特許第6980997号(P6980997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6980997
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】メラニン産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20211202BHJP
   A61K 36/074 20060101ALN20211202BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20211202BHJP
   A61K 8/97 20170101ALN20211202BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   A23L33/10
   !A61K36/074
   !A61P17/00
   !A61K8/97
   !A61Q19/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-210897(P2016-210897)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-70489(P2018-70489A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年7月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 美穂
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104719874(CN,A)
【文献】 特開2016−155789(JP,A)
【文献】 特開2003−171254(JP,A)
【文献】 特開2010−043017(JP,A)
【文献】 特開平07−277944(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102370854(CN,A)
【文献】 特開2005−211060(JP,A)
【文献】 特開昭63−165327(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1927240(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103550134(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 8/97
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊芝の乾燥微粉末を有効成分として含有し、
前記霊芝の乾燥微粉末は、霊芝の子実体そのものを乾燥粉末にしたものである、メラニン産生抑制剤(但し、破砕胞子粉末を含むものを除き、かつ漢方薬アロエ40−50重量部、金銀花20−25重量部、バラ花30−35重量部、サフラン1−1.5重量部、苦参15−20重量部、甘草15−20重量部、藤花15−20重量部、チョウセンニンジン6−8重量部、紅参6−8重量部、アメリカニンジン20−25重量部、当帰9−12重量部、菊花20−25重量部、素馨35−45重量部及び霊芝45−50重量部を含む組成物を除く。)を含む、メラニン産生抑制用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
霊芝は、その薬効効果が注目され、顆粒、錠剤等の形態で健康補助食品として提供されている。霊芝の子実体は木質であることから、通常、子実体から抽出したエキスを粉末化して、顆粒、錠剤、カプセル等といった形態の健康補助食品とすることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、茸類の子実体を粉砕する粉砕工程と、粉砕された前記子実体の粉砕物の嵩密度を計測する嵩密度計測工程と、前記粉砕物から、前記子実体のエキスを抽出する抽出工程と、抽出された前記エキスを粉末化する粉末化工程と、前記粉末化工程で得られたエキス粉末を用い、茸類エキス製品を形成する製品形成工程と、を備え、前記嵩密度計測工程にて計測される前記嵩密度が所定の条件を満たすまで、前記粉砕工程を続けることを特徴とする茸類エキス製品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−270059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
霊芝のエキスには、免疫調節作用、抗腫瘍作用等があると言われている。一方、霊芝そのものは、食用に適していないことなどから、その薬効効果について充分な検討が行われているとはいえない。
【0006】
本発明は、霊芝の新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、霊芝の乾燥微粉末が、メラニン産生細胞によるメラニン産生を抑制する作用を有するという新規な知見を得た。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、霊芝の乾燥微粉末を有効成分として含有する、メラニン産生抑制剤を提供する。
【0009】
本発明のメラニン産生抑制剤は、メラニン産生抑制用医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品組成物として使用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、霊芝の乾燥微粉末を有効成分として含有するメラニン産生抑制剤が提供される。本発明のメラニン産生抑制剤は、メラニン産生細胞によるメラニン産生を抑制することができるため、シミ・そばかすの予防、日焼け止め等に使用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明のメラニン産生抑制剤は、霊芝の乾燥微粉末を有効成分として含有する。
【0013】
本明細書において、「霊芝」には、マンネンタケ属(Ganoderma)に属する担子菌の子実体が含まれる。霊芝の種類としては、例えば、赤霊芝、黒霊芝、紫霊芝、青霊芝、黄霊芝及び白霊芝が挙げられる。
【0014】
本発明による効果をより一層発揮できることから、霊芝としては、ガノデルマ ルキドゥム(Ganoderma lucidum)に属する霊芝であることが好ましい。ガノデルマ ルキドゥムに属する霊芝は、マンネンタケ(万年茸)又はサイワイタケ(幸茸)とも呼ばれる。万年茸は、生育条件によって、鹿角霊芝(鹿の角状に子実体が生育したもの)と呼ばれる子実体を形成することがある。本発明の「霊芝」及び「万年茸」には、この鹿角霊芝も含まれる。
【0015】
本発明で使用する霊芝は、天然のものであってもよく、人工的に栽培したものであってもよい。
【0016】
霊芝の乾燥微粉末は、霊芝の子実体そのものを乾燥粉末にしたものであり、霊芝の子実体から抽出したエキスを乾燥粉末にしたエキス粉末とは異なる。霊芝の乾燥微粉末は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0017】
霊芝の子実体は、常法に従って得ることができる。具体的には、例えば、おが屑、米ぬか、ふすま等を混ぜたもの(これを培地と称する)を培養袋又は広口ビン等の容器に充填した後、この培地に菌を植え付け、一定期間培養する。すると、菌(菌糸)が容器内の培地に蔓延し、いわゆる菌床が得られる。この菌床を、所定範囲内の湿度・温度・照度環境に維持することで、菌床から霊芝の子実体が生えてくる。この環境を一定期間維持して所望の大きさに生育させることで、霊芝の子実体を得ることができる。
【0018】
得られた子実体は、菌床から切り取り、所定期間乾燥させることで、乾燥子実体が得られる。次に、乾燥子実体を、適当な大きさ(例えば、〜5cm程度)にカットした後、回転刃の付いた破砕装置等で粗粉砕する。次に、粗粉砕した粉末を、乾式ジェットミル等の粉砕手段によって微粉砕して、霊芝の乾燥微粉末を得ることができる。
【0019】
粗粉砕及び微粉砕する際の条件は、得られる乾燥微粉末の嵩密度が0.20〜0.80g/ccの範囲になるよう設定するのが好ましい。嵩密度は、霊芝のような菌糸の集合体からなる試料の粉砕レベルをより正確に反映した指標となるためである。嵩密度は、例えば、粉砕時間を変更することにより、制御することができる(粉砕時間を長くすると嵩密度は大きくなる)。
【0020】
乾燥微粉末の嵩密度は、次のようにして測定することができる。まず、所定の容積の容器に、乾燥微粉末を上方から注ぎ、容器の上端面上方にまで盛り上がるようにする。このとき、過大な乾燥微粉末の混入を防ぐため、容器に注ぐ乾燥微粉末は、所定メッシュサイズの篩を通すのが好ましい。そして、上端面より盛り上がった乾燥微粉末を、板等によって容器の上端面に沿って摺り切る。この後、容器内に残った乾燥微粉末の重量Wを計測し、これを容器の容積Vで除算したものが、嵩密度Xとなる。
X=W/V[g/cc]
【0021】
本発明のメラニン産生抑制剤は、有効成分である霊芝の乾燥微粉末のみを含有するものであってもよく、本発明による効果を妨げない限り、他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤、霊芝のエキス粉末)、公知のメラニン産生抑制剤(例えば、アルブチン)を挙げることができる。
【0022】
本発明のメラニン産生抑制剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよい。本発明のメラニン産生抑制剤の形態は、使用用途(例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品組成物)に応じて適宜設定することができる。本発明のメラニン産生抑制剤は、例えば、有効成分である霊芝の乾燥微粉末と、必要に応じて他の成分とを混合して上記形状及び形態に成形することによって調製することができる。
【0023】
本発明のメラニン産生抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品組成物そのものとして、並びに医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品組成物に添加して、メラニン抑制用途に使用することができる。
【0024】
本発明のメラニン産生抑制剤を医薬品若しくは医薬部外品そのものとして、又は医薬品若しくは医薬部外品に添加して使用する場合、医薬品又は医薬部外品の形態は特に限定されず、例えば、素錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、シームレスカプセル)であってもよい。当該医薬品又は医薬部外品は、経口で投与されてもよく、非経口投与されてもよい。
【0025】
本発明のメラニン産生抑制剤を化粧品そのものとして、又は化粧品に添加して使用する場合、化粧品の形態は特に限定されず、例えば、化粧水、クリーム、マッサージクリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーションであってもよい。
【0026】
本発明のメラニン産生抑制剤を食品組成物そのものとして、又は食品組成物に添加して使用する場合、食品組成物の形態は特に限定されず、例えば、飲料(コーヒー、ジュース、茶飲料、ゼリー飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料等)であってよい。食品組成物としては、食品の3次機能が強調された食品組成物(例えば、健康食品、機能性表示食品(機能性食品)、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品)であることが好ましい。食品の3次機能が強調された食品組成物の形態としては、上述した食品組成物の形態に加えて、例えば、素錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、シームレスカプセル)であってもよい。
【0027】
本発明のメラニン産生抑制剤を添加した医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の製法は特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品の製造工程における中間製品又は最終製品に、本発明のメラニン産生抑制剤を混合等して、上記の用途に用いられる医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品を得ることができる。
【0028】
本発明のメラニン産生抑制剤は、有効成分量換算で、体重60kgの成人に一日当たり0.3g以上3.0g以下の用量で用いることができる。
【0029】
本発明のメラニン産生抑制剤は、一日一回投与又は摂取等されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与又は摂取等されてもよい。
【0030】
本発明のメラニン産生抑制剤は、メラニン産生細胞によるメラニン産生を抑制することができるため、シミ・そばかすの予防(美白)、日焼け止め等に使用することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
〔試験例1:メラニン産生抑制試験〕
(鹿角霊芝の乾燥微粉末の調製)
収穫後、乾燥した鹿角霊芝原体(乾燥子実体)を〜5cm程度にカットし、オリエントミルにより3mm角程度に粗粉砕した。粗粉砕した粉末を乾式ジェットミルで微粉砕し、霊芝の乾燥微粉末を得た。乾燥微粉末の嵩密度は、0.20〜0.80g/ccの範囲内であった。
【0033】
乾燥微粉末の嵩密度は、以下のようにして測定した。体積20mLの測定用セルに42メッシュの目開きの篩を通して乾燥微粉末を落下させ、測定用セルの上端面より盛り上がった乾燥微粉末を板によって測定用セルの上端面に沿って摺り切った。この状態で体積20mLあたりの乾燥微粉末の重量を測定し、嵩密度を算出した。
【0034】
(鹿角霊芝のエキス粉末の調製)
比較対照として、鹿角霊芝のエキス粉末を調製した。実施例1と同様にして、乾燥微粉末を得た。得られた乾燥微粉末を、含水エタノール溶液(エタノール濃度30v/v%)でエキス抽出し、残渣を含んだ状態のスラリー状エキスをスプレードライにより乾燥し、エキス粉末を得た。乾燥処理は入熱185℃、排熱95℃、ノズル口径1.3mm、噴霧圧力170kg/cm、溶液濃度10〜15%で行った。
【0035】
(メラニン産生抑制試験)
マウスB16メラノーマ細胞を10%FBS含有D−MEM培地で24時間培養した。次いで、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH:終濃度5μmol/L)及び検体(表1及び表2に示す終濃度の乾燥微粉末又はエキス粉末)を添加し、5%CO存在下、37℃で72時間培養した。培養後、上清を除去し、2M NaOH及び10%DMSO溶液を添加してマウスB16メラノーマ細胞を溶解し、405nmにおける吸光度を測定した。未処置対照(α−MSHのみ添加したもの)の405nmにおける吸光度に対する相対値として、メラニン産生率(%)を算出した。また、陽性対照として、検体に代えてアルブチン(終濃度1mmol/L)を添加したものについても同様に測定した。アルブチンは、メラニン合成を阻害することが知られている。
【0036】
メラニン産生抑制試験の結果を表1及び表2に示す。表1及び表2に示したメラニン産生率は、各サンプルについて独立して3回測定を行って得られた測定結果の平均値及び標準偏差である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
鹿角霊芝の乾燥微粉末は、用量依存的にメラニン産生率が減少しており、メラニン産生を抑制した。鹿角霊芝の乾燥微粉末は、鹿角霊芝のエキス粉末よりも、メラニン産生を強く抑制した。
【0040】
〔試験例2:細胞生存試験〕
試験例1で調製した鹿角霊芝の乾燥微粉末及びエキス粉末を使用し、細胞生存試験を行った。マウスB16メラノーマ細胞を10%FBS含有D−MEM培地で24時間培養した。次いで、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH:終濃度5μmol/L)及び検体(表3及び表4に示す終濃度の乾燥微粉末又はエキス粉末)を添加し、5%CO存在下、37℃で72時間培養した。培養後、MTTアッセイにより、細胞の生存率を測定した。未処置対照(α−MSHのみ添加したもの)の測定値に対する相対値として、細胞生存率(%)を算出した。また、陽性対照として、検体に代えてアルブチン(終濃度1mmol/L)を添加したものについても同様に測定した。
【0041】
細胞生存試験の結果を表3及び表4に示す。表3及び表4に示した細胞生存率は、各サンプルについて独立して3回測定を行って得られた測定結果の平均値及び標準偏差である。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
鹿角霊芝の乾燥微粉末を62.5〜500μg/mLの範囲で添加した場合は、細胞の生存率に影響を与えることなく、メラニン抑制作用を奏することが示された。