(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記整流部は翼状面を少なくとも2枚含み、周方向において隣接する2枚の翼状面は、前記ポリゴンミラーの回転軸に対する傾斜方向が反対であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光走査装置。
前記整流部は斜溝を少なくとも2本含み、周方向において隣接する2本の斜溝は、前記ポリゴンミラーの回転軸に対する傾斜方向が反対であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光走査装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[画像形成装置の外観]
図1の(a)は、本発明の実施形態による画像形成装置100の外観を示す斜視図である。この画像形成装置100はプリンターである。その筐体の上面には排紙トレイ41が設けられ、その奥に開いた排紙口42から排紙されたシートを収容する。排紙トレイ41の前方には操作パネル51が埋め込まれている。プリンター100の底部には給紙カセット11が引き出し可能に取り付けられている。
【0016】
[画像形成装置の内部構造]
図1の(b)は、
図1の(a)の示す直線b−bに沿ったプリンター100の模式的な断面図である。プリンター100は電子写真式のカラープリンターであり、給送部10、作像部20、定着部30、および排紙部40を含む。
給送部10は、まずピックアップローラー12を用いて、給紙カセット11に収容されたシートの束からシートSH1を1枚ずつ分離する。この分離したシートを給送部10はタイミングローラー13を用いて作像部20へ送出する。「シート」とは、紙製もしくは樹脂製の薄膜状もしくは薄板状の材料、物品、または印刷物をいう。給紙カセット11に収容可能なシートの種類すなわち紙種はたとえば、普通紙、上質紙、カラー用紙、または塗工紙であり、サイズはたとえば、A3、A4、A5、またはB4である。さらに、シートの姿勢は縦置きと横置きとのいずれにも設定可能である。
【0017】
作像部20は、たとえば中間体転写方式であり、感光体ユニット20Y、20M、20C、20K、中間転写ベルト21、1次転写ローラー22Y、22M、22C、22K、2次転写ローラー23、および光走査装置25L、25Rを含む。中間転写ベルト21は従動プーリー21Lと駆動プーリー21Rとの間に回転可能に掛け渡されている。これらのプーリー21L、21Rの間には、4つの感光体ユニット20Y−20Kと4本の1次転写ローラー22Y−22Kとが1つずつ対を成すように配置され、中間転写ベルト21を間に挟んで対向している(タンデム配置)。2次転写ローラー23は中間転写ベルト21を間に挟んで駆動プーリー21Rとニップを形成している。このニップには、タイミングローラー13から送出されたシートSH2が通紙される。感光体ユニット20Y−20Kの含む感光体ドラム24Y、24M、24C、24K、中間転写ベルト21、従動プーリー21L、駆動プーリー21R、1次転写ローラー22Y−22K、および2次転写ローラー23はいずれも回転軸が平行である。この共通の軸方向(
図1の(b)では紙面の法線方向)を以下、「主走査方向」と呼ぶ。光走査装置25L、25Rは、たとえばそれぞれが2つずつの感光体ユニット(20Y、20M)、(20C、20K)に対し、画像データで変調されたレーザー光を照射する。
【0018】
感光体ユニット20Y−20Kでは感光体ドラム24Y−24Kが、対向する1次転写ローラー22Y−22Kに、中間転写ベルト21を間に挟んだ状態で接触してニップを形成している。感光体ユニット20Y−20Kは、中間転写ベルト21が(
図1の(b)では反時計方向に)回転する間、その同じ表面部分が1次転写ローラー22Y−22Kと感光体ドラム24Y−24Kとの間のニップを通過する際にその表面部分に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)のうち異なる1色のトナー像を形成する。その表面部分にはこれら4色のトナー像が重ねられて1つのカラートナー像が形成される。このカラートナー像が駆動プーリー21Rと2次転写ローラー23との間のニップを通過するタイミングに合わせて、そのニップへシートSH2がタイミングローラー13から通紙される。これによりそのニップではカラートナー像が中間転写ベルト21からシートSH2へ転写される。
【0019】
定着部30は、作像部20から送出されたシートSH3にトナー像を熱定着させる。具体的には、定着部30は定着ローラー31と加圧ローラー32とを回転させながら、それらの間のニップにシートSH2を通紙する。このとき、定着ローラー31はそのシートSH3の表面へ内蔵のヒーターの熱を加え、加圧ローラー32はそのシートSH3の加熱部分に対して圧力を加えて定着ローラー31へ押し付ける。定着ローラー31からの熱と加圧ローラー32からの圧力とにより、トナー像がそのシートSH3の表面に定着する。定着部30は更に定着ローラー31と加圧ローラー32との回転により、そのシートSH3を排紙部40へ送り出す。
【0020】
排紙部40は、トナー像が定着したシートSH3を排紙口42から排紙トレイ41へ排紙する。具体的には、排紙部40は、排紙口42の内側に配置された排紙ローラー43を用いて、定着部30の上部から排紙口42へ移動してきたシートSH3を排紙口42の外へ送出して排紙トレイ41に載せる。
[感光体ユニットの構造とそれによる画像形成処理]
図1の(c)は、
図1の(b)の示す感光体ユニットの1つ20Kの拡大図である。この感光体ユニット20Kは感光体ドラム24Kに加え、帯電部201、露光部202、現像部203、クリーニングブレード204、およびイレーサー205を含む。これらの機能部201−205は感光体ドラム24Kと共に感光体ユニット20Kの筐体200内に収容され、感光体ドラム22を囲むように配置されている。機能部201−205は、感光体ドラム24Kの外周面241に対して電子写真式による画像形成処理のうち定着以外の処理、すなわち、帯電、露光、現像、転写、清掃、および除電を行う。他の感光体ユニット20Y、20M、20Cも共通の構造を含む。
【0021】
感光体ドラム24Kは、外周面241が感光体で覆われたアルミニウム等の導電体製の円筒部材であり、その中心軸(
図1の(c)では、感光体ドラム24Kの円形断面の中心を紙面に対して垂直に貫く軸)242のまわりを回転可能に支持されている。感光体は、露光量に依存して帯電量が変化する素材であり、アモルファスセレン、セレン合金、アモルファスシリコン等の無機材料、または複数の有機材料の積層構造(OPC)を含む。
図1の(c)は示していないが、感光体ドラム24Kの中心軸242は、ギア、ベルト等、回転力の伝達機構を通して駆動モーターに接続されている。このモーターからの回転力を受けて感光体ドラム24Kが(
図1の(c)では時計方向に)1回転すると、感光体の各表面部分が周囲の機能部201−205に順番に面してそれらの処理を受ける。
【0022】
帯電部201は、感光体ドラム24Kの外周面241から間隔をおいてその軸方向(
図1の(c)では紙面の法線方向)に伸びるワイヤーまたは薄板形状の電極211を含む。帯電部201はこの電極211に対し、たとえば負の高電圧を印加することにより、この電極211と感光体ドラム24Kの外周面241との間にコロナ放電を生じさせる。この放電が、帯電部201に面した感光体の表面部分を負に帯電させる。
【0023】
露光部202は、感光体ユニット20Kの筐体200のうち、帯電部201と現像部03との隙間に位置する部分に設けられた開口であり、感光体ドラム24Kの外周面241のうち、帯電部201が帯電させた直後の部分を筐体200の外部に露出させる。この露出部分には、露光部202を通して光走査装置25Rからレーザー光が照射される。
光走査装置25L、25Rは、画像データの表すY、M、C、Kのうち異なる色の階調値で変調されたレーザー光を、異なる感光体ユニット20Y−20Kに対して照射する。具体的には、
図1の(b)の示す2台の光走査装置の一方25Lは、Y、Mの各色の階調値で変調されたレーザー光LLY、LLMを異なる感光体ユニット20Y、20Mに対して照射し、他方25Rは、C、Kの各色の階調値で変調されたレーザー光LLC、LLKを更に異なる感光体ユニット20C、20Kに対して照射する。感光体ユニット20Kでは、K色の階調値で変調されたレーザー光LLKにより、感光体ドラム24Kの外周面241のうち露光部202から露出した部分がそのドラム24Kの軸方向(主走査方向)に走査される。レーザー光量が高いほど感光体の帯電量が減少するので、主走査方向に伸びる直線状の露光領域にはレーザー光量の変化に対応する帯電量分布、すなわちK色の階調値分布の表す静電潜像の1ラインが形成される。1ラインに対するこの露光動作を光走査装置25L、25Rは、感光体ドラム24Y−24Kの回転に同期して繰り返す。これにより感光体ドラム24Y−24Kの外周面241には、回転方向(以下、「副走査方向」という。)に露光済みのラインが連なり、静電潜像が2次元的に拡がる。
【0024】
現像部203は感光体ドラム24K上の静電潜像をK色のトナーで現像する。具体的には、現像部203はまず2本のオーガスクリュー231、232で2成分現像剤DVLを撹拌し、そのときの摩擦で現像剤DVLの含むトナーを負に帯電させる。現像部203は次に現像ローラー233を用いて、現像剤DVLを感光体ドラム24Kとの間のニップへ搬送する。これと並行して現像部203は、現像ローラー233に対して負の高電圧を印加する。これにより、静電潜像のうち帯電量の比較的少ない領域は現像ローラー233よりも電位が上がるので、現像ローラー233の搬送する現像剤から、帯電量の減少分に応じた量のトナーが分離して付着する。こうして静電潜像がトナー像として顕在化する。
【0025】
このトナー像は感光体ドラム24Kの回転に伴い、それと1次転写ローラー22Kとの間のニップへ移動する。1次転写ローラー22Kに対しては正の高電圧が印加されているので、負に帯電したトナー像が感光体ドラム24Kの外周面から中間転写ベルト21へ転写される。
クリーニングブレード204は、たとえばポリウレタンゴム等の熱硬化性樹脂から形成された薄い矩形板状の部材であり、その長さが感光体ドラム24Kの外周面241のうち感光体で覆われた部分とほぼ等しい。ブレード204の板面のうち感光体ドラム24Kの外周面241に面した方は、その長辺の1つ(エッジ)が感光体ドラム24Kの軸方向に対して平行な状態でその外周面241に接触し、その外周面241からトナー像の転写跡に残るトナーを掻き取る。こうして、その外周面が清掃される。
【0026】
イレーサー205は、たとえば感光体ドラム24Kの軸方向に配列された発光ダイオード(LED)から感光体ドラム24Kの外周面241に光を照射する。その外周面241のうち照射光を受けた部分からは残存する電荷が消失する。こうして、その外周面241が除電される。
[光走査装置の構造]
図2の(a)、(b)は、異なる視点から見える光走査装置25Rの外観を示す斜視図である。
図2の(a)では、光走査装置25Rの筐体であるハウジング500の上面502が見え、(b)ではその底面503が見える。光走査装置25Rの内部構造を説明する便宜上、図では上面502、底面503が共に、角の一部を残して除去されている。
図3の(a)、(b)はそれぞれ、光走査装置25Rの内部構造の上面図、底面図であり、(c)は、(a)の示す直線c−cに沿った光走査装置25Rの縦断面図である。
図2、
図3が示すとおり、光走査装置25Rはハウジング500の中に、光源510、出射光学系512、513、514、偏向器520、および走査光学系531、532、533、534、535を含む。これらの要素と配置とは残りの光走査装置25Lでも同様である。
【0027】
−ハウジング−
ハウジング500はたとえば直方体形状の筐体であり、最も長い辺が感光体ドラム24Y−24Kに共通の軸方向、すなわち主走査方向に対して平行であるように(
図1の(b)参照。)プリンター100内のシャーシ(図は示していない。)によって支持されている。ハウジング500は、基板501、上カバー502、および下カバー503を含む。いずれの部材501−503も実質的に同じサイズの矩形板状である。特に基板501はアルミダイキャスト等の金属製品または繊維強化樹脂(FRP)等の硬質樹脂成形品であり剛性が高い。基板501は表裏両側の板面により、光源510、出射光学系512−514、偏向器520、および走査光学系531−535を支持すると共に、それらの光学的な位置を決める。基板501は更に側壁504を含む。側壁504は基板501の表裏両側の板面の各辺からその板面の法線方向へ張り出している。上カバー502は、基板501の表側の板面(
図2の(a)では上面)と側壁504とで囲まれる空間を覆って外部から隔離する。下カバー503は、基板501の裏側の板面(
図2の(b)では下面)と側壁504とで囲まれる空間を覆って外部から隔離する。このように、2枚のカバー502、503と側壁504とで囲まれたハウジング500の内部空間は基板501により、2つの領域に仕切られている。
図2、
図3の(c)ではこれらの領域が上下に位置する。以下、これらの領域を「上段」、「下段」と呼ぶ。
【0028】
上段は、吸気口541、排気口542、および2枚の仕切壁543、544を含む。吸気口541は、基板501の側壁の1つ、たとえば
図2の(a)では板面の1つの短辺から張り出した側壁に開けられた貫通穴であり、そこを通して上段の中へ外気が流入可能である(
図2の(a)の示す矢印AR1参照)。排気口542は、基板501の別の側壁、たとえば
図2の(a)では板面のもう1つの短辺から張り出した側壁に開けられた貫通穴であり、そこを通して上段の内気が外へ流出可能である(
図2の(a)の示す矢印AR2参照)。吸気口541、排気口542は、
図2の(a)では基板501の短辺方向における側壁の中央部に位置する。仕切壁543、544は、上段内を基板501の長辺方向に伸びる壁面であり、それらの間に吸気口541から排気口542までの空間を挟み、上段内の他の空間から隔離している。こうして仕切壁543、544は基板501および上カバー502と共に、吸気口541と排気口542との間を繋ぐダクト540を構成する。ダクト540は、
図2の(a)では基板501の短辺方向における上段の中央部に位置する。
【0029】
図2は示していないが、吸気口541の外側には、送風ファンが設置され、または別の箇所に設置された送風ファンからの気流を導くダクトの出口が設置されている。これらのファンからの気流は吸気口541からハウジング500内のダクト540へ進入する。進入した気体をダクト540は吸気口541から排気口542までの空間を案内する。この空間をダクト540は上段内の他の空間から隔離しているので、気体は他の空間へは漏れ出ることなく、特に光学系512−514、531−535とは接触することなくダクト540内を流動し、排気口542を通してハウジング500の外へ流出する。
【0030】
−光源−
光源510はハウジング500の側壁の1つ、たとえば
図2の(a)、
図3の(a)では、基板501の板面の1つの短辺から張り出した側壁の外面に取り付けられた印刷回路基板である。光源510は、画像データが表すY、M、C、Kの色ごとに1つずつ設けられている。
図2の(a)の示す光走査装置25Rには、C、Kの2色に対する2つの光源510が基板501の板面の短辺方向における中心線、特に排気口542の中心に対して対称的に配置されている。各光源510の上には半導体レーザー511とその制御回路(図は示していない。)とが1つずつ実装されている。
【0031】
半導体レーザー511はレーザーダイオード等のレーザー発振器を含む。このレーザー発振器はたとえば波長780nmまたは655nmのレーザー光を1本、数mW〜十数mWの出力で出射可能である。半導体レーザー511はこのレーザー光を、光源510が面したハウジング500の側壁に開けられた貫通穴からハウジング500の上段の中へ照射する。
【0032】
制御回路は、半導体レーザー511に対する発光制御専用の電子回路であり、たとえば特定用途向け集積回路(ASIC)またはプログラム可能な集積回路(FPGA)で構成されている。制御回路は、プリンター100に内蔵の主制御部から画像データを受信し、その画像データの表すC色またはK色の階調値に基づいて半導体レーザー511の明滅パターンを変調する。たとえば、各画素に対するC色またはK色の階調値が高いほどその画素に対する半導体レーザー511の発光時間が長く調節される。
【0033】
−出射光学系−
出射光学系512−514は、光源510と1対1に設けられた光学素子群であり、ハウジング500の上段のうちダクト540の外側に配置され、光源510から出射したレーザー光を偏向器520に照射する。
図2の(a)の示す光走査装置25Rでは、2つの光源510に対する2群の出射光学系512−514が基板501の板面の短辺方向における中心面、特にダクト540の中心軸に対して対称的に配置されている。
【0034】
出射光学系は、コリメーターレンズ512、ミラー513、およびシリンドリカルレンズ514を含む。コリメーターレンズ512は、半導体レーザー511から出射したレーザー光を平行光に変換する。ミラー513は、コリメーターレンズ512から出射したレーザー光を反射して折り返させる。シリンドリカルレンズ514はミラー513の反射光を、基板501の板面に対して垂直な方向では収束光に変換し、その板面に対して平行な方向では平行光に変換する。
【0035】
−偏向器−
偏向器520は、ハウジング500の上段のうちダクト540の内側に配置され、基板501の板面(
図2の(a)ではその中央部)に支持されている。偏向器520は、筐体525、526(
図2の(a)ではその上蓋526の一部が除去されている。)の中にポリゴンミラー521とポリゴンモーター(
図2の(a)は示していない。)とを収めている。これらを用いて偏向器520は、シリンドリカルレンズ514から入射したレーザー光を偏向させ、かつその偏向角を周期的に変化させる。
【0036】
図4の(a)、(c)は、異なる視点から見える偏向器520の外観を示す斜視図である。
図4の(a)では偏向器520の筐体の上面が見え、(c)ではその底面が見える。
図4の(b)、(d)はそれぞれ、偏向器520の内部構造を、
図4の(a)、(c)と同じ視点から見た場合の外観を示す斜視図である。
図4の(b)、(d)では説明の便宜上、偏向器520の筐体525、526があたかも透明であるかのように描かれている。
【0037】
偏向器520の筐体は底板525と上蓋526とを含む。いずれの部材525、526もアルミニウム等、熱伝導率の高い金属または樹脂から成る。底板525は実質的に台形板状であり、
図2の(a)、
図3の(a)が示すように、その台形の上底を吸気口541に向け、かつ下底を排気口542に向けた姿勢で基板501に、たとえばねじ止めされている。底板525は板面上に、ポリゴンミラー521、シャフト522、およびポリゴンモーター523、524とその駆動回路(以下、「ポリゴンモーター等」と略す。)が実装された基板(図は示していない。以下、「モーター基板」と呼ぶ。)を支持している。上蓋526は底の抜けた箱状部材であり、底板525の板面全体を覆っている。上蓋526の縁と底板525の縁との間は密封されているので、上蓋526の内側の空間には、ポリゴンミラー521、シャフト522、およびポリゴンモーター等523、524が気密に閉じ込められている。上蓋526の内部には円筒形状の内壁600が設けられている。内壁600は、アルミニウム等、熱伝導率の高い金属または樹脂から上蓋526と共に一体成形されている。内壁600は中心軸CAXが底板525の板面に対して垂直であり、かつシャフト522と同軸に配置されているので、ポリゴンミラー521の外周を囲んでいる。上蓋526の側面と内壁600とには透光窓527が2箇所に設けられている。透光窓527はたとえば透明なガラスまたは樹脂から成り、ハウジング500の仕切壁543、544に設けられた同様な透光窓545(
図2の(a)参照。)に面している。
【0038】
ポリゴンミラー521は正多角柱(たとえば
図2−4では正7角柱)状の部材であり、いずれの側面にも鏡面加工が施されている。これにより、各側面は入射光を反射して偏向させる。以下、これらの側面を「偏向面」と呼ぶ。ポリゴンミラー521は更に中心部に軸受(図は示していない。)を含む。
シャフト522は細長い円柱形状の軸であり、底板525にその板面に対して垂直に固定されている。シャフト522はポリゴンミラー521の中心部を貫通し、その軸受に外周面を接触させている。これにより、シャフト522はポリゴンミラー521を自身のまわりに回転可能に支持し、特にポリゴンミラー521の回転軸(回転運動の中心を示す仮想的な直線)を自身の中心軸と一致するように規制する。
【0039】
ポリゴンモーターはたとえば直流ブラシレスモーター(BLDC)であり、回転子523と固定子524とを含む。回転子523は、ネオジウム等の永久磁石で構成された環状部材であり、ポリゴンミラー523に同軸に固定されている。固定子524は、シャフト522と同心円上に配置された複数の巻線であり、モーター基板(図は示していない。)と共に底板525に固定されている。これらの巻線524は、モーター基板に実装された駆動回路から交互に電流を受ける。これにより、巻線524の発生させる磁界分布が周期的に変化して、永久磁石523に対してシャフト522まわりの回転力を及ぼす。この回転力がポリゴンミラー521をシャフト522のまわりに回転させる。
【0040】
ポリゴンモーターがポリゴンミラー521を等角速度で回転させている間、ポリゴンミラー521には光源510からのレーザー光LLが、
図3の(a)が示すように、シリンドリカルレンズ514から仕切壁543、544の透光窓545、および偏向器520の上蓋525の透光窓527を通して入射する。特にシリンドリカルレンズ514により、入射光LLはポリゴンミラー521の偏向面上において、基板501の板面に対して垂直な方向では結像し、その板面に対して平行な方向では平行光のままである。入射光LLはポリゴンミラー521の偏向面によって反射され、反射光RLは偏向器520の上蓋525の透光窓527、および仕切壁543、544の透光窓545を通して走査光学系531−535へ進む。入射光LLと反射光RLとの進行方向が成す角度、すなわち偏向角φはポリゴンミラー521の回転に伴って変化する。具体的には偏向角φは、入射光LLに対する偏向面の傾きが連続的に変化する間、最小値φ
Lと最大値φ
Rとの一方から他方へ連続的に移行し、入射光LLを反射していた偏向面が次の偏向面に切り換わる瞬間、最小値φ
Lと最大値φ
Rとの他方から一方へ戻る。ポリゴンミラー521が回転する間、偏向角φのこのような変化が周期的に繰り返される。
【0041】
−走査光学系−
走査光学系531−535は出射光学系512−514と同様、光源510と1対1に設けられた光学素子群である。出射光学系512−514とは異なり、走査光学系531−535はハウジング500の上段に加えて下段にも配置され、ポリゴンミラー521から反射されたレーザー光RLを、ハウジング500の下カバー503に開けられたスリット50C、50Kから外へ出射させ、感光体ユニット20C、20Kの露光部202から露出した感光体ドラム24C、24Kの外周面に結像させる。
図2の示す光走査装置25Rでは、2つの光源510に対する2群の走査光学系531−535が基板501の板面の短辺方向における中心面に対して対称的に配置されている。
【0042】
走査光学系は、fθレンズ531、第1折り返しミラー532、第2折り返しミラー533、結像レンズ534、および第3折り返しミラー535を含む。fθレンズ531と第1折り返しミラー532とはハウジング500の上段に配置され、第2折り返しミラー533、結像レンズ534、および第3折り返しミラー535は下段に配置されている。fθレンズ531は、ポリゴンミラー521からの反射光RLを透過させて第1折り返しミラー532へ照射する。第1折り返しミラー532、第2折り返しミラー533、および第3折り返しミラー535はいずれも細長い板状部材であり、板面に鏡面加工が施されている。
図2、
図3が示すとおり、いずれの折り返しミラー532、533、535も長手方向がハウジング500の基板501の長辺方向、すなわち主走査方向に対して平行に配置されている。第1折り返しミラー532はfθレンズ531からの透過光RLを反射して、基板501の板面に開けられたスリット505を通してハウジング500の下段へ出射させる。この反射光を第2折り返しミラー533が反射し、結像レンズ534へ照射する。結像レンズ534は第2折り返しミラー533からの反射光を収束光に変換する。結像レンズ534からの透過光を第3折り返しミラー535が反射して、ハウジング500の下カバー503のスリット50C、50Kから外へ出射させる。
【0043】
fθレンズ531は、一般に2枚以上の非球面レンズ(図は示していない。)から構成された複合レンズであり、ポリゴンミラー521からの反射光RLを結像レンズ534と協働して感光体ドラム24Cまたは24Kの表面に結像させる。ポリゴンミラー521が回転によって偏向角を変化させると、それに合わせてfθレンズ531からの透過光TLが各折り返しミラー532、533、535の上を長手方向に移動するので、その透過光TLの結像点が感光体ドラム24Cまたは24Kの表面上を軸方向(主走査方向)に移動する。fθレンズ531は入射光RLの入射角と、透過光TLの結ぶ像高(結像点の光軸からの距離)とを比例させる。この特性により、ポリゴンミラー521の回転に伴う偏向角φの変化量が透過光TLの結像点の移動距離に比例する。具体的には、たとえば
図3の(a)が示すように、ポリゴンミラー521が時計回りに角度θだけ回転して偏向角φを最小値φ
Lから変化量Δφだけ増加させると、それに伴ってfθレンズ531からの透過光TLが第1折り返しミラー533の上を距離Δρだけ移動する。この距離Δρが偏向角φの変化量Δφに比例する。この距離Δρは感光体ドラム24C、24Kの表面上における結像点の移動距離に比例し、偏向角φの変化量Δφはポリゴンミラー521の回転角の変化量θの2倍である:Δφ=2θ。したがって、結像点の主走査方向における位置とポリゴンミラー521の回転角との間に線形性が確立される。特にポリゴンミラー521が等角速度で回転するとき、偏向角φが連続的に変化する間、結像点が主走査方向に等速度で移動する。
【0044】
[ダクトを利用した偏向器からの排熱]
図2の(a)が示すように、偏向器520はダクト540の中央に配置されている。
図3の(c)が示すように、偏向器520の近傍では基板501が凹んでおり、偏向器520の底板525と距離を隔てて対向している。同様に、ハウジング500の上カバー502およびダクト540の仕切壁543、544のいずれもが偏向器520の上蓋526と距離を隔てて対向している。このように確保された基板501と底板525との間隙、および上カバー502、仕切壁543、544と上蓋526との間隙には、吸気口541から排気口542へ向かう気体の流路が形成される(
図2の(a)が示す矢印AR1、AR2参照)。
【0045】
図4の(b)、(d)が示すとおり、ポリゴンモーター等523、524は底板525によって支持されているので、それらの発する熱は大部分が底板525から上蓋526へと、偏向器520の筐体全体に拡がる。これらの熱は更に、偏向器520の筐体525、526の外面全体からダクト540の内面との間隙へ放散し、これらの間隙を通過する吸気口541からの気流により、排気口542からハウジング500の外へ排出される。
【0046】
図4の(a)、(c)が示すとおり、偏向器520の底板525と上蓋526とはいずれも外面に放熱部材528、529を含む。放熱部材528、529は、底板525と上蓋526との各外面から突出した複数の凸板であり、その外面の実質的な表面積を拡大させて、単位時間当たりに放散する熱量を増加させている。
図2の(a)、
図3の(a)、(c)が示すように、ダクト540は偏向器520の周囲から排気口542までの空間を囲んで光学系512−535から隔離している。これにより気流はダクト540内を吸気口541から排気口542まで、光学系512−535とは接触することなく流動する。したがって、偏向器520の筐体525、526から、その周囲の間隙を通過する気流に奪われた熱はその気流と共に、ダクト540からハウジング500の上段内の他の空間へは漏れ出ることなく、排気口542からハウジング500の外へ散逸する。こうして、偏向器520からの排熱効率が高く維持される。特にポリゴンミラー521の回転数の増加に伴ってポリゴンモーター等523、524による発熱量が増大しても、光学系512−535の過熱による歪みが防止される。
【0047】
[偏向器の筐体が含む内壁]
図5の(a)、(b)は、異なる視点から見える偏向器520の上蓋526の内壁600を示す斜視図である。
図5の(a)では上蓋526の外面が見え、(b)ではその内面が見える。
図5の(a)では説明の便宜上、上蓋526があたかも透明であるかのように描かれ、かつ
図4の(a)の示す放熱部材529が除去されている。内壁600は、上蓋526の天井601から底に向かって伸びる円筒形状の壁であり、上端側の開口が天井601で塞がれ、下端側の開口が開かれている。内壁600の下端面603は上蓋526の縁の底面604よりも高い。天井601には更に円形の凹み602が内壁600と同軸に設けられている。
図4の(a)、(c)が示すように上蓋526が底板525を覆う状態では、上蓋526の縁の底面604と内壁600の下端面603との段差が成す隙間に底板525上のモーター基板(図は示していない。)が嵌め込まれ、上蓋526の底面604が底板525の縁に気密に接着されている。この状態では更に、ポリゴンミラー521の外周面(偏向面)が内壁600に、シャフト522の上端面が天井601の凹み602に、それぞれ距離を隔てて対向している。特にポリゴンミラー521の外周面と内壁600の内面との隙間が狭いので、ポリゴンミラー521は実質上、この隙間を境に内壁600で囲まれた空間(以下、「密閉空間」と呼ぶ。)を、ポリゴンモーター等523、524の側に位置する第1空間SP1と反対側に位置する第2空間SP2とに仕切っている。このように上蓋526の内面600、602から距離を隔てた状態のまま、ポリゴンミラー521とシャフト522とは内壁600の中心軸CAXまわりを、天井601側から見て時計方向に回転する。この回転に伴って密閉空間に生じる気流は、上蓋526の外へ漏れることなく、密閉空間内を回り続ける。ポリゴンミラー521の外周面と内壁600の内面との隙間が十分に狭いので、気流は、内壁600の周方向では中心軸CAXまわりの大きな渦に安定化し、軸方向では第1空間SP1と第2空間SP2とのそれぞれの中を安定に循環する。特に乱流が生じにくい。その結果、気流からポリゴンミラー521の受ける空気抵抗が抑制されるので、風切り音が低減し、ポリゴンモーター等523、524の消費電流量(風損)が削減される。
【0048】
−内壁の整流部−
内壁600の内面とポリゴンミラー521の外周面との隙間が狭いので、第1空間SP1と第2空間SP2との間には対流が生じにくく、第1空間SP1にはポリゴンモーター等523、524からの熱が籠もりやすい。したがって、密閉空間に乱流が発生する危険性を十分に低く保ったまま、ポリゴンミラー521およびポリゴンモーター等523、524の過熱に起因する不具合を防ぐには、内壁600の内面とポリゴンミラー521との隙間を十分に狭く維持したまま、第1空間SP1から第2空間SP2へ熱を逃がす工夫が必要である。(この意味で以下、第1空間SP1、第2空間SP2をそれぞれ、「発熱空間」、「冷却空間」と呼ぶ。)この工夫として内壁600の内面に整流部が設けられている。整流部は、アルミニウム等、熱伝導率の高い金属または樹脂から内壁600と共に一体成形された形状部であり、たとえば複数枚の翼状面611−616を含む。これらの翼状面を利用して整流部は発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。
【0049】
図5の(a)、(b)には、これら6枚の翼状面611−616も示されている。
図6の(a)は、上蓋526の底面側から見える内壁600の内側を示す図である。翼状面611−616は、内壁600の内面のうち周方向において等間隔に位置する部分から径方向に突出した部材であり、それぞれが内壁600の下端からその内面に沿ってポリゴンミラー521の回転軸、すなわち内壁600の中心軸CAXに対して斜めに伸びている。
図6の(a)が示すように、周方向において翼状面の間隔は開いている。翼状面611−616はいずれも同じ細長い薄板形状であり、特にその全長にわたり、幅、厚み、および中心軸CAXに対する傾斜角θ(0°<θ<90°)が一様である。翼状面611−616の間では、長さ、幅、厚み、および傾斜角θが共通である。その共通の長さは発熱空間SP1から冷却空間SP2にまで達しており、いずれの上端617もポリゴンミラー521よりも上蓋526の天井601に近い。共通の幅は、ポリゴンミラー521の回転時にその外周面が描く円形軌道TRJと重ならないように設計されている。共通の傾斜方向はポリゴンミラー521の回転方向と同じ、すなわち天井601側から見て時計方向である。このように6枚の翼状面611−616は形状と配置とが中心軸CAXのまわりに6回回転対称性を示す。その結果、これらの翼状面611−616は、以下に説明するように、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流からそれぞれの軸対称的な形状を崩すことなく、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。
【0050】
図6の(b)−(d)は、シミュレーションで得られた密閉空間における気流の方向と圧力との分布を示す図である。なお、シミュレーションにおける計算量の軽減を目的として、(b)−(d)は翼状面が4枚611−614の例を示す。(b)は、冷却空間SP2を軸方向(図では紙面の法線方向)に対して垂直に横断する平面における分布を上蓋526の天井601側から見た図であり、(c)、(d)はそれぞれ、(b)が示す円弧c−c、d−dに沿った密閉空間の縦断面における分布を内壁600の外側から見た図である。いずれの円弧c−c、d−dも、(b)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、その軌道TRJよりも半径が大きい。(c)、(d)は更に、(b)が示す冷却空間SP2の横断面の位置を直線b−bで示し、ポリゴンミラー521の位置を破線で示す。冷却空間SP2のこの横断面はポリゴンミラー521の上面よりも天井601に近い。(b)−(d)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表し、領域の模様が気流の圧力を8段階で表す。(特に模様が濃いほど圧力が高い。)
冷却空間SP2における気流は、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも内側では中心軸CAXまわりに大きな渦を描く。この気流の方向分布と圧力分布とはいずれも実質的に軸対称である。一方、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、気流が高圧領域HPRを翼状面611−614の各上端617の上方に含む。これは次の理由に因る。
図6の(c)、(d)が示すように、発熱空間SP1では気流が翼状面611−614のそれぞれの下半部618に衝突してその近傍の圧力を上昇させる。これによりこの気流には、翼状面611−614に沿って発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFが生じる。この上昇成分RAFが翼状面611−614の各上端617の上方で上蓋526の天井601に衝突し、上記の高圧領域HPRを出現させる。
【0051】
発熱空間SP1における気流は、上昇成分RAFの発生に伴って翼状面611−614のそれぞれの下側に回り込む流量が減少するので、
図6の(c)が示すように、その下側に低圧領域LPRを含む。この低圧領域LPRでは気流が加速されて上昇し、冷却空間SP2の気流に追突し、または径方向を軸とする小さな渦VTXを生じる。その結果、翼状面611−614の各上端617の下方からその下流にわたり、発熱空間SP1と冷却空間SP2との間の境界に比較的圧力の高い領域RHRが出現する。この領域RHRでは発熱空間SP1の気流が冷却空間SP2の気流と交雑し、特に冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFが生じる。この成分により、上昇成分RAFに失われた発熱空間SP1の流量が冷却空間SP2の気流から補われる。
【0052】
このように翼状面611−614は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分RAF、FAFを導く。これらの成分RAF、FAFの存在はポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側に限られ、かつ定常的であるので、これらの成分RAF、FAFに起因してポリゴンミラー521が受ける空気抵抗は十分に小さい。一方、これらの成分RAF、FAFに伴う対流により、ポリゴンモーター等523、524からの熱が、以下に述べるように、発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散する。
【0053】
図7の(a)−(e)は、シミュレーションで得られた密閉空間における気流の方向と温度との分布を示す図である。
図6と同様、
図7は翼状面が4枚611−614の例を示す。(a)は
図6の(b)と同様、冷却空間SP2の横断面における分布を上蓋526の天井601側から見た図である。(b)、(c)はそれぞれ(a)の示す直径b−b、c−cに沿った密閉空間の縦断面における分布図である。これらの直径の一方b−bは翼状面612、614を横断し、他方c−cは翼状面611、612の間を通過している。(d)、(e)はそれぞれ(a)の示す円弧d−d、e−eに沿った密閉空間の縦断面における分布を内壁600の外側から見た図である。いずれの円弧d−d、e−eも、(a)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、この軌道TRJよりも半径が大きい。円弧の一方d−dは翼状面612を全長にわたって縦断し、他方e−eは隣接する翼状面間に伸びている。(b)−(d)は、(a)が示す冷却空間SP2の横断面の位置を直線a−aで表し、(d)、(e)はポリゴンミラー521の位置を破線で示す。冷却空間SP2のこの横断面はポリゴンミラー521の上面よりも天井601に近い。(a)−(e)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表し、領域の模様が気流の温度を8段階で表す。(特に模様が濃いほど温度が高い。)なお、(a)の示す横断面では(b)−(e)の示す縦断面よりも温度変化が小さいので、各模様に対応する温度範囲が狭く設定されている。
【0054】
気流は、周方向では
図7の(a)が示すように、中心軸CAXまわりの大きな渦をポリゴンミラー521の回転と同方向、すなわち時計方向に描く。これは、発熱空間SP1と冷却空間SP2との両方に共通する。一方、軸方向では
図7の(b)、(c)が示すように気流が各空間SP1、SP2の中を大きく循環する。具体的には、発熱空間SP1の気流は、ポリゴンミラー521の下面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁600の近傍では下降し、モーター基板の上面605の近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では上昇する。冷却空間SP2の気流は、ポリゴンミラー521の上面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁600の近傍では上昇し、上蓋526の天井601の近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では下降する。
【0055】
このような大域的な循環に加え、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、
図7の(d)が示すように、翼状面611−614のそれぞれに沿って発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFが存在する。この成分RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ熱を運ぶので、翼状面611−614の各上端617の上方では冷却空間SP2の他の領域よりも高温の領域HTRが拡がる。このように上昇気流RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ持ち込んだ熱を、
図7の(a)の示す中心軸CAXまわりの渦が更に中心軸CAXへ向かって拡散させる。これに伴い高温領域HTRは、翼状面611−614の各上端617の上方から渦の流れに沿って中心軸CAXへ張り出している。
【0056】
ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側ではまた、
図7の(c)、(e)が示すように、隣接する翼状面611−614の間に冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFが存在する。この成分FAFが発熱空間SP1において周囲から熱を奪うので、
図7の(c)−(e)が示すように、翼状面611−614の各下半部618の上方から近傍、更に下方にわたり、発熱空間SP1の他の領域よりも低温の領域LTRが拡がる。この低温領域LTRは更に、
図7の(b)が示すように、発熱空間SP1の中で循環する気流に沿って翼状面611−614の下方から中心軸CAXへ向かって張り出している。
【0057】
このように、上昇成分RAFはポリゴンモーター等523、524からの熱を発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散させ、下降成分FAFは発熱空間SP1を冷却する。その結果、ポリゴンモーター等からの熱の過大な蓄積に伴う発熱空間SP1の過剰な気温上昇が阻まれるので、ポリゴンミラー521、ポリゴンモーター等523、524の過熱に起因する不具合が防止される。
【0058】
[実施形態の利点]
本発明の実施形態による光走査装置25Rでは上記のとおり、偏向器520の上蓋526が、ポリゴンミラー521の外周を囲む内壁600を含む。この内壁600の内面とポリゴンミラー521の外周面との隙間が十分に狭いので、密閉空間内の気流は、内壁600の周方向では中心軸CAXまわりの大きな渦に安定化し、軸方向では発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を安定に循環する。特に乱流が生じにくい。その結果、気流からポリゴンミラー521の受ける空気抵抗が抑制されるので、風切り音が低減し、ポリゴンモーター等523、524の消費電流量(風損)が削減される。
【0059】
内壁600は更に翼状面611−616を含む。翼状面611−616は、内壁600の内面から径方向に突出した薄板状の部材であり、周方向において等間隔に配置され、内壁600の中心軸CAXに対してポリゴンミラー521の回転方向と同じ方向に傾斜している。翼状面611−614のそれぞれの上側では気流が、発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFを含む。この成分RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ熱を運ぶので、翼状面611−614の各上端617の上方では冷却空間SP2の他の領域よりも高温の領域HTRが拡がる。一方、隣接する翼状面611−614の間では気流が、冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFを含む。この成分FAFが発熱空間SP1において周囲から熱を奪うので、翼状面611−614の各下半部618の上方から近傍、更に下方にわたり、発熱空間SP1の他の領域よりも低温の領域LTRが拡がる。このように翼状面611−616は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分RAF、FAFを導く。上昇成分RAFはポリゴンモーター等523、524からの熱を発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散させ、下降成分FAFは発熱空間SP1を冷却する。その結果、ポリゴンモーター等からの熱の過大な蓄積に伴う発熱空間SP1の過剰な気温上昇が阻まれるので、ポリゴンミラー521、ポリゴンモーター等523、524の過熱に起因する不具合が防止される。さらに、翼状面611−616の形状と配置とは内壁600の中心軸CAXのまわりに対称的であるので、それらが導く上昇成分RAFと下降成分FAFとは空間的にも時間的にも安定している。したがって、これらの成分RAF、FAFに起因してポリゴンミラー521が受ける空気抵抗は十分に小さい。こうしてこの光走査装置25Rは、ポリゴンミラー521の回転数を上昇させても、その周囲に乱流が発生する危険性を十分に低く保ち、かつポリゴンモーター等523、524からの熱を発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散させ、更に偏向器520の外へ効率良く逃がすことができる。
【0060】
[変形例]
(A)
図1の示す画像形成装置100はカラーレーザープリンターである。本発明の実施形態による画像形成装置はその他に、モノクロレーザープリンター、インクジェットプリンター、ファクシミリ、コピー機、または複合機等のいずれであってもよい。
(B)
図2、
図3の示す光源510は半導体レーザー511を含む。光源はその他に、半導体レーザーに代えてLEDを含んでもよい。
図2、
図3の示すポリゴンミラー521、fθレンズ531等の光学系の構造は一例に過ぎず、他の構造であってもよい。たとえばポリゴンミラーの偏向面の数は“7”以外の整数値であってもよい。出射光学系512−514、または走査光学系531−535は、
図1−3の示す感光体ドラム24Y−24Kと1対1に対応する構成に代えて、光学素子の同じ1群が2本以上の感光体ドラムの露光走査に兼用される構成であってもよい。
【0061】
(C)
図4の(c)、(d)が示すポリゴンモーターの構造は軸固定方式であり、ポリゴンミラー521が軸受を含み、シャフト522が底板525に固定されている。ポリゴンモーターはその他に軸回転方式であってもよい。すなわち、偏向器の筐体が軸受を含み、シャフトがポリゴンミラーに同軸に固定され、それと共に回転可能であってもよい。
(D)
図5の示す内壁600は横断面が円環形状である。しかし、内壁の横断面はこの形状には限られない。ポリゴンミラー521の回転に伴ってその周囲に生じる気流を安定化させて乱流の発生を防げさえすれば、内壁の横断面は、楕円、多角形等の他の完全な環形であっても、C字形、コの字形等、周の一部が欠けた不完全な環形であってもよい。
【0062】
(E)
図5の示す内壁600は整流部として6枚の翼状面611−616を備えている。これらは周方向に等間隔に配置され、いずれも同じ薄板形状であり、長さ、幅、厚み、内壁600の中心軸CAXに対する傾斜角θが共通であり、かつその全長にわたり、幅、厚み、および傾斜角θが一様である。しかし、整流部としての機能、すなわちポリゴンミラー521の回転に伴って生じる気流を発熱空間SP1と冷却空間SP2との一方から他方へ導く機能を果たせさえすれば、翼状面の枚数、配置、形状、サイズ、および傾斜角は変更されてもよい。たとえば、翼状面の枚数は、
図6、
図7の示すシミュレーションですでに用いられているように、4枚であってもよい。翼状面の長さは、
図6の(d)、
図7の(e)の示す冷却空間SP2から発熱空間SP1への下降成分FAFが十分な流量を保つ限り、翼状面の上端が、
図6の(a)の示すもの617とは異なり、隣接する翼状面の下端と周方向において同じ位置にあっても、上蓋の天井601まで達していてもよい。翼状面の幅、厚み、または傾斜角は、
図6の(c)、
図7の(d)の示す発熱空間SP1から冷却空間SP2への上昇成分RAFが十分な流量を保つ限り、周方向の位置に応じて異なっていてもよい。たとえば、ポリゴンミラー521の近傍よりも天井601またはモーター基板605の近傍では翼状面の幅が狭まり、または傾斜角θが増大することにより、周方向の流量が十分に大きく確保されてもよい。逆に、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJの近傍において翼状面の幅が狭まることにより、内壁600の内面とポリゴンミラー521の外周面との隙間が更に狭められてもよい。さらに、たとえば内壁の横断面がC字形またはコの字形である場合のように、内壁の中心軸まわりの回転対称性が
図5の示す内壁600の軸対称性よりも低ければ、それに合わせて翼状面全体の回転対称性が
図6の(a)の示す6回対称性よりも低くてもよい。すなわち翼状面は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流の回転対称的な形状を崩すことなく、それらを安定に保つことができればよい。
【0063】
(F)内壁600と翼状面611−616とは、同じ素材から上蓋526と共に一体成形されている。その他に、内壁または翼状面の少なくともいずれかが上蓋526とは別に成形された部材であってもよい。この場合でも好ましくは、内壁と翼状面とのいずれの素材も上蓋526の素材と同様、アルミニウム等、熱伝導率の高い金属または樹脂である。
(G)
図5−7の示す翼状面611−616はいずれも、傾斜方向がポリゴンミラー521の回転方向と等しい。しかし、これは発明にとって本質的ではない。以下に説明するように、整流部として気流を発熱空間SP1と冷却空間SP2との一方から他方へ導けさえすれば、傾斜方向はポリゴンミラー521の回転方向とは逆であっても、隣接する翼状面間で反対であっても、さらに、ポリゴンミラー521の回転軸に対して垂直であってもよい。
【0064】
−ポリゴンミラー521の回転方向とは逆方向に傾斜している場合−
図8の(a)は、第1変形例による整流部を備えた内壁700を示す斜視図である。この内壁700は
図5の(a)の示す内壁600とは翼状面711−716だけが異なる。以下、これらの翼状面711−716について説明し、その他の共通部分については実施形態の説明を援用する。
【0065】
第1変形例による整流部は、
図8の(a)の示す6枚の翼状面711−716を含む。これらの翼状面711−716は、
図5の(b)の示す翼状面611−616と同様、形状と配置とが中心軸CAXのまわりに6回回転対称性を示す。ただし、これらの翼状面711−716は、
図5の(b)の示す翼状面611−616とは異なり、傾斜方向がポリゴンミラー521の回転方向とは逆、すなわち上蓋526の天井601側から見て反時計方向である。この場合も、これらの翼状面711−716は、以下に説明するように、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流からそれぞれの軸対称的な形状を崩すことなく、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。
【0066】
図8の(b)−(d)は、シミュレーションで得られた密閉空間における気流の方向と圧力との分布を示す図である。
図6と同様、(b)−(d)は翼状面が4枚711−714の例を示す。(b)は、発熱空間SP1を軸方向(図では紙面の法線方向)に対して垂直に横断する平面における分布を上蓋526の天井601側から見た図であり、(c)、(d)はそれぞれ(b)の示す円弧c−c、d−dに沿った密閉空間の縦断面における分布を内壁700の外側から見た図である。いずれの円弧c−c、d−dも、(b)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、その軌道TRJよりも半径が大きい。(c)、(d)は更に、(b)が示す発熱空間SP1の横断面の位置を直線b−bで示し、ポリゴンミラー521の位置を破線で示す。発熱空間SP1のこの横断面はポリゴンミラー521の下面よりも底板525上のモーター基板605に近い。(b)−(d)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表し、領域の模様が気流の圧力を8段階で表す。(特に模様が濃いほど圧力が高い。)
図8の(b)は示していないが、冷却空間SP2における気流は、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも内側では中心軸CAXまわりに大きな渦を描く。この気流の方向分布と圧力分布とはいずれも実質的に軸対称である。一方、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、気流が高圧領域HPRを翼状面711−714の各下端717の下方に含む。これは次の理由に因る。
図8の(c)、(d)が示すように冷却空間SP2では気流が翼状面711−714のそれぞれの上半部718に衝突してその近傍の圧力を上昇させる。これによりこの気流には、翼状面711−714に沿って冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFが生じる。この下降成分FAFが翼状面711−714の各下端717の下方でモーター基板605に衝突し、上記の高圧領域HPRを出現させる。
【0067】
冷却空間SP2における気流は、下降成分FAFの発生に伴って翼状面711−714のそれぞれの上側に回り込む流量が減少するので、
図8の(c)が示すように、その上側に低圧領域LPRを含む。この低圧領域LPRでは気流が加速されて下降し、発熱空間SP1の気流に追突する。その結果、翼状面711−714の各下端717の上方からその下流にわたり、発熱空間SP1と冷却空間SP2との間の境界に比較的圧力の高い領域RHRが出現する。この領域RHRでは発熱空間SP1の気流が冷却空間SP2の気流と交雑し、特に発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFが生じる。この成分により、下降成分FAFに失われた冷却空間SP2の流量が発熱空間SP1の気流から補われる。
【0068】
このように翼状面711−714は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分RAF、FAFを導く。これらの成分RAF、FAFの存在はポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側に限られ、かつ定常的であるので、これらの成分RAF、FAFに起因してポリゴンミラー521が受ける空気抵抗は十分に小さい。一方、これらの成分RAF、FAFに伴う対流により、ポリゴンモーター等523、524からの熱が、以下に述べるように、発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散する。
【0069】
図9の(a)−(e)は、シミュレーションで得られた密閉空間における気流の方向と温度との分布を示す図である。
図8と同様、
図9は翼状面が4枚711−714の例を示す。(a)は
図8の(b)と同様、発熱空間SP1の横断面における分布を上蓋526の天井601側から見た図である。(b)、(c)はそれぞれ(a)の示す直径b−b、c−cに沿った密閉空間の縦断面における分布図である。これらの直径の一方b−bは翼状面712、714を横断し、他方c−cは翼状面711、712の間を通過している。(d)、(e)はそれぞれ(a)の示す円弧d−d、e−eに沿った密閉空間の縦断面における分布を内壁700の外側から見た図である。いずれの円弧d−d、e−eも、(a)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、この軌道TRJよりも半径が大きい。円弧の一方d−dは翼状面712を全長にわたって縦断し、他方e−eは隣接する翼状面713、714の間に伸びている。(b)−(d)は、(a)が示す発熱空間SP1の横断面の位置を直線a−aで表し、(d)、(e)はポリゴンミラー521の位置を破線で示す。発熱空間SP1のこの横断面はポリゴンミラー521の下面よりもモーター基板の上面605に近い。(a)−(e)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表し、領域の模様が気流の温度を8段階で表す。(特に模様が濃いほど温度が高い。)
気流は、周方向では
図9の(a)が示すように、中心軸CAXまわりの大きな渦をポリゴンミラー521の回転と同方向、すなわち時計方向に描く。これは、発熱空間SP1と冷却空間SP2との両方に共通する。一方、軸方向では
図9の(b)、(c)が示すように、気流が各空間SP1、SP2の中を大きく循環する。具体的には、発熱空間SP1の気流は、ポリゴンミラー521の下面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁700の近傍では下降し、モーター基板の上面605近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では上昇する。冷却空間SP2の気流は、ポリゴンミラー521の上面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁700の近傍では上昇し、上蓋526の天井601の近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では下降する。
【0070】
このような大域的な循環に加え、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、
図9の(d)が示すように、翼状面711−714のそれぞれに沿って冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFが存在する。この成分FAFが発熱空間SP1において周囲から熱を奪うので、
図9の(c)−(e)が示すように、翼状面711−714の各下端717の上方から近傍、更に下方にわたり、発熱空間SP1の他の領域よりも低温の領域LTRが拡がる。この低温領域LTRは更に、
図9の(c)が示すように、発熱空間SP1の中で循環する気流に沿って、周方向における翼状面711−714の間から中心軸CAXへ向かって張り出している。
【0071】
ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側ではまた、
図9の(c)、(e)が示すように、隣接する翼状面711−714の間に発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFが存在する。この成分RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ熱を運ぶので、翼状面711−714の各上半部718の上方では冷却空間SP2の他の領域よりも高温の領域HTRが拡がる。このように上昇気流RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ持ち込んだ熱を中心軸CAXまわりの渦が更に中心軸CAXへ向かって拡散させる。これに伴い高温領域HTRは、
図9の(b)が示すように、翼状面711−714の上方から渦の流れに沿って中心軸CAXへ向かって張り出している。
【0072】
−隣接する翼状面が互いに反対方向に傾斜している場合−
図10は、第2変形例による整流部を備えた内壁800を示す斜視図である。この内壁800は
図5の(a)の示す内壁600とは翼状面811−816だけが異なる。以下、これらの翼状面811−816について説明し、その他の共通部分については実施形態の説明を援用する。
【0073】
第2変形例による整流部は、
図10の示す6枚の翼状面811−816を含む。これらの翼状面811−816は、
図5の(b)の示す翼状面611−616とは異なり、隣接する翼状面間で傾斜方向が互いに反対である。すなわち、ポリゴンミラー521の回転方向と傾斜方向の等しい3枚の第1翼状面811、813、815と、傾斜方向が逆である3枚の第2翼状面812、814、816とが、周方向において交互に配置されている。この点を除き、形状、サイズ、傾斜角θは共にすべての翼状面811−816で共通であり、配置が周方向に等間隔である。したがって、これらの翼状面811−816は形状と配置とが中心軸CAXのまわりに3回回転対称性を示す。この場合も、これらの翼状面811−816は、以下に説明するように、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流からそれぞれの軸対称的な形状を崩すことなく、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。
【0074】
図11の(a)は、内壁800の模式的な上面図であり、特に上蓋526の天井601があたかも透明であるかのように描かれている。
図11の(b)−(e)は、シミュレーションで得られた密閉空間における気流の方向と温度との分布を示す図である。
図11は翼状面が4枚811−814の例を示す。(b)、(c)はそれぞれ、(a)の示す直径b−b、c−cに沿った密閉空間の縦断面における分布図である。これらの直径の一方b−bは第2翼状面812、814を横断し、他方c−cは第1翼状面811、813を横断している。(d)、(e)はそれぞれ、(a)が示す円弧d−d、e−eに沿った密閉空間の縦断面における分布を内壁800の外側から見た図である。いずれの円弧d−d、e−eも、(a)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、この軌道TRJよりも半径が大きい。円弧の一方d−dは第1翼状面811を全長にわたって縦断し、他方e−eは第2翼状面812を全長にわたって縦断している。(d)、(e)はポリゴンミラー521の位置を破線で示す。(b)−(e)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表し、領域の模様が気流の温度を8段階で表す。(特に模様が濃いほど温度が高い。)
気流は、周方向では中心軸CAXまわりの大きな渦をポリゴンミラー521の回転と同方向、すなわち時計方向に描く。これは、発熱空間SP1と冷却空間SP2との両方に共通する。一方、軸方向では
図11の(b)、(c)が示すように、気流が各空間SP1、SP2の中を大きく循環する。具体的には、発熱空間SP1の気流は、ポリゴンミラー521の下面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁800の近傍では下降し、モーター基板の上面605近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では上昇する。冷却空間SP2の気流は、ポリゴンミラー521の上面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、内壁800の近傍では上昇し、天井601の近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では下降する。
【0075】
このような大域的な循環に加え、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、
図11の(d),(e)が示すように、第1翼状面811、813のそれぞれに沿って発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFと、第2翼状面812、814のそれぞれに沿って冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFとが存在する。上昇成分RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ熱を運ぶので、第1翼状面811、813の上半部818の上方では高温領域HTRが拡がる。この高温領域HTRは更に中心軸CAXまわりの渦に沿って、
図11の(c)が示すように第2翼状面812、814の上方から中心軸CAXへ向かって張り出している。一方、下降成分FAFが発熱空間SP1において周囲から熱を奪うので、第2翼状面812、814の各下端817の上方から近傍、更に下方にわたり、
図11の(e)が示すような低温領域LTRが拡がる。この低温領域LTRは更に、周方向の気流に沿って、
図11の(d)が示すように第1翼状面811、813の下側に潜り込み、発熱空間SP1の中で循環する気流に沿って、
図11の(b)が示すように、第1翼状面811、813の下方から中心軸CAXへ向かって張り出している。
【0076】
−翼状面がポリゴンミラーの回転軸に対して垂直である場合−
図12の(a)、(b)は、異なる視点から見える偏向器520の上蓋526の内壁900を示す斜視図である。
図12の(a)では上蓋526の外面が見え、(b)ではその内面が見える。
図12の(a)では説明の便宜上、上蓋526があたかも透明であるかのように描かれ、かつ
図4の(a)の示す放熱部材529が除去されている。この内壁900は第3変形例による整流部を備え、
図5の(a)の示す内壁600とは翼状面911−916だけが異なる。以下、これらの翼状面911−916について説明し、その他の共通部分については実施形態の説明を援用する。
【0077】
第3変形例による整流部は、
図12の示す6枚の翼状面911−916を含む。これらの翼状面911−916は、
図5の(b)の示す翼状面611−616とは異なり、長手方向がポリゴンミラー521の回転軸、すなわち内壁900の中心軸CAXに対して垂直である。さらに、周方向で隣接する翼状面間では軸方向の位置が異なり、一方がポリゴンミラー521に対してモーター基板605の側に位置すれば、他方はその反対側、すなわち上蓋526の天井601の側に位置する。すなわち、発熱空間SP1に位置する3枚の第1翼状面911、913、915と、冷却空間SP2に位置する3枚の第2翼状面912、914、916とが、周方向において交互に配置されている。その上、翼状面911−916の幅はポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと内壁900の内面との間隔よりも広いので、この軌道TRJよりも翼状面911−916の縁917は中心軸CAXに近い。すなわち、第1翼状面911、913、915と第2翼状面812、814、816とによって上下に挟まれた領域をポリゴンミラー521の外周面は通過する。これらの点を除き、形状とサイズとは共にすべての翼状面911−916で共通であり、配置が周方向に等間隔である。したがって、これらの翼状面911−916は形状と配置とが中心軸CAXのまわりに3回回転対称性を示す。この場合も、これらの翼状面911−916は、以下に説明するように、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流からそれぞれの軸対称的な形状を崩すことなく、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。
【0078】
図13の(a)は、内壁900の模式的な上面図であり、特に上蓋526の天井601があたかも透明であるかのように描かれている。
図13の(b)、(c)は、シミュレーションで得られた気流の方向と温度との分布を示す密閉空間の縦断面図であり、(d)、(e)は、シミュレーションで得られた気流の方向と圧力との分布を示す密閉空間の縦断面図である。
図13は翼状面が4枚911−914の例を示す。
図13の(a)は、(b)、(c)の示す縦断面の位置をそれぞれ直径b−b、c−cで表し、(d)、(e)の示す縦断面の位置をそれぞれ円弧d−d、e−eで表す。直径の一方b−bは第1翼状面911、913を横断し、他方c−cは第2翼状面912、914を横断している。いずれの円弧d−d、e−eも、(a)が一点鎖線で示すポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJと同心であり、この軌道TRJよりも半径が大きい。円弧の一方d−dは第1翼状面911を全長にわたって縦断し、他方e−eは第2翼状面912を全長にわたって縦断している。(b)−(e)では細い矢印の方向(長さは一定である。)が気流の方向を表す。(b)、(c)では領域の模様が気流の温度を8段階で表す。(特に模様が濃いほど温度が高い。)(d)、(e)では破線がポリゴンミラー521の位置を示し、領域の模様が気流の圧力を8段階で表す。(特に模様が濃いほど圧力が高い。)
気流は、周方向では中心軸CAXまわりの大きな渦をポリゴンミラー521の回転と同方向、すなわち時計方向に描く。これは、発熱空間SP1と冷却空間SP2との両方に共通する。一方、軸方向では
図13の(b)、(c)が示すように、気流が各空間SP1、SP2の中を大きく循環する。具体的には、発熱空間SP1の気流は、ポリゴンミラー521の下面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、
図13の(c)が示すように、内壁900の近傍のうち第1翼状面911、913の間で下降し、モーター基板の上面605近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では上昇する。冷却空間SP2の気流は、ポリゴンミラー521の上面近傍では中心軸CAXから径方向に遠ざかり、
図13の(b)が示すように、内壁900の近傍のうち第2翼状面812、814の間で上昇し、天井601の近傍では径方向に中心軸CAXへ接近し、中心軸CAXの近傍では下降する。
【0079】
このような大域的な循環に加え、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側では、発熱空間SP1から冷却空間SP2へ上昇する成分RAFと、冷却空間SP2から発熱空間SP1へ下降する成分FAFとの両方が存在する。これは次の理由に因る。
発熱空間SP1の気流には、
図13の(b)、(c)が示すように、径方向においてはポリゴンミラー521の下面に沿って中心軸CAXから外周面へ進み、周方向においてはポリゴンミラー521の回転方向に渦を巻く成分WN1が存在する。この成分WN1が内壁900の内面に達して下降する際、一部が第1翼状面911の上流端917に衝突し、
図13の(d)、(e)が示すように、その上流端917の近傍に高圧領域HP1を出現させる。この高圧領域HP1では、発熱空間SP1の気流が冷却空間SP2の気流と交雑する。その結果、
図13の(b)、(d)が示すように、周方向において第2翼状面914、912の間を進む気流に、上流側の第2翼状面914の下方、特に発熱空間SP1から、下流側の第2翼状面912よりも上方、すなわち冷却空間SP2へ上昇する成分RAFが生じる。
【0080】
冷却空間SP2の気流には、
図13の(b)、(c)が示すように、径方向においてはポリゴンミラー521の上面に沿って中心軸CAXから外周面へ進み、周方向においてはポリゴンミラー521の回転方向に渦を巻く成分WN2が存在する。この成分WN2が内壁900の内面に達して上昇する際、一部が第2翼状面912の上流端918に衝突し、
図13の(d)、(e)が示すように、その上流端918の近傍に高圧領域HP2を出現させる。この高圧領域HP2では、冷却空間SP2の気流が発熱空間SP1の気流と交雑する。その結果、
図13の(c)、(e)が示すように、周方向において第1翼状面913、911の間を進む気流に、上流側の第1翼状面913の上方、特に冷却空間SP2から、下流側の第1翼状面911よりも下方、すなわち発熱空間SP1へ下降する成分FAFが生じる。
【0081】
このように翼状面911−914は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分RAF、FAFを導く。これらの成分RAF、FAFの存在はポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側に限られ、かつ定常的であるので、これらの成分RAF、FAFに起因してポリゴンミラー521が受ける空気抵抗は十分に小さい。一方、これらの成分RAF、FAFに伴う対流により、ポリゴンモーター等523、524からの熱が発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散する。具体的には、上昇成分RAFが発熱空間SP1から冷却空間SP2へ熱を運ぶので、
図13の(b)、(c)が示すように、ポリゴンミラー521の外周の上方では高温領域HTRが冷却空間SP2の中に拡がる。この高温領域HTRは更に冷却空間SP2内の循環流により中心軸CAXへ向かって張り出している。一方、下降成分FAFが発熱空間SP1において周囲から熱を奪うので、
図13の(b)、(c)が示すように、ポリゴンミラー521の外周の下方では低温領域LTRが発熱空間SP1の中に拡がる。この低温領域LTRは更に発熱空間SP1内の循環流により中心軸CAXへ向かって張り出している。
【0082】
以上に説明したとおり、いずれの変形例においても、上昇成分RAFはポリゴンモーター等523、524からの熱を発熱空間SP1から冷却空間SP2へ拡散させ、下降成分FAFは発熱空間SP1を冷却する。その結果、ポリゴンモーター等からの熱の過大な蓄積に伴う発熱空間SP1の過剰な気温上昇が阻まれるので、ポリゴンミラー521、ポリゴンモーター等523、524の過熱に起因する不具合が防止される。
【0083】
(H)
図5の示す内壁600の内面に設けられた整流部は6枚の翼状面611−616を含む。整流部の形状はこれらの翼状面には限られず、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流から、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導くことの可能な形状であればよい。たとえば整流部は、内壁の内面上を発熱空間と冷却空間との一方から他方にわたり、ポリゴンミラーの回転軸に対して斜めに伸びている溝であってもよい。
【0084】
図14は、整流部として6本の斜溝621−626を備えた内壁650を示す斜視図である。この内壁650は
図5の(a)の示す内壁600とは、翼状面611−616に代えて斜溝621−626を含む点だけが異なる。以下、これらの斜溝621−626について説明し、その他の共通部分については実施形態の説明を援用する。
斜溝621−626は、内壁650の内面のうち周方向において等間隔に位置する部分に刻まれた細長い溝であり、それぞれが内壁600の下端からその内面に沿ってポリゴンミラー521の回転軸、すなわち内壁600の中心軸CAXに対して斜めに伸びている。
図14が示すように、周方向において斜溝の間隔は開いている。斜溝621−626はいずれも半円溝であり、特にその全長にわたり、幅、深さ、および中心軸CAXに対する傾斜角θ(0°<θ<90°)が一様である。斜溝621−626の間では、長さ、幅、深さ、および傾斜角θが共通である。その共通の長さは発熱空間SP1から冷却空間SP2にまでわたり、いずれの上端627も上蓋526の天井601に位置する。共通の傾斜方向はポリゴンミラー521の回転方向と同じ、すなわち天井601側から見て時計方向である。このように6本の斜溝621−626は、形状と配置とが中心軸CAXのまわりに6回回転対称性を示す。その結果、これらの斜溝621−626は、
図5の示す翼状面611−616と同様、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流からそれぞれの軸対称的な形状を崩すことなく、両空間SP1、SP2の一方から他方へ向かう成分を導く。実際、発熱空間SP1において、ポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側を周方向に進む気流の一部が斜溝621−626の中に入り込み、それらに沿って発熱空間SP1から冷却空間SP2にまで上昇することは十分にあり得る。この上昇気流は、
図5の示す翼状面611−616が生み出す上昇気流RAFと同様、
図6の(b)−(d)の示すような圧力分布をポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側に生じさせうる。したがって、斜溝621−626も翼状面611−616と同様、
図7の示す温度分布を密閉空間に与え得る。一方、斜溝621−626に沿った上昇気流とそれに伴う下降気流とはポリゴンミラー521の外周面の軌道TRJよりも外側に限られ、かつ定常的であるので、これらの気流に起因してポリゴンミラー521が受ける空気抵抗は十分に小さい。
【0085】
なお、斜溝の本数、配置、形状、サイズ、および傾斜角は、翼状面と同様、整流部としての機能、すなわちポリゴンミラー521の回転に伴って生じる気流を発熱空間SP1と冷却空間SP2との一方から他方へ導く機能を果たせさえする限り、変更可能である。たとえば、発熱空間SP1から冷却空間SP2への上昇成分が十分な流量を保つ限り、斜溝は
図14の示すもの621−626よりも短くてもよい。斜溝の幅、深さ、断面形状、または傾斜角は、周方向の位置に応じて異なっていてもよい。斜溝の傾斜方向は、
図14の示すポリゴンミラー521の回転方向と等しい場合の他に、その回転方向とは逆であっても、隣接する斜溝間で反対であってもよい。さらに、内壁の中心軸まわりの回転対称性が軸対称性よりも低ければ、それに合わせて斜溝全体の回転対称性が
図14の示す6回対称性よりも低くてもよい。すなわち斜溝は、発熱空間SP1と冷却空間SP2とのそれぞれの中を循環する気流の回転対称的な形状を崩すことなく、それらを安定に保つことができればよい。