特許第6981086号(P6981086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981086波長変換素子、光源装置及びプロジェクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981086
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】波長変換素子、光源装置及びプロジェクター
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20211202BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20211202BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20211202BHJP
   F21V 9/40 20180101ALI20211202BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   G02B5/20
   F21S2/00 340
   F21V9/00
   F21V9/40 400
   G03B21/14 A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-150598(P2017-150598)
(22)【出願日】2017年8月3日
(65)【公開番号】特開2019-28386(P2019-28386A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】高城 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 歩
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友博
【審査官】 岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−192295(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/066562(WO,A1)
【文献】 特開2018−024722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
F21S 2/00
F21V 9/00
F21V 9/40
G03B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が入射する第1面と前記第1面に対向する第2面とを有する波長変換層と、
前記第2面に対向して設けられ、第1の無機酸化物を含有する多層膜である第1層と、
前記第1層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第2層と、
前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウム以外の第1の金属を含有する第3層と、
前記第3層に対向して設けられ、前記第1の無機酸化物または前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を含有する第4層と、
前記第4層に対向して設けられ、前記第1の金属または前記第1の金属とは異なる第2の金属を含有する第5層と、
前記波長変換層の前記第2面に設けられた凹部を封孔する透明部材と、を備え、
前記透明部材は、前記第1層であって、前記多層膜を構成する複数の層のうち最も第2面側に位置する層と同一の材料で形成されている
ことを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
基材を備え、
前記第5層と前記基材との間に設けられる接合材により、前記波長変換素子と前記基材とが接合される
ことを特徴とする請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記第3層は、前記第2層側に設けられる第2層側金属層と、前記第4層側に設けられ、前記第2層側金属層とは異なる材料を含有する第4層側金属層とを有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記第3層または前記第5層の少なくとも一方は、Al、Cr、Tiのいずれ一つの材料を含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記第5層と前記接合材との間に設けられる第6層を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の波長変換素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記波長変換素子に向けて光を射出する光源と、を備える
ことを特徴とする光源装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調することにより画像光を形成する光変調装置と、
前記画像光を投写する投写光学系と、を備える
ことを特徴とするプロジェクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子、光源装置及びプロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクター用の照明装置として照明光として蛍光を利用するものがある。例えば、下記特許文献1には、レーザー光を射出する光源と、レーザー光の入射によって蛍光を発光する蛍光発光部とを備えた発光装置が開示されている。この発光装置において、蛍光発光部は、蛍光体層と、該蛍光体層を支持する基板と、基板と蛍光体層との間に設けられた反射層とを備えている。蛍光発光部では、反射層の劣化を防止するために、反射層の基板側に保護膜を設けている。保護膜は、例えば、金属や無機酸化物から構成されている。
【0003】
ところで、上述のような反射層としては反射率の高い金属材料を用いるのが望ましい。例えば、下記特許文献2には、反射率の高いAg膜を用いて反射層を構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−119046号公報
【特許文献2】国際公開第2015/194455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、蛍光体層で生成した蛍光を反射する反射層としてAg膜を用い、該Ag膜に上記保護膜を設けることも考えられる。
例えば、保護膜として金属を用いた場合、蛍光体層と基板とを接合する接合材側から拡散してくるイオンや酸素をトラップしきれず、十分に反射層の劣化を防止できない。
例えば、保護膜として無機酸化物を用いた場合、反射層と保護膜との密着性が弱く剥離するおそれがある。また、接合材を用いて蛍光体層を基板に接合する場合、接合材による応力によって保護膜が破壊され、反射層を劣化させるおそれがある。
このように反射膜が劣化すると、反射率が低下して蛍光の取り出し効率が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであり、反射層の劣化を抑制することで蛍光の取り出し効率の低下を抑制できる、波長変換素子を提供することを目的の1つとする。また、当該波長変換素子を備えた光源装置を提供することを目的の1つとする。また、当該光源装置を備えたプロジェクターを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に従えば、励起光が入射する第1面と前記第1面に対向する第2面とを有する波長変換層と、前記第2面に対向して設けられ、第1の無機酸化物を含有する多層膜である第1層と、前記第1層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第2層と、前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウム以外の第1の金属を含有する第3層と、前記第3層に対向して設けられ、前記第1の無機酸化物または前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を含有する第4層と、前記第4層に対向して設けられ、前記第1の金属または前記第1の金属とは異なる第2の金属を含有する第5層と、前記波長変換層の前記第2面に設けられた凹部を封孔する透明部材と、を備え、前記透明部材は、前記第1層であって、前記多層膜を構成する複数の層のうち最も第2面側に位置する層と同一の材料で形成されている波長変換素子が提供される。
【0008】
第1態様に係る波長変換素子によれば、第3層によって第2層と第4層との間の密着性を確保することができる。例えば、波長変換層を基材に接合する場合、第4層が、接合材から発生したイオンや酸素の拡散を捕捉することで、第2層の劣化を抑制できる。また、第5層が、接合時に生じる圧力を緩和して第4層の破損を防止する。そのため、第4層の信頼性が向上するので、第2層がイオンや酸素の拡散で劣化することを抑制できる。
【0009】
したがって、第2層の劣化に伴う反射率の低下が起こり難いので、波長変換層で生成された光を良好に反射して射出させることができる。したがって、波長変換した光の取り出し効率の低下を抑制した波長変換素子が提供される。
【0010】
上記第1態様において、前記第5層と前記基材との間に設けられる接合材により、前記波長変換素子と前記基材とが接合されるのが好ましい。
【0011】
この構成によれば、波長変換層を基材に接合することで波長変換層の熱を基材に効率よく放出することができる。これにより、波長変換素子の放熱性が向上する。
また、第4層が、波長変換素子と基材とを接合する接合材から発生したイオンや酸素の拡散を捕捉することで、第2層の劣化を抑制できる。さらにまた、第5層が、波長変換素子と基材とを接合する時に生じる圧力を緩和して第4層の破損を防止する。そのため、第4層の信頼性が向上するので、第2層がイオンや酸素の拡散で劣化することを抑制できる。
したがって、第2層の劣化に伴う反射率の低下が起こり難いので、波長変換層で生成された光を良好に反射して射出させることができる。したがって、波長変換した光の取り出し効率の低下を抑制した波長変換素子が提供される。
【0012】
上記第1態様において、前記第3層は、前記第2層側に設けられる第2層側金属層と、前記第4層側に設けられ、前記第2層側金属層とは異なる材料を含有する第4層側金属層とを有するのが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第2層に接触する部分と第4層に接触する部分とで材料を異ならせることで、第2層の劣化をより効果的に防止することができる。
【0014】
上記第1態様において、前記第3層または前記第5層の少なくとも一方は、Al、Cr、Tiのいずれ一つの材料を含むのが好ましい。
【0015】
この構成によれば、Al、Cr、Tiのいずれ一つの材料を含むので、第3層または第5層の少なくとも一方が不動態被膜を作るようになる。よって、第3層または第5層が腐食性能に優れたものとなるので、第2層の劣化をより効果的に防止することができる。
【0016】
上記第1態様において、前記第5層と前記接合材との間に設けられる第6層を有するのが好ましい。
【0017】
この構成によれば、例えば、第6層として接合材と親和性の良い材料を用いることで、接合材の接合に対する信頼性を向上させることができる。
【0018】
本発明の第2態様に従えば、上記第1態様に係る波長変換素子と、前記波長変換素子に向けて光を射出する光源と、を備える光源装置が提供される。
【0019】
第2態様に係る光源装置は、波長変換した光の取り出し効率の低下を抑制した波長変換素子を用いることにより、波長変換光の損失を低減することができる。
【0020】
本発明の第3態様に従えば、上記第2態様に係る光源装置と、前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調することにより画像光を形成する光変調装置と、前記画像光を投写する投写光学系と、を備えるプロジェクターが提供される。
【0021】
第3態様に係るプロジェクターは、波長変換光の損失を低減した上記第2態様に係る光源装置を備えるので、高輝度な画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第一実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す図である。
図2】照明装置の概略構成を示す図である。
図3】波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
図4】蛍光体層の要部構成を示す断面図である。
図5】第二実施形態の波長変換素子140の要部構成を示す断面図である。
図6】第一変形例の波長変換素子240の要部構成を示す断面図である。
図7】第二変形例の波長変換素子340の要部構成を示す断面図である。
図8】第三変形例の波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
図9】第四変形例の波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
図10A】実施例および比較例の実験結果を示すグラフである。
図10B】実施例および比較例の実験結果を示すグラフである。
図10C】実施例および比較例の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
(第一実施形態)
まず、本実施形態に係るプロジェクターの一例について説明する。
図1は、本実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のプロジェクター1は、スクリーンSCR上にカラー映像を表示する投射型画像表示装置である。プロジェクター1は、照明装置2と、色分離光学系3と、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bと、合成光学系5と、投射光学系6とを備えている。
【0025】
色分離光学系3は、照明光WLを赤色光LRと、緑色光LGと、青色光LBとに分離する。色分離光学系3は、第1のダイクロイックミラー7a及び第2のダイクロイックミラー7bと、第1の全反射ミラー8a、第2の全反射ミラー8b及び第3の全反射ミラー8cと、第1のリレーレンズ9a及び第2のリレーレンズ9bとを概略備えている。
【0026】
第1のダイクロイックミラー7aは、照明装置2からの照明光WLを赤色光LRと、その他の光(緑色光LG及び青色光LB)とに分離する。第1のダイクロイックミラー7aは、分離された赤色光LRを透過すると共に、その他の光(緑色光LG及び青色光LB)を反射する。一方、第2のダイクロイックミラー7bは、緑色光LGを反射すると共に青色光LBを透過することによって、その他の光を緑色光LGと青色光LBとに分離する。
【0027】
第1の全反射ミラー8aは、赤色光LRの光路中に配置されて、第1のダイクロイックミラー7aを透過した赤色光LRを光変調装置4Rに向けて反射する。一方、第2の全反射ミラー8b及び第3の全反射ミラー8cは、青色光LBの光路中に配置されて、第2のダイクロイックミラー7bを透過した青色光LBを光変調装置4Bに導く。緑色光LGは、第2のダイクロイックミラー7bから光変調装置4Gに向けて反射される。
【0028】
第1のリレーレンズ9a及び第2のリレーレンズ9bは、青色光LBの光路中における第2のダイクロイックミラー7bの後段に配置されている。
【0029】
光変調装置4Rは、赤色光LRを画像情報に応じて変調し、赤色光LRに対応した画像光を形成する。光変調装置4Gは、緑色光LGを画像情報に応じて変調し、緑色光LGに対応した画像光を形成する。光変調装置4Bは、青色光LBを画像情報に応じて変調し、青色光LBに対応した画像光を形成する。
【0030】
光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bには、例えば透過型の液晶パネルが用いられている。また、液晶パネルの入射側及び射出側各々には、偏光板(図示せず。)が配置されている。
【0031】
また、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bの入射側には、それぞれフィールドレンズ10R,フィールドレンズ10G,フィールドレンズ10Bが配置されている。フィールドレンズ10R,フィールドレンズ10G,フィールドレンズ10Bは、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bそれぞれに入射する赤色光LR,緑色光LG,青色光LBそれぞれを平行化する。
【0032】
合成光学系5には、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bからの画像光が入射する。合成光学系5は、各々が赤色光LR,緑色光LG,青色光LBに対応した画像光を合成し、この合成された画像光を投射光学系6に向けて射出する。合成光学系5には、例えばクロスダイクロイックプリズムが用いられている。
【0033】
投射光学系6は、投射レンズ群からなり、合成光学系5により合成された画像光をスクリーンSCRに向けて拡大投射する。これにより、スクリーンSCR上には、拡大されたカラー映像が表示される。
【0034】
(照明装置)
続いて、本発明の一実施形態に係る照明装置2について説明する。図2は照明装置2の概略構成を示す図である。図2に示すように、照明装置2は、光源装置2Aと、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33aとを備えている。本実施形態において、インテグレーター光学系31と重畳レンズ33aとは重畳光学系33を構成している。
【0035】
光源装置2Aは、アレイ光源21と、コリメーター光学系22と、アフォーカル光学系23と、第1の位相差板28aと、偏光分離素子25と、第1の集光光学系26と、波長変換素子40と、第2の位相差板28bと、第2の集光光学系29と、拡散反射素子30とを備える。
【0036】
アレイ光源21と、コリメーター光学系22と、アフォーカル光学系23と、第1の位相差板28aと、偏光分離素子25と、第2の位相差板28bと、第2の集光光学系29と、拡散反射素子30とは、光軸ax1上に順次並んで配置されている。一方、波長変換素子40と、第1の集光光学系26と、偏光分離素子25と、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33aとは、照明光軸ax2上に順次並んで配置されている。光軸ax1と照明光軸ax2とは、同一面内にあり、互いに直交する。
【0037】
アレイ光源21は、固体光源としての複数の半導体レーザー21aを備える。複数の半導体レーザー21aは光軸ax1と直交する面内において、アレイ状に並んで配置されている。
【0038】
半導体レーザー21aは、例えば青色の光線BL(例えばピーク波長が460nmのレーザー光)を射出する。アレイ光源21は、複数の光線BLからなる光線束を射出する。本実施形態において、アレイ光源21は特許請求の範囲の「光源」に相当する。
【0039】
アレイ光源21から射出された光線BLは、コリメーター光学系22に入射する。コリメーター光学系22は、アレイ光源21から射出された光線BLを平行光に変換する。コリメーター光学系22は、例えばアレイ状に並んで配置された複数のコリメーターレンズ22aから構成されている。複数のコリメーターレンズ22aは、複数の半導体レーザー21aに対応して配置されている。
【0040】
コリメーター光学系22を通過した光線BLは、アフォーカル光学系23に入射する。アフォーカル光学系23は、光線BLの光束径を調整する。アフォーカル光学系23は、例えば凸レンズ23a,凹レンズ23bから構成されている。
【0041】
アフォーカル光学系23を通過した光線BLは第1の位相差板28aに入射する。第1の位相差板28aは、例えば回転可能とされた1/2波長板である。半導体レーザー21aから射出された光線BLは直線偏光である。第1の位相差板28aの回転角度を適切に設定することにより、第1の位相差板28aを透過する光線BLを、偏光分離素子25に対するS偏光成分とP偏光成分とを所定の比率で含む光線とすることができる。第1の位相差板28aを回転させることにより、S偏光成分とP偏光成分との比率を変化させることができる。
【0042】
第1の位相差板28aを通過することで生成されたS偏光成分とP偏光成分とを含む光線BLは偏光分離素子25に入射する。偏光分離素子25は、例えば波長選択性を有する偏向ビームスプリッターから構成されている。偏光分離素子25は、光軸ax1及び照明光軸ax2に対しても45°の角度をなしている。
【0043】
偏光分離素子25は、光線BLを、偏光分離素子25に対するS偏光成分の光線BLsとP偏光成分の光線BLpとに分離する偏光分離機能を有している。具体的に、偏光分離素子25は、S偏光成分の光線BLsを反射させ、P偏光成分の光線BLpを透過させる。
【0044】
また、偏光分離素子25は光線BLとは波長帯が異なる蛍光YLを、その偏光状態にかかわらず透過させる色分離機能を有している。
【0045】
偏光分離素子25から射出されたS偏光の光線BLsは、第1の集光光学系26に入射する。第1の集光光学系26は、光線BLsを波長変換素子40に向けて集光させる。
【0046】
本実施形態において、第1の集光光学系26は、例えば第1レンズ26a及び第2レンズ26bから構成されている。第1の集光光学系26から射出された光線BLsは、波長変換素子40に集光した状態で入射する。
【0047】
波長変換素子40で生成された蛍光YLは、第1の集光光学系26で平行化された後、偏光分離素子25に入射する。蛍光YLは、偏光分離素子25を透過する。
【0048】
一方、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、第2の位相差板28bに入射する。第2の位相差板28bは、偏光分離素子25と拡散反射素子30との間の光路中に配置された1/4波長板から構成されている。したがって、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、この第2の位相差板28bによって、例えば、右回り円偏光の青色光BLc1に変換された後、第2の集光光学系29に入射する。
第2の集光光学系29は、例えば凸レンズ29aから構成され、青色光BLc1を集光させた状態で拡散反射素子30に入射させる。
【0049】
拡散反射素子30は、偏光分離素子25における蛍光体層42の反対側に配置され、第2の集光光学系29から射出された青色光BLc1を偏光分離素子25に向けて拡散反射させる。拡散反射素子30としては、青色光BLc1をランバート反射させつつ、且つ、偏光状態を乱さないものを用いることが好ましい。
【0050】
以下、拡散反射素子30によって拡散反射された光を青色光BLc2と称する。本実施形態によれば、青色光BLc1を拡散反射させることで略均一な照度分布の青色光BLc2が得られる。例えば、右回り円偏光の青色光BLc1は左回り円偏光の青色光BLc2として反射される。
【0051】
青色光BLc2は第2の集光光学系29によって平行光に変換された後に再び第2の位相差板28bに入射する。
【0052】
左回り円偏光の青色光BLc2は、第2の位相差板28bによってS偏光の青色光BLs1に変換される。S偏光の青色光BLs1は、偏光分離素子25によってインテグレーター光学系31に向けて反射される。
【0053】
これにより、青色光BLs1は、偏光分離素子25を透過した蛍光YLと共に、照明光WLとして利用される。すなわち、青色光BLs1及び蛍光YLは、偏光分離素子25から互いに同一方向に向けて射出され、青色光BLs1と蛍光(黄色光)YLとが混ざった白色の照明光WLが生成される。
【0054】
照明光WLは、インテグレーター光学系31に向けて射出される。インテグレーター光学系31は、例えば、レンズアレイ31a,レンズアレイ31bから構成されている。レンズアレイ31a,31bは、複数の小レンズがアレイ状に配列されたものからなる。
【0055】
インテグレーター光学系31を透過した照明光WLは、偏光変換素子32に入射する。偏光変換素子32は、偏光分離膜と位相差板とから構成されている。偏光変換素子32は、非偏光の蛍光YLを含む照明光WLを直線偏光に変換する。
【0056】
偏光変換素子32を透過した照明光WLは、重畳レンズ33aに入射する。重畳レンズ33aはインテグレーター光学系31と協同して、被照明領域における照明光WLによる照度の分布を均一化する。このようにして、照明装置2は照明光WLを生成する。
【0057】
(波長変換素子)
波長変換素子40は、図2に示すように、基材41及び蛍光体層42を備え、回転しない固定型の構成となっている。基材41は、第1の集光光学系26側となる上面41aと、上面41aとは反対側となる下面41bとを有している。波長変換素子40は、上面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材43と、下面41bに設けられた放熱部材44と、をさらに備える。本実施形態において、蛍光体層42は特許請求の範囲に記載の「波長変換層」に相当する。
【0058】
基材41の材料としては、熱伝導性が高く放熱性に優れた材料を用いることが好ましく、例えば、アルミニウム、銅等の金属、窒化アルミ、アルミナ、サファイア、ダイヤモンド等のセラミクスが挙げられる。本実施形態では、銅を用いて基材41を形成した。
【0059】
本実施形態において、蛍光体層42は、基材41の上面41a上に後述する接合材を介して保持される。蛍光体層42は、入射された光の一部を蛍光YLに変換して射出する。また、反射部材43は、蛍光体層42から入射した光を第1の集光光学系26に向けて反射させる。
【0060】
放熱部材44は、例えば、ヒートシンクから構成され、複数のフィンを有した構造からなる。放熱部材44は、基材41における蛍光体層42と反対側の下面41bに設けられている。なお、放熱部材44は例えば金属ろうによる接合(金属接合)によって基材41に固定される。波長変換素子40では、この放熱部材44を介して放熱できるため、蛍光体層42の熱劣化を防ぐとともに、蛍光体層42の温度上昇による変換効率の低下を抑制することができる。
【0061】
本実施形態において、反射部材43は複数の膜を積層した多層膜から構成されている。図3は波長変換素子40の要部構成を示す断面図である。具体的に、図3は反射部材43の断面を示す図である。なお、図3では放熱部材44の図示を省略した。以下、第1の集光光学系26から射出され、蛍光体層42に入射する光線BLsを励起光BLsと称す。
【0062】
図3に示すように、蛍光体層42は、励起光BLsが入射されるとともに、蛍光YLが射出される光入射面42Aと、当該光入射面42Aに対向する面、すなわち、反射部材43が設けられる底面42Bとを備える。本実施形態において、蛍光体層42は特許請求の範囲に記載の「波長変換層」に相当し、光入射面42Aは特許請求の範囲に記載の「第1面」に相当し、底面42Bは特許請求の範囲に記載の「第2面」に相当する。
【0063】
本実施形態において、蛍光体層42は、蛍光体粒子を焼成することで形成されたセラミックス蛍光体である。蛍光体層42を構成する蛍光体粒子として、Ceイオンを含んだYAG(Yttrium Aluminum Garnet)蛍光体が用いられる。このようなセラミックス蛍光体は耐熱性に優れるため、励起光の入射光量を高めることができるので、蛍光生成量を増やすことができる。
【0064】
なお、蛍光体粒子の形成材料は、1種であってもよいし、2種以上の材料を用いて形成された粒子が混合されたものが用いられてもよい。蛍光体層42として、アルミナ等の無機バインダー中に蛍光体粒子を分散させた蛍光体層、無機材料であるガラスバインダーと蛍光体粒子とを焼成することで形成された蛍光体層などが好適に用いられる。
【0065】
反射部材43は、蛍光体層42の底面42B側に設けられる。反射部材43が形成された蛍光体層42は接合材56を介して基材41に接合されている。
【0066】
本実施形態の反射部材43は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、反射層51と、保護層60と、接合補助層55とを積層して構成される。
【0067】
多層膜50は、無機酸化物を含有する層であり、蛍光体層42で生成された蛍光YLの臨界角以上の角度の光を全反射する全反射層50aと、増反射層50b、50c、50dとを含む。増反射層50b、50c、50dは、増反射効果を奏するためのものであり、蛍光YLの取り出し効率を向上させる。多層膜50は特許請求の範囲に記載の「第1層」に相当する。
【0068】
本実施形態において、全反射層50aとして、例えばSiOを用いた。SiOを用いることで蛍光YLを良好に全反射させることができる。
また、増反射層50bとしてはTiO、増反射層50cとしてはSiO、増反射層50dとしてはAlを用いた。
よって、多層膜50は、無機酸化物からなる。
【0069】
本実施形態において、反射層51は、多層膜50に対向して設けられる。反射層51は、多層膜50に当接または積層して設けられる。反射層51は、多層膜50の増反射層50dに当接または積層して設けられる。多層膜50は、蛍光体層42と反射層51との間に当接または積層して設けられる。
反射層51は、蛍光体層42で生成され、底面42B側に向かう蛍光YLの一部を光入射面42A側に向けて反射する。また、反射層51は、蛍光体層42に入射し蛍光YLに変換されずに反射部材43に入射した励起光BLsを反射して蛍光体層42内に戻す。これにより、蛍光YLを効率良く生成できる。反射層51は特許請求の範囲に記載の「第2層」に相当する。
【0070】
反射層51の材料としては、Ag(銀)またはAl(アルミニウム)を用いた。本実施形態では、より高い反射率を有するAgを反射層51の材料として用いた。
【0071】
保護層60は、反射層51を保護することで該反射層51の劣化を抑制するためのものである。本実施形態において、保護層60は、第1金属層52、無機酸化物層53および第2金属層54を含む。
【0072】
第1金属層52は反射層51に対向して設けられる。第1金属層52は反射層51に当接または積層して設けられる。反射層51は、多層膜50(増反射層50d)と第1金属層52との間に当接または積層して設けられる。第1金属層52は反射層51に密着した状態に設けられる。これにより、反射層51と保護層60との間で剥離が起こり難くなる。
【0073】
第1金属層52の材料としては、例えば、Ni、Cr、Co、Mo、Cu、Zn、Al、TiおよびFeのいずれか一つが用いられる。第1金属層52は特許請求の範囲に記載の「第3層」に相当する。
【0074】
ここで、反射層51を構成するAgは面心立方型結晶となっている。そのため、第1金属層52の材料としては、Agと同じ結晶構造を有するものを用いるのが望ましい。上述した金属材料のうちNiおよびCuは、Agと同じ結晶構造を有する。本実施形態では、第1金属層52の材料として、例えば、Niを用いた。このように第1金属層52として結晶構造が同じ材料を用いるとAg膜の結晶性を乱しにくいため、反射層51の反射率を高めることができる。
【0075】
無機酸化物層53は第1金属層52に対向して設けられる。無機酸化物層53は第1金属層52に当接または積層して設けられる。第1金属層52は、反射層51と無機酸化物層53との間に当接または積層して設けられる。無機酸化物層53は蛍光体層42側へのイオンや酸素の拡散を防止する機能を有する。無機酸化物層53の材料として、例えば、Al、SiOおよびTiOのいずれかを用いることができる。
【0076】
本実施形態では、無機酸化物層53として、Alを用いた。Alは結晶構造が緻密であるため、接合材56から発生したイオンや酸素をトラップする機能に優れる。無機酸化物層53は特許請求の範囲に記載の「第4層」に相当する。
【0077】
第2金属層54は無機酸化物層53に対向して設けられる。第2金属層54は無機酸化物層53に当接または積層して設けられる。無機酸化物層53は、第1金属層52と第2金属層54との間に当接または積層して設けられる。第2金属層54は後述のように接合材56によって生じる応力を緩和する機能を有する。第2金属層54の材料としては、例えば、Cr、Ni、Co、Mo、Cu、Zn、Al、TiおよびFeのいずれか一つが用いられる。第2金属層54は特許請求の範囲に記載の「第5層」に相当する。
【0078】
第2金属層54の材料としては、不動態被膜を作る金属を用いた。上述した金属材料のうち、例えばAl、Cr、およびTiは不動態被膜を作る。本実施形態では、第2金属層54の材料として、例えば、Crを用いた。Crの膜厚としては、例えば、100nm程度に設定される。このように第2金属層54として不動態被膜を作る金属材料を用いると、反射層51の保護性能を向上させることができる。
【0079】
接合補助層55は、接合材56による反射部材43及び基材41の接合に対する信頼性を向上させる。接合補助層55として、接合材56との親和性の良い金属材料が用いられる。すなわち、接合補助層55の材料は、接合材56に応じて選択される。接合補助層55は特許請求の範囲に記載の「第6層」に相当する。
【0080】
例えば、接合材56の材料としてナノAg粒子を用いた焼結型接合材を用いる場合、接合補助層55の材料としてAgが用いられる。
【0081】
また、接合材56の材料としてナノCu粒子を用いた焼結型接合材を用いる場合、接合補助層55の材料としてCuが用いられる。
【0082】
また、接合材56の材料としてナノAu粒子を用いた焼結型接合材を用いる場合、接合補助層55の材料としてAuが用いられる。
【0083】
また、接合材56の材料としてAuSn系半田又はSnAgCu系半田を用いる場合、接合補助層55としてNi/Pt/Auめっき層又はNi/Auめっき層が用いられる。
【0084】
接合材56および接合補助層55を上述した組み合わせとすることで、反射部材43と基材41とを良好に接合できる。
【0085】
本実施形態では、例えば、接合材56の材料としてナノAg粒子を用いた焼結型接合材を用いた。焼結型接合材は高い熱伝導性を有するため、反射部材43と基材41との熱伝導性が向上する。そのため、蛍光体層42の熱が基材41側に効率よく放出されるので、蛍光体層42の温度上昇が抑制されて、蛍光体層42の蛍光変換効率の低下を防止できる。
【0086】
図4は蛍光体層42の要部構成を示す断面図である。
図4に示すように、本実施形態において、蛍光体層42は、内部に設けられた複数の気孔42aを有している。これにより、蛍光体層42は、複数の気孔42aにより光散乱特性を有したものとなっている。
【0087】
複数の気孔42aの一部は、蛍光体層42の表面(底面42B)に形成されるため、蛍光体層42の底面42Bには気孔42aによる凹部42bが生じる。本実施形態の波長変換装置20は、凹部42bを封孔する透明部材45を有している。
【0088】
透明部材45の材料としては、透光性を有する無機材料、例えば、アルミナ、YAl12、YAlO、二酸化ジルコニア、LuAl12、SiO(ガラスペースト)や嫌気性の接着剤が用いられる。本実施形態では、透明部材45の材料として、蛍光体層42の底面22Bに形成される反射部材43と同一の材料を用いることが望ましい。
【0089】
具体的に、透明部材45の材料として、例えば、全反射層50aと同一のSiOを用いることができる。このようにすれば、透明部材45と全反射層50a(反射部材43の第1層の一部)とを同一のプロセスで形成することができる。
【0090】
上述したように反射部材43は蛍光体層42の底面42Bに複数の層を成膜することで構成される。ここで、仮に底面42Bの平坦度が低い場合、反射部材43を構成する各層を良好に成膜することが難しくなる。底面42Bに対して反射部材43を良好に成膜できないと、蛍光YLを光入射面42Aに向けて反射できず、蛍光YLの取り出し効率が低下してしまう。
【0091】
これに対し、本実施形態の波長変換素子40では、透明部材45により凹部42bを封孔することで底面42B上を略平坦化な面としている。ここで、略平坦な面とは、蒸着等によって反射部材43が底面42B上に良好に成膜できる程度の平面度を意味し、反射部材43を成膜可能な程度の凹凸については許容される。
【0092】
本実施形態において、透明部材45は全反射層50aと同一の材料から構成される。そのため、透明部材45と全反射層50a(反射部材43)とは一体に形成される。
【0093】
本実施形態の波長変換素子40は、例えば以下に示す製造方法により製造される。
まず、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び有機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成する。
【0094】
焼成によって、有機物が蒸発し、図4に示すように、複数の気孔42aを含み、蛍光体からなる蛍光体層42が形成される。なお、気孔42aの大きさ或いは数は、焼成温度や有機物の材質等で調整可能である。
【0095】
続いて、蛍光体層42の両面を研削研磨し、光入射面42Aと底面42Bとを有した蛍光体層42を形成する。研削研磨により気孔42aの一部が外部に露出し、蛍光体層42の底面42Bには凹部42bが形成される。
【0096】
続いて、底面42Bにスピンコート法によりガラスペースト(SiO)を塗布する。これにより、ガラスペーストは、凹部42bを埋め込んだ状態で底面42Bの全面に塗布される。
【0097】
そして、ガラスペーストを焼成することで、図4に示すように底面42B上に、凹部42bを封孔する透明部材45および該透明部材45と一体形成された全反射層50aが成膜される。なお、底面42B上にガラスペーストを塗布する方法はスピンコート法に限定されることはなく、ドクターブレード法を用いてもよい。
【0098】
このように透明部材45により凹部42bを封孔することで底面42B(全反射層50a)の表面を略平坦な面とすることができる。なお、ガラスペーストを焼成させる際の温度は、蛍光体粒子及び有機物からなる混合物を焼成させる際の温度よりも低い。
【0099】
続いて、全反射層50a上に蒸着やスパッタリング等によって各層を順次成膜することで反射部材43を形成する。なお、全反射層50aは上述のように略平坦面となっているため、底面42B上に反射部材43を均一に成膜することができる。
【0100】
続いて、反射部材43及び蛍光体層42の積層体と基材41とを接合材56を介して固定する。最後に、基材41における蛍光体層42と反対側の面に放熱部材44を固定することで波長変換素子40が製造される。
なお、上記製造方法においては、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び無機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成しても良いし、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子のみを所定の温度にて焼成しても良い。
【0101】
ところで、接合材56は接合時に収縮等で変形する。そのため、接合材56に接する反射部材43に応力が加わる。本実施形態の保護層60によれば、第2金属層54によって応力を緩和するので、応力による無機酸化物層53の破損を防止できる。
【0102】
また、接合材56は接合時にイオンや酸素を拡散する。このようなイオンや酸素は反射層51を酸化して劣化させるおそれがある。本実施形態によれば、上述のように無機酸化物層53の破損が防止されるので、無機酸化物層53によってイオンや酸素の拡散が安定的に防止される。よって、反射層51における、イオンや酸素の拡散による劣化、すなわち、反射率および耐久性の低下が抑制される。
【0103】
本実施形態では、接合材56として焼結型接合材(ナノAg粒子)を用いている。このような焼結型接合材は、接合時に接合補助層55との間で金属拡散および凝集を起こすが、無機酸化物層53により拡散および凝集がブロックされる。
【0104】
また、保護層60は、第1金属層52によって反射層51に密着した状態に設けられる。そのため、反射層51と保護層60との間で剥離が起こり難い。よって、反射部材43は、保護層60によって反射層51が安定的に保護されるので、耐久性に優れた信頼性の高いものとなる。
【0105】
以上説明したように、本実施形態の波長変換素子40によれば、第1金属層52によって、保護層60と反射層51とが良好に密着することで反射層51を安定的に保護できる。また、無機酸化物層53が、蛍光体層42を基材41に接合する際に接合材56から発生したイオンや酸素の拡散を捕捉することで、反射層51の劣化を抑制できる。また、第2金属層54が、接合時に接合材56によって生じる圧力を緩和して無機酸化物層53の破損を防止する。そのため、無機酸化物層53の信頼性が向上するので、反射層51がイオンや酸素の拡散で劣化することを抑制できる。
【0106】
したがって、本実施形態の波長変換素子40によれば、反射層51の劣化に伴う反射率の低下が起こり難いので、蛍光体層42で生成された蛍光YLのうち底面42B側に入射した成分を良好に反射して光入射面42Aから射出させることができる。したがって、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制した信頼性に優れた波長変換素子40を提供できる。
【0107】
また、本実施形態では、蛍光体層42の凹部42bを透明部材45で埋めることで底面42Bの全域に亘って反射部材43が均一に形成されている。そのため、蛍光体層42で生成された蛍光YLのうち底面42B側に入射した成分は反射部材43によって良好に反射されて光入射面42Aから射出される。よって、蛍光YLの取り出し効率を高くすることができる。
【0108】
また、底面42Bが略平坦面となるため、蛍光体層42と反射部材43との接触面積を増加させることができる。これにより、蛍光体層42で発生した熱は反射部材43へと効率良く伝達される。また、蛍光体層42で発生した熱は、反射部材43を介して基材41及び放熱部材44側へと伝達される。よって、蛍光体層42の放熱性が高くなる。
【0109】
このように蛍光体層42の放熱性が高くなることによって、放熱部材44を小型化できるため、波長変換素子40を小型化できる。
【0110】
また、本実施形態の波長変換素子40によれば、蛍光体層42の放熱性を高めることで、蛍光体層42の温度上昇が低減され、蛍光体層42の変換効率の低下を低減できる。
【0111】
よって、この波長変換素子40を備えた光源装置2Aは、蛍光YLの損失を低減した光源装置を提供することができる。
【0112】
また、本実施形態のプロジェクター1によれば、上記光源装置2Aを用いた照明装置2を備えるため、当該プロジェクター1は高輝度な画像を形成できる。
【0113】
(第二実施形態)
続いて、本発明の第二実施形態に係る波長変換素子について説明する。上記実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0114】
図5は本実施形態の波長変換素子140の要部構成を示す断面図である。具体的に、図5は反射部材143の断面を示す図である。
図5に示すように、波長変換素子140は、基材41の上面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材143を備えている。
【0115】
本実施形態の反射部材143は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、反射層51と、保護層160と、接合補助層55とを積層して構成される。
【0116】
保護層160は、第1金属層152、無機酸化物層53および第2金属層54を含む。
【0117】
本実施形態において、第1金属層152は、反射層51側に位置する第1の金属層152aと、無機酸化物層53側に位置する第2の金属層152bとを含む。すなわち、第1金属層152は2層構造からなる。第1の金属層152aは、反射層51に当接または積層して設けられる。また、第2の金属層152bは、無機酸化物層53に当接または積層して設けられる。本実施形態において、第1の金属層152aは特許請求の範囲に記載の「第2層側金属層」に相当し、第2の金属層152bは特許請求の範囲に記載の「第4層側金属層」に相当する。
【0118】
第1の金属層152aおよび第2の金属層152bの材料としては、例えば、Ni、Cr、Co、Mo、Cu、Zn、Al、TiおよびFeのいずれか一つが用いられる。本実施形態では、反射層51側に位置する第1の金属層152aの材料として、例えば、Niを用いた。これにより、Ag膜の結晶性を乱しにくくなるため、反射層51の反射率を高めることができる。
【0119】
本実施形態では、無機酸化物層53側に位置する第2の金属層152bの材料として、不動態被膜を作る金属を用いた。第2の金属層152bの材料として、例えばCrを用いた。なお、不動態被膜を作る他の金属であるAl、Tiを用いてもよい。
【0120】
本実施形態の第1金属層152によれば、第1の金属層152aおよび第2の金属層152bの2層構造とすることで、反射層51の反射率を高めつつ、不動態被膜による耐腐食性を備えるので、保護層160の信頼性をより向上させることができる。
【0121】
本実施形態の本実施形態の波長変換素子140によれば、より信頼性の高い保護層160によって反射層51の劣化を抑制できる。したがって、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制した高い信頼性の波長変換素子140が提供される。
【0122】
(第一変形例)
続いて、第一変形例に係る波長変換素子について説明する。本変形例は、第一実施形態の変形例であり、第一実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0123】
図6は本変形例の波長変換素子240の要部構成を示す断面図である。具体的に、図6は反射部材243の断面を示す図である。
図6に示すように、波長変換素子240は、基材41の上面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材243を備えている。
【0124】
本実施形態の反射部材243は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、反射層51と、保護層260と、接合補助層55とを積層して構成される。
【0125】
保護層260は、第1金属層52、無機酸化物層53および第2金属層154を含む。
【0126】
本実施形態において、第2金属層154は、無機酸化物層53側に位置する金属層154aと、接合補助層55側に位置する第2の金属層154bと、を含む。すなわち、第2金属層154は2層構造からなる。第1の金属層154aは、無機酸化物層53に当接または積層して設けられる。また、第2の金属層154bは、接合補助層55に当接または積層して設けられる。
【0127】
金属層154a,154bの材料としては、例えば、Ni、Cr、Co、Mo、Cu、Zn、Al、TiおよびFeのいずれか一つが用いられる。本実施形態では、無機酸化物層53側に位置する金属層154aの材料として不動態被膜を作る金属、例えばCrを用いた。なお、不動態被膜を作る他の金属であるAl、Tiを用いてもよい。また、接合補助層55側に位置する第2の金属層154bの材料として、例えば、Niを用いた。
【0128】
なお、保護層260を構成する第2金属層154は2層以上の金属層を積層して構成してもよい。この場合、無機酸化物層53に接する金属層の材料として不動態被膜を作る金属を用いるのが望ましい。
【0129】
(第二変形例)
続いて、第二変形例に係る波長変換素子について説明する。
本変形例は、上記第二実施形態に上記第一変形例の構成を組み合わせたものである。
【0130】
図7は本変形例の波長変換素子340の要部構成を示す断面図である。具体的に、図7は反射部材343の断面を示す図である。
図7に示すように、本実施形態の反射部材343は、多層膜50と、反射層51と、保護層360と、接合補助層55とを積層して構成される。本変形例において、保護層360は、第1金属層152、無機酸化物層53および第2金属層154を含む。
【0131】
本変形例の波長変換素子340においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0132】
(第三変形例)
続いて、第三変形例に係る波長変換素子について説明する。本変形例は、第一実施形態の変形例であり、第一実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0133】
図8は本変形例の波長変換素子440の要部構成を示す断面図である。具体的に、図8は反射部材443の断面を示す図である。
図8に示すように、本実施形態の反射部材443は、多層膜50と、反射層51と、保護層460と、接合補助層55とを積層して構成される。本変形例において、保護層460は、第1金属層52、無機酸化物層153および第2金属層54を含む。
【0134】
本変形例において、無機酸化物層153は、第1無機酸化物層153aと第2無機酸化物層153bとの2層構造からなる。第1無機酸化物層153aの材料として、例えば、SiOを用い、第2無機酸化物層153bの材料として、例えば、Alを用いた。第1無機酸化物層153aは、第1金属層52に当接または積層して設けられる。また、第2無機酸化物層153bは、第2金属層54に当接または積層して設けられる。
【0135】
本変形例の波長変換素子440においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
(第四変形例)
続いて、第四変形例に係る波長変換素子について説明する。本変形例は、第三変形例の別形態であり、第一実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0137】
図9は本変形例の波長変換素子540の要部構成を示す断面図である。具体的に、図9は反射部材543の断面を示す図である。
図9に示すように、本実施形態の反射部材543は、多層膜50と、反射層51と、保護層560と、接合補助層55とを積層して構成される。本変形例において、保護層560は、第1金属層52、無機酸化物層253および第2金属層54を含む。
【0138】
本変形例において、無機酸化物層253は、第1無機酸化物層253aと、金属層253bと、第2無機酸化物層253cとの三層構造からなる。すなわち、無機酸化物層253は、2つの無機酸化物層253a,253cの間に金属層253bを挟んだ構成を有している。第1無機酸化物層253aの材料として、例えば、SiOを用い、第2無機酸化物層253cの材料として、例えば、Alを用いた。また、Alと接触する金属層253bの材料としてはCrを用いた。
なお、無機酸化物層253は三層以上の構成であってもよく、少なくとも一つの無機酸化物層を含んでいればよい。
【0139】
本変形例の波長変換素子540においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0140】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されることはなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0141】
例えば、上記実施形態では本発明による光源装置をプロジェクターに搭載した例を示したが、これに限られない。本発明による光源装置は、照明器具や自動車のヘッドライト等にも適用することができる。
【0142】
(実施例)
本発明者は、実施例と比較例とを比較し、本発明の有効性について確認する実験を行った。
実施例1では、蛍光体の代わりにガラス基板を用い、ガラス基板上の一方面に反射部材を形成したものをサンプルとして用いて実験を行った。実施例1のサンプルでは、第一実施形態と同じ構成からなる反射部材をガラス基板上に形成した。なお、第2金属層を構成するCr膜の厚みが100nm程度となるように成膜した。
【0143】
また、実施例2では、第2金属層の材料をNiとする以外は実施例1と同じ構成のものをサンプルとして用いた。なお、第2金属層を構成するNi膜の厚みが100nm程度となるように成膜した。
【0144】
また、比較例では、上記実施例1、2の構成から第2金属層を省略したものをサンプルとして用いた。すなわち、比較例のサンプルでは、保護層が第1金属層および無機酸化物層のみから構成されている。
【0145】
そして、実施例1,2および比較例の各サンプルを基材に接合し、350℃の恒温槽に投入した。そして、350℃の環境下で24時間、48時間、72時間経過する毎に、反射部材(反射層)による反射率をそれぞれ測定し、0時間における反射率に対する反射率の維持率(反射率維持率)に関して、図10A乃至図10Cのグラフに結果を示した。なお、図10A図10Bおよび図10Cに示すグラフは、3つの波長(青色:465nm、緑色:530nm、赤色:615nm)の光における反射率維持率をそれぞれ示すものである。
【0146】
図10A乃至図10Cに示されるように、実施例1,2では、反射率維持率がいずれの波長においても大きく変化しないことが確認できた。
これに対し、比較例では、反射率維持率が、時間経過に応じて低下することが確認できた。特に、48時間を経過した直後から、反射率維持率が急激に低下することが確認できた。
これは、48時間を経過すると、接合材から発生したイオンや酸素の拡散によって反射層が劣化したことによる。なお、72時間を経過すると、反射層が劣化によって一部剥離することが確認できた。
【0147】
すなわち、第1金属層、無機酸化物層および第2金属層の積層構造からなる保護層を有した実施例1、2によれば、接合時におけるイオンや酸素の拡散による反射層の劣化を防止できることが確認できた。
また、第2金属層が接合時に生じる圧力を緩和して無機酸化物層の破損を防止することで、無機酸化物層の信頼性を向上させ、長時間高温化に放置した場合における反射層の劣化を防止できることが確認された。
また、第2金属層としては、TiよりもCrを用いた場合のほうが無機酸化物層の信頼性が向上することを確認できた。すなわち、第2金属層としてCrを用いれば、反射層の劣化を最も低減できることが確認できた。
【符号の説明】
【0148】
1…プロジェクター、2A…光源装置、4B,4G,4R…光変調装置、40,140,240,340,440,540…波長変換素子、41…基材、42…蛍光体層(波長変換層)、42A…光入射面(第1面)、42B…底面(第2面)、50…多層膜(第1層)、51…反射層(第2層)、52…第1金属層(第3層)、53,153…無機酸化物層(第4層)、54,154…第2金属層(第5層)、55…接合補助層(第6層)、56…接合材、152a…第1の金属層(第2層側金属層)、152b…第2の金属層(第4層側金属層)、BLs…励起光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C