(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記振動領域の形状は、前記第1領域と前記第3領域において前記振動領域の中心に対して点対称であり、前記第2領域と前記第4領域において前記振動領域の中心に対して点対称である
請求項1または請求項2に記載の圧電デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出装置10を例示する構成図である。第1実施形態の液体吐出装置10は、液体の例示であるインクを媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の印刷対象が媒体12として利用され得る。
図1に示すように、液体吐出装置10には、インクを貯留する液体容器14が固定される。例えば液体吐出装置10に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、またはインクを補充可能なインクタンクが液体容器14として利用される。色彩が相違する複数種のインクが液体容器14には貯留される。
【0013】
図1に示すように、液体吐出装置10は、制御装置20と搬送機構22と移動機構24と複数の液体吐出ヘッド26とを具備する。制御装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを包含し、液体吐出装置10の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御装置20による制御のもとで媒体12をY方向に搬送する。
【0014】
移動機構24は、制御装置20による制御のもとで複数の液体吐出ヘッド26をX方向に往復させる。X方向は、媒体12が搬送されるY方向に交差(典型的には直交)する方向である。移動機構24は、複数の液体吐出ヘッド26を搭載するキャリッジ242と、キャリッジ242が固定された無端ベルト244とを具備する。なお、液体容器14を液体吐出ヘッド26とともにキャリッジ242に搭載することも可能である。
【0015】
複数の液体吐出ヘッド26の各々は、液体容器14から供給されるインクを制御装置20による制御のもとで複数のノズル(吐出孔)Nから媒体12に吐出する。搬送機構22による媒体12の搬送とキャリッジ242の反復的な往復とに並行して各液体吐出ヘッド26が媒体12にインクを吐出することで媒体12の表面に所望の画像が形成される。なお、X−Y平面(例えば媒体12の表面に平行な平面)に垂直な方向を以下では、Z方向と表記する。各液体吐出ヘッド26によるインクの吐出方向(典型的には鉛直方向)がZ方向に相当する。
【0016】
(液体吐出ヘッド)
図2は、任意の1個の液体吐出ヘッド26の分解斜視図であり、
図3は、
図2におけるIII−III断面図である。
図2に示すように、液体吐出ヘッド26は、Y方向に配列された複数のノズルNを具備する。第1実施形態の複数のノズルNは、第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1と第2列L2との間でノズルNのY方向の位置を相違させること(すなわち千鳥配置またはスタガ配置)も可能であるが、第1列L1と第2列L2とでノズルNのY方向の位置を一致させた構成が
図3では便宜的に例示されている。
図2に示すように液体吐出ヘッド26は、第1列L1の複数のノズルNに関連する要素と第2列L2の複数のノズルNに関連する要素とが略線対称に配置された構造である。
【0017】
図2および
図3に示すように、液体吐出ヘッド26は流路基板32を具備する。流路基板32は、表面F1と表面F2とを含む板状部材である。表面F1はZ方向の正側の表面(媒体12側の表面)であり、表面F2は表面F1とは反対側(Z方向の負側)の表面である。流路基板32の表面F2には、圧力発生部35とケース部材40とが設置され、表面F1にはノズル板52とコンプライアンス基板54とが設置される。液体吐出ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32と同様にY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤を利用して相互に接合される。なお、流路基板32と圧力室基板34とが積層される方向をZ方向として把握することも可能である。
【0018】
圧力発生部35は、ノズルNからインクを吐出するための圧力変動を発生させる要素である。本実施形態の圧力発生部35は、圧力室基板34と圧電デバイス39とを含む第1基板Aと、配線接続基板(保護基板)38を含む第2基板Bと、駆動IC62とを接合して構成される。圧電デバイス39は、圧力室基板34に形成される後述の圧力室Cと、圧電素子37と、圧力室Cと圧電素子37との間に配置される振動板36とからなり、振動による圧力変動を圧力室C内に発生させる要素である。なお、圧力発生部35および圧電デバイス39についての詳細は後述する。
【0019】
ノズル板52は、複数のノズルNが形成された板状部材であり、例えば接着剤を利用して流路基板32の表面F1に設置される。各ノズルNはインクが通過する貫通孔である。第1実施形態のノズル板52は、単結晶シリコン(Si)基材(シリコン基板)を、半導体製造技術を利用して加工することで製造される。ただし、ノズル板52の製造には公知の材料や製法が任意に採用され得る。
【0020】
流路基板32は、インクの流路を形成するための板状部材である。
図2および
図3に示すように、流路基板32には、第1列L1および第2列L2の各々について、空間RAと複数の供給流路322と複数の連通流路324とが形成される。空間RAは、平面視で(すなわちZ方向からみて)Y方向に沿う長尺状の開口であり、供給流路322および連通流路324は、ノズルN毎に形成された貫通孔である。複数の供給流路322はY方向に配列され、複数の連通流路324も同様にY方向に配列される。また、
図3に示すように、流路基板32の表面F1には、複数の供給流路322にわたる中間流路326が形成される。中間流路326は、空間RAと複数の供給流路322とを連結する流路である。他方、連通流路324はノズルNに連通する。
【0021】
図2および
図3の配線接続基板38は、複数の圧電素子37を保護するための板状部材であり、振動板36の表面(圧力室Cとは反対側の表面)に設置される。配線接続基板38の材料や製法は任意であるが、流路基板32や圧力室基板34と同様に、単結晶シリコン(Si)基材(シリコン基板)を、半導体製造技術を利用して加工することで、配線接続基板38は形成され得る。
図2および
図3に示すように、配線接続基板38のうち振動板36側の表面(以下「接合面」という)とは反対側の表面(以下「実装面」という)には駆動IC62が設置される。駆動IC62は、制御装置20による制御のもとで駆動信号を生成および供給することで各圧電素子37を駆動する駆動回路が搭載された略矩形状のICチップである。配線接続基板38の実装面には、駆動IC62の駆動信号(駆動電圧)の出力端子に接続される配線384が圧電素子37毎に形成される。また配線接続基板38の実装面には、駆動IC62のベース電圧(圧電素子37の駆動信号のベース電圧)の出力端子に接続される配線385が圧電素子37の配置に沿ってY方向に連続して形成される。
【0022】
図2および
図3に示すケース部材40は、複数の圧力室C(さらには複数のノズルN)に供給されるインクを貯留するためのケースである。ケース部材40のうちZ方向の正側の表面が例えば接着剤で流路基板32の表面F2に固定される。
図2および
図3に示すように、ケース部材40のうちZ方向の正側の表面にはY方向に延在する溝状の凹部42が形成される。配線接続基板38および駆動IC62は凹部42の内側に収容される。ケース部材40は、流路基板32や圧力室基板34とは別個の材料で形成される。例えば樹脂材料の射出成形でケース部材40を製造することが可能である。ただし、ケース部材40の製造には公知の材料や製法が任意に採用され得る。ケース部材40の材料としては、例えば合成繊維や樹脂材料が好適である。
【0023】
図3に示すように、ケース部材40には、第1列L1および第2列L2の各々について空間RBが形成される。ケース部材40の空間RBと流路基板32の空間RAとは相互に連通する。空間RAと空間RBとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留する液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。液体貯留室Rは、複数のノズルNにわたる共通液室である。ケース部材40のうち流路基板32とは反対側の表面には、液体容器14から供給されるインクを液体貯留室Rに導入するための導入口43が第1列L1および第2列L2の各々について形成される。
【0024】
液体容器14から導入口43に供給されたインクは、液体貯留室Rの空間RBと空間RAに貯留される。液体貯留室Rに貯留されたインクは、中間流路326から複数の供給流路322に分岐して各圧力室Cに並列に供給および充填される。
【0025】
図2に示すように、表面F1にはコンプライアンス基板54が設置される。コンプライアンス基板54は、液体貯留室R内のインクの圧力変動を吸収する可撓性のフィルムである。
図3に示すように、コンプライアンス基板54は、流路基板32の空間RAと中間流路326と複数の供給流路322とを閉塞するように流路基板32の表面F1に設置されて液体貯留室Rの壁面(具体的には底面)を構成する。
【0026】
図3に示す圧力発生部35は、第1基板Aと第2基板Bと駆動IC62とを積層して構成される。第1基板Aは圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子37とを含む基板であり、第2基板Bは配線接続基板38を含む基板である。
【0027】
圧力室基板34は、圧力室Cを構成する複数の開口342が第1列L1および第2列L2の各々について形成された板状部材であり、例えば接着剤を利用して流路基板32の表面F2に設置される。複数の開口342は、Y方向に配列される。各開口342は、ノズルN毎に形成されて平面視でX方向に沿う長尺状の貫通孔である。流路基板32および圧力室基板34は、前述のノズル板52と同様に、単結晶シリコン(Si)基材(シリコン基板)を、半導体製造技術を利用して加工することで製造される。ただし、流路基板32および圧力室基板34の製造には公知の材料や製法が任意に採用され得る。圧力室基板34のうち流路基板32とは反対側の表面に、圧電デバイス39が設置される。
【0028】
(圧電デバイス)
図4は、圧電デバイス39を拡大した断面図および平面図である。
図4の断面図(
図4の上側の図)は、圧電デバイス39をX−Z平面で切断したものであり、
図4の平面図(
図4の下側の図)は、圧電デバイス39をZ方向から見たものである。
図5は、
図4に示す圧電デバイス39のV−V断面図である。
【0029】
図4および
図5に示すように、圧電デバイス39は、圧力室Cと圧電素子37と振動板36とからなり、圧電素子37によって振動板36を振動させることで、各圧力室Cに圧力変動を発生させる。
図4の圧力室Cの内周345の形状は、平面視において略円形である。圧力室Cの内周345の形状とは、Z方向から平面視したときの圧力室Cの内周345の形状であり、振動板36の振動領域Pを画定する。振動板36の振動領域Pは、振動板36のうち圧力室Cに平面視で重なる領域であり、圧力室Cの壁面(上面)を構成する領域である。圧電素子37は、圧力室Cに平面視で重なるように配置される。具体的には、圧電素子37は、圧力室Cの中心(振動領域Pの中心)Oに平面視で重なるように振動板36に配置される。
【0030】
図2および
図3に示すように、流路基板32の表面F2と振動板36とは、各開口342の内側で相互に間隔をあけて対向する。開口342の内側で流路基板32の表面F2と振動板36との間に位置する空間が、当該空間に充填されたインクに圧力を付与するための圧力室Cとして機能する。圧力室CはノズルN毎に個別に形成される。
図2に示すように、第1列L1および第2列L2の各々について、複数の圧力室C(開口342)がY方向に配列される。任意の1個の圧力室Cは、供給流路322と中間流路326とを介して空間RAに連通するとともに、連通流路324を介してノズルNに連通する。
【0031】
図2および
図3に示すように、振動板36のうち圧力室Cとは反対側の表面には、相異なるノズルNに対応する複数の圧電素子37が第1列L1および第2列L2の各々について設置される。圧電素子37は、駆動信号の供給により変形して圧力室Cに圧力を発生させる圧力発生素子である。複数の圧電素子37は、各圧力室Cに対応するようにY方向に配列する。
【0032】
圧電素子37は、相互に対向する第1電極と第2電極との間に圧電体層を介在させた積層体である。第1電極と第2電極との間に電圧を印加することで、第1電極と第2電極とで挟まれる圧電体層に圧電歪みが生じて変位する。したがって、圧電素子37は、第1電極と第2電極と圧電体層が重なる部分である。この圧電体層373の圧電歪みに連動して振動板36が振動することで、圧力室C内の圧力が変動する。なお、圧電素子37と振動板36との間に、密着力を確保するための密着層が設けられていてもよい。すなわち、圧電素子37は、振動板36の表面上に直接設けられている必要はなく、振動板36の表面に密着層を介して設けられていてもよい。密着層としては、ジルコニウム、酸化ジルコニウム、チタン、酸化チタン、酸化シリコンなどを用いることができる。
【0033】
図4および
図5に示すように、振動板36は、弾性的に振動可能な板状部材である。本実施形態の振動板36は、結晶面内の方向によってヤング率とポアソン比が異なる異方性の単結晶シリコン基材で構成されており、振動板36の表面は、単結晶シリコン基材の結晶面で構成される。ただし、上記単結晶シリコン基材の結晶は、振動板36の表面にあることに限られず、少なくとも振動板36が有していればよい。例えば振動板36が複数の材料を積層して成る場合には、積層される材料に単結晶シリコン基材の結晶が含まれていればよい。振動板36は、圧力室Cの側壁344(圧力室基板34)に積層して接合され、圧力室Cの側壁344に交差する壁面(具体的には上面)を構成する。上述したように、振動板36の振動領域Pは、振動板36のうち圧力室Cに平面視で重なる領域(圧力室Cの上面を構成する領域)であり、圧電素子37によって撓み、Z方向に変位する。本実施形態の振動領域Pは、平面視において圧力室Cと同じ略円形であり、X方向に沿って中心Oを通る軸Gxと、Y方向に沿って中心Oを通る軸Gyを有する。
【0034】
このような構成の圧電デバイス39においては、
図4および
図5の点線に示すように、圧電素子37の圧電歪みによって振動板36の振動領域PにZ方向への変位Hが生じる。この場合、例えばシリコン基材の結晶面によっては、結晶面内の方向に応じてヤング率とポアソン比が変化する。
【0035】
図6は、結晶面が(100)面(結晶面に垂直な結晶方位が[100])の単結晶シリコン基材の(100)面内におけるポアソン比とヤング率の異方性の例を示すグラフである。
図6では、ポアソン比の異方性のグラフを実線で示し、ヤング率の異方性のグラフを点線で示す。
図6は、極座標であり、中心から離れるほどヤング率またはポアソン比が大きくなる。
【0036】
図6に示すように、結晶面が(100)面の単結晶シリコン基材の(100)面内におけるヤング率は、略正方形の異方性を有しているのに対して、ポアソン比は、四つ葉状の異方性を有している。このように、単結晶シリコン基材の(100)面内では、ヤング率とポアソン比が周方向に連続的に変化し、しかもヤング率とポアソン比の異方性は異なっている。
図6において、ヤング率が最小値となるのは、4つの結晶方位[010]、[001]、[0−10]、[00−1]であり、これらの方位をDmとすると、方位Dmから例えば反時計回りに45度の方位Dnでヤング率が最大値となる。他方、
図6に示すポアソン比は、ヤング率が小さくなる結晶方位[001]などの付近では、ポアソン比の変化が大きくなる。
【0037】
図7は、結晶面が(110)面の単結晶シリコン基材の(110)面内におけるポアソン比とヤング率の異方性の例を示すグラフである。
図7では、ポアソン比の異方性のグラフを実線で示し、ヤング率の異方性のグラフを点線で示す。
図7は、極座標であり、中心から離れるほどヤング率またはポアソン比が大きくなる。
【0038】
図7に示すように、単結晶シリコン基材の(110)面内におけるヤング率は、略長方形の異方性を有しているのに対して、ポアソン比は、四つ葉状の異方性を有している。このように、単結晶シリコン基材の(110)面内においても、ヤング率とポアソン比が周方向に連続的に変化し、しかもヤング率とポアソン比の異方性は異なっている。
図7において、(110)面内では、例えば結晶方位[001]でヤング率が最小となり、結晶方位[001]から例えば反時計回りに45度の結晶方位[1−11]でヤング率が最大値となる。他方、ヤング率が小さくなる結晶方位[001]などの付近では、ポアソン比の変化が大きくなる。
【0039】
このように、結晶方向によってヤング率とポアソン比が変化する単結晶シリコン基材では、ヤング率とポアソン比が周方向に連続的に変化する。したがって、このような単結晶シリコン基材で振動板36を構成する場合、振動板36の周方向において局所的な応力分布の不均一が発生し易い。結晶面内のヤング率の変化が、短手方向と長手方向のように特定の2方位だけではなく、周方向に渡って連続的に変化するからである。このため、仮に短手方向と長手方向のヤング率によって振動板36の方向を合わせるだけでは、局所的な応力分布の不均一によって、全体として振動板36の変位が阻害されたり、クラックが発生し易くなったりする虞がある。クラックが発生すると、圧電素子37や圧力室Cが破壊され易くなってしまう。しかも、ヤング率とポアソン比の異方性は異なっているので、振動板36の周方向におけるヤング率の変化だけではなく、ポアソン比の変化も考慮しながら、振動板36の振動領域Pの形状(圧力室Cの内周345の形状)を考える必要がある。
【0040】
そこで、第1実施形態では、振動板36の振動領域Pの形状を、周方向のヤング率とポアソン比の変化に応じた形状にする。これにより、振動板36の振動領域Pに発生する歪みを、周方向で均一化させることができる。したがって、振動板36全体を変位させ易くなり、局所的に不均一な応力集中が発生することも抑制できるので、クラックの発生を抑制しつつ、振動板36の変位特性を向上させることができる。
【0041】
以下、振動板36の振動領域Pの形状について、ヤング率およびポアソン比の方位と振動領域Pの変位との関係に基づいて説明する。圧電体層373のZ方向の圧電応力定数をe
f[N/V/m]、印加電界をE[V/m]とすれば、圧電素子37の発生応力F[N]は、下記数式(1)のように表すことができる。
【0043】
図4の断面図に示すように、振動板36の厚みをh[m]、振動領域Pの直径をd[m]、その直径方向のヤング率をYとすると共にポアソン比をvとすると、振動領域Pの中心(圧力室Cの中心)Oの変位(撓み)H[m]は、下記数式(2)のように表すことができる。
【0044】
H=3×F×d
2×(1−v)/(h
2×Y) ・・・(2)
【0045】
ここで、所定の方位の振動領域Pの直径をd1とすると共に任意方位の振動領域Pの直径をdとし、シリコン基材の所定の方位のヤング率をY1とすると共にポアソン比をv1とし、シリコン基材の任意方位のヤング率をYとすると共にポアソン比をvとすれば、下記数式(3)の関係があるときに、振動領域Pに発生する歪みを、周方向で均一化させることができる。下記数式(3)の関係とは、振動領域Pの所定の方位における直径d1の中心位置の変位(撓み)H1と、振動領域Pの任意方位における直径dの中心位置の変位(撓み)Hとが等しくなる関係である。下記数式(3)を整理すると、下記数式(4)を導き出すことができる。なお、上記所定の方位としては、例えば[−111]の結晶方位を選択できるが、これに限られず、別の結晶方位を選択してもよい。
【0046】
H1=3×F×d1
2×(1−v1)/(h
2×Y)
=3×F×d
2×(1−v)/(h
2×Y)=H ・・・(3)
【0047】
d=√{(d1)
2×(1−v1)×Y/Y1×(1−v)} ・・・(4)
【0048】
したがって、振動領域Pの形状を上記数式(4)の関係を有する形状にすることで、振動領域Pの形状を、結晶方位によって異なるヤング率とポアソン比に応じた形状にすることができる。これにより、振動板36の振動領域Pに発生する歪みを、周方向で均一化させることができる。また、
図4の平面図に示すように、圧電素子37の形状も振動領域Pの形状と相似形にすることで、圧電素子37についても結晶方位によって異なる振動板36のヤング率とポアソン比に応じた形状にすることができる。これにより、振動領域Pの周方向で圧電素子37の面内方向の歪みも均一化させることができる。
【0049】
以上の構成によれば、振動板36全体を変位させ易くなり、局所的に不均一な応力集中が発生することも抑制できるので、クラックの発生を抑制しつつ、振動板36の変位特性を向上させることができる。なお、本実施形態の振動板36を製造する場合には、シリコン基材(シリコンウエハー)の結晶方位に、振動板36の方向を合わせて製造し、振動板36を切り出す。本実施形態では、結晶面が(110)面の単結晶シリコン基材からなるシリコンウエハーを用いて、例えば振動領域Pの軸Gxの方向が結晶面内の結晶方位[010]になるように振動板36を形成して、シリコンウエハーから切り出す。
【0050】
図8は、
図4の振動領域Pの形状を拡大した図である。
図8は、単結晶シリコン基材の結晶面(110)で振動板36の表面を構成した場合に、振動領域Pの形状が上記数式(4)の関係を有する形状になるように、圧力室Cの内周345を形成したものである。なお、単結晶シリコン基材の結晶面(100)で振動板36表面を構成する場合には、上記数式(4)の関係を有する形状は真円形になるので、特に図示はしないが、単結晶シリコン基材の結晶面(110)で振動板36表面を構成する場合には、上記数式(4)の関係を有する形状は略円形になるので、以下においてより詳細に説明する。
【0051】
図8の振動領域Pの形状は、略円形であるので、仮想の真円形Qと重ねて比較することで、振動領域Pの形状の特徴を説明する。
図8に示すように、振動領域Pの軸Gxは、結晶方位[−111]および[1−1−1]に沿っており、軸Gyは、結晶方位[1−12]および[−11−2]に沿っている。仮想の真円形Qは、振動領域Pの直径dのうち結晶方位[−111]の方向の直径(軸Gxに沿う直径)dxと結晶方位[1−12]の方向の直径(軸Gyに沿う直径)dyを共通にする。仮想の真円形Qの中心Oは、振動領域Pの中心Oに一致する。
【0052】
図8において、振動板36の振動領域Pを周方向において、結晶面内の結晶方位[−111]から[1−12]までの第1領域K1、[1−12]から[1−1−1]までの第2領域K2、[1−1−1]から[−11−2]までの第3領域K3、[−11−2]から[−111]までの第4領域K4に分ける。このとき、振動領域Pの形状は、仮想の真円形Qと比較すると、第2領域K2と第4領域K4では仮想の真円形Qよりも内側にあり、第1領域K1と第3領域K3では少なくとも一部が仮想の真円形Qよりも外側にある。したがって、領域K2と領域K4において振動領域Pの直径dは、仮想の真円形Qの直径よりも小さい。
【0053】
さらに、第1領域K1を、結晶方位[−111]から[1−12]側に59度の方位Dwまでの領域K1’と、方位Dwから[1−12]までの領域K1’’に分けると、領域K1’において振動領域Pが仮想の真円形Qの外側にある。同様に、第3領域K3を、結晶方位[1−1−1]から[−11−2]側に59度の方位Dw’までの領域K3’と、方位Dw’から[−11−2]までの領域K3’’に分けると、領域K3’において振動領域Pが仮想の真円形Qの外側にある。したがって、領域K1’と領域K3’において振動領域Pの直径dは、仮想の真円形Qの直径よりも大きい。
【0054】
他方、
図7において、結晶面(110)内の第1領域K1から第4領域K4でのヤング率とポアソン比の変化を見ると、第1領域K1と第3領域K3では、ポアソン比の変化は、第2領域K2と第4領域K4に比較してそれほど大きくないものの、ヤング率は最大値(方位Dn)から最小値(方位Dm)までと、第2領域K2と第4領域K4に比較して大きく変化する。特にヤング率の変化が大きくなるのは、最大値(方位Dn)と最小値(方位Dm)を含む領域K1’と領域K3’である。これに対して、領域K1’’と領域K3’’では、他の領域に比べてヤング率もポアソン比も変化が小さい。
【0055】
第1領域K1の領域K1’と第3領域K3の領域K3’のように、ポアソン比の変化よりもヤング率の変化の方が大きい領域では、振動板36の撓み量が抑制され易いので、振動領域Pの直径dを真円形Qの直径よりも大きくすることで、振動板を撓み易くすることができる。これに対して、第1領域K1の領域K1’’と第3領域K3の領域K3’’のように、ポアソン比もヤング率も変化が小さい領域では、振動領域Pの直径dが真円形Qの直径とほぼ同様にすることで、周方向の変化を少なくすることができる。
【0056】
これに対して、
図7において、第2領域K2と第4領域K4では、ヤング率の変化は、第1領域K1と第3領域K3に比較してそれほど大きくないものの、ポアソン比は最大値(方位Dn’)から最小値(方位Dm’)までと、第1領域K1と第3領域K3に比較して大きく変化する。第2領域K2と第4領域K4のように、ヤング率の変化よりもポアソン比の変化よりも大きい領域では、周方向によって振動板36の面内方向の縮み量が大きく変わるため、振動領域Pの直径dを真円形Qの直径よりも小さくすることで、周方向による振動板36の面内方向の縮み量の変化による振動板36の撓みへの影響を緩和できる。
【0057】
以上のとおり、本実施形態によれば、振動板36の振動領域Pの形状を、周方向におけるヤング率とポアソン比の変化に応じた形状にすることができる。このため、振動板36の振動領域Pに発生する歪みを、周方向で均一化させることができる。振動板36全体を変位させ易くなり、局所的に不均一な応力集中が発生することも抑制できるので、クラックの発生を抑制しつつ、振動板36の変位特性を向上させることができる。
【0058】
また、
図8に示す振動領域Pの形状は、第1領域K1と第3領域K3において振動領域Pの中心Oに対して点対称であり、第2領域K2と第4領域K4においても振動領域Pの中心Oに対して点対称である。他方、
図7に示す結晶面{110}の周方向におけるヤング率とポアソン比の変化は、第1領域K1と第3領域K3において中心Oに対して点対称であり、第2領域K2と第4領域K4においても中心に対して点対称である。したがって、振動領域Pの形状を
図8のような形状にすることで、結晶面{110}のヤング率とポアソン比の対称性に合った形状にすることができる。これにより、振動板36の振動領域Pに発生する歪みを、周方向で均一化させる効果を高めることができる。
【0059】
なお、
図8では振動領域Pの形状が上記数式(4)の関係を有する形状になるようにした場合を例示したが、これに限られず、振動領域Pの形状は上記数式(4)を満たす形状に近い形状であってもよい。例えば振動領域Pの形状は、第2領域K2と第4領域K4では仮想の真円形Qよりも内側にあり、第1領域K1と第3領域K3では少なくとも一部が仮想の真円形Qよりも外側にあるとの特徴を有する形状であればよい。また、
図8では、第1領域K1と第3領域K3において振動領域Pの中心Oに対して点対称であり、第2領域K2と第4領域K4においても振動領域Pの中心Oに対して点対称である場合を例示したが、これに限られず、必ずしも点対称でなくてもよい。
【0060】
なお、
図8の振動領域Pは、
図7に示す単結晶シリコン基材の結晶面(110)を振動板36の表面(上面)とする場合を例示したが、単結晶シリコンは立方晶系であるため、結晶面(110)と等価の結晶面である(011)面または(101)面を振動板36の表面(上面)にする場合にも、本実施形態の構成を適用可能である。結晶面が(011)面または(101)面であっても、ヤング率とポアソン比は、
図7のような形状になる。ただし、結晶面が(011)面の場合は、
図7で基準となる7つの結晶方位[−111],[−112],[001],[1−12],[1−11],[1−10],[1−1−1]をそれぞれ、結晶方位[1−11],[1−12],[100],[21−1],[11−1],[01−1],[−11−1]と読み替えて適用する。また、結晶面が(101)面の場合は、
図7の結晶方位[−111],[−112],[001],[1−12],[1−11],[1−10],[1−1−1]をそれぞれ、結晶方位[11−1],[12−1],[010],[−121],[−1−11],[−101],[−1−11]と読み替えて適用する。このように、結晶面(100)、(010)、(001)は、いずれも等価であり、これらの面群を結晶面{100}と包括的に表記できる。
【0061】
また、結晶方向[−111]、[1−11]、[11−1]は、いずれも等価であるから、結晶方向[−111]およびこれと等価の方向群を結晶方向〈−111〉と包括的に表記できる。同様に、結晶方向[1−12]およびこれと等価の方向群を〈1−12〉と包括的に表記でき、結晶方向[1−1−1]およびこれと等価の方向群を〈1−1−1〉と包括的に表記でき、結晶方向[−11−2]およびこれと等価の方向群を〈−11−2〉と包括的に表記できる。
【0062】
また、
図6に示す結晶面が(100)面の単結晶シリコン基材において、その結晶面を振動板36の表面(上面)とするようにしてもよい。さらに、単結晶シリコンは立方晶系であるため、結晶面(100)と等価の結晶面である(010)面または(001)面を振動板36の表面(上面)にする場合にも、本実施形態の構成を適用可能である。結晶面が(010)面または(001)面であっても、ヤング率とポアソン比は、
図6のような形状になる。ただし、結晶面が(010)面の場合は、
図6で基準となる3つの結晶方位[010]、[011]、[001]をそれぞれ、結晶方位[−100]、[−101]、[001]と読み替えて適用する。また、結晶面が(001)面の場合は、
図6の結晶方位[010]、[011]、[001]をそれぞれ、結晶方位[010]、[−110]、[−100]と読み替えて適用する。このように、結晶面(100)、(010)、(001)は、いずれも等価であり、これらの面群を結晶面{100}と包括的に表記できる。
【0063】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。第2実施形態では、第1実施形態に係る圧電デバイス39の圧電素子37についての具体的な構成例を説明する。
図9および
図10は、
図4の圧電素子37の具体的な構成例である。
図9は、第2実施形態に係る圧電デバイス39をZ方向から見た場合の平面図である。
図10は、
図4に示す圧電デバイス39のXVII−XVII断面図である。
【0064】
図9および
図10に示すように、第2実施形態の圧電素子37は、平面視で振動領域Pの中心Oに重なるように振動板36に配置される。
図9の圧電素子37は、相互に対向する第1電極371と第2電極372との間に圧電体層373を介在させた積層体である。
図9の圧電素子37は、第1電極371と第2電極372との間に電圧を印加することで、第1電極371と第2電極372とで挟まれる圧電体層373に圧電歪みが生じて変位する。したがって、
図9の構成では、第1電極371と第2電極372と圧電体層373とが平面視で重なる部分が、圧電素子37に相当する。
【0065】
第1電極371は、圧電素子37毎(ノズルN毎)に個別に、振動板36の表面に形成される。各第1電極371は、Y方向に沿って延在する電極である。各第1電極371には、圧電体層373の外側に引き出されたリード電極371Aを介して駆動IC62に接続される。各リード電極371A同士は電気的に接続されており、各第1電極371は複数の圧電素子37の共通電極になっている。
【0066】
第1電極371には、圧電体層373の外側に引き出されたリード電極371Aを介して駆動IC62に接続される。第1電極371は複数の圧電素子37の共通電極になっている。第1電極371の材料は、圧電体層373を成膜する際に酸化せず、導電性を維持できる材料が好ましく、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等の貴金属、またはランタンニッケル酸化物(LNO)などに代表される導電性酸化物が好適に用いられる。
【0067】
各第1電極371の表面(振動板36とは反対側の表面)には、圧電素子37毎(ノズルN毎)に個別に、圧電体層373と第2電極372とが形成される。
図10に示すように、各第2電極372は、第1電極371に対して振動板36とは反対側に積層され、各圧電体層373は、第1電極371と第2電極372とに挟まれるように積層される。各第2電極372は、Y方向に沿って延在する電極である。各第2電極372には、圧電体層373の外側に引き出されたリード電極372Aを介して駆動IC62に個別に接続される。
【0068】
圧電体層373は、例えばペロブスカイト構造の結晶膜(ペロブスカイト型結晶)などの電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料である。なお、圧電体層373の材料としては、上述したものに限られず、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの他、鉛を含む鉛系の圧電材料に限定されず、鉛を含まない非鉛系の圧電材料を用いることができる。
【0069】
圧電体層373は、圧力室Cごとにパターニングされて形成される。第2電極372は、圧電体層373の第1電極371とは反対側の面に設けられており、複数の圧電素子37に対応する個別電極を構成する。なお、第2電極372は、圧電体層373に直接設けられていてもよく、また圧電体層373と第2電極372との間に他の部材が介在していてもよい。
【0070】
第2電極372としては、圧電体層373との界面を良好に形成でき、絶縁性及び圧電特性を発揮できる材料が望ましく、例えばイリジウム(Ir)、白金 (Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の貴金属材料、及びランタンニッケル酸化物(LNO)に代表される導電性酸化物が好適に用いられる。また、第2電極372は、複数材料を積層したものであってもよい。
【0071】
なお、本実施形態の圧電素子37は、第1電極371を複数の圧電素子37の共通電極にして、第2電極372を複数の圧電素子37に対応する個別電極にした場合を例示したが、この構成に限られず、第2電極372を複数の圧電素子37の共通電極にして、第1電極371を複数の圧電素子37に対応する個別電極にしてもよい。また、上記実施形態では、振動板36を単一層で構成した場合を例示したが、これに限られず、複数層で構成してもよい。
【0072】
第1実施形態では、圧力室基板34と振動板36とを別体で構成した場合を例示したが、これに限られず、本実施形態のように、圧力室基板34と振動板36とを一体にして、圧力室Cと振動板36を一度に形成してもよい。この構成では、所定の厚みの単結晶シリコン基材のうち圧力室Cに対応する領域について厚み方向の一部を、上記結晶方向に合わせて選択的に除去することで、圧力室Cと振動板36とを一度に形成することができる。
【0073】
このような第2実施形態では、第1実施形態と同様に、単結晶シリコン基材の結晶面(110)で振動板36の表面を構成したものである。振動領域Pの形状は
図8に示す形状と同様であり、圧電素子37の形状は、振動領域Pの形状の相似形である。したがって、第2実施形態の圧電デバイス39においても、第1実施形態と同様に、振動板36や圧電素子37のクラックの発生を抑制しつつ、振動板36の変位特性を向上させることができる。
【0074】
なお、
図11に示す第2実施形態の変形例の構成では、圧電素子37と振動板36との間に、密着力を確保するための密着層376を設けている。
図11の密着層376は、酸化シリコン膜376Aと酸化ジルコニア膜376Bとから成る。酸化シリコン膜376Aと酸化ジルコニア膜376Bとはこの順に振動板36に積層される。密着層376は、振動板36を構成する単結晶シリコンよりも靱性の高いので、出来る限り薄くするとともに、
図11に示すように側壁344の内周345に近い部分には形成されないようにしている。このように構成することで、振動領域Pの全体に渡って密着層376を形成する場合に比較して、圧力室Cの側壁344の内周345に近い部分が変形し易くなるので、振動板36の変位特性を向上させることができる。
【0075】
<変形例>
以上に例示した態様および実施形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示や上述の態様から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0076】
(1)上述した実施形態では、液体吐出ヘッド26を搭載したキャリッジ242をX方向に沿って反復的に往復させるシリアルヘッドを例示したが、液体吐出ヘッド26を媒体12の全幅にわたり配列したラインヘッドにも本発明を適用可能である。
【0077】
(2)上述した実施形態では、圧力室に機械的な振動を付与する圧電素子を利用した圧電方式の液体吐出ヘッド26を例示したが、加熱により圧力室の内部に気泡を発生させる発熱素子を利用した熱方式の液体吐出ヘッドを採用することも可能である。
【0078】
(3)上述した実施形態で例示した液体吐出装置10は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置10の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等を形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、液体の一種として生体有機物の溶液を吐出するチップ製造装置としても利用される。