(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、偏光子10の斜視図である。
なお、
図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張して示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行や直交等の用語については、厳密に意味するところに加え、同様の光学的機能を奏し、平行や直交と見なせる程度の誤差を有する状態も含むものとする。
また、本発明において透明とは、少なくとも利用する波長の光を透過するものをいう。例えば、仮に可視光を透過しないものであっても、赤外線を透過するものであれば、赤外線用途に用いる場合においては、透明として取り扱うものとする。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において規定する具体的な数値には、一般的な誤差範囲は含むものとして扱うべきものである。すなわち、±10%程度の差異は、実質的には違いがないものであって、本件の数値範囲をわずかに超えた範囲に数値が設定されているものは、実質的には、本件発明の範囲内のものと解釈すべきである。
【0019】
偏光子10は、ワイヤーグリッド型偏光子であり、入射光のうち、透過軸方向と直交する方向に振動する光を反射するいわゆる反射型の偏光子である。すなわち、偏光子10は、特定の偏光軸の方向(反射される光の振動方向と直交する方向)に振動する光を透過させる。
偏光子10は、透過を制御する波長帯域で透明な透明材料により形成された透明部材16を備えている。この透明部材16の表面には、凹状溝11が一定のピッチPで繰り返して並べて配置されている。この凹状溝11の延長方向と直交する方向へ繰り返し配置されている凹凸形状によって、透明部材16の表面には、周期構造が設けられている。
【0020】
偏光子10は、凹状溝11間の凸部の頂部に、金属材料が配置されており、これにより凹状溝11に沿って延長する金属材料による第1の金属線状部(凸部金属層)12が形成されている。また、凹状溝11の底面部には、第1の金属線状部12と同一の金属材料が配置されており、凹状溝11に沿って延長する金属材料によって第2の金属線状部(凹部金属層)13が形成されている。偏光子10は、凹状溝11の繰り返しピッチPが、この偏光子10により透過を制御する波長帯域の最短波長λmin以下のピッチP(P≦λmin)となっている。このように、偏光子10は、凹状溝11間の頂部に設けられた第1の金属線状部12と、凹状溝11の底面に設けられた第2の金属線状部13とによる2層構造の金属線状部を備えており、偏光子として機能する。なお、透過を制御する波長帯域としては、例えば、波長が380nm以上、780nm以下の範囲である可視光域としてもよいし、波長が780nm以上、2500nm以下の近赤外光領域を波長帯域としてもよいし、上記以外の波長帯域としてもよい。
【0021】
ここで、この凹状溝11の繰り返しによる凹凸形状は、凸部となる平坦な部位を間に挟んで、断面矩形形状の凹状溝11が複数並んで構成される。よって、偏光子10は、凸部の頂部及び凹部の底面部がそれぞれ平坦面に構成される。そして、この頂部及び底面部に厚みT1及びT2となるように金属材料を配置して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13が形成される。これにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、それぞれ凸部の頂部形状、凹部の底面部形状に対応して凸部の頂部側及び凹状溝11の底面側が平坦面に形成される。しかし、凸部の頂部及び又は凹部の底面部は、例えば、断面形状を円弧形状等に形成してもよく、種々の形状を広く適用することができる。また、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、凸部の頂部形状、凹部の底面部形状に応じた種々の形状を適用することができる。さらに、これに対応して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、凸部の頂部側とは逆側、凹部の底面部側とは逆側についても、種々の形状を適用することができる。
【0022】
偏光子10は、透明フィルム材を素材とする基材(基材層)15に、透明材料を素材とする透明部材16が支持されて設けられており、この透明部材16の賦型処理により凹状溝11が並んで配置された周期構造が構成される。また、この周期構造が作製された微細な凹凸面上に、蒸着、又は、スパッタリング、又は、電界メッキ、又は、無電解メッキ等により金属層が作製されて第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13が構成される。なお、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の作製には、上記の他、化学気相成長、原子層堆積法等を用いてもよい。
【0023】
ここで、この基材15には、樹脂材料を面内の一方向に延伸して作製される透明フィルム材が用いられており、光学的に異方性を備えている。すなわち、基材15に用いられる透明フィルム材は、樹脂材料の延伸による光学異方性の発現により、延伸方向の屈折率が延伸方向と直交する方向に比して増大した又は減少した(すなわち延伸方向(延伸軸方向)が遅相軸方向である又は延伸方向(延伸軸方向)に直交する方向が遅相軸方向である)状態にある。
なお、このような延伸方向(延伸軸方向)が遅相軸方向である樹脂材料は、正の複屈折性を示す樹脂材料であり、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂等である。また、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリイミドフィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられる。また、延伸方向(延伸軸方向)に直交する方向が遅相軸方向である樹脂材料は、負の複屈折性を示す樹脂材料であり、例えばPS(ポリスチレン)樹脂等である。
【0024】
偏光子10は、この基材15の遅相軸方向に対して、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の延長方向が平行となるように、すなわち、基材15の延伸軸の方向が偏光子10の偏光軸の方向に対して0度の関係を持って配置されている。
このように設定すれば、基材15においては、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で反射する偏光成分に対して面内方向の屈折率が最も大きい向きであることにより、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で反射する偏光成分を、最も効率よく反射する向きに基材15が配置されることになる。またこれにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で透過する偏光成分に対しては、界面反射が最も小さくなる向きに基材15が配置されることになり、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を透過する偏光成分を最も効率よく透過する向きに基材15が配置されることになる。
【0025】
なお、基材15の延伸軸の方向は、偏光子10の偏光軸の方向に対して90度の関係を持って配置されていてもよい。この90度の関係としても、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を透過する偏光成分に対して偏光作用を及ぼさないからである。
また、上述した基材15の延伸軸の方向と偏光子10の偏光軸の方向との関係は、0度±1度以内、又は、90度±1度以内、の角度を持って配置されていれば、偏光子10を透過した偏光成分に対して、基材15が偏光作用を及ぼすことによる悪影響を無視できるレベルに抑えることができる。なお、上述の0度及び90度に設けた±1度の範囲を超えてしまうと、急激に偏光状態が乱れるので、上記範囲内に納めることが望ましい。
【0026】
透明部材16には、賦型処理可能な各種の硬化性樹脂を用いることができるが、本実施形態では、紫外線硬化性樹脂を用いている。なお、基材15を加熱して軟化させた状態で賦型用金型に押圧して賦型処理してもよく、この場合、透明部材16は、基材15により構成されることになる。
【0027】
第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13に用いる金属材料は、例えば各種の導体に係る金属、合金、金属化合物等を広く適用することができるが、アルミニウム、ニッケル、クロム、銀、のいずれかの金属、又は、これらいずれかの金属を含む合金、又は、これらいずれかの金属の化合物を用いることが望ましい。なお、透過を制限する電磁波(光)を効率よく反射する観点からは、アルミニウム、ニッケル、銀等の反射率の高い金属、又は、これら金属の合金、又は、これら金属の化合物を用いることが望ましく、赤外光や可視光に対しては、特にアルミニウムが好ましい。またこれとは逆に、透過を制限する電磁波の反射を抑圧する観点からは、クロム等の反射率の低い金属、又は、これら金属の合金、又は、これら金属の化合物を用いることが望ましい。
【0028】
第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、複数の層構造となるように作製してもよい。このような層構造により作製することにより、例えば第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の上下から入射する入射光に対して特性を異ならせ、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の両面の色合いを異ならせたりすることができる。
【0029】
保護膜17は、
図1に示した例では、第1の金属線状部12上と、第2の金属線状部13上の両方に形成されている。保護膜17は、SiOx(ただし、xは、自然数)を蒸着、又は、スパッタリングにより薄膜状に形成されている。本実施形態の保護膜17は、SiO
2により形成されている。保護膜17の詳しい説明は、後述する。
【0030】
次に、偏光子10の製造工程について説明する。
図2は、偏光子10の製造工程を示すフローチャートである。
図3は、偏光子10の製造工程を示す図である。
この製造工程では、ロールに巻き取った長尺透明フィルム材から基材15が提供される。この製造工程は、ロールから基材15を引き出して搬送しながら、凹凸形状作製工程ステップ(以下、単にS)2により、基材15の表面に凹凸形状を作製する。
【0031】
より具体的には、このS2の凹凸形状作製工程では、
図3(A)に示すように、始めに、基材15に紫外線硬化性樹脂の塗工液を塗工した後、周側面に微細凹凸形状が作製されている賦型用金型であるロール版に基材15を押圧して搬送しながら、紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させる。その後、硬化した紫外線硬化性樹脂を基材15と一体にロール版より剥離する。この工程では、
図3(B)に示すように、ロール版の周側面に形成された微細凹凸形状を転写して、基材15の表面に、凹状溝11の繰り返しによる凹凸形状を作製する。本実施形態では、円周方向に延長する向きに凸条が作製されたロール版を使用して、基材15の長手方向に延長する凹状溝11を作製する。よって、この基材15の遅相軸方向に対して、凹状溝11の延長方向が平行となり、基材15の遅相軸方向に対して、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の延長方向が平行となるように形成される。
【0032】
続いて、金属線状部作製工程S3において、蒸着、又は、スパッタリング等により、
図3(C)に示すように、凹状溝11が作製された凹凸形状面の上面(
図3中における上面)の全面に、金属材料を堆積させる。ここで、このように凹状溝11が作製された凹凸形状面に金属材料を堆積させる場合、この凹凸形状の凹状溝11間である頂部では、到来する金属材料が順次堆積して第1の金属線状部12が形成される。これに対して凹状溝11に到来する金属材料は、凹状溝11に侵入して底面に堆積し、その結果、第2の金属線状部13が形成される。このようにして、本実施形態では、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を作製する。
【0033】
上述のようにして金属材料を堆積して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を作製した後、エッチング工程S4により隣接する第1の金属線状部12間の空隙幅Sを拡大する。
【0034】
上述したように蒸着、又は、スパッタリング等により金属材料を堆積する場合、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の間の、凹状溝11の壁面にも金属材料が付着することもある。しかし、この壁面に付着する金属材料は、極めて少量であって厚みが薄く、これにより金属材料層として機能することなく、第1の金属線状部12と第2の金属線状部13とは、互いに繋がることなく間隔を開けて配置されている。よって、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、幅方向について、隣接する第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13との間で絶縁性が担保され、偏光子10においては、偏光面による透過率の選択性が担保される。
【0035】
しかし、例えば、蒸着により金属材料を堆積させる場合には、
図3(D)に示すように、第1の金属線状部12において、厚み方向だけでなく、幅方向にも金属材料が成長し、その結果、第1の金属線状部12間の空隙幅Sが極端に低下するおそれがある。このように空隙幅Sが極端に低下すると、第1の金属線状部12おける開口率(第1の金属線状部12の繰り返し方向に係る空隙幅Sの占める割合)が低下し、その結果、透過率が低下することになる。
【0036】
そこで、本実施形態では、エッチング液を使用したエッチングにより開口率を増大させるエッチング工程(S4)を行う。
なおエッチング処理では、第1の金属線状部12の厚みTも減少することになるが、この厚みTの減少に比べて空隙幅Sをより多く広げることができる。しかし、エッチング時間が余りにも長いと、第2の金属線状部13の厚みが薄くなって光学特性が劣化し、特に吸収軸方向の反射率Rsが急激に低下する。一方、余りにもエッチング時間が短いと、透過軸方向の透過率Tpが低下する。また、エッチングの進行は、エッチング液の濃度や液温によっても左右される。したがって、エッチングの条件は、エッチング液の濃度、及び、エッチング液の温度、さらに、エッチング時間に関して、適切な条件を設定して行うとよい。
【0037】
なお、上述したウェットエッチングに代えて、いわゆるドライエッチングにより空隙幅Sを広げるようにしてもよい。また、実用上充分に空隙幅Sが確保されている場合には、エッチング工程を省略してもよい。なお、このエッチング工程により、凹状溝11の壁面に付着した金属材料も全部又は一部が除去され、これにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13間の絶縁性を向上して偏光特性を向上することができる。
【0038】
第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13が形成されたら、その上にさらに保護膜17を形成する保護膜形成工程(S5)を行う。本実施形態では、SiO
2を蒸着することにより、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の双方の上にSiO
2を堆積させて、保護膜17を形成する。
ここで、先の第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の形成時と同様に、凹状溝11が作製された凹凸形状面に金属材料を堆積させる場合、この凹凸形状の凹状溝11間である頂部では、到来するSiO
2が順次堆積して第1の金属線状部12の上に保護膜17が形成される。これに対して凹状溝11に到来するSiO
2は、凹状溝11に侵入して底面に堆積し、その結果、第2の金属線状部13の上に保護膜17が形成される。このようにして、本実施形態では、保護膜17を作製する。
【0039】
なお、金属材料の場合と同様に、蒸着、又は、スパッタリング等によりSiOxを堆積する場合、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の間の、凹状溝11の壁面にもSiOxが付着することもある。しかし、この壁面に付着するSiOxは、極めて少量であって厚みが薄く、これによりこの壁面のSiOxの層(保護膜)が偏光特性に悪影響を与えることはない。
【0040】
このようにして第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の上に保護膜17を形成した後、この製造工程の最終工程で、例えば、長尺の偏光子10をロールに巻き取って偏光子巻取体が作製される。そして、この偏光子巻取体が続く処理工程に搬送されて切断処理が実行されて、個片の偏光子が作製される。
【0041】
ここで、保護膜17について、より詳しく説明する。
本実施形態における保護膜17は、特に耐湿を向上させて、過酷環境下における耐久性を向上させる目的で設けられている。この保護膜17の効果を確認し、かつ、保護膜17の適切な膜厚を明らかにするための試験を行った。
図4は、試験結果をまとめて示した図である。
この試験は、耐湿熱試験として、温度85℃、湿度85%の環境下に1000時間、又は、500時間放置する試験である。
試験に用いた偏光子は、P=100nm、L=40nm、S=60nm、D=120nm、T1=103nm、T2=70nmとした。
【0042】
また、試験用のサンプルは、保護膜17の膜厚が異なる以下の4種類を用意した。
比較例1:保護膜17の膜厚=0nm(すなわち、保護膜なし)。
実施例1:保護膜17の膜厚=
2.3nm(平面換算膜厚=2nm)。
実施例2:保護膜17の膜厚=30nm(平面換算膜厚=25nm)。
比較例2:保護膜17の膜厚=60nm(平面換算膜厚=50nm)。
【0043】
ここで、平面換算膜厚とは、保護膜形成工程において、平面に対して保護膜形成の工程を行った場合に形成される膜厚を指しており、蒸着(又は、スパッタリング)によってどの程度の成膜を行ったかを示す指標である。上記の実測の保護膜17の膜厚は、第1の金属線状部12の上に置ける膜厚を測定している。凹状溝11の底面にまでは、SiO
2が到達しにくく、底面に到達せずに凹状溝11間の凸部の頂部に堆積するSiO
2が多いことから、上記のように実測値が厚めになっていると推測される。
【0044】
これら4種類のサンプルについて、それぞれ、試験前と試験後のP偏光透過率(以下、Tp)及びS偏光透過率(以下、Ts)を測定した。この測定は、波長=940nmの測定光を用いて、日本分光社製のV670分光器を用いて行った。
また
図4には、これらTp及びTsの試験後の変化量及び変化率と、試験前後のコントラスト値(Tp/Ts)を示した。
図4に示すように、保護膜17が形成されていない比較例1では、500時間の放置で、Tpが大幅に低下してしまっている。これに対して、保護膜17が2.3nm形成されている実施例1では、1000時間放置後であっても、Tpの低下がわずかに抑えられている。同様に、保護膜17が30nm形成されている実施例2でも、Tpの低下がわずかに抑えられている。
【0045】
図5は、保護膜17が2.3nm形成されている実施例1の断面を拡大して撮影した顕微鏡写真である。
図6は、保護膜17が30nm形成されている実施例2の断面を拡大して撮影した顕微鏡写真である。
なお、
図5及び
図6において第1の金属線状部12の最も上方(図中における上方)に白く膜のように見える部分は、保護膜17ではなく、顕微鏡写真の撮影までの観察工程において形成されるものであり、保護膜17は、この最も白く見えている部分よりも色が濃く、第1の金属線状部12に堆積している部分である。
【0046】
図4に示した保護膜17の実測値は、第1の金属線状部12の上に形成されている保護膜17を測定したものである。そして、特に
図5を見ると、実際には、保護膜17は、第1の金属線状部12上には形成されているものの、第2の金属線状部13の上には、殆ど形成されていないか、極僅かにしか形成されていない。このような状態であっても、保護膜17の存在によって、試験後であっても良好な偏光特性が得られている。隣り合う第1の金属線状部12の間隔は、非常に狭くなっており、場所によっては略隙間が埋まっている部分も存在する。そして、この第1の金属線状部12の上に保護膜17が存在することにより、水分が凹状溝11内に侵入できず、偏光子10の耐環境性が向上していると考えられる。よって、保護膜17は、少なくとも第1の金属線状部12の上に極僅かに存在していればよいといえる。ここで、実施例1の2μm程度の保護膜17の厚さは、略、保護膜17の形成を制御できる限界であり、かつ、計測の限界に近いである。なお、偏光子10の凹状溝11とは反対側の面は、基材15が設けられていることから、この基材15によって、水分が偏光子10へ浸入することを防いでいる。
【0047】
ただし、保護膜17の膜厚が60nm(平面換算膜厚=50nm)の比較例2では、試験前(0hr)のTpが低下してしまっている。これは、保護膜17の厚さが厚すぎることが原因と考えられる。そこで、保護膜17の厚さに着目して、保護膜17の有無による偏光特性の変化について試験を行った。
【0048】
図7は、保護膜の有無による偏光特性の変化を調べた試験結果をまとめた図である。
図7の試験では、
図4の試験とは異なる形状の偏光子10を用いている。
図7の偏光子10は、P=100nm、L=50nm、S=50nm、D=125nm、T1=100nm、T2=70nmとした。測定は、波長=940nmの測定光を用いて、日本分光社製のV670分光器を用いて行った。
【0049】
図7に示す様に、サンプルNo.1の保護膜17の膜厚が30nm(平面換算で25nm)では、Tpの減少量は大きくないが、サンプルNo.2,3の保護膜17の膜厚が54.2nm(平面換算で50nm)以上の物では、Tpの減少量が大きくなり、偏光特性の悪化が顕著となる。
これら
図4〜
図7に示した結果から、保護膜17の膜厚は、30nm(平面換算で25nm)を上限として、わずかであっても第1の金属線状部12の上に形成されていれば、耐環境性を向上でき、偏光特性への悪影響も小さいといえる。
【0050】
次に、偏光子10の他の態様について説明する。
図8から
図11は、偏光子10のより実際に近い形態を模式的に示した図である。
偏光子10は、理想的には、
図1に示したような形状となるが、第1の金属線状部12と第2の金属線状部13と保護膜17とは、型を用いて形成するのではなく、蒸着又はスパッタリングにより形成される。したがって、これらの形状は、
図5及び
図6の写真に示したように、
図1に示した形状とは異なる形状となっている。偏光子10は、実際には、
図8から
図11に例示したように、第1の金属線状部12の幅が凸部の幅と略同じ(
図8)であったり、第1の金属線状部12の幅が凸部の幅よりも膨らんでいたり(
図9から
図11)、第1の金属線状部12の一部が倒れて隣とくっついていたり(
図10,11)と、形状に様々なバリエーションがある。
【0051】
また、凹状溝11の構成についても、矩形形状に限らない。
図12は、凹状溝の他の形状を示す図である。
例えば、
図12(A)に示すように、対向する壁面が先細りのテーパ面である断面楔形形状により凹状溝を作製するようにしてもよく、また
図12(B)により示すように、全体が正弦波形状による凹凸面形状となる断面形状により凹状溝を作製してもよく、種々の形状を適用することができる。
【0052】
図13は、第1の金属線状部12の他の形状を示す図である。
エッチング工程の処理加減によっては、例えば、
図13に示すような形態とすることもできる。
図13の例では、第1の金属線状部12は、エッチングの進行により幅方向に厚みが徐々に低下し、これにより透明部材16と接する部位の幅が、凹状溝11間の頂部の幅以下であり、かつ透明部材16と接する部位より遠ざかるに従って徐々に幅が増大する涙滴形状の断面形状としてもよい。なお、凹状溝11内の底部に存在する第2の金属線状部13は断面視において円弧状の凹状の窪みが形成されている。ここで第1の金属線状部12の涙滴形状とは、
図8の断面視において、全体が円弧で形成されており、透明部材16側の第1の金属線状部12の基部の幅に比べて、それより上部の幅が広く膨らんだ紡錘形状を意味するものである。
【0053】
上述のように、偏光子の具体的な形態には、様々なバリエーションが存在するが、保護膜17は、少なくとも第1の金属線状部の一部に形成されていれば、十分に耐環境性を向上させることができる。また、保護膜17は、透明部材16と第1の金属線状部12と第2の金属線状部13とにより構成された凹凸形状の外形輪郭形状に沿って部分的に形成されていてもよく、保護膜17の具体的な配置は、適宜変更可能である。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、少なくとも第1の金属線状部12の上に僅かに保護膜17を設けるだけで耐環境性が高くなる。したがって、この偏光子10は、耐環境性が高く、かつ、製造である。
【0055】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の範囲内である。
【0056】
例えば、実施形態において、第1の金属線状部12と第2の金属線状部13の両方を備えた偏光子を例に挙げて説明した。これに限らず、例えば、第2の金属線状部13を備えずに第1の金属線状部12のみが形成されている偏光子であっても、保護層を設けることにより、同様に耐環境性を向上させることができる。
【0057】
なお、第1実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。