(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件を実施するための形態を説明する。本実施形態で述べる軽失禁用シートは、少量の排泄水分、具体的には2〜10cc程度の尿漏れを対象としたシートであって、外装体に取り付けて用いられる。外装体は、下着、ホルダーパンツ、おむつカバー、パンツ型のおむつ、展開型のおむつ、その他の軽失禁用シートを取り付けて使用するものを含む。
以下の実施形態では、外装体として下着を例示し、下着に取り付けられる軽失禁用シートについて説明する。
【0011】
本実施形態では、外装体について、着用者の腹部に対向して配置される前身頃と背部に対向して配置される後身頃とを結ぶ方向を長手方向とする。これらの前身頃と後身頃との間(長手方向の中央)には、着用者の股下に配置(股間に対向して配置)される股下部が位置する。
また、軽失禁用シートが取り付けられた外装体が着用された状態(以下「着用状態」と略称する)において、着用者の肌に向かう側(内側)を肌面側とし、肌面側の反対側(外側)を非肌面側とする。さらに、肌面側と非肌面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向の何れにも直交する方向を幅方向とする。そのほか、厚み方向から視ることを平面視とする。
【0012】
外装体における各構成の向きについては、例えば長手方向に沿うと表現する場合に、長手方向と平行なことだけでなく、ほぼ長手方向と平行なことも含むものとする。具体的には、長手方向に対する傾斜角度が30°未満で延在することを長手方向に沿うものとする。同様に、幅方向や厚み方向といった各方向に沿うと表現する場合についても、各方向に対する傾斜角度が30°未満で延在することを意味する。なお、本明細書において、例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
また、軽失禁用シートについても、長手方向、厚み方向および幅方向等の用語の定義はこれに倣うものとする。
【0013】
[I.一実施形態]
[1.軽失禁用シート]
図1及び
図2に示すように、下着20は、幅方向Wの中心線CLを基準として対称に構成されている。この下着20は、長手方向Lに沿って前身頃20A、股下部20B及び後身頃20Cの三つの領域に大別される。軽失禁用シート10は、下着20に対して着用者の肌面側に配置され、軽失禁用シート10の表面が着用者に対向する。また、軽失禁用シート10は、そのシート本体10Aが着用者によって下着20の股下部20B付近に貼合(固定)される。
【0014】
図3及び
図4に示すように、軽失禁用シート10のシート本体10Aの表面には、第一凸部10a及び第二凸部10bが形成される。第一凸部10aは一方向に沿って延在し、軽失禁用シート10の厚み方向の肌面側に突出している。また、第二凸部10bは隣接する第一凸部10a同士の間に位置し、第一凸部10aと同様に一方向に沿って延在し、軽失禁用シート10の厚み方向の肌面側に突出している。そして、
図4に示すように、第一凸部10aの突出寸法H1は、第二凸部10bの突出寸法H2よりも大きい。なお、以下において、「シート本体10A」を「軽失禁用シート10」と記載することがある。
【0015】
言い換えれば、軽失禁用シート10の表面には、隣接する第一凸部10a同士により区切られた複数の第一溝10dが形成されている。また、軽失禁用シート10の表面には、隣接する第二凸部10b同士、又は、隣接する第一凸部10aと第二凸部10bとにより区切られた複数の第二溝10eが形成されている。そして、
図3及び
図4に示すように、第一溝10dと第二溝10eとを含む溝状構造は、一方向に沿って延在し、且つ、当該一方向及び厚み方向に直交する方向に繰り返されて、軽失禁用シート10の表面全域にわたって並設されている。
なお、溝状構造は一方向に延在していれば、平面視において直線状であっても曲線状であってもよい。
【0016】
上述のように構成された軽失禁用シート10の表面に少量の排泄水分が接触すると、排泄水分は溝状構造に沿って濡れ広がる。排泄水分は第一凸部10aを乗り越え、隣接する溝状構造にも濡れ広がり、並設された溝状構造に沿ってさらに濡れ広がる。軽失禁用シート10と肌面との間には、複数の第一凸部10aと複数の第二凸部10bにより構成される溝状構造によって、空隙が形成されるため通気性に優れる。したがって、少量の排泄水分であれば、軽失禁用シート10上で排泄水分を拡散し揮発させて、排泄水分の下着20への漏出を防止できる。その結果、着用者の快適性が低下することを抑えることができる。
また、上述のように構成された軽失禁用シート10は、従来の積層体からなるパッドと比較して厚み寸法を小さくすることができる。したがって、着用者に対する軽失禁用シート10のフィット性に優れる。
【0017】
また、
図4に示すように、第一凸部10aの突出寸法H1は、第二凸部10bの突出寸法H2よりも大きければ特に限定されない。例えば、第一凸部10aの突出寸法H1は30〜150μmである。また、第二凸部10bの突出寸法H2は10〜50μmである。なお、複数形成される第一凸部10aの突出寸法H1は同じであっても、互いに異なっていてもよい。また、複数形成される第二凸部10bの突出寸法H2は同じであっても、互いに異なっていてもよい。
軽失禁用シート10の厚み寸法H3は特に限定されない。着用者のフィット性を向上させる観点からは、通常160μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下である。一方、軽失禁用シート10の耐久性を向上させる観点からは、通常35μm以上、好ましくは40μm以上である。
さらに、
図4に示すように、第一凸部10aの幅寸法W1、第二凸部10bの幅寸法W2、第一溝10dの幅寸法W3、及び、第二溝10eの幅寸法W4は特に限定されない。例えば、W1は10〜50μmであり、W2は10〜50μmであり、W3は150〜300μmであり、W4は10〜50μmである。なお、並設される第一凸部10aの幅寸法W1は同じであっても、互いに異なっていてもよい。幅寸法W2、W3、及びW4も同様である。
【0018】
上記のような構成を有する軽失禁用シート10では、第一凸部10a及び第二凸部10bが延在する方向(溝状構造の方向)について特に制限はないが、以下に示す態様が好ましい。
【0019】
軽失禁用シート10は、
図1及び
図2に示すように、第一凸部10a及び第二凸部10bの延在する方向が、下着20及び軽失禁用シート10の長手方向Lに沿った態様が好ましい。具体的には、第一凸部10aが延在する一方向は長手方向Lに一致しており、第二凸部10bの延在する方向も長手方向Lに一致している。
【0020】
排泄水分は様々な方向に濡れ広がる。そこで、第一凸部10a及び第二凸部10bを長手方向Lに沿って延在させると、主な排泄水分の濡れ広がりを長手方向Lに誘導できるため、拡散範囲を確保することができ、軽失禁用シート10上での排泄水分の拡散性に優れる。軽失禁用シート10は、長手方向Lに沿って延在する溝状構造により形成された空隙により、通気性に優れるため、排泄水分を容易に揮発させることができる。
また、軽失禁用シート10は、着用者の姿勢によっては、前身頃1Aや後身頃1Cに対応する部分が垂直方向上方(重力方向上方)等に向けて屈曲されうる。このような場合であっても、上記構成の軽失禁用シート10によれば、高さ寸法の異なる複数の凸部30a,30bに起因した毛細管現象により、溝状構造に沿って排泄水分を垂直方向上方(重力方向上方)等にも吸い上げ、拡散することができる。
したがって、このような軽失禁用シート10によれば、着用者の姿勢に関わらず、排泄水分の拡散性及び揮発性に優れるため、着用者の快適性が維持される。
【0021】
なお、軽失禁用シート10の原反(例えば、裁断等の後加工をする前の状態のもの)の長手方向と、下着20の長手方向Lとは異なっていてもよい。
【0022】
また、
図3及び
図5に示すように、軽失禁用シート10は、第一凸部10a及び第二凸部10bが延在する方向の両端に堰状部10cを有することが好ましい。堰状部10cにより、軽失禁用シート10の端部における凸部間の空隙が閉じられ、長手方向両端部において排泄水分が堰き止められるため、下着20への排泄水分の漏出を抑制できる。
【0023】
堰状部10cの形成方法は特に限定されない。例えば、軽失禁用シート10の製造時において、端部を切断する際の切断刃の応力によりフィルムを変形させて堰状部10cを形成する方法が挙げられる。また、切断の際に熱をかけ、軽失禁用シート10の端部を溶かして堰状部10cを形成することもできる。
【0024】
また、熱・超音波等により凸部を溶解し、軽失禁用シート10の両端以外の凸部間に堰状部を設けてもよい。さらに、予め堰状部が形成されるように第一凸部10a及び第二凸部10bを形成してもよい。軽失禁用シート10が両端以外の凸部間に堰状部を備えると、排泄水分が溝状構造に沿って濡れ広がりにくくなり、排泄水分は第一凸部10aを乗り越え、幅方向Wに濡れ広がる。したがって、堰状部の配置によって、長手方向L及び幅方向Wにバランスよく排泄水分を分散させることが可能になる。
【0025】
軽失禁用シート10は、排泄水分をすぐに透過させずに、その表面において排泄水分をある程度濡れ広がらせることができる材料(以下、液不透過性材料という)によって構成されるフィルム状の部材であり、好ましくは単層のフィルムである。軽失禁用シート10の構成を単層のフィルムとすることで、厚み寸法を小さくすることができ、その結果、着用者のフィット性がより向上する。特に、積層構造を有する従来の吸収パッドと比較して厚み寸法が小さくなるため、従来の吸収パッドと比較して着用者のフィット性に優れる。
液不透過性材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。したがって、軽失禁用シート10は、液不透過性を有する。
【0026】
なお、軽失禁用シート10の製造方法は特に限定されない。例えば、ナノインプリント法等の従来公知の手法により、液不透過性材料からならフィルムの表面に第一凸部10a及び第二凸部10bを形成して軽失禁用シート10を得る方法が挙げられる。
【0027】
本実施形態の軽失禁用シート10は、着用者のフィット性を阻害しない範囲において、軽失禁用シート10の肌面側にトップシートを配置してもよい。また、軽失禁用シート10の非肌面側には、下着20に貼合(固定)するための固定用接着部を設けることができる。
【0028】
〔トップシート〕
下着20に対して、軽失禁用シート10よりも肌面側にはトップシートが積層される。トップシートは最も肌面側に配置されるシート状の部材である。このトップシートは、軽失禁用シート10よりも幅方向寸法が大きく、軽失禁用シート10を肌面側から被覆する。また、トップシートは、下着20を着用した状態において、着用者の肌に接触して、排泄水分を透過させ、排泄水分を軽失禁用シート10に到達させる。このため、トップシートは少なくとも一部又は全部が透水性をもつ材料で構成される。また、トップシートは、着用時のフィット性のため、柔軟性が高い材料で構成されることが好ましい。また、着用状態での蒸れを抑えるため、通気性を併せもつ材料で構成されることが好ましい。
【0029】
トップシートを構成する材料としては、例えば、織布、不織布、多孔性フィルム等を用いることができる。また、トップシートとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の熱可塑性樹脂の繊維に親水化処理を施して、不織布にしたものを用いてもよい。トップシートを構成する不織布としては、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、SMS(Spunbound Meltblown Spunbound)不織布等を用いることができる。
軽失禁用シート10とトップシートとは、ホットメルト接着剤等の公知の接着剤によって、第一溝10d及び第二溝10eを潰さないように、全面又は一部が貼合(固定)される。
【0030】
〔固定用接着部〕
固定用接着部は、軽失禁用シート10の非肌面側に設けられる。固定用接着部は、下着20に軽失禁用シート10を着脱可能に接着させて固定するためのものである。このような接着部を配置することによって、着用後、軽失禁用シート10の位置がズレてしまうことを防止することができる。固定用接着部としては、両面粘着テープ、メカニカルファスナー等を挙げることができる。
固定用接着部の大きさや配置する位置については、軽失禁用シート10を下着20の肌面側に固定することができ、軽失禁用シート10の位置ズレを防止することができる程度の結合力が得られるものであれば特に制限はない。
【0031】
また、このような固定用接着部は、固定用接着部の表面を被覆するように配置された接着部保護テープを更に備えてもよい。このように構成することによって、使用前の状態の固定用接着部が、不要な箇所に接着してしまうことを有効に防止することができる。接着部保護テープは、固定用接着部に対して剥離可能な材質のテープによって形成することができる。
接着部保護テープの材質については特に制限はなく、固定用接着部の種類に応じて適宜選択することができ、固定用接着部に対して剥離可能に接着されるものであればよい。
【0032】
[2.作用及び効果]
本実施形態の軽失禁用シート10は、上述したように構成されるため、下記の作用及び効果を得ることができる。
【0033】
軽失禁用シート10と肌面との間には、複数の第一凸部10aと複数の第二凸部10bにより構成される溝状構造によって、空隙が形成されるため通気性に優れる。したがって、少量の排泄水分であれば、軽失禁用シート10上で排泄水分を拡散し揮発させて、排泄水分の下着20への漏出を防止できる。その結果、着用者の快適性が低下することを抑えることができる。
また、軽失禁用シート10は厚み寸法を小さくすることができるため、着用者に対する軽失禁用シート10のフィット性に優れる。
【0034】
[II.その他]
上述した実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
【0035】
例えば、下着20への排泄水分の漏出をより確実に防止するために、軽失禁用シート10の周縁部に吸収体を配置してもよい。吸収体は、排泄水分を吸収して保持する吸水性を備える。吸収体は、一般にマット状の部材であるが、軽失禁用シート10の周縁部に配置する場合には吸収体を窓枠状にしてもよい。吸収体には、粉砕あるいは解繊されたパルプに高吸水性樹脂が混合された吸収マットがラップシートで被包(ラップ)されている。また、軽失禁用シート10と吸収体とをトップシートにより被覆してもよい。
【0036】
また、シート10の表面において一方向に延在する凸部10a,10b(一方向に延在する溝状構造)を、複数方向に延在させる構成としてもよい。つまり、このシートでは、溝状構造の少なくとも一部が長手方向Lに対して所定の角度(例えば、30〜90°)を有する。このようなシートによれば、排泄水分を所定方向に誘導することができる。
さらに、軽失禁用シート10として、液不透過性のシート本体を有し、シート本体が少なくとも一方の面に溝を備えたシートを用いてもよい。このようなシートとしては、例えば、一方向に延在し厚み方向Tの肌面側に突出する第一凸部10aを表面に有し、第二凸部10bを有さないシートが挙げられる。
【0037】
なお、軽失禁用シート10と同様に、他のシート(例えばトップシート)にも「シート本体」という概念が含まれることを念のために付言する。