81は、1回目のFFT処理の処理結果と、2回目のFFT処理の処理結果とをピーク抽出部82へ出力する。ピーク抽出部82は、1回目のFFT処理の処理結果、および2回目のFFT処理の処理結果から、それぞれピークを抽出して方位演算部83へ出力する。
【0041】
方位演算部83は、複数の受信アンテナ5によって受信された各反射波の位相差に基づいて、レーダ装置1に対する物標の方位を導出し、導出した物標の方位と、ピーク抽出部82によって抽出されたピークとを距離相対速度演算部84へ出力する。
【0042】
実施形態に係る方位演算部83は、複数の物標が同時に存在し得る方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルと方位の組合せとが対応付けられたモードベクトル情報74を使用することで、同一距離の位置に存在する複数の物標の方位を導出可能としている。かかる方位演算部83による方位の導出方法の一例については、レーダ装置1の全体構成を説明した後に説明する。
【0043】
距離相対速度演算部84は、方位演算部83を介してピーク抽出部82から入力される1回目のFFT処理の処理結果から抽出されたピークの周波数を検出し、ピークの周波数が検出された距離BINに対応する距離を物標までの距離として導出する。
【0044】
また、距離相対速度演算部84は、方位演算部83を介してピーク抽出部82から入力される2回目のFFT処理の処理結果から抽出されたピークの周波数を検出し、ピークの周波数が検出された速度BINに対応する速度を物標の相対速度として導出する。
【0045】
そして、距離相対速度演算部84は、導出した物標までの距離、物標との相対速度、方位演算部83によって導出された物標の方位とを含む物標情報を外部装置へ出力する。ここで、外部装置は、たとえば車両制御装置10である。
【0046】
車両制御装置10は、自車両の各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置10は、たとえば、車速センサ11と、舵角センサ12と、スロットル13と、ブレーキ14と、電気的に接続されている。
【0047】
車両制御装置10は、レーダ装置1から取得した物標情報に基づき、たとえばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-Crash Safety System)等の車両制御を行う。
【0048】
たとえば、車両制御装置10は、ACCを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、先行車との車間距離を一定距離に保ちつつ、自車両が先行車に追従するように、スロットル13やブレーキ14を制御する。また、車両制御装置10は、随時変化する自車両の走行状況、すなわち車速や舵角等を、車速センサ11や舵角センサ12等から都度取得し、レーダ装置1へフィードバックする。
【0049】
また、たとえば、車両制御装置10は、PCSを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、自車両の進行方向に衝突の危険性がある先行車や静止物等が存在することが検知される場合には、ブレーキ14を制御して自車両を減速させる。また、たとえば、自車両の搭乗者に対して図示略の警報器を用いて警告したり、車室内のシートベルトを引き込んで搭乗者を座席に固定したりする。
【0050】
次に、
図2〜
図7を参照し、実施形態に係る方位演算部83による方位の導出方法の一例について説明する。ここでは、モードベクトルを使用して物標の方位を導出する一般的なレーダ装置による方位の導出方法を説明した後に、実施形態に係るレーダ装置1の方位演算部83が行う方位の導出方法について説明する。
【0051】
図2、
図5、および
図7は、実施形態に係るモードベクトル情報の一例を示す説明図である。
図3および
図4は、実施形態の対比例に係る一般的なレーダ装置の方位導出方法を示す説明図である。
図6は、実施形態に係るレーダ装置の方位導出方法の説明図である。
【0052】
まず、一般的なレーダ装置が使用するモードベクトルについて説明する。例えば、レーダ装置が等間隔で並ぶ4本の受信アンテナを備える場合に、隣接する受信アンテナの間隔がd、一列に並ぶ受信アンテナの列方向に垂直な方向(例えば、自車両の進行方向)に対する反射波の到来方向がθ、反射波の波長がλであるとする。
【0053】
かかる場合、隣接する受信アンテナが受信する反射波の位相差φは、φ=(2π/λ)dsin(θ)となる。ここで、第1受信アンテナ、第2受信アンテナ、第3受信アンテナ、および第4受信アンテナが、この順に並んでいるとする。
【0054】
このとき、第1受信アンテナにおけるある時刻tの反射波の振幅がa(t)であるとすると、同時点の第2受信アンテナにおける反射波の振幅は、a(t)exp[j(2π/λ)dsin(θ)]となる。
【0055】
そして、例えば、方位θから振幅1の理想的な反射波が到来する場合、ある時刻での等移動面の基準を第1受信アンテナとして考えると、同時刻において第1受信アンテナで受信される反射波に対する他の受信アンテナで受信される反射波の位相は次のようになる。
第2受信アンテナ:exp[−j(2π/λ)dsin(θ)]
第3受信アンテナ:exp[−j(2π/λ)2dsin(θ)]
第4受信アンテナ:exp[−j(2π/λ)3dsin(θ)]
【0056】
よって、このときのモードベクトルA(θ)=[A1(θ),A2(θ),A3(θ),A4(θ)]におけるA1(θ),A2(θ),A3(θ),A4(θ)は、それぞれ次のようになる。
A1(θ)=1
A2(θ)=exp[−j(2π/λ)dsin(θ)]
A3(θ)=exp[−j(2π/λ)2dsin(θ)]
A4(θ)=exp[−j(2π/λ)3dsin(θ)]
【0057】
このため、一般的なレーダ装置は、例えば、物標を検知可能な方位の範囲が自車両の進行方向を0degとして左右10degずつの範囲(−10deg〜+10deg)の場合、
図2に示すモードベクトル情報を記憶する。
図2に示すように、モードベクトル情報は、−10degから+10degまでの1deg毎の各単一方位に、それぞれ各方位におけるモードベクトルが対応付けられた情報である。
【0058】
このように、一般的なレーダ装置は、物標を検知可能な方位の範囲内で物標が存在し得る単一方位毎に作成された単一方位モードベクトルと単一方位とが対応付けられたモードベクトル情報を記憶する。
【0059】
そして、一般的なレーダ装置は、受信した反射波から抽出したビート信号のピークと、かかるモードベクトル情報とに基づいて、物標の方位を導出する。具体的には、レーダ装置は、まず、ビート信号のピークと各方位に対応付けられた単一方位モードベクトルのそれぞれとに基づいて、方位毎の角度スペクトラムを算出する。
【0060】
ここでは、レーダ装置は、−10degから+10degまでの1deg毎の各方位について角度スペクトラムを算出することになるので、計21の角度スペクトラムを算出する。角度スペクトラムの算出には、例えば、Capon法やDBF(Digital Beam Forming)法を用いることができる。
【0061】
そして、レーダ装置は、算出した10の角度スペクトラムのうち、最も高かった角度スペクトラムの算出に使用した単一方位モードベクトルに対応付けられた方位を物標が存在する方位として導出する。
【0062】
しかしながら、かかる一般的なレーダ装置では、レーダ装置からの距離が略同一の位置に複数の物標が存在する場合に、各物標のそれぞれの方位を導出できない場合がある。また、レーダ装置は、レーダ装置からの距離が略同一の複数の物標によって反射される反射波の強度が異なる場合、反射波の強度が弱い方の物標の方位を導出できない場合がある。
【0063】
例えば、
図3に示すように、自車両Cの進行方向(0deg)に対して+2degの方位に他車両C1が存在し、他車両C1の脇(自車両Cの進行方向である0degに対して+4deg)の方位に人Pが存在する場合がある。かかる場合、人Pからの反射波の強度が他車両C1からの反射波の強度に比べて弱い。
【0064】
このため、一般的なレーダ装置は、角度スペクトラムを算出した場合に、人Pの角度スペクトラムが他車両C1の角度スペクトラムに埋もれ、
図4に示すような+2degの点だけにピークP1が出現する角度スペクトラムを算出する。その結果、一般的なレーダ装置は、他車両C1の方位は導出できるものの、他車両C1の脇に存在する人Pの方位を導出することができず、人Pの存在を検知することができない。
【0065】
そこで、実施形態に係るレーダ装置1は、
図2に示すモードベクトル情報に加えて、
図5に示すモードベクトル情報を含むモードベクトル情報74を記憶部73に記憶する。
図5に示すように、レーダ装置1がさらに記憶するモードベクトル情報は、物標Aおよび物標Bという2つの物標が同時に存在し得る全ての方位の組合せと、各方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルとが対応付けられた情報である。
【0066】
図5に示す例では、物標Aが存在し得る方位が−10deg〜+10degで1deg刻みに21あり、物標Aが存在し得る一つの方位について、物標Bが存在し得る方位が−10deg〜+10degで1deg刻みに21ある。つまり、
図5に示す例では、物標Aおよび物標Bが同時に存在し得る方位の組合せは、21×21=441通り存在する。
【0067】
各方位の組合せに対応付けられるモードベクトルは、物標Aが存在する方位毎に作成される各モードベクトルと、物標Bが存在する方位毎に作成される各モードベクトルとを加算することで作成される。
【0068】
例えば、物標Aの方位―10deg、物標Bの方位が―9degという組合せには、
物標Aが―10degに存在する場合のモードベクトル
A(−10deg)=[A1(−10deg)),A2(−10deg),
A3(−10deg),A4(−10deg)]と、
物標Bが―9degに存在する場合のモードベクトル
B(−9deg)=[B1(−9deg),B2(−9deg),B3(−9deg),B4(−9deg)]とを加算して作成される次のモードベクトル
A(−10deg)+B(−9deg)=[A1(−10deg)+B1(−9deg),A2(−10deg)+B2(−9deg),A3(−10deg)+B3(−9deg),A4(−10deg)+B4(−9deg)]が対応付けられる。
【0069】
レーダ装置1は、かかる各方位の組合せに対応付けられた全てのモードベクトルと、ビート信号のピークとに基づいて、物標Aおよび物標Bのそれぞれの方位を導出する。具体的には、レーダ装置1は、方位の組合せ毎に、モードベクトルとビート信号のピークとに基づいて、441の角度スペクトラムを算出する。角度スペクトラムの算出には、例えば、Capon法やDBF法を用いることができる。
【0070】
そして、レーダ装置1は、算出した角度スペクトラムを、例えば、
図6に示すような3次元の座標系にプロットする。
図6に示す座標系では、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸を定義し、X軸を物標Aの方位、Y軸を物標Bの方位、Z軸を角度スペクトラムとしている。
【0071】
ここで、例えば、物標Aが+2degの方位に存在し、物標Bが+4degの方位に存在する場合、
図6に示すように、X=+2deg、Y=+4degの位置に角度スペクトラムのピークP2が出現する。
【0072】
そこで、レーダ装置1は、最も高い角度スペクトラムの算出に使用したモードベクトルに対応付けられた方位の組合せ(ここでは、物標Aの方位:+2deg、物標Bの方位:+4deg)を物標Aと物標Bとが存在する方位の組合せとして導出する。こうして、レーダ装置1は、ビート信号のピークと
図5に示すモードベクトル情報とに基づいて、物標Aおよび物標Bのそれぞれが存在する方位を導出することができる。
【0073】
なお、ここでは、レーダ装置1は、全通り(ここでは、441通り)の方位の組合せについて角度スペクトラムを算出して物標Aおよび物標Bの方位を導出したが、算出する角度スペクトラムの数を低減して物標Aおよび物標Bの方位を導出することも可能である。
【0074】
例えば、レーダ装置1は、まず、一般的なレーダ装置と同様の方法で物標Aおよび物標Bが存在する方位にあたりを付け、あたりを付けた方位近傍の方位、すなわち絞り込まれた方位の組合せ毎に角度スペクトラムを算出して物標Aおよび物標Bの方位を導出することができる。具体的には、レーダ装置1は、最初にビート信号のピークと、
図2に示すモードベクトル情報とに基づいて、物標Aおよび物標Bが存在する大まかな単一方位を導出する。
【0075】
その後、レーダ装置1は、導出した単一方位から所定方位範囲内の方位の組合せに対応付けられた所定数のモードベクトルを
図5に示すモードベクトル情報から選択し、選択したモードベクトルとビート信号のピークとに基づいて角度スペクトラムを順次算出する。
【0076】
そして、レーダ装置1は、算出した角度スペクトラムのうち、最も高い角度スペクトラムの算出に使用したモードベクトルに対応付けられた方位の組合せを物標Aと物標Bとが存在する方位の組合せとして導出する。これにより、レーダ装置1は、物標Aおよび物標Bの方位を導出するために算出する角度スペクトラムの数を低減することにより処理負荷を低減することができる。
【0077】
なお、
図2および
図5に示すモードベクトル情報は、レーダ装置1が記憶するモードベクトル情報74の一例である。レーダ装置1は、例えば、
図7に示す他のモードベクトル情報を記憶することも可能である。
【0078】
他のモードベクトル情報は、同時に存在し得る各物標の角度スペクトラムの差(ここでは、「パワー差」と称する)毎に作成される。具体的には、
図7に示すように、他のモードベクトル情報は、物標Bの角度スペクトラムが物標Aの角度スペクトラムよりも10dB低い場合の物標Aおよび物標Bの方位の組合せに、それぞれ方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルが対応付けられている。
【0079】
また、他のモードベクトル情報は、物標Bの角度スペクトラムが物標Aの角度スペクトラムよりも20dB低い場合、30dB低い場合、40dB低い場合についても、方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルが対応付けられている。
【0080】
例えば、物標Bの角度スペクトラムが物標Aの角度スペクトラムよりも10dB低い場合の物標Aの方位が―10deg、物標Bの方位が―9degという組合せには、
物標Aが―10degに存在する場合のモードベクトル
A(−10deg)=[A1(−10deg)),A2(−10deg),
A3(−10deg),A4(−10deg)]と、
物標Bが―9degに存在し、物標Bの角度スペクトラムが物標Aの角度スペクトラムよりも10dB低い場合のモードベクトル
B(−9deg)=[B1(−9deg)−10dB,B2(−9deg)−10dB,B3(−9deg)−10dB,B4(−9deg)−10dB]とを加算して作成される次のモードベクトル
A(−10deg)+B(−9deg)−10dB=[A1(−10deg)+B1(−9deg−10dB),A2(−10deg)+B2(−9deg)−10dB,A3(−10deg)+B3(−9deg)−10dB,A4(−10deg)+B4(−9deg)−10dB]が対応付けられる。
【0081】
レーダ装置1は、かかるパワー差および各方位の組合せに対応付けられたモードベクトルとビート信号のピークとに基づいて、各パワー差および方位の組合せ毎に、角度スペクトラムを順次算出する。
【0082】
そして、レーダ装置1は、最も高かった角度スペクトラムの算出に使用したモードベクトルに対応付けられた方位の組合せから、物標Aおよび物標Bが存在する方位を導出する。さらに、レーダ装置1は、最も高かった角度スペクトラムを物標Aの角度スペクトラムとして導出する。
【0083】
そして、レーダ装置1は、最も高かった角度スペクトラムの算出に使用したモードベクトルに対応付けられたパワー差を物標Aの角度スペクトラムから減算した角度スペクトラムを物標Bの角度スペクトラムとして導出する。
【0084】
このように、レーダ装置1は、
図7に示すモードベクトルを使用することによって、同時に存在する物標Aおよび物標Bの方位に加え、物標Aおよび物標Bの角度スペクトラムを導出することができる。
【0085】
これにより、レーダ装置1は、例えば、反射波の強度が異なる物標Aおよび物標Bがレーダ装置1から略同一の距離に存在する場合に、物標Aおよび物標Bのそれぞれの各方位を導出することができる。
【0086】
これにより、レーダ装置1は、例えば、
図3に示すように、自車両Cの右斜め前方に他車両C1が存在し、他車両C1の脇に人Pが存在する場合に、他車両C1および人Pの正確な方位を導出することができる。
【0087】
次に、
図8および
図9を参照し、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理について説明する。
図8および
図9は、実施形態に係るレーダ装置1が実行する処理を示すフローチャートである。
【0088】
レーダ装置1は、電源が投入されている期間に所定周期で
図8に示す処理を繰り返し実行する。具体的には、
図8に示すように、レーダ装置1は、まず、物標へ向けて送信部2から送信波を送信する(ステップS101)。このとき、レーダ装置1は、送信部2から受信部6へ送信波を入力する。
【0089】
続いて、レーダ装置1は、送信波が物標で反射した反射波を受信する(ステップS102)。続いて、レーダ装置1は、送信波および受信波に基づいてビート信号を生成する(ステップS103)。そして、レーダ装置1は、生成したビート信号をFFT処理する(ステップS104)。
【0090】
このとき、レーダ装置1は、ビート信号を1回FFT処理し、さらに、1回目のFFT処理結果をFFT処理する。つまり、レーダ装置1は、2回のFFT処理を行う。続いて、レーダ装置1は、1回目および2回目のFFT処理の処理結果から、それぞれピークを抽出する(ステップS105)。
【0091】
その後、レーダ装置1は、1回目のFFT処理の処理結果から抽出したピークに基づいて、物標が存在する方位を導出する方位導出処理を行う(ステップS106)。かかる方位導出処理の詳細については、
図9を参照して後述する。
【0092】
続いて、レーダ装置1は、1回目のFFT処理の処理結果に基づいて物標までの距離を導出し、2回目のFFT処理の処理結果に基づいて物標との相対速度を導出して(ステップS107)、処理を終了する。
【0093】
次に、レーダ装置1が実行する方位導出処理について説明する。
図9に示すように、レーダ装置1は、方位導出処理を開始すると、まず、ビート信号の1回目のFFT処理の処理結果からピークを取得する(ステップS201)。
【0094】
続いて、レーダ装置1は、物標が存在する方位の絞り込みを行うか否かを判定する(ステップS202)。このとき、レーダ装置1は、現状の処理負荷が所定の処理負荷以上である場合に方位の絞り込みを行い、処理負荷が所定の処理負荷未満の場合には絞り込みを行わない。
【0095】
そして、レーダ装置1は、方位の絞り込みを行わないと判定した場合(ステップS202,No)、全モードベクトルに基づいて角度スペクトラムを算出し(ステップS209)、処理をステップS207へ移す。
【0096】
また、レーダ装置1は、方位の絞り込みを行うと判定した場合(ステップS202,Yes)、ステップS201で取得したピークと、単一方位モードベクトルとに基づいて単一方位毎に角度スペクトラムを順次算出する(ステップS203)。
【0097】
その後、レーダ装置1は、算出した単一方位毎の角度スペクトラムのうち、角度スペクトラムが最高だった単一方位モードベクトルに対応付けられた単一方位を取得する(ステップS204)。続いて、レーダ装置1は、ステップS204で取得した単一方位に基づいて、複数の物標の各方位を導出するために使用するモードベクトルを選択する(ステップS205)。
【0098】
例えば、レーダ装置1は、ステップS204で取得した単一方位近傍の方位の組合せが対応付けられた所定数のモードベクトルを選択する。すなわち、レーダ装置1は、ステップS203で取得した単一方位を含む所定の方位範囲内に含まれる方位の組合せが各々対応付けられた複数のモードベクトルを選択する。
【0099】
そして、レーダ装置1は、ステップS201で取得したピークと、選択した全てのモードベクトルのぞれぞれとに基づいて、モードベクトル毎に角度スペクトラムを順次算出する(ステップS206)。
【0100】
その後、レーダ装置1は、角度スペクトラムが最高だったモードベクトルに対応付けられた方位の組合せを取得する(ステップS207)。そして、レーダ装置1は、ステップS207で取得した方位の組合せを同時に存在する複数の各物標の方位の組合せとして導出し(ステップS208)、処理を終了する。
【0101】
上述したように、実施形態に係るレーダ装置1は、記憶部73と、送信部2と、受信部6と、導出部の一例である方位演算部83とを備える。記憶部73は、物標を検知可能な方位の範囲内で複数の物標が同時に存在し得る方位の組合せ毎に作成されたモードベクトルと方位の組合せとが対応付けられたモードベクトル情報74を記憶する。
【0102】
送信部2は、送信波を送信する。受信部6は、送信波が複数の物標で反射された反射波を複数の受信アンテナ5によって受信する。方位演算部83は、反射波およびモードベクトルに基づいて物標の方位を示す角度スペクトラムを順次算出し、角度スペクトラムが最も高かったモードベクトルに対応付けられた方位の組合せを同時に存在する物標の方位の組合せとして導出する。これにより、レーダ装置1は、レーダ装置1からの距離が略同一の位置に存在する複数の各物標の方位を導出することができる。
【0103】
なお、上述した実施形態では、レーダ装置1が物標Aおよび物標Bという同時に存在する2つの物標の各方位を導出する場合について説明したが、同時に存在する3つ以上の物標の各方位を導出することも可能である。
【0104】
レーダ装置1は、同時に存在する3つ以上の物標の各方位を導出する場合、3つ以上の物標が同時に存在し得る方位の組合せと、各方位の組合せ毎に作成されるモードベクトルとが対応付けられたモードベクトル情報を記憶する。そして、レーダ装置1は、同時に存在する2つの物標が存在する各方位を導出する場合と同様の手順により、各物標が存在する方位を導出することができる。
【0105】
また、上述した実施形態では、レーダ装置1が物標を検知可能な方位の範囲内に存在する全ての物標について、同時に存在する2つの物標の方位を導出したが、自車両からの距離が比較的遠い物標については、近接する2つの物標を区別する必要性が低い。
【0106】
このため、レーダ装置1は、例えば、自車両からの距離が所定距離(例えば、20m)以内の位置に存在する物標について、
図5に示すモードベクトル情報を使用して物標の方位を導出してもよい。
【0107】
そして、レーダ装置1は、自車両からの距離が所定距離(例えば、20m)よりも遠い位置に存在する物標については、
図2に示すモードベクトル情報を使用して物標の方位を導出してもよい。これにより、レーダ装置1は、物標の方位導出に要する処理負荷をさらに低減することができる。
【0108】
また、上述した実施形態では、レーダ装置1は、まず、一般的なレーダ装置と同様の方法で物標Aおよび物標Bが存在する方位を絞り込んでから物標Aおよび物標Bの方位を導出したが、これは一例である。
【0109】
レーダ装置1は、例えば、ビート信号をFFT処理した処理結果のパワーに基づいて物標Aおよび物標Bが存在する方位を絞り込んでから物標Aおよび物標Bの方位を導出する構成であってもよい。かかる構成によっても、レーダ装置1は、物標の方位導出に要する処理負荷を低減することができる。
【0110】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。