(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記今回開始時推定部は、前回の通電終了時点から今回の通電開始までのインターバル期間が短いほど、前記今回開始時体積を小さい値に推定する請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置。
前記今回開始時推定部は、前回の通電開始時点での前記油密室の燃料の体積が小さいほど、前記今回開始時体積を小さい値に推定する請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
次回開始時予測部は、今回の通電終了時点から次回の通電開始までのインターバル期間が短いほど前記次回開始時体積が小さいと予測する請求項5に記載の燃料噴射制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。
【0016】
(第1実施形態)
図1に示す制御装置100は、燃料噴射制御装置を提供する電子制御装置である。制御装置100の制御対象である燃料噴射弁1は、車両用の内燃機関(エンジン2)に搭載されている。エンジン2は、圧縮自着火式のディーゼルエンジンであり、燃料噴射弁1は、エンジン2の燃焼室に液体燃料(例えば軽油)を噴射する。複数の燃料噴射弁1には、コモンレール3で蓄圧された高圧燃料が、高圧配管1aを通じて分配供給される。なお、燃料噴射弁1内の低圧燃料は、低圧配管1bを通じて燃料タンク4へ戻される。コモンレール3には、高圧ポンプ5で加圧された高圧燃料が供給される。
【0017】
コモンレール3には、レール圧センサ3aおよび減圧弁3bが取り付けられている。レール圧センサ3aは、コモンレール3に蓄圧された燃料の圧力(レール圧)を検出する。減圧弁3bは、蓄圧された燃料の一部を燃料タンク4へ戻すことでレール圧を減圧させる電磁弁である。
【0018】
制御装置100は、高圧ポンプ5、減圧弁3bおよび燃料噴射弁1の作動を制御する。例えば、レール圧センサ3aにより検出されたレール圧が目標レール圧になるように、高圧ポンプ5の吐出量をフィードバック制御する。また、検出されたレール圧が目標レール圧になるように減圧弁3bの作動を制御する。制御装置100は、エンジン2の出力軸の単位時間当りの回転数(エンジン回転数)およびエンジン2の負荷等に基づき、目標レール圧を設定する。
【0019】
さらに制御装置100は、エンジン回転数およびエンジン負荷等に基づき、燃料噴射弁1から噴射される燃料の目標噴射量、および目標噴射時期を設定する。燃料噴射弁1は、エンジン2の1燃焼サイクル中に燃料を複数回噴射する多段噴射が可能である。制御装置100は、多段噴射に係る噴射回数および噴射間インターバルについても、エンジン回転数およびエンジン負荷等に基づき設定する。
【0020】
制御装置100は、少なくとも1つの演算処理装置(プロセッサ)と、プロセッサにより実行されるプログラムおよびデータを記憶する記憶媒体としての少なくとも1つの記憶装置(メモリ)とを有する。プロセッサおよびメモリはマイクロコンピュータ(マイコン)によって提供されてもよい。記憶媒体は、プロセッサによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリまたは磁気ディスクなどによって提供されうる。制御装置100は、1つのコンピュータ、またはデータ通信装置によってリンクされた一組のコンピュータ資源によって提供されうる。プログラムは、制御装置100によって実行されることによって、制御装置100をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される方法を実行するように制御装置を機能させる。
【0021】
図2に示すように、燃料噴射弁1は、ボデー10、アクチュエータ20、制御バルブ30およびニードル40を備えている。ボデー10には、噴孔11、高圧通路12、低圧通路13、バルブ室14、背圧室15およびノズル室16が形成されている。コモンレール3から高圧配管1aを通じて燃料噴射弁1へ分配供給された高圧燃料は、高圧通路12およびノズル室16を通じて噴孔11から噴射される。燃料噴射弁1は、エンジン2のシリンダヘッドに取り付けられており、各気筒の燃焼室へ直接的に高圧燃料を噴射する。また、高圧通路12から供給された高圧燃料の一部は、噴孔11の開閉に使用される。そして、開閉に使用されて背圧室15およびバルブ室14から排出される燃料は、低圧通路13および低圧配管1bを通じて燃料タンク4へ戻される。
【0022】
なお、背圧室15およびバルブ室14は常時連通しているため、背圧室15の燃圧とバルブ室14の燃圧とは、タイムラグを無視すれば一致していると言える。これら背圧室15およびバルブ室14は、ニードル40に噴孔閉弁力を付与する燃料が流出入する「制御室」に相当する。また、低圧通路13は、制御室から燃料を流出させる「流出通路」に相当する。
【0023】
ニードル40(弁体)は、噴孔11の上流側部分の通路を開閉することで、実質的に噴孔11を開閉する。ニードル40には、弾性部材41による弾性力が閉弁側へ付与されている。さらにニードル40の反噴孔側の受圧面には、背圧室15に充填されている燃料の圧力(制御圧)が閉弁側へ付与され、噴孔側の受圧面には、ノズル室16に充填されている高圧燃料の圧力が開弁側へ付与されている。したがって、制御圧を所定未満に低下させればニードル40が開弁作動し、噴孔11から燃料が噴射され、制御圧を所定以上に上昇させればニードル40が閉弁作動し、噴孔11からの燃料噴射が停止される。
【0024】
制御バルブ30は、バルブ室14に配置され、第1バルブ31、第2バルブ32および係止部33を有する。第1バルブ31は、ボデー10に形成された第1シート面14aに離着座して、バルブ室14と低圧通路13との連通と遮断を切り替える。第2バルブ32は、ボデー10に形成された第2シート面14bに離着座して、バルブ室14とノズル室16との連通と遮断を切り替える。なお、第1バルブ31のうち第1シート面14aに離着座する面は湾曲したボール形状であり、第2バルブ32のうち第2シート面14bに離着座する面は平坦形状である。第1バルブ31および第2バルブ32のうち一方が着座している時には他方は離座し、一方が離座している時には他方は着座している。
【0025】
第2弾性部材34は、第1バルブ31を閉弁させる側へ係止部33に弾性力を付与する。アクチュエータ20は、第1バルブ31を開弁させる側へ第1バルブ31に駆動力を付与する。また、第1バルブ31が閉弁している状態では、バルブ室14に充填されている燃料の圧力が、第1バルブ31を閉弁させる側に付与されている。第1バルブ31が開弁して第2バルブ32が閉弁している状態では、ノズル室16に充填されている高圧燃料の圧力が、第2バルブ32を開弁させる側、つまり第1バルブ31を閉弁させる側に付与されている。
【0026】
したがって、第1バルブ31が閉弁している状態(
図2参照)において、アクチュエータ20による駆動力が、第2弾性部材34による弾性力およびバルブ室14の燃圧による閉弁力(燃圧閉弁力Fa)より大きくなると、第1バルブ31が開弁作動を開始する。なお、第1バルブ31の開弁以後においては、バルブ室14の燃圧が低下するため、燃圧閉弁力Faも小さくなる。
【0027】
第1バルブ31が閉弁したのち、アクチュエータ20が制御バルブ30をさらに押し下げると、第2バルブ32が第2シート面14bに着座して押し付けられる。つまり第2バルブ32が開弁状態から閉弁状態に移行する。この閉弁状態を維持させるには、アクチュエータ20による駆動力が、第2弾性部材34による弾性力およびノズル室16の燃圧による閉弁力より大きいことを要する。したがって、レール圧が高いほど、第2バルブ32の閉弁状態を維持させるに要するアクチュエータ20の駆動力は大きくなる。
【0028】
アクチュエータ20は、ピエゾスタック21、弾性部材22、当接板23、ガイド部材24、大径ピストン25、小径ピストン26、第1弾性部材27およびロッド28を有する。ピエゾスタック21は、複数のピエゾ素子21aと、複数のピエゾ素子21aを保持する保持部材21bとを有する。ピエゾ素子21aは板状であり、板面に対して垂直な方向に複数積層配置されている。また、複数のピエゾ素子21aは電気的に直列接続されている。
【0029】
ピエゾ素子21aは、逆圧電効果により伸長することで伸長力を発揮するアクチュエータとして機能する。具体的には、ピエゾ素子21aは、容量性の負荷であり、電気エネルギが投入されて充電されることで伸長し、放電により電気エネルギが放出されることで縮小する。
【0030】
弾性部材22は、ピエゾ素子21aの積層方向に弾性変形して、弾性力である圧縮予荷重Fpreを当接板23に付与する。当接板23はピエゾスタック21に当接し、弾性部材22による弾性力をピエゾスタック21に付与する。ピエゾスタック21は、当接板23から圧縮力を積層方向に受けた状態で、ボデー10の内壁と当接板23とで挟み込まれている。つまり、ピエゾ素子21aへの通電有無に拘らず、弾性力による圧縮応力がピエゾ素子21aには生じており、充電に先立ち予め圧縮荷重(圧縮予荷重Fpre)がピエゾ素子21aに付与されていると言える。
【0031】
ガイド部材24は、大径ピストン25および小径ピストン26を、積層方向に摺動可能な状態で保持している。ガイド部材24の内壁面、大径ピストン25の下端面、および小径ピストン26の上端面で囲まれた部分は油密室24aを形成する。油密室24aには燃料が充填されており、充填されている燃料は、加圧可能かつリーク可能な状態で密閉されている。
【0032】
つまり、ピエゾ素子21aが伸長して大径ピストン25が油密室24aを小さくする側へ移動すると、油密室24aの燃料はピエゾ素子21aの伸長力により加圧される。同時に、油密室24aの燃料は、大径ピストン25の外周面とガイド部材24の内周面との摺動隙間を通じて、ガイド部材24の開口13bから流出する。また、油密室24aの燃料は、小径ピストン26の外周面とガイド部材24の内周面との摺動隙間を通じて、ガイド部材24に形成されたリーク穴13cからも流出する。ガイド部材24の開口13bおよびリーク穴13cから流出した低圧燃料は、低圧通路13を通じて低圧配管1bへと排出される。
【0033】
第1弾性部材27は、積層方向に弾性変形して弾性力を小径ピストン26に付与している。小径ピストン26は、第1弾性部材27から付与された弾性力および油密室24aの圧力により、第1バルブ31の側へ付勢されている。この付勢力は、ロッド28を介して小径ピストン26から第1バルブ31へ、第1バルブ31の開弁力として付与される。小径ピストン26およびロッド28は、制御バルブ30に当接して、流出通路を開弁させる開弁作動力を制御バルブ30に付与する「バルブピストン」に相当する。
【0034】
上述した構成を有する燃料噴射弁1の作動について、以下に説明する。
【0035】
ピエゾ素子21aに電気エネルギが投入されてピエゾ素子21aが伸長すると、大径ピストン25が小径ピストン26へ近づく向きに移動する。すると、油密室24aを介して、大径ピストン25の移動が拡大して小径ピストン26に伝達され、小径ピストン26は、大径ピストン25よりも大きく制御バルブ30へ近づく向きに移動する。これにより、制御バルブ30が押し下げられ、第1バルブ31が第1シート面14aから離座して開弁状態となる。
【0036】
その結果、バルブ室14の燃料は、オリフィス13aを通じて低圧通路13から排出され、バルブ室14の燃圧は低下する。バルブ室14は背圧室15と連通しているので、バルブ室14の燃圧低下に伴い背圧室15の燃圧も低下する。これにより、ニードル40の背圧が低下するため、ニードル40が開弁作動を開始する。
【0037】
第1バルブ31の開弁直後では第2バルブ32は閉弁状態であるが、第1バルブ31が開弁した後、ピエゾ素子21aをさらに伸長させると、第2バルブ32が第2シート面14bに着座して閉弁状態となる。これにより、ノズル室16とバルブ室14との連通が遮断され、ノズル室16からバルブ室14への高圧燃料の流入が遮断される。その結果、バルブ室14の燃圧低下が促進され、背圧室15の燃圧つまりニードル40の背圧が迅速に低下し、ひいてはニードル40が迅速に開弁作動を開始することとなる。つまり、ピエゾ素子21aへの通電を開始してからニードル40が開弁するまでの時間短縮が促進され、ニードル40開弁の応答性が向上される。
【0038】
ピエゾ素子21aに投入された電気エネルギが放電により放出されてピエゾ素子21aが収縮すると、大径ピストン25及び小径ピストン26がバルブ室14から離れる向きに移動する。すると、第2弾性部材34の弾性力により制御バルブ30はアクチュエータ20へ近づく向きに移動する。その結果、第2バルブ32が第2シート面14bから離座して開弁状態になるとともに、第1バルブ31が第1シート面14aに着座して閉弁状態になる。
【0039】
これにより、ノズル室16とバルブ室14とが連通し、かつ、バルブ室14と低圧通路13との連通は遮断される。その結果、バルブ室14から低圧通路13への燃料流出が止まるとともに、ノズル室16から高圧燃料がバルブ室14へ流入するので、バルブ室14の燃圧が上昇する。バルブ室14は背圧室15と連通しているので、バルブ室14の燃圧上昇に伴い背圧室15の燃圧も上昇する。これにより、ニードル40の背圧が上昇するため、ニードル40が閉弁作動を開始する。
【0040】
上述した構成を有する制御装置100の作動について、
図3を用いて以下に説明する。
【0041】
制御装置100は上述したマイコンに加えて、ピエゾ素子21aへの通電のオンオフを制御する駆動回路を備える。マイコンからは低電圧(例えば5V)の指令信号が出力されるのに対し、駆動回路からは指令信号よりも高電圧の駆動電力が出力される。そして、
図3の(a)(b)欄は、上記指令信号であって、噴射指令、充電指令および放電指令の信号を示す。
図3の(c)(d)欄は、上記駆動電力に係る電流および電圧の時間変化を示す。上記電流は、ピエゾ素子21aに流れる電流(ピエゾ電流)であり、上記電圧は、複数のピエゾ素子21aの電圧(ピエゾ電圧)である。複数のピエゾ素子21aは直列接続されているので、直列接続全体の両端子間電圧がピエゾ電圧に相当する。
【0042】
制御装置100は、概略、ピエゾ素子21aへの通電による充電量を制御する。これにより、ピエゾスタック21の伸長力が制御され、油密室24aの燃料によりバルブピストンへ伝達される開弁作動力が制御され、噴孔11からの燃料の噴射状態が制御される。詳細には、制御装置100は、レール圧センサ3aにより検出されたレール圧、および先述した目標噴射量に応じた時間を噴射指令時間Tqとして算出し、算出された噴射指令時間Tqだけ噴射指令信号を出力する。噴射指令信号が出力されている期間は、充電指令信号が出力されている充電期間Tc、および保持期間Thに区分される。制御装置100は、充電期間Tcでは後述する充電制御を実行し、その後の保持期間Thでは後述する保持制御を実行する。そして、放電指令信号が出力されている放電期間Toでは、制御装置100は後述する放電制御を実行する。
【0043】
上記駆動回路は、通電スイッチ、充電スイッチおよび放電スイッチを有する。充電スイッチがオン作動している状態で通電スイッチがオン作動すればピエゾ素子21aに充電され、放電スイッチがオン作動している状態で通電スイッチがオン作動すればピエゾ素子21aは放電される。これらのスイッチの作動は、充電制御、保持制御および放電制御により制御される。
【0044】
先ず、
図3を用いて充電制御について説明する。
【0045】
駆動回路は、噴射指令信号の出力期間中に充電スイッチをオン作動させ、噴射指令信号の立ち上がり時点で通電スイッチをオン作動させる。これにより、(c)(d)欄に示すように充電電圧および充電電流が上昇を開始する。制御装置100は、ピエゾ素子21aの電荷を検出する回路を有しており、検出された電荷の増大量が所定量に達した時点で通電スイッチをオフ作動させる。これにより、(c)欄に示すように充電電流は下降する。なお、通電オフ期間もピエゾ電圧は上昇し続けるが、厳密には、通電オフ期間におけるピエゾ電圧の上昇速度は、通電オン期間よりも遅い。
【0046】
上述の如く通電オフさせた後、通電スイッチをオフさせてから予め設定しておいた所定時間が経過した時点で、通電スイッチを再びオン作動させて、再び電荷の増大量が所定量に達するまでオン作動を継続させる。このように、通電スイッチのオンとオフ切り替えを複数回行う充電制御を実行して、ピエゾ素子21aへの充電量を増大させていく。ここで言う充電量とは、ピエゾ素子21aへ蓄えられる電気エネルギの量のことであり、この電気エネルギ量はピエゾ電圧に比例する。
【0047】
次に、
図3を用いて保持制御について説明する。
【0048】
ピエゾ素子21aへ供給される電気エネルギ(駆動エネルギ)が目標エネルギに達した時点で、充電制御を終了させる。これにより、噴射指令期間のうちの充電期間Tcから保持期間Thに移行する。なお、上述の如く駆動エネルギを制御することに替え、ピエゾ電圧が目標電圧Vtrgに達した時点で充電制御を終了させるように、ピエゾ電圧を制御してもよい。
【0049】
保持期間Thでの制御装置100は、充電および放電を行わず、ピエゾ電圧を目標電圧Vtrgに保持させるといった保持制御を実行する。目標電圧Vtrgの値は、第2バルブ32が開弁しないような十分な大きさの駆動力が発揮される大きさに設定されている。つまり、目標電圧Vtrgが過小である場合、第2バルブ32の第2シート面14bへの押付力が不足し、保持期間Th中に第2バルブ32がノズル室16の燃圧に押され、意図に反して開弁するおそれがある。このような開弁が生じない大きさに目標電圧Vtrgは設定されている。したがって、供給燃圧(レール圧)が高いほど、目標電圧Vtrgは大きい値に設定される。
【0050】
次に、
図3を用いて放電制御について説明する。
【0051】
通電開始から噴射指令時間Tqが経過した時点で、保持期間Thから放電期間Toに移行する。駆動回路は、放電期間Toでは、放電スイッチをオン作動させる。さらに駆動回路は、放電指令信号の立ち上がり時点で通電スイッチをオン作動させる。これにより、(c)(d)欄に示すように充電電圧および充電電流が下降を開始する。制御装置100は、検出された電荷の減少量が所定量に達した時点で通電スイッチをオフ作動させる。これにより、(c)欄に示すように放電電流は上昇する。なお、通電オフ期間もピエゾ電圧は下降し続けるが、厳密には、通電オフ期間におけるピエゾ電圧の下降速度は、通電オン期間よりも遅い。
【0052】
噴射指令信号が出力された以降の充電期間Tcに第1バルブ31が開弁を開始し、保持期間Thに移行する前に第2バルブ32が閉弁する。また、噴射指令信号の出力が停止された以降の放電期間Toに第2バルブ32が開弁を開始し、第1バルブ31が閉弁する。
【0053】
図4および
図5では、噴射間のインターバル期間Tintの違いによる燃料噴射弁1の作動の違いを示す。
【0054】
先ず、
図4を用いて、インターバル期間Tintが十分に長い場合の作動について説明する。
図4中の(a)欄に示すように、噴射指令がオフの状態では、ピエゾ素子21aの伸長量はゼロであり、図中の一点鎖線に示すように当接板23は基準位置にある。そのため、油密室24aの燃料は加圧されず、油密室24aの燃料の圧力(油密圧)は低い状態になっている。よって、図中の一点鎖線に示すように小径ピストン26およびロッド28は基準位置にあり、ロッド28の下端面は第1バルブ31の上端面に当接している。
【0055】
その後、
図4中の(b)欄に示すように、噴射指令がオフからオンに切り替わると、ピエゾ素子21aが伸長し、当接板23は基準位置より伸長量Lpの分だけ移動する。そのため、油密室24aの燃料は加圧され、小径ピストン26およびロッド28は基準位置より第1バルブ31の側に移動する。よって、第1バルブ31はロッド28に押されて開弁し、噴孔11からの燃料噴射が開始される。また、油密室24aの燃料が加圧されることにともない、図中の矢印に示すように油密室24aの燃料は、開口13bおよびリーク穴13cから流出していく。そのため、噴射指令のオン期間中は、油密圧は徐々に低下していくとともに、油密室24aの燃料の体積(油密体積)は徐々に小さくなる。
【0056】
なお、以下の説明では、噴射指令信号がオフからオンに切り替わってピエゾ素子21aへの通電を開始した時点での油密体積を、開始時体積Vbと記載する。
【0057】
その後、
図4中の(c)欄に示すように、噴射指令がオンからオフに切り替わると、ピエゾ素子21aが縮小し、油密室24aを拡大する側へ大径ピストン25が移動する。そのため、油密体積が短時間で急拡大して油密圧が低下して、開口13bおよびリーク穴13cから燃料が流入する。流入した燃料は、ガイド部材24の摺動隙間を通じて油密室24aへ流入する。
【0058】
この時、油密圧が低下することに起因して、小径ピストン26が油密室24aへ引き寄せられる。つまり、小径ピストン26の油密室24a側の圧力が、ロッド28側の圧力よりも低くなり、その圧力差で小径ピストン26が油密室24aへ引き寄せられる。その結果、第1バルブ31が閉弁位置までリフトアップした以降も、小径ピストン26がロッド28とともに油密室24a側への移動を継続し、小径ピストン26が基準位置よりも大径ピストン25側へオーバシュートする場合がある。この場合、ロッド28が第1バルブ31から離間して、ロッド28と第1バルブ31との間に隙間Lが形成される。この隙間Lの大きさは、小径ピストン26のオーバシュート量Laと一致する。
【0059】
その後、
図4中の(d)欄に示すように、噴射指令のオフ期間中に、上述した油密室24aへの燃料の流入が進行するにつれ、低下した油密圧が徐々に上昇していく。換言すれば、通電終了に伴い油密室24aが拡大した分だけ、噴射指令オフ期間中に油密室24aへ燃料が充填され、開口13bおよびリーク穴13cからの燃料流入が停止する圧力にまで油密圧が上昇(回復)していく。その結果、上記圧力差が低下して、第1弾性部材27の弾性力により小径ピストン26は第1バルブ31の側へ移動し、第1バルブ31に当接して隙間Lがゼロの状態になる。
【0060】
その後、
図4中の(e)欄に示すように、噴射指令がオフからオンに切り替わると、ピエゾ素子21aが伸長し、油密室24aの燃料が加圧される。その結果、(a)欄と同様にして、燃料噴射が開始されるとともに、油密室24aの燃料が流出して油密圧は徐々に低下し、油密体積は徐々に小さくなる。
【0061】
以上により、
図4の例では、通電終了時点でロッド28と第1バルブ31との間に隙間Lが生じるものの、噴射指令のオフ期間中に油密圧が回復して隙間Lが無くなる、といった現象を示している。つまり、今回の通電終了から次回の通電開始までのインターバル中に油密圧を十分に回復させて隙間Lを無くせる程度に、インターバル期間Tintが十分に長い状況を
図4は示す。
【0062】
次に、
図5を用いて、先述した回復の時間を確保できない程度に、インターバル期間Tintが短い場合の作動について説明する。
図5中の(a)(b)(c)欄は
図4中の(a)(b)(c)欄と同一の内容である。そして、
図4の例では先述したようにインターバル中に油密圧が十分に回復して隙間Lが無くなった状態で、次回噴射の通電を開始させている。これに対し
図5の例では、インターバル期間Tintが短いことに起因して、次回噴射の通電開始時点では油密圧が完全に回復していない。そのため、次回の通電開始時点では、(d)欄に示すようにピエゾ素子21aの伸長に伴い小径ピストン26が第1バルブ31の側へ移動するものの、ロッド28は第1バルブ31に当接して開弁作動力を付与することができない。よって、次回の通電開始時点では、第1バルブ31は開弁作動を開始できない。
【0063】
その後、
図5中の(e)欄に示すように、小径ピストン26およびロッド28の移動が進行して隙間Lが無くなった時点で、ロッド28は第1バルブ31に当接して開弁作動力を付与し、第1バルブ31は開弁作動を開始する。つまり、短いインターバル期間Tintの直後の通電開始では、油密圧が回復しないまま隙間Lが残った状態であるため、第1バルブ31が直ぐに開弁しない。その結果、ニードル40の開弁開始が遅れ、通電開始から噴射開始までの遅れ時間が想定よりも長くなり、実噴射量が目標噴射量より少なくなる。
【0064】
要するに、インターバル期間Tintが短くなるほど、通電開始時点で油密圧が回復しないまま隙間Lが残った状態になりやすく、ニードル40の開弁応答遅れが想定より大きくなる、といった知見を本発明者は得た。さらに本発明者は、前回の通電終了時点での油密室24aの燃料の体積である前回終了時体積(終了時体積Va)が小さいほど、その通電終了直後に生じる隙間Lが大きくなる(
図6参照)、との知見を得ている。そして、隙間Lが大きいほど、噴射開始遅れ時間は長くなる(
図7参照)。また、終了時体積Vaが小さいほど、今回の通電開始時点での油密室24aの燃料の体積である今回開始時体積(開始時体積Vb)が小さくなる。
【0065】
これらの知見に基づき本実施形態では、今回開始時体積が小さいほど、隙間Lが大きいとみなして、今回の通電によるピエゾ素子21aへのエネルギ供給速度ΔE(
図8参照)を速くしている。したがって、通電開始時の隙間Lが大きいほど、ピエゾ素子21aの伸長速度が速くなり、ロッド28の移動速度が速くなるので、開弁応答遅れが抑制される。そして、多段噴射では後段の噴射であるほど油密室24aの開始時体積が小さくなっていくので、後段の噴射であるほどエネルギ供給速度ΔEを速くしている。このように今回開始時体積が小さいほどエネルギ供給速度ΔEを速くする一態様について、以下、
図8を用いて説明する。
【0066】
図8の(a)欄は、ピエゾ素子21aへ供給される駆動エネルギの時間変化を示す。先述した通り、駆動エネルギはピエゾ電圧と比例するので、
図8の(a)欄は、ピエゾ電圧の時間変化を示しているとも言える。
図8の(b)欄は、ピエゾスタック21の変位(ピエゾ変位)であって、通電オフの状態を基準として伸長する側をマイナスで表記したピエゾ変位の時間変化を示す。
図8の(c)欄は、油密室24aの体積(油密体積)の時間変化を示す。
図8の(d)欄は、油密室24aの圧力(油密圧)の時間変化を示す。
【0067】
図8中の実線は、開始時体積Vbが小さいほどエネルギ供給速度ΔEを速くするといった本実施形態による制御を実行した場合の各種変化を示し、
図8中の点線は、本実施形態の比較例に係る制御を実行した場合の一態様を示す。点線に示す比較例では、開始時体積Vbに拘らず、噴射段毎のエネルギ供給速度ΔEを同一にしている。
【0068】
また、本実施形態では、
図3を用いて先述した通り、ピエゾ電圧が目標電圧Vtrgに達した時点、つまり駆動エネルギ供給量が目標エネルギEtrgに達した時点で、充電制御を終了させて保持制御に切り替えている。そして、充電期間Tcを決められた所定時間に固定しつつ目標エネルギEtrgを可変設定することで、エネルギ供給速度ΔEを可変設定している。したがって、開始時体積Vbが小さいほど目標エネルギEtrgを大きくすることで、エネルギ供給速度ΔEを速くしている。そのため、開始時体積Vbが小さいほどエネルギ供給量が大きくなっている。
【0069】
図8は、多段噴射を3回(3段)にした例であり、後段噴射であるほど油密体積が小さくなっていき、油密圧が低下していく様子が現れている。(c)(d)欄に示すように、保持期間Thでは、油密室24aからの燃料流出に伴い油密体積および油密圧が徐々に低下している。一方、インターバル期間Tintでは、油密室24aへの燃料流入に伴い油密体積および油密圧が徐々に上昇(回復)している。
【0070】
ここで、保持期間Thでの油密圧を十分に高くしなければ、第2バルブ32を第2シート面14bに押し付ける力(第2バルブ押付力)が不足して、第2バルブ32が意図に反して開弁してしまう。したがって、供給燃圧(レール圧)が高いほど、油密圧を高くして第2バルブ押付力を大きくすることを要する。また、多段噴射の後段であるほど油密体積が小さくなるので、ピエゾ電圧(駆動エネルギ)を大きくして伸長量を大きくし、第2バルブ押付力の低下抑制を図る必要がある。そこで上記比較例では、多段噴射の最終段において必要なピエゾ電圧を算出し、そのピエゾ電圧で多段噴射の全ての噴射段を制御している。
【0071】
これに対し本実施形態では、開始時体積Vbが小さいほど、エネルギ供給速度ΔEを速くすることに伴いエネルギ供給量を大きくしているので、多段噴射の前段であるほどエネルギ供給量を小さくしている。しかし、多段噴射の前段であるほど必要な第2バルブ押付力は小さくなるので、本実施形態の制御において、多段噴射の前段で第2バルブ押付力が不足することは回避できている。
【0072】
次に、今回開始時体積(開始時体積Vb)が小さいほど駆動エネルギを大きくしてエネルギ供給速度ΔEを速くするにあたり、今回開始時体積を算出する手法について、以下、
図9を用いて説明する。なお、
図9に示す各ブロックB1〜B12は、制御装置100のプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される機能であって、開始時体積Vbを算出するのに用いる各機能を示す。
【0073】
図9に示すブロックB1は、前回噴射に係る噴射期間、つまり先述した噴射指令時間Tqを取得する。ブロックB2は、前回噴射に係る駆動エネルギ、つまり先述した目標エネルギEtrgを取得する。この目標エネルギEtrgは、後述する最終駆動エネルギEfinに相当する。ブロックB3は、今回噴射または前回噴射から直近で検出された燃料温度Tを取得する。取得する燃料温度Tは、燃料温度を検出するセンサで直接検出された値でもよいし、エンジン冷却水温度や外気温度の検出値から推定された値でもよい。
【0074】
ブロックB5は、ブロックB1、B2、B3で取得された噴射指令時間Tq、最終駆動エネルギEfinおよび燃料温度Tに基づき、前回噴射の保持期間Thで油密室24aから流出する量を算出する。すなわち、噴射指令時間Tqが長いほど、保持期間Thが長くなるので流出量を多い量に算出する。燃料温度Tが高いほど、燃料の粘性が低くなり流出しやすくなるので、流出量を多い量に算出する。最終駆動エネルギEfinが大きいほど、ピエゾスタック21の伸長量が大きくなるので、保持期間Thでの油密圧が高くなるとみなして流出量を多い量に算出する。なお、
図9の例では、ブロックB4が最終駆動エネルギEfinに基づき油密圧を算出し、その算出された油密圧を用いてブロックB5が流出量を算出している。
【0075】
ブロックB6では、前回噴射に係る開始時体積Vb(前回開始時体積)から、ブロックB5で算出された流出量を減算することで、前回噴射に係る終了時体積Va(前回終了時体積)を算出する。換言すれば、ブロックB6では、前回噴射時にブロックB6で算出した開始時体積Vb(前回開始時体積)と、ブロックB1、B2、B3で取得された前回の噴射指令時間Tq、最終駆動エネルギEfinおよび燃料温度Tとに基づき、前回終了時体積を算出する。なお、多段噴射の1回目の噴射では、ブロックB6の算出で用いる前回開始時体積に、予め設定された初期値を用いる。
【0076】
ブロックB7は、前回噴射から今回噴射までの間隔、つまり、直近のインターバル期間Tintを取得する。ブロックB9は、ブロックB6で算出された前回の終了時体積Vaと、ブロックB3、B7で取得された燃料温度Tおよびレール圧に基づき、前回噴射の保持期間Thで油密室24aから流出する量を算出する。すなわち、インターバル期間Tintが長いほど、油密室24aへの流入期間が長くなるので流入量を多い量に算出する。燃料温度Tが高いほど、燃料の粘性が低くなり流入しやすくなるので、流入量を多い量に算出する。前回終了時体積が小さいほど、通電オフ直後での油密圧が低くなるとみなして流入量を多い量に算出する。なお、
図9の例では、ブロックB8が前回終了時体積に基づき油密圧を算出し、その算出された油密圧を用いてブロックB9が流入量を算出している。
【0077】
ブロックB10では、ブロックB6で算出された前回の終了時体積Vaから、ブロックB9で算出された流入量を加算することで、今回噴射に係る開始時体積Vb(今回開始時体積)を算出する。換言すれば、ブロックB10では、ブロックB6で算出された前回の終了時体積Va(前回終了時体積)と、ブロックB3、B7で取得された燃料温度Tおよびインターバル期間Tintとに基づき、今回開始時体積を算出する。なお、多段噴射の1回目の噴射では、ブロックB10の算出で用いる前回終了時体積に、予め設定された初期値を用いる。
【0078】
ブロックB11では、今回噴射に係る噴射圧力P、つまり、今回噴射から直近で検出されたレール圧を取得する。ブロックB12では、ブロックB6で算出された今回開始時体積に基づき、
図10のステップS12で算出される駆動エネルギ補正量Ecorrを算出する。すなわち、今回開始時体積が小さいほど、隙間Lに起因した開弁応答遅れを抑制するべく駆動エネルギ補正量Ecorrを大きい値に算出する。また、噴射圧力Pが大きいほど、開弁応答遅れを抑制するべく駆動エネルギ補正量Ecorrを大きい値に算出する。換言すれば、ブロックB12では、ブロックB10で算出された今回の開始時体積Vb(今回開始時体積)と、ブロックB11で取得された噴射圧力Pとに基づき、駆動エネルギ補正量Ecorrを算出する。
【0079】
次に、
図9のブロック図に示す如く今回開始時体積および駆動エネルギ補正量Ecorrを算出するにあたり、その算出の手順について、以下、
図10を用いて説明する。なお、
図10に示す各ステップS1〜S14の処理は、制御装置100のプロセッサにより実行される処理である。
図10に示す一連の処理は、エンジン2の運転期間中に、例えばプロセッサの演算周期やエンジン2の出力軸の回転周期等、所定の周期で繰り返し実行される。
【0080】
図10に示すステップS1は、多段噴射が完了した状態であるか否かを判定する。例えば、多段噴射の最終段噴射が終了し、かつ、次回の多段噴射指令が未だ出力されていない状態であれば、多段噴射が完了したと判定する。多段噴射が完了したと判定された場合、ステップS2以降の処理を実行することなく
図10の処理を終了する。多段噴射が完了していないと判定された場合、つまり、
図3の(a)に示す噴射指令が出力され、かつ、その噴射指令に対する噴射が未だ実行されていないと判定された場合、続くステップS2において、ブロックB11で説明した如く噴射圧力Pを取得する。
【0081】
続くステップS3では、ステップS2で取得した噴射圧力Pに基づきベース駆動エネルギEbasを算出する。例えば、噴射圧力Pに対応するベース駆動エネルギEbasの値をマップM1等の形式でメモリに予め記憶させておき、取得した噴射圧力Pに対応するベース駆動エネルギEbasの値をマップM1から読み込む。先述した通り、噴射圧力Pが高いほど、油密圧を高くして第2バルブ押付力を大きくすることを要するので、噴射圧力Pが大きいほどベース駆動エネルギEbasを大きい値に算出される。
【0082】
続くステップS5では、噴射指令に対する未実行の噴射が多段噴射の先頭、つまり1段目(初回)の噴射であるか否かを判定する。先頭噴射であると判定された場合、続くステップS6において、駆動エネルギ補正量Ecorrをゼロに設定する。先頭噴射でないと判定された場合、続くステップS7において、ブロックB3で説明した如く燃料温度Tを取得する。続くステップS8では、ブロックB1で説明した如く、前回噴射の通電時間つまり噴射指令時間Tqを取得する。
【0083】
続くステップS9では、ブロックB6で説明した如く、前回開始時体積、噴射指令時間Tq、燃料温度Tおよび最終駆動エネルギEfinに基づき、前回噴射に係る終了時体積Va(前回終了時体積)を算出する。ステップS9での算出に用いられる前回開始時体積は、ステップS11で前回算出された開始時体積Vbである。ステップS9での算出に用いられる噴射指令時間Tqおよび燃料温度Tは、ステップS7、S8で取得された値である。ステップS9での算出に用いられる最終駆動エネルギEfinは、ステップS13で前回算出された最終駆動エネルギEfinである。
【0084】
例えば、前回開始時体積、噴射指令時間Tq、燃料温度Tおよび最終駆動エネルギEfinを変数とした関数F1をメモリに予め記憶しておき、ステップS9では、その関数F1に各変数を代入して前回の終了時体積Vaを算出する。なお、ステップS9の処理を実行している時のプロセッサは、前回の通電終了時点での油密室24aの燃料の体積である前回終了時体積を算出(推定)する「前回終了時推定部」に相当する。
【0085】
続くステップS10では、ブロックB7で説明した如く、前回噴射から今回噴射までのインターバル期間Tintを取得する。続くステップS11では、ブロックB10で説明した如く、前回終了時体積、燃料温度Tおよびインターバル期間Tintに基づき、今回噴射に係る開始時体積Vb(今回開始時体積)を算出する。ステップS11での算出に用いられる前回終了時体積は、ステップS9で算出された終了時体積Vaである。ステップS11での算出に用いられるインターバル期間Tintおよび燃料温度Tは、ステップS10、S7で取得された値である。
【0086】
例えば、前回終了時体積、燃料温度Tおよびインターバル期間Tintを変数とした関数F2をメモリに予め記憶しておき、ステップS11では、その関数F2に各変数を代入して前回の開始時体積Vbを算出する。ステップS11の処理を実行している時のプロセッサは、ピエゾ素子21aへの今回の通電を開始するにあたり、今回の通電開始時点での開始時体積Vb(今回開始時体積)を推定する「今回開始時推定部」に相当する。
【0087】
続くステップS12では、ブロックB12で説明した如く、今回開始時体積および噴射圧力Pに基づき、駆動エネルギ補正量Ecorrを算出する。ステップS12での算出に用いられる今回開始時体積は、ステップS11で算出された開始時体積Vbである。ステップS12での算出に用いられる噴射圧力Pは、ステップS2で取得した値である。例えば、今回開始時体積および噴射圧力Pを変数とした関数F3をメモリに予め記憶しておき、ステップS12では、その関数F3に各変数を代入して今回の噴射に係る駆動エネルギ補正量Ecorrを算出する。
【0088】
続くステップS13では、ベース駆動エネルギEbasに駆動エネルギ補正量Ecorrを加算して最終駆動エネルギEfinを算出する。ステップS13での算出に用いられるベース駆動エネルギEbasは、ステップS3で算出された値である。ステップS13での算出に用いられる駆動エネルギ補正量Ecorrは、ステップS6またはステップS12で算出された値である。
【0089】
続くステップS14では、ステップS13で算出された最終駆動エネルギEfinを用いて燃料噴射弁1を駆動させる。具体的には、ステップS13で算出された最終駆動エネルギEfinを、
図8に示す目標エネルギEtrgに設定して、充電制御、保持制御および放電制御を実行する。先述した通り、充電期間Tcを決められた所定時間に固定しているので、最終駆動エネルギEfinが大きいほど、エネルギ供給速度ΔEは速くなる。なお、ステップS12、S13、S14の処理を実行している時のプロセッサは、ステップS11で算出(推定)された今回開始時体積が小さいほど、今回の通電によるピエゾ素子21aへのエネルギ供給速度ΔEを速くする「供給速度制御部」に相当する。
【0090】
以下、上述した構成を備えることによる効果について説明する。
【0091】
本実施形態に係る制御装置100は、ステップS11による今回開始時推定部およびステップS12、S13、S14による供給速度制御部を備える。今回開始時推定部は、ピエゾ素子21aへの今回の通電を開始する時点での油密室24aの燃料の体積(今回開始時体積)を推定する。供給速度制御部は、今回開始時推定部により推定された今回開始時体積が小さいほど、今回の通電によるピエゾ素子21aへのエネルギ供給速度ΔEを速くする。そして、今回開始時体積が小さいほど通電開始時の隙間Lが大きくなりやすいので、本実施形態によれば、隙間Lが大きいほど、エネルギ供給速度ΔEを速くすることでピエゾ素子21aの伸長速度を速くしていると言える。したがって本実施形態によれば、隙間Lが大きいほど、ロッド28の移動速度が速くなるので、隙間Lの存在に起因した開弁応答遅れを抑制できる。
【0092】
ここで、前回終了時体積が小さいほど今回開始時体積は小さくなる。この点を鑑み、本実施形態に係る制御装置100は、前回の通電終了時点での油密室24aの燃料の体積である前回終了時体積を推定する、ステップS9による前回終了時推定部を備える。そして、ステップS11による今回開始時推定部は、前回終了時推定部により推定された前回終了時体積が小さいほど、今回開始時体積を小さい値に推定する。よって、今回開始時体積を高精度で推定することができ、ひいては、供給速度制御部により制御されるエネルギ供給速度ΔEの過不足を抑制できる。
【0093】
ここで、インターバル期間Tintが短いほど、噴射終了直後に低下した油密圧の上昇回復時間が短くなり今回開始時体積が小さくなる。この点を鑑み、本実施形態に係る制御装置100では、ステップS11による今回開始時推定部は、前回の通電終了時点から今回の通電開始までのインターバル期間Tintが短いほど、今回開始時体積を小さい値に推定する。よって、今回開始時体積を高精度で推定することができ、ひいては、供給速度制御部により制御されるエネルギ供給速度ΔEの過不足を抑制できる。
【0094】
ここで、多段噴射を実行すると後段の噴射であるほど開始時体積Vbが小さくなっていくことは先述した通りである。すなわち、前回の通電終了時体積が今回開始時体積に影響を与えることは勿論のこと、前回の開始時体積も今回開始時体積に影響を与える。この点を鑑み、本実施形態に係る制御装置100では、ステップS11による今回開始時推定部は、前回の通電開始時点での油密室24aの燃料の体積(前回開始時体積)が小さいほど、今回開始時体積を小さい値に推定する。具体的には、前回の開始時体積Vbが小さいほど前回の終了時体積Vaを小さい値に算出し(ステップS9)、その前回終了時体積が小さいほど今回の開始時体積Vbを小さい値に算出する(ステップS11)。よって、今回開始時体積を高精度で推定することができ、ひいては、供給速度制御部により制御されるエネルギ供給速度ΔEの過不足を抑制できる。
【0095】
(第2実施形態)
本実施形態では、上記第1実施形態に係る
図10のフローチャートを、
図11に示すフローチャートに変更している。具体的には、
図10のステップS3をステップS3Aに変更し、さらに、
図10のステップS13をステップS15、S16、S17、S18、S19に変更している。
【0096】
図11のステップS3Aでは、ステップS2で取得した噴射圧力Pに基づきベース駆動エネルギEbasを算出する点ではステップS3と同じであるが、ステップS3Aで用いるマップM2はステップS3で用いるマップM1とは異ならせてある。噴射圧力Pに関連付けされたベース駆動エネルギEbasのマップM2での値は、
図11中の実線に示す値であり、点線に示すマップM1での値よりも小さい値に設定されている。
【0097】
ステップS15では、今回の噴射に係る噴射指令時間Tq、つまり今回の噴射に係る目標噴射量に応じた通電時間を取得する。続くステップS16では、ベース駆動エネルギEbasに駆動エネルギ補正量Ecorrを加算して補正後駆動エネルギEafを算出する。ステップS16での算出に用いられるベース駆動エネルギEbasは、ステップS3Aで算出された値である。ステップS16での算出に用いられる駆動エネルギ補正量Ecorrは、ステップS6またはステップS12で算出された値である。
【0098】
続くステップS17では、ステップS9と同様の関数F1を用いて、今回の開始時体積Vb、今回の噴射指令時間Tq、燃料温度Tおよび補正後駆動エネルギEafに基づき、今回噴射に係る終了時体積Va(今回終了時体積)を算出する。ステップS17での算出に用いられる今回開始時体積は、ステップS11で算出された開始時体積Vbである。ステップS17での算出に用いられる噴射指令時間Tqおよび燃料温度Tは、ステップS7、S15で取得された値である。ステップS17での算出に用いられる補正後駆動エネルギEafは、ステップS16で算出された値である。
【0099】
例えば、今回開始時体積、噴射指令時間Tq、燃料温度Tおよび補正後駆動エネルギEafを変数とした関数F1をメモリに予め記憶しておき、ステップS17では、その関数F1に各変数を代入して今回の終了時体積Vaを算出する。なお、ステップS17の処理を実行している時のプロセッサは、今回の通電終了時点での油密室24aの燃料の体積である今回終了時体積を算出(推定)する「今回終了時推定部」に相当する。
【0100】
ここで、
図8に示す保持期間Thに、油密室24aからの燃料漏れに起因して油密圧および油密体積が低下していくことは先述した通りである。したがって、燃料漏れが多いほど、第2バルブ32を第2シート面14bに押し付ける力が不足して、保持期間Thにおける意図に反した第2バルブ32の開弁が懸念される。そのため、燃料漏れが多いと予想される場合であるほど、駆動エネルギを大きくしてピエゾスタック21の伸長量を大きくしておくことが望ましい。
【0101】
この点を鑑み、ステップS18では、今回終了時体積および噴射圧力Pに基づき第2補正量Einjを算出する。第2補正量Einjは、保持期間Thでの燃料漏れに応じて必要となる駆動エネルギと言える。噴射圧力Pが大きいほど第2補正量Einjは大きい値に算出される。今回終了時体積が小さいほど第2補正量Einjは大きい値に算出される。ステップS18での算出に用いられる今回終了時体積は、ステップS17で算出された終了時体積Vaである。ステップS18での算出に用いられる噴射圧力Pは、ステップS2で取得した値である。例えば、今回終了時体積および噴射圧力Pを変数とした関数F4をメモリに予め記憶しておき、ステップS18では、その関数F4に各変数を代入して第2補正量Einjを算出する。
【0102】
続くステップS19では、補正後駆動エネルギEafに第2補正量Einjを加算して最終駆動エネルギEfinを算出する。ステップS19での算出に用いられる補正後駆動エネルギEafはステップS16で算出された値である。ステップS19での算出に用いられる第2補正量EinjはステップS18で算出された値である。
【0103】
要するに、ステップS3Aでベース駆動エネルギEbasを小さく設定した分を、第2補正量Einjで補っていると言える。換言すれば、上記第1実施形態では、保持期間Thでの燃料漏れに応じて必要となる駆動エネルギ(第2補正量Einj)を、今回終了時体積の大きさに拘らず、噴射圧力Pに応じて設定している。それに対し本実施形態では、保持期間Thでの燃料漏れに応じて必要となる駆動エネルギを、今回終了時体積に応じて変更していると言える。
【0104】
以上により、本実施形態によれば、上記第1実施形態による効果に加えて以下の効果が発揮される。すなわち、保持期間Thでの燃料漏れに応じて必要となる駆動エネルギを、今回終了時体積に応じて変更するので、隙間Lの存在に起因した開弁応答遅れを抑制しつつ、最終駆動エネルギEfinの過不足低減を促進できる。
【0105】
(第3実施形態)
本実施形態では、上記第2実施形態に係る
図11のフローチャートを、
図12に示すフローチャートに変更している。具体的には、
図11のステップS9、S11、S17をステップS9A、S11A、S17Aに変更し、さらに、
図11のステップS7とステップS8の間にステップS20、S21、S22の処理を追加している。
【0106】
図12のステップS20では、前回噴射における保持期間Thでのピエゾ電圧Vp(
図13参照)を取得する。具体的には、ピエゾ電圧Vpを検出する回路を制御装置100に備えさせておき、充電期間Tcから保持期間Thに移行した時の検出値をピエゾ電圧Vpとしてもよいし、保持期間Thに複数回検出された値の平均値をピエゾ電圧Vpとしてもよい。
【0107】
続くステップS21では、ステップS7で取得された燃料温度T、およびステップS20で取得されたピエゾ電圧Vpに基づき、前回噴射における開始時体積Vb(前回開始時体積)を算出する。例えば、燃料温度Tおよびピエゾ電圧Vpを変数とした関数F5をメモリに予め記憶しておき、ステップS21では、その関数F5に各変数を代入して前回の開始時体積Vbを算出する。ピエゾ電圧Vpと開始時体積Vbとは高い相関関係にあるため、ステップS21で算出された開始時体積Vbは、実際の開始時体積Vb(実開始時体積)と同等とみなすことができる。ステップS21では、ピエゾ電圧Vpが大きいほど、前回開始時体積を小さい値に算出する。また、燃料温度Tが高いほど、前回開始時体積を小さい値に算出する。
【0108】
続くステップS22では、ステップS21で算出された開始時体積Vb(実開始時体積)、および前回のステップS11Aの処理で算出された前回の開始時体積Vb(推定開始時体積)に基づき、体積補正係数Vcfを算出する。例えば、実開始時体積および推定開始時体積を変数とした関数F6をメモリに予め記憶しておき、ステップS22では、その関数F6に各変数を代入して体積補正係数Vcfを算出する。ステップS21では、実開始時体積と推定開始時体積の比率が大きいほど、或いは実開始時体積と推定開始時体積の差分が大きいほど、体積補正係数Vcfを大きい値に算出する。
【0109】
ステップS9Aでは、
図11のステップS9と同様の関数F1を用いて算出された終了時体積Vaに、ステップS22で算出された体積補正係数Vcfを乗算して、終了時体積Vaを補正する。ステップS11Aでは、
図11のステップS11と同様の関数F2を用いて算出された開始時体積Vbに、ステップS22で算出された体積補正係数Vcfを乗算して、開始時体積Vbを補正する。ステップS17Aでは、
図11のステップS17と同様の関数F1を用いて算出された終了時体積Vaに、ステップS22で算出された体積補正係数Vcfを乗算して、終了時体積Vaを補正する。
【0110】
要するに、充電期間Tcから保持期間Thに移行する時のピエゾ電圧Vpと、開始時体積Vbとは高い相関関係にある。そのため、上記ピエゾ電圧Vpを検出すれば、実際の開始時体積Vb(実開始時体積)を高精度で把握することができる。この点に着目した本実施形態では、ステップS11Aでの前回の処理で算出された開始時体積Vbと実開始時体積との比率または差分に基づき、体積補正係数Vcfを算出している。そして、今回以降のステップS9A、S11A、S17Aでの算出(推定)では体積補正係数Vcfを用いて補正する。
【0111】
以上により、本実施形態によれば、上記第2実施形態による効果に加えて以下の効果が発揮される。すなわち、ピエゾ電圧Vpを検出することで実際の開始時体積Vb(実開始時体積)を把握し、その実開始時体積を用いて開始時体積Vbおよび終了時体積Vaを推定する。そのため、
図13中の点線に示す推定体積が、実線に示す実体積に近づくように補正される。よって、隙間Lの存在に起因した開弁応答遅れを抑制しつつ、最終駆動エネルギEfinの過不足低減を促進できる。
【0112】
(第4実施形態)
上記各実施形態では、充電期間Tcを決められた所定時間に固定しつつ、開始時体積Vbに応じて最終駆動エネルギEfinを可変設定することで、開始時体積Vbに応じたエネルギ供給速度ΔEに設定している。これに対し本実施形態では、噴射圧力Pに基づき設定されたベース駆動エネルギEbasを最終駆動エネルギEfinとしつつ、開始時体積Vbに応じて充電期間Tcを可変設定することで、開始時体積Vbに応じたエネルギ供給速度ΔEに設定している。
【0113】
本実施形態では、上記第1実施形態に係る
図10のフローチャートを、
図14に示すフローチャートに変更している。具体的には、
図10のステップS13、S14をステップS3A、S14Aに変更し、
図10のステップS6、S12を廃止し、さらに、
図14のステップS13AとステップS14Aの間にステップS23の処理を追加している。
【0114】
図14のステップS13Aでは、ステップS3で算出したベース駆動エネルギEbasをそのまま最終駆動エネルギEfinとして算出する。続くステップS23では、今回の開始時体積Vb、噴射圧力Pおよび最終駆動エネルギEfinに基づき、充電期間Tcを算出する。ステップS23での算出に用いられる今回開始時体積は、ステップS11で前回算出された開始時体積Vbである。ステップS23での算出に用いられる噴射圧力Pは、ステップS2で取得された値である。ステップS23での算出に用いられる最終駆動エネルギEfinは、ステップS13Aで算出された値である。
【0115】
例えば、今回開始時体積、噴射圧力Pおよび最終駆動エネルギEfinを変数とした関数F7をメモリに予め記憶しておき、ステップS23では、その関数F7に各変数を代入して充電期間Tcを算出する。今回開始時体積が小さいほど、充電期間Tcは小さい値に算出される。噴射圧力Pが大きいほど、充電期間Tcは小さい値に算出される。
【0116】
続くステップS14Aでは、ステップS13Aで算出された最終駆動エネルギEfin、およびステップS23で算出された充電期間Tcを用いて燃料噴射弁1を駆動させる。具体的には、ステップS13Aで算出された最終駆動エネルギEfinを目標エネルギEtrgに設定し、ステップS23で算出された充電期間Tcで目標エネルギEtrgだけ充電されるよう、充電制御、保持制御および放電制御を実行する。充電期間Tcが小さいほど、エネルギ供給速度ΔEは速くなる。なお、ステップS23、S14Aの処理を実行している時のプロセッサは、ステップS11で算出(推定)された今回開始時体積が小さいほど、今回の通電によるピエゾ素子21aへのエネルギ供給速度ΔEを速くする「供給速度制御部」に相当する。
【0117】
したがって、仮に噴射圧力Pが一定であれば、
図15の実線に示すように目標エネルギEtrgを一定としつつエネルギ供給速度ΔEを変化させることになる。また、多段噴射では後段噴射ほど開始時体積Vbが小さくなるので、
図15の実線に示すようにエネルギ供給速度ΔEを噴射毎に徐々に大きくしていくことになる。なお、
図15中の点線は、本実施形態に反して、開始時体積Vbに応じたエネルギ供給速度ΔEの変更を実施しない比較例を示す。以上により、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が発揮される。
【0118】
(第5実施形態)
上記各実施形態では、今回開始時体積が小さいほどエネルギ供給速度ΔEを速くすることで、隙間Lの存在に起因した開弁応答遅れを抑制させる。これに対し本実施形態では、次回の噴射に係る開始時体積Vb(次回開始時体積)を予測し、予測された次回開始時体積が小さいほど、今回の噴射に係る最終駆動エネルギEfin(エネルギ供給量)を小さくする。そして、最終駆動エネルギEfinを小さくすることで次回開始時体積の縮小を抑制して、次回噴射直後に生じる隙間Lの抑制を図る。
【0119】
したがって、仮に噴射圧力Pが一定であっても、
図16の実線に示すように目標エネルギEtrgを変化させることになり、エネルギ供給速度ΔEを可変にすることを要しない。なお、
図16中の点線は、本実施形態に反して、次回開始時体積に応じた目標エネルギEtrgの変更を実施しない比較例を示す。
【0120】
以下、次回開始時体積を予測する手法について、
図17を用いて詳細に説明する。なお、
図17に示す各ブロックB1a〜B12aは、制御装置100のプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される機能であって、次回の開始時体積Vbを算出して今回の駆動エネルギ補正量Ecorrを算出するのに用いる各機能を示す。
【0121】
図17に示すブロックB1aは、今回噴射に係る噴射期間、つまり先述した噴射指令時間Tqを取得する。ブロックB2aは、今回噴射に係る最終駆動エネルギEfinの仮の値、つまり先述した目標エネルギEtrgの仮値を設定する。例えば、噴射圧力Pに応じたベース駆動エネルギEbasに、予め設定しておいた補正量を加算して最終駆動エネルギEfinの仮値を設定する。ブロックB3aは、今回噴射から直近で検出された燃料温度Tを取得する。
【0122】
ブロックB5aは、ブロックB1、B2、B3で取得された今回噴射の噴射指令時間Tq、今回噴射の最終駆動エネルギEfinの仮値および燃料温度Tに基づき、今回噴射の保持期間Thで油密室24aから流出する量を算出して予測する。すなわち、噴射指令時間Tqが長いほど、保持期間Thが長くなるので流出量を多い量に算出する。燃料温度Tが高いほど、燃料の粘性が低くなり流出しやすくなるので、流出量を多い量に算出する。最終駆動エネルギEfinの仮値が大きいほど、ピエゾスタック21の伸長量が大きくなるので、保持期間Thでの油密圧が高くなるとみなして流出量を多い量に算出する。なお、
図17の例では、ブロックB4aが最終駆動エネルギEfinの仮値に基づき油密圧を算出し、その算出された油密圧を用いてブロックB5aが流出量を算出している。
【0123】
ブロックB6aでは、今回噴射に係る開始時体積Vb(今回開始時体積)から、ブロックB5で算出された流出量を減算することで、今回噴射に係る終了時体積Va(今回終了時体積)を算出して予測する。換言すれば、ブロックB6aでは、前回噴射時にブロックB6aで算出した開始時体積Vb(今回開始時体積)と、噴射指令時間Tq、最終駆動エネルギEfinの仮値および燃料温度Tとに基づき、今回終了時体積を算出して予測する。なお、多段噴射の1回目の噴射では、ブロックB6aの算出で用いる今回開始時体積に、予め設定された初期値を用いる。
【0124】
ブロックB7aは、今回噴射から次回噴射までの間隔であるインターバル期間Tintを取得する。ブロックB9aは、ブロックB6aで算出された今回の終了時体積Vaと、ブロックB3a、B7aで取得された燃料温度Tおよびレール圧に基づき、今回噴射の保持期間Thで油密室24aから流出する量を算出する。すなわち、インターバル期間Tintが長いほど、油密室24aへの流入期間が長くなるので流入量を多い量に算出する。燃料温度Tが高いほど、燃料の粘性が低くなり流入しやすくなるので、流入量を多い量に算出する。今回終了時体積が小さいほど、通電オフ直後での油密圧が低くなるとみなして流入量を多い量に算出する。なお、
図17の例では、ブロックB8aが今回終了時体積に基づき油密圧を算出し、その算出された油密圧を用いてブロックB9aが流入量を算出している。
【0125】
ブロックB10aでは、ブロックB6aで予測された今回の終了時体積Vaから、ブロックB9aで予測された流入量を加算することで、次回噴射に係る開始時体積Vb(次回開始時体積)を算出して予測する。換言すれば、ブロックB10aでは、ブロックB6aで予測された今回の終了時体積Va(今回終了時体積)と、ブロックB3a、B7aで取得された燃料温度Tおよびインターバル期間Tintとに基づき、次回開始時体積を算出して予測する。なお、多段噴射の1回目の噴射では、ブロックB10aの算出で用いる今回終了時体積に、予め設定された初期値を用いる。
【0126】
ブロックB12aでは、ブロックB6aで算出された次回開始時体積に基づき、今回噴射に係る駆動エネルギ補正量Ecorrを算出する。すなわち、次回開始時体積が小さいほど、次回噴射において隙間Lに起因した開弁応答遅れを抑制するべく、今回噴射に係る駆動エネルギ補正量Ecorrを小さい値に算出する。
【0127】
なお、ブロックB10aの機能を発揮している時のプロセッサは、ピエゾ素子21aへの今回の通電を開始するに先立ち次回開始時体積を予測する「次回開始時予測部」に相当する。ブロックB12aの機能を発揮している時のプロセッサは、次回開始時予測部で算出(予測)された次回開始時体積が小さいほど、今回の通電によるピエゾ素子21aへの最終駆動エネルギEfin(エネルギ供給量)を小さくする「供給量制御部」に相当する。
【0128】
以上により、本実施形態に係る制御装置は、ブロックB10aによる次回開始時予測部およびブロックB12aによる供給量制御部を備える。次回開始時予測部は、ピエゾ素子21aへの今回の通電を開始するに先立ち、次回開始時体積を予測する。供給量制御部は、次回開始時予測部により予測された次回開始時体積が小さいほど、今回の通電によるピエゾ素子21aへのエネルギ供給量を小さくする。そして、次回開始時体積が小さいほど、次回噴射に係る通電終了直後に生じる隙間Lが大きくなりやすい。よって、本実施形態によれば、隙間Lが大きくなると予測されるほど、今回噴射に係るピエゾ素子伸長量を小さくして、次回開始時体積の縮小を抑制していると言える。したがって、次回噴射終了直後に生じる隙間Lが大きいと予測されるほど、その隙間Lが大きくなることを未然に抑制することができるので、次回噴射において、隙間Lの存在に起因した開弁応答遅れを抑制できる。
【0129】
ここで、インターバル期間Tintが短いほど、今回の噴射終了直後に低下した油密圧の上昇回復時間が短くなり、次回の開始時体積が小さくなる。この点を鑑み、本実施形態に係る制御装置では、ブロックB10aによる次回開始時予測部は、今回の通電終了時点から次回の通電開始までのインターバル期間Tintが短いほど、次回開始時体積を小さい値に推定する。よって、次回開始時体積を高精度で推定することができ、ひいては、供給量制御部により制御される今回噴射のエネルギ供給量の過不足を抑制できる。
【0130】
(他の実施形態)
以上、本開示の複数の実施形態について説明したが、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。そして、複数の実施形態及び変形例に記述された構成同士の明示されていない組み合わせも、以下の説明によって開示されているものとする。
【0131】
上記第1〜第4実施形態では、今回のエネルギ供給速度ΔEの設定に用いる今回の開始時体積Vbを、前回の燃料噴射弁1の作動状態に基づき算出している。具体的には、前回の作動状態を特定する複数の変数に、前回の開始時体積Vb、前回の終了時体積Vaおよび前回から今回までのインターバル期間Tintを含ませている。これに対し、これらの変数の少なくとも1つを上記変数に含ませて今回の開始時体積Vbを算出してもよい。また、前回の作動状態に加えて前々回の作動状態を上記変数に含ませて、今回の開始時体積Vbを算出してもよい。
【0132】
上記各実施形態に係る充電制御では、ピエゾ素子21aの電荷の増大量が所定量に達した時点で通電スイッチをオフ作動させている。これに対し、ピエゾ電圧の増大量が所定量に達した時点で通電スイッチをオフ作動させてもよいし、ピエゾ電流の増大量が所定量に達した時点で通電スイッチをオフ作動させてもよい。或いは、通電スイッチをオン作動させてから所定時間が経過した時点で、通電スイッチをオフ作動させてもよい。