(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の分布型増幅器は、入力側伝送線路と出力側伝送線路との間に複数のトランジスタが挟まれた構成を有する。伝送線路のもつインダクタンスとトランジスタのもつ寄生容量を整合させることにより、広帯域にわたり一定の増幅利得をもつ特性を得ることが期待できる。
【0006】
しかしながら、従来の分布型増幅器では、各トランジスタで増幅された信号は、出力側伝送線路において出力端子に向かう側と終端抵抗に向かう側とに分かれてしまう。そのため、各トランジスタの増幅出力のうち半分のみを出力端子から取り出すこととなり、増幅利得が低くなる。
【0007】
そこで、本開示では、増幅利得を向上させた増幅器、及び当該増幅器を備える送信機が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様では、
直列に接続される複数の入力側伝送線路と、
前記複数の入力側伝送線路の終端に直列に接続される終端抵抗と、
前記複数の入力側伝送線路の夫々の間にある複数の接続点のうち、対応する一の接続点にゲートが接続される複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタの夫々のドレインのうち、対応する一のドレインに一端が接続される複数の出力側伝送線路とを備え、
前記複数のトランジスタの夫々のソースは、グランドに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路の夫々の他端は、共通の出力ノードに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路のうち1段目の出力側伝送線路は、前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、
前記複数の入力側伝送線路に入力される高周波信号の波長に対する(1/4)波長よりも長い線路長を有し、
前記複数の出力側伝送線路のうち2段目以降のk段目の出力側伝送線路は、
前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長から、前記複数の入力側伝送線路のうちk段目の入力側伝送線路の線路長を減算した線路長を有
し、
(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長は、k段目の入力側伝送線路の線路長よりも長い、増幅器が提供される。
【0009】
また、本開示の他の一態様では、
増幅器と、前記増幅器の出力ノードに接続されるアンテナとを備え、
前記増幅器は、
直列に接続される複数の入力側伝送線路と、
前記複数の入力側伝送線路の終端に直列に接続される終端抵抗と、
前記複数の入力側伝送線路の夫々の間にある複数の接続点のうち、対応する一の接続点にゲートが接続される複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタの夫々のドレインのうち、対応する一のドレインに一端が接続される複数の出力側伝送線路とを備え、
前記複数のトランジスタの夫々のソースは、グランドに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路の夫々の他端は、前記出力ノードに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路のうち1段目の出力側伝送線路は、前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、
前記複数の入力側伝送線路に入力される高周波信号の波長に対する(1/4)波長よりも長い線路長を有し、
前記複数の出力側伝送線路のうち2段目以降のk段目の出力側伝送線路は、
前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長から、前記複数の入力側伝送線路のうちk段目の入力側伝送線路の線路長を減算した線路長を有
し、
(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長は、k段目の入力側伝送線路の線路長よりも長い、送信機が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、増幅利得を向上させた増幅器、及び当該増幅器を備える送信機の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態における送信機の構成の一例を示す図である。送信機100は、例えば、電波を送受する無線通信装置、レーダーなどのセンサ装置、マイクロ波を送信して物体を加熱するマイクロ波加熱装置として使用することができる。
【0014】
送信機100は、例えば、ベースバンド回路1、ミキサ2、局部発振器3、パワーアンプ4及びアンテナ5を備える。ベースバンド回路1から変調処理されて出力されるベースバンド信号あるいは中間周波数信号は、ミキサ2及び局部発振器3により送信周波数帯にアップコンバートされ、パワーアンプ4により増幅される。パワーアンプ4により増幅された後の信号は、パワーアンプ4の出力ノードに接続されるアンテナ5から送信される。ミキサ2は、ベースバンド回路1からのベースバンド信号あるいは中間周波数信号を、局部発振器3から出力される局部発振信号とミキシングし、ミキシング後の信号をパワーアンプ4の入力端子に供給する。本実施形態における増幅器は、パワーアンプ4として使用することができる。
【0015】
図2は、本実施形態における増幅器の第1の構成例を示す図である。増幅器11は、入力端子51、複数の入力側伝送線路21〜24、終端抵抗13、複数のトランジスタ31〜33、複数の出力側伝送線路41〜43及び出力ノード52を備える。以下、入力側伝送線路を「入力線路」、出力側伝送線路を「出力線路」とも称する。
【0016】
入力端子51には、例えば、マイクロ波信号の電力が入力される。4個の入力線路21〜24は、直列に接続されている。入力端子51には、1段目の入力線路21の一端が接続されている。終端抵抗13は、入力線路21〜24の終端に直列に接続されている。終端抵抗13の一端は、最終段目(本実施形態では、4段目)の入力線路24の終端側に接続され、終端抵抗13の他端は、グランドに接続されている。
【0017】
複数のトランジスタ31〜33は、夫々、ゲート(G)、ソース(S)、ドレイン(D)を有する。トランジスタ31〜33は、例えば、FET(Field Effect Transistor)である。
【0018】
複数の入力線路21〜24の夫々の間には、複数の接続点61〜63がある。複数のトランジスタ31〜33の夫々のゲートは、複数の接続点61〜63のうち、対応する一の接続点に接続されている。1段目のトランジスタ31のゲートは、1段目の入力線路21と2段目の入力線路22との間の接続点61に接続されている。2段目のトランジスタ32のゲートは、2段目の入力線路22と3段目の入力線路23との間の接続点62に接続されている。3段目のトランジスタ32のゲートは、3段目の入力線路23と4段目の入力線路24との間の接続点63に接続されている。複数のトランジスタ31〜33の夫々のソースは、グランドに接続されている。なお、ゲートと接続点との間にキャパシタが直列に挿入されていてもよい。
【0019】
複数のトランジスタ31〜33の夫々のドレインは、複数の出力線路41〜43のうち、対応する一の出力線路の一端に接続されている。1段目のトランジスタ31のドレインは、1段目の出力線路41の一端に接続されている。2段目のトランジスタ32のドレインは、2段目の出力線路42の一端に接続されている。3段目のトランジスタ33のドレインは、3段目の出力線路43の一端に接続されている。複数の出力線路41〜43のそれぞれの他端は、共通の出力ノード52に接続されている。
【0020】
1段目の出力線路41は、出力ノード52から見た反射係数Γ
Aの位相が0°になるように、(1/4)波長よりも長い線路長lを有する。ここで、(1/4)波長とは、入力端子51から入力線路21〜24に入力される高周波信号の波長λの4分の1の長さ(=λ/4)を表す。
【0021】
2段目以降のk段目の出力線路は、入力線路による位相回りを補償するように、(k−1)段目の出力線路の線路長から、直列に接続されたn個の入力線路のうちk段目の入力線路の線路長を減算した線路長を有する。kは、2以上n以下の整数である。nは、直列に接続される入力側伝送線路の直列数を表す(
図2の場合、n=4)。
【0022】
複数の出力線路の夫々の線路長が上記のように設定されることによって、複数の出力線路のうち一の出力線路から見た残りの出力線路のインピーダンスを高くすることができる。本実施形態であれば、出力線路41から見た出力線路42,43のインピーダンス、出力線路42から見た出力線路43,41のインピーダンス、出力線路43から見た出力線路41,42のインピーダンスを高くすることができる。
【0023】
したがって、(n−1)個の出力線路のうち一の出力線路から見た残りの出力線路のインピーダンスが高くなるので、(n−1)個のトランジスタの夫々で増幅された信号電力を、(n−1)個の出力線路が共通に接続される出力ノードに導く度合いが高まる。つまり、増幅器の増幅利得を向上させることができる。
【0024】
図2の場合であれば、3個の出力線路41〜43のうち一の出力線路から見た残りの出力線路のインピーダンスが高くなるので、3個のトランジスタ31〜33の夫々で増幅された信号電力を出力ノード52に導く度合いを高めることができる。つまり、増幅器11の増幅利得を向上させることができる。
【0025】
図3は、本実施形態における増幅器の第2の構成例を示す図である。第2の構成例のうち第1の構成例と同一の構成については、上述の説明を援用することで省略する。
図3に示される第2の構成例の増幅器12は、波長変成器60を更に備える点で、第1の構成例と異なる。
【0026】
波長変成器60は、出力ノード52に直列に接続されている。波長変成器60の一端は、出力ノード52に接続され、波長変成器60の他端は、出力ノード53に接続されている。波長変成器60は、例えば、(1/4)波長の線路長を有する伝送線路である。波長変成器60の特性インピーダンスは、√(Z_total×50)である。Z_totalは、出力ノード52から複数の出力線路41〜43を見たインピーダンスを表す。このような波長変成器60を設けることにより、出力ノード53の特性インピーダンスを所望値(例えば、50Ω)に更に近づけることができる。
【0027】
ここで、直列に接続される複数の入力側伝送線路は、互いに等しい線路長を有してもよいし、互いに異なる線路長を有してもよい。
図2,3は、複数の入力線路21〜24が互いに等しい線路長l_inputを有する場合を示す。この場合、出力線路41が線路長lを有する場合、出力線路42は、線路長(l-l_input)を有し、出力線路43は、線路長(l-2×l_input)を有する。
【0028】
図4は、出力側伝送線路の働きを示すスミスチャートである。
図4では、1段目の出力線路41の働きを示す。△印のプロットは、出力線路41からトランジスタ31のドレインを見た反射係数Γ
A’の周波数特性(0.1GHz〜15GHz)を表す。6GHzにおける反射係数Γ
A’の位置がマーカーm1で例示されている。出力線路41をトランジスタ31のドレインに付加することにより、反射係数Γ
A’は、スミスチャート上で時計回りに回転し、反射係数Γ
Aへ移動する。出力線路41が線路長lを有する場合、
【0029】
【数1】
と表すことができる。ここで、βは、出力線路41の位相定数を表す。本実施形態では、出力ノード52から出力線路41を見た反射係数Γ
Aの位相が0度となる位置まで、出力線路41の線路長lを延ばす。スミスチャート上では、反射係数Γ
Aの位相は、黒矢印の位置に対応する。このときの出力ノード52から出力線路41を見た特性インピーダンスZ
Aは、出力線路41の出力インピーダンスをZ
0とすると、
【0030】
【数2】
と表すことができる。出力ノード52から出力線路42を見た反射係数Γ
B、出力ノード52から出力線路43を見た反射係数Γ
Cについても同様に考えることができる。
【0031】
ここで、本実施形態における増幅器を、従来のウィルキンソン型合成器を使う上掲の特許文献2の増幅器と比較する。なお、特許文献2では、「コーポレート型電力合成回路」という用語が使用されているが、これは、一般的な用語ではない。仮に、コーポレート型電力合成回路がウィルキンソン型合成器と同じとすると、特許文献2のように4合成を行う場合、ウィルキンソン型合成器の特性インピーダンスは、100Ωと決まっている。また、ウィルキンソン型合成器の夫々の線路長も1/4波長と決まっている。100Ωという高い特性インピーダンスを実現するためには線路幅を狭くする必要があり、各増幅素子へ多くの電流を流す必要があるパワーアンプへ適用する場合には、エレクトロマイグレーションの問題が生ずるおそれがある。
【0032】
これに対し、本実施形態における増幅器は、出力側伝送線路の線路長を調整して出力ノードから見た反射係数の位相が0°となるまで回す構成であるので、特性インピーダンスに制限がない。実際、
図4では、特性インピーダンスZ
Aが65Ωである。また、出力線路41の線路長も反射係数Γ
Aの位相が0度となるように設定されており、
図4では、出力線路41の線路長lは、波長λの0.4倍の長さ(つまり、(λ/4)よりも大きい長さ)である。したがって、特性インピーダンス及び線路長とも、従来のウィルキンソン型合成器とは異なる。
【0033】
また、上述のように、複数段の出力側伝送線路の線路長を段数が進むにつれて徐々に短くすることにより、同じ位相で増幅出力を出力ノード52で合成することが可能になる。
【0034】
次に、本実施形態における増幅器の効果をシミュレーションにより示す。
図5は、本実施形態における増幅器と従来の分布型増幅器の利得の周波数特性を示す。
図5では、従来の分布型増幅器として、上掲の非特許文献1のFig.4に記載された増幅器を使用している。
【0035】
本実施形態では、複数の出力線路のうち一の出力線路から見た残りの出力線路のインピーダンスが高いので、出力線路41〜43の夫々からの出力電力は、トランジスタ側に流れるよりもインピーダンスの低い出力ノード52へ導かれる。このため、増幅信号が高められるため増幅利得を高めることができる。
図5は、シミュレーションにより求めた本実施形態における増幅器と従来の分布型増幅器の増幅利得の周波数特性を示す。従来の分布型増幅器は、比較的広い帯域を有するものの、使用したい周波数範囲4〜6GHzでは、8dB程度の利得しか有しない。これに対して、本実施形態における増幅器は、同じトランジスタを増幅素子として使用しても、10dBの利得を実現しており、高利得特性を示している。
【0036】
以上、増幅器及び送信機を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0037】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
直列に接続される複数の入力側伝送線路と、
前記複数の入力側伝送線路の終端に直列に接続される終端抵抗と、
前記複数の入力側伝送線路の夫々の間にある複数の接続点のうち、対応する一の接続点にゲートが接続される複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタの夫々のドレインのうち、対応する一のドレインに一端が接続される複数の出力側伝送線路とを備え、
前記複数の出力側伝送線路の夫々の他端は、共通の出力ノードに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路のうち1段目の出力側伝送線路は、前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、(1/4)波長よりも長い線路長を有し、
前記複数の出力側伝送線路のうち2段目以降のk段目の出力側伝送線路は、(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長から、前記複数の入力側伝送線路のうちk段目の入力側伝送線路の線路長を減算した線路長を有する、増幅器。
(付記2)
前記複数の入力側伝送線路は、互いに等しい線路長を有する、付記1に記載の増幅器。
(付記3)
前記共通のノードに直列に接続される波長変成器を更に備える、付記1又は2に記載の増幅器。
(付記4)
前記出力ノードから前記複数の出力側伝送線路を見たインピーダンスをZ_totalとするとき、
前記波長変成器は、(1/4)波長の線路長を有し、√(Z_total×50)の特性インピーダンスを有する、付記3に記載の増幅器。
(付記5)
増幅器と、前記増幅器の出力ノードに接続されるアンテナとを備え、
前記増幅器は、
直列に接続される複数の入力側伝送線路と、
前記複数の入力側伝送線路の終端に直列に接続される終端抵抗と、
前記複数の入力側伝送線路の夫々の間にある複数の接続点のうち、対応する一の接続点にゲートが接続される複数のトランジスタと、
前記複数のトランジスタの夫々のドレインのうち、対応する一のドレインに一端が接続される複数の出力側伝送線路とを備え、
前記複数の出力側伝送線路の夫々の他端は、前記出力ノードに接続されており、
前記複数の出力側伝送線路のうち1段目の出力側伝送線路は、前記出力ノードから見た反射係数の位相が0°になるように、(1/4)波長よりも長い線路長を有し、
前記複数の出力側伝送線路のうち2段目以降のk段目の出力側伝送線路は、(k−1)段目の出力側伝送線路の線路長から、前記複数の入力側伝送線路のうちk段目の入力側伝送線路の線路長を減算した線路長を有する、送信機。
(付記6)
前記複数の入力側伝送線路は、互いに等しい線路長を有する、付記5に記載の送信機。
(付記7)
前記出力ノードに直列に接続される波長変成器を更に備える、付記5又は6に記載の送信機。
(付記8)
前記出力ノードから前記複数の出力側伝送線路を見たインピーダンスをZ_totalとするとき、
前記波長変成器は、(1/4)波長の線路長を有し、√(Z_total×50)の特性インピーダンスを有する、付記7に記載の送信機。