特許第6981135号(P6981135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981135
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】誘導電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20211202BHJP
   H02P 21/26 20160101ALI20211202BHJP
【FI】
   H02P21/14
   H02P21/26
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-182013(P2017-182013)
(22)【出願日】2017年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-58018(P2019-58018A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】田島 宏一
【審査官】 島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−264907(JP,A)
【文献】 特開平08−149898(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0253550(US,A1)
【文献】 特開平08−126400(JP,A)
【文献】 特開平07−264900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
H02P 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスが変化する誘導電動機を制御する、誘導電動機の制御装置であって、
前記一次電流の磁束軸方向成分である磁化電流指令値および磁化電流実際値と、前記磁束軸方向成分に直交するトルク方向軸成分であるトルク電流指令値およびトルク電流実際値とが入力され、前記磁化電流指令値と前記磁化電流実際値とに基づいて磁化電圧指令値を生成するとともに、前記トルク電流指令値と前記トルク電流実際値とに基づいてトルク電圧指令値を生成する、電流調節部と、
前記電流調節部の比例ゲインの大きさを設定する比例ゲイン設定部とを備え、
前記比例ゲイン設定部は、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が大きい場合に前記比例ゲインを第1固定値に設定し、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が小さい場合に前記比例ゲインを前記第1固定値よりも大きい第2固定値に設定するように構成されている、誘導電動機の制御装置。
【請求項2】
前記比例ゲイン設定部は、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が大きい場合に前記比例ゲインを小さくし、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が小さい場合に前記比例ゲインを大きくするように構成されている、請求項1に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項3】
前記比例ゲイン設定部は、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が所定の値以上の場合に前記比例ゲインを小さくし、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が前記所定の値未満の場合に前記比例ゲインを大きくするように構成されている、請求項2に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項4】
前記比例ゲイン設定部は、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が前記所定の値以上の場合、定格負荷の場合の漏れインダクタンスに基づいて前記比例ゲインを小さくし、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が前記所定の値未満の場合、無負荷の場合の漏れインダクタンスに基づいて前記比例ゲインを大きくする、請求項3に記載の誘導電動機の制御装置。
【請求項5】
前記一次電流と前記漏れインダクタンスとが対応付けられたテーブルが記憶される記憶部をさらに備え、
前記比例ゲイン設定部は、前記記憶部に記憶された前記テーブルに基づいて、前記比例ゲインの大きさを設定するように構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の誘導電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車用や鉄道車両用の駆動システム、あるいは工作機械等を駆動するインバータ装置などの誘導電動機を駆動する制御装置に関し、特に、フィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィードバック制御を行う誘導電動機の制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、誘導電動機の可変速制御を行う制御装置が開示されている。この制御装置は、三相/二相変換器、ベクトル回転器、電流調節器、磁束調節器および速度調節器を備えている。この制御装置では、誘導電動機の一次電流は、三相/二相変換器により、固定子座標系の二相量に変換される。また、二相量に変換された一次電流は、ベクトル回転器により、磁化電流実際値とトルク電流実際値とに変換される。磁化電流実際値とトルク電流実際値とは、電流調節器に入力される。
【0004】
また、電流調節器には、磁束調節器から磁化電流指令値が入力される。また、電流調節器には、速度調節器からトルク電流指令値が入力される。そして、電流調節器は、入力された、磁化電流実際値、トルク電流実際値、磁化電流指令値およびトルク電流指令値に基づいて、一次電圧指令値の磁束軸方向成分およびトルク軸方向成分を出力する。具体的には、磁化電流実際値およびトルク電流実際値が、それぞれ、磁化電流指令値およびトルク電流指令値に一致するようにフィードバック制御が行われていると考えられる。なお、フィードバック制御では、磁化電流実際値と磁化電流指令値との偏差(トルク電流実際値とトルク電流指令値との偏差)に比例して磁化電圧指令値(トルク電圧指令値)を調節するように構成されている。すなわち、偏差に比例する比例ゲインに基づいて、磁化電圧指令値(トルク電圧指令値)が調節される。また、比例ゲインの大きさは、上記特許文献1には明確に記載されていない一方、固定されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−264900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、誘導電動機のロータのスロットが閉スロット(ステータ側が開口していないスロット)の場合、スロットを閉じているロータの部分(スロット内に配置される二次導体のステータ側に対応するロータの部分)の厚みが薄いため、磁性体(ロータ)を流れる磁束が飽和しやすくなる。このため、磁束の飽和に起因して、一次電流に対して、漏れインダクタンス(ステータ側において流れる電流が作る磁束の内、ロータ側の2次導体と交わらない磁束に対応するインダクタンス)の大きさが変化する。そして、上記の電流調節器において行われるフィードバック制御の比例ゲインは、漏れインダクタンスの大きさに比例する。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に記載のような、比例ゲインの大きさが固定されている従来の誘導電動機の制御装置において、比例ゲインが漏れインダクタンスに対して過度に大きい場合、フィードバック制御に基づいて生成された一次電流が脈動(振動)する。また、比例ゲインが漏れインダクタンスに対して過度に小さい場合、フィードバック制御における応答時間が比較的遅くなる(応答性が低くなる)。すなわち、上記特許文献1に記載のような従来の誘導電動機の制御装置では、漏れインダクタンスに起因して、適切に誘導電動機の制御を行なえない場合があるという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスが変化する場合でも、適切に誘導電動機を制御することが可能な誘導電動機の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による誘導電動機の制御装置は、一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスが変化する誘導電動機を制御する、誘導電動機の制御装置であって、一次電流の磁束軸方向成分である磁化電流指令値および磁化電流実際値と、磁束軸方向成分に直交するトルク方向軸成分であるトルク電流指令値およびトルク電流実際値とが入力され、磁化電流指令値と磁化電流実際値とに基づいて磁化電圧指令値を生成するとともに、トルク電流指令値とトルク電流実際値とに基づいてトルク電圧指令値を生成する、電流調節部と、電流調節部の比例ゲインの大きさを設定する比例ゲイン設定部とを備え、比例ゲイン設定部は、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が大きい場合に前記比例ゲインを第1固定値に設定し、前記一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が小さい場合に前記比例ゲインを前記第1固定値よりも大きい第2固定値に設定するように構成されている。
【0010】
この発明の一の局面による誘導電動機の制御装置は、上記のように、一次電流に対する漏れインダクタンスに基づいて、比例ゲインの大きさを設定する比例ゲイン設定部を備える。これにより、一次電流に対する漏れインダクタンスに基づいて、比例ゲインの大きさが比例ゲイン設定部により設定されるので、フィードバック制御の比例ゲインが漏れインダクタンスに対して過度に大きくなることや過度に小さくなることが抑制される。その結果、一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスが変化する場合でも、適切に誘導電動機を制御することができる。
【0011】
上記一の局面による誘導電動機の制御装置において、好ましくは、比例ゲイン設定部は、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が大きい場合に比例ゲインを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が小さい場合に比例ゲインを大きくするように構成されている。このように構成すれば、漏れインダクタンスの変化量が大きい場合と小さい場合との両方において、フィードバック制御の比例ゲインが漏れインダクタンスに対して過度に大きくなることや過度に小さくなることを、適切に抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、比例ゲイン設定部は、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が所定の値以上の場合に比例ゲインを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が所定の値未満の場合に比例ゲインを大きくするように構成されている。このように構成すれば、所定の値に基づいて、漏れインダクタンスの変化量が大きいか、または、小さいかを容易に判別することができる。
【0013】
上記所定の値に基づいて、比例ゲインを小さくするかまたは大きくする誘導電動機の制御装置において、好ましくは、比例ゲイン設定部は、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が所定の値以上の場合、定格負荷の場合の漏れインダクタンスに基づいて比例ゲインを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスの変化量が所定の値未満の場合、無負荷の場合の漏れインダクタンスに基づいて比例ゲインを大きくする。このように構成すれば、定格負荷の場合の漏れインダクタンスと無負荷の場合の漏れインダクタンスとの2つの値を用いて比例ゲインの大きさが設定されるので、用いられる値の数が比較的多い場合と比べて、制御装置の負荷が大きくなるのを抑制することができる。また、定格負荷の場合の漏れインダクタンスの大きさは比較的小さいので、設定される比例ゲインを容易に小さくすることができる。また、無負荷の場合の漏れインダクタンスの大きさは比較的大きいので、設定される比例ゲインを容易に大きくすることができる。
【0014】
上記一の局面による誘導電動機の制御装置において、好ましくは、一次電流と漏れインダクタンスとが対応付けられたテーブルが記憶される記憶部をさらに備え、比例ゲイン設定部は、記憶部に記憶されたテーブルに基づいて、比例ゲインの大きさを設定するように構成されている。このように構成すれば、一次電流と漏れインダクタンスとの対応を改めて測定することなく、記憶部に記憶されたテーブルに基づいて、容易に、比例ゲインの大きさを設定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記のように、漏れインダクタンスが発生する場合でも、適切に誘導電動機を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態による制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態による制御装置の電流調節器の等価ブロック図である。
図3】ロータのスロットが開スロットである誘導電動機を示す図である。
図4】ロータのスロットが開スロットである誘導電動機の、一次電流と漏れインダクタンとの関係を示す図である。
図5】ロータのスロットが閉スロットである誘導電動機を示す図である。
図6】ロータのスロットが閉スロットである誘導電動機の、一次電流と漏れインダクタンとの関係を示す図(1)である。
図7】ロータのスロットが閉スロットである誘導電動機の、一次電流と漏れインダクタンとの関係を示す図(2)である。
図8】一次電流と漏れインダクタンスとが対応付けられたテーブルを示す図である。
図9】誘導電動機の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[本実施形態]
図1図8を参照して、本実施形態による誘導電動機200の制御装置100の構成について説明する。なお、制御装置100は、一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスLσが変化する誘導電動機200を制御するように構成されている。ここで、一次電流とは、制御装置100から誘導電動機200に供給される電流である。
【0019】
(制御装置の構成)
図1に示すように、制御装置100には、スイッチング動作により直流を交流に変換して、交流電力を誘導電動機200に供給するPWMインバータ部1が設けられている。また、誘導電動機200の入力側には、PWMインバータ部1から出力される交流の電流(一次電流)を検出する電流検出器2と、PWMインバータ部1から出力される交流の電圧を検出する電圧検出器3とが設けられている。
【0020】
また、制御装置100には、三相/二相変換器4が設けられている。三相/二相変換器4は、電流検出器2により検出された一次電流を、固定子座標系の二相量(iα、iβ)に変換する。
【0021】
また、制御装置100には、ベクトル回転器5が設けられている。ベクトル回転器5は、固定子座標系の二相量iαおよびiβを、それぞれ、磁化電流実際値IM、トルク電流実際値ITに変換する。磁化電流実際値IMおよびトルク電流実際値ITは、後述する、電流調節器16および誘起電圧演算回路8に入力される。また、トルク電流実際値ITは、さらに、後述する、すべり周波数演算器12および一次角周波数演算手段9に入力される。
【0022】
また、制御装置100には、三相/二相変換器6、ベクトル回転器7、および、誘起電圧演算回路8が設けられている。電圧検出器3、三相/二相変換器6、ベクトル回転器7、および、誘起電圧演算回路8は、誘導電動機200の誘起電圧ベクトルEを検出するとともに、誘起電圧ベクトルEの成分であるEMおよびETを演算するように構成されている。
【0023】
また、制御装置100には、一次角周波数演算手段9が設けられている。一次角周波数演算手段9は、誘起電圧演算回路8から出力される誘起電圧ベクトルEの成分であるEMおよびETに基づいて、一次周波数指令ω1*を演算する。
【0024】
また、制御装置100には、積分器10が設けられている。積分器10は、一次角周波数演算手段9から入力される一次周波数指令ω1*を、位相角指令値θ*に変換する。位相角指令値θ*は、ベクトル回転器5、ベクトル回転器7、および、後述する座標変換回路17における、電圧・電流のベクトル演算に用いられる。
【0025】
また、制御装置100には、磁束演算器11が設けられている。磁束演算器11は、一次周波数指令ω1*、誘起電圧ベクトルEの成分であるET(T軸誘起電圧)、および、磁束指令値φ2*から、磁束演算値φ2を演算する。
【0026】
また、制御装置100には、すべり周波数演算器12が設けられている。すべり周波数演算器12は、トルク電流実際値ITと磁束演算値φ2とに基づいて、すべり周波数指令値ωs*を出力する。
【0027】
また、制御装置100には、加算器13が設けられている。加算器13は、一次周波数指令ω1*から、すべり周波数指令値ωs*を減算して、速度推定値ωrを出力する。
【0028】
また、制御装置100には、磁束調節器14が設けられている。磁束調節器14は、磁束指令値φ2*と磁束演算値φ2との偏差から磁化電流指令値IM*を生成する。
【0029】
また、制御装置100には、速度調節器15が設けられている。速度調節器15は、速度指令値ωr*と速度推定値ωrとの偏差からトルク電流指令値IT*を生成する。
【0030】
また、制御装置100には、電流調節器16が設けられている。電流調節器16には、一次電流の磁束軸方向成分である磁化電流指令値IM*および磁化電流実際値IMと、磁束軸方向成分に直交するトルク方向軸成分であるトルク電流指令値IT*およびトルク電流実際値ITとが入力される。また、電流調節器16は、磁化電流指令値IM*と磁化電流実際値IMとに基づいて磁化電圧指令値VM*を生成するとともに出力し、トルク電流指令値IT*とトルク電流実際値ITとに基づいてトルク電圧指令値VT*を生成するとともに出力する。そして、電流調節器16は、磁化電流指令値IM*に磁化電流実際値IMをフィードバックし、トルク電流指令値IT*にトルク電流実際値ITをフィードバックして、フィードバック制御を行うように構成されている。なお、電流調節器16の詳細な構成については、後述する。なお、電流調節器16は、特許請求の範囲の「電流調節部」の一例である。
【0031】
また、制御装置100には、座標変換回路17が設けられている。座標変換回路17は、一次電圧指令値の磁化電圧指令値VM*とトルク電圧指令値VT*とを、固定子座標系の二相量vα*およびvβ*に変換する。
【0032】
また、制御装置100には、パルス発生回路18が設けられている。パルス発生回路18は、二相量vα*およびvβ*を駆動パルスに変換してPWMインバータ部1に出力する。
【0033】
(電流調節器の詳細な構成)
図2を参照して、電流調節器16の詳細な構成について説明する。図2は、電流調節器16の等価ブロック図を示している。
【0034】
電流調節器16には、電流指令値(磁化電流指令値IM*、トルク電流指令値IT*)と電流実際値(磁化電流実際値IM、トルク電流実際値IT)とが入力される。また、減算器16aにより、電流指令値から、電流実際値が減算される。電流指令値から電流実際値を減算した値(偏差)は、PI調節器16bに入力される。PI調節器16bでは、比例ゲインKpを用いて、入力された偏差から、操作量(電圧)が算出される。比例ゲインKpとは、偏差に対する操作量の比率(操作量/偏差)を意味する。そして、PI調節器16bにより算出された操作量(電圧)に基づいて、モータモデル16cから、電流(電流実際値)が出力される。このモータモデル16cは、図1のパルス発生回路18、PWMインバータ部1、誘導電動機200を伝達関数で表現したものであり、誘導電動機200に流れた電流を電流検出器2、三相/二相変換器4、ベクトル回転器5を介して得られる磁化電流実際値IM、トルク電流実際値ITに変換し、出力する。すなわち、モータモデル16cは、PI調節器16bにより算出された操作量に基づくPWMインバータ部1の出力電圧と誘導電動機200に流れる電流の関係を近似的に表現することができる。このモータモデル16cの伝達関数は、漏れインダクタンスLσの逆数に比例(=1/(sLσ))する。なお、「s」は、ラプラス変換における複素数領域を意味する。すなわち、電流調節器16では、電流指令値と電流実際値とに基づいて、フィードバック制御が行われる。
【0035】
ここで、電流調節器16の比例ゲインKpの適正値は、下記の式に示すように、漏れインダクタンスLσに比例した値である。これは、モータモデル16cが、漏れインダクタンスLσの逆数に比例(=1/(sLσ))するためである。
【数1】
ここで、Kは、比例定数(一定値)であり、モータ制御系の遅延時間や、ディジタル制御の演算周期によって決まる値である。たとえば、モータ制御系の遅延時間が大きい場合、Kは、小さくなる。また、ディジタル制御の演算周期が短い場合、Kは、大きくなる。
【0036】
また、図3に示すように、誘導電動機210において、ロータ211のスロッ212が開スロット(ステータ側が開口しているスロット212)の場合、ロータ211(磁性体)が、二次導体213を塞いでいないので、磁気飽和がない。このため、図4に示すように、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化は小さい。
【0037】
一方、図5に示すように、誘導電動機200のロータ201のスロット202が閉ロット(ステータ側が開口していないスロット202)の場合、スロット202を閉じているロータ201の部分202a(スロット202内に配置される二次導体203のステータ側に対応するロータ201の部分202a)の厚みが薄いため、磁性体(ロータ201)を流れる磁束が飽和しやすくなる。このため、図6に示すように、一次電流に対して、漏れインダクタンスLσ(ステータ側において流れる電流が作る磁束の内、ロータ201側の二次導体203と交わらない磁束に対応するインダクタンス)の大きさが変化する。具体的には、一次電流が大きいほど、漏れインダクタンスLσは、小さくなる。
【0038】
そして、比例ゲインKpが漏れインダクタンスLσに対して大きすぎると、一次電流が振動する。たとえば、図6に示すように、一次電流が小さい場合の漏れインダクタンスLσ(大)と、一次電流が大きい場合の漏れインダクタンスLσ(小)との差(変化量ΔLσ)が比較的大きい誘導電動機200において、一次電流が小さい場合の漏れインダクタンスLσ(大)を用いて、上記の式に基づいて比例ゲインKp(=K×Lσ(大))を設定する。この場合、一次電流が大きいポイントでは、実際の漏れインダクタンスLσが、Lσ(小)であるので、比例ゲインKpが過大になる。このため、一次電流の振動などが発生する。
【0039】
また、比例ゲインKpが漏れインダクタンスLσに対して小さすぎると、応答が遅くなってしまう。比例ゲインKpが小さいということは、偏差に対して操作量が小さいということであるので、応答が遅くなる。
【0040】
そこで、本実施形態では、図1に示すように、制御装置100は、電流調節器16のフィードバック制御の比例ゲインKpの大きさを設定する比例ゲイン設定部19を備えている。そして、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσに基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定するように構成されている。具体的には、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが大きい場合に比例ゲインKpを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが小さい場合に比例ゲインKpを大きくするように構成されている。
【0041】
つまり、図6に示すように、一次電流が小さい場合の漏れインダクタンスLσ(大)と、一次電流が大きい場合の漏れインダクタンスLσ(小)との差(変化量ΔLσ)が大きい場合、比例ゲインKpは、一次電流が大きい場合の漏れインダクタンスLσ(小)を用いて設定される(Kp=K×Lσ(小))。これにより、一次電流が大きい場合でも、一次電流の振動が抑制される。
【0042】
また、図7に示すように、一次電流が小さい場合の漏れインダクタンスLσ(大)と、一次電流が大きい場合の漏れインダクタンスLσ(小)との変化量ΔLσが小さい場合、比例ゲインKpは、一次電流が小さい場合の漏れインダクタンスLσ(大)を用いて設定される(Kp=K×Lσ(大))。すなわち、変化量ΔLσが小さい場合、比例ゲインKpを、Lσ(大)を用いて大きくなるように設定しても、一次電流が大きい場合においても一次電流が振動しないと考えられるので、比例ゲインKpがLσ(大)を用いて設定される。これにより、応答が速くなる(応答性が高くなる)。
【0043】
また、本実施形態では、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合に比例ゲインKpを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合に比例ゲインKpを大きくするように構成されている。たとえば、所定の値は、Lσ(小)の10%の大きさの値である。
【0044】
また、本実施形態では、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合、定格負荷の場合の漏れインダクタンスLσ(小)に基づいて比例ゲインKpを小さくする。誘導電動機200を定格負荷により駆動させる場合、比較的大きい一次電流が流れるので、漏れインダクタンスLσは、小さくなる。比例ゲイン設定部19は、この漏れインダクタンスLσ(小)を用いて、比較的小さい比例ゲインKpを設定する。また、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合、無負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを大きくする。誘導電動機200を無負荷により駆動させる場合、比較的小さい一次電流が流れるので、漏れインダクタンスLσは、大きくなる。比例ゲイン設定部19は、この漏れインダクタンスLσ(大)を用いて、比較的大きい比例ゲインKpを設定する。
【0045】
また、本実施形態では、図1に示すように、制御装置100は、一次電流と漏れインダクタンスLσとが対応付けられたテーブル20が記憶される記憶部21を備えている。具体的には、図8に示すように、記憶部21には、一次電流(大、小)と、漏れインダクタンスLσ(Lσ(小)、Lσ(大))とが対応付けられたテーブル20が記憶されている。そして、比例ゲイン設定部19は、記憶部21に記憶されたテーブル20に基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定するように構成されている。
【0046】
具体的には、制御装置100には、誘導電動機200のモータ定数(たとえば、図9に示す一次抵抗r1、二次抵抗r2、漏れインダクタンスLσなど)を測定する機能(モード)が予め備えられている。なお、図9のLMは、励磁インダクタンス、sは、すべり(負荷をかけた場合の実際の回転速度と同期速度とのずれ)を表している。そして、誘導電動機200を制御装置100に最初に接続した際に、このモータ定数を測定する機能(モード)により、誘導電動機200の漏れインダクタンスLσを測定する。この時、一次電流の大きさ|i1|を、小さい値から大きい値に変化させる。これにより、各々の電流値における漏れインダクタンスLσが測定される。この測定された結果が、一次電流と漏れインダクタンスLσとが対応付けられて、テーブル20として記憶部21に記憶される。たとえば、図8に示すように、無負荷時の一次電流および漏れインダクタンスLσ(大)と、定格負荷時の一次電流および漏れインダクタンスLσ(小)とが記憶される。なお、誘導電動機200のモータ定数を測定する機能は、予め制御装置100に備えられているので、漏れインダクタンスLσを測定するための機能を別途設けることなく、比例ゲインKpの大きさを設定することが可能になる。
【0047】
そして、実際に、制御装置100により誘導電動機200の制御が開始された際、比例ゲイン設定部19は、記憶部21に記憶されたテーブル20を参照し、漏れインダクタンスLσ(大)と漏れインダクタンスLσ(小)との差(変化量ΔLσ)に基づいて、比例ゲインKpを大きい値(=K×Lσ(大))か、小さい値(=K×Lσ(小))かのいずれかに設定する。すなわち、実際に制御装置100により誘導電動機200の制御が行われている最中は、比例ゲインKpの大きさは変わらない。これにより、誘導電動機200の制御の最中に比例ゲインKpの大きさが変化する場合に比べて、誘導電動機200の制御を容易に行うことが可能になる。
【0048】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0049】
本実施形態では、上記のように、一次電流に対する漏れインダクタンスLσに基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定する比例ゲイン設定部19を備える。これにより、一次電流に対する漏れインダクタンスLσに基づいて、比例ゲインKpの大きさが比例ゲイン設定部19により設定されるので、フィードバック制御の比例ゲインKpが漏れインダクタンスLσに対して過度に大きくなることや過度に小さくなることが抑制される。その結果、一次電流の変化に伴って漏れインダクタンスLσが変化する場合でも、適切に誘導電動機200を制御することができる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが大きい場合に比例ゲインKpを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが小さい場合に比例ゲインKpを大きくするように構成されている。これにより、漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが大きい場合と小さい場合との両方において、フィードバック制御の比例ゲインKpが漏れインダクタンスLσに対して過度に大きくなることや過度に小さくなることを、適切に抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合に比例ゲインKpを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合に比例ゲインKpを大きくするように構成されている。これにより、所定の値に基づいて、漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが大きいか、または、小さいかを容易に判別することができる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、比例ゲイン設定部19は、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合、定格負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを小さくし、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合、無負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを大きくする。これにより、定格負荷の場合の漏れインダクタンスLσと無負荷の場合の漏れインダクタンスLσとの2つの値を用いて比例ゲインKpの大きさが設定されるので、用いられる値の数が比較的多い場合と比べて、制御装置100の負荷が大きくなるのを抑制することができる。また、定格負荷の場合の漏れインダクタンスLσの大きさは比較的小さいので、設定される比例ゲインKpを容易に小さくすることができる。また、無負荷の場合の漏れインダクタンスLσの大きさは比較的大きいので、設定される比例ゲインKpを容易に大きくすることができる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、一次電流と漏れインダクタンスLσとが対応付けられたテーブル20が記憶される記憶部21をさらに備え、比例ゲイン設定部19は、記憶部21に記憶されたテーブル20に基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定するように構成されている。これにより、一次電流と漏れインダクタンスLσとの対応を改めて測定することなく、記憶部21に記憶されたテーブル20に基づいて、容易に、比例ゲインKpの大きさを設定することができる。
【0054】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0055】
たとえば、上記実施形態では、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合、定格負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを小さくする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値以上の場合、定格負荷以外の負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを小さくしてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合、無負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを大きくする例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、一次電流に対する漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσが所定の値未満の場合、無負荷以外の負荷の場合の漏れインダクタンスLσに基づいて比例ゲインKpを大きくしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσに応じて、比例ゲインKpを小さくするか、または、大きくするかのいずれか(2つの値のいずれか)に設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、漏れインダクタンスLσの変化量ΔLσに応じて、比例ゲインKpを3つ以上の値のいずれかに設定してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、誘導電動機200のモータ定数を測定する機能(モード)において測定された一次電流と漏れインダクタンスLσとに基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、誘導電動機200のモータ定数を測定する機能(モード)以外の方法により測定された一次電流と漏れインダクタンスLσとに基づいて、比例ゲインKpの大きさを設定してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、制御装置100により誘導電動機200の制御が行われている最中は、比例ゲインKpの大きさが変わらない例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御装置100により誘導電動機200の制御を行っている最中に比例ゲインKpの大きさを変化させてもよい。
【符号の説明】
【0060】
16 電流調節器(電流調節部)
19 比例ゲイン設定部
20 テーブル
21 記憶部
100 制御装置
200 誘導電動機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9