特許第6981060号(P6981060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981060
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】変速機の潤滑油浄化装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20211202BHJP
   C10M 175/00 20060101ALI20211202BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   F16H57/04 E
   C10M175/00
   C10N40:04
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-124454(P2017-124454)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2019-6918(P2019-6918A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】寺島 幸士
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 実開平2−22444(JP,U)
【文献】 実開昭59−141294(JP,U)
【文献】 実開平1−158823(JP,U)
【文献】 特開2015−30601(JP,A)
【文献】 実開平4−41117(JP,U)
【文献】 中国特許出願公開第103912660(CN,A)
【文献】 特開2013−60976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
C10M 175/00
C10N 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内部に潤滑油が貯留された変速機の潤滑油浄化装置であって、
前記ケースの内部に配置された回転体に、
前記回転体の回転に伴う遠心力によって規定される上流側に設けられた前記潤滑油の導入部と、
前記回転体の回転に伴う遠心力によって規定される下流側に設けられた前記潤滑油の排出部と、
前記導入部から前記排出部に至る潤滑油浄化経路に設けられて前記潤滑油を浄化するフィルタと、
を備え
前記回転体の軸線方向における一方の側の第1の面には、凹形状の第1肉抜き部が形成されており、
前記回転体の前記軸線方向における前記第1の面とは反対側の第2の面には、凹形状の第2肉抜き部が形成されており、
前記回転体には、前記第1肉抜き部と前記第2肉抜き部とを連通させ、前記第1の面から前記第2の面に向かうにつれて、前記回転体の軸線との間の距離が大きくなるように傾斜した穴が形成されており、
前記導入部は、前記第1肉抜き部に設けられており、
前記排出部は、前記第2肉抜き部に設けられており、
前記フィルタは、前記穴に設けられている変速機の潤滑油浄化装置。
【請求項2】
前記回転体は、
少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、前記ケースの内部に貯留した前記潤滑油に前記フィルタが浸漬され、
少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、前記ケースの内部に貯留した前記潤滑油から前記フィルタが露出されるとともに、遠心力で前記潤滑油浄化経路の上流側から下流側に前記潤滑油が移動する過程で前記フィルタにより前記潤滑油が浄化される、
請求項1に記載の変速機の潤滑油浄化装置。
【請求項3】
前記潤滑油浄化経路は、
前記回転体の回転によって前記潤滑油が掻き上げ排出される排出方向と交差する方向に浄化後の前記潤滑油が排出されるように前記導入部と前記排出部とが配置されている、
請求項2に記載の変速機の潤滑油浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の内部に貯留した潤滑油を浄化する変速機の潤滑油浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ケースの内部に複数のシャフト並びにギヤを配置して動力を伝達する変速機には、ケースの内部に潤滑油を貯留し、例えば、回転するギヤの跳ね上げによって各シャフトやギヤに潤滑油を供給するようにしたものが知られている。
【0003】
また、このような変速機には、ケースの内部にて、潤滑油の寿命を伸ばしつつ潤滑油の劣化に起因する不具合を抑制する潤滑油浄化装置を配置したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示の潤滑油浄化装置は、跳ね上げた潤滑油の一部を捕集して浄化(ろ過)するフィルタをケースの内部に配置したもので、ギヤにより跳ね上げたオイルのうちシャフトやギヤに注がれない潤滑油の跳ね上げ軌跡上にフィルタを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−003026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような先行技術文献に開示の変速機の潤滑油浄化装置にあっては、ケースの内部にシャフトやギヤに注がれない潤滑油の跳ね上げ軌跡上にフィルタを配置する必要がある。このため、フィルタを配置するための配置スペースを狭いケースの内部に確保する必要があるため、配置場所に制約を受けるなどの問題が生じていた。
【0007】
本開示の技術は、上述のような課題を解決するために、狭いケースの内部に効率よくフィルタを配置することができる変速機の潤滑油浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の技術は、上記目的を達成のため、ケースの内部に潤滑油が貯留された変速機の潤滑油浄化装置であって、ケースの内部に配置された回転体に、回転体の回転に伴う遠心力によって規定される上流側に設けられた潤滑油の導入部と、回転体の回転に伴う遠心力によって規定される下流側に設けられた潤滑油の排出部と、導入部から排出部に至る潤滑油浄化経路に設けられて潤滑油を浄化するフィルタと、を備えるものである。
【0009】
また、回転体は、少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、ケースの内部に貯留した潤滑油にフィルタが浸漬され、少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、ケースの内部に貯留した潤滑油からフィルタが露出されるとともに、遠心力で潤滑油浄化経路の上流側から下流側に潤滑油が移動する過程でフィルタにより潤滑油が浄化される、のが好ましい。
【0010】
また、潤滑油浄化経路は、回転体の回転によって潤滑油が掻き上げ排出される排出方向と交差する方向に浄化後の潤滑油が排出されるように導入部と排出部とが配置されている、のが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の技術によれば、回転体にフィルタを設けることができ、狭いケースの内部に効率よくフィルタを配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置を適用した変速機の一例の断面図である。
図2】第一実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置を適用した図1のA−A線に沿う変速機の概略の断面図である。
図3】第一実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置に適用されるギヤの断面図である。
図4】第二実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置を適用した図1のA−A線に沿う変速機の概略の断面図である。
図5】第二実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置に適用されるギヤの断面図である。
図6】第三実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置を適用した図1のA−A線に沿う変速機の概略の断面図である。
図7】第三実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置に適用されるカウンタシャフトの断面図である。
図8】第四実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置に適用されるカウンタシャフト軸受を示し、(A)は潤滑油浄化経路の内部にフィルタを配置した例の要部の断面図、(B)は潤滑油浄化経路の出口にフィルタを配置した例の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る変速機の潤滑油浄化装置について説明する。なお、同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。なお、説明の便宜上、図1において、図示左側を動力伝達方向の入力側(一端側)、図示右側を動力伝達方向の出力側(他端側)と称する。また、以下の説明において、上下の各方向は、車体実装時における車体上下と同じである。
【0014】
また、以下の説明において、前後左右上下の各方向は、車両前進走行時における運転者から見た前後左右上下と同じとして説明する。したがって、左右方向は車幅方向と同義である。ただし、前後左右上下方向には、厳密な意味での前後左右上下方向を示すものとは限らない。例えば、前後左右方向は水平面内を基準とするとは限らず、上下方向は鉛直方向を基準とするとは限らず、機能的な意味で各方向を示す場合を含むものとする。
【0015】
[第一実施形態]
図1に示す変速機1は、インプットシャフト2と、メインシャフト3と、アウトプットシャフト4と、カウンタシャフト5と、クラッチハウジング6と、トランスミッションケース7と、を備えている。
【0016】
インプットシャフト2は、図示を略すエンジンで生成された回転駆動力がクランク軸を介して伝達される軸部材である。インプットシャフト2の出力側端部には、メインシャフト3の入力側端部を回転可能に支持する軸受を兼ねたプライマリドリブンギヤ8が装着されている。なお、インプットシャフト2は、スプライン結合によりプライマリドリブンギヤ8を相対回転不能に軸支するとともに、軸受を介してメインシャフト3を相対回転可能に軸支してもよい。
【0017】
メインシャフト3は、インプットシャフト2と同軸に配置されており、プライマリドリブンギヤ8に加え、複数の変速ギヤ9とスリーブ10とを備えるドリブンギヤ群11が装着されている。
【0018】
アウトプットシャフト4は、メインシャフト3の出力側端部にメインシャフト3と同軸に配置されている。アウトプットシャフト4の出力側端部には、図示を略すプロペラシャフトが接続される。
【0019】
カウンタシャフト5は、インプットシャフト2及びメインシャフト3と平行に配置されている。カウンタシャフト5には、プライマリドリブンギヤ8と噛み合わされるプライマリドライブギヤ12と複数の変速ギヤ13とを備えるドライブギヤ群14が装着されている。このドライブギヤ群14の各変速ギヤ13は、ドリブンギヤ群11の変速ギヤ9と噛み合わされる。
【0020】
クラッチハウジング6及びトランスミッションケース7は、変速機1におけるハウジングとなる部材である。クラッチハウジング6は入力側に配置され、トランスミッションケース7は出力側に配置される。クラッチハウジング6及びトランスミッションケース7は、出力側端部のフランジ部6aと入力側端部のフランジ部7aとを突き合わせるように互いに接合することによって液密状態で収納空間15を形成する。
【0021】
収納空間15には、ドリブンギヤ群11及びドライブギヤ群14を構成する各種部品が収納される。収納空間15には、カウンタシャフト5の軸線付近を液面とする潤滑油OLが貯留されている。これにより、カウンタシャフト5、プライマリドライブギヤ12、複数の変速ギヤ13の下半分程度が潤滑油OLに浸かっている状態となっている。
【0022】
プライマリドライブギヤ12並びに変速ギヤ13が回転すると、その回転によって潤滑油OLを掻き上げ、プライマリドリブンギヤ8及び変速ギヤ9を含むドリブンギヤ群11にも潤滑油OLを供給することができるようになっている。
【0023】
クラッチハウジング6は、フランジ部6aよりも入力側に、インプットシャフト2の出力端部付近とカウンタシャフト5の入力側端部とを回転可能に支持して収納空間15の入力側を区画する隔壁6bを一体に備える。隔壁6bには、インプットシャフト2の出力端側を回転可能に支持する軸受16と、カウンタシャフト5の入力側端部を回転可能に支持する軸受17と、が支持される。
【0024】
具体的に、隔壁6bには、軸受17を支持する開口6cが形成されている。開口6cは、隔壁6bの外側(入力側)から、収納空間15の液密状態を確保するように、カバー18によって覆われている。なお、カバー18は、隔壁6bと一体でもよい。
【0025】
トランスミッションケース7には、フランジ部7aよりも出力側に、アウトプットシャフト4の入力側端部付近とカウンタシャフト5の出力側端部とを回転可能に支持して収納空間15の出力側を区画する隔壁7bを一体に有する。隔壁7bには、カウンタシャフト5の出力端を回転可能に支持する軸受19が設けられている。なお、メインシャフト3の出力側端部(若しくは、アウトプットシャフト4の入力側端部)に関しても、隔壁7bに軸受(図示せず)を介して回転可能に支持されている。
【0026】
このように、隔壁6bと隔壁7bとは、変速機1としての動力伝達機能を実現する複数の各シャフト2,3,4,5並びに各ギヤ8,9,12,13を含む動力伝達部品を収納するケースの内部としての収納空間15を形成している。
【0027】
なお、ドリブンギヤ群11を構成する、インプットシャフト2、メインシャフト3、アウトプットシャフト4、プライマリドリブンギヤ8、変速ギヤ9、スリーブ10、等の各構成部品は周知の構成のものを用いることができる。したがって、これらの更なる詳細な説明は省略する。
【0028】
ドライブギヤ群14を構成する、カウンタシャフト5、プライマリドライブギヤ12、変速ギヤ13、は、動力伝達機能としての部品構成としては周知の技術のものを用いることができる。
【0029】
なお、プライマリドリブンギヤ8と変速ギヤ9、及び、プライマリドライブギヤ12と変速ギヤ13、とは各シャフト2,3,4,5に対する動力伝達を実現する機能は実質的に同一であり、直径(ギヤ比)や厚さ等のギヤ特性が適宜異なるものである。したがって、以下の説明においては、変速ギヤ9と変速ギヤ13との関係を主として説明し、プライマリドリブンギヤ8とプライマリドライブギヤ12との関係においては、対応する符号のみをかっこ書きで付してその詳細な説明は省略する。
【0030】
図2に示すように、変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)には、例えば、略円盤状のギヤ本体13a(12a)の中央にカウンタシャフト5が貫通する貫通穴13b(12b)が形成されている。また、ギヤ本体13a(12a)の外周面には、ギヤ歯13c(12c)が形成されている。さらに、ギヤ本体13a(12a)の外周寄り複数個所には、肉抜き部13d(12d)が形成されている。
【0031】
ギヤ歯13c(12c)は、変速ギヤ9(及びプライマリドリブンギヤ8)の外周面に形成されたギヤ歯9a(8a)と噛み合わされる。なお、ギヤ歯9a(8a)とギヤ歯13c(12c)との噛み合わせは、平歯車又ははすば歯車の何れによるものでもよい。
【0032】
肉抜き部13d(12d)は、変速ギヤ13(12)の直径(ギヤ比)や厚さ等のギヤ特性に応じて適宜の大きさや数で形成される。したがって、図示例では、カウンタシャフト5の軸線を中心とする放射状の均等位置に5カ所設けられているが、この数や大きさは限定されるものではない。なお、この肉抜き部13d(12d)は、必要に応じて変速ギヤ9(8)に形成されていてもよい。
【0033】
図3に示すように、肉抜き部13d(12d)は、ギヤ本体13a(12a)の表裏に形成されており、各面に開口するとともに径方向(及び周方向)に沿う角部が断面R状に形成された底面を有している。各肉抜き部13d(12d)の外周側内部には、フィルタ20が設けられている。
【0034】
これにより、回転体としての変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)の肉抜き部13d(12d)には、変速ギヤ13(12)の回転伴う遠心力によって規定される上流側である内周側に径方向に沿う底面形状が断面R状とされた部位を含む潤滑油OLの導入部13e(12e)と、回転に伴う遠心力によって規定される下流側である外周側に径方向に沿う底面形状が断面R状の部位を含む潤滑油OLの排出部13f(12f)と、が形成されていることとなる。したがって、肉抜き部13d(12d)は、導入部13e(12e)から排出部13f(12f)に至る潤滑油浄化経路13g(12g)を備えることとなる。
【0035】
そして、フィルタ20は、導入部13e(12e)から排出部13f(12f)に至る潤滑油浄化経路13g(12g)の下流側である外周寄りに設けられて潤滑油OLを浄化することができる。これにより、変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)の肉抜き部13d(12d)を利用して、特別なフィルタ保持部材等を設けることなく、潤滑油浄化経路13g(12g)とフィルタ20とによって潤滑油浄化装置を構成することができる。
【0036】
フィルタ20は、吸水性を備えるとともに潤滑油OLに含まれる不純物の捕集並びにろ過が可能な物質であり、例えば、スポンジ等の発泡体、フェルト状フィルタを組み込んだフィルタ組立体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを含む非反応性材料で被覆されたフィルタ組立体等を用いることができる。また、フィルタ20に発泡体を用いた場合には、不純物を捕集(吸着)効果の高い活性炭等を含有する合成発泡体等としてもよい。
【0037】
このように、本実施の形態に係る変速機1の潤滑油浄化装置は、回転体である変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)にフィルタ20を直接設けることによって、狭い収納空間15に効率よくフィルタ20を配置することができる。具体的には、収納空間15に潤滑油OLが貯留された変速機1の潤滑油浄化装置であって、収納空間15に配置された変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)に、変速ギヤ13(12)の回転に伴う遠心力によって規定される上流側に設けられた潤滑油OLの導入部13e(12e)と、変速ギヤ13(12)の回転に伴う遠心力によって規定される下流側に設けられた潤滑油OLの排出部13f(12f)と、導入部13e(12e)から排出部13f(12f)に至る潤滑油浄化経路13g(12g)に設けられて潤滑油OLを浄化するフィルタ20と、を備える。
【0038】
次に、第一実施形態に係る変速機1の潤滑油浄化装置の作用を説明する。上記の構成において、図示を略すエンジンから動力伝達された回転力により、インプットシャフト2が回転する。そのインプットシャフト2からの回転力は、プライマリドリブンギヤ8のギヤ歯8aとプライマリドライブギヤ12のギヤ歯12cとの噛み合いによってカウンタシャフト5に伝達される。
【0039】
カウンタシャフト5が回転すると、変速ギヤ9のギヤ歯9aと、その変速ギヤ9と対応する変速ギヤ13のギヤ歯13cと、が互いに噛み合って互いに回転する。そして、変速段数に応じてスリーブ10がメインシャフト3の軸上で変位されて対応する変速ギヤ9とメインシャフト3とを繋ぎ、カウンタシャフト5の回転力がメインシャフト3を介してアウトプットシャフト4に伝達される。
【0040】
ここで、変速ギヤ13(12)は、収納空間15に貯留した潤滑油OLにその下半分程度が浸かっている。したがって、変速ギヤ13(12)は、その回転に伴って潤滑油OLをそのままを掻き上げ、主として互いに噛み合う変速ギヤ9(8)に掻き上げた潤滑油OL1を供給する。なお、潤滑油OL1には、表面張力によってギヤ歯13c(12c)に付着したまま変速ギヤ9(8)のギヤ歯9a(8a)に付着するものを含む。
【0041】
一方、変速ギヤ13(12)は、少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLにフィルタ20が浸漬され、フィルタ20の吸水特性により潤滑油OLを吸水(吸油)する。
【0042】
これにより、変速ギヤ13(12)が回転され、少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLからフィルタ20が露出される。
【0043】
そして、この回転に伴う遠心力により、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLが、排出部13f(12f)の底面形状に沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0044】
さらに、変速ギヤ13(12)の表面に付着した潤滑油の一部や肉抜き部13d(12d)の底面、すなわち、潤滑油浄化経路13g(12g)の導入部13e(12e)に付着又は導かれた潤滑油OL2が、回転に伴う遠心力によりフィルタ20に新たに吸水(吸油)され、排出部13f(12f)の底面形状に沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0045】
このように、変速機1の潤滑油浄化装置は、フィルタ20に直接又は回転時の遠心力によって吸水(吸油)した潤滑油OL,OL2を、潤滑油浄化経路13g(12g)に沿ってフィルタ20を通過する過程で浄化した状態で排出し、収納空間15に貯留した潤滑油OLに還元する。
【0046】
これにより、収納空間15に貯留された潤滑油OLは、変速ギヤ13(12)の回転によって攪拌されつつ浄化(ろ過)される。
【0047】
ここで、潤滑油浄化経路13g(12g)は、変速ギヤ13(12)の回転によって潤滑油OLが掻き上げられた潤滑油OL1として排出される排出方向、すなわち、径方向と交差する軸線方向に沿うように浄化後の潤滑油OLが排出されるように導入部13e(12e)と排出部13f(12f)とが配置されている。
【0048】
これにより、変速ギヤ9(8)に供給する潤滑油OL1と、浄化して収納空間15に貯留された潤滑油OLに還元する潤滑油OL3と、を独立させることができ、収納空間15に貯留された潤滑油OLを有効に浄化させることが可能となる。
【0049】
[第二実施形態]
図4及び図5は、第二実施形態を示す。以下、上述した図1図3に基づいて説明した変速機1の潤滑油浄化装置と同一の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略し、特有の構成についてのみを説明する。
【0050】
この第二実施形態に示す変速ギヤ13(12)は、略円盤状のギヤ本体13a(12a)と、ギヤ本体13a(12a)の中央に形成されてカウンタシャフト5が貫通する貫通穴13b(12b)と、変速ギヤ9(8)のギヤ歯9a(8a)と噛み合わされるギヤ歯13c(12c)と、ギヤ本体13a(12a)の外周寄り複数個所に両面形成された肉抜き部13d(12d)と、を備える。
【0051】
肉抜き部13d(12d)は、変速ギヤ13(12)の直径(ギヤ比)や厚さ等のギヤ特性に応じて適宜の大きさや数で形成される。
【0052】
図5に示すように、肉抜き部13d(12d)は、ギヤ本体13a(12a)の表裏に形成されており、各面に開口するとともに径方向(及び周方向)に沿う角部が断面R状に形成された底面を有している。各肉抜き部13d(12d)の底面には、一面側の内周側から他面側の外周側に向かって傾斜したガイド穴13h(12h)が形成されている。このガイド穴13h(12h)には、フィルタ20が設けられている。
【0053】
これにより、回転体としての変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)の肉抜き部13d(12d)は、一面側に、変速ギヤ13(12)の回転伴う遠心力によって規定される上流側である内周側に径方向に沿う底面形状が断面R状とされた部位を含む潤滑油OLの導入部13e(12e)、他面側に、変速ギヤ13(12)の回転に伴う遠心力によって規定される下流側である外周側に径方向に沿う底面形状が断面R状の部位を含む潤滑油OLの排出部13f(12f)、が形成されていることとなる。したがって、肉抜き部13d(12d)は、一面側の導入部13e(12e)からガイド穴13h(12h)を経由して他面側の排出部13f(12f)に至る潤滑油浄化経路13i(12i)を備えることとなる。
【0054】
そして、フィルタ20は、一面側の導入部13e(12e)からガイド穴13h(12h)を経由して他面側の排出部13f(12f)に至る潤滑油浄化経路13i(12i)の中途部であるガイド穴13h(12h)に設けられて潤滑油OLを浄化することができる。これにより、変速ギヤ13(及びプライマリドライブギヤ12)の肉抜き部13d(12d)を利用して、特別なフィルタ保持部材等を設けることなく、潤滑油浄化経路13i(12i)とフィルタ20とによって潤滑油浄化装置を構成することができる。
【0055】
上記の構成において、変速ギヤ13(12)は、収納空間15に貯留した潤滑油OLにその下半分程度が浸かっている。したがって、変速ギヤ13(12)は、その回転に伴って潤滑油OLをそのままを掻き上げ、主として互いに噛み合う変速ギヤ9(8)に掻き上げた潤滑油OL1を供給する。なお、潤滑油OL1には、表面張力によってギヤ歯13c(12c)に付着したまま変速ギヤ9(8)のギヤ歯9a(8a)に付着するものを含む。
【0056】
一方、変速ギヤ13(12)は、少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLにフィルタ20が浸漬され、フィルタ20の吸水特性により潤滑油OLを吸水(吸油)する。
【0057】
これにより、変速ギヤ13(12)が回転され、少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLからフィルタ20が露出される。
【0058】
そして、この回転に伴う遠心力により、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLが、一面側の内周側から他面側の外周側に向かって傾斜したガイド穴13h(12h)に沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0059】
さらに、変速ギヤ13(12)の表面に付着した潤滑油の一部や肉抜き部13d(12d)の底面、すなわち、潤滑油浄化経路13i(12i)の導入部13e(12e)に付着又は導かれた潤滑油OL2が、回転に伴う遠心力によりフィルタ20に新たに吸水(吸油)され、一面側の内周側から他面側の外周側に向かって傾斜したガイド穴13h(12h)に沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0060】
このように、変速機1の潤滑油浄化装置は、フィルタ20に直接又は回転時の遠心力によって吸水(吸油)した潤滑油OL,OL2を、潤滑油浄化経路13i(12i)に沿ってフィルタ20を通過する過程で浄化した状態で排出し、収納空間15に貯留した潤滑油OLに還元する。
【0061】
これにより、収納空間15に貯留された潤滑油OLは、変速ギヤ13(12)の回転によって攪拌されつつ浄化(ろ過)される。
【0062】
ここで、潤滑油浄化経路13i(12i)は、変速ギヤ13(12)の回転によって潤滑油OLが掻き上げられた潤滑油OL1として排出される排出方向、すなわち、径方向と交差する軸線方向に沿うように浄化後の潤滑油OLが排出されるように導入部13e(12e)と排出部13f(12f)とが配置されている。
【0063】
これにより、変速ギヤ9(8)に供給する潤滑油OL1と、浄化して収納空間15に貯留された潤滑油OLに還元する潤滑油OL3と、を独立させることができ、収納空間15に貯留された潤滑油OLを有効に浄化させることが可能となる。
【0064】
[第三実施形態]
図6及び図7は、第三実施形態を示す。以下、上述した図1図3に基づいて説明した変速機1の潤滑油浄化装置と同一の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略し、特有の構成についてのみを説明する。
【0065】
この第三実施形態に示すカウンタシャフト5には、軸線方向に沿って貫通する軸上貫通穴5aと、軸上貫通穴5aに一端が連通しかつ他端が外周面に開口するよう径方向に沿って延びる一つ以上の放射状貫通穴5bと、が形成されている。なお、放射状貫通穴5bは、軸線方向に沿う複数個所に、変速ギヤ13によって塞がれない位置に配置することができる。さらに、放射状貫通穴5bは、軸線方向に沿う複数個所に配置した場合には、放射方向の位相若しくは数を変えて配置することができる。また、この放射状貫通穴5bには、フィルタ20が設けられている。
【0066】
これにより、回転体としてのカウンタシャフト5は、軸上貫通穴5aの軸端面(一端若しくは両端)に開口する開口端(導入部)から、放射状貫通穴5bの周壁面に開口する開口端(放出部)に至る潤滑油OLの潤滑油浄化経路5cを備えることとなる。
【0067】
そして、フィルタ20は、軸上貫通穴5a(及び潤滑油OLに浸かっている放射状貫通穴5b)から放射状貫通穴5bの開口端に至る潤滑油浄化経路5cの中途部に設けられて、潤滑油OLを浄化することができる。これにより、カウンタシャフト5を利用して、特別なフィルタ保持部材等を設けることなく、潤滑油浄化経路5cとフィルタ20とによって潤滑油浄化装置を構成することができる。
【0068】
上記の構成において、カウンタシャフト5は、収納空間15に貯留した潤滑油OLにその下半分程度が浸かっている。したがって、カウンタシャフト5は、その回転に伴って潤滑油OLを軸上貫通穴5a及び放射状貫通穴5bから吸い込むことができるとともに、少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLにフィルタ20が浸漬され、フィルタ20の吸水特性により潤滑油OLを吸水(吸油)する。
【0069】
これにより、カウンタシャフト5が回転され、少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLからフィルタ20が露出される。
【0070】
そして、この回転に伴う遠心力により、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLが、放射状貫通穴5bに沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0071】
このように、変速機1の潤滑油浄化装置は、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLを、潤滑油浄化経路5cに沿ってフィルタ20を通過する過程で浄化した状態で排出し、収納空間15に貯留した潤滑油OLに還元する。
【0072】
これにより、収納空間15に貯留された潤滑油OLは、変速ギヤ13(12)の回転によって攪拌されつつ浄化(ろ過)される。
【0073】
[第四実施形態]
図8(A)は、第四実施形態を示す。以下、上述した図1図3に基づいて説明した変速機1の潤滑油浄化装置と同一の構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略し、特有の構成についてのみを説明する。
【0074】
この第四実施形態に示すカウンタシャフト5の軸受17(19)は、隔壁6b(7b)に組み付けられて、複数のボール(又はコロ)からなる転動体21が転動する軌道面22aが形成された環状の固定側レース22と、カウンタシャフト5に組み付けられて複数のころが転動する軌道面23aが形成された環状の回転側レース23と、を備えている。
【0075】
固定側レース22は軸受17(19)に固定された外輪として機能し、回転側レース23はカウンタシャフト5に固定されてカウンタシャフト5と一体に回転する内輪として機能する。
【0076】
固定側レース22の軌道面22aと回転側レース23の軌道面23aとは、間隔を存して互いに平行であり、かつ、内周側(回転側)から外周側(固定側)に向かって傾斜しており、転動体21を挟んでカウンタシャフト5の軸線方向と交差する方向に延びる間隙23を形成している。
【0077】
間隙23は、その内周側の開口端を導入部、その外周側の開口端を放出部、とする潤滑油浄化経路25を形成している。潤滑油浄化経路25の転動体21よりも外周側には、回転側レース23に固定されたフィルタ20が設けられている。なお、フィルタ20は環状に形成されている。
【0078】
これにより、回転体としての軸受17(19)は、間隙24の内周側の開口端(導入部)から、間隙24の外周側の開口端(放出部)に至る潤滑油OLの潤滑油浄化経路25を備えることとなる。
【0079】
そして、フィルタ20は、潤滑油OLに浸かっている間隙24に設けられて、潤滑油OLを浄化することができる。これにより、軸受17(19)を利用して、特別なフィルタ保持部材等を設けることなく、潤滑油浄化経路25とフィルタ20とによって潤滑油浄化装置を構成することができる。
【0080】
上記の構成において、軸受17(19)は、収納空間15に貯留した潤滑油OLにその下半分程度が浸かっている。したがって、カウンタシャフト5の回転に伴って潤滑油OLを間隙24から吸い込むことができるとともに、少なくとも回転軌跡の下方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLにフィルタ20が浸漬され、フィルタ20の吸水特性により潤滑油OLを吸水(吸油)する。
【0081】
これにより、環状の回転側レース23とフィルタ20とがカウンタシャフト5と一体に回転され、少なくとも回転軌跡の上方に位置している際に、収納空間15に貯留した潤滑油OLからフィルタ20が露出される。
【0082】
そして、この回転に伴う遠心力により、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLが、間隙24に沿ってフィルタ20の内部を移動する過程で浄化された潤滑油OL3として排出される。
【0083】
このように、変速機1の潤滑油浄化装置は、フィルタ20によって吸水(吸油)した潤滑油OLを、潤滑油浄化経路5cに沿ってフィルタ20を通過する過程で浄化した状態で排出し、収納空間15に貯留した潤滑油OLに還元する。
【0084】
これにより、収納空間15に貯留された潤滑油OLは、変速ギヤ13(12)の回転によって攪拌されつつ浄化(ろ過)される。
【0085】
なお、フィルタ20は、図8(B)に示すように、間隙24の放出部側を塞ぐようにカウンタシャフト5又は回転側レース23の端面に固定したものでもよい。
【0086】
ところで、本発明の変速機の潤滑油浄化装置は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した技術的範囲には、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
【0087】
例えば、第二実施形態で示したフィルタ20は、肉抜き部13d(12d)が形成されていない部位において、ギヤ本体13a(12a)の表裏に貫通する斜めの貫通穴としてもよい。また、第三実施形態で示した軸上貫通穴5aはなくてもよい。さらに、第一実施形態若しくは第二実施形態で示した構成に、第三実施形態及び第四実施形態に示した構成の少なくとも一方を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1…変速機
2…インプットシャフト
3…メインシャフト
4…アウトプットシャフト
5…カウンタシャフト
5c…潤滑油浄化経路
6…クラッチハウジング(ケース)
7…トランスミッションケース(ケース)
10…スリーブ
11…ドリブンギヤ群
12…プライマリドライブギヤ(回転体)
13…変速ギヤ
13g…潤滑油浄化経路
15…収納空間(ケースの内部)
16…軸受
17…軸受
19…軸受
20…フィルタ
OL…潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8